ホリデー・コーデ
●夏休み
管理職というものに休日はない。
正確に言うのならば、トラブルさえなければ休みだった、という日があるだけである。
そう、ゲーム世界ゴッドゲームオンラインの管理者ドラゴンプロトコルに休日というものはない。
休日がなければ、当然バケーション……長期休暇というものも存在しないのである。
夏休み？
なにそれ、というのがヌグエン・トラングタン（欲望城主・f42331）の本音であった。
「で、休み、と」
「そう！」
妻たちの言葉にヌグエンは渋い顔をした。
正直に言えば不安しかない。
ドラゴンプロトコルは即ちAIである。
休み、という概念は知ってはいても疲労というものとは無縁であった。
延々と演算を続けることも別に苦ではないのだ。
けれど、妻たちは常に言う。
如何に疲労を感じないのだとしても、やはりメンタル的な意味で休みがないのはよろしくない。
「大丈夫だから。こっちは私達が処理しておくから」
「何も心配しなくって良いんだからね」
「はい、それじゃあ、お休み行ってらっしゃーい」
彼女たちに背中を圧されるようにしてヌグエンは仕事場から締め出してしまう。
ギルドの受付すら近寄らせないつもりなのだろう。
「……休めって言われてもなぁ……」
完全に仕事場、やタスクから切り離されてしまった。
休まなすぎて何をすれば良いのかわからない。
というより、自分が生まれてこの方、休みというものを経験していなかったのだ。
休日とは何をする日なのだろうか。
「確かゲームプレイヤーたちが休みの日は何をしているのかっていう話題で盛り上がってたな」
ログを漁る。
どうやら『何もしないことをする』のが休みらしいということがわかって、ヌグエンは更に難しい顔をする。
「……ゲームプレイヤーっていうのは思いも寄らないことをするもんだ」
その他にやることないのか、と思う。
色々考えたのだが、ヌグエンはやはりなにかしなければ落ち着かない性分なのだ。
となれば、自分の中心に近しいところにあるのは妻たちであった。
彼女たちは今、自分の代わりに業務を請け負ってくれている。
となれば、それをねぎらうのが自分のやるべきことだろう。
休日であってもやるべきことを見出してしまうヌグエンは、せっせとパンを焼き上げていく。
「ホカホカは旨いからな」
妻たちの笑顔を思い浮かべて、ヌグエンは彼なりの休みを満喫するのだった――。
成功
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