15
フォークロアとダンスシティ

#UDCアース #呪詛型UDC

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#呪詛型UDC


0




●幕裏
 ───黄昏に染まる街並みに、気づけば私は一人だった。

 アスファルトの罅割れ。くすんだブロック塀。居並ぶ家屋の鋸屋根と、遠く立ち昇る工場の煙。傾く斜陽に呑まれるように、街は暫しの薄明に浸る。
 なんのことはない。見慣れた、いつもの私の帰り道。
「…………。」
 酷く静かだ。人っ子一人、居やしない。買い物帰りの主婦の自転車は、楽し気に家路をたどる子供たちは、豆腐屋の喇叭は、どこへいってしまったのだろう。
 酷く、酷く───静かなことをのぞけば。いつもの私の帰り道だ。
「…………。」
 まるで時間が止まってしまったような、そんな気さえする。ついさっき友達と十字路で別れてから、どれくらいの時間が経ったろうか。否、そもそも今は───夕刻だっただろうか。
『───ねぇねぇ、こんな噂、知ってる?』
 帰りがけの、親友の言葉を思い出す。
『黄昏時にね───』
 自然と、早足になった。スクールバッグからぶら下げたウサギのキーホルダーが、ぎこちない笑顔で跳ねている。
『一人でいると───』
 西日を背に、静かな町をツカツカと。影法師はどこまでも、先の見えぬ帰路を伸びてゆく。
『……くるんだって』
 家路が、遠い。
『───が。』
 気が付けば走り出していた。黄昏に染まる街並みから逃げ出すように、少女はアスファルトを蹴りつける。
「ハッ、ハッ、ハッ───!」
 息が苦しい。自分の呼吸以外、何も聞こえない。誰もいない。夕日が───沈まない。
「───、───、」
 走れど走れど街並みは変わらず。傾いた電信柱に手をついて、少女はえづくように立ち止まる。息を切らして肩を上下する影法師の、その傍ら。気づけば『ソレ』は立っていた。

「───ねぇ」
 バキリ、と。身体が芯から石になったような錯覚を覚える。背後からかけられたその声に、全身の産毛が逆立つのを感じた。

「───ねぇ」
 振り向けない。振り向ける筈もない。親友の言葉が脳裏を回る。
 嗚呼、コレは。コレは、コレはコレはコレはコレはコレは───。

「ねぇ、ワタシ繧ュ繝ャ繧、 ???」
 耳元で囁かれる、歪んだ三文字。首筋に迫る鉄の臭いを、微かに嗅いだ気がした。

●プロローグ
「人の噂も七十五日。さりとて人の口に戸は立てられぬ───」
 いやはや困ったものですねぇ。そう嘯いて、ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)は、紅茶を静かに啜った。
「噂話、都市伝説、フォークロア……呼び方は数あれど、どれも実体のない荒唐無稽な与太話。それが世間一般での常識です。しかし───その与太話が現実に滲み出す非常識もまた、世の真理には違いない。そうでしょう、皆さま方?」
 コトリとカップをソーサーに置いて、ヒョイとお辞儀する紳士人形。どさくさに紛れて手品を披露しはじめた彼に、何人かの猟兵が慣れた様子で「いいから続きを」と促した。
「むぅ……ここのところ活発化してきている、呪詛型UDCに関する案件を予知致しました。事態は目下、水面下で着々と進行している模様です。急ぎ現地へ向かい、原因を特定・撃破していただきたい。」
 パチン、とフィンガースナップを一つ鳴らせば、舞い上がる紙の鳥。猟兵たちの手元へと飛んで行った鳥たちは、そのままヒラリとレジュメに変わる。
「舞台は地方の学生都市『花撒市』。およそ一ヶ月ほど前からジワジワと、市内で行方不明者が発生するようになりました。通常であれば、現地のUDC局員たちの対応がここまで遅れることなど珍しいのですが……」
 少しばかり口籠ってから、紳士はゲンナリとした表情で頬を掻いた。
「……情報が、溢れすぎておりまして。さすがは若者の街というべきか、次から次へと涌いて出る噂話に翻弄されました次第です……それでも先日、漸く事件と関係性のありそうな噂話を掴むことが出来たのですが───」
 白手袋の指先が、並んだ文字の上をなぞる。
「……『黄昏の音楽会』の噂。夕暮れ時、どこからともなく聴こえてくる奇妙な演奏を耳にした者は、悪夢の果てに失踪を遂げる……そんな噂話です。古来より逢魔が時は神隠しの起こりやすい時間帯。予知に見た光景を加味すると、無関係では無いやもしれません……えぇ、多分。きっと。おそらく。」
 どこか歯切れ悪く、言葉を濁す紳士人形。訝し気に首を傾げる面々に、申し訳なさそうな表情で彼は口を開く。
「……白状してしまうと、この噂の信憑性自体は、他の噂と似たり寄ったりです。ただ、今回の呪詛型UDCは『街に蔓延する噂や都市伝説に深く関わった相手を狙って行動している』節があります。事件の深層に潜むUDCを炙り出すためには、噂話との関りが必要不可欠なのです。」
 成程、件の噂話の真相に辿り着けば、万事解決大団円───とはいかないらしい。
「……ですので、皆様におかれましては現地到着後、本命のおびき寄せも兼ねて、まずは『黄昏時の音楽会』の噂の調査をお願いしたいのです。これだけ噂話に溢れた街だ、調査を続けていれば、本命に繋がる噂話が出てこないとも限りません。」
 ───ようするに、いつも通り現地で上手い事やってくれってことですよね? という猟兵の問いに、ヘンペルはバツの悪そうな顔で頷いた。図星を突かれたらしい。
 シルクハットを目深にかぶり、紳士は再び腰を折る。
「……此度の敵は実態のない都市伝説。噂話に踊る街でその真相を捉えるのは、そう簡単な事ではないでしょうが───皆さまの慧眼であれば、必ずや到達できるはず……!頼みましたよ、イェーガー。」
 左肩から白烏が飛び立つ。舞い散る光の羽根の中、猟兵たちの転送がはじまった。


信楽茶釜
 噂に惑うは衆愚に非ず。是賢者の宿痾也。
 どうも皆様はじめまして、信楽茶釜と申します。陶器製です。
 息抜きも兼ねて少しライトなシナリオを。
 以下補足です。

●最終目的
 呪詛型UDCの討伐。

●第一章の目的
 『黄昏の音楽会』の噂の究明、及び花撒市に馴染んでおくこと。
 日常章ですので、ある程度お好きな行動を取っていただいても構いません。(現場検証しつつお買い物、お花見しながら情報収集、等)

●現在開示可能な情報
「花撒市について」
 人口約18万人の地方都市です。交通網、施設共に近隣の都市と比べても発展しています。市内には小・中・高等学校をはじめ、複数の大学のキャンパスや専門学校が多く設置されています。市内における学生の割合いは非常に高いです。
 中規模都市に存在しうる施設は、殆ど存在すると仮定していただいて構いません。様々な噂話が流布されていますが、殆どの住民は一種の娯楽として捉えているようです。
 現地には数名のUDC局員が逗留中です。要請すればある程度協力してくれます。

 今回は情報収集におけるノイズが非常に多いです。ある程度的を絞って行動した方が、成果を得やすくなるでしょう。無論、広範囲にわたる情報収集が役立つ場面もあります。
 服装・装備等によるペナルティはありませんが、UDCアースにおける情報収集に適した姿格好であればボーナスが付きます。

●予知による断片的な情報
『夕暮れ』『深夜』『臓器』『再興』『赤』『薄明境界線』『習合』『都市伝説』『鋏』

 それでは、どうぞよろしくお願い致します。
95




第1章 日常 『黄昏の音楽会』

POW   :    気合で関係者を説得して話を聞く。

SPD   :    特技を駆使して情報収集をする。

WIZ   :    魔法や賢い方法で情報収集をする。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

峰谷・恵
「噂や都市伝説は細かいところ変わりやすいから『黄昏の音楽会』だけに決め打ちするよりそのバリエーションも当たったほうがいいかも…予知の光景では音が無くなっていたけど音楽会は聞こえてなかったし」

【POW】で挑戦。
まずUDC局員に接触し、『黄昏時』『失踪する』都市伝説を教えてもらい、市内の女子高生の格好をして「最近引っ越してきて変な話を聞いたんだけど」という体で都市伝説について訊いて回る(訊いた相手がUDCに巻き込まれないように一箇所で訊くのは一つの都市伝説に留める)

「都市伝説が力を持ったUDCじゃなくて複数の都市伝説を取り込んで力を増すUDCなのかも?」


鈴木・志乃
後で覚えといてください(ニッコリ)

さて、この世界の依頼は慣れてないんだけどな……
局員さん、この辺りの学生のオカ研分かります?
そこに取材に行きますね
もっと良い方法はあるけど
慣れたことやらないとボロが出る

【コミュ力】
必要なら【パフォーマンス、歌唱、誘惑】
劇団Le Ciel Bleuの鈴木・志乃と申します
(一応名刺持っとくか)
今、劇団の企画で地域の都市伝説を元にした脚本を書いてまして
私のチームは『黄昏時の音楽隊』をテーマに一本書こうと考えています
(断片情報を交えながら取材を進める
【第六感、見切り】)
(こちらから対価に出せるもの……
他の都市伝説のネタを持って行くとか
オカルト討論とか食べ物差し入れかな)


矢来・夕立
▼SPD/アドリブ連携可
『習合』が気になりますね。複数の都市伝説なり伝承なりが合わさっている?
今考えても詮無いことでしょうか。

夕方までは【情報収集】で各種フォークロアについて調べておきます。SNSや掲示板から関連性のありそうなものを片っ端から。
夕方、深夜、薄明、ハサミ。再興……再興。中規模の都市ならあり得ますかね、これも。
ココまでが『広範囲の情報収集』。

夕方からは単独行動を取ってみます。皆さんにその旨を伝えてから。
ほら、帰ってこられないかもしれませんし。
【聞き耳】を立てながら行きましょう。
あとは【式紙・導紙】。何かあったら他の方のところへすぐ飛ばします。
届かなかったら、まあ…その時はその時で。


ヴィリヤ・カヤラ
噂が聞けそうな所で情報収集かな。
学生の帰宅時間が狙えるなら、
話し掛けやすい雑貨のお店が良いかな。

『情報収集』で都市伝説の噂を整理しながら、
断片情報の「都市伝説」「夕暮れ」「深夜」「鋏」
辺りの単語が聞こえたら近付いて、
『コミュ力』も活用しつつ
「その都市伝説は初めて聞くんだけど、教えてもらっても良いかな?」
って、話しかけてみるね。
…不審がられたら
「興味のある話だったから、突然ゴメンね」
って離れるね。
…その後に話し始めるかもしれないから
『目立たない』ようにして、
聞き耳を立ててみようかな。

アドリブ・絡み歓迎


彩瑠・姫桜
ヘンペルさんの予知情報では夕暮れに、
住宅街などの人気のない場所事件が起こっている感じがしたのだけど
花撒市内全体での話なら、事件が起こるのは一ヶ所とは限らなそうね
まずは現地の雰囲気も見つつ調査するわね

SPD
駅周辺の市街地で【情報収集】するわね
もうすぐ妹と親友の誕生日だから、プレゼントを選びたいのよね
選ぶならやっぱり髪飾りかしら…(悩み)

雑貨屋さんやアクセサリーショップを梯子して買い物しながら
お店の店員さんやお客さんに対象を絞って聞き込みをしてみるわ
【コミュ力】【第六感】も活用
私と同じ年代の学生の子達と、
店員さんみたいな社会人の年代の噂が違う事もあるかもだし
相違点と共通点の有無にも気をつけてみるわ


清川・シャル
おぉ〜。なんだかそわそわしますね。
都市伝説…おかるてぃっくな。
…ん、不謹慎ですね。
よし、ふらつきながらなんやかんや(調査的な)しましょう。

シャルは原宿系現代っ子ですから。
今花撒市で話題なカフェにでも行きましょう。
そして万能な「すまほ」
こういう時は…

情報収集に限りますね。
私の特定をされないように、ハッキングで色々弄りましょ。
何するかって?

SNSで
炎上商法。
コミュ力と礼儀作法を、逆的な使い方で〜?
人に好かれる方法が分かれば、逆も可能。
煽りましょ?

アングラ臭するし、掲示板のそういう板にでもカキコ。
「お前らなら知ってて当然だろ?知らねぇの?ぷげら」
っていうニュアンスで。

ついでに周りの人の話も聞き耳で


黒川・闇慈
「さて、探す内容が漠然としていて魔術で探査をかけようにも精度が怪しいですねえ。こういう時はベーシックな方法で情報を集めましょうか」

【行動】
wizで行動です。街の喫茶店で聞き込みとまいりましょうか。
喫茶店でコーヒーを頼みつつ、コミュ力の技能で喫茶店のマスターや店内の客に都市内での噂話について聞き込みます。
内容を限定して、夕暮れ時の怪談、都市伝説について聞いてみましょう。コーヒーを飲みながら、さも怪談に興味があるような素振りで聞きましょうか。

「怪談も都市伝説も、人の口に戸は立てられないのですねえ。クックック」

【組み合わせ・アドリブ歓迎】


現夜・氷兎
自分が新たな噂話になっては困るし、角は帽子で隠して行こうかな。

薄明境界線、とはまた興味をそそる言葉が出てきたね。
その辺り、都市伝説に記載がないか、図書館や土地の資料館からあたってみようか。火のないところに煙は立たないものだ。

『黄昏時の音楽会』の噂話をしている若者達と出会えたら、直接聞いてもいいだろうね。幸い【世界知識】の持ち合わせはある、雑談には困らない。
出来るだけ柔らかく、興味を引くように。彼らの好奇心に触れられれば、噂の出処を辿れる情報とか、くれるかもしれないし。
挑戦するだけ無駄ではないだろう? 分かりやすく動けば本命の目にも留まりやすくなるさ、きっとね。

※アドリブ歓迎


ミアス・ティンダロス
これも、UDC達が起こした事件ですね。
また彼らと戦う予感がする……本当はどうしてもそんな展開を避けたいけど、このまま人に危害を加える奴を野放しにしたら、また被害者が出るでしょう。
そんなのは嫌です。僕の望んだ共存は、恐怖と脅威と共に生きることではありません。
っよし、急ぎましょう。まずはUDC達を見つけ出さないと。

【世界知識】と【情報収集】を併用して、中学生や高校生に『黄昏の音楽会』の噂について聞き込もうとします。
ある程度の情報を集めたら、場所を変えて自分から噂を流します。こうして都市伝説との関わりを深めようとします。
召喚したスターヴァンパイアを噂を聞いた学生達の監視・護衛に向かわせます。


大河・回
噂話は嫌いじゃないな。下らないと思う奴もいるだろうが誰がどんな意図で流したかを考えたりしていると心が弾む。オブリビオンが関わっていなければ、だがね。

一般人の若者として情報収集する
ゲームセンターのような不特定多数が集まる娯楽施設に行く
そこで自分も娯楽を楽しみつつ周囲の者に声掛けしていきグループに溶け込むとしよう
グループへの溶け込みに成功したら噂話についての情報収集だ
『黄昏の音楽会』について些細な事でもいいから何か知らないか聞いていこう

※アドリブ、絡み歓迎


エスタシュ・ロックドア
なんか腹の地獄が嫌な感じで反応した気がするぜ
行っとくか

花撒市、なぁ
大学キャンパスも結構あるのか
だったらこの時期は春休みに免許取ったばっかの学生ライダーが集まるバイクショップとかライダーズカフェとかがあるはずだ
こりゃシンディーちゃんに跨って行くしかねぇな!
勿論道交法ハ守リマス、ハイ

シャツとか着た上にいつもの「ライダース」着て行くぜ
泊まりがけの長距離ツーリングで寄り道した体で、まずは店主と世間話だ
それから店に来た他の客、特に学生ライダーにも軽く声を掛けて情報収集
俺の【コミュ力】の見せ所よ
あー、初々しいわー……じゃねぇ
この辺の見所とか聞きながら『黄昏の音楽会』に繋がりそうな噂話に話題を寄せていくか


ファン・ティンタン
【SPD】流言蜚語の陰に

噂話をするのは楽しいけれど、当事者になった瞬間感じるものも変わるね
それが猟奇的だったりしたら、落差も一入だよ
…さて、仕事しよっか

現地に赴き、流行に敏感で【コミュ力】高そうな女子高生に当りをつけ、しばし言葉遣いや仕草を観察し、【学習力】を以って人格模写の準備をする
その後気付かれぬよう“接触”、UC発動条件を満たす
十分に先のエリアから離れ【異心転身】
女子高生姿を最大限利用して街にとけ込み、報道部等の部活動のていで【情報収集】を開始

○黄昏の音楽会って知ってる?
○最近新しく聞いた都市伝説はある?
○最近のヤバかった事件といえば?

この街での都市伝説を一般的なそれと比較し、違いを調査


シャイア・アルカミレーウス
むーん、噂話に関わった人を狙うUDCかー。これはアレだね、潜入捜査の時間だね!

(wiz)
というわけで行方不明になった学生がいた学校に潜入捜査だ!
UDC局員さんに制服の用意とか転入手続き的なものをしてもらおう。
そう!僕こそが謎の転校生勇者のシャイアだ!

放課後に新しい友達達に町の事を教えてもらいに一緒に遊びに行こう!
学生がよく利用する遊び場とか、あとはこの町で一番ホットな話題について教えてもらおうかな!噂話とかね!

それにしても『黄昏の音楽会』か。夕方の音楽会ってなんだろね?
ぱっと思いつくのは虫やカラスの鳴き声に夕方のチャイムくらいかな?
関係ないかもだけど一応気を付けておこうね。


ペイン・フィン
アドリブ、他の猟兵との絡み歓迎。

さて……。
まずは、情報収集から、だね。

コードを使用。
オコジョの姿になって、人のままではいけない場所なんかを中心に捜索しようか。
使用する技能は、情報収集、第六感、暗視、追跡、動物と話す、礼儀作法、言いくるめ。
人からの情報は、他の猟兵達が集めるだろうし、
自分は、市に住む動物。特に鼠や猫、鴉なんかを中心に聞き込みをしながら、周囲の捜索。
黄昏時、夕方から夜間にかけて、変わったこと、特に、何か音楽や、人間の悲鳴を聞かなかったかを、聴いていこう。

……それにしても、
人のままだと動物会話は目立つと思ったから、変身したけど……。
目立っちゃうかな?


ステラ・アルゲン
せっかくUDCアースという見慣れない世界に来たのです
買い物してから行きましょう
服屋に行って世界知識で似合う服を買って着ましょう
えっメンズ雑誌のモデルみたい? 何やら聞き慣れない単語が聞こえます
前回の反省を生かして顔は眼鏡で隠す。これで不用意に目立たないはず……

興味深い会話が聞こえたので、相席してもよろしいですか?

情報収集でカフェを探しコミュ力で噂話をしている女子高生に声をかけます

あなた達のような可愛い子が事件に巻き込まれたら心配でして。なんとかしたいんです

眼鏡を外して素顔の封印を解く
優しさで誘惑をしつつ聞くことは黄昏の音楽会
彼女たちの周りで行方不明者が出たか
いたらその話を詳しく聞いてみましょう



●第一幕 -1-

 ──いつだって、噂と言うのは学生から生まれるモノなのだ。

「黄昏の音楽会?」
「は、はい。最近噂になってるらしいんですが、聞いたことあるかなと思いまして……」
 花撒市西武に位置する学園、私立桜河学園。お昼休みに沸く中等部の廊下にて、人狼の少年ミアス・ティンダロス(夢を見る仔犬・f00675)は精一杯の勇気を振り絞り、初対面の男子生徒たちの輪に顔を出していた。
 やんぬるかな。この気弱な少年からしてみると、同年代の少年少女がこれだけ沢山集まっている環境自体が、常ならぬものであった。緊張も致し方ない。
「……お前さ、何年生? 何組?」
「えっ──」
 坊主頭の男子生徒にそう問われ、ミアスの青い双眸が宙を泳ぐ。
「あまり見ない顔してるよな。もしかして……」
 冷や汗が垂れる。そういえば、情報収集に際してそこまで準備をしてこなかった。男子生徒たちの視線が突き刺さる。
「……リューガクセー、か?」
「そ──それだ! あぁ違う! そうです! 明日転入予定のミアスといいます!」
「なーんだ、そうならそうと言えよなー!」
「一年のオレらに敬語つかうからビックリしちまったぜ!」
 急激に態度の軟化した少年たちを前に、ミアスは内心ホッと息を吐いていた。黒い髪の中で、人狼特有の耳がペタン、と倒れる。
「で? なんだっけ、黄昏の音楽会?」
「そ、そうです、聞いたことありませんか?」
「えーと、確かアレだろ? 夕方ひとりで歩いてると、変な音楽が聞こえてきてアタマがおかしくなって死ぬとか言う──」
「は? オレは家に帰れなくなるって聞いたぞ」
「ウソこけ、俺は──」
「ちょ、ちょっと待ってください! そんなに沢山バリエーションがあるんですか?」
 ミアスの制止に、男子生徒たちが難しい顔をする。
「ぶっちゃけ、どれがホントか分かんねー。こーいうのは女子の方が詳しいしな!」
 坊主頭の少年が、廊下の向こうから歩いてくる女子の一団を一瞥する。取り巻きも訳知り顔でうんうんと頷いていた。
「な、なるほど……わかりました。ありがとう、みなさん!」
 大きく頭を下げて、ミアスは廊下を歩きだす。自分の居た場所に、『不可視のゼリー状生物』を残して。『鋭霊召喚・星から訪れたもの(アドベント・スターヴァンパイア)』──話を聞いた男子生徒たちが事件に巻き込まれた時のための、護衛である。
「……地道に噂をかき集めて、少しでも縁を深くするしかないか。……ちょっと苦手だけど、女の子たちにも──あれ?」
 そう呟いて目を見開いたミアスの視線の先には、見覚えのある少女の姿があった。

●第一幕 -2-

「えっ、シャイアちゃんのお家ってこの辺じゃないの?」
「うん! 実家はずっと遠く。田舎だけど、観光名所もあってとっても良いトコなんだ!」
 お昼休みの廊下を行く女子の一団の中に、キマイラの少女シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)は、ヒョッコリ混ざって談笑していた。いつもの服装から一転、UDC局員にコッソリ用意してもらった桜河学園の制服姿である。
「じゃあ、今は一人暮らし!?」
「うっそー!? 中学生で一人暮らしって凄くない?」
「またまた、寮に入ってるんでしょ? シャイアちゃん」
「ひみつ♪ 何故なら──僕こそが謎の転校生勇者のシャイア! だからね!」
「なにそれ、おっかしー!」
 姦しく廊下をゆく女子生徒たち。そろそろかと、シャイアは本題を切り出す。
「──ところでみんな、今一番ホットな噂って何かあるかな? ……ほら、勇者的に、悪いヤツが居たりしたら見逃せないし!」
「噂、かぁ……」
「やっぱアレじゃない? 赤い女の──」
「えー、だったら三丁目のクネクネの方が──」
「あれ最近めっきり聴かなくなったじゃん」
「ユイちゃんのお姉ちゃんが帰ってこない話とかは?」
「それは噂って言うより──」
「──ん? 誰のお姉ちゃんがどうしたって?」
 関係のありそうなワードに、シャイアがグイッと身を乗り出す。この学園で失踪した生徒が実際に出ているのは、事前にUDC局員からリサーチ済みだった。
 俄かに真剣身を帯びたシャイアの表情に、女生徒たちは顔を見合わせる。
「……あんまり大きな声じゃ言えないんだけど……」
「B組の、川端さん……ユイちゃんのお姉ちゃんがね、何日か前から帰ってこないんだって。ユイちゃんもショック受けちゃって、学校に来てないみたい。」
「警察も捜索中なんだって。最近、行方不明事件が多いらしいよ?」
「なるほど……」
 顎に右手を当てて、シャイアは思考を巡らす。どうやら失踪事件の被害者に一番近い関係者は、今すぐ接触を図れる状態ではないらしい。で、あれば……
「そのユイちゃんのお姉さんが通ってたのって、やっぱり──」
 三つ編みの女子生徒が、窓の外を指さす。校庭を挟んで向こう側、桜河学園の高等部が、青空を衝いて佇んでいた。


●第一幕 -3-

 抜けるような青空。春気を帯びた正午の日差しは柔らかく、吹き抜ける風はどこか甘い。掛け値なしに良い天気であった。
「そういえば、引っ越してすぐにヘンな噂を聴いたんだけどさ──」
 私立桜河学園高等部。お昼休みの屋上は、多くの生徒たちの姿で賑わっている。しかして、その中でも特に目を引く少女の姿が、同じくらいの年頃の少女たちの輪の中にあった。
「ソデヒキサマ、って聞いたことある?」
 途轍もなく豊満な肢体を制服に押し込んだダンピールの少女、峰谷・恵(神葬騎・f03180)は、声を潜めてそう言った。周囲を取り巻く女子高生たちは、ある種の畏敬すら感じる瞳で、はち切れそうなボタンを見ている。UDC局員も特注サイズの用意はなかったようだ。
「ソデヒキサマって……花撒団地の交差路に出るっていう、あの?」
「……うん。ちょうどボクが引越したのって、あの辺なんだよね。なんだか気味が悪くてさ……」
 当然のごとく作り話だ。調査に出立する前にUDC局員に接触していた恵は、『黄昏の音楽会』に類似したキーワードを持つ都市伝説を、幾つか事前に入手していた。『ソデヒキサマ』の噂も、その一つだった。
「なんでも、声をかけられて答えてしまったら、二度と帰ってこれないって……」
 神妙な顔でそう言った恵を、しかし女生徒たちは誰も笑わなかった。金網に背中を預けたリーダー格と思しき茶髪の少女が、小さく顔を歪める。
「……ユナ、まだ見つかってないしね。隣の梅原高校でも、行方不明者が出てるらしーし」
「うんうん、この街で失踪者出まくりなのは確かだよねぇ」
「やっぱアレかな、三輪車のアカネちゃん……」
「いやぁ、黄昏の音楽会かもよ?」
 黄昏の音楽会、ソデヒキサマ、三輪車のアカネちゃん。どれも『黄昏時に出現』ないし『出会った人間は失踪する』という特徴をもった噂だった。
(都市伝説が力を持ったUDCじゃなくて……複数の都市伝説を取り込んで力を増すタイプのUDCみたいだね)
 次々と女生徒たちから飛び出す噂に、事前調査の時点で恵の抱いていた予感が確信に変わる。
「ちょっと、だれよ今アタシの肩叩いたの?」
「ウチじゃないけど?」
「わ、私じゃないよぅ……!」
「やめてよこんな話してる時に……それでね、赤い女の噂なんだけど──」
 怪訝な顔でリーダー格の少女が言の葉を重ねる。お昼休みも半ば。噂話が途切れるまでには、まだまだ時間がかかりそうだった。

●第一幕 -4-

「──さて、この辺でいいかな。」
 呟き声が、青空に溶ける。屋上の陰から茶髪の少女をジッと見つめていた乳白色の少女──ファン・ティンタン(天津華・f07547)は、リーダー格と思しき彼女の肩をこっそり叩いて、スルリと校舎内へ向かった。
 階段を降り、廊下を抜け、昇降口を潜り、校門の外へと、ファンは淀みなく歩を進める。桜河学園から大きく離れた繁華街の路地裏で漸く足を止めた彼女は、その赤い瞳を周囲に巡らせて、速やかにそのユーベルコードを発動した。
 『異心転身』──触れたことのある対象に肉体を模倣する、ヤドリガミならではの人化技術。その応用にして極地。
 乳白色の髪は徐々に茶色に、赤い瞳はこげ茶に変色してゆく。ばかりか、骨格や服装までもがざわりと形状を変え──十数秒後。路地裏に立っていたのは、先程ファンが屋上で肩を叩いた女子高生であった。
「……さて、仕事しよっか。」
 そんな一言とともに、女子高生姿のファンは街へと身を躍らせる。お昼を過ぎた繁華街は、平日にも関わらず沢山の人で賑わっていた。
「ね、おにーさん! 黄昏の音楽会って知ってる?」
「うん?」
 ファンが声をかけたのは、ファーストフード店のテラスで一人ケータイを弄る、大学生と思しき青年だった。髪の毛を金色に染めてはいるものの、イマイチ田舎臭さの抜けていない顔立ちである。上京したてなのだろう。
「き、キミは……?」
「どうも、桜河学園報道部でーす。アタシ今、この街でホットな都市伝説を調べてるんですけどぉ──」
 おにーさん、そういうの通っぽく見えたので! と現役女子高生に言われ、テレテレと頭を掻く大学生。この青年のチョロさも大概だが、お昼休みの短時間でここまで人格模倣してみせるファンの手腕も、また凄まじいものであった。
「最近聞いたヤバイ事件とか! 何かありません?」
「う、うーん、そうだね……黄昏の音楽会っていうのはアレだろう? 聴いたら死ぬとか失踪するとかっていう……あ、最近俺の通ってる竜胆大学のキャンパスに、メリーさんが出るって噂は聴いたかな。電話がかかってきて振り向くと、首を切られるっていう──」
 ……なんとも古典的な噂が再興しているものである。
 大した話は聞けないか──ファンが見切りをつけかけた時だった。
「あとは……南キャンパスの方で、猟奇殺人事件があったらしい」
「え──?」
 思わぬ話の出現に、そんな疑問符が口の端から転がり落ちる。どうやらこの街で起きている事件は、失踪事件だけではないようであった。

●第一幕 -5-

 太陽が、徐々に西へと傾いてゆく。
「この世界の依頼は慣れてないんだけどな……」
 竜胆大学、南キャンパス。主に文学部や芸術学部の学生が集うキャンパスの部室棟で、鈴木・志乃(ブラック・f12101)はその一室の扉を叩いていた。スチール製の扉の表札部分に、『竜胆大学オカルト研究所』という文字が擦れている。
「──はいはい、お待ちしてましたよっと」
 たてつけの悪さを訴える様に扉が軋んで、中から油髪の青年が顔を覘かせた。ずれた丸眼鏡の弦の端が、セロハンテープでグルグル巻きにされている。一目見て分かる変人だった。
「あー、キミがウチに取材したいっていう鈴木さんかい?」
「……ども。アポ入れてた劇団Le Ciel Bleuの鈴木・志乃です。」
 スッと名刺を志乃が差し出すと、受け取った青年はしげしげと名刺を眺めてから、胸ポケットにそれを仕舞う。他にも色々入っているのだろう、胸ポケットはパンパンだった。
「まー、入ってよ。あまり綺麗じゃあないケド、立ち話よりはなんぼかマシだろう?」
「……失礼します」
 ヘンな人引いちゃったなぁ、なんて思いつつ、志乃は部室の扉を潜る。
 部屋の中は雑然としてはいたが、思ったほど散らかっている印象は受けなかった。ベニヤの簡易テーブルを挟み、二人はパイプ椅子に腰かける。
「都市伝説を題材にした脚本を書いてるんだって?」
「はい。私のチームは黄昏の音楽会をテーマに一本書こうかと。」
「ははぁ、黄昏の音楽会ときたか」
 気持ちテンション高めに、青年はニタリと笑みを浮かべる。
「……あの都市伝説は面白いぞ。出どころからして『まず間違いなくデマ』なのに、着々と進化を続けている。実に都市伝説らしい都市伝説だ」
「はぁ……そのこころは?」
 一人で盛り上がる青年に若干気後れしつつも、志乃の第六感はヒシヒシと告げていた。この男は、何かを知っている。
「都市伝説の神髄は、核ではなく尾ヒレだ。より強い噂が、弱い噂を呑み込んでゆく。」
「……話の出自は重要ではないってことっすか」
「イグザクトリィ。虚構こそが都市伝説の実態なのさ。他の虚構を巻き込み、巨大化してゆくのが都市伝説だ。……ところで先日、また一つ噂が噂に呑まれた。」
 ずりおちた丸眼鏡を持ち上げて、青年は楽しそうにニタニタ嗤う。
「……メリーさんの噂。古いが強力な都市伝説だ。先日起きた猟奇殺人事件の原因とすら囁かれたソレが、跡形もなく喰われたのさ」
「勿体ぶるなら帰りますけど。」
 黒いキャップの下で、黄昏色の双眸が光る。言葉とは裏腹に、志乃はその答えを引き出すまでこの場を立ち去るつもりはなかった。
 くつくつと身体を揺らしてから、おもむろに青年は身を乗り出す。

