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無限の中でも、愛とともに馬は駆ける。

#シルバーレイン #ノベル #ナイトメア適合者

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ムゲン・ワールド
 ムゲンの過去編にしてナイトメア適合者に目覚めるきっかけとなった悪夢について描写してください!

 ナイトメアについては「ナイトメア シルバーレイン」などのワードで検索すると『TW2 シルバーレイン』時代の資料が出てくると思います。必要ならば調べてみてください。知らなくても書けるようにリクエストしようとは思っています。

【第0幕 悪夢の入り口】

 ムゲンは過激な思想に取り憑かれた「教会」にて暗殺者として拾われた孤児でした。(この「教会」はムゲン周りのオリジナル設定なので、調べても特に資料はありません。膨らませたい場合はご自由にどうぞ)
 なお、この時点ではムゲンは「アンリミテッド」という暗号名で呼ばれていました。
 そこでムゲンは暗殺について学び、ひたすら暗殺者としての生活を送ってきました。
 小さい頃から暗殺を学び暗殺の道を生きてきた彼にとって、それは当たり前の行為であり、疑問を抱くこともありませんでした。

 ある日ムゲンは、中国での暗殺の仕事中、暗殺に失敗し、怪我をしていたところを 白い長い髪に漢服の美しい少女「|夕蝶《シーディエ》」に助けられる形で出会います。
 この時、ムゲンは15歳、夕蝶は12歳でした。
 怪我を癒し、また敵の警戒が消えるまでの間、ムゲンは夕蝶と緩やかな時を過ごします。
 一人っ子の夕蝶はボードゲームが大好きで一緒に家で遊ぶ友達が出来たことに喜び、毎日のように二人はボードゲームで遊びました。
 ムゲンに「ムゲン」と言う名前を与えたのも夕蝶です。
「アンリミテッドって言いにくいから、私の大好きな日本の言葉に変えちゃいましょう」といって、ムゲンという愛称を与えました。

 しかし、その穏やかな時は長く続きませんでした。怪我も癒えた頃、ついに敵がムゲンの生存に気付き、夕蝶の家に襲撃してきたのです。
 ムゲンは仕込み杖を抜いて戦い、敵を全滅させますが、振り返ると、そこには夕蝶とその家族の死体。
 暗殺ばかりして生きてきたムゲンには、大切な人を守りながら戦う、なんていう器用な戦い方はまだ出来なかったのです。

 ムゲンは絶望に暮れながら、「教会」へと帰還します。
 そしてその夜から、その絶望を餌にやってきた来訪者種族「ナイトメア」により、悪夢に捕えられる事となるのです。

【第一幕 繰り返す悪夢】

 ムゲンの夢に住み着いたナイトメアの基本的な方針はシンプルでした。
 夕蝶と再開させ、再び穏やかな世界を見せる。
 そして、最後は同じ終わり方。敵の襲撃により、夕蝶は死ぬ。
 夕蝶が死ねば、ムゲンは再び夕蝶とあった時点に戻る。
 悪夢の中で、ムゲンはループに閉じ込められてしまったのです。

 ナイトメアはムゲンが絶望し切ってしまわないよう、家の中だけでなく様々な場所に遊びに行くよう、夕蝶を操ります。
 遊園地に遊びに行ったり、水族館に行ったり、スポーツ観戦に行ったり(文字数が許せばここをうまく膨らませてください)

 ムゲンは異なる展開が現れるたびに、今度こそ終わりも異なる展開になるのではないか、と期待しますが、必ず終わりは同じでした。

【第二幕 愛への目覚め】

 ナイトメアはムゲンの絶望をより深くするため、夕蝶との関係を変えてしまう方針に踏み切ります。
 ムゲンと夕蝶は夕蝶の積極さの前に恋人となります。
 キスをして一緒のベッドで寝て、親には内緒の恋人同士としてこれまで以上の穏やかな生活を送ります。同じ場所へのお出かけも、デートとなればいつも以上に楽しい時間です。(文字数が許せばうまくここを膨らませてください)
 ですが、やはり最後は同じ、夕蝶は死にます。

【第三幕 決められた運命への抗い】

 気がつけば、夕蝶へ告白するのはムゲンの側になっています。
 夕蝶を大切に思うムゲンは夕蝶との日々を大切にするため、夕蝶より早く告白して早く恋人になる、という道を選びます。
 ですが、どれだけ楽しい日々を過ごしても、最後に待つのは夕蝶の死。

