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ばんさんかいかん~食べ放題!

#サイキックハーツ #ソウルボード

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#サイキックハーツ
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#ソウルボード


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●あこがれ
 いつもおしゃれなかわいいあの子は、今度の劇の主役に決まった。
 背の高いあの子はかけっこが一番早くて、変わり者のあの子はおえかきが一番上手。
 いいな、いいな。あんなふうになりたいな。
 わたしがそう思うたびに、おなかの奥で誰かが囁く。

 ――足りないと思うのならば、奪い取ってしまえば良い。
 あの子の笑顔は輝くリンゴで、あの子の足は元気なおさかな。あの子の指はマーブル模様のアイスみたいに、色鮮やかな味がするだろう。
 ほら、こんなにもおいしそう。そんな声に、おなかが「くう」とひとつ鳴って、小さな炎のような感覚が、静かにわたしを炙り始めた。

●美味礼賛
「子供らしい突拍子もない発想……と言えなくもないのだがね。今回のケースでは、どうやらオブリビオンが影響を及ぼしているらしい」
 サイキックハーツ世界においては『シャドウ』と呼ばれた存在、今回の標的は、精神世界に生きる闇の種族がである。
 少女の|精神世界《ソウルボード》に入り込み、取り憑いたシャドウは、彼女の夢や憧れを凶悪な食欲へと歪めてしまう。少女がその衝動に吞み込まれれば、闇に堕ちた化け物がひとつ出来上がるだろう。
 |灼滅者《スレイヤー》の言い方に倣うならば、これは「闇堕ちしかかっている」ということになるのだろうか。グリモアのもたらすそんな予知に、不機嫌そうに鼻を鳴らして、八津崎・くくり(虫食む心音・f13839)が一同の方へと向き直る。
「さすがに放っておくわけにはいかないだろう? この少女を、是非諸君らの手で救ってあげてほしい」
 幸い学園からシャドウハンターの助力は得られている。少女の|精神世界《ソウルボード》へと乗り込み、彼女に憑いたシャドウを討伐することが、今回の目的となる。

「彼女の精神世界、夢の中は、『寂れた無人の料理店』のような風景になっている。少女もシャドウも隠れてしまっているようだが、普通に探したところで発見することは難しいだろうね」
 少女は湧き上がってくる食欲を『悪いもの』だと本能的に理解し、必死に封じ込めている。姿を隠しているのはそのためだろう。
 ゆえに、まずは隠れている少女を誘い出し、次に彼女の裡に潜んだシャドウを表出させる――と、順を追う必要がある。
「まあ、手間はかかるが手段自体は難しくない。安心してくれたまえ」
 手始めは彼女の精神世界の光景だ。寂れた無人の廃墟のようになったこの料理店を、明るく楽し気な、それこそパーティーでも始められそうな雰囲気に変えてしまえば、元来食いしん坊で楽しい物好きな少女は隠れた場所から出てくるだろう。
 そうなれば後はこちらのもの、次は実際にパーティーを開いて楽しく食事している光景を見せれば良い。食欲を否定している彼女は、最初こそ食事を頑なに拒むだろうが、空腹感を刺激されればやがて抑えが効かなくなる。すると封じ込めていた食欲と共に、シャドウが姿を現すはずだ。
「シャドウは邪魔者である諸君等を食べようと襲ってくるだろうが、大人しく食われてやる必要はない。返り討ちにしてやってくれ」
 このシャドウを撃破することが出来れば、少女の異常な食欲も納まるだろう。

「過去の似た事例では、闇堕ちしかけた者への声掛けや説得が有効なケースもあったと聞くが……その辺りは諸君等の判断に委ねよう」
 では、任せたよ。最後にそう言って、グリモア猟兵は一同を送り出した。


つじ
 やった! サイキックハーツ世界だ!!
 ということで合法的にお祝いできそうなシナリオになりました。とりあえず2章まではパーっといきましょう。

●朽無・鳩子(くちなし・はとこ)
 今回の夢の主。未だ幼い少女です。

●渇望の影
 夢の中に現れるシャドウです。不定形で伸縮するスライム状の体を持ち、体表に生じる巨大な口を使った攻撃を行ってくるでしょう。

●第一章
 |精神世界《ソウルボード》内、無人の寂れた料理店を、パーティー会場に相応しい形に整えてください。とにかく明るく楽し気になれば、隠れていた少女が姿を現すでしょう。
 夢の中ですので割と何でも出てきますが、アイテムやUCを駆使した飾り付けの方が効果は高いです。

●第二章
 パーティーです! 内容は何でも構いませんが、とにかく楽しく食事をすれば、少女に憑いたシャドウを引きずり出す事が出来ます。
 食事については『給仕のような影』に注文すれば、頼んだ料理は大体何でも出てきますし、空中から取り出す事も出来ます。食材を取り出して自分で料理しても良いでしょう。
 味も匂いもしますし満腹感もありますが、夢の中なのでゼロカロリーです。

●第三章
 シャドウとの戦闘になります。戦場には少女も居合わせることになりますのでご注意を。
 詳細については序文にて描写いたします。

 以上、皆さんのご参加お待ちしています。
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第1章 日常 『パーティーをしよう!』

POW   :    力いっぱい楽しむ

SPD   :    工夫を凝らして楽しむ

WIZ   :    心の底から楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ベルト・ラムバルド
アドリブ上等

今度の任務は精神世界…精神世界?!
人の心の中に踏み入るのはちと気が引けるが…
迷える少女を救わずしてな~にが騎士よ!騎士の権化たるベルト・ラムバルドが心の闇とやらを我が威光で蹴散らそうともよ!

ほんとに入ってこれた…すごいなサイキックハーツ!
…なんだけど…ぐぬぬ…みごとに寂れてる…現実だったらDIYでも時間と金がかかりそうだが…
だがそこは私!UCで東方妖怪達を召喚!

じゃあさっそく…リッチなホテルのパーティ会場に化けてもらおうかな…
何?和風で畳な宴会場?ダメダメ!宴会をはじめちゃ駄目だろ~?
酒で賑やかしてどうすんだ!相手未成年だぞ!
洋風!シャンデリアとかグランドピアノとかあとは~(以下略




 シャドウハンターの協力を得て、|精神世界《ソウルボード》へ。事前に説明は受けていたものの、『人の心の中』と言われればやはり身構えてしまう。様々な世界を旅しては来たが、これは一際躊躇われると言うか、気が引けると言うか。
 こんなことがよくある出来事であるとするなら、このサイキックハーツの世界もかなり特殊な部類と言わざるを得ないだろう。
「ほんとに入ってこれた……のか?」
 塗り替わった周囲の様子を確かめるように、ベルト・ラムバルド(自称、光明の暗黒騎士・f36452)が辺りを見回す。先程まで居た場所とは打って変わって、そこではうら寂しい空気と、降り積もった埃の臭いまで感じ取れた。
「ぐぬぬ……みごとに寂れてる……」
 元は家庭的なレストランだったように思えるが、照明が落とされ、放置されたようなその場所は、ほとんど廃墟のように見える。これが心象風景だとすれば、いかにも寂しい話だ。
 迷える少女を救わずしてなにが騎士か。現実だったらDIYでも時間と金がかかりそうだが、この夢の中であれば――そして、彼の力を以てすれば、ここを飾り立てるのも容易い話だ。
「早速だが、手伝ってもらえるか?」
 ベルトの声に応えて、東方妖怪達が姿を現す。
 でもここどこ? 変な場所だなあとわちゃわちゃし始めた彼等を落ち着かせて、協力を求めた。
「この場所を、リッチなホテルのパーティ会場にしたいんだが――」
 はいはい了解、と化けた彼等だけど、その姿は畳やら座布団やら襖やら、ベルトの思っていたものとは随分違うようで。
「おいおい、宴会をはじめちゃ駄目だろ~?」
 純和風の宴会場になりかけた彼等を慌てて止める。賑やかなのはいいけれど、この酒席は未成年にはまだ早いだろう。
「洋風! シャンデリアとかグランドピアノとかに化けてくれ!」
 しょうがないなあ、と自由に動き回る妖怪達を従えて、ベルトはその場を明るく飾っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九之矢・透
精神世界、心の中みたいなモン?
そりゃ誰かに好き勝手されたらたまんないよな

てことで、店内を飾り付け!
木々や花をあちこちに飾るよ
テーマは森の中とか、大自然ってカンジに
枝をアーチとかトンネル風にして
潜れる様にするのも楽しいかもな

内装が完了したらライオン召喚!
待て、その木は爪磨ぎじゃない!
ま、まあ、寛ぐ様子は大きな猫みたいに見えなくもない
怖がらせるのはナシな?いつもチビの相手する時みたいで宜しく
本物の猫のみけも置いとくよ
枝にはオオコノハズクをとまらせて……未だ体シュッと細ませないで!?鳩子サンが来てからな!