「──『赤い女の噂』にさ」

 ぞわり、と。志乃の背筋に、訳もなく寒気が走った。再びずり落ちた丸眼鏡に、妙に引き攣った自分の顔を見た気が、した。


●第一幕 -6-

『かつて黄昏時とは「誰そ彼」即ち薄暗く曖昧で、隣に居るのが人なのかそうでないのか分からない、常ならぬ時間とされていた。現世と常世の境があやふやになり、この世ならざる存在が姿を現す時間である。故に魔に逢うと書いて「逢魔が時」とも呼ばれる。』

「ハズレだね、これも。知っている事しか書いちゃいない……」
 パタン、と何冊目かの本を閉じて、現夜・氷兎(白昼夢・f15801)はため息を吐いた。
 もうずいぶんと長い時間、竜胆大学南キャンパス内に設置された大型図書館の中で、彼は独自に調査を進めていた。主に地方史や都市伝説の文献から、今回の事件に迫ろうとアプローチをしていたのだが、中々どうして振るわない。
 現状で分かったことは三つ。『この街は比較的新しいので、固有の伝承が然程残っていない』こと、『年代的に古い都市伝説でも、一定のサイクルで噂に上っている』こと、そして『黄昏の音楽会の噂はここ一、二年で生まれた新しい噂』だということだけだ。
「……別の本を当たってみるか」
 積み上げた本を持ち上げて、席を立ったその時だった。
 ヒラリ、と。一冊の本から、小さなメモ用紙が零れ落ちた。
「…………?」
 屈んで拾い上げてみる。汚い字で殴り書きされたそれは、しかし氷兎の脳裏を鋭く突いた。

『──異界は何時でも夕暮れだ』
 
 たったの、それだけ。だというのに──氷兎は背筋を撫でられたような悪寒を感じていた。何かが、何かが繋がりそうな、厭な予感が小さく警鐘を鳴らしている。
「…………、薄明境界線──」
 出立前に告げられた、その単語を口にする。それは、一体なんの境界だ──?
「……だからさ、間違いねーって。アイツ、死ぬ前に言ってたんだもんよ」
 その物騒なヒソヒソ話にハッとして、氷兎は顔を上げる。視線の先、本棚の隅っこで、二人の男子学生が声を潜めて会話していた。
「……ウッソだろ? そんなんタダの噂じゃねーか」
「でも言ってたんだよ、『赤い女』を見たって。」
「だから、それは単なる思い込みか見間違いだろ……?」
「だったら、どうして噂通りアイツの遺体から──。」
 青年たちと、目が合った。角かくし用の帽子を慌てて目深にかぶるが、耳をそばだてていたのを気取られたらしい。
厭な沈黙が予感を纏って、図書館に墜ちる。半ば硬直した氷兎の肩を、唐突に黒い手袋が叩いて───チャイムが鳴った。殆どの生徒の下校を告げる、4時過ぎの鐘の音であった。

●第一幕 -7-

「……複数の都市伝説なり伝承なりが合わさっている?」
 図書館のゲートを潜った矢来・夕立(無面目・f14904)は、刻一刻と夕暮れに向かう街並みに目を細め、そう独り言ちた。
 図書館で文献を漁りつつ、携帯端末でネット上の情報もある程度洗っていた彼もまた、何人かの猟兵が行きついた答えに辿り着いていた。
『習合』『夕方』『深夜』『薄明』『鋏』そして『再興』──気になったワードを含む都市伝説を、片っ端から並べて晒して解体して、そうして分かったことがひとつ。
「──今考えても、詮無い噺ですね。」
 ウソですけど。
 やはり独り言ちて、無面目少年は市街地を往く。無論、成果がなかった『ワケがない』。ここ最近で、この街に『再興』した古い都市伝説が二つあったのだ。
 一つは『メリーさんの噂』……1990年代初頭には既に全国的に広まっていた、電話を介した都市伝説。
 もう一つは──『口裂け女の噂』……1970年代後半から爆発的に広まった、日本におけるフォークロアの代名詞ともいうべき都市伝説。
 街に溢れかえる有象無象の噂の中にあって、尚も強烈なインパクトを保ち続けて居る二つの都市伝説。都市伝説が変質しやすい噂そのものである以上、どちらかがどちらかを統合することは十分にあり得る。
「……益体もない。まるで蠱毒ですね」
 下校してゆく学生の波をするりと抜けて、夕立は人気のない路地を往く。
 なんのことはない、自分を囮にした単独行動だ。何かあったときのために、先程図書館で出会った猟兵にその旨は伝えてある。
「……まぁ、帰ってこれないかもしれませんし。」
 それはそれで困りますけど。と呟けば、そうねと同意する声。
 路地裏を往く。独りで。
「……上手く引っ掛かってくれますかね。」
『 きっと荳頑焔縺いくわ 』
 歩く。
「ふぅん。根拠はあるんですか」
『 だって遘√′縺薙%縺ォいるもの 』
 独りで。
「……信用できませんね」
『 アナタの方が余程繧ヲ繧ス縺、縺でしょう? 』
 足を──
「耳が痛いよ。ウソだけど」
『 私は鬥悶?髢「遽?縺が痛いわ 』
 止める。
「────誰だ、あんた」

『 私──繝。繝ェ繝シ縺輔s繝。繝ェ繝シ縺輔s繝。繝ェ繝シ縺輔s繝。繝ェ繝シ縺輔s.....!! 』

 酷く歪んだ声に振り向けば、誰も居ない路地の薄明。

「…………。」

 真紅の双眸を静かに顰めて、何もない虚空を睨みつける。
「……嗚呼、五月蠅いったらないな。」
 強ちウソでもないけれど。
 夕暮れに溶けた歪んだ声が、鼓膜の裏側にべったりとこびり付いているような気がした。

●第一幕 -8-

 ──鼓膜が割れんばかりの音の洪水が、その場所には充ちていた。
「ふふーん! そら、また私の勝ちだな! ジュースを一本買ってくるがいい!」
「チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
 様々な筐体が所狭しと並ぶ娯楽施設、いわゆるゲームセンターで、大河・回(プロフェッサーT・f12917)は悪の組織の幹部よろしく高らかに哄笑を上げた。
「……まぁ実際、私は世界征服を企む悪の組織『デスペア』の情報戦担当幹部なワケだが。」
 だれに突っ込むでもなく虚空に独り言ちて、回は『You win!!』と表示された自身の筐体の画面に視線を走らせる。かれこれ何勝目だろうか、普段からこの場所に入り浸っていたゲーマーたちを悉く跪かせ、いつの間にか彼女はこのゲームセンターの女王として君臨していた。
「……いや待て、何かがおかしい。そもそも何故私はゲーセンに──」
 思考を巡らすこと数舜。悪の女幹部は右手でポンと左手のひらを打った。
「あぁ、すっかり忘れていた。なぁ諸君、黄昏の音楽会って知ってるか?」
 唐突なクィーンの問いかけに、ゲームセンターの住民たちは顔を見合わせる。とりあえずこの場所では彼女がボスな以上、黙っているという選択肢は彼らにはない。
「……聴いたことならあるッス。夕暮れに聴こえてくる名状しがたい音楽を聴くと、頭が変になって死んでしまう、とかなんとか。」
「ボ、ボクも同じなんだなぁ!」
「拙者が聴いたのもそんな噂でござるな」
「おぅおぅ、確か西部の三丁目あたりで──」
「ちょっと待て……!」
 早口で捲し立てる子分(仮)たちを前に、クィーンはバッと右手を広げる。
「具体的な場所の情報があるのか……!?」
「へへっ……自分も又聞きなんですが、花撒市西武の三丁目の空き地のあたりで、黄昏の音楽会を聴いたってダチがいましてね……」
「──そうか、ご苦労! この筐体は譲ってやる。次に会う日までしっかり鍛えておくんだな、諸君ッ! さらばだ!」
 バサリと白衣を翻し、プロフェッサーTは颯爽とゲームセンターを後にする。ゲーマーとして彼女をリスペクトしたこの街のゲーセンユーザーが、『マワラー』と呼ばれゲーセン界を席巻するのは、もう少し先の話。

●第一幕 -9-

「いらっしゃい。」
「おぅおぅ、思った以上に繁盛してるじゃねぇか、この街のライダーズカフェはよ!」
 牛革のジャケットを着こなして、獄卒鬼エスタシュ・ロックドア(ブレイジングオービット・f01818)は嬉しそうな顔でオーク製のカウンターに腰掛ける。どことなく西部劇を思わせる内装の店内は、若い男女で溢れかえっていた。
 バイク乗りの集うライダーズカフェではあったが、大手雑誌でも紹介されるくらい人気のカフェである。花撒市が学生街である以上、流行に敏感な若者たちが集うのは必然と言えた。
「マスター、アメリカンひとつ。」
「あいよ。長旅かい、あんちゃん」
「まぁな。泊りがけで、ちょっとした長距離ツーリングってヤツだ」
「イイねぇ……オレも若い頃は三日ぶっ通しで列島縦断したモンだが──」
「三日ぶっ通しですか!?」
 エスタシュの隣でナポリタンを啜っていた学生が、素っ頓狂な声を上げる。外見年齢からして、最近バイクの免許を取ったような雰囲気の少年であった。
「あー、初々しいわー……じゃねぇ!」
「ヒィ!?」
 セルフツッコミを入れた筋骨隆々のあんちゃんに、少年が小さく悲鳴を上げる。ナポリタンが一本、鼻から飛び出した。
「あ? いや、悪ィ──なんでもねぇ。そんなに怯えんなって、取って食やしねーよ。」
「割とおっかねぇ顔だって自覚した方がいいぜ、あんちゃん」
「うっせェ、余計なお世話だ!」
「ヒィ!?」
 ナポリタン、二本目。
「だーもう……マスター、ティッシュくれ」
 受け取ったティッシュペーパーでナポリタンを引っこ抜きつつ、ついでに出てきたアメリカンコーヒーでほっと一息つく。
「……まぁこう見えても、ちゃんと(市街地では)道交法守ってる善良なバイカーだぜ、俺ァ。免許取ったのは最近か?」
「は、はい。ほんの二か月前です……!」
「おぉ、ソイツはおめでとさん! でも気をつけろよ、慣れ始めが一番コエーかんな。特に──黄昏時とか、な。」
 スッと、青い瞳が少年におちる。
「妙な事件が多いらしいじゃねぇか、ここのところ」
「そ──そうなんですよ! 行方不明者が出たり猟奇殺人事件が起きたり!」
(……ビンゴ。)
 そう心中で呟いて、エスタシュはコーヒーに口をつける。
「……その話ならオレも知ってるなァ」
 そう呟いて、マスターは静かに口を開いた。

●第一幕 -10-

「その話は私も興味がありますねえ……えぇ。」
 カウンターに背中を丸めて腰かけていた黒川・闇慈(魔術の探求者・f00672)は、エスプレッソ片手にマスターの顔を見上げる。店内は変わらず賑やかであったが、この青年の周囲だけは、妙に暗い影が纏わりついているようであった。
「その失踪事件と猟奇殺人事件、なにか関連性でもあるのですか?」
 薄く笑みを浮かべ問いかける闇慈に、当のマスターは神妙な面持ちで首を横に振った。
「いんや、関連性があるかどうかは分からん。行方不明になったヤツが死体で戻ってきた、って話も聞かないしな。けどよ──」
 若者たちで犇めく店内を見回して、マスターはクッと眉を顰める。
「……この街で妙な事が起きてるなァ確かなんだ。ここは昔っから情報の集まる場所だけに、街の情勢にもちったぁ詳しくなる。そのうえで言わせてもらえば──最近の噂は生まれるまでのスピードも速けりゃ消えるまでも速い。ハッキリ言って異常だわな。」
「……ははぁ。この街イチの情報通が、いまの状態は異常だと。」
「おぅよ。何が異常って、実際に被害が出てやがる。下校時刻を狙ったかのように起きる行方不明事件に、『深夜帯に限って起こる』猟奇殺人事件……最早単なる噂の域を超えてるだろ、こりゃ。」
 ずっと、憂いていたのだろう。マスターの握った右の拳が、小刻みに震えていた。
「──怪談も都市伝説も、人の口に戸は立てられないのですねえ。」
 クックック、と肩を上下させる闇慈を、隣に座っていた若い少年が気味悪そうな顔で見ている。そんなことは気にも留めず、闇色の青年はズイ、とカウンターに身を乗り出した。
「ねぇマスター。その猟奇殺人事件は、具体的にどの辺が猟奇的なんですか?」
「……あまり客がいる前で話したかねーんだが。」
「こっそり耳打ちでも構いませんよ?」
「物好きなあんちゃんだ……」
 スッと右の耳を差し出した闇慈に、マスターは両手を添えて静かに言う。

「どの遺体からもな、臓器がひとつ、抜き去られてたらしい……」

 その言葉に──青年は眉を顰めるでもなく、どこか愉快そうにニヤリと嗤ってみせた。


●第一幕 -11-

「うわエグぅ……」
 店内の片隅。そばだてていた耳に飛び込んできた物騒な言葉に羅刹の少女、清川・シャル(バイオレットフィズ・f01440)はうげげ、と眉を顰めた。食べていた春色リンゴパフェ(税込み¥1280-)が不味くなるような、そういう類の話であった。
「……これもカキコカキコ、と」
 そう呟きながら目を落とすのは、現代UDCの至宝にして万能の情報検索ツール、即ちスマートフォンである。ファンシーなウサギのカバーの下、画面上で行われているのは──
「煽りましょ♪」
 可愛らしさとは無縁の実に殺伐としたやり取りであった。

『花撒市の都市伝説に詳しいヤツ集合。まぁ、都市伝説博士のオレに勝てるヤツいないと思うケドwwww』

 およそ三十分ほど前に、シャルが匿名掲示板の花撒市板に投下した一文である。どこからどう見ても釣り。どこからどう見ても煽り。こんなレスに釣られる人間など、居るわけが──

『は? 調子乗んなよお前』
『項目毎に詳細ごと書き込んでやるからな』
『ちくわ大明神』

 しかしてネット上のオカルトマニアたちは、なけなしの自尊心を護るため、まんまと見えてる釣り針に喰いついた。悲しき人の性である。
「さてとー、コッチの方は……」
 立ち上げるのはSNSアプリ。ハッキングによって高度なパフォーマンスを得つつ、慇懃無礼な呟きを連発しまくっていたシャルの捨てアカウントの方にも、着々と情報が集まりつつあった。こちらは炎上商法、という奴だろうか。
「……チョロい。チョロすぎる。学生街だからですかね?」
 小首を傾げつつパフェにありつく、原宿系現代鬼っ子(自称)。スナック感覚で不和を煽り立てるその手腕は、末恐ろしいとしか言いようがない。
「……うん?」
 画面上に表示されたその文字列に、否応なしに目が留まった。
『メリーさんの噂:1990年代初頭には既に全国的に広まっていた、電話を介した都遘√Γ繝ェ繝シ縺輔s縲ゅb縺?☆縺先カ医∴縺。繧?>縺昴≧縺ェ縺ョ縲よ掠縺丞勧縺代※縲』
 数秒前に掲示板に投稿された一文が、ひどい文字化けを起こしていた。無論、珍しい話ではない。しかし蟻の群れのように画面を這うその文字列が、妙に少女の背中をぞわりと撫ぜたのも事実であった。なにか、厭な予感が背筋を走ってゆく、そんな感覚。
「…………。」
 文字化けした一文をコピーして、変換ツールに突っ込む。しかして表示されたその一文に、今度こそ少女は寒気を覚えた。

『私メリーさん。もうすぐ消えちゃいそうなの。早く助けて。』

●第一幕 -12-

「うぅ、さすがに夕方になると寒いわね……」
ぶるり、と身体を震わせて、ダンピールの少女──彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は、花撒駅前の雑貨店へと早足に向かった。
 カラコロと歌う扉を空けてみれば、学校帰りの女子生徒で賑わった店内が現れる。金沙の髪を靡かせて、少女の碧眼が店内を走った。
「うーん、選ぶならやっぱり髪飾りかしら……でもお揃いの帽子でも……うーん」
 なんのことはない。情報収集ついでに、妹の誕生日プレゼントを探しているのであった。雑貨屋を梯子するのは、これで四件目である。
「べつに、本業忘れてるわけじゃないんだからね……っ」
 誰にともなく言い訳して、髪飾りコーナーへと足を運ぶ。妹の瞳の色を思うなら、自分と同じ青色の髪飾りも良いが、愛用しているリボンのことも考えると、安直に決めるのもなんだかなという気がしてくる。
「うーん……」
 顎に手を添え考え込む。ともすれば人形のように整った顔立ちの彼女が熟考する姿は、実はそれなりに注目の的になっていたりするのだが──とうの本人はまるで気がついていない様子である。
「──聞いた? アヤコ、見ちゃったって。」
「見たって、何を?
「……赤い女。」
 ピクン、と姫桜の頭が小さく跳ねる。先程聞き込みをした雑貨店で小耳にはさんだその単語が、棚一つ挟んだ向こう側から聴こえてきた。
「えー、またアヤコのウソでしょう?」
「確かにあの子は目立ちたがりだけど、今回はマジっぽいんだよね……。」
「なんで?」
「アンタは部活で遅くなったからアレだけど、今日のアヤコ、全然喋んないんだもん」
 噂話。都市伝説。フォークロア。実際に人の口から語られるそれを、姫桜は奇妙な悪寒と共に聴いていた。
「……あのお喋りなアヤコが?」
「ヘンでしょ? で、みんなで心配して聴き出したら、『昨日の夜遅くに赤い女を見ちゃった』って──」

「その話、詳しく聞かせてもらっても良いかな……?」

 戸棚の向こうに、新しい登場人物が現われたようであった。

●第一幕 -13-

「わ──!」
「えと──」
 自分の姿を見るなりカチコン、と固まった女子高生二人を前にして、ダンピールの麗人ヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)は小さく頬を掻いた。もしや、接触のタイミングを間違えてしまっただろうか。
「あ、えっと──興味のある話だったから……突然ゴメンね」
「あっ──」
「ま、待って!」
 踵を返そうとしたヴィリヤを、女子高生たちが慌てて引き留める。
「こ、こちらこそゴメンなさい!あ、あんまりにも綺麗な人だったから──」
「ちょっとボーゼンとしちゃったっていうか……!」
「え?」
 頬を紅潮させる少女たちの言葉に、先程とは別の意味でヴィリヤは頬を掻く。こう面と向かって容姿を褒められるのは、些かこそばゆいものがあった。
「……赤い女の話に、興味があるんですか?」
「え?──えぇ、この街の都市伝説を、少し調べていてね。その都市伝説は始めて聞くんだけど、教えてもらってもいいかな」
「は、はい! えっと──赤い女が噂になったのって、今年に入ってからだっけ?」
「うん、確かね。二月の頭に東部で例の事件が起きてからだったと思うよ。」
「……例の事件?」
 ヴィリヤが首を傾げると、少女たちは声を潜めてヒソヒソ続ける。
「はい……いわゆるリョーキ殺人、てヤツですかね。見つかった遺体から、臓器が一つ持ち去られてたらしいんですよ。」
「そんな事件が二月から……四件──ってウワサです」
「び、びっくりした……あくまで噂なんだね?」
 実際にそんな事件が四件も立て続けに起きていれば、世間的にも大題的に取り上げられている事だろう。
「正直、アタシたちも何がどこまでホントなのか分からないんですけど……」
「そんな事件があってから、流れるようになったんです。深夜二時に赤い服を着た女を見ると、数日後に死体で発見されるってウワサが。」
「なるほど……事実は兎も角、センセーショナルな背景があって生まれた都市伝説みたいだね。」
 更なる質問をしようと少女たちに目を向けると、先程自分を見ていた時と同じ顔で、二人はヴィリヤの背後を凝視していた。
「え──?」
 カラコロと鈴が鳴る。長く伸びた純白の襟足が、扉の向こうへ消えてゆくのが、かすかに見えた。

●第一幕 -14-

「フフフ……完璧です。これぞUDCアースならではの装い、前回の二の轍は踏みませんっ」
 夕暮れ。
 純白の髪を靡かせて街を往く男装の麗人、ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)は、雑貨店で購入した伊達眼鏡をかけてご満悦であった。いつもの白馬の騎士然とした装いからは一転、洋服店で購入したUDCアースの着衣に身を包む彼女は、完璧に街に溶け込んでいる──と思いきや。
「ね、ねぇ……! アレ!」
「わ、なにあのイケメンどこの大学……!?」
「メンズの雑誌に載ってなかったっけ」
「うっそモデルさん!?」
 ヒソヒソ。ヒソヒソ。
 しかして向けられる好奇の視線に、まるで気が付かないのがステラ・アルゲンという女性なのであった。
「──大丈夫? カナミ。なんか元気ないじゃん」
「う、うん……」
「やっぱ、この間のヘンな音楽が気になってる?」
 だが、その辺を差し置いて尚、ステラの聴覚は鋭敏であった。スッと青い瞳を走らせれば、カフェのテラスに腰掛けた女子大生の二人組。歩く姿も鮮やかに、ステラはさらりと声をかける。
「──相席しても良いですか、お嬢さん。興味深い会話が聴こえたもので。」
 茶髪の女子大生が、あんぐりと口を空ける。意気消沈気味なニット帽の女子大生も、驚いたような顔でステラを見上げていた。
「……あなた達のような可愛い子が、事件に巻き込まれるのは心配でして。なんとかしたいんです」
 正しくイケメンのみに赦された殺し文句。最高のタイミングで流星の騎士は、伊達眼鏡に封印された素顔を開放する……っ!!

「──貴女の力になりたい。駄目ですか?」

 ……数分後。仲良く女子大生と談笑する、男装の麗人の姿がそこにあった。
「ハハハ、それは可笑しな話ですね。ところで話は戻るんですが──黄昏の音楽会に、遭遇したんですか?」
「え、えぇ……一昨日、大学から一人で帰ってる途中に……」
「どんな音楽を聴いたのです?」
「えっと、それが……」
 ずい、と近づいたステラの顔に頬を染めつつ、ニット帽の女子大生は小さく俯く。
「聞いたこともないような、まるで鼓膜を引き裂くような、名状しがたい管楽器のような音で……ごめんなさい、でもこんな例えしかできないんです。」
「ふむ……それを聴いてから、体調が悪くなった、と。」
「はい……毎晩寝ようとすると、あの不安定な音楽が耳から離れなくて──ひゃ!?」
「どうしました!?」
 突然悲鳴を上げた女子大生に驚いてみれば、彼女の足元を白いくて細長い生き物が、凄いスピードで通り抜けてゆくところであった。
「な、なによアレ……!」
「ビックリしたぁ……」
「アレは……」
 なんとなく見覚えのあるその生き物の後ろ姿に、ステラはつい、と小首を傾げた。

●第一幕 -15-

 夕暮れの街を駆け抜ける。白い毛並みは街の風に少しばかりくたびれてはいたが、大して疲労はしていない。
(もう少し、情報収集しよう……。)
 オコジョ(に似たナニカ)に変身して街を縦横無尽に往くのは、ヤドリガミの少年ペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)であった。
(……さっきの、ステラ、だよね……?)
 カフェのテラスで見かけた彼女は変装こそしていたものの、彼の友人に間違いはない。お昼過ぎからこの姿で情報収集を続けているが、思った以上の数の猟兵が、この街で潜入・調査をしているようだ。
 スルリと路地裏に滑り込み、そのまま壁を這う排気管の上を走る。狭い場所なぞ何のその、伸び縮みするペインの身体の前では、障害にすらなりえない。
(確か、この辺だったハズ……)
 ビルの壁を伝い、屋上へ。さらに立ち入り禁止のフェンスを潜り、煤けた貯水タンクの上に顔を出した。
『──こんにちは。』
『……珍しい来客じゃのぅ』
 七丁目のキジバト曰く。一丁目のビルの屋上には、とんでもなく長生きのカラスが住んでいる。ところどころ白い羽根の混ざったそのカラスは、ちょっとした子供くらいの体躯を貯水タンクの上に沈めていた。凄まじい数のハンガーが、一面に転がっている。
『聴きたいことがあって、来ました』
『ふむ』
 古鴉が首を傾げる。それだけか、という顔であった。
『……これ、お土産です』
『ほほぅ、わかっとるな小僧……!』
 ペインが尻尾の先にぶら下げていたカラアゲの袋を差し出すと、古鴉は途端に上機嫌になった。伊達にこの大きさに育ってはいないらしい。
『──して、聴きたいこととは?』
『えっと──夕方から夜間にかけて、変わったこと、特に、何か音楽や、人間の悲鳴を聞いたことって、ありませんか。ここ最近の、はなしです』
『ふむ……』
 暫し夕焼け空に視線を彷徨わせてから、古鴉はゆっくりとしわがれた声をあげた。
『……三丁目の空き地。一年前までは、ヒトがこっそり隠れてしょっちゅう耳障りな音楽を奏でとった。じゃが──ここ数ヶ月は別じゃな。この世の外に位置する輩が、妙な音楽と共にこの時間帯、現れることが多くなった。』
『この世の外……?』
 小さく首を傾げるオコジョに、カラスはバサリと翼をはためかせる。
『──異界じゃよ。大昔から、アレは現世の隣にあった。誰も気が付かんだけでな』
 ぞわり、と。全身の毛が逆立つのを、ペインは感じていた。
『気を付けろ。アレに囚われれば最後、ヒトもケモノも永遠の虜囚じゃて』
 空がいよいよ茜色に染まる。隣にある脅威を、確かに内包して。
 
 ──黄昏が、来る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鏡島・嵐
判定:【WIZ】
おれと同じくらいの齢の奴がいっぱいいる場所ってなんだか新鮮だ。すげえ面白そう。
……どうせなら、オブリビオンと関係無ぇところで来てみたかったけどな。

私服はともかく、学校の制服は現地の協力組織から借りねえとな。
とりあえず高校に生徒として潜入。
クラスメートになった連中とは〈コミュ力〉を駆使してなるべく早めに打ち解けるようにして、イイ感じに仲良くなった奴から〈情報収集〉してみる。噂話レベルだから大した情報が仕入れられるかはわかんねえけど。

あとは……あんまりやりたくねえけど、夕暮れ時に人気の少ねぇ所を学生服姿でうろついたりもしてみるか。
警官とかパトロールしてる人に見つからねえといいな。


メタ・フレン
『黄昏時の音楽会』…
以前『黄昏秘密倶楽部』とかいう要注意団体と戦ったことがありますが、何か関係あるんでしょうか?
この両者を関連付けて捜索してみます。

何にせよ私は電脳魔術師らしくネットで調査します。
①【バトルキャラクターズ】でゲームキャラを召喚(キャラ自体は何でもいいけど折角だし美少女で)。
②【暗号作成】で私のUC、技能、アイテム、そして精神そのものを暗号化した『イェーガーコード』を作り、それをゲームキャラにインストール。
③私自身がゲームキャラになり、そのまま【ハッキング】の要領でパソコンに直接入り込む。

文字通り電子の海にダイブし、そこで≪地縛鎖≫【情報収集】をしてみます。


ユーリ・ヴォルフ
アドリブ共闘大歓迎です

翼は当然隠し髪色を黒くし、黒のカラーコンタクトを着用
「どこにでもいる高校生」を演じ花撒市の高校を渡り歩く
オカルトは恋愛話に次ぐ、学生たちの興味を引く題材だ
ある程度の情報は期待できるだろう

「遠野侑里と言います。春からこの学校に転校する予定で…」
と自己紹介をし、オカルト愛好会でもあれば突撃しよう
「『黄昏の音楽会』の噂も聞いている…一人で帰るのは少し怖いな」と、このオカルト話に焦点が当たるよう誘導してみよう

情報を引き出しつつ、つかの間の学生気分も味わってみる
指導者が居て、勉学を共にする友人が居て…
「学校」や「家庭」に守られることが当たり前の環境なのか
私とは縁遠く、羨ましい世界だ


雨乃森・依音
『黄昏の音楽会』ね…
名前だけ聞けば随分とロマンチックじゃねぇか
演奏を聴いた者が失踪
それに鋏に臓器って…
それ、まさか臓器を鋏で…いや、やめておこう
…自分で想像して寒気したじゃねぇか

これでも音楽やってる身の上だ
訳わかんねぇことに音楽関係してるのも気になるし調査してみるか

夕方、学生が多いであろう駅前で路上ライブ
今日だけ特別だからな
ギター掻き鳴らして歌ってやるさ
将来への不安絶望焦燥全て歌声に乗せて訴えるようにな
それが刺さった学生や、音楽好きな奴らが集まってくんだろ
そしたら聞き込みだ

お前ら『黄昏の音楽会』知ってるか?
例えば身近にいるやつが失踪したとかさ
なんでもいいんだ
知ってることあったら教えてくれ


ガルディエ・ワールレイド
音楽の力って奴を感じることは有る。
それが悪い方向で使われると脅威かもしれねぇな

【POW】楽器屋や音楽教室を回るぜ
ジーンズとシャツでUDCアース風に年相応の格好をするぜ。
楽器購入や音楽教室に通うかを考える楽器の初心者という設定で行動だ。

重点的に聞くのは「噂で流れる演奏の内容」について。
奇妙な演奏らしいが、そういう奇妙な演奏に縁が有る場所や人がこの街にないか聞いてみるぜ

それはそれとして、演技を兼ねて楽器店の人や、あるいは周囲の詳しそうな客に楽器の事とかを尋ねるぜ。
知り合いに音楽が好きな奴もいるし、興味があるのは本当だ。
「やっぱギターとかが定番なのか?」
「最初に覚えるお勧めの練習曲とかって有るか?」



 
●第一幕 -16-

「……はぁ。」
 夕暮れに染まる住宅街に、零れるような溜息が一つ。ミルクのようにふわりと溶けて、宙に霧散する。
 声の主である少年、遠野侑里──否、ユーリ・ヴォルフ(叛逆の炎・f07045)は、人気のない西部の住宅地を歩いていた。潜入には目立つからと、焔のような赤髪を黒く染め、紅玉の瞳にはカラーコンタクトまでつける念の入れよう。ここまで徹底すると、最早一見してごく普通の男子高校生にしか見えない。
「……はぁ。」
 また一つ、溜息。
 ともすれば、心配になるほど深い溜息ではあったが──しかして彼の表情を見れば、その溜息が不安や憂愁から出たものでないことに、すぐさま気が付くだろう。
「……素晴らしいな、この世界は。」
 そっと呟いて、ユーリは感嘆の息をそっと漏らした。
 一日を私立梅原高校での潜入調査に費やしたユーリであったが、このUDCアースにおける教育の現場には、感銘を受けずにはいられなかった。同じ年頃の少年少女が、ひとつの場所で勉学に励み、社会性を知り、確かな指導者の下で人間性を形作ってゆく。
 誰も、剣を取らずとも良いのだ。死と隣り合わせの戦場に、身を置く必要がないのだ。この世界の子供たちは、家庭に、学校に、社会に、国に──何重もの見えない手に守られて、日々を過ごしている。それが当たり前になっている環境そのものが、ユーリにとっては奇跡そのものに思えてならなかった。

『──遠野侑里と言います。春からこの学校に転校する予定で……』

 緊張でガチガチになったユーリを、しかし一日だけのクラスメイト達は、もみくちゃにして歓迎してくれた。何かと面倒を見てくれた委員長の笹倉さん。教科書を見せてくれた、隣の席の増田くん。昼休み、サッカーで鎬を削り合った本田くんと、ボールが直撃して気絶した山田。束の間の学生生活ではあったが──
「……うん、楽しかったな。」
 夕焼けに独り言ちて、唇に微笑みを浮かべる。欲を言えば、もう少し学生生活を続けてみたかった気持ちもある。それでも本来の目的を忘れない辺り、このユーリ・ヴォルフという少年が、如何に生真面目かよく分かるというものだった。
「──さて、そろそろか。」
 オカルト愛好会部長の蛭子さん曰く、三丁目の空き地のあたりで、黄昏の音楽会は頻発しているらしい。キリリと表情を引き締めて、ユーリは暮れの街を往く。前方十数メートル、件の空き地はすぐそこだ。
「……ん、あれは……?」
 目を、細める。
 黄昏時。ぼんやりとした薄明の中、空き地に見覚えのある制服が立っているのが見て取れた。

