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禍焰咆哮

#サイキックハーツ #イフリート #戦闘

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#イフリート
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●不穏
 ――未だ遠く。暗闇に、不意に灯った光が揺れた。
 否。それは、灯る、などといった温く生半可な光ではない。その光一筋差し込むだけで、闇一色だった景色が一瞬にして岩肌が覆う洞窟であると明らかになった。
 差す光が揺れるのは、ズン、ズシンと巨大な脚が、激しく地を叩くためか。それとも太く硬き巨大な尾が、地に引き摺られ土や岩肌を抉るからか。
 或いは――光源が、揺れながら激しく燃える炎であるからだろうか。
 その苛烈なる炎を尾に盛らせ、時に口腔からも吐き出して前へと進むは、巨大なる赤き竜だ。
 巨体が一歩進むにつれ、洞窟内では所々に自生する苔が次々に灰と化した。また一方では天井・壁面から湧き出る水が、例外なく全て一瞬で気化して景色から消えた。
 今や、此処は灼熱地獄。魔力を帯びた炎は、場の酸素を奪い尽くしてもなお勢いを増して燃え盛り、洞窟内の生命の気配を根刮ぎ焼き尽くしてゆく。
 だというのに――そこに存在するのは、巨竜一体だけではないのだ。
 巨竜に付き従うかのように窟内の地に空に無数闊歩するは、眷属らしき赤き竜達。これらもまた全てが炎を纏い、辺りをなおも炎で蹂躙している。
 このままでは、確実にこの洞窟は炎の魔窟と化すであろう。
 炎の竜――この世界で嘗てはダークネスと呼ばれた、竜種化したイフリート達の魔窟へと。

●過ぎた熱
「……と、まぁ、随分と激しいオブリビオンの様で。俺の予知じゃ、洞窟の場所まで特定できてねーんだけどさ」

 グリモアゲートでこう語るのは、|獅坂《しさか》・|天《てん》(破天・f44014)。
 彼はつい最近新たに見つかった世界『サイキックハーツ』の|灼滅者《スレイヤー》だ。

「大まかな位置は解ってるんだ。ただ、だだっ広い山ん中だから、景色の違いがよく解んなくてなぁ……悪いけど、探すとこからよろしく頼む。大丈夫だ、取っ掛かりはちゃんと見付けといたからさ!」

 サムズアップして笑んだ天の見付けた取っ掛かりとは、被害者達の存在だ。
 被害者と言っても、あくまで予知通りに事が進んだら、の話だが。

「何人かいるんだよ、たまたまその日に山に入っちまう人らが。で、たまたま眷属……『獅炎竜ガラルグラン』に遭遇して|殺さ《やら》れちまう。入山させず止められるのが一番良いんだろうが、洞窟見付けるにはある程度自由に動いてもらって何かあったら守る形の方が、ゼロから探すより遥かに効率が良いんだ。戦って、眷属をわざと逃がして後を追えばいいだけだからな」

 確実に眷属に接触すると解っている登山者達に猟兵達が介入し共に行動することで、彼らを護り確実に救う手立てが出来る。
 更に、発生する戦闘で眷属を弱らせて逃がせば、帰る先は洞窟だ。つまり、探すまでもなく、眷属の方から勝手に洞窟へ案内してくれるわけである。

「もっとも、楽だからこうしようってだけの話でもねーんだ。捜索に時間を掛けて洞窟の占拠が進めば、巣としての体裁が整っちまって、近くにいる弱いオブリビオンらが集まってきちまう可能性もあるからな」

 敵が集まり手がつけられない戦力となれば、更なる被害は必至。
 だから早急な対応が必要なのだと締めて、天はバン! と目の前のテーブルを両手で叩いた。

「纏めるぞ。先ずは登山者に同行ないし尾行して護衛する。眷属が見えたら登山者を逃がす。眷属と闘ったら、わざと逃がして後を追う! で、洞窟に着いたら――イフリートどもを、全部纏めてぶっ飛ばしてやれ!!」

 洞窟内。予知で炎に巻かれたそこを、灼熱地獄と天は言った。
 しかし、ニッとどこか挑発的に笑んで見送るその瞳には――『|お前達《猟兵》ならこの地獄すら超えるだろ?』という、期待と信頼が滲み出ていた。



●蔦より
 蔦(つた)がお送りします。
 よろしくお願いいたします。

 待望のサイキックハーツの実装に、心踊って久し振りの筆を取りました。
 リプレイ返却までにお時間をいただく可能性が高いですが、大好きなイフリートとの純戦闘、張り切ってまいります。
 お心に留まりましたら、是非プレイングをお送りください。

●構成
 今回は、以下の構成でお送りします。

 第一章:『護衛作戦』(冒険+眷属との戦闘)
 山林の中、予知通りなら被害者となる登山者達を眷属の襲撃から護りましょう。
 登山者達は纏まって動くわけではありません。誰か1人ないし1グループの登山者を同行か尾行して護衛し、戦闘になったら撤退させてください。
 同行・尾行についてはプレイングで指定願います。

 登山者達は流石に眷属を見た状況で「逃げろ」と指示されれば自力撤退しますが、勿論、戦闘を選ばず(SPD、WIZ)、他の猟兵に任せて待避の補助を行ったり、初めから接触させない選択をしても構いません。
 戦闘を選んだ(POW、WIZ)場合、眷属を敢えて逃がすことで、後を追うことが出来ます。洞窟を見付けましょう。

 第二章:『獅炎竜ガラルグラン』(対複数/集団戦)
 第三章:『竜種ファフニール』(一体+眷属残党/ボス戦)
 どちらの章も洞窟内での戦闘です。
 場の酸素を奪い尽くしても燃え盛る、とありますが、あくまで演出です。戦闘判定には影響しません。
 が、苦しい、暑い、熱いといった情景や反応描写は当然します。炎と熱波にまかれる窟内、肌も喉も渇いてひりつき、吸気には肺が焼ける。是非そんな戦場での戦闘プレイングをお楽しみください。

●プレイング受付について
 第一章のプレイングは、7月6日午前11時より受付開始いたします。
 二章、三章は断章を公開次第、プレイング受付を開始とします。断章公開前に届いたプレイングにつきましては、手をつけずに一度お返しいたします。
 また、次章に移行するまでが受付期間です。この間何度でもプレイングを再送いただいて構いませんが、採用をお約束するものではございませんのでご了承ください。

 同行者様がいらっしゃる場合は、相互のお名前+IDか揃いの合言葉などをプレイング冒頭へ解る様に記載願います。

 それでは、猟兵の皆様の参加をお待ちしております。
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第1章 冒険 『護衛作戦』

POW   :    襲来する敵の眷属を実力で蹴散らす

SPD   :    一般人と接触し、さりげなく安全な場所へ誘導する

WIZ   :    囮を使い、敵を撹乱する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●山中にて
 グリモアの転移の光が、すう、と音もなく消えていく。
 肌に触れる空気の温度が変わったと感じれば、次の瞬間には土と水と緑の匂いが優しく鼻腔を擽った。森の中か、と考えれば、光が消失した眼前には想像通りの緑の景色。
 頭上を見れば、よく晴れた綺麗な青空が広がっていた。
 太陽は真上よりはやや東に傾いている。ならば現地時間はどうやら昼前らしいと簡単な推測が立った。

 此処が、|イフリート《オブリビオン》の居る山中か。

 きょろ、と辺りを見渡してみると成る程、ただひたすらに山林だ。
 多少緑深く薄暗い所、小川や獣道、登山に使われているとおぼしき山道らしきものも見受けられるが――「景色の違いがよく解らなくて」とのグリモア猟兵の言に頷ける程度には、代わり映えのしない風景が続いている。
 更に、少し周辺を探索すれば、幾つか洞窟があるのも解った。
 ……これでは、件の洞窟を自力で探すのはなかなかに骨が折れそうだ。

 さて。ならばと今度はグリモア猟兵の指示通り、生き物の気配を探ってみる。
 すると山の麓に、川沿いに、山道に、森林の只中に――経路や距離、速度も数もバラバラ、しかし複数の動く気配が感知出来た。
 これほどの山中だ、野生動物の類でなければこれが襲撃を受けるという登山者達なのだろう――そう考えていた時にふと、遠くの空を凄まじい速度で移動する熱源に気付き、猟兵達は視線を上げた。

「ギャゥウウウ!!!!!」

 甲高い嘶きは鳥ではない。
 焔色の身に、魔力を帯びた猛火を纏って空を駆ける、それは今日の標的のひとつ。
 イフリート『獅炎竜ガラルグラン』。
 追う暇もないほど一瞬の邂逅であった。しかし、姿が見えた刹那の間に、無意識下で猟兵達はその力を分析する。

 咆哮の最中、口吻から吐き出されていた炎は恐ろしいまでの高温だ。例え猟兵でもあの炎に触れたら、恐らく一時的に触れた箇所が使い物にならなくなるだろう。
 纏う炎にも魔力が凝縮されている。現れて一瞬で消えたあの速度は、恐らくあの魔炎を動力にすることで移動速度を爆発的に加速させたものだろう。あの速さでの移動中に攻撃を当てるのは簡単ではない。
 逆にあの速さで突撃されれば、武具装備は破壊されるであろうし、そうして無防備になった上ならば此方はまず無傷では済まない。
 しかし、纏う魔炎はどうやら加速の瞬間消えるようだ。消えたその間は身体を守る盾を失い無防備になる様子だが、これは戦闘に生かせるか……?

「……俺は西側に行く」

 ふと。思考の最中に声が届いた。
 猟兵の一人が、背を向け歩き出していた。西の登山者の元へと――そう気付いてはっとする。
 そうだ、グリモア猟兵は言っていた。「洞窟の捜索にあまり時間は掛けられない」と。
 予知が現実のものとならぬよう、登山者達を護り抜かねばならない。既に眷属が洞窟外で蠢いているならば、彼らと早々に合流しなければ、待っているのは命の危機だ。
 そして、上手く隠しているのか、もうガラルグランの気配は魔力残滓すら見付からない。

「麓に行く。みんな、また後で!」
「気を付けてね! 北の川沿いの人は任せて!」

 猟兵達は、互いの護衛先が重複せぬよう確かめながら――最良の結末を目指し、今は山中に散開する。
クロッツ・エルバート
登山者を装って、本物の登山者に同行する
取り繕うのは得意でね
アウトドア全般好きとか言って会話を盛り上げ

傍ら、警戒は怠らず
空翔ぶイフリート、ね
折角綺麗な青空なんだ
荒らす無粋モノには引き篭もっていただきたいね
おっと、引き篭もらせんのも駄目なんだったか

眷属が現れたら、登山者へ避難を促し、相手進路上に立ち塞がる
加速して突撃してくる眷属に、ルーンソードを正面に構える
武具を壊す、だっけ?あァ、剣は保たねぇだろうよ
たぶん砕けちまうだろうが、
即座に『影追』
巨大な手の形の魔影で相手を掴んで、投げ飛ばす
一つ武器を壊されたところで、他にも用意は出来るんだよ!

これで退いてくれれば御の字なんだが
追いかけて、洞窟を目指す



「ほう、兄ちゃんも山が好きか」
「ええ。山だけでなく、アウトドア全般好きですよ。キャンプとか、海もいいですね」

 登山者と自然な合流を果たしたクロッツ・エルバート(憧憬の黒・f28930)は、繕った笑顔で語らいながら、周囲の気配を探っていた。

(「空を翔ぶイフリート、ね」)

 視線を頭上へ向けると、よく晴れた夏の空だ。
 暑さは陽光がもたらすもので、炎はどこにも見当たらない。しかし、|脅威《オブリビオン》はこの山中に潜んでいる。この地へ転移して直ぐ、青空を割って翔び去った姿をクロッツも見たのだから。

「折角綺麗な青空なんだ、荒らす無粋モノには引き篭もっていただきたいね。……おっと、引き篭もらせんのも駄目なんだったか」
「ん? 兄ちゃん、何か言ったか?」

 思わず漏れ出た呟きは、どうやら護衛する登山者の耳へは言葉として届かなかったようだ。「いえ、何も」とまた笑顔で取り繕うと、クロッツはぐっと密かに両の手を握り締める。
 ――招かれざる存在が放つ、不穏な魔力に気付いたからだ。

「ギェエエアァ!!!」
「ひっ?! ……ば、化け物!!!!」

 響いた甲高い嘶きに、何事かと振り向いた登山者は、奇っ怪な獣を視界に捉え、驚きと恐怖に目をむいた。
 獣の位置は未だ少し遠いか。しかし一瞬で距離を詰めてくることを知るイフリート『獅炎竜ガラルグラン』の登場に、笑顔を放棄したクロッツは、ルーンソードを顕現させると立ち塞がって声を張った。

「逃げろ! 逃げねぇと死ぬぞ!!」

 恐怖に声も出ないのだろう、登山者は口をパクパクさせると、必死の様子で逃げて行く。
 その背を最後までは見送れない。クロッツは剣を構えると、加速し突撃してくるガラルグランと正面から激突した。

「ガァアアア!!!」
「くっ………武具を壊す、だっけ? あァ、剣は|保《も》たねぇだろうよ」

 ガラルグランの突撃を受けたクロッツの剣は、暫しの鍔迫り合いの後にバキン! と音を立てて折れた。
 しかし、刹那――クロッツの影から飛び出した黒き巨手が、ガラルグランをガシリと掴んだ。

「ギェエッ?!!」
「一つ武器を壊されたところで、他にも用意は出来るんだよ!」

 ユーベルコード『|影追《シャドウシャーク》』。影に潜ませるが故に、一見存在が解りにくいクロッツのスプーキーシャドウ『Eintagsfliege』が形作った巨手によって、幾つもの山林を薙ぎ倒すほど力強く投げ飛ばされたガラルグランは、単独では不利と見たか、慌てた様子で飛び去っていく。

(「……これで退いてくれたのは御の字だが」)

 ここまでは上手くいった。しかし、これはあくまで前哨戦。いよいよこれからイフリート達との戦いが始まる。
 終わりではないと知るクロッツは、切れ長の茶瞳を鋭く細めると、翔び去る背を追い駆け出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェラ・イル
アドリブ歓迎
『』:使い魔ザミエルの台詞

_

登山者グループを尾行
話すこともありませんし
…人と、極力関わりは避けたい

『それにしてもあっちぃなあ』
「……そうですね」
他人に聞こえない程度の音量で使い魔のザミエルと話しながら歩みを進める
『早く終わらせて、涼しい部屋で映画でも観てえなあ』
「その前に報告書を提出しなくてはなりません」
クソ真面目が…と漏らすザミエルの言葉を無視
敵の気配を感じ取れば
ザミエルは溜息を
私は銃を
『ハンディファンが欲しいぜー』
「対象確認。これより牽制を開始します。…いきますよ、ザミエル」
一息に距離を飛び越え登山者グループの先頭へ
護衛対象を背に庇い、撤退を補助しながら魔弾にて牽制を
…こういうときに、子供の姿であるのは面倒ですね
登山者の正義感だか善意だかを機械的に躱し
撤退に集中させる
そして私たちは眷属の追跡を
『飛んで火に入る、ってヤツか?』
「貴方がいるんですから、危険だとしても無問題でしょう」
そう言えば彼の返事はいつもより素っ気ない
別に気にすることでもありませんが



 ざわ、ざわりと揺れる山林達が、気配を隠す手助けをしてくれている。
 3名で山道を往く登山者達の尾行を決めたシェラ・イル(Dec.・f43722)は、有事にフォローの利くギリギリの距離を保って身を隠し進んでいた。
 山道とは名ばかりの、さほど整えられているわけでもない道を行く登山者達は、どうやら皆熟練登山家の様だ。
 道の悪さも急勾配にも、絶えず談笑の声が聞こえている。

「『この山で何が起こるかも知らねえで。楽しそうだなーアイツら』」

 仕方ねえなぁ、と言わんばかりの声を密やかに上げたのは使い魔であるザミエルだ。登山者達の背を、シェラの足元、地表近くから見つめる彼は今|猫《仮》の姿。
 そして、人間の様にふう、と額の汗を手で拭う動作をする。

「『それにしてもあっちぃなあ』」
「……そうですね」

 ――猫の汗腺は肉球だけだが、果たして猫の姿で額に汗をかくのだろうか。そんな疑問はさて置いて、季節は夏。確かに暑い。
 標高の高さもあって太陽が近いためなのか、平時より照り付ける陽の熱が強い。しかし時折暑さを払拭するような涼やかな山風が吹けば、シェラの艶めく漆黒の髪を梳いて熱を逃してくれていた。
 地面に近いザミエルの方が、却って岩などの照り返しによって暑く感じるのかもしれない。

「イフリートとの戦いでは、もっと暑い思いをするのでしょうね」
「『あー、早く終わらせて、涼しい部屋で映画でも観てえなあ』」
「その前に報告書を提出しなくてはなりません」

 白磁の頬を滑り落ちる汗はそのままに、ふるりと長い睫毛を落として金瞳を閉ざしたシェラが平坦な声で現実を告げると、舌打ちと共にザミエルから『クソ真面目が……』と不満が漏れた。
 だが、この使い魔との密やかな戯れもどうやらここまでのようだった。

「――ザミエル」
「『……ハァー。ハンディファンが欲しいぜー、っと!』」

 魔力の気配を察知した。ザミエルの溜息交じりの声を耳に拾いながら、シェラは木陰から前へと飛び出した。

「ギャゥウウウウ!!!」
「……な?! おい、あれなんだ?!!」

 前を行く3人の登山者達も、進路からただの獣には在り得ぬ凄まじい速さで近付いてくる炎の塊に気付いたらしい。騒ぐ様子からは混乱が伝わったが――一息に。俊敏だがその軽さによって音に乏しいザミエルの歩容と共に、シェラは人ならざる速さで登山者達の元へと駆けた。

「対象確認。これより牽制を開始します。……いきますよ、ザミエル」

 顕現するは、愛銃『tranquillo』。登山者達を追い越して、迫り来る炎塊へと真っ直ぐ見つめ陽の照らす世界へ立う少年の、その妖艶なまでに美しい|顔《かんばせ》が此処に露わになった。
 陽を透かして輝く金瞳はまるで蜂蜜の様にとろりと煌く。その美しい色彩を閉じ込める睫毛は長く、瞬きひとつ、とても9歳とは思えぬ色香を漂わせてそこに在った。
 やがて艶めく薄い唇で一言、短く「退避を」と紡げば、一瞬瞠る目で見惚れていた登山者達が、慌てた様子で声を上げた。

「……いやいや! 子供が何言ってる!!」
「逃げなさい! ほら、一緒に行こう!!」

 それが正義感や子供への善意からの言葉であることは解っている。しかしシェラは表情こそ変わらずも――複雑な想いで嘆息した。

(「……こういうときに、子供の姿であるのは面倒ですね。――人と、極力関わりは避けたいというのに」)

 善意を機械的に躱そうと試みるも、登山者達はなかなか退かない。こうしている間にも、『獅炎竜ガラルグラン』はすぐそこまで迫っているのに――困る間も、悩む間も許されまいと、シェラは手を引こうとする登山者達を制して、愛銃を獣へと構えた。

「――執行開始」

 唇から、魔力を含んで妖しき響きを持つ声が落とされた。刹那に銃口から放たれるは、破壊という使命を帯びた、超威力の無数の銀の魔弾。
 ユーベルコード『|執行者《アージェントゥム》』。
 シェラの連射する魔弾は、ガラルグランの進路を阻む様に幾筋も銀の軌道を描いて空を翔けた。着弾、爆発。その間にも瞬時の魔力装填から、次なる弾丸が放たれて――また、着弾。

「……そ、そうか。任せていいな! 行くぞ!!」

 そして力が解き放たれた瞬間から、突如登山者達がシェラの指示に納得して撤退を開始したのは、いずれの世界にも違和感なく溶け込むという|猟兵の力《強制力》が働いたためか。
 ザミエルの誘導に従い、来た道を駆け足で去って行く彼らを背に庇ったまま――シェラは独り、絶やさぬ連射でガラルグランの狙いも、行動も阻害し続ける。

「グゥウウ、……グガァアア!!!」

 ――やがて。登山者達の姿がすっかり見えなくなった頃、ガラルグランは単身は不利と悟ったか、恨みがましい怒声を上げて青い空へ舞い上がった。

「……」

 去って行くガラルグランの背が一定距離離れるのを待ち、シェラは漸く銃を降ろした。するといつの間に戻ったか、ザミエルがとん、と軽くシェラの肩へ飛び乗る。

「『あれを追跡するんだな?』」
「……そうです。その先に目的の洞窟があります」

 相変わらず変わらぬ表情で淡々と答えたシェラから、ザミエルはふい、と視線を外した。
 そのまま再び地へひらりと降りて、遠のく炎獣の背を何処か憎らし気に見つめる。

「『飛んで火に入る、――ってヤツか?』」
「貴方がいるんですから、危険だとしても無問題でしょう」

 そう答えて駆け出す最中、……ふと。シェラはある事実に気付いた。
 ――そう言えば、|彼《ザミエル》の返事は、いつもより素っ気ない。

(「別に、気にすることでもありませんが」)