人も動物も和気藹々
そんなパーティーも悪くないんじゃないかな
鳩子サンが動物好きだと良いんだケド




 元はドアベルがついていたのであろう扉が、軋みを上げながら開く。いらっしゃいませ、と迎える声など当然無い、無人の料理店に歩を進めて、九之矢・透(赤鼠・f02203)はその内装を見回した。
「精神世界……心の中みたいなモン?」
 だとすると、この飾り気のないテーブルや椅子も、今回の救出対象である少女の心の一部なのだろうか。
「どうせ手を加えるなら、明るくしたいよな」
 できることならば、シャドウのもたらすそれとは逆方向に。そんな願いを込めて、彼女は木々や花、自然物をメインに質素で寂れたそこを飾り始めた。
 迎える者の居ない出入り口に、枝のアーチを作って、童話なんかにありそうな森の中のレストランを彷彿とさせる姿へと。それから他の猟兵達の飾ったシャンデリアから、木漏れ日のように光の降り注ぐホールを形作ったところで。
「よし、出番だぞ!」
 ユーベルコードによって動物を召喚。現れた金色のライオンが、透の前で伸びを打つ。
「ま、待て、その木は爪磨ぎじゃない!」
 切羽詰まった状況ではないのを察したのか、本能のまま自由行動を始めたそれを引き止めて、大人しくさせる――まあ少なくとも、させようとはする。
「まあ……大きな猫みたいなもんだと思ってくれればいいかな……」
 怖がらせるのだけは無しだぞ、と言い含めてある程度の自由を許して、彼女はさらに動物達を配していく。
 パーティー会場が無人ではさすがに寂しい。けれど動物達もお客として集まっていれば、見た目も賑やかで雰囲気も和らぐだろう。
 ライオンに続いて本物の猫に、一芸持ちのオオコノハズクを止まらせて。
「待て待て身体シュッとさせるのは主賓が来てからな!?」
 こちらにも言い含めれば仕掛けは十分、お出迎えの準備は万端である。
 と、そこで、最後の懸念が口をつく。
「鳩子サンが動物好きだと良いんだケド……」
 違ったらどうしよう。一抹の不安が頭に浮かぶが、まあ今更である。あの年の女の子はきっと恐れを知らないから……多分大丈夫だろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ギュスターヴ・ベルトラン
――錆が鉄を腐らせるが如く、妬みは人を腐らす
闇に腐り堕ちることを厭うような子は、それを体感的に分かってるってことだ
…堕ちきる前に助けに行かなきゃな

さてソウルボードを良い感じに整えるか
UC発動して聖霊…じゃねえ、光ってる鳩たちを呼んで助言を乞う
小さな女の子が明るくて楽しい気分になりそうな飾り付けの案を…わぁ

祝福パワーすごいな…
助言を言わずに、天井にすげえでけえステンドグラス即出して来たじゃん…?
あっ、しかもオリーブ咥えた鳩の姿まで載せてやがる!
何気に自己顕示欲強いなお前ら…まぁ、今回の助ける子の名前が「鳩子」だしコレが良いな

…だからね、出ておいでよ鳩子さん
このソウルボードは、君のための場所だよ




 ――錆が鉄を腐らせるが如く、妬みは人を腐らせる。願いや憧れ、欲の範疇から逸脱すれば、足元に広がるのは闇ばかり。その境界線を、件の少女は体感的にわかっていたのかもしれない。
「……堕ちきる前に助けに行かなきゃな」
 ギュスターヴ・ベルトラン(我が信仰、依然揺るぎなく・f44004)はシャドウハンターの協力の元、少女の|精神世界《ソウルボード》へと降り立つ。照明の落ちた寂れた料理店、薄暗く静かなそこには人の気配も、魔の気配も感じられない。やはりまずは、彼女が出て来られるよう場を整える必要があるようだ。
「まずは助言をもらうか。小さな女の子が明るくて楽しい気分になりそうな飾り付けの案を……」
 ギュスターヴの祈りに応えて、主より遣わされたる聖霊、光纏う鳩がその姿を――。
「……わぁ」
 何だかいつもより登場する際の光が眩しいな、と手を翳したギュスターヴは、いつの間にやら天井に据えられたステンドグラスを目にすることになる。話が早くて非常に助かるが、これは助言どころではないような。外の光を色鮮やかに染めて、室内を明るく照らすそれは、よく見るとオリーブを咥えた鳩の姿をしている。
「何気に自己顕示欲強いなお前ら……」
 ギュスターヴからすると妙な作為を感じずにはいられないが、これも祝福……であることに変わりはないだろう。
 それに、これはこれで、今回の場合は丁度良い。
「鳩子さん……だったかな」
 救出対象である彼女の名を呼ぶ。彼女が自分の名をどう思っているのか定かでないが、この場を飾る『鳩』は、まさに彼女のための場であることをわかりやすく示すことができるだろう。
 そもそも、この『夢』は彼女のものなのだから、隠れている必要はないのだと、ギュスターヴはそう口にする。必死に姿を隠していても、きっとこの声を聴いているのだと信じて。
「……だからね、出ておいでよ鳩子さん」
 不可視のそこで、少女が身じろぎする気配を、彼は確かに察していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
華やかにするってンなら任せつくんな
先ずは彼方此方渡って見た風景を花と共に描き出そう
星空なんかも良いやな
其れから、鳥や魚
勿論只の絵って訳じゃねえ
生きているかの如く、床や壁をするりと動くぜ
自ずと日を巡らせ、四季を見せる
万華鏡の様だろう

足を踏み出せば花が散ったり、波紋が生まれたり
誘う様に鳥が近くで羽を休めたり
ついふらりと出てきたくなる仕掛けをふんだんに盛り込んでやら

飯を食うのも夢を見るのも、生きるのになくちゃならねえ
どちらも我慢せにゃらなんってなァ捨ておけねぇ
こんねえに小さいのに、よう堪えたもんだ
今はうんと楽しみねェ
後は任せつくんな




 幼い少女の|精神世界《ソウルボード》。シャドウハンターの協力の元、菱川・彌三八(彌栄・f12195)が踏み入ったそこは、少女の年齢に見合わぬ褪せた光景が広がっていた。輝かしさも色鮮やかさも、真新しさもないその寂れた様子は、衝動を抑えつけているという状態の証左だろうか。
「ま、華やかにするってンなら任せつくんな」
 質素な光景は言い換えればシンプルな半紙と似たようなもの。色も模様もない壁紙に、天井に、彌三八は素早く筆を振るう。
 題材であれば、記憶を辿ればいくらでも。これまで渡り見てきた世界の風景から、鮮やかな花とそれに相応しいものを選び出し、描き出していく。
 豊かな自然や豪奢な建築物、そして天井には星空を。
 もちろん、彼の仕事が壁紙のみで収まるわけもなく、海には魚が、空には鳥が、彌三八の描き出した生き物達は、それぞれ命を宿したように自在に舞い始めた。壁紙の水平線を跳ねて、天井の星空へと飛び立つ。そして木々や野原は、四季の巡りを写したようにその色を変えていく。
 万華鏡のようなその光景に足を踏み出せば、花が、水面が、描かれた鳥達がそれに応えることだろう。
「飯を食うのも夢を見るのも、生きるのになくちゃならねえもんだが……」
 今の少女は、その両方をぐちゃぐちゃに混ぜられ、どちらも自ら封じるしかなくなっている状態だ。そんなもの、捨ておくわけにはいかないだろう。
 それが幼子であればなおのこと。欲求や衝動を堪えるその努力に称賛を送りつつ――それを肩代わりできるように、一時でも忘れることができるようにと、楽し気な仕掛けを拵えて、彌三八は場を整えていった。
 『それ』を解放することは、彼女の努力に反することになるかもしれないが、根本治療には必要なのだから。
「――今はうんと楽しみねェ」
 そして、後は任せてくれればいい。
 隠れたまま姿を見せない、我慢強い彼女にそう告げて、彼はその答えを待つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・杏
ふむ、「そうるぼーど」なるところは初めて
人の中の心象世界、みたいなもの?
何となく思い浮かぶのは「アリスラビリンス」の世界
この寂れた場所とは何も似てはいないけど、でも、似てる気がする

ん、よし
気合いを入れて、まずは寂れたお店のお掃除から始めよう
うさみみメイドのうさみん☆も手伝ってね?
怪力で瓦礫や岩などを外に出し、箒と雑巾で床やテーブルから天井までぴかぴかにお掃除していこう
世には侘び寂びという言葉もある
少し古い感じが残るのも乙なもの
素朴に空き瓶にお水とさし花入れていくつも飾り、食器もぴかぴかに磨き上げて
庭も整え小道を作り、周囲にはお花植えて
整備すれば光も入り、鳥も唄う

