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霧に揺れる

#サイキックハーツ #プレイング受付終了:~31日(土)23:00

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#サイキックハーツ
#プレイング受付終了:~31日(土)23:00


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「こんな霧の日は外に出てはいけないよ」

 もう二十年以上も前だろうか。亡くなる前のある日、祖母がぽつりと呟いたことを覚えている。
 もしかして呆けてしまったのだろうかと思い、俺は座敷の網戸から外を眺める。
 網戸に当たった日差しがアルミサッシを灼いていた。
 煩く鳴き喚く蝉の声すら聞こえない程にうだる暑い日だというのに。
 回り続ける扇風機が影が畳の上で作る白黒のコントラストが見えないのだろうか。
「ばあちゃん、何を言ってるんだ? 霧なんて出てないよ」
「そうかい。それならいいんだよ」
 怪訝な顔をした俺に、祖母は黙って頷いた。

「霧が出るのは『繧�@繧阪&縺セ』が呼んでござらっしゃるのさ」

 この地方の方言だろうか。祖母の口から出たのは聞き慣れない言葉だった。
 おぼつかない祖母の言葉の意味を問うと、それは『やしろさま』という意味らしい。
 かつて祖母から聞いた昔話を思い出す。
 祖母がまだ子供だった頃、この辺りはひどく貧しい場所だったという。
 誰もが食べていくのがやっとで、他の場所では問題にならない程度の天候不順や災害でも、この村では幾度も飢饉が起こった。貧困から娘を売る者もいれば、育てられない子供を口減らしのために捨てたという話も残っている。
 罪悪感を誤魔化すために、自己を正当化するために、残された村人が亡くなった人達を『やしろさま』とやらに攫われたということにしてもおかしくないだろう。

「全部『繧�@繧阪&縺セ』のおかげだよ」

 祖母の目は障子の外に広がる寂れた町並みを見つめていた。
 屋根瓦が剥がれ落ち、草木が伸びるままに。朽ちていく廃屋が幾つも連なる町並み。
 昔を懐かしむように、今を否定するように。祖母は遠く遠くを見つめていた。
 この村は、昔はここまで寂れた場所ではなかった。
 ある時、村の山から希少な金属が発見された。それは兵器か何かの部品に使うらしく高値で売れた。そのおかげで村は発展し、金属を掘り尽くすまで村に十分な富をもたらしたという。
 そして金属を掘り尽くした頃は、日本中が好景気に沸く高度成長期。
 外に出れば仕事は幾らでも見つかる。都会に出稼ぎに行く者達は、やがてそこを終の棲家として家族を呼び寄せた。
 故郷を捨てずに残る数名の老人だけを残し、この村はただ静かに時の流れの中に消えていく。

「みんな忘れてしもうた。それでも『繧�@繧阪&縺セ』は残ってらっしゃる」

 祖母が見つめる先、海がゆらりと揺れていた。
 灼けた砂浜が作る上昇気流の揺らめき。蜃気楼に霞む遠い村の記憶。
 なぜだかそれが霧のように見えて、俺は窓から目を逸らした。
 祖母が亡くなったのはそれから数日後のことだった――。

 あれから何年も経った。
 大人になった俺は、村から離れた地方都市に家を持ち、家族を持っていた。
 最近とある企業の工場が誘致され、そこからの税金収入と工場で働く人達が落とす金で、この不景気にも関わらず街の景気はにわかに上向いていた。
 優しく温かな家庭に景気の良い仕事。
 生活に満足し、休日をのんびりと過ごしていた俺の耳に、庭で遊んでいた娘が放つ甲高い声が聞こえてきた。

「パパ! お外が真っ白!」

 こんなに晴れているのに何を言っているのだ。
 そう言って一笑に付そうと思ったが、ふと胸騒ぎがして外を見た。
 夏の陽光が作る小さな影の中で、娘が立ち竦んでいた。
 まるで目の前に霧がかかっているように、顔の前で手を振っている。

 ざ……ざざっ……。
 鳴き喚く蝉の声に隠れて細かなノイズが流れる。

 次の瞬間――娘の姿は消えていた。

●グリモアベース
「サイキックハーツ世界で、都市伝説を元にしたオブリビオンの発生を確認したよ」
 集まった猟兵達に淡々と告げると、遠藤・修司(ヒヤデスの窓・f42930)は手元の資料を広げる。
「場所はとある地方の郊外にある町。そこで何件もの行方不明事件が発生している」
 この町はごく一般的な地方都市だったのだが、近年に工場の誘致が進み、その関係者や家族が引っ越してくるようになり、現在はそこそこ大きな町になっている。
 オブリビオンは、おそらく人の流入に伴って入ってきた都市伝説に紛れて侵入したのだろうねと、修司は付け加える。
 攫われた被害者は、子供から若い女性までと年代も性別もバラバラで、その町に住んでいるという以外の共通点はない。目撃した人の言葉では、行方不明になった被害者は「霧が見える」と言い残していたという。
「攫われた被害者達がどこに連れて行かれたか、そこまでは見えなかったけど……」
 そこで言葉を切り、修司は視線を宙に彷徨わせる。
「霧が深くて見えにくかったけど、多分、山だと思う。山の中に古い日本家屋があって……その中から被害者だと思われる人の手が見えたんだ」
 時折その手が動いていたからまだ生きているはずと続け、なるべく早い解決をと告げる。

「まずは、その日本家屋がどこにあるか突き止めて欲しい」
 被害者を助けるにせよ、元凶となったオブリビオンを倒すにせよ、まずは居場所を突き止めることが先決だろう。
「余裕があれば都市伝説について調べてもいいと思うよ。タタリガミなら都市伝説の情報で対処方法が見つかるかもしれないし」
 プリントアウトした地図を渡しながら、修司は猟兵達に頭を下げる。
「危険な任務になると思うけど、それではよろしく頼むよ」
 そう言うと、猟兵達を送り出すために修司はグリモアを起動させるのだった。


本緒登里
●MSより
 夏なのでホラーっぽいシナリオをお送りします。
 和ホラーの雰囲気で、とある地方都市の行方不明事件を解決します。

●シナリオについて
 こちらは3章構成のシナリオです。

 1章:冒険『霧の中』
 町を探索して、オブリビオンの拠点を探します。
 情報収集するとボス敵であるタタリガミの情報が出てくるかもしれません。

 2章:集団戦『闇に集う』
 ボスに引き寄せられた下級オブリビオンとの戦闘です。

 3章:ボス戦『やしろさま』
 タタリガミのオブリビオンとの戦闘です。
 詳細は1章、2章の結果で公開されます。

●プレイング受付
 物理的に開いている限り、常時受付中です。
 オバロ、複数、1章のみ参加等、お気軽にどうぞ。
 同行者がいる場合は、同行者の名前とID、もしくはグループ名をお書きください。
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第1章 冒険 『都市伝説を調査せよ!』

POW   :    調査の基本は足!

SPD   :    素早く封鎖を解除!

WIZ   :    精密なマッピング!

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「これは私の友達の友達の話なんだけどね……」
「俺の親戚から聞いた話なんだが……」
 
 安全な場所から語る恐怖は、生きている者の娯楽でもある。
 それは死を克服したサイキックハーツ世界の人々でも同じだ。

 人は物語に『何か』を求める。
 それは幼い子供に道徳や規則を教え諭すためであったり、満たされない欲や感情を補うためであったり、現実にあったことを伝えるためであったり、あるいは現実を覆い隠すためであったりする。
 人は物語を必要とし、創り出し、変えていく。

 人の生み出す物語、それに忍び寄り、喰らいゆくものがいる。
 自己の拡大のために、際限なく続く人の想像力に寄生するもの。

 ノイズのような霧の中。
 ソレが密やかに揺れていた――。
古郡・言ノ葉
人の領域は里、物の怪の領域は山…と相場が決まっておるからのぅ。
そうとなれば山の話や情報を中心に集めるのが良かろう。
古くからの山にまつわる言い伝え…そう言った話であれば年老いた人の方が詳しいじゃろうな。
少し話を聞いてみるとしよう。
この際話の真偽は問わぬ。話す人によって微妙に内容が異なる点もあるじゃろうな。
ただ、複数人の話を繋げれば見えてくる物もあるじゃろう。
…序でに書物庫…まあ、この世界では図書館と呼ぶかもしれぬが、そちらも当たってみようぞ。
古くからの話を集めた書物と…うお、何じゃこの箱。パソコン…と言うのか。…ほう、これは様々な人の文が読めるのか。
うむ、ここからも色々と情報は得られそうじゃな。



 オブリビオンによる行方不明事件が発生しているとはいえ、町は未だ平静を保ち、行き交う人々は普段の生活を続けていた。
 そんな人の営みの中に紛れて歩く少女――いや、それは尖った耳と長い尾を持つ人とは異なる者。古郡・言ノ葉(里の化け狐・f43726)がゆるりと歩を進める。
「人の領域は里、物の怪の領域は山……と相場が決まっておるからのぅ」
 年若い少女の姿と対照的に、その口調は古風なもの。
 人と妖の境を越え、遊びという形でつかの間の時を共有する言ノ葉が歩くのは、昔ながらの平屋の住宅が並ぶ旧市街と、工場の従業員や家族が住む真新しいアパートや一軒家が並ぶ新興住宅地の境の通り。
 古いものと新しいものが混じり合う。
 言ノ葉の様は、この町の有様とも似ているかもしれない。

 所々欠けた古い石畳の路地をまっすぐに進めば、年月にくすんだコンクリート壁の建物が見えた。建物の入口には公民館の文字。
 ふむと小さく息を漏らし、言ノ葉はドアのガラス越しに建物の中に視線を送る。
 古くからある建物の中には古くからの人間がいるものだ。入口を入ってすぐのソファーには数人の老婆が並んで座り、とりとめも無い世間話を続けていた。
「古くからの山にまつわる言い伝え……そう言った話であれば年老いた人の方が詳しいじゃろうな」
 そう独りごち、言ノ葉は公民館のガラス戸を押し開けて中へ入る。

「山にまつわる言い伝えねぇ……」
「うむ。何でもいいのじゃ。何か知ってることはあるかえ?」
 弱冷で冷房がかかったぬるい空気をかき回す扇風機の風の下、言ノ葉が昔話を調べていると伝えると、老婆は首をひねって頷いた。

 ぽつり、ぽつりと語られる老婆の昔話――。

 昔、この地がまだ村だった頃。
 この近くの山には、神様がおられた。
 神様は人とは関わらず山でひっそりと暮らしておったそうだ。
 ある時、山菜を採るために山に入った娘がおった。
 道に迷い霧の中を進んだ娘は、いつの間にか立派なお屋敷の前にたどり着いたという。
 この世の物と思えぬ光景に怖くなった娘は引き返し、村に戻ることができた。
 その話を聞いた別の娘が屋敷を見てみようと山に入っていった。
 娘は二度と村へ帰ってくることはなく、「山のものは神のもの」と書かれた紙が山へ続く獣道に落ちていた。
 村の者は紙が落ちていた場所に鳥居を立て、神の地に踏み入らぬようにしたという。

 別の老婆が語るには――。

 娘を返して欲しいと山に入った両親の前に霧が立ちこめ、小さな影が現れた。
 影は「娘は返せぬが代わりのものをやろう」と言い、小さな器を差し出した。
 その器で掬った穀物は減ることはなく、娘の家はたちまち裕福になったという。
 両親は神に感謝し、山に小さな社を建てたという。