 戦いはこれからが正念場なのだ。使い魔に微かな違和感を感じながらも――向かうは、イフリート達が蔓延るという灼熱地獄。
 遠のくガラルグランの魔力を追って、シェラは山道を前へと駆ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

綺月・紗矢
今回の灼滅対象は竜種化したイフリートか
ダークネス…いや、オブリビオン退治も勿論だが
被害者を決して出さないよう臨もう

入山前に登山者は止めたいところだが…
敵の居場所を特定しないとだからな
危険にさらしてしまうし、怖い思いもさせてしまうが
登山者はわたし達が確りと守り、炎の竜を確実に灼滅しよう

道中警戒は怠らず、登山者と会話しつつ同行
よく山には登るのか?
クールだが人見知りはせず
有事の際に声を聞いて貰えるように

敵発見の際は仲間が近くにいれば協力
来た道を逃げろ、と声掛け登山者庇いつつ
わたしは後方からバスターライフルで敵どもを撃ち麻痺させ捕縛を
1体たりとも登山者を追わせぬように

さぁ、道案内してくれる眷属を追おう


鷹神・豊
…景色の違いが判らん…

文明の利器である程度は解決可能だが
自身が迷わない為にも同行
登山が趣味なのは事実だしな
わざわざ来たのにお帰り頂くのも何だ
犠牲者さえ出さなければ話の種程度にはなるだろう

遠方で動く物に目を凝らしつつ
雑談の間に最近近隣で奇妙な獣を見たとも伝えておく
業務連絡以外の会話は不得手だが…善処する

眷属が現れたら避難を指示
俺は武蔵坂の関係者だ、構わず逃げろ
UCを使い対処する

銃は支給品だが壊さないに越した事はない
魔炎が消えるという一瞬の隙を見逃さず対処する
視力で敵を観察し、急所を見抜き、咄嗟の一撃
殴るでも蹴るでも体勢的に出しやすい体術で攻撃

装甲たる炎が出せなくなれば逃げ帰るだろう
逃さず追跡する



「……景色の違いが判らん……」

 見渡せば一面の緑、緑、また緑。金色の瞳をすう、と細めて|鷹神《たかがみ》・|豊《ゆたか》(蒼天の鷹・f43985)は視線を手元に落とした。
 そこには、広域MAP上に位置情報を点で示す|文明の利器《スマートフォン》がある。幾度と豊の方向音痴に救いの手を差し伸べて来た神アプリは、今日も進路が正しいことを分かりやすく示してくれていた。
 お陰で、耳に届く水音は少しずつ大きくなってきている。今豊が向かう川辺には、合流を目指す今日の救出対象、登山者達がいる筈だ。

(「わざわざ来たのに、お帰り頂くのも何だ。危険が伴うのは事実だが――犠牲者さえ出さなければ話の種程度にはなるだろう」)

 豊とて、登山は趣味の一つであるから、登山者達の気持ちは|理解《わか》る。
 業務連絡以外の会話は不得手だが、善処すると決意して。合流すべくがさりと茂みを抜けた時、少し拓けた川辺に休む60代ほどの男女、それから見たことのある少女と目が合った。
 澄んだ紫の瞳を丸くして、豊を見る|綺月《きづき》・|紗矢《さや》(灼滅者のシャドウハンター・f43843)――豊も卒業した、武蔵坂学園の|学友《灼滅者》だ。

「あら。今日は人とよく逢う日ねぇ。紗矢ちゃん、知り合い?」

 表情から察したか、60代ほどの女性はこう問うと、こんにちは、と豊に人の好い笑顔を見せた。一方の男性は無口だが、休んでいきなさい、と言わんばかりに、水筒から汲んだ冷たいお茶を豊へ差し出してくれる。
 厚意に感謝を告げて腰掛け、一息ついた豊へと、紗矢は「二人はご夫婦だそうだ」と紹介しながら、今日此処までを思い返す。

(「入山前に止めたいところだったが……敵の居場所を特定しないとだからな。危険にさらしてしまうし、怖い思いもさせてしまうが……」)

 クールだが人見知りはしない紗矢は、山麓で夫婦と出逢い、ここまで共に登って来た。
 心を通わせ、有事の際に声を聞いて貰えるようにと――よく山には登るのか? この山は初めてなのか? 熱心に会話を重ねてきた紗矢に、夫婦からの視線は優しかった。
 紗矢ちゃん、と呼んで貰えるくらい、自分に心を許してくれた――だから雑談の中でごく自然に豊から出た言葉には、紗矢も思わずどきりとする。

「そういえば、この近隣で奇妙な獣を見ました。……気を付けた方が良いかもしれません」

 奇妙な獣――それは今回の灼滅対象である、竜種化したイフリートに他ならない。目上に対する丁寧な敬語で警戒を促す豊に、紗矢も頷き、そして改めて決意する。

(「ダークネス……いや、オブリビオン退治も勿論だが、ご夫婦はわたし達が確りと守り、炎の竜を確実に灼滅しよう」)

 被害者を決して出さないように。優しいこのご夫婦が、理不尽に晒されることのない様にと。紗矢が道中怠らなかった警戒を更に高め、背負う愛銃『Luna Blu』のショルダーストラップをぎゅっと握り締めた時――遠方で動く物に特に注意を向けていた豊は、ふと遠くの青空にチラついた光に、違和感を覚え目を凝らした。
 飛行する鳥の翼に、陽光が反射しているのか? ――否。陽光に紛れるあれは、明らかに魔力を持った不自然な炎!

「――逃げろ! 出来るだけ遠くへ、今すぐ!!」

 危機告げる声を張り、豊は夫婦を背に庇う様に前へ出た。
 即座に懐から取り出した拳銃は、世界各国の法執行機関で採用されているごく一般的な型だ。所属する公安警察で支給されたもの――しかし、豊はそれを取り出すだけで構えない。使うのは銃弾ではないからだ。
 寧ろ、銃弾を使うのは――豊の隣、ガシャン! と硬質な音を立てて長大な愛銃を構えた紗矢。

「来た道を逃げろ!!」
「紗矢ちゃん! あなた達も、一緒に――」

 危機に瀕したこんな時でも豊と紗矢を気遣ってくれる。どこまでも優しい夫婦だと、紗矢の口元が僅かに緩んだ。
 だからこそ、護りたい。しかし向かい来る炎塊は、もうはっきりと異形だと視認出来るまでに近付いている――。

「俺達は武蔵坂の関係者だ! 構わず逃げろ!!!」

 豊が再び叫ぶと同時、紗矢が構える太く長大なる蒼き金属の銃身に、バチバチと火花を散らして電撃が迸った。
 魔力装填は十分。距離も射程内、照準OK――紗矢が愛銃から解き放つは、麻痺へ誘う|雷《いかづち》と、追従し捕縛する月が如き光輪。
 ユーベルコード『|Tuono Lunare《ツキノライメイ》』。

「敵を捕捉。狙撃し捕縛する。――1体たりとも追わせない!」

 刹那、紗矢の鋭い視線と、銃口より放たれた眩いまでのエネルギーが凄まじい速さで異形――『獅炎竜ガラルグラン』を射抜いた。
 大気をひび割る様に進む電撃が、炎竜の全身を駆け巡った。のち僅かに遅れて至った光輪が、ギチリと翼ごとその身を締め付けて拘束する。

「ギェエエエエッ!!!」

 悲鳴を上げてズシン! と地へ墜ちたガラルグラン。この紗矢の攻勢で生まれた僅かな間に――夫婦は時折振り返りながらも、来た道を駆け戻っていく。
 退避するだけの時間は作れた。しかし、拘束は長く続かない。身を包む炎によって拘束の輪を灼き消したガラルグランは、紗矢への明確な敵意を持って、再び空へ舞い上がろうとする。

(「やはりあの魔炎が厄介だ。……だが」)

 未だ地に在る炎竜ガラルグランを鋭く光る金瞳で睨む豊は、道ならぬ道を疾走していた。
 魔炎に更なる魔力を注ぐ炎竜の周囲の温度は、今急激に上昇している。近付く程に頬に渇きを、背に伝う汗を感じても、豊の疾走は加速した。
 拘束こそ解けても、炎竜の身体を蝕む痺れは未だその動きを阻害している。これはまたとない好機だった。望む様に動かぬ体では、加速すら思う様にはいかぬ筈。
 それでも加速しようとすれば、その動力となる護りの魔炎はいつも通り消え去る筈。

「――見えた」

 舞い上がろうと羽ばたく刹那、炎竜が纏う炎の魔力の流れがふつりと途切れるのを、豊の金瞳は見逃さなかった。
 即座に跳躍し、空へ。高みから炎竜を見下ろし、身体を捻ってその頭上へ叩き落とすは、魔力強化した踵。
 ユーベルコード『|倥偬《コウソウ》』。

「墜ちろ」

 護りの魔炎が消えた竜の脳天に、骨も砕ける痛烈な一撃が見舞われた。
 加速上昇しようとした瞬間、何故か再び地へと墜ちた。自分の身に起こった矛盾に混乱する炎竜へと、豊は手にする鋼鉄の拳銃へ魔力を纏わせ|更なる追撃《物理で殴る》。

「ギャウッ! ギァアアアア?!!!」

 再びの脳天への一撃に、混乱極まったのだろう、慌てて身を起こしたガラルグランは、よろよろ空へ逃げ返る。
 こののちは、装甲たる炎も消えた頼りないあの背を追えば、イフリート達が巣食った灼熱の洞窟へ到る筈だ。

「……狙い通り、だな。さぁ、道案内してくれる眷属を追おう」

 ガシャン! と愛銃を再び背負った紗矢が、脅威必滅の覚悟を胸に、真っ直ぐ眷属を見つめて告げる。
 豊もその言葉に頷くと――傷一つ付かなかった拳銃を懐へ収め、軽やかに駆け出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
登山者グループに同行して行く
戦闘時に闇に紛れるならまだしも
こんな日の高い場所で潜める気もしねぇし
何よりアレスには…正面切って守る方が似合うからな
同行中は周囲の音に気を配り
素早く動けるように

おっと、さっそく来たみたいだなぁ
アレスにアイコンタクトをして前に出る
事前に決めてた通り
俺が引きつけてアレスが登山者を逃がす
テキザイテキショってやつ
…でも、ひとりじゃない
アレスの言葉が力をくれる
こんなに安心できる囮もなかなかないだろ
だから…歌い上げるは【鳥籠の反響】
さあ、こっちに集中しろよ

歌いながら暫くは回避に専念
倒しきっていいなら最初っからぶん殴りに行くんだけど
今回は、わざと逃がすから
そういう力加減はアレスのほうがうまい!
だからこそ、時間をかけてアレスを待つ
…まあ、つっても
丁寧に対応しつつもあの心配性のことだからすっ飛んでくるんだろうな
思い浮かべて口元に笑みを浮かべる
そうしてる間に…やっぱりすぐ飛んできた
そんじゃ、バッチリ決めてくれよ
手加減をって、言葉にださなくてもアレスにはわかるだろ


アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎

傍で護る為、登山者グループを発見次第同行し護衛しよう
彼らは一般の民…不安を与えないようにしなければ
礼儀礼節は忘れずに
地図で避難ルートを確認しつつ周囲の気配を探り
鷲のアルタイルにも空から警戒を

…現れたか
セリオスと視線を合わせ
登山者達を守るように盾を構え、避難を促そう
ーセリオス
(事前に決めてた事だ
それでも理想が、誓いが、感情が心を揺らす
この手は…君の手を掴みにいきたくなってしまう
けれど、)
適材適所、だろう?
それに…僕には君が、君には僕がいる
【聖域の戦歌】展開
破魔と火炎耐性を込めたオーラを彼に
“ふたり”で護り抜こう

登山者達が安全なルートへ辿り着くまで
破魔の光を結界の如く彼らに齎し
先頭はアルタイル、殿は僕が護ろう
彼らを送り届けた後は鎧を『白夜・竜騎士形態』に
光の疾さでセリオスの元へ飛ぶ

『飛龍槍』で敵を牽制、彼の前に出る
ただいま。―ああ、力加減はお任せを
炎竜を退ける盾をお見せしよう
狙うは敵が加速する瞬間
それを見切れば回避し剣からの閃光で怯ませ
シールドバッシュと同時に雷撃を放とう!



 山頂に近い山道では、強く照る陽に、闇を染めた様な黒髪にも光が散る。

「お手入れに何使ってるんです? すっごい綺麗な黒髪ですねー」
「お、そうか? サンキュ!」

 道を行く登山者達は女性4人と男性1人――否、女性側の内訳は3人の若い女性登山者と、長身でこそあるが、女性と見紛う中性的な美貌を備えたセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)。猟兵だ。
 今も、艶めく黒髪を褒められて、返した明るくも美しい微笑みで女性陣を悩殺した所である。

「ん-、でも手入れって言ってもな。別にそう特別なことは……」

 顎に指添え返答に悩む、その表情すら美しい。思索に視線が上向けば、セリオスの白く華奢な顎から首のラインが露わになり、そこにするりと一房髪が滑り落ちた。
 その一房を、白銀の籠手に包まれた大きな手が掬い上げる。

「もしかしたら、櫛じゃないか? セリオス、最近使っているあの竹の櫛、梳くと君の髪は指通りが良くなるよね」
「アレス」

 それそのものが陽光を放つかの様な美しい白金の髪に、瞳は朝陽を透く様な蒼空色。長身のセリオスよりも更に高い位置からその黒髪を取って微笑んだのはアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)だ。
 白銀の鎧の騎士もまた、逞しくありながらも極めて整った容姿だ。当人達にすれば当たり前の幼馴染の距離感と会話であったが、登山家の女性達は絵になる構図にきゃあきゃあとはしゃいでいる。
 しかし、和やかなようでいて――アレクシスの内心は、実はそう穏やかなものでもない。

(「彼らは一般の民……出来るだけ不安を与えないようにしなければ」)

 ――この後の彼女らに待つ、|理不尽《襲撃》を知っている。
 勿論、騎士の誇りに賭けて予知通りに殺させなどしない。絶対に阻止する、守る――だが、先へ進む為に選ばれた道は、敵に敢えて襲撃させた上で彼女らを守ること。
 それが最適解なのだとしても、怖い思いをさせるには違いない。

「……おいアレス。今、何考えてる?」

 生来持つ優しさから、こういった場面で少々思い悩むことがあるアレクシスの性格を熟知しているセリオスは、はしゃいでいた女性登山者達が少し落ち着き離れた頃合いで、こそりとアレクシスへ問い掛けた。
 だって優しいのだ、アレクシスは。正義感が強くて真っ直ぐで、誰かの痛みを知った時、絶対に放置出来ない――この道中だって、元々自分などよりよほど礼儀正しい|性質《たち》であるのに、女性登山者達の様子を丁寧に窺いこれ以上なく気遣っている。
 それでいて周囲警戒は怠らず、手にする地図を時々見てはその時点での最適な避難ルートを選別して、空には化神である美しい大鷲・アルタイルを解き放ち、上空から警戒する様子を度々確認したり。
 生真面目で、だから時々頑固で融通が利かなくて、でも、いつだって誰かのために必死になれるアレクシス。――その必死さが、セリオスをいつだって護り、救っている。

「いや、せめて移動中だけでも彼女達が安らかだったらいいと……」
「ああ、確かにな。……でも楽しそうだ。何たってアレスはカッコいいからな」
「それは君だろう? セリオス」
「ははッ。まぁなんにせよ、同行して良かったなアレス? ま、そもそも、戦闘時に闇に紛れるならまだしも、こんな日の高い場所で上手く潜める気もしねぇし」

 女性登山者達に聞こえぬこの密やかな会話を、セリオスは敢えて軽口を混ぜ明るい笑顔と声で告げた。
 敵を甘く見ているわけじゃない。油断しているわけでもない。ただ、|そんなに気を張らなくて良い《俺にも背負わせろ》と――和ませるための会話だが、セリオスは想いを込める。

「何よりアレスには……正面切って守る方が似合うからな!」

 頼りにしてるぜ、との言葉で締めて、セリオスはパン! と力強く白銀の鎧が覆うアレクシスの背中を叩いた。痛みこそないがその力強さに、アレクシスはふ、と|微笑《わら》う。
 思い出す。ふたりの決意の日を。互いの背中を押し、並び立ち、背を預けて。何処までも共に征こうと、誓ってふたり、此処まで来た――。

「……ん? ……おっと、さっそく来たみたいだなぁ」

 セリオスの耳が、山道の微細な変化を察知したのはその時だった。
 ずっと、周囲の音には気を配っていた。歌を得意とするセリオスは、それ故に音に敏感で耳が良い。アレクシスの背を叩いた音が存外響いたな、とより音へ意識が寄ったことで、吹く風の音の中に微かに先まで無かった風切り音が混ざっていると気付いたのだ。

「……現れたか」

 ほぼ同時に、上空高くのアルタイルも、空を旋回することで危険の察知を知らせている。襲撃が来る――確信したアレクシスがアルタイルの伝える方角へ盾を構え、女性登山者達へ後方退避を促した時。
 此方を向いたセリオスと、ぱちり、視線が重なった。

「――セリオス」

 アレクシスからのその呼び掛けには答えずに、ただセリオスはニッ、と強気に笑んで前へ駆け出した。
 事前に決めていた通りだ。敵の襲撃が来た時には、先ずセリオスが前で敵を引き付け、その間にアレクシスが登山者達を逃がす、と。これは剣たるセリオスと、盾たるアレクシスの適材適所。
 そうアレクシスも理解している。――理解はしていて、しかし、それでも。

(「それでも理想が、誓いが。感情が心を揺らす。この手は……君の手を掴みにいきたくなってしまう」)

 いつも思い立っては前へ前へ飛び出して行ってしまうあの背中を、何より護りたいと自覚している。だから、例え状況はこれが最善だと示しているのだとしても、セリオスから一時でも離れて危険に晒すという選択を、アレクシスの心が自分に許せる日はきっと一生来ない。
 セリオスの強さを信じているとかいないとかいう話ではないのだ。ただ彼の危険を遠ざけたい、手の届く所で護りたいと、これはセリオスが望む望まないを問わず、アレクシスにとっては単に自分のエゴでしかない代物だ。
 それでも、傍に居たいから追い続ける。何処までも望むまま自由に走っていく|セリオスを護り続ける強さと手段を《セリオスの盾であるために》。

「……僕には君が、君には僕がいる」

 盾を構え続ける視線の先に、次第に近付く魔力炎が見えていた。『獅炎竜ガラルグラン』、そしてそこに勇み向かうセリオスの背中もある――アレクシスは、女性登山者達の先導を空より降りて来たアルタイルに任せると、彼女らを庇う盾は維持したままに、地表へと、光り輝く巨大な魔法陣を展開した。
 広く広く、戦場から離れ行く女性登山者達、そしてセリオスの足元までも陣描く魔力線は拡大し、なおも大きく広がっていく。やがてアレクシスを中心にした金色の陣の描き始めと終わりが重なると、ふわり、と優しき光の粒が地表から沸き出でた。
 それは、場に作用する力。陣の中を、聖なる光と根源の魔力が満ちる払暁の聖域へと変化させる、アレクシスの結界の名は。
 ユーベルコード『|聖域の戦歌《ポリコス・アステラス》』。

「“ふたり”で護り抜こう――」

 退避する女性登山者達に、破魔の護りが付与された。ガラルグランへ間もなく届かんとひた走るセリオスを、同じく破魔、そして火炎に対する防護の魔力が優しく覆った。
 全身を包み込んだ温もり、そして、良く音拾う耳に届いた誰よりも優しい騎士の声に――セリオスの身体に力が宿った。ひとりじゃないと心が歓喜した。

「……こんなに安心できる囮もなかなかないだろ」

 ふっと笑いが込み上げる。テキザイテキショ、なんて役割分担したのに、登山者達を避難誘導しながら結局自分にはこんな助力も用意する、心配性なアレクシスを想った。

(「丁寧に対応しつつも、|あの心配性《アレス》のことだからすっ飛んでくるんだろうな。……それまでは、せいぜい時間をかけて|保《も》たせるさ」)

 敵を倒しきって良いのなら、最初から容赦なく全力でぶん殴りに行く、と、それがセリオスの平常運転だ。しかしこの戦いは勝手が違う。目的はガラルグランをわざと逃して、泳がせて、次の戦場への道案内をして貰うこと。
 そういう力加減なら、アレクシスの方が絶対に上手い。だからここでのセリオスは、ただひたすらに|歌い続けるだけ《アレスを待つ》。

「――よぉし、よく聴け!! さあ、こっちに集中しろよ!!!」

 今なら世界中に歌声を届けられる気がする――そんな無敵の心持ちで、セリオスが喉奥より解き放つのは、聞き手の心射抜く魅惑の旋律。
 ユーベルコード『|鳥籠の反響《エンクローズ・エコー》』。

