BBQクエストに高難易度を添えて
●クエスト:イカサメBBQ
夏と言ったらBBQ!
山岳フィールドに大発生しているイカを狩れ! 美味いよ!
時間が経つと、イカを食べに巨大サメが空からやって来るぞ! こいつも狩れ! 美味いから!
ちなみに巨大サメには普通の攻撃は通用しないぞ!
イカの触腕についているトゲから作れる装備が特効や!
●GMも知らないサメ
とある山岳フィールドに発生した、突然のBBQ食材収集クエスト。
「……どこのどいつなの、こんなイベント発生させたのは」
なし崩しに管理せざるを得なくなってしまった|管理者《ドラゴンプロトコル》の口から、深い深い溜息が零れていた。
「イカが多すぎて困る日が来るなんて」
確かにイカ型モンスターは、この山岳フィールドとその周囲に普段から発生するモンスターだ。
だが今は――見慣れた筈のフィールドが、周辺から集まって来たイカの黒に塗れている。
その上、知らない|巨大サメ《レイドボス》も発生するなんて。
「早く誰か参加してくれないと、困っちゃうねぇ」
フィールドがイカで埋め尽くされる前に誰か早よ来て――|管理者《ドラゴンプロトコル》たちは何とかイカの流入をコントロールしようと頑張りながら、遠い目で天を仰ぐしかなかった。
●夏イベ大発生
「新し親分が、ゴッドゲームオンラインで何かやらかしたっぽい」
集まった猟兵達に、ルシル・フューラー(新宿魚苑の鮫魔王・f03676)は既に苦笑を浮かべていた。
「唐突にあの世界に現れて、夏なのにイベントが少ない、とイベントをばら撒いた」
どうもキャンピーくんも関わっているようなのだが、それはこの際、置いておくとして。
突然のイベント供給。
それに何故かバグプロトコルが反応し、周辺からイベントフィールドに次々と集まっているのだ。
元々バグプロトコルが増える一方だったのもあって、イベントが撒かれたフィールドの|管理者《ドラゴンプロトコル》たちはてんやわんやである。
「でも集まるならバグプロトコルを減らすチャンスかもしれない。と言うわけで、イベントに参加してきて欲しい」
チャンスは良いとして、肝心のイベント内容は?
「大量のイカ型モンスターと大型のサメモンスターを狩ってBBQ素材を集めようってイベントだね」
と言う事はフィールドは海――。
「いや、山」
……。
「今回大量発生してるイカ型モンスター、元々陸棲だから」
まあ、ゲーム世界なら何でもありか。
「ちなみにこのイカ達、『ゲソ』とか『イカの身』とか『イカの墨袋』とかイカ食材ドロップするんだけど、唯一食材にならない『イカのトゲ』って素材もあるんだ」
多分、イベントの追加ドロップ。
「で、これ食べられないし、売っても安い。でも捨てちゃダメなやつ」
イカの後に出現するサメは、いわばイベントボス。それ相応に強い。と言うか、普通に攻撃してもダメージが大幅に減少してしまうし、状態異常の類も通り難い類だ。
そう言う敵には攻略ギミックがあるのが、ゲームの常である。
今回は『イカのトゲ』を使って作れる『サメ特効武器|《イベント限定装備》』がそれにあたる。
「『イカのトゲ』は多ければ多い程良いよ。多く使えば『サメ特効武器』の性能を高められるからね」
ちなみにイカ1体辺り、最低1個は『イカのトゲ』のドロップが確定されている優しい仕様だ。確定ドロップしない素材を求めて延々と狩り続けるような|こと《地獄》にはならないので安心して欲しい。
まあそれでも、最低三桁は狩るのを覚悟せねばならないのだけれど。
「ちなみに|管理者《ドラゴンプロトコル》たちに頼めば、イカを即座に出現させる『イカのエサ』とか、イカとサメに合いそうな調味料なんかをトリリオンと交換してくれるよ」
イカのエサも、普段は無いイベント用アイテム。
多分、これが新し親分がひとつまみ入れてった、課金へのこだわりってやつ。
「他の世界とは違う調味料とかありそうだから、今までと違うBBQが出来るかもね」
BBQがクリア後のお楽しみ要素――になるかどうかは、猟兵の働き次第。
「まあとりあえず、押し寄せるイカが止まらずに|管理者《ドラゴンプロトコル》たちが正気を失う前に、イベント参加してきてあげて」
そう言うと、ルシルは転移の準備に入るのだった。
泰月
泰月(たいげつ)です。
そろそろシリアス書こうかな、と思ってたりしたのですがゲーマーの血が騒いでしまった。
とあるMMOでカードを求めて延々とカタシムリを狩った日々が脳裏に蘇りましたね。ドロップするまで、と倉庫に集めてた殻が5桁になってたっけなぁ。(遠い目)
と言うわけで、ゲーム世界で夏イベです。
1章は集団戦=収集イベント。
2章はボス戦=決戦イベント。
3章はイベント後のお楽しみ要素です。
2章のサメは、いわば特殊仕様のレイドボス。1章のイカからドロップ素材『イカのトゲ』を集めて『サメ特効武器』を作って使わないと、サメにはダメージもバッドステータス成功率も10分の1になってしまいます。
特効武器の仕様を告知なしでやったら炎上しそうなレイドイベントでは?
『イカのトゲ』のドロップ数ですが、1体辺り1D100です。振るよ!
最低1個ドロップするなんて、優しいイベですね。
と言うわけで、イカは大量に、本当に大量にいるので。頑張って狩りましょう。
更に必要なら課金アイテムで追加発生させる事も出来ます。トリリオンはイカからもドロップしますし、他のシナリオで稼いだものでもOKです。(※参加履歴は確認します)
特効武器の詳細は2章開始時に。
なお食材素材は特効武器素材とは別に、且つ、同時にドロップするものとします。
さすがにこっちは振らない。
あと割とどうでも良い情報かと思いますが、今回の山岳フィールドの|管理者《ドラゴンプロトコル》は三姉妹設定です。
今回は再送前提で急がず進めていく予定です。
1章プレイングは明日6/21(金)8:31~受付開始とさせていただきます。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 集団戦
『ラングスクイード』
|
POW : スクイッド・スロー
掴んだ対象を【烏賊】属性の【触腕】で投げ飛ばす。敵の攻撃時等、いかなる状態でも掴めば発動可能。
SPD : スクイード・スピン
自分の体を【墨を吐きながら高速回転】させる攻撃で、近接範囲内の全員にダメージと【盲目】の状態異常を与える。
WIZ : スパイニー・テンタクル
対象の【胴体】を【棘の生えた触腕】で締め上げる。解除されるまで互いに行動不能&対象に【貫通】属性の継続ダメージ。
イラスト:滄。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
明石・鷲穂
【壁】栴と!
ゲームの世界来んの初めてだ。何で山にイカがいるんだろうな?楽しみだな~
墨袋なぁ。美味いかアレ?悪戯に使うくらいしか思いつかん。
効率的に狩るエサも良いが、つまみ作りに調味料も欲しい。そんでつまみは栴に作ってもらう予定だが…調味料なぁ。交互に頼むか?エサ買ったら調味料買う!
さて、腹拵えだ!
いつも通り後ろと支援は任せる……と、イカ達まとめて追い込んでくれるか?
そこをUC発動、何匹かまとめて串刺しにしたい。
連発は厳しいな。不意打ち狙って独鈷杵を投擲しつつ、UC発動を繰り返そう。
……貧弱な後衛だったらそんな身長無いんだよなあ。
おれの半分くらいだったのに……二十歳か。成長って早いよなぁ。
生浦・栴
【壁】で
海生生物は山で動き辛かろうと思うたが
無用な心配だったな
此処に居て呉れればBBQし易いし丁度良かろう
必要な物は集めるが墨袋か、山羊のはどう見る?
調味料は調達できるアテはあるのか?
今回は(も)貧弱な後衛系(俺だ)が近づいてはいけない敵よな
というか背は筋肉で伸びておらぬのでアテにしてはいけない
最初からデカい者は小柄な者を実態より小さく評価しがちなのは何故なのか(ぼやく
さて。追い込みは狩りの基本
頷いて端の方から中央へ集めるように属性魔法を放つ
雷、氷、炎、風と順に撃ち反応を確かめ
山羊のがUCを使うタイミングを見て防護の為にUCを展開
奴の一撃が不要なまでに弱っているのは属性魔法で叩いておこう
●乾坤の間に黒く煙る
「あれらがイカか。黒いが」
「イカだなぁ!」
何か大きな黒いモノが大群をなしてひしめき合っている光景に、眼鏡の奥で訝し気に眉を顰める生浦・栴(calling・f00276)とは対照的に、明石・鷲穂(真朱の薄・f02320)は呵々と笑っていた。
大群をなす黒いモノがイカであるのは、ウネウネと動いている触腕から間違いない。数が多いせいで些か判り難いが、1体辺り10本生えているのだ。そこ『だけ』を見ればまごう事なきイカである。
例え全身が黒かろうが、触腕に痛そうなトゲが生えていようが。
「何で山にイカがいるんだろうな?」
一度は笑い飛ばした鷲穂だが、この光景に疑問を抱いてないわけではなかった。
「さて。BBQし易い地に居て呉れて丁度良いが」
栴も肩を竦めるしかない。
「しかも活きが良いしな。海生生物は山で動き辛かろうと思うたが。無用な心配だったな」
2人の前にいるイカの群れには、動きにくさなど感じらない。
まあゲーム世界のイカなのだ。考えても仕方がない、と言う部分もあるだろう。
「まあ、これだけいれば必要なものを集め易かろう」
栴の視線が、ゆらゆらと揺れるイカの触腕、その先端に向けられる。
触腕から生えているトゲは、兎に角、数が必要になるらしい。
何はともあれ、イカを狩らなければ始まらない。
「まずはイカ達まとめて追い込んでくれるか?」
「うむ。追い込みは狩りの基本よな」
鷲穂にひとつ頷いて、栴が魔導書『Old spell spelling』を片手で構える。金属補強された重そうな表紙が勝手に開き、頁もパラパラとひとりでに捲れていく。
「まずは雷だ」
告げた直後、栴の眼前で雷鳴が瞬いた。
真横に迸った雷撃が、イカの群れを撃ち抜く。
「次」
空気の帯電が収まらぬ内に放たれた氷弾がイカを穿ち、炎弾が冷えた空気を燃やしイカを焼き焦がす。風の刃が冷気も熱気も押し流しながら、イカの脚ごと胴体を両断した。
魔導書に秘められた様々な属性の、単純な魔法を次々と放つ。
その意図は、探りだ。
この場がゲームの中であれば、敵には苦手とする属性、いわゆる弱点属性というものが設定されている。
稀に特に弱点が無いと言う敵もいるだろうが、このイカの様に大量に出現する類ならば、まず設定されているだろう。
「雷も効いてそうだが――どちらかと言えば炎か」
特にイカが嫌がるそぶりを見せたのを見逃さず、栴は当たった属性を今度は本気で放つ。
渦巻く炎を広範囲に放ち、徐々に狭めて行く事でイカを一ヶ所に纏めていく。
「仕上げだ。夜半に紛れ―煙に巻く」
――|Cremate《ヨワノケブリ》。
更に栴は戦場全体に黒煙を放ち、炎に追いやられたイカの群れを言葉の通りに煙に巻いていく。
「何時でも良いぞ、山羊の」
「おう」
頷いた鷲穂は、既に身の丈ほどもある今は独鈷杵型の神器、金剛杵を振りかぶっていた。
「一擲を成して乾坤を賭すってなぁ!」
――乾坤一擲。
全身に闘気を纏い、鷲穂が金剛杵を投げ放つ。一切の防御を考えてない、攻撃に全力を注いだ一投。
天地を引き裂く勢いで飛んだ金剛杵が、槍が如く黒煙に穴を穿ち――。
煙の向こうのイカが数体、一瞬でバラバラになった。
「うぉ!?」
投げた鷲穂の方が驚く程の威力。生半可な防御など撃ち壊せる業ではあるし、何体かまとめて串刺しになれば、くらいには考えていたが狙った以上に広範囲に被害が出ていた。
「なんでだ……?」
「この世界の効果やもしれぬ」
「ゲームの世界って色々あんだな」
始めて訪れた世界故か、思わぬ効果に驚く2人の視線の先で、イカが次々とバラバラになって群れに風穴が空いた。
『――イカのトゲ56個入手しました』
『――イカのトゲ70個入手しました』
『――イカのトゲ66個入手しました』
『――イカのトゲ98個入手しました』
『――イカのトゲ45個入手しました』
『――イカの切り身1個入手しました』
『――イカのゲソ5個入手しました』
『――墨袋10個入手しました』
『――イカのワタ3個入手しました』
『――イカのトゲ59個入手しました』
『――イカのトゲ38個入手しました』
『――イカのトゲ18個入手しました』
お陰で、2人の頭上には撃破したイカのドロップを告げるシステムメッセージが幾つも幾つも重なっている。読み切れない程に。
栴の黒煙に空いた穴が塞がり、金剛杵が鷲穂の手元に戻ると同時にそれらが2人の元に飛び込んできた。
「食べられるものも集めるんだろ? 栴につまみを作ってもらう予定だし」
その中に切り身やゲソと言った食材になりそうな部分も混ざってるのを見逃さず、鷲穂は小さな笑みを浮かべた。
「まあつまみを作るのは構わんが……やけに多い墨袋をどう使うたものか」
一方、栴の視線は食材ドロップの中で1つだけ二桁行ってる墨袋に向けられている。
偶々かもしれないが、やたら多い。
「墨袋なぁ。美味いかアレ?」
「さて。山羊のはどう見る?」
「アレは悪戯に使うくらいしか思いつかん」
墨袋を扱いあぐね、2人とも攻撃の手が止まっていた。
「イカの墨は美味しいのよ」
「イカ墨は旨味を含んでるから……」
そんな様子に、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちからイカスミの解説が降って来た。
「あのね。イカの身と墨を合わせて炒めるの、お勧め!」
だからもっと狩って――と言いたげだ。
実際、イカ墨は|旨味成分《アミノ酸的な》が豊富である。
「そっか。そいつは楽しみだ。けど、他の調味料も欲しいな」
「調味料? アテはあるのか?」
「交互に頼むか? エサ買ったら調味料買う!」
栴の問いに、鷲穂はドロップ品の中からトリリオンを拾い上げる。
「調味料ならお安く出来るわよ!」
「だ、だから……」
「イカもっと狩ってー!」
ついに本音を隠さない|管理者《ドラゴンプロトコル》の声が降って来た。
「管理者としては切実か」
「連発はちょっと厳しいんだが……ま、腹拵えか」
2人は苦笑しながら、魔導書と金剛杵を構え直す。
「いつも通り、後ろと支援は任せる」
「任された」
再び金剛杵を振りかぶる鷲穂にひとつ頷いて、魔導書を構える栴。
「代わりに前衛は任せたぞ。今回は貧弱な後衛系が近づいてはいけない敵よな」
「……貧弱な後衛?」
栴の言葉に、鷲穂が金剛杵を担いだまま、何言ってんだって顔になった。
「俺だが?」
言われた側の栴も、同じような顔に。
「……貧弱な後衛だったら、そんな身長無いんだよなあ」
「背は筋肉で伸びておらぬのでアテにしてはいけない」
隠そうともせず苦笑する鷲穂に、栴が少し不服そうに返す。
「最初からデカい者は小柄な者を実態より小さく評価しがちなのは何故なのか」
などとぼやきながら、栴は黒煙の中に炎を降り注がせていく。
「昔はおれの半分くらいだったのに……」
その不服そうな視線がほとんど同じ高さになっているのを改めて感じながら、鷲穂は深く息を吸い込み気を身体に巡らせる
「栴も二十歳か……成長って早いよなぁ」
何処かしみじみと言いながらも鷲穂が投げた金剛杵が、再び黒煙とイカの群れに風穴を開けた。
――鷲穂と栴のイカのトゲ、総ドロップ数:13986個。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
尾白・千歳
【漣千】
夏と言ったら!お肉~!BBQ!
