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或る魔物娘たちのおはなし

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ハロ・シエラ



ルメリー・マレフィカールム




 どこかの世界にあるかもしれないそこは、青い海と緑の森に抱かれた美しき場所。
 そして出会ったのは、燃ゆるような赤きドラゴンと美しき銀を湛えるセイレーンの子。
 まだふたりは、人間の年齢でいえば5つほどの幼い魔物であるのだけれど。
 ひょんなことから出会い、少しずつ心通わせ、互いに手を取り合い、共に在る日々。
 これはそんな、或る魔物の|娘《こ》たちのおはなし。

●魔物娘たちの出会い
 その日はひさしぶりに、海をキラキラと照らす太陽が晴れ渡った空に顔をみせた日であった。
 ここ数日は悪天候で、海も荒れ模様で。
 大波がうねり、全てのものを飲み込まんと渦巻いているかのような、そんな激しさをみせていたのに。
 それがまるで嘘かのように、今日の海は静かにゆったりと凪いでいる。
 いや、眼前に広がる静かな海は、ただ美しいだけではないことを、そのセイレーンの少女はよくしっている。
 海は時に荒れ狂い……そして、恐ろしい怪物だって棲んでいるということを。
 けれど、美しきセイレーンの少女・ルメリーは、ちゃんとわかっているのだ。
 そんな怪物が棲むといわれている海域に不用意に近づかなければ、危険はそう無いと。
 むしろ、目の前に広がる美しい海は、ルメリーにとっては楽しい遊び場で生活の場。
 まだ、人間の年齢でいえば5才ほどの彼女だけれど。
 艶やかな銀の髪を飾るティアラと珊瑚の髪飾りが、セイレーンの中でも統率個体の幼体である証であって。
 常に無表情で寡黙であるものの、海を泳げば、その周囲にはたくさんの魚や生き物が自然と寄ってくるような。
 個体によって気性は様々であるが、ルメリーはそんな大人しく穏やかなセイレーンの娘であった。
 そしてその一方で、幼体であるからか、表情には現れないけれど。
 実は、好奇心だって旺盛で。
 この日も、群れの仲間や海の生き物たちと一緒に、ひさしぶりに静かな海をすいっと泳ぎながらも。
 珍しい生物をみつければ近づいてご挨拶してみたり、海に咲く花々を眺めてみたり、美味しそうな海ぶどうを採ったりして。
 嵐のあと海底に沈んでいる様々なものを探しては興味深々、海底から岩場に上がればまだ少し練習中な歌を口遊んでみたりだとか。
 ゆるりと気の向くまま遊びながらも、何か心躍ることがないかと海を廻っていた。
 そしてある程度楽しめば、一緒に泳いでいた海の生き物たちともわかれて。
 群れからも離れ、気の向くままに近辺を散歩してみるルメリー。
 それから、ふと見つけたのは……生息圏内だけど、今まで知らなかった場所であった。
 怪物が棲んでいると言われている危険な海域から、比較的近くではあるのだけれど。
 でも危険な海域自体からは外れているし、とはいえ近づく者もほぼいない、まさに秘密の場所。
 そう――岩場の奥にひっそりと存在している、入り江の洞窟であった。
 入口から青を湛える浅瀬を少し歩けば、そこから先は水から上がり、奥までそれなりに続いていて。
 洞窟内は暗いが、ところどころ開いた天井から差し込む太陽の光で、岩肌がキラキラと微かに輝いている。
 鱗に覆われた足で進む音がぺたぺたと小さく響くのを聞けば、ひそかに歌の練習をするのに良いかもしれない……なんて。
 表情はやっぱり変わらないままなのだけれど、尻尾を模したパレオをふりふりと揺らしつつ思いながらも。
 好奇心がそわりと疼いて、ちょっぴり洞窟の奥まで探検してみようと歩むルメリー。
 そして……しばらく進んだ、その時だった。
「──、?」