「ギャゥウ……ウウ……!!!」

 歌声に捕えられた瞬間から、ガラルグランの鋭い視線がセリオスに固定された。
 煽られている。どうしようもなく怒りは沸きあがり、しかし逃れられもしない――上がる獣の咆哮には苛立ちが混ざっていくが、セリオスは構わず歌う。
 別に怯む必要なんてない。この時間はそう長く続かない。だって、アレクシスは絶対に――。

「……待たせたね、セリオス!!」

 信じて待っていたセリオスのよく音を拾う耳が、すぐ傍で待ち侘びた声を拾った。はは、と思わずくしゃりと破顔した時、セリオスの前には、鎧の背へ搭載したウィングとブースターによって光の疾さで駆け付けたアレクシスの背中が在った。
 手にする盾からは愛剣『赤星』が引き抜かれ、その鞘は幾分かたちを変えて銃口としての姿を見せている。

「おかえり、アレス。……やっぱりすぐ飛んできたな。そんじゃ、バッチリ決めてくれよ」
「ただいま。――ああ、力加減はお任せを」

 何を、なんて言葉にするまでもない。ただ今日一番嬉しそうに笑ったセリオスは、この間途絶えた敵を魅了する旋律を、再び世界へ解放する。
 セリオスに惹き付けられ、睨む視線を逸らせないガラルグランの視界にアレクシスが割り込んだ。それを忌々しく感じたのか、身を低く突撃姿勢を取ったガラルグランの周囲、燃ゆる魔炎が揺らいだ瞬間。

「……炎竜を退ける盾をお見せしよう」

 |加速の瞬間《この時》を待っていた――敵覆う盾が消えるや否や、前へ突撃するアレクシスの大盾にバチリと金色の電撃が奔り、ガラルグランの身体を打った。

「ギャァアアアウッ?!!」

 雷撃を纏うシールドバッシュによって、ガラルグランが遠くの空へ飛ばされていく。それを視線で追い掛けながら、アレクシスは自分の手加減が適正だったかを確認する。
 絶妙な加減の一撃となったようだ。死に至るダメージとはならず、放物線を描いて飛ばされていくガラルグランは、その飛距離が長い故に空中で体勢を整え、何とか地表落下を免れたようだ。
 そしてそのまま、何処かへ向かって飛んでいく。戦いの不利を悟ったのだろうが――それこそがこちらの狙いであるとも気付かずに。

「――よし、行こうぜアレス! こっからが本番だ!!」

 次なる戦いに意気込んで、ニィ、と勝気に笑んだセリオスは、ぱんっとアレクシスの背を叩いてから炎獣の背を目指し走り出す。
 今日も望むまま思うがままに、自由に走っていくその背中――絶対に護ると誓う騎士は、その無事に安堵すると、ただ微笑んで追い掛けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『獅炎竜ガラルグラン』

POW   :    火竜炎舞
【サイキック火炎】を纏いレベル×100km/hで疾走する。疾走中は攻撃力・回避力・受けるダメージが4倍になる。
SPD   :    炎竜塵散布
【知性を否定する「竜種の炎」】を纏ってレベル×5km/hで跳び回り、触れた物品や対象の装備を破壊、あるいは使用不能にする。
WIZ   :    パイロブラスト
【サイキック火炎】をレベルm半径内の対象1体に飛ばす。ダメージを与え、【サイキック火炎が熱を与えた】した部位の使用をレベル秒間封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●灼熱地獄
 陽が青空の頂点に達した頃。山中深く、木々の他に時折岩肌が覗く一角には、バサ、バサリと音立てながら横切る影。
 イフリート『獅炎竜ガラルグラン』――そのはぐれ個体を幾つか戦いで追い詰め、撤退する背を追い掛けた猟兵達は、一人、また一人と合流し、やがて一所に集っていた。
 ――目的の地、|イフリート《オブリビオン》が巣食った山中の洞窟の前に。

「ギャウッ、グギャアァアアアアア!!!」
「グギャァウウウウ!!!」

 しばらく互いの威でも競っていたのか、洞窟の入口で咆哮を上げながらたむろしていたガラルグラン達が、洞窟の中へ入って行く。それを全て見送ってから、猟兵達は揃って洞窟前に立った。
 前哨戦で弱らせたあれらは倒すに苦労はしないだろうが――問題は中の状況だ。
 一体この中に、どれほどの数のガラルグランが闊歩しているのか。

「……しかし、暑いな」
「まだ洞窟に入ってもいねぇんだぞ? この中どんだけ暑いんだよ……」

 入口に立っているだけだ。それなのに噴き出す額の汗を手で拭い、猟兵達はげんなりと溜息を落とす。
 この熱源ははっきりしている。洞窟の入口から――内部で温められた空気が熱風となって吹き出ているのだ。

「中にどんだけ居るんだか。でも、……やるしかねぇからな」

 一人の猟兵が、覚悟を決めて洞窟の中へと踏み出した。それに促される様に、他の猟兵達も次々と続く。
 中は――予知で聞いた通りだ。全面がただただ岩肌。
 洞窟なら本来ある筈の湿り気も植物の姿も無く、つまり薪となり得るものなど何一つ無いというのに所々で燃える炎は、明らかに魔力によって保たれているものだ。
 無数の炎が齎す明るさのお陰で、進む程に空間が広くなっていくのが解る。戦うに広さや視界で困ることはなかろうが――問題はただ一点。
 この、陽光とは全く異なる暑さだ。
 高熱化した鎧などの金属が覆う肌は籠る熱や触れた痛みを訴えるし、服など覆うものがない素肌は渇きからくる痛みを訴える。目はしきりに瞬きを繰り返し、声を出そうとすれば、喉に焼ける様な痛みを感じた。
 噴き出していた筈の汗は、今や伝い落ちる前に吹く熱風に気化して消える。……この過酷な環境下で、猟兵達は戦わねばならない。

「……ギャゥウアアアアアア!!!」

 不意に。すぐ近くにガラルグランの咆哮が上がった。
 ――感じる。今目の前に見えるあの角を曲がったら、そこにはガラルグランが居る。
 数は不明、だが一体ではない。ひとつ上がった咆哮に、まるで被せるかの様に幾つかの異なる咆哮が上がり、また更に上がりと繰り返しては、洞窟の奥の奥までわんわんと反響して騒がしい。
 そして、その反響の中で最も遠くからあがった声が――ガラルグランのものとは異なると、猟兵達は理解した。

 ……グォオオオオオオ――――…………。

 忘れてはならない。ガラルグランはあくまで眷属。最奥に居るイフリート『竜種ファフニール』の討伐までが、今日の猟兵に与えられた使命。
 全てを倒すまで終われない――今、拭う汗も消える炎の洞窟で、未だ見ぬ今日の首魁を目指し猟兵達の連戦が此処に幕を開ける。
クロッツ・エルバート
【空】
ディアの肉は柔らかいから喜んで食ってくれるんじゃねぇ?
とぼけちゃみるが、食わせやしねぇ
あんま喋んな、喉痛めんぞ
ディアの口に手で蓋して

これはこれはお揃いで
ハルバードを手に近接戦闘
捕縛や撹乱に魔影
『反転』使って能力底上げ

最低限はディアに狙いが行かねぇ様に
助力求めたのは俺だ
ディアに飛ぶ炎は全部請け負う気概
極力左手で受けて利き手や足は動かせる様に

こうも暑いとこっちの消耗も激しいだろうな
時間は掛けない意識
時々凍針使って少しでも高温緩和を狙う
そん時に苦しかろうが確り呼吸
いつでも思考はクリアにしとく
ディアを守れるように

素直に感謝して、否定せずにいてくれる
こういうとこ、勝てねぇな
なら手当てしてくれディア


ディア・セレーノ
【空】
クロッツはクロ呼び

うわぁ…こんがりお肉になっちゃいそう
でもどんな時でも憎まれ口には憎まれ口で返す
そういうクロは硬くて食べるとこ少なそ…もが
言わせろー!

ロングボウ構えて後衛に
『千里眼撃ち』で極力クロと同じ的狙い
牽制とかクロへの攻撃阻害とか
いつもじゃれあってるけどね、息が合わなきゃ出来ないんだよ!

狩れそうなら勿論狙ってくよ
アーチャーだもん、飛ぶ竜だって墜としてみせる!
痛くても苦しくても集中!

前後衛って役割分けたし、クロの方が強いし
守られないように立ち回るけど、クロは庇いに来るだろうな
昔色々あったひとだから、守ろうとしてくれるのを否定はしない
怪我をされたら心配だけどね
守ってくれてありがと、クロ



 炎光に照る肩までの白金の髪が、ふわりと柔らかく熱波に流れる。
 露わになった両頬が、暑さに渇いて少し痛い。それをぺちりと両手で押さえ、ディア・セレーノ(青天を仰ぐ・f25678)が呟く言葉は少々呑気だ。

「うわぁ……こんがりお肉になっちゃいそう」

 この厳しい環境下で出る第一声がこれなのはあまりにも逞しい。常人ならばこんがりどころでは済まない温度だ――あくまでも平常運転のディアに、やや後ろを行くクロッツ・エルバート(憧憬の黒・f28930)はふ、と小さく|微笑《わら》って言う。

「ディアの肉は柔らかいから、イフリートも喜んで食ってくれるんじゃねぇ?」

 ……憎まれ口を。浮かべたのは勝ち誇った様な笑みだが、ディアに向ける視線は優しく、求めた戦いへの助力に応じてくれた彼女への感謝と労りに満ちていた。
 もっとも、言われて初めて振り向いたディアに、その柔らかな視線は届かない。少しむくれた様子で蒼穹の瞳を細めたディアは、憎まれ口には憎まれ口で返す|性質《たち》だ。

「そういうクロは硬くて食べるとこ少なそ……もが」
「あんま喋んな、喉痛めんぞ」
「言わせろー! このー!」

 知っているから、クロッツはしれっとディアの口元に手で蓋をする。その手を剥がして憤慨するディア、このくらいは二人のいつものじゃれ合いだ。
 しかし、クロッツの返しは単にとぼけただけでもない。手に触れたディアの乾いた唇も、熱刺激に赤みを帯びた頬も、渇きにか掠れて聞こえた声も――どうにかなる前に守りきる、喰わせやしない、と。軽口の中に強い決意が潜んでいた。
 ディアの前を過ぎ、剝がされた右手を真横に振る。瞬間その手に顕現したのは、黒鋼が銀河を乗せたように輝く美しいハルバード。

「……これはこれは、お揃いで」

 クロッツの鳶色の瞳が、視界に紅の鱗肌を収めてすうと冷たく細められた。
 数を数えようとして放棄する。巨体の奥にまた巨体。洞窟自体も道が折れ曲がり先まで見通せるわけでもなく、恐らくまだまだ|先がある《奥にいる》。

「援護するよ! クロ、くれぐれも気をつけてね!」

 炎竜目指して駆け出すクロッツの後方で、ディアがロングボウを構えた。
 矢を番えて引き絞り、真っ直ぐ背筋を伸ばして維持。目標はクロッツと同じ|的《敵》。
 視線がぶれることは無い。開戦の狼煙となる一矢が狙うは――空舞うための翼の付根だ。

「アーチャーだもん、飛ぶ竜だって墜としてみせる!」

 自分を鼓舞する声を上げ、ディアの蒼い魔力が覆う矢が炎竜目掛けて空を翔けた。
 ユーベルコード『千里眼射ち』。後方からひゅん、と風切る音が鳴ると同時、クロッツの長い耳がふるりと揺れ、炎竜の前で視線誘う様にハルバードが空を切った。
 平時ならもっとスマートに振るう刃。敢えて大きく振り被れば、炎竜の視線がクロッツに向いて――直後。

「――グギャアァアアア!!!」

 ドス! と鈍い刺突音は、ディアの一矢が狙い通りに竜翼の付根を穿った音だ。引き付けをクロッツが担ったこの連携の一撃に、ディアは得意げに告げる。

「私達いつもじゃれあってるけどね、それも息が合わなきゃ出来ないんだよ!」

 晴天の陽の様な明るい笑顔だ。しかし一体の炎竜の上げた悲鳴は窟内にわんわんとこだまして、奥の炎竜達にも|敵性生物《猟兵達》の存在を知らしめた。
 蠢く複数の気配を音で察知し、クロッツは舌打ちする。

(「こうも暑いとこっちの消耗も激しいだろうな……一体毎に時間は掛けられねぇ」)

 怒りに震える目の前の『獅炎竜ガラルグラン』。近付く程に肌は高温を知覚するが、それで引き|退《さ》がれない理由がある。
 刃を先ず下から真上へ一閃。次いで上から斜めに振り下ろし――二撃打って、竜鱗の堅さにまた舌打ち。

「そう簡単にはいかねーか……なら、『不運、暗雲、全部吹き飛ばしてやるよ』!!」

 ユーベルコード『|反転《クロス)》』――クロッツの全身に、戦力差を覆すための強大な魔力が迸った。
 振り下ろしからの横薙ぎ。この魔力を纏った一閃は、炎竜の鱗を突き抜け前肢二本から肩にかけてを斬り裂いた。

「ギャゥウウウウ!!!」

 上がる悲鳴にも手応えを感じ、もう一閃同じ所へ刃を返そうとした時――周囲の温度が更に上がったと気付いて、クロッツは熱源を見上げる。
 炎竜のその視線。口吻に魔力を集め、解き放つ高温の一撃で狙っているのは――ディアだ。

「! ディア!!!」

 ディアに降り掛かる火の粉は、全て請け負う気概だった。それが最低限と心得ていた、だから――『パイロブラスト』。口吻からの魔炎弾が解き放たれた瞬間に、咄嗟に射線に割り込んだクロッツの左腕が炎を受けて爆発した。

「クロ!!!!!」
「……っ、大丈夫だ、集中しろ!!」

 次なる矢を番えていたディアの悲鳴と、激しい熱波とが窟内に拡がる。しかし、クロッツが岩肌に叩き付けられながらもその無事を知らせたことで、ディアは今は駆け付けるよりも追撃を許すまいと、矢の狙いを再び炎竜に定める。
 自分が狙われているとは気付いていた。クロッツが庇いに来るだろうことも。彼にそうさせる彼の過去を、ディアは既に知っている。

(「だから、守ろうとしてくれるのを否定はしない。前後衛って役割分けたし、クロの方が強いし」)

 守られないように立ち回りたかったが、敵の数が多い以上、それにも限界はある。
 だからこそ、牽制や攻撃阻害によってクロッツの支援をと思っていたが。

「……否定はしないけど、ぜんぶ請け負わなくてもいいのにね」

 誰に聞かせるでもなく呟き、弓引く構えを維持する最中にすう、と息を深く吸い込んだ。
 開戦前より熱い大気が、喉を、気管支を、肺までをも灼く。じり、と胸が苦しく、痛くなった――そう、この痛みを過酷な戦場のせいにして、ディアは矢に蒼く輝く魔力を込める。
 牽制じゃない。阻害でもない。|猟兵《アーチャー》として狩るために。

「……喉痛めるって言っただろ」

 その集中の最中ににふと、ケホ、と乾いた咳混じりの低い声が耳に届いた。刹那、狙う炎竜の周囲に無数の光輝く刃が現れ、一斉に包囲殺到した。
 灼熱の窟内に一瞬、ほんのわずかに冷気が漂う。一瞬呼吸が楽になった。その理由は。
 クロッツのユーベルコード『|凍針《アイスエッジ》』――ディアの負担和らげるための、魔力で編まれた氷の刃。

「……言わせてよ。守ってくれてありがと、クロ。……怪我をされたら心配だけどね」

 その優しさを受け取って、ディアが告げるのは素直な感謝と正直な思い。
 思い乗せて解き放った矢は、炎竜の眉間を穿った。急所だったか、ズシン、と地響きを立てて倒れた炎竜を見つめながら――クロッツは思わずはは、と|微笑《わら》った。

(「こういうとこ、勝てねぇな」)

 これもまた、守りたい理由。炎に包まれた左腕は今動かないが、敢えて残した利き手である右手に『|Sternennacht《ハルバード》』を掴むと、クロッツは立ち上がった。

「なら、戦いが終わったら手当てしてくれ、ディア」

 いつも通りの憎まれ口を返して。|微笑《わら》うクロッツは未だ終わりの見えぬ戦線へと、無事を誓って舞い戻る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

有城・雄哉
【WIZ】
単独希望
アドリブ大歓迎

…暑い、いや…熱いな
下手に息をしたら、肺が焼かれてしまいそうだ
できるだけ速攻で、終わらせるしかないな

ガラルグランの群れから少し離れた場所でメリケンサックを拳に握り込みながら指定UC発動
群れに目を凝らし観察し、死の永劫点を見極めよう
できるだけ早く見極めたくも、どうしてもある程度時間はかかる
この熱気では、ただ観察しているだけでも消耗するが…我慢するしかない
まだ、ライダースーツで全身覆っているからましだが…

見極めたらダッシュで一気に接敵
パイロブラストは軌道を見切りながら直撃を避けるべく回避し
死の永劫点向かって真っすぐ拳を突き出し、痛打を与える!
ここは…通してもらう!



「……暑い、いや……熱いな」

 より温度を増した窟内に在って、|有城《うしろ》・|雄哉《ゆうや》(蒼穹の守護者・f43828)は汗が頬を伝う感触に、無意識、|顎下《がくか》を手の甲で拭った。
 習慣とは恐ろしいものだ。拭ったところで炎熱によって既にそこに汗は無いことを、頭で理解していても身体は反応してしまう――気付いて、雄哉がふる、と軽く頭を振ったのは、酸素不足で鈍る思考を平静へと戻すためだ。

(「灼熱地獄、か。……下手に息をしたら、肺が焼かれてしまいそうだ」)

 |灼滅者《猟兵》である雄哉が、この環境を原因に死ぬことは無いにしても、不都合が無いわけでもない。何しろ、思考を柔軟に回すための深呼吸もままならない。
 それでも、は、と軽めに息を吐き、雄哉は静けさを体現したかの様な蒼い瞳をそっと閉ざした。
 心を落ち着かせるために。その間も耳に届くのは、爆ぜる焔、反響する獣達の咆哮、戦う|猟兵《仲間》達の声――。

「――できるだけ速攻で、終わらせるしかないな」

 呟く刹那、長い漆黒の睫毛の下から覗いた雄哉の瞳が、魔力帯び金色に輝いた。
 目を凝らす。その視線の先には二人の|猟兵《仲間》の姿がある。前衛が対峙する『獅炎竜ガラルグラン』の視線を誘導するに合わせ、後衛が矢を確実に命中させる。連携の取れた見事な戦いぶりだ。
 だが、その奥に――|敵性生物《二人》の存在に気付いて向かわんとしている|もう一体《新手の獣》。二人の負担を考えても、先ず雄哉が狙うべきはあの獣だが。

(「どうしても、ある程度時間はかかる。せめて、できるだけ早く……!」)

 ぎり、と強く握り込んだ金属製のメリケンサックは、周囲の高温を吸ってかなりの高熱を帯びていた。雄哉は即座に魔力を流すと、その熱を強引に外へ押し出す。
 ……熱い。黒いライダースーツで全身を覆う分、幾分ましなのかもしれないが――こうして動かずいる自分が少しずつ消耗している現実。まるで洞窟そのものが、猟兵達の敵に回ったかの様だ。
 しかし、今集中は乱せない。敢えて戦線から引いた場所でガラルグランを観察する雄哉は、この極限の環境下でも冷静さを失ってはいなかった。
 肉体くらい制御できなくては。一時仲間へ戦いを預けてでも、あの脅威の息の根を止める|死の永劫点《ホロウ・デス・ポイント》を探る――それこそが、今雄哉の金瞳が帯びる力。
 ユーベルコード『殲術執刀法』。

「――見つけた」

 魔力が覆う雄哉の視界で、獣の巨躯、そのある一点が突如金色に明滅した。それは他の猟兵にも、ガラルグラン本人にすら見えない|死の永劫点《ウィークポイント》。
 雄哉は身を低くして大地を蹴った。

「ギャゥゥアアア!!!」

 人ならざる速度で迫る雄哉に、ガラルグランは威嚇とばかりに獰猛なる咆哮を上げた。
 頭が高くなる様上体を起こし、周辺温度も上がっている――そして獣の口腔内には、高濃度の魔力集積。
 あれは先ほど観察中に仲間を岩壁へ叩き付けた……『パイロブラスト』か!