え?お肉じゃないの?イカ?何で??
うーん…でも美味しいならいいかな
楽しみ~!あ、イカ発見~!(ダッシュ)
イカってどの部分が美味しいの?足?身?
食べれるところは出来るだけ残して攻撃
まぁ、どっちでもいいかな!食べれるなら食べてみる~
さっちゃん、その足切って~!
この袋は何?(ぐちゃ
あっ、もしかして墨!?やだ~!(ぽいっ
ん?これはトゲ…はいらないよね
絶対に食べられないもん(ぽいぽいっ
よーし、次のイカをゲットするぞ~!
頑張ってイカ倒して
足とか身とか食材いっぱいゲットしちゃうも~ん
でも、なんか力が出ない…お稲荷さんがなくなったから?
さっちゃん、後は任せた~
千々波・漣音
【漣千】
イカ狩りかァ
何せオレは水神、海なら…山!?
ま、まぁ神格高い竜神のオレ様には楽勝…
ちぃ、いねェし!?(追いかけ
調理法によるケド、胴にゲソ、エンペラも美味いなァ
てか…オレが二人分トゲをゲットしなきゃじゃねェの…
ちぃの様子じゃいつまでも集まらないだろ…
手数多い方が早く終わるよなァ
よし、水竜12体召喚!
やっぱオレはデキる男!(どや(ちら
って、ただでさえ運代償にしてるのに、勝手に動…ぶはっ!?
墨も美味いからァ!
ちぃの分まで墨浴びたり浴びせられたり等、次々不運に見舞われまくるが
お、オレは神格高いから何とも…ぎゃっ!
それトゲェ!大事ィ!
…泣いてない、慣れてる
不運や二次被害にもめげず
アイテム集めるぞ…
●九尾と十二水竜、それぞれの代償
「え? あれイカ? なんで?」
山フィールドに、尾白・千歳(日日是好日・f28195)の不思議そうな声が響く。
「お肉じゃないの??」
ついさっきまで上機嫌に揺れていた尻尾も、蠢くイカの群れを前にへにゃりと萎れていた。
夏、BBQと言ったらお肉――が目当てだったのだ。
「イカつってたろ……それより何で山なんだよ」
そんな千歳の後ろで、千々波・漣音(漣明神・f28184)も気分はちょっと萎れていた。
「オレは水神なのに……」
イカと言えば海。
海ならば竜神である自分の独壇場――なんて思って千歳に誘われるままにホイホイとついてきたら、着いた先は山だったのだ。
どっちもどっちな103歳達である。
「あ、あの……ここのイカも美味しいから」
「焼いても良いし、生で食べても良し、よ」
「BBQにもおすすめだよ」
だから討伐して――と切実な|管理者《ドラゴンプロトコル》たちの声が降って来る。
「うーん……美味しいならいいかな。楽しみ~!」
その声で、千歳の方が先に気を取り直した。
「イカってどの部分が美味しいの? 足? 身?」
「調理法によるケド、海のイカなら胴にゲソ、エンペラも美味いなァ」
目の輝きを取り戻した千歳の疑問に、漣音が返す。
「よーし、頑張ってイカをゲットするぞ~!」
その答えで満足したのか、千歳は足取り軽く駆け出した。
「って、ちぃ!? もういねェし!?」
慌てて漣音もその後に続いていく。
「ひとりで突っ込むなァ!」
止めようと漣音が叫んだ声も、多分きっと千歳には届かない。
代わりに千歳に届いたのは、どこからか現れたぼんやりと輝く光。
その光が千歳の身体に吸い込まれるように消えて――。
「私も狐さんになれるんだから!」
その尾が、九つに増えた。
――妖狐変化の術。
骸魂【九尾の狐】と合体した千歳の姿は、いつか辿り得る未来か、それとも願望の発露か。
『――イカのトゲを78個入手しました』
『――イカのトゲを92個入手しました』
『――イカの切り身12個入手しました』
『――イカのゲソ7個入手しました』
「足とか身とか食材いっぱいゲットしちゃうも~ん」
その鋭い牙や爪で、千歳は次々とイカを仕留めていく。
勢いは凄い。良い角度で入れば、纏めて2体とか狩れている。
けれども――その姿は、九尾の狐と言うには何かこう、小柄だった。いわゆる狐よりも耳が大きい。九尾の狐と言うよりも九尾の『フェネック』と言った方がしっくり来そうだ。尤も、フェネックの正式な名称はフェネックキツネ。いわゆるキツネと同じイヌ科キツネ属に分類されるので、フェネックとてキツネと言っても過言ではないだろう。多分。
それよりも問題は、九尾になったのをあまり活かせてない事だろうか。
神通力とか、出ないの?
「ちぃの様子じゃ、いつまでも集まらないだろ……オレが二人分トゲをゲットしなきゃじゃねェの……」
その様子に、追いついてきた漣音が小さく呟く。
「手数多い方が早く終わるよなァ――天誅を下せ」
漣音の前に、水球が生まれる。1つ、2つ――水球がその数を増していく。
「よし、12体召喚!」
グッと喜びを握りしめる漣音の眼前で、12個に増えた水球が形を変える。
――水禍天誅。
水竜を召喚する術。その数は最低1体から最大12体と、術者の漣音にもコントロールできないランダム性がある。
今回は無事に最大数を召喚できたわけだが――その代償は、術者の運。
「やっぱオレはデキる男!」
つまり良い気になってドヤって千歳にアピールしてたりする今の漣音は、水竜12体分の運を失っているわけで。
『――イカのトゲを2個入手しました』
『――イカのトゲを4個入手しました』
『――イカのトゲを1個入手しました』
『――イカのトゲを8個入手しました』
『――イカのトゲを10個入手しました』
『――イカのトゲを6個入手しました』
『――イカのトゲを10個入手しました』
『――イカのトゲを3個入手しました』
『――イカのトゲを2個入手しました』
『――イカのトゲを6個入手しました』
『――イカのトゲを7個入手しました』
『――イカのトゲを1個入手しました』
『――イカの切り身を1個入手しました』
『――イカのゲソを1個入手しました』
12体の水竜が荒れ狂った後に残っていトゲの数は、あまりにも少なかった。
悲しい程に少なかった。墨袋に至っては、消えていた。
『――イカのトゲを77個入手しました』
「ん? これはトゲ……?」
やっと千歳がその存在に気づいたイカ1体分のドロップの方が、漣音の12体分より多かったりする。
と言うか、千歳のドロップ数がやたらと良い。九尾の力だろうか。
「ま、まぁ神格高い竜神のオレ様には、この程度楽勝だし……」
まあ運を失った影響で|ドロップ数《判定ダイス数》が落ちていても効率的ではあるし、水竜が攻撃と同時に咲かせる藤の花はイカに麻痺を与えているので、千歳の助けにもなっている。筈である。
「いらないよね。絶対に食べられないもん」
いつも以上に極まった不運にさめざめと泣きたくなってる漣音の目の前で、千歳は食べられそうにないトゲをぽいっと投げ捨てた。
「それトゲェ! 大事ィ!」
「大事なの? 食べられないのに?」
慌ててトゲを拾う漣音に、千歳が小首を傾げる。
「まぁ、どっちでもいいかな! 食べれるなら食べてみる~」
「必要だけど食えねェっての!」
漣音の声を置き去りに、イカを狩っていく千歳。
『――イカのトゲを59個入手しました』
『――イカの切り身を1個入手しました』
『――イカのゲソを1個入手しました』
『――――墨袋を6個入手しました』
そんな千歳の前に現れる、黒い物体。
「あっ、もしかして墨!? やだ~!」
「ぶはっ!?」
やっぱり食べられそうにないと、ぽいっと千歳が投げ捨てた墨袋が飛んで行き――漣音の顔に当たって、弾けた。
「ちぃっ! 墨も美味いからァ!」
「ん~? そうなの~?」
墨を拭う漣音に帰って来た千歳の声は、なんだか急に勢いがなくなっていた。
と言うか、眠たげな声だ。
「なんか力が出ない……お稲荷さんがなくなったから?」
九尾の狐との合体には、稲荷寿司がいる。それが切れた千歳がどうなるか――こうなる。
「さっちゃん、後は任せた~」
――スヤァ。
眠気に抗えずその場で丸まった。
「って待てー! せめて下がってからってああもう寝てるしぃぃぃ!」
漣音が慌てて抱きかかえてイカの群れから離れていく。
「お、オレは神格高いから何とも……ねぇ。慣れてるしな!」
その背中にイカの触腕(トゲ付き)がビシバシ当たっても、めげずに。
千歳を安全そうな場所に置いて、漣音はイカに向き直る。
「イカ如きが……竜神舐めんなァ!」
「……あの人だけ、トゲの交換レート下げてあげたい……っ」
「出来たらどんなに良かったか……」
「謎の新し親分さんのイベント……コードまだ解析出来てないもんね……」
まあそれが出来てたら、イカ大量発生も止めてるだろう。
不運にめげず孤軍奮闘する漣音の姿は|管理者《ドラゴンプロトコル》たちの心を打っていたが、それはそれとしてイベントの展開は何も変わらないのであった。
――千歳のイカのトゲ、総ドロップ数:5986個。
――漣音のイカのトゲ、総ドロップ数:2499個。
(ここは総数別々の方が良いと思った)
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シモーヌ・イルネージュ
新し親分、イベント作っただけで、あとは現場に丸投げとか……
ドラゴンプロトコルはお疲れ様、だね。
せめての管理者たちの負担軽減のためにイカを狩りまくろう。
でも、近づくとイカ墨で真っ黒にされそう。
ならば、遠くから槍を投げてイカ刺ししよう。
銀槍『狼月天穿』を投槍にして、UC【炸裂星雨】で一気にイカを狩ろう。
そのあとは【瞬間強化】で槍を回収して、また投げて、を繰り返していけば、少しは数減らしできるかな。
●シンプルな戦法はシンプルに強いものである
――謎の新し親分さんのイベント……コードまだ解析出来てないもんね……。
「新し親分、イベント作っただけで、あとは現場に丸投げとか……」
聞こえて来た|現場の管理者《ドラゴンプロトコル》たちの声に苦労が偲ばれて、シモーヌ・イルネージュ(月影の戦士・f38176)は思わず苦笑を浮かべていた。
「せめて負担軽減にいそしむとしようか」
山肌にひしめく黒いイカの群れに、視線を向ける。
「でも、近づくとイカ墨で真っ黒にされそうだな」
しかしその数の多さは、荒事を好むシモーヌでも、迂闊に間合いを詰められない、と感じさせる程であった。
実際、その可能性は大いにあり得る。
「遠くからイカ刺しにしてやるか」
それが嫌ならば、距離を取って戦うのが得策。
シモーヌはイカの群れと距離を取ったまま、銀の短槍を手にする。
そのまま槍を持つ側の半身を下げる様に身構え――。
「ふっ!」
全身を使って勢いをつけ、シモーヌの手から銀槍『狼月天穿』が放たれた。
「わぁ、すごい勢い」
シモーヌの手から離れ、ぐんぐんと空に昇っていく銀槍の勢いに|管理者《ドラゴンプロトコル》の1人が声を上げる。
「確かに勢いはすごいけど――」
「ええ、槍一本では時間がかかりそうね」
残る|管理者《ドラゴンプロトコル》2名はその勢いは認めつつも、槍一本ではと分析していた。
見たままの評価ならばそうなるだろう。
「我に従え。我が尖兵となり、その姿を、力を大地に示せ」
けれど、地上でシモーヌが告げた直後、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちの顔に揃って驚きの色が浮かんだ。
ゆらゆらと光煌く槍の穂先が――増えたのだ。
――|炸裂星雨《ブリュイ・ドゥ・メテオ》。
自身が触れたものを放ち、分裂させるユーべルコード。
まさにその名の如く、150本を超える銀槍が雨となって広範囲のイカの群れに降り注ぐ。
穂先と反対側から、ロケットエンジンの火を噴きながら。
空からの強襲に、イカ達は成すすべなく貫かれるより他にない。
『――イカのトゲを56個入手しました』
『――イカのトゲを95個入手しました』
『――イカのトゲを18個入手しました』
『――イカのトゲを79個入手しました』
『――イカのトゲを35個入手しました』
『――イカの墨袋を4個入手しました』
『イカの身を5個入手しました』
『イカのゲソを10個入手しました』
敵の数が多いならば、こちらも弾数を増やせば自ずと効率は上がる。シモーヌの頭上で、空中に開いたシステムウィンドウが次々とドロップを告げてきた。
「そ、その調子でお願いします」
「どんどんやっちゃって」
それを見た管理者《ドラゴンプロトコル》たちから、声援が飛んでくる。
だが――。
「さて……あと何回繰り返せば良いのやら」
足元に飛び込んできたトゲやら墨袋やらは置いといて、シモーヌは手に戻って来た銀槍を再び身構えた。
――シモーヌのイカのトゲ、総ドロップ数:5347個。
大成功
🔵🔵🔵
ユディト・イェシュア
【月翼竜】
夏と言えばキャンプでBBQです
食料やアイテムがゲット出来て
大量のイカを倒して修行になる…ばっちりですね!
今までを思い出して下さい翼くん
イカが山にいるなんて些細なことです
リュートくんとはサメキャンプもしましたね
今度はイカのあとにサメだそうです
とにかくたくさん倒しましょう!
イカハントにも個性が出ますね
翼くんは頼もしく
リュートくんの一本釣りかっこいいです
俺はなるべく広範囲をまとめて攻撃して
二人にもバフをかけておきますね
あのトゲトゲ…武器にするにはいいですが
攻撃されるのは嫌ですね
ホーリーペグで結界を作っておきます
なるべくたくさん倒しましょう
今からどんなイカ料理が食べたいか
考えておきましょうか
リュート・アコルト
【月翼竜】
サメの次はイカか!
ん?イカが空飛ぶのはおかしいか?(きょとん)
ブルーアルカディアじゃ普通に飛んでるぜ
ユディトも加護ありがとよ!
心置きなく戦えるぜ!
じゃあ行くぜ!
クロ(黒竜)に騎乗して空中戦を仕掛けるぜ
はぐれイカを空中機動からのランスチャージでイカの足をドロップ
新鮮なまま食ってチャージ完了!
すっげえ俺に変身して
イカに向けて蒼天如意棒を伸ばして叩きつけるぜ!
