これはサポート参加者を優先的に採用するシナリオです(通常参加者を採用する場合もあります)。
椿田・時季子という女が書いた「くらやみに光」という小説がある。
盲目の舞台女優・菅井キミが田舎から上京し、国民的スタアへの階段を昇っていくまでの所謂サクセスストーリーだ。物語の中でキミはさまざまな困難を乗り越え、成長しながら女優として大成していく。
だが、この作品で注目されたのは、むしろ物語の中では脇役として描かれる「キミの才能を目の前にして絶望する者たち」の感情の生々しさであった。
努力できることも才能であるとはよく言ったものだ。キミという女はあまりに正しく、美しすぎた。幾度も立ちはだかる壁や挫折を前にして、唯一つくじけないという意志を貫いただけの彼女の背は凛と伸びていた。
その強さが誰かの手を、足を折ることなど、キミの知ったことではなかった。なにしろ見ているだけの群集が勝手に傷ついているのだ、キミがあれほど立派にやっているのに、己ときたらなんと不甲斐ないのだろうと。
キミの輝きで傷つく己が愚かしいのだ。キミはそれほどの圧倒的な存在として描かれ、愛読者の大半は「その他」のほうに共感した。当たり前だ。多少の才があっても、幾許かの努力をしても、自分は結局何者にもなれなかったのだから。
そんな「くらやみに光」だが、ある日突然連載が終了した。
作者の椿田時季子が急逝したのだ。理由は伏せられていた。愛読者たちは謎多き人物であった彼女の死を深く悲しみ、作品が未完に終わった事を惜しんだが、ある種の安堵に包まれてもいた。
もうわざわざキミの人生を追う必要はないのだ。
作者の死と共にあのキミの夢も潰えたのだから。
キミだって私達と何一つ変わらないじゃないか。
もうキミの光を浴びて傷つく必要はない。
キミは終わった。キミは消えた。キミは――。
●くらやみに光
「この小説の主人公の女性は『キミ』という名前のようだけど、二人称にも読めるよね。それを狙って書いているとしたら面白いかもしれない」
既刊を読んだらしい鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)の感想、というより評論は以上のようだった。それでね、と章は驚くべき事実を告げる。
「最近『くらやみに光』の未発表原稿が出版社に送りつけられてきたらしいんだ。担当編集者も椿田先生ご本人の作品としか思えないと困惑している」
椿田時季子は生涯顔出しを拒み続けたとされるが、余程著作への想いが強かったのか。その原稿は自ら影朧を呼び、書物の中へ溜めこみ続ける「魔書」に変貌してしまっているという。
「魔書の中に留まっているうちはまだ良いのだけど、そろそろ収容量が限界みたい。つまり、外に溢れ出しそう。何が起きているのか今ひとつはっきりしていないのだけれど、急いで対処してもらえるかな」
この「魔書」を開くと、どうやら「くらやみに光」の世界に飛ばされるらしい。筋書きを大きく変えてしまえば脱出できなくなる可能性があるため、猟兵たちは物語の展開をなぞりながら進む必要がある。
作家は体験したことしか書くことができない、と世にいう。
あれは概ね正しいと僕は考えている、と、一応絵本作家であるらしい章は薄く笑った。
「この世界で、きみたちは一時的に視覚・聴覚・触覚のいずれかを失う。配役や状況は人それぞれだろうから、技能やユーベルコードでうまく対処してほしいな」
蜩ひかり
こちらはサポート優先シナリオになっております。
スケジュール都合等で通常参加者様の採用が難しい場合がございます。
何卒ご了承くださいますようよろしくお願いいたします。
第1章 冒険
『きみがいない』
|
POW : 闇雲に進んだとしても、いつかは踏破できるはず。
SPD : 独りでなければ、切り抜ける方法が見つけられるはず。
WIZ : 自らの能力を駆使すれば、うまく対処できるはず。
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アラタマ・ミコト(サポート)
|荒魂鎮神命《あらたましずむるのかみのみこと》ことアラタマちゃんなのです。
極楽浄土でいろいろ経験してきましたが、それでも世界は広く多いのです。
即身仏ゆえに感情が表に出てきづらいのですが、本当はとても感動しているのです。
極楽浄土で使われていた「かたかな」という文字は未だに苦手なのですが、どうぞよろしくなのです。
●1
目をひらこうとした。ひらいた筈だ。
だが、いつまで経っても視界にはなにも映らなかった。
かの極楽浄土ことゴッドゲームオンラインにも、この手の状態異常が存在することをアラタマ・ミコト(極楽浄土にて俗世に塗れし即身仏・f42935)は知っているかもしれない。
主に『暗闇』という名で呼ばれる。効果はだいたい命中率の低下、もしくは物理的に視界が遮られること。今はおそらく後者の状態で、それはグリモア猟兵の言っていた『視覚を失う』という異常に該当している。
状況を整理してみよう。
ここは不死の帝が治める『さくらみらーじゅ』なる世界で、今は色々あって『文豪なる存在が書いた本の世界に入り、敵を倒す』という内容のくえすとを受注している。帝なる存在は即身仏かもしれないし、アラタマが本来目指すべき方向性は、いめーじ的にはあっちよりこっちの方が近かったかもしれない。
極楽浄土でもこのような、所謂東方風の街や装備は安定した人気がある。より純度の高いそれを実際に目にすることができないのは少々残念に思いつつも、アラタマはその他の感覚に集中力を向けてみることにする。
鼻から外気を取り入れれば、この世界特有の甘くてどこかせつない花の香りがした。
けれど木々に囲まれている、という雰囲気ではない。停滞した空気の流れ。正面から一筋の風が入ってきて、アラタマに外の空気を届けている。乾いた肌を焼くような強い、人工的な光。これの正体は何なのだろう。
一歩足を踏み出してみると、踏み慣れた木の床の感触が履き物ごしに伝わってきた。それにしても、人の気配はあるのにいやにしんとしている。大勢のぷれいやーが集まっている時は普通こうはならない。
なにが起きているのでしょう。ああ、『暗闇』にかかっただけで、世界とはこれほどに見え方が変わるのでしょうか。アラタマは感動を覚えていた。表情にはほとんど出なかったが――いや、それゆえに、目の肥えた|観客《﹅﹅》や|共演者《﹅﹅﹅》達は彼女の微細な変化を感じ取り、|演技力《﹅﹅﹅》に圧倒されたかもしれない。
誰かに恐る恐る問われた。
「……あなたは、誰?」
声を発した『誰か』にとって、それは劇中の台詞であった。けれど、心底そう思ってもいた。
聞かれたから、彼女は答えた。
「|荒魂鎮神命《あらたましずむるのかみのみこと》こと、アラタマちゃんなのです。どうぞよろしくなのです」
アラタマはただ依頼に尽力するつもりだった。視界が閉ざされ、癒しのユーベルコードが発動できなくとも、今は問題がなさそうな状況である事に安堵もした。
くえすとが完了したら、この『魔書・くらやみに光』なるれああいてむを報酬に貰えるのだろうか。特に何も通達されていないが、それにも少し興味がある。
この瞬間、アラタマ・ミコトはキミであった。
または、キミはアラタマ・ミコトであった。
舞台上の彼女が纏う神秘なる輝き、類稀な存在感を、群衆は固唾を飲んで眺めるのみだった。
――まさかその神通力の正体が『本物』であろうとは、誰も思いもしなかっただろうが。
成功
🔵🔵🔴
中村・裕美(サポート)
副人格・シルヴァーナ
『さてと、よろしくお願いいたしますわ』
多重人格者の殺人鬼× 竜騎士
外見 赤の瞳 白の髪
口調 (わたくし、~さん、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)
裕美のもう一つの人格で社交性と近接戦闘特化。柔らかな物腰や【優雅なるご令嬢】で対人系は得意な方。楽しいこと大好き。
【情報収集】も得意です。基本的にお嬢様然とし態度は崩しません
探索系であれば、ドラゴンランスを竜形態に変えて偵察に出したりなども可能。
シルヴァーナは電脳魔術が使えないので裕美のハッキング能力等が必要な場合は【オルタナティブ・ダブル】で呼び出します。裕美は頼れていじりがいのある妹みたいな存在
あと、虫が苦手
●2
某出版社に届いたという魔書「くらやみに光」の原稿をめくったシルヴァーナは、いきなり舞台袖に転移していた。聞く所によると、これは「菅井キミ」という舞台女優の生涯を描いた物語であるという。間違いなくその世界の中に入った、ということだ。
何やら他のスタッフや演者達が慌ただしくしている。「キミが即身仏に目覚めた」という強烈なパワーワードが耳に入ったが、恐らく他の猟兵が何かしたのだと思われる。
(妙ですわね。そのレベルの改変が起きても物語の進行には影響がないと?)