「ただ見ていただけと思うか! 甘く見るな!!」

 大きく開いたガラルグランの口から、濃縮された炎塊が凄まじい速度で放たれた。しかし軌道を見極めた雄哉は、駆ける足を止めることなく着弾ギリギリまで誘って回避する。
 躱して、その足でガラルグランの懐へと飛び込むと、真っ直ぐに拳を突き上げた。
 この獣の死の永劫点――下顎下へ。

「ここは……通してもらう!!」

 高温の鱗肌などものともせずに。先まで瞳に注ぎ込んでいた魔力も全てを拳へ回し、打ち込んだその渾身の一撃は――顎骨から頸骨までをも粉砕しながら巨躯を空高く打ち上げる。
 まだまだ、窟内に獣は無数。しかし――ズシン! 窟内全土を震わせて地へと墜ちた一体のガラルグランは、二度と動くことのないまま、炎と化して消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

英・林檎
アドリブOK

イフリートか…君達はちょーっとときめかないなぁ〜
四脚の生き物は広い範囲で好きだと思っていたけど、人に仇なす時点でアウトもアウト
アタシのグーパンお見舞いしてやるんだから

当然ながら暑さで消耗が早い
長丁場になれば敵の思うツボだ
体力配分に注意して立回る
壁だって敵の背だって足場にしよう
怪我するのは慣れっこだから耐えるとして、この戦力差ぁ…
脚はっや!攻撃重ッ!
いいねェいいねェ、逆に燃えてきたッ
熱波の中自然と声量も増して傷口の血液から発火し威嚇
一瞬でも怯めばいい。その一瞬に鋼鉄拳2倍で叩き込む
ははッ、炎を纏えるのはアンタ達だけじゃないんだよ?
リミットブレイクで踏み込んで踏み込んで拳を当てに行くよ


倉槌・緋那
連携&アドリブ歓迎
「今の実力でどこまで通じるかはわかりませんが」
些少なりとも味方の力になれるよう全力を尽くします。
「あのブレイズゲート……天武無双会の地下で戦った時とはまるで別物ですね」
真正面からぶつかれる実力はまだないと見てまずは目立たないようにし、敵の注意がこちらへ向いていない時などに指定UCとティアーズリッパーを併用することで殺気を隠れ蓑に急襲し、味方が乗じることの出来る隙を作ることを試みます。
「今です、攻撃を」
敵の攻撃は見切りって可能なら回避、無理でもオーラで防御しつつ火炎耐性をもって耐えます。
「やはり、一筋縄ではいきませんか」
「これでも眷属なのですね」



 洞窟の荒れた岩肌を揺るがす振動が、|猟兵達《仲間》も戦っていることを絶えず教えてくれている。
 その心強さを糧にして、|倉槌《くらつち》・|緋那《ひな》(ダンピールの殺人鬼・f43880)も炎の戦場を舞っていた。手には緋那の細く長い手足の様にすらりと伸びた日本刀。
 刀身が、迫り来る魔炎を映して鋭い光を放っている。

「……斬り伏せます」

 言うなり飛来する炎塊を、振り下ろした日本刀で両断する。直後、別方向からまた炎塊。即座に軌道を計算して回避する緋那の足は、炎の獣――獅炎竜ガラルグラン達から少々距離を置いた所へ、とっ、と微かな音で降りた。

(「あのブレイズゲート……天武無双会の地下で戦った時とはまるで別物ですね」)

 大樹の様な深茶の瞳をわずかに細め、見つめる獣に今緋那が思うは、過去、灼滅者として重ねた戦い。その中に知るガラルグランだ。
 姿かたちは同じでも、その強さに性質、攻撃手段、ここまで違いが出るものか。|復活ダークネス《オブリビオン》――これがどういうものであるのかは、緋那とてこの戦いの前に正しく把握してきたつもりだ。
 しかし、頭では理解出来ても、過去との乖離が緋那に迷いを与えるのも事実だった。
 勿論、この誤差は今後猟兵としての戦いを重ねることで必ず埋められる筈のもの。だが、今日に限っては緋那から自信を奪っていた。冷静故に、今の自分に真正面から|あの敵《ガラルグラン》とぶつかれる実力はまだない、と。
 ……だからこそ、思う。

「イフリートか……君達はちょーっとときめかないなぁ〜」

 一旦退いた緋那の後を引き受けたかの様に。いや、そもそも開戦より二体の炎獣を相手に言葉で、拳で果敢に攻める|英《はなぶさ》・|林檎《りんご》(烈果・f44114)の何と頼もしいことか。
 この灼熱の戦場では相当熱いであろう金属製のメリケンサックを握りしめ、林檎は獣の高熱の鱗などお構いなしに蹴って、蹴って、殴って、殴る!

「四脚の生き物は広い範囲で好きだと思っていたけど、人に仇なす時点でアウトもアウト! ――アタシのグーパンお見舞いしてやるんだから!!」

 赤く塗って綺麗に整えている爪は拳の中に握り込み、ガラルグランの前肢関節部を後ろから思い切り殴る。かくん、と折れて倒れ込んでしまえばいいと思った。だが、太い脚はびくともしない。
 即座、林檎はガラルグランの四肢が支える胴の下をスライディングですり抜けた。同じ場所に留まるのは危険と、|格闘家《ストリートファイター》の勘が告げたからだ。
 その予測は当たる。林檎が抜けた直後、もう一体のガラルグランが林檎を押し潰そうとしたのか地面目掛け突撃してきたのだ。

「痛っ……え、うっわ、今の避けらんないか。脚はっや! 攻撃重ッ!」

 すり抜けの最中に、左上腕に鋭い痛みを感じて見遣れば、林檎の白い肌が赤く焼け爛れていた。恐らくは突撃してきたガラルグランの纏う火炎に接触してしまったのだろう――声に乗せた通りだ、これは相手の恐るべき速さに林檎が対応しきれなかった故。
 そして、もう一つの要因も、林檎は正しく把握していた。

(「……暑さで消耗が早い。長丁場になれば敵の思うツボだ」)

 初めから|理解《わか》っていたから、林檎は初手からフルスロットルだった。長期戦にはしないために。故に消耗している自覚はある。
 今の回避も、恐らく開戦直後であれば問題なく躱せていた筈だ。自覚したなら、――終わらせなくては。ガラルグランは、今相手取る二体以外にも洞窟内にまだまだ居るのだから。

「この戦力差ぁ……いいねェいいねェ、逆に燃えてきたッ!!!」

 喉が灼けたって林檎は吼える。声量は寧ろ次第に大きくなっており、乾いてカラカラの口内は、唇を閉ざす度に唾液で潤そうと必死だ。
 まさしく、全身で戦っている。再び炎獣目掛けて駆け出す林檎の――そのひたむきさに応えたくて、緋那の体も自然と動いた。

「……今の実力でどこまで通じるかはわかりませんが」

 日本刀を、かちん、と一度鞘へ納める。敵へ抜刀術を繰り出そうというわけではないけれど、戦いへ再び動き出そうという今、起点にはちょうど良いと思った。
 心静かに、深茶の瞳を灰色の長い睫毛で隠す。今、ガラルグランの意識は全て林檎へ向いており、完全に緋那は狙いの外だ。偶然戦場・標的を同じくして、引き付け動き回ることと目立たぬ様立ち回るという点で、林檎と緋那は嚙み合っていた。
 つまり、今林檎は大立ち回りによって緋那が攻め入る隙を作ってくれている――ならば、それに乗じて会心の一手を。かつ、|味方《林檎》も乗じることの出来る、敵の隙を作らなければ。

「些少なりとも味方の力になれるよう、全力を尽くします」

 呟く刹那、熱気に揺らめく窟内の空気に、ふわりとどす黒い気が浮かび上がった。
 次第に濃度を増していくそれは、窟内にいくつも燃え盛る魔炎と同様、魔力で生み出されたものだ。大気中に拡散した緋那の魔力の具現化。獲物を必ず仕留めんとする殺人者の黒き殺気。
 ユーベルコード『鏖殺領域』。

「いざ」

 呟くが早いか、緋那の姿がその場から消え去った。戦場に無数の殺気を残して――否、黒き殺気を隠れ蓑に、彼女の最速で戦場を駆けたのだ。
 黒く黒く深く、視界を埋めて身を覆っていく黒い靄に、ガラルグランは何故だか不安と危険を感じて動きを止めた。

「グギャァアアアアゥゥ!!!」

 バサバサ、と背に負う巨翼を羽ばたかせれば、その翼が纏う炎に触れた殺気は魔力相殺されてか少しずつ消えていく。
 ――しかし、それが何だという。

「守りを固めようとも無駄なことだ」

 薄ら消えゆく己が殺気が全て消え去ってしまう前に。殺気の内より突如間合いへ飛び込んできた緋那に、ガラルグランは対応出来ない。
 そのまま日本刀を獣の鱗に滑らす様に振るった緋那は、とっ、と微かな音で地へ降りると、再び黒靄の中へと消える。
 ユーベルコード『ティアーズリッパー』だ。

(「……やはり、一筋縄ではいきませんか」)

 この一撃では仕留めきれない。しかし、一寸遅れて獣の鱗肌からは日本刀の太刀筋通りに激しく血と炎が噴き出した。
 あと一撃入れれば決まる――確信して、緋那は一瞬潜む殺気から飛び出すと、林檎へと声を張る。

「――今です、攻撃を!!」

 この一体は必ず仕留める。だから、もう一体を――再び殺気の中へと消えた緋那の思いは、かくして林檎に無事届いた。
 緋那を信じて浮かべた強気の笑みで、林檎が放つは挑発の声。

「タイマンだ! 来な!!」

 緋那とは別の、もう一体のガラルグランへ標的を絞って向き直る。正に|果実《リンゴ》の様な真っ赤な林檎の瞳が映したのは、嚙みつかんと大口を開けて迫る炎獣の無数の鋭牙。
 そこに、――ガボン! 噛みつかれる刹那、林檎はそのまま左の拳を突き入れた。

「グッ!? ギャゥゥアアアアアア!??」
「……くっ……」

 喉突き上げる一撃に、悲鳴を上げたいのは此方も同じ。牙に肌を食い破られる激痛と、破られたそばから傷を焼かれる激痛とが、林檎の左腕を襲っていた。
 しかし何のこれしき。歯を食いしばっても耐えるのは、この傷こそが今日の林檎のとっておきだからだ。
 焼ける傷口の隙間から、ぶわりと炎が溢れ出た。

「――ははッ、炎を纏えるのはアンタ達だけじゃないんだよ!!」

 |威嚇の炎《ファイアブラッド》――口吻から溢れ出てみるみる自分を取り巻く己が炎とは異なる熱に、炎獣は混乱した。
 思わず緩んだ獣の牙から即座に左腕を引っこ抜いた林檎は、その大きな隙を逃さず一歩踏み込み、右手に硬化の魔力を纏わせ顎下へ叩き込んだ。
 ユーベルコード『鋼鉄拳』。顎骨を砕き、頭蓋にまで至って脳を揺らす強い衝撃に、炎獣は意識を失いながら天面近くまで飛ばされる――。

「……うっし。少し休んで、次!!」

 こきり、と首を鳴らして林檎がそう宣言すると。間もなく――ズシン! 打ち上げた炎獣が地へ墜ちる。
 そしてもう一つ――ズシン! 間を置かず、地を揺らす音が窟内に響いた時、振り向いた林檎の瞳には。
 地へ崩れ落ちた炎獣。やがて炎と化して消えゆくそれを、見送る緋那の勝利の微笑みが映っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
いつも通り口を開こうとした所でアレスの静止
…コレが最後の戦闘じゃねえなら
言わんとしてることはわかる
今回だけは大人しくサポートに回るとすっか

何時も程は走り回れないからアレスの前には出ず
敵の死角から光閃を飛ばす
相手の注意力をそぐように
進路を妨害して攻撃の方向性を絞るように
アレスが戦いやすいように
毎度、臨機応変にこういうことしてるアレスの凄さがわかるな
派手に暴れるのの100倍大変だ

赤い炎がアレスに向かってるのを見て思わず口を開く
大人しくのつもりだったけど
ここぞって瞬間くらい一緒に戦わねえと嘘だろ
正直くっそ痛ぇけど
【赤星の盟約】、歌も想いも途切れさせねえ
さあ、ばっちり決めてくれよ…!


アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎

今は歌声を温存するようにとセリオスに手で示す
道を切り開く役目、どうかこの盾に
脚鎧に光を充填し
前へ

鎧が僕を焼こうとも耐え
存在を示し敵を惹きつけよう
其処を通してもらおう!
剣で『光閃』を放ち先制し
周囲へ放つ光閃を交えた剣戟を
氷属性纏う盾で弾き
熱も鎮めさせよう
上空から雷属性を降らせ翼へ麻痺を狙う
援護をくれる彼に意識を向ける隙など与えさせない!

火炎の気配を見切れば
セリオスには絶対通さないと庇い盾を構え…
…歌声に息を呑んだ
君は無茶を…!
胸が痛くて
…伝わる想いに熱くなる
―今は君の歌と一緒に
前へ!
【聖護の盾】
火炎を相殺できれば
光の剣で全て叩き斬る!

(…次へ征く前に
ありがとうの言葉と手当てを)



 ちり、と肌焦がす炎が舞う。
 乾いた熱風が荒れ狂う、そんな中で闇纏う長い黒髪を後ろに払ったセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)は、眼前に手を差し出すと、そこに青く仄光る魔力を灯した。
 横に長く集まった光を掴めば、光の中から顕現したのは純白の剣だ。愛剣・双星宵闇『青星』――ひゅる、と手慣れた動作でそれを取り回し、セリオスはニッと勝気な笑みを浮かべた。
 星空を綴じた青瞳には今、前方、灼熱の戦場で既に戦う|仲間《猟兵》達が映っている。さぁ、ここからが真骨頂。シンフォニアたる己の歌声を、獣声の反響が騒がしいこの戦場中に響かせよう――。
 心のまま、いつもの様に息を吸いかけたその時、突如セリオスの視界に影が降りた。

(「君の声には、この後頑張って貰わなければならないから。……道を切り開く役目は、どうかこの盾に」)

 立ち塞がったのは、青い外套が覆うアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)の広い背中。
 蒼穹の視線だけを此方へ向ける横顔、そして立ち塞がると同時に真横へ道遮る様に翳した手でも、暗にアレクシスは告げていた。「喉を、歌声を温存して欲しい」――いつもならはっきり言葉で告げてくれただろうが、今は敢えて言葉を発しないからこそ、却ってその真意が伝わる。
 この喉をも焼く灼熱の戦場下、アレクシスもまた、極力発語を抑えることで消耗を回避しているのだ。これより対峙する『獅炎竜ガラルグラン』とてそう侮れるものではないが、それでも、この戦いの先には本日の首魁が待っている。
 これが最後の戦闘ではない。……ならば必ず、今日この先でセリオスの歌声は必要となる筈だから。

(「……言わんとしてることは、わかる」)

 幾分勢いを削がれたセリオスの様子に伝わったと察したか、晴れた夏空の様な澄んだ蒼穹の瞳はふい、とそのまま背を向ける。
 しかし、見えなくてもセリオスには|理解《わか》った。今、目の前に居る|青空と白光の騎士《アレクシス》が、翔び立たんと大翼を広げるガラルグランを真っ直ぐに見つめていることを。

(「今回だけは、大人しくサポートに回るとすっか」)

 頼りにされている。必要とされていると思った。しかしセリオスがその意に沿おうとすれば、最前線に行くことは出来ない。
 強い呼吸することも叶わず、何時も程は走り回れない。

(「だが君の分まで、僕が請け負う」)

 強い決意のアレクシスの全身に、青い魔力が迸った。それは一斉に白銀の脚鎧へと流れ込み、次の瞬間、踏み出す一歩に爆発的な加速を齎した。
 ドン! 窟内を覆う岩肌を足底で叩き、アレクシスの体はその一歩だけで空舞う直前の炎竜へと肉薄した。

「其処を通してもらおう!」

 飛行を阻止すべく炎竜の翼の根本を、『赤星』の白銀の剣身で斬り上げる。同時に強く声を張れば、よく通る精悍なアレクシスの声が響いたが、返しの吸気を入れただけで口内と喉に痛みを感じた。
 ……熱い。炎竜へと近づく程に周囲温度がぐんと上がるのを、身体覆う鎧で頓に感じている。金属性の鎧が熱伝導によって高熱を帯び、肌を焼いているのだ。
 握る盾に冷気を纏いその熱を鎮めながら、それでも絶えず生じる痛みに、しかしアレクシスは耐えた。
 盾となる。何者が相手であろうとも、存在を示し惹きつける。
 ……剣である筈のセリオスが、いつも歌でそうする様に。

(「アレスを、援護してぇけど……!」)

 一方、その背中を絶えず|瞳《め》で追って、セリオスも極力は敵死角から純白剣による光閃を飛ばしている。
 相手の注意力を削ぐように。進路を妨害して攻撃の方向性を絞るように。すべてはアレクシスをフォローし、彼が戦いやすい環境を維持するためだ。

(「毎度、臨機応変にこういうことしてるアレスの凄さがわかるな。……派手に暴れるのの100倍大変だ」)

 自分は剣で、アレクシスが盾。それが互いの当たり前になったくらいには共に戦ってきたこれまで。
 しかし、今は攻守共にアレクシスが担っている。先ほどからセリオスが放つのは、ただただ牽制の光閃――いわば安全圏からの遠距離斬撃のみ。
 ……剣なのだ。自分は。それなのに今、盾よりも相手を追い詰められていない。

「……!? アレス……っ」

 その時――不意に。星空を綴じた青瞳が、炎竜の閉じられた口吻から漏れ出る強い炎の光を捉えた。
 アレクシスは今、鎧の背に搭載したウィングによって炎竜よりも高く翔け、振り下ろした双星暁光『赤星』から竜翼目掛けて空割る|雷《いかづち》を降らせた所だ。
 上空故に、気付いていない。炎竜の獰猛なる金瞳が、密かに口内に溜めた魔炎弾によってアレクシスを撃墜しようとしていることに。

「……っ、くそっ!」

 咄嗟に純白剣を振り、光の斬撃を無数飛ばした。此方を見ろ、此方を狙え、ああ、いつもなら歌で視線を縫い留めるのに、と――焦りから小さく声を漏らせば、直後の吸気にひゅっと口内を灼熱が満たし、痛みと渇きを知覚する。

「……グギャアァアアアアア!!!!」

 着弾し煙が上がれば、炎竜の怒りの咆哮がわんわんと窟内に響いた。無数、しかも突然の斬撃がそうとう煩わしかったのだろう、もうもうと立ち込めていた煙が晴れると、炎竜の視線がぎろりとセリオスを捉えた。
 かぱ、とセリオスへ向けて竜の大口が開かれる。大きく育った魔炎弾が見えて、しかしセリオスは嗤った。
 ああ、そうだ。それでいい。そのまま|こっちを狙え《いつも通りに》――。

「そうはさせない!!」

 しかしその時、炎竜の頭上より白く輝く無数の斬撃が炎竜へどっと押し寄せた。セリオスを向き、着地を決めたアレクシス――即座に炎竜へ向き直ると、光閃放った『赤星』を下げ、構えるは白光放つ大楯。

「セリオスには絶対通さない!!」

 先に放った光閃によって生じた煙に視界不良、しかしその煙中に強い熱源を察知して、アレクシスは身構えた。
 魔炎弾が来る――思えば、大楯構える手にぎゅっと力が籠った。必ず防ぎきってみせる。思うほど体には力が入って、熱源を見つめる目は鋭くなっていく。
 ――その時。

「……『星に願い、鳥は囀ずる。いと輝ける星よ、その煌めきを彼の人に――』」

 どくん、と鼓動がアレクシスの胸を打った。幾度と聞いた旋律が、少しだけ掠れた声で戦場へ響き渡って、息を吞んだ。
 郷愁と鼓舞の力――それは、セリオスの歌声に込められた特別な力。
 ユーベルコード『|赤星の盟約《オース・オブ・ナイト》』。

「君は無茶を……!」

 けほ、と自身も微かに咳き込みながら、アレクシスは表情を切なく歪ませた。
 だがセリオスに迷いはなかった。だってアレクシスに向かう炎塊を見た瞬間、閉ざしていた唇が自然に動き出したのだ。

(「大人しくのつもりだったけど、ここぞって瞬間くらい一緒に戦わねえと嘘だろ。……正直くっそ痛ぇけど」)

 歌うほど、息吸うほどに喉が灼ける。音が掠れて、人より良い自分の耳では正しい旋律を刻めていないと明らかで、それが悔しくもあった。それでも、セリオスは歌を止めない。止まらない。
 だって、歌うのが|俺の本懐《シンフォニア》。

「歌も想いも途切れさせねえ! さあアレス! ばっちり決めてくれよ……!」

 間奏部を利用し、この戦いで初めて声を張ったセリオスに、応えるべくアレクシスは、構える大楯にこの日最大の魔力を注いだ。

(「僕がどんなに止めたとしても、絶対に君は歌うと思った」)

 胸が痛い。思いがけないようでいて、結局人の好いセリオスは歌うことを止められないと、アレクシスは知っていた。

(「……僕を盾だと認めながらも、君は剣になることで、結果誰かの盾になっている。助ける、守ると決めたもののための傷を厭わない、君は」)

 セリオスがされるがままを耐えた|永い時間《過去》は、足を止めることを決して彼に許さない。無力であることの痛みを知っている彼は、何度だって、いつまでだって歌い続けるだろう――。

「――今は君の歌と一緒に、……前へ!」

 だから、共に行く。あの頃には果たせなかった。でも、今なら共に何処までだって向かって行けると、その思いはセリオスの歌声からも伝わってきて、アレクシスの胸は熱くなる。