掴まれたらこっちのもんだ!
怪力で掴んだ棒を一本背負いの要領でとりゃー!
逆に投げ飛ばしてやる!
翼のとこに掴まれては投げ
トドメは任せた!
光の奔流で浮足立ってるから楽勝だぜ
イカの一本釣りだ!
イカの解体も面白そうだしよ
じゃんじゃん狩ろうぜ!
彩瑠・翼
【月翼竜】
わぁ、イカいっぱい!
山でイカってなんか変な感じだけど…ぇ、些細なこと?
うーん、確かにあんまり深く考えても仕方ないのかな(丸め込まれた)
どっちにしてもたくさん狩るのが大事なんだよね、頑張る!
ユディトさんの加護もらったからどんどん前に出てなぎ倒せるかも?
目には目を、歯には歯を、触腕には触腕を!てことでUC発動
オレの鎧はかっこよくて逞しい触手腕を持った鎧!
(触腕のせいで見た目イカ化。カッコいいかの評価は人によるかも)
イカが投げ飛ばそうとするなら、オレも触腕で対抗して、力で押し切ってみるよ!
リュートくん、一本釣りすごーい!
あ、こっち飛んできた?!
よーし、それじゃあオレも続くよ
トドメは任せて!
●月翼竜inイカ山
「わぁ、イカいっぱい!」
イカが大量にひしめき合う山の景色に、彩瑠・翼(希望の翼・f22017)が思わず声を上げる。
「山で? イカ?」
直後、不意に冷静になったのか、自分自身の言葉に首を傾げていた。
「なんか変な感じだけど……」
「ん? イカがこんなとこにいるのはおかしいか?」
怪訝な顔になる翼に、リュート・アコルト(竜騎士・f34116)がさらりと返す。
「ブルーアルカディアじゃ、山どころか普通に空飛んでるぜ」
「あの世界は飛べない生き物の方が少ないでしょう」
別の――それにどちらかと言えば特殊な――世界の例を持ち出して来たリュートに、ユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)が冷静にツッコミを入れる。
「ですが一理あります。今までを思い出して下さい、翼くん」
かと思えば、ユディトは翼に向き直って。
「イカが山にいるなんて些細なことです」
真顔で言い放った。
「そうかな……そうかも……」
「むしろ大量のイカを倒して、食料やアイテムがゲット出来て修行になる……ばっちりですね!」
「確かにあんまり深く考えても仕方ないのかな」
これも修行だと言うユディトに、翼が丸め込まれる。
「そうよ! ここではイカは山にいるものなの!」
「普通だよ~」
「考えては……いけない……」
まさかの|管理者《ドラゴンプロトコル》たちも乗って来た。
「とにかくたくさん倒しましょう! イカは大量に……本当に大量にいるのですから」
その声に切実さを感じて、ユディトがイカの群れを指して告げる。
既に他の猟兵達が戦いを始めているとは言え、本当にまだまだ大量にウネウネビチビチしているのだ。
「先手は任せて下さい。まずは有利な状況を作ります」
2人に告げて、ユディトは『払暁の戦棍』を掲げた。
「この光は悪しきものを滅し、善なるものを救う光明……」
その先端から、暁の様に眩しい光が放たれた。
――神々の恩寵。
破魔と浄化の力を宿す光が奔流となって、ユディトを中心に広がっていく。
その輝きは敵には身を焼く光となり、味方には加護を与える。
「ユディト、加護ありがとよ! これで心置きなく戦えるぜ!」
「たくさん狩るのが大事なんだよね、頑張る!」
光の加護を感じて、リュートと翼はユディトに礼を述べる。
そしてイカの群れに向き直り――。
「ん?」
「あれ?」
揃って首を傾げた。
●だってイカだもの
「何かこっち来てない?」
「だよな?」
翼の言葉に、いまいち自信なさそうにリュートが頷く。
ほんのちょっと目を離した間に、イカがこちらに向かって動き出している。まだ2人は攻撃すらしていない。ユディトがユーベルコードを使っただけなのに。
「と言う事は、もしかして……?」
とある可能性に気づいたユディトは、光を放つ銀の戦棍を軽く掲げたまま少し走ってみた。
ユディトが右手側に走れば、イカの群れも向きを変える。
ユディトが左手側に走ればイカだけに以下略。
ならばと戦棍を地面に突き刺してユディトだけ動いてみれば、イカの群れの向きは変わらなかった。
「やはり、光に反応して――」
走光性、と言う動物の習性がある。
光に向かって移動すると言うものだ。
ゲーム世界ではない海にいるイカも、走光性を持ち光に集まるとされている事が多いだろう。(※諸説あります)
例えばUDCアースなどでは、イカの漁船は幾つものライトを点けて漁に出るものだ。
つまり今のユディト(より正確に言うならその戦棍)は、イカ釣り漁船の集魚灯の役割を担ってしまっているのだ。
「ってことは――ユディト、しばらくそのままで頼む! 行くぜ、クロ!」
何かに気づいたリュートは、言うなり騎乗形態になった|黒竜《クロノス》に飛び乗った。
「まあ構いませんけど」
空に舞い上がっていくリュートと|黒竜《クロノス》を見送りながら、ユディトは小さな杭を構える。
「結界を作っておきましょうか。あのトゲトゲ……確かに武器にするには良さそうですが、攻撃されるのは嫌ですからね」
杭――ホーリーペグを自分の周りに打ち込んで、安全圏を確保しておく。
「大丈夫!」
ユディトが構築した光の壁。その前に、翼が立った。
誰かを守れる強さ。翼が描く未来に求める力を磨くには、絶好の機会ではないか。
●それぞれにイカを超えて
「イカの群れを近づけさせなければいいんだ!」
(「目には目を、歯には歯を、触腕には触腕を!」)
自分に言い聞かせるように告げて、翼は目を閉じる。
イカの最大の武器は、ユディトも警戒したトゲを持つ触腕だろう。ならばこちらも触腕で対抗する。想像するのだ。イカに負けない、イカを超える強い触腕を。
――アリスナイト・イマジネイション。
想像から創造しその身体に纏った無敵の鎧は、イカの個体が持っているよりも倍の20本の触手腕がついていた。
「翼くん、その姿は……」
「かっこよくて逞しい触手腕を持った鎧だよ!」
何か言いたげなユディトに翼は自信に満ちた声を返す。
だが、触腕を生やすスペースが必要だったためだろうか。全身鎧に近い鎧になっているものだから、見た目は殆どイカである。
その鎧をカッコいいと思うかどうかは――人によるとしか。
まあこの場に鏡がある筈もなく、翼自身が自分が今どう見えているか把握してない可能性はあるのだが。
「……なんだありゃ? 翼だよな?」
その姿は、空のリュートからも見えていた。
鎧を創造する前から見ていなければ、敵の色違いと誤解したかもしれない。
「まあ、俺が狙うべきは――あっちだな」
翼には翼の考えがあるのだろうと、リュートは視線を外す。変わりに向けたのは、群れの後方。少し離れているイカの個体。
そう。イカの団子状態だった群れだが、ユディトの光に向かって動き出した個体が出た事で、群れの一部がバラけつつあった。そうでなければ、群れから離れた個体なんて生じなかっただろう。
この僥倖、逃す手はない。
「クロ、狙うのはあいつだ!」
水平に『蒼天如意棒』を構えたリュートは、|黒竜《クロノス》に標的を告げて空から急襲突撃をかける。
「ゲソ貰うぜ!」
狙い済ました一撃が、触腕に突き込まれた。
「――って、何だこりゃ」
千切れ飛んだ筈のイカの脚が、リュートの目の前で消えていく。
『――イカのトゲを45個入手しました』
『――イカの切り身を3個入手しました』
代わりに、イカのトゲと切り身がリュートの手の中に飛び込んできた。
何とも、ゲームっぽい素材の落ち方だ。
そもそもが、敵もバグプロトコルによっておかしくなったゲームの存在である。特定の部位を狙って素材を剥ぎ取れるようなステージもあるかもしれないが、この場ではこうなるようだ。
その割にはイカの生物的な習性を備えていたり――よくわからない世界である。
「まあいい。食えるとこを剥ぎ取れたなら、こっちのもんだ――俺は、お前よりも強くなる!」
取ったばかりのイカの切り身を、リュートは生でガブッと食いついた。
(「甘くてうめえ……けど、噛みきり難い!」)
軟らかくも独特の弾力を持つイカの身に少し苦労しながらも、もっしゃもっしゃ咀嚼し、飲み込む。
そして、リュートの姿が変わり出した。
「俺は、お前らよりも強くなる!
今のリュートよりも背が大きくなり、身体の厚みも増して――端的に言えば強そうな姿に。
――竜変万化撃。
敵から剥ぎ取った肉を喰らう事で、その敵の弱点に対応した力を持つ未来の自分に変身するユーベルコード。
「脚狙っても切り身出てくんなら、とにかく倒せばいいってことだな!」
そう理解したリュートは、『蒼天如意棒』を一気に伸ばすと、イカの群れに叩きつけた。
長く伸びた『蒼天如意棒』の重さに、叩きつけたイカの重みが加わる。
「おらぁ!」
一回り以上太くなった腕で、リュートはその重さをものともせずに如意棒を薙ぎ払う。
数体のイカが、吹っ飛ばされて宙を舞った。
「あれは、リュートくん? すごーい!」
群れの向こうでイカが吹っ飛んだのはリュートが何かしたのだろうと、翼が歓声を上げる。
「よし、おれも!」
負けてられないと、翼もイカの群れに向かってズンズン進んで行った。
「ユディトさんの加護もあるんだ。なぎ倒せるかも! いいや、出来る!」
かもではない。出来るのだ。
己を鼓舞し、翼はイカよりも先に触腕を伸ばしていき――。
「くらえー!」
翼の『かっこよくて逞しい触手』を叩きつけられたイカが、吹っ飛んだ。
『――イカのトゲを59個入手しました』
『――イカのトゲを31個入手しました』
『――イカのトゲを36個入手しました』
『――イカのトゲを69個入手しました』
『――イカのトゲを74個入手しました』
『――イカの切り身を10個入手しました』
『――イカのゲソを3個入手しました』
『――――墨袋を5個入手しました』
『――イカのトゲを73個入手しました』
『――イカのトゲを62個入手しました』
『――イカのトゲを23個入手しました』
吹っ飛ばし、或いは地に叩きつけて。
群れの前と後ろから、リュートと翼は快進撃を続けていく。けれど2人とも、技量よりも力に頼った戦い方だった。それ故にか、ほとんど同時に、それぞれの得物に周りのイカが触腕をから見つけて来た。
すなわち、リュートは蒼天如意棒に。翼は鎧の触腕に。
「それを待っていたんだ! 逆に投げ飛ばしてやる!」
イカの重みに負けじと、リュートは蒼天如意棒を握る両手に力を込める。腰を沈め、腕の力だけでなく全身の力を使って、蒼天如意棒を少しずつ持ち上げていく。
「イカの一本釣りだ!」
そのパワーにイカの方が耐え切れず、釣り上げられていく。
「リュートくん、一本釣りすごーい! オレも!」
蒼天如意棒に絡みついたイカが持ち上げられたその光景に、翼も負けじと鎧に力を注ぐ。
イカに対抗するために作った鎧だ。イカに負ける筈がないと想像を強く持つ。
ブチブチとイカの触腕を触腕で引きちぎり、全てを1体のイカに絡みつかせていく。
「負、けるかぁぁ!」
ググッと持ち上げられ、地から離れたのはイカの方。
「とりゃーっ!」
「これでトドメ!」
リュートはイカの重みを利用し、蒼天如意棒をグルンと回して勢いをつけて。
翼は全ての触腕の力で。
2体のイカがぶん投げられて宙を舞って――空中で激突した。
「イカハントにも個性が出ますね」
リュートと翼が即席で成し遂げた、投げっぱなしツープラトンにユディトがしみじみと呟く。
銀の戦棍からは、光の奔流が放ち続けられていた。
『――イカのトゲを61個入手しました』
『――イカの切り身を6個入手しました』
『――イカの墨袋を4個入手しました』
時折、力尽きたイカの落としたトゲや食材がユディトの元にも集まっている。
光はイカの群れを焼き続けじわじわと体力を奪っているのだ。イカが光に向かって来るとしても、中断する理由はない。
「イカの解体も面白そうだと思ってたけど、必要ねえかな? ま、じゃんじゃん狩ろうぜ!」
「またこっち飛ばしてきてもいいよ。トドメは任せて!」
「たくさん倒せそうですね。今からどんなイカ料理が食べたいか、考えておきましょうか」
まだまだ止まらないリュートと翼の様子に、ユディトは飛び込んできたトゲを集めながらイカレシピを脳裏に思い描くのだった。
――【月翼竜】のイカのトゲ、総ドロップ数:16302個。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
南雲・海莉
【かんにき】
久しぶりにみんなと一狩りね!
食材的にリンデンは今回お留守番だけど
あとでサメ軟骨をいっぱい貰って帰らなきゃ
食べるならトゲよりイカ軟骨ね
後で唐揚げにするわ
担当範囲、了解よ
鮮度を保つ為に剣と刀に氷の属性魔力を乗せて切れ味もあげて、と
二刀流でまとめて薙ぎ払いつつ捌いていくわよ
腕の動きは見切ってダンスの要領で避けて
可食部とレア部分も切り分けて、と(トドメ)
これ、お願いね
いっそ豪快だわ
(皆の漁の様子に息を吐いて)
はい、そこ逃げないで
(UC使用)
離れた場所に逃げた分は軽く炙ってから
右手に巻きつけたヤドリギの枝を引っ張って釣りあげるわよ
暴れて鮮度が下がる前に直ぐ血抜きするわ
(左手の剣でサクッと)
ガーネット・グレイローズ
【かんにき】でログイン!
バグプロトコルの大量発生か…これは一大事だな。
え、狩った敵は調理して食べ物にできる?
そういうことなら、うちの若者たちが黙っていないな。
まあ、大人組もお酒を楽しむ口実ができるんだけどね。
さて、まずは素材集め。
ここは【PSY-Bind】を使用し、戦場全体にエーテル波動を流していこう。
不可視のプレッシャーをギンギンにかけて、こちらの攻撃を当てやすくするんだ。
こうすれば、それぞれの漁法を有効に発揮できる。さあ、攻撃開始!
捌いて串刺しにしていく小太刀と海莉に感心しつつ、タンデムの二人と目配せする。
私もクロスグレイブの《レーザー射撃》で、敵群を投網の方向へ追い込んでいこう。
木元・杏
【かんにき】
夏、BBQ、具材を現地調達する為に海産物も山に出現、効率的事案
故、わたしも効率(動きやすさ的に)良く水着(キャミソール&ジーンズ短パン)
ん、頑張ろうね
多少味見もしていこう
…トゲも揚げたら美味でない?
ダメ?
装備するは地引き網用の大きな網
ふふ、例え山に棲まえどイカはイカ
捕漁する姿勢を大切にしたい
イカ集めにはメイドさん達を召喚
遠洋(?)まで散らばり、遠くのイカ達にちょっかいかけてこちらまで誘導してきて?
