●買い食い
どうしてこんなに美味しいのだろうかと思う。
何がって、このお肉屋さんのコロッケが、である。
ホクホクとした感触に、じゃがいもの甘さが際立ち、油で上げた衣のサクサクとした食感。
一つ齧れば、なんとも幸せな味わいと音がする。
別にこのお肉屋さんだけが特別というわけではないのだ。
巨大なクラゲ『陰海月』は思う。
「ぷきゅ」
うんうん。
美味しい。
ソースをね、こうまたちょっと、トパって掛けると味わいが変わって良いのだ。
甘いコロッケにしょっぱいソース。
このハーモニーとも言うべき味わいに『陰海月』は生きててよかった……と大げさすぎる感動を覚えるのだ。
何回味わってもそう思ってしまう。
飽きが来ない。
何か隠し味めいたものがあるのだろうかと思って尋ねてみるけれど、特別なことは何一つしていない何の変哲もないコロッケなのだという。
本当に? と何度か疑いの目を向けては見たものの、やはり普段家で馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)が調理している工程や作業と変わりはないようだった。
ならばやはり、どうしてだろうか?
もともと、熱い食べ物は苦手だった。
やけどしてしまうし、先天的に猫舌であるからだ。
冷静に考えると海の生物がこうして陸の上で暮らしているという点でおかしいのだけれど、それはまあ、置いておく。全部メガリスのせい。
「きゅきゅ……」
一人で食べるご飯よりも大勢で食べるご飯のほうが美味しい。
でも、今は一人でも美味しい。
なんで?
それはやはり、シチュエーションであろう。
咎められるわけではないけれど、なんとなく後ろ暗い感情。
おじーちゃん以外の作る食べ物を食べたのか……みたいな、彼らの姿が幻視される。いや、そんなこと言わないよ、とわかっている。
けれど、なんとなく『陰海月』の頭の中のおじーちゃんたちは、しょげた顔をしているのだ。
罪悪感である。
別に見たいわけではない。実際には咎められないだろう。
ただ、自分がちょっと気にしている。
それが罪の味という名のスパイス。
たいしたことない大罪という名のレッテルによって『陰海月』の買い食い衝動を加速させているのだ。
いつも美味しい。
自分の意識次第でこんなにも味わいが変わるんだなぁ、と思いながら、更にお腹がグゥと鳴る。
今日の晩ごはんはなんだろうなぁ。
ハンバーグだといいなぁ、と思いながら帰路につうのだった――。
成功
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