 ふと首を傾けて瞳を凝らせば、洞窟の奥に、何やら赤いものが見えた気がして。
 そろりと近づいてみれば……ルメリーは発見したのだった。
 自分と同じ年くらいの、酷く傷ついた赤きドラゴンの少女を。

 本来ならば、親に生きるための色々なことを教わるくらいの年であるだろう。
 ある程度は本能的に察知できることやこなせることも多くあるのだけれど。
 赤いドラゴンの娘――ハロは、本来よりも早く独り立ちする事になってしまった、まだ幼いドラゴン。
 だから、うっかり足を踏み入れてしまったのだ。
 本能に任せて狩りをして生きていくうちに、好奇心から近付いた水辺。
 そう……軽率に入ってはいけない、スキュラのテリトリーに。
 そしてスキュラと遭遇し襲われ、戦うことになったのだが、相手は狂暴な怪物。
 虎の様に概ね単独で狩りをして暮らしているため、好戦的で時には自分より大きい相手を獲物にすることもあるハロではあったのだけれど。
 スキュラの力の前に敗北してしまい、大きな怪我を負うほど追い詰められる。
 だが、背中などから生えた鱗や爪の様な器官でその身を必死に守り、視界も悪い悪天候となったことも幸いし、傷付きながらも隙をついて逃亡して。
 何とか逃げのびることが出来た彼女は、近くにあったこの洞穴に潜んでいたのだ。
 だから――何者かが近づく気配を感じれば、敏感にびくりと反応してしまうものの。
 怪我もまだ深く、動くこともままならないから……ただ、洞窟の奥で身を潜めることしかできないのだけれど。
 警戒心を強めつつ息を潜めて、あわよくば攻撃できるよう、響く足音の正体を探るべく見据えていれば。
 ところどころ差し込む太陽の光を頼りに見えたその姿は、銀のいろを湛えた少女。
 自分と同じくらいの年に見える、幼いセイレーンであった。
 けれど、怪我を負っている身であるハロにとって、知らない存在は全て警戒の対象。
 グルルゥ、と威嚇するような声を出し、じりじりと後退りをしながらも、いまにも飛び掛からんと体勢を取るのハロであったけれど。
 必要以上に近づくことはせず、採っていた海ぶどうとおやつ用に持っていたリンゴをそっと置いて。
「──」
 セイレーンの少女は、一旦その場を去っていく。
 そして洞窟から彼女の気配がなくなれば、ハロはそっと少女が置いていった海ぶどうやリンゴを手にし、口にする。
 警戒心よりも食欲が勝ったのは、この洞窟に潜んでいる間、怪我をしていてろくに物を食べていなかったから。
 新鮮な海ブドウは食べたことがなかったけれど、はむりと口にすれば、ぷちぷちとしていて磯の味がして。
 リンゴをしゃりしゃりと食べればその甘酸っぱさにホッとして、張りつめていた気持ちもほんの少しだけ和らいだ気もする。
 それからしばらくして、セイレーンの子――ルメリーは再びちらりと姿を見せたのだけれど。
 やはり警戒するハロから距離を取りつつ、寡黙な彼女は再びそうっと置いていく。
 魚や果物などの食べ物や、怪我を治すための薬草などを。
 そう――これが、ふたりが初めて出会った日のこと。

●はじめてがいっぱい
 お散歩中に偶然見つけた入り江の洞窟の中は、時折光が射し込んではいたけれど。
 基本暗くて、視界がはっきりしていたわけではない。
 でもそれでも、ルメリーは気づいていた。
 洞窟の中で出会った赤いドラゴンの少女・ハロが、酷く怪我をしているということは。
 だから、その傷が心配であったということは、もちろんのことなのだけれど。
「――」
 以降、ハロのいる入り江の洞窟に食料や薬草を持っていくようになったのは、こんな気持ちがルメリーの中で生じていたから。
 ――同年代の魔物の娘と仲良くなりたい、と。
 けれど手負いということもあり、洞窟にたびたびやってくる彼女への警戒を、なかなか解けずにいるハロ。
 新鮮な果物やすぐに口にできる海の幸や薬草を、ルメリーは足繁くマメに持ってきてくれたのだけれど。