 ムゲンはいつまでも夕蝶と幸せに過ごすため、その運命に抗おうと決めます。

 まずは単純に隙間時間に鍛錬を積み、夕蝶を守れる自分への成長を目指します。
 ですが、どれだけ首尾良く戦っても、突如現れた伏兵が夕蝶を殺します。悪夢なので、敵は無尽蔵に出現させられるからです。
 
 次にムゲンは夕蝶と共に、襲撃前の逃避行に挑戦します。
 それはそれで楽しい日々です。これまではあくまで近くに出かけるだけだった二人が、遠くの国まで旅をするのですから、それは楽しい旅だったことでしょう。(文字数が許せばうまくここを膨らませてください)
 ですが、最後に待つのはやはり、突如現れた敵の襲撃と、夕蝶の死です。

 何度も繰り返す死の中、ムゲンはループする直前に自身を嗤う黒い馬の存在に気が付きます。
 黒い馬は夕蝶の死に抗えば抗うほど、よりくっきりと輪郭を持つように感じます。
 ムゲンはあの黒い馬こそが、このループの元凶だと確信します。

【第四幕 ナイトメア適合者への目覚め】

 ムゲンは夕蝶を伴い、再び穏やかな日々を過ごします。
 対処すべきは夕蝶の死に抗った場合に現れる黒い馬ただ一匹。

 そして、その時がやってきます。
 襲撃してくる敵を切り倒しながら、夕蝶を守ります。
 守り続けていると、黒い馬がぼんやりと出現し、その黒い馬から兵士が出現するのを、ムゲンは確かに目にしました。
 やはり、あの黒い馬がループの、そして夕蝶の死の原因なのです。
 ムゲンは夕蝶を守りつつ、黒い馬に迫ります。
 そして、黒い馬をついに突き刺します。
「悪魔め、ここまでだ。この現実から解放してもらおう!」
 「教会」の教えに従い黒い馬を悪魔と解釈したムゲンはそう言って、黒い馬の喉を掴みます。
 直後、黒い馬が白く変化し、ムゲンの体内へと入っていきます。
 ムゲンはナイトメアを支配し、ナイトメア適合者へと目覚めたのです

 しかし、その瞬間、ムゲンは現実を知ります。
 これまでのループは全て悪夢の中の出来事。
 つまり、夕蝶の死は覆らないのだ、と言うことを。

 振り返ると、夕蝶が微笑んでいます。
「さぁ、ムゲン。現実に帰る時だよ。私のことは忘れて、新しい恋を探して。それから、暗殺者なんて事は、もうやめて」
 その言葉を最後に、夕蝶が消滅します。
 ムゲンの絶叫も、もう夕蝶には届きません。

 目覚めの時です。

【第五幕 死と隣り合わせの青春を】

 ムゲンは「教会」を脱走して日本に来ていました。たまたま日本行きの仕事があったので、その仕事を引き受けたふりをして偽りの身分を手に入れ、そのまま戻らないことにしたのでした。
 夕蝶が好きな国として語っていた国。
 そして、一度も行ったことのないと言っていた国。
 ムゲンはその中でも夕蝶が行ってみたいと言っていた鎌倉に来ていました。
 そこで、ムゲンは目にします。
 長い白い髪を持ち、和服の少女を。
 夕蝶とは全く違う人間であることは見ればすぐに分かりました。
 けれど、似た特徴を持っていたことは決して無関係ではないでしょう。ムゲンは彼女に一目惚れしてしまったのです。
 気がつけば、ムゲンはその少女が通う学校へ転入する手続きをしていました。
 その学園の名前は銀誓館学園。そこが、ムゲンのような能力者を養成し、ゴーストと戦っている学校だとは、まだムゲンは知りませんでした。

 最後までリクエスト文を読んでくださり、ありがとうございました。
 文字数はフルに使わなくても構いません。
 それでは、縁がありましたら、どうぞ宜しくお願い致します。



 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、空から視線を感じた。

 中国のとある町を流れる川。その麓から見上げてみると、大きな雲が通りかかっている。
 まさか、あの雲が馬にでも見えたのだろうか? 少年は自分の錯覚を鼻で笑いながら、自身の胴体に目を向けた。