 さらに別の語りが続く――。

 その村に欲深な男がいた。
 器の話を聞いた男は、七つに満たぬ自分の子を山に置き去りにした。
 男は山に行き、子供を返せと喚き立てた。
 するとたちまち霧が立ちこめたかと思うと、男を閉じ込めてしまった。
 霧の中から子供の泣き声が聞こえ、続いて男の絶叫が響いた。
 村人が見に行くと、腹を引き裂かれ内臓を食われた男の死体が転がっていたという。
 山の神の祟りを恐れた村人は、神社に供え物をして神を祀ったという。

「ふむ……」
 話を聞き終え、言ノ葉は老婆達に礼を言うとその場を離れる。
 公民館の奥まった場所。夏の日差しが届かぬ薄暗い壁に背を預け、言ノ葉は語りを反芻する。
「内容は異なる点もあるのじゃが……語りを繋げれば見えてくる物もあるのぅ」
 老婆の話は細部が微妙に異なっていたが、それでも共通点がある。
 自身も妖であるが故、語りに存在を委ねるモノの行動に思い至る点が幾つかある。
 この世界のタタリガミは、人々の語りを喰らい膨れ上がる怪物だ。
 だとすればその行動は物語の内容と関連があるはず――。
 
「山、いなくなった者……それに霧か……」
 赤茶の尾を揺らしながら、言ノ葉は口元に手をやり思案する。
 グリモア猟兵から聞いた情報を思い出す。
 行方不明者は子供から若い女性。これは物語の人物と一致する。
 霧の中での失踪。これも状況は同じだ。
 そして消えた者は山で生きている。断定はできないが、物語でもそうだったのだろう。
「今回の事件と重なる点が多いが、しかし……」
 一つ大きな違和感を覚え、言ノ葉は眉をひそめる。
 老婆達の語る物語では、失踪者は神の領域に足を踏み入れた者に限られる。
 禁忌を犯した者が隠されるのであれば話は単純で、少なくともこれ以上の被害は減らすことができる。
 だがこの事件は、町の中で人が消えていたではないか。
「別のモノも取り込んだか? 嫌な予感がするのぅ」
 冷房の風が届かぬ生ぬるい空気の中だというのに背中を伝う冷たい汗。
 時間をかけ過ぎれば何か悪いことが起こるのではと身震いを一つする。

「しかし……範囲が広すぎるのじゃ……」
 元凶の手がかりは掴んだ。だがこれだけでは絞りきれない。
 最悪虱潰しにとと考えながら歩く言ノ葉の目の前に『郷土資料室』と書かれたプレートが目に入る。
「書物庫のことかの? こちらも当たってみようぞ」
 手がかりを求めて部屋に入れば、窓にブラインドが掛けられた室内に漂う古い書物の臭いがする。
「ん? これは、古い地図かの?」
 ガラスケースの中に収められるのは、筆で書かれた昔の地図。
 そこに書かれているものに、思わずガラスケースに手をつき、食い入るように見つめる。
「……神社?」
 変色しかけた和紙の端、町の北側の山に鳥居を表す印が描かれていた。
 老婆の語りでも何度も出てきた言葉を思い出す。
 おそらくこれが人と物の怪との境界。ならば――。
 そう考えていると、傍らにある四角い箱が目にとまる。
「確かこれはパソコン……と言うものじゃったの。ほう、地図も見られるのか」
 使い方の説明に目を通してみれば、言ノ葉の脳裏に思い浮かぶことがある。
「先ほどの古い地図を照らし合わせてみれば、屋敷の場所がわかるかもしれん」
 そう言いながら言ノ葉はパソコンを操作し、まもなく神社とその周辺の場所を割り出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

唯手・聖香
アドリブ・連携歓迎
(霧の深い山の中か。見えたという日本家屋は現実か、幻か一体どちらかで変わってくるな?)

資料としてもらった地図を確認しつつ、地名や地形といった地理情報からその日本家屋がありそうな所に目星をつけて探します。
関連として図書館や新聞社にその地域の郷土史資料が保管されていないか、情報が載っていないかも合わせて確認。その中で都市伝説と関連しそうなワードを発見した場合は深掘りします。

(幻の可能性としては工場の誘致で再開発ということなら、山を拓いて住宅地に~とかの理由で禁足地に触れたか。もしくは現実の可能性としては、過去から変わらず残っている地域の山がどこかにあるのか)



「霧の深い山の中か。見えたという日本家屋は現実か幻か……」
 古い建物が並ぶ旧市街地。死を克服したとしても、照りつける夏の太陽が長袖の上着越しに肌を灼く感覚は変わらない。グリモア猟兵から渡された地図を片手に、唯手・聖香(ミルトスの唄い人・f44046)は手がかりを探し求める。
 人類が寿命以外のあらゆる死を克服した世界であっても――いや、死を克服した世界だからこそ、目に見えぬものへの恐れが募るもの。それが日常を脅かすモノであったとしても、人の心から怪異への恐怖と好奇心を取り除くことは難しい。
 だからこそと、聖香はそっと胸元の十字架に触れる。決して小さくない代償を負ってでも戦う力を求めたその胸の内には、いとも容易く喪われてしまうささやかな日常を守る決意があった。

「まずは目星をつけなくてはな」
 手がかりを求めた聖香が訪れたのは、旧市街地にある町役場だった。
 熱波を避けるようにガラス戸を押し開け扉をくぐる。冷房のひやりとした空気の流れに目を細めながら中を見渡せば、すぐ目に付くのが図書館の文字。
「ここなら郷土資料や新聞があるかもしれない」
 司書という仕事柄、文献を当たることには慣れている。地方の小さな図書館ということで資料はそれほど多くないだろうが、それでも郷土史や新聞などは置いてある。
 カウンターに座る中年女性に軽く会釈して、聖香は新聞のバックナンバーの棚へ向かう。

「幻の可能性としては……工場の誘致や住宅地の開発で山を拓いた際に禁足地に触れたということが考えられるな」
 まずは工場が誘致された時期の新聞を検索し、工場の誘致の際に地元とのトラブルや事故が無かったかを当たる。その中に都市伝説と関連したワードが無いか探していく。
 工場誘致の計画から完成までの期間は2014年から2019年の5年間。開発による環境への懸念や土地を巡っての小さな諍いはあれど、人口流出が続く過疎の村では殆どの住人は工場誘致を好意的に受け入れていたようだ。
「反対運動はそれほど無かったようだが……おや?」
 バインダーで閉じられた縮尺版のページを捲る聖香の目に、一つの見出しが飛び込んできた。

『八代山、崖崩れで親子3人が行方不明――開発による影響か?』

「場所は、この近くの山だな」
 何か関係があるかもしれないと、聖香は記事に目を通す。

『2015年に町の北東にある八代山で崖崩れにより道路が崩れ、巻き込まれた若い女性と幼い子供二人が行方不明になった。当時、周囲は霧が立ちこめていたため発見が遅れ、崖下から彼女らが乗っていた車だけが見つかり、遺体は今も見つかっていない。原因は豪雨で山の地盤が緩んだことで、ちょうどその頃に宅地開発のために付近の山を切り開いていたことから、原因が無理な工事によるものではないかと住民から非難の声が上がった』

「山、霧、行方不明……それに犠牲者の年代が一致するな」
 情報を関連付け、手早く鉛筆を走らせメモを取る。
 オブリビオンがタタリガミだとするなら、その拠り所となる都市伝説が存在し、その在り方も必ず関連があるはず。
「もし事故が関係しているとすれば、ここに何かがあるかもしれないな……」
 地図に場所を書き込み、スマートフォンの地図アプリで付近の地形をざっと調べる。事故の跡を残す土肌を目印に辺りの様子を探れば、黒々と藪が茂る山間の道路が町へと続いていた。
「これは、看板?」
 スマートフォンに走らせていた聖香の人差し指が一点で止まる。生い茂る草木の影にある木製の看板は常人なら見落としかねない小ささだったが、きゅっと引き締められた聖香の黒い双眸はそれを見落とすことは無かった。
「八代村? こんなところに村があったのか?」
 手元の地図に目を落とすが、そちらには村の名は無い。
 もしこの場所にかつて村があったのならば――点と点がつながり、行方不明者達がいるという日本家屋の存在がにわかに現実味を帯びる。
「調べてみた方が良さそうだな」
 看板の古さを考えれば、村があったのは数十年以上前だろう。新聞のバックナンバーを当たるのも限界がある。端にある郷土資料のコーナーへ足を運び、町の歴史や伝承が書かれた本を探す。しばらく誰も触っていないのだろう薄ら埃を被った古書を取り出しページを捲れば、程なくして『八代村』の文字が見つかった。

『この辺りが町になる前のこと。八代村には周囲の村々の土地を所有する地主の屋敷があった。戦後の農地改革で地主一家は所有する農地を失い、わずかに残った土地も売り払って村を出て行った。残ったわずかな村人が細々と農地を耕していたが、その村民がいなくなったこともあり90年代の町村合併を機に廃村の運びとなった』

「現実にも屋敷があったのか。タタリガミがいるとすれば、おそらくここだな」
 そう呟くと、聖香はパタンと本を閉じて書架へと戻す。
 壁に背を預けて思考を巡らすと、脳裏で現実と幻、過去と現在が溶け合い、渦のように混ざり合う。
 宙に浮かぶ小さな埃の粒を目で追いながら、聖香は事件を一つずつ丁寧にまとめていく。
「2015年の事件はおそらく事故だ。だが――」
 もし事故が工事や村と関連付けられたとすればどうだろうか。
 図書館という場では調べようが無いが、そこに新たな都市伝説が生まれてもおかしくは無い。
「タタリガミは都市伝説を生み出し、喰らい、その力を変質させていく……」
 ダークネス事件の関連資料を管理する仕事で培った力を元に推理を組み立てていく。
「この町の発展と共にタタリガミが流入したとすれば? この地の都市伝説をタタリガミが喰らい、その性質を取り込んだ可能性は高い」
 言い終わると、聖香は小さくため息をつき、左の掌を見つめる。
 自身が喪ったものを想い、そして――。
「まだ間に合うのなら、急がなければな」
 口元を引き締め、聖香は図書館を後にするのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桜雨・カイ
攫われたのを目撃した人達に話を聞きに行きます。
はっきりとは見えなくても何かを耳にしたり、気づいたことがあるかもしれません。些細なことでもいいです、どうか教えて下さい。

第一の目的は情報収集ですが、あとひとつ
……目の前で攫われてしまった目撃者の人達もきっと動揺しているでししょう。「和の問い」で目撃者の気持ちを落ち着かせるのが第二の目的です。

大切な人が突然消えてしまう事がどんなに辛いか、私も分かるつもりです。必ず見つけ出して助けます。そう強く誓って相手を励ましたいです。



「お話を聞いてもいいですか?」
 柔らかな問いかけに、オルゴールの櫛歯を弾くような清廉な音が重なる。

 うだるような夏の日差しと行方不明事件の影響か、普段ならば子供達の声が絶えることの無い公園には、今は二つの人影しかいなかった。
 片方は学生服を着た少年。中学生くらいだろう快活な見た目と裏腹に、その表情に浮かぶのは焦燥と悲痛。
 対するのは、穏やかな表情を浮かべた黒髪の男――桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)の姿。少年を安心させるように端正な顔に微笑みを浮かべ語りかける。