 フシャァッと小さな牙を剥いて威嚇したり、グルルゥッと唸ってみせたり、時には口から燃え盛る炎を見せるなどの攻撃の素振りをしたりなんかもしていたのだが。
 それでも、警戒するハロに近づけないながらも、やっぱり心配だからと。
 怪我の状況が悪くなっていないかとか、おなかがすいていないかとか、元気だろうかと、ルメリーは遠巻きに様子を見つつ。
 自分がいなくなった後に食べているのだろう、持ってきた食べ物や薬はちゃんと次の時にはなくなっていたから。
 激しく威嚇されるような時は無理に近づかずに、こっそり食料や薬草を置いたりして距離を取りつつも、でも毎日のように洞窟に通うルメリー。
 そしてスキュラに襲われた時のこともまだ鮮明だから、なかなかすぐには警戒は解けないながらも。
 でも、これだけ威嚇しても尚、世話を焼いてくれるその姿を見れば。
 怪我も少し癒えてきたハロの心に生じはじめるのは、あの銀色のセイレーンの子は少なくとも敵ではないという認識。
 いや、むしろ自分を心配してくれて、助けてくれているのだということはわかるから。
 いつの頃からか、ハロも密かに待つようになっていた。
 ルメリーがこの洞窟へと来てくれることを。
 それからこの日も彼女の姿を見つければ、無意識的に密かに背中の翼がぱたぱたしてしまいつつも。
 いつものように、遠くから見守られているのを感じながらも、彼女が置いてくれた食料に手を伸ばして齧り付いてみれば。
 ――がりっ。
「がう……っ?」
 何だかとても、硬い感触。
 これまでは、ハロの怪我の具合を心配して、柔らかい果物や海ぶどうなどの食べやすいものを選んでいたルメリーであったが。
 この日は、栄養価が高い貝類も持ってきていたのだ。
 だが、魚介類を食べた事がないハロは、貝の食べ方自体知らないから。
 それからもしばらくの間、小さな牙でがじがじしてみるも、やっぱりどうにも食べられなくて。
 力任せに貝を開けようにも上手くいかずに、微妙な表情に。
 すると、今までは遠目で見守っていたルメリーが、見かねてそうっと近づいてきて。
 少しだけ距離を置きつつも、同じ貝をひとつ手に取れば。
「――、――」
「……っ、!」
 ――ぱかっ。
 こうすればいいよと言わんばかりに、貝を開けてみせる。
 そして見様見真似でハロも同じように、上下の殻の境目に爪を立ててみて。
 捻るように少し力を入れれば――ぱかりっ。
 あれだけ頑なに口を閉じたままだった貝が勢いよく開いて、思わずぱちりと瞳を瞬かせてから。
 がう、と顔を上げれば……表情は変わらないけれど、ひとつ小さくこくりと頷くセイレーンの子。
 そしてふたりで顔を見合わせれば一緒に、開けた貝の身をぱくり。
 同時にお互い無意識だけれど……背中の翼と尻尾を模したパレオが、お揃いでゆうらりゆらり。
 そんなこの日のごはんは、ひとりで食べるよりも、何だかとっても美味しい気がして。
 少しずつ……いや、ぐっとふたりの距離が縮まって、ちょっぴり仲良くなれた気がお互いした瞬間であった。

 随分と怪我は治ってはきたものの、いまだ怪我が完治はしていないから。
 洞窟の外に出ることは、まだしばらくハロはしなかったのだけれど。
「――」
「がぅ、がぅー」
 あれ以来、ハロがルメリーのことを警戒したり威嚇することはなくなって。 
 弱点となりうる部分を守っていた、背中などから生えた鱗や爪の様な器官は、ルメリーと会っている時は翼の根元などに引っ込めるようにもなっていた。
 それは、ハロが警戒を解いているという証。
 共に食事をするようになり、一緒に遊んだりもするようになって。
 年が同じくらいの親しい魔物娘同士――ふたりの間にはそんな意識が芽生えるようになっていた。
 そしてこの日、ルメリーが持ってきた食べ物は。
「ぎゃぅっ!?」
 ぴちぴちっと活きの良すぎる、巨大魚!