 その腹に出来た大きな切り傷から、血液が溢れ出ていた。

 かつて孤児だったこの少年は、イタリアの教会に拾われ暗殺者として育てられた。その過激な思想に対して疑問も抱くことなく暗殺の道を生きてきたのだ。
 今回与えられた任務……それは教会と対立する組織に雇われた殺し屋の暗殺。その任務を遂行するために中国へと渡った少年だったが、暗殺は失敗。逆にこちらが刺されてしまったのだ。
 使命を果たせなかった自分に、もう価値なんてない。少年はこれから訪れる死を受け入れ、もう一度空を見上げながら瞳を閉じた。
 
「キミ、だいじょうぶ!?」

 ……子供の声?
 思わずまぶたを開くと、こちらをのぞき込む人物の顔が見えた。

 風が、雪のように白く長い髪を靡かせる。
 中国の伝統衣装でもある漢服を身に包んだその少女の顔は……死を前にした少年が息をのむほど、美しかった。

【第0幕 悪夢の入り口】
 その少女は『|夕蝶《シーディエ》』と名乗り、少年を自分の家へと連れてきた。
 そして彼女の母親の手当てにより一命を取り留めることができた少年は、夕蝶の提案で傷が癒えるまでこの家に厄介となることにした。敵の警戒が解けるまで潜伏できることから少年にとっても都合がよかったからだ。
「そういえば、キミって名前は?」
「『アンリミテッド』……あ」
 少年が口にしたその名前は、教会から与えられていた暗号名だった。本来は任務の関係者に対してしか口にしない暗号名なのだが、美しい少女が目の前にいることで動揺し、名前を聞かれた際に口を滑らせてしまったのだ。
「ふふっ、素敵な名前だね。でもアンリミテッドって言いにくいから……」
 夕蝶はひとりで話を進めてうなり始め、やがて手を叩いた。
「私の大好きな日本の言葉に変えちゃいましょう! 『ムゲン』、それがキミの名前だよ」
「……」

 そうして少年は、傷が癒えるまでの数日間を夕蝶と過ごした。
 その日々は……彼にとっての未知である、穏やかな日々であった。

「はい! おーて!」
 夕蝶はパチンと音をならして馬と描かれた将棋の駒を指す。その向かい側に座る少年は、逃げ場の失った王を呆然と眺めていた。
「ふふっ、ひとつの事を見るだけじゃなくて、ちゃんと周りも見なくちゃだめだよー?」
 この家で療養している間、少年は夕蝶に誘われてボードゲームで遊んでいた。始めは興味を持たなかった少年だったが、なんどもねだる夕蝶に根負けして以来、彼女に付き合っているのだ。

「私のお父さん、お仕事で日本の鎌倉にいるんだけどね……そこでこの将棋盤買ってくれたの」
 夕蝶は将棋の駒を大切に並べつつ、少年に語る。
「お父さんはなかなか帰ってこないけど、お手紙と一緒にいろんなボードゲームを送ってくれるんだ。私に兄弟はいなかったし、お友達もみんな外で遊ぶ方が楽しいって言うんだけどね」
 でも、と玉の駒を置き少年に微笑みかける。
「ムゲンがここに来てくれたおかげで、毎日が楽しいの。本当にありがとう」
「……」
 
 助けられたのは自分なのに、どうして感謝されるのだろうか。
 そもそも自分に感謝など必要ないのに……どうしてこんなに、暖かくなるんだ……?

「夕蝶ー? そろそろご飯よー!」
 少年が戸惑っていると、夕蝶の母親の声が聞こえてきた。
「はーい!! それじゃあムゲン、続きはまたあとで。行こ!」
 隅に将棋盤を寄せ、部屋を出る夕蝶。
 少年は将棋盤の側にある、オセロや双六などこれまで遊んできた多種多様なボードゲームの箱をしばらく見つめ、やがて彼女の後を追った。

 部屋を出た直後、少年は足を止める。

「ムゲン、どうしたの?」
「……」
 リビングの反対側にある玄関の扉。後ろから夕蝶、様子を見に来た母親が見ていても、彼は扉から目を離さず腰に手を当てる。
 扉の向こうから聞こえる足音が近づき、やがて鍵をこじ開ける音へと変わる。

 そして勢いよく扉が開かれ、人影が次々と侵入してきた!!

 夕蝶と母親が声を上げることも出来ない中、人影へと向かう少年が取り出したのは……杖。その杖の柄を引き抜いた瞬間顕わになった刀身が、先頭のひとりの腹を切り裂いた。
 続いて放たれる銃弾の雨。身をかがめながら少年はその人影を見て気づく。
 人影の奥に立つ男は自分が殺し損ねた標的……教会と対立する組織に雇われた殺し屋だ。自身の顔を見た少年を始末するためにこの場所を嗅ぎつけ、部下を連れて襲撃したのだ。
 銃弾が頭の上を通り過ぎた瞬間、少年は床を蹴り部下を切り捨てながら標的へと接近ッ! 標的が拳銃を振り下ろすよりも早くそののど元に目掛けて……刃を突き立てた!

