|Kick!!《うれしいね!!》
●あのね
我慢っていうのがあんまり得じゃなかったと思うの。
あたしは確かに六六六人衆というダークネスであったし、それまであんまり気乗りがしないっていうだけで理由さえ必要とせずに誰かと『遊び』をしていたと思うの。
特別なことじゃない。
普通なことじゃない。
矛盾しているみたいだけれど、きっとあたしはそういうものなんだって。
でもね、実際に武蔵坂学園に入ってみてわかったの。わかっちゃったの。
学校に通うってことはとっても楽しいこと。
知らないことを知ること。
知っていることを知ること。
どちらも『遊び』を我慢できる蓋だったのね?
どうしてだろうね。どうしても、それが我慢できないこともあるのだって知ったの。
「――」
物言わぬあなた。
きっと最初の一撃で、相当痛かったんだと思う。
あたしがしたことは、あなたの延命。
だってそうじゃない?
せっかく出逢ったっていうのに、すぐさまお別れなんて寂しいもの。
あたし、『遊び』をするなら長く、うんと長く、楽しめるだけ楽しんでいたいの。
でも、あなたは違ったんだね。
「それにしてもデカい得物だな」
「これで一撃で粉砕する圧殺の殺人技巧というわけだったんだね」
あ、おにーさん、おねーさんたちがあなたの武器のことを褒めてくれてるよ。
うん、あたしもあれに潰されちゃったら死んじゃってたね。
わかるよー。
だって、あたしも六六六人衆だもん。
一撃でもかすめたら、それでおしまいだって。
でも、だから楽しかったんだよ。
死ぬかもしれないって。殺されちゃうかもしれないって。そんなふうに思ったら、とっても楽しくって。なら、もう少しだけ。もう少しだけって思っちゃった。
あなたは一撃であたしを殺せなかったことに苛立っていたみたいだけれど……うん、たまにはそういうのも悪くなかったんじゃないかな。
おにーさん、おねーさんたちが来ちゃったから、みんなで遊べるんだって思ったの。
ね、二人っきりもいいけれど、みんなで遊ぶのも楽しかったよね――?
●このね
それは異形の死体であった。
巨躯とも言うべき姿。
筋骨隆々たる肉体美を誇るようであり、また同時に得物であった巨大な鉄塊めいたハンマーは、これまでどれほどの人々の生命を奪ってきたのだろうか。
復活ダークネス。
後にオブリビオンと呼ばれるようになる過去のダークネスたち。
彼らの台頭から、武蔵坂学園に所属するものたちは対応を余儀なくされていた。
此原・コノネ(精神殺人遊び・f43838)も、その一人であった。
下校中の襲来。
本来ならば一人で対処できるものではなかったが、しかし彼女は持ちこたえていた。
いや、長引かせていたと言えるだろう。
駆けつけた上級生たちと共にコノネはオブリビオンを撃退し、今は後処理を待っている。
「おつかれ。これ、飲みな」
上級生と思わしき男子生徒がオレンジジュースの缶をコオネに手渡す。
最初はキョトンとしていたが、もらえるものなのだと気がついてプルタブを開けて口に運ぶ。
甘い。
「よくがんばったな。それによくやった。君のおかげで被害らしい被害がなかった」
「あたしの?」
「ああ、君の」
「……」
コノネは頷く。
言葉は紡ぐことはなかったけれど、彼女の表情は喜色満面に変わっていく。
震える。
体が震えた。
確かに『遊び』は楽しい。
けれど、それ以上に褒められた、ということが嬉しかった。
これまでは『遊び』をして咎められることはあっても褒められることなかった。
結びつくオレンジジュースと褒められたという承認。
脳の何処かでつながってしまったそれは、コノネの人生を変えていくのだった――。
成功
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