シンサイバ・シーの決戦
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グリモアによって世界を渡り、馬飼家・ヤング(テレビウムのちっさいおっちゃん・f12992)が訪れたのは、グリードオーシャンの一角。切り立った岩壁のような島に囲まれ、外部からの侵入を拒むこの海域は、『シンサイバ・シー』と呼ばれていた。
噂によると、その周辺の島はA&Wから落ちてきており、限られた者しか辿り着けないそこは、激ウマの海産物の隠れスポットになっているという。
海産物が足りないというこの状況、猟兵がそこに目を付けるのは自然な流れであり、ヤングはそのエージェントという形になるだろうか。彼は早速獲物を見定めるように、海域の真ん中にある岩場を眺める。
新鮮で活きの良い激ウマ海産物――話に聞いていた通りのそれらは、ヤングの十倍もしくはそれ以上の巨大な体躯で、それぞれに大海獣バトルを繰り広げていた。
「何年か前に、ヌシが狩られたっちゅう話やったな……?」
その際に獲られた巨大フグ海獣、『ヅボラーヤ』は天国に上るほど美味だったと聞くが、とにかくヌシを失ったことにより、現在この近海は群雄割拠の様相を呈している。そんな中、彼が狙うのは。
「――アレやな」
岩壁に貼り付く巨大貝型海獣、それに対して岩陰から伸びた触腕が一斉に絡みつく。擬態を解き、姿を現した銀色の巨大タコ、通称『シルバー』はそのまま力ずくで貝を砕き、今日のエサにありついていた。
「アレをやれば、たこ焼きとか天ぷらとかたこわさとかいろんなタコ料理が山ほど……!」
脅威よりも食欲が先に来た。画面に映った口から涎を拭うようにしながら、ヤングは獲物へと忍び寄る。普段は透明化しているこの怪物が姿を見せる瞬間を、彼はずっと待っていたのだ。
「もらったァ!!」
岩山から飛び降りるように強襲、ヤングはシルバーの触腕の一つに、支給された猟具を叩きつけた。
返しの付いた銛は確かにそこに突き刺さったが、こんなものでどうにかなるわけもなく、巨大タコはヤングを叩き落としにかかる。巨体に見合った力強い一撃、鞭のように撓らせた触腕が音速を超える。
だがこれもまた計算の内、ユーベルコードを発動したヤングは見る見るうちに八頭身のムキムキボディ姿に変貌し、逆に打ち据えられる触腕を受け止めた。こうなればこっちのもの、彼はそのまま捕まえた触腕へと飛び掛かり、腕ひしぎの体勢に持っていく。
だが必殺と思われた固めから、敵は難なく抜け出した。
「なん、やと……!?」
まあタコに関節技は効かんわな、というくだりを消化したところで。
『!!』
シルバーの吐いた黒墨が、ヤングの顔面を直撃した。
「アァーーーッ!?」
狐色のボディにソースと青海苔、たこ焼きによく似たヤングの身体が真っ黒に染まる。そして完全に視界を奪われた彼に、シルバーの強力な触腕が次々と絡みついていく。後は先程の貝型モンスターと同じく、力ずくで粉砕されるのみ――。
『……!?』
ぎちりと力の込められた触腕が、しかし相手を潰し切る手前で止まる。次の瞬間、シルバーの身体は岩場から宙に浮いていた。正しくは、持ち上げられたのだ。
巨体を誇る敵の力に正面から抗い、ヤングが全身に力を込める。それはまさに竜巻の如く、シルバーは掴まれた一本の触腕を軸に、成す術もなく振り回されて。
「イカスミ味になってまうやろ!!!」
怒りのジャイナントスイングを受けて、あえなく宙へと放り投げられた。
「あっ……あんたタコやったな」
ヤングの背後で地響きが上がる。ずずん、と岩場に落下したシルバーは、力尽き、目を回していた。
彼の獲った食材を使った『ばかデカたこ焼き』をはじめとしたメニューは、この夏とある海の家でバカ売れしたという。
成功
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