 引き抜くと同時に大量の血を吹きだし、標的は崩れ落ちた。周りの部下も動き出すことなく、血の海の上に転がっている。
 その上に立つ少年は顔色ひとつ変えることなく仕込み杖をしまう。彼にとっては特に変わりの無い、いつもの光景。

 ――の、はずだった。

「……!!」

 振り返った先に見えた、死体。
 2人分のその死体を捉えた少年の瞳孔が、揺れる。

 一歩、一歩と、まるで死人になったかのように、その死体の元へと向かう。
 そして死体のひとりの顔に手を当て、虚空を見つめる瞳を見つめていた。

「……夕……蝶……?」

 少年が呼びかけても、額を打ち抜かれた夕蝶が口を開くことはなかった。その側で横たわっているのは、彼女の母親だ。
「……ぁ……ぁ……」
 なんども見慣れた死体。なんども嗅ぎ慣れた血の匂い。なのにそれらが少年の胸を締め付けていた。
 暗殺において、守るという行為は不必要なのに。暗殺しか教えてもらえなかった自分に、守るなんて器用なことはできないのに。少年の頭は、後悔という霧に覆われていった。



 その後、少年は窓から夕蝶の家を抜け出し、イタリアにある教会へと帰還した。
 標的を殺害したことで彼に与えられた任務は成功に終わった。だが、自分の部屋に戻った彼がベッドの上でまぶたを閉じる、あの頃の光景が浮かび上がる。
 その光景から逃れられることを願い、少年はまぶたを閉じ続ける。

(夢の中でもいいから、逃がしてくれ。永遠に覚めぬ夢でも、いいから……)


 
「キミ、だいじょうぶ!?」

 その声に、少年はまぶたを開いた。

 声の後ろから聞こえてくるのは、川の音。
 こちらをのぞき込むのは、風によって雪のように白く長い髪を靡かせる……夕蝶だった。

 ……たしかに自分は中国の端の麓ではなく、イタリアの教会にいたはずなのに。
 夕蝶は、死んだはずなのに。

【第一幕 繰り返す悪夢】
「私が死んじゃう夢? アハハ! それでずっと暗い顔をしていたの?」
 2人で将棋盤を囲みながら、夕蝶はいつもと変わらない笑顔を見せていた。
 少年が夕蝶と再開した日から数日……今日は夕蝶が死んだ日と同じ日。そのことに不安を抱えていたら、夕蝶の方から訊ねられたので正直に話したのだ。
「あ、ごめんね……ムゲンは本当に怖かったんだよね」
 お腹を押さえてまで笑っていた夕蝶だったが、ふと少年の顔を見て申し訳なさそうな表情をする。この現象についての疑問が、顔に出ていたのだろう。気にしていないことを伝えるために少年は首を振った。
 この穏やかな日々が続くのなら、それでいいのだから。

「夕蝶ー? そろそろご飯よー!」
 夕蝶の母親の言葉に、「はーい!」と元気よく返事する夕蝶。そんな彼女とともに、少年は部屋を立ち去り廊下を歩き始めた。

 その時、少年は足を止めた。
 後ろから聞こえてきたのは鍵をこじ開ける音。まさか。
「えっ――」
 扉を蹴破り、廊下に侵入してくる殺し屋たち。
 彼らが放った弾丸は、隣に立つ夕蝶の額に命中……白目を向いて彼女は崩れ落ちていく。
「……」
 あの時と同じように、夕蝶は死んだ。
 少年の胸は絶望に包まれ、膝をつく。その姿を見下し、誰かが嗤った。

「キミ、だいじょうぶ!?」

 再びまぶたを開くと、夕蝶が顔をのぞき込んでいた。
 あの時と同じ場所、あの時と同じ言葉……さっきのは、また夢だったのだろうか。
「酷い怪我……ねえ、私の家に来て! 手当てしてあげる!」
 少年はこの状況に戸惑いながらも、夕蝶とともに彼女の家へと帰っていった。