いらっしゃい、貴女を待ってる




 足の裏に軋む床板を感じ、彩に欠けた灰色の光景。
 最低限のもの以外を排し、そうでないものも長らく放置されているような、寂れた料理店。
「……ここが、そうるぼーど?」
 ふむ、と鼻を鳴らして、木元・杏(お揃いたぬき・f16565)がそんな周囲を見回す。ソウルボードに触れるのは初めてだが、説明からするとある者の心象世界のようなもの、だろうか。何とはなしに連想されるのはアリスラビリンスの世界だ。様々な不思議の国を抱えたあの世界と、この寂れた場所とは直接的には似ても似つかないが、扉を探すアリスの居る場所は、どこか共通した雰囲気を持っているような気がする。
 ならば必要なのは、『彼女』を引き寄せるための時計ウサギだろうか。
「ん、よし」
 短くそう気合を入れて、杏はうさみみメイドの人形を手伝いにと起動する。はじめにやるべきことはやはり掃除か、杏は怪力を古びて使い物にならなくなった家具や、建材の破片を運び出し、うさみんにその後の掃除をまかせる。箒でゴミを取り除き、雑巾で床面やテーブルをぴかぴかに。けれど建て替えや入れ替えまでは行かず、元の物を活かしていく方針だ。
 そう、世には侘び寂びという言葉もある。少し古く、時間の経過を思わせるのもまた乙なものだ。
 水を入れた空き瓶にさし花を入れて、くすんだ色の食器も磨いてぴかぴかにしていけば、あたたかみのある風情に落ち着くだろう。
「あとは……お庭かな?」
 窓から見える外の風景、出入り口を開けた先にある放置された庭も掃き清め、小道を整え花を植えて。
 お客が入ってきやすいように、道に迷わず辿ってこれるようにと準備を整えた彼女は、服についた埃を払い、顔を上げる。
「――いらっしゃい」
 貴女を待っているから。どこかで見ているか、感じているであろう少女に届くように、小さくそう呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メアリー・ベスレム
ふぅん? どこの世界にもおんなじような子はいるのね
|少女《アリス》は|人喰い《オウガ》、|人喰い《オウガ》は|少女《アリス》
|人間《ごちそう》を喰らってめでたしめでたし……
ああ、なんて|お約束の《ありきたりな》ストーリー!
そんなの、メアリがめちゃくちゃにしてあげる!

こう見えてパーティーは得意なの
だって、メアリはアリスだもの!
ほらほらみんな起きて、と
両手を叩いて声掛けて
【見えざる友人】にパーティーの準備をしてもらう
無機物? 有機物? そんなの知ったこっちゃない
だって、ここは|夢の中《ソウルボード》
|不思議の国《アリスラビリンス》と同じぐらい、なんでもありな世界でしょう?
箒にちりとり、お掃除を
鋏にテープ、飾り付け
明るい照明、忘れずに
調理器具たち、お料理の準備
そうだ、パーティーなら招待状もいるかしら?(メアリは字なんて書けないけれど!)
ああ、だけれど困ったわ!
せっかくお手紙書い(てもらっ)たとしても
送る相手がいないだなんて
誰か受け取ってくれる方はいないかしら?
インクとペンと、顔合わせて困り顔!




 |精神世界《ソウルボード》、夢の中、不思議に満ち溢れたその名称に反して、メアリー・ベスレム(WONDERLAND L/REAPER・f24749)の辿り着いたそこは、酷く静かで掠れて見えた。色彩に乏しい灰色の店内には、料理人も給仕もいなければ、当然ながらお客もいない。この寂れた料理店では、お食事会など始まるはずもない。
 それはきっと、無理矢理封じた食欲の証左。|少女《アリス》は|人喰い《オウガ》で|人喰い《オウガ》は|少女《アリス》、ひとたび我慢の限界を迎えれば、それは解放された獣のように、|人間《ごちそう》を求めて暴れ回るのだろう。
「――そんなお約束のありきたりなストーリー、メアリがめちゃくちゃにしてあげる!」
 ほらほら、みんな起きて。メアリーがそう手を叩けば、『見えざる友人達』が目を覚ます。|不思議の国《アリスラビリンス》の流儀に倣うなら、退屈な筋書きに抗することができるのは、やはりお茶会やパーティーだろう。それならば、アリスであるところのメアリーにとっては得意分野だ。
 夢の中の『彼等』は無機物? 有機物? まあこの際どちらでも構わない。テーブルとイスが飛び跳ねたところで、隅っこに放置されていた箒とちりとりが踊り出す。
 降り積もる埃を払って集めて、綺麗になったそこでテーブル達がタップを踏んで。整列したそれらに明るい照明が降り注ぎ、テーブルクロスがそれらを宥めるように白い平原を広げた。
 チョキチョキと音を立てた鋏が色とりどりのテープを刻んで、部屋には即席の飾りが付けられていく。特に誰のお誕生日というわけでもないけれど、パーティー会場は華やかである程良いだろう。

 他の猟兵達の協力もあって、会場は輝き始めているが、忘れてならないのはやはり料理の数々だろうか、メアリーの命に従って、調理器具たちが宙を舞い、食材を捌いていく。仕込んで煮込んで配膳が終わるにはもうしばらくかかりそうが、行儀よく並んだ料理達は、賓客を迎える何よりの飾りとなるだろう。
 ゲストでありホストである、猟兵達の立場は微妙なところだけれど、何にせよパーティーには招待客が必要だ。
「それならやっぱり、招待状を送らないといけないわよね?」
 豪華な便箋と羽ペンも、出番を待っていたとばかりに現れるが、さらさらと書いた文面の頭の部分は空白のまま。字の書けないメアリーにも、そこにはきっと招待状の受け手の名前が入るはずだとわかるのだけど。
「ああ、だけれど困ったわ! 送る相手がいないだなんて!」
 例えばこの場に相応しい、物語の始まりを告げるような、劇的な登場人物。どうしようもない運命を抱えて、何とか逃げ隠れして抵抗する、それこそアリスのような彼女を待ち、迎えるようにメアリーは小首を傾げた。
「誰か受け取ってくれる方はいないかしら?」
 未だ畳まれていない、宛名不明の便箋をひらひらとさせる。インクとペンが哀し気に身を引いたところで、誰かの細い指先が、その片端をそっと摘まんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『隠れた標的を誘い出せ』

POW   :    思い付いたことを片っ端から試す

SPD   :    周囲の反応を探りながら試す

WIZ   :    情報を集め、法則を予測する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●彼女の見る夢
 静かに、より深く。燻る火種を水底に沈めるように、息を殺して姿を隠していた少女は、俄かに活気づいた『夢』の気配に顔を上げた。
 誰にも踏み込まれないように、誰のことも見ないで済むように、放置し寂れるに任せていたそこは、今では華やかに輝いている。
 整備された庭園の小道に誘われるように踏み入れば、筆で描かれた模様が足取りに合わせて波紋を広げる。アーチを抜けて、軋みガタついていたはずの扉を開ければ、店内にはシャンデリアとステンドグラスからの明かりが降り注ぐ、色鮮やかな光景を目にすることになるだろう。
 磨かれ手入れの行き届いた調度品、柔らかな声を響かせる動物達、彼女の名前にもある鳩が飛び交い、羽音を降らせるその様子に、少女は目を丸くしてそれを見上げた。

 何か楽しい事が始まるのだと、そう予感させる光景に胸を弾ませながら、彼女は招待状を手に辺りを見回す。
「あなた達はだれ? どこから来たの?」
 驚きと感動と興味、興奮を抑えた様子の声音。その様子は、きっと『夢見る少女』そのものだった。


●光の裏側
 猟兵達の存在と、彼等の作り上げた楽し気な雰囲気に惹かれて、夢の主は姿を現した。
 髪を結ぶいくつもの白いリボンが特徴的な、年相応に小柄な少女。彼女は猟兵達に興味津々だが、少しばかりこちらを警戒している様子も見て取れる。とりあえずこの警戒を解いてやらないことには、猟兵達の提案や誘導にも乗らないだろうし――肝心の『食事』については、なおのこと頑なに拒んでくるだろう。
 未だ姿を見せないシャドウ、『飢餓の影』を誘い出すためには、『晩餐会』を進めてやる必要がある。

 ――そんな一同に向けて、いつの間にやら姿を現した顔の無い給仕達が、テーブルへと誘うように恭しく頭を下げた。
ベルト・ラムバルド
アドリブ上等

あの子が夢の主か!なんだい、ま~だ幼い子供じゃあないか!
まだ心開いてないように見えるし年頃の乙女だからそう簡単に来ないだろう…
向こうが心開くまで待つしかあるまいよ!ベルト・ラムバルドは心を鬼にして…飲み食い騒ぐぞ!

