|Back!《おやすみ!》
●夢
かつてはすべての人々の『精神世界』は一つのソウルボードにて繋がっていた。
けれど、今は違う。
たった一つから、それぞれの一つへと変わったのがソウルボードだ。
だから、そこにお邪魔することもできる。
できない者だっているが、できる方がおかしいという意見だってある。
「でもまあ、どっちだっていいよね」
ボクちゃんにはね、とレーヴクム・エニュプニオン(悪夢喰い人・f44161)は他人のソウルボードの中で頷いた。
別に悪さをしようって言うわけじゃあない。
むしろ、悪さをしてやろうっていう復活ダークネス――オブリビオンを退治しようっていうのである。
「まーったくさー」
眼の前に広がる光景は、この精神世界の主である一般人が見ている夢だった。
「あの時どうして僕はうごけなかったのだろう」
年齢から言って成年男性。
けれど、ソウルボードの中にて広がっている光景は、この夢の主が少年と言って差し支えない年代のように思えた。
「違うんだ。助けようって思ったんだ。けれど、できなかった。怖くて、自分が痛い思いをしたくなくて、それで……!」
この夢の主の声が反響する。
ソウルボードの光景が反転するようにして変わっていく。
場面が転じていっているのだろう。
「妹は……!」
手に抱くのは、血まみれの少女だった。
その光景にレーヴクムは己の心がざわめくのを覚えた。
身に覚えがない。
けれど、このソウルボードの光景は、ひどくレーヴクムの心をかき乱すのだ。
「悪趣味だなぁとは思うよ。でもさ」
「邪魔立てをするな。お前もダークネスなのならばわかるだろう」
悪夢の主。
夢の主ではない存在。
復活ダークネス、オブリビオンがレーヴクムに言う。
眼の前に現れたのは、見覚えのないダークネスだった。他者のソウルボードに介入できる、ということは、それなりの能力を持ったオブリビオンなのだろう。
けれど、関係なかった。
レーヴクムは自分がやらねばならないと思ったのだ。
ダークネスだとか、シャドウだからとか、猟兵だからとかではない。
単純になぜか気に食わない。
「わからないねー僕ちゃんにはさ。せっかく夢を見るのなら、良い夢を見たほうがいいじゃない。なんで悪い夢を見せるのさ。はちゃめちゃな欲望で極彩色になっている方がまだマシだってば!」
レーヴクムの瞳がユーベルコードに輝くのを見て、オブリビオンは嘲笑する。
「なんのために悪夢を繰り返し見せていると思っている」
「なんでー?」
「その方が面白いからだ。誰かの苦痛に歪む顔は、心を潤してくれる。自分よりも苦境にいる者が藻掻いている様ほど滑稽なものはないからな」
「悪趣味ぃ」
レーヴクムは『灼熱の血』を燃やす。
黒炎が立ち上るのは、彼の体躯の内側にある血液そのものが燃えているからだ。
言葉は軽かったが、しかし、その力は重たいものだった。
黒炎が一気にソウルボードの中を埋め尽くしていく。
「面白くないから、燃やしちゃうね!」
悪夢そのものが燃え、オブリビオンは後退する。
「見解の相違、価値観の相違。理解が得られると思ったが期待外れだ」
「あ、僕ちゃんを勝手にハズレ枠にしないでほしいなー」
失礼しちゃうな、とレーヴクムは己が血液から燃え盛る黒い炎と共にオブリビオンへと投げつける。
己が望んだものだけを燃やす黒炎は、このソウルボードの中にあって主を傷つけることなく異物であるオブリビオンを退けるのだ。
「僕ちゃんは、『夢』の名を持つシャドウ。お似合いだろ?」
レーヴクムは退散していくオブリビオンが消えゆくのを見やり、己が名を名乗る。
誰に強いられたわけではない。
自分が決めて、此処にいるのだ――。
成功
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