 再び始まる、穏やかな日々。
 その先で、夕蝶はあの日と同じように殺された。
 
 嗤う声とともに、少年は橋の前で目覚める。またもや夕蝶が殺され、またあの場所で再開する……少年は、繰り返されるループの世界に閉じ込められていたのだ。



「ねえムゲン、遊園地いかない?」
 オセロで遊んでいたある日、夕蝶は少年にそう提案した。
「……遊園地?」
「そう! この近くに遊園地があるんだけど、すっごく楽しいんだよ!」
 夕蝶のその言葉……初めて聞く誘いに、少年は期待を寄せた。

 きっと次こそは変わる。夕蝶が死ぬことはないんだ……と。

「ほら! 早く乗ろう!!」
 遊園地へとやって来た少年と夕蝶は、その時が来るまで楽しんだ。
 夕蝶が少年の手を取り、ジェットコースター、メリーゴーランド、観覧車……様々なアトラクションに乗っていく。
 暗殺者として育てられた少年にとって、経験したことのない楽しいひととき。鉄製の手すりを見た自身の笑顔は、潜入のための作り物ではない、ひとりの少年としての自然な笑顔。そして胸の内から感じるこの温かさが楽しいという感情なのだと、少年はようやく気づくことができた。
 そんな彼の肩を、夕蝶が叩いて振り向かせる。
「またここに、来ようね!」
「……うん!」

 瞬間、銃声が鳴り響く。
 満面の笑顔を見せていた夕蝶は少年の体へ倒れる。その後ろでは、拳銃を手にしていた殺し屋が立っていた。


 
 誰かが嘲い、再びあの日に戻り、夕蝶と出会って……やがて目の前で殺される。ループの中で1度抱いた期待が、少年をより深い絶望へと突き落としていた。
 
 ある時、水族館に誘われたこともあった。もちろん、運命は変わることなく……最後に待つのは夕蝶の死。
 教会にいたころのように、|感情を抱かなければ《心がなければ》楽になれるのだろうか。しかし……水族館で楽しそうに魚を眺める夕蝶の笑顔、そしてイルカショーで共に水しぶきを浴びて笑い合ったあの思い出を、捨てることはできなかった。



 今日は夕蝶と共にサッカースタジアムへ訪れた。彼女と一緒に選手の活躍を見て盛り上がる少年だったが、帰り道を歩いていると再びあの絶望を思い出した。まだ夕蝶の殺される日は先だが、これまでのことを考えるとその運命は変えられないだろう。
 心のどこかで、諦めたくないという声が聞こえてきたような気がする。だが、どうすればいいのだろうか。

 そう思っていた時だった。

「ねえ、ムゲン」

 横を歩いていた夕蝶が、ふと足を止めた。
 振り向いた少年の手を取る彼女の顔は……夕焼けと同じ色に染まっていた。

「ずっと思ってったんだけどね……キミと過ごしていると、不思議な気持ちになるの……」

 少しずつ、少年へと顔を近づける。

「私ね、大好き……いや、愛しているの。キミのこと」

 少年が答えようと開いた口を、夕蝶の|口が《キスで》塞いだ。

【第二幕 愛への目覚め】
 それ以来、ふたりは恋人同士となった。
 彼女の母親には内緒で、キスをしたり共に同じベッドで一緒に寝てみたりと……その日々は友達同士だった時よりも穏やかで、かけがえのないものとなっていた。

 恋人同士のデートとして翌日遊びに来た遊園地。少年にとっては来たことのある場所ではあったが、観覧車の中で夕蝶と2人っきりで乗るその時間は今まで以上に幸せであった。
 この幸せを与えてくれた夕蝶。そんな彼女と……ずっと一緒にいたい。きっとこれが愛なのだと、少年は自覚し始めた。

 それでも、夕蝶が殺される運命は変わらなかった。
 次も、その次も、変わることはなかった。拳銃を持つ殺し屋の後ろから響く誰かの声が、少年の愛を嘲う。
 
 ……それでも。

(もっと、夕蝶といたい)

 たとえ夕蝶の死が決められた運命だとしても、この時間が少しでも長く続いて欲しい。
 笑い声の中で聞こえてきた自分の心の声が、少年を変えようとしていた。



「俺と……恋人になってほしい」
 ふと気がつけば、告白するのは夕蝶ではなく少年になっていた。夕蝶よりも早く告白することで、彼女との日々を大切に過ごそうとしたのだ。
 その不器用な言葉に、夕蝶は目を丸くして……微笑んだ。
「いいよ。私もムゲンのこと……好きだもん」

 数日後、夕蝶は死んだ。
 なんど繰り返しても変えられないその運命。それでも、彼女と過ごす日々はより幸せな時間となっていた。幸せが増えることにより絶望が深くなるのと同じように、絶望が深くなるほど大切にしたいという思いが強まっていたのだ。
(いつまでも、夕蝶といたい……幸せな時間を、一緒に過ごしたい……!)
 夕蝶を殺害した殺し屋とその後ろの嘲う声。彼らを睨みつつ、少年は決断した。

(この運命……抗ってみせる!!)