そして網は自走式
さ、イカの群れ目掛けて、GO
動きを封じれはめっちゃ幅広くした灯る陽光で上からびたーんと叩き潰してこ
トゲは回収、食材は丁寧に下準備して…(ぺしぺし)
シリン・カービン
【かんにき】
今日の獲物はイカにサメ、と。
はい、レシピは色々覚えて来ました。
では行きましょうか、アキ。
アキとタンデムでイカの群れに突撃。
「おっと」
なかなかじゃじゃ馬な運転ですね。
いかにもアキらし……コホン。
アキと息を合わせ、軽業のごとくタンデムを乗りこなします。
ガーネットのプレッシャーのおかげでイカの動きが鈍い。
迫る触腕は精霊猟刀で切り飛ばし、掴ませません。
「逃れられるとお思いですか?」
イカの群れに氷の精霊弾を降り注がせます。
ワタごと凍らせたイカの刺身は、日本酒と合わせると最高ですよ。
結構な数がいたはずですが……まあ、綺麗に片付きましたね。
(このメンバーならさもありなんと腕組みで頷く)
木元・祭莉
【かんにき】のイカ狩り!
バグならしかたないねー、狩らないとねー♪(満面笑み)
姉ちゃんたち本気マンマンだし、まあ狩る方は心配ないかな?(ちらり)
というワケで、おいらはドロップ品の収穫?とイカ量?の調整を担当するよー♪
ハイ、こっからここまでダンシングゾーン。アッチはレーザーゾーン、ソッチはフリーズゾーン。あとはびゅんびゅん怪力スルメゾーンに、串焼き製造ゾーン!
ドロップした食材を拾って漬け込んだり。
各ゾーンに烏賊を誘導したり。
入手したトリリオンで、ココの名物調味料を購入したり。
烏賊増やしたり。
管理者の姉ちゃんたちとお喋りしたりー。
白炎具合が狂って烏賊に突撃したり。
イカ墨まみれだー♪(きゃっきゃ☆)
鈍・小太刀
【かんにき】
皆張り切ってるわね
まあ夏だし、イカしたイベントの一つぐらい……何でもないわよ?(誤魔化し
そういえば、この世界来るの初めてだったような
ゲームなのに味がするの?しかも美味しい?
そうね、私も手伝わなくもなくもなくもないかも?
(BBQの串を手にウキウキしてるのもまた、ツンデレの様式美
じゃあ早速海の仲間達を召……喚はしない方が良さそうね
なんかこう、間違って狩られちゃいそうな気がひしひしと(汗
ならば仕方ない
今こそこの【串焼き】属性の黒雨の矢の出番!
満を持してUC使用
ガーネットの圧にびくついているイカの集団めがけて
UCの串の雨を降り注がせて、姿焼きにぴったりな串刺しに
ふふふ、何匹獲れるか勝負よ!
駒鳥・了
【かんにき】
コレもー海産物じゃなくて山産物じゃね?
倒さなきゃな数が鬼だケド
遣り込みゲーだしこんなもんか
食べ盛りしかいないし遠慮なく食材確保しよっ
ココ広いしグレちゃんが圧かけてるから
愛車で反対側まで回ろ
杏ちゃん鈍ちゃん南雲ちゃんに手を振りつつ
せんせーはタンデムにようこそ!
ぶん回す時は声かけんね
向かって来てもオフ車だから何のその
ゲソを踏みつけてジャンプ!
何ならスピンかけて後輪で蹴りつけるっ
後ろの敵はせんせーに任ればいーケド
流石にキリないね!
みんなのトコから距離開いたしUC発動しよーっと
纏うのは当ッ然!絶対零度のブリザード!
回収は祭莉くんしてっけど
クリーニング系のUC無いんだよなー
ダイジョブかな?
●かんにきinイカ山
現実に季節を合わせてか、山岳フィールドに降り注ぐ日差しは暑い。
「――夏、BBQ」
眩しそうにそれを浴びる木元・杏(お揃いたぬき・f16565)の姿は、キャミソール&ジーンズ短パンと動き易さを求めた軽装だった。
「日焼け止めは塗ってますか?」
「勿論。具材を現地調達する為に海産物も山に出現、効率的事案。故に、わたしも効率良く狩るためだから」
お肌の対策はしているのかと案ずるシリン・カービン(緑の狩り人・f04146)に、杏は問題ないと頷き返す。
「仮に焼けても、BBQで治る」
「治らない治ら――杏ならあるかも?」
「アンちゃんだからねー♪」
真顔で宣う杏に、ツッコもうとしてツッコミ切れなかった鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)の言葉に、木元・祭莉(しかもかっこいい音速・f16554)がケラケラと笑って頷く。
「別に効率的事案でもないと思うんだがな」
そこにガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)が、口を挟んだ。
「バグプロトコルによる大量発生だからな。一大事だ」
今回の【かんにき】の面子の中でも、ガーネットは特に機械類に強い方だ。一つの世界となったゲーム内で、バグにより敵が溢れていると言う状況の危機感を、恐らく最も強く感じ取れているだろう。
「確かに倒さなきゃな数が鬼だ」
一大事――と告げたガーネットに頷いて、駒鳥・了(I, said the Rook or Kite・f17343)は改めてイカの群れに視線を向ける。
既に他の猟兵も戦っているのだろうけれど、まだ何百――或いは何千いるのだろうか。
「腕が鳴るわね」
ひとつ頷いた南雲・海莉(With júː・f00345)の手が、刀の柄に置かれる。
「まあ夏だし、バグが原因でもイカしたイベントの一つぐらい……」
と、引き締まりかけた空気の中、小太刀がぼそっと告げた。
「……何でもないわよ?」
あっという間に集まった6人の視線から、思わず目を背ける小太刀。
「バグならしかたないねー、狩らないとねー♪」
祭莉がにぱーっといい笑顔で返す。
「それより、この世界来るの初めてだったような気がするんだけど、ゲームなのに味がするの? しかも美味しい?」
話題を変えようと、気になっていた疑問を小太刀は口にしてみた。
「このイカは、美味しいわよ」
「山の旨味を食べてるから……」
その答えは、空の|管理者《ドラゴンプロトコル》たちから返って来た。
「山の旨味食べてるって、コレもー海産物じゃなくて山産物じゃね?」
「完全に山の幸ね」
イカの見た目とそぐわぬ生態に、了と海莉が思わず苦笑を浮かべる。
「生でも焼いても美味しいの。BBQにもお勧めだよ~!」
とは言え、|管理者《ドラゴンプロトコル》が言うのだから間違いはあるまい。
ゲーム的に言うならば『そう言うものと設定されている』と言う事になるのだろう。
「「「だから遠慮なく狩って!!!!」」」
と言うかまあ、|管理者《ドラゴンプロトコル》的には、少しでも狩る気になって欲しいと切実なのだろうけれど。
その言葉は、極一部には覿面だった。
「遠慮……しなくてよし。オッケー」
杏の目がキラッキラしている。
「美味しいなら、私も手伝わなくもなくもなくもないかも?」
なんて言ってる小太刀だが、両手の指の間にはBBQ用の串が握られている。こっちも食べる気満々である。本人はツンデレの様式美と思っているようだが、これツンデレかな。ツンあったかな?
「狩った後は食べられる、となればうちの若者たちが黙っている筈もないな」
「これはもう、狩りつくされるわね」
2人の様子を頼もしく感じて、ガーネットと海莉の口元に小さな笑みが浮かぶ。
「まあ、大人組もお酒を楽しむ口実ができるんだけどね」
「楽しみですね。レシピは色々覚えて来ました」
イカに合う酒を思い浮かべるガーネットと、イカを使った酒肴を思い浮かべるシリンも、まあ|こっち《食う》側である。と言うか、|こっち《食う》側しかいないのでは?
「食べ盛りしかいないし、遠慮なく食材確保しよっ」
了の後ろに、オフロードバイク『Iron bird』が現れる。
さあ。|狩り《蹂躙》を始めよう。
●下準備
「皆、少し待ってくれ。下準備をする」
すぐにでもイカの群れに突撃しそうな仲間に待ったをかけ、ガーネットはその場で片膝をついた。
そのまま開いた掌を、地に向ける。
「私の体に流れるエーテルよ。千変万化の力を以て、仇なす者の縛鎖となれ」
その掌から放たれるのは、誰の目にも見えない力。
――PSY-Bind。
不可視の『エーテル波動』が、イカのひしめく山肌を流れて広がっていく。
――!?
――!!
エーテル波動を感じたイカは、その不可視のプレッシャーに空間認識能力を狂わされ、右往左往し始める。その数が次々と増えていき、やがて【かんにき】の前にいる群れのほぼ全体に広がるのに、さして時間はかからなかった。
とは言え、この業はそれだけと言ってしまえばそれだけだ。
エーテル波動それ自体は、攻撃力を伴ってはいない。
それでも、ガーネットは敢えてこの業を使う事を選んだ。
「これでそれぞれの漁法を有効に発揮できるだろう」
充分だと言う確信があるから。
●駆けて、翔けて
「せんせーはタンデムにようこそ!」
「頼りにしてますよ、アキ」
愛車のハンドルを握る了の後ろに、シリンが乗り込んだ。
「グレちゃんが圧かけてるから、とりま反対側まで回ろ」
そのまましばし、了は愛車『Iron bird』を走らせる。
「やっとかー!」
ようやく群れの切れ目を見つけた所で、了は振り向かずに背中でシリンに告げた。
「せんせー、ぶん回す時は声かけんね。まずはこれからぶん回すケド」
「――アキ?」
どういう事かとシリンが目を瞬かせた直後。
了が愛車のギアを上げながら、ハンドルを切った。
岸壁にタイヤを擦りつける様にしながらの急カーブで、土煙を上げながら群れの切れ目に突っ込んでいく。
「姉ちゃんたち本気マンマンだ」
遠くからでもわかる勢いに、祭莉が感心したように呟いていた。
「まあ狩る方は心配ないかな?」
杏と小太刀は言うまでもなく、海莉も先程、野太刀の鞘を置いて二刀を手に駆け出して行った。
火力が足りないと言う事は無いだろう。
「じゃ、おいらは調整を担当するよー♪」
にぱっと告げて綾帯を握れば、祭莉の全身が白炎に覆われる。
――|風輪の疾走《ホワイトラッシュ・オブ・ウインド》。
燃え上がる白炎の塊と化した祭莉は、地を蹴って猛然とイカの群れに突っ込んでいった。
白炎で得られる飛行能力。今の祭莉なら、その速度は優に音速を超える。さながら燃ゆる彗星が如き勢いで、祭莉は地を這うようにイカの群れの中を飛び抜けた。
「おっとっと」
あっという間に了とシリンも追い越して、イカの群れの向こう側に飛び出す。
飛び抜けた軌跡に、白炎を残して。
「もっかい、いっくよー」
ぎゅるっと反転すると、祭莉は離れた別の位置からイカの群れに飛び込んだ。
それを二度三度と繰り返していく。
「うわわっ――あっ」
途中で白炎の出力をうっかり強くし過ぎて、イカに激突したりもしたけれど。
「イカ墨まみれだー♪」
顔が黒くなっても気にせず飛び回り、地に刻んだ白炎を刻み込んでいく。
「ハイ、こっからここまでフリーズゾーン。アッチはダンシングゾーン、ソッチはレーザーとびゅんびゅん怪力スルメゾーンに、串焼き製造ゾーン!」
やがて、イカの大群は数個の群れに分断された。
闇雲に大群を狩るよりも誰が何処を狩るかを決めておいた方が、討ち漏らしが無いだろう。
●氷刃舞う
「担当範囲、了解よ」
祭莉が分断したイカの群れ。
その一角に、海莉が躊躇なく突っ込んでいく。
「山のイカでも、鮮度は大事よね」
両手に構えた野太刀とマン・ゴーシュ。刃紋に朱が差す刃と緋色の剣に、纏わせるは氷の魔力。
これで斬ると同時に敵を凍らせることができる。
「鮮度を保ちつつ、捌いていくわよ」
海莉はイカの群れに飛び込むと、左右の刃を同時に振るいイカに氷の斬撃を浴びせる。
バラバラになったイカの断面が凍り付いて――消えた。
『――イカのトゲを75個入手しました』
『――イカの胴体(冷凍)を2個入手しました』
『――イカのゲソ(冷凍)を8個入手しました』
『――イカの軟骨(冷凍)を3個入手しました』
『――墨袋(冷凍)を1個入手しました』
「……え?」
頭上に表示されたシステムメッセージと、思っていたのと違うドロップに、海莉の目が丸くなる。
氷の属性を付けた刃で攻撃したら、冷凍された身がドロップするなんてこの世界でしか起こり得ないだろう。
「ゲームだから、と言う事かしら」
こういうものなのだろうと、海莉は現実をさらっと受け入れた。
「これはこれで楽でいいわね」
何しろ、倒したらすぐに血抜きを――とか、可食部とレア部分を切り分けて――とか、そう言う食材としての細かい部分を考える必要が一切なくなるのだ。適当に倒しても、何らかの食材となってドロップしてくれる。
しかも氷属性をつけといた今なら、勝手に凍ってもくれるのだ。
これ以上楽な話も、そうはない。
まあひたすら数が多いと言う、全然楽じゃないポイントもあるのだけれど。
「攻撃も単調だし、ね」
反撃に振り回されるイカのトゲ付き触腕を、海莉は舞うような足取りでひらりと避けてみせる。
そう言う世界なのだと理解してしまえば、イカの攻撃を避けるのは難しくなかった。
例えば死にゲーと呼ばれるものですら、絶対に避けられない攻撃を放つ敵、なんて、ゲーム内にそうそういないのだから。
●這い寄る網
「ふふ、例え山に棲まえどイカはイカ」
山だろうが海だろうが、杏にとってイカは|イカ《食材》である。
「綺麗に捕漁する姿勢を大切にしたい」
食べられる部分をなるべく多くするために。
そしてなるべく多くのイカを捕るために。
「まずはメイドさん、いってらっしゃい」
――うさみみメイドさんΩ。
杏がびしっとイカの群れを指差すと、150体に迫るうさみみメイドさんズが飛び出した。念動力でふわりと浮かび上がると、空からイカの群れに飛び込んでいく。
しゅっしゅっ! べしべし!