「誘拐事件について調べているのです」
 澄んだ音と共にカイが問いかけると、少年はぎゅっと握っていた拳を緩めて口を開いた。

 少年は語る――。
 
 あれは一週間前の昼過ぎのことだ。
 オレは母さんに頼まれて公園で妹を遊ばせていたんだ。
 妹はいつも砂場で大人しく遊んでくれるから、オレはちょっと離れたベンチに座ってスマホでゲームをしてたんだ。
 しばらくしたら、妹が突然立ち上がって、「お兄ちゃん、どこ?」って言うんだよ。
 こっちに顔を向けているのに、キョロキョロしてオレを探してるんだ。まるで、オレとの間に壁でもあるみたいに……。
 オレが駆け寄ろうとしたら、いきなり目の前も真っ白になって……なんかひんやりと湿ってて、霧の中に入ったみたいな感じだった。
 真っ白で何も見えなくて……それで……。

 少年はそこで言葉を切ると、目を閉じて首を振った。
「霧が晴れたら妹がいなくなってたんだ! どこにも! 公園中を探したし、周りの人に探してもらったのに、どこにもいないんだ!」
 少年の声に嗚咽が交じり、感情の高ぶりに恐怖が混ざる。高い陽の下であるのに、凍てつく冬の夜のようにその体が震えていた。

「大丈夫ですよ。その為に私がいます」
 カイの手の中で、虹色の光沢を放つ小さな玉がリンと音を奏でた。
 ゆっくりと手を伸ばし、カイは少年の肩に優しく触れる。
「大切な人が突然消えてしまうことがどんなに辛いか、私も分かるつもりです」
 カイ自身が、そしてカイの主も同じ境遇にあるからこそ、大切な人を喪うその辛さを身にしみて理解している。
 だから無理にとは言わない。カイがするのは、少年の心が落ち着くように手助けをし、寄り添うことだけだ。その手の中でまた玉が転がり、涼やかな音が鳴る。
「妹さんは、私が必ず見つけ出して助けます」
 膝をついてしゃがむとカイは少年と目線を合わせる。目が合えば青い瞳をゆっくりと細めて穏やかに微笑む。
 心に染み通るような優しい声と音。本質は人形であれど人と変わらぬカイの手の温かさに、少年は次第に落ち着きを取り戻していく。
「ホントに? ホントに妹を見つけてくれるの?」
「ええ。だから今は少しでも情報が欲しいのです。はっきりとは見えなくても何かを耳にしたり、気づいたことがあるかもしれません。些細なことでもいいです、どうか教えて下さい」
 辛いことだとは思うが、攫われてしまった人達を助けるためだと、カイは真摯に答える。
 カイの言葉に励まされ、少年は眉を寄せて考え込み……。

「……手。一瞬だったけど、手が見えたんだ」
 ぽつりと一つ呟く。
「手? それはどんな手ですか?」
「霧の中から手が……ええと、体育倉庫のドア、あの両側に開く扉があるだろ。それを開けるみたいに霧をかき分けて、子供が妹を引きずり込んだんだ」
 思い出すのも恐ろしい光景なのだろう。少年の語る言葉は途切れ途切れだった。
 先ほどまで蝉時雨が煩いほどだったのに、音が消えたかのように空気が張り詰める。
 こくりとカイは喉を鳴らし、少年から得た情報を反芻する。
 事前に得ていた情報に黒い手というものは無かった。それに――。

「どうして子供だと思ったのですか?」
「あ、ええと、手が小さかったし、それに子供の声がして……あっ!」
 カイがふと思いついた疑問を口にすると、少年はしばし首を捻り、そして大声を上げる。
「『かわりをもらうね』って声に、黒い手……あれは『胎借り』だ!」
「ハラカリ?」
 聞き覚えの無い妙に不吉で禍々しい響きに、カイは鸚鵡返しに聞き返す。
「あの、最近噂になってる怖い話。学校で流行ってて……でも、オレが聞いたのとちょっと違うんだ」
「どんな話です!? 教えてください!」
 少年が言った『怖い話』という言葉が意味することに思い至り、途端にカイは気色ばむ。
 タタリガミ――この事件を起こしているのが都市伝説を喰らうソレならば、そこに手がかりがあるはずだ。
 その真剣な面持ちに、少年がゴクリと息を飲んで話し始める。

 少年はまた語る――。

 割の良いバイトがあると誘われた若い女が、とある山奥の屋敷を訪れる。
 女は歓待され、屋敷の者から食後に酒や菓子などを勧められる。
 だが、女は何らかの事情で出された食物を口にせず、与えられた部屋で眠りにつく。
 夜中に目が覚め、トイレに行こうと思った女は部屋を抜け出す。
 道に迷った女は、座敷牢が幾つも並ぶ地下室にたどり着く。
 牢から聞こえる呻き声と悲鳴に中を覗くと、そこには臨月のように膨れた胎を持つ女が蹲っていた。
 怯える女の前、牢にいる女の胎が中から裂かれ、赤子のような産声を上げて黒い手が現れる。
 恐ろしくなって命からがら逃げれば、屋敷はどこにも無く女は無事帰ることができた。
 その体験を忘れ、いつしか女は結婚し子供も産まれ……。
 ある日、その子供が行方不明になり、探し回る女の携帯電話に非通知の電話。
「かわりをもらうね」
 電話からはノイズ混じりに幼い子供の声が聞こえたという。

「女の胎を借りて生まれるバケモノだから『胎借り』ですか……」
 真っ青な顔で語り終えた少年を落ち着かせ家まで送り届けてから、カイは聞いた話をまとめていく。
 被害者は女と子供、そして山奥の屋敷――今回の事件と重なる点が多い。
 十中八九、事件を起こしているのはこの都市伝説を拠り所としたタタリガミだろう。
「急がなければなりませんね」
 この話が元ならば、時間が経てば経つほど被害者の命が危険に晒される。
 山に向かう道を急ぎ走るカイの影が、沈みゆく日の光を受けて長く伸びていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

哀川・龍
おれの故郷も山が近かったから
小さいころこういう話聞いた覚えある
だから山行くのめっちゃ怖かった
今も嫌なんだけど聞かなかった事にもできないし

おれは山の方へ行ってみる
『やしろさま』ってやつ
皆に忘れられて寂しいのかもと思うから
気配感知と降霊でそのへんにいないか探ってみる
やしろさま、いますか

答えがあればなんで人を攫うのか聞いたり
できるだけ会話を続けてみる
この霧明らかにやばそうなんだよな
霊的なやつや呪いにはおれ結構強いし
やばげな所には破魔と浄化の護符を貼りつつ進む

ある程度祓えたらUCを使ってみる
一番やばいやつに当たるはずだけど
何に当たるかはちょっとわかんない
敵の拠点に行ければいいけど…
見失わないように追う



 強く降り注いでいた日が傾けば、辺りは茜色に包まれる。
 山から吹く風が夜の冷たさを帯び、木々の間ではヒグラシが薄ら寂しく鳴き始める声が響いていた。
 その声を破り、ガサガサと藪を漕ぐ音が聞こえてくる。

 哀川・龍(降り龍・f43986)の後ろ姿が、道の脇に生い茂る濃い夏草を掻き分け、細く続く獣道を進む。
「小さいころは、山行くのめっちゃ怖かったな……」
 鬼、山姥、山の神……。
 人の手の届かない暗がりには、紛れ込んだ者を獲って喰らう物の怪が潜んでいる。
 幼い頃、故郷で聞いた昔語りを思い出し、龍は身震いをする。
 よく手入れされた木々の間から木漏れ日が差し込む昼間の里山であっても、岩陰や藪の中には、何か得体の知れないものがいるかもしれない。
 幼い子供の目には、本当に暗がりに物の怪の影や音がするように思えたものだ。
 その時感じた感情は大人になった今でも胸中にその残滓として在り続け、草叢に獣や虫が立てるカサという音さえ、心をざわめかせる恐怖という微かな波を立てる。
「嫌なんだけど、聞かなかった事にもできないし」
 足を止めて引き返したいという弱音を振り払うのは、長く灼滅者として戦い抜いた経験。
 臆病風に負けてタタリガミを放置すれば、犠牲になるのは誰かの命なのだから。

 日が山の向こうに消えた薄暗い闇の先、黒い影のようになった木々の向こう側にぼんやりと朱いものが見えた。
 半ば崩れかけ木の地肌を覗かせたそれは、古びた鳥居だった。
 崩れかけた鳥居を潜り、龍は歩みを進める。
 
 ――境界線を潜れば、そこはもう人の領域ではない。

 鳥居を抜けた先は、ぽっかりと空けた空間。
 脇に小さな石灯籠が立つ苔むした石畳のその先に、崩れかけた木造の社が見えていた。
 屋根瓦が所々欠け、かつては鮮やかに塗られていただろう漆塗りの壁は風雨に晒され、くすんだ木の色に変わり果てていた。
「『やしろさま』か……」
 忘れ去られ、訪れる者のない社とそこに在った神を想い、龍は独り言つ。
「皆に忘れられて寂しいのかも」
 ひび割れた木の階段を上がり社に入る龍の足元に、千切れて垂れ下がったしめ縄と灰色に変色した御幣が落ちていた。
 閉ざされていた拝殿の扉に龍がそっと手を掛けると、断末魔のようなギィと軋む音と共に扉が開く。

「やしろさま、いますか」

 中には入らず、扉の先の闇に在るはずのものに向け、龍はそっと声を掛ける。
 暗く深い静寂の中に龍の呼ぶ声だけが通り、そして――。

『……ダァれ?』

 一拍の間を置き、男とも女とも、若いとも年寄りとも分からぬ、奇妙な声が返ってきた。
 声と共に拝殿の中より濃い白が現れ、縋り付くように龍の周りを囲んでいく。

「やしろさま、か?」
 明らかに害意を持って躙り寄ってくる霧に警戒心を崩さぬまま、龍は問いかける。

『ソうダ、ヨ? そウ、ソうソウソぅ……』
 
 木霊のように霧に反響し、声があちらこちらから届いてくる。
「祀られし神が、どうして人を攫うんだ?」
 霧の中の声を神と呼びながら、龍は頭の中で一つ一つ推測を組み立てていく。
 一つ、おそらく目の前のソレは予知されたオブリビオンではない。
 だが、立ちこめる霧と『やしろさま』という名、そこに何かしらの関係がある筈だ。

『ささゲ、もノ、ズットナい。ホシい、ほしィ』

『やまノモノ、ぁゲた。カわ、り……チょおダい……』

 人ならざるモノの調子外れな声が、壊れたレコードのように繰り返される。
 霧は一層濃くなり、もはや自分の爪先すら見えぬほどに周囲を覆い尽くしていた。
 破魔と浄化の護符を構えて浸食に耐える龍の脳裏に浮かぶのは、幼い頃に聞いた昔話。

 とある山に伝わる昔話――。

 あるところに欲深い長者がいた。
 有り余るほどの富が在りながら、長者の欲は限りが無かった。
 そんな長者の夢枕に、ある時、山の神と名乗るものが現れたという。
 神は「自分を祀り捧げ物をすれば恵みを授けよう」と長者に語った。
 長者は、貧しい村人から小作米の代わりに幼い子や娘を取り上げ、神に捧げたという。
 長者の家はどんどん豊かになり、蔵には米と金が溢れんばかりになったという。
 しかし、それから村に子が生まれなくなり、ついには神に捧げられる者は長者の一人娘だけになってしまった。
 流石の欲深な長者も、自分の娘を生贄に差し出すことはできなかった。
 娘を蔵の奥に隠し、大勢の侍で蔵を囲み、神の目を誤魔化そうとした。
 しかし、その夜のこと。
 村に深い霧が立ちこめ、一寸先すら見えなくなってしまった。
 朝になると霧は消え、長者の娘も消えていたという。
 それから村に霧が立つ度、村人が一人ずつ消えていくようになり、いつしか村は無くなったという。