 もう、彼は|教団《他人》の指示だけに従う『少年』ではない。
 自分の願いを叶えるために、愛する人のために立ち上がる、『ムゲン』だ。

【第三幕 決められた運命への抗い】
「ムゲン、どうしたの? 次のショー始まっちゃうよ?」
 イルカショーのアナウンスが流れる水族館の通路で立ち止まるムゲン。それに対して夕蝶は不思議そうに首を傾げていた。
「夕蝶、伏せろッ!」
「えッ!?」
 すぐさま夕蝶を庇いながら共にしゃがむムゲン。その上空を、銃弾が通り過ぎる。
 通路の先にいたのは殺し屋たち、ムゲンは床を蹴りあの時と同じように急接近して仕込み杖で仕留める。その流れで殺し屋の手から落ちる拳銃を取り、他の殺し屋たちを素早く打ち抜いていった。
 夕蝶を守れる自分になる。その思いで始めた鍛錬。夕蝶が殺されるよりも早く敵を殲滅させるそのスピードは、早朝や深夜といった僅かな隙間時間で行った鍛錬の成果だった。
「もう……終わった?」
 振り返った先にいたのは、恐る恐る顔を上げる夕蝶。その奥からは誰の気配も感じず、安堵したムゲンは夕蝶の元に向かった。

「なっ――」

 その夕蝶の後ろに、殺し屋が立っていた。
 たしかに夕蝶の後ろには誰もいないとさっき確認したばかりにもかかわらず。

 直後聞こえてくる銃声、夕蝶が床に崩れ落ちる音、そして、殺し屋の後ろに立つ『誰か』の声……

(――まだだ。まだ諦めてたまるか)



 次の夕蝶が死ぬ日、ムゲンは夕蝶が殺されることを本人に告白した。戸惑う彼女に対して、殺し屋がこない場所へ逃げようとムゲンは誘う。

 やがて家を抜け出した2人は、夜行列車に乗り込んだ。
「わぁ……!」
 窓の外の景色は夕蝶にとって刺激的で、そんな彼女の隣で見るムゲンの目も輝く。
 2人は殺し屋に対する恐怖心を遙かに超える、大切な人と共に行く旅の楽しさに包まれていた。
 
「ねえ、どうせだったらこのまま日本に行ってみない? 日本の鎌倉……まだ1度も行ったことがないから行ってみたいんだ!」
「夕蝶が行きたい場所なら、どこへだって行くよ」
 楽しそうにこれからのことを話し合う2人を乗せて、電車はトンネルへと入っていく。

 突然、車両を照らす照明が消えた。
 直後、ブレーキ音を鳴らして止まる電車。
「キャッ!!?」
「! 離れるな!!」
 それとともに鳴り響いたガラスの割れる音に、ムゲンは仕込み杖を取り出す。殺し屋たちが電車を止めて襲撃をかけてきたのだ!
 暗闇の中殺し屋を次々と裁き続けるが、倒した分だけ増援が現れる。それでも、ムゲンは諦めることなく仕込み杖を振い続けた。

 やがて銃声とともに、照明が戻る。
 映し出されたのは、血を流して床へと転がる夕蝶だ。
「……」
 なんどやっても同じ運命に、崩れ落ちるムゲン。悔しさで地面に拳を突きつけるその姿に、また誰かが嘲った――

「!!」

 その声に、ムゲンが顔を上げる。
 目の前の殺し屋の向こうに、微かに見えたその影。薄れ行く意識の中で、ムゲンはその影を見続けていた。
 
(そういえば……あの笑い声は|殺し屋《奴ら》のものじゃない!)