●第一幕 -17-

「こんな漫画みてぇな空き地、ホントにあるのな……」
 ネコジャラシ。ハルジオン。セイタカアワダチソウ。伸び放題の雑草に半ば埋もれる様にして、罅の入った土管が横倒しになって数本、詰まれている。
 暮れなずむ街並み。閑静な住宅街の一角にあって、この空き地は尚静かであった。
 ──故に。

「きみ! そんなところで何をやってるッ!!」

「うぉわっ!?」
 突如背後から飛んできた一喝に、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は文字通り飛び上がって驚いた。慌てて振り返ってみれば、紺色の制服に制帽、ビシッと襟元をネクタイで絞めた中年の警官が、自転車から降りて近づいてくるところだった。
「えっ、いや、その──」
「その制服、梅原高校の学生さんか……」
 警官は、嵐の身に着けている学ランをしげしげと眺めて眉を寄せる。無論、実際に嵐が日々通っているわけではなく、潜入調査のためにUDCが用意したものであった。
「……だったら学校の方から指導あったでしょ。この辺は最近物騒だから、早く帰りなさい」
「あ、えっと……」
 そもそも、その物騒な事件の原因を探るためにこの場所へ来たのだった。今日一日で、打ち解けたクラスメイトから耳にした噂……『空き地の怪人』の正体を確かめるために。
「なに、それともやっぱり、何か良からぬことでも──」
「いやいやいやいや! そ、そうじゃなくって!」
 じろりと睨む警官を前に、少年は慌てて両手を振る。このタイミングで警官に見つかってしまったのはツイてないとしか言いようがないが、逆にこれはチャンスともいえた。
「そ、その……つい三日前、捜索願の出た生徒がいるじゃないですか。香坂くんっていう男子生徒。」
 頭をフル回転させつつ、クラスメイトから聞いたその名を告げる。
「……友達だったんです。最後に目撃されたのが、この時間のこの辺だって聞いて、それで──」
「……目下、私たちが全身全霊をかけて捜索中だ。それと、彼が最後に目撃されたのは『日の落ちた夜中』だよ。いいから、もう帰りなさい」
「え──」
 警官の言葉に、目を丸くする。失踪者がでるのは、夕方ではなかったのか。
「そ、それって……」
「きみの気持ちはよくわかるが、これ以上はナシだ。大丈夫、彼はきっと私たちが見つける。ほら、帰った帰った!」
 パンパンと手を叩く警官に背を押され、仕方なく空き地を後にする。長く伸びた自分の影が、心なしか濃さを増している気がした。

●第一幕 -18-

 ──暗いトンネルを抜けて、淡く輝く蒼の中を降下する。

            潜る。
             潜る。
              潜る。
 泡のように浮かんでは消える0と1。
                潜る。
 海草のように揺れるクラウド上のデータ。
                  潜る。
 時折すれ違う魚たちは、この街の住人だろう。
                   潜る。
                   潜る。
                   潜る。
                   潜る。
 海底洞窟化したセキュリティを難なく突破して、電子の精霊はペタリと深層に降り立つ。

「……他愛もありませんね。この世界のセキュリティは脆弱に過ぎますよ。」
 そう呟いて、0歳児の電脳魔術師メタ・フレン(面白いこと探索者・f03345)は、データで形作られた身体でグイっと伸びをした。現実世界での幼い少女の姿ではなく、召喚した美少女キャラクターの姿である。
「……黄昏時の音楽会、ですか。例の狂信者団体と関係があれば、話は早いのですが。」
 以前に刃を交えた『黄昏秘密倶楽部』を思い出しつつ、魔術師は指を走らせる。射出された透き通った数本の鎖は、海底に突き刺さるや否や青い輝きを放ち、この街の情報を吸い上げ始めた。
「黄昏……苦痛による救済……神の復活……うーん」
 吸い上げた情報に片っ端から検索をかけるが、件の団体とはどうやら関係がないらしい。
「……まぁ、それはそれで不安定要素がひとつ消えました。と、なれば」
 直接、都市伝説に関する情報を洗っていくか。
 電子の海に沈むフォークロアをサルベージしながら、メタは小さく目を細めた。
「……情報が多すぎて処理が追い付かないですね。もう少し分かりやすくアーカイブしますか……」
 壇上の指揮者の如く、指先が軌跡を描く。海の底に降り積もった無数の噂話が現在に至るまでを、糸で繋いで可視化する。

「……なんですか、これ。」

 唐突に像を結んだそれに、思わず、といった態で言葉が転がり落ちた。
 無数の種から萌芽した都市伝説は、互いに絡み合い、混ざり合い、まるで巨大なケルプの如き威容を目の前に現していた。
「……これは……いや、もう一本ある……?」
 根元の方から辿ってみると、都市伝説は巨大な三本のケルプに分かれていた。しかしその内の一本は、途中で隣のケルプに呑み込まれてしまっている。頂点付近を見上げれば、三本ともが既に統合されつつあるのが見て取れた。辛うじて細い方のケルプが、全体を呑み込まれずに済んでいる。

 電子の海に屹立する、都市伝説で形作られた不気味な海草の塔。背筋に走る悪寒を耐えながら、メタは解析を開始した。

●第一幕 -19-

 夕刻。黄昏に染まる花撒駅前は、家路を急ぐ学生やサラリーマンで賑わっていた。
 今日の夕食は何にしようか。帰ったらあの子と電話しよう。そういえばあのドラマは録画したっけ。今晩のレイドは──道行く人の頭を覗いてみれば、きっとそんな他愛もない、けれど幸せな未来像が見えるに違いない。
 だから、そう。
 早足で帰路を辿る人々の足を止めさせるのは、それだけで一つの偉業と言える。

「────!!」

 駅前広場の一角に、大きな人だかりができていた。その中心でギターを掻き鳴らしているのは、特徴的な瞳の少年であった。ともすれば女性と見間違われそうな、中性的な容姿と声色。しかして真っ白な髪を振り乱して歌うその姿は、勇猛なる獣にも似て──

「────!!」

 降り注ぐような、激情と哀切のディスコード。それは漠然とした将来への不安と焦燥感、先の見えぬ昏い未来への絶望と怒り、そしてその全てを纏めて捻って明日に吠え立てる、雨雲から覗いた一筋の青空のような──そんな歌。

「────。」

 震える弦の余韻もそこそこに、スッ、と少年は頭を下げた。歓声と共に湧き上がった拍手が、広場の熱狂をカラリとした笑顔に変える。開いたギターケースに放り込まれてゆく御捻りを後目に、少年──雨乃森・依音(紫雨・f00642)はホゥ、と息をついた。
「今のスッゴイ良かったです!」
「悩みが吹き飛びましたよ! ウジウジしてらんないな、って!」
「いや、ちょ、ズズ、ほんとに、グズ──」
「なに泣いてんだオマエ」
「バッカ昨日振られたばっかだろコイツ」
「ありがとうございました! また聴かせてください!」
 殺到する学生たちの言葉に小さく頬を掻いて、依音は片目を瞑る。
「……あいよ。サンキューな、お前ら。ところで一つ聞きてーんだが」
 黄昏時の音楽会って知ってるか?
 依音の問いに、集まった学生たちは顔を見合わせる。
「……なんでもいいんだ、知ってることあったら教えてくれ」
 紫陽花の瞳が少年少女を見据える。少し躊躇したような空気の後、髪を金色に染めた少年が口を開いた。
「……実はさ、音楽やってるヤツの間じゃ公然の秘密なんだけど──」

 少年の口から告げられた真実に、依音は思わず天に中指を立てた。

●第一幕 -20-

「すげぇな、音楽の力ってのは……」
 駅前広場での路上ライブに心揺さぶられつつ、ダンピールの少年ガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)は目的地へと足を運んでいた。
 いつも纏っている漆黒のフルプレートは流石に悪目立ちをすると思ったのか、ジーンズにシャツと言うラフな出で立ちである。ポケットに手を突っ込んで街を往くその姿は、思いのほか年相応の少年のそれであった。

「邪魔するぜ」
「いらっしゃい」
 カラリと扉のベルが鳴る。ガルディエが訪れたのは、線路を超えた駅の裏側、煤けたビルの一階部分に店を構えた、小洒落た楽器店であった。目には目を、演奏には演奏の専門家を、という判断である。
 さほど広くはない店内だが、品揃えは悪くないらしい。トランペットからエレキギターまで、一通りの楽器がショーケースや壁一面に陳列されている。むしろこの規模の店舗でこれだけの種類を扱っているのは、比較的珍しい方だろう。
「……何をお探しだい、兄ちゃん。いや、むしろ何を始めたいんだ?」
 物珍し気にキョロキョロしていたガルディエに、バンダナを巻いた初老の店主がニカッと笑う。日に焼けた肌に気編まれた皺が、厳つい顔に愛嬌を添えていた。
「あ──いや、友達にギターやってるのが居てな。ちょっと興味がわいたから話を聞きに来た。やっぱ定番なのか? ギターって。」
「うん? そうさな、定番つーと語弊はあるが、花形とは言ってもいいだろうよ。まあ、ダチがやってれば興味も沸くわなァ……オレも初めて触った楽器はギターだった」
「へぇ……やっぱその辺詳しそうだな、店長。例えば最初に覚えるお勧めの練習曲とかって有るか?」
「おぅ、あるぞ。ちょっと待ってな──」

 三十分後。上手い具合に音楽好き且つ世話好きの店長と親交を深めたガルディエは、満を持してその話題を切り出した。
「……なぁ店長。」
「おぅ、なんだ。あっちのショーケースは勘弁してくれよ値が張るからな」
「いや、そうじゃなくってだな。……黄昏の音楽会って知ってるか?」
 ビシリ、と。店長の顔が凍り付いた。
「……兄ちゃん、知ってんのか、その話」
「…………! な、なんか知ってんのか、店長!」
「い、いや……知ってるっつーか、何と言うか……」
「教えてくれ! 今は一つでも多く情報が欲しい!」
「いや……その……」

「その話、僕にも聞かせてくださいっ!」

 カラン、と。新たな来客を告げる音が、店内に響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三原・凛花
こういう街並み、何だか懐かしいな…
好きな行動を取ってもいいってことだし、ちょっと遊んじゃおっかな。

まずショッピングモールに行って、服を買っておめかししよう。
それから街中を散歩したり、映画を見たり、レストラン街で食べ歩きしたり…
他に女の子の猟兵もいるなら、一緒に女子会なんかもしてみたいな。
もしナンパとかされたら、それにホイホイ付いて行っちゃってもいいかも。

あ、もちろん仕事の方もちゃんとしないとね。
今回の敵は『呪詛』型UDC。
なら時々【呪詛の篝火】を弱めに点火させて、反応がないかチェックしてみるよ。
もし近くに強い【呪詛】を纏った存在がいるなら、【呪詛の篝火】の炎もそれに反応する筈だから。


空雷・闘真
「頼もう」

闘真は街中に聳える、さる有名空手団体の花撒支部の門を叩いた。
世界一の空手団体の道場なら人も多く集まっている。
『黄昏の音楽会』について何か知ってる者も居るだろうと闘真は考えた。

だがしかし闘真の本当の目的は噂話の情報収集などではない。
道場の隅のサンドバッグへと闘真は近付き、それを思い切り蹴り飛ばす。

「『黄昏の音楽会』とやらの噂について聞きたい。それと…ここで一番強い奴と戦いたい」

闘真にとってただ噂話について聞き回るのは退屈極まりない作業。
ならついでに道場破りでもして回ろうと考えたのだ。

「表の格闘技界から離れて久しいが…俺の居ない間に奴らがどれだけ成長したか確かめておきたいしな」


リューイン・ランサード
怪談話ですか、こういうのって対抗手段が殆ど無いので
恐いですよね(ブルブル)。

リューインは中学生に扮して情報収集。
アルダワ魔法学園の生徒なので、学生らしい振る舞いは問題無く。

気になるのは『黄昏の音楽会』。
伝説の元になるような音楽会があったのでしょうか?
【世界知識】で吹奏楽部の中学生を装い、花撒市の楽器店に行く。

店員さん達に楽器の質問ついでな感じで、『黄昏の音楽会』
について話を切り出す。
店内には他のお客さんもいるでしょうから、出来る限り話を広げて
色んな人に聞いてみる。

『黄昏の音楽会』について異常な反応を見せた人がいれば、
【目立たない】よう、【迷彩】で周囲に溶け込みつつ【追跡】。

アドリブ・連携歓迎。



●第一幕 -21-

 半ば押し入るような形で楽器店に姿を現したのは、ドラゴニアンの少年、リューイン・ランサード(今はまだ何者でもない・f13950)であった。
 着込んだ梅原中学の制服の裾を踏んでよろけつつも、少年は目を白黒させる店長にビシリと指を突き付ける。
「……この街の楽器屋さんを幾つか回りましたが、どこも黄昏の音楽会の名前を出すと黙り込むばかりで話してくれませんでした。ですが──店長さん、貴方の反応は間違いなく何かを知っている人の反応です。何か知っているなら教えてください……っ!」
「ぐっ──」
 血の気すら失せ始めた顔色で、店長は苦しげに顔を歪める。一方、リューインはリューインで、内心ガタガタ震えっぱなしであった。
 正直、この怪談の裏側にどれだけ恐ろしいものが潜んでいるのか、まるで予想がつかない。この臆病な少年にとってその事実は、もはや一刻も早く解き明かさなければ夜も眠れないという、ある種の強迫観念にまで及んでいた。
「お願いです、店長さん。不安に思っている街の人たちも、それなりに居ます。……というか、正直言って僕も怖いんですよ! 速いトコ対抗策を用意したいんです! 頼みますよ!」
 あっさり本音を暴露して、少年は大きく頭を下げる。店長は、依然として目を白黒させていた。
「た、対抗策って──」
「知ってることなら、何でも良いんです……! この都市伝説の裏側にどんな闇が潜んでいようと、僕は受け止める覚悟が出来ています! 怖いけど!」
 とにかく真摯に頭を下げる少年の姿に、店長は苦り切った表情を浮かべていた。
「……。……。……他言無用で頼むぜ」
「──て、店長!」
 大きな溜息と共に告げられた店長の言葉に、リューインがガバリと顔を上げる。もはや悲痛とすら言える面持ちで、店長は口を開いた。
「……つっても、大した話じゃねーんだ。その、なんだ……」
「はい」
「……………オレだ。」
「……はい?」

「……だから、『黄昏の音楽会』と『空き地の怪人』ってのは、オレのことなんだ……」

「え────えええええええええええええええええええええええええ!?」
 一周回って絶叫するリューインに、店長は両手で顔を覆って話を続ける。
「……オレは音楽が好きだ。三度の飯より好きだ。人生かけてるよ。でもな……オレには音楽に関する才能ってモンが、致命的にねぇんだ……! それでも何年か前までは、人気のない夕方に三丁目の空き地でこっそり練習してたりしたんだが──」
 その余りに酷い演奏を耳にした人たちが、あらぬ噂を流したらしい。
「……いつのまにか街を賑わす都市伝説にまでなっちまって……こんなの、恥ずかしくて人に言えたモンじゃねーだろうがよぉ……」
 ほとんど半泣きで、店長が真相を明かす。ある種衝撃的な真相に、半ば呆然とした表情でリューインは店長に問う。
「じゃ、じゃあ、どうして本当に行方不明者が……?」
 しかして、店長の返した答えはシンプルであった。 

「だから困ってるんじゃねえか……。」
 
●第一幕 -22-

「頼もう」

 夕暮れに染まる住宅街の一角。場違いなほどの敷地を誇る日本家屋の門戸を、その男は叩いていた。暫くして重たい音と共に、鉄製の門がゆっくりと開く。中から顔を出した胴着姿の男性は、その男の姿を認めるなり驚愕の色をその顔に浮かべた。
「お、お前は────!」
 空雷・闘真(伝説の古武術、空雷流の継承者・f06727)……!
「久しいな。」
二、三歩あとずさった胴着姿の男を見下ろし、闘真はニヤリと太い笑みを浮かべた。
「き、貴様! 一体どういう了見で──」
「ここなら人も多いだろうと思ってな。フン、何せ『世界一の空手団体』の道場だ」
 ほとんど嘲りに近いニュアンスでそう言って、そのまま闘真は門を潜る。
「ま、待て……ッ!」
 男の制止を丸っきり無視して、闘真は道場の内部へと歩を進める。ガラリと内戸を引けば、広い板張りの道場で沢山の空手家たちが稽古に励んでいた。

「──変わらんな。どこの道場も」

 突然の珍客に、誰も彼もが動きを止めた。なにも、見ない顔が現れたから──という理由だけではない。その全身から放たれる凄まじいまでのプレッシャーを、武道を志す人間が無視するなど、もとより不可能な話であった。
 道場中の視線を一身に受けながら、闘真は道場の隅に設置されたサンドバッグの前で足を止める。

「────シッ!」

 鋭い呼気が疾る。次の瞬間──雷光も斯くやと言う速度で閃った右脚が、乾いた破裂音と共にサンドバッグの下半分を鮮やかに切り飛ばした。内側に詰まっていた砂が、行き場を失って濛々と舞う。
「……『黄昏の音楽会』とやらの噂について聴きたい」
 砂煙に屹立するその威容に、何人かの門下生が後ずさる。一方で、闘真に対して敵意を剥き出しにして構える門下生も少なからず存在した。
「……どうした。よもやこれだけの人数が居て、誰も知らんのか?」
「……知っていたとして、お前に答える義理はない……ッ!」
「お帰り願おうか、空雷流……ッ!!」
「ハッ────!」
 ちゃんちゃら可笑しいといった表情で、闘真が嗤う。
「まぁいい、どのみち退屈しのぎだ──この中で一番強いヤツと死合わせろ。負けた方が勝った方のいう事を聞く。シンプルでいいじゃねえか……!」

 この日、さる有名空手団体の花撒支部が一時間で壊滅した事実は、後に新たなる都市伝説となるのだが──それはもう少し先の話。

●第一幕 -23-

「こういう街並み、何だか懐かしいな……」
 濡羽の髪が、夕暮れの街並みに揺れる。行き交う人の波に目を細めて、三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)はそんな風に独り言ちた。
 異端の神と絶望の世界に転移する前の自分の故郷もまた、こんな様相だった。あれから100年、記憶は随分と色褪せてしまったけれど──胸の内から沸き起こるこの感情は、なるほど確かに『懐かしさ』であった。
「……♪」
 彼女にしては珍しく、鼻歌なぞ口ずさみながら街をゆく。飾り気ない麻の服は脱ぎ捨てて、纏うは近頃流行りの春服だ。山吹色のキャスケット帽の下で、少しだけおめかしした顔がのぞいている。話題の映画を見た後は、立ち読みした雑誌に載っていたレストランへ。
 今日この日、この街に限って言えば、三原・凛花という狂った時間を歩む女性は、一人の少女として一日を謳歌していた。
「……だれか、知り合いにでも合えればよかったんだけどな。」
 少しだけ寂し気に笑って、横断歩道の白い部分だけを踏んで渡る。いつか、『女子会』というのもやってみたいものだ──そんなことを考えている自分が少しおかしくって、また小さく笑う。今なら、ちょっとしたナンパでもホイホイついていってしまいそうだ。
「────?」
 だからだろうか。通り過ぎた路地裏から誰かに呼ばれた気がして、思わず凛花は立ち止まる。
「…………。」
 戻るか、戻るまいか。戻ればきっと、つかの間の日常とはおさらばだ。
「………‥。」
 人混みが、流れてゆく。ビルの隙間から射し込む夕日が、血のように赤い。
 少しだけ自嘲気味に笑ってから、小さく息を吐いた。
「──仕事の方も、ちゃんとしないとね。」
 踵を返す。薄暗い路地裏へ入り込むと、どこか湿った嫌な臭いが鼻を突いた。煤けた室外機が、ゴボゴボと咳き込むような音を立てる。
 誰かが、私を呼んでゐる。
「──燃えて。私のように」
 大気がクラリと揺らめいた。陽炎のように薄く燃え立つ呪詛の焔が点々と、路地裏の奥へと続いている。『呪詛の篝火』──範囲内の呪いに反応して延焼する、凛花のユーベルコード。
 黒い焔を辿る。辿る。辿る。
 狭い路地裏の行き止まり。街の腫瘍のようなゴミ溜めの中に、呼び声の主は居た。
「……あなたが、私を呼んだの?」
 黒い焔に取り巻かれて、一体のフランス人形が、ゴミの中から半身を覗かせていた──否、そもそも人形の半身は、砕け散って存在していなかった。

『止メ…テ。食ベラレタク……ナイ……』
 罅割れた、消えかけの思念が流れ込む。

『ワタシ……モウ何処ニモ……往ケナイノ……』
 ビシリ、と。罅の広がる、厭な音。

『誰カ、ワタシヲ、見ツケテ────』
 その思念を最後に、人形が崩壊する。あとには、眼球代わりのガラス玉だけが、鈍く虚空を見つめるだけであった。 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『友達の友達から聴いた話:赤い女』

POW   :    夜二時に十字路を歩いて、見付けた赤い服の女に腹パン。

SPD   :    赤い服の女と擦れ違った人を三日間護衛して、被害を防ぐ。

WIZ   :    持ち去られた臓器や死亡時刻等に手掛かりが無いか、情報を元に犯人を割り出す。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 
●現地UDCエージェントより纏められた報告書(全猟兵へ通達の事)

【現時点での花撒市における調査の進捗状況】
・猟兵たちの調査・行動により、呪詛型UDC誘因の条件が満たされました。
・蒐集した都市伝説の情報を共有しました。
・各個人の調査結果を共有しました。
・猟兵たちの活躍により、『メリーさんの電話』の噂が完全に統合されていません。

【注意すべき都市伝説】

『黄昏の音楽会』
 対象を異空間に捉えるタイプの都市伝説を中心に巨大化していました。
 現在は『赤い女』の噂に統合されています。
 アーキタイプは『楽器店の店主』です。

『赤い女』
 現時点で最も注意が必要な都市伝説です。
 『口裂け女』をベースとして、様々な都市伝説を統合し巨大化しています。
 夜中に『赤い女』を目撃すると、三日以内に死ぬという噂が広まっています。
 殺害対象から臓器を必ず一つ奪っていきますが、目的・理由は不明です。
 アーキタイプは不明です。

『メリーさんの電話』
 メジャー且つ強力な都市伝説でしたが、殆ど『赤い女』に統合されかけています。
 対象を追い詰める、或いは追跡するタイプの都市伝説を中心に成長していました。
 アーキタイプは『怪談』です。
 何らかの方法で『赤い女の噂』との統合を阻止できた場合、呪詛型UDCは大幅に弱体化します。

【今後の調査における傾向と対策】

 最大の懸念事項である『赤い女の噂』を調査しつつ、呪詛型UDCを誘因・或いは発見する必要があります。現時点では戦闘に移行せず、呪詛型UDC殲滅の際の下準備を行うことが望ましいです。
 調査続行という形式上、舞台はPM7:00以降の夜間が中心となります。時間帯によって発生しうるトラブルを回避しつつ、呪詛型UDCを補足してください。

                                    以上
 
ミアス・ティンダロス
なんだか、事情ますます複雑になりましたね。
音楽会と怪人の真実はともかく、まさか他の都市伝説とも関わりがあるなんて……もっと早く気付くべきでした。
いや、ちょっと待って。もしかしたら『赤い女』のアーキタイプは楽器店の店長のお知り合いなのでは?
むぅ……分かりません。頭が回りません。
情報は自ら現れるわけでもないし、とりあえず動きましょう。

召喚したスターヴァンパイアを楽器店の店長の尾行に回させ、彼の人間関係について調べたいと思います。
僕自身も、被害者や持ち去られた臓器について調査します。もしかしたら、なんの共通点を見つけ出せるかもしれません。
得た情報を基づいて犯人の正体を突き止めようとします。


リューイン・ランサード
「パソコンの使い方を学んでおくべきでしたね<汗>。」
この世界では情報収集がイマイチ不得手な為、ひとりごちながら、
深夜二時に十字路を歩いて、赤い女に腹パン喰らわせるべく散策。

ブルブル震えながらも歩いていく内に落ち着いて、
庭先に咲いた梅の花に見惚れたりして、「夜も良いですね♪」
とか言ってたら、傍に・・・。

「ぎゃあ~~~~~~!!!」と寝静まっていた住宅地の皆さんを
叩き起こすような叫び声を挙げる。

皆が集まってきたら、赤い女と言おうとして自制し、「凶悪な顔の
羊を従えたメリーさんが、鎌持って首狩りにきました!もう少しで
殺されるところでした!」とブルブル震えて証言。

襲われたらオーラ防御・盾受け・見切り使用


峰谷・恵
「赤い女は携帯電話持ってないからメリーさんとは別って噂流せば切り離せないかな?…いや、そもそも口裂け女は携帯電話普及前の都市伝説だから携帯使うの変ってことにできるか」

【POW】で挑戦。
敵が都市伝説を取り込むのを逆手に取り、UDC局員や情報操作する猟兵に赤い女は電話を使わないという噂を流すよう頼んで敵の手を制限できないか試す。
あとは夜中に街の十字路を歩いて赤い女の狙いを自分にひきつけ、遭遇したら神殺しの力を集中させた拳を赤い女の腹部に叩き込む。敵が呪詛型なので敵からの攻撃は呪詛耐性とオーラ防御で抵抗。

「都市伝説も広義の信仰って考えれば、呪詛型UDCも邪神みたいに神殺しの力が効いたりして」


ヴィリヤ・カヤラ
「赤い女」が「メリーさん」を
追いかけてる…なんて事はないかな?

「赤い女」の目撃時間がAM2時だったかな?
それまでに「メリーさん」を見つけるなら
AM0時くらいには動き始めたいかな。
町では『目立たない』ように動いて、
絡まれたり職務質問を受けそうになったら【澄明】で隠れるね。

今まで「赤い女」の被害のあった所を
時系列順に地図で確認して『情報収集』で整理。
何か法則があれば良いんだけど…
「メリーさん」を追いかけてるならゴミ捨て場かな?
反応があるかは分からないけど、
スマホを持って呼びかけてはみようかな。
「メリーさんどこにいるの?」

「赤い女」も確認できたら良いけど、
難しいかな。

アドリブ・絡み歓迎


清川・シャル
赤い女にメリーさん…
きな臭っ…

【W】
特定しますた、してやりましょ
ネカフェに移動

相変わらず情報収集を炎上商法でやりつつ
かたや被害者の関係者のフリして正反対の情報網を
両面から集めます
コミュ力、言いくるめ

楽器店と、事件が起きた場所をマップにマーク
赤いものをよく身に着けている人の目撃情報とかあれば
あとは、以前に臓器系の殺人事件でも無かったか検索
執着してるようですし

メリーさんは、無かった事に出来ないかな…
ネットを触る人達へ向けて
ハッキング、催眠術
記憶から消去を試みます
ネット上ではメリーさんに関する情報を強制削除
といったプログラムを早業、メカニックで組んでばらまき
人々から忘れられたら無かった事に出来るかな



●第二幕 -1-

 照明の落とされた狭い空間に、スクリーンの明かりがぽっかりと浮かび上がっている。
「きな臭っ……!」
 画面上に開いた複数のウィンドウを改めて俯瞰して、羅刹の少女、清川・シャル(バイオレットフィズ・f01440)は思わずそう呟いた。昼間の喫茶店からところ変わって、シャルが拠点と定めたのは駅前のネットカフェである。
 夕方過ぎにUDC局員から経過報告を受けた彼女たち猟兵は、各々思いついた行動をとりつつ協力体制を敷く、という形で調査を再開した。シャルの場合は──情報操作による都市伝説の弱体化を狙いつつ、収集した情報を現場の猟兵たちに発信するという具合である。
「やだ、思ったより広範囲……これは現場も手間取るでしょうねー」
 どーしましょ。と呟きつつ、報告のあった楽器店を中心に『赤い女』の目撃情報があったスポットを地図上にピン止めしていく。あくまでネット上で収集した情報ゆえに信憑性に疑問は残るが、『赤い女』の目撃例は優に50を超えているようであった。流布されている噂通りならば、それだけの数の人間が三日後に死んでいることになるが……
「そんなワケないですし。タダでさえ内臓抜き取られて死んでましたー、なんて目立つ事件なのに」
 なんらかの情報統制でもなければ成立しえない話だ。半数以上はデマと疑ってかかった方が良いだろう。作成した目撃情報マップを猟兵たちに送信しつつ、片手間に別のウィンドウに目を向ける。
「さ、じゃんじゃんデリート、しちゃってくださいな♪」
 表示されていたホラーまとめサイトから、記事がひとつ消失する。この街に流布されていた『メリーさんの電話』の噂だけを強制消去するプログラムを、この鬼娘は独自にプログラミングしてネット上に放出していた。恐るべき現代っ子である。
「──ん、これは」
 一年前の、花撒市のローカルコミュニティの雑談に目を止める。そこに記載された文字列に、青い瞳を見開いて──シャルは速やかに個室から退室をはかった。無論、現場へ向かうためである。

 画面上には『花撒市連続バラバラ殺人事件』の文字が踊っていた。



「むぅ……なんだか、ますます事情が複雑になりましたね……」
 携帯端末に送られてきた新たな情報に、人狼の少年ミアス・ティンダロス(夢を見る仔犬・f00675)は眉をハの字に寄せて唸った。住宅街に並んだ電灯の明かりが、少年の顔に暗い影を落としている。
「ですよねぇ……というか、こんなことならパソコンの使い方くらい学んでおくべきでした……」
 その隣でまったく同じ表情をしているのは、ドラゴニアンの少年リューイン・ランサード(今はまだ何者でもない・f13950)である。
 神出鬼没の『赤い女』を捜すべく、夜の住宅街をあてどもなく歩き回っていた二人だが、双方UDCアースで言えば中学生相当の年齢である。ぶっちゃけここまで何度か補導されかけており、そのたび全力疾走で警官を振り切るハメになっていた。やんぬるかな。
「いやぁ……まさか楽器屋の店長さんが大元だったとは。……なんだか申し訳ないことを御本人に聞いてしまいました……。」
「ま、まぁ、そこは真実の一端が明らかになったわけですし、リューインくんが悪いわけでは……」
 一周回って泣きそうになっていた店長の顔を思い出し、リューインは小さく溜息をつく。音楽好きだが音楽下手、そりゃまぁ知られたくもあるまい。
「……様子はどうですか、店長さんの。」
「今のところ変わった行動はとってませんね。というか、居酒屋のカウンターに突っ伏したきり動く気配がないです……」
「やっぱり滅茶苦茶落ち込んでるじゃないですか……」
 五感を共有する『星の精』に店長をこっそり尾行させていたミアスであったが、件の店長が酔い潰れているせいで、思ったほど情報収集の成果があがらない。彼はこの事件の元凶の一つではあっても、直接的に関わっているという線は殆どないようであった。
 携帯端末に送られてきた情報に目を走らせながら、ミアスは小さく歯噛みする。
「……『黄昏の音楽会』と怪人の正体はこの際置いておくとして、都市伝説が他の都市伝説を統合して強さを増していくとは……もう少し早く気づいていれば色々と行動に移せたのに……っ」
「仕方ないですよ。こうして夜の街を歩き回っているだけでも、一定の誘因効果はあると信じましょう」
 いやまぁホントは遭遇したくないですケド、と呟いて、リューインはブルリと身体を震わせた。夜も深まってきた街中で、等間隔に並ぶ街頭だけが明るい。故にその光が届かぬ場所は、より一層闇が濃く見える。それがなんだか、この臆病な竜人の少年の目には、酷く『こわい』ものとして映ったのだ。
「──ぁ」
 そんなリューインの鼻先を、甘い匂いが掠める。目を向ければ、通りがかった家の庭先に咲いた梅の花が、散り際の芳香をゆるりと漂わせていた。街灯の明かりに浮かび上がる風雅な光景に見とれて、思わず足を止めると同時、隣のミアスもまた足を止めた。
「……ま、まぁ夜も良いですね、たまには。」
「──バラバラ殺人事件?」
「へ?」
 返答にしてはあまりに物騒なミアスの一言に、リューインの口から疑問符が転がり落ちる。見ればミアスの双眸は、淡く光る携帯端末の画面にくぎ付けになっていた。
「ど、どうしたんですか、ミアスく──」
 