この小説のあらすじは、主人格である中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)のような人間が読んだらオーバーキルで卒倒しかねない内容であった。なのでひとまず副人格のシルヴァーナが対応しているのだが、状況を鑑みるにやはりそれが正解だったろう。
シルヴァーナは待機中の照明スタッフへさり気なく尋ねた。
「わたくし客演のシルヴァーナと申しますの。このようなトラブルはよく?」
肩書きは違和感なく受け入れられた。照明係は気まずそうに奥の控室を見ると、ひそひそと話してくれた。
「よく、という程ではないのですが……キミはむしろ、ハプニングが起きても破天荒なアドリブを思いついて、その場を強引に乗り切ってしまう事があって。脚本はもう滅茶苦茶になるんですけど、お客さんは皆さん仰るんです。『いつもより面白かった』って」
シルヴァーナは口許に手を添え「まあ」と眉をひそめた。その素朴な感想がどれほど脚本家の心を抉っているかは想像に難くない。控室の中で頭を抱え、一人うずくまっている地味な女性がいる。どこか裕美に似た雰囲気を持つそのひとは、きっと劇団の専属脚本家だろう。
シルヴァーナは思わず彼女の元へ駆け寄る。
「……どうしてこうなるの……私の、私の才能がないから。でもまた言われる、面白くないって……怖い……もう勝手に動かないで。キミは何も悪くない。けど、キミが怖い……!」
「しっかりなさい、そんな事を仰るものではありませんわ。貴方の脚本をわたくしにお見せくださいませ」
力なくさし出された台本を受け取ろうとして――シルヴァーナは触覚が無くなっている事に気づいた。触れることはできる、だが手が痺れ、頁を捲っている感覚がまるでない。それでも、いま演じなければならない。彼女の書いた物語を。
触れた実感はなくとも。
安心させるように女の手を軽く握り、『優雅なる令嬢』の役を賜ったシルヴァーナは舞台上へ躍り出ていく。
「まあ、皆様お揃いのご様子で。素敵な夜ですわね。わたくし、シルヴァーナと申しますの。この度はよろしくお願いいたしますわ」
場面は晩餐会のようだった。先程即身仏になったというキミは一旦退場している。流れを引き戻そうと、シルヴァーナはテーブルに置かれたワイングラスを手にしようとし――落とした。
触覚がない所為だ。ぱりん、という細く高い音がいやに大きく響き、劇場が一瞬のどよめきと共に静まり返る。
それでも、シルヴァーナは顔色ひとつ変えず。
優雅に礼をしてみせながら、目線を舞台袖へと投げる。
「粗相をお詫びいたしますわ。もし、そちらの方、危ないですから片付けてくださる? 返礼品は後日に」
シルヴァーナの意図を察した端役のメイドが素早く出てきて、ごく自然に破片を片付け始めた。これで舞台はつつがなく進行するだろう。観客も、演者も、その存在感に釘付けになる。
俯いていた脚本家が、顔を上げて舞台を見ている。それを認めた令嬢は、ひそやかに微笑むのだった。
成功
🔵🔵🔴
ユウ・リバーサイド
どんな思いで椿田先生はこの作品を綴ったんだろう
先生を助けるにはどうすれば良い?
…考える材料が足りないな
今は|即興劇《 インプロ 》に集中するしかない
あぁ、音が聞こえないや
なら俺の役は『喋る』のも苦手なはず
口からは意味をなさない音を発して
その手の動きは『ホームサイン』
…“体系だった手話”じゃない家族にしか通じないスラング
手話も口語も学んでいない青年を
目の前の人の言いたい事は読心術で察しつつも
交流に必要な最低限だけを組み上げ
負の感情には一切目を向けず
表情と身振りだけで言葉にならない感情のままの心の声を届ける
ただ目の前の出来事に夢中で
困難な事など無く
いや幸運と根性で限界さえ楽しんで超えてしまおう
●3
椿田・時季子という作家は、極度の秘密主義者であった。
担当編集者であれば何か知っているかもしれないと考え、出版社で少々尋ねてもみたのだが、「先生の遺志を尊重したく、例え超弩級戦力の方でもお話できない」の一点張りだった。殊勝な仕事ぶりだが、新たな情報は得られていない。もどかしかった。
(……考える材料が足りないな。今は|即興劇《インプロ》に集中するしかない)
ユウ・リバーサイド(Re-Play・f19432)が投げ込まれたのは、華々しい晩餐会のまさに裏側。物理的にも時系列的にも正しく『裏側』である。ユウは廻り舞台の裏手にいた。
裏方や端役達が見事な手際で大道具、小道具の配置転換を行っている。だが、不思議と物音ひとつしない――己の身に起こった異常にはすぐに気づいた。
――あぁ、音が聞こえないや。
静まり返った世界。表舞台では誰かが何かを演じているはずだが、会話も聞こえないのではどんな劇、役なのかすら理解するのが難しい。手がかりになるのは洋室の書き割り、ドア、それから、部屋の内装にはそぐわない子ども用の玩具……恐らく『喋る』ことが苦手。
「……さん、そこ、バミリ。見えてないんですか。なんか今日おかしいですよ。早く役入ってください」
スタッフが焦り気味に何かを話している。どいてほしい、という意図を察した。役に入れ――それもその通り。そうしよう。きみがそう、願うのなら。
廻り舞台の裏表がゆっくりと反転していく。華族の青年の衣装を早着替えで纏ったユウは、足元に置かれた積み木で何らかの建造物を表現することに全神経を集中させていた。
いつもと何かが違う。察した目敏い観客の囁きも今のユウには届かない。扉をあけた端役のメイドも、彼の鬼気迫る怪演に気圧されただろう。
「……お坊ちゃま?」
ユウは彼女を睨み、意味をなさない唸り声を発しながら空中を引っ掻くように両腕を振るった。『邪魔をするな』という意味のホームサイン――“体系だった手話”ではない、家族にしか通じないスラングだ。
普段とはまったく異なる『お坊ちゃま』の迫力に呆然とするメイド。遅れて登場したベテラン風の俳優は、青年の父の華族役である。いつも自由で華やか、光のような妹――主演たるキミの陰に隠された、とても表には出せない長男。それがユウに与えられていた役だった。
読みはずばり的中した。幸運にも。
二人が話している台詞の内容などなにも聴こえない。
観客がどれほど驚いているか、これは視覚から察することができたが、見てもいない。
ただ、この途方もない縛りの中、与えられた役を演じる事が楽しくて。目の前の出来事に夢中で。キミもきっとこんな役者なのだろう、椿田時季子は何を思ってこの劇中劇を書いたのだろう、いや魔書のことさえも――普段のユウならば当然頭を過ぎるようなことすべて、今はすべて忘れている。
すっかり馬鹿になっていた。手話も口語も今のユウには届かない。
スポットライトも当たらない薄暗がりの中、顔には喜色をたたえ、地べたに這いつくばるような姿勢で積み木遊びを続ける青年は、この場面のメインであったメイドと主人の会話を完全に食ってしまった。
退場したベテラン俳優が舞台袖で漏らした呟きも、恐らく聴こえていなかったろう。
「まったく、今日の公演は何がどうなっているんだ。勇介までキミみたいな演技をして……あれはあんな男じゃなかった筈なんだがね」
大成功
🔵🔵🔵
比良坂・彷
※背景等託すのでなくす物含め完全お任せ
※NG:恋愛染め
※教祖なので煙草ナシ
何時だって|『私』《教祖》は脇役達の人生に一時寄り添い言葉を与えた
才能が見えた
負の性質の解除も見えた
私は幾らでもあなたの光を詳らかにできる
私は安易な救済装置
私からすれば嘆く脇役とて主役格
私は脇役の更に脇役なのだ
『私』は虚ろだ自身は全く見えない
|『俺』《博徒》とて変わらない
…そう信じていたのに
『私』には醜い自我があり
生を渇望し
縋り付く信者の身と心も食いものにした
夥しい正負の感情を糧に『 』を埋めて命をつないだ
キミは『私』の言葉を求めない
だから『私』はキミに惹かれる
何故群衆はキミを前に怯むのか
光が消えたら絶望しかないのに?
…結局は皆幸せだからキミの消失に安堵できるのだろう
キミは生存のみ目指し凄絶に刀を振い続けるあの子に似ている
10年前にもたらされた光に|『私』《教祖》は虜な儘だ
|『俺』《博徒》は|『私』《教祖》を消したがる
あの子に構って欲しいのは『俺』だけって思い込みたい
けど
10年前にあの子と出逢い望んだのは
『私』だ
●4
そして舞台は廻り、じきに幕間となる手前。
民衆の手で組み上げられた櫓の頂点に座すは比良坂・彷(天上随花・f32708)。
廻り舞台の裏からは未だ、犬が低く唸るような声が聴こえている――そう、聴こえてはいる。
「何時だって|『私』《教祖》は脇役達の人生に一時寄り添い言葉を与えた。才能が見えた。負の性質の解除も見えた。私は幾らでもあなたの光を詳らかにできる」
なにも視ることはできなかった。ただ、語り部の台詞はすらすらと出てくるし、聴こえる。
キミに傷つけられた、愚かで、気の毒なその他大勢の為の安易な救済装置。
そう位置づけられた『教祖』に、名もなき脇役達の手がまとわりつくのを感じる。キミの共演者。ファン。親族や召使い。彼らはただの群衆、モブとして劇中に存在している。しかし、|『私』《教祖》はその『嘆く脇役』たちを立てる為だけに存在しているのだ。彼ら一人一人の身近で壮大な悲劇を際立たせる、脇役の更に脇役。
「だが、キミは『私』の言葉を求めない。だから『私』はキミに惹かれる」
光に焦がれるように、手を高く掲げる。
彷に与えられた役回りは――狂言回しだ。
男にとって、かつて世の何もかもは空虚であった。例え生まれついてなにも映せない眼であったとしても、すべては流れゆく大河をただ眺め、時折打ち上げられた魚を水に還すが如くの人生であったのだから、そう変わり映えはしなかっただろう。しかし、今は幾許かの焦燥があった。
「『私』は虚ろだ。自身は全く見えない」
|『俺』《博徒》とて変わらない……そう信じていたのに。命などいつでも棄てられると思った。例えば殆ど情報の無い不穏な依頼を気紛れに受諾して、その結果死に至るようなことがあったとしても、それこそ博徒の本懐ではないかと。
しかし――今の『私』には醜い自我があった。貪る。貪る。自らが生きる為に、敬虔な信者と化した脇役達に甘い言葉を囁き、金を巻き上げ、その人生を破滅へと向かわせる。
くるくると舞いながら舞台袖へ消えてゆく脇役らのゆく末など眼にうつらない。
果たして己はこのような俗物であったか。群衆が纏う夥しい正負の感情を糧に『| 《虚っぽ》』を埋め、己が生命を繋ぐことを渇望するような、そんなに人間の臭気がするものであったか。
堕ちた神の子を象徴するように、端役の群衆達の手で櫓が解体されていく。
くらやみしか視えずとも、幸い翼があるおかげで無様に落下することは防げた。
いや、いっそ逆らわず、舞台に叩きつけられてしまえば良かったのかもしれない。|『俺』《博徒》は確かに|『私』《教祖》を消したがっている――でなければ、こんな演技は咄嗟に出てこない。
生存のみを渇望し、凄絶に刀を振い続ける|あの子《キミ》の姿が今はみえない。