 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。
 それは馬の形をしていた気がする。
 


 繰り返す|無限《ループ》の中を、|少年《ムゲン》はもがく。
 変えられないとわかっても、夕蝶といつまでも幸せに過ごす日々のために、もがき続ける。
 その思いが伝わっていくように、その影も輪郭を形作っていく。

 そしてついに、影の形をムゲンは捉えた。
 長い首に長い足、長い尻尾、そして|鬣《たてがみ》……それは、黒い毛並みを持つ馬。
(悪魔だ……あの悪魔が、このループの元凶だ…… !)
 教会で教えられてきた、黒い馬の悪魔。嗤いながら去って行くその馬に手を伸ばしながら、ムゲンは誓った。

 胸の中で眠る冷たき夕蝶に、誓った。

 必ずやあの悪魔を、打ち倒すと。

【第四幕 ナイトメア適合者への目覚め】
「はい! おーて!」
 とある一室で、夕蝶はパチンと音をならして馬と描かれた将棋の駒を指す。その向かい側に座るムゲンは、逃げ場の失った王の周辺を分析するように眺めていた。
「ふふっ、ひとつの事を見るだけじゃなくて、ちゃんと周りも見なくちゃ……あっ」
 その馬を自陣の駒台に移動させ、別方向に潜ませていた飛車をその場所まで動かすムゲン。悔しそうに唸る夕蝶を見て、彼はクスクスと笑った。
「もう! 笑わないでよ!! ……あはは!」
 釣られて笑う夕蝶。いつもの部屋でなくても、2人でいるこの時間は穏やかなひとときだった。

「……」
 ふと、夕蝶は窓の外に見える街並みを眺めていた。2人がいるのは別の街のホテル。殺し屋が来るまでの時間稼ぎをするため、少しでも運命にあがくため、ムゲンは夕蝶を連れて旅をしてきたのだ。
「夕蝶、安心して」
 不安を抱えていると考えたムゲンは、安心させるように夕蝶に話しかける。
「悪魔は俺が倒す。そうしたら、2人で日本に行こう」
「……うん。私、ムゲンを信じているよ」
 土産屋で購入したポケットサイズの将棋盤を片付けると、ムゲンは夕蝶の手を握る。そして鍵をこじ開けるような音を立てる扉へ向き、仕込み杖を構えた。

 その扉が開かれた瞬間、ムゲンは駆け出し体当たりを仕掛ける!
 現われた殺し屋たちの先頭を蹴散らし、下から掬い上げるように仕込み杖を動かして床へ倒れようとしている彼らの喉元を切り上げる。残りの殺し屋たちも仕留めつつ夕蝶と共に駆け、非常口の扉を開いた。

 非常階段で待ち構えていた殺し屋たちを、ムゲンは夕蝶を守りながら……時には庇い傷つきながらも、切り裂いていく。
 そして、階段を下りきった先にいたのは……!

「!」「あれって……!」

 殺し屋たちの群れ、そしてその向こうに立つ……黒い馬の影! 殺し屋たちは、その黒い馬から吐き出されるように出てきていたのだ。
 ムゲンは振り返り、夕蝶を安心させるように微笑む。そして仕込み杖を構え直し、その馬を睨んだ。
「悪魔め、ここまでだ――」
 地を蹴り、弾丸が放たれる前に殺し屋たちを仕込み杖で蹴散らし、その頭を踏み台にして跳躍! 逃げだそうとした黒い馬の上空を飛び越え……!

 その目へと、杖を突き刺した!!

 それでも馬は生きており、悲鳴を上げながらも方向を変えようとする。地面に着地したムゲンは逃がさまいと手を伸ばし……!!

「――この現実から解放してもらおう!」

 その喉を、掴んだッ!!

「……なっ!?」
 瞬間……その馬の毛は黒から白へと変わり……ムゲンの手の中へと吸い込まれていき、見えなくなった。
「……」
 しばらくは目の前に起きた現象を理解できなかったムゲンだったが……やがてなにかに気づいたように唇を震わせるとその場で膝をつく。

 そして……
 一滴の涙を、こぼした。

 手の中へと吸い込まれたその馬……悪夢を操る来訪者種族『ナイトメア』の記憶が、流れ込んでくる。
 ナイトメアは、夕蝶を失いイタリアへと帰ってきてたムゲンの絶望を餌として引き寄せられた。そしてその絶望を深めるため夕蝶と再開させ、目の前で死ぬという悪夢を見せてきたのだ。
 夕蝶が遊園地など外に遊びへ行かせるように仕向けたのは、ムゲンが絶望し切ってしまわないため。そして恋人関係にさせたのも、より大きな絶望を求めたからであった。
 イタリアの教会で眠りについてから、ここまでの日々はすべてナイトメアの見せた悪夢の中の出来事。初めて夕蝶の死んだあの光景だけが現実で、覆ることのない事実であった。