「――『星を護りし夜明けの聖光、彼の者を守護せし盾となれ』!!」

 叫ぶ瞬間、大楯より放たれた聖光が、巨大なる障壁を成した。
 ユーベルコード『|聖護の盾《スタブロス・トゥ・ノトゥ》』――煙を抜けて姿を見せた巨大な魔炎弾が、アレクシスの目の前、眩く輝く障壁へぶつかった。
 だが、爆発も音も風もない。障壁は衝撃も熱も何もかもを相殺すると、その役目を終えたとばかり、すぅ、と柔らかく消えていく。まるで何事もなかったかのようだ。
 そして、火炎を打ち消すことが出来たのならば――アレクシスの判断は早かった。
 炎竜が気付いた時、騎士は既に頭上に居た。

「全て叩き切る!!」

 直上より、真っ直ぐと。白銀の剣身は地に垂直に、炎竜の額から振り下ろされる。

「グギャッ……ギャァアアアア……!!!」

 アレクシスが再び地へと降りた時。二つへ分かたれた炎の竜は、ズン! と音立て左右へ倒れ、炎と化して消えていく。

「……ありがとう、セリオス」

 共に在るから、強くなれる。相棒への感謝でこの戦いを終えた騎士は、セリオスの元へと急いだ。
 次なる戦いへ赴く前に互いの傷を癒すべく――先を見つめる二人は今、一時戦線を離脱する。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シェラ・イル
アドリブ歓迎
『』:使い魔ザミエルの台詞

_

……肌が焼け付くような痛み
『お前、肌少し弱えもんなあ』
喉も肺も焼けるようで、胸中にて溜息を吐く
『次回は冬に来てほしいもンだなぁ。ほら、前に任務で行ったろ。大陸北部のクッソ寒い、雪と氷しかねえあの大地みてえな』
「オブリビオンなので、次回があっても困るんですよ」
敵の攻撃を避け
空中にて翻し、音もなく着地
重ね合わせた魔弾術式を展開する
刹那迫る敵の炎

『こんだけ的がありゃあ、やりがいもあるってもンだ。だろう、相棒?』

同時、──放つ
穿ち、壊し、銀の星が無情に奔る

「別に、いつもと同じです」
『お前さあ〜』
軽口をいなしながら
頬に落ちた横髪を掬って耳に掛けて



 ――肌が、焼け付く様に痛い。

「『お前、肌少し弱えもんなあ』」

 声に出さず、表情にもそう簡単に感情は出ないというのに――使い魔ザミエルに不快な痛みへの不満を見透かされ、シェラ・イル(Dec.・f43722)は胸中で溜息を落とした。
 この洞窟へ踏み込んで以来、まるで滞在を許さぬ様な熱と渇きに襲われている。シェラの生来色素の薄い白肌は勿論、ただ息を吸い込むだけで喉も肺も焼ける様だ。
 猟兵という|優位《アドバンテージ》がなければ滞在どころか生存も出来ないこの過酷な環境に、|黒猫《仮》の姿を取るザミエルは、気軽に|希望《要望》の声を上げるけれど。

「『次回は冬に来てほしいもンだなぁ。ほら、前に任務で行ったろ。大陸北部のクッソ寒い、雪と氷しかねえあの大地みてえな』」
「オブリビオンなので、次回があっても困るんですよ」

 そう、時期が良ければいいという話ではない。シェラとて何度来ても倒すことに否やは無いが、何度も来られてその全てで何ら被害なく終われるほど、オブリビオンは甘くはないのだ。
 だから、今日も油断なく――シェラはこのどこか気の抜ける様な使い魔との会話の最中にも、反応してみせるのだ。

「グギャァアアアア!!」

 突如空より飛来した『獅炎竜ガラルグラン』の炎纏う突撃を、まるで知っていたかの様にシェラはふわりと跳ねて回避した。
 肩には漆黒のザミエルを乗せて。空中で身を翻せば、星を閉じ込めた様に光が散る闇色の外套もひらりと踊るように舞った。
 そしてその踊る外套の中より抜かれた手が握るのは――|愛銃《tranquillo》。

「……対象確認」

 金を透く美しい瞳で絶えずガラルグランを追いながら、シェラは音の無い着地と同時に眼前へ手を翳した。
 即時空間へ描出されるは、まるで瞳から魔力を吸い出した様な輝く金の魔力線。まだ幼いながらも細く長い指でしなやかに描く金の光が、柔く揺れる黒髪にも映し出され輝いている。
 始まりと終いの線が繋がっても、なおシェラの指は紋を描いた。幾重にも重ね合わせた魔弾術式――その周到さを警戒してか、ガラルグランは旋回すると、再び激しき猛火を纏い、シェラ目掛けて降下せんとする!

「『――ハッ。こんだけ的がありゃあ、やりがいもあるってもンだ。だろう、相棒?』」

 豪速で迫り来る巨大なる炎塊に、しかしシェラの肩へ乗ったままザミエルは嗤った。
 回避行動も必要ない。ザミエルはただ、この美しき|主人《シェラ》が敵を次々屠っていく様を、特等席で眺めていれば良いだけだ。
 ユーベルコード『|残光《プルヴィス》』――金に輝く完成されたシェラの魔弾術式が今、握る愛銃に付与された。

「殲滅開始」

 言うが早いか、シェラの銃口から銀の流星が解き放たれた。撃つ。また撃つ。なおも撃つ――トリガー引く手は止まらない。
 一度術式が展開されてしまえば、この魔力弾の供給は無限だ。弾丸は無数に空を奔って炎竜の翼を穿ち、手足を穿ち、身体を穿ってもまだ無情に殺到する。
 貫通すれば窟壁をも壊し、砕き、辺りで燃え盛る魔炎までをも鎮火し――。
 やがて銀の雨が過ぎれば、そこには炎すら消えた空間がぽっかりと空くだけ。

「……別に、いつもと同じです」
「『お前さあ〜』

 嵐が過ぎれば、また使い魔とのいつもの気安い会話が何事もなかったかの様に再開された。シェラはザミエルの軽口をいなすと、再び前へと歩き出す。
 戦いは始まったばかりだ。幾つも獣の声がこだまするこの窟内では、今も自分達同様に戦う猟兵達の姿が在る。
 時折不意に渇きを齎す熱風も、未だ炎獣健在の証であろう――まだまだ先は長そうだ。

「行きましょう、ザミエル」

 道すがら、熱風に頬へ落ちた漆黒の髪を白い細指で耳へと掬い上げると。炎光照らして艶めく髪が、しゃら、と優しい音を立てた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷹神・豊
【鷹月】

俺達は熱や渇きで落命する事こそ無いが
この酷暑では機動力も下がりかねん
綺月君も水分補給を怠…ぷ、プリンの事を考えているのか?
いや、意欲になったなら何よりだが
(相変わらず年下の女子の扱いは解らん…)

だが戦闘となれば流石歴戦の灼滅者
頼もしい姿には敬意を表しつつ前に
今度は俺が君や皆の日常を護る

暴力は暴力で迎え討つのみだ
UCを使い綺月君らが敵を狙い易いよう
撹乱や陽動で注意を引き迅速に殲滅
俺の視力なら加速した敵もある程度目視可と見て
ダッシュやジャンプ、エアシューズでの悪路走破を駆使し
狭い洞窟を縦横無尽と駆け敵を躱して焦らす

装備が焼けるなら普通に殴れば良い
隙あらば急所を見抜き反撃
今だ綺月君、蹴散らせ


綺月・紗矢
【鷹月】

わたしはファイアブラッドでもあるし、炎に耐性はあるが
やはり洞窟内は熱いな
豊から貰って冷やしてあるプリンを早く食べられるように
きっちりと敵を殲滅しよう

戦闘時は後衛から冷静に戦況見極め、積極的に狙撃
この暑さだ、長引かせる気はない
速やかに殲滅する

豊と協力し互いにサポート
前で立ち回る豊や他猟兵が回避しやすいよう
仲間に迫る敵を狙いつつ
リップルバスターで有象無象を薙ぎ払い
状況に応じてバスタービームに切替
弱った敵から貫き確実に灼滅する

敵が竜種の炎纏えば瞬時に、触れられぬよう全力回避
逆に反撃のビームで撃ち落としてやろう

被害を出さぬことは勿論
山が好きな人たちがまた登山を楽しめるように
炎の魔窟にはさせない



「この暑さだ、長引かせる気はない。速やかに殲滅する」

 冷静な宣誓の後、岩肌を炎が照らすだけの単調な景色の中を光の帯が幾つも駆けていく。
 バスターライフル『Luna Blu』。太く長大な愛銃に充填したエネルギーを無数の弾丸に変えて一斉射出した|綺月《きづき》・|紗矢《さや》(灼滅者のシャドウハンター・f43843)は、銃身へ次なる射出のための魔力を惜しみなく注いでいた。

(「被害を出さぬことは勿論、山が好きな人たちがまた登山を楽しめるように。……炎の魔窟にはさせない」)

 既に洞窟内はそこかしこから戦闘の気配が感じられる有様だ。紗矢とてこうして装填、射出を繰り返すこと既に数回――『獅炎竜ガラルグラン』は、まだまだ洞窟内に蔓延っていた。
 そんな中に在っても、全く動じない落ち着きで事に対応する頼もしい紗矢の様子を|鷹神《たかがみ》・|豊《ゆたか》(蒼天の鷹・f43985)は敬意を帯びた眼差しで窺っていた。

(「……流石歴戦の灼滅者」)

 豊とて、此処までの戦いは落ち着き払った見事なものであったのだが――今それについては置いておく。
 |この世界《サイキックハーツ》において、オブリビオンがまだダークネスであった時代。同じ武蔵坂学園にいて、生物学上の区分だとか、年齢だとかいうものとは別に、豊と紗矢にはある決定的な違いが一つあった。
 |知りながら戦えない者《エクスブレイン》。役割として必要な存在であったことは事実であるし、豊は別にそう在ったことを今更悲劇だとか言う感傷的な|性質《たち》でもない。
 だが、それでも。幾度と戦いへ赴く灼滅者達の背中を見送っていたあの頃、胸の内にずっと燻っていたものがある。抱き続けて、今こうして猟兵として戦える様になって改めて強く感じたもの。
 ――あの背中に、憧れた。

「今度は俺が、君や皆の日常を護る」

 紗矢同様の冷静な宣誓。しかし、告げた直後から豊の体内を、ざわ、と高まる魔力が駆け巡り始める。
 ……まだ足りない。後方からの紗矢の支援を絶対に無為にはしない、そして紗矢や|仲間達《灼滅者》が狙い易く戦い易い場になる支援をしなくては――そのために練り上げた力を、今、豊は解放する。
 ユーベルコード『|天稟《テンピン》』。

「……暴力は暴力で迎え討つのみだ」

 微かに豊の口角が上がった。だが窺えたのは一瞬で、僅かな間の後、既に豊の姿はそこに無かった。
 ――駆ける。元々人並外れた運動神経が、『|天稟《テンピン》』によって今は1000倍超にも強化されていた。その速度は尋常ではない。
 目指すは最も近いガラルグランだが、今その体躯は空中にあった。……構わない。豊は疾走した。
 自分が撃墜出来なくとも、陽動や攪乱にさえなれば、その先は射程の広い紗矢が居る。そも、己が手で撃墜出来る手段だって豊は持ち合わせていた。
 死角はない。灼滅する。

「ギャゥウアアアアアアアア!!!」

 地表を疾走する豊に気付き、ガラルグランが旋回を始めている。その姿を透く紫晶の瞳で見上げる紗矢は、豊の陽動の意図を理解し、ライフルの銃口を空高くへ向けた。
 その照準は、ガラルグランを捉えてはいないけれど――。

「倒すだけが戦いではないからな。……豊、援護する」

 呟く刹那、銃口からどっと光の奔流が空目掛けて解き放たれた。
 ユーベルコード『|Luna e Sole《モードセレクト》』。二つの異なる性質の射撃を切り替えて使用出来るその力で今紗矢が選択したのは、広範囲を薙ぎ払う『リップルバスター』だ。
 空高く射出された幾つもの光の帯は、美しい放物線を描きながら地表目掛けて降ってくる。豊へ向かって加速降下を開始していたガラルグランは、遠距離から頭上高くを狙ったこの攻撃に気付かない。

「……ギャゥウッ?! グギャァアアアア!!!」

 ドドド、と激しく音立て豪雨の如く降り注いだ輝ける弾丸が、無防備な炎竜の背や大翼を貫いた。周辺に在る炎竜達にも同様に襲い掛かった、この紗矢の攻撃の射程は|全方位《オールレンジ》。
 範囲中心へと周囲の何者も近付かない様にと、紗矢は愛銃への魔力充填を絶やさず、光帯は雨霰と降り続ける。
 ――そして、その雨の中に豊もいる。

(「目視出来る。問題ない」)

 元の視力から更に強化された豊の金瞳は、視界に光帯を広く捉えていた。視認情報から落下地点を即時計算し、回避しながら炎竜へと向かう豊の速度は少しも落ちない。
 ――計算、跳躍で回避。計算。これは進路をやや左へ修正。回避。また計算。靴の駆動輪で加速して躱す。回避。計算。……止まらない。
 勿論、視界の中心には確りと標的・ガラルグランを捉えている。撃墜され、土煙を上げながら地にのたうつ哀れな炎竜。近づく程に肌灼く熱さと渇きが増すのは、山林での戦いの時と変わらない。
 ……装備が焼ける? なら普通に殴れば良い。

「――砕けろ」

 懐へと駆け込み、――パァン!! 豊が打ったのは拳なのに、その渾身の一撃は、熱く厚い炎竜の胴の向こう側の大気を圧し出した。
 命を狩ったこの拳は、胴突き破ったわけではない。だが、拳圧によって生じた空気の歪みは突風となって窟内に吹き荒れた。
 ただでさえ灼熱の空気が風となって豊を襲えば、肌には灼ける様な鋭い痛み。視界の隅には、焼け焦げてひらつく上衣の裾がちらついた。
 だが、構っていられない。拳撃の最中に気付いていた。いつの間にか光帯の雨が止んでいる。
 振り返れば――紗矢の元へ向かい空翔ける炎竜の姿。

「……数が多い!!」

 思わず舌打ちをして、豊は再び駆け出した。
 向かう先で――紗矢は落ち着いていた。飛来する炎竜を照準越しに真っ直ぐと見据え、銃身へ魔力を込めている。その在り方自体は、開戦からずっと変わっていない。
 だが、銃に込めた魔力から成る弾丸が密かに変質していることは、紗矢本人を除いては誰にも気付けなかったことだろう。――『|Luna e Sole《モードセレクト》』。このユーベルコードで選択出来る、二つ目の|射撃《スタイル》。
 狙い澄ますその一射は範囲ではなく、一点貫通の『バスターライフル』。

「ギャゥアアアア!!!」

 照準越しに見る炎竜が、不意に炎を纏って加速した。到達が予定よりも早い、魔力装填が間に合わない――それでも紗矢は動じなかった。
 冷静に敵を引き付けながら、……待っていた。
 引き付ける。まだ、もう少し。だって、このまま待っていれば。

「――加勢する。綺月君、蹴散らせ」

 炎竜の頭上高くに影が降りた。見上げれば、靴の駆動輪で岩壁を滑走して炎竜の背後へ跳んだ豊が、炎竜の後頭部へと拳の一撃を見舞った!

「グギャウッ?!!」

 紗矢へ突撃する筈が、背後からの急襲によって額から地表へ叩きつけられた。何が起こったか解らず困惑する炎竜に、次いで突きつけられたのは銃口だ。

「敵を捕捉。灼滅する」

 それが、ガラルグランが最後に聞いた声となった。
 『バスターライフル』。先には範囲に撃った光帯を一つに集約した一射が解き放たれると、辺りに高温の余熱だけ残し、炎竜は跡形もなく消え去った。

「……しかし、わたしはファイアブラッドでもあるし、炎に耐性はあるが、やはり洞窟内は熱いな」

 一先ず目前の脅威が居なくなったことに安心したか。バスターライフルをガシャン! と地に降ろして一時戦闘態勢を解いた紗矢は、ぱたぱたと手で首元を仰ぎながら、豊へこう語り掛けた。
 未だ、窟内には多数の炎竜が居る。だが、即時戦闘に陥る距離に標的がいないのなら、こういった僅かな休憩は大切だ。何しろ、ここは極限の灼熱地獄。
 これを踏まえた豊からの返答には、生来の生真面目さが滲み出た。

「俺達は熱や渇きで落命する事こそ無いが、この酷暑では機動力も下がりかねん。綺月君も水分補給を怠……」
「豊から貰って冷やしてあるプリンを早く食べられるように、きっちりと敵を殲滅しよう」
「ぷ、プリンの事を考えているのか?」

 思いがけぬ紗矢の言葉の続きに、豊は思わず問うてしまったが、きょとんと瞳を丸くして首を傾げた紗矢はどうやら真剣そのもので。
 意欲になったなら何よりだと、そう返しながら豊は思う。

(「相変わらず年下の女子の扱いは解らん……」)

 こんな|休息《交流》もありながら。しかし灼熱地獄での戦いは、洞窟最奥まで終わらない。
 豊と紗矢も、暫しこの場所で体を休め――再び戦線へ舞い戻る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『竜種ファフニール』

POW   :    ガイアブレス
【ドラゴンブレス】を放ちダメージを与える。命中すると【ガイアパワー】を獲得し、自身が触れた対象の治癒or洗脳に使用できる。
SPD   :    ファフニールテイル
【尻尾】で近接攻撃する。低威力だが、対象が近接範囲から離脱するまで何度でも連続攻撃できる。
WIZ   :    ファフニールファング
【突撃噛み付き】を【翼のはばたき】で加速し攻撃する。装甲で防がれた場合、装甲を破壊し本体に命中するまで攻撃を継続する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●厄災の巨大竜
 ……どれほどの時が過ぎたのか。
 拭う汗も消える炎の洞窟。常人には生存すら不可能な高温の環境に身を投じて戦い続けた猟兵達は、目の前に敵影がなくなった時に、ふと窟内の変化に気付いた。
 環境に、次第に身体が適応してきているのだと思っていた。しかし、これまでは出た瞬間に気化して流れ落ちることのなかった汗が、今、初めてぽたりと地へ落ちたのだ。
 思い立って空間の魔力濃度を確かめてみれば、成程、確かに窟内へ突入した時と比較して明らかに魔力は薄まっていた。
 視界も、戦闘するに不足は全くないが、幾分かは薄暗いか。来た道を振り返ってみれば、戻るほど暗闇の支配率が上がっている。此処まで取りこぼしなく獅炎竜ガラルグランを狩ってきたことのこれが証左だ。
 ただひたすらに姿を現すガラルグランを狩り続け、窟内奥まで進み続けた結果、幾分か温度は下がったということらしい――ただ、地へ落ちた瞬間に染みを作る猶予もなく即座蒸発する汗の様子を見るに、まだまだ此処は敵の支配域。
 それも当然だ。ここまで狩ったのはガラルグランのみ。首魁の姿は未だ見えない。
 敵影が無いとはいえ、飛び出してくることも警戒しながら慎重に歩を進めていた猟兵達は、やがて軽く折れた道の向こうに、一際眩い灯りが灯る洞穴を見つけた。
 洞窟内に洞穴とは? ……いや、あれはこの洞窟の特別室といったところか。
 何しろ、あの穴を見つけた瞬間からの魔力圧と殺気が凄まじい。穴の中に何がが居ると、猟兵達が確信するには十分だった。

「グォオオオオオオオオオオ――――…………」

 届いた咆哮が、窟内突入当初より明らかに明瞭だった。
 反響ではない、直接耳に響く音。即座あの洞穴こそが今日の最後の戦場と悟り、猟兵達は走り出す。
 あれだけ騒がしく吠えるガラルグランと戦った後だ、本日の首魁にはとっくに存在を感知されている。今更隠れる必要は無い。
 洞穴へ向かう直線の道を駆ける程に、幾分か和らいでいた筈の魔力濃度と周囲温度が急激に上がっていく。それもその筈。近付いて気付くが、洞穴の向こうにちらちらと見えているのは溶岩だ。
 窟内を照らしてきた魔炎が、どうやら岩肌を溶かして所々に小さな溶岩溜まりを作っている――ガラルグランとは内に秘める魔力量からして違うということか!