生を。十年前にもたらされた光、その虜となった|『私』《教祖》はもはや語るに落ちたのだと、口が勝手に漏らしつづけるのは、これがすべて物語の中という虚構であるゆえか。
「何故群衆はキミを前に怯むのか。光が消えたら絶望しかないのに?」
堕ちた教祖の台詞を、はりぼての観客たちは素直に『菅井キミ』の物語の語り部として受け取ったろう。キミの前では神聖ですら霞むのだと、ある種の安堵と共にその名演を堪能しただろう。
だが、これは演技ではない。
演技であって、演技ではない。
|『私』《教祖》という器に写し取り、流し込むのは、なにひとつ偽りのない在るがままの醜悪な|『俺』《博徒》。
心に爪を立てたまま離れない、その娘の姿はいま此処にはないはずだ。
それなのに、|あの子《キミ》の姿を眼にうつす事ができないということが、これほどまでに己を乱すのか。いや、|あの子《キミ》の声が聴こえなくとも、|あの子《キミ》に触れることが叶わなくとも、きっと同じ密度の絶望をこの身に味わっていた。
「……結局は、皆幸せだからキミの消失に安堵できるのだろう。しかし、|『私』《俺》はそうではない」
彷の顔に浮かぶのは常と似た薄らとにやけた笑みだ。ただ、余裕がないことは己のみが知る。
あの子に構って欲しいのは『俺』だけだ、そう思い込もわんとする。
しかしそのたび、執念深い過去が追いすがり声をあげるのだ。十年前にあの子と出逢い、望んだのは『私』だと――世界を一変させる光との邂逅。それがもたらす、己と己、相反する自我同士の殴り合い。
あァ――気が狂いそうだ。だが、だからこそ美しい。
空っぽの器へ無理矢理に流し込まれる執着と情念、これこそが求めていたもの。渇きを満たす恵みの雨ではなかったか。
かくして狂言回しは役を降りた。これを独り舞台と呼ぶならば、どうぞお好きにするといい。
もはや脇役の脇役には徹せない。博徒が己の存在全てを賭け、尽くしたいのは唯一人と決まってしまったのだから。この賭けに敗北は許されない、例え相手が神の子であっても。
「さらば、愛すべき脇役達よ。|『私』《俺》はキミを――このくらやみに、光を求めている」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『花を贈る少女』
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POW : 花は手渡され、華々しく散る
自身が戦闘不能となる事で、【花を贈った】敵1体に大ダメージを与える。【自身が遺した未練】を語ると更にダメージ増。
SPD : その使命は天命の如く……
【不意に視界を遮るように飛び込んできた紙面】に映し出された【今はどうでもいいけど重要そうな情報】を見た対象全てに【『注意散漫』の状態異常】を与え、行動を阻害する。
WIZ : 人々は行き交い道を阻み……
戦場全体に、【一般人の人混み】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●5――幕間にて
何かの歯車が狂ったまま、劇中劇は進行し続ける。
物語の世界観が壊れるとまずいのではなかったか。いや、元よりこういう本であったのか。
何にせよ『椿田時季子は気に留めていない』、そうであるらしかった。原作を舞台化するさい、過度な改変をきらう作家は多いという。比較的珍しい性質であり、その点では扱いやすい人物であったのかもしれない。
だが、不意に転機が訪れた。
観客席の中からすっと立ち上がり、舞台の上へと歩きだす少女たちがいる。
彼女たちは手に花束を携え、どこか哀しそうな表情を浮かべて、役を演じるあなたたちにそれを手渡そうとする。
人生において、誰かに花束というものを贈る場面は数多あるだろう。
舞台、あるいは演劇においてそれが果たす役割は、概ね似たようなものが多い。
千秋楽。卒業。クランクアップ。要するに――『舞台を降りろ』、という意味だ。
●継続参加をご希望の方向けの補足
前章で割り振られた五感の異常、および配役については解除しても、しなくても構いません。
また『花を贈る少女』たちは魔書に引き寄せられた影朧です。
彼女たちに言葉をかけたり、ユーベルコードを利用して何かを試みても、また何もせず普通に倒すのも自由です。
ただし、あまり多くの情報、決定的な手がかり等は得られないかもしれません。
要するにだいたい何をしてもOKです。お気軽にどうぞ。
ユウ・リバーサイド
アドリブ歓迎
聴力はそのまま
観客が舞台に上がることに違和感を感じ
意識の一部を本来の思考に戻す
降りれないよ
演じる事を求められたんだ
役者ならその喜びを手放せない
きっとキミも無我夢中だったんだね
UC使用
ダンスと軽技で鍛えた体幹で
長男の動きとして自然な範囲で花束を回避
注意力散漫は集中力で打ち消す
役としては
完成した積み木に無邪気に笑って少女に「見て」という仕草
花束は興味ないと跳ね除ける
積み木を崩された時点で激昂し
体当たりで舞台裏へと押し出す
家人から求められない寂しさを怒りで埋めるように叫ぶ
読心術で少女の望みを察しても
ごめん
俺は止まれない
観客から見えない場所で
心眼で少女の急所を見抜き
呼び出したハートで貫く
●6
なにも聴こえないとそのぶん他の感覚が鋭敏になる、と聞いたことがある。
それゆえ、ユウ・リバーサイドが観客の不自然な動きにいち早く感づいたのも、必然であったのかもしれない。
彼の親きょうだいや使用人を演じる俳優達は気づいていないのか、見て見ぬふりをしているのか。そこに確かな歪みがある。客席と舞台を繋ぐちいさな階段を昇り、壇上にあがってくる少女達の存在は明らかに異質なものだった。
おぼつかない足取り。どこか緊張した表情。人一倍舞台に熱を注いできたゆえに、ユウはそれが奇抜な演出の類ではないと一目で看破できた。
――影朧だ。
『長男』は相変わらず積み木遊びに集中しているが、『猟兵』は思考の一端でそれを認識する。彼女達のまなざしと、手にしたものが何を訴えんとしているのかも理解する。……けれど。
――降りれないよ。演じる事を求められたんだ。
例え主役でなくとも、役名さえ、あるいは役そのものすら得られない事がざらにある業界。華やかな演目の裏に隠された悲喜交々、それを知るゆえに、一度手にした演じる喜びをそう簡単には手放せない。
頭の端でキミに想いを馳せる。盲目という体質を生まれ持った彼女が、初めて役を手にした時の喜びは如何ほどだったことか。無我夢中だったはずだ。きっと、心から喜んでいたはずだ。
キミは誰かを傷つけるつもりなどなかった。彼女はただ、天が与えた試練すら全力で楽しんでいただけだったんだ。
その時、不意にユウの前を一枚の原稿用紙が横切る。
原稿――? 此処に来た本来の理由を思い出した。今のは確かに、出版社で見た椿田時季子の筆跡であった。内容までは一瞬では読み取れなかったが、|椿田はここに来ている《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》。
重要な情報であるかもしれない。だが、今原作者を舞台に引きずりだしてしまっては流石にメタフィクションが過ぎる。意識を『ユウ』に持っていかれないように、もうひとりのユウ――勇介が持つ、武蔵坂の灼滅者としての記憶を掘り起こす。
叶うかなんて分からない。赦されるかなんて分からない。傷つけない保証なんて無い。
―――だとしても!
やってみせろよ、ユウ・リバーサイド!
壇上にのぼった花を贈る少女には目もくれず、積み木を完成させることに全神経を使う。出来上がったものは歪だが、なにかの舞台らしき形に見えなくもなかった。その上に、ふたりの男の人形を向かい合わせで置く。
目の前まで来た少女に頑是ない笑みを向け、指をさして「見て」と示せば、返ってきたのは困惑の表情だった。少女は戸惑いながらも花束を差しだしてきたが、強く首を振って立ち上がり、体幹がぶれないよう大きく腕を広げながらその場で一回転してみせる。
ユウの腕が花束を叩き落しても、まるでバレエのような彼の動きは見事な演出として観客の目を奪ったろう。焦るは影朧のみ――後ずさった少女の靴がうっかり積み木の舞台を蹴った。
「長男」は作品を崩され、激昂する。自然な演技だ。少女に獣のような体当たりをし、そのまま力づくで……いや、そう見えるようなパフォーマンスで、共に舞台裏へと消えていった。
意味を成さない叫び声だけが舞台裏から響き、表では「長男」の家族たちが眉を顰めて何かを話し合っている。
この青年は、家人から求められぬ寂しさを、行き場のない怒りと暴力でしか埋めることができないのだ。そう印象付けるに足る、言葉無き名演だった。
舞台裏に引きずりこまれた影朧の瞳が訴えている。
違う。貴方じゃない。
わたしたちが本当にこの花を渡したいのは――それ以上は読み取れなかった。
この選択がどういう結果を招くのかはわからない。でも、ごめん。俺は止まれない。『勇介』もきっとそうだろう、どんな道筋を辿ったとてすべての魂は繋がっている。
ユウの武器が少女の喉笛を斬った。語る機会を失った影朧は、花吹雪となってただ舞台を飾る。黒い揚羽のようなハートが、夢の幕切れを惜しむようにふわふわと漂っていた。
大成功
🔵🔵🔵
音駆螺・鬱詐偽(サポート)
世界に蔓延る悪を懲らしめるネガティブアイドル鬱詐偽さん
ただいま参上。
・・・って、どうしてこんな恥ずかしいセリフを言わないといけないのよ。
うう、これも番組の為なのね。
自身の命綱である番組の為、多少の苦難や困難は仕方なく行います。
むしろ持ち前の不運によりおいしい場面を呼び込んでくれるかと思います。
ただし、ネガティブとはいえアイドルですのでマイナスイメージとなる仕事はすべて却下でお願いします。
ユーベルコードや技能はご自由に使わせてください。
どうぞ、当番組のネガティブアイドルをお役立てください。
プロデューサーより
●7
「……ここはどこ? 私は、だれ?」
音駆螺・鬱詐偽(帰ってきたネガティブアイドル・f25431)は――フラフラしていた。正直もう過労でぶっ倒れる寸前であった。これも「乙は年中無休、不眠不休で労働するものとする」みたいな事が書かれた怪しい契約書にうっかりサインしてしまったせいだ。
いまいち詳細がよくわからない魔書の世界へ行ってみた、などは、彼女の冠番組である『鬱るな!鬱詐偽さん』的には非常においしい仕事である。もうかれこれ三日は寝ていない鬱詐偽の意識はほぼ無かったし、役どころすら分からなかったが、なんだか猛烈に暗い劇をやらされている事だけは何となくわかっていた。
台本の内容に呼応するように。
陰湿・根暗・不幸の三拍子揃った圧倒的負のオーラが、ズモモモモとばかりに鬱詐偽から噴出している。
鬱るなって言われても、もう無理。鬱とかの前にまず、寝たい。別にふかふかのベッドとかじゃなくてもいい。本当にそうよ、私だって何者にもなれない。配信とかキラキラした事はキラキラした子達がやっていればいいのよ。私のどこに需要があるの?