「ムゲン」
 振り返った先にいた夕蝶は、微笑んでいた。自身の足が消えていくことを理解していながらも、気にしない様子で。
「夕蝶……そんな……」
「そんな悲しい顔しないでよ。私だってムゲンと別れるのは悲しいけど……」
 腰まで消えていく夕蝶に、思わずムゲンは彼女の元へと駆け出す。
「最後に思い出せたの。なんども死んでムゲンには悲しい思いさせたけど……でも、楽しい毎日だった。本当に……楽しかったよ」
「ダメだッ! 消えちゃダメだ……ッ!!」
 ムゲンは抱きしめようと腕を回すが、虚空に触れるだけ。そんな彼の肩を、夕蝶の消えかけている腕が一瞬だけ触れた。

「さぁ、ムゲン。現実に帰る時だよ。私のことは忘れて、新しい恋を探して。それから、暗殺者なんて事は、もうやめて」

 穏やかに笑う夕蝶は、朝日とともに消えていった。

「……」

 虚空を抱きしめたまま、ムゲンは唇を震わせる。
 ぽろり、ぽろりと零れ落ちる涙がアスファルトを濡らしていく。

「――ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!」

 膝をつかず、虚空を大事に抱えたまま、叫ぶ。
 愛を知った少年の絶叫は、空の彼方まで響き渡った。



 ぱちり、とムゲンはまぶたを開いた。
 その目に映るのは、イタリアにある教会の天井。そして穏やかな朝日を取り込む窓だった。

【第五幕 死と隣り合わせの青春を】
 青い空に浮かぶ雲を見上げていたムゲンは、前方にある川へと視線を移した。

 その川は夕蝶と出会った中国の川を思い出す、だけど違う川。日本の鎌倉の街を流れる川だ。その川を跨ぐ橋の上でムゲンはなにかを取り出した。
 ひとつは教会から支給された帰りの便の航空券。もうひとつは、コンビニで購入した100円ライター。
 そのライターに火を灯し、ゆっくりと航空券へと近づける。火が燃え移り、燃えかすが散って風に吹かれるその様子を見るムゲンは、かつての自分自身を眺めているようだった。

 悪夢から覚めたムゲンに与えられた、日本での任務。その任務を引き受けたふりをして偽りの身分を手に入れた彼にとって、もう教会からの支援は必要ない。今後は暗殺の仕事をしないと彼女に誓ったのだから。
 夕蝶が行ってみたいと言っていた日本の街、鎌倉……新しい自分を生きる場所としてこれ以上相応しい場所はないだろう。
(……さて、そろそろ行こうか)
 そう心の中で呟きながらムゲンは振り返った。

 すると、視界の中に雪のように白く長い髪が映った。

「……!!」

 横切ったその和服の少女に、ムゲンは息を呑む。すぐに頭の中に浮かんだのは夕蝶の顔。だけどその少女の顔は夕蝶と比べてぼんやりとした雰囲気で、すぐに夕蝶ではないと理解した。
 それでも……白い髪に着物姿という共通の特徴に、初めて彼女と出会った感覚を覚え胸を押さえる。あの時はわからなかったこの気持ちが、今ならわかる。これが『一目惚れ』なのだと。

 少女が通っていた地面に、1枚のカードが落ちている。その落とし物をムゲンは拾い上げた。
(初めて告白した時の自分はどこかぎこちなかった。今度は、もっと美しい言葉で伝えなくては……)
 ムゲンは少女と再会した時のことを思い浮かべながら、そのカードに目を通した。

 それは、『銀誓館学園』の学生証だった。



 数日後……銀誓館学園の校門の前に、ムゲンは立っていた。
 学園に学生証を届けた後、あの少女に会いたい気持ちからそのまま銀誓館学園への編入手続きをしたのだ。

 銀誓館学園。表向きには普通の私立学園……裏では、『能力者』を育成し、シルバーレインと呼ばれる現象とともに現われるゴーストと戦う組織。
 そうとは知らずに校庭へ足を踏み入れた彼は、やがて『ナイトメア適合者』として戦いに身を投じていくこととなる。

 死と隣り合わせの青春。そしてその先にある、過去が未来を喰らう残酷なまでに美しき世界。
 愛に生きることを選んだ彼は、これからの運命に対してもひるむことなく駆け抜けていくだろう。

 その身に適合した、|白馬《ナイトメア》とともに。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年06月26日


挿絵イラスト