うさみみメイドさんたちがイカに仕掛けるちょっかいは、見た目には強力そうに見えない。
けれどもイカはそれを嫌がるように、追いやられてくる。
――杏のいる方へ。
「追い込み漁か。手伝うよ」
杏のやろうとしている事を察したガーネットが、十字架型のビーム砲塔デバイス『クロスグレイブ』を念動力で空に浮かべ、メイドさんズが薄い所にレーザーを浴びせてイカの追い込みを手伝っていく。
「来た来た」
そうして追いやられて来るイカの群れを見据えて、杏は大きな網を抱えて身構えた。
海に出て漁船で使うような、地引網である。
「とうっ」
一般人だったら、大の大人でも数人掛かりだろうけれど、杏はちょっと大きいものをぶん投げる程度の気軽さで、且つ綺麗にぶん投げられていたのだろう。ぶわぁっと、網が広がった。
「でもあれ……届くの?」
「届く。さ、イカの群れ目掛けて、GO」
まだ飛距離が足りないのではと案ずる|管理者《ドラゴンプロトコル》の声に、杏はびしっとイカの群れを指差す。
するとどうだろう。網が空中でウネウネと蠢き、ひとりでにイカの群れに向かっていくではないか。
「え? え? なにあれ」
「空飛ぶ……網?」
その光景に、|管理者《ドラゴンプロトコル》からも驚きの声が上がる。
「この網、自走式」
「何で網にその機能をつけようと思ったの?」
得意げな杏に、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちの疑問が止まらない。
けれど網は|管理者《ドラゴンプロトコル》たちの疑問を置き去りに、うさみみメイドさんズに追われて一塊になったイカの群れにぶわさぁっと覆いかぶさった。
「よしっ」
ぐっと小さく拳を握って、杏は灯る陽光を掲げた。
白銀の光剣が輝き出し、その形を変えていく。その先端がどんどん大きく、広くなっていく。
「――叩き潰す」
光剣と言うより光の大槌の様な形にあった灯る陽光を、杏は思い切り振り下ろした。
びたーんっっ!
衝撃で祭莉が残した白炎が揺れる。打撃痕が小さなクレーターとなり、その中心には網の下でぺしゃんこになったイカ達が。
「トゲは回収、食材は丁寧に下準備し……」
と駆け出そうとした杏の頭上に、システムメッセージのウィンドウが現れる。
『――イカのトゲを88個入手しました』
『――イカのトゲを25個入手しました』
『――イカのトゲを38個入手しました』
『――イカのトゲを99個入手しました』
『――イカのトゲを61個入手しました』
『――イカのトゲを31個入手しました』
『――イカのトゲを22個入手しました』
『――イカの身を3個入手しました』
『――イカのゲソを6個入手しました』
『――墨袋を2個入手しました』
『――イカのトゲを――』
下準備などする必要もなく、もう調理待ちの食材となって飛び込んできたイカの残骸に、杏も一瞬、目が点になり――。
「んむ。わかった。必ず美味しく食べる」
また目がキラッキラになった。
●属性って言えば良いと思ってない?
「早速、海の仲間を召喚――はしない方が良さそうね」
いつものウサ耳海産物軍団を喚ぼうかと思っていた小太刀だったが、流石に|思いとどまった《空気を読んだ》。
「なんかこう、間違って狩られちゃいそうな気がひしひしと」
イカを狩る気満々の仲間の前では、うっかりが起きかねない。
皆の食欲――特に隣のゾーンからひしひしと感じる杏のそれは、小太刀もよーく知っている。
「し、仕方ないわね。今こそこの【串焼き】属性の黒雨の矢の出番ね!」
そうツンデレっぽく言いながら、ガーネットはずっと指に挟んでいた串を高々と掲げた。
「串焼き……」
「……属性?」
「なぁに、それー?」
もう慣れてるかんにきの面々では誰もツッコまないので、代わりに|管理者《ドラゴンプロトコル》たちにキョトンとなって貰おう。
「この串は飾りじゃないのよ」
得意げに|管理者《ドラゴンプロトコル》たちに告げて、小太刀は指の間に挟んでいた串を空に向かって投げ放った。
串はイカの群れの上で上昇の頂点を越えて、放物線を描いて落ち始める。
「戦場に黒き矢の雨を」
――黒雨。
小太刀が告げた直後、矢替わりの串が増えた。
600本を超える、まさに文字通りの矢の雨。いや串の雨。それがイカの群れへと降り注ぐ。
矢のような勢いで降る串が、イカの脚を2本まとめて射貫いたかと思えば、数本の串に引っ張られてエンペラが引き裂かれる。
『――イカのトゲを39個入手しました』
『――イカのトゲを77個入手しました』
『――イカのトゲを71個入手しました』
『――イカのトゲを69個入手しました』
『――イカのトゲを34個入手しました』
『――イカのトゲを42個入手しました』
『――イカの身(串刺し)を2個入手しました』
『――イカのゲソ(串刺し)を10個入手しました』
『――墨袋を7個入手しました』
『――イカのトゲを――』
大量のトゲに加えて、一部串付きの状態になったイカの身が小太刀の元に飛び込んで来る。
「姿焼きにぴったりな串刺しに。これが串刺し属性の力よ!」
既に海莉の冷凍状態ドロップを見ていたからか、小太刀は穴が空いたら拙い墨袋の方には串が刺さっていないと言うご都合っぷりにも驚くことなく、むしろ得意げであった。
●フリージングタンデム
「到着っ!」
「な、なかなかじゃじゃ馬な運転ですね」
無事、イカの群れの反対側まで回り切った了とシリン。
「いかにもアキらし……」
「これからもっとぶん回すけど?」
若干疲れてそうなシリンの声を、了が遮った。
だって|本番《狩り》はこれからなのだ。
「ええ、望む所です――もう慣れましたから」
それはシリンもわかっているから、狩人の顔になって返す。実際、慣れたのは事実だ。
「さすがせんせー。みんなのトコから距離開いたし、UC発動すっから」
ハンドルを握る手に、了が力を込め直す。
オフロードバイクの車体に、タイヤに、属性の力が集まっていく。
「――氷ですか?」
「せーかい! 絶対零度のブリザード!」
「いいですね。合わせましょう」
了の愛車が纏う属性を確かめたシリンは、同じ属性の精霊力を精霊猟銃に集めていく。
そして、2人を乗せたバイクが駆け出した。
「なんぴとたりともってゆー有名なセリフがあるんだよね!」
まだ気づいていないのか、気づいていて反応できていないのか定かではないけれど。
兎に角、此方を振り向きもしないイカの背中に、了はスピードを緩めずに突っ込んでいく。
――|Elemental Attack《レキサツ》。
絶対零度の氷属性を纏った了の愛車、そのタイヤが触れる傍から、イカの身体が凍り付いていく。凍ったイカを路面代わりに、了は巧みなハンドル捌きでそこを駆け登っていった。
そして、次のイカの上に飛び降りて――また凍らせてながら駆け登って、飛んで。
「ガーネットのプレッシャーのおかげでイカの動きが鈍いですね」
ガクンガクンと上下に跳ねるバイクの上で、シリンはイカの反応を分析していた。
「このスピードなら、触腕を気にする必要はなさそうですね」
精霊猟刀は必要ないと鞘に納める余裕もある。
本当に、もう了のバイクに慣れたようだ。
「でも流石にキリないね!」
当の了は、かなり真顔だ。ユーべルコードを使った今の愛車なら、本気で飛ばせば音速を超えられる。オフロード車のタイヤなら凍ったイカを駆け登るのも難しくないとはいえ、飛ばし過ぎれば本当に飛んでってしまいかねないわけで。
「後ろの敵はせんせーに任せる!」
「問題ないですよ。一網打尽にしますから――アキは前を見ててください」
そう告げて、シリンは精霊猟銃を改めて構え直す。その中では、たっぷりと詰まった氷の精霊力がふつふつと渦巻いていた。
精霊の力と言うものは、周りの環境の影響を受け易い。
すぐ近くに他にも属性の力を使うものがいるなら――同じ属性に合わせれば、その効果は互いに高まるものだ。
「逃れられるとお思いですか?」
――Bullet Net。
シリンは後ろを見もせずに、空に銃口を向けて引鉄を弾いた。氷の精霊弾が空に放たれて――弾ける。
そうして分裂し、空から降り注ぐ氷の弾丸。その数、優に1000発以上。
それを浴びたイカが悉く凍り付いていく
『――イカのトゲを91個入手しました』
『――イカのトゲを84個入手しました』
『――イカのトゲを28個入手しました』
『――イカのトゲを14個入手しました』
『――イカのトゲを12個入手しました』
『――イカのトゲを54個入手しました』
『――イカのトゲを82個入手しました』
『――イカの胴体(冷凍)を7個入手しました』
『――イカのゲソ(冷凍)を6個入手しました』
『――墨袋(冷凍)を2個入手しました』
『――イカのトゲを96個入手しました』
『――イカのトゲを75個入手しました』
『――イカのトゲを55個入手しました』
『――イカのトゲを31個入手しました』
『――イカのトゲを64個入手しました』
『――イカのトゲを19個入手しました』
『――イカの胴体(冷凍)を6個入手しました』
『――イカのゲソ(冷凍)を4個入手しました』
『――イカの軟骨(冷凍)を6個入手しました』
『――墨袋(冷凍)を2個入手しました』
頭上に次々と表示される、ドロップを告げるシステムメッセージ。
「いいですね。ワタごと凍らせたイカの刺身は、日本酒と合わせると最高ですよ」
満足げなシリンだが、そのウィンドウすら置き去りに了が走り続けるものだからかドロップ品は飛び込んでは来なかった。
●そして、イカおかわり
「回収するよー♪」
フィールドに残る拾って回るのは、屋台を引いて飛んでる祭莉である。
2人がイカを逃さずに冷凍・粉砕しているお陰で、屋台を引いてても安全にドロップ品を集めて回れていた。
「ゴールっと」
「お疲れさまでした、アキ」
イカの群れの上を駆け抜けた了が愛車を止める頃には、ドロップ品の半分以上が祭莉の屋台に収まっていた。
「結構な数がいたはずですが……まあ、綺麗に片付きましたね」
「みんな相変わらずね。いっそ豪快だわ」
さもありなんと頷くシリンに、自分のゾーンを片付けて来た海莉が声をかける。
【かんにき】の面々との狩りは久しぶりな海莉であったが、その豪快で自由な狩りには思わず何度も息を吐いていた。
「攻撃ひらひら避けてて凄かったじゃん。綺麗に片付いて良かったねーお互い」
ハンドルから手を放した了が、気が抜けたような笑みと共に返す。
「ほらクリーニング系のUCが無いからねー。ダイジョブかな?って、実は心配だった」
「ああ……」
「そう言えばそうね」
はっちゃけ系人格を自称する癖に細かい所に気が回るアキの言葉に、シリンと海莉が顔を見合わせる。
「でもさ。足りなく無い?」
そこに屋台を引いてきた祭莉が、そんな事を言い出した。
「足りないか……?」
「んむ。足りない。味見したいし。トゲも揚げたら美味でない? ダメ?」
「ま、まあ、どうしてもっていうならもっと狩っても良いけど?」
訝しむガーネットを始め、何を――と言いたげな顔になる大人組を差し置いて、杏が真顔で頷き、小太刀もツンデレに頷く。
「ねえ、管理者の姉ちゃんたち♪ イカが出て来るアイテムってトリリオンこんくらいで足りる? あと調味料は? 見せて見せて」
「え、ええ……いいけれど」
そして祭莉は、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちと交渉を始めて――。
「じゃ、とりあえずこれちょーだい」
何かを手に戻って来た。
「追加のイカおいでーするよー」
言うが早いか、交換してきたアイテム――小さな青魚の塊にしか見えないもの――を地に投げつけた。
『――イカのエサが使われました』
そんなシステムメッセージが出た後、イカの群れが追加で出現した。
「イカも食べられるために山に出現しているわけではないと思うが……」
「バグった遣り込みゲーだしこんなもんでしょ」
エサにつられて追加ポップアップ。それで良いのか、と遠い目になりながらもエーテル波動は取り敢えず放っておくガーネットに、了が笑って返す。
そのプレッシャーでか、空間認識能力が狂ってか。
或いは自分たちを囲む【かんにき】の何人かが放つ食欲に恐怖したか。
「はい、そこ逃げないで」
逃げようとしたイカの気配に、海莉がいち早く反応した。
小さな種を指で弾いて、動き出したイカに撃ち込む。
「汝、生けるものを聖別し、祝福するものよ。彼の者を炎にて清め、我と繋げ」
――|聖樹の鎖《ミスルトゥ・チェイン》。
海莉が飛ばしたのはヤドリギの種。
それがイカに当たった瞬間、種が爆発。そこからヤドリギの枝が次々と生えて伸びていき、イカの群れ全体に絡みついていく。その内の一本の枝が、イカの群れの間を縫って海莉の右腕に絡みついた。
「取り敢えず、唐揚げにするならトゲよりイカ軟骨ね」
枝の先のイカを群れの中から引っ張り出し、海莉は左の刃でサクッと両断してみせる。
「そっか。じゃあ軟骨も獲ろう」
「骨まで串焼きよ!」
ヤドリギで繋がれたイカの群れに杏が投網をぶん投げ、小太刀が串を投げつける。
「任せて大丈夫だな」
「ええ、問題ないでしょう」
「ダイジョブだね」
ガーネットとシリンと了は、すっかり後方保護者面で見守っていた。
――【かんにき】のイカのトゲ、総ドロップ数:35371個。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『突然』の『サメ』
|
POW : 噛み付く
噛み付きが命中した部位を捕食し、【対象のステータス】を得る。
SPD : 仲間を呼ぶ
【突然】大量の【サメ】を降らせる事で、戦場全体が【鮫の縄張り】と同じ環境に変化する。[鮫の縄張り]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ : どこでもシャーク
【鼻先】で長さ1万÷レベルmの洞穴を掘ると、終点が「同じ世界の任意の場所」に繋がるワープゲートになる。
イラスト:すずや
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠フカヒレ・フォルネウス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●サメ特効と言えば
鬱陶しい程にひしめいていたイカの群れだったが、経験豊富な猟兵達の|戦力《食欲》の前に、ついに駆逐された。
「やったー! いつもの山の景色だよ!」
「良かった。本当に良かったわ」
「ほんの数時間ぶりなのに……懐かしいね……」
|管理者《ドラゴンプロトコル》たちも、山岳フィールドが普段の景色に戻った喜びを噛み締めている。
荒涼とした山の景色でも、イカに埋め尽くされた景色よりはマシと言うものだろう。
だが、喜んでばかりもいられない。
夏らしい暑い日差しを浴びせて来ていた青空が、あっという間に暗雲が立ち込めていた。
そればかりではない。空気が急速に湿っぽくなってきている。
まるで海辺の空気――と言うか、何か風が塩辛い。まるで、水がない海の中、のような。
「ねえねえ。何か今回、すっごい海っぽさが濃いよ?」
「そうね。この雲と空気――間違いなくサメの前兆だけど、いつもより塩辛いわ」
「レイドだから……かな?」
|管理者《ドラゴンプロトコル》たちも、空気の異変を感じていた。
「あまり時間はなさそうね。ええと、イカの大群討伐お疲れさまでした」
「今回の……イベント専用サメ特効武器について説明します」
気を取り直した|管理者《ドラゴンプロトコル》は、居住まいを正し猟兵達に向き直る。
「それはこれ!」
これ、一番幼いと|管理者《ドラゴンプロトコル》が掲げてみせたのは、幅があり丸みを帯びていてその外周にトゲトゲを持つ――所謂、回転ノコギリであった。
「イカのトゲを豪華に2000個使ったイカノコ、だそうです」
おい名前。
「ちなみにねー。イベントを放置していった謎の人がつけてったアイテムコメントを読むね。『サメ特効と言ったらコレに決まりですよ! サメには回転ノコギリが何故か効くんです。ワイちゃん、詳しいんだ』だって」
説明になってないぞ親分。
「ちなみに、近距離タイプと、回転刃を飛ばせる遠距離タイプがあります」
まさかの戦闘スタイルによって選べる親切設計。
いや何でそこに拘った。
「交換レートは、本体がイカのトゲ2000個。そこから500個プラスするごとに、イカノコ+1、+2……と強化出来るわ」
強化に上限はない。イカのトゲがある限り可能だ。
或いは強化せずに2つ作ってイカノコ二刀流したって構わない。
「あ! 見て見て、あれ!」
ふいに|管理者《ドラゴンプロトコル》の1人が山の頂の方を指差す。見れば、サメの背鰭が山肌からにょっきり出ているではないか。
「あ。やっぱり、空からも来た~!」
言われて空を仰げば、暗雲の中からもサメの背鰭が見えている。
言うまでもない事だが、サメは本来、海洋魚類。
海の中にいるべきものだ。
この世界でも、最初は水辺のフィールドにのみ出没していたらしいのだが、いつしか何処にでも現れるようになったそうだ。
「ここはもう……サメの縄張りなんだね」
「今回、縄張りになるの早いわね」
「レイドだからかなー?」
だからだろうか。
|管理者《ドラゴンプロトコル》たちも驚いてはいるようだが、サメを始めて見たと言うような反応でもないのは。
「それでは、あまり時間もないので、どんどん交換してくださいね」
「余ったトゲは、後でイカとサメの食材とか調味料とも交換できるからね~」
============================================================
●サメ特効武器、イカノコについて
記載の通り、交換レートは本体2000個、強化1段階ごとに500個です。
種類は、イカノコ(近)とイカノコ(遠)があります。
近の方はいわゆるチェーンソー。
サイズ感や、回転刃の長さ、などはご自由に。交換時に任意で選べると言う事で。
遠の方はトゲトゲ付いた円盤を飛ばすタイプ。
弩みたいな射撃タイプでも、某キャプテンの盾みたいに腕に装着して飛ばすでも、こちらもご自由に。
なお『特効装備を着用していないと、ボスへのダメージやバッドステータス成功率は10分の1になってしまいます』と言うのがイベントの仕様です。『着用していないと』と言う表記がポイントな気がしませんかね。
プレイング受付は、公開後からになります。
告知の後に再送をお願いする予定です。
受付期間は1週間ほどの予定です。(来週の水か木曜辺り予定)
受付終了、および再送受付はXのMSアカウントとMSページでの告知になります。
なお2章からの参加される方がいらっしゃった場合、イカのトゲ2000個が配布されます。
とりあえず特効装備は作れますよ、と。
いわゆる、ログボ、ってやつです。
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シモーヌ・イルネージュ
そーか。この世界のサメは空を飛ぶのか……
空飛ぶサメは初めて見たよ。すごいな。
歯ごたえがありそうだ。
いつもならば、慣れた武器を使いたいところだけど、今回はイベント武器でないと切れないらしいから、それに従おう。
イカノコ(近)をありったけ。
5347個だから、イカノコ+6か。
この武器すごいな!