「……そんな話がここにもあったんだろうな」
 護符で霧を打ち祓いながら、龍は小さく呟いた。
「だけどこれは本体じゃない。タタリガミが取り込んだ都市伝説の一部だ」
 龍が目を凝らし周囲の気配を窺うと、立ちこめる霧の白の中に黒い染みのような小さな点が見えた。
「――逃さない」
 気合いと共に九字を唱えれば、龍の指先に挟まれた護符に罪業を断ち切る力が満ちる。
 染みに向かって投げつけた護符は霧を裂き、一直線に黒い染みへと向かって飛ぶ。

 パンッと乾いた音を立てて、護符が弾ける。
 それと共に周囲の景色が変わっていく。

 そこに社はもうなかった。
 龍の目の前には時が止まったかのように静まりかえった村の入口があった。
「たぶんあっちだ」
 車がようやく一台通れるかどうかという細い村道を龍は進んでいく。
 道の脇に朽ちかけた木製の看板があり、消えかけた字で『八代村』と書かれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ナイトメアスパイダー』

POW   :    インビジブルウェブ
見えない【蜘蛛の巣】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    黒脚連撃
【蜘蛛足を用いた連続攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    ヒーティングダイヤ
【赤い眼】を向けた対象に、【虚空より現れるダイヤ型の炎】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:オリヤ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 町の北には、かつて八代村という村があった。
 農業と林業で生計を立てる人々が穏やかに暮らす、何処にでもある小さな村。
 それは進み往く時の流れの中に取り残され、静かに朽ちて消えていくだけの場所であった。

 猟兵達がそこにたどり着いた頃には、黒々とした夜の闇がすっぽりと山全体を包み込んでいた。
 朽ちかけた木製の看板を超え、草木に覆われた細い山道を進めば、山間にひっそりと佇む廃村にたどり着く。
 ひび割れたアスファルトの小道の隙間からは雑草が伸び放題に伸びていた。
 元は田や畑があったのだろう場所は鬱蒼と生い茂る夏草に埋もれて見えず、傍らに点在する家々の屋根は剥がれ落ち、崩れた部分から剥き出しになった梁が覗いていた。

 人がいなくなった村は、不気味なほどに静まり返っていた。
 虫や獣の声どころか気配すら分からぬ静寂の中、聞こえるのは猟兵達の息づかいと足音だけ……。
 
 本当にこの場所にタタリガミが潜んでいるのだろうか?
 そう思った瞬間、何処からか何者かの視線を感じた気がした。
 振り返るとその気配は闇に溶けるように消え、進み始めれば何処からともなく現れる。

 闇の中に何かが潜んでいる。

 尚も歩を進めれば、次第に辺りが白く濁り始める。
 村に巣くうモノを隠すように、猟兵達を招くように……霧は蠢き忍び寄り、静かに村全体を覆い尽くしていく。

 霧の中、ふと何かが動いたような気配がした。
 視界の隅に赤く赤く燃えるモノがチラつき、それは次第に数を増して近付いてくる。

 ガサリ、ガサリ……。

 霧の中、闇に引き寄せられたモノが躙り寄る気配が段々と濃くなっていく。
 そうして――。

 巨大な黒蜘蛛の形をした怪物が霧の中より現れる。
 赤く燃え滾らせた幾つもの単眼が、猟兵達を貪り尽くさんと闇の中より見つめていた。
古郡・言ノ葉
夜の闇…そして霧か。少し視界が悪いのぅ。
この様子じゃと彼方からは見えてそうじゃな。
此方からも全く見えぬ訳でもないが…数的不利もある、ここは少しでも条件を近づけた方が良かろう。
暗視能力か、或いは体温の感知か…まあ、どんな手段であろうと幻惑に取り込むことは出来ようぞ。

妖術・幻惑の霧…これであればウチの位置はそう簡単に見つからんじゃろう。
見つけたと思っても、それが本物のウチとは限らぬからの。
赤く光る眼…攻撃の兆候のようじゃが、位置を特定する機会にもなる。
幻惑の霧の中で走り回りながら、刀で頭部を切断して数を減らして行こうぞ。
蟲は体の節ごとに生きておる…と言っても頭部を切り落とせば長くは持たんじゃろう。



 住む者が絶えて久しい村の中心、かつては畑仕事を終えた村人が集まったのだろう広場は、今は霧の白と闇の黒に塗りつぶされていた。
「夜の闇……そして霧か。少し視界が悪いのぅ」
 その彩の無い二色の中でも尚鮮やかな色彩を纏い、古郡・言ノ葉(里の化け狐・f43726)は悠然と周囲の気配を窺う。
 空に月や星はあれど、重苦しく立ちこめる雲と霧に遮られ、その光は微かなもの。
「この様子じゃと彼方からは見えてそうじゃな」
 周囲には、ガサリガサリと生い茂る雑草を踏み越え近づく不吉な音。霧の中より蠢く音と気配が段々近づいてくることを確かめ、言ノ葉は大きな狐の耳を立てて表情を引き締める。
「数は、ひい、ふう、みい……大分多いの」
 霞み揺らめく霧の中に紛れられれば、視覚による感知は難しい。輪郭を朧気に浮かび上がらせる影の気配を音で探り、状況を確認する。
 数はこちらが不利。さらに暗視能力か、或いは体温を感知できるのだろう。敵は闇と霧をものともせずに着実に此方へと迫り包囲しようとしている。
「ここは少しでも条件を近づけた方が良かろう」
 そう呟くと、言ノ葉は指を宙に奔らせる。
 その指先が描くのは梵字。厄を祓い、加護を授ける力持つ文字が書き記されれば、瞬く間に言ノ葉の周りに神秘的な乳白色の霧が立ちこめ、黒蜘蛛の感覚を惑わしていく。
「妖術・幻惑の霧……これであればウチの位置はそう簡単に見つからんじゃろう」
 霧の中、どこからか言ノ葉の声が聞こえてくる。霧に反響したそれは、距離感すら掴ませることは無い。
 視覚と聴覚を阻害された黒蜘蛛達は、つかの間、関節を軋ませ立ち竦むも、すぐに赤い単眼を光らせると、先程まで獲物がいた場所に向かって飛びかかる。
 ギィと耳障りな声を立て、黒蜘蛛の目が赤く光る。虚空より現れたダイヤ型の炎が巻き起こる先には、赤茶の髪をなびかせる言ノ葉の姿。炎がその身体に食らいつかんと触れた瞬間――。
 ふと、言ノ葉の姿が霧のように消え失せた。
 獲物を見失い燃える目で黒蜘蛛が辺りを見渡せば、数メートル先に言ノ葉が立っているではないか。
「目の前に見える物……真実とは限らぬぞ」
 幽玄にして妙――霧の中に言ノ葉の声が響く。
 怒り猛った黒蜘蛛は顎を振り上げ、今度は噛みつき押し潰そうと迫るも、その顎は空を噛み、蜘蛛の巨体が大きくかしぐ。
 先程まで言ノ葉がいた場所は年月に忘れ去られた用水路。水底に溜まった泥と水草に脚を取られ、蜘蛛の動きが止まる。
「ほれ、こっちじゃぞ!」
 通る声と共に、刀をかざして飛びかかる言ノ葉の姿があった。
 声に向き直った黒蜘蛛が炎を放たんと目を光らせた刹那――。
「……見つけたと思っても、それが本物のウチとは限らぬからの」
 その声がしたのは、黒蜘蛛のすぐ傍らからだった。
 声と同時に言ノ葉は刀に妖力を滾らせ、抵抗する隙を与えず黒蜘蛛の頭を切り落とす。
 飛びかかる姿も声も、霧が見せる幻だ。本物の言ノ葉は霧に隠れ、黒蜘蛛の注意が完全に幻に向いた瞬間を、闇の中で敵の頭の位置を正確に特定できる機会を、油断なく窺っていたのだ。
「蟲は体の節ごとに生きておる……と言っても頭部を切り落とせば長くは持たんじゃろう」
 その言葉通り、頭を切り飛ばされた黒蜘蛛は、しばし無意味に脚を蠢かせていた。だが命令を出す頭が無くてはそれも意味の無い反射に過ぎない。
 ヒュンと刀を振って刃に付いた蜘蛛の体液を振り落とすと、言ノ葉はまた霧の中へと駆け出す。
 霧の中、赤が燃えては消えていく。
 タタリガミが生み出した霧に紛れておこぼれを捕食するつもりでいた黒蜘蛛達は、今や言ノ葉に化かされ狩られるだけの存在になり果てていた。
 霧が晴れれば、雲間から覗く月明かり――。
 青白い光に浮かび上がるのは、藪の中に散らばる幾つもの黒蜘蛛の死骸と、それらに目もくれず村の奥へと進む言ノ葉の後ろ姿だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイヴァ・エレウネラ
うわあびっくりした!

ナイトメアスパイダーがいきなり出てきてボクがびっくりしている間にUCで蜘蛛の巣に巻き取られてしまうよ。

そして動きが鈍ったところに蜘蛛足の連続攻撃を食らってしまうよ!
でもボクも簡単にはやられないよ!
元来のタフネス(【通常攻撃無効/硬化/激痛耐性】)で攻撃を耐えきり隙を見て【怪力】でクモ糸を破って反撃開始!

こちらもUCによる連続パンチでナイトメアスパイダーの軍勢を次々に撃破していくよ!