もう私の寝場所なんかそのへんのソファー、いいえ床で充分だわ……そんな投げやりな気持ちで、鬱詐偽はついに舞台上へ倒れこんだ。
『あっ倒れた』
『いや大丈夫なのこれ』
『運営何やってんだよお前が仕事しろよ』
『がんばれ鬱詐偽ちゃん😭』
鬱詐偽ドローンで中継を見ている視聴者達が、コメントやスタンプや投げ銭をしてくれている。でもやっぱり無理……猟兵なんかもう無理……電子の海に戻ってきたりしないで、骸の海で永遠にネチネチネチネチしていればよかったんだわ……そんな彼女にも、オブリビオンの少女はそっと花を贈ろうとする。
「やめても……いいの? この番組……」
少女はうんともいいえとも言わない。ただ、床に突っ伏す鬱詐偽のすぐ傍に花束を置き、演者が急に倒れたことでざわつく客席へと駆け戻っていく。
『まさかの番組終了?』
『最終回!?』
『やだ、やだむりやめて』
『鬱詐偽ちゃんは俺達陰の希望なんだよふざけんな』
「うう……」
今すぐこの花束を拾い、今までご視聴ありがとうございましたで〆られたらどんなに楽か。正直迷った。けれど、鬱詐偽はその花束を受け取ることが、どうしてもできなかった。
『🐇🐇🐇🐇🐇』
『🐰🐰🐰🐰🐰』
コメント欄を埋め尽くすその絵文字を見てしまったら、こんな自分でも応援してくれる人を置いていくことがどうしても出来なくて。うう、これだから私はいつまで経っても不幸なんだわ……そう思いながらも、満身創痍の身体で立ち上がる。
舞台を降り、どよめく客席を駆け抜けて、花束を贈る少女へ溜まりに溜まったネガティブなオーラをぶち撒ける。とにかく仕事を終わらせて早く帰りたい、例えその一心しかなくとも。
「――世界に蔓延る悪を懲らしめるネガティブアイドル鬱詐偽さん、ただいま参上」
成功
🔵🔵🔴
比良坂・彷
※アドリブ歓迎
瞼あげる
まだ朧な視界、ざわめきが際立つ
「嗚呼、此処は―そうか、何時もの」
舞台に立てるのは猟兵だけ、だから俺は自由になれたと思ったのに
また|檻《先見教》の中に戻された
―生きる為、幼い己が構築した檻。監禁は自業自得。私は救われるべきではない
いつも通り
教祖様と縋る信者らはキミの光に灼かれた者達と類似
彼女らへ|神託《慰めと助言》を卸していた私だが今は問う
「貴女はどう生きたいですか?」
さぁなんと答えるか
彼女らは華族の娘
使用人と駆落ちするも捕まえられて|先見教《遊郭まがい》に放り込まれた
私は彼女にの慰み者に過ぎない
怨嗟恨み言に耳を傾け
親の手で殺された想い人の面影を時に演じる
|演者《教祖》に自我はいらない
問い返しには「あなたのお気に召すままに」と笑う
何時も通り泥めいた慰めと共に
仇敵と果てた親兄弟を私に重ねくびり殺したいならそうすれば佳い
他の信者が邪魔をするか
花を持つ艶やかな娘に辿り着く、花受け取る前に
「あなたの生きたい所は何処?」
「ねぇこの舞台を降りても良いの?」
答えは花をくれるか否かで
●8
劇場全体がざわついている。
演者が急に倒れただの、客席に乱入しただの、そんな言葉が耳に入り――舞台袖の比良坂・彷はゆっくりと瞼をあげる。照明が網膜のなかでぼやけている。けれど、筋書きが逸れたならば修正しなければ。それが俺――舞台に立てる|猟兵《﹅﹅》の役目なのだから。
おぼつかない足取りで舞台上に出れば、展開されるは教祖がまやかす虚実欺騙。成功率は十割、確実に観客と影朧を陥れるだけの卓越した演技力。当たり前だ、この身はずっと己の心すら欺いてきたのだから。
「嗚呼、此処は――そうか、何時もの」
その一言で、混乱していたはずの劇場がしんと静かになった。観客に注目されている、それは演者としてはけして悪いことではない。むしろ誇るべき成果だった、それでも。
あんたも、あんたも、あんたも――あァ、あんたもか。
なァんだ、結局誰もが驚く程に|私《﹅》の思い通り。また|檻《先見教》のなかに押し込められてしまった気がした。
――生きる為、幼い己が構築した檻。監禁は自業自得。私は救われるべきではない。
|私《﹅》の呪詛めいた信託が躰の奥底からこだまする。そう、いつも通りやればいい。いつも通り……教祖様、教祖様と、再度集まってくる名もなき群衆たち。事業の失敗、お家騒動、不幸な事故、その他諸々ですっかり落ちぶれているが、彼ら名無しの大半も元は華族だったという。醜いものだ。みずから櫓を解体しておきながら、心持ちが悪くなればまた縋る。
彼らの迷路めいた絶望の中心にはキミがいる。
自由で華やか、どんな苦難もものともせず、例え独りでも軽やかに超えていく光の娘。
そう、灼かれた彼らはみなキミの引き立て役に過ぎない。いや、この娘には役名があったか。使用人と駆落ちするも、親の手で捕らえられ、想い人を殺され、挙句に|先見教《遊郭まがい》に放り込まれた女。彼女の名前は――。
「|椿田時季子《﹅﹅﹅﹅﹅》よ」
背後で、誰かが確かにそう囁いたのが聴こえた。クスクスと卑屈な笑い声が響く。
「嘘。流石にそれは無いわね。そうね……では『トキ』という事にしておこうかしら」
それきり謎の人物は口を閉ざした。だが、振り向くことはしない。|演者《教祖》に自我は、|俺《﹅》は必要ない。いま求められているのは、誰かが『トキ』と名付けた目の前のあわれな娘の相手をする事だ。常なら彼女に共感し、求められている|神託《慰めと助言》をすればいい。だが――|私《﹅》はあえて問うた。
「貴女はどう生きたいですか?」
それが何かの引き金になった。
急に突き放されたようで、トキという娘は一瞬娘らしい戸惑いの表情をみせる。どう生きたいか? どう生きたいか。そう、台本通りに正しく答えるなら「キミのようになりたかったのに」とでも言い、めそめそと泣きつけばいい。
しかし、流れ上トキと名付けられた娘はそうは答えなかった。まるで人が変わったような真っ暗なまなざしで、しかしどこか愉快げに笑いながら、躊躇う事なく言い切ったのだ。
「……親を……親を殺して捕まってくるわ。そう、大道具倉庫に鋸があったわね。手伝いなさいよ、教祖」
とんだ超展開だ。|正気《﹅﹅》の信者どもが群がり、邪魔をしようとする中、教祖はトキに手をひかれてその人混みを抜けていく。唯一つの出口へ導かれるようにして。
彼女を正しく慰める必要などなかった。怨嗟も恨み言も存在しなかった。親の手で想い人を殺された? なら、そいつはもう親なんかじゃないだろう。|ただの仇敵だ《﹅﹅﹅﹅﹅﹅》。
苦悩はなかった。混迷もなかった。ただ苛烈で暴力的で、如何しようもない狂飆めいた、いっそ爽やかですらある凄絶な負の感情だけがそこにあった。貴女はどう生きたいか――その問いに対するトキの答えは、そうとしか言いようがなかったのだ。
それでも|私《﹅》は彼女にとっての教祖を、慰み者を演じ続ける。彼女にとっての慰めが、言葉にするのも億劫な程の情念を肯定することであるなら、何時も通り泥で満たされた匣になるだけ。
「趣味じゃなかったかしら」
「あなたのお気に召すままに」
そう、独りで勝手に脱線していく女の衝動を受け止めて、此方は台本通りに優しく微笑みかけるだけ。
そうして大道具倉庫に着いたトキは、鋸を手に彷へ向き直り、先程とおなじ笑みを浮かべた。
「気が変わったわ。|先見教《遊郭まがい》があるのは貴方の所為だし、あの屑にそっくりでだんだん腹が立ってきたから。……不思議ね、父様や姉様達はきちんと憎いのよ。けれど、どうして私があんなしょうもない男の復讐の為に人生を捨てなきゃならないのとも思う。冷たいかしら」
「成程、私はあなたの想い人に似ている、と」
「そう。ただただ優しいだけで空っぽの男。私の望んだ事しかしないし話さない、つまらない男だったわ」
――それとも、貴方は違うのかしらね。
|演者《教祖》に自我はない。そんなものはなくていい。ない方が、いい。
ただ、狂った博徒の|俺《﹅》が、丁か半かと囁いてしまったから。
「ねぇ。|トキ《キミ》はもしかしたら」
「黙りなさい。登場人物がそれ以上喋るな」
それから時間にして数分後、だろうか。
花を贈る少女が慌てた様子で倉庫に駆けこんでくるのが見えた。血塗れで壁に寄りかかる彷をみた少女は、涙を流しながら震えている。どうして。どうしてこんな事に――態度がそう語っていた。大丈夫だ。その混迷がある限り、彷の生命力はかえって滾ってしまうのだから。
「……色々あってさ、こんな状況でごめんねぇ。あなたの生きたい所は何処?」
「…………キミが、生きていられるところ…………」
「……ねぇ。俺は、この舞台を降りても良いの?」
影朧の少女は震えながら手にした花束を抱きしめる。迷って、迷って、迷って――少女は血だまりに花束をそっと置いた。取ろうと思えば取れるし、置いていこうと思えばできる。いずれにせよ、淡い花びらは緋色で染まり、もう元の色ではなかったけれど。
私達にはわからない。それはキミが決めることだから。
けれど、我儘だけれど、ごめんなさい。
どうか、できるなら――キミを助けてあげて。
大成功
🔵🔵🔵
ティエル・ティエリエル(サポート)
◆キャラ特徴
ボクっ娘で天真爛漫、お転婆なフェアリーのお姫様です。
王家に伝わる細身のレイピアを使った空中からのヒット&アウェイで戦うのが得意な女の子です。
・冒険大好きお姫様
・珍しいものにも興味津々
・ノブレス・オブリージュの精神で弱者を放っておけないよ
・ドヤ顔がよく似合う
・困ったら動物さんに協力を!