という訳で給仕さん!えーと…前菜はこれで…メインディッシュは肉ね…ワインは…あ、ない?
じゃあジンジャーエールで…!
…一人で食うのもなんだかな~…こ~ゆ~時こそ賑やかに呼ぶしかあるまいよ!
UCで學徒兵達を召喚!若いし腹が減ってるであろう彼等にも注文をさせよう!
ここは夢の中だ!夢だからタダだしいくら食っても構わないぞ!さぁ諸君好きなだけたーんと頼みなさいよ!




 猟兵達の手で、夢の中は大幅に明るく、鮮やかに塗り替えられた。おそらくそれは、夢の主からしても驚きの光景なのだろう、ようやく姿を現した少女は、目を丸くして周囲の様子を見回していた。期待と興味に瞳を輝かせるその姿は、やはり相応の幼さを感じさせるもの。
 一歩引いて『夢の主』の様子を見守っていたベルトは、少しばかりの安堵と共に、現れた新たな問題に頭を悩ませる。
「年頃の乙女となると……」
 未だ警戒の色が見える少女に対し、話しかけるのは少々憚られる。大人の男であるという事実が、ここでは足枷になり得るのだ。
 向こうから接触してくるのを待つのも中々に厳しいかもしれないが、ここはそれしかないだろうと判断し、彼は心を鬼に、腹を決める。つまるところは当初の予定通り、飲んで食って騒いで、その姿を見せつけて食欲を煽りにかかった。
「給仕さん! えーと……前菜はこれで……メインディッシュは肉ね……」
 人型の影がそのまま給仕服を着たような、黒塗りの彼等に注文を伝える。顔の無い給仕達は、恭しくそれを聞いているようだが。
「ワインは……あー……」
 本来は一杯いただきたいところだが、未成年どころか幼い子供と言うほかない相手に、それを見せるのは如何なものか。
 気にし過ぎかと首を捻りつつも、結局ベルトは安全な方向に振ることにした。
「じゃあジンジャーエールで……!」
 承りました、とばかりに頭を下げた給仕が姿を消す。だがさして待つことなく、彼等は料理を乗せた皿を持ってきてくれた。
 この辺りはさすが夢の中、と言ったところだろうか、真っ白な平原だったテーブルクロスの上に、コース料理が並べられていく。
「しかし、一人で食うのもなんだかな~……」
 美味しい食事にありつけたとしても、確かにそれではパーティー間には欠けるかもしれない。そこで、ベルトはユーベルコードを使って応援を頼むことにした。
 姿を現したのはサクラミラージュの學徒兵達。年若い彼等はきっと腹を空かせていることだろう。
 呼び出しに応じ、しかし「ここどこ?」と戸惑っている彼等に、ベルトは両手を広げて見せる。ここは奢りだ、と言わんばかりのその様子に、學徒兵達は機体の眼差しを注いでいる。
「ここは夢の中だ! 夢だからタダだしいくら食っても構わないぞ! さぁ諸君好きなだけたーんと頼みなさいよ!」
 うおお、やったぜ、と元気の良い彼等の歓声が上がって、料理店は俄かに賑わいを取り戻した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ギュスターヴ・ベルトラン
テーブルの上にそびえ立つクロカンブッシュ、白と黄色と赤のコントラストが繊細なピーチメルバ…
時期こそずれるが|ポワソンダブリル《4月1日の魚の形した菓子》は…なに、1ホールサイズと一口サイズ両方用意されてる、だと…!

滅多と食えないフランスのお菓子が…!|Alléluia!《主よ、感謝いたします!》
最高だなー、甘い物で満たされるってマジで最ッ高だなぁ!
あ、ドラジェもあるな…ほれ、カラスも食っとけ

ってやってたらカラスがある方向見てるんだが…もしかして鳩子さん、今の見てた?
そっか、見られてたか
あー…今のはな、ちょっと贅沢過ぎない?って神様に詰められちゃうからね
…好きなやつ食べていいから、内緒だぜ?




 天井に吊られたシャンデリア、そしてステンドグラス越しの光が照らすテーブル、ギュスターヴによって整えられたそこに、パーティーのための料理が並ぶ。それは神の恵みか、夢であるからこそ成せる技か、真っ白なテーブルクロスの上は、瞬く間に彩りに満ちていく。
 テーブル中央にはクロカンブッシュがそびえ立ち、ランナーに沿って様々なスイーツが置かれている。燭台の下、白と黄色と赤のコントラストを描くのはピーチメルバで、愉快な魚の形をしたパイは、所謂ポワソン・ダブリルだろう。それぞれに宝石のような輝きを放つお菓子の行列、この一角は完全にデザートテーブルと化していた。
「|Alléluia!《主よ、感謝いたします!》」
 ギュスターブがそう口にするのも無理からぬこと、一級品のフランス菓子の山は、食べる前から色彩と香りで見る者を楽しませてくれている。
「最高だなー、甘い物で満たされるってマジで最ッ高だなぁ!」
 感じ入ったような彼の言葉に応じて、影から生まれたカラスが羽音を立てる。何かを主張するようなそれに頷いて、「食っとけ」とギュスターヴは色とりどりのドラジェの方を指差した。
「……ん?」
 しかしながら、カラスの主張したいのはそれだけではなかったようで。その注意の先へと目を向ければ、そこには夢の主の少女が涎の出そうな顔でこちらを見ていた。
「……今の見てた?」
 ギュスターヴからの問い掛けに我に返ったのか、赤面した彼女は小さく頷く。
 そっか、見られてたか、と大げさに考え込むような仕草をして、ギュスターヴは相手の様子を窺う。やはり女の子にとってもこの輝かしいお菓子の山は魅力的に映っているようだ。
「あー……今のはな、ちょっと贅沢過ぎない? って神様に詰められちゃうからね。
 ……好きなやつ食べていいから、内緒だぜ?」
 せっかくの機会だ、と食べる言い訳を与えてやるように、そう告げる。
 口元に人差し指を立てながら相手の様子を窺うと、葛藤するような表情の下で、その細い喉がこくりと動くのが見えた。
 恐らくはもう一押し。そう見立てながら、ギュスターヴは菓子へと指を伸ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・杏
猟兵の皆さんと綺麗にしたこの料理店は見てるだけでも楽しい気分になるから
きっと鳩子も気に入ってくれる

そう確信しつつも少し不安
ここは一発、得意なお料理して鳩子を待とう

大丈夫と自分をも勇気付けるように軽やかに歌を口ずさみながら
お給仕さん、薄力粉、バター等クッキーの材料を頂げる?

小麦粉ぱたぱた
バターはレンチンして素早く溶かし
卵を入れて混ぜていこ~♪

歌いながら作ってるとわたしも楽しくなってきた
ちらちら見える白のリボンに笑いかけ
ふふ、わたしは杏、さすらいのパティシエ
鳩子も一緒に作ろ?
自分で作ればとても美味しい

クッキー焼き上がれば皆で一緒に食べよう
食べるのダメ?怖い?
大丈夫、美味しいは正義
一緒にやっつけよう




 猟兵達の手によって色彩を与えられた夢の中、やわらかな光で満ちた料理店を、杏は満足気に見回す。愉快で賑やかなこの調子ならば、きっと夢の主である鳩子も気に入ってくれるだろう。
 その確信と自信はあるけれども、一抹の不安は残る。それだけでは足りぬ後一歩を詰めるには、ここで料理の腕を活かすのが一番だろう。
 きっと大丈夫、全てはうまくいくはず。彼女だけではなく自分にも、そう言い聞かせるように軽やかな歌を口ずさみ、設えられたキッチンへと向かう。
「お給仕さん、クッキーの材料を頂げる?」
 かしこまりました、と恭しく頭を下げた給仕達は、どこからともなく取り出した薄力粉やバターを並べてくれた。ここから先はお料理の時間、用意された材料と磨かれた器具を使って、小麦粉を振ってバターや卵と混ぜ合わせる。少々手間のかかる工程ではあるが、夢の中ならばそう苦にもならない。
「~♪」
 歌の力は偉大なもので、そうしていると、やがて杏自身も楽しくなってくる。そんな中でふと視線を感じて振り返れば、キッチンの入口に、慌てて引っ込められた少女の頭の、白いリボンが揺れて見えた。
 ちらちらとこちらを覗いていたのだろう、その仕草に微笑んで、杏はそちらへ声を掛ける。
「わたしは杏、さすらいのパティシエよ」
 おずおずと顔を出した彼女を手招いて、彼女は言う。きっと、自分で作った料理はより一層美味しく感じるはずだから。
「鳩子も一緒に作ろ?」
『……いいの?』
 もちろん、と頷いて、杏は年下の少女を手伝う形で一緒にお菓子作りを進める。おぼつかない手つきを支えるようにしながら、できたクッキー生地をオーブンに入れてあげれば、夢の中のそれはあっという間に焼き上がった。
 きつね色に輝くそれを、お皿の上に綺麗に並べて。
「皆で一緒に食べよう?」
 すっかり緊張もほぐれた様子の鳩子を、そうして誘う。すると発しかけた言葉を押し留めるように、少女は咄嗟に口を噤んだ。
 先程までの笑顔が曇ったのを見て取り、杏は手を差し伸べる。怖いことはない、大丈夫だと。
 美味しいは正義であり、それを阻む者が居るのならば、一緒にやっつけてあげるから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
さぁ飯だ飯だ
たっくさんの米に、蛸の煮物に鰹
ぱんも食おう、分厚く焼いた卵を挟んでヨ
そうだ、つい先日肉を少しだが食った
だから少しだけ幅を広げたものも食ってみてェ
…んだが、俺ァそんねェに詳しくねえからヨ
嬢ちゃんの知恵が借りられりゃあ万々歳
やい、お前ェの好きな食べ方はあるかい?

