銀の流星に響く音
――チリン。
風に乗り、涼やかな音色が聴こえてくる。
小さな町の路地、夏の休暇を過ごそうと訪れた故郷に似たこの世界で、北十字・銀河はふと足を止めた。
見れば古民家の軒先から、此方に視線を向ける人物がひとり。
『――おひとつ、いかがですか?』
掛けられた声は風鈴の音のように涼やかで、澄んだ声だった。
「へぇ、風鈴か。懐かしいな」
銀河は興味深そうに、風鈴売りの少女の傍にある色鮮やかな硝子の風鈴たちを眺めた。
『興味持ってくれた? でもね。私が売る風鈴は普通のものとはちょっと違うの』
風鈴売りの少女は語る。
自分の風鈴は、そのモノに宿る音色と色彩を映し出す。
――そう、だから。
今はあなただけのお話が必要なの、と風鈴売りは静かに小首を傾げてみせた。
「なるほど、逸話か……では、俺の身の上話でもいいかい?」
もちろんと風鈴売りが微笑むと、銀河は縁側に腰を下ろしぽつぽつと言葉を紡ぐ。
『命のある限り生きて、多くの人を助ける』
剣の師匠でもあり初恋だった人との、約束の言葉だ。
けれど彼女は、俺を庇って命を落としてしまった。
銀河は思い返すように一度目を伏せ、落ち着きながら続きを話す。
――故郷の世界では、大きな戦いが何度も起きた。
助けられなかった命も、絶望も沢山味わった。
「そんな俺に、彼女との約束……本当に人を助けられるのかってね」
一度は諦めかけた事もあったけれど、人々からの感謝の言葉を糧に、再び前を向くことが出来た。
そんな時だ、こちらの世界に来る手段が見つかったのは。
故郷とは似ていて、けれど別の世界。
だが平和になったあちらの世界とは違い、この世界ではまだ戦いが終わっていなかった。
「また、繰り返される。そう思ってな」
気付けば、鍛錬に励んでいた。また人々を守れる力が欲しいと。
そして今度は……大切な人たちを守りきれるように。
――チリン。
風鈴の音に、銀河ははっと顔をあげた。
「少し、喋りすぎてしまったか……?」
『いいえ、そんなことは』
思わず口が軽くなってしまったと銀河は微笑を浮かべつつ、参考になっただろうかと風鈴売りに問い掛けた。
『はい、とても。聞かせてくださってありがとうございます』
色とりどりの硝子風鈴の中から、そのひとつを手にとって。
風鈴売りはそっと銀河へ手渡した。
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銀降響
澄んだ藍色に銀の流星が降る硝子風鈴。響く音色は懐かしく、優しい音を奏でて。
成功
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