◆戦闘方法
・背中の翅で羽ばたいて「空中戦」や「空中浮遊」で空から攻撃するよ
・レイピアに風を纏わせて「属性攻撃」でチクチクするよ
・対空攻撃が激しそうなら【ライオンライド】
・レイピアでの攻撃が効かない敵には【お姫様ビーム】でどかーんと攻撃
明城・朱砂(サポート)
普段の口調は「俺」「言い捨て」、第三者に対して「私」「敬語」
指定したUCを使用し、積極的に攻撃など行います。また、人助けなどが必要な場合、そちらを優先します。
他の方との連携、アドリブ可。
●9
――いやっ、離して! その男を殺してわたくしも死ぬのよォー!
――おやめくださいお嬢様、旦那様は、旦那様は貴女のためを想って……!
「ええっ?」
舞台袖からこっそり出番を窺っていたティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)は、急に劇の雰囲気が変わった事に驚いていた。なんというか、急に雑なのである。台詞も、展開も。
そもそも、なぜ急に血まみれのノコギリを持った女が舞台上に乱入してきたのかわからないし、あの血は恐らく本物の血であるような気がした。仲間の猟兵の誰かの――。
『何か起こるか予知でもよくわかんない魔書の世界!? いいよっ、ボク行く行くー☆』
吟遊詩人の詠う刺激的な冒険譚にずっと憧れていたティエルだ。本の中の世界に行けるお仕事、しかも大冒険の予感……なんて、夢みたいではないか。
そう思い、二つ返事で依頼を引き受けてしまった気がするが。
何やら、こう、危ない。雰囲気が。
それもそう、これはあまり一三歳の乙女には見てほしくない情念ドロドロの本だったのだが、そこは猟兵としては超ベテランの部類に入るティエル姫。実力的にも猛者である彼女の瞳は、曇りなき好奇心で輝いていた。
「うんうん、サクラミラージュってボクあんまり来ないけど、なんかいつもこんな感じだったかも! ふふーん、ちょっとオトナ向けでも、ここはひゃくせんれんまってヤツのボクに任せろーなんだよっ。とにかく、あの女の人は早くなんとかしたほうがよさそうだよね!」
「ええ。聞いた話によると、あまり筋書きが大きく変わると脱出できなくなる恐れがあるとの事でしたし」
一方、明城・朱砂(人を探すもの・f44027)はこの「くらやみに光」なる魔書にざっと目を通してきたのだが、少なくとも劇中劇にこんな良くも悪くもインパクトのあるシーンは無かったと記憶している。
これは盲目の舞台女優・菅井キミが田舎から上京し、国民的スタアへの階段を昇っていくまでの所謂サクセスストーリーである……そう聞いていた筈なのだが、おかしい。それにしては、|決定的におかしな所がある《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》。
「……少し気懸りな事が。私は舞台裏を巡回してきます。表の方は任せて宜しいですか」
「オッケー☆ ようし、じゃあボクがどどーんといっちゃうぞーーーっ!」
ちいさな先輩猟兵はどやっとウインクしてみせると、元気よく舞台へ飛びだしていく。フェアリーであるティエルは、堂々と舞台へ出ていっても物理的には目立ちにくい。気づいたのは、一応倒すべき影朧であるらしい花を贈る少女ぐらいだ。花束と共に、何か紙を手にしている。
『たすけて』
へろへろの字でそう書いてあった。この影朧たちの魂の叫びだろう。それが何を意味するのか本当のところはわからなかったが、困っているなら、そしていま人に迷惑をかけていないなら、例え影朧でもその声に応える責務がある。それが王家のノブレス・オブリージュ。
「わかった、助けてほしいんだね? もちろんだよっ!」
小柄な体格を生かして、ノコギリ女の服の隙間にするりと入りこみ。
「そーれ、こちょこちょーーー♪」
「!? あ、あはっ、あははははは! な、何なのお父様!? 急にくすぐったいわ!」
「いや娘よ、吾輩は何もしておらぬが……いや、お前の婚約者を殺してはおるが」
「ええーっ! おじさん、それは親っていうか、なんか人としてダメだってば!」
「な、何者だ!? 今、華族たる吾輩をおじさんと申したか!?」
ヘンな台詞と展開には思わずツッコミを入れつつ、くすぐり攻撃でノコギリを落とさせると、えいやっと持ち上げ、舞台袖の安全な場所へぶん投げる。豪快お姫様アクションであった。
「うーん、どうしようかな? 影朧も倒さなきゃいけないって言われてたよね! それじゃあハッピーエンドっぽい感じのほうがいいのかな? いっくよーー! せーのっ、どっかーん☆」
ティエルはちゃきっとレイピアを構えると、お姫様の気合が入った謎のビーム……その名も『お姫様ビーム』で、悪役っぽいやつらと影朧をまとめてふっ飛ばしておいた。
それはまさに、くらやみに走る一筋の閃光。
身体の小ささにも負けない強烈な存在感は、唖然としていた観客の目を釘付けにする。
「どーだっ! 華族よりお姫様のほうがエラいもんね☆ 最後に正義は勝つんだよ!」
ティエルがポーズを決めてふんぞり返れば、客席からは万雷の拍手が降りそそぐ。|さすがキミ《﹅﹅﹅﹅﹅》。ハンデなどものともしない輝き。素晴らしい名演だった、ブラボー……鳴りやまぬ歓声と口笛の中で、ティエルはドヤりながら首をかしげていた。
「あれ? ボクが|キミ《﹅﹅》の役だったの? ヘンだよ、だってボクはティエルだもん」
まずは大道具倉庫で襲撃を受けたという味方猟兵のもとへ向かったが、ひとまず命に別状はなかったようだ。だが安心はできない。朱砂はある人物を探していた。すれ違う人々へ片っ端から開示の能力を使っているものの、予想に反して舞台裏には該当する人物が存在しなかった。
(となると、残る場所は限られてくるな)
再び舞台上へ戻る。そこではティエルや他の猟兵たちを中心にして、華々しいカーテンコールが行われている。客席で拍手を送っている者達の個人情報を開示する。違う。ここにもいない。
そうなると、残る場所は――仲間の猟兵を視る事は避け、一人一人の個人情報をやはり開示していく。
そして。
朱砂はようやく見つけた。あくまでこの依頼における、彼の探し人を。
「そこにいたか。やはり生きていたんだな。お前が、魔書『くらやみに光』の作者……|椿田時季子《﹅﹅﹅﹅﹅》だったのか」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 集団戦
『夢散り・夢見草の娘』
|
POW : 私達ハ幸せモ夢モ破れサッタ…!
【レベル×1の失意や無念の中、死した娘】の霊を召喚する。これは【己の運命を嘆き悲しむ叫び声】や【生前の覚えた呪詛属性の踊りや歌や特技等】で攻撃する能力を持つ。
SPD : 私ハ憐れナンカジャナイ…!
【自身への哀れみ】を向けた対象に、【変色し散り尽くした呪詛を纏った桜の花びら】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : ミテ…私ノ踊りヲ…ミテ…!