 バチリ、と。唐突に街灯が明滅した。

 不吉な風が、ぬるりと二人の頬を撫でる。
「……リューインくん。もしかするとこの街は、想像以上に──」
 ミアスの言葉を遮る様に、街灯が明滅を繰り返す。チカチカと惑乱する視神経。ブラックアウトする視界の隅、電信柱の陰から姿を現した『ソレ』に、リューインは──

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 寝静まった夜を切り裂くような、凄まじい悲鳴を上げた。



「うーん……ここにも居ないみたいだね、メリーさん。」
 携帯端末に表示された『赤い女』の目撃情報に程近いゴミ捨て場を辿りつつ、ダンピールの麗人ヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)は、困ったように金色の瞳を細めた。
「やっぱり、完全に統合されちゃったのかな?」
 人差し指を顎に当ててそう返すのは、同じくダンピールの少女、峰谷・恵(神葬騎・f03180)である。双方、人目を惹かずにはいられない容貌の持ち主ではあったが、見回りの警官を察知するたびにヴィリヤの『澄明』で身を隠していたため、さほど時間を食うことなく調査に回ることが出来ていた。
「それはない……と信じたいな。完全に統合されてしまったなら、いよいよ向こうも大っぴらに姿を現すだろうし──それに、これだけ広範囲で『赤い女』が目撃されてるのは、なにか必ず理由があると思うんだよね。」
「……なるほど、それで『赤い女がメリーさんを追ってるかも』って、さっき言ってたんだ?」
「うん、あくまで可能性の話だけどね。それに、峰谷さんみたいに情報操作で統合にブレーキをかけてる猟兵さんたちも居るわけでしょう?」
「まぁ、実際に情報操作してくれてるのは、ボクじゃなくってシャルさんだけどね。『口裂け女』と『メリーさんの電話』の噂には年代的な隔たりがあるから、その齟齬から統合を食い止められれば、って思ったんだけど……」
 実際に効果が出ているのかは、実物に遭遇してみない事には確かめようがない。それこそ、既に統合が完了してしまっている可能性も十分にあった。
「もうじき、午前二時になるよ」
「……『赤い女』が出現するって言われてる時間だね」
 人気の失せた、夜の住宅街を往く。春先とはいえ三月の夜気は、まだまだ冷たい空気を携えたままだ。やけに固く響く靴音を置き去りにして、夜の眷属は闇に目を光らせる。
 時計の針が、二時を指し示した──と同時。背後から急激に迫る気配に、二人は振り向くや否や即座に臨戦態勢を取っていた。
「御出ましかな──ッ」
「好都合だねっ!」

「──わわ、待ってください私ですっ!」

 即座に急ブレーキをかけたその少女に、二人は慌てて獲物を下ろした。
「シャルさん!?」
「拠点で情報収集してるはずじゃ──」
「ぜぇ、ぜぇ、なんとか間に合った……っ! お二人とも、いったん態勢を立て直しましょう、どうやら『赤い女』の他に、人を殺して回ってるヤツがいます……っ!」
「えっ?」
「それは──」
 ヴィリヤの言葉を遮って、彼女の携帯電話が震え出す。画面に映された表示は、滅茶苦茶に文字化けした記号で埋め尽くされていた。
「なに、これ──」
 ほんの一瞬だけ逡巡して、ヴィリヤは通話ボタンを押す。恐る恐る、耳元に当てた。
「……メリーさん、かな。どこにいるの……?」

『………ヒ……ヒ』

 ぞわり、と。肌が泡立つ感覚を覚えた。電話口で、小さく、本当に小さく、しかし確実な悪意をもって──何者かが嗤っている。
「……貴方、だれ?」
 ブツリ、と電話が切れる。と同時。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 耳をつんざく様な悲鳴が、隣の路地から聴こえてきた。
「──ヴィリヤさん、シャルさん!」
 その場に居た誰よりも迅速に、恵がアスファルトを蹴った。慌てて後を追う二人を後目に、恵は夜の闇を駆ける。
「──!! あれは……っ!」
 路地を曲がったその先に、恵はいよいよ加速する。目測にして50メートル前方、明滅する街灯の下で、赤い影が二人の少年に、今まさに襲い掛からんとしていた。
(都市伝説も広義の信仰って考えれば──邪神みたいに神殺しの力が有効かもしれない……っ!)
 神殺しとしての力が励起する。握った拳に凄まじいオーラを集中し、恵は赤い影へと突貫した。
「はあああああああああああああああああっ!!!!」
 その拳が、赤い影へと突き刺さった、その瞬間──世界から音が、消失した。

 ──茜色が、見える。

 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

黒川・闇慈
「人の噂も75日とは言いますが、75日も悠長に待ってはいられませんねえ。クックック」

【行動】
wizで行動です。
メリーさんの電話が赤い女に統合されるのを阻止してみましょう。噂には噂で対抗です。対抗神話というやつですね。
「寺生まれの霊感の強い青年が白昼堂々電話をかけてきたメリーさんを『破ァーーー!』と除霊する」という内容のジョーク文章をコミュ力の技能を活用してSNSや掲示板に投稿しましょう。
昼間に除霊された、という内容ならば夜中に現れる赤い女とは結びつかなくなるでしょう。怖さを薄れさせる、というだけでも噂の弱体化を狙えるかもしれません。

【組み合わせ・アドリブ歓迎】


ファン・ティンタン
【POW】私、メリーさん(武闘派)
他猟兵との絡み・大幅アドリブ可

赤い女の野放しはマズイ…と
じゃあ、対抗馬のメリーさんに梃入れしようか

怪談にも、猟奇的な内容ばかりじゃなく、人助けの話もある
さて…姿も知らぬメリーさん、貴女には今宵、ヒーローになってもらうよ

夜の街を散策しつつ、噂やSNS好きそうな女性を見繕う
該当者を見つければ、メリーさんを騙って街頭【パフォーマンス】

私、メリーさん
赤い女を追ってるんだけど、知らない?
見つけたら、こう―――(【刀心習合】で何かを斬りアピール)成敗するよ
SNSもやってるから、何かあったら呟いてね、助けてあげる

何箇所かで同じ内容を披露することで、メリーさんの噂を超補強する


エスタシュ・ロックドア
参ったぜ
姿形の見えねぇもんを追うのがこーも難しいたぁよ
見えさえすりゃ殴るか焼くかできるんだが

しょーがねぇ、『大鴉一唱』発動
烏どもを街に放って様子を探る
こんだけ街中なら光源にゃ困らねぇだろ
何か異変がありゃすぐ俺んトコに戻って来い
【動物と話す】で聴いちゃる
この街にいるっつぅ古鴉にゃ先に挨拶しとけよ

その間俺ぁシンディーちゃんに跨り【騎乗】【操縦】
赤い女を見たっつーヤツを烏の一羽に見張らして、
俺は烏を追いつつソイツの視界外から追跡
……うん、事件多発してる最中にこりゃ、サツに見られたら完璧不審者だな俺
止められたら大人しく職務質問されるわ
なんかあったら警察無線で情報が飛び込んでくるかもしれねぇしな


シャイア・アルカミレーウス
あの人形、メリーさんだったのかな。怖い人形って話だったけど、ちょっと悲しそうだったね……

(wiz)
確か都市伝説には対抗神話っていうのがあるんだよね?ちょっと意味は違うけどメリーさんに赤い女に対抗する神話になってもらえないかな?
UDCエージェントや情報戦が得意な猟兵君に手伝ってもらって新しい噂を流してもらおう!
「メリーさんは赤い女の被害者が大事にしてた人形で、敵討ちに赤い女を探している」みたいなのを!

あとは魔術の勉強したときに知ったんだけど、確か内臓対応する星座みたいのがあるらしいから、魔術方面から調べてみようかな

どちらにしても他の猟兵君と連携が大事そうだね
(アレンジ絡み歓迎)


鏡島・嵐
判定:【WIZ】
楽器店のおっちゃんもそりゃ寝覚め悪ぃよな。こんな形で自分の噂が独り歩きしてるんだもん。
それにしても……殺された上に内臓抜き取られるって、ぞっとしねえな。

さすがに夜に学生服姿だと悪目立ちするかな。警察の人にも見咎められちまったし、夜は私服に着替える。
基本〈目立たない〉ように行動。必要なら同行者(居れば、1人まで)も含めて《いと麗しき災禍の指環》で隠れる。
「赤い女」はどこで犠牲者を見繕ってんのかな? 被害者の年齢やら行動範囲やらから何か割り出せねえか?
一応実際に行ってもみるけど……。

いろんな伝説やら噂やらをごちゃ混ぜにして……最後はどんな怪物になっちまうんだろう。想像つかねえや。



●第二幕 -2-

 薄暗い夜の闇を、少女は早足で帰路についていた。
 その日はバイト先のファミレスがとんでもなく繁盛していたせいで、帰る時間がいつもと比べてめっきり遅くなってしまった。だから、普段は気味が悪くて使わない、木々の鬱蒼と茂った公園を突っ切るルートを選んだのだ。
 選んで、しまったのだ。
「ひっ────!」
 自分の喉が引き攣った声を上げたのを、どこか他人事のように俯瞰する。
 嗚呼。どうして自分は、こんな道を選んでしまったのだろう。
 ここのところ物騒だから、大きな道を通って帰りなさいと、今朝パパにもママにも言われたばかりだというのに。
 ぞわぞわと木々が揺れる。公園の中にポツン、と寂しく立つ街灯の下、蠢く木陰に身を溶かすように、『ソレ』は静かに立っていた。
「──こんばんわ」
「…………っ」
 するりと放たれた言葉に、身体がギシリと硬化する。平坦な声だった。ともすれば、自分と同じくらいの、年頃の少女の声。しかしその声音の下に、剥き身の白刃が顔を覗かせているような気がして──思わず呼吸を止める。

「……私、メリーさん」

 ドクン、と心臓が鳴った。自分の意志とは裏腹に、総身がガタガタと震え始める。
 メリーさん。このあいだ友達に聞いた噂話。
 『ソレ』に出会ったら最期、生きては──。
「ぃ……ゃ…………!」
 思ったように声が出ない。街灯の青白い光を反射して、『メリーさん』の右腕が、刃の如くギラリと嗤う。
 ぞわぞわと形を変える影の中で、赤い瞳だけが射すくめる様に此方を見ている。
「た、助け────!」
「……赤い女を追ってるんだけど、知らない?」
「──へ?」
 思わず間の抜けた声が、口の端から転げ落ちる。
「……ぁ、赤い、女……?」
「そ。赤い女。私のご主人様を殺した、憎き怨敵さ。敵討ちの旅をしてるんだよ、私は。」
「ぇ、えぇ……!?」
 噂話では聞いたこともなかったような急展開に、思わず目を白黒させてしまう。
 蠢く木陰を縫う様に、『メリーさん』がおもむろに右腕をスッと持ち上げた。
「見つけたら、こう──成敗するよ。」
 鋭い一閃が夜に疾る。一拍遅れて、大人の胴体ほどもある街路樹が、鈍い音と共にゆっくりと倒れ伏した。
「……最近はSNSもやっていてね。何かあったら呟いてくれれば、助けてあげる。」
 そう言って、『メリーさん』は公園の暗闇に姿を消していった。
「な、なに……いまの……?」
 嵐のように過ぎ去っていった、一連の怪異に呆然と呟いて──今更ながらに背筋を撫ぜた寒気に、少女はあわてて公園を後にするのであった。



「おつかれファンちゃん! スッゴイ格好良かったよ!」
「クックック……いやお見事。実に貫禄ある『メリーさん』でしたとも、えぇ」
 公園の裏手。自動販売機が数台並ぶ住宅街の一角に、三つの影が集っていた。
「……誉めてもなにも出ないよ。と言うか、公園の樹を切り倒したのは我ながらやりすぎたかもしれない……」
 眉に皺を寄せて頬を掻くのは、『メリーさん』……否、護刀のヤドリガミであるファン・ティンタン(天津華・f07547)である。なにを隠そう、今回の『メリーさんヒーロー化計画』の蜂起人は彼女であった。
「いーのいーの! 樹には申し訳ないけれど、あれぐらいのインパクトがないとヒーローっぽくないしねっ」
 そう言ってキマイラの少女シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)は、紫紺の瞳を悪戯っぽく緩める。ちなみに『ローカルアヴェンジャー・メリーさん』の設定を担当したのは彼女だ。
「えぇ、早速先程の女の子がツイートしましたねぇ……中々の勢いだ。これは負けてられませんねぇ……」
 くつくつ、と肩を揺らして嗤う黒尽くめの青年は、黒川・闇慈(魔術の探求者・f00672)だ。携帯端末に視線を落とし、闇慈は自分の流した噂の伸び具合を確認する。

『寺生まれ:この間、メリーさんを名乗る不審者から電話がかかってきてな。
 俺:うん。
 寺生まれ:とんでもなくしつこいんだ、これが。
 俺:うん。
 寺生まれ:風呂に入っていようがトイレで用を足していようが、お構いなしにかけてきやがる。
 俺:うん。
 寺生まれ:しまいにゃ『いま貴方の後ろに居るの』とか言いやがった。俺が畳の上で背筋してる時にだ。
 俺:うん。それで?
 寺生まれ:僧帽筋から『破ァ──ッ!!』してやったらな、古びたフランス人形が俺の下敷きになって転がってた。
 ……寺生まれってやっぱりすごい。そう思った。                 』

 内容の割に、そこそこのリツイート数である。
「……こちらも悪くない伸び具合。まだまだあなた達には負けてませんよ? えぇ。」
「対抗神話同士で対抗してどうするのさ……」
 やはり肩を揺らして嗤う闇慈に、ファンが小さく溜息をつく。その隣で画面を覗き込んでいたシャイアが、決意も新たに拳をキュッと握りしめた。
「む、最終的にどっちが多くリツートされたか勝負だからね……こうしちゃいられない、次いくよ、ファンちゃん!」
「……はいはい。」
「クックック、次はオカルトまとめサイトに投稿するとしますかねぇ……」
 年齢も出身もバラバラな三人は、されど賑やかに夜の街を往く。まだ肌寒い三月の夜空には、薄い月が弧を描いて嗤っていた。
「……こんな街中でも、意外と星は見えるものだね。」
「えぇ、今宵は月がそれほど明るくないので、特にそうでしょう……こういう夜は指輪が騒ぎますねぇ……」
 ファンの言葉に闇慈は、死霊を格納した指輪を持ち上げて静かに嗤う。
「まぁ魔術師としては、大気中の魔力濃度が増す満月の方が歓迎ですが。」
「魔術……そういえば」
 パッと何かを思い出したように、シャイアが夜空に視線を向ける。
「魔術の勉強したときに知ったんだけど、確か『内臓に対応する星座』みたいのがあるって聞いたことあるなぁ……今回の事件と、関係あったりするのかな?」
 ハタ、と。ファンと闇慈が足を止めた。
「……ねぇ、シャイア。」
「……あなたもしかして、天才の類ですか?」
「え? えっ?」
 ある種態度の豹変した二人を前にあたふたしつつ、半熟勇者は頬を掻く。
「い、いやぁ、それほどでも──」

「メリーさん、ですよね……?」

 唐突に背後からかけられた声に、三人は同じタイミングで振り向いた。
 幾分やつれた顔をした、二十歳前後の女性がそこにいた。この辺に通う女子大生なのだろうか。携帯を片手に彼女は、怯えに満ちた目でファンに視線を向ける。
「あの、ツイートを見て……さっきこの辺に出没したって、それで……」
 よく見れば、彼女の身体は小刻みに震えている。尋常な様子ではなかった。
「……助けて、くれるんですよね……?」
「え、と──」
 突然のことに、処理が追い付かない。
「もう、三日目なんです」
 女性の眦から、涙が溢れ出す。
「そこにいる『赤い女』を、成敗してくれるんですよね……!?」
 ぞわり、と。三人の背筋が一斉に凍る。背中越しに、何か途轍もなく不吉なモノが出現したのを、三人は肌で感じ取っていた。
「助けて……私、まだ、死にたくないんです──」
 三人が一斉に振り返ると同時。闇を切り裂くエンジン音と強烈なヘッドライトの明かりが、彼らの五感を埋め尽くした。


「参ったぜ……姿かたちの見えねぇもんを追うのが、こーも難しいたぁよ!」
 見えさえすりゃ、殴るなり焼くなりできるんだが。硬い頭髪をガシガシと掻いて、エスタシュ・ロックドア(ブレイジングオービット・f01818)は背後に向かって声を上げる。
「──そう思わねぇか? 嵐!」
「なに言ってるのか全然聴こえねぇよ!」
 エンジンが咆える。マフラーが唸る。エスタシュの愛車たる宇宙バイク『シンディーちゃん』にタンデムする形で、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は夜風に頬を震わせていた。ノーヘルニケツソクドチョーカ。春の交通安全週間に真っ向から喧嘩を売る様に、二人は花撒市の夜を駆けていた。
「──ちょっとスピード出し過ぎじゃねぇか!?」
「あぁ!? なんだって──!?」
「──スピード!! 出し過ぎ!!」
「わーってるって! でもチンタラしてらんねぇだろ!!」
 エスタシュの視線が遥か夜空をなぞる。見れば闇に同化するように、一羽のカラスが花撒市西部に向けて飛んでいく姿があった。『大鴉一唱』──己が内より呼び出した地獄の眷属(鳥類スズメ目カラス科カラアゲ大好きかしまし三十七羽)を使役する、エスタシュのユーベルコード。
 日が落ちてから数時間、街中を彼らに捜索させていたエスタシュは、ようやく『赤い女』の目撃者発見の報告を受け、全速力でバイクを走らせていた。
「……で、まぁ。スピード違反であえなく白バイに取り押さえられてたトコロを嵐に助けてもらったワケだが。」
「──なんだ! なんか言ったか!?」
 誰にともなく独り言ちるエスタシュに、嵐が律義に反応を返す。追っていたカラスの背は、大分近くに迫っていた。
「この辺から速度落とすか……おい嵐、もう声張んなくていいぞ。」
「だったら最初からこの速度でいいじゃねぇか……」
 ようやく落ち着いたシートの上で、嵐がゲンナリしたようにだらんと身を倒す。
「なんかすげー疲れた……」
「ハハッ、疲れてるトコ悪ぃがよ、さっきのアレ、もう一度頼めるか? 事件多発してる最中にこりゃ、サツに見られたら完璧不審者認定されるぜ俺たち。」
 まぁ俺は職質されても構わねぇがよ、という獄卒鬼に若干恨みがましい視線を向けつつ、若き旅人は静かに言の葉を紡ぐ。
「……『冥王の御手よ、闇の帳よ、円環為して我が身を晦ませ』──いと麗しき災禍の指環よ……!」
 瞬間。住宅街を徐行していたバイクが、そのままフッと消失する。
 『いと麗しき災禍の指環(プレシアス・ワン)』──嵐と接触している対象の姿を透明にする、隠密性において特筆すべき効果を発揮する、嵐のユーベルコードであった。白バイに捕まっていたエスタシュを助け出せたのも、このユーベルコードと嵐の機転があってのことだった。
 唯一の欠点を上げるとするならば──
「こりゃアレか、外から見ると何もない道をバイクの駆動音だけが通り過ぎてくわけか」
「そうなる。」
「新しい都市伝説になりそうじゃねぇか……」
「怪奇透明ライダーだな。」
 音までは消せない。
 深夜の街並みを、鬼と旅人はペケペケと走る。頬を切る夜風は、まだ少しだけ冬を携えていた。
「……殺人鬼、つってたな」
「え?」
 前を向いたまま呟いたエスタシュの言葉に、嵐がグイと身体を起こす。
「……いや、丁度サツに捕まってたとき、連中の無線に連絡が入ってよ。確か西部に殺人鬼がどうこう、つってたんだよ」
「殺人鬼……『赤い女』のことか?」
 殺された上に内臓を抜き取られる……ぞっとしねぇなと呟いて、嵐は靡く黒髪を抑える。
「多分な……それが西部に出没してるならビンゴだ。いま俺たちが追ってる『赤い女』の目撃者と、今いるこの地点は完全に一致してる。こりゃ、思ったよりも早く仕事が片付きそうじゃねーか」
「……正直、会いたいか会いたくないかで言ったら、会いたくないけどな、おれは……」
 無数の都市伝説や噂をごちゃ混ぜにして出来上がったソレは、最後はどんな怪物になるのだろう。想像のつかないその脅威に、嵐はブルリとその身を震わせる。
「──そういうワケにもいかねーみてぇだぜ、嵐。腹ァ括れよ」
 バサバサと、けたたましい羽音と共に、先行していたカラスがエスタシュの下へと飛び込んできた。無論、野生下ではなく子分のカラスである。
『ヤバイっす! なんかもう雰囲気がヤバイっす! 赤いのが! ヤバイっす!』
「お前の語彙力の方がヤベーよ! ──おし、捕まってろよ、嵐!!」
「は──ッ!?」
 シンディーちゃんが急加速する。再び顔面に叩きつける強風に集中力が途切れ、透明化があっさり解除された。寝静まった住宅街を、鋼の獣が疾駆する。
「いやがった、アレか──ッ!!」
 前方100メートル、赤い影がぞわりと地面から湧き出すのを、エスタシュは捉えた。
「お、おいエスタシュ、このままじゃ──!」
「おぅ、轢く。」
「マジかよ──ッ!?」
 衝撃に備え、嵐はエスタシュのライダースをグッと握る。
 目標まで、50m、40m、30m、20m、10m────しかし。
 予期していた衝撃は二人を襲うことなく。

 気づけば辺りは、一面の夕焼け色に染まっていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

ペイン・フィン
コードを引き続き使用し、動物変身を継続。
動物たちに話を通して、「赤い服の女」とすれ違った人の見張りを手伝ってもらう。
自分は、3日過ぎそうな人を中心的に護衛するよ。
夜間なら、猫とかが情報を持っていそう、かな。
もちろん、情報収集も、できる分は、しておくけど、
メインは、護衛かな。

主に使用する技能は、情報収集、目立たない、おびき寄せ、変装、第六感、暗視、追跡、礼儀作法、言いくるめ、動物と話す、迷彩、聞き耳。

情報を得つつ、見つからないように、ひっそりと護衛するよ。


ステラ・アルゲン
ふむ、音楽を聞いたというあの女子大生のことが気になります
もしかしたら襲われてしまうかもしれないので、私はその子の護衛をしましょう

カナミさんでしたか。とても楽しいひと時をありがとうございました
お礼といってはなんですが貴方をお送りしましょう

彼女が不安がらないように【コミュ力】と【優しさ】で話しかけつつ帰り道を護衛する。ついでに赤い女についても聞いてみますか。

おや、彼女に何か御用ですか?

もし赤い女が現れたら私に注意が行くように【存在感】を出す
彼女が危険な目に合いそうなら躊躇なく【かばう】
傷を負っても仮初の体ですし【激痛耐性】にて耐える

騎士として何があっても彼女は守り抜きますよ


ユーリ・ヴォルフ
鈴木・志乃と行動
アドリブ共闘歓迎

情報と調査結果を合わせると
狙われるのは『楽器店の店主』?
また凛花が見つけたフランス人形が『メリーさん』か
本体は赤い女が食べたのか?
ゴミ捨て場のガラス玉(眼球)が放置されていたら拾い保護

【SPD】
志乃様と手分けをし『赤い服の女と擦れ違った人』を探す
楽器店の店主に聞き…違うなら再度学校で聞き込みし
(この際情報統合を阻止すべく『メリーさんの電話の噂』をバラまく)
情報共有し該当者が見つかれば護衛する
補導されそうなら志乃様に任せる

『赤い女』は口裂け女か
出会えば「激辛わさびビーフポテチ」を女の口にダンクシュートし
恐怖を与え怯ませる
都市伝説以外にも恐ろしいものは存在するのだ!


鈴木・志乃
ユーリ・ヴォルフ(f07045)と行動
アドリブ連携大歓迎

【SPD】【第六感、見切り】

ユーリの事項の通り
私はバーや居酒屋で赤い女や、赤い女と擦れ違った人の聞き込みを続けよう【コミュ力】
一杯奢ってさ

適宜ユーリと情報共有
合間を縫って13~24歳までの女性に片っ端からメリーさんの演技した電話をかけよう【パフォーマンス】

「あたしメリーさん




ゴミ捨場にいるの」



……赤い女【誘惑】されてくれないかなあ
メリーさんは死なせたくない
都市伝説も私が守りたい意志の一つだからね【祈り】

護衛始まったら【武器受け、見切り、ダッシュ】で凌ぐ
エージェントさん護衛口実とか何とかしてね

…ユーリさんそのポテチよく平気ですね



●第二幕 -3-

「えっ、じゃあ三人とも同じ劇団のお友達さんなんですか?」
 驚いた、と言うよりは納得した、と言った風情の声色であった。高江カナミ──黄昏の音楽会に遭遇したと語る女子大生は、共に繁華街を歩く三人に向かって首を傾げる。
「えぇ。とは言え、こんな風にバッタリ鉢合わせするのも珍しいのですけどね」
 凛とした微笑みを浮かべてそう答えたのは、UDCアースの若者風ファッションに身を包んだ男装の麗人、ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)だ。人混みを往く彼女から滲む『王子様オーラ』に中てられて、好奇の視線を送る女性も少なくはない。
「いやー、やたらと目立つイケメンが歩いてるんでステラさんかなー、と思ったら案の定だったんすよ。しかも女の子同伴ときた……やりますねーこのこの!」
 マーガレットの花が揺れる。ケラケラと笑いつつ街を躍るように往くのは、スタイリッシュな身のこなしが目を惹く女性──鈴木・志乃(ツインクル・f12101)。その実、ダンスに歌唱に舞台演劇、動画配信と、日々アクティブに活動する凄腕のパフォーマーである。
「ステラ様と同じくらい、志乃様も目立ちますけどね。おかげで遠目からでもすぐに分かりました。このような時間帯に出会うとは思いませんでしたが──」
 偶然偶然。真面目な顔でうんうんと頷くのは、遠野侑里……本名ユーリ・ヴォルフ(叛逆の炎・f07045)である。昼間に引き続き高校の制服に身を包み、目立つ赤髪を黒に染めカラーコンタクトで紅玉の瞳を隠してはいたが、素がキリリとした美丈夫ゆえに彼もまた、少なからず人目を惹いていた。
「なるほど……道理で芸能人みたいだなと思いました。皆さん役者さんだったんですね」
 得心がいったように羨望の眼差しを向ける高江カナミの言葉に、三人は静かに視線を交わす。
 嘘も方便、実際は都市伝説に巻き込まれた被害者を捜していた志乃とユーリに、UDC局員伝手にステラから連絡が入ったのであった。今や『赤い女』の噂に統合されてしまった『黄昏の音楽会』に遭遇してしまった彼女の護衛、及び『赤い女』誘因のため、三人は即興で作り上げた設定の下に彼女を自宅まで送り届けている最中なのである。
「げ、芸能人? 私はどこにでもいるごく普通の学生ですが……そんなに目立っているでしょうか……?」
「……えぇ、まぁ。実際目立ってるんじゃないでしょうか……いや、主にユーリ殿の持ってる『ソレ』のせいだと思いますが……」
 よもや変装に不備があっただろうか──。眉をひそめて考え込むユーリに、ステラがどこか引き攣った顔で彼の左手に碧眼を向ける。

 ポテトチップスの袋であった。 

 しかしてその袋から放たれる強烈な刺激臭に、ギョッとした顔で振り向く通行人の多いこと多いこと。なんというか、こう……ツンと辛い。鼻腔から脳髄をレイピアで直接突き上げるような、そんな臭いである。
 『激辛わさびビーフポテチ』……断じて美少年が持っていて良いアイテムではない。
「ユーリさんそのポテチよく平気ですね……私はダメでした。出来れば二度と食べたくない。」
 ゲンナリとした表情で毒々しいパッケージを眺めつつ、志乃が顔を顰める。以前どこかで食べたことがあるらしい。
「美味しいのに……」
 どこか寂し気な様子でそう呟いて、少年はまた一枚、ポテチを口に運んだ。

 賑やかな繁華街を抜けると、途端に静けさに充ちた住宅街が姿を現した。それもそうだろう、時刻にして既に零時を回っている。
「しかし大変ですねーカナミさん、『黄昏の音楽会』に行き会っちゃうなんて。最近はただでさえ物騒なのに、変な噂まで五萬と流れてるじゃないですか。」
「はい……先ほども友人から連絡があって、変な電話があったって……『メリーさん』から電話があったとか──」
 不安そうな表情のカナミに、志乃は内心で「アチャー」と額を抑えた。『赤い女』への統合阻止のため、『メリーさん』を騙って片っ端から若い女性に電話を入れていたのだが、どうもその中に彼女の知り合いもいたらしい。
「どうかご心配なさらず、カナミさん。ちゃんと私たちが家まで送り届けますから……!」
 真剣な顔でそうフォローを入れるユーリに同調して、ステラも隣で力強く頷く。
「えぇ、何が出てこようと貴女には指一本触れさせはしませんとも。例え『赤い女』が目の前に現われたとしても、ね。」
 努めて優しく、不安を与えないように話を切り出したステラに、しかし高江カナミはビクリと肩を震わせる。そのキーワードに対して、明らかな怯えの感情を彼女は示した。
「……どうかしました? カナミさん」
 顔を覗き込む志乃に、カナミは「実は……」と口を開く。
「その、『黄昏の音楽会』に出会うより前から、赤い服の人に付き纏われていて……」
「えっ──」
 目を丸くした三人に、彼女は重苦しい表情のまま言葉を続ける。
「もう、二か月近くです。こうして帰りが遅くなった日、視線を感じて振り向くと──」
 陰に隠れる様にして、赤い人がジッと見てるんです。
 彼女の言葉に言いようのない気味の悪さを感じて、ユーリはゆっくりと振り向いた。深夜の住宅街。暗い夜道に点々と並んだ街灯が、どこか陰鬱な影を落としている。思わず、立ち止まった。
「……志乃様、ステラ様」
 ユーリの声が、俄かに緊張を帯びる。

「……居た。」

 ガバリと振り向く志乃とステラ。立ち止まったユーリの視線の先、目測にして20メートル前方の電信柱の陰に、赤い影が──凝るように四人を見つめていた。



(やっぱり、ステラだ)
 三人の猟兵に護衛された女性を追い、白くて細長い生き物──オコジョ(に似たナニカ)は街の陰を縫って走る。当然ながら、野生のオコジョではない。彼の名はペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)、猟兵である。
 この街の動物界隈で最も事情通な古鴉から情報を仕入れた彼は、引き続き街の動物たちから情報収集しつつ、『赤い女』からの襲撃率が最も高そうな対象の護衛を新たに開始していた。
(四丁目の、三毛猫さん、ウソついてなかった)
 内心ホッとしつつ、ペインは街路樹をスルスルと登る。西部を飛び回っていたカラスたちの喧しさにも手は焼いたが、話を聞き出すうえで時間がかかったのは、間違いなくあの三毛猫だったと断言できる。
 情報を開示するにあたって彼女の提示した条件『数年前に精算終了したプレミアものの猫缶を持ってこい』をクリアするため、全身全霊をかけて街中のペットショップを探し回ったペインの努力は、称賛されて然るべきものであろう。
 結果的にこんな時間になってしまったが、『いやホントに持ってきたのアナタ!?』と驚嘆しながらも教えてくれた彼女の情報は、どうやら真実のようであった。
(ステラたちが護衛してる、あの女性──相当、危ないみたい、だね)
 街路樹から街路樹へと、みょーんと身体を伸ばして飛び移る。カサリとゆれた梢に、酔っぱらいのサラリーマンが怪訝な顔を向けた。
(このまま、バレないように、護衛、しよう)
 住宅街に入る。出来るだけ身体を平たくして、ブロック塀の上を走る。夜風はまだまだ冷たいが、全身を覆う毛のおかげで寒さはそこまで感じない。庭先に咲いた梅の花を横目に、ヒョイと民家の雨どいを伝う。
 今のところは異常ナシ。しかし動物に変身したことで強化されたペインの第六感がヒシヒシと、夜の軋む感覚を伝えていた。確実に、何かが起こる。
 スルリと屋根の上に登って、追跡を続ける。やはり高い場所の方が見張りもしやすい。──と。
(──!)
 眼下の四人が通り過ぎた路地裏からゆらりと、赤い影が姿を現したのをペインは発見する。すぐさま電信柱の陰に移動して様子をうかがう赤い影に、飛びかかろうと身構えた瞬間であった。
(なっ──!?)
 振り向いた四人の背後でずるりと伸びあがった赤い影に、ペインは思わず目を見開いた。



