暗雲! デビヶ島
●ワル友
むかしむかし、で始まる物語があるのだとして、それはきっとボーイ・ミーツ・ガールじゃあないと誰が決めたのだろう。
センチメンタル・ジャーニーでもない。
じゃあ、冒険活劇なのかと言われたら、それも違う気がする。
「この団子美味しすぎない? 食べすぎちゃった!」
リア・パーデス(ディープダイバー・f40808)は山のようにあったデビ団子をすっかり平らげてしまっていた。
本来ならば、それは三匹のお供を懐柔……もとい、引き連れるために必要な、きびだんご的アイテム。
その全部をリアは一人で食べ尽くしてしまった。
なんか美味しいと止まらなくなる。
甘いのとしょっぱいのは無限サイクル。古事記にも書いてある。
「ははは! オレの用意した団子を気に入ってくれたか!」
アルゼブ・アズモリィ(玉座を見据えし悪魔・f31513)は、そのでデビ団子を用意したワル太郎的ポジションの魔王であった。
普通、逆じゃあないだろうか。
あ、いや、デビルキングワールド的に言えば、むしろポジション的には鬼ヶ島にて勇者たるピーチ太郎を待ち受けるものであったはずだ。
しかしまあ、この際それは置いておく。
これから巻き起こる物語において、それは差して重要ではない。
ぽんぽことリアがすっかりデビ団子を気に入って食べ尽くしたのを、むしろアルゼブは心底ご満悦であった。
お腹いっぱいなのは、幸せいっぱいであることである。
ククク、これで今日の夕飯はもう入らないだろう。
お家に帰ったら、晩ごはんを用意していたお母さんが悲しい顔をするのである。なんていう極ワル非道! 魔王の中の魔王である。
「ねぇねぇ! アルゼブくん!」
そんな想像をしてさらにご満悦なアルゼブの肩をリアはちょんちょんと突く。
「ん? なんだ?」
「この辺で動けるとこなーい? 食べすぎちゃって。それにやっぱり夏といえば体を動かすのがケルベロスだよね!」
主に飛んだり跳ねたりパズルしたり。
それも語弊があるのかもしれないが、リアはぽんぽこ信楽焼焼きの狸さんになった己のお腹を示す。
食べすぎちゃったので運動したいのだ。
いくらなんでも、そんなに都合よく運動できる場所なんてあるわけ……。
「……ふふ」
「なんて不敵な顔!」
「無論、あるとも! 目を皿のようにかっぴらいてよく見るがいい! 刮目せよ! これこそがデビヶ島に秘められし宝の地図である!」
ばーん!
アルゼブが両手に開いたのは、いかにもな古めかしい加工の成された地図であった。
どうやら、このデビヶ島の地図であるようだった。
「なんか、アスレチックの見取り図みたい」
「先代デビヶ島領主から伝え聞くところによると、このデビヶ島にはワルかっこいいお宝が隠されているという……」
「ワルかっこいいお宝!?」
「そう、ワルかっこいいお宝だ」
「なにそれもしかして焼き肉食べ放題!?」
まだ食べるのか、とアルゼブは思ったが、むしろ望む所であった。
暴飲暴食などワルの骨頂の一つである。
七つの大罪って言われるくらいである。リアは、それはもうとんでもないワル。
こんなワル友を100万人作るのがアルゼブの野望なのだ。
すでにデビルキングになるという野望は達成したのならばこそ、次なる野望が魔王には必要なのだ。
手始めに、この暴飲暴食のワル、リアとワル友になろうと思ったのだ。
「……ふふ、この宝の詳細はオレも何なのか実はわからないんだけどね。でも、ワクワクすんじゃん! リア、一緒に来るだろう?」
「いくいく連れってー! 分け前は……」
「ふっ、こういう時はな、魔王に伝わるかっこいいセリフがあるんだ」
「なにそれ?」
「お前に|世界《分け前》の半分をやろう――!」
●風雲デビヶ島
「……これって」
