メイデン・サマー
●期間限定イベント『洞窟で涼もう』
ノンプレイヤーキャラクターとしての責務というものがある。
それはゴッドゲームオンラインというゲーム世界に生きるアーティフィシャル・インテリジェンスとして役割であり、意義であった。
タマキ・カンナ(清澄玉虫・f42299)は『プリズム洞窟』を訪れたゲームプレイヤーたちを洞窟の中に導く。
「此方です」
よそ行きの言葉に態度。
虹色スライム様の巫女として恥ずかしくない態度で望まねばならない。
彼女が今まさにしているのは、期間限定イベントクエストの案内である。
クエストと言ってもエネミーが洞窟内に湧くわけではない。
このイベントクエストは『プリズム洞窟』の中を探索するだけの簡単なものだ。
初心者も楽しめるように、と工夫を凝らしている。
「わあ、これ全部水晶?」
「キラキラしている……洞窟の中なのに」
「どこか光源があるのか?」
ゲームプレイヤーたちは物珍しそうに『プリズム洞窟』の中を見回している。
普段ならば『プリズム洞窟』は奥まで入れないようになっている。
時折、スクリーンショット機能を起動している者たちもいる。
「これってドロップアイテムとかあったりするのかな?」
「どうだろう? エネミーが湧かない場所だって言うから、アイテムドロップは期待しない方が……」
タマキは、そんなゲームプレイヤーたちの話す声を聞きながら、『プリズム洞窟』をあ院内していく。
「ダンジョンのマッピングを、ということだったけれど、こんなものでいいのかな?」
「ええ、これで十分です。この洞窟は『プリズム洞窟』と呼ばれており、多くの水晶柱で埋め尽くされています。時たま、『アウロラ』と呼ばれるライドスライムの幼体も出現することもあると言われており……」
タマキの言葉にゲームプレイヤーたちは色めき立つ。
ライドモンスターはゲームプレイヤーたちにとって憧れのアイテムだ。
「えっ! ライドモンスターがドロップするのか!?」
「はい。騎乗用のスライムですが……」
「ライドモンスターと言えば、有名どころはライドドラゴンだよな。バトルゴーレムも熱いし、赤兎馬を手に入れたってやつもいる。グリフォンやフェニックス、カムイオオカミなんかも憧れるよなぁ……!」
ゲームプレイヤーの言葉にタマキはちょっと物申したくなる。
ライドスライムの『アウロラ』だってレア中のレアですけど!? と。
だが抑えた。
ここで自分がやいのやいの言っても仕方ないことは承知の上。
今年はライドスライムを手に入れる条件が少し特殊なのだ。
本来なら、この『プリズム洞窟』をマッピングすると一定確率でライドスライムが入手することができる。
だが、今年はいささか赴きが違う。
そう、今年の条件の一つにマッピングとアイテム『アイスコーヒー』が含まれているのだ。
何故、そんなアイテムが必要なのか。
条件を緩和したわけではない。
そう、タマキが敬愛して止まない『虹色スライム』様が今年からえらくコーヒーという飲み物にご執心なのだ。
自分が他の世界に出かけるたびに、その世界のコーヒーを所望してる。
「『虹色スライム』様ったら、本当にコーヒーにどっぷりハマっておられて……」
「え、何?」
「いいえ、此方の話です。では、皆様どうか良いクエストを」
巫女としてタマキはゲームプレイヤーたちにノンプレイヤーキャラクターとしての役割、ロールプレイをもってイベントの説明を終える。
そのまま、そさくさと『虹色スライム』のいる聖域へと引っ込む。
少しでも近くに長くいたいのだ。
「『虹色スライム』様、万事滞りなく済みました~! って、もうコーヒー飲んでおられるのですか?」
コク、と頷く『虹色スライム』。
ご機嫌である。
ノンプレイヤーキャラクター権限でゲームプレイヤーたちのマッピングの様子を見る。
彼らは初心者クエストとも言えるマッピングをうまくやっているようである。
マッピングはダンジョン攻略には必須。
だが、時に軽視されがちな技能でもある。だからこそ、こうしたイベントクエストで脚光を浴びせ、また同時にゲームプレイヤーたちが恙無くクエストを進行できるようにと動線を作っているのだ。
「でも、流石にねじ込んだ感がすごくないですか?」
そんなことない、と『虹色スライム』は首をふるように体を震わせる。
タマキは、『虹色スライム』様が言うならそうなのだろうと思い直す。疑問に思うことはない。
だが、彼女の最初に感じた感覚とは裏腹にゲームプレイヤーたちには今回のクエストは好評だったようである。
彼らもまた人間。
コーヒーブレイクという緊張感ある中にも憩いが必要。
現実ではそうそうできないことができる、というのがゴッドゲームオンラインの醍醐味だ。
それを実感できるクエストは、タマキの予想を超える高評価として一夏の思い出になるのだった――。
成功
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