「ユーリさん!」
「はい!」
 黒いシューズと卸たてのローファーが、猛烈な勢いでアスファルトを蹴った。ビクリと肩を震わせた赤い影へと、志乃、そしてユーリがポテチ片手に突貫する。
「覚悟しろ、『赤い女』!」
「都市伝説以外にも恐ろしいものが存在事実を、思い知るがいい──!」
 軽く逃げ腰で身を引いた赤い影に、二人が容赦なく迫る。
 赤いコート。黒い長髪。顔を覆うような大きなマスク。間違いない、コイツは──
「口裂け女!」
 夜を裂いて、志乃の右手がその顔面へと疾る。鮮やかな手並みでマスクを剥ぎ取り転身した志乃の陰から、激物たる『激辛わさびビーフポテチ』を握りしめたユーリの右手が、驚愕に開いた赤い影の口内へと間髪入れずに叩き込まれた。

「むぐっ!? ぐああああああああああああああああああああああああ!?」

 しかして夜の住宅街に響き渡った、女性のモノとは思えない野太い絶叫に、志乃とユーリは呆気に取られて視線を向ける。
「かかっかかっかかっ、辛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアィ!!」
 アスファルトの上に倒れ、のたうち回りながら悶え苦しんでいるのは──お世辞にも綺麗とは言えない女装をした、中年のおっさんであった。
「──は?」
「こ、これは、一体──」
「あっ……こ、この人! 私が通学中してるとき、よくニタニタ笑って手を振ってくるおじさんです──!」
「はぁ!?」
 半ば呆然とした様子で、高江カナミは指をさす。驚愕の事実と共に明かされた口裂け女の正体に、志乃もユーリも口をパクパクさせる他なかった。
「じゃ、じゃあ、コイツは単なるストーカーで──」
「──志乃殿! ユーリ殿っ!」
 突如背後で上がった警戒の声に、慌てて二人が振り向く。切迫した様子のステラの目の前に、背後でのたうち回る変態とは別の赤い影が、いつの間にか佇んでいた。
 赤い影の肩が、くつくつと震える。黒い長髪の下、狂気に満ちた細い瞳が、弧を描いて嗤っているのが見えた。

『──ねぇ。私、綺麗?』

 瞬間──空間の捻れる感覚が、その場に居る全員を襲った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

現夜・氷兎
折紙くん(f14904)と合同調査。縁は大事だよ、彼はもう声を聞いてるみたいだしね。

"赤い女"が何から発生した話か割り出せれば、メリーさんの噂と原典の明確に異なる話として分断出来るかもしれない。
何処の世界でも一番恐ろしいのは生者かもね。

折紙くんには"赤い女"の目撃及び殺害の現場を調べて欲しいな。
各現場と失われた臓器、死亡時刻等から共通点を出し、【世界知識】に昼間に加えて更にネット上からも【情報収集】と整理、それらから犯人を割り出そう。
僕自身行動に支障が無いよう【暗視】は怠らず。もしかすると【第六感】が役立つこともあるかもしれないよ。

腹パンは別に。したいの?
でもすれ違えたら面白そうだね。


矢来・夕立
鬼の人(f15801)と合同調査。
図書館でお会いしたのも何かの縁でしょう。

“赤い女”について調べます。
アーキタイプが分かれば対策も立てられそうです。
『殺人鬼』とかじゃないですか?人間が一番怖い系の話。

人目を避けるため【忍び足】
【暗視】と【聞き耳】で物理的な調査を担当します。
調べる場所は鬼の人の指示に従う。

【式紙・導紙】も呼んでおきましょうか。
移動限界ギリギリまで飛ばして探索範囲を広げます。

運良く見つけたら本当に腹パンしてみます?
鬼の人、やりたそうな顔してますね。
オレですか?結構です。

……接触はしてみましょうか。
大元がアレならお綺麗ですね、とか言ってみます。
何かあったら任せましたよ、鬼の人。


大河・回
色々混ざった都市伝説ね、とりあえず調べてみるか。

夜間だと外見的に見とがめられる可能性があるな
ネット喫茶に身を隠して赤い服の女の情報を集めるか
アーキタイプについて調べよう
かつてあった事件について警察にハッキングをかけたりネット上の情報を調べよう
アーキタイプとなった事件が特定できれば敵の目的やどこに出現するかが分かるかもしれないからな

※アドリブ、絡み歓迎



●第二幕 -4-

 カタカタカタ、と。キーボードを叩く音が店内に響く。
 薄暗い照明。空調の効いた空間。ゆったりとした音楽。ともすればこの街で起こっている異変など、忘れて怠惰に耽ってしまうような──快適と言う名の毒に充ちた空間で、境目の研究者、現夜・氷兎(白昼夢・f15801)は黙々とパソコンの画面に向かっていた。
 ネットカフェのオープンスペースである。もう深夜もいいところだが、氷兎のように作業を続ける学生の姿も少なくない。大学のレポート作成に追われているのだろう。
「……『赤い女』ね。」
 検索結果から弾き出された膨大なページ数を眺めて、氷兎は静かに目を閉じる。
 ここまで収集してきた『赤い女』に関する情報は、どうやらとんでもなくノイズに満ちたモノのようであった。それもその筈、他の猟兵から伝え聞いた情報によれば、この『赤い女』の噂はこの街に蔓延る都市伝説を軒並み吸収して巨大化しているらしい。尾ひれこそが実体を形作る都市伝説であればこそ、他の噂を統合すればするほど原型から遠ざかっていくのは、最早自明の理であった。
「──おのれを飾り立てれば飾り立てるほど、流行りを追いかければ追いかけるほど、元の自分を見失う。結局噂と言うのは……ヒトの有り様の表出なんだろうね。」
 それもまた、ヒトカケラに過ぎないけれども。誰にともなく独り言ちて、氷兎は小さく微笑む。手元に広げたメモ帳には、既にかなりの数の都市伝説が事細かに書き込まれていた。『赤い女』に統合された都市伝説の分離。気の遠くなるような作業を、この学者肌の青年はやってのけていたのである。
「まぁ、丸裸にしてみて分かったけれど──」
「一年前のバラバラ殺人。どう考えても無関係ではないね?」
「うん、その通り。恐らくだけれど、『赤い女』の噂は、一年前のこの事件を下敷きにして生まれている。」
「成程なるほど。すると必然、調べるべきは警察のデータベースなんかも視野に入ってくるワケか」
「そうなるね。奪い去られた臓器や体の部位、そこから共通点を見いだせればいいのだけれど……ところで誰だい、キミ?」
 もはや常習化している独り言に、あまりにも違和感なく入り込んできた声の主へと、氷兎は漆黒の瞳を向ける。
「ふふ、よくぞ聞いてくれた! この私は世界征服を企む悪の組織『デスペア』情報戦担当幹部! プロフェッサァァァァァァァァァTッ!!」
 氷兎の隣の席から立ち上がるや否や、カッコヨク(本人評価)名乗りを上げたのは、上記の設定を語るバーチャルキャラクターの少女、大河・回(プロフェッサーT・f12917)であった。
「ボリューム、ボリューム」
「……あぁ、スマン。」
 そこらかしこで一斉に上がる咳払いに気まずそうな顔をして、氷兎が両手で抑えるジェスチャーをする。ストン、と座りなおした回はキーボードをカタカタカタ、ターンッ!と叩いて、おもむろに口を開いた。
「と、言うわけで。警察のデータベースにハッキングを仕掛けてみた。」
「えぇ……なんだいその異様な行動力は」
「まぁほら、情報戦担当幹部だからね。腕の見せ所だろう?」
「そうだね。」
 なんかもう色々とブン投げた氷兎の生返事に、しかし回はニヤリと嗤う。
「……内臓を抜き取られる、というインパクトが強すぎて霞んじゃいるが、この花撒市ではここ一年間にわたって変死事件が頻発してる。全国的にマスコミが騒ぎ出さないのが不思議なくらいさ。」
「……あぁ、それなら何となく理由に察しはついてるよ」
「──へぇ。その心は?」
「まず間違いなく都市伝説が原因だね。真実を覆い隠すほどに噂が流布されているせいで、世間も住民も危機感を覚えづらくなっているみたいだ。事実、一年前の連続バラバラ殺人の際は『足もぎ婆さん』や『手足売り』、『スネカジリ』の噂が凄い勢いで広まってる」
「よく調べてるね──! で、だ。一年以内に起きた『身体の一部を持ち去られる』変死事件を調べると、こんな結果になった。」
 回が指さす画面を覗き込むと、日付・場所と共に事件の概要が纏めてある。
「……信じられないな、20件もこんな事件が起きてるのか。」
「私もビックリだよ。よくもまぁ、ここまで『目立ちながら目立たずに』やってこれたものだ」
「法則性は──」
「それがどうにもなさそうでね。困ってるんだよ」
 確かに、全ての事件を総括して地図上に当てはめてみても、日時・場所ともに法則性らしいものが見えてこない──が。
「……いや。『ノイズ』だ」
「なんだって?」
 一発で何かを看破した氷兎の顔を、情報戦担当幹部は驚いたように見つめる。
「いや、ここまで都市伝説のノイズを取り除いてたから何となく、ね。たとえば一年前の最初の事件、持ち去られたのは『眼球』だ。一方その次は右脚。その次は頭部。その次が『喉部』で、その次はまた右脚。」
「……身体のパーツの、さらに特定の部位を持ち去っている事件がある?」
「うん。逆に言えば、それ以外はノイズと断定してもよさそうだ。するとピックアップすべき事件は──」
「四月の『眼球』からはじまって、五月の『喉部』、六月の『右肩』、七月の『胃』、八月の『心臓』、九月の『小腸』、十月の『腎臓』、十一月の『性器』、十二月の『肝臓』、一月の『膝』、二月の『くるぶし』……本当だ。ノイズに紛れてはいるが、30日周期で法則的に持ち去られてる部位があるね」
「うん。ここまで来たら、魔術を齧っていれば誰でも分かる。『黄道十二宮星座』に対応した時期と方角で、事件は起こってる」
「だとしたら、次は──」
「うお座に対応する方角だろうね。さて……」
 おもむろに携帯電話を取り出して耳にあてる氷兎に、回はキョトンとした目を向ける。
「誰だい?」
「実働隊さ。縁は大事にしないとね」
 呼び出し音が鳴る。鳴り続ける。

 出ない。



「…………。」
 ズボン越しに感じる、携帯のバイブレーション。伸ばしきった手で漸く『ソレ』を捕まえて、矢来・夕立(影・f14904)はアスファルトから身を起こした。
「……強敵かよ。」
 若干フラりとよろけて、少年はポケットから携帯電を取り出す。着信は続いていた。
「…………。」
 通話ボタンに、指をかける。
「……僕ですけど。」
『だ、大丈夫ですか折紙くん!? 何か異変でも──』
 珍しく焦った様子の友人の声に、思わず受話器から耳を遠ざける。激闘の末に掴み取ったソレを指先でくるりと回して──自販機に投入した。
「大丈夫ですよ、鬼の人。意外とバリアフリーがなってないなと、現代社会に憤りを感じていただけなんで。」
『──?』
 要約すると。
「……自販機の下って何でこんなに狭いんですかね。」
 ガコン、という音と共に、落とした100円玉が缶コーヒーに変わる。
「で、何か分かりましたか」
『うん? あぁ、それなんだけど──』
 一年もの長い期間、続けられてきた『身体の特定部位を持ち去る』連続殺人事件。その犯人は依然として捕まっていない事、そして次に『赤い女』が出現するであろう区域の情報。短時間でこれだけ調べ上げた友人を、本来は賞賛すべきなのだろう。
「ふぅん、ますますキナ臭いですね。まるでB級サスペンス映画だ」
 トトン、とステップを踏む。シュッと、夜気の裂ける音がした。
「……で。本当に腹パンしておきます? 鬼の人。やりたそうな顔してるじゃないですか」
『……電話越しでどうして僕の顔が分かるんだい。別にいいよ、僕は。したいの?』
「オレですか? 結構です。」
 おもむろに右の拳を突き出した。
『……とりあえず、僕たちも合流する。今どこだい?』
「ちょうど、あなたが当りをつけた場所ですよ、鬼の人。導紙をそっちに向かわせてるんで、とっとと来ちゃってください。」
 クルリと飛んで、自販機の上に着地する。
「──何かあったら任せましたよ、鬼の人。」
 通話を、切った。

「……どうして避けるんですか、腹パン。」

 携帯電話をポケットに捻り込んで、夕立は眼下の赤い影と対峙する。大きなマスクに隠されてはいたが、その下でニタニタと嗤っているのが想像できる目つきで、『赤い女』は夕立を見上げていた。
『……ねぇ、私──綺麗?』
「お綺麗ですね」
 ウソだけど。
 シャキリシャキリと、錆びついた鋏が哄笑を上げる。
『うそつき』
 缶コーヒーのプルを開けて、口をつけた。

「苦ぇな……」

 黄昏が、押し寄せてきた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

彩瑠・姫桜
POW
都市伝説『赤い女』との接触を試みたいわ

都市伝説を目撃させるのは呪詛型UDCの標的を定めるためかもしれないけど
狩りの効率を上げるなら標的は一人じゃなくて複数になると思う
だから私もそういう対象になって囮役ができるようにしておきたいのよね

あと、『赤い女』が本当に悪い都市伝説なのかも気になるしね
もしかしたら彼女だって怯えてるかもしれないもの

目撃場所=遭遇場所にはならなくとも
都市伝説の目撃者アヤコさんから場所を聞けるなら
深夜にその近隣を歩いてみるわ
周囲観察し何かしらの情報は得たいわね

アヤコさんに関係者、『赤い女』に対しても会話できる相手なら
【コミュ力】【優しさ】【第六感】で【情報取集】を試みるわね


三原・凛花
あのフランス人形…
あれが統合されかかっているっていう『メリーさん』だったのかな?
何にせよ、あの娘は私に助けを求めていた。
ボロボロになって助けを求めていたあの娘…
とても他人とは思えないしね。

【愛し子召喚】で娘を呼んで、メリーさん?の遺した『ガラス玉』に憑依させる。
そして『ガラス玉』に封じ込められた残留思念の【封印を解く】ことで、彼女の記憶を読み取らせるよ。
その後娘を私自身に憑依させて記憶を共有し、そこで得た手掛かりをヒントに『メリーさん』を探してみるね。
【手をつなぐ】ように、『ガラス玉』を握り締めながら…

もしメリーさんが無事蘇ってこの事件が終わったら…
その時は彼女を女子会に誘ってみようかな。


ガルディエ・ワールレイド
俺を名指し(ID付き)で追う猟兵がいれば合流

◆方針
都市伝説について興味津々な若者って感じ行動だ
赤い女を探索がてら夜の街を歩き回り、色んな奴に話しかけて噂を流す
噂がメインで、赤い女は俺の行動を目障りと思って出てくれば御の字程度

流す噂は2つ
「黄昏の音楽会なんて、どっかのおっさんがこっそり音楽の練習してたんじゃねぇのか」
「メリーさんってのはどんな状況でも相手を追っていくんだろ? じゃあ閉じ込める事なんて出来ねぇよな」
都市伝説の内容に干渉を試みるぜ
赤い女は音楽会を取り込んだ事でメリーさんを捕まえる能力を持ったような気がするんだが……さて

赤い女と遭遇すれば前に出て《おびき寄せ》俺が標的になろうとする



●第二幕 -5-

「でさー、ダチが聴いちまったワケよ、黄昏の音楽会を……!」
「まーた始まったよコイツのホラ話」
「すーぐホラ吹くかんなオマエは」
「ホ、ホラじゃねーしホラーだし!」
 ドッと沸く少年たちの声に混じって、誘蛾灯がパチリと小さな音を立てる。
 深夜のコンビニ前。健全な青少年が起きている時間ではないが、些かガラの悪い少年が数人たむろしていた。その中でも一際目立つ体格の少年が、腕組みしながら口を開いた。
「──ハッ、黄昏の音楽会なんて、どっかのおっさんがこっそり音楽の練習してたんじゃねぇのか? 音楽やってるヤツの間じゃ、公然の秘密らしいぜ」
 バカバカしい、と少年──ガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)は、八重歯をチラリと覗かせて笑う。その18とは思えぬカリスマ性が非行少年たちにウケたのか、この少年はアチコチの不良グループで妙な尊敬の眼差しと共に受け入れられていた。
「あー、その説オレも聴いたことありますわ」
「だろ。ワリとマジらしいぜ、この話。」
「そりゃないッスよガルさん……」
「真相ってのは、往々にしてしょっぱいモンなんだよ……と、俺はそろそろ行くぜ。じゃあな」
「お疲れッス!」
「お疲れさっしたー!」
 右手を挙げて、コンビニを後にする。『黄昏の音楽会』を弱体化させるため、ガルディエはこの手のグループに片っ端から声をかけて回っていた。楽器店の店長には申し訳ないが、人の命と一個人の不名誉……天秤にかけるまでもない。
「あとは……メリーさんか。」
 既に統合されてしまった『黄昏の音楽会』はともかく、瀬戸際で踏みとどまっているメリーさんの噂はまだ改編の余地がある。メリーさんの本体の居場所は庸として掴めないが、『黄昏の音楽会』を統合したことで、『赤い女』が対象を異空間に捉える能力を得ている以上、既にメリーさんが捕捉されている場合も考慮すべきだろう。
「どこに居る、メリーさん」
 瞳を眇めて夜を歩く。

 Rrrrrrr...

 どこからか、着信音が聴こえてきた。



 コツ、コツ、コツ、と。
 硬い靴音が、深夜の街に響く。
 青い瞳を鋭く走らせながら、ダンピールの少女、彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は人気のない夜道を歩いていた。
(アヤコさんの話だと、この辺で『赤い女』を目撃したのよね……)
 夕方の雑貨店で、関係者とコンタクトを取ってから数時間。『赤い女』の目撃者から運良く話を聞くことができた姫桜は、自ら囮となって『赤い女』が出現したとされる場所を周っていた。

『──私だけじゃなくって、他にも同じ場所で見たって人が何人か居るんです。』

 青い顔で携帯の画面を見せてきた、少女の言葉を思い出す。
 ネット上に寄せられた目撃談のため信憑性に疑問は残るが、敢えて鵜呑みにするのであれば、最低でも五人の人間がこの場所で『赤い女』を目撃していることになる。はたして分母が分からない以上、その『五人』という数字が多いのか少ないのか判断はつき辛いが、同一の場所という点を加味すると十二分に多いのではないかと姫桜は思っていた。
 狩りの効率を上げるのであれば、標的は一人じゃなくて複数だろう。故に自分自身を使っての囮捜査である。
「……でも」
 ポツリと、言葉が口をつく。
 運良く──否、運悪く『赤い女』に遭遇できたとして、間髪入れずに串刺しに出来るかと聞かれれば、答えはノーであった。
 報告によれば、『赤い女』に統合されかけているメリーさんの噂は、自身が吸収され消滅することに怯え、助けすら求めたという。で、あれば──
「……例の『赤い女』だって、何かに怯えているかもしれない。少なくとも……」
 少なくとも。相手の性質も見極めないままに敵対するのは、ましてや命のやり取りをするのは、自分の流儀ではない。何をするにしても、言葉を交わしてからにしよう。
 不器用で人見知り故に誤解されることも多いが、彩瑠・姫桜とは即ち、そういう少女であった。
「……ん?」

 Rrrrrrr...

 どこからか、着信音が聴こえる。



 酷いノイズが、視界を埋め尽くしている。
 後ろ姿ばかりを見ていた。
 彼は、彼女は、一様に電話を耳に当てている。『私』はその背中に、ゆっくりと忍び寄る。携えた鋏が嗤う。うなじに刃を当てがって、『私』は耳元でこう囁くのだ。
「──今、あなたの後ろにいるの」
 振り向いた彼の、彼女の、恐怖と絶望に満ちた表情を切り取るために、『私』はゆっくり鋏を閉じる。これが『私』だ。そうあれと、そういうものだと定められた、『私』のカタチ。
 だから。
 どうして私はこんなところにいるのだろうと、そう思う。
 誰かをどこまでも追い続けるのが『私』なのに。
 誰かを完膚なきまでに追い詰めるのは『私』のはずなのに。
 どうして『私』は、こんな場所に追い詰められているのだろう。
 ノイズがいよいよ酷くなる。

『──フフン、そこなら安全さ。アレが手を出してくることもない。ま、キミはどこにも行けないけれどね』

 アイツが嗤う。嗚呼、誰か。誰か──『私』を見つけて。このまま朽ちてゆくならいっそ、喰われてしまうのならいっそ、誰か、『私』を、壊して──。

「────っ!!」
 手をつなぐようにガラス玉を握り締めて、死霊術師たる三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)は黒目がちな瞳を大きく見開いた。
 路地裏を後にしてから数時間。崩れ落ちた人形の残したガラス玉に『愛し子召喚』で娘の霊を憑依させ、記憶を読み取らせた凛花は、ノイズ塗れの残留思念から、漸く手掛かりとなり得る情報を引き摺り出すことに成功していた。
「……あの娘、私に助けを求めてた」
 ポツリと呟く。
 ボロボロになっても救いに手を伸ばす人形が、なんだか他人に思えなかった。もう一度力強くガラス玉を握り締めて、凛花は読み取った情報を元に歩き始める。彼女を捜すために。伸ばされた手を──掴むために。



 携帯が、鳴っている。
「なによ、これ──」
 路地裏にぽっかりと浮かび上がったその光景に、姫桜は思わずそう呟いた。
 街の一角。老朽化して放置された廃ビルに四方を囲まれた、四つ辻の如き奇妙な空間。その中心で、何世代前のモデルかも不明な古びた携帯電話が、甲高い着信音を上げていた。
 奇妙なのは携帯電話を囲むようにして、口を空けた小さな缶と琥珀色の小さな粒が、幾何学模様状に無数に配置されている事だった。携帯電話の画面から漏れる僅かな明かりが、缶のパッケージに書かれた『pomade』の文字をぼんやりと映し出している。
「うわ何だこりゃ──って、姫桜じゃねぇか! なにやってんだこんな場所で」
「ガ──ガルディエさん!?」
 姫桜とは反対方向の路地から、ガルディエがぬっと長身を露にする。
「──奇遇だね、二人とも。」
 ギョッとした様子で声のした方向の路地に二人が目を向けると、ガラス玉片手に凛花が姿を現すところであった。
 携帯が、鳴っている。
「……ね、ねぇ、これって──」
「あぁ、メリーさんの本体、だよな」
「えぇ。残留思念から読み取った最後の光景が、この場所だった。」
 居並ぶポマードの缶を避けながら、凛花が一歩足を踏み出す。
「こりゃ……結界か。『赤い女』──いや、口裂け女に対する……」
 顎に手を当てて、ガルディエが目を細める。メリーさんは囚われていたわけではなく、この最後の砦から動くことが出来なかったのだろう。
「……なるほど。確かポマードって、口裂け女が苦手なものだったわよね。でも、だったら──」
 屈みこんで、姫桜はポマードの間に並べられた琥珀色の粒──ベッコウ飴に目を寄せる。
「どうして口裂け女の好物までここにあるのかしら」
「この結界を作った人は、相当に性格が悪いってことだろうね……」
 スッと伸ばした凛花の手が、鳴り続いていた携帯の着信ボタンを押した。
「……もしもし。」

『────早、ク、』

 ノイズが酷い。途切れ途切れの音声は、それでも必死に意味を紡いだ。
『逃ゲ、テ……気ヅカレ、タ……!』
「気づかれた、だと……?」
 ガルディエが眉間に皺を寄せると同時。底冷えのするような気配が、四つ辻の最期の通路から迫ってくるのを、三人は肌で理解した。

『私──綺麗?』

 赤い影がぽっかりと浮かび上がる。その歪んだ瞳を目にした瞬間、彩瑠・姫桜は言葉を交わすまでもなく理解した。これは駄目だ。言葉など到底通じない。狂気と汚濁、なにより他者を害する愉悦に満ちている……!

 廃ビルに切り取られた夜空がゆっくりと、茜色に染まっていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

メタ・フレン
他の噂を取り込んで強大化していくUDC…
なら逆に今まで取り込んだ噂を無理やり分離させて弱体化させることは可能でしょうか?
取り込まれた噂を強化、復活させ、『赤い女』の噂からの分離を試みます。

①怪奇系サイトを見まくって、【情報収集、学習力】で人気の怪談や都市伝説の傾向を把握。
②黄昏の音楽会、ソデヒキサマ、三輪車のアカネちゃん等の統合されてしまった都市伝説に、私なりの脚色や尾ひれを加えて作り直す。
③【暗号作成】で作った拡散botで、作り直した都市伝説をSNSに拡散し、廃れた噂を再興させる。

いっそ【バトルキャラクターズ】でホラゲーの怪物を出して夜の街を徘徊させれば、勝手に新しい噂になってるかも…


雨乃森・依音
……ぶっちゃ俺、怖い話とか苦手なんだよな
夜に調査とかぜってー出るだろ
まあ、ここまで関わっちまったんだから仕方ねぇ
――やるか

とは言え俺まだ未成年だし、この時間だと大手を振って出歩くのも難しそうだ
ってことで近場のファストフード店にでも入ってスマホを弄る
開くのは各種SNS
赤い女の噂を調査しつつ一番盛んにやり取りされている場所を見つけて
噂が発生源なら俺が新しい噂を流してやるよ
要はメリーさんを赤い女に統合されないように追い出せばいいんだろ?

「新情報!
『メリーさんの電話』のメリーさんは赤い女が大嫌い!
ついに嫌気が差して花撒市を出ていったとさ」

こんな感じの噂を新しく流してやろう
そして出来うる限り拡散、拡散だ


空雷・闘真
闘真は『赤い女』の原型である『口裂け女』について調べ始めた。
尤も実際に調べるのは、昼間に壊滅させた空手道場の門下生達だが。
あの後【医術】【救助活動】で応急処置したのと引き換えに、闘真は彼らに調査を命令…もとい依頼したのである。

道場内にちらばり、スマホやパソコンで必死に情報収集する門下生達を尻目に、闘真は思案する。

(口裂け女は俺もよく知ってる。実在するなら是非戦ってみたいと昔から思っていた。だが何故今更そんな古い噂が?)

そこにきて闘真は一つの仮説に至る。

(裏で噂を操ってる奴がいる_?)

闘真は門下生達に告げる。

「口裂け女の噂の出所を調べろ。もし噂を人為的に流してる奴がいるなら…そいつが黒幕だ!」



●第二幕 -6-

 深夜のファーストフード店は、意外と繁盛しているものだ。
 終電を逃した学生や、ノートパソコンを持ち込んで徹夜の作業をするサラリーマン、家に帰らず夜通し馬鹿話に花を咲かせる不良少年少女等々、そこそこの規模の街ではどこでも見ることの出来る光景が、この花撒市のファーストフード店にも広がっている。
 故に。
「夜に調査とか、ぜってー出るだろ」
 携帯片手にカウンター席に腰掛ける白髪の少年、雨乃森・依音(紫雨・f00642)もまた、この街の夜に上手い事溶け込んでいた。
「……ぶっちゃけ怖い話とか苦手なんだよなぁ。ハンパにリアルだと尚更気味が悪ィしよ」
 ズズズーと、飲みかけのコーラをストローで啜りながら独り愚痴る。ここまで関わった以上、やるしかねぇだろと割り切っちゃいるのだが……イマイチ乗り気ではないのもまた、確かな事実なのであった。

「──へぇ、意外。パッと見こわいものナシに見えるのになぁ、キミ。『ロックンローラーは恐れない』的な?」

「あ?」
 唐突にかけられた言葉に視線を向ける。いつの間にやら隣の席に、見知らぬ青年が座ってハンバーガーを齧っていた。
「ハハ、そう睨まないでくれよ畏いなぁ。僕は率直な感想を述べただけだよ」
 柔和な笑みを浮かべて、青年はヒラヒラと両手を振る。なんだか妙に調子を狂わされて、依音は小さく頬を掻いた。
「……別に俺はロック専門ってわけじゃねーし。苦手なモンは苦手なんだよ、文句あっか」
「うん? ないよ、ないない。恐怖というのはヒトの根底にある感情だからね。否定できるはずもないさ」
 オレンジジュースを啜りながら、青年は片目を瞑る。
「──だからこそ、ヒトは怪談に、都市伝説に、噂に、惹き付けられるのだろうね。」
 妙に状況を見透かしたようなその言葉に、依音は思わず紫陽花の瞳を眇める。
「……ナニモンだ、お前。」
「名乗るほどの者じゃないさ……。あー、これ一度言ってみたかったんだよね!」
「お前さては人の話聞かねータイプだな……」
 妙に嬉しそうな顔でケラケラ笑う青年に溜息をついて、依音は携帯に目を落とす。
 ……こんな変人に構っているヒマはない。各種SNSを開くや否や、花撒市の都市伝説でヒットした場所に次々と新しい噂を投下してゆく。

 『新情報!『メリーさんの電話』のメリーさんは赤い女が大嫌い!ついに嫌気が差して花撒市を出ていったとさ』

 書き込む。とにかく書き込む。拡散させるにもまず、一定期間人の目に触れるようにしておかなくては。
「……うーん、大々的に広めるなら、もう少しリアリティが欲しいなぁ。ほら、例えばメリーさんの元の持ち主は『赤い女』に殺されました、とか。ストーリー性があれば尚良しだね」
「おわ!? テメ、勝手に携帯覘くなっての! つーか、なんでお前にダメ出しされなきゃなんねーんだよ!」
「アハハごめんごめん! いやぁ、こう見えて噂の広め方には一家言あるからさ、僕。」
「知らねーよ余所でやれ、余所で!」
 クツクツと肩を揺らして笑う青年から目を逸らし、依音は作業を続行する。

「フフン、つれないなぁ。……嗚呼、そういえばキミ。こんな噂、知ってるかい?」



 ところ変わって、さる有名空手団体の花撒支部。
 開け放たれた門前を通りかかったサラリーマンが、首を傾げて歩いてゆく。深夜だというのに、道場からは明かりが煌々と漏れていた。