リアの眼の前に広がるのは地獄絵図であった。
いや、正確に言うのならば、地獄絵図を模したアスレチックだった。何処まで言ってもアスレチックだった。
悪魔たちが係員としてあちこちに配置されている。
やたら高くて傾斜のある坂がリアたちの眼の前にある。
「これを越えていかねばならんようだな。どうやら、連中が妨害してくるようだ」
アルゼブは、係員の悪魔たちを指差す。
彼らは挑戦者たちをホースから放たれる水流で押し戻す役目を帯びているようだった。
しかし、二人は猟兵である。
リアにしてみれば、簡単な難関であった。
伊達にケルベロスとして飛んだり跳ねたりしていないのである。
「簡単簡単! こんなのはね!」
高速ダッシュしてリアはあっという間に坂を駆け上がって、水流さえ身を翻して躱すのだ。
濡れシャツとか、なんかこう視聴者サービスとかまったく考慮していない圧倒的な身体能力で難関を簡単にクリアしてしまうのだ。
「むっ、やるな! だが、身のこなしならオレも大得意だもんね! 健康優ワル悪魔を甘く見ちゃ困るぜ1」
アルゼブも続く。
最初の難関だけあって難易度が低いのだろう。
あっさりと彼も水流を交わして坂を駆け上がって、滑り台となった傾斜を滑り落ちていく。
「むっ、次は回転する……なに、あれ?」
「水車、か?」
二人の前に立ちふさがるのは、さらなる難関。
進路を妨げるは、回転するバー。そして、さらに迷路になっていて、鬼に扮する悪魔たちが放たれている。
彼らに掴まってもアウトであるし、回転するバーに圧されてコースアウトしても失格なのだ。
「あははっ! こんなの簡単だよ! 捕まらなければいいんでしょ?」
「ふむ。どうやらオレと同じ考えのようだな、リア?」
「そうみたい!」
リアとアルゼブが互いに顔を見合わせて笑う。
にんまりワルい顔であった。
そう、彼らはビニール金棒を手にして、迫る鬼に扮した悪魔たちを次々とボコボコにして大砲に詰めてぶっ放すのだ。
さらにはぶっ放した悪魔たちに乗ってショートカットまでする始末。
「おらおらーっ! 砲弾にされたいヤツはどいつだー!」
「おっ、アルゼブくん、ノリノリだね! ワルかっこいいよ~!」
「鬼に金棒! 悪魔に銀の弾丸だぜ!」
二人はやりたい放題であった。
元より彼らに叶う悪魔たちがいるわけがなかったのだ。むしろ、悪魔たちもアルゼブたちのワルさに振り回されるのがまんざらでもないようだった。
「いやっほーーー! ほら、いくよ、アルゼブくん!」
「ああ、これが悪魔合体攻撃、ワル友ツープラトンだーっ!」
途中から悪魔プロレス大会になっていたが、ゴールすれば、そんなことは些細なことである――。
●お宝
ワル友としてガッチリとアルゼブとリアはゴールにて握手を交わす。
とっぷりと日が暮れ、星空浮かぶ光景は、それだけで二人の友情が深まったことを示すようであった。
「なかなかやるじゃないか、リア。ここまでオレに付き合えるとは」
「ふふ~! こっちも楽しかったよ。いっぱい動いたら、いっぱいお腹が空いちゃった。ねね、ところでお宝って結局なんなの? これ?」
リアが示す先にあるのはゴールに御大層な装飾に彩られた宝箱であった。
「うん? それはな……」
アルゼブが問いかけに応える前に宝箱が口を開けるように、パカッと開いて轟音を放つ。
風を切るような音が長く響いて、炸裂するはスターマイン。
二人の友情が掴んだ空一杯のデビ花火だった。
そう、これこそが無許可で花火を打ち上げて、多くの人たちにこの光景を楽しんでもらうという最高にワルかっこいいお宝――!
成功
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