【黒く尖った呪詛の足で繰り出す踊り】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●10――|椿田《つばきだ》|時季子《ときこ》の述懐
「両親が不仲なの。だから家族の話なんかとても書けないわ」
盛大なカーテンコールののち、唐突なエピローグは吐き捨てるような一言から始まった。
降ろされたはずの緞帳が再び上がり、スポットライトの中心でひとりの女が机に向かって、原稿用紙に万年筆を走らせている。
女の表情は完璧なまでに無だった。それゆえかえって異常さ、鬼気迫るものを感じさせるほどに。
「ええ、確かに一度は死んだわよ。文豪じゃあるまいし、首を吊ったり、入水したりなんかするものですか。流行り病を拗らせて、ごくごく普通にくたばっただけよ。くだらない死にざまで御免なさいね……病院に行く金を惜しんだばっかりに、本当にくだらない」
でも無いものはひねり出せないもの、仕方ないわよね。女は軽い溜息を吐く。
「そう。出版社の連中に会ったの。私の遺志を尊重したいと……上手く逃げたものね。あいつらがどれだけ原稿料を中抜きしているかご存知かしら。ええ、私の手元に来る頃には雀の涙程度だわ。巻き上げた小銭で次はどうやって儲けようかを考える、それがあの人達のお仕事よ。作家なんか刈っても刈っても後から幾らでも生えてくると思ってる。隷属したら使い潰されるだけ」
台詞らしきものを吐いている間も、|名もなき華族の娘役《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》の手はまったく止まらない。まるで何も考えていなくとも手が勝手に作品を書いてくれるかのようだった。
それは紛れもなく、ある種の天才と呼んでいい力量だったろう。私、実はスランプとかネタ切れとかさっぱり理解できないのよ。だってなった事がないから。そう言って肩をすくめる。
「でもね。一度死んで、何もない暗闇の中でふと考えたわ。私の人生、こんな馬鹿みたいな終わり方をするために生きてきた覚えはないって。私は書きたいから生きてるんじゃないの。|生きるために書かなきゃいけないのよ《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》。そう思ったら、墓なんて簡単にぶち壊せたわ。きっと葬式も適当にあげたんでしょうね……家族のことだもの、わかるわ」
くつくつと低い笑いをもらしながら、女は原稿を書き続ける。
悪い癖ね、プロット通りに話が進んだ試しがないのよ。あれって書く意味あるのかしら。
女の周りに、スポットライトの外の闇に、おびたたしい数の影朧が集まっている。
狂ったように踊り続ける夢見草の娘達は、かつて華やかな世界を目指し、志半ばで散った者の魂の名残り。この女の書く作品は、それらを惹きつけてやまぬと見える。
それは何故なのか。
「原稿を送ったのは私よ。怨恨じゃないわ、続きを刊行してもらわないと生活できないんだもの。そうしたら此処に閉じこめられてしまったのだけど。そう……絶筆しない限り死ねない哀れな人間を文豪と呼ぶのね。なら、私は文豪なんでしょう。とても残念なことだけど」
ああ……この服、少し暑くなってきたわね。
死ぬ訳だわ。本業も人手が足りないから、一人で何役もこなさないといけないの。
原稿を書く手はけして止めぬまま。
華族のドレスを脱ぎ捨てた|端役のメイド《﹅﹅﹅﹅﹅﹅》は、誰にあてるでもない答え合わせを吐いた。
「作家は副業。椿田時季子はペンネーム。|菅井キミは私の本名よ《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》。本と違って目は視えているし、役名も貰えない、無名劇団の端役女優ですけどね」
●継続参加をご希望の方向けの補足
要するに、椿田時季子=菅井キミです。
彼女はずっと舞台上にいたため、皆さんは物語の主役であるはずのキミらしき人物と遭遇することがありませんでした。
椿田は『登場人物が勝手に動く』タイプの作家であるため、物語のあらすじは都度変わっています(なので、多少というかかなり脱線しても問題は起きなかったようです)。
この依頼を終わらせる条件は二つあります。
【A】執筆を続ける文豪を止めることで「情念」に引き寄せられていた影朧を退散させる。
【B】この作品が完成するまでの間、湧き出し続ける影朧を倒し続ける。
何をしたいか、どう終わらせたいかは参加者様にお任せします。
サポートの方はステシやプレイングの内容を見つつ、基本的にはBになると思います。
1、2章のサポートでお呼びした方もご参加いただけますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします。
ハル・エーヴィヒカイト(サポート)
▼心情
手の届く範囲であれば助けになろう
悪逆には刃を振り下ろそう
▼戦闘
殺界を起点とした[結界術]により戦場に自身の領域を作り出し
内包された無数の刀剣を[念動力]で操り[乱れ撃ち]斬り刻む戦闘スタイル
敵からの攻撃は[気配感知]と[心眼]により[見切り]
[霊的防護]を備えた刀剣で[受け流し]、[カウンター]を叩き込む
●11
並行世界の同一人物。
魔書の物語中で描写されるスタア女優『菅井キミ』と、現実の『菅井キミ』……すなわち文豪・椿田時季子も、あるいはそれに近しい存在であるのかもしれない。
けれど、ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣聖・f40781)と彼女には決定的な違いがあった。ハルが並行世界の己とされるケルベロスの記憶を持っているのは、とある死神の策謀によるものだ。自ら望んで得たわけではない。
しかし、今しがた聞いた話によると、この文豪は魔書の中で『現実とはまったく異なる己の理想の姿』を描き、生きる為の金銭を得る手段としているらしいのだ。
歪んでいる、という者もいるだろう。だが、それを悪であると断じられるほどハルは冷酷な男ではなかった。
周囲の空気が一変し、今までとは異なる不穏な気配を纏う。ハルの殺界が展開され、彼が持つ無数の刀剣が念力で舞台上に浮かぶ。夢見草の娘と呼ばれる影朧と向き合いながら、ちらと文豪のほうへ目を遣る。訪れた者にも、己を囲む影朧にも、さして興味はないとばかりに椿田はただ物語の続きを書いていた。凄まじい集中力だ。彼女の世界は、己の手が届く範囲にあるのだろうか。
「私が助けとなれる事はあるか」
「ああ、超弩級の方ね。普通に戦っていてくれれば充分よ。私はあなたたちのような存在を感覚で読んで、可能な限り文字に写し取っているの。つまり、何をしても資料になるわ」
もちろん褒めているのよ――椿田という文豪は書き、喋りながら、口許だけで微笑んでいる。なれば、これ以上の逡巡も同情も彼女には不要なのだろう。
『私ハ、私ダッテ、憐れナンカジャナイ……ミテ……私ノ踊りヲ……ミテ……!』
問題は影朧のほうだ。死してなお、己を敗者であると受け入れられぬ哀れな踊子たち。彼女たちが舞い踊るたび、呪詛を纏って枯れた桜の花びらが、四方からハルにまとわりつこうとする。
だが、ハルの眼には視えていた。彼女達がなぜ舞台で輝けなかったのか、その理由の一端が。
自己を主張しようとするあまりに、踊りがまるで揃っていないのだ。たとえ端役であっても、いや端役であるからこそ、彼女達は一糸乱れぬ動きで観客を魅了するべきだった。
「見切った。心の乱れは技の乱れだ」
ハルの展開する刀剣群が、濁った桜吹雪をことごとく斬り裂いていく。怨念のこもった悲鳴が聴こえる。けれど、すべてを拒絶し、否定するべくもない。在るべきところに還せば、彼女たちが転生した先で夢を果たすことだってあるかもしれない。
視える。可能性が。
ハル・エーヴィヒカイトという己の名へ、強烈に刻まれたその記憶があるから。
「気の済むまで付き合ってくれよう。我が心、満たせ世界。踊って見せるがいい、」
――|境界《きょうかい》・|剣濫舞踏《けんらんぶとう》。
そこは己の、彼女たちの内なる世界、人生、心象風景であったのかもしれない。
無数の刀は無数の桜と踊り、斬り結び、はらはらと散りながらも切なる輝きを放つ。
花は音もなく散り、ただ淡い桜の香りだけが鼻孔に残る。
命と命が踊り、語り合う。その果てに待つ物語は何か。綺麗に鞘に納めるには、まだ早い。
成功
🔵🔵🔴
アトシュ・スカーレット(サポート)
性格
悪ガキから少し成長したが、やっぱり戦うのは好き
大人に見られるように見た目的にも精神的にも背伸びしている
目の前で助けられる人がいるなら積極的に救おうとする
口調は「〜だな。」など男性的
戦闘
【呪詛(腐敗)】と「棘」を組み合わせ、万物を強引に腐敗させる方法をついに編み出した
前衛も後衛もやれる万能型だが、前衛の方が好き
複数の武器を同時に操ることも可能
高速戦闘も力任せの戦闘も状況に応じて使い分ける
(装備していれば)キャバリアにも対応可
光や聖属性は使えません
非戦闘
聞き耳などを駆使した情報収集を中心とする
化術で動物に化けて偵察することも
●12
「何を書いてるんだ?」
「話の続きよ。キミが次に演じる舞台はどんな内容にしようかしら、という所。そうね……邪神の役なんてどうかしら。善良で前向きな人間だからこそ、邪悪という性質を心からは理解することがない。だから自らの在り方に悩み、戸惑うのよ。面白そうじゃない」
あなたの戦いぶりを見ていたら何となく思いついてね――この魔書の作者にして主人公である椿田時季子こと菅井キミは、アトシュ・スカーレット(神擬の人擬・f00811)に向けてそう答えた。
物語は随分と完成に近づいているようだ。書き終えた原稿用紙の束をとんとん、と揃えながら、文豪は珍しく自ら訪問者に話しかけた。
「あなた、私と似ている気がするわ。今のそれは飾らない本当の姿じゃないでしょう」
「……だったらどうした? 悪いかよ」
抑えねば、と思いつつ、アトシュはついむっとしてしまう。いつまで経っても小柄で童顔な己の容貌を疎み、背丈が高い青年の姿を取っているのは事実だ。更に今は幻想憑依・夢想式を使い、より自身の理想とする姿へ近づいている。
現実では才のない無名女優でありながら、物語の中では己をスタアとして描いている椿田時季子にとって、それは他人事ではなかったのかもしれない。
『何故、何故貴方ハ輝ケルノ。私達ハ幸せモ夢モ破れサッタノニ……!』
「っ、と。悪ぃな、オレにそういうのが通用すると思ってもらっちゃ困るんだよ!」
影朧である夢見草の娘たちはアトシュを取り囲み、妬み嫉みをこめた踊りと歌で呪い殺そうとする。だが彼女達は死してなお運に恵まれなかったらしい。なぜなら、呪詛こそアトシュの最も得意とする異能であるからだ。
彼の持つ魔剣は娘たちの呪力を供給源として取り込み、棘として形を変え、蜘蛛の巣のごとく放出する。絡めとられた娘たちはそこから逃れようともがくも、あがけばあがくほど棘は絡まり、腐敗した手足がちぎれて舞台上へ落ちる。
(オレにはこいつらを浄化できない……後で桜の精に頼めば転生できるはずだ。今はこういう形でしか救えないが、できるだけ速く……!)