 しんと静まりかえった夜の廃村は、来る者を拒むように、来た者を帰さぬように、じっとりと湿った霧が立ちこめていた。
 気の弱い者であればすぐさま踵を返してしまいたくなるような道をものともせずに進む人影が一つ。
 いや、それを『人』と呼ぶのは不敬かもしれない。
 そこにいるのは龍の力をその身に宿す女神、レイヴァ・エレウネラ(恐れ知らずな外界の女神・f44350)なのだから。
 月の光すら朧気な霧の中、レイヴァは勝手知ったる通い慣れた道のように鼻歌交じりで歩く。足元に転がる瓦礫を気にも留めず村の奥を目指してずんずん進めば、爪先に当たった小石がカタリ、コトリとの奥へ転がっていく。
 ――コン。
 不規則に音を立てて転がっていた石が、曲がり角にさしかかったところで不意に止まる。
 神たるものはそんな些細なことを気にするものではないと平然と歩むレイヴァの目の前に、突如として黒々としたモノが霧を破って現れる。
「うわあびっくりした!」
 汚れた鋏角からギチギチと耳障りな音を立てるそれは、闇よりも尚黒々とした巨大な蜘蛛の姿。常人であれば見ただけでも慄き竦み上がるような恐怖の象徴を前にして、レイヴァの口から発されるのは単純な驚きの言葉。
「――って、わわ!」
 目を丸くして瞬きをしているレイヴァ。その隙を逃すまいと黒蜘蛛が白い糸を吐きかける。糸は、レイヴァの隠すものなどないと開放的な雰囲気の和服から覗く腹筋と腕を絡め取り、その動きを封じてしまう。
 その巨体で押し潰そうとのしかかってくる黒蜘蛛を、レイヴァは間一髪転がって避ける。
「こんな糸、ボクにかかれば……ぐっ!?」
 山を揺るがす程の剛力を以てすれば糸を引きちぎることは容易いと、転がったまま力を込めるレイヴァのその腹を目掛けて別の黒蜘蛛が脚を振り下ろしてきた。
 またしても転がって躱そうとするレイヴァだったが、最初の蜘蛛に絡まる糸を引っ張られ、逃れることは叶わなかった。並の灼滅者であれば内臓破裂を起こして即死してもおかしくない一撃に、レイヴァは思わずうめき声をあげる。
 八本の脚を続けざまに振り下ろし、時に大顎で食らいついてくる黒蜘蛛共の執拗な攻撃を、レイヴァは身を縮めて受け続ける。叩き付けられる暴虐は勢い余って地面を穿ち、吹き散らされる木っ端に混じり、ちぎられたレイヴァの漆黒の髪が数本、霧の白に溶けて消えていく。
 攻撃を始めてから数刻ほど経ち、動かないレイヴァの姿に蜘蛛共はようやく脚を止めた。
 頭蓋を叩き割り、その脳髄ごと精神を啜ろうと、黒蜘蛛の一匹が前脚を高く振り上げた。
 ――その瞬間だった。
 闇の中、黄金の光輝が二つ顕現する。
「ボクは簡単にはやられないよ!」
 レイヴァがその双眸を見開き、体中に気合いを込めれば、覇気がエネルギーの塊となって迸る。神の力を解放したレイヴァの背から烏色の翼が現れ、絡みついた蜘蛛糸を吹き飛ばしていく。
 ゆらりと龍の覇気を立ち上らせ燃える双眸を輝かせたレイヴァの姿と力。その神聖な力に黒蜘蛛共は押され一歩後ずさる。
「ぶち抜いちゃうよ!」
 レイヴァは大地を蹴って高く飛び上がり、翼をぐいとはためかせると急降下!
 黒蜘蛛共も糸を吐きかけるが、レイヴァがそれらを睨みつけ拳を振るえば、霧よりも軽く討ち祓われていく。
「ボクの一撃は重いよ!」
 龍気のオーラを纏い、敵中に飛び込んだレイヴァは真っ直ぐに正拳突きを繰り出すと、一瞬遅れて風を切る音が届く。
 風よりも速いレイヴァの一撃。
 ただ己の力のみを頼りに正面から繰り出される拳が蜘蛛の頭を叩き潰す。
 仲間が軽々と打ち砕かれたことに、心持たぬ蜘蛛共の群れが慄き体勢を崩す。
 その隙を見逃さず、レイヴァは大地を踏みしめ走り出していた。
 次々と繰り出される拳が叩き付けられる重い音が数度響き、そしてまた静けさが戻る。

 静まりかえる村の中、どこからか明るい鼻歌が聞こえてきた。
 ――次はどんな相手がいるのだろう。
 期待と好奇心に胸を躍らせる若き神の楽しげな声が、村の奥へと流れていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桜雨・カイ
彼と約束したんです。だからここでてこずっている訳にはいきません。

霧で視界が悪い上に、敵は複数。どこから攻撃が来るか分からない。
それならばこちらも浄化の力を付与した【花嵐】による広範囲の攻撃で吹き飛ばしましょう

霧による周囲の見えづらさは、こちらも【念糸】を周囲に張り巡らせて気づかれないように気配を探ります。
近づいてくる敵がいれば糸を絡ませたりして動きを一瞬でも妨げることでフォローしながら、周辺を攻撃します。



 暗い夜に閉ざされた村のを見通せば、崩れた土壁や落ちた屋根の隙間より垣間見える人の営みの跡が物寂しく映る。
 だがその痕跡すら、立ちこめる霧の中に移ろい消えていく。
 何もかもを覆い隠していく霧の中を、足早に駆け抜けていく人影があった。
 とりわけ深く霧が立ちこめる村の奥を目指し、桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は、口元を引き締め真っ直ぐに進む。
 都市伝説の内容を踏まえれば、攫われた犠牲者がすぐに殺されることはない。
 それがわかっていても、カイには急ぐべき理由があった。
「彼と約束したんです。必ず助け出すと」
 呟く声に混じるのは決意。
 怪物に囚われた人の恐怖、攫われた人の無事を願う人の心を想えば、止まることなど考えられなかった。
 人の為に在ることが「人形」としての自分の存在意義だと、自身がやるべきことを見据えて、カイは村奥にあるという屋敷を目指して歩を進める。

 そんなカイの足がふと止まる。
 辺りを包み込む霧の中から漂ってくる気配に、肌を粟立たせるぞわりとした悪寒が走る。
 視界の効かぬ中でも、霧のあちらこちらより隠しきれない害意が伝わってくる。
 カイの爪先からしゅるりと糸が放たれ、霧の中に流れていく。念を込めた糸を辺りに張り巡らせ、糸の動きで敵の動きを探っていく。
 糸に触れたその感触を辿れば、一番近いのは北東に一匹、南に二匹。それ以外はまだ少し距離はあるが、四方を取り囲むように無数の蜘蛛共が迫ってきていることが分かる。
「霧で視界が悪い上に、敵は複数。どこから攻撃が来るか分からない……」
 現状を理解し、カイは次の手を考える。
 おそらく敵はこの霧に紛れて襲いかかってくる。距離を取りながら一体ずつ引き寄せて相手をすれば決して苦戦をする相手ではないだろうが、それでは時間がかかりすぎる。
「ここでてこずっている訳にはいきません」
 時間を掛ければ、攫われた人々にどんな危険が及ぶか分からない。
 この世界の人々の肉体は比較的強靱だとはいえ、それでもその心は人のもの。
 脆く儚い心が傷つかぬよう、なるべく早く撃破して進むべきだと結論づけ、カイは動く。
 懐から桜色の扇を取り出し、はらりと開けば、封じられた四大元素の精霊達が紅の花びらと化してカイの周囲に広がっていく。浄化の力を付与した紅花が巻き起こす花嵐が、闇を吹き散らし、霧の中に潜む黒蜘蛛を次々に切り裂いていく。
 桜の嵐に幾匹かの蜘蛛が脚や眼を切り裂かれて動かなくなるも、それでも仲間を盾にして当たり所が軽かった数匹はまだ健在だ。懐に潜り込めば花嵐とて当たるまいと、ギチギチと顎を鳴らして、飛びかかってくる。
「させませんよ」
 対するカイの声は穏やかだ。
 闇の黒、霧の白の中に、桜の紅と瞳の碧が浮かび上がり、揺らぐ。
 ギィと軋んだ耳障りな音を立てて、黒蜘蛛達が動きを止める。
 糸を使い敵を絡め取るのは蜘蛛だけでは無い。
 カイの手より走らせた念糸は結界のように周囲に陣を敷き、踏み込んだものの脚に絡みつき、その動きを封じていたのだ。
 敵を絡め取る糸を操る手と逆の手を振るえば、周囲に放たれていた念糸が引き寄せられる。
「桜のように――」
 カイの声に糸が桜の花びらの連なりへと変わり、ぱっと花が散るように宙に舞う。
 紅の塗られた爪をクイと動かすと、その手の動きに合わせて花びらが一点を向く。
 その先にあるのは糸に絡め取られていた黒蜘蛛の身体。
「舞い散らします」
 花びらを操る手を握り、糸を強く引けば、そこにあるのは妙なる死の桜が一叢。
 吹き荒れる紅色が黒蜘蛛の身体を切り裂き、その命を刈り取っていく。

 桜の花びらが一片、闇の中に溶けて消えていく。
 まもなく中天にさしかかろうとする端が少し欠けた月を見上げ、カイは息をつく。
 都市伝説で屋敷に誘われた女が目を覚ましたのは、丁度この時分だろうか。
「あまり猶予はありませんね。急ぎ屋敷へと向かいましょう」
 糸を引き寄せると、カイは月に照らされた小道を進んでいくのだった。    

大成功 🔵​🔵​🔵​

唯手・聖香
アドリブ・連携歓迎
(最終的には例の屋敷を目指すとして。周囲に影響の少なそうな方向は......)

降らせる矢群のおおよその位置を想定して、進行方向の斜め上空に向かって矢を射ちます。その後は敵をその方向に引き付けて、弓が降り止むまで全力疾走。
『癒しの光よ降り注げ』
「これで回復に攻撃と相殺出来ないか?」
降り止んだところで足を止める。
逃れた個体はいるだろうから、光の矢を射ち込んで仕留めていく。

「さて、ここからどう行けばいいかな」



 視界を覆い隠すような闇と霧。夏草生い茂る暗い小道を、唯手・聖香(ミルトスの唄い人・f44046)はタタリガミがいるという屋敷を目指して進んでいた。
 進む聖香の背後、霧の中にぼわりと赤い眼が浮かび、揺らぐ。
「――ッ!」
 気付いた聖香が振り返ること無くパッと横に飛ぶ。くるりと前転すると崩れかけた物置小屋の壁の影に身を隠す。
 直後、それまで聖香がいたその場所に菱形の炎が現れ、踏み折られたススキの葉が白い煙を立て燃え尽きる。
 状況に顔をしかめ、壁の影から聖香は村の奥に視線をやる。
 文献で見た八代村の地図に依れば、タタリガミがいるはずの屋敷はこの道の先。だが、その道の周囲の霧の中に幾つもの赤い眼が蠢き、忍び込もうとする獲物を待ち構えていた。
「こいつらを倒さなければ先に進めなさそうだな」
 できるだけ消耗は避けようと思っていたが、この状況では仕方ない。
「最終的には例の屋敷を目指すとして。周囲に影響の少なそうな方向は……」
 壁の影から素早くチラと様子を窺い、蠢く黒蜘蛛らが手薄な箇所を探る。
 悠長に一体ずつ倒していたのでは時間がかかりすぎる。
 とはいえ、無差別に広範囲攻撃をするわけにもいくまい。聖香の能力は半径百メートルにも及ぶ広範囲。方向を考えねば屋敷に囚われている人達が巻き込まれるかもしれないのだから。
「東側は多少包囲が薄いか。そちらに引きつけてから撃てば……」
 覚悟を決め、聖香は物置小屋から飛び出す。わざと音を立てるように走れば、その背後から身の毛もよだつような不吉な音が複数追いかけてきていた。
 目論見が当たったことに心の中で頷きながら聖香は走る。躱しきれない炎が聖香の上着の裾を焦がしたが、多少のダメージは想定内だと堪える。
「このくらいで大丈夫だろう」
 立ち止まり振り返れば、目の前には口から牙と涎を迸らせながら迫る黒蜘蛛の群れ。
 悪夢の様な光景に怯むこと無く、聖香は真っ直ぐ敵を見据える。
 
「――Blowing up」
 能力を解放する言葉を口にすれば、瞬時にその手の中に愛用の天星弓が現れる。
 かつての大戦以来使うことが無かった久しい感覚に軽い懐かしさを覚えながら、聖香は水晶化した左手を弓の弦に添える。
「癒しの光よ――」
 溢れる光が風になったかのような細工が施された流線型の弓を斜め上に構えて、聖香は弦を引き絞る。
「降り注げ」
 言葉と共に矢を放てば、萌黄色の裁きの光条が一筋の矢となり、宙で分かれた煌めきが流星の如き軌跡を描いて周囲に降り注ぐ。
 降り注ぐ光の中、黒蜘蛛らの中央を抜けて聖香は真っ直ぐに駆け出す。退魔と浄化の光は、黒蜘蛛のみを正確に撃ち抜いていく。
 黒髪をなびかせ、聖香は光に貫かれて苦悶の呻きをあげる蜘蛛の脇をすり抜けていく。
 黒蜘蛛が聖香の進行上に炎を放ち、吹き上がる炎の壁で動きを止めようとする。
 ジュウと肉が焦げる痛みと刺激臭に顔をしかめるも、聖香はそれに構わず駆け抜ける。
「これで回復に攻撃と相殺出来れば――」
 降り注ぐ光源の矢に身を晒せば、聖香が身体に受けた傷が瞬く間に癒えていく。
 悪しきものを滅ぼし善なるものを救う光の特性を利用し、聖香は走る。
 倒れた黒蜘蛛の間を過ぎ去り、走って、走って――。
 光の矢が降り止んだその時、聖香は足を止めた。
 あれだけいた黒蜘蛛らは、その多くが地に倒れ伏し、かろうじて致命傷から逃れたものも深く傷を負い、その動きを鈍らせていた。
 振り返れば、光の矢をつがえ――放つ。
 聖香の指先が離れる度、一条の光が闇と霧を切り裂いていく。