 そんなぴょこぴょこ激しく跳ねる魚に、狩猟本能をくすぐられてか、てしてしっと思わず手が出たりするハロであるけれど。
「……!」
「――!」
 それでもその活きの良さはとどまることをしらなくて。
 運ぶときは気を失っていて大人しかった巨大魚の激しさに、ルメリーも無表情ながら瞳をぱちり。
 ふたりであわあわ、何とか魚を大人しくさせようとするも……小さな魔物の娘たちの奮闘とは裏腹に、いまだぴちぴちと飛び跳ねまくる巨大魚。
 そしてついには、一向に大人しくならない魚に苛立って――ゴオォッ! と。
 ハロが吹きかけたのは、熱々なドラゴンの炎!
 そんな火を浴びて、ようやく大人しくなった巨大魚であったが。
 ルメリーはその時、ふと気づく。
「――、――」
 こんがり焼けた魚から、とても美味しそうな匂いがしていることを。
 しかもそれは魚だけでなく、一緒に持ってきていた貝類も同じで。
 ハロの炎を浴びて全部ぱかっと口を開いていて、とても美味しそうな香りが。
 そして満を持して、焼き魚や焼き貝をいただきます……する、その前に。
「――」
 ルメリーがハロに教えてあげつつやってみせるのは、魚の骨の取り除き方。
 セイレーンの自分と、ドラゴン娘であるハロとは、普段食べるものが違うと。
 彼女との交流を経てルメリーは何となく知ったから……魚の骨がハロの喉に刺さらないようにと、丁寧に取ってみせて。
 大丈夫になれば、冷めないうちに、今度こそいただきます!
 そして、はむりと焼き魚に齧り付けば。
「……がうっ!」
 その美味しさに、思わずひと声あげるハロ。
 巨大魚の活きの良さにはびっくりしたけれど……まさに結果オーライ?
 はじめこそ、食べ慣れない海の幸に四苦八苦、果物とかの食べなれたものを好んでいたハロだけれど。
 でも、ルメリーに美味しい食べ方を教えてもらえば、海の幸に対する食料としての評価もぐんとアップ、改めて美味しさを知ったし。
 さらに偶然吹きかけた炎による思いがけぬ加熱調理によって、より魚介類も美味しくいただけるようになりました!