「──探せ。出来るだけ迅速にな。」

 静かな、しかし威圧感のあるその一言に、あちらこちらから悲鳴にも似た声音で「押忍ッ!」という返事が上がる。普段、鍛錬を積む門下生達の姿で賑わっているのがこの道場であったが、今日この晩に限っては、ある種異様な光景が広がっていた。
 一目見てボコボコにされたと分かる様相の門下生たちが、携帯を、タブレットを片手に、ヒイコラ言いながら情報収集をしているのである。その光景を眺めつつ、上座で胡坐をかいて座っているのは、筋骨隆々とした鬼神のような男──空雷・闘真(伝説の古武術、空雷流の継承者・f06727)であった。
「フン、思ったより時間がかかってるな。もう少し追い詰めてみるべきか……」
「……鬼ですか、あなたは。」
 無表情気味ながらも呆れた様子で、ポスンと闘真の肩を小さな拳が叩く。この異様な光景の中にあってなお異彩を放つ幼い少女、電脳魔術師メタ・フレン(面白いこと探索者・f03345)であった。
「……というか、やりすぎです。」
「……フン、下らんルールで伝統を地に堕とすばかりか、数だけを頼りに『世界一』なぞ名乗るからこんな目に合うのだ。俺が応急手当する代わりに、コイツらは『口裂け女』に関する情報を調べる……れっきとした交渉、取引だぞ。」
「……もとから選択肢が一つしかないものを交渉とは言いませんよ。……まぁ、可憐な美少女ならともかく、暑苦しいオッサンが何人ヒィヒィ言おうと、私の知ったことではありませんが。」
「お前も十分に鬼ではないか」
「メタ・フレンです。どうぞよろしく」
「フン……まぁ、このテの情報収集は俺やコイツらより、お前の方が余程適任だからな。頼りにはさせてもらうぜ」
「……私は別の作業で忙しいんですよ。口裂け女の件はおじさんたちに任せます」
 そう言いながら、メタがゲームデバイスを再起動する。肩をすくめる闘真を後目に、メタは『作業』の続きに取り掛かった。
 彼女が行っているのは、一言でいうと都市伝説の復活である。『黄昏の音楽会』『三丁目のクネクネ』『スネカジリ』等々、既に『赤い女』に統合されてしまった都市伝説を可能な限り分解し、脚色や尾ひれを加えて噂としての強度を上げる。無論、現実に滲みだして実体化するほどに強化してしまえば本末転倒だ。『赤い女』の勢力を弱めつつ、復活させた都市伝説が実体化しないギリギリのラインを突く──さじ加減ひとつ間違えれば二次災害を起こしかねない芸当を、この幼い少女はあえて選んでいた。
「……順調。」
 自作の拡散botが機能し始めたのを満足げに眺めて、メタは小さく唇を綻ばせる。
「上手くいきそうか。」
「……当然です。」
「フン、流石だと褒めておこう。」
「美少女以外からの称賛は受け付けてませんので。」
「まぁ、そう言うな。……時に、お前からも意見が欲しいのだが」
 さらりと賛辞を流す少女に、珍しく笑みを浮かべた武人は目線を宙にやる。
「生まれてこの方、戦う事ばかりに注視してきた俺ですら、口裂け女の噂くらいはよく知ってる。……まぁ、実在するなら是非戦ってみたいと昔から思っていたからな。だが──何故今更そんな古い噂が再興する? 都市伝説とは、常にして新しい神話ではないのか?」
「む……それは、私も思ってました。この街で連続殺傷事件が起きているのは確かですが、それにしても口裂け女やメリーさんに関連付ける必要性は皆無に等しいです。せいぜい、凶器が刃物だという類似性しかないですし。」
 同じく青い瞳を宙に向け、メタもまた思考に耽る。
「……と、いうより。色んな都市伝説をイジッてみて確信したのですけれど──」
「──裏で噂を操ってる奴がいる、か……?」
 闘真の言葉に、メタがコクリと頷いた。
「……自然発生にしては、不自然な部分が多すぎます。何者かの悪意が動いていると考えた方が自然です。」
「フン……で、あれば──おい! お前たち! 早急に口裂け女の噂の出所を調べろ。もし噂を人為的に流してる奴がいるなら……そいつが黒幕だ!」

「押忍ッ!!」

 道場内に、引き攣った気合が木霊する。胡坐を組みなおして、闘真はゴキリと首を鳴らした。
「……まぁ、そう簡単に見つかるかは分からんが。」
「……難しいでしょうね。これだけ用意周到に──ん」
 メタのゲームデバイスに、通知を告げるアイコンが一件表示されていた。何の気なしに開いてみる。

『こんな噂を知っていますか?』

「……?」
「どうした」
 横合いから闘真が覗き込む。

『都市伝説を追い続けていると、都市伝説に呑み込まれるんですって』



 瞬間。
 視界を、強烈な黄昏色が埋め尽くした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『『都市伝説』口裂け女』

POW   :    私、きれい?
質問と共に【手で口元を隠していたマスク】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
SPD   :    黄昏時の口裂けパニック
【自身の影に沈み込み、その場から姿を消す事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【標的に周辺の影から出現、奇襲を仕掛ける事】で攻撃する。
WIZ   :    【常時発動型UC】トワイライトゾーン
【戦闘地域の敵対者を異空間(夕暮れ時の町)】【に強制的に招き入れる。また黄昏時は】【「怪異が起こる時間帯」という噂】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間

 ───黄昏に染まる街並みに、気づけば猟兵たちは立っていた。
 
 静かだ。酷く、静かだ。
 夕空にたなびく巻雲が、茜に染まって西へと伸びている。
 静かだ。酷く、静かだ。

 ──シャキリ。

 故に。
 耳朶を震わせたその音は、ひどく不吉な響きに聴こえた。

 ──シャキリ。

 夕日を背に、影がゆらりと歩いてくるのが見える。
 一つ。二つ。三つ。四つ。五つ。六つ。七つ────。
 黄昏に染まる街並みに、無数の影が蠢いていた。
 
 ──シャキリ。
 ──シャキリ。
 ──シャキリ。
 ──シャキリ。
 ──シャキリ。

 それらは──手にした鋏を狂ったように開閉しながら、ゆらりゆらりと押し寄せる。
 猟兵たちは理解する。この悪夢じみた影の群れ──『赤い女』にして都市伝説『口裂け女』こそ、探し続けていた呪詛型UDCだということを。

『────私、綺麗…………?』

 吐き出される呪詛の言葉に、錆びついた鋏の群れが一斉に哄笑を上げた。


※マスターより第三幕の補足
 お待たせいたしました、『フォークロアとダンスシティ』最終章、開幕です。
 遂に姿を現した『呪詛を唱えるUDCの群れ』を殲滅してください。
 猟兵たちの活躍により、以下の補正が発動します。

・噂による弱体化により、呪詛型UDC討伐時確率で発生する増援が無くなりました。
・『メリーさんの電話』の噂の統合を妨害・阻止に成功したため、『黄昏時の口裂けパニック』が発動しなくなります。
・■■■■■の完成を未然に防ぐことが出来たので、予期されていた呪詛型UDCの戦力上昇が無くなりました。

 それでは、最終局面です。どうぞよろしくお願い致します。
黒川・闇慈
「いやあ、どうもどうも。生憎とべっこう飴の持ち合わせはありませんので、あしからず。クックック」

【行動】
wizで対抗です。
属性攻撃、全力魔法、高速詠唱の技能を活用して氷獄槍軍を使用します。
集団戦ですから、氷の槍を広範囲に展開して一斉に発射いたしましょう。
相手が口裂け女だというなら、噂で動きを縛れるかもしれません。なんでもある地域の噂では口裂け女はアーケードゲーム好きで、100円玉を投げるとそれを拾おうとするとか。ものは試しですし、100円玉を投げつけてみましょうか。

「時代錯誤な都市伝説にはご退場願いましょうか。今この瞬間が75日目ですよ。クックック」

【連携・組み合わせ・アドリブ歓迎】


ミアス・ティンダロス
夕焼け色の口裂け女、巷の噂より生まれ、黄昏の世界に生きる者だね。
そのあり方は、まさに人間と共に生きているとも言えるよね。
でも、やっぱりダメだ。誰かを傷つけることを前提とするの共存なんて意味ない。
だから、僕はキミ達を倒す。そしてキミ達はただの噂に戻り、いつかまた姿を得るのだろう。
その時、僕はもう一度キミ達に巡り合い……もう一度キミ達の意思を確かめようとする。
キミ達が共存の意味を知るまでこんな戦いを続ける――僕は、そう決めたから。

真の姿になる。姿は特に変わったところがないが、胸元の黒曜石に白き炎が灯され、それを囲むように歪んだ五芒星が浮かび出す。
UCを詠唱し、吹雪を放って敵の行動を封じようとする。


大河・回
黄昏時か……ふふ、敵の空間とはいえ良いシチュエーションじゃないか。夕日をバックにするというのはやはり悪的に心躍るな。さて、さっさと片づけるとしよう。

私は後方からの支援として動くとしよう
さあ、出でよ!我が配下ミサイルハリネズミ!(針がミサイルになっているハリネズミの怪人)
お前のニードルミサイルを奴らにぶち込んでやるのだ!
私自身は敵に捕捉されない為目立たないように動きつつ麻痺毒の弾丸で援護射撃だ
動きの止まった相手はミサイルハリネズミなり他の猟兵なりがとどめを刺してくれるだろう

※アドリブ、絡み歓迎


ヴィリヤ・カヤラ
探し人、来るだね。

戦闘中は出来るだけ『第六感』も
頼りなから敵の動きに注意して動くね。
誰かが死角や予想外の攻撃をされそうなら、
割り込んで防いだりフォローに入るね。

綺麗かどうかなら、醜い。
恐怖で綺麗って言わせるのがダメすぎるし、
それにマスクを人に向けて投げるのもダメだよ。
マスクって結構雑菌付いてるんだからね。

【氷晶】で「赤い女」達の進路妨害を狙ってみるね、
仲間がいたら攻撃のチャンスに出来たら良いな。

判別できるならダメージの大きくて
近くにいる敵から確実に倒して行きたいかな。

敵の攻撃は出来るだけ避けるか、
武器で防ぐように頑張るね!

倒したらこの辺りはとりあえず、
平和にはなるのかな?

アドリブ・連携歓迎



●第三幕 -1-

「──探し人来る、だね。まさかここまで大勢で歓迎してくれるとは思わなかったけど。」
 黄昏の街を背に、無数の影が蠢いている。赤いコートに錆びた鋏、そして顔の半分を隠すマスク──呪詛型UDC『都市伝説・口裂け女』の群れを前に、ヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)は、黄金色の瞳を眇めて刃を引き抜いた。刃の銘は『宵闇』。黄昏すら呑み込む闇色の刀身が、励起した魔力に呼応して黝い燐光を帯びる。
「これだけ盛大なお迎えであれば、手土産の一つや二つ、持ってくるべきでしたかねぇ……いやぁ生憎と、べっこう飴の持ち合わせはないもので。あしからず──」
 くつくつと、ヴィリヤの隣で影法師が嗤う。漆黒のコートを身に纏う青年、黒川・闇慈(魔術の探求者・f00672)であった。半ば悪夢じみた黄昏の光景に、しかして魔術師は不敵に嗤う。手にした十字架型巨大アサルトウェポン『18式怨念火砲』が、歪んだ夕陽を背に不吉な影を伸ばしていた。
「黄昏時か……ふふ、敵の空間とはいえ良いシチュエーションじゃないか。夕陽をバックにするというのはやはり悪的に心躍る──さて、粗悪な量産型怪人たちに、落陽をくれてやるとしようじゃないか」
 肩を震わせて嗤う闇慈の隣で、同じく不敵に嗤う少女が一人。世界征服を企む悪の組織『デスペア』情報戦担当幹部、大河・回(プロフェッサーT・f12917)である。
「まぁ、私はいつも通りの後方支援だが……さあ、出でよ!我が配下ミサイルハリネズミ! お前のニードルミサイルを奴らにぶち込んでやるのだ!」
「ミッサー!」
 小気味良い回のフィンガースナップが鳴り響くや否や、全身の針がミサイルに換装されたハリネズミ型戦闘怪人、ミサイルハリネズミがどこからか姿を現した。どこか愛嬌のあるデザインとは裏腹に、その武装は凶悪の一言に尽きる。
「……夕焼け色の、口裂け女。」
 真っ赤なコートの群れが迫る。早々に臨戦態勢を整えたヴィリヤ、闇慈、回の三者の背中を見つめ、拳をキュッと握る小さな影が一つあった。UDCとの共存を夢見る人狼の少年、ミアス・ティンダロス(夢を見る仔犬・f00675)である。
「……戦うしか、ないんだよね。」
 確かめる様に、小さく呟く。ヒトの噂から生まれ、ヒトの噂と共に成長し、ヒトの噂通りにヒトを襲う。その在り方は、ともすれば既に『人と共存している』とも言えた。
 しかし──
「……でも、やっぱりダメだ。誰かを傷つけることを前提とするの共存なんて意味ない。だから、僕はキミ達を倒す……!」
 ただの噂に戻り、いつかまた姿を得て、真なる共存の意味を彼女たちが知るその日まで──こんな戦いを続ける、と。気弱な少年は、そう決意を固める。
「──力を貸して、シャオ……!」
 失踪した師の名を口にすると同時、胸元のエルダーコアに白い炎が灯る。展開された歪んだ五芒星が旧き力を呼び覚まし──ミアスは真の姿を開放した。
「──準備は出来たかい? ミアス少年。」
 白い髪を夕風に躍らせて、回がミアスにニヤリと微笑む。
「……はい、お待たせしました! いつでも行けます!」
「ふふ、頼もしい。それじゃ、背中は任せちゃおうかな」
 スッと振り向いたヴィリヤの横顔が、パチンと鮮やかなウィンクを投げる。
「では──時代錯誤な都市伝説にはご退場願いましょうか。今この瞬間が75日目ですよ。クックック……!」
 重い音と共に闇慈が十字架を構える。夕陽に燃える黄昏の街、呪詛型UDC殲滅戦線の火蓋が、ここに切って落とされた……!



『綺麗な顔、してるわねぇ』
「ありがと……!」
 空を鋭く切り裂いて、錆びついた鋏が眼前を通り過ぎてゆく。口元を狙って振るわれた凶刃を紙一重で避けて、ヴィリヤは後方へ飛ぶ。
『憎らしい……憎らしい憎らしい憎らしい憎らしい憎らしい……ッ!!』
 縦横無尽に鋏を振り回しながら追い縋る口裂け女。強烈な呪詛すら纏うその軌跡を見切り、しかして蒼闇の血鬼は『宵闇』を脇構えに口裂け女の懐へ滑りこむ。
「──薙ぐ」
 短く放った言の葉通り、横薙ぎに振るわれた『宵闇』の一閃が口裂け女の胴を寸断する。しかして崩れ落ちる口裂け女の上半身の影から、間髪入れずに二体目の口裂け女が姿を現した。 
『私、綺麗……?』
「綺麗かどうかなら、醜いね……ッ!」
 呪詛で汚染されたマスクがヴィリヤへと、至近距離から放たれる。態勢を立て直すコンマ一秒。返す刀が間に合う微妙なライン。マスクを剥いだことで剥き出しになった白い顔が、醜い哄笑で歪んでいる。
「──マスクを投げつけるのはいただけませんねぇ、えぇ。」
 轟音。
 ヴィリヤの目前に迫っていた呪詛塗れのマスクを、それ以上の呪力を纏った砲弾が間一髪のところで吹き飛ばす。金眼を眇めるヴィリヤの視界の端に、『18式怨念火砲』を構えた闇慈の姿が映った。
「──その通り、マスクって結構雑菌付いてるんだからね……!」
 黝い軌跡が夕闇に奔る。袈裟掛けに斬り上げられた二体目の口裂け女は、醜い笑みを顔に張り付けたまま絶命した。
「そもそも、恐怖で綺麗って言わせるのがダメすぎるよ、キミたち。……ありがとう闇慈さん。助かった」
「……礼には及びませんよ。思ったよりも数が多い──これは難儀しますねぇ……ッ!」
 強烈な殺気に闇慈が振り返る。凄まじい跳躍力で迫る口裂け女の凶刃が、闇慈の脳天を刺し貫かんと迫っていた。
『死ねエエエエエエエエエ』
「真っ平ごめんですとも」
 即座にブン回した十字架の突起で空中の口裂け女を絡めとり、そのままアスファルトに叩きつける。逃れようともがく暇も与えず、『18式怨念火砲』の砲口が怨念の火を噴いた。
「……さて、一難去ってまた一難、ですか。つくづくままなりませんねぇ……えぇ」
 口裂け女ごと爆散したアスファルトの塵芥を突き破り、新たに数体の口裂け女が迫る。
「あーあー、そこのお二人さん、チョイと後退してくれ。巻き込むぞ?」
 ジワリと浮いた冷や汗を拭う二人の耳に、どこか巫山戯たトーンの言葉が届く。背後から聴こえた奇妙な噴射音に背筋を撫でられ、ヴィリヤと闇慈は咄嗟に後方へ飛びずさる。
 同時。
 凄まじい衝撃と閃光、爆音を伴い、二人へと迫っていた口裂け女が跡形もなく四散する。ばかりか夕闇に染まる街の一角は、ちょっとした更地と化していた。
「ハハハ流石だミサイルハリネズミ。この異世界はいいなぁ、何せ周囲の建物や一般人に遠慮する必要がない! 悪の組織に優しい街だな!」
「けほ、けほ……やりすぎですよ回さん。それに、ほら──」
 涙目で咳き込むミアスが、濛々と立ち込める塵芥に視線を向ける。灰色のカーテンの向こう、爆撃に引き寄せられてきた無数の影が、ゆらゆらと不吉に揺らめいている。
「これじゃあキリがないです……!」
「……確かに。この調子でミサイルの掃射を続けていては、ミサイルハリネズミがただのネズミになりかねないな」
 眉を寄せるミアスと回に、しかして黒い青年は肩を震わせて笑みを受かべた。
「──クックック、いや、これはむしろ好機と見るべきでしょう」
「うん、私も同感かな。タイミングよく敵が惹き付けられてる以上、一網打尽にするなら今しかないよ」
 ヴィリヤが頷く。その金眼は、人狼の少年へと向けられていた。
「……ミアスさん。真の姿を開放した今、この中で一番出力が高いのは他でもないキミだと思う。広範囲を一掃できるユーベルコード、あったりしない?」
「ぁ──あ、あります! さっきまでは街の地形のせいで使い辛かったけど──」
「うん、更地の今なら関係ない」
「じゃ、じゃあ──」
 どこか不安げな様子のミアスに、三人が頷く。
「私たちは口裂け女たちの動きを止める様に動くね。」
「ふふん、任せたまえよミアス少年。こう見えて行動阻害は大の得意だ」
「クックック……こちらにも秘策はあります。存分に蹴散らしてくださいよ、えぇ」
「……わかりました、やってみます……!」
 夕闇に、猟兵達が散った。



「さて、と。一網打尽できたら、この辺りはとりあえず平和にはなるのかな?」
 そう独り言ちて、ヴィリヤは『宵闇』に魔力を装填する。黝いオーラは強烈な冷気を伴い、空間上に無数の氷塊を浮かべていた。
「氷よ、射貫け──ッ」
 短い号令と共に、ヴィリヤが刃を振り払う。
 『氷晶(ヒョウショウ)』──無数の氷刃を生成し、敵を穿つヴィリヤのユーベルコード。立ち込める土煙の内側、蠢く無数の影へと、煌めく夕陽を映して氷の刃が篠突く雨の如く降り注いだ。



 ──ピン、と。
 小さな白銀が煙の中に落ちる。即座に白銀へと群がり始めた無数の影に、黒い青年はくつくつと肩を揺らした。土煙の中へと投げ入れたのは、100円玉である。ある地域の、口裂け女に関する噂を利用して、闇慈は集敵を易々と成し遂げたのである。
「──全ての命に冷たき慈悲を。一切全てを貫き駆けよ、コキュートス・ファランクス」
 生成されるは氷の槍。奇しくも反対の方角に立つヴィリヤと同系統のユーベルコードを発動し、闇慈は静かに右腕を下ろした。
 無慈悲なる氷の槍が、群がる影へと殺到する──。



『アアアアアアアアアアアアアア!!!!』
「うるさいよ、大人しくしててくれないかい?」
 土埃を掻き分け飛び出してきた口裂け女へと、アローガンから放たれた回お手製の麻痺弾が突き刺さる。ビクン、と赤いコートが痙攣するや否や、口裂け女はその場に倒れて動けなくなった。
「──さて、大盤振る舞いだ。全弾発射しろ、ミサイルハリネズミ!」
「ミッサー!」



「………ッ!!」
 三方向で同時に発生した轟音に、人狼特有の耳がピクンと跳ねる。青い双眸を眇めて、ミアスは静かに両手を天へと翳した。この世界とは理を他にする、別次元の存在とチャンネルを繋ぐために。
「──ミアス・ティンダロスの名のもとに斯い願う」
 普段発動するものより、数段巨大な魔法陣が、上空に展開する。紅に染まる夕空にあって尚、その精緻なる魔法陣は冴え冴えとした蒼い輝きを放っていた。
「その小さな祈祷(ささやき)に耳を傾けてください、最も気高い翼をもつ者よ──」
 大気が逆巻く。突如晴れた土煙に、無数の口裂け女が天を仰いだ。
 一瞬の沈黙が、街を覆う。
「――今こそ、嵐(おもい)が吹き荒れるのです……!!」
 大気中の熱を根こそぎ喰らい、莫大な質量を以て怒涛の吹雪が魔法陣より放出される。
 これぞミアス・ティンダロスの誇る広域殲滅術式、『激凍極嵐・風に乗りて歩むもの(ブリザードベント・イタクァ)』……! 放たれた猛烈な吹雪は直下の口裂け女を完膚なきまでに呑み込み──これを殲滅して見せたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リューイン・ランサード
(無数の口裂け女を見て)頼もしい猟兵さんが大勢いるので、
普通に勝てそうですが、この件には黒幕がいるとの事なので、
彼を倒して解決したいです。

これまでの調査結果を見ると『竜胆大学オカルト研究所』の
”油髪の青年”が黒幕と思われます。
色々入っている胸ポケットとか怪しいですし。

黒幕たるもの状況を観察して楽しんでいると思うので、翼による
飛行で、この世界の『竜胆大学オカルト研究所』に一気に移動。
(可能なら、油髪の青年を気にしている人に同行してもらえると
嬉しい。)

読みが当たれば彼と戦闘。
【風の属性攻撃、全力魔法、高速詠唱】を放って牽制しつつ、
接敵して震龍波を叩き込む!

読みを外したらスターランサーで口裂け女攻撃


メタ・フレン
ホラーというのは相手が絶対の存在だからホラーなんですよ。
只のモンスターなど、単なる経験値に過ぎません。
【エレクトロレギオン】125体の【一斉発射】による【範囲攻撃】でさっさと【掃除】します。

本番はここから!
昼間(第一章)同様【バトルキャラクターズ】に私の『イェーガーコード』をインストールしてゲームキャラに。
そして≪ゲームデバイス≫の中に入り、例のメールから発信者を追跡。
【ハッキング、鍵開け、封印を解く】でセキュリティを突破し【失せ物探し】で端末を特定。
そのまま液晶から飛び出し、近くに黒幕がいれば【ロープワーク】で捕えます。

まあ黒幕の正体は既に心当たりがありますが。
『竜胆大学オカルト研究所』…


三原・凛花
こういう前向きな狂気って厄介なんだよね。
呪詛とか呪いっていうのは、普通何らかの後ろ暗さや迷いが伴うものなんだけど。
それらが一切なくある意味純粋そのものだから、私の呪詛が付け入る隙がない…

なんて愚痴ってらんないよね。

【水子召喚】による【生命力吸収】で敵を攻撃しつつ…『メリーさん』を子供達の友達にする。
そして【優しさ】を込めて彼女の魂と【手をつなぎ】、【コミュ力】で説得し私に憑依させる(これもある意味女子会?)。

さっき読み取った記憶に出てきた、あの悪趣味な結界を作った『アイツ』。
メリーさん本人と記憶を共有すれば、鮮明に顔も分かる筈。
顔が割れたらメリーさんの『追い詰める能力』で、アイツを追跡するね。


空雷・闘真
「まさかこんな形で夢が叶うとはな」

口裂け女の群れを眺め闘真は独り言ちる。
が、その顔は余り嬉しそうではない。

「とは言え弱体化された状態では、余り楽しめそうもないがな」

闘真は脱力し、≪心眼≫【見切り】【第六感】【野生の勘】で敵の攻撃をタイミングを窺う。
技が封じられたとなると、直接鋏で切り掛かる位しかないだろうと踏んでのことだ。

闘真が狙っているのは【空雷流奥義・龍】。
敵の攻撃を防ぐでも躱すでもなく受け流し、そこからの【カウンター】に己の【怪力】を加えて反撃するつもりなのだ。

「裏で糸を引くだけの臆病者に興味はない。長年の夢だったお前らに敬意を表し、せめて奥義で葬ってやろう」



●第一幕 -2-

「フン、まさかこんな形で夢が叶うとはな」
 強烈な踏み込みと共に、アスファルトがゾン、と音を立てる。振り下ろされた鋏を『神如き握力』で握り潰すや否や、鮮やかな入り身から一転──危険な角度で口裂け女を投げ飛ばして、歴戦の武人、空雷・闘真(伝説の古武術、空雷流の継承者・f06727)はどこかつまらなそうな顔でそう呟いた。
「……どんな夢ですか」
 青い髪が夕焼けに揺れる。無表情気味にゲームデバイスのボタンをポチリと押して、電脳魔術師メタ・フレン(面白いこと探索者・f03345)は静かにツッコミを入れた。その声を掻き消す程の炸裂音を伴い、民家の屋根や電信柱の影、住宅街のド真ん中を通る道に配置した総勢125体ものエレクトロレギオンから、無数の弾丸が口裂け女たちへと降り注いでゆく。
「……というか、夢が叶った割に浮かない顔じゃないですか。空雷さん」
「……まぁな。弱体化された状態では、余り楽しめそうもない。」
「……相変わらずの戦闘狂っぷりですね。まぁ確かに、ホラーというのは相手が絶対の存在だからこそホラーなわけで。只のモンスターなど、単なる経験値に過ぎませんが。」
 圧倒的な機銃の掃射を前に、接近する間も無くハチの巣になってゆく口裂け女たちを眺めて、メタはゆっくりと頭を振る。エレクトロレギオンが破壊されない程度の距離から一斉掃射で敵を制圧しつつ、それでも突破してきた個体を闘真が屠る。幾度も同じ戦場を駆けてきた間柄だからこそ、成り立つコンビネーションであった。
「みなさーん!」
 機銃の掃射音に紛れて上空から聴こえてきた声に、メタと闘真が視線を向ける。危なっかしくアスファルトに着陸をきめたのは、ドラゴニアンの見習い騎士リューイン・ランサード(今はまだ何者でもない・f13950)であった。次々と屠られてゆく口裂け女たちへと藍色の瞳を向けて、竜人の少年は引き攣った笑みを浮かべる。
「え、えげつないですね……いや、すみません。ひとしきりこの異界を飛び回りましたが、頼もしい猟兵さんたちが思いのほか大勢いたので、救援が必要な戦場は見当たりませんでした」
「……お疲れ様です。それで、例の男は──」
「それが……」
 メタの問いに、どこか困ったような表情でリューインは頭を掻く。
「この異界における『竜胆大学オカルト研究所』に例の男は居ませんでした。黒幕たるもの、こういう状況は観察して楽しむのが常道だと思っていたのですが……」
 そう。この異界に転移して直ぐに戦況を分析し、戦力的に猟兵側が優勢と見切ったこの二人は、早々にターゲットを一連の事件の裏側に潜む黒幕に定め動き出していたのだった。
「……そうでしたか。であれば、やっぱり彼女の解析を待つほかないですね。」
「順調に解析出来てるんでしょうか……ねぇ、空雷さん?」
「俺に聞くな。ある種、俺にとってもっとも縁遠い術理の使い手だぜ、アイツは」
 三人が目線を向ける先、濡れ羽色の髪が黄昏に濃い影を落としていた。UDCアースにおける今風の服装に身を包んだ、パッと見どこにでもいそうな少女である。しかし──
「……ふふ、なぁにそれ。アフロヘアーのせいで携帯電話が耳に届いてなったの?」
『そうよ失礼しちゃうわ! アタシがあれだけおっきな声で『いまアナタの後ろにいるの』って言ってるのにまるで気付いてくれないんですもの! どころか鋏がアフロにつっかえて、仕留めるのにも一苦労よ!』
「ふふ、ふふふ……」
 独り言である。
 小さな『しゃれこうべ』を両手に抱えてクスクスと笑う少女は、まるで一人二役を演じるが如く、声色まで変えて一人で会話していた。少なくとも、常人にはそのように見えた。
 彼女は三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)──規格外の呪詛行使技術を持つ、降霊術師にして死霊術師である。
「し、失礼なのは百も承知なんですが……その……いえ、が、頑張れ三原さん……!」
 少々気味の悪そうな顔で、リューインが引き攣った表情を浮かべた。この臆病な少年にとっては、そもそも死霊と対話するというだけでもおっかないのである。それでも律義にエールを送る当り、この少年の生真面目さは伺える。
「……普通にしていれば美少女なんですけどね。」
「た、確かに……! 大和撫子風味といいますか、あ、あじあんびゅーてぃー? ですよね、三原さんって……!」
「フン、アレが本気で群霊を行使する姿を一度でも見てみろ……口が裂けても侮るような発言は出来なくなるぞ」
「……聴こえてるよ、あなたたち。」
「ヒィ……!?」
 漆黒の瞳を眇めて、凛花がスッと振り向いた。リューインが、思わずといった態でビクリと震える。
「……悪かったね、普通の女の子じゃなくって。まぁ、だからこそ出来る芸当もあるんだけど──『メリーさん』憑依完了よ。」
 淡々とした凛花のその言葉に、おぉ、とメタとリューインが小さく歓声をあげた。
 間一髪で『赤い女』との統合を逃れた『メリーさん』を、凛花は自らの死霊術の全てを活かして(どちらかと言えば彼女の霊体に対するコミュ力の賜物ではあるが)、自らの肉体に憑依せしめていた。
「……これで『メリーさん』固有の能力『電話追跡』が使えるはずなのだけれど──」
 凛花の顔が曇る。
「……困ったことに、この異界には居ないようだね、あの男。これじゃ折角の追跡能力も役に立たない」
「そ、そんな──!」
 凛花の言葉に、リューインが悔しそうな顔で拳を握る。
 ここで呪詛型UDCを倒し尽くしたとしても、黒幕を野放しにしておけば新たな事件が起きることは自明の理だ。せっかく、あと一歩のところまで追い詰めているというのに……!
「……現状、この異界から抜け出す方法が呪詛型UDCを殲滅する以外にない以上、一刻も早くあの口裂け女たちを全滅させて──」
「……いえ。まだ手はあります。私ひとりでは追跡能力に難がありましたが──」
 凛花の案を遮って、メタが静かに手を上げる。
「……今は『メリーさん』がいます。成功確率も大分高いはずです。」
「か、可能なんですか……!?」
 驚いた様子のリューインに、幼い電脳魔術師はコクリと頷きを返す。無表情気味ながらもどこか自信に満ちたメタの瞳に、リューインは気圧されたように今一度、拳を強く握りしめた。
「で、でしたら僕も一緒にお願いします……! 仮にも黒幕を打倒しに行くんです、女の子二人だけで向かわせるわけにはいかない……!」
 リューインのその一言に、メタも凛花も思わずポカン、とした表情を浮かべた。どうやらこの騎士見習いは、何の侮りも嫌味もなく、純粋に男子としてそうあるべきだという信念からそう言ったらしい。普段、中々そんな風に見られない二人としては、それがなんだか妙に──くすぐったかった。
「……え、えぇ、頼りにしています。」
「……よ、よろしくね。リューインくん」
「……? は、はい! お任せくださいっ!」
 気合も顕わにリューインが頷くと同時、太い声が三人の間に落ちる。闘真であった。
「──話は済んだか? であればとっとと支度しろ。少しばかり──油断しすぎたようだ」
 ようやく、気がついた。
 先程まで騒々しく鼓膜を叩いていた機銃の掃射音が、ひとつも聴こえなくなっている。
「な──!?」
 三人が慌てて振り向くと、闘真の視線の先、真っ赤な夕陽を背にして、長い影がひとつ、こちらにむかって伸びていた。周囲には、真っ二つに切断された無数のエレクトロレギオンが山のようにその屍を無惨に晒している。
「……フン、ようやく楽しめそうだ」
 ニヤリと、闘真が唇に太い笑みを浮かべる。眼前に立つ口裂け女は、これまで相手をしていた個体と違い、右腕が巨大な鋏と一体化していた。エレクトロレギオンの軍団を無力化したのは、この個体であるのは明白であった。ゾワリと、リューインの全身に怖気が走る。
「く、空雷さん──!」
「早く行け。生憎と俺は、裏で糸を引くだけの臆病者に興味はない。」
「……ご健闘を。来て、私のバトルキャラクターズ……!」
 スッと構えを取る闘真を後目に、メタが速やかにユーベルコードを展開した。電子エフェクトを伴って、三人分のバーチャルキャラクターが顕現する。これはいわば、電子の海を潜水するためのダイビングスーツであった。
「精神体変換開始、イェーガーコードインストール。凛花さん、リューインさん、精神をバトルキャラクターに移し替えます。衝撃に備えてください」
 ガクン、と凛花とリューインの身体が崩れ落ちる。メタもまた、青白い燐光を伴って0と1に変換されてゆく。
「同期率70%‥‥85%‥‥‥100%. success!! 同期完了。ゲームデバイスに接続・変換。電子羅針盤、『メリーさんの噂』セット。電子深層領域(ディープマリーン)潜行開始……!」
 瞬間、強烈な没入感を伴って、三人の意識は電子の海へと吸い込まれていった。