「……ギャウウウァアアアア!!!」
「……っち、ガラルグランも居んのかよ……!!」

 洞穴へ飛び込んだ猟兵達は、その空間の広さに驚いた。
 天面が随分と高い。その頭上空高くに、旋回するは3体ほどのガラルグランだ。しかしどうにも消耗している。あれはもしかしたら、洞窟へ至る前に猟兵が相手をした内の数体か。
 そして、今ゆっくりと空から舞い降りてくるのは。

「……グォオオオオオオオオオオ――――!!」

 ――その|鬣《たてがみ》は盛る焔。
 深紅の堅い鱗に覆われた巨大な体躯。その身体と均整のとれた大きな翼は雄々しく、まさしく竜のそれだ。
 太くがっしりとした四肢の先には、万物を割く堅く鋭い爪。尾も太くそしてずっしりと重く、尾先の焔は咆哮の瞬間一際大きく燃え上がり、触れた岩壁に新たに小さな溶岩溜まりを生み出した。
 何もかもを飲み込めそうな大きな口吻からは鋭く光る牙が覗き、その隙間から咆哮に合わせて灼熱の炎が噴き出している。
 『竜種ファフニール』――あれこそが今日の首魁であると、猟兵達はその威容だけで理解した。

「……あれは骨が折れそうだ」

 一人が、苦笑交じりに呟いた。
 だが、呟いた本人も、他の猟兵達も、負ける気はしていない。ただでさえ此処まで極限の環境の中で戦い抜いてきたのだ。今更溶岩が出ようが巨大な竜が出ようが、極限であることに変わりはなく、目指すものもまた変わらない。
 必ずや、|あの巨大竜《ファフニール》の討伐を。そして、この洞窟に、山に平穏と静謐を取り戻すのだ。
 これが最後。それぞれが決意を胸に、今、一つの大きな脅威と対峙する。
シェラ・イル
アドリブ歓迎
『』:使い魔ザミエルの台詞

_

私は後方へ
退がるためではなく、砲台として

他の猟兵たちの立ち回りを認識しつつ
「" はるか彼方、遠き天上へ至る我が祈りよ "」
謳うように
古語にて詠唱しながら
特別な魔弾術式を展開していく
「“ 我が祈りは星となれ。我が願いは光となれ。全てはあるじの望むまま "」
私はとある教団の者で、教団のために生かされ行動している者だが
神に忠誠を誓う聖職者ではなく、教義に反する者や障害になるものを排除するための兵士であり
端的に言えば汚れ仕事をする者
それが《執行者》
この教団の神を信じているのかいないのか
自分でもよくわからない
定められた詠唱なれど
こんな私が紡ぐとは、…いっそ滑稽だな
「 " 我が祈りよ、我が願いよ。あるじの威光と共にあれ "」

── "祝福"。

_

「……ザミエル」
なんだ、と猫は私を見上げる
「海の底にも、星の光は届きますか」
『さあなあ。けど、いつかは届くかもな』
全てが終わり、山を後にする前に
礼儀と祈りを
神ではなく、海の底に眠りゆく彼らへ


鷹神・豊
【鷹月】

ファフニール…多少因縁がある
昔武蔵野に攻め寄せてきた事があった
過去の貴様を灼滅したのは俺の班だぞ
その様子では記憶に無いか

当時は威勢の良い台詞を吐くのが精々だった
危険?
漸く来た反撃の機だ
君達への借り位返させろ
灼滅する

敵が減るまでUC使用は控える
綺月君らと攻撃目標を合わせ
蹴りや突きの連続コンボで各個撃破
ボスの動きには常に目を配り
大気の揺れを察知したら牽制射撃と共に味方へ警告
俺自身も跳躍や疾走で回避する

噛みつきを封じて頂けるのは有難い
敵が怯めば暴力で翼の根をへし折り身体部位を封じる
綺月君の捕縛が成ればUC発動
かつての貴様の熱を返してやる
燃え尽きろ

プリン…
偶には俺も食うか
それが君の日常の味なら


セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎

はっ…!ようやく本命のおでましだな
アレスに治してもらったし
アレスのサポートのおかげで…
うん、歌いやすい
焼けるような熱さが和らいだら深く息をすって歌いだす
体に魔力を巡らせて
靴に風の魔力を
それからヒット&アウエイ方式で斬りかかる

…つって、この熱さじゃ長くは持たねえな
ぱっと顔を合わせたアレスは同じことを考えてたみたいで
OK、任せろ
俺の役割は敵をぶった斬ること…
集中して、力を溜めつつアレスが作ってくれる隙を待つ
簡単に受け止められる攻撃だとは思ってないけど
…きっと、大丈夫だ
アレスを信じてただ剣に集中
一瞬でも動きが止まった隙に
そのでかい図体、斬り落としてやるよ…!
食らえ…【彗星剣】!


アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎

少しでも歌いやすくと氷のオーラでセリオスを包もう
君の歌声を響かせてくれ

脚鎧に光を充填
剣の『光閃』で彼を援護し
炎竜は風で牽制
皆が攻撃しやすい位置へ誘導を

…この熱さでは長くは戦えないな
ならば僕が隙を作り出そう
一撃は頼んだよ
最前線へ駆け
斬撃の勢いで大地に光を叩き込み一斉に噴出
僕が相手だと光で惹きつけよう
ブレスを見切れたら
皆を庇い
盾の【希望の福音】纏う『閃壁』で受け止める!
ブレスを放つ間は僕に固定されるはず
炎竜も破りに来るだろう
灼かれようと負けるものか
竜も炎も防ぎ続ける…!
そして盾で押し返そう
狙いは隙を作るだけでなく
竜を討つ彼らに治癒と守りの力を齎す事
我が青星と灼滅の勇士達に…光を!


綺月・紗矢
【鷹月】

巨大竜のお出ましか
より危険な前衛を再び豊に任せてしまうが…そうか、過去に
わたしが全力で援護する、あなたの手で灼滅を

ガラルグランをまずは捕縛し手早く殲滅
後方に位置し、豊や仲間の立ち回りに合わせ、敵の動きを止め
弱った敵から狙い、確実に仕留めていく

巨大竜の突撃噛み付きには
大きく開けたその口に、存分に魔法光線の連射を見舞ってやろう
光輪で捕縛や麻痺も与えれば、豊や皆も攻撃し易くなるかと

より有効な部位を見極め狙撃
豊が攻撃する隙を作るべく敵を狙い撃ち捕縛する
これほど大きな的ならば、外すことはない

さすがに暑かったな
帰ったらプリンが待っている(そわ
ああ、よかったら一緒に食べよう
10個ほどで足りるだろうか


倉槌・緋那
連携&アドリブ歓迎
「作り物の翼ですが、殲術道具ですからね」
敵も飛ぶようですがでしたらこちらもUCと偽翼で飛翔し迎え撃ちます
Lv23400相当にまで強化された空中機動と空中戦技能に加えて上昇した回避率を用い敵の攻撃は回避中心で対応
火炎耐性も強化されるのでイフリートの相手もずいぶんし易くなっている筈です
「受け止めれば装甲まで嚙み砕いて来るようですが」
それでも回避しきれなければ強化したオーラで防御しつつカウンターの一撃に加えてもう一撃の二回攻撃を行います
「慢心は忌避すべきものですが、好機を逃すわけにはいきません」
怯むなり隙が出来れば日本刀で斬りかかる
距離が遠ければ斬撃波を飛ばすことで対応します


有城・雄哉
【POW】
アドリブ連携大歓迎

これが…竜種ファフニール
灼熱環境には変わりないが
ここで灼滅するのみだ!

俺は近接攻撃主体で空中戦を行う術は持ってないから
空を飛ばれると非常に厳しい
岩壁を蹴って跳躍しながら接近するしかないか…?

ドラゴンブレスは息を吸い込む挙動を見極め
吐き出す直前に大きく横に飛び回避
おそらく連続では吐き出せないだろうから
次の一発が来る前に何としてでも接敵しておきたい

接敵したら両拳にメリケンサックを握り込んでバトルオーラを纏わせ
密着した上で「グラップル」+指定UCで1秒間に100回攻撃
命中率低下は密着することで極力抑え
拳で鱗を、胴を貫き、破壊するつもりで叩き続ける!
このまま…墜ちろ!!


英・林檎
アドリブ可

うわ、取巻きいんのダル〜
先ずは頭数減らしたいし、アタシは取巻きから潰してくよ
露払いは林檎ちゃんに任せろ
熔岩あるし立回りは足元注意!

空翔で跳ねて注意を引く
岩場も敵も足場に活用しちゃう
やーい、ここまでおいで〜

お巫山戯は程々に、攻撃受ける際は瞬間強化とジャストガード
跳ね切ったら脳天からユベコで攻撃
ボスのブレスで取巻きの治癒されても厄介だし、なる早で対処したい所
一匹だって残さないよ

対処後は即ボス相手のフォローに入る
熱さには慣れてきた。アタシの炎の方がもっと熱いよ!
ブレスの予兆あれば受けずに空翔で跳ね、回避行動へ
一拳入魂で足元破壊、体勢崩せたら一気に畳み掛けよう
巨体な分、よく当たるんじゃない?


ディア・セレーノ
【空】
クロッツはクロ呼び

溶岩まで…頭上にばっかり気を配ってもいられないけど、
足元に視線落としてる場合でもないかな
あんなに天井が高いんじゃね
せめて、もう少しここをみんなが安心して戦える環境にしなきゃ

『光の雨』で攻撃しながら、癒しのフィールドを作る
接敵するみんなが、地面に降りた時少しでも楽な様に
それから、空が敵の独壇場じゃないって思い知らせてやるの
光矢の雨、何度だって降らせてあげる

綺麗でしょ?溶岩にも炎の明るさにも負けないよ!

後衛から弓で居る
『光の雨』の効果持続が最優先
持続している間は『千里眼射ち』
射るなら、先に邪魔なガラルグランから狙ってくよ
言ったでしょ、クロ。飛ぶ竜だって墜としてみせるって!


クロッツ・エルバート
【空】他猟兵と連携歓迎

敵サンは頭上か。面倒だな
墜として叩くが俺には無難か
ま、先ずは取り巻きから片付けるとしますか

基本行動は味方の支援
積極的に接近するよりは『凍針』で遠距離攻撃兼空飛ぶ敵を牽制
これで片付けられれば御の字だが、まァ無理だろ

複雑に飛ぶ氷刃で敵の進路を誘導
敵が何処か影に近付いたら
ああ、でかい図体にある影でもいいな
『影追』で捕縛
ディアの地表やら空から降る光矢のお陰で、
凹凸の岩肌に影は幾らでもある
…ああ、確かに綺麗だ。光の雨とはな
そのディアらしさには笑って

敵を掴まえちまえば、氷刃刺したっていいし誰かに任せたっていい
後が楽だろ。仕留めろよ?
別に主役でなくていい、相応しいヤツにとどめは任せる



●それぞれの思惑
「何か来るぞ!!」

 上空より降りて来るなり、ごう、と息を吸い込んだ|巨大竜《ファフニール》に、星瞬く瞳を見開き見上げるセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)は、仲間達へ向け声を張る。

「ブレスか! ――アレス!」
「わかっている!」

 危急を告げる|幼馴染《セリオス》の声に、応じて駆け出したのはアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)。中空目指して地を蹴る瞬間、白銀の脚鎧が、注いだ魔力に光を帯びた。

「そう簡単に通すものか!」

 魔力の|援《たす》けも得た力強い一歩で、アレクシスは巨大竜の眼前まで一瞬で跳ね上がる。同時、目掛けて吐き出された炎塊の軌道を、左手に掴む白銀の大盾で遮った。

「……くっ……セリオス!」
「任せろ!!」

 押し寄せる灼熱の炎の圧に、一瞬顔をしかめたアレクシスは、しかし背後――追って中空に現れたセリオスの至近からの返事に安堵する。
 冷気帯びた魔力を纏わせた右手でセリオスの手を掴めば。その手越しにアレクシスは、存分に歌えとばかりセリオスへ氷のオーラを渡らせた。

「セリオス! 君の歌声を響かせてくれ!」
「はっ……! ようやく本命のおでましだな!」

 互いに交差した視線に笑みを浮かべて、炎の攻めが途切れた瞬間、繋ぐ手を軸にぐん、とセリオスが前へ出る。ニッと笑んで振る剣には、遠心力と冷気が乗った。
 ――ザン! 竜鱗を裂いた一閃は、しかし回避を許して浅い。それでも忌々しそうに視線を鋭くして再び空へと舞い上がった巨大竜に、追うべく靴へと風の魔力を送り込むセリオスはすぅ、と深く息を吸い、胸や喉に痛みがないことを確かめた。

(「喉はアレスに治してもらったし、今のアレスのサポートのおかげで……うん、これなら歌える」)

 ガラルグランとの戦いでは焼けるように熱かった大気が、今は纏う冷気に幾分か熱和らいで感じられる。アレクシスなりに、どうしたらセリオスが思うさま|歌えるか《戦えるか》をきっとずっと考えていてくれたのだ――気付けば、それだけでいくらでも戦える気がした。

(「……つって、この熱さじゃ長くは保たねえな」)

 熱さに我慢を強いられてきたセリオスの心と体は、戦いたくてうずうずしている。しかし、それでもセリオスは落ち着いていた。
 現在の窟内は、体力と酸素を奪う灼熱、炎、そして溶岩、未だ圧倒的にオブリビオンに有利な環境だ。それは、思索にふける様子のアレクシスを見ても解る。

(「……この熱さでは長くは戦えないな」)

 アレクシスが空綴じた青い双眸を辺りへ巡らせた時。ぱちりとセリオスと視線が合えば、全く同じことを考えていたと伝わって、思わず浮かぶのは笑み。

「ならば僕が隙を作り出そう。……一撃は頼んだよ」
「OK、任せろ。俺の役割は、敵をぶった斬ること!」

 互いの適正。互いに果たすべき役割は絶対成すと確信するから、二人の強気の笑みは揺るがない。
 そして、果たすために――今すべきは、長く保たないと理解っていても戦線を守り、維持して耐え忍ぶこと。

「いくらでも付き合うぜぇ……! こいつは俺達で抑える! まずは|取り巻き《ガラルグラン》を頼む!!」

 一度着地し、熱への遠慮もなく声を張ったセリオスが、再び空へと跳ね上がった。それに続くアレクシスの背を視線で追って――|綺月《きづき》・|紗矢《さや》(灼滅者のシャドウハンター・f43843)は、背負った巨大なバスターライフルを展開するため地へと降ろした。

「巨大竜のお出ましか」
「敵サンは頭上か。面倒だな」

 思わず落とした紗矢の呟きに、応えた声はクロッツ・エルバート(憧憬の黒・f28930)。紗矢同様に巨大竜と空で戦うアレクシス、セリオスを静かに見上げ、顔の前に掲げた手上には魔力で練った氷塊が浮かんで――恐らくは、援護の隙を窺っている。

「俺は岩壁を蹴って跳躍しながら接近するしかないか……?」

 その浮かぶ氷塊をじっと見つめて思案するのは|有城《うしろ》・|雄哉《ゆうや》(蒼穹の守護者・f43828)だ。近接攻撃を得意とする雄哉は、しかし空中戦を行う術は持っていなかった。
 ひとたび空に逃してしまえば、攻撃手段に乏しいため厳しい戦いとなるかもしれない。……但し、それはこの戦いが雄哉一人のものであった場合だ。

「いや。待てるか? 墜とせばいいならやりようはある」
「そうだな。撃墜すればいいんだろう?」

 当たり前な様子で答えたクロッツと紗矢に、答えが来ると思わなかった雄哉は驚き、そしてニッと強気に笑んだ。共に戦う仲間は10人。今巨大竜をたった2人で請け負っているアレクシスとセリオスの様に、それぞれに――雄哉にも、果たせる役割が必ずある筈だ。

「うわ、取巻きいんのダル〜。先ずは頭数減らしたいし、アタシは取巻きから潰してくよ」
「私はあの二人に加勢します。敵も飛ぶようですが、でしたらこちらも。作り物の翼ですが、殲術道具ですからね」

 そして、今まさにその役割を果たすべく動き出そうとしているのが、雄哉同様に近接戦を得手とする|英《はなぶさ》・|林檎《りんご》(烈果・f44114)。そして、背に2対4枚の大きな天使の偽翼を広げて見せた|倉槌《くらつち》・|緋那《ひな》(ダンピールの殺人鬼・f43880)だ。
 バサ、と翼を羽ばたかせ浮き上がり、風を切り進んでいく緋那が真っ直ぐ向かうのは巨大竜。一方、林檎の赤い瞳が捉えているのは、巨大竜ではなくガラルグランだ。
 先までの戦いと比較すれば、既に消耗しているガラルグランならばさほど苦労せず狩れそうだが。慢心せず、ぎり、と拳を作って開いてを繰り返して手の具合を確かめる。
 足はとんとん、と爪先で地を軽く叩いて靴のフィット感を確かめれば。

「露払いは林檎ちゃんに任せろ!」

 刹那、比較的低空で空を舞うガラルグランを目指して、林檎の足が地を蹴った。
 滑らない様に。足を取られない様に。溶岩の位置を横目に把握し、林檎は助走をつけたのち空へ跳ね上がると、『|空翔《スカイステッパー》』で一気に高きを目指して駆け上がっていく。後追う様に地表を駆け出した雄哉は、先ずはとにかく可能な限り敵に近づこうと決めた様だ。

「……ま、先ずは取り巻きから片付けるとしますか」

 その背中の頼もしさにふ、と笑んで呟いたクロッツは、――ふと後方、今日此処までを共にするディア・セレーノ(青天を仰ぐ・f25678)の何か考える様子に気付いた。

「……どうした、ディア?」
「溶岩まで……頭上にばっかり気を配ってもいられないけど、足元に視線落としてる場合でもないかな。あんなに天井が高いんじゃね」

 青空を写した様な美しい瞳が、地表の溶岩を見つめたのち、この洞窟の天面、最頂点へと視線を移す。
 視界を度々横切りながら、巨大竜、そしてガラルグランが縦横無尽に飛び交っている。あんなに自由に蹂躙出来る広い支配域が敵にはある――常に滞空出来る仲間は良いが、地表で戦う者にとっては上下に気を配る戦いとなろう。

「せめて、もう少しここをみんなが安心して戦える環境にしなきゃ」

 ディアの決意の言葉は、繊細華奢な容姿から抱く印象よりも遙かに強い。
 巨大強大な脅威を前に、倒すことよりも先ず全体を見渡せるディアのこの視野の広さは、恐らくは昔より故郷の集落で嗜んできた狩りによって得たものだろう。
 彼女の、当たり前。その視点には感心しながら、しかし幾分か不安げにも思えたクロッツは、ディアの頭にぽんと軽く手を乗せた。

「頼りにしてるぜ、アーチャー。得意だろ、援護射撃」

 伝える言葉に嘘はない。何しろ正確なディアの射撃には、ガラルグランとの戦いで既に助けられた後だ。

「……うん。任せて!」

 いつもは軽口を言い合うのに、今のは違うと解った。クロッツからの激励が嬉しくて無邪気な笑顔を浮かべたディアは、その手に取り出し浮かべたオーブへと魔力を注ぎ、瞬時編まれた金に輝く『|SUNSHINE《光の弓》』を掴み取った。
 そうしてひとり、またひとりと、仲間が戦線へ加わっていく――その様子を、シェラ・イル(Dec.・f43722)はひとり、洞窟入口から静かに見守っていた。
 既に接敵する仲間もいる中で、しばし様子をうかがったのは仲間達の立ち回り、役割をある程度まで確認するためだ。人との積極的な関わりはシェラには避けたいものであるが、共闘となれば話は変わる。
 敵の情報は勿論だが、仲間の得手不得手や戦闘における特徴、たとえ短時間でもその把握があるだけで使う技や動きは変わってくるものだ。解っているから、使い魔ザミエルも今は何も言わない。シェラの華奢な肩の上、黒猫の姿で主が動き出すのをただじっと待っていた。

(「滞空して近接出来る仲間が引き付けも担っている。後方支援や援護射撃出来る魔法使いも狙撃手もいて、バランスは取れています」)

 とろりと蜂蜜の様に煌めく金の瞳が、忙しなく戦場内を走る。シェラは元々遠距離からの射程攻撃が得手ではあるが、どうやらこのまま後方での戦いを選択しても何ら問題は無さそうだ。
 引き付けを仲間が担ってくれているなら尚のこと。シェラは|狙撃手《砲台》として、存分に真価を発揮できる。

(「詠唱の時間さえ、確保出来るなら」)

 闇色の外套から『|tranquillo《愛銃》』を取り出し、祈る様に両手の内へ握り込んだ。体の内に秘める魔力を少しずつ注ぎ込めば、周辺大気中魔力も反応して、シェラの周囲にチカチカと銀色の光が明滅する。
 シェラが時間を要する魔術式を展開しようとする中で、――ガシャン! 幾分離れた場所に、紗矢が『|Luna Blu《愛銃》』の展開を終えた。望む様にカスタムを重ねた青く輝くバスターライフルの狙いは今ファフニールであったのだが、右隣に立つ鷹神・豊(蒼天の鷹・f43985)の呟いた一言に、紗矢は照準を覗く紫晶の瞳を豊へと向けた。

「ファフニール……多少因縁がある。昔武蔵野に攻め寄せてきた事があった」

 その言葉に紗矢が思い描くは、オブリビオンではなくダークネスと幾度となく戦っていたあの頃のことだ。
 ファフニールが現れた戦いのことは、報告を聞いた気はするものの、とっさに思い浮かばなかった。何しろダークネスとの戦いの報告は多かった。自身が参加した戦いはともかく、灼滅者達の戦い全てを網羅するのは不可能に近かったろう。
 それでも、強く心に残る戦いはあった。苦境に立たされた事も。きっと|戦うことが出来無かった《エクスブレインであった》豊にも、忘れられない予知や報告が幾つもあったんだろう。
 もしかしたらファフニールとの戦闘も、そういった戦いの一つだったのだろうか――遠く、恐らくは過去を見つめてずっと心此処にあらずな様子の豊を、気遣って紗矢は言葉を掛けた。

