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|闇《ダークネス》の赤心

#サイキックハーツ #ノベル

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八木・仰河
バベルの鎖が健在であった時代では仰河の足跡はあまり伝わらず、広まりもしなかった。
一般的なダークネスの性質や僅かな情報から導き出される人物像は実際、世界の情勢や勢力間のパワーバランスに興味を持たず、好きなように生きる存在であろうか。
自らの興味のままに動き、他者を顧みないというのは羅刹によく見られる傾向である。

もし強大なダークネスが猟兵となって帰還したら…ダークヒーロー的な存在として解釈された仰河であるが、その実本来の人物像は割と人?(ダークネスだが…)が良く楽観的であった。

大売れした〈〈闇の輪郭〉〉が店頭に並ぶ書店の前を通り過ぎながら、ショッピングモールの中に於いては矢鱈目立つ格好、着崩した着物姿で歩む女羅刹が一人。
ふと風船を持った子供を見かけた仰河、何かイベントでもやってるな?と考えてイベントスペースに立ち寄る事に。
「にぎやかだね。アタシにも一つ貰えないかい?」
色を聞かれて今日の気分的に赤が良いかな、まずは棒付きの赤いゴム風船を貰ってからイベントに挑戦…とその前に少し離れた位置で風船を欲しそうにしている男の子(恥ずかしくて貰いに行けないらしい)を見つけたので「悪いね、あの子の分も貰えないかね?」と人の好さを発揮。
「アタシのついでさ、好きな色を貰いな」と美人な姉さんに助け舟を出して貰ったその子はきっと良き思い出として今日の事を覚える事だろう。

握力チャレンジでは人間離れした驚異の握力を発揮、景品のゲーム機を獲得…するも流石にダークネスの身体能力では悪いかな、と考えて「流石に悪いね、洗剤にでも替えてもらえないかい?」と洗剤に替えて貰った。
玩具の銃を使った射的では箱ティッシュ。
帰るころには色々景品を獲得、現代社会を十分に満喫してご機嫌に帰路に就くのであった。


イベント辺りを多めに書いて頂けると嬉しいです!



●ダークネス
 好きなように生きる。
 とは言え、しがらみは多く存在するものである。
 自分には余り関係がないが、と八木・仰河(羅刹の戦場傭兵・f05454)と笑う程度であった。
「『闇の輪郭』ねぇ」
 ショッピングモールにあっても、彼女の姿は目立つ。
 着崩した和装。
 加えて羅刹。
 黒曜石の角が光を受けて輝いている。誰もが遠巻きに見ているが、気にもとめない。
 彼女が見ているのは書店に平積みされている書籍である。
 一体誰がこんなものを書いたのだろうかと思うが、手にとって見ると、どうやらの書籍であるようだった。

 歴史を振り返った時、己という存在が断片的にであるが、他者に伝わっていたのだろう。
 ぱらりとめくってみると、やはり伝聞というものはあやふやなところが多いように思えた。
 だが、正すつもりもない。
 己が何かを正したところで何かが変わるものではない。
 なら、好きにすればいい。自分も好きに生きているのだから。

 平積みの上に本を置いて仰河は歩き出す。
 すると己の目線の高さに色鮮やかな球体が風に浮かぶようにして揺れていた。
「お?」
 見やればそれは風船と呼ばれるものだった。
 空気よりも軽い気体をゴムの袋に詰め込んで浮かばせるもの。
 子供がそれを手にとって己の横を走り抜けていったのだ。

「にぎやかだね。アタシにも一つ貰えないかい?」
 興味が出た。
 何か賑やかなことをやっていれば、つい顔を出したくなってしまう。
「えっ、あっ、はい! ど、どうぞ、お好きなものを!」
 イベントの係員らしき者が慌てて差し出す。
 こんなにはいらない、と苦笑いする。選び放題だ、とどれにしようかと見つめる。
「不思議なもんだね。空気より軽いものがあるなんて思いもしなかったよ……ん?」
 仰河の視線の先にいたのは、なにか言いたそうな、けれど一歩を踏み出せぬ様子の男児がいた。

「ふっ……いつの時代も童は変わらないもんさね」
「……あっ」
 仰河はためらうことなく一歩を踏み出して係員に告げる。
「悪いね、あの子の分も貰えないかね?」
「ええ、もちろん」
 係員はどうやら目の前の羅刹が悪いものでないと理解できたのだろう。彼女の言葉にもじもじしている男児に近寄る。
 すると男児は一歩下がる。
 ほしいのにほしいと言えない。天邪鬼とは違う。けれど、そういう性質が子供にあるのは知るところである。
 だから、仰河は笑う。

「そう遠慮するんじゃないよ。アタシのついでさ。一人で風船をもらうのはちょっと気恥ずかしいんでね。坊や、一緒に選んではくれないかい」
「……!」
 コクコクと頷く男児。
 仰河は黒曜石の角さえなければ、美しい女性である。
 幼いとは言え、そんな女性から微笑まれてはドギマギしてしまうのも無理な駆らぬことであっただろう。
「赤? それとも青かい?」
「お、おねーさんには、赤。僕が好きな、色だから」
「じゃあ、坊やは何色?」
 青、と指出す男児の頭を撫で回して仰河は立ち上がる。決まりだ、と係員から風船を互いに受け取って笑む。
 
 自然な笑みだった。
 イベントスペースをせっかくだ、と男児と共に回る。
 握力チャレンジ、射的、輪投げ。
 どれもが子供だましみたいなものばかりであった。そもそもダークネストしての身体能力があるのだから、簡単で同然だろう。
 だが、男児は憧れの目で見つめてくる。
「流石に本気を出すのはね」
「すっごいね!」
「……ああ、アタシはすごいのさ」
 そう言って仰河も笑う。
 男児に今日という1日を良き思い出として送ることができたことに笑むのだ。
 そこにあるのは書籍『闇の輪郭』には描かれていない彼女の素顔があった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年06月30日


挿絵イラスト