トゲがすごく回る!
UC【山紫水明】を追い掛けして、【土の魔力】も付与して、攻撃力をさらに高めよう。
これでぶん殴ったサメがどうなるか楽しみだ。
腕が鳴るよ。
●未知に躍る
「そーか。この世界のサメは空を飛ぶのか……すごいな」
夏の夕立を思わせるような、暗い雲に覆われた空。
その雲の中から現れ空を泳ぐサメの群れに、シモーヌ・イルネージュ(月影の戦士・f38176)の口から驚嘆の呟きが零れた。
「あ、もしかしてサメが飛んでいるのを見るのは……?」
「初めてだよ」
|管理者《ドラゴンプロトコル》の1人からかけられた声に、シモーヌは頷き返す。
普通の反応であろう。
まあ実は他の世界でも、サメが飛ぶ事は稀にある事ではあるのだけれど。
「空飛ぶサメか。歯応えがありそうだ」
そんな未知の敵を前に、シモーヌは警戒はしても二の足を踏むことはなかった。
「わぉ、頼もしい~♪」
むしろ高揚を抑えるように笑みを浮かべる様子に、一番幼い|管理者《ドラゴンプロトコル》は目を輝かせている。
「ええと、イカノコはどうします?」
「近距離タイプにどんなのがあるか、見せて貰えるか?」
イカのトゲの交換を促して来た別の|管理者《ドラゴンプロトコル》にシモーヌが訊ね返すと、目の前にメッセージウィンドウに似たものが表示された。その中には、イカノコの画がずらりと並んでいる。
様々な得物を使うシモーヌだが、未知の敵であればこそ、慣れた武器を使いたいところではある。
だが折角サメに効く武器を用意することが出来るのだ。ならばそれを使わない手はないし、どうせ使うのなら、使い慣れている形状に近い方が望ましい。
「これをありったけ強化するか」
最終的にシモーヌが選んだのは、槍に近い長柄を持つタイプであった。
「それじゃあイカのトゲを5000個消費して+6まで強化しますね」
|管理者《ドラゴンプロトコル》が何かウィンドウを操作すると、あっという間に選んだイカノコが何処からともなく出現した。
「このボタンを押すと刃が回ります」
「どれ」
渡されたイカノコの長柄の根本。槍で言えば石突に当たる部分にある安全装置を外してトリガーを押し込めば、先端の回転刃が物凄い勢いで回り出した。
「っ」
刃自体が回ると言う、今までに覚えのない反動。
槍とも蛮刀とも使い勝手がまるで異なる感触に、柄を握る手に思わず力が籠る。
「この武器すごいな! トゲがすごく回る!」
長柄を支える両腕に伝わる、激しい振動シモーヌ。それ程の回転の勢いは、トゲを多く消費して強化した証でもある。
(「これでぶん殴ったサメがどうなるか――」)
もう隠しきれない笑みが、シモーヌの貌に浮かぶ。
――楽しみだ、と。
「――腕が鳴る」
未知の武器を手に、未知の敵と戦う。
これで血が騒がずにいられるものか。
「母なる大地よ。我に力を授け給え」
――|山紫水明《ラ・テール》。
土、水、風。
自然の元素にまつわる三属性の魔力の内、シモーヌは敢えて攻撃力を向上させる土の魔力だけに絞って纏う。
(「リーチはこっちの方が長い。一撃で仕留めれば良い!」)
サメに噛みつかれるより早く、回転する刃を当てさえすれば良いのだと。
ズバシャァッ!
シモーヌが掲げて振り下ろした回転する刃は、サメの肌を軽々と引き裂いて、その肉を、骨を断ち切る。
あっさりと、イカノコはサメを一刀両断にしてみせた。
「ははっ! こいつは本当にすごい! 一撃じゃないか!」
この威力なら、囲まれない限りは問題ない。
「さて。折角の武器、もっと使わせてくれよ!」
ゲーム的なドロップアイテム化は今回も健在なので、腹を掻っ捌こうがサメの身やサメのヒレとなって足元に散らばるばかり。
血や臓物を浴びることもなく、シモーヌはイカノコを振るいサメを屠り続けた。
大成功
🔵🔵🔵
明石・鷲穂
【壁】
見ろ、栴。
ルシルが好きそうな鮫だ。鮫の違いや好みは正直分からんが。
交換条件やらは栴に任せる……が、おれ2つ持って良いのか?悪いなぁ(破顔)
あの姉ちゃんが調味料は安くしてくれるって言ってたからな。遠慮なく強化もしよう。
気前の良さそうな美人だ。交渉なんざせずともたくさんおまけしてくれるだろ!
今のおれはキマイラとして進化した。
この両手にチェーンソー。つまりイカをも採り入れたキマイラってことだ。栴の強化に加えて俊敏なイカキマイラだ!
さて、仲間も呼んだな?鮫肉よこせ!
……そのまんまはやっぱ不味いな。
だが気分はノッてきた。この調子で鮫刻むぞ。
狩り終わったら栴に状態治してもらう。
いつも通り頼んだ!
生浦・栴
【壁】
鮫だな
飛んでおる時点で現実と違いすぎるが
後で感想を聞けそうなら聞こうか
喰うモードになったら忘れてそうでもあるが
トゲ2千個+αの重量か(渋い顔
着用で良いなら助かる
俺は距離用を1つで
山羊のは二刀流はどうだ?
強化は各+5で
食べる段で何人か呼ぶ故、残りは食材等に交換するが
お主その辺の交渉も上手そうよな?(チラ
今度は空にも居るのが面倒か
鮫でも軽く苦手を探った上で今回も適度に追い込み
程良いところでUCを発動
速度は鮫を1/10、山羊のは3倍に
地上分は任せるが派手に戦っておるな
…処理なしの生はいかんか覚えて置こう
傷は後程別の追いUCで対応しよう
空の鮫は風の魔法でイカノコを操るとする
フカヒレも回収せぬとな
●鮫に逢うては
夏の夕立を思わせる、暗い雲が広がった空。
「見ろ、栴。ルシルが好きそうな鮫だ」
「……鮫だな。確かにフューラーのなら飛んでおる鮫でも釣りそうではあるが」
見上げる明石・鷲穂(真朱の薄・f02320)と生浦・栴(calling・f00276)の視線の先には、そんな空に広がる雲の中から飛び出して来たサメが、空中を泳いでいた。
「そも、海の鮫と空の鮫はどう違うのであろうな」
「さてな。鮫の違いや好みは正直、俺も分からん」
上空を泳ぐ鮫の姿に浮かんだか。栴が口にした疑問に、鷲穂は笑って返す。
「呼吸はエラでしておるのか……まあ、飛んでおる時点で現実と違いすぎるが」
確かにそこは明らかにおかしい。
けれどもそこを気にしていては、話が進まない。
「後でフューラーののに感想を聞けそうなら聞こうか。喰うモードになったら忘れてそうでもあるが」
「ありそうだな!」
思わぬ所で名前が出て、今頃どっかでエルフがくしゃみをしているかもしれない。
幸いと言うべきか、ゲーム的な都合と言うべきか。
上空のサメは落ちると言うより、空をゆっくりと潜っているような動きをして|サメ特効武器《イカノコ》を慌てずに選ぶ程度の時間は充分にありそうだ。
「交換条件やらは栴に任せる」
「……合わせて13986個であったな」
頭脳労働は任せたと鷲穂が早々に匙を投げると、栴は渋い顔になった。
「ん? 何か問題が?」
「いや。計算は単純故問題ない」
どうかしたかと訝しむ鷲穂に、栴は苦笑しながら頭を振る。
「問題はトゲ2千個+αの重量だ」
栴は生粋の魔法使い。チェーンソーはおろか、刃を持つ得物を使う機会の方が少なかったであろう。
最低でもイカのトゲ2000個で作る|特効武器《イカノコ》の重量がどれほどのものかと、表情も渋くなろうと言うもの。
だが――これはゲームのイベントである。
「イカノコの重さの事なら、心配ないわよ」
「イカノコの重さはねぇ~。なんとたったのトゲ10個分!」
「何回強化しても、重さは変わらないよ……」
|管理者《ドラゴンプロトコル》たちが続々と告げて来た事実に、栴の目が珍しく丸くなった。
「等価交換とは言わぬにせよ、2000個分の重量はどこへ……いや、これはそう言うものと飲み込むが吉か」
「トーカコーカン?」
「そうそう。そう言うものなのよ」
魔術に明るい故にこそ感じた違和感を飲み込む栴の後ろで、|管理者《ドラゴンプロトコル》は首を傾げたり頷いたり。
(「とは言え『着用』で良いなら助かる」)
そう言うものだと――|特効武器《イカノコ》は持っているだけでも良いと――解ってしまえば、ひとつの答えを出すことが出来る。
「俺は遠距離用を1つで、山羊のは近距離の二刀流はどうだ?」
「おれ2つ持って良いのか? 悪いなぁ」
栴の出した結論に、破願する鷲穂。
「3つ作ると6000個消費。残りは7986個。特別に残すことを考えなければ強化15回分。それぞれ5回ずつだ」
「あの姉ちゃんが調味料は安くしてくれるって言ってたからな。遠慮なく強化もしよう」
栴の計算に、敢えてトゲを残す必要もないと鷲穂も頷く。
「食べる段で何人か呼ぶ故、残りは食材等に交換するが……まあお主、その辺の交渉も上手そうよな?」
「気前の良さそうな美人だ。交渉なんざせずともたくさんおまけしてくれるだろ!」
「びじっ!? ほ、褒めたってイカノコと調味料と食材をおまけするくらいしか出きないから!」
カラカラと笑って栴に返す鷲穂の言葉が聞こえた|管理者《ドラゴンプロトコル》の1人が、実に判り易い反応を返していた。
「遠距離用ので、片手で飛ばせるものはあるか?」
「俺も片手で使えるもんがいいな。両手に持つからよ!」
栴と鷲穂は先程決めた通り、それぞれ遠距離近距離用のイカノコの中から、自分に合っていそうなモデルを選んでいく。
そして――。
「今のおれはキマイラとして進化した」
それぞれ+5まで強化した|特効武器《イカノコ》を両手に携え、鷲穂は誇らしげに高々と掲げる。
「この両手にチェーンソー。つまりイカをも採り入れたキマイラってことだ」
何やら、妙な事を言い出した。
普段使わない武器に、テンションが上がっていたりするのだろうか。
「栴の強化に加えて俊敏なイカキマイラだ!」
「……まあ、まだイカの、と呼び変えなくて良いから好きにするがよい」
それでいいのかと栴も言いたげだ。
「まあよい、やるぞ」
気を取り直し、栴は空に視線を向ける。
頭上にサメはいない。それだけ確かめれば、充分だ。
「空にもいるのが面倒だが――後回しでも良かろう」
別にサメがビームを打ってきたりはしないのだ。敢えて空中戦をしなくとも、降って来た後で対処すれば良い。
頭上に真っ逆さまに降って来る個体や、ワープにさえ気をつければそれで充分。
先に地上に降りて来たサメから排除すればいい。
「山羊の。しばし待て。まずは苦手を探ってみる」
「おう、頼んだ」
鷲穂を待機させ、栴は先のイカ戦と同様に、雷、氷、炎、風――と魔導書の秘める属性の単純な魔法を、サメの群れを一方向に追い込むようにしながら放ち続ける。
「ふむ。どの属性でも特に反応は変わらんな」
そうして一通りの属性を試して導き出されるのは、特に弱点らしい属性が無い、という結論。
だからこそ、必要になるのだろう。|サメ特効武器《イカノコ》が。
小手調べはここまでだ。
「――此方の都合に合わせて貰おうか」
栴が掲げた闇く紅い宝玉『Ancient deep sea』より、光が放たれる。
光はサメの群れのほぼ中央に落ちると、そこを起点に3mほどの円を描いた。
――|Speed Adjustment《カゲンソク》
光で描かれた|円の上《フィールド》は、呪詛に満ちた空間。
その中では、あらゆる運動エネルギーを栴の意のままに10分の1に減速か、或いは3倍に増加させることが出来る。
「山羊の。狩りは任せるぞ。あの中であればお主は3倍速くなり、鮫は遅くなる」
「心得た!」
大きく頷くと同時に、鷲穂は山羊の四つ足で地を蹴って飛び出した。
「鮫肉よこせ!」
空間の中のサメに肉薄するや否や、両手のイカノコを一閃。
尾ごと千切れ飛んだサメの肉を、両手が塞がっている為に口で受け止めると、鷲穂はそのまま食いついた。
中々に歯応えのある身を食いちぎり、もっしゃもっしゃと咀嚼する。
その表情が、次第に曇っていった。
「……そのまんまはやっぱ不味いな。生臭い」
「処理なしの生はいかんか覚えて置こう」
よほど生臭かったのだろうと伺える鷲穂の反応に、栴も眉を顰める。
「だが気分はノッてきた! 毒を喰らわば鰭までってなァ!」
まずさを吹き飛ばすように、鷲穂は破願する。
「――この身は不浄の皮袋」
不浄すら飲み込んでみせると笑う。
――|恙み宿し《ツツガミヤドシ》。
オブリビオンの一部を喰らい、取り込む事で、その不浄を己の力と為す業。
即ち、イカから作った得物を両手に携えた上に、サメの力も取り込んだと言う事になる。
「これでイカサメキマイラだ!」
「「「……」」」
進んでキマイラ離れしていく鷲穂に、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちもなんとも言えない表情になる。
だが、イカサメキマイラの力は確かだ。
鷲穂はサメの突進を微動だにせずに受け止めると、その場で腹を蹴り上げ、浮かしたところに|特効武器《イカノコ》で切りつけ、サクッとサメを三枚におろしてみせたのだから。
「速さの差もあるが――良い調子だぁ、イカノコ!」
|特効武器《イカノコ》の刃の切れ味と、サメがどんどん切り身に変わっていく様に、再び破願する鷲穂。
「で? 出血ではなさそうだが、呪縛……いや、毒か?」
「当たりだ」
だが栴に隠した不浄の代償を看破され、その笑みが苦笑に変わる。
「ま、その辺はあとでいつも通り頼む! それより――そっちのイカノコはどうだ?」
「これか?」
すぐに苦笑も隠して再びイカノコを振るう鷲穂に訊ねられ、栴は視線を腕に向けた。
そこには、円盤状の|特効武器《イカノコ》が取り付けられている。
「まあ、悪くない。確かに重くなく、扱い易い故な」
そう返しながら、栴は無造作に腕を振って|特効武器《イカノコ》を飛ばすと同時に風の魔法を放つ。
風に乗って軌道を変えた|特効武器《イカノコ》は、空から迫りつつあったサメの胴を真っ二つに斬り裂いていた。
「これは……フカヒレか。(レア)とあるな」
「レア! すげえじゃん!」
栴の元に飛んできたサメのドロップ品に、鷲穂も声を弾ませる。
「でも、まだまだ足りねえよな!」
そして鷲穂は、空に視線を向ける。
「仲間も呼んだな? どんどん呼べよ。サメ肉、足りねえからさ!」
隠した毒など微塵も感じさせない、力強い声を張り上げた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
彩瑠・翼
【月翼竜】
イカの次はサメ?!
