デッドヒート・ザ・バルタン
●戦闘民族 VS 大海賊
勝負服――あいや、水着きらめく風を生み出していたのは、二人のアスリートだった。
海を割るようなスイミング。
大地を切り裂くようなライド。
そして、今まさにデッドヒートを繰り返しているのがバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)とウォータくんであった。
互いに良い笑顔を浮かべていた。
おお、なんということだろう。
わだかまりもしがらみもないスポーツマンシップ。
そう、これはトライアスロン競技の最終局面である。
バルタンとウォータくんは、どうしてこんなことになったのかをもうすでに忘れてしまっていた。
ことの発端なんて些細なことであった。
論ずるだけ無駄であったし、例え発端を知り得たからと言って何の意味があるのだろうか。
そう、真があるのだとすれば、今まさに二人がゴール前でデッドヒートを繰り広げているということだけだ。
それだけでいい。
スポーツ競技とは、そうした人種、国家、主義、主張、あらゆるものを凌駕したところにあるものなのだ。
勝ちたい。
今まさに鍔迫り合うようにして肩が激突し、視線を躱せば火花散るような好敵手に勝ちたい!
それだけで二人は鉄人競技たるトライアスロンのたった一人の勝者の座を求めてひたむきに走っているのだ。
「ワガハイは負けないのであ~る!」
「勝つのは我輩であります!」
奇しくも一人称が同じ!
表記が違うだけで、互いに『わがはい』であることを譲らぬのである。
デッドヒート繰り返す論点というものがずれているような気がしないでもない。
「マネするのはやめるのであ~る!」
「ワタシの一人称はフリーダムなのデアール!」
「一人称の次は語尾を真似るのは、流石にワガハイを舐め腐りがやっているのであ~る!」
ウォータくんの肘鉄がバルタンのみぞおちを捉える。
みぞおちは人体で鍛えることのできぬ急所!
卑劣!
だが、ウォータくんは残虐海賊である。
無敵の笑顔でエンドブレイカー世界の水神祭都アクエリオを荒らしに荒らしまくった恐怖で残虐な大海賊なのだ!
走者妨害の肘鉄なんぞ朝飯前!
むしろ、マスケット銃やらカトラスやらを持ち出してこなかっただけ恩情があるってもんなのだ。
「グフゥッ!? 鳩尾にエルボーとは、なんという残虐ファイト!」
「ワガハイは、走っているだけなのであ~る。たまたま。たまたまなのであ~る。こう、腕をスウィングしたら、偶然、肘がちょうどよいところにあった鳩尾にクリーンヒットしただけなのであ~る」
本来なら、ウォータの行為は反則行為。
スポーツマンシップに照らし合わせて見ても、順位を剥奪されてもおかしくない行為であった。
だが、お忘れであろうか。
ここはアスリートアース。
これは超人アスリートたちがひしめき、しのぎを削る殺人的トライアスロンなのである。
むしろ、肘鉄なぞかわいいもんなのだ!
「メイドのくせにワガハイの一人称をパクった挙げ句、語尾まで真似るとは言語道断なのであ~る! けちょんけちょんにして襤褸雑巾にして一位の玉座で尻に敷いてやるのであ~る!」
残虐!
その伝説に違わぬ極悪さ!
圧倒的悪役!
だが、次の瞬間、鳩尾に肘鉄食らって前のめりに崩れそうになったバルタンの体がロケットのようにウォータくんの背骨っていうか、腰にダイレクトアタックという名の頭突きをぶちかますのだ。
どこかの力士の必殺技みたいに一直線にウォータくんの身体の要たる腰にバルタンの石頭というか鉄頭が炸裂する。
「はぐぅっ!? な、なにしてやがるのであ~る! 確実に頭突きであ~る! 審判~!」
「何を言ってるのでありマショウカ。これはただのクラウチングスタートでありマース! 遅ればせながら、ワガハイ、今ロケットスタートを切ったのデース!」
「い、言い訳が苦しすぎるのであ~る!」
「HAHAHAHA! 勝てばヴィクトリー! そして、ここでアナタにインド王をプレゼントしマショー!」
ゴールライン手前の直角カーブ。
そこでバルタンは仕掛けたのだ。デッドヒートを繰り広げた二人は、横並び状態。
インコースを取ったのはウォータくん。バルタンはアウトコースから目をギラリと輝かせていた。
彼女の瞳が見つめていたのは、ゴールテープではない。
そう、バルタンが直角コースから、これまたロケットのように地面を蹴って、その鋼鉄の頭でもって狙ったのはウォータくんの顔面であった。
「あーっと、ここでインド人を左に!」
ハンドルを左に切るようにしてバルタンが飛ぶ。
「それを言うながら引導を渡す、あ、ハンドルを左に! であ~グフォッ!?」
炸裂する頭突き。
熾烈なるゴール争いをバルタンは頭突き一発で制し、そのスポーティな水着の艶やかさ、美しさを汗の粒という宝石で彩り、大海賊を下し叫ぶのだ。
「それではご唱和くだサーイ!」
バルバルバルバル――!!
成功
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