|Kick! 《たのしいね!》
●あのね
学校というものは、とっても楽しいもの。
少し面倒に思えることもあるけれど、一括りにしてしまえば楽しいものと言えるよね。
あ、これは自分の学生証。
学生証が何かって?
自分が何者であるのかを示すものではなくって、自分がどこに帰属しているのかを示すものなの。
ほら、見て。
この服。
制服っていうんだよ。
かわいいでしょう? あ、かわいいということもわからない感じ?
いえ、わかるよ。
殺すことがあたしたちの命題だもんね。
うん、そうせざるをえないというより、そうしなきゃって思うし、そうしたら楽しいって思うものね。
『遊び』ってそういうものだもん。
楽しさに溢れていて、ああ、生きてる~って感じること。
ヒリヒリするような傷の痛みもそうだよね。
生きてるって痛いってことだし、苦しいことだもの。
でも、大抵の人は、こういうのって違うみたいなの。生きてるってことは素晴らしいことだとは思うけれど、痛いのと苦しいのは嫌なことなんだって。
不思議。
生きているだけで苦しいのは当然のことなのに。
ね? あなたもそうは思わない?
「――」
ああ、そっか。
喉を締め付けているからお返事できないねぇ? ごめんね?
はい、これでだいじょうぶ。
「ゲハッ、ゴホッ、ガッ……!!」
苦しい?
生きているね。死んでいないね。
それって嬉しいってことだよね。うん、あたしもそう。でも、あなたとの『遊び』、ちょっと飽きちゃった。
だって、あなたのやることって、とっても一辺倒なんだもの。
殺すためだけなんだもの。
生きるために殺すわけじゃなくて、殺さなくても良いのに殺しているって感じがするの。
「なら、っ、お前は……違うって、いうのかっ!」
そうじゃない?
だって、あたしは楽しいもの。
昔は『遊び』をすると怒られたし、簡単だったからつまんないなって思ったの。
でも、今は違うもの。
『遊び』は難しくなっているし、あなた達……ええと、なんていったっけ。
そう、復活ダークネス!
あ、違うわ。これも違う。確か、オ、なんとか。
「オブリビオン」
そうそう、オブリビオン!
あなたたちってオブリビオンでしょう?
『遊び』をすると前は怒られたけれど、今は褒められるの。
きっと、それって難しいことだからよね。
他人にできないことをしているから褒められているのよね。
喉乾いたね。水筒……あ、忘れちゃった。
そうそう、他人にできないことと言えば、最近、あたし背が伸びたって思うの。
まだ自販機の一番上のボタンは押せないけれど、真ん中より少し上のボタンは押せるようになったの。
来年なら届くような気がするの。
いいえ、きっと届いているよね。
あ、話が逸れたね。
ごめんごめん。
今日は暑いね。あ、これも違う? どうせなら最初にすべき話題だったかも。
お天気の話は誰でもできるものね。
今日は晴れてますね。でも昼から曇って、夜には雨が降りますよって、会話のキャッチボールが簡単にできちゃうもの。
「みず、を――」
うんうん、水ね。
でも、あたし水よりオレンジジュースが好きなの。
きっとこれが『ご褒美』だからだよね。初めて『遊び』で褒められた時にもらった特別なの。だから、とっても大好きなの。
『遊び』でこんなに褒められるなんて、あたし思ってもいなかったんだ。
昔はね、興味がなかったの。
六六六人衆って言われても、なにそれ変な名前って思ってたし。
何より、人間って、弱くってもろくって。
とてもじゃないけれど、『遊び』ができるなんて思わなかったの。でも今は違うわ。
思いっきり『遊ぶ』ことができる。
全部全部、あなたたちのおかげよ。
ね、あなたも楽しかったよね?
あたしが『あーそびーましょ!』って言った時、とっても目が輝いていたもの。
ね、そうでしょう?
運命感じたよね? あたしは楽しい『遊び』のチャンスだって……。
……。
……うん、楽しかったね――!
●このね
路地裏の一つの死体が転がっていた。
それは復活ダークネスと呼ばれるものであり、オブリビオンと呼称される存在であった。
此原・コノネ(精神殺人遊び・f43838)は、その死体のそばにかがんでいたが、漸く立ち上がる。
死体が霧散しはじめたからだ。
オブリビオンの死体は残らない。
霧散し始めたということは、もうこの『遊び』はお終いということだ。
「楽しかったぁ」
彼女は散歩の途中で猫とじゃれたように笑み、馴染のスーパーへと足を向ける。
殺人技巧を凝らした『遊び』をしたのだ。
オレンジジュースと、今日はシュークリームも買ってしまおう。
この幸せな気持ちを甘いものは代弁してくれる。
今日もコノネは幸せだ。
この上なく。
楽しい『遊び』をした。きっと明日は学園で褒めてもらえるだろう。
その前祝いというように彼女は足取り軽く、凄惨なる戦いの現場から去っていくのだった――。
成功
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