でもBBQまであとひと踏ん張りだね、頑張ろう!
手持ちのドロップ数が1人あたり5434個なら
イカノコは近距離タイプのチェーンソー1つを手持ち装備(新規作成2000+強化2回1000)
あと、できるならUCで作成した鎧にチェーンソーとして組み込んでみたいな(新規作成2000)
ユディトさん、弱点情報ありがとう!
リュートくんの無双にあわせて連携試みるね
今回もサメにはサメを!
オレの鎧は巨大回転ノコギリ(イカノコ)持ったチェーンソーザメだよ!
サメの噛み付きは、鎧でガード
鎧にチェンソーを組み込めてたらそこからカウンター攻撃
成否に関わらず手持ちのイカノコでの追撃も忘れないよ
ユディト・イェシュア
【月翼竜】
たくさんイカを倒してトゲをゲットできましたね
俺は遠距離タイプを一つ(武器詳細お任せ
可能な限り強化しておきましょう
こういう武器を使えるのもこの世界ならではですよね
確かにフカヒレを作るには時間がかかりますが…
ひょっとしたらドロップしてくれるかもしれませんよ
空からのサメにも驚きません
ここが縄張りだとしても
海中でなければこちらも動きやすそうです
レイドボスなら強敵でしょうが
サメの弱点を見抜いて強化した特攻武器で攻撃すれば
苦戦はしないはず
連携攻撃を意識し
弱点は仲間に共有しますね
翼くん、なるほどサメにはサメですか…
後方から援護しますね
リュートくんは両手にイカノコのサメキラー
正に無双というやつですね
リュート・アコルト
【月翼竜】
二人とも。俺は勉強したぜ(顔ドヤッ
フカヒレはすぐにできねえってな…!(無駄にキリッ
フカヒレ、ドロップするのか!?(管理者チラッ
翼のサメ、かっけぇ(目キラッ
俺も負けてられねえな!(拳ギュッ
俺はイカノコ二つ作るぜ!
近距離タイプを2個作って
それぞれ1回ずつ強化して、合計5000個だな
余ったのは翼にやるよ
ユディトは弱点見れるのか!
すげえな!俺にも教えてくれよ!
クロに騎乗してサメの真ん中に突っ込むぜ!
両手の武器振り回して無双するぜ!
空中機動で騎乗突撃ランスチャージでなぎ払いとりゃー!
噛みつき?そんなの無視無視!
クロに噛みつく奴は容赦しねえ!
サメの群れの真ん中でじゃんじゃん攻撃するぜ!
おりゃー!
●ボスなら、レア設定はあるもので
「イカの次はサメ?!」
しかも空から。
色々と非常識なサメの登場に、彩瑠・翼(希望の翼・f22017)は驚きを抑えきれずにいた。
「まあ、これで最後の筈ですから」
「そっか。そうだったね。BBQまであとひと踏ん張り、頑張ろう!」
ユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)の言葉に、翼はひとつ頷いて気を取り直す。
「サメもBBQの食材になるのかな?」
「なりそうですよね」
イカを倒してドロップした食材の数々を思い浮かべる2人。
イカがああなったのなら、同じイベントの延長で現れたサメが食材にならない方がおかしい。
「二人とも。俺は勉強したぜ」
そのすぐ横で、リュート・アコルト(竜騎士・f34116)が何やら得意げな顔をしていた。
「フカヒレはすぐにできねえってな……!」
「お、おう?」
「フカヒレ……?」
何で急にフカヒレの話が――と、翼もユディトも首を傾げる。
「だってほら。フカヒレって、サメの鰭から作るもんだろ?」
「ああ、確かにフカヒレを作るには時間がかかりますね」
「あー……」
リュートの言葉にユディトがすぐに成程と手を打ち、少し遅れて翼も言わんとする事を察した。
要するに、加工品かどうかと言う事だ。
確かにUDCアースなどで高級食材と知られるフカヒレは、サメの鰭(主に背鰭か尾鰭)を干して乾燥させた、加工品である。
しかも干して乾燥させた、という部分には『端的に言えば』とつけるのが正しい。ただサメから取った鰭をそこら辺に干しておいても、所謂フカヒレにはならない。
ユディトの言うように、フカヒレは時間と手間がかかるモノなのだ。
イカを倒してドロップした切り身やゲソは、そこまで手がかかっていない。
リュートが言わんとするところは、そう言う事だろう。
「ですが、ひょっとしたら、フカヒレをドロップしてくれるかもしれませんよ」
「え!? フカヒレ、ドロップするのか!?」
それでも可能性はあるのではとユディトが告げれば、リュートが期待に満ちた視線を|管理者《ドラゴンプロトコル》に向けた。
「ドロップするわよ、フカヒレ。確率低いけれど」
「レアドロップです」
「出たらね~、とってもラッキー!」
さすがゲームのイベント、と言った所か。
「よっしゃー! そう言う事なら、サメ倒しまくらねえとな!」
それを聞いたリュートのやる気が、一気に高まった。
●サメ座なんてないけれど
「うんうん、頑張って欲しいな」
「特効武器、どうします?」
やる気が上がってる3人の様子に、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちからも、別の期待に満ちた視線が向けられる。
「勿論、作ります。たくさんイカを倒してトゲをゲットできましたからね」
ユディトの言葉に、翼もリュートも異論はない。
「えーと、16302個だよな」
「3人で分けると……5434個になるから……」
とりあえずイカのトゲを均等に分け合い、3人はそれぞれにどんな|特効武器《イカノコ》にするかと思考を巡らせる。
「俺は遠距離タイプの……この盾にもなりそうなのを1つにして、可能な限り強化しておきましょう」
「それなら6段階強化ね」
最初に答えを出したのは、ユディトだ。
「俺は近距離タイプのイカノコを2つ作るぜ! で、それぞれ1回ずつ強化して、合計5000個だな」
「じゃあ片手で使い易い大きさの――」
「いや。騎乗すっからランスみてーに長いのがいい!」
或いはリュートの様に、強化段階を抑えつつ|特効武器《イカノコ》を2つ作るのも可能だ。
「んー……」
2人が続々と武器を強化していく中、翼はひとり考え込んでいた。
「強化しないの?」
まずひとつ、と近距離タイプを交換して強化をせずに何かに悩む翼に、|管理者《ドラゴンプロトコル》が不思議そうに声をかけて来る。
「足りないか? 余ったのやるぞ?」
「あ、そうじゃなくてさ」
トゲが足りないならと言うリュートに笑って小さく頭を振ってから、翼は|管理者《ドラゴンプロトコル》に向き直る。
「これって、着用してればいいんだよね?」
「ええ、そうよ」
翼の問いかけに、|管理者《ドラゴンプロトコル》は不思議そうにしながらもその通りと頷いた。
そう。着用していれば――なのだ。|特効装備《イカノコ》で攻撃しなければならない、というレギュレーションにはなっていない。
「ならこれを+2まで強化して、残った2000個でもうひとつイカノコを作るぜ」
「もうひとつ? 強化しなくていいの?」
2つ作って両方1段階の強化、と言う事も出来るのに敢えて偏らせる翼の選択に不思議そうにしながらも、|管理者《ドラゴンプロトコル》はオーダー通りに、既に交換済みの方を2段階強化し、新たに無強化の|特効武器《イカノコ》を翼に渡す。
「うん、これでいいんだ。ユディトさん、こっち持ってて」
強化済みの|特効武器《イカノコ》をユディトに預けると、翼は無強化の方を両手で構えたまま、静かに目を閉じる。
――アリスナイト・イマジネイション。
先のイカとの戦いでも使った、想像から創造する術。
イカに対抗する為に想像した鎧には、触腕をつけた。ならばサメには?
サメに対抗する一番の手段は――もう翼の手の中にある。即ち、|特効武器《イカノコ》だ。
「え? え?」
「イカノコが……」
「鎧に、取り込んでる??」
翼の全身を覆うように創造される鎧と、そこに組み込まれていく|特効武器《イカノコ》の様子に|管理者《ドラゴンプロトコル》たちの目が揃って丸くなる。
「これが今回の鎧、チェーンソーザメだよ!」
今回も翼は、サメに対抗する鎧を想像した。
やはり全体的にサメを模したフォルムになっており、取り込んだ|特効武器《イカノコ》は左肩にかかるサメの頭部パーツから生えた形になっている。まるでノコギリザメである。
「なるほどサメにはサメですか……武器をこういう風に使えるのも、この世界ならではですよね」
ユディトはその発想に感心しながら、預かっていた|特効武器《イカノコ》を翼に返す。
「翼のサメ、かっけぇ!」
リュートも翼のサメ鎧に目を輝かせ――。
「俺も負けてられねえな!」
対抗心をグッと握りしめ、黒竜の背に再び飛び乗った。
●弱点がないなら作ればよい
「翼、空のサメは俺に任せろ! 土ん中のは任せる!」
「わかった!」
それぞれの特性を活かし、リュートは空、翼は地のサメへと視線を向ける。
「レイドボスなら強敵でしょうが、弱点はある筈です」
そんな2人の後方で、ユディトは魔力を目に集めながらサメの群れ全体に視線を向けていた。
「俺には視えます……あなたの強さも弱さも」
――黎明の導き。
ユディトの持つ、人の纏うオーラの色を見ると言う特性。
その対象を人以外にも拡大し、オーラの色から弱点までも見抜くように強化したユーベルコード。
「……はて?」
だがサメのオーラを視たユディトは、内心で首を傾げる事になった。
見えないのではない。
元々は海の生き物だからか、どのサメも深い海の如き青いオーラを纏っている。
1個体も例外なく、全身にくまなくだ。
特に弱点があるようには見えない。
「……試してみますか」
ならば考えられる可能性は、1つ。
ユディトが|特効武器《イカノコ》を取り付けた腕を真っすぐ前に伸ばし、トリガーを入れる。
勢い良く回転しながら放たれる|特効武器《イカノコ》。その鋸のような刃がサメに迫った瞬間、ユディトには見えた。サメの纏う青いオーラが|特効武器《イカノコ》に引き裂かれ、一瞬遅れてサメの胴体が真っ二つになったのを。
「成程、だから特効、ですか」
オーラを視る限り、特定の弱点部位などは無い。
それだけならばゲームのイベントとしては難のあるものだろうが、そこで|特効武器《イカノコ》が輝くと言うわけだ。
|特効武器《イカノコ》の着用者の攻撃は、弱点を突いたように通るし、着用していなければ何処に当たろうが攻撃は弱体化してしまう。|特効武器《イカノコ》は弱点を作れる武器、と言い換えても良いかもしれない。
今回のイベントのみの特性か、元々サメが持ち合わせているものかは定かではないが――。
そうと分かれば話は早い。
「翼くん、リュートくん。今回のサメに弱点はありません。ですが|特効武器《イカノコ》を持って攻撃すれば、その攻撃が弱点です!」
翼とリュートに聞こえるよう、ユディトは声を張り上げた。
●空と陸で
「弱点なんか見えるのか、すげえな!」
黒竜の上で、リュートは聞こえたとユディトに返す。
そして、空を泳ぐサメの群れに向き直った。
「|特効武器《イカノコ》で攻撃すりゃ弱点……ってことはよーするに、群れの真ん中に突っ込んで、じゃんじゃん攻撃すりゃ良いってことだな!」
そう言うのは得意だと、リュートの口元に笑みが浮かんだ。
「クロ、突っ込むぞ!」
リュートの声に応えて、黒竜が翼を羽撃かせる。
同時に、リュートは両手の|特効武器《イカノコ》のトリガーを入れた。
ギュィィンッと回転刃が激しく回り出す。
「いくぜ!」
まずは黒竜の上から両手の|特効武器《イカノコ》を突き込んで、そこにいたサメを引き裂く。
「クロ、噛まれないように離れてろ」
リュートはクロの背を蹴って、サメの群れの空隙に飛び込んだ。
「これが俺の無双撃だ!」
そのまま、両手を広げて空中で回転し始める。
竜覇無双撃。
回転し続けるリュートの両手の先で、イカノコの回転刃が空気を激しく引き裂き続ける。
引き裂かれた空気が、風の刃となって四方八方へ飛んで行く。
十重二十重すら生温い程の連撃。サメがどれだけサメを呼ぼうと、傍から斬り裂いていく。
「フカヒレ落とせー!」
そんな叫びと共に、渦巻く風の刃が次々と放たれた。
「ユディトさん、弱点情報ありがとう!」
サメの群れの中から、翼が声を張り上げる。
その姿は群がるサメに隠されていて、ガキン、ガキンッと言う硬い音が断続的に響き続けていた。
翼を捕食しようと、サメが牙を突き立てる音である。
「無駄だよ。食べられるもんか!」
しかし翼の創造した鎧は、サメが何回飛び掛かって牙を突き立てようと貫かれる事はなかった。ヒビのひとつも入っていない。このまま何分だろうが、耐えられる自身が翼にはあった。
「だけどやられっぱなしってのもね!」
サメが飛び掛かって来るのに合わせて、翼は左半身を前に出す。
肩パーツから伸びた|特効武器《イカノコ》が、飛び掛かって来たサメを待っていましたと貫き、そのまま真っ二つにした。
「追撃はいらないね。それなら!」
反撃開始。
右に持った強化済みの|特効武器《イカノコ》を振るい、今度は翼の方からサメに仕掛けていく。
それでも怯まず向かって来るのは、左の|特効武器《イカノコ》でカウンター。
「リュートくんみたいに無双は出来ないけど、負けるもんか!」
翼はそう感じていたようだが、傍から見ればあまりにも一方的であった。
そして――。
「お、おい! ユディト、翼!」
3人の周りからサメの姿も気配もなくなった頃、空から降りて来たリュートが興奮した様子で2人を呼んだ。
やはり今回も食材と化したサメのドロップを集めていた2人が、何事かと集まって来る。
「これって――!」
「フカヒレ、ですねぇ」
「すっげー!」
レア食材、ドロップ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
千々波・漣音
【漣千】
…とりあえずイカノコは作れそうだなァ(疲労
ちぃ、オレのトゲをわけて…って、取りすぎじゃね!?
