Plamotion Cheerleader Girls
●君が思い描き、君が作って、君が戦う
『プラモーション・アクト』――通称『プラクト』。
それはプラスチックホビーを作り上げ、自身の動きをトレースさせ、時に内部に再現されたコンソールを操作して競うホビースポーツで――。
……って暑っっっい!
悠長にナレーションなんてやっていられない程に暑い。
当然ながらアスリートアースの夏は過酷である。
トライアスロン・フォーミュラ『時宮・朱鷺子』も言っていた。
『アスリートアースに生まれ落ちた全ての者には、例えいかなる危機の最中であろうとも、夏になれば全てを賭して「水着コンテスト」に集う運命を背負っている』のだと!
冷静に考えれば、ちょっと何言っているのかわらからないお言葉である。
だがしかし、猟兵たちも同じ気持ちであった。
そう、夏にどんな大いなる戦いが迫っていようとも。
諸々の締め切りに慣例行事が同時並行で進行していようとも。
明らかに野外でイベントをするのには危険な気温に達していようとも。
そうなのだ。
水着コンテストは行わねばならない!
「だからってさ」
アスリートアース、『プラクト』アスリートの『アイン』と呼ばれる少女は茹だるような夏の日差しとは無縁の室内にて、工具を握っていた。
何をしているのかと問われたのならば、簡単である。
プラモデルを作っているのである。
インドア万歳。
空調の聞いた室内で夏の日差しとは無縁に趣味に興じているのだ。
否!
そう、断じて否である。
今の彼女の表情を見ればわかる。
確かに彼女は『プラクト』アスリート。プラスチックホビーを組み上げ、自分の工夫を凝らし、その身体能力でもって自在にフィールドを駆け抜けさせることができる。
「これはないだろ! わーん! 終わらないよー!!」
いつもの彼女らしからぬ泣き言。
そんな『アイン』の後ろで水色のボンボンをフリフリしているのが、これまたいつもの彼女らしくない……とも言える薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)であった。
彼女は空調の聞いた『五月雨模型店』の制作スペースにてプラスチックホビーを作っている『アイン』の背後でボンボンを降って応援しているのである。
しかも水着である!
言い忘れたが、『アイン』水着である!
なんでこんなことになったのかと言えば、事の発端は一ヶ月ほど前に行われた『プラクト』の世界大会、第二回『ワールド・ビルディング・カップ』の決勝戦なのだ。
『アイン』たち『五月雨模型店』は猟兵たちの助けもあって、世界大会優勝という快挙を成し遂げた。
当然、取材は殺到。
小学生でもある彼女たちはてんてこ舞いであった。
慣れないというのもあったが、それ以上にこんな時に雑務をパパッと処理してくれる『ツヴァイ』と呼ばれる少女が行方不明になってしまっていたのだ。
彼女がいないばかりに『五月雨模型店』のメンバーたちは取材など多くの対応に追われたのだ。
そして、その一つであるサイン入り謹製プラスチックホビーの作成に『アイン』は涙目で勤しんでいるのだ。
静漓はそんな彼女を応援している。
「がんばって『アイン』。あなたならできるわ」
こく、といつもの様子で静漓は『アイン』の後ろで応援している。
いや、ボンボンを振っているところからして、想像以上にいつも通りではない。
何より、ちら、と『アイン』は静漓を見やる。
彼女の水着姿。
モチーフはチアリーダーであろう。
アスリーアースにおいては花形たる存在。所謂、スクールカーストでいうところのクイーンビー。
いや、静漓のそれは遥かにそうしたカーストの頂点をぶち抜く魅力があった。
すらりと伸びたお御足は長く艷やかな肌色が眩しい。
損脚線美を支える小潮とのミニスカート風のパレオが揺れると、それだけで熱気が生まれそうであった。
加えて健康的なおヘソ!
こしのくびれは、本当に内蔵入っているのだろうか? と思わせるほどに細い。
なのに、オーバーウェアを持ち上げる膨らみは豊かであり、全てにおいて『アイン』は……。
「負けたぁ!!」
「何に?」
小学生なのだから仕方ない。これからに期待できるだけの可能性が『アイン』にはあった、多分。あると言っておこう。それが『アイン』のためであった。
「?」
「……応援っていうんならさぁ、静漓ねーちゃんも手伝ってよ……組んでも組んでも終わねーよー……」
べそべそしている『アイン』に静漓は確かに取材先から頼まれた『アイン』のサイン入り謹製プラスチックホビーのためのキットの山が、どれだけプラスチックホビー作成に手慣れた彼女であっても難しい量であると理解できた。
これを一人で、というのは酷なことである。
だがしかし、ここで静漓の応援魂に火がついたのだ。
いや、いつもの涼し気な表情ばかり浮かべているので、ぱっと見ただけでは彼女の変化には気がつけないかもしれない。
「がんばって。応援しているから」
こく、と静漓は頷き、ボンボンをフリフリする。
シャンシャンとすずらんテープが鳴る音が響く。
「手伝ってよー! やだー! 私も静漓ねーちゃんと水着コンテスト行きたいー! プールで遊びたいー!!」
いつもの彼女以上に子供らしい駄々。
静漓はそんな『アイン』が可愛く思えたかもしれないが、今の彼女は応援魂に火がついているのだ。
ここで彼女の応援をやめるわけにはいかない。
この局面。窮地。
これを乗り越えれば、『アイン』はさらなる成長を遂げるだろう。
一つのことをやり遂げる。
それはとても大切なことだ。だから静漓は心を鬼にして、にっこりと笑む。
「がんばりましょう、『アイン』。あなたのサイン入りプラスチックホビーを待っている人たちがいる」
「そうだけどさー! やだやだ! 水着の静漓ねーちゃんがいるのに室内で作業なんてやだー!」
「困ったわ」
甘やかしてしまいたい。
このまま全部放り投げて『アイン』とプールで水遊びをしたらさぞや楽しいだろう。
子犬のよな目で静漓を見上げてくる『アイン』。
揺らぐ。
だが!
思いの外、静漓の意志は頑強であった!
一度応援すると決めたのなら! それを貫徹する意志がクールな彼女の瞳の奥にはあったのだ!
「ねーねー! いーでしょー!」
「だめよ、『アイン』。あなたならやれる。できる。がんばれる。それをいつだって見せてくれたのは、あなた自身でしょう?」
「うっ……じゃあ、ご褒美くれよ! 終わったら!」
ぐずる『アイン』に静漓は考える。
ご褒美。
考えたこともなかった。
けれど、それがあれば『アイン』が頑張れるというのならば、応援する身としてはやぶさかではない。
そう、彼女がチアーリーダー風の水着を身にまとったのは、みんなの応援がしたいという気持ちがあったからだ。
ならば、この気持ちに嘘はつけない。
「いいわ。がんばったご褒美を」
「いよっしゃー!!」
食い気味で『アイン』は脇目もふらずにプラスチックホビーを作成し続けている。猛烈なスピードであった。
それができるなら、何故最初から、と思わないでもなかった。
けれど。
「静漓ねーちゃんと、海、うみ、うーみっ!!」
「現金ね、『アイン』。でも、がんばってくれてるようでよかった。もう少しよ。がんばって。がんばって」
静漓は、そんな『アイン』に困ったような笑みを浮かべて、ポンポンを振って応援するのだった――。
成功
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