「そうか、過去に……過去でも今でも、強敵には違いない。より危険な前衛を再び豊に任せてしまうが……」
「――危険?」

 問いで返した豊が、金瞳に写す今日の仲間達の背中は今、在りし日の景色に重なっていた。出撃中で人員手薄の武蔵坂学園。幾つかのダークネス勢力の結託。隠蔽され、直前まで予知の網を掻い潜った黒翼卿らの襲撃。
 自分の予知も、ギリギリのタイミングだった。それでも、勇み立ち向かっていった灼滅者達。
 ――その背を、見送ることしか出来なかった自分。

「当時は威勢の良い台詞を吐くのが精々だった。……漸く来た反撃の機だ。君達への借り位返させろ」

 どんなに凄惨で絶望的な予知にも、豊は諦めるなと言い続け、しかし灼滅者達の背を見送っただけ。戦えなかった。どれほどの脅威であるかを知っていても、託すばかりで自ら殴りに行くことは終ぞ叶わなかった――心に渦巻いたあの頃の葛藤は、どう言葉にするが正しいのか豊には解らない。
 しかし、そんな|過去《現実》を経て豊は今、漸く前へ立つことが出来る。体を張って仲間を守り、仲間と共に征くことが出来る。
 だから、あの頃は決して言えなかった言葉を、今繰り返し豊は言うのだ。約束として。自分と、自分の予知を託されてくれた多くの灼滅者達への誓いとして。

「必ず――灼滅する」

 愉し気に笑んで、万感の思いで告げた豊の一言。その想いを、あの頃|託されていた《戦っていた》一人である紗矢は、頷き、確かに受け取った。

「わたしが全力で援護する。あなたの手で灼滅を」

 待っていろ、と二人分の思いを込め、紗矢は照準越しにファフニールを鋭く見据える。
 しかし、今先に殲滅すべきはガラルグランと。駆け出した豊が遠のく気配を感じながら、紗矢はバスターライフルの銃口をガラルグランへと切り替えた。

●役割
「――『星に願い、鳥は囀ずる』!!!」

 歌う。歌う。灼熱の戦場に、繰り返すは失われた故郷の歌。アレクシスが齎した冷気のオーラによって熱さをものともしないセリオスは、|巨大竜《ファフニール》と対峙して空中戦を繰り広げる傍ら、喉奥より解き放つ切なき旋律で仲間達を鼓舞する。

「『いと輝ける星よ! その煌めきを彼の人に――』」
「グォオオオオオ!!!」

 その歌声に乗る根源の魔力が、猟兵達へ付与されていることが|理解《わか》るのだろう。巨大竜は、忌々しげにセリオスを睨むと、カパ、と巨大な口を開いた。
 そこには、強大な魔力集積。即座吐き出されたのはドラゴンブレスだ。

「躱せ、セリオス!」
「――よっと! そんなもんかぁ!?」

 アレクシスの警戒の声に、セリオスは吐き出された炎圧を靴に込めた風の魔力の噴射で身を翻して回避する。同時の挑発で巨大竜の意識を引き付けるが、後方から凄まじい速度で飛来するもう一つの炎弾には気付かない。

「!? セリオス! 後ろだ!!」
「――しまっ……」
「間に合いました、対応します」

 気付いてセリオスが振り向いた瞬間、その眼前にはら、と長い灰色の髪、そしてすらりと長い日本刀の斬線が横切った。
 バサ、と偽翼を鳴らして飛来した緋那の日本刀が、炎弾を真っ二つに両断した。炎は行く手を二分され、それぞれ岩壁に衝突する――が、それを見届けず今緋那が真っ直ぐと見据えるのは、炎弾吐き出したガラルグランだ。

「サンキュー緋那! 助かった!」
「いえ。……不意を取られるのは今回だけでしょう、英さんが来ました」

 視線の先では、今まさに林檎がガラルグランに真正面から殴りかかっている。残る2体にも豊や有哉が向かい、射手達も狙う様子があるからには、巨大竜との戦いに眷属の介入は以後無いと見て良いだろう。
 仲間を信じて任せる――だから緋那は大樹の幹の様な温かな色の瞳を今は鋭く細め、改めて巨大竜へと向き直った。

(「大きな翼……的は大きいですが、あの羽ばたきによる機動力は脅威ですね」)

 近付いて見る、巨大竜の威容。圧倒的な破壊力と殺戮欲で死ぬまで暴虐の限りを尽くす、理性無き獣――イフリートという存在を、緋那は灼滅者として知っている。
 過去出会った中には知性を持ち、言葉を解するものも居たが――オブリビオンとして現れた目の前の存在に知性はかけらも感じられない。
 つまり、傷付こうが血を流そうが、死ぬまで戦うことを止めない。

「遅れをとってもいられませんので。……『これまで戦い続けてきた経験は無駄ではありませんでした。ですから、今、ここで――』」

 止めてみせる、と、決意の元に巨大竜へ向けて真っ直ぐに切っ先を向けた瞬間。緋那の体から、じわりと銀色の魔力光が溢れ出し、揺らめきながら全身を覆った。
 緋那の体内に、奥底より引き出された大量の魔力が巡る。これは、戦いのみならず緋那がこれまで生きて得た経験全てを高みへ昇華させる緋那の能力――ユーベルコード『たとえ呪われた力でも』。
 力が体へ馴染むのを待ち、更なる高さを目指して羽ばたけば、ただ一扇ぎの動きだけで体は目的位置まで進む。偽翼が体の一部の様に動く。何しろ今、緋那の空中機動と空中戦技能は元の100倍。
 ひゅる、と日本刀を構え直すと、緋那は巨大竜目指して真っ直ぐ翔けた。
 振るった刃と、受けるべく振るわれた巨大竜の爪とが重なり、甲高い音を立てて互いに後方へ弾かれる。巨体故に大きいその隙を狙い、アレクシスが巨大竜の足下死角から|双星暁光『赤星』《愛剣》に魔力込めて迫るけれど、一瞬で魔力を充填させた竜の口から大炎が吐き出されれば、大盾を構えて受け止めるに留まった。
 一筋縄ではいかない――しかしアレクシス、セリオス、緋那が今は守りと現状維持の苦しい戦いを担ってくれるからこそ、他の仲間達が眷属へ集中出来る。
 その勇姿を、遠く高い青空を映した様な美しいディアの瞳が地表から見上げていた。

(「あれは、私には出来ないこと。……でも、私も私に出来ること、するよ」)

 美しく真っ直ぐ背筋を伸ばして、ディアは頭上、天高くへ向け光の弓を構えた。
 陽光の名を冠した愛弓は、弓柄に配されたオーブからディアの魔力を吸い上げ、次第に眩く輝きを増していく。そっと弦へ触れてみれば、ぴいん、と甲高く張り詰めた音が響いた。

「|援《たす》けたいから、全力で行くよ! ――『雨中に光が差し込めば虹』」

 詠唱が始まる。するとディアの弓の先端に、金に輝く魔方陣が浮かび上がった。
 次いで光の弦を引いた弓に、矢は番えられていなかった。しかしほどなく、そこに生まれた一筋の光の線はディアの魔力の凝集体、ディアの魔力で編まれた矢だ。
 次第に太く、眩く光を増していくその矢でディアが狙うは、巨大竜でなければ眷属でもない。この洞窟の最頂点――目的は撃墜ではなく、ただこの洞窟の灼熱に相応しく雨を降らせたいだけだから。
 但し、降るのは水ではない。だから、美しい虹は生まれない。

「『でも今私が望むのは――攻めながら癒す光の雨矢』!!!」

 ぱぁん! 刹那、魔力で編まれ本来質量を持たない弦が、激しく音を打ち鳴らして光の矢を空へと押し遣った。
 ぐんぐんと高度を上げ、美しい光の放物線を描いた矢は、最頂点へ至るや否や、再びぱぁん! と高鳴り弾ける。
 無数に分かたれ、洞窟内いたる所へ降り注ぐ光の矢雨――これこそ、ユーベルコード『|光の雨《エナジーレイン》』。

「この空が|君達《敵》の独壇場じゃないって思い知らせてあげる!!」

 降り注ぐ光の矢雨は、空を蹂躙していた巨大竜達だけに傷と痛みを齎し、それらに近接して戦う猟兵達の体はすいと通過して落ちて来る。その美しい雨を地上から見上げていたクロッツは、思わず掬おうと手を伸ばして――しかし透いて落ちた瞬間に生じた地表の変化に、深茶の瞳を見開いた。

「――そしてね、大地は私達の味方だよ!!」

 笑んでディアがそう告げた瞬間だった。所々に溶岩が蠢く洞窟の無骨な岩肌に、次々着弾した光の矢から、眩い光が広がった。
 水面に滴が落ちる様に。雨が地を潤わす様に。広がる光は、地表から地続きで洞窟の壁面、天面までを覆い尽くした。
 今日のディアには出来なかった、空中で接敵しての戦い。請け負ってくれた仲間達が、地に降りた時少しでも楽な様に。地表に触れる全ての猟兵へと癒やしを齎す光のフィールド――これが、今日のディアに出来る、否、ディアにしか出来ないこと。
 足下から伝わる暖かさは、今日此処まで感じてきた、全てを拒絶する灼熱とは全く異なるものだ。

「何これ、すっごい綺麗!! ディアちゃんナイス!! これならいっくらでも戦えるよ!!」
「ふふ、綺麗でしょ? 溶岩にも炎の明るさにも負けないよ!」

 空から感嘆の声を上げた林檎へ、笑顔を更に深めて返したディアに――クロッツもふ、とつられる様に|微笑《わら》った。

「――ああ、確かに綺麗だ。光の雨とはな」

 噛み締める様に呟いたのち、クロッツが胸の高さへ掲げた手上に、幾つかの氷刃が現れた。ユーベルコード『凍針』――そのままその手を空目掛けて振れば、氷刃は複雑な軌道で一斉に空を翔ける。
 目指すは、二体のガラルグラン。林檎、そして雄哉が相手取る眷属だ。

「やーい、ここまでおいで~」
「あまり挑発するな! 手に負えなくなる!!」

 『空翔』で自在に空を跳ねる林檎は、挑発を重ねて敵の注意を引いていた。一方、雄哉は地表から壁面を蹴って空へと跳躍し、林檎が上手く地表近くへ誘導した眷属を拳で打ちダメージを重ねている。
 そもそも地表で戦う雄哉と、中空のみならず、壁も天面も足場にして動く林檎に、ディアの生んだ癒やしのフィールドはこの上ない支援だ。

「ギャゥアアアアア!!!!」
「おっと!」

 一体に気を取られている間に迫ったもう一体からの炎を纏う突撃を、林檎は敵を足場に跳躍して躱す。眷属の炎の体表に触れた足が、瞬間強化し防護したとはいえ少しの痛みを訴えるけれど、気にする必要は無かった。
 何しろ、この程度、洞窟の何処かに接地すれば即座に癒えてしまうのだ。突撃の隙を突いて雄哉が眷属の腹部を殴打する間にふわりと壁面へ着地すれば、それだけでほんのりと優しい熱が傷付いた足下を包み込んだ。

「大丈夫か!?」
「ヘーキヘーキ! でも、そろそろどうにかしなきゃだね」
(「――お巫山戯はまあ、程々に。ボスのブレスで取巻きの回復されても厄介だし?」)

 癒やしの恩恵に預かりながら、林檎は三体居る眷属の攻略方法を考える。
 無論、全てを林檎が請け負う必要はなく、先ずは今、雄哉が拳打を喰らわせた一体と、今クロッツの援護射撃・氷刃を受けているもう一体がどうにかなれば良いのだが。

(「なる早で対処したい所。いつまでも|本命《ファフニール》を仲間に預けっ放しにも出来ないしね」)

 その考えは、クロッツも同様だった。今、掲げる手に魔力を練って絶えず飛ばし続ける氷刃は、あくまで敵の牽制を目的としたものだ。
 氷である分、炎熱纏う敵にはさぞ不快であろうと用意した手段。これが決定打になるとは、クロッツは思っていない。

(「これで片付けられれば御の字だが、まァ無理だろ」)

 ――ならば、どうするか。考える間に、眷属は氷刃を強靱なる爪で薙ぎ払い、怒りを帯びた甲高い咆哮を上げた。

「ギャゥウウアアア!!!!」
「――光、ね」

 クロッツの切れ長の瞳が洞窟内を|具《つぶさ》に見回し、やがて一つの結論に辿り着いた。氷刃を生む魔力は維持して、しかしクロッツはもう一方の手にも異なる魔力を注ぎ始める。
 ディアが生み出した癒やしのフィールド、或いは降り注ぐ矢雨――それらが生み出すものは、何も光だけではない。
 地続きであるがために、上下四方全てが光に満ちて紛らわしくはあるが、確かに存在する。眷属の体、翼の付け根や関節部に、僅かだが、確かに――影。

「……『さァ楽しい楽しい食事の時間だ。一片たりとも逃がすなよ?』」

 上目で睨み付け、しかし笑んだクロッツが魔力帯びたその言葉で命じた瞬間、二体の眷属、それぞれの体表の僅かな影から漆黒の歪な手が空へと広がり、しなる指で巻き付き締め上げる様に眷属達を拘束した。

「……ッギャアアゥゥウウウウウ!!??」
「グギャァアアアアッ!!???」

 驚く眷属達の体を、翼ごとギチリと締め上げ、地へと落下させていく――魔力を孕んだ影の名は、ユーベルコード『|影追《シャドウシャーク》』。
 形状自在、クロッツの思い描いた様に対象を捕縛する魔影に、眷属達は暴れ喚き散らしながら落下していくしかない。だが、落下ダメージだけでは駄目だ。オブリビオンを消滅させるためには、どちらにもあと一手、力が要る。
 それを、クロッツも理解している。その上で――笑みを深めた。

「こうしときゃ後が楽だろ。……仕留めろよ?」
「――ああ、必ず!!!」
「任された!! 『脳天から揺らしてあげる』!!!」

 応えた二つの声――先ずはたん、と高らかな足音の後、墜落する一方の眷属の更に上に、小さな人影が現れた。
 まるで重力を知らないかの様に、トッ、トッ、と『空翔』で高く軽く跳ね上がった林檎。やがて身を翻して反転、天面へ両足を付けると、――ドン! と激しい音を立てて蹴り出し、凄まじい速度で下降した。
 落下の最中、腰を軸にもう一度くるりと身を返す。左足は折り、右足は高く掲げながらその|踵《かかと》へ力を集めれば、眷属を屠る用意は万全だ。

「一匹だって残さないよ!!!」

 ――ズドン!! 重力も上乗せた林檎の全力の踵落としが、ガラルグランの脳天に直撃した。頭蓋、装甲、あらゆる防護を叩き割るその一撃は、ユーベルコード『|脳天直撃《スカルブレイカー》』。
 一方、――もう一体。空より重力乗せて迫り来る眷属の真下には、メリケンサックを握り込む拳に闘気のオーラを纏わせた雄哉が待ち構えていた。

(「信じて託してくれた好機だ、無駄にはしない……!」)

 この戦いの始まりに、クロッツは雄哉に言ったのだ。「待てるか」と。宣言通りに作ってくれたこの瞬間に、応えずして何になる。
 思えば、眷属見上げ待ち構える雄哉の青い瞳が金へと変じた。

「……砕っっっっけろ!!!」

 ――パァン!! 落下ギリギリまで待って、雄哉が下より突き上げるその拳は鋼鉄の硬度。
 雄哉の直ぐ隣に、――ドシャン! と林檎によって蹴り落とされた眷属が肉を潰しながら叩き付けられた。しかし雄哉の打った眷属は、再び空へと舞い上がる。
 鋼鉄の硬度に、落下重力も手伝って鱗肌へ深く拳型の痕を残したその眷属は、やがてズン! と地を揺らして落下すると、しばしピクピクと痙攣し、そのまま動かなくなった。
 これで残るは、眷属一体とファフニールだ。残る眷属を一瞥し、しかし雄哉が林檎を促し向かったのはファフニール。
 何故なら、――|あの二人《・・・・》ならば、必ず仕留めると信じたから。
 眷属を追い掛け、ひた走る豊。走る、走る。癒やしの光に輝く地表を。迫る炎圧を掻い潜って。
 雄哉も学び舎を共にした、|嘗ての学友《エクスブレイン》――そして、後方で照準を覗き込む紗矢もまた、目的を共にした|学友《灼滅者》だった。

「援護しよう、豊。……これ以上、自由にはさせない」

 今、紗矢は豊が追う眷属の進路を予測し、未だ何もない空間へと青きバスターライフルを構えている。ちら、とそれを横目に確認した豊は、今はその照準に敵の進路が重なる様誘導するを役目と定めた。
 紗矢のあのバスターライフルの一撃は、先の戦いで一度目にして既に性質を把握している。射撃速度、精度、威力、いずれもこの弱った標的を撃ち墜とすに申し分無い筈だ――逆に、豊には猟兵にとって切り札たるユーベルコードの使用を今は控えたい理由がある。
 だから、援護と言われたけれど――今は豊が紗矢の灼滅を支援する時。思えば、駆ける足は更に速く、追う筈の眷属の前へと進み出た。

「……此処で時間を使ってられるか! さっさと失せろ!!」

 ダン! と強く壁を蹴って、眷属の頭上更に高くへ跳躍した豊は、警戒にかぶわ、と周囲に散った眷属の魔炎を掻い潜り、右足の外側面で巨大な頬を横薙ぎに蹴り飛ばした。

「……ッギャゥウ!?」
「まだだ!!」

 足の外側面で横に蹴り飛ばしたということは、豊の体は今、横回転の遠心力が働いている。眷属の頭部もまた、蹴り飛ばされた方向へと首に回る力が働いているわけで――結果眼前で無防備に晒された後頭部目掛け、豊はもう一方の左足で、遠心力と渾身込めた一撃を打ち込んだ。

「ギャァアアアアアアアッ!!!!??」

 パァン! と乾いた音がして、眷属がぐらりと体勢を崩した。ユーベルコードではない一撃では、恐らく即座に復帰するであろうが――この生じた一瞬の隙が命取り。
 照準に眷属を捉え、今、バチバチ、と紗矢のバスターライフルの長大な銃身には電撃が迸り爆ぜていた。十分な装填時間を経た『|Tuono Lunare《ツキノライメイ》』――眷属を早々に討ち果たすべく、力解き放つに不足はない。

「あれほど大きな的ならば、外すことはない」

 宣言と共に、紗矢のバスターライフルから、込めた魔力を凝縮した眩い一閃が解き放たれた。
 弾道に、時折バチリと爆ぜる火花を散らしながら。真っ直ぐと眷属の眉間に突き刺さった一射に、眷属はただの一撃で絶命した。ゆっくりと地に横倒れに墜ち、もう二度と動かなかった。
 遅れて到達した月の如き光輪が、まるで余韻の様に空へと消える。

「……よし、ガラルグランは片付いたな」

 最後の眷属の討伐を確かめ、紗矢は一つ息を吐き出した。いつしか呼吸する都度の喉の痛みを感じなくなったのは、眷属を全て葬って大気が幾分か温くなったためだろうか。それとも足元に煌々と灯る癒やしの光の効果だろうか。
 いずれにせよ、此処からが今日の最後の戦いだ。思って紫晶の瞳で見上げた先には――アレクシス、セリオス、そして緋那と交戦しながら空を蹂躙する炎の巨竜、ファフニール。
 ――そう。この灼熱の戦場に、倒すべきはもうあの首魁のみとなったのだ。

●決着
「光矢の雨、何度だって降らせてあげる!!」
 
 ぱぁん! と再び光弦弾ける高らかな音が鳴り響き、ディアの光の矢雨が降る。
 癒やしのフィールドの維持を最重要と位置づけて、幾度とディアは矢を解き放っていた。本来、効果はある程度持続するものではあったが、敵より幾度と吐き出されているドラゴンブレスが地表に触れると、相殺されその効果が部分的に消えてしまうためだ。

「――来るよ!!」

 ああ、まただ。息を吸い込み僅かに膨らむ竜の胸に気付き、林檎は危急の声を張った。
 狙う先が何処かと竜の視線を探れば、ぱちりと目が合い、此方と把握。しかし回避に動きかけた林檎の眼前に、青い外套、白銀の鎧を纏う騎士の背中が飛び込んできた。

「僕が相手だ! ファフニール!!」

 アレクシス――心優しく、心強き清凜の騎士は、正面からそう宣言し、真っ直ぐと竜目掛けて駆ける。幾度と大盾に炎圧を請け負って戦線を維持し続けた彼の装甲は今ボロボロだ。
 今日此処までのファフニールとの戦いで、彼が上げた功績はとても、とても大きなものだ。叶う限り最前線に配し、守りながら振るう剣の斬撃が地を裂けば、そこからは竜の目を引く魔力の光が溢れ出た。
 決して弱くはなかったファフニールの攻撃を引き付けること、守ること――彼がそこに特化して動いたことで、眷属討伐を担う猟兵、ファフニールへの攻撃を担う猟兵が目的に専念出来たのだ。
 ……簡単に受け止められる攻撃ではなかったというのに。