常人なら鼻を塞ぎたくなるような腐臭のなかでも、文豪は構わずに筆を進めているようだ。アトシュも無限に近いほどの勢いで湧き続ける娘たちの霊を、それ以上の呪詛で呪い殺し続ける。彼女たちがいくら束になっても勝てないのは当たり前だった。アトシュとは背負うものの差がありすぎた。
しかし――それでも、何故この哀れな娘たちをこんなに苦しませる事しかできないのか、というもどかしさは性格的にどうしても頭を過ぎってしまう。「くらやみに光」……この魔書の名前であったか。だが己には光や聖なるものは未だ扱えない、皮肉な運命の巡りあわせだ。
それだけは、いくら理想に描いても今は叶わぬことだから。
「不思議な方ね。あなた、超弩級なのに影朧にも似ている気がする」
「どういう意味だよ」
「文豪の勘みたいなものよ、上手く説明はできないわ。ああ、さっきの質問にも答えていなかったわね。飾る事は別に悪くないわ。劣等感が|理解《わか》るからキミは輝けるんだもの」
――そう、私達はなにも呪わない連中には辿り着けない世界にいる。
独り言のように呟く文豪の女を背に、アトシュは己の力を奮い続ける。数々の世界を彷徨い続ける魂の終着点をめざして、一心に。
成功
🔵🔵🔴
ユウ・リバーサイド
カーテンコールを終えて
キミの言葉、聴こえたよ
もう一度舞台に上がるよ
登場人物としての『勇介』はキミに触発され共感する
傷つこうとも誰かを巻き込んでも止まれない
妬み嫉みの呪詛も聴こえず
キミに成れずともその隣に並ぶ日を夢見る
影朧を共演者に
ダンスと軽技の要領で魅せつつ回避
時に決闘場面のように剣で貫き
UCで花弁を蹴り上げ吹き飛ばす
王子様の力で舞台に自らを照らし
注目を集め攻撃を誘う
でも
猟兵の|誰か《ユウ》は|先生《キミ》を助けたいんだ
生きたいのなら全力で手伝うよ
必要な執筆時間なら幾らだって稼ぐ
登場人物だって演じ続ける
いつか現実のキミの演技を観る日が
キミに俺の現実の|芝居《こえ》を届ける日が楽しみだから
●13
そう、それは、役者にとっていつもの日常。いつもとはすこし違っていただけの、日常。
喝采を浴び、カーテンコールを終えたユウ・リバーサイドは、満たされた思いで幕がおりるのを眺める。例え何かがおかしい事に気づいていたとしても、人々が魔書の中の観客であっても、演者とは客を感動させることが第一の仕事で、それを成せない者はゆっくりと、しかし着実に光を失い、やがて静かに闇へ消える。
緞帳が降ろされた瞬間、すべての照明が落ち舞台の空気が一変した。アンコールの主役は己ではないらしいと悟った、そして――ユウはその瞬間、音という音が身体中に押し戻されてくる感覚に飲みこまれた。
「家族が不仲なの。――、」
そこから始まる長い独白を聴いた。|勇介《﹅﹅》の豹変に驚いていたあのメイドが|キミ《﹅﹅》だったのだと悟り、全身が歓喜にふるえるようだった。
そして彼はもう一度舞台に上がる。この物語の本当の終わりは、ここではない。
「キミ! キミの言葉、聴こえたよ」
まるで不幸な姫へ奇跡を届けにきた童話の王子様のように。
『勇介』は嬉々として、朗らかにスポットライトの中へ滑りこみ、腹から声を張り上げる。
例え闇の中でも自らを輝かせ、照らし出す希望の力。その場に居るだけで自然と集めてしまう注目。菅井キミ――文豪・椿田時季子は相変わらず筆を走らせながら、なにか奇妙な生き物を見つけたような眼で『勇介』を一瞥する。
「本当にどうしたの? 私の書いてきた『勇介』はもっと繊細な男の筈だわ。長男の演技にのめり込みすぎて心を病んでしまうの。あの男は役に負けて消えるのよ」
「まさか! 俺はむしろキミに触発されたよ。長男役をやってみて、キミに共感したんだ。キミには成れなくても、いつかキミの隣に並んでみせるって、そう思った」
「……どうして私が筆名を名乗っているかわかる? 好きじゃないのよ、この名前」
文豪のぼやきも、スポットライトの中心に出ていける『勇介』への妬み嫉みを呟く影朧たちの呪詛も、今はさっぱり耳に入らない。さあ、生まれ変わった『勇介』ならこの場面をどう演じるだろう。この魔書の世界が荒唐無稽な|即興劇《インプロ》なら……そう、ミュージカル仕立てなんていいかもしれない。
こんなドラマチックな場面では突然歌い、踊りだすのがセオリーだ。キミ、キミの名は素敵だよ――歌いだしはそんな感じで、大仰な仕草や台詞も交えながら。
『♪私ハ、私達ハ、憐れナンカジャナイ……!』
「ごめん。♪もう自分が傷つこうとも、誰かを巻き込んだとしても俺は止まれない――」
ほら、哀れな影朧たちもアンサンブルになって踊りだす。自分が中心にいなくても、誰だって本当は演じたくって、踊りたくって仕方がないんだ。呪詛の花吹雪が舞台を埋め尽くすならば、埋もれないようにいつもより大きな動きで。もっとアグレッシブに、けれど軽やかに。
黒革のブーツが花弁を蹴り上げ、巻き起こる暴風が舞台を広く拓く。散りゆく夢見草の娘たちが見える、けれど主役の座を射止められるのは一人だけ。身勝手と言われても降板なんかできない。
『勇介』は憐れむかもしれない。でも、キミのように生きたいと彼は決めたんだ。銀の刺突剣が娘の胸を貫いて――その空洞のむこうに、まばゆいばかりの光を見た。
「お見事ね。……そうね、確かにこの『勇介』のほうが面白い。あなたが出てくる所は全文書き直すわ。で、このシーンいつまで続くのかしら」
「いつまででも。必要な執筆時間なら幾らだって稼ぐ。登場人物だって演じ続ける。だって、猟兵の|誰か《ユウ》は|先生《キミ》を助けたいんだ。生きたいのなら全力で手伝うよ」
俺、実は声優をしてるんだ。
いつか現実のキミの演技を観る日が、キミに俺の現実の|芝居《こえ》を届ける日が楽しみだから――そう、一瞬だけ振り返り、眩しく笑んだ彼は『勇介』ではなかった。俳優の名は|川沿いに住む誰か《ユウ・リバーサイド》。
それを見た椿田はやはり卑屈そうに、だが存外自信ありげにこう返すのだった。
「そんなに尺はいらないわよ、私文豪だから。お芝居は観に来ても多分面白くないわ、小説を買いなさい。ああ、それとチケットは例の出版社に椿田先生宛で送りつけてね。あいつらが頭を下げて原稿を取りに来るまでは死んでも書き続けてやるから」
大成功
🔵🔵🔵
日下・彼方(サポート)
人間のUDCエージェント × 月のエアライダーの女です
戦闘での役割はレガリアスシューズを使っての空中戦、
影の狼を使役して斥候・偵察ができます
武器は通常大型ナイフを使用しますが
強敵には太刀・槍を持ち出す事もあります
普段は(私、君、呼び捨て、だ、だな、だろう、なのか?)
機嫌が悪いと (私、~様、です、ます、でしょう、ですか?)
性格は受けた仕事はキッチリこなす仕事人のような感じです
仕事から抜けると一転惚けた風になります
ユーベルコードは必要に応じて、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●14
日下・彼方(舞う灰の追跡者・f14654)は戦災孤児だ。少なくとも、ぱっと見でわかる範囲では、舞台や文壇などといった華やかな世界からは無縁の人間に見える。
今も実は次のバイトのシフトの時間を気にしながら、ぼんやりと劇を眺めている。舞台というものは結構予定通りにいかず、終わる時間が読めなかったりするものだ。
この時間帯にこの依頼を入れたのは失敗だっただろうか……そう内心ヒヤヒヤとしながらも、お人好しゆえについツケジュールを詰めてねじ込んでしまったりする。行きたい依頼より頼まれた依頼だ、断れないから。
それに何より、UDC絡みでなくとも、詳細がわからない怪しげな仕事などというものは決まって高時給だったりするのだし。
「超弩級の方ってお人好しばかりね。あなた、私の執筆時間を稼がないと帰れないみたいよ」
「何だって……!?」
あまりの衝撃事実に彼方は一瞬オフモードに戻ってしまった。ちなみにこれは結局、魔書と呼ばれる影朧を呼び寄せる本の世界に潜入し、いろいろあって本の中にいる作者をどうにかする、的な依頼だったらしい。いま彼方に話しかけてきた女が文豪の椿田時季子だ。
さておき、周りには文豪の情念に呼び寄せられた影朧・夢見草の娘がわらわらと湧いている。確かに一定数撃破すれば終わりです、という類のものではないらしい。
いや、もうひとつ終わる方法はある。この文豪が作品を書くのを止めればすぐに帰れるし、次の仕事にも余裕で間に合うのだが。
「……分かった。先頭は私だ。皆は後から続け」
彼方の足元から影の狼たちが出現するとともに、彼女自身も試製翔靴で地を蹴り、躊躇うことなく影朧の群れへ突っ込んだ。狼たちも主人の言葉通り後に続き、次々と夢見草の娘らへ体当たりを喰らわせ、舞台の上から弾き飛ばす。
晴れ舞台から叩き落とされた影朧の娘たちは、彼方に恨みがましく呪いの言葉をぶつけてくる。
『ヒドイ。非道いワ。私達ハ幸せモ夢モ破れサッタノヨ……!』
望む舞台に立てず、夢破れた彼女達は確かに哀れだ。その嘆きは彼方の優しさに突き刺さるけれど――この本の作者である文豪をちらと見やる。彼女は舞台の中央で、原稿を仕上げることだけに集中している。
(本を書かないと生活できない、先程そう言っていたな)
家族仲が悪いとも言っていた。この文豪も夢を見ている暇などなく、今という現実を受け止め、それでも生きようと喰らいついているのだろう。人はみな、人生という戦いの中で生きていかねばならない。己も、この椿田時季子も、過去に足元を掬われているわけにはいかない。
「悪い、今は依頼人の希望が優先だ。それより君達、ダンスにキレが足りないぞ。もっと速く動ける子はいないのか?」
一番速いのは私だぞ――重力から解き放たれて舞台上で宙返りをすれば、スポットライトで壁に浮かび上がるのは狼の影。私モ、私ダッテ、そう言いながら跳躍した娘達を鮮やかに蹴りつけて、その反動を利用しまた影朧の群れへ突っ込んでいく。仕事中にぼんやりするのは厳禁、これはどのバイト先でも言われること。
「……それで先生、どうなんだ。その、進捗のほうは」
「ああ、おかげさまでもう少しで完成しそうよ。だからもう少し頑張って」
「う……いや、力は尽くさせてもらうが」
そんな担当編集と文豪のようなやり取りが一瞬あったとか、なかったとか。
彼方が遅刻しない時間までには仕上がるだろう、たぶんきっとおそらく。
成功
🔵🔵🔴
比良坂・彷
既に『|私《僕》』は死んでいる
血塗れで麻雀鞄をつり下げ現れる
煙草に火を入れ「今晩は」
花はなし舞台は降りない
けれど俺は『博徒』だ
それ以上喋るなって剥き出しの感情と致命傷ギリギリの痛みをご馳走様
役が剥げちゃったね俺とお揃いだ
ねえ舞台楽しかったよキミもそうじゃなァい?
