妖怪陰陽師、夏のひととき
「うわぁ、血だらけになってしまいました……むぅ」
泡沫のまぼろしに包まれた「平安の世」アヤカシエンパイア。
いつものように妖退治をしていた久恩は、倒した妖の返り血を全身に浴びて眉をひそめていた。
このままにしておくと変な呪いを受けそうだし、なにより不快だ。
近くに洗い流せる水場はないか探すと、おあつらえの湖を発見した。
「まあ、本当は家で落とすのが一番ですけどね……」
家に帰るまで我慢するのも嫌だった久恩は、すぐに服を脱いで湖に入る。
血を吸って重くなった装束が、べしゃりと音を立てて地面に落ちた。
『さあ! カモカモ! 主さんの服についた血をできるだけ落とすのです! 私は見張りをしますね!』
『カモ!』
久恩の式神「フラウディ」と「カモカモ」はマッチョに変身。
カモカモが汚れた服を洗濯し、フラウディは見張りをしてくれるようだ。
「二人共ありがとうございます。では……無限天理陰陽術式『按甲寝兵』」
念の為、久恩もユーベルコードを発動して、他者から自分の姿を認知されないようにする。
本来は良くないのだが、父様を驚かせたくなかったからだ。
「……綺麗な空ですね」
山の向こうに沈んでいく綺麗な夕焼けを見て、久恩はぽつりと呟きながら身を清める。
『フラウディ・スパーク!』
と、そこに突然フラウディの甲高い声が響く。
妖か、それとも覗き魔でも発見したのかと振り返ってみれば――。
『ちょっ?! ごめんって! 久恩が水浴びしてたの知らなかったのぉぉぉぉ!』
どうやら心配して探しに来てくれた久恩の父が、間違いで攻撃を受けているようだ。
彼も陰陽師なので、素早く回避していたが。
「フラウディ、父様はいいのですよ」
『えっ? そうだったのですか? ごめんなさい! 宏伸さん!』
『いやいいんじゃよ……久恩もすまん』
父はきちんと後ろ向きで、娘の裸を見ないようにしている。
ついでに着換えも持ってきてくれたようだ。
「父様には見られても平気なんですが……」
『年頃の娘がそういう事言ったら駄目じゃからね?!』
べつに頓着も羞恥心もなさそうな久恩に、ツッコミを入れる父。
もう一緒に風呂に入る年頃でもないのに、親としては心配にもなるか。
――その後、みんなと家に帰った久恩は、庭先でかき氷を食べた。
「今は夏ですからね」
水浴びをして、夕暮れを眺めながら、ひんやりした氷菓子を楽しむ。
平安の世にふさわしい、雅なひとときだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