際限はないんだろ?
すれなら飯だけじゃなく水物も欲しい
白玉の入った冷や水、桃に西瓜、饅頭、たぴおか、くれぇぷ、|甘いぱん《どーなつ》
なあに、俺だってこれっくれえ食った事あらあな
この甘ったるいなァ最近知ったが、嫌いじゃねェ
嫌いじゃねえが、流石に一人じゃ食いきれねェなァ〜
すれに、一人で食うより集まって食う方が美味ェだろう




「さぁ、飯だ飯だ!」
 一仕事終えて、場が整えば食事の時間、彌三八の前にも、顔のない給仕達がいくつものお皿を並べていく。洋風の佇まいの料理店ではあったが、この夢の中の食堂に和洋中のくくりなど存在しない、彌三八の望むようにたくさんの米や蛸の煮物、鰹など食べ応えのある料理が置かれていった。
 しかしまあ、それだけでは少々物足りない、分厚く焼いた玉子を挟んだパンと、それから肉の類も欲しいところ。
 つい先日少しだけ口にしたそれを思い出し、彌三八は「ふむ」と鼻を鳴らす。見ようによっては、これは経験の幅を広げ、新しい味を開拓する良い機会だろう。
 さっきからこちらをちらちらと覗き見している気配の方へ向き直ると、幼い少女の大きな瞳と視線がぶつかる。びくっと身を竦めた彼女の様子に構わず、彌三八はそのまま問いを投げた。
「やい、お前ェの好きな食べ方はあるかい?」
 えっ、と目を丸くしていた少女だが、見慣れぬ衣服の彌三八への興味と、後は自分の食欲に勝てなかったのか、おずおずと答えを返した。
『は、ハンバーグ……』
 なるほど肉を丸めて焼いたやつ。一際豪華なお皿のそれが足されたところで、彌三八はさらに思い付くまま注文を足す。ここが夢である以上、際限もなければ遠慮も不要だ。
 所謂水物、白玉の入った冷や水に桃や西瓜、饅頭と、最近覚えたタピオカにクレープ、ドーナツも……と甘味どころを付け足していくにつれ、少女が前のめりになっていくのが垣間見えた。強い意志を示すように引き結ばれた口元、けれど瞳に帯びる熱は隠しようもない。
 ――なるほど、お前ェもこういうのが好きかい。心得たように頷いて、彌三八は虚空へと視線を逸らす。
 こういう甘ったるいのも嫌いじゃない、けれど、と聞こえるように呟いて。
「あァ、でも流石に一人じゃ食いきれねェなァ~?」
 それに、一人で食うより集まって食う方が美味ェだろうなァ。誰にともなく、いや意図は明らかなのだが表面上は誰にも向けていない嘆きの言葉に、少女はこくりと喉を鳴らした。
 じゃあ、わたしが。そう名乗りを上げたがっているのは、その表情からして明白だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九之矢・透
小さな女の子だ
ウチのチビ達を思い出しちゃうね

こんにちは
アタシは九之矢・透
君の名前を聞いても良い?
勿論知ってるけど、いきなり名前を呼ばれても驚かせちゃうかもしれないし、
まずは王道に自己紹介
ライオン始め動物達もご挨拶だよ
お行儀よくな!
コイツらはアタシのダチだよ
大人しいから触ってみる?

お腹も空いてるらしくて
鳩子サン、あげてみないか
ライオンには切り身の肉
コノハズクは…本来のご飯は割とショッキング映像だから練り餌の方な
ミケはちょっと豪華な缶ゴハン
おー良く食べる

現実世界じゃこんな優雅なご飯、そう出せないもんな…今の内に沢山食べな
ゼロカロリーらしいケド

誰かが食べてるとコッチもお腹すかない?
何か食べさせてくれるらしいよ
断られても無理強いはせず
じゃーアタシは食べちゃおうっかなー
ケチャップでライオンが描かれたオムライス
パウダーで小鳥が描かれたココア
シロクマの形のかき氷もいいな!
動物モチーフの料理を色々オーダー
先ずは見目で楽しい気分になってもらおう
頃合いを見て、そっと

料理頼み過ぎたみたい
少し手伝ってくれない?




 整えられたパーティーの場に現れたのは、白いリボンの少女。年の頃は故郷の子供達の中に居ても不自然ではないくらいだろうか、好奇心と不安の入り混じったその視線は、彼女にとっても覚えのあるものだった。
「こんにちは、アタシは九之矢・透。君の名前を聞いても良い?」
 膝を折って目線を合わせて、少女に向かって問いかける。もちろん彼女の名前は把握しているが、いきなり名前を知っていても驚かせてしまうだろう。回りくどいかもしれないが、やり方としては確実だ。
『は、はじめまして……』
「はじめまして。ほら、お前達も挨拶しなよ」
 鳩子、と名乗った彼女の前に、透は動物達を呼び寄せる。リスに小鳥、ネコ、オオコノハズク。順番に表情の明るくなった少女だけど、さすがにライオンが出てきた時には面食らって身を引いていた。
「コイツらはアタシのダチだよ。大人しいから触ってみる?」
 大丈夫、噛み付かないから。自分から率先して撫でて見せて、少女を促す。恐る恐る、と言った調子ではあったが、鳩子も動物達に触れられるようになった。
「コイツらもそろそろご飯の時間なんだけど、鳩子サン、あげてみないか」
『えっ、いいの?』
 顔のない給仕達に告げれば、彼等は動物達のための食事も持ってきてくれる。
 ライオン用の切り身の肉に、練り餌、なんかお高そうな缶ゴハン、用意されたそれらは、好評だったようで。
「今の内にたくさん食べな……」
 現実ではこんな優雅なご飯、そうそう出せるものでもない。夢の中の食事とはいえ、きっと満足感は本物だろう。
「誰かが食べてるとコッチもお腹すかない?」
『それは……』
 否定せず言い淀んだあたり、嘘は吐けない性質なのだろう。けれどそこを追及するのはやめておいて、代わりに透は席に座る。
「じゃーアタシは食べちゃおうっかなー」
 他人が楽しそうに食べていると、見ている側もお腹がすくもの。
 ケチャップでライオンが描かれたオムライス、パウダーで小鳥が描かれたココア、シロクマの形のかき氷。動物モチーフの楽し気な料理が次々と運ばれてきて、透はそれに舌鼓を打つ。ちらりと横目で様子を探ると、何かを言いかけた少女が、小さく喉を鳴らすのが見えた。
「料理頼み過ぎたみたい。少し手伝ってくれない?」
 え、でも、わたしは。しどろもどろに返事が揺れる。
 その誘いは抗いがたく、食欲を抑える枷を、確かに緩ませるものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メアリー・ベスレム
あら、アリス。ごきげんいかが?
メアリはアリス、あなたもアリス
これじゃどっちが招待客わかりゃしない!
さあ、おかしな晩餐会を始めましょう、と
くすくす笑って席に着けば
【ごはんの時間】に釣られてか
もぞりと|合成肉生物《チプト》が顔を出し
出された料理の数々を、次から次へ喰らい出す!
ああ、だけれどここは|夢の中《ソウルボード》
出される料理は尽きる事無く……本当に?
まあ、供給が間に合わなくなる事はあるかも知れないけれど

