Kick Back!
●不可逆の闇
ダークネス同士は惹かれ合う。
理由を無理矢理にこじつけるのならば、そういうことなのだろう。
けれど、レーヴクム・エニュプニオン(悪夢喰い人・f44161)と此原・コノネ(精神殺人遊び・f43838)の二人にとって、この邂逅は意味あれど知る由もないものであった。
コノネは暇だった。
あのね、と武蔵坂学園のおにーさんおねーさんたちに呼びかけても彼らは夏休み前の追い込み補習で忙しそうだった。
なにせ、彼らの本分は学生である。
確かに彼らは灼滅者として戦う力を持った存在。だが、それでも生きていくための理由が必要だった。
すなわち試験というやつである。
コノネはまだ小学生。
試験に追われるのはまだ当分先のことだった。
おにーさんおねーさんたちは、いずれわかることになる、と若干涙目であったのがコノネにとっては疑問だった。
そんなわけでコノネは暇だったのだ。
ベンチに座ってぷらぷらと足を遊ばせている。
空を見上げても梅雨の明けた空は、あまりにも青くてめまいがしそうだった。
『ねえ、キミ今暇してる?』
その声にコノネは首を傾げる。
「だれ?」
知らない人にはついていなかいように、と教わっている。
けれど、不思議とコノネはこの声を知らない人だとは思わなかった。
「ボクちゃん? ボクちゃんは、レーヴクム・エニュプニオンさ。暇しているなら一緒にお『遊び』しない?」
コノネが瞬き一つした瞬間、眼の前には一人の少女……いや、少年? わからない。
どっちともいえる中性的な顔立ち。
それに服装もなんていうかどっち付かずであった。
王冠が乗っかっているところを見ると多分おにーさんなのかもしれない。
コノネはそう思うより早く、『遊び』という単語に一にも二にもなく頷いていた。
「『遊び』! うん、いいよー」
「もうちょっとためらうって思っていたんだけど、ためらい無し。いいね。話が早くっていいよ。『ソウルボード』……ええと、この場合は『精神世界』というのがいいのかな」
「しってるよ。学園で習ったもの」
「えらい。で、ね。そのソウルボードに復活ダークネス……あ、今はオブリビオンっていうんだっけ。そいつがちょっと悪さをしているようなんだ」
「その人と『遊び』をすればいいんだね?」
「うん、まあ、そうなんだけど。いやはや、話が通じ過ぎて逆に怖い」
レーヴクムと名乗る少年だか少女だかわからない存在は肩をすくめた。
「でもなんで?」
コノネは首を傾げる。
別に灼滅者であったのならば、自分でなくてもいいのではないかと思ったのだ。
「うーん、直感? なんとなく? コノネちゃんっていうんだろ、キミ。キミなら『精神世界』に被害を出さずに戦えるだろ?」
「うん、できるよ!」
ナイフ一つあれば、とコノネは剣呑な輝きを放つ刀身を示して見せる。
「それじゃあ、お手並み拝見と行こうかな。レッツ・ダーイブ!」
次の瞬間、視界が歪む。
光が歪み、周囲の光景が渦巻く。
その光景にコノネは、驚いたような、けれど緊張感を感じさせないように口を開けている。
かつては一つに繋がっていた人類のソウルボード。
けれど、今は個人ごとに分割されているのだ。
人との摩擦に軋轢。
時としてそれは成長のための傷、痛みであったかもしれないが、その傷が思いの外深くつけられることもあるのだ。
故に人びとの魂は癒やしを求める。
レーヴクムもまた、その傷ついた魂を癒やし見守ることにしているのだ。
「といってもね、復活ダークネス……じゃないオブリビオンっていうのは、いつだって人の傷に茶々を入れるものなんだよ。だから……」
「『遊ぶ』んでしょ? そんなのかんたーん!」
コノネはあっという間に『ソウルボード』の中へと駆け出していく。
早い。
というか、まるでためらっていない。
レーヴクムは猟兵としては新米である。
自分一人でオブリビオンを撃退できる自信がなかったので、協力者を得ようとしたのだが、コノネに頼んだのは間違いではなかった。
僅かな後に彼女は血に塗れた姿で戻ってきた。
「はやっ」
「終わったよー」
「それ、全部君の血じゃないんだろうなぁ……うん、でもいっか。今日はありがとうね、コノネちゃん」
そう言ってレーヴクムはオレンジジュースの缶をコノネにわたす。
もうすでにソウルボードから戻ってきて現実世界の夏の日差しの下に二人はいる。
あまりにもあっけなかったが、しかし、それでもソウルボードに救うオブリビオンを打倒できたのだ。喜ぶべきだろう。
「このメーカーで合ってた?」
「うん! でもなんで?」
「君がオレンジジュースをご褒美にしているっていうのを知っていたからね」
「そうなんだ! またね、レーヴクムのおねにーさん!」
なんだ、おねにーさんって、と首を傾げる。
まあ、また今度聞けばいいか。
そんなふうに思いながらレーヴクムは手をふってコノネを見送るのだった――。
成功
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