「さて、ここからどう行けばいいかな」
 怪物が動かなくなり静けさが戻った村の中、聖香がすっと背筋を伸ばして佇んでいた。
 霧と闇は退魔の光に吹き散らされ、雲の切れ間から伸びる月光が行く手を照らし出す。
 道の先にうっすら浮かび上がる黒々とした影、あれが目指すべき場所だろう。
 冷静に判断し、聖香は村の奥に向かって歩きだすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

哀川・龍
やしろさま…八代様…か
さっき視えたのはなんだったんだろう
もうここには社も残ってないってこと?
この感じじゃ壊れても直す人いなかっただろうし
あまり大切にされてなかったのかもな

村の資源を奪って発展した地方都市と
さびれた故郷を見捨てて出ていく村の若者たち
うーん、新潟県民的にもあんま他人事じゃないかも…
小さい頃に聞いた昔話にも似てるし
攫われた人もだけど取り込まれた神様も助けたいよな

敵こわ…とりあえずUC使おう
結界術で攻性防壁の中には入ってこれない筈だし
中の敵には破魔と浄化の力でダメージを与える
ある程度攻撃を受けるのは仕方ないから
そこは霊的防護と回復でカバー
あの赤い眼がなんかやだな
護符を投じて集中攻撃する



「やしろさま……八代様……か」
 分厚い雲に隠されて月の光すら朧気にしか見えない闇夜。
 闇に目を凝らし、道端にある木製の看板を見れば『八代村』という文字。
「さっき視えたのはなんだったんだろう」
 哀川・龍(降り龍・f43986)が振り返るのは、この村の名前と同じ音を持つ神。
 先程まで在ったはずの崩れかけた社はもう何処にも無かった。
 タタリガミがいるのはきっとこの先だろうと村の道を進めば、見えるのは社と同じ忘れられた過去の営みの跡。
「もうここには社も残ってないってこと?」
 崩れ落ちて柱が剥き出しの壁の一部や屋根の抜けた小屋は物悲しく、破れた戸板が夏の生ぬるい風に吹かれて恨みがましくキイキイと軋んでいる。
「この感じじゃ壊れても直す人いなかっただろうし、あまり大切にされてなかったのかもな」
 ――生活の場を移したとして、せめて社の手入れくらいしても良いだろうに。
「うーん、新潟県民的にもあんま他人事じゃないかも……」
 事情があるのだろうと思いつつも、つい自分の故郷と重ねてしまい、龍はふぅと小さくため息をついた。
 都会が華やかに光を放つその影で、地方は緩やかに奪われ続けていく。
 食料を、資源を、そして人を……。
 地方で育った者ですら、奪われ寂れていくだけの故郷を見捨てて出て行ってしまう。
 奪われ消えゆくものは、形あるものだけに留まらない。
「攫われた人もだけど、取り込まれた神様も助けたいよな」
 忘れ去られることと、歪められてしまうことは違う。
 あれが本物の神ではなく、タタリガミに取り込まれ歪められた物語から生まれたものだとしても、本来ここに在った形を取り戻してやりたい。龍はそう思うのだった。

 物思いにふけりながら道を往けば、突如足元を冷たく塗れる感触が伝う。
「さっきの霧と同じだ、やしろさまはここにいる……」
 何処からともなく漂い纏わり付く白を蹴り上げれば、霧はゆらりと揺らめき溶けていく。
 先程の社でのことを考えれば、きっとこの霧の中から……。
 悍ましい予感に龍が振り返れば、霧の中に幾つもの赤い眼が見える。
 霧に目を凝らせば、獲物をその単眼に捉えた大蜘蛛が八本の脚を蠢かせている。
「敵こわ……とりあえず結界張ろう」
 悪夢を体現したような悍ましい巨大な蜘蛛の姿に身震い一つし、龍は懐から邪なものを遠ざける塞の神ノ符を取り出し、五芒星型に放つ。
 獲物が動いたことに興奮した黒蜘蛛がその多脚で地面に穴を穿ちながら迫ってきた、龍が五星結界符を発動させる方が早かった。
 結界術によって作り出された攻性防壁が脚の一本だけを残して黒蜘蛛の侵入を防ぐ。
 防壁内に残された脚が、瞬く間に破魔と浄化の力で萎れ崩れ落ち、脚を失った黒蜘蛛が大きくのけぞる。
 他の黒蜘蛛は、防壁の周囲をグルグルと回って威嚇音を立てたり、無理矢理に防壁を突破しようとして阻まれ外骨格をヒビ割れさせたりしていたが、その脚が結界内の龍に届くことは叶わない。
 龍がほっと一息つこうとした時だった。
 周囲の蜘蛛が一斉に頭をもたげ、その赤い目を光らせていた。
「あの赤い眼、なんかやだな」
 嫌な予感は当たるもの。
 とっさに護符を投げつけ、黒蜘蛛の一体の眼を潰したその時――。
 龍の周りに幾つもの赤い菱形の炎が現れる。
 中に入れないのならば遠距離から押し潰すと蜘蛛共が放つ炎の海の中、龍が倒した一匹の分だけ小さな隙間が空いていた。
 霊的防護と結界の加護で身を守りつつ、龍はくるりと前転してその隙間に飛び込み、続けざまに符を投擲する。
 霧の中にパンと弾ける音が響く度、辺りを覆う炎が少しずつ小さくなっていく。
 周囲に動く物がいなくなったことを確認し、龍は結界を解除する。
「あとは……あっちだな」
 端の欠けた月が中天を超える深夜の村を、漂う邪の気配が濃くなる方へ龍は進んでいくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『呪われし幼子』

POW   :    電子の海より出ずるもの
自身と武装を【電子のノイズ】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[電子のノイズ]に触れた敵からは【血液と生命力】を奪う。
SPD   :    禍罪を纏いしもの
【常に纏う呪いの影】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    望まれしもの
視界内の任意の全対象を完全治療する。ただし対象は【精神を恐怖】に汚染され、レベル分間、理性無き【《呪われし幼子》の信徒】と化す。

イラスト:安子

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は柳・依月です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 崩れた石垣が両脇に並ぶ暗い村の小道。
 下草や倒木が立ち塞がる歩きにくいことこの上ない石畳の道を猟兵達は進んでいく。
 不思議なことにあれほど立ちこめていた霧は一欠片も無く、生ぬるい夏の夜風が草木を揺らすざわざわとした音と、猟兵達の足音だけが響いていた。
 山間の木々に覆われた村の最奥にたどり着くと、不意に視界が開けたような感覚がした。
 目の前に見えるのは城郭と見まごうばかりの威圧的な石垣とその上にそびえる楼門だった。
 時の流れに忘れられた村の家々とは異なり、屋敷は今でも何者かが潜んでいるかのように不気味なまでに手入れが行き届いていた。石畳の階段を上り楼門へたどり着くと、切妻屋根の下に閉ざされていた木の扉がギイ……と、ひとりでに開いた。
 暗闇の奥へと誘うかのように冷たく開け放たれた門の先には、闇の中うっすらと浮かぶ母屋の玄関に続く道。

 境界を越えれば、そこはもう魔の潜む場所だ。
 門を超えて進む猟兵の背後で、音も無く扉が閉ざされる――。

 先程まで夏の熱を感じさせていた空気が変わったような気がした。古びて腐った木の黴臭い粘りすら感じさせる臭気が鼻を突き、冷たさすら感じさせられる風が肌を粟立たせていく。
 屋敷の中、コの字型の板張りの廊下は灯りも無く真っ暗な筈なのに、ぼんやりとその輪郭を浮かび上がらせていた。

 廊下のその奥、一際闇が深いその先に扉が一枚。
 木製の日本家屋には不釣り合いな、重苦しい鉄の扉を開く――。

 ギシギシと軋む階段を下りれば、生臭い腐敗臭が漂う廊下。
 廊下の脇には格子の嵌まった部屋が幾つも並び、悍ましい呻き声が中より響いてくる。

 ズイと、格子戸の中から白いものが伸ばされる。
 痩せ衰え汚れたそれは、女の腕。
 助けを求めるように伸ばされた腕に、猟兵が駆け寄ろうとしたその時――。

 ザザ……ザ……とノイズが走る。

 絹を裂く凄まじい絶叫が響き、伸ばされていた手が格子の中へ引き戻されていく。

 クスクス、クスクス……。
 廊下の先より聞こえる小さな子供の笑い声。
 声の方へ視線を向ければ、闇の中に浮かび上がる小さな人影。

 神隠しに遭った子供、人身御供として捧げられた子供、口減らしにあった子供。
 どの語りでも共通する犠牲者は子供。

 七歳までは神のうち――。

 犠牲となった子供はこの地にあった神の伝承と結びつき、混ざり合い、捻れ合う。
 人に紛れ、人を誘い、人を害するその性質は、幾つもの伝承を食い散らし取り込んだ|物語《タタリガミ》そのもの。
 ソレが表すのは幾多の怨念と呪いを纏う子供の姿、タタリガミ『|呪われし幼子《やしろさま》』――。

「山のものは神のもの……かわり、ちょうだい……」
 口角を持ち上げ、ニィと笑うその口の中も漆黒。
 暗く闇く昏く冥く、深淵の底より黒い瞳が見開かれ、猟兵達を捕らえる。
 ノイズ混じりの霧。その周りに蠢く闇が形を取り、漆黒の手が伸ばされる。

「かわりをもらうね」
 生ある者を呪い、その生命を奪わんとする呪いの声が闇に響いた――。
古郡・言ノ葉
タタリガミか。神にせよ、物の怪にせよ、存在を信じる人の心を自身の存在の基盤にしとる。
この世界では都市伝説、とでも呼ぶのかもしれぬが…本質は何時の時代も変わらぬな。

活動の痕跡を残す事で自身の存在を信じさせる…それは物の怪の類の常套手段じゃからの。
逆に言えば何事もなく子供達が家に帰りつけば存在を信じる心は薄れるじゃろう。
影の攻撃諸共、妖術・影縫の矢で縫い留めようぞ。
その間に格子戸を切断して子供達を救出してやろう。

とは言え、帰り道も危険を伴いそうじゃな。
よし、妖の巻物に霊的防護の力を込めて子供達に貸してやるとするか。
実は物は無くとも良いが…目に見える物があった方が信じる心は持ってもらいやすいからの。



