サマー・ライフガーダーは大忙し
●監視員アルバイト
季節は夏。
煌めく日差しは強烈であるが、体の芯に熱を灯すようであった。
だが、負けない。
どんな日照りが続こうとも、酷暑と呼ばれるほどに気温が上がろうとも外に飛び出すことはやめられない。
人はそれを情熱と呼ぶかもしれない。
特に超人アスリートたちひしめくアスリートアースにおいてはなおさらであったかもしれない。
「ひゃっほー!」
幼い子どもたちもまた超人アスリートとしての資質を秘めている。
夏場故に涼と筋力トレーニングを求めて海辺にやってきたのだ。
彼らの身体能力が他世界の幼子たちと比べても郡を抜いていたとしても、やはり子供延長線上に過ぎない。
特に海辺ともなれば、筋力だけではどうしようもない状況に満ち溢れている。
そう、海の楽しさは危険と隣合わせである。
「こらっ。お前たち」
叱責する声に子供らはビクッと肩を震わせる。
足を止めた彼らの頭の上にぽこ、ぽこ、とメガホンが落ちる。
メガホンの主は潮見・琉生(深海より来る・f44225)であった。
彼女は憤慨していた。
そう、確かに季節は夏。夏といえば海。海と言えばマリンスポーツ。
だがしかし、先程も述べた通り海は危険と隣合わせ。一歩踏み外せば生命の危険がそこかしこにあるものである。
「ここから先は遊泳禁止区間だ」
「だいじょーぶだって!」
「そうそう! 俺達泳げるもんよ!」
再び落ちるメガホン。
琉生の言葉は静かなものであったが、深海を思わせる圧力めいたものがあった。
「泳げるからと言って油断してはダメだ。海の力はお前たちの想像上を超える。おい、そこはサーフィン禁止ゾーンだ。サーフィンがしたいのなら、あっちの区画に移動しろ」
子供らが不平不満を述べていても彼女は構わず、サーフィンをしようとしていたアスリートに声を掛ける。
「え、こっちじゃないの?」
「違う。此処は遊泳も禁止している」
「そっか。でも、ほら、あれ……」
彼らが示す先にあったのは、水上バイクが海上を爆走している光景だった。
「……」
琉生の瞳がユーベルコードに輝く。
「視界……良好!」
サーフボードを手に琉生は一気に海上へと飛び出す。
ルールは守らなければならない。
守らないのならば、実力で排除するだけである。
彼女が乗るサーフボードは矢のような速度で海上を突っ切って水上バイクにすら追いつくのだ。
「げぇっ!?」
「ここは禁止区画だ! ルールはしっかり守れ!」
不届き者をバッチリ仕置して、琉生は引きずるようにして水上バイクを浜辺に引き上げる。ついでに水上バイクに乗っていた若者も引きずっている。
その姿に子供らは、琉生は怒らせてはならない人物であるということがよく理解できただろう。
「ったく。こういうことをする輩がいるから、全体が悪く見られるんだぞ」
「わ、わかりました!」
子供らは琉生にこれ以上怒られまいと、スタコラサッサと駆け出していく。
その姿にそれ以上何かを言うつもりはなかった。
ルールさえ守っていればいいのだ。
願わくば、そこにモラルがあればもっといいと琉生は思う。
「……さて」
「ひっ! ご、ごめんなさい!」
水上バイクを乗り回していた若者へと琉生は向き直る。
「水上バイクはスピードが出過ぎるマリンスポーツだ。だから、余計にルールは守らねば重大な事故が起こりかねない。せっかく楽しいマリンスポーツなんだ。ケチがついては、楽しくないだろう」
べつに琉生は無闇矢鱈に取り締まりたいわけではない。
マリンスポーツは彼女にとっても特別だ。
だからこそ、みんなが楽しくあってほしい。
その願いのために彼女は今日も夏季監視員バイトに精を出すのだった――。
成功
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