●うつくしくもたのしい時間
 最初こそしばらくはルメリーを警戒していたハロであるが。
 彼女に害意がないことが分かれば、徐々に警戒を緩めて仲良くなっていって。
 いまでは、洞窟に遊びに来て一緒に楽しく過ごしてくれる子……という認識にかわっていっているし。
 ルメリーにとっても、同年代の魔物の娘ともっと仲良くなりたい、という気持ちは以前と変わらない。
 だから、ハロの警戒が緩んでからは傍まで近寄って、持ってきた魚や貝を一緒に食べたりとか。
 摘んできた薬草を彼女の手の届かない背中等にすりすりと塗ってあげたりするようにまでになって。
 そんな薬草の効果もあって、負っていた怪我もほぼ完治した状態にまで回復するハロ。
 入り江の洞窟に必死にたどり着いた時に失われていた体力も、ルメリーから持ってきてもらったり食べ方を教えてもらった魚介類や他の食材や十分な休息で、ほぼ元通りに。
 そして――そんなある日。
 いつものように、ハロのいる入り江の洞窟へと遊びに来たルメリーであったが。
「――」
 きょろりと洞窟内を見回した後、表情はそのままだけれど、尻尾を模したパレオがしょんぼり。
 だって、洞窟のどこにも、赤きドラゴン娘のお友達の姿がなかったのだから。
 最近は薬を塗ってあげていたりもしたから、ハロの怪我がほぼ治っていることも知っているし。
 だから……もう洞窟を出ていっちゃって、これでお別れなのかと、そう悲しそうに洞窟の入り口で佇むルメリー。
 けれどふと、頭上でばさりと翼がはばたく音がしたと同時に、がぅっと聞き覚えのある鳴き声が降ってきて。
 赤い瞳を空へ向ければ、ほわっと嬉しそうに尻尾のようなパレオを揺らしちゃう。
 だって、ハロが戻ってきたことに気づいたから。
 そしてそんなルメリーへとハロがパスするのは、採りたて新鮮な果物や小動物の肉などの食べ物。
 怪我をしていた時は、入り江の洞窟の外へはあまり出なかったハロだけれど。
 怪我が良くなったからとこの日、洞穴をぬけだしてみて、自分の食べるものなどを採取してきたのだ
 これまでお世話をしてくれたルメリーへの恩返しをと。
 そんな突然渡された食べ物に、ルメリーはちょっぴり驚いた様子で瞳を瞬かせるも。
 無表情ではやはりあるのだけれど、でも一緒にまた過ごせることが、心の中ではとっても嬉しくて。
 今日もふたり仲良く、加熱料理やお食事タイム。
 そしてもうハロの警戒も今ではすっかり解けており、むしろルメリーに対して仲間意識が芽生えているほどで。
 ハロが洞窟の外にも出るようになってからというもの、一緒に狩りをしたりするようになれば。
 ハロは陸での動き方や獲物の追い込み方を、ルメリーは水中での動きや泳ぎ方等を、教え合いこして。
「――、――?」
「がぅ、がうがうっ」
「――!」
「がうー!」
 その後も一緒に狩りをしていく中で、自然と呼吸もぴったりに。
 獲物に対しての連携を学んでいくなど、もっともっと交流を深めていくふたり。
 それに、ころころとライオンの子供がするようにふたりでじゃれ合っては、子どもらしく無邪気に遊んだりとか。
 砂まみれになっちゃったら、洞窟内の泉で水浴びして、綺麗にし合いこしたりもして。
 その様子はすっかり、魔物娘同士の友達であり。
 そして、勇猛果敢な姉と穏やかな妹、まるでそんな姉妹かのようで。
 今の魔物娘ふたりの関係は、とっても仲睦まじい。

 そしてルメリーが泳ぎを教えてあげるのは、狩りのためだったり、陸でのことを教えてくれるお返しだったりもするのだけれど。
 ハロと一緒に泳げるようになりたいって、そう思ったもうひとつの理由は。
「がう?」
「――」
 彼女と共に、遊びに行きたいって思うところがあって。
 そこにたどり着くためには、海を泳いでいかないといけなかったから。
 それから十分にハロも泳げるようになった頃。
 風がなく波もほとんど立っておらず、静かに海が凪いでいる日、ふたりはちょっぴり遠くまで遊びにいってみることにして。
 ルメリーは適度にハロが泳ぎつかれないよう、休める岩場を辿る道順で、一緒に楽しく海を泳いでいきながらも。
 道案内しつつたどり着いたのは、自然溢れる無人島。
 海に面した広い砂浜の先には、緑豊かな森も広がっていて。
 海の生き物や鳥や動物たちの姿がたくさんある美しい島。
 そんな島に辿り着いて、早速お散歩してみれば。
「――、――――」
「がう、がぅがぅ」
 ふたりが見つけたのは、色とりどりの花が咲くお花畑。
 さらに奥へと進んで森へと入って探検気分で歩いてみれば、こんもり大きな木々がいっぱい並んでいて。
 奥へ奥へと流れる小さな川沿いに進んでいけば、迫力満点な大きな滝を発見。
 そしてたくさん泳いで、お散歩もして、おなかもすいたから。
 キノコやクルミなどの実、小動物や鳥もいっぱい、早速ふたりで狩りをして。
 川や海岸で採った魚や貝なども大漁。
 ちょっぴりふたりには珍しい川の魚も狩れて、狩猟も料理もばっちり連携!