いやホント先が読めなくて面白かったよ
完璧過ぎる椿田時季子より俺を刺してくれた|キミ《・・》の方がおもしれぇ女だった
ねえ
それが完成してもキミはこの世にいてよ
俺はぁまたアンタの舞台にあがりたいのー
アンタの書いた本でキミと遊びたい
だから化けてよ、来世になんか逝かないで
…無理?
できるできる
俺だってさっきの『教祖』っていう亡霊をこの身に飼ってるんだものー、もしかしたら『教祖』が本体かもねぇ
それを解き明かす為に今回は『教祖』に譲って舞台にあがったんだけど、わからねえままなの
(キミに似た俺の愛しい人への想いは『教祖』が持っている/本当は『博徒』だってあの子を愛してる、同じひとだから)
敵は賭け狂いで運任せに避けカウンター
まぁ喰らうでしょ運任せだし
●15
作家は体験した事しか書けない、と誰かが言った。
そう、その通り。ただ調べて文字にしただけのことは誰の心にも響かない、そういう話をしているのよ。少なくとも私はそう解釈しているわ――原稿用紙に穴が空きそうなほどの筆圧をこめて文章を書くのは、この執念深い文豪の悪癖らしかった。
「今晩は」
煙草のフィルターにすこし血が染みてしまった。火を入れると常とは異なる錆臭い煙の薫りが漂った。影朧の少女が置いた花束は受け取られず、倉庫の血だまりで静かに終幕を待っている。
舞台を降りたわけではない。『|教祖《私》』もまた一人二役だった、それだけのこと。
左手に麻雀鞄をつり下げて、ややおぼつかない足取りで現れた比良坂・彷は『|博徒《俺》』だ。その身体には『トキ』にやられた傷が深々と刻まれ、歩くたび舞台上に黒ずんだ血の足跡が残される。
こんな展開を考えた『椿田先生』御本人はというと、悪びれもせずこう言うのだ。
「体験に優るものはないわね。お陰様で捗ったわ、超弩級の方々」
「そろそろ脱稿? おめでとー。ちなみに|私《僕》ってどうなった?」
「教祖役の俳優の話? 勿論大道具倉庫で死体にしておいたわよ、あんなに女に刺されそうな男滅多に居ないもの。『くらやみに光』としては少し過激な展開でしょうけど、連載作品は緩急をつけないと飽きられてしまうし、梃入れには丁度良かったわ」
人をあんな目に遭わせておいてこの言い草。しかもしっかり資料にされたらしい。
相手が俺じゃなかったらとんでもなく怒られるかもしれないってのにねェ――含み笑いが思わず外へ洩れだしそうになる。この作家先生もとんだ賭博師らしかった。
夢見草の娘たちが周囲を舞い踊る中、彷は血塗れの手で拍手喝采を送る。
「いや、ホント先が読めなくて面白かったよ。完璧過ぎる椿田時季子より、俺を刺してくれた|キミ《﹅﹅》の方がおもしれぇ女だった」
「随分気に障る言い回しをするのね。わざとかしら」
――ネえ、ネエ、ドウシテ、キミタチは二人ダケデ喋ってイルノ。許せない。許セナイ。
――ミテ……モット、私タチノ踊りヲ……! ミテ……ミテ……!
ここでも主役になれぬ夢見草の娘たちは腹を立ててわめいた。だが、呪詛を纏った桜はいっそ美しいまでに彷の隣をすり抜け、舞台の奥の闇へと吹き抜けてゆく。当たり前だ。|博徒は彼女たちを哀れんでなどいない《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》。彷の意識は完全に椿田へ――キミへ向けられている。おまけに運気まで根こそぎ吸い取られているのだ、何をしても当たるはずがなかった。
「ねえ、舞台楽しかったよ。キミもそうじゃなァい?」
「良かったわね。素直に楽しめていたらこんな作品書いてないわよ」
スポットライトの外に追いやられた影朧だけがそれを思い知ることができたろう。
彷という|読者《﹅﹅》が、|観客《﹅﹅》がここに存在することによって、影朧たちはすっかり脇役にされている。
そして、椿田時季子は確かに作中で描かれる『|菅井キミ《﹅﹅﹅﹅》』に仕上がっていた。何者かを決めるのはすべて受け手に託されていて、登場人物がどう名乗ろうとなんの意味もない。
「それ以上喋るなって剥き出しの感情と、致命傷ギリギリの痛みをご馳走様。役が剥げちゃったね、俺とお揃いだ」
「ふうん、これが素なのね。貴方の演技がお上手だったものだから、つい剥がしてみたくなってしまったのかもしれないわ。普段は何のお仕事をされていらっしゃるの? 俳優より詐欺師が向いていると思うけど」
「手厳しいなぁー、キミは」
文机に向かうキミを覗きこみ、彷は原稿の完成を待つ。緋色の霧が舞台を覆っていくのが見えたが、今は己にしか視認できない無意味なドライアイスのようなものだ。両親が不仲だと言っていたキミにも、この妄執の演出を見せてやれれば良かったのだけど。
影朧達が霧に飲みこまれていく。怨嗟の声が聴こえた気がしたが、救ってくれる教祖はもういない。
キミはもうすぐ執筆を終えそうだ。これを書きあげたら彼女は満足し、消えてしまうのだろうか。そう思うと、なんだかとても惜しい気がした。
グリモア猟兵は何が起こるかわからないと無責任なことを言っていた。なら、駄々をこねてみる価値はある気がする。これ以上喋るなと言われても、登場人物は勝手に動くのだから、そんなものは無理に決まっている。
「ねえ、それが完成してもキミはこの世にいてよ。俺はぁ、またアンタの舞台にあがりたいのー」
「はあ?」
「アンタの書いた本でキミと遊びたい。だから化けてよ、来世になんか逝かないで」
さすがにキミも驚いたらしい。
化けろ? この男は、私にこのまま亡霊になって墓から這い出てこいと言っている?
「死にきれなかった文豪が影朧になって出てきた、という話は散々聞いたけれど。完全に黄泉帰ったという話は……」
いや、噂を聞いたことはある。一度亡くなった筈の某ミステリ作家が何故か新刊を出しているらしいという話を。よくある眉唾話と聞き流していたが、まさかあれは実話だったのだろうか。
キミは己の置かれた奇妙な状況を改めて振り返り――こう結論づけた。
「難しいと思うわ。私、心霊現象は信じていないから」
「即身仏でもいーよ。さっき見たでしょ?」
「貴方話聞いてる?」
「できるできる。知ってる? 超弩級って悪霊もいるんだよー、俺の知り合いとかもう亡霊だらけでさァ」
「どういう人生なの?」
キミは、だんだんこの無茶を言う男の手の甲を万年筆で刺してやりたくなってきた。だが、一方でこの怪しげな男の、怪しげすぎる人生に興味がわいてきているのも悔しいが事実だ。
作家とは人を、事象を観察して文字に写し取る仕事で、面白い知り合いは多ければ多いほどよい。
「俺だってさっきの『教祖』っていう亡霊をこの身に飼ってるんだものー、もしかしたら『教祖』が本体かもねぇ。それを解き明かす為に今回は『教祖』に譲って舞台にあがったんだけど、わからねえままなの」
「それを私に書けって言いたいのかしら」
「んー、どうなんだろ。俺もまだよくわかんねえの、|俺《私》のこと」
「……貴方、そのうち本当に死ぬわよ。女に刺されて」
彷は笑う。それはあながち間違いではないかもしれない。俺の愛しい人は、キミによく似ているから。その想いは確かに『教祖』のもので、出会いの瞬間はいつまでも教祖だけのものだけど。
本当は『博徒』だってあの子を愛してる――|俺《私》たちは、同じひとだから。
「……一途に見えないかなぁ。でもさ、考えといてよ。『俺』も簡単にはあの光を諦められないみたいでさ」
彷は頭上のスポットライトを見やる。
キミが万年筆を置いた音がした。今や世界のすべては暗闇ではなく、緋色の霧に包まれていくのを、彷だけがその眼で視ている。原稿用紙の束を揃える音が規則正しく響くなか、キミは最後にくすりと笑った。
「難儀な人生ね、お互い。そうね……私は神より幽霊より、面白い男を信じたいほうよ」
※
その後、椿田時季子の死去は誤報であったという記事がささやかに新聞や雑誌の隅を賑わせ、「くらやみに光」の連載は何事もなかったかのように再開された。
しかし、作風に多少変化が感じられると書評家は言う。以前よりキミの描写が詳らかに生き生きと、そして暗い面はより暗く、激しく描かれるようになったというのだ。それが売り上げにどう響いたかは定かではないが。
無事刊行された最新刊の巻末には、椿田時季子の著作としては珍しく、ごく簡潔なあとがきが記載されているという。
『取材に御協力いただいた超弩級戦力の皆様に感謝します。キミの輝きは貴方がたの輝きです。そして、キミは今日もこの世界に生きています』
大成功
🔵🔵🔵