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天上の花さえ霞むは夢の花

#アヤカシエンパイア #ノベル #猟兵達の夏休み2024

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葦原・夢路




●水着コンテスト
 夏の日差しさんざめくは、水着コンテスト会場。
 猟兵たちにとって夏とは水着コンテストの季節であることは、もはや常識であった。
 皆、当然のように一月前から準備を始めるものである。
 そう伝え聞いていた葦原・夢路(ゆめじにて・f42894)は、なんとも華やかな催しがあるのだな、と他人事のように思っていた。
 彼女の猟兵として覚醒したのだから、水着コンテストに参加する権利というか、動機を持つことはできたのだ。
「ですが、これは……」

 水着。
 そう、一口にそう言葉にしても様々な種類がある。
 ビキニ、セパレート、タンキニ……その他諸々。
 他の猟兵たちの過去のコンテストの結果などを伝え聞けば、夢路はあまりにことに卒倒しそうになっていた。
「なんと刺激的な装いなのでしょう」
 普段は十二単を纏う彼女にとって、水着なる衣装のあまりの布面積の多さ。いや、肌の露出具合の多さに目眩がしそうであった。
 肌が、あんなに!
 刺激的すぎる。
「ま、まあ、まぁ……」
 昨年のコンテストは、冊子にして手に入れることもできると聞いて、どのような出で立ちが相応しいのかと視線を落とす。
 すごい。
「本当に皆様、すごい、です」
 そう言葉にするのがやっとであった。

 もしかして、アヤカシエンパイア出身の猟兵たちにとっても、これくらい肌を出すのが当然なのだろうかと夢路は思う。
 殿方もそうであるが、女性の水着姿は多種多様すぎる。
 色も様式も。
 あまりにも夢路の常識から逸脱しすぎていた。
「こ、此度は見送ることにいたしましょう。わたくしには、とても、とても……こんな姿になるなんて、できません」
 猟兵として参加を望まれていることはわかる。
 こうした催しを通じて猟兵としての結束を強め、世界の敵たるオブリビオンに共に立ち向かわんとする気概だってわかる。

 でも!
 でもである!
 腹が出過ぎである。腕はまあ、良いとしても足……!
 ほぼ丸出しではないか。
 これを、自分が?
 いや! だめである。
 とてもではないが自信がない。羞恥に耐えられる自信がない。

 そんなわけえ夢路は悶々としているのだ。
 だが、そんな彼女の懊悩を他所に、彼女が侍らせている花の化神たちが恭しく一礼して現れる。
「失礼いたします、主様」
「どうしたのです、『桃花』……それに皆も」
 夢路は自分の頬がまだ少し火照っている自覚があった。ちょっとばかり刺激的すぎたのだ。
 けれど、それを十二花神であり、侍従でもある彼女たちの前で表すわけにはいかなかった。
 居住まいを正す。
 そう、どんな時だって芯さえぶれることがなければ、貴き身分、その名を瀆すことはないのだ。
「水着コンテストなる催しがあることを耳にし、我等『十二花神』は姫様にお似合いになられる装いを持ちまして候」
「え」
 夢路は思わず耳を疑った。
 今なんと?
 なぜ、彼女たちが水着コンテストがあるということを知っているのだろうか。いや、よしんば知っていたとしても、参加するとも伝えていない。
 なのに、もう用意してある?
 いやいや、だめだめ。だめなのだ。

 自分にはあんな肌を晒す姿をする度胸というものはない。
 だから、今年は拝見するだけで、と思っていたのだ。
 だが、そんな彼女の悩みを吹き飛ばすかのように『十二花神』たちは各々が思う己が主の魅力を最大限に引き出す装い、即ち水着を見繕って献上しようとしているのだ。
「どうかご試着願いたく、こうして拝謁仕るところと相成りました。どうか。どうか」
「あの、『牡丹』?」
「主様のご尊厳、そして、その花をも恥じらう美しさは言うまでもございません。ですが、主様。これなる水着は花の芽吹きそのもの。どうか、どうか」
「え、『芍薬』?」
 おとなしい『芍薬』ですらこうなのだ。
 他の『十二花神』たちも同様であった。
 普段は夢路を立てるように、いや、本心から彼女に仕えることに喜びを持つ彼女たちであったが、此度はなんていうか、ちょっと目が。
 どうとは言えないが、妙な圧を感じてしまうのだ。

「あの」
「すでに、えんとりぃなるものも滞りなく済ませてございます」
「え」
「後は主様、一等お気にめしたお召し物を選んでいただくだけでございます」
「あの」
「私といたしまして、こちらの色合いが真にお似合いであると」
「主様の魅力を引き出すのは此方だ。間違えるな」
「なに、貴方達はまるでわかっていないようね。主様は、このようなものは好まれない」
 夢路を置いてけぼりにする熱の入った議論が『十二花神』たちの間に吹き荒れる。
 侃侃諤諤。
 それはもう夏の日差しにも負けぬ熱量であった。

 夢路は、断る、という選択肢を封じられたまま水着コンテストの当日を迎え、そして、その華やかなりし艶姿を疲労することになる。
 花飾りさえも霞むような美しさ。
 見事の一言に尽きる、天上の花を思わせる美しさでもって、コンテスト会場を彩るのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年07月20日


挿絵イラスト