(「……きっと大丈夫だ」)

 そしてもう一つ、アレクシスの功績が大きかった要因は、心配を不安をひた隠し、アレクシスが生み出す隙を待って拾い続けたセリオスだ。
 歌で、共に戦うアレクシスと緋那を支援しながら、耐えてずっと戦い続けた――今も、吐き出されたドラゴンブレスがアレクシスを襲うのを目にして、剣握る手はぎり、と音を立てる程だと言うのに、セリオスはアレクシスを止めない。ただ、一途に信じていた。
 必ず守り抜いてくれる――だって、|彼《アレス》はセリオス《俺》の盾だから。

「……っ、灼かれようとも負けるものか! 我が青星と灼滅の勇士達に……光を!!」

 攻め立てる竜の炎圧が途切れるのを待ち大盾を下ろすと、威勢の声を上げたアレクシスは、眼前に掲げた白銀の騎士剣に光の魔力を注ぎ込んだ。
 ――キィン! と甲高く響いた音は剣と魔力の共鳴か。眼前に留める剣の柄に白く輝く聖なる印が浮かび上がると、そこから星が如き眩い光が空間中に広がった。
 ユーベルコード『|希望の福音《ルシフェロ》』――ドーム状に放たれた光の内に在る仲間の防護と治癒力を高めるこの技は、ディアが敷く癒やしのフィールドの効果を高め、また守る力にもなった。
 術者たるアレクシスを屠るべく、再び炎が吐き出されるけれど。

「破りに来たか! ……でも!!」

 必ず防ぐ決意の元に、アレクシスが|大盾《閃盾自在『蒼天』》を構えると、その手元から光の壁が顕現し、より堅固に炎を弾いた。
 弾かれた炎は癒やしのフィールドへと落ちる。しかし、先までならば相殺され消えていたフィールドは今、そのまま維持されている。これならばディアも、この維持が続く間は攻撃に参加出来る。

「グォオ、オオオオオアアアアアア――――!!!!」

 苛立ちを隠さぬ声で、巨大竜が咆哮を上げた。そして息を吸って、またブレス――その飛び動作の癖やブレス吐き出すタイミングを遂に見切ったアレクシスは、再び光の壁を顕現させると、大盾へと纏わせ、そのまま盾で巨大竜を押し叩いた。

「グォオアッ!!??」

 パァン! と激しく体を打った|盾の一撃《シールドバッシュ》は予想外であったのか、巨大竜は目を剥いてアレクシスを凝視した。だがその一瞬動きを止めた瞬間を――遙か上空高くから見つめる視線がただ一つ。
 長く艶めく黒髪を今は上へと靡かせて。窟内高所から――ヒュン! と重力に逆らわぬ凄まじい速さで降下して来るセリオスの姿があった。
 巨大竜の視線はアレクシスに縫い止められ、迫り来るセリオスの存在には気付かない。上空よりそれを確認してニッと勝ち気な笑みを浮かべたセリオスは、手に握る純白剣に根源の魔力を込める。

「『歌声に応えろ。力を貸せ。――この壁を打破する、無窮の力を!!』」

 命じる声に、純白だった剣身は、次第に微かな青みを帯びる。頭上に掲げて振り下ろすその斬撃の名は、ユーベルコード『|彗星剣《メテオール》』。

「そのでかい図体、斬り落としてやるよ……! 食らえ……『|彗星剣《メテオール》』!!!」

 ――ズン! 巨大竜の肩から差し込まれた刃が、セリオスが地表へ着地するまでの間、竜の体を辿り縦一文字に斬り付けた。流石に大きな大きな傷だ。巨大竜は再び痛みの咆哮上げれば、傷口からは血の代わりに炎がぶわ、と噴き出した。
 しかし、これほど連携の取れた強力な一撃を持ってしても、未だ巨大竜は空を蹂躙するままだ。

(「これが……竜種ファフニール」)

 その強さに、雄哉は舌を巻いていた。灼滅者時代に、その存在と戦いの報告は聞いたことがあったが――居るだけで環境を灼熱へと一変させる魔力も、対峙して感じる威圧も。断じて放置出来るものではない。

「……ここで灼滅するのみだ!」

 だから、魔力を帯びて蒼から輝く金へと変じた己が瞳で睨み付け、雄哉は威勢の声上げ駆けた。
 息吸う予備動作が必要と既に把握したブレスは、その予備動作を行うが故に恐らく連続では吐き出せない。ならば次の一撃が来る前に、何としてでも接敵を――狙う雄哉のその道行きを、後方より響く古語の詠唱が後押しする。

「―――――(" はるか彼方、遠き天上へ至る我が祈りよ ")」

 甲高い魔力と術式の共鳴音が響く中、謳う様に詠唱するシェラがそこに立っていた。
 伏せた長い睫毛の下に煌めく金の瞳を隠し、足元に広がる輝く金の魔方陣の上、シェラの9歳の小柄な体はふわりと僅かに浮かんでいる。
 仲間達が眷属を倒しきるまでの短い、しかしただ一撃の魔力を練るにはなかなかに長い時間を要し――古き魔術を紐解くシェラが不思議な音域で紡ぐ言葉を、解することが出来る者は今この場にはシェラ本人のみ。
 
「――――――――、―――――(“ 我が祈りは星となれ。我が願いは光となれ。全てはあるじの望むまま ")」

 それは主たる神へと捧ぐ言葉。しかしシェラが自らの心から紡ぎ出したものではなく、あくまでシェラが所属する教団の定められた詠唱に過ぎない。
 ……そして、シェラは果たして己が信ずる神が|教団《そこ》に居るのか、居ないのか、正直未だよく理解ってはいない。

(「……私は、教団のために生かされ行動している者。神に忠誠を誓う聖職者ではない」)

 教団におけるシェラは『執行者』だ。教義に反する者や障害になるものを排除するための兵士――それは、端的に言えば『汚れ仕事をする者』である。
 そんなシェラが、信ずるかも解らぬ神へ祈り、捧ぐ言葉を紡ぐとは。

(「……いっそ滑稽だな」)

 心内に己を嗤いながら、シェラは詠唱を果てまでその声に乗せる。

「―――――――( " 我が祈りよ、我が願いよ。あるじの威光と共にあれ ")」
 
 紡ぎ出した最後の音が共鳴音と重なると、ぶわりとシェラを中心に突風が巻き上がった。
 風に乗って足元の金の魔方陣からぱらりと古代文字が浮かび上がると、空へ上っては消えていく。伴い、シェラ周辺の大気中に銀の光がチカチカと瞬き出したのは、大気に放たれた魔力が飽和して光っているためだ。
 やがて、溢れ明滅する魔力は、シェラが祈る様に両手の内へ握り込む銃へと注ぎ込まれていく。――これこそ、シェラが紐解いた特別な魔弾術式。
 ユーベルコード『|祝福《アエキウィタス》』。ひとたび銃の引き金を引けば、術式で生じた飽和魔力を用いて無限供給・連射される必中超威力の銀の魔弾。

「グォオオオオオオオオオ――――!!」

 突然の着弾の連続に、巨大竜は驚きと怒りを帯びた咆哮を上げた。
 時間を掛けて練り上げただけあって、弾丸は一つ一つが高威力だ。視界奪う様に目を狙った連射は、シェラの狙い通りに全てが竜の顔周囲へ着弾して爆ぜ、巻き上がる煙によって竜の視界を奪っていく。

「これなら……近付ける!!」

 笑んで地表駆ける足を加速させる雄哉の上空を、ひゅっ、と凄まじい速度で大翼背負う人影が抜けた。
 手には日本刀を持つ――緋那だ。敵が視界不良の今、言うまでもなく好機と即座に空を翔けた緋那は、標的へ近付くにつれ熱さ増すこの戦場でも表情一つ乱さない。

「慢心は忌避すべきものですが、好機を逃すわけにはいきません」
「グォオアアアアア――――!!!」

 煙振り払うためか、不意に巨大竜が両翼をバサ、バサともがくように激しく扇いだ。巻き起こる風は高熱帯びて猟兵達に吹き付けるけれど、緋那の冷静な表情はやはり変わらず、飛行とて少しの揺らぎも無い。
 緋那がユーベルコードによって強化したのは、空中機動や空中戦技能だけではないからだ。火炎への耐性。これが増したことによって、今日のこの灼熱下でも体に変調は感じない。
 結果、イフリートの相手も随分とし易くなっていた。だからこそ緋那は、仲間が眷属に対応する間も今も、休むことなく熱源たる巨大竜へ対応出来た。

「グオ、グォアアア!!!」

 騒がしく動く巨大竜を偽翼の高機動によって回避。すると刹那、流石に見えぬ視界でも接近し動く存在には気付いたか、巨大竜は緋那に向かってくわりと鋭き牙を剥き出した。
 巨大な翼も、今にも扇がんと力が渡っているのが理解る。これは――突撃が来る!

「受け止めれば装甲まで嚙み砕いて来るようですが」

 直近故に回避は出来ない。判断した緋那は100倍に強化されたオーラで自身の体を包むと、真正面に日本刀を構え。
 ――スパン! すれ違い様に振り抜いた日本刀が、巨大竜の口端、そして牙の一本を斬り裂いた。

「……グッ、ォアアアアアアア!!!!!!!」

 カウンターは予想外だったのだろう、斬り裂かれた大口を上げて、巨大竜のまるで悲鳴の様な咆哮が窟内にわんわんと響き渡った。
 あまりの大音量に、まるで洞窟全体が揺れる様な感覚を覚えるけれど、緋那は冷静にその大口から覗いた舌を返す刃で斬り付ける。瞬間、噴いた血飛沫がぶわりと灼熱の炎を点し、一斉に緋那に襲いかかる――。

「――敵を捕捉。狙撃し捕縛する」

 その時だった。ぶわりと広がった炎を裂いて、凄まじい早さのエネルギー線が巨大竜の口内から後頸へと貫通した。
 走り抜けるに一瞬遅れて、軌道線上にはバチリ、バチバチと|雷《いかづち》が光り爆ぜる。射出された跡を辿れば、そこには青く光る|黒鉄《くろがね》の長大な銃。
 紗矢のバスターライフルだ。

「腹でも減っているのか? 大きく開けたその口に、存分に魔法光線の連射を見舞ってやろう」

 緋那は決して食わせない。|武蔵坂学園《かの学び舎》の学友であった彼女は――照準を覗く紫晶の瞳で真っ直ぐに巨大竜を見据え、紗矢は再び引き金を引く。
 目的は、勿論狙撃。そして、援護するという約束のため。

「ッグムゥウウウウウ!!??」

 二射目に遅れ到着した無数の月の如き光輪が、巨大竜の口吻、翼、幾つも連なり輪を通し、締め付けて拘束した。
 騒がしい咆哮は口輪によってくぐもって、翼は歪に折りたたまれ、バタバタと不格好な飛行を見せる。時折体にはバチリと電気が迸る辺り、狙撃によって麻痺もしたか。それでも未だ墜ちない所は、流石は竜と言わざるを得ない。
 ――しかし、それもそう長くは続かない。

「噛みつきを封じて頂けるのは有難い」

 ふっと巨大竜の頭上に突如、一つ小さな影が過った。
 低温の声で語られた言葉、しかし紡ぐその表情は実に好戦的な笑み――壁を蹴って此処まで跳ねた豊が、中空から竜を見下ろしていた。

「貴様は俺を知らんだろうが、過去の貴様を灼滅したのは俺の班だぞ。その様子では記憶に無いか」

 語りかけながら少しばかり戦いに昂揚する豊の脳裏には今、あの日の記憶が過っていた。
 焦りもした。今日が己の最期の日と、腹を括った憶えもある。しかしそうはさせないと笑った灼滅者がいたことも、報告であわや全滅、という危険な状況もあり得たと聞いたことも、全て、全て憶えている。
 ――共に戦地に赴きたかった。同時に、苦難に立ち向かい勝利した灼滅者達に憧れた。今日のこの戦いはまるで、豊にとってはあの日の続きだ。
 視界の端に、紗矢の姿が見える。そして、見下ろす竜の向こう、地表にも――|雄哉と緋那《灼滅者達》。
 共に、戦っている。戦えている。それが今、何よりも豊の力となる。

「――かつての貴様の熱を返してやる」

 告げて、刹那に豊の体をぶわ、と深紅の炎が覆った。
 纏うは燃え盛る太陽の炎。全ての装甲、防護を犠牲に、全身を外敵焼き尽くす炎と成す、豊の戦う決意の具現。
 ユーベルコード『プロミネンスドライブ』。

「燃え尽きろ!!」

 振りかぶった掌底が、ぶわりと深紅の炎を引き連れて巨大竜の翼の付け根を掴んだ。
 渾身の力で指を竜鱗覆う肌表面へと食い込ませれば、ミシミシと骨軋む音がする。同時に、表皮焼き中へと侵食していく炎によってじゅわ、と血肉の焦げる不快な音と臭いが上がれば、豊は顔をしかめながらも更に掴む指に力を込め、竜のより奥深くへと炎の攻めを流し込んだ。

「グムゥウ、グムウオオオオオオ!!!」

 両翼の付け根から背の肉を焼かれる激痛に、しかし巨大竜は絶叫を上げる自由すら許されない。ただ、墜ちていく。翼を、制空権を奪われて――次第に高度が下がっていく、その大きな隙を緋那は逃さず日本刀を振り抜いた。
 豊が上部から攻める翼、その付け根を――下から切り上げれば、遂に巨大竜の背中が背より切り離されて脱落する。

「――今だ、有城君!!!」
「ああ! 必ず灼滅してやる!!」

 落下に巻き込まれぬ様、防護がゼロの豊は後を託して巨大竜の背から跳躍、退避した。緋那も脱落する翼を躱して離れ、此処には今、雄哉のみ。
 ふー、と大きく息を吐き、雄哉は墜ちてくる巨大竜を待ち構える。先ほどの眷属との戦いもこうだったな、と一瞬脳裏に過った時、隣に気配を感じて見れば、駆けてきた勢いに黒髪の内に秘める赤髪を覗かせる、林檎の横顔が在った。

「……熱さには慣れた! アタシの炎の方がもっと熱いよ!」

 トシュッ、と軽やかに地を蹴って、林檎の体は巨大竜の向こうへと跳ね上がった。くるりと体を捻って回転、見下ろす雄哉と視線重なれば――その狙いは直ぐに理解る。
 先と同じだ。林檎が狙うは、空中からの踵落とし。

「トドメは任せたよ雄哉くん! 今そこまで落としてあげる!!」

 ダァン!! と反響するほどの音を立て、林檎の渾身の踵落としが竜の脳天に見舞われた。
 速度を増して一気降下し迫り来る竜の巨体を、見上げる金の視線で射る様に見つめ、雄哉は両拳のメリケンサックをぎり、と音鳴るほど握り込んだ。

(「竜鱗は堅いだろうが、関係ない。破壊するつもりで叩く!!」)

 身を覆うは、|格闘家《ストリートファイター》の闘気。それを全て両の手へと集約させた雄哉は、遂に手が届くまでに迫った巨大竜を、左手でむんずと思い切り掴んだ。

「このまま……墜ちろ!!」

 右手で――パァン! オーラ纏う拳で打った瞬間に掴む左手を放し、即座に拳に変えて叩き込む。次は右。また左、と、打つほど叩くほどに打ち込む拳の間隔は短くなっていき、落下する暇を与えぬその拳の早さは今や1秒に100回だ。
 打つ、打つ、なおも打つ。その凄まじい拳打の反復。耐えぬ打撃で襲う技の名はユーベルコード『閃光百裂拳』。
 強力故に、打ち手が拳を痛めでもするのか或いは疲労によるものか、打つほど精度が下がるこの技を確実に当てるため、雄哉は危険を承知で可能な限り敵に密着し、打つ、打つ! 更に打つ!

「……グムウオオオオオ……!!」

 拳打の最中に、ふと。場の空気が変わっていくのに気付いて、雄哉はその手を止めた。
 大気中に広がる魔力が、急激に薄れていく。もうすっかり慣れてしまっていた目や肌をひりつかせるような乾きも、表出する水分全てを蒸発させる灼熱も皆、日常の適正へと急速に変化していった。
 巨大竜は受けた最後の一撃の勢いにのって中空を舞い、そのままズン! と地表へ落ちる。目で追えば、周辺に煮え滾っていた溶岩は一気に黒ずみ、次第に熱を失い沈黙。
 あれほど煌々と辺りを照らしていた洞窟各所に散る炎も、ひとつ、またひとつと消えて、辺りは暗闇に覆われていく。

「……終わっ、た」

 ――呟きは、果たして誰が落としたものか。
 最後にファフニールのお先の灯火が、まるでその命の様にふっと細く消えた時。|主《あるじ》を自然へと委ねた洞窟内は、静かな暗闇に包まれた。

●日常へ還る
 ぶわり、と、穏やかな茜色の炎が、柔く猟兵達の周囲を照らした。

「参ったよね。終わった途端真っ暗とかさー」

 戦いで得た傷から流れる血を炎と化して、林檎は視界を確保した。闇に閉ざされた視界とて猟兵達なら移動出来るが、何しろ一仕事の後なのだ。
 帰路にまで神経を使うくらいなら、流れる血を有効活用。「便利だよね」なんて笑う林檎に、炎に興味津々のディアは大きな蒼瞳を丸くしている。

「……さすがに暑かったな」

 襟元を手で扇ぐようにして、クールな紗矢が僅かに笑んだ。とはいえ、今は熱き戦いと場を覆った灼熱が嘘の様に、洞窟本来のひんやりとした空気が漂って来ている。

「体を冷やすといけない、早めに帰ろう」
「だな。……あーつっかれたぜ。甘いモンでも食いてーなぁ」

 微笑むアレクシスの穏やかな声に、セリオスも同意する。体を上へと伸ばしながら、思うままをセリオスが口にすれば。

「……帰ったらプリンが待っている」

 そわりと落ち着かない様子で、紗矢がぽつりと呟いた。
 表情こそあまり変わらないのに、声は何となく嬉しそうだ。だがその言葉には黙っていられず、林檎はぐるん! と紗矢へ思い切り振り返った。

「えーいいなー! プリン!!」
「ディアの作るプリンも美味いぜ」

 羨ましそうな林檎の声に、クロッツがこう挟めば、今度は紗矢がぐるん! と素早くディアへとその顔を向ける。「そうなのか?」と興味深そうに問いかければ、ディアからは「機会があれば振る舞うよ!」と明るい笑顔が返った。
 つい先ほどまで、熱い戦いを繰り広げていたとはとても思えない程の和やかな空気だった。しかし、この空気感は、この戦いでの連携が生んだものなのかもしれなかった。

「プリン……偶には俺も食うか」

 ――ふと。耳に届いた意外な声に、紗矢は後方を振り返る。
 帰路を進む猟兵達に、ほんの少し遅れた位置。仲間の背を見守れる位置を歩いてきた豊は、驚いた様子の紗矢に、ふ、と相好を僅かに崩した。
 思うはやはり、過去のこと。あの頃も、こうだったのかもしれない。厳しい戦いを終えた灼滅者達も、互いの健闘を称え合ったり、和やかに雑談をして、時に甘味を食べに行ったりしたのかもと。
 報告書には乗らないそんな戦いの先を思えば。そんな日常を、思い出を、これからは自分も共に重ねていける、と。それが豊には嬉しく、そして少し誇らしくも思えて。

「ああ、よかったら一緒に食べよう。……10個ほどで足りるだろうか?」
「……そんなにか?」

 紗矢の提示する量は、流石に予想外だったけれど。誰ともなしに上がる笑い声は、心地よいものだった。

 ――こうして。わいわいと楽しそうに来た道を戻る猟兵達を進む最後方より見つめ、ふとその足を止めたシェラは、9歳という年齢にそぐわない大人びた様子で、彼の足元を進む|黒猫《使い魔》を淡々の声で呼んだ。

「……ザミエル」

 なんだ、と声は聞こえずも、見上げるその視線から、次の言葉を待つと理解る。だからシェラは、いつもよりほんの少しだけ堅い声音でこう問うた。

「海の底にも、星の光は届きますか」
「『……さあなあ』」

 その金の瞳が今何を映し、何を思うか、それは誰にも解らない。ただ、何事か知る様子の使い魔は、まるで未だ幼い彼を見守る保護者の様に――気負うでもなく、深刻という様子でもなく、ただ穏やかに答えを返した。

「『けど、いつかは届くかもな』」

 言葉を受けて、頷くでもなくただ静かに瞑目したシェラは、暗闇の中に一人祈る。
 神ではなく、シェラの記憶の淵に漂う、海の底に眠りゆく彼らへ。やがて再び視線を上げ歩き出した少年と黒猫の去った後には、ただ沈黙が残される。
 洞窟に今は訪れるものもなく、猟兵達が去ったのちは、ただ穏やかに眠るのみ。
 ああ、静かに瞼を閉ざしたら。そこに見えるは当たり前の――暗闇。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年08月14日


挿絵イラスト