 暗闇に閉ざされた地下通路の先で、クスクスと怪物が嗤う。
「タタリガミか……」
 地下通路に染みついた腐った血と肉の腐臭に、古郡・言ノ葉(里の化け狐・f43726)は尖った鼻先に皺を寄せて呟く。
「神にせよ、物の怪にせよ、存在を信じる人の心を自身の存在の基盤にしとる」
 耳を立てて通路の左右に並ぶ牢の気配を探れば、その幾つかから小さな子供が啜り泣く声が聞こえてくる。
 攫われた者がまだ生きていることに安堵しながら、言ノ葉は大きく尻尾を振る。
「この世界では都市伝説、とでも呼ぶのかもしれぬが……本質は何時の時代も変わらぬな」
 物語には攫われた子供がどうなったかは語られていない。
 食うためでも、苦しめるためでもなく、物語の通りにただ攫って隠すだけ。その後のことなど|物語《タタリガミ》が関与する事では無いのだから。
「活動の痕跡を残す事で自身の存在を信じさせる……物の怪の類の常套手段じゃの」
 自身も妖であるからこそ、言ノ葉はその目的にたどり着く。
 
 今回の事件に共通するのが、必ず目撃者がいるということ。
 霧の中という異常な状況で、父の前で子を、兄の前で妹を、恋人の前で女を攫う。
 目の前の|物語《タタリガミ》は、人を攫うことが目的では無いのだ。
 |物語《タタリガミ》は語られなければ存在できない。
 だからこそ、語られるために目撃者の前で人を攫うのだ。

「逆に言えば、何事もなく子供達が家に帰りつけば存在を信じる心は薄れるじゃろう」
 正体を看破した言ノ葉の頭に浮かぶのは、根源的な対応策。
 全人類がサイキックハーツに進化し死を克服した世界では、人々が怪異を恐れる心は事故や病気に感じる物理的な恐怖と似ているかもしれない。
 故に、『攫われた者が全員無事に帰ってきた』という結末で上書きしてしまえば?
 タタリガミの存在を完全に消し去ることはできずとも、その力を大きく減ぜられるだろう。

 境界を越えれば、そこはもう物の怪の領域――。
「ちょうだい、ちょうだい……」
 領域を侵した者を隠そうと、呪われし幼子が身に纏う呪いを言ノ葉に伸ばそうとした。
 だが結論にたどり着いた言ノ葉が動く方が速かった。
「しばし……その場に留まってもらうぞ?」
 呪われし幼子と牢の間に立ち塞がると、ふさふさとした赤い尾を火柱のように立て、妖力を込める。
 言ノ葉が妖力のこもった尻尾の先を大きく膨らませると、その先から無数の赤い矢が放たれる。狐火のように赤い軌跡を描いて飛ぶ『妖術・影縫の矢』が、呪われし幼子が伸ばす影の腕を居抜き、縫い止め、飲み込んでいく。
 矢に込められた妖力が呪われし幼子が纏う呪いを穿ち、黒い身体を床板と壁に貼り付ける。
「今じゃ!」
 呪われし幼子が苦悶の声を上げて止まったその隙に、言ノ葉が握る日本刀が煌めく。
 闇の中で白く輝く刀身が閃いたかと思うと、その周囲の牢の格子戸が切り裂かれ、カランと乾いた木がぶつかる音を立てる。
 牢の闇の奥に蹲る小さな人影に、言ノ葉が駆け寄れば、「……おねえ、ちゃん?」と掠れた声と共に抱きついてくる幼い子供が二人。
「よく頑張ったのう。大丈夫じゃ、もう大丈夫じゃからの」
 ぽんと頭を撫でて優しく語りかければ、子供達は安心から瞳を潤ませて泣きじゃくる。
「じゃがその前に……」
 しゃくり上げる子供の肩を抱いてあやしていた言ノ葉の眼がキュッと鋭く尖る。
 油断なく軽快する言ノ葉の視界の端に、黒い影がじわりと滲みはじめていた。
 縫い止めていた呪われし幼子の身体から、呪いが溢れ出しているのだ。
「すぐにここから逃げるのじゃ……とは言え帰り道も危険を伴いそうじゃな」
 ここは闇と呪いが立ちこめる魔の領域。子供だけで帰すのは危険だと判断した言ノ葉は、懐からしゅるりと巻物を取り出すと防護の力を込めて子供達に渡す。
「これがお主らを守ってくれる。しっかり持って逃げるんじゃぞ」
 言ノ葉の声に、子供達はギュッと巻物を抱きしめて大きく頷く。
 防護の力を子供達に掛けることもできたが、目に見える物がある方が信じる心を持ちやすいからという配慮だが、その目論見は上手くいったようだ。
「ここはウチに任せて……さあ、走るのじゃ!」
 牢から飛び出した言ノ葉は、影より伸ばされる呪いの手を切り払いながらタタリガミへ向き直る。
 
 言ノ葉の背後で、二つの小さな足音が遠ざかっていく。
「かわり、かわりをちょうだい……」
 呪いを伸ばす呪われし幼子の闇よりも尚昏い漆黒は、逃げる獲物には目もくれず言ノ葉だけを見つめていた。
「お主にくれてやるものなぞ何も無い。語りの中で大人しくしておれ」
 そう静かに言い放ち、言ノ葉は刀を振るい子供達が逃げるまでの時間を稼ぐのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桜雨・カイ
※【灯華】:ぴぃと鳴く妖怪の子

お待たせしました。あなた(子供)達の帰りを待っている人がいます。おうちに帰りましょう。

【灯華】さんお願いです、子供たちを連れてここから離れてください。
呪う神あれば救う妖怪もいます。子供たちに残る物語が、どうか辛いものだけにならないように。

そして……やしろさま、もう終わりましょう
あなたが纏った(取り込んだ)怨念と呪いも解放してください
【浄化】と【祈り】を込めたUC【想念糸】をはりめぐらします。感知が不可能でも、触れることができれば自在にからめとる事は可能です。
ダメージは【聖痕】で回復しつつ、動きを止めることで猟兵や子供たちを守ります。



 粘着質の黒を出鱈目に垂らし塗りたくったような闇の中に、女の子がひとり蹲っていた。
 数歩先、持ち上げた時分の手すら見えぬ黒、黑――闇の中。
 死を克服したこの世界で飢えて死ぬことはないが、それでも空腹は感じる。暗闇とひもじさに啜り泣いて助けを求めても、返ってくるのはクスクスと嘲笑う声と、闇のあちらこちらから聞こえてくる身の毛もよだつ呻き声だけ。
 泣く気力もなくし、牢の隅で膝を抱えて蹲るその前――。
 
 何処までも続くと思っていた闇。そこに白く亀裂が入ったような気がした。

「お待たせしました」
 シュッと伸びる白い光のような糸が古く腐りかけた木の格子戸を破る。
 幾日ぶりだろうか、黒以外の色と温かな声に、女の子はうっすら眼を開けて顔を上げる。
 そこにいたのは桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)の姿。端正な顔に穏やかな笑みを浮かべた青い双眸が、柔らかな光彩を放っていた。
 久方ぶりに見る人の姿。今すぐ助けを求めて縋り付きたいのに身体が動かない。
 晒され続けた強い恐怖に疲弊し、目を見開いて涙をこぼすばかりの女の子。
 その相貌には見覚えがある。
 ――必ず見つけ出して助けます。
 そう約束したあの少年の面影を映すその顔に、この子が彼の妹だろうとカイは思う。
 年端もいかない子供の痛ましい姿に、どれほど恐ろしい思いをしたのだろうかとカイは心を痛ませ、唇を噛む。
 駆け寄り膝を突き、カイは優しく女の子の身体に腕を回す。冷え切った小さな身体を温めるようにその背を抱きしめ、頭を撫でる。
「あなたの帰りを待っている人がいます。おうちに帰りましょう」
「……おうち、かえれ……る……?」
 絞り出すように女の子が声を上げると、真摯な表情を浮かべるカイと目が合う。押さえ込まれていた感情が溢れ出し、女の子は火が付いたように泣きじゃくる。
「ええ。あなたのお兄さんと約束しましたから。必ず助けると……」
 ぼろぼろと頬を伝い落ちる女の子涙をそっと拭ってやりながら、カイは表情を引き締める。

 ……ザザ、ザ……と、壊れたディスプレイのように視界の端にノイズがちらつく。
 闇の中よりクスクスと嗤う子供の高い声が聞こえる。

「あまり悠長にしている時間はなさそうですね」
 攫った獲物が逃げる気配を感じ、|物語《タタリガミ》が忍び寄ってきているのだ。

 カイがすっと手を振れば、温かい緋の色がほわりと暗闇の中に浮かび上がる。
「灯華さんお願いです、この子を連れてここから離れてください」
 カイの願いに、薄く透ける鬼灯を纏った妖怪の子 『灯華』が頷き「ぴぃ」と鳴く。
 小さいとはいえ見慣れぬ妖の姿に、女の子はびくりと身体を震わせる。
「大丈夫。この子は私の友達です。ほら……」
 カイが掌を開いて上に向けると、灯華がくるりと宙返りしてそこに飛び乗る。尻尾を振って「ぴぃぴぃ」と鳴く灯華の周りを小さな火の粉が照らしては消える。
「ね? あなたともお友達になりたいって言ってます」
 カイの言葉に、灯華が小さな両手を差し出し、女の子の指をちょんと握って握手をする。
 愛くるしいその仕草に、女の子も安心したように表情を緩める。まだ笑顔を取り戻すまでには至らないが、少なくとも恐怖は大分収まったようだ。
「この子について行けば出口にたどり着けます。行ってください」
「お兄ちゃんは?」
「大丈夫です。後から私も行きますから、村の外で待っていてください」
 微笑むカイに促され、女の子が立ち上がる。その足元で灯華がぴょんと跳ねる。
 
 赤輝血の光を放つ導きの提灯に先導され、光に向かって進む足音が段々小さくなっていく。
「呪う神あれば救う妖怪もいます。あの子に残る物語が、どうか辛いものだけにならないように。そして……」
 背中越しにそれを見送り、カイは闇の先を見据える。
「やしろさま、もう終わりましょう」
 カイの呼ぶ先にあるのは、形を持たぬ電子のノイズ。
 音を、文字を、そして0と1の電子の集まりを喰らった、|物語《タタリガミ》が蠢く。
 周囲の闇の中より、黒い呪いの腕が伸ばされカイの身体に絡みつく。
 氷を当てたかのように触れた箇所から熱を奪い、蛭のように取り憑き血を啜ろうとする黒を振り払い、カイはその手から糸を伸ばす。
「あなたが|纏った《取り込んだ》怨念と呪いも解放してください」
 人が畏れ愛した物語に巣くう魔を浄化し、愛する者の無事を願う人の祈りを――集め、撚り上げ、糸にする。守ると誓った想い込めて、糸を爪先で手繰れば、しゅるりと籠目に編まれた結界が闇を包み込んでいく。
「この糸は想いが紡ぐ糸。たとえ感知が不可能でも、触れさえすれば絡めとります」
 カイの伸ばす想撚糸の先、正六角形と正三角形を組み合わせた六芒星が魔を払う。
 糸はタタリガミに歪められた物語を絡め取り、動きを封じるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイヴァ・エレウネラ
常時適用:【通常攻撃無効/硬化】

「山のものは神のもの」?
ボクも分類上は神だけどそんな事始めに知ったよ。
まあそんな事は兎も角、拐った人達は返してもらうよ!

電子の霧がかなり厄介そうだね。
でもボクに小細工は通用しないよ!
UCを発動して物理攻撃以外の影響をシャットアウトするよ。
キミの攻撃手段は呪いや精神汚染によるものが多いからこれで粗方防げるかな。

電子の霧に隠れた敵は『龍眼(アイテム)』を複数召喚して、【索敵】するよ、
そして、見つけ次第懐に飛び込んで【怪力/連続コンボ/グラップル】で格闘攻撃!
もちろん霧の効果はUCで無効化するよ!

拐った人達を無事に返さないと許さないからね!