あら、アリス。そんなに怯えなくったって大丈夫よ
この子、これでずいぶん「お行儀よくなった」んだから
ねえ、とチプトを笑いながら突く
(本人? は聞いているんだかいないんだか食事に夢中!)
この子はなんだって食べるけれど
今では食べていいものダメなもの
ちゃんと区別できるようになったし、我慢だってできるもの
それ以前なんてメアリのお尻に思い切りがぶり! って咬みついた事もあったんだから
(チプトが|歯欠け《chipped tooth》になったのはその時の事)
まあ、こんなに美味しそうなんだから仕方ないけれど




「あら、アリス。ごきげんいかが?」
『あ、アリス……?』
 当然のような問い掛けに、多少面食らったような表情を浮かべている鳩子に対し、メアリーは構わず言葉を続ける。
 メアリはアリスで、白いリボンの彼女もアリス。ここは確かに少女の夢の中のはずで、しかしこの子はそのことを自覚していない。これでは招待客がどちらだか。
「いいわ、おかしな晩餐会を始めましょう」
 どこか彼女好みのあべこべの状況に、くすくすと小さく笑いながら、メアリーはパーティーの席に着く。すると食事の時間を察知したか、もぞりと|合成肉生物《チプト》が顔を出した。赤黒い小さな体躯には牙の並んだ巨大な口が一つ。もぞもぞと動いたそれは、テーブルの上に並んだ料理達へと大口を開けて飛び掛かっていく。
『ひっ……!?』
 その姿に本能的な恐怖を感じたのか、鳩子は思わず後退る。顔を青くした少女の様子に気付いているのかいないのか、メアリーは安心させるように声を掛ける。
「そんなに怯えなくったって大丈夫よ」
 何しろ、メアリーにしてみれば、今のチプトなどかわいいもの。
「この子、これでずいぶん『お行儀よくなった』んだから」
 メアリーの言葉に反して、と言うべきか、合成肉生物は次々と運ばれてくる料理に夢中だ。ここが夢の中であるからだろうか、空いた皿は次々に取り換えられていく。絶え間なく供給される料理に嬉々として飛びつくその姿は、食欲に底など無いと証明するかのよう。
「この子はなんだって食べるけれど、今では食べていいものダメなもの、ちゃんと区別できるようになったし、我慢だってできるもの」
 以前のチプトならば、料理どころか皿とテーブルまでがぶりといっていただろう。嬉々として食事を続けるそれをひと撫でして、メアリーは『その頃』のことを思い出す。
『……ほんとう?』
「もちろん。以前は見境もなくて、メアリのお尻に思い切りがぶり! って咬みついた事もあったんだから」
『おねえさんは、齧られても平気なの?』
 それはまあ、よくあることだから。平然としているメアリーの様子に、少女が悩まし気に眉を寄せる。けれどこちらはいつもの調子で、椅子に乗っけた大きなそれを振り返った。
「まあ、こんなに美味しそうなんだから、仕方ないじゃない?」
 |合成肉生物《チプト》はもとより、貪欲なオウガを、オブリビオンを、そして多分それ以外の多くも惹きつけてきた彼女は、それに気付く。
 向けられる視線の熱、渦巻く欲望の匂い。メアリーにとってはなじみ深く、覚えのあるそれらが、幼い少女の内側から漏れ出ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『渇望の影』

POW   :    Ask for the stars
【巨大な口を用いた噛みつき】で敵の肉片を捕食する。自身の身体部位ひとつが変異し、敵のユーベルコードひとつを使用可能になる。
SPD   :    Chase rainbows
【牙の並んだ巨大な口】で攻撃する。命中すると【敵の返り血】を纏い、レベル分間[牙の並んだ巨大な口]の威力と切断力が上昇する。
WIZ   :    Cry for the moon
【複数の口から同時に放たれる絶叫】で【破壊音波】を発生させ、レベルm半径内の対象全てを攻撃する。連続で使うたび命中力と攻撃速度が上昇。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠八津崎・くくりです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●欲
 ぶつんと音を立てて、真っ白なリボンがひとつ床に落ちる。
 その髪はざわざわと蠢いて、うねり、絡み合い、大蛇のように伸びていく。少女の抑えた口元からは、唾液が溢れ出して、一生懸命に『それ』を縛り付けていた純白の鎖が次々と千切れて、怪物がそこに顔を出した。

「――ごめんなさい」

 もう我慢なんてできやしない。だって、こんなにも美味しそう。
 彼女の心を侵す闇、少女の体躯を遥かに超える巨大な影が、牙の並んだ巨大な口という形をとって、顕現した。
●美味しそうなあなた
 顔のない給仕達は、いつの間にか姿を消して、食堂には少女とシャドウと、猟兵だけが存在している。
 空腹を煽られることで現れたシャドウは、牙の並んだ口をがちゃがちゃと鳴らして、猟兵達へ、その食欲を向けていた。
 だらだらと涎を零しながら、夢の主の心の裡を、羨ましいと感じたそれを、つまびらかに謳い上げる。だから、そう。その口で喰らい、奪ってしまえと。

『健啖家の丈夫な体は、青魚みたいに濃厚な旨味が感じられるだろう』

『白い輝きはミルクのそれか? 祝福された葡萄酒の味か?』

『あの器用な指先は、繊細で甘い味がするに違いない』

『友達がたくさんいるあの子は、パプリカみたいに色鮮やかに食卓を飾ってくれるだろう』

『誰しもを惹きつけるあの姿は、きっと真珠に例えられるライチの味だ』

 やめて。違うの。そんなことしたくない。少女の小さな声は、シャドウの咆哮に掻き消されていく。
 赤黒いその身をうねらせ、飢えた獣が猟兵達に襲い掛かった。
ベルト・ラムバルド
アドリブ上等

おいでなす…いや急に!?
うぉでっか…口が!!いやでかすぎるだろ!?
しかも牙があんなに!?…と…とはいえ私は騎士だベルト・ラムバルドだ!
キャバリアなくとも彼の少女を救って魅せる!行くぞ!

レイピアをすらりと抜き…!!!?
なんちゅ~叫び声…声だけでやられる…死ぬ…いかん…こんままじゃやららる…!こ~なりゃUCで武器召喚!

これは…ヨーグルとりもち!カクリヨの武器か?!瞬間思考力で即理解したぞ!
そんなに腹減ってるなら…こいつを食らえー!ヨーグルとりもちを相手の口元にぶちまけてマヒ攻撃!
ねっばねばのもっちもちのとりもち(ヨーグルト味)で口を開けなくしてやる!

…食欲はほどほどにしなさいよ本当に!




 猟兵達の整えた場に、ようやくシャドウが姿を現す。夢の主、少女の中に潜んでいたそれは、巨大な蛇のように身体を伸ばし、禍々しい口を開いた。
「いやでかすぎるだろ!?」
 食欲を謳うその行動に相応しく、シャドウの口は人間を丸呑みできるほどに巨大で、切り裂き咀嚼し得るほどに、鋭い牙が並んでいた。明確な凶器の様に、ベルトは一瞬たじろいだように見えたが。
「……と……とはいえ私は騎士だベルト・ラムバルドだ!」
 巨大な敵に抗えるようなキャバリアは、ここには持ち込めていない。だがそれでも彼の少女を救って魅せると決意を固め、すらりとレイピアを引き抜いた。
 しかし細剣の切っ先を蠢くシャドウへと向けたその時、大蛇がぐるりと少女の頭へと巻き付く。目を、そして耳を塞いだのだとベルトが察したその瞬間。
『――ッ!!!!!』
 シャドウの体表に生じた無数の口が、一斉に雄たけびを上げた。
 鮮烈な音の束は爆発したように周辺の空気を震わせ、衝撃波のように一帯を薙ぎ払う。
「声だけでやられる……死ぬ……いかん……!」
 奇襲のように叩きつけられた音量に、思わずベルトが仰け反って。だがそのまま倒れてしまう前に、彼は抵抗を試みた。
 願わくば、仇なす敵を打ち払う、有効な武器を。そんな願いが通じたように、虚空を掻いたはずのベルトの手には、白い塊が握られていた。
「これは……ヨーグルとりもち! カクリヨの武器か?!」
 見た目ではさっぱりわからないそれを一瞬で看破し、ベルトはそれを振りかぶった。
「そんなに腹減ってるなら……こいつを食らえー!」
 投擲されたとりもちはシャドウの口の一つに飛び込み、反射的に噛みしめた敵の牙を、強い粘着力で捕まえる。
 ねばねばでもちもちのそれを使って、口を開くことさえ難しい状態にしてやれば、やりようはある。
 途切れた咆哮、その合間を縫うように素早く敵に接近し、ベルトは手にしたレイピアを振るう。
「……食欲はほどほどにしなさいよ本当に!」
 閃く刃が、大蛇のような見た目のそれを切り裂いていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

メアリー・ベスレム
まあ、はしたない!
いいわ、だったら……お行儀悪い子イケない子、メアリが躾けてあげるから
なんて、柄じゃないけれど

ほらおいで、とチプトを呼んで
ぐちゃぐちゃ混ぜ混ぜ合わせれば
【あいびき肉】のできあがり!

