|Kick!!!《よかったね!!!》
●あのね
うれしかったことって言うのは、いつまでも頭の中に残り続けるものなんだって思っていたんだけれど、違ったのね。
頭の中じゃあなくって、心の中。
胸の奥のどこか大事な場所にふんわりと広がる喜びが、きっとあたしにとっては、それなんだと思うんだよね。
この間の事件のことを思い出す。
猛毒を使う女の人がいて、いっぱい同じ顔と服装をした人たちがいて、そして最後は石を投げてくる人がいた。
猛毒はとっても苦しいものだったし、|一般人《エスパー》の人たちもそうだったみたい。
でも、あたしほど戦えるわけでもなかったみたい。
だからね、『遊び』だって思ったの。
これは絶対褒められるやつだって!
だってそうでしょう?
他の誰かができないことをすることで褒められる。
違うってことは、誰かから遠ざけられるものだって思っていたから。
あたしね。
うんとがんばったの。
『遊び』をしていたけれど、それでも、褒められたいって思ったの。
特別なことを特別にするためには、いろんな手順が必要なのはもう知っている。
『遊び』に時間がかかればかかるほど、おにーさんやおねーさんたちはいっぱい褒めてくれる。
「だいじょうぶだったかい? 聞いたところによると、あの『21位ゴリアテ殺し』と『38位ローズマリー・クメール』が同時に現れたそうじゃないか」
「よくぞ無事でいてくれた……!」
おにーさんやおねーさんは、どうしてそんな心配そうな顔をしているのだろうってアタシ思ったの。
なんで?
楽しかったよ?
なんでそんな心配そうな顔をするの?
「だって君はまだ年若いじゃあないか。こんな……こんな危険な戦いに巻き込まれなくっても」
あたし、だって褒められたかったんだもの。
心配されたかったわけじゃない。
褒めてくれないの?
「……いや、そうだね。偉いよ。よく戦ってくれたね」
「ありがとう。君のおかげで助けられた人達がいる。だから」
うん、とあたしは頷く。
催促するわけじゃないけれど、ちょっとソワソワしていたのがおにーさんやおねーさんに伝わったのかもしれない。
「はい、これ。慌てないで飲みなね」
手渡されたオレンジジュース。
ちょっと銘柄が違う気がする。特別な奴?
「ああ、そうかもしれない。飲んでご覧よ――」
●このね
此原・コノネ(精神殺人遊び・f43838)は受け取ったオレンジジュースのプルタブを開けて、ぐいっと一気にいつものように飲み干そうとした。
ごくり、と喉が鳴る。
いや、もっと前に気がついていた。
手渡されたご褒美のオレンジジュース。いつもと違うなって思ったのだ。
けれど、あの特別な味を覚えているから疑いもしなかったのだ。
「――!? なにこれ!?」
口内に、舌に、喉に。
ピリピリした感覚がある。毒ではない。それは即座に解っている。
けれど、この感覚はなんなのだろうか。
目をパチクリしていると武蔵坂の灼滅者は笑っていう。
「それは炭酸ってやつさ。いつもと同じオレンジジュースがなくってね。こっちも気にいるんじゃないかって思って」
「ひどい。それなら教えてくれた良かったのに!」
「いや、君が驚く顔が見てみたくってね」
「本当に本当にびっくりしたんだよ!」
「ごめんごめん。帰り道に、いつものオレンジジュースの自販機を見つけたら買ってあげるから許して欲しい」
「……でも、あたし、これも嫌いじゃないの。刺激的だね!」
すっかり炭酸オレンジジュースも気に入った様子で、彼女は笑う。
もう一本買ってもらえると聞いて、今日は良い日だって、さらにご機嫌であった。
今日のような日がまた訪れればいい。
なんて、そんなことをコノネは思うのだった――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