「フン、行ったか」
 魂が抜けた様に──実際に精神体は抜け出しているが──崩れ落ちた三人の身体を後目に、闘真は眼前の敵へと視線を向ける。黄昏に染まる街の中、強化変異体と思われる口裂け女は、己がマスクへと静かに手をかけた。
『私……綺麗?』
 呪詛の浸みこんだマスクが、闘真に向かって放たれる。直撃すればその身を呪いで侵す一撃を、しかして武人は避けるでもなく防ぐでもなく、あえて岩のようなその肉体で受け止めた。
「──あぁ、綺麗だぜ。先ほどの雑魚共とは違って、お前は輝いて見える……! 俺と死合うに足る強者としての美しさが、お前にはある」
 マスクの直撃した左肩が、強烈な呪詛を受けてグズグズと焦げる。そんな傷などまるで気にもならないと言った態で、闘真は力の抜けた立ち姿で口裂け女と対峙していた。
『ア……ァ……!』
 しかして口裂け女の顔に浮かんだのは──歓喜の表情であった。右腕と同化した巨大な鋏を打ち鳴らして、赤い女は己を心の底から認めてくれた相手へと突貫する。
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
 ガバリと開いた口腔から狂気を迸らせ、口裂け女が走る。上段に振りかぶられた巨大な鋏が、その咢を大きく開き──
「──長年の夢だったお前らに敬意を表し、せめて奥義で葬ってやろう、黄昏の女よ……!」
 凶刃が、落ちた──その瞬間。巨大な鋏へと添えられた両掌が、稲妻の如く閃く。振り落としの威力はそのままに、慣性と破壊力を巻き込んで放たれた闘真の劈掌が、あたかも刃の一振りの如く袈裟懸けに口裂け女を切り伏せていた。
 『空雷流奥義・龍』……正しく晴天の霹靂。一瞬の決着であった。



「これって何処から現実世界にでるんですか!?」
「多分……目標地点になってる携帯電話から、かな……!」
「……その通りです! 目標地点到達まで残り10秒、現界時の精神的衝撃に備えてください……!」
 0と1の海に、メタの言葉が響き渡る。手を繋いで電子の海を潜行していた三人は、浮力と共に急激に上昇する精神体を必死につなぎとめて海面(げんじつ)を目指す。
「5、4、3、2、1──浮上します!」
 瞬間。ぐりん、と視界が反転する感覚が三人の精神を襲う。眩い蛍光灯の光に目を細め、三人はどうにか平衡感覚を保つようにフラフラと立ち上がった。
「そ、そこまでだ! 黒幕──」
「なっ──」
「これは……どういうことなの?」
 現界直後。自らの目に飛び込んできたその光景に、三人は一様に言葉を失った。
 雑然とした部屋であった。狭い部屋の本棚には、オカルト関係の書籍や雑誌が所狭しと並んでいる。ベニヤの簡易テーブルと安っぽいパイプイスを、真っ白な蛍光灯が照らしている。外はもうとっくに夜を迎えていたのだろう、真っ暗な夜がへばりついた窓に、報告にあった『竜胆大学オカルト研究所』の室内がはっきりと移っていた。

 部屋中が、鮮血に塗れてはいたが。

 ベニヤの簡易テーブルに足を投げ出すようにして、油髪の青年が血に塗れた身体をパイプイスに沈めていた。セロテープで補強された丸眼鏡が、顔の半ばまでずり落ちている。瞳孔の開いたその双眸は、何が起こったのかまるで理解できない、といった色を辛うじて残していた。
「ぅ……ぐっ……うぇ……っ」
 リューインが口元を押さえて蹲る。無理もない。想定していた光景とは余りにかけ離れた、凄惨な光景であった。
「い、一体だれが……」
 蒼い瞳を見開いて、メタが呆然と呟く。
「……直接の死因はわからないけれど。この遺体、『つま先がない』よ」
「え……?」
 成程よく見てみれば、テーブルの上に投げ出された男の右足のつま先が、酷く乱雑な切り口を覗かせている。相当な苦痛を伴うことは容易に想像がついたが、かといって直接の死因になるとも思えない。不可解な痕跡であった。
「……なにより、『メリーさん』の記憶に出てきた、あの悪趣味な結界を作った『アイツ』は、こんな顔じゃない。」
「……で、でも、携帯電話を追跡した結果、此処に出たってことは──」
 机の上に転がった、血塗れのスマートフォンに視線を向ける。電源ボタンを押すと、パスワードの入力画面が表示された。
「……メタさん」
「はい?」
「これ──」
 パスワード入力画面の下。『ヒント』と表示された部分に、彼らを嘲り笑うような言葉が数文字、並んでいた。

『今回は ここまで』
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユーリ・ヴォルフ
鈴木・志乃と連携
アドリブ歓迎

真の姿を解放し、炎の騎士となる
志乃様の姿は神々しいな…聞かなかったことにか?了解だ
フォークロアを生命と見なすのは…私もそれに同調しよう
噂話に思念が宿り、時にはそれが具現化までしているのだ
その存在や意思を尊重したい

私は志乃様が攻撃しやすいよう場を整えよう
『範囲攻撃』『属性攻撃』炎で敵の群れを薙ぎ払い
被弾は『オーラ防御』で耐え
口裂け女には【ドラゴニアン・チェイン】を繋ぎ動きを封じる
逃がしはしない!

【POW】
美しさとは心の在り方が重要だと考えている
心が綺麗であれば、口が裂けていようと綺麗だと答えた
だが貴様の行いは一方的な搾取…醜いと言わざるを得ない
身の程を知れ!


鈴木・志乃
ユーリ・ヴォルフと連携
描写お任せ

【真の姿】金色の目&体全体が発光

ユーリさん
聞かなかったことにして下さいね
内緒でお願いします
…これ、亡くした親友の歌なので

【UC発動】
【増幅対象】黄昏の音楽会、メリーさん等吸収されたフォークロア
臓器の被害者達
【攻撃対象】口裂け女

【歌唱】の【衝撃波】で芯まで響け、皆の心【祈り】
物理的にも精神的にも侵していくよ

これは生命の為の歌だけど
……生命の定義なんて私が決める(誰かとの問答を思い出し自嘲)
私の守りたい、大切な意志達
…皆、力を貸して!

敵UCは光の鎖で【武器受け】【カウンター】
【第六感、見切り】と【スライディング、ダッシュ】で回避
最悪【オーラ防御】


誠意込め真実を言おう


ガルディエ・ワールレイド
趣味の悪ぃ奴が動いてるようだな……。

【聖剣リューテール】使用
調査時は遠方に置いといた装備を分解し、手元に呼び寄せ両手剣として再構築

◆行動
基本はメリーさんを守りつつ口裂け女撃破
「アイツ」について詳細をメリーさんに聞き周囲の状況も確認
手がかりが有りメリーさんの安全も確保できそうなら敵を捕捉しに向かう

◆戦闘
質問には真実を答える
「テメェの行いが汚ぇんだよ!」

《怪力》《なぎ払い》での連撃《2回攻撃》が主体
青い光の《属性攻撃》乗せる
攻防の補助に適時《念動力》使用
《武器受け》と《オーラ防御》で守るのが基本
ただ武器の特性上、純粋な物理攻撃の類は《見切り》で回避

明確な敵以外でも空間そのものだとか怪しい箇所は斬る



●第三幕 -3-

 夕焼けに染まった校舎が、校庭に長い影を落としている。
 錆びついた朝礼台。年季の入ったサッカーゴール。ところどころ穴の開いたフェンスの金網と、砂の上に消えかけたトラックライン。──その全てが、茜色。
 或いは学生生活を経験したことのない者であっても、胸の内にノスタルジィを抱くであろう光景だ。現世であれば、放課後の部活動に勤しむ学生たちの声で賑わっているはずの場所である。しかし──永遠の黄昏たるこの異界にあって、私立梅原高校の校庭は、常ならぬ異様な騒めきによって満たされていた。

 ──シャキリ。
 ──シャキリ。
 ──シャキリ。
 ──シャキリ。
 ──シャキリ。

 錆びついた無数の刃鳴りが、不快なノイズのように夕暮れの空気を軋ませる。携えた鋏を打ち鳴らして、無数の口裂け女が校庭に蠢いていた。上空から校庭を俯瞰できたなら、誰もが砂糖に群がる蟻の群れを想起するだろう。
 ──おぞましい、血に塗れた昆虫の群体。
 その群れの中心で、背中合わせに立つ二人の猟兵の姿があった。
「……不覚をとりましたね。よもやこうも易々と、敵に包囲を許すとは……ッ!」
 額に冷や汗を浮かべた少年が、周囲に目を向け歯噛みする。黒い髪に黒い瞳。身に纏う真新しい制服は、状況を度外視すればこの場所に対して最も相応しい格好であろう。しかして学生姿に不釣り合いな十字槍を真一文字に構えるのは、ドラゴニアンの騎士ユーリ・ヴォルフ(叛逆の炎・f07045)であった。
「──まぁ、予定通りっちゃ予定通りなんですけどねー。まさかここまで集まるとは。」
 転じてどこか緊張感を欠いた声で答えを返したのは、カジュアルな服装に身を包んだ、活発な印象の女性である。夕焼けと同じ色の瞳を静かに細めて、鈴木・志乃(ツインクル・f12101)は自身の周囲に『光の鎖』を巡らせていた。彼女の有する、防御と反撃を一挙に兼ねた自動防衛機構である。
「ごめんユーリさん、ちょっとトレインしすぎた。今のあたしの最大捕捉数を超えてるわ、これ。」
「……構いませんよ、志乃様。あなたの思想に同調したのは、他でもないこの私ですから。ひとつでも多くの『生命』を、『意志』を尊重するためなら、多少の無茶くらい通してみせますとも……!」
「──それが、私の決めた定義でも?」
「ほかでもない、聖者(あなた)が決めた定義ですから。」
 自嘲気味に笑う志乃の言葉に、あくまでユーリは生真面目に答えを返す。不吉に蠢く無数の影を目の前に、二人は戦闘への熱を燻らせる。多勢に無勢は百も承知、それでも目の前の敵に正面から向き合うと、そう決めた。
「──じゃ、いきますか。」
「えぇ、出し惜しみなしでいきましょう……!」
 ──シャキリ。
 ──シャキリ。
 迸る闘気と殺気とが、校庭に満ちた黄昏を変容させてゆく。一触即発、膨張する闘争の熱量はある種、暴発寸前の爆弾にも似て──

「──通り道を塞ぐんじゃねぇよ。邪魔だろうが……!!」

 包囲網の一部が、爆散した。
 冗談のように宙を舞う口裂け女たち。しかして濛々と立ち昇る土煙を切り裂いて、漆黒の威容が姿を現す。
「……あん? 志乃にユーリじゃねぇか。どうした、こんな敵陣のド真ん中で。」
「は──ガ、ガルディエさん?」
「ど、どうして……!」
 ガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)──二人にとっては顔馴染みの猟兵が、強烈な覇気を纏ってそこに立っていた。陣形を乱された無数の口裂け女たちが、鋏を打ち鳴らしながら警戒の声を上げる。
「いや、メリーさんの本体に行きついたまでは良かったんだが、この異界に引き摺り込まれた時点で一緒に居た連中共々分断されてな。虱潰しにキナ臭ェ場所を片っ端から回ってたんだが──」
 まさかお前らと会うとはな。と黒竜騎士は肩をすくめる。
「ま、これも合縁奇縁ってヤツか。助太刀は必要か?」
「ふふ──だれにその質問してんすか、ガルディエさん。」
「……ハハッ、確かにそうだったな。言い方を変えようじゃねぇか、俺も混ぜてくれ」
 ニッと笑って答えた志乃に、ガルディエもまた面白そうに犬歯を剥き出して笑う。再び膨張し始める闘争の空気に、しかし三人とも恐れる素振りはなし。十字槍をクルリと回し、ユーリが微笑みと共に切っ先を口裂け女たちへと突き付ける。
「……心強い。あなたが居るなら、万の軍勢を得たにも等しい。では──」
「改めて、はじめるとしましょーか!」
 志乃の一言を皮切りに、無数の口裂け女が三人へと一斉に襲い掛かった……!



「私の守りたい、大切な意志達……皆、力を貸して!」
 黄昏を尚強烈に照らし出して、その姿は宙天に眩く輝いていた。
 真の姿を開放した、鈴木・志乃その人であった。
 黄昏色の瞳を金色へと変え地上を見下ろす彼女へと、呪詛を纏った無数のマスクが殺到する──が。
「────♪」
 彼女の歌い上げる『真実』に根こそぎ呪力を打ち消され、中を踊る『光の鎖』が片端からマスクを叩き墜としてゆく。醜く裂けた口元を顕わに呪詛を叫ぶ口裂け女たちへ、お返しとばかりに澄んだ歌声が降り注いだ。
「──夢の中で空を歩く──♪」
 ガチリと、口裂け女たちの動きが止まる。
「──真下に広がる命数えて──♪」
 其は祈り。其は願い。其は望み。
「──今日を明日をひたすら生きてる──♪」
 其は輝き。其は翳り。其は追憶。
「──その顔に微笑み浮かばせたい──♪」
 其は明日へ手を伸ばした者すべてに送る賛歌。其は意志持つ生命すべてに送る激励。
 即ち──対象の抱える残留思念を増幅し賦活せしめる、志乃のユーベルコード『女神の歌(シノの歌)』……!
 動きを止めた口裂け女たちへと降り注いだ志乃の歌声が、無数の残留思念で構成された都市伝説『赤い女』たちに、激烈なまでの変容を齎す。
 それは為す術もなく喰われていった『生命(いし)』の、最後の反撃であった。今まで取り込んできた無数のフォークロアの『意志(いのち)』が瞬く間に体内で膨張、爆発し、範囲内の口裂け女が悉く地へと倒れ伏す。
 苛烈に、しかしてどこか悲し気に地上を睥睨する志乃の視界の端で、天を焦がす火柱が噴き上がった



「神々しいな……」
 宙天に座す志乃の姿を仰ぎ見て、ユーリはポツリ静かに呟く。降り注ぐ彼女の歌に耳を澄ませつつ、思い出すのは彼女との約束であった。
『──ユーリさん、聞かなかったことにして下さいね。内緒でお願いします……これ、亡くした親友の歌なので──』
 で、あれば。彼女がどこか悲し気な様子に見えるのも、あながち的外れではないのだろうか。そんな感想を首の一振りで吹き飛ばし、ユーリは口裂け女の群れと対峙する。
「……それは彼女が決めることだな。そして今、俺がすべきことは──」

『私、綺麗……?』

 呪詛に汚染された無数のマスクが、ユーリへと放たれる──!
「──醜い!」
 ゴゥ、と大気が唸った。突如吹き荒れた強烈な炎の嵐に呑まれ、無数のマスクが跡形もなく焼失する。目を見張る口裂け女たちの視線の先に、焔の化身が立っていた。
「……俺は、美しさとは心の在り方が重要だと考えている。」
 沈まぬ夕陽を尚赤く染めて、灼熱の火柱が天を焦がす。その莫大な熱量に、校庭が悲鳴を上げて罅割れてゆく。
「……心が綺麗であれば、口が裂けていようと綺麗だと答えた。だが──」
 陽炎が揺れる。炎髪が踊る。見開いた両目は最早黒に非ず。さりとて常なる紅玉にも非ず。燃え盛る灼眼を煌めかせ、真の姿を開放したユーリ・ヴォルフは居並ぶ醜類共へと視線を向ける。
「貴様らの行いは一方的な搾取……醜いと言わざるを得ない。──身の程を知れ、下郎。貴様らが食い散らかした無数の『生命』、煉獄の炎を以て贖ってもらうぞ……!!」
 ユーリを中心に逆巻く莫大なオーラが、強烈な熱量を伴って巨大な炎竜の姿を形作った。大気中の水分を根こそぎ蒸発させて、炎渦を従える竜人が右腕を振るう。
 迫り来る膨大な熱量を前に、略奪者たちは為す術もなく焼き尽くされていった。



「……負けてらんねぇな。」
 真の姿を開放し、瞬く間に敵を殲滅してゆく志乃とユーリをチラリと横目に眺めて、ガルディエは小さく笑う。二人の実力は知っていたつもりだったが、いざ目の前にすると、改めてその凄まじさがよく分かるというものであった。
 ──片や信念と慈愛を以て理を統べる光の徒。
 ──片や竜に連なる火焔をその身に秘めし業火の化身。
 現状、猟兵が持ちうる力の極地を振るう『埒外の生命体』その威容を目の当たりにして尚──楽しそうに笑みを浮かべるのが、ガルディエ・ワールレイドという少年であった。

「──砕けろ」

 ぽつり、呟く。色めき立つ口裂け女の群れを前に、黒竜騎士はあくまで平静だった。
「──ジレイザ。」
 悲鳴にも似た音と共に、右手に携えた複合魔槍斧が、無数のパーツとなって崩れ落ちる。
「──レギア。」
 右手に携えた複合魔剣が、絶叫を上げて実体部分と魔力フィールドに引き裂かれる。
「──シャルディス。」
 身に纏う漆黒の鎧が、溜息を吐く様にガラガラと音を立ててパージする。
 前触れもなく武装解除をした獲物に困惑しつつも、口裂け女たちはマスクの下で唇を歪ませる。打ち鳴らす鋏の音が、この無防備な挑戦者をどう切り刻もうかと哄笑を上げた。
「……かかってくるなら今だぜ、口裂けの。生憎と、この一撃は手加減できねぇからよ」
 赤い瞳がスッと細くなる。蒼い瞳を静かに眇めて、黒竜騎士は両手を突き出した。
「──その聖剣は既に過去のもの。」
 カタカタと、崩れ落ちた武装が震える。
「なれば過去を絶つに不足無し──!」
 翳したガルディエの両手へと、無数のパーツが集い、再構築を始める。戦闘態勢に入った口裂け女の群れを前に、斯くしてガルディエはその銘を叫ぶ。
「今再び現世に来たれ、聖剣リューテール──ッ!!」
 瞬間。
 視界を埋め尽くした強烈な光に、口裂け女たちが目を覆う。網膜に焼き付いたその威容は、清浄なる青き輝きを放つ極大の聖剣と、それを携え屹立する騎士の姿であった。
「──いくぜ、口裂けの。完膚なきまでに消し飛ばしてやる、覚悟しろ……ッ!!」
『私私私私私私私私私私私私私私私私私綺麗綺麗綺麗綺麗綺麗綺麗綺麗綺麗綺麗綺麗』
「テメェの行いが汚ぇんだよ!!」
 横薙ぎに一閃された極大の聖剣が、校庭に残る口裂け女たちを一刀のもとに葬り去る。斯くして彼らは、この区域に存在していた口裂け女をたったの三人で殲滅せしめたのであった……!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

峰谷・恵
「質じゃなくて量でくるのは予想してなかったかな」

まず巻き込まれた一般人が居ないか確認。居たらその人を守るように位置取る。
近寄ってくる敵から熱線銃とMCフォートの射撃(2回攻撃、誘導弾、鎧無視攻撃)で撃破。余裕ができたら敵が固まっている所にアームドフォートで砲撃(2回攻撃、範囲攻撃、誘導弾、鎧砕き)。
敵が複数体範囲内に入ったら可能な限り多くの敵を範囲に収め全射撃武器でのフルバースト・マキシマム(一斉発射、範囲攻撃、2回攻撃、鎧砕き)でまとめて撃破する。
敵の攻撃はダークミストシールド(盾受け)と喰精紋、コード【神を穿つもの】、マント、空間活動用改造ナノマシンの4重防具(オーラ防御、呪詛耐性)で防ぐ


鏡島・嵐
判定:【SPD】
なんとか弱体化は間に合ったってわけか。いや、強化を免れたって言うべきなんか?
……どっちにしろ、それでも怖ぇのには変わりねえんだけどな。

《我が涅槃に到れ獣》でクゥを呼び出して、一緒に戦う。
基本的には遊撃担当。クゥの背中から〈援護射撃〉や〈目潰し〉を仕掛けたり、必要なら直接攻撃したり。勿論、他の仲間と連携が取れる状況では連携もする。
ヒットアンドアウェイが有効そうならやるし、耐える必要があるなら怖くても耐える。〈見切り〉やら〈オーラ防御〉〈呪詛耐性〉あたりが役に立つかな。

噂はどこまで行っても噂のままの方がいい。そんなんが独り歩きしてホントに人を傷つけるなんて、あっちゃいけねえコトだ。


シャイア・アルカミレーウス
ぜんっっっぜん奇麗じゃないね!外見は良いのにその中身で全部台無しだよ!

(pow)
集団戦だから「盾受け、剣受け」で守りを固めながら戦闘だ!

「勇者の心得」で攻撃力をあげて、「守護者の奇襲逆襲」でカウンターを狙っていくよ!
受けた盾を大バサミに変えて逆に両断してあげよう!
え、抵抗されたら?こう、「力溜め」とテコの原理でメキョっと……

終わったら「闇慈Tさん」の噂を広めて封印にしよう
それにしてもこの魔術的な臓器の収集に、蟲毒みたいな統合のさせ方の都市伝説。……噂に聞くコトリバコでも入ってたら危なかったかもね。

「勇者の心得その50!冒険は最低でもハッピーエンドで!怪談だってめでたしめでたしで終わらせるよ!」


エスタシュ・ロックドア
よーやくお出ましか
待ちかねたぜ
やっぱぶっ飛ばして解決するのが一番だな
俺らの前に姿を現した事、後悔するこった

『ブレイズフレイム』発動
S・フレアドレスに点火だ
シンディーちゃんに【騎乗】【操縦】
【ダッシュ】で轢いて【吹き飛ばし】、
【範囲攻撃】で敵だけを燃やすようにして火を撒く
獄炎の輪禍を喰らいやがれ
ついでに【怪力】【なぎ払い】でフリントをぶん回すぜ

敵の攻撃にゃ【カウンター】、燃やすかフリントで振り払う
綺麗かと聞かれりゃ、ああ、そうだな
気が強くて手応えがあって、赤が似合う、良い女だと思うぜ
ただ情緒は欲しいわなぁ
それに俺ぁ追われるより追いたい性質でよ
数に任せて迫られちゃぁ興醒めってもんだぜ



●第三幕 -4-

「質じゃなくて量でくるのは予想してなかったかな……ッ!」
 閃光と衝撃に続いて、強烈な爆音がビルとビルの間に木霊する。マシンキャノン仕様のアームドフォートから次々と弾幕を張り、峰谷・恵(神葬騎・f03180)は額に浮いた汗を拭う。
 現世であれば多くの人で賑わっているであろう花撒駅前の街並みは、無数の口裂け女と猟兵たちによる戦闘の余波を受け、半ば廃墟同然の戦場へと姿を変えていた。
「──そこっ!!」
 崩れ落ちた雑居ビルの瓦礫から飛び出した赤い影を熱線中で撃ち抜き、すかさず別方向から飛んできた呪詛塗れのマスクを転がって回避。横転した車両の陰に滑り込んで体制を立て直す。もし口裂け女が『メリーさん』を統合していた場合、こういう戦い方はまず出来なかっただろう。
「まぁ、それ以上に幸運だったのは──」
 自分たちの転移に巻き込まれた一般人は、少なくともこの激戦地にはいないらしい。おかげで恵は手加減することなく、己が武装の性能を最大限に発揮して敵を迎え撃つことが出来ていた。
「──広範囲炸裂誘導弾、装填。」
 駅前広場であった場所へと、静かに照準を定める。少なくとも20を超える数の口裂け女が、錆びた鋏を片手に広場を闊歩している。一網打尽にする、またとない好機であった。
「────ッ」
 集中力を、極限まで高める。装填した弾丸の炸裂範囲と有効殺傷距離、そこに敵の数を照らし合わせ、最大効率で敵の群れを殲滅し得るタイミングを待つ。
 故に──気が付くまでに時間がかかった。自らの背後に忍び寄る、赤い影の存在に。

『──ねぇ、私……綺麗?』

「な──っ!?」
 恵が振り向くのと、呪詛に塗れたマスクが放たれたのはほぼ同時。咄嗟に展開した黒霧の盾で辛うじてマスクを防ぎ、恵が後方へと跳ねる。たった今彼女がいた場所へと、鋏による鋭い一撃が奔っていた。
「……不意打ちなんて、趣味が悪いじゃないか。ボクも人のこと言えないけどさ……ッ!」
 言葉を言い終わるよりも早く、引き抜いた熱線中から光線が迸る。しかしてその一撃を紙一重で躱し、ズルリと這う様に口裂け女が恵へと突貫した。
「速──ッ!?」
 想定以上の速さであった。コンマ1秒遅れた反応の隙間を縫い、腹を裂くような軌道で錆びついた鋏が振るわれる。来る激痛に、小さく目を瞑った、その瞬間。
「ちょおっと待ったぁ!!」
 甲高い音が黄昏に鳴り響く。恵が慌てて瞼を上げると、自分と口裂け女の間に割って入った、小柄な少女の姿が目に入った。シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)──鷹の翼と蛇の尾をもつ、キマイラの少女である。
「き、キミは──」
「へへっ、通りがかりの勇者……見習いさ!」
 鋏を受け止めていたシャイアの盾が、焔の如き輝きを放ち形状を変える。巨大な鋏へと形を変えた楯と口裂け女の鋏とが噛み合って、ギリギリと両者が軋みを上げた。
『私、綺麗……ッ!?』
 気焔を上げる様にして、口裂け女が呪詛を吐く。
「ぜんっっっぜん奇麗じゃないね! 外見は良いのに、その中身で全部台無しだよ!」
 メキョッ、と。そんな可愛らしい擬音とは裏腹に、競り負けた口裂け女が鋏ごと、胴を両断され崩れ落ちる。
「えっ──うわぁ!? えんがちょ! えんがちょ!」
 目の前で発生したスプラッター案件に、他でもないシャイア本人が心底厭そうな顔で飛びずさった。ドサリと倒れた口裂け女の骸から目を逸らしつつ、シャイアが恵へと紫紺の瞳を向ける。
「──怪我はない? この辺は特に激戦区だからさ。」
「……うん、おかげさまでね。ボクも少し油断してたよ」
 スッと恵が、視線を駅前広場へと向ける。
「……今度こそ、殲滅してやる。」
「奇遇だね、僕もちょうど、アイツらを纏めてやっつけようと思ってたところなんだ!」
 鷹の翼を広げて、シャイアがニカッと笑った。不意を突かれた様に、恵がキョトンと瞳を落とす。
「……なにか策があるの?」
「策って言えるほどのモンでもないけど──お姉さん、ひょっとしなくてもスッゴイ範囲攻撃もってるよね?」
「え──うん、ある。敵が密集してくれたら言う事なしだよ」
「へへっ、りょーかい! 勇者の心得その50!冒険は最低でもハッピーエンドで!怪談だってめでたしめでたしで終わらせるよ!」
 恵の言葉を受けて、シャイアがブィ、とピースサインを突き付ける。シャイアが空へ舞い上がると同時、恵は全身の武装による一斉掃射の準備を開始した。



 凄まじい破壊の嵐が、駅前広場に吹き荒れる。重火器の一斉掃射による激しい絨毯爆撃は、広場に集中していた口裂け女ごと、街並みを更地へと変えていた。
「──ヒュウ、ド派手にやるじゃねぇか、あの姉ちゃん!」
 間一髪、鋼鉄の雨と爆炎の応酬を潜り抜けて、戦場を鋼の獣が疾駆する。
「……待ちかねたぜ、やっぱブッ飛ばして解決するのが一番だな!」
 唇に鋭い笑みを浮かべ、エスタシュ・ロックドア(ブレイジングオービット・f01818)は相棒のバイクたるシンディーちゃんに跨り街を征く。
「い──生きた心地がしなかったぞおれは……! 一発でも掠ってたら、今頃おれたち──」
 快音を上げ疾走するシンディーちゃんの少し後ろで、不思議とよく通る震え声が上がる。
「良く避けた──ホント良く避けたな、クゥ……!」
 勇壮なる巨大な金獅子『ア・バオ・ア・クゥ』の背で、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は、半ば涙目で己が相棒のタテガミをわしゃわしゃと撫でまわした。
「ハハッ、ごちゃごちゃ言うなよ嵐! なんだかんだあのキマイラの嬢ちゃんが、爆撃範囲から抜けるルート案内してくれたろーが!」
「そ、そういう問題じゃねぇ! てか、どうしてシャイアもお前も爆撃の中で平然としてられんだよ!」
「あぁ? 爆炎だの爆音だのに、いちいちビビッてもいらんねーだろ。こう……獄卒系羅刹的に?」
「答えになってねぇ!」
 黄昏に燃える街を加速する。大通りに面した路地から、バイクの音に釣られて次々と、口裂け女が姿を現した。
「ヒッ──で、出た……っ!」
 喉まで出かかった悲鳴を呑み込んで、嵐が獅子の上で手製のスリングショットを構える。
「よーやくお出ましか。ま、やるこたァ何時もと変わんねぇけどよ! ──点火ッ!!」
 直後。シンディーちゃんに搭載された専用付属ジェットエンジン『スカーレット・フレアドレス』へと、地獄の炎が着火した。鋼鉄の獣が咆哮と共に、凄まじい炎を巻き上げて疾駆する。
「征くぜ、蹂躙の時間だ──獄炎の輪禍を喰らいやがれ!!」
 爆炎を撒き散らし、疾風と化したエスタシュが片っ端から口裂け女たちを轢き飛ばす。
『私、きれ──』
「あぁ、そうだな──!」
 灼熱の轍が、問う暇も与えぬままに口裂け女へと刻まれた。
「生憎と俺ぁ、追われるより追いたい性質でよ! 数に任せて迫られちゃぁ興醒めってもんだぜ……!!」
 気が強くて手応えがあって、赤が似合う──良い女だとは思うが。
「──情緒くらいは持ってこいよ、そしたらタンデムも考えてやらァ!」
 鉄塊剣『フリント』をブン回し、獄卒鬼は青い瞳をカッ開いて嗤う。戦場と言う名の地獄にあって、エスタシュ・ロックドアという男は間違いなく、悪逆を蹂躙する悪鬼そのものであった。

「め、メチャクチャやるなぁ、エスタシュも……!」
 金獅子が咆える。エスタシュが取りこぼした口裂け女に次々と、爪を、牙を突き立てて、嵐もまた戦場を駆ける。味方の死角から忍び寄る影があれば、お手製の目つぶし弾を射出して妨害し、多対一で苦戦する見方が居れば飛び込んで場を掻き乱す。
 ド派手に街を蹂躙するエスタシュや恵と比べれば地味なアシストにも思えるが、嵐の的確な援護は確実に、戦況を猟兵たちに有利なものへと変えていた。
「……なんとか弱体化は間に合ったってわけか。いや、強化を免れたって言うべきなんか?」
 ……どっちにしろ、それでも怖ぇのには変わりねえんだけどな。そう心中で独り言ちて、臆病な少年は戦場を駆ける。思いのほか苦戦せずに済んでいるが、まだまだ油断はできない。
「噂はどこまで行っても噂のままの方がいい。そんなんが独り歩きしてホントに人を傷つけるなんて、あっちゃいけねえコトだ──行こう、クゥ! こんな悪夢、とっとと終わらせるぞ!」
 
 街を駆ける猟兵たちの活躍は、呪詛型UDCの数を着実に減らしつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ファン・ティンタン
【POW】A:綺麗と言うとでも?
【ヤド箱】で参加
アドリブ可

【刀心習合】により近接戦に特化したスタイルへ
口裂け女の【呪詛】のような攻撃には【呪詛耐性】を以って、嘘偽り無い本音で斬り捨てる

質問相手にマスク投げつけといて、お世辞にも綺麗って言われる訳無いでしょ
あなたに遠慮した言葉なんて言わないよ
醜態、節操無く肥大化したあなたにはぴったりの言葉だよ

主にステラの全力魔法を支援すべく、邪魔する敵は寄らば斬るの守勢攻撃を意識
手が空けばペインの支援もしつつ、仲間の行動を達成するための活動に主眼を置く

この身は一振りの刀、邪魔するモノは何者であろうと殴り斬り蹴り断つ
噂は噂のまま、月明かりに照らされて消えるといいよ


ペイン・フィン
【ヤド箱】で参加
……さて。
自分も、できることをしようか。

コードを使用。
召喚するのは、黒曜石を飾りに付けた、鉄の腕輪。
これを、ステラに渡し、ステラの能力を強化するよ。

その後は、巻き込まれた人の護衛に回ろうか。
真の姿を解放して、何歳程度か、幼い姿に。
盾受け、武器受けなんかを駆使して、防戦中心にね。
できれば、隙を見てファンの援護にも回りたいな。