その姿、まるでチプトに食べられているかのよう?
あら、羨ましい? あなたもメアリを食べたいの?
ダメよ、他の子のものまで取るだなんて!
そうわざとらしく見せつけながら【誘惑】【挑発】してみせる

肉の鎧で破壊音波を防ぎ
鋭い牙と増えたチプトが敵を【捕食】し、その口を潰していく
もう、うるさいったら!

このまま|あなた《アリス》が|人喰い《オウガ》に堕ちるなら
そうなる前に、メアリがあなたを殺してあげる
だってメアリは殺人鬼! そういう役割は得意だもの
ええ、だけれど……そんなお話じゃつまらない!

ねえ、そうでしょう?
|この子《チプト》ですら、こうしてメアリを喰らわないよう、あなた自身を喰らわないよう我慢できてるのに
(まあちょっと我慢できなくなって齧るぐらいならご愛敬、だけれど?)
あなたは怪物になっておしまい、だなんて!


ギュスターヴ・ベルトラン
戦う前に拡声器使って鳩子さんに話しかけるよ

誰かに迷惑かけたくなくて、辛い事があっても自分が我慢すればいいって考えるの…わかるよ、ぼくも同じ
でも少しだけでいいんだ…君の恐怖を打ち砕こうとしている、ぼくたちの事を信じてほしい

――希望は失望に終ることはないのだから

【祈り】の【声を届かせる】のは|聖霊《さっきの光る鳩》たち
彼らは君を助け、心に寄り添う光となってくれるだろう

その子に伝えて
「助けて」でも「こんなことしたくない」でも、なんでも良い
君の心からの言葉がぼくたちの戦う理由になる

…ぼくたちの戦う姿が、|渇望の影《君の恐怖》を打ち破る勇気になることを祈って

というワケで甘やかな対応はここまでだ
祝福された葡萄酒呼びは気にいった
が、声かけの最中もさんざっぱら攻撃してきやがって…灼滅の時間だゴルァ!

聖霊たちの支援を受けながら頭上に浮いてるHYMNEぶん投げる…が、こっちは囮だ
本命は光る鳩に紛れ【祝福】を受けた|カラス《Miserere nobis》で【神聖攻撃】する

…説教が長くなるのは、良くない傾向だな


九之矢・透
食欲から目を逸らして……よく頑張ったな
羨ましいと思う事は何もおかしくない
それを歪めて、害にするヤツが問題なんだ

だからさ、羨ましいって思う気持ちは出来れば無くして欲しくないな
それって鳩子サンが誰かの良いトコロに気づけてるって事だから
周りの良いトコロを沢山知ってるなら、
きっとそれを糧に出来れば今度は鳩子サンが誰かにとって羨ましいヒトになれるよ

使用するUCは【山嵐】
大口開けた所にお見舞いしてやる
空腹なんだろう、喰らいな!
更にこっちを捕食したり、同じUCを使おうとしてくるかもしれないが、
神経毒でちょっとでも動きが鈍れば見切って躱せる可能性が高まるかな

鳩子サン
帰ったらさ、本当にゴハン食べに行こうよ


菱川・彌三八
そう云われりゃあ馳走の部類…になるのか?
マ、そうやって他人を認められるってなァ良い所と云えなくもねェ
なればこそ、野暮は無用だってェこった
見た事のある見目してやがるが、遠慮なくいかせてもらうぜ

食われる事など気にも留めずに懐へ
空でも食ってろとばかりに顎下から、上から横からぶん殴る
的がでかくてやり易いぜ
その牙ごと圧し折ってやらあ

易々食われてやる気はないが…俺の力は俺がいっち知ってる
扱いも然り
喧嘩も絵も、何年やってると思っていやがる
付け焼き刃の猿真似で如何にかなるものじゃあるめえよ
墨絵は拳で吹き飛ばし、ほんの一部の力押しじゃ負ける気もしねェ

抑、お前ェにゃお前ェの”良さ”ってェもんがある
何れわかるさ


木元・杏
ん、出た。これがシャドウ

鳩子落ち着いて?大丈夫、皆の素敵なお料理を食べたいなんて当たり前のこと
貴女は何一つ間違ってないし、わたし達はこれをやっつける事が出来る
だから少しだけ我慢して?

【うさみみメイドさんΩ】
相手が巨大口で来るならこちらは数で勝負
メイドさんズ&うさみん☆、周囲に散らばり、鳩子に攻撃を当てないよう、シャドウ部分に向かいパンチ&キックで波状攻撃していって?

わたしは囮として真正面から突進
手に持つ幅広の大剣にした灯る陽光を盾に口の攻撃を武器受け
口を広げれば大剣をそのまま喉奥まで怪力で押し込み内部からの攻撃を

乙女には、美味しいからしか得られない幸せがあるの
鳩子から出ていって




 猟兵によって切り裂かれたシャドウの身体は、しかし瞬く間に一つに戻る。不定形の影は、塞がれたのとはまた別の裂け目を口として、轟々と吼えて見せた。
 その根本では、少女が自分の顔に絡みつくそれらを、掻きむしるように腕を動かしている。しかしそんな微かな抵抗など意に介した様子もなく、怪物は身体を蠢かせ、大蛇の群れのように猟兵達を狙う。溢れ出る欲の証明、鋭い牙の並んだ口から零れる涎が、ぼたぼたと音を立てて床を濡らした。
「まあ、随分はしたないのね!」
 彼女にとっては馴染み深いその様子に、メアリーが応じる。
「いいわ、だったら……お行儀悪い子イケない子、メアリが躾けてあげるから」
 それを誘い出すことなんて、彼女にとってはお手の物。テーブルの上で次の料理を待っていたチプトを摘まみ上げ、それを我が身に宿らせる。ぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたあいびき肉のように、彼女を包む肉の鎧と化していく――その過程は、まるでチプトがメアリーに齧りつき、呑み込んでいくようで。
 ぎちぎちと鳴るシャドウの牙の合間から、荒い息が漏れ始める。
「あら、羨ましい? あなたもメアリを食べたいの?」
 挑発的な言葉に、もはや我慢が効かなくなったというように、シャドウは思い切り大口を開けた。
『寄越せ! 私にも味わわせろ!!』
「ダメよ、他の子のものまで取るだなんて!」
 飛び退いたメアリーの目の前で、断頭台の如く牙が噛み合わされる。食欲に囚われた怪物は、そのまま彼女を追うようにして体を伸ばし、その拍子に薄くなった覆いを破って、少女は視界を取り戻した。
 途端、ひゅっ、と細く喉が鳴る。メアリーを狙って大きく体を伸ばした怪物、自分を根本とする醜い欲望、それを目の当たりにした少女は、ショックで言葉を失っているようだ。
「鳩子、落ち着いて?」
 混乱のさなかに居るであろう少女に対して、杏がそう声を掛ける。食欲そのものに罪は無い、貴女は何一つ間違ってないし、わたし達はこれをやっつける事が出来る、と。
 食らいかかる敵に対し、杏が展開したのは、複数のうさみみメイドさん達。ユーベルコードに寄って呼び出された100を超える数の人形達が、敵の周囲を取り囲む。相手が変幻自在の巨大な口であるのなら、こちらは数で勝負。
「すぐに助けるから、少しだけ我慢して?」
『でも……』
 人形達のパンチとキック、波状攻撃がシャドウを襲うが、少女の口から意味のある言葉は出てこない。もう止めて、早く逃げて、目の前の光景に対してそう思うのと同時に、少女の裡にある「食べてしまいたい」という欲望もまた、本物なのだから。
「このままあなたアリスが人喰いオウガに堕ちるなら、そうなる前に、メアリがあなたを殺してあげる」
 攻撃の勢いを保ち続ける影の様子に、身を躱しながらメアリーがそう付け足す。殺人鬼である彼女にとっては、それは確実性の高い一つの回答だった。
 ぜぇ、と荒い息を吐いて、飢餓感に苛まれていた少女のこめかみが緩む。メアリーの言葉に身を任せるのも、きっと悪くはないのだと言うように。ただ、その結末に至るのを阻んだのは、拡声器越しのギュスターヴの声だった。
「誰かに迷惑かけたくなくて、辛い事があっても自分が我慢すればいいって考えるの……わかるよ、ぼくも同じ」
 自己犠牲の精神は尊いものかもしれないけれど、彼はその手前で踏み止まるようにと言葉を続ける。
「でも少しだけでいいんだ……君の恐怖を打ち砕こうとしている、ぼくたちの事を信じてほしい」
『……でも、失敗したらあなた達が食べられちゃう』
 そんなのはいや、そう悲嘆に暮れる彼女を勇気付けるべく、ギュスターヴは穏やかに微笑んで見せた。
 料理店を飾っていた|聖霊《光る鳩》達が輝き、翼を広げる。神の愛、平和と希望の象徴たる白い翼を。
「彼らは君を助け、心に寄り添う光となってくれるだろう。だから、どうかその子に伝えて」
 君の声を、君の希望を。
 心配することはない。だって、そう――希望は失望に終ることはないのだから。