「『山のものは神のもの』? ボクも分類上は神だけどそんな事初めて知ったよ」
 空気を黒で塗りつぶしたような闇の中。
 攫われた人々が啜り泣きと苦悶の声が響く地下牢の中にあってしても、レイヴァ・エレウネラ(恐れ知らずな外界の女神・f44350)は普段と同じ快活な口調を崩さない。
 他に動ぜぬレイヴァの在り方は、物語を取り込み自身を変質させることで力を高めるタタリガミの性質とは真逆。闇の中に揺れることなく、ただ己の在り方を肯定する。
「兎も角、拐った人達は返してもらうよ!」
 グッと拳を突き出し、握りしめる。
 燃える眼に気迫を滾らせてレイヴァが見つめる先には、闇に溶けるように蠢く小さな幼子の姿。
 光の無い双眸の奥から、何処までも続く深淵を蠢かせ、|呪われし幼子《やしろさま》もまたレイヴァを覗き込んでいた。

「かわジッ……もザザッ……う…………」
 呪われし幼子の口から電波の悪いラジオのようなノイズ混じりの声が漏れる。同時に闇を構成していた色がブレ、地下牢の光景を歪ませていく。
 ノイズが走る度、呪われし幼子の姿が現れては消えていく。
「電子の霧がかなり厄介そうだね」
 ちらつく景色の中、レイヴァは敵の姿を眼で追う。
 ノイズがレイヴァの身体に纏わり付く。この空間にいる者でさえ電子機器のディスプレイに映し出される景色だと思わせるように、チラつくノイズで構成された呪いの腕がレイヴァの存在を揺るがそうとしていた。
 レイヴァのその強靱な身体を以てすれば、皮膚から血を吸われることは防げる。
 だが、ノイズの形を取る呪いは、レイヴァの生命と存在そのものを奪おうと蠢いていた。
 ノイズの中、レイヴァは軽く目を閉じる。
「目をつぶってもノイズが見える。キミの攻撃手段は呪いか精神汚染……そんなところだね」
 正体が分かれば対応もできる。
 獲物の動きが止まったと呪われし幼子が伸ばしてくる呪いの腕を、レイヴァは精神を集中させて身体の周りにオーラの防御壁を張り巡らせて防ぐ。
 レイヴァが予測した通り、呪いは彼女の神衣にはじき返され、行き場を失って闇に弾けて消えていく。
 推測が当たったことに満足気にレイヴァは頷き、拳を握った手を闇に突き出す。
 ぱっと手を広げれば、その手の中には黄金に輝くエネルギーの塊があった。
「ボクに小細工は通用しないよ!」
 気迫と共に咆哮すれば、異界より降る神の力が怒濤のようにレイヴァの身体に満ちていく。
 滾る力がエネルギーとなってほとばしり、レイヴァの周りを取り囲むように浮遊する。
 全方位を金に照らす光の塊は、異界より全てを見通す龍眼。
 見ることも触れることも叶わない呪いであるなら、その空間ごと見張り、揺るがし、消し去ってしまえばよい。

 ただ己の力のみで真正面よりぶつかろうとする姿は、まさしくレイヴァが神で在ることの現れだ。
 対して、レイヴァの眼の前にいるものは、『やしろさま』という神の伝承を取り込んだ物語の集合体に過ぎない。
 どれだけ策を弄し、その姿を闇に隠したとしても。
 どれだけ強い物語を取り込んだとしても。
 たとえ過去より蘇ったその力が神を凌駕していたとしても――。
 物語は真に神たる者の真っ直ぐな在り方を揺らがすことはできないのだ。

「そこだね!」
 何処までも続く地下通路の先、前方に展開した龍眼が一際激しく光を放った。
 光は|物語《タタリガミ》が創りだす闇を見通し、打ち祓っていく。
 闇が祓われた先にあるのは、呪われし幼子の本体。その身体の奥から染み出す呪いの影を身に纏わり付かせるも、それはレイヴァの龍眼が放つ光に次々と打ち消されていく。
「拐った人達を無事に返さないと許さないからね!」
 神を僭称する|物語《タタリガミ》へと、レイヴァは翔る。
 光に打ち消されながらも呪いをノイズに変え、呪われし幼子が尚もレイヴァに迫ろうとした。
 だが、それに怯むことなくレイヴァは愚直なまでに真っ直ぐに突き進む。神の力をその身に降ろしたレイヴァの身体は呪いを弾き返し、悉くを霧散させていく。
 天より落ちる流星のようにレイヴァの身体が舞い、呪われし幼子へと肉薄する。
「異界の神の力、キミに見せてあげる!」
 一閃! レイヴァが右の拳を突き立てる!
 拳に纏うオーラが渦を巻き、空間ごとノイズを弾き飛ばす。
 右拳が取り込んだ物語の一部を祓った直後、左拳による二の打が放たれる!
 次の一撃は相手の動きを押さえ込むもの。
 左手の鋭い一撃が突き刺さり、呪われし幼子の身体を壁にめり込ませ、貼り付ける。
 呪われし幼子の動きが止まったところに、すかさず両の拳を撃ち込んでいく。
「これで終わりだよ!」
 レイヴァが繰り出す一撃が、流星が大地を穿ち吹き飛ばすように幼子を吹き飛ばすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

哀川・龍
七歳までは神のうち、って
確かに昔はそういう言葉もあったかもしれないけど
今の時代はもう違うんだよ…『やしろさま』
子どもたちはおまえのものじゃないし親や大人のものでもない
小さくてもちゃんと自分の命を生きてる

ノイズになっても気配感知で
どこにいるかは何となくだけどわかる気がする
護符に霊的防護と呪詛耐性を纏わせて身を守りつつ
UC使って破邪攻撃で除霊するな
破邪は邪説を打ち破って正しい道理に戻すための力
子どもたちはもちろんだけど
おまえが取り込んだ物語もきちんとこの町と村に返して

うーん
捧げものを持ってかせる訳にはいかないけど
山のものを返すぐらいならできるかも…
おれんちの米だけどいる?
忘れられた神様へのお供えを



 光差さぬ地下牢の内、ソレは霧のように捉えどころなくゆらゆらと揺れていた。
「七歳までは神のうちって、確かに昔はそういう言葉もあったかもしれないけど」
 眼も髪も服も全てが黒で塗りつぶされた幼い子供の姿に、哀川・龍(降り龍・f43986)は伝え聞いた物語を思い出す。
「今の時代はもう違うんだよ……『やしろさま』」
 年端もいかぬ子供の姿を取る|物語《やしろさま》に、そう告げる龍の声色には、昔を想う憐憫の心があった。

 神に手によって攫われた子供。
 山の神の領域に置き去りにされた子供。
 生贄として神に捧げられた子供。

「子どもたちはおまえのものじゃないし、親や大人のものでもない。小さくてもちゃんと自分の命を生きてる」

 物語は人が紡がねば生まれない。
 物語に人は想いを込める。
 何かを伝えるために、何かを覆い隠すために――。

 語り継がれた物語の犠牲者は娘と子供。どちらも共同体における子であり弱者だ。
 貧しく、自分が生き延びるだけでやっとの時代の人々に、弱者を思いやる余裕などなかっただろう。
 物語は口減らし、または身売りの暗喩なのだろう。
 だからこそ、残った人々は彼ら彼女らが別の場所で生きているという物語を創った。
 それはそうあってほしいという祈りであり、弱者を犠牲に生き延びた自身への救いでもあった。

 はるか昔の悲劇を、龍は愚かだと切って捨てることはできなかった。
 社会福祉士として弱者とその家族に寄り添う仕事を選んだ龍にとって、それは現在にも繋がるものだからだ。
 今も昔も、時に人は何かに縋らねば生きていけない。
 それが分かっているから、龍はかつての|物語《やしろさま》に語りかけるのだ。

 暗い地下であっても分かるほどに、ザザ……とノイズが走った。
 |子供《犠牲者》の姿を取るソレは、|オブリビオン《タタリガミ》。
 物語を喰らい、変質し、より強大になることだけを望むソレは、言うなれば物語に寄生する怪物に過ぎない。
 龍が気配を探れば、闇のあちらこちらに見えるノイズにうっすらとした悪意が視える。
 防護と呪祓いの力を纏わせた護符を悪意の先へ向ければ、稲妻のような光が弾け、忍び寄っていたノイズが消えていく。
 ノイズの一角、一際悪意の強い場所に龍は護符を放つ。
 一直線に伸びる護符がノイズに突き刺さり、そこに在る「罪」を切り裂いていく。
 ノイズの形を取って溢れ出す呪いが祓われた先に在るのは、黒ずくめの子供の姿。
「子どもたちはもちろんだけど、おまえが取り込んだ物語もきちんとこの町と村に返して」
 符を構えたまま、静かに。だがきっぱりと龍が告げると、タタリガミが三日月形に口の端を持ち上げてニィと嗤った。
 肌に纏わり付くように立ちこめる悪意の気わいが粘りを増したように感じ、龍は身震いをする。

 語られた物語の内、一つ異質なものがあった。
 都市伝説『胎借り』――。
 攫われるのが女と子供という点は同じだが、これまでの物語との決定的な違い。
 それは『何も与えていない』こと。
 この話に出てきたものは人々の傍らに在り、畏怖と信仰の対象となる神ではない。
 強欲への罰でもなく、恵みへの対価でもなく、ただただ理不尽に人を搾取する怪異。

 おそらくこれがタタリガミの|原型《アーキタイプ》。
 この地の物語『やしろさま』を喰らった、タタリガミ『胎借り』――。

「山のものは神のもの……かわり、ちょうだい……」
 正体が看破されて尚、タタリガミは物語を騙り、嘲笑う。
 壊れたディスプレイが揺れるように、闇の中よりノイズが溢れ出し、迷い込んだ犠牲者を取り込もうと、電子的な色彩がチラつく呪いの腕が伸ばされる。
「もうやめなよ、それ」
 龍は手の中の護符に霊力を込める。
 その指先で符はくるりと回り、くるくるとその速度を増していく。
 龍の手から弾けるように護符は飛び出し、一直線にタタリガミへと突き進む。
「かわ……アァァアァアッ……」
 転輪の如く回転する『塞の神ノ符』が、溢れ出るノイズと騙る声ごとタタリガミの身体と「罪」を断つ。
「破邪は邪説を打ち破って正しい道理に戻すための力」
 切り裂かれ、断末魔を上げる|タタリガミ《胎借り》を見やり、龍は呟く。
 タタリガミを切り裂いた護符は、龍の地元の社の神より拝受したもの。
 豊穣と境界を司る岐の神と同一とされる『塞の神』は、この地の|物語《やしろさま》とも類似性をもつ。
 その力が|怪物《タタリガミ》が取り込んだ物語を切り離し、打ち破った――。

 こうして物語を喰らっていたタタリガミは消滅した。
 攫われていた子供や女性達は心身を癒やすために病院へ運ばれ、いずれ家族の元へ帰るだろう。
 事件の処理のため灼滅者が慌ただしく動き回る廃村を後に、龍は一人、山に入る。
 かつて社があった場所は、朽ちた木の欠片と割れた礎石が残るだけの空き地となっていた。
「……おれんちの米だけど」
 忘れられた神様へのお供えにと米の入った布袋をそっと置き、龍は立ち去っていく。

 誰もいなくなった山の中。
 人気の無い社の跡に、どこからか霧がたなびく。
 白く霞む景色の中、風も無いのに布袋を結ぶ紐がさらりと揺れて解けていった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年09月01日


挿絵イラスト