……噂から生まれた存在、ね。
そのまま、噂のままだったら、良かったのにね。


ステラ・アルゲン
【ヤド箱】で参加
ついに現れましたね、元凶が
この街の平和の為にもお前を排除する!
女子大生とストーカーは巻き込まれないようにUDC局員に任せて退避させておく

この黄昏がお前の力を強くすると言うならば、それを打ち払う!
ペインより腕輪を受け取り装着
【全力魔法】と幻影の【属性魔法】にて【天満月】を発動!
現れるは満月の夜の幻影
黄昏を闇に染め、天に耀く満月の聖なる光が悪しき者を照らし出す
この場にて怪我を負うものがいるならこの月光にて癒やそう

他の方のサポートを意識しつつ、真の姿を開放し我が流星剣にて敵を切り伏せに行く
【ダッシュ】で駆け抜けつつ敵の攻撃は【武器受け】
【2回攻撃】で素早く攻撃する
今宵がお前の最後だ



●第三幕 -5-

「ひっ──ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
「五月蠅いよ、変態。少し静かにしててくれるかい」
 黄昏の街に響き渡る野太い悲鳴に顔を顰めて、護刀のヤドリガミたる少女ファン・ティンタン(天津華・f07547)は、女装したおっさんにジロリと左目を向けた。
「そうも、いかないと、思う、よ。ファン……」
 女装したおっさんの隣で震える女子大生──高江カナミを庇う様に、同じくヤドリガミの少年ペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)が一歩前に出る。狂的な光を瞳に宿して蠢く口裂け女の群れを前にして、恐怖を覚えない一般人など、それこそどうかしているだろう。
「──いや、しかしこの街の調査に二人とも参加していたとは驚きでした。まるでいつもと変わらない面子じゃないですか」
 凛とした声が、どこか楽しそうな色を交えてサラリと舞う。流星剣のヤドリガミ、ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)であった。あとは彼がいればいつも通りなのですが──と小さく呟いて、彼女は少しばかり綻んだ頬を掻く。
「まぁ、気心知れた仲だしね。このタイミングで合流出来て良かったよ。」
「じつは、なんどか街で見かけてた……声、かけなくって、ごめん……」
「あ、謝らなくてもいいですから、ペイン。……えぇ、この布陣なら百人力だ──運が悪かったな、『赤い女』……!」
 眼前にて鋏を打ち鳴らす口裂け女に向けて、ステラは己が本体たる流星剣をスッと構える。膨張する口裂け女たちの殺気に、背後でおっさんが情けない悲鳴をあげた。
「……打ち合わせ通りで構いませんか、お二人とも。」
「無論だよ。打ち合わせってほど、大したことしてないけどね。」
「……思う存分、試して、構わない、よ。僕とファンが、守る、から……!」
 決意を込めた言葉と共に、ペインは静かに右手を翳した。掌に集う輝きが、ゆっくりと『絆』を形作ってゆく。具現化するは武器に非ず。さりとて彼に由来する拷問道具にも非ず。埒外の力を籠めて世界へと呼び出したるは、黒曜石を飾りに付けた、鉄の腕輪。身に着けた相手の技能と身体能力を強化する、他でもない『自分(ペイン)が変わってきた、その証拠』であった。
「──ステラ、これを。」
「綺麗な月を期待してるよ。」
 白と黒。頼もしい友人の背中に目礼して、流星の騎士は腕輪を装着する。
 ──静かに、息を吸った。脳裏に強くイメージするのは、今尚追いかけ続けている白銀の鎧姿。蒼くたなびく、在りし日の威容。かつての主の記憶を呼び水に、ステラ・アルゲンへと莫大な力の奔流が集ってゆく。
「──行こう。ファン、ペイン」
 黄昏を背に、白銀の騎士が降臨する。真の姿を開放したステラが呟くと同時、まるで焚き付けられたかのように猛烈な勢いで、無数の口裂け女が猟兵たちへと飛びかかった。



『私、綺麗……?』
「綺麗と言うとでも?」
 白い髪が夕風に靡く。上空から放たれた呪詛塗れのマスクを手刀で切り落とし、ファンは重心を静かに落とす。敵の着地まで凡そ二秒。浮遊感が重力と鬩ぎあい混迷する一瞬の隙を見計らい、白刃は一気に間合いを詰めた。
「──疾ッ!」
 懐に飛び込むや放たれた拳による寸打が、口裂け女の胸部へと叩き込まれたその瞬間。打撃であるはずの一撃は口裂け女の胸部を十字に切り裂き、即座に絶命へと至らしめていた。
「質問相手にマスク投げつけといて、お世辞にも綺麗って言われる訳無いでしょ……次。」
 ファンの静かな言葉に業を煮やしたのか、ズルリと這いずるような動きで二体の口裂け女が死角より迫る。どちらかを選べばどちらかの鋏に膾切りにされるであろう、同一体であるが故の凶悪なコンビネーション。錆びと呪詛に塗れた凶刃が、死角よりファンの急所へと奔り──
「遅い」
 残像すらその場に残し、ファンの身体が急激に沈み込む。沈下の勢いを乗せ放たれるは、とある流派において後掃腿と呼ばれる回し蹴り。本来は相手の足首を刈り取る様に蹴り飛ばすことで、相手の体制を崩す技だが──しかして彼女の蹴りは、文字通り敵の足を刈り取り切り飛ばしてみせた。成すすべなくもがく口裂け女の首へと手刀を振り下ろし、白き刃は左目をもう一体への口裂け女へと向ける。
「綺麗? 冗談でしょ。そうだね……差し詰め、醜態がいいところ。節操無く肥大化したあなたにはぴったりの言葉だよ」 鋭い爪先が、口裂け女へと叩き込まれる。『刀心習合(トウシンシュウゴウ)』──ファンの本体たる護刀『天華』の切れ味を、自らの徒手空拳に乗せて運用する、彼女のメインウェポンのひとつであった。
「次──ぇ?」
 次なる敵の気配を感じてファンが振り向くと、屍山血河がそこに広がっていた。
 巨大な膝砕き器に総身を粉砕され絶命したもの。白目を剥いて裂けた口から泡を吹くもの。厳めしい重石に圧し潰されこと切れたもの。心の臓から煙を上げて動かなくなったもの──そのどれもが、凄惨な末路を迎えて果てていた。
「……ほんと、嫌だな……」
 真の姿を開放し、幾分幼くなった印象のペインが、赤い涙を流しながら拷問器具を繰る。鋏を振り翳して襲い掛かる口裂け女をスタンガン『ニコラ・ライト』で制し、少年は血涙に霞む視線を居並ぶ口裂け女の群れへと向けた。
 ザワリ、と群れが色めき立つ。しかしてその騒めきには、驚くべきことに強い恐怖が混じっていた。長らく恐怖の代名詞として巷を騒がせた都市伝説をも畏れさせる何かを、この少年は持っていた。
「ペイン……!」
「大丈夫だよ、ファン。……僕は、ちゃんと、僕だから」
 思わず顔色を変えたファンに、ペインが少しだけ気弱に笑う。血涙を拭い、かつての拷問器具は人を、友人を、守り抜くためにそこに立っていた。

「──待たせた、二人とも」

 凛とした声が、耳朶を打つ。ファン、ペインともに、ふり返ることなく敵を見据えては居たが──その口元にハッキリと笑みが浮かんだのを、果たして怨敵たる口裂け女たちだけが目撃していた。
「黄昏時は、お前たちを強くする。そうだろう? 黄昏の女達よ」
 フルフェイスヘルムの下、力強い言葉が夕暮れを震わせる。
「で、あれば、この黄昏がお前たちの力を強くすると言うならば──私はそれを打ち払おう! 永遠に訪れる筈のない『夜』を、いまこの時、この世界に、呼び込んで見せよう、流星の騎士の名に懸けて……!」
 ここまで後方で魔力の充填に集中していた流星の騎士が、満を持してその刃を天高く掲げる。
 天を仰げ。空を見よ。終わらぬ黄昏を塗り潰して、沈まぬ夕陽を呑み込んで、静謐なる夜の闇を知れ。この異界においては絶対に顕れる筈のない、その星の威容を知れ。数ある星の中で、最もこの地球と近い星。遥か太古に分かたれた、半身ともいうべき夜の象徴。その名を──

「──天満月!」

 顕現するは、満月の夜の幻影。黄昏を闇に染め、天に耀く満月の聖なる光が、今宵、悪しき者を照らし出す。
 通常の世界で使用するのであれば、単なる回復型のユーベルコード。しかしてこの異界、この黄昏において使用した場合のこのユーベルコードは、『領域の支配率』を大きく変える一手に他ならない。口裂け女たちの能力の底上げをしていた常時発動型ユーベルコード・トワイライトゾーンの出力を大きく低下させ、天に座す満月が冴え冴えとした月光を街へと降り注がせる。赤き夕闇と青い闇夜がせめぎ合う奇妙な空の下、流星の騎士は静かに剣を構えて告げる。
「──覚悟しろ、口裂けの。今宵がお前たちの最期だ」
 白き刃が月光を浴びて、鋭い視線を醜類へと向ける。
「残念ながらお別れだ。噂は噂のまま、月明かりに照らされて消えるといいよ」
 黒き少年は満月の下、静かに目を伏せて。
「……噂から生まれた存在、ね。そのまま、噂のままだったら、良かったのにね。」
 
 夕陽と満月を天に戴き、猟兵と都市伝説が激突する。呪詛型UDC殲滅戦線は、遂に終盤へと至る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
自販機の上で珈琲飲んでたらいつの間にか来ましたね、鬼の人(f15801)。
解析は大当たりでしたよ。さすが人間推し人類オタクは違いますね。
キモオタさんとお呼びしましょうか。「気の持ちようが違うオタク」の意です。

で、殺してイイんですよね。流石にアレは研究対象じゃないでしょう?……。え?引くわ。
ウソですよ。

まあいいや。拳を握り込んでですね。【だまし討ち】【刃来・緋縁】。
腹パンだと思いました?
相手がウソツキだって分かってるのに対策しない方が悪いんですよ。
あっちの鬼の人はオレよか正直なんでオススメですけど──

黄昏、薄暮、逢魔刻。
怪異蠢く領域なれば、羅刹の居城にまた等しい。
ですよね。“鬼の人”。


現夜・氷兎
その場にいるならそうと言ってくれてもいいんじゃないかい、折紙くん(f14904)。
研究対象は人間に限らないけれどね。うーん、褒められている気がしない呼び名だな。

あれもまた研究対象さ、都市伝説が物理的に殺せるかの確認だよ、これから。
すっかり丸裸でいっそ美しいねぇ、噂話としては。

【千々の夢跡】。
刀に氷を纏わせ、【属性攻撃】【怪力】を以って【なぎ払い】。数を減らしてしまおう。背中は任せたよ。
おや。結局腹パンするのかと思ったけれど。

黄昏、紅霞、大禍時。
…そうだねえ。此処は、"鬼"として在るのが相応しいのだろう。ふふ、まあいいさ。
君の瞳にも似た赤だねえ、折紙くん。



●第三幕 -5-

 空が割れる。
 赤き闇にて空を灼く黄昏と、青き闇を湛えし満月の夜。
 その境目、透明な風の下。くらりと変容した戦場の気配を嗅ぎ取って、少年は静かに視線を空へと巡らせた。
「……さーて、いよいよつまらなくなってきやがった」
 存在しない高校の制服を宵闇に滲ませて、矢来・夕立(影・f14904)は缶コーヒーに口をつける。何度目かの突進をスルリと躱して塀の上に腰掛ければ、視界の隅で肩を上下させる赤いシルエットが、怒りに満ちた唸り声を上げた。

 ──ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキ
 
 錆びついた鋏が、狂ったように打ち鳴らされる。マスクを剥ぎ取った口裂け女の表情は、最早怒りを通り越して疲労の色すら見え隠れしていた。無理もない、異界に転移してからこっち、この不運な口裂け女は夕立に延々翻弄され続けていたのだから。
「……あまり火々すると身体に障りますよ。耳まで口が裂けてるじゃないですか」
 整形外科をお勧めします。
 しれっと嘯く夕立に、いよいよ口裂け女は激憤の叫びを上げた。この少年だけは何を賭してでもズタズタに引き裂かねば気が済まぬと、そういう類の激情であった。

「──その場にいるならそうと言ってくれてもいいんじゃないかい、折紙くん。おかげで随分と捜す羽目になったよ」

 疲労の色が見え隠れする声がもう一つ、夕闇を背に現われる。夕立がチラリと一瞥したその先に、黒曜の兎の姿があった。
「……まさか強制転移に巻き込まれても同じ場所にいるとはね。どれだけ彼女をおちょくったんだい?」
 現夜・氷兎(白昼夢・f15801)──境目の研究者にして夕立の友人である。
「……遅かったじゃないですか、鬼の人。おかげでコーヒーが冷めました」
 もとからホットは買っていないが。塀の上で足をぶらつかせる少年に肩をすくめて、氷兎は「もう一本奢ろうか」と言った。
「結構です。功労者に奢らせるのも忍びないですし。解析は大当たりでしたよ」
「コーヒー一本でキミに恩を売れるなら安いもんだけどね。……まぁ、情報収集担当だったわけだし、結果は出さないと。」
「ふぅん。さすが人間推し人類オタクは違いますね。キモオタさんとお呼びしましょうか。『気の持ちようが違うオタク』の意です。」
「……うーん、褒められている気がしない呼び名だな。ちなみに研究対象は人間に限らないけどね」
「さいですか。……で、そちらのお連れさん含めて、そろそろ殺してイイんですよね。流石にアレは研究対象じゃないでしょう?」
 スッと黒手袋に包まれた人差し指が持ち上がる。佇む氷兎の背後へと、彼を追ってきたと思しき口裂け女の集団が迫りつつあった。
「いいや? アレもまた研究対象だよ?」
「え? 引くわ」
「ひどいなぁ、都市伝説が物理的に殺せるかの確認だよ、これから。」
 やはり肩をすくめる氷兎に、夕立がウソですよと塀から飛び降りる。
「まぁいいや。お腹は任せますよ、鬼の人。」
「前向きなのか後ろ向きなのか分かんないね、それ。背中は任せるよ、折紙くん」

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 無視し続けるのも大概にしろと言わんばかりに、黄昏の女たちが絶叫を上げる。関を切ったように、怒り狂う口裂け女たちが二人の元へと突貫した。
「すっかり丸裸でいっそ美しいねぇ、噂話としては。」
 ピキピキ、と。空気の凍ってゆく音が耳朶を叩く。
 引き抜いた愛刀──『薄氷』に青い月を映して、氷兎は眼前に迫る口裂け女の群れへと無造作に刃を振り抜いた。羅刹特有の怪力によって放たれるのは、強烈な魔力の冷気を載せた薙ぎ払い。その一刀で、十分だった。
 ──渺、と逆巻いた風が、傾いた時を凍らせる。びっしりと降りた霜を左手で払い、氷兎は興味深そうに顔を寄せた。
「……やれやれ。下準備に時間をかけた割に、検証結果は凡庸だなぁ」
 ツン、と凍り付いた傷口をつつく。切断と同時に凍結・壊死した切り口は、肉体を構成していた体組織を酷く脆いモノへと変えていた。結果──儚い音を立てて、氷兎の薙ぎ払いを受けた口裂け女たちが、叩きつけられた彫像の如く砕け散る。
「……と、いうわけだよ折紙くん。都市伝説は物理的に殺傷可能だ。」
「そうですか」
 拳を握り、影が疾る。徒手空拳を以て反撃に出た憎き少年に、怒り狂った口裂け女は限界まで鋏の咢を開いて迎え撃った。拳による一撃であれば、あの少年は間違いなく自分の懐に飛び込んでくるだろう。鋏の切断有効距離まで、あと四歩。
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
 絶叫する。コイツだけは殺す。必ず殺す。鋏の切断有効距離まで、あと三歩。
 カン、と赤いヒールがアスファルトを噛む。鋏の切断有効距離まで、あと二歩。
『殺ス──殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス──!!」
 口を裂き、鼻を裂き、目蓋を裂き、眼球に刃を捻り込んで殺す……!!
 鋏の切断有効距離まで、あと──
『殺────ッ?』
 フッ、と。視界を黒い何かが遮った。それが放り投げられた空き缶だということに気が付くまで、コンマ一秒。歩幅の感覚を狂わすかのように夕立がステップを踏むや否や、瞬きの間に少年の姿が口裂け女の視界から消失した。

「──腹パンだと思いました?」

 耳元で囁かれた声に振り向いて──そのまま彼女の首が、ごろりとアスファルトに転がり落ちる。耳元まで裂けた口と見開いた眼が、死ぬ間際の『うそつき』という感情を張り付けたままに静止していた。
「おや。結局腹パンするのかと思ったけれど。」
「……相手がウソツキだって分かってるのに対策しない方が悪いんですよ。」
 氷兎の言葉にそう返して、夕立は赤い瞳を首へと向ける。
「こっちの鬼の人はオレよか正直なんで、オススメだったんですけどね……黄昏、薄暮、逢魔刻。怪異蠢く領域なれば、羅刹の居城にまた等しい──ですよね。“鬼の人”」
「……そうだねえ。此処は、"鬼"として在るのが相応しいのだろう。ふふ、まあいいさ。なにしろ君の瞳にも似た赤だ、折紙くん。」
 ザワリ、と。残された口裂け女たちが色めき立つ。
 黄昏、紅霞、大禍時……彼女たちの領域であるこの世界へと、さも己こそが真の支配者だと言わんばかりに、茫洋とした影を伸ばす生命体の埒外に──畏れの具現であるはずの都市伝説は、正体不明の恐怖を覚えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

彩瑠・姫桜
残念だけど、醜いわ
「綺麗」の定義は様々だけど、私には貴方が醜く見える
元がどうだったのかはわからないけれど、ね
どちらにしても
狂気と汚濁にまみれた貴方を生かしてはおけないわ
私の手で骸の海に送ってあげる、覚悟なさいっ!

敵は同時多発なのかしら
【情報収集】【第六感】を駆使して
少なくとも現場の状況と私のいる場所に現れた敵の動きの把握を試みるわ

攻撃時は【双竜演舞・串刺しの技】で【串刺し】に
防御は【武器受け】で対応するわね

弱点とされてるポマードが有効なら結界として置かれてるポマードを一つ使って
ドラゴンランスの刃に塗った上で攻撃仕掛けてみるわね
後でしっかり洗ってあげるから今は我慢してね、schwarz、Weiß


清川・シャル
真の姿は鬼神也
口が裂けた位何て事はないです
地獄へ送って差し上げましょう

質問ね…素直に答えます、素直に
言いくるめつつ敵の攻撃には見切りカウンター

amanecerを呼び出し
催眠術、歌唱、全力魔法、範囲攻撃、恐怖を与える、属性攻撃、
で「相手が満足する催眠と共にポマードの恐怖」
一斉発射、スナイパー、串刺し、衝撃波
で熱光線射撃

ぐーちゃんΩにフレシェット弾を
毒、麻痺、目潰し
弾の跳ね返りは氷の縦でガード

そーちゃんでUC
なぎ払い、2回攻撃、武器落とし、鎧無視攻撃、鎧砕き、武器受け、操縦
その後チェーンソーモードで振り回して、投げつけ

桜花乱舞と修羅桜と優美高妙・斬での連撃を

口だけじゃなくて全身裂いてやりますよ


雨乃森・依音
あ?ンだここ?
ていうか時間……あーあー、そういうことか
ついにお出ましってわけだな
ははっ、こうも大勢いるとちょっとしたギャグだろ
怖くねぇ……怖くねーから!


お前らが綺麗かどうか?自分で鏡見て確かめろよ


俺は皆が思いっきり戦えるよう後方に陣取って支援
ギター掻き鳴らして歌ってやる
――そんじゃ、耳かっぽじってよく聴けよ

「雨にも負けて、風にも負けて」

うるせぇ、ネガティブな歌で悪ぃか
自分のことは自分が一番わかってる
弱い自分に打ち勝てるくらいの強さなら、誰にだって、俺にだって、存在するんだ!
そーいう歌

確かに黄昏時に歌うのも悪くねぇな
ここはお前らの独擅場じゃねぇ
俺のステージだ
今日から俺が黄昏の音楽会だ――なんてな



●第三幕 -6-

 黄昏と夜闇、二つに寸断された空の下、戦況はいよいよ最終局面へと移行していた。猟兵たちの手によって相当数の口裂け女が討伐されてはいたが、手負いの獣ほど怖いモノはない。自らの存在を賭け、残った口裂け女たちは猟兵たちへと総攻撃を仕掛けていた。
「……ははっ、こうも大勢いるとちょっとしたギャグだろ。怖くねぇぞ……怖くねーから!」
 乾いた笑いを口の端から漏らして、雨乃森・依音(紫雨・f00642)は迫りくる口裂け女の群れに引き攣った笑みを浮かべる。どうにも強がって啖呵を切ってみたはいいが、正直怖い。黄色く濁った眼をカッ開き、物騒な鋏をジャキジャキと打ち鳴らして怨嗟の絶叫を上げる怪物が、見渡す限り街中から自分たち目掛けて押し寄せてくるのだ。こんな悪夢じみた光景に、怖れを覚えない方がどうかしている。
 だから。
「──そこは危険よ。もう少し下がって。」
「こっから先は地獄になっちゃいますんで!」
 まるでこの状況を恐れずに戦場へと突っ込んでゆく彼女たちが、自分と同じ猟兵だと、依音は思えなかった。
「なんて数……! 街に残ってる戦力は全部投入ってことよね──!」
 夕暮れの街に、青い軌跡が奔る。瞳の色も鮮やかに双槍を振るうのは、ダンピールの少女、彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)だ。早くも周囲を口裂け女たちに取り囲まれながらも、白と黒の双槍『Weiß』と『schwarz』による連撃が弛むことはない。踊る様に放たれる穂先が宙を疾るたび、赤い影がひとつ、またひとつと倒れ伏してゆく。
「この身は今や鬼神也──口が裂けた位、何て事はないです。地獄へ送って差し上げましょう」
 群れの一角が、文字通り爆散する。真の姿を開放し鬼神と化した清川・シャル(ピュアアイビー・f01440)は、真紅の瞳に戦意を滾らせてニヤリと嗤った。もくり、と手にしたアサルトグレネードランチャー『ぐーちゃんΩ』が煙を吐く。その小さな体躯からは想像もできない程に凶悪なウェポンを次々と叩き込み、鬼神は終局の戦場を駆ける。
「なんだよありゃ……怖くねーのかよ、アイツら……っ」
 紫陽花色の目を剥いて、依音は愛用のエレキギターを握りしめる。瞬く間に血風踊り硝煙舞う地獄と化した戦場を前にして、少年は暫し我を忘れる。
 自分は、どうするべきだろうか。あのダンピールの少女のように、卓越した戦闘技術は自分にはない。あの羅刹の少女のように、戦局を左右するほどの火力も、有してはいない。
「俺は──」
『──私、綺麗?』
「ッ……!?」
 横合いから突如として投げかけられた呪詛の言葉に、咄嗟に身を投げ出して回避行動を取る。間一髪、頭上を通り過ぎていった呪詛塗れのマスクに全身の毛を逆立てつつ、アスファルトの上を転がり悪態をつく。
「クソッ……綺麗かどうか? 自分で鏡見て確かめろよ!」
『ウフ、ウフ、ウフフフフフフフフフ……!」
「う、ぁ──!」
 ──シャキリ。
 不気味に嗤いながら鋏を振りかぶる口裂け女に、白い肌から血の気が失せる。錆びついた鋏が、その咢を大きく開き──
「そこまでよ、怪物!」
『────ッ!?』
 唐突に口裂け女の胸部から、白と黒の刃が生えた。何が起きたのか理解する間も無く、そのまま左右に引き裂かれて口裂け女は崩れ落ちる。呆然と見上げる依音の視線のその先に、彩瑠・姫桜が息を切らして立っていた。
「……大丈夫? 怪我はしてない?」
「……、……、…………。」
 差し伸べられた手を握ることなく、依音は無言で立ち上がる。何かを言葉にしようと口を開いては躊躇いがちに閉じる少年を前に、姫桜は小さく首を傾げた。
「えっと……ホントに大丈夫? もしかして、呪詛に侵されたりは──」
「……大丈夫だよ。悪かったな。……、……、…………あの、さ」
 酷く苦々しい表情で、依音はその問いを口にする。
「……どうやったら、そんな風に戦えるんだ? どうして、どうして──」
 怖くはないのか。そう問うた少年に少しだけ驚いた顔をして、それから姫桜は静かに笑みを浮かべた。
「──怖いわよ、私だって。」
「は──?」
 信じらんねぇ、という顔で見返す依音をどこか懐かしそうな顔で眺めて、彼女は言う。
「でも、背中を押してくれた人たちがいたの。恐怖に負けて縮こまるより、自分の出来る最善を尽くすべきだって──そう思ったの。だから──」
 怖くても、戦える。そう笑って、少女は再び戦場へ突貫していった。
「お、おい! ちょっと待っ──」
「そこそこ、危ないですよー!」
「────ッ!?」
 背後で炸裂した凄まじい爆音と衝撃に、再び依音は尻餅をつく。濛々と上がる土煙を掻き分けて姿を現したのは、戦場の鬼神たる羅刹の少女、清川・シャルだった。
「なにしてるんですか? そんなトコロで?」
 キョトンとした顔で、シャルがことりと首を傾げる。横合いから突っ込んできた口裂け女にピンクガンメタ色の鬼金棒『そーちゃん』を叩き込んで粉砕しつつ、依音から見て五つも年下の少女はやはり首を傾げた。
「戦わないんですか?」
「ッ──! お、俺は……っ!!」
 ギュルルルルルルル……! と唸りを上げ、『そーちゃん』がチェーンソーモードに機構変形する。群がってきた口裂け女たちを一息にバラして、トドメと言わんばかりに投げつけられた『ソーちゃん』本体が、依音の背後に迫っていた口裂け女を直撃して撃砕した。
「──ねぇ、おにーさん」
 依音の手元に目を止めて、シャルは小さく頬を緩める。呼び出した球体のスピーカーとウーハー群からなる広域制圧音波兵器『amanecer』を配備して、シャルは大きく、息を吸った。

「────ッ!!」

 透き通っていながらも力強いシャルのボイスが戦場を席巻するや否や、『満足する答えを得た』という催眠と強烈なまでの『ポマードへの恐怖』という相反する感情が、口裂け女たちを次々と前後不覚へ陥らせてゆく。すかさず叩き込まれた熱線による制圧射撃に、為す術もなく口裂け女たちは斃れていった。
「……そのギターは、飾りです?」
 悪戯っぽく笑って、依音の抱えたエレキギターに指を突き付ける。雷に打たれたような表情で目を見開く依音を後目に、少女は戦場へと駆けていった。
「……クソッタレ。」
 膝を立てる。破けたジーンズの隙間から、僅かに血が滲んでいた。
「……俺に出来ること? ンなもん、最初から最後まで、徹頭徹尾、ひとつしかねーじゃねぇか……!」
 紫陽花の瞳を戦場に向けて、少年は立ち上がる。汚れたエレキギターを携えて。
「……全身全霊で、掻き鳴らしてやるよ。喉から血が出るまで、歌ってやる……! 耳かっぽじって、よく聴きやがれ──っ!!」
 繋いだアンプをブチ抜いて、エレキギターが高らかに吠え立てた。
「コイツが俺の歌だ……! 『雨にも負けて、風にも負けて(ノーサレンダー)』……!!」
 降りしきる豪雨のように、叩きつける強風のように、ギターを掻き鳴らす。
 冬の冷たさ、夏の暑さにも負けて。
 敗北、挫折、絶望──汚泥に塗れて地を這う心に叫ぶ。
(うるせぇ、ネガティブな歌で悪ぃかよ……! 自分のことは自分が一番わかってんだ)
 それでも。それでも──!
(自分って奴には、自分って奴だけには、負けるわけにはいかねぇ…‥! 弱い自分に打ち勝てるくらいの強さなら、誰にだって、俺にだって、存在するんだから──!!)
 つまるところ、そういう歌。どん底の絶望から見出す一筋の希望のような──そんな歌。
(……ここはお前らの独擅場じゃねぇ、俺のステージだ……! )
 一心不乱に、少年は戦場に吠え立てる。
(覚悟しやがれクソッタレども、今日から俺が、黄昏の音楽会だ――!)



「くっ──!」
 心臓が痛い。
 両腕が悲鳴を上げている。
 背中に受けた呪詛の一撃が、身体を蝕んでいる。
 全身を苛む痛みに顔を顰めながら、それでも、姫桜は双槍を振るう手を止めなかった。
「……怖いに、決まってるじゃない」
 小さく溢して、右眼を瞑る。当たり前だ。自分が戦場に立つようになってから、まだ一年も経っていない。それまではごく普通の学生だったのだから。こうして必死に戦い続けて居る今ですら、ちょっと信じられなくなる時もある。
「それでも──」
 押し寄せる赤い影に、心が折れそうになる。
「それでも──!」
 戦う。背負ったから。それだけのものを背負って、生き抜くと決めたから。

「────!」

 唐突に耳朶を打ったエレキギターの音と歌声に、少しだけ目を見開く。身体の奥底から沸々と湧き上がり始めた力に心を任せて、少女は今一度槍の柄を力強く握りなおした。
「狂気と汚濁にまみれた貴方たちを生かしてはおけない……! 私の手で骸の海に送ってあげる、覚悟なさいっ!」



「ふふ、やっぱり良い声でした、あのおにーさん」
 唇に朱をのせて、シャルはニッコリと笑う。敵陣のド真ん中であった。
「……さて、私も負けてられませんね。」
 スッと、紅い眼を細める。桜色の武装の数々が、返り血を浴びて危険な輝きを帯びる
「──いきます」
 アスファルトが、砕けた。
 強烈な踏み込みと共に接敵する。振りかぶった右手に装備された桜色のメリケンサック『桜花乱舞』を、眼前の口裂け女の顔面へと容赦なく叩き込んだ。インパクトと共に氷結した顔面を勢いのままに砕き散らし、舞い散る桜吹雪の中を征く。
 群がる様に飛び込んできた口裂け女たちの頭を踏みつけ宙空を舞うや否や、仕込みぽっくり『優美高妙・斬』による斬蹴を上空から浴びせて回る。
 着地。即座に砲弾の如く敵の懐へ突貫したシャルの両手には、大小二本の刀『修羅桜』が握られていた。
「──口だけじゃなくて、全身裂いてやりますよ」
 桜吹雪を纏い、鬼神が戦場を舞う。
 完全殲滅は、目前であった。


















●終幕

「あーあ、今回は結構上手く出来た方だったんだけどなぁ」
 夜の繁華街を、青年は歩いていた。どこにでもいるような風体ではあったが、肩から下げたクーラーボックスだけが、夜の街では妙に浮いている。
「流石は『生命体の埒外』といったところかねー。嗅ぎ付けたと思ったら、あっと言う間に全滅まで追い込むんだもん、いやはやこまっちゃうなぁ」
 言葉とは裏腹に、その表情に暗いものはない。むしろどこか楽しそうな色さえ浮かべて、青年は夜の街をゆく。
「ま、こーいうのは試行錯誤が楽しいよね。折角もどってきたんだ、エンジョイしなきゃ損だよ、損。」
 クーラーボックスの蓋に着いた赤黒いシミを指で擦って、ペロリと嘗め上げる。
「……フフン、復活に必要な『パーツ』は揃ったし、あとは本番を楽しむだけか。いやぁ楽しみだなぁ、待ち遠しいなぁ──」
 霞む夜空を見上げる。今この瞬間にも、噂話は、都市伝説は、フォークロアは、新たに生まれている。それが、この青年にとっては何より楽しいことのようであった。
「おっと、そこのお姉さん」
 青年が、嗤う。

「──こんな噂、知ってる?」



                             To be continued...

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月06日


挿絵イラスト