 ハロの吹く炎による加熱調理で、こんがり美味しいごはんに。
 それからおなかが満腹になった頃に降り始めたのは、激しいスコール。
 セイレーンであるルメリーは勿論のこと、ハロだってそう濡れることを厭いはしないのだけれど。
 ちょいちょい、と指先でそっとハロをつついたルメリーは、彼女を促す。
 ちょうど小さな自分たちがぴったりと収まるような、洞穴を見つけて。
 それから、大きな葉っぱを傘代わりにお揃いで差しながらも、早速見つけた洞穴へと入ってみれば。
 少し狭くて触れ合う肌がちょっぴりくすぐったくて。
 わくわくどきどきしちゃう、休憩がてらの雨宿りも楽しむ。
 そして雨が過ぎ去って、ふたり小さな洞穴から出て。
 見晴らしの良い丘の上にやってくれば、思わず興奮して目を奪われてしまう。
 雨上がりの空に架かった、大きな橋のような虹のアーチを目の前にして。
 その光景は幻想的で、花の彩りや太陽に煌めく雫がさらに色や輝きを添えていて、とてもきれいで。
 ルメリーはゆっくりと歌いだす。
「――♪」
 幼体故にまだ完全な歌声ではないのだけれど。
 歌を聴いているハロが心地良くお昼寝するには最適な、穏やかで優しい歌声。
 それから歌い終えたルメリーは、すやすや先にお昼寝しちゃったハロに気づいてから。
 そうっと隣で身体を寄せ合って――七色に煌めく虹の橋の下、ふたり一緒にすややかにお昼寝を。
 そんな穏やかで楽しい無人島遊びの時間は、とても楽しくて。
 お昼寝の後も、おなかはいっぱいだから、砂浜にいたカニを弄ぶようにつんつんとハロがしてみたりだとか。綺麗な貝殻やシーグラスを見つけたルメリーが、そっとそれを拾って集めてみたりだとか。ふたりで一緒に、じゃれ合う様に柔らかい砂浜でころころ転がってみたりだとか。
 いっぱい遊んでいれば、あっという間に時間も過ぎて。
 いつの間にか太陽が沈んで、夜を迎えたけれど。 
 でも無数の星が静かに瞬く夜になっても。
 好奇心旺盛な魔物娘たちの冒険は、まだあともう少しだけ、終わりそうにない。 

●リベンジの時、ふたりの絆
 人間でいえば5歳ほどの、ちいさなドラゴンとセイレーンの魔物娘たち。
 幼い子どもだから、互いにいろいろと未熟なところはまだまだいっぱいだけれど。
 でも入り江の洞窟で出会ったあの日のことを思えば、それは遠い昔のことのよう。
 だって、あの日以来、ふたりの関係は大きくかわっていて。
 交流を深め、心の距離が少しずつ近づいて、今では仲の良い姉妹のようで。
 出会った頃よりも、ふたりとも、これまで知らなかったことやできなかったことを、見て聞いて知ってできるようになっていた。
 何より、入り江の洞窟にルメリーが遊びにくるのを、ハロは毎日待っていたし。
 ルメリーも洞窟に遊びに行くことが当たり前の生活になっていて。
 同じ年頃の魔物の娘のお友達ができたことが嬉しいのはもちろんのこと、ふたりでいると、とても楽しいのだ。
 だから怪我が完全に治った今も、ハロはこの洞窟から去ることはこれまでなかったし。
 ハロが留守にしている時に勘違いしてしょんぼりとなったほどに、ルメリーにとっても会えなくなることは寂しいと思うお友達。
 だからこの日も、また狩りには出るだろうけれど。
 仲良くなったこの期間で知れた、ハロの好きな食べ物をお土産に持参しながら。
 いつものように、入り江の洞窟へと向かうルメリー。
 そして……もう入り江の洞窟見えてきたところまでやって来た、その時であった。