『ええい話が長い!!!!!』

 その瞬間、爆発的な大音声が料理店全体を揺るがす。シャドウが体表に生じさせた無数の口を使い、一斉に叫んでみせたのだ。
 猟兵達の整えたパーティー会場が嵐の直撃を食らったように吹き散らされ、付近に居たメアリーとギュスターヴもまた吹き飛ばされる。
『祈りの言葉など待っていられるか! 私はさっさと食事に入らせてもらう!!』
「行儀が悪いな、まったく……!」
「もう、誰よ『説得が有効』なんて言ったのは!」
 破壊音波を防御するべくメアリーを丸呑みするようにしていたチプトから、メアリーは顔だけ出して相手の状況を探る。大音声の直前に急いで耳を塞いでいた少女は、我儘を吠えて荒れ狂うシャドウに対し、どうしていいかわからない、といった様子で顔を伏せてしまっていた。醜く身勝手な欲望、それを人目に晒すどころか、人を傷つける様は少女にとっては最悪の光景だろう。
 けれど、うずくまっていても何も解決はしない、その顔を上げさせるために、今度は透が前に出る。
「羨ましいと思う事は何もおかしくない。それを歪めて、害にするヤツが問題なんだ」
 だから、いやむしろ、羨ましいと思う気持ちを失くしてほしくはないと彼女は言う。
「それって鳩子サンが誰かの良いトコロに気づけてるって事だろ?」
 だから恥じ入る必要も、全てを否定する必要もない。周りの良いトコロを沢山知ってるなら、きっとそれを糧にしていくことで――。
「あっ、糧にするって食事的な意味じゃなくてだな――!?」
 と、言葉の半ばで咄嗟に伏せる。透の押さえた帽子の上を、牙を剥いた大蛇が勢いよく通過していった。
 先程の言葉の綾も相まって、シャドウの行いも助長してしまった感がなくもない。けれど、これもまた少女を目覚めさせるには必要な一歩のはず。
「マ、そうやって他人を認められるってなァ良い所と云えなくもねェ」
 次の手に迷う透の声を、彌三八が継いで。
「なればこそ、野暮は無用だってェこった」
「……え?」
 何か交通事故みたいな結論に行き着いてしまった。目を丸くする透を他所に、彌三八の鳳凰の刺青が熱を帯びる。才覚と熟練を惜しげもなく晒すようなその輝きに、シャドウは嬉々として猟兵達に襲いかかった。
 変幻自在なその攻撃はまるで蛇の群れのよう、四方八方から迫る噛み付き攻撃を、透はかろうじて躱していく。
「なんか……頭ばっかり狙ってないか!?」
『当然だ、そこに隠しているのだろう、色鮮やかな食材達を!!』
 明確な食欲を向けられて、帽子の中の小動物達が震えあがったような気がする。何にせよ、大人しく喰わせてやるわけにはいかない、敵の狙う場所が明解であるのなら。
「空腹なんだろう、これでも喰らってろ!」
 大口を開けた蛇達に、投擲武器をまとめて投げ込む。口の中に突き刺さったそれらは、吞み込まれた刃と共に、宿した神経毒でシャドウを苛んでいく。
『こんな不味いものを私の口に……!』
 そうして動きの鈍ったところ、一際巨大な大蛇に対し、彌三八の拳が見舞われる。ユーベルコードによって強化されたそれが横面を殴りつけたが、悲鳴の代わりに上がったのは称賛の言葉だった。
『この力はハマチでもなくメジロとも違う、育った鰤か! 美味そうだ!!』
「今度ァ縁起物扱いかよ?」
 出世魚の名前を出してきた敵の言葉を鼻で笑う。大蛇に紛れた小蛇が身体を掠め、彌三八に裂傷を負わせる。小さいながらも鋭い牙で肉を食らった影は、その身に彌三八と同じ鳳凰を描き出した。喜悦の笑みと、赤黒く浮かび上がった鳳の紋様、さらなる力を帯びた怪物が彌三八へと迫る。
 ユーベルコードをコピーすることで勢いを増した敵の攻撃、だがそれが彌三八を噛み千切る寸前に、彼はその身を低く沈めていた。ばくんと閉じた巨大な口の中で、牙と牙が打ち鳴らされる、そこへすかさず、彌三八の拳が下から突き上げられた。
『なんだと……?』
「付け焼き刃の猿真似で、如何にかなるものじゃあるめえよ」
 喧嘩も絵も、何年やってると思っていやがる、と彼が言うように、喰らい奪うだけでは、結局使いこなせはしないのだ。
 ダメージによるものか、シャドウは怒りの雄叫びを上げる。まあこれだけ煽れば『腹も減る』だろうと、彌三八は涼しい顔でそれを聞き流した。
 帽子への攻撃もひと段落したところで、透は小さく溜息をひとつ。
「食べて奪う、なんて方法じゃあ限度があるよ」
「抑、お前ェにゃお前ェの”良さ”ってェもんがあるだろ」
 それが何かは、何れ自分でわかるはずだと彌三八は言う。確たるものではなかったが、しかしそれは、少女を立ち上がらせるには十分な色を宿していた。
『――たすけて』
 こんなのは、いや。状況を覆したい、助けを求める言葉が聖霊へと伝えられ、ギュスターヴが頷く。
「ああ、ぼくたちに任せて」
「あら、でもそれだけ?」
 しかしそこで、メアリーが言葉を挟んだ。
「|この子《チプト》ですら、こうしてメアリを喰らわないよう、あなた自身を喰らわないよう我慢できてるのよ?」
 まあちょっと我慢できなくて齧るくらいはあったかもしれないけれど、そこはそれ。挑発的な言葉で誘い、彼女は退屈な結末を否定する。
 煽るように、無防備に見える姿勢で前に出た彼女に対してすぐさまシャドウが襲い掛かるが、勢いよく噛み付きかかる寸前で、鳩子が自分の髪を両手で掴んだ。
 それは非力な子供の腕に過ぎない。けれど彼女はこの夢の主であり、シャドウが闇に誘おうとしてる存在だ。それゆえか、この少女の行いはシャドウに対して見た目以上の効果を齎す。
 咆哮は中断され、伸び行くはずの身体が突っ張り、一瞬とはいえしなやかさを失った。
 その様に口の端を吊り上げたメアリーに応じ、牙を剥いたチプトが逆にそれを噛み千切る。
「灼滅の時間だゴルァ!」
 よくもまあ説得中に散々暴れてくれたなこいつは。そんな恨みを込めたギュスターヴの光輪が放たれ、敵はそれを防ぐべく多数の蛇を防御に回す。そうして集まったその場所に、大剣を手にした杏が正面から飛び込んだ。
 灯る陽光を形にしたその刃で、牙の群れを受け流し、その口の中へと切っ先を叩き込む。
「祝福された葡萄酒って呼び方は気に入ったけどね」
「乙女には、美味しいからしか得られない幸せがあるの」
 舞い踊る光の鴉の合間を縫って、祝福を受けた|カラス《Miserere nobis》がその刃を後押しする。
「――鳩子から出ていって」
 怪物の喉奥から光があふれ、シャドウはその場で爆散した。

 闇から解放されて、髪の短くなった少女は、呆気に取られた様子でそれを見上げる。猟兵達の攻撃によって砕け散ったシャドウ、その残滓のような影が、ひらひらと舞い散るように消えていく。そして、ダークネスの消滅と共に、少女は焦げ付くような飢餓感が消え去ったことに気付くだろう。
 羨望も、嫉妬も、本当になくなることは無いのかもしれない。けれど、彼女はそれを乗り越える術を知ったはず。
「鳩子サン、帰ったらさ、本当にゴハン食べに行こうよ」
 透の言葉に、くしゃりと相好を崩して、彼女は初めて笑みを浮かべて頷いた。

 奇妙な悪夢はこれでお終い。輝く鳩が、現実世界の少女の部屋で時を告げる。
 ――さあ、目覚めの時間だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年09月01日


挿絵イラスト