「――?」
 ルメリーはふと足を止め、さほど遠くない海の上を見つめる。
 何やら、見慣れぬ女性のような存在があったからだ。
 だがそこは危険な海域あたりで、もしかしたら群れの中のだれかが、うっかりと足を踏み入れてしまっているかもしれない。
 あまり表情は変わらず、大人しくて寡黙なルメリーだけれど。
 彼女はティアラと珊瑚の髪飾りをもつ、セイレーンの中でも統率個体の幼体であるし。
 何より、怪我して警戒していたハロのお世話にもずっと通っていたほど、やさしい娘であるから。
 見え始めている入り江の洞窟から一旦背を向けて。
 危険な海域だといわれているところには入らない程度に、見つけた彼女に、そこは危険だと知らせるべく泳ぎはじめる。
 そして慎重に生息圏から外れぬようなところから、女性に声を掛けようとした――その時だった。
 ルメリーはその姿を見て、ハッと気が付く。
 確かに女性の姿をしているのだけれど……それは、上半身だけで。
 視線の先にいるその存在は、下半身は魚、そして胴体からは六頭の犬が生えている、おぞましい怪物であるということに。
 だから急いでそっとその場から去ろうとしたルメリーであったのだけれど。
「ウォォーーン!!」
 怪物の胴体の犬が、轟くような声でひと鳴きする。
 そう……その怪物に、ルメリーは見つかってしまったのである。
 そしてそうなれば、今いるところが本来ならば危険は少ない海域だということも、もはや関係ない。
 見つけた獲物は逃がさないといわんばかりに――恐ろしい怪物が、ルメリーへと迫る。

 その同じ頃、入り江の洞窟で。
 そろそろルメリーが遊びにくる時間だと、ハロは待っていたのだけれども。
「…………」
 このくらいの時間には少なくとも大抵来ているはずなのに、いつもより待たされていると感じつつ……何故だか生じるのは、嫌な感覚。
 そしてどことなく、そわそわとしていれば。
「!」
 ハッと顔を上げて、洞窟から海の方へと急に駆け出すハロ。
 どこかで聞いたことのある気がする獣の鳴き声と、ドラゴンの鋭い感覚が捉えた普段は聞こえないような水音が聞こえたから。
 それに何より、本能的に何かがあったのだと、ハロには察知できたから。
 親しいお友達の前ではいつもは収納している器官を生やし、翼をはばたかせ、急いで海の上を翔けて。
 瞬間、大きく瞳を見開くハロ。
 何かから逃げているルメリーの姿を見つけたかと思えば、その後方から追ってくる怪物の存在に気づいたからだ。
 普段であれば、危険な海域のもっと奥の方にいる怪物であるが、この日はかなり珍しくセイレーンたちの生活圏の近くまで来ていて。
 運悪く、ルメリーはそんな怪物に見つかってしまったのだ。
 そして未熟ながらもセイレーンの力を駆使して逃げ延びようとしたが、怪物に追いつかれてしまうルメリー。
 まさにそう――絶体絶命の状況。
 それから怪物がルメリーへと襲い掛かった、その時だった。
「グルルゥッ!!」
 割って入ったハロの鋭い爪の一撃が、咄嗟に怪物へと振るわれて。
「ウォォーーン!」
 それを避けるべく、ルメリーへの攻撃よりも、放たれた爪の攻撃を回避する選択をした怪物。
 それから改めてハロはいまだ襲い掛からんと自分達へと向かってくるその怪物を改めて見て、そして気が付く。
「……! グルルッ」
 眼前の怪物はスキュラ――いつぞやの自分に怪我を負わせた、因縁の相手であると。
 なのに自分を襲ったスキュラは今度は、ルメリーを襲撃しようとしているのだ。
 そしてそれを知ったハロは、ぐぐっとより気合が入る。
 そう――仲間を守ると同時に、あの時のリベンジを果たす事が出来る! と。
 以前襲われた時は、狩りに夢中になって、うっかりスキュラのテリトリーに入ったことに気づかなかったし。
 何よりも、その時に比べたら随分と、ハロは大きく成長した。
 ルメリーと出会って、いろいろなことを互いに教わったり教え合って。今のふたりは、お互いが大切な存在で。
 あの時はひとりだったけれど、今はふたりなのだから。
 そして心強い味方を得たルメリーも、スキュラへの反撃を決意して。
 一緒に狩りをする時のような絶妙のタイミングで歌を響かせれば、自然とそれに合わせて同時にスキュラへと仕掛けるハロ。
 いずれも完全ではなかったり、まだ粗削りだったりはするけれど。
「ウォォォ!!」
 それを補うほどの絶妙な連携をふたりで上手くやってみせて。
 聞いた者の心を惹きつけ身体の自由を奪うセイレーンの歌声に一瞬怯んだ隙をついて、ハロは鋭利な爪を再び振り下ろす。
 だが相手は恐ろしい怪物、ふたりの息がぴったりなコンビネーション攻撃を受けても尚、襲い掛かってくるけれど。
 ルメリーは今度は水を操る異能でスキュラの動きを鈍らせて。
 相手の攻撃を弾き、一気に距離を詰めたハロが、すかさず至近距離から全力で見舞ってやる。
 口から噴き出した火を容赦なく、スキュラの顔面へと。
「!! ガァァッ!」
 そんな灼熱のドラゴンの炎をモロに浴びたスキュラは、たまらず奇声を上げて。
 さらにたたみかけるように、爪の鋭撃と水の衝撃を同時に繰り出す、ハロとルメリー。
 それはやはり、これまで一緒に行っていた狩りの中で学んだことが、上手に活かされている息の合った連携で。
 それでも、スキュラを完全に倒すには、まだ力及ばない幼いふたりではあるのだけれど。
「ググ……グゥ、ウォォーン!!」
 無事にスキュラを元いた海域まで、追い返す事に成功したのだった。
 そしてリベンジを果たしたハロの傍まで泳いできたルメリーは、ふと周囲を見回して。
 いまだ撃退の余韻冷めやらぬ様子のハロの腕を、そっとくいくいと引く。
 そんな手の感覚に、ハロもふと自分のまわりに目を向ければ。
 ふたり顔を見合わせて、頷き合う。
 先程の周囲には、戦闘の余波で魚がいっぱい打ち上げられていたから。
 それを一緒に楽しく集めては、思わぬ大漁にわくわくしてしまう。
 スキュラと戦って、ふたりともおなかがぺこぺこであるから。
 そして食べきれないほどたくさんの魚を、入り江の洞窟でいつものように、仲良く分け合って食べることにする。
 そう――これから始めるのは、祝勝会!
 今度は調理でも、手際良い連携をみせながら、今互いの心に満ちるのは誇らしさと嬉しい気持ち。
 何せ、ふたりで力を合わせて、あの恐ろしいスキュラを撃退したのだから。
 その戦利品を、やっぱり顔を見合わせて頷きあってから……いただきます!
 はふはふと焼き立てを一緒に頬張れば同時に、翼をぱたぱた、尻尾のようなパレオをふりふり。
 だって、その味は格別で――今まででいちばん美味しいって、そう思ったのだから。

 これはそんな或るふたりの魔物娘たちの、出会いと成長のおはなし。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年08月13日


挿絵イラスト