まぁちぃを前には出せねェし、イカノコ(近)作って装備
強化は、ちぃが必要かもだから
様子見してトゲ温存
ちぃは、(遠)の方だよな…?(ちら
って、試してって…おいッ!?
慌てて追いかけ不憫にフォロー
てか何で斬れないんだ…不器用すぎるだろ(超可愛い
そうそう、(遠)にしとけ…って、ダァァッ!?
あ、危ねェ!!
いや、(近)は向いてない…って、俺の残しといたトゲェ!
まァいいけど…(慣れてる
は!?なんで(遠)装備で突っ込んで!?
く、オレは神格高い竜神だからなァ!(半ば自棄
ちぃを必死に守りつつ、サメも倒す!
不憫に頑張る
尾白・千歳
【漣千】
イカノコって、何?
トゲって役に立つんだ~
これ誰の?いらないなら貰うね!
で、どっちにしようかなぁ~
そうだ!実際に使って試してみたいんだけど、いい?
まず(近)は…ふつーのノコギリだね
ちょっとサメを斬ってみる!(ダッシュ
む、全然斬れない
これ、不良品じゃない?
次に(遠)は…っと(勢いよく振り被り
あれー?刃はどこ?
何でさっちゃんの横に刺さってるの!?
どっちがいいかな?(近)?
ダメ?じゃぁ(遠)でいいや
余ってるトゲ?
いらないから全部強化する~
さっちゃんの余ってる分も貰うね!
イカノコ(遠)を装備してサメの群れに向かって突っ込んでいく
これだけサメがいっぱいいれば、イカノコに当たるでしょ!?(ドヤっ
●説明書読まないタイプですか?
「トゲ2000個と交換か――……ギリ足りそうだなァ」
2499個。
まさかの妖怪1足りないに、千々波・漣音(漣明神・f28184)の呟きに疲れと切なさが滲んでいる。
その横で、ふらふらしていたふわふわの尾が、もふっと動いた。
「んん……さっちゃん、おはよ~。BBQの用意出来た?」
「出来てねェよ。まだやる事あるんだよ」
いなり寿司切れの眠りから目を覚ました尾白・千歳(日日是好日・f28195)に、漣音は補給に作っておいたいなり寿司を渡しながら返す。
「取り敢えずイカノコ作んねェとだ」
「|ひはほほ《イカノコ》?」
稲荷寿司をさっそく頬張る千歳に、漣音は今するべきことをかいつまんで伝える。
「何それ?」
「捨てるなっつったイカのトゲあったろ? あれと交換で貰える武器で、あいつらに効くんだと」
「ふーん?」
あいつら――と空を指差した漣音も、空を見上げた千歳も、空を泳ぐサメにさして驚きもしなかった。
まあ|幽世《カクリヨ》では、魚が水中以外にいるのもさほど珍しくはないだろう。ましてや2人とも、100年以上生きてる竜神と妖怪なのだから。
「あの美味しくなさそうだったトゲが、役に立つんだね~」
「捨てなくて良かったろ?」
感心したように頷く千歳に返し、漣音は管理者に向き直る。
「で、とりあえずオレは近距離の1つな」
「強化は……」
「まァ様子見だな。どうせオレが拾った分だけだと足りねェし」
「1個くらい貰えばいいのに……」
諦めたように無強化で良いと肩を竦める漣音に、|管理者《ドラゴンプロトコル》から悲し気な眼差しが向けられた。
「いいんだよ、強化はちぃが必要かもしれねェし」
「いいんだ……」
「敷かれてるね~」
切なそうだったり、何やらニヨニヨ言いたげだったりと、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちが漣音に向ける視線は色々だ。
「回るノコギリなんだね。遠くまで届くのと、そうじゃないのがあるんだ。どっちにしようかなぁ~」
そんな空気を気にした風もなく、千歳は遠距離仕様か近距離仕様かと迷っていた。
「そうだ! 実際に使って試してみたいんだけど、いい?」
「試してって……無茶言うなよ」
いつもの急な千歳の思い付きを、漣音は出来ないだろうとやんわりと――。
「お試し? あるにはあるわ」
|管理者《ドラゴンプロトコル》の答えは、まさかのあるだった。
「ただ、標準的な形状のものだけなのと……」
「いいよー。じゃあまず、こっち、貸して!」
何か|管理者《ドラゴンプロトコル》の歯切れが悪いのだが、千歳はそれを気にした風もなく、近距離用のお試し品に手を伸ばす。
「ふつーのノコギリみたいだね」
掲げてみたり持ち替えてみたりしながら、しげしげと|特効武器《イカノコ》を眺める千歳。
「ちょっとサメを斬ってみる!」
そうかと思えば、言うが早いかサメのいる方へと駆け出してった。
「おいッ!?」
「えぇぇぇぇっ!? ちょっと待っ――」
漣音も管理者も驚き止めようとするも、その時にはもう千歳はサメに接近していて。
「えい!」
躊躇なく、サメに|特効武器《イカノコ》を振り下ろす。
トゲもなく回ってもいない刃は、むにっとサメ肌を叩いただけだった。
「む、全然斬れない」
「何やってんだぁぁぁっ!?」
サメの前で首を傾げて固まる千歳を、追いついてきた漣音が慌てて抱えて飛び退る。
「これ、不良品じゃない?」
(「てか何で斬れないんだ……不器用すぎるだろ」)
抱えられたまま不満そうに零す千歳の表情に、漣音は胸中でそんな事を呟いていた。余裕だな。
「ええと、多分、トリガー押して回転入れてなかったような……」
「あとお試しイカノコはダメージ出ないんです」
「お試しでサメを倒せちゃったら、トゲ要らなくなっちゃうもん」
当然と言えば当然な仕様が、管理者たちから告げられた。
説明は聞こう。
「ふーん。そうなんだ。じゃあ次はこっちを試すね」
わかっているのかいないのか、千歳はあまり気にした風もなくもうひとつの遠距離タイプのお試し品を手に取る。
「えーと、ここを押すと回る?」
「そうそう」
「よしよし。そっちにしとけ……」
今度はちゃんと|管理者《ドラゴンプロトコル》の説明を聞いている千歳の様子に、漣音は少し安堵していた。
回転する刃を投げるタイプのようだ。これなら、サメの群れと離れて戦えると。
だが、そんな安堵は長く続かなかった。
――ヒュッ。
漣音の耳元で、風が切れる音がした。
「ダァァッ!?」
「あれー? 刃は?」
一拍遅れて焦った声を上げる漣音と、回転刃を見失って首を傾げる千歳。
「あ、危ねェ!!」
「何でさっちゃんの横に刺さってるの!?」
千歳の回転刃は、振りかぶった所で何故か後ろにすっ飛んで、漣音の耳元を過ぎて後ろの岩に突き刺さっている。
「「「大丈夫かな……」」」
これにはさしもの管理者たちも、不安を隠しきれなかった。
●大体いつもの事
そうしている内に、サメは無情にも2人に迫って来ていた。
もう|特効武器《イカノコ》を選ぶのにかけられる時間は、残り少ない。
「どっちがいいかな? 最初の?」
「いや、近距離は向いてないだろ……」
「ダメ? じゃぁこっちでいいや」
最終的に、千歳は漣音に勧められ遠距離タイプを選んだ。
誤射で自分が危ないリスクか、千歳がサメに近づくリスクか。
漣音は迷わず、前者を選んだのだ。
「強化は?」
「トゲ余ってもいらないから、さっちゃんの余ってる分も全部使って強化する~」
そんな気遣いは今日も千歳には届いていない。
「いいの?」
「まァいいさ……慣れてっから」
「やっぱり敷かれてるなぁ」
その上、結局強化できないことが確定した漣音は、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちの視線に肩を竦めるしかなかった。
「もう一回、狐さんになる!」
――妖狐変化の術。
千歳は再び喚び出した骸魂【九尾の狐】と合体するも、今回は尻尾だけ増やす変化に抑えていた。
狐――少なくとも本人はそう思っている――の姿では|特効武器《イカノコ》を扱いにくいと判断したようだ。
「いっくよー!」
そして千歳は、刃が回転し始めた|特効武器《イカノコ》を手に、サメに向かって駆け出して行き――。
「は!?」
予想外の動きに漣音の反応が遅れてる間に、サメの群れの中に飛び込んでいた。
「ちぃ! 何で遠距離装備で突っ込んでんだ!?」
「これだけサメがいっぱいいれば、イカノコに当たるでしょ!!」
慌てて追いついてきた漣音に、千歳が|特効武器《イカノコ》を振りかぶりながらドヤ顔で返して来た。
まあ、理に適っていると言えなくもない。
周囲のどこに当たっても良い状況であれば、攻撃を外す事もないのだから。
「えいっ!」
実際、千歳が放った|特効武器《イカノコ》の回転刃はサメを見事に両断していた。
例え振り下ろしたその先にいるサメではなく、やっぱり真後ろのサメだったとしても、当たりは当たりである。
まあ問題は、サメの群れに飛び込むリスクと釣り合っているか――と言う所。
「あーもう、ちぃはそうだよなァ!」
漣音は半ば自棄になりながらも、千歳の代わりにサメに齧られる覚悟を決めた。
いつもそうだ。
千歳は謎の自信で、真っすぐに突き進む。
見えてる罠すら踏みまくって、漣音が代わりに罠にかかりまくったなんて事もあった。今回はサメと言うだけだ。いつもの事だ。
だから放っておけない――目を離せない。
「オレは神格高い竜神だからなァ! ちぃを守りつつサメ倒すくらいワケねェよ!」
自分を鼓舞するように声を張り、漣音もサメの群れに飛び込んでいく。
自棄になっても、それでも、だとしても。
自負する神格の高さは、その身体に流れる血から来る純然たる事実。
周囲に川すらない場であっても、水を生み出せるくらいには。
「天罰を下す――ってなァ!」
――|水神飛瀑《スイジンノオオタキ》。
漣音がトリガーを押しながら掲げた|特効武器《イカノコ》の回る刃のその先に、水が集いて渦を巻く。
水渦は|特効武器《イカノコ》の刃が回るにつれて、回転の勢いをどんどん強めていく。渦から飛び散った水が、矢玉となってサメの群れの中を次々と撃ち抜いていった。
漣音の足元に、サメの切り身がぽんぽんと集まって来る。
「やっぱこいつらも食材になんのか」
「さっちゃーん!」
水の矢を放ち続けながら切り身を拾おうとした漣音は、聞こえた声に視線を向ける。
「何かすごそうなの拾ったー!」
そこには、フカヒレを掲げぶんぶんしてる千歳の姿があった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
木元・祭莉
【かんにき】一名増えて、サメ狩り!
イカノコについて、管理人の姉ちゃんたちに確認。
ふむふむ、2本+強化いちまでかー。
じゃ、背中にツインランチャー背負うかんじでいこっと♪(よっこらしょ)
さて、サメ退治にGO!
それ発射ーやれ発射ー♪
るんたったくるくるり。
踊り回りながら、ギザノコをばらまくよー♪
ダッシュで位置取りして、またバラバラバラ♪
サメ亡骸も1ヵ所に集めて。チョウザメいたらキャビア狙うんだけどなあ、いないかなあ♪(物色)
ある程度狩れたら、新技も披露しとこかな。
如意な棒を振り回し、ココとココとココから。
タマイタチをばしゅばしゅばしゅっと♪
サメの下ごしらえは任せてくれていいよー♪
木元・杏
【かんにき】
途中参加の夏梅のログボあわせ8人でイカノコ山分けしたら4671個
近接本体1個に強化5つ分で二枚刃仕様
残りはポケットにしまって
片手にイカの子(※アイテム参照)、片手に幅広の大剣にした灯る陽光
サメ、塩焼きが美味と聞く
皆と夏に山でイカとサメの追い漁
これぞ青春って感じ
ぶんっと両手の獲物を振りかぶり準備おっけー
大量に降ってくるサメ目掛けて駆け出そう
【誘い水】発動
ふ、わたしはイカに引き続き水着姿
そしてUC効果プレスでサメも易く誘惑される
…されるよね?
とうっとジャンプし陽光&イカの子ぶん降ろしてすぱんと斬ってくね
ごりごりするは最小限、身の切り口はなるべく美しく鮮度を保ち
…ん、天ぷらもいい予感
南雲・海莉
【かんにき】
ソシャゲなら触った事があるから夏梅さんのも強化操作は任せて
右手の刀を強化五段階のチェーンソー剣に持ち帰え
マンゴーシュは魔力補助と防御がメインだからそのままで
アルダワでガジェッティアさんが使ってるの見た事あるから
何とかなると思うんだけど…
わ、じゃじゃ馬ね
(野太刀サイズの気持ち細身を選んだが、反動に苦笑)
UCで冷凍しつつ命中率up
数をこなすなら一撃必殺で行く
戦場の中心に立って誘き寄せ
ダンスの要領でかわすか…イカノコを代わりに食わせるわ
攻撃の時は背骨とヒレを避けておこうかしら
家でわんこがサメ軟骨を待ってるの(ずん
涎いっぱいで、全力で、待ってるの(ずんずん
大人しく捌かれて(ずんずんずん!
ガーネット・グレイローズ
【かんにき】
「成る程、イカノコ…イカのトゲがノコギリの刃になったワケか」
それではさっそく、武器のカスタムを始めよう。
ポイントは一人当たり4671個。
強化するステータスは「回転スピード」。強化後の端数は
後のイベントのために取っておこう。
Snow-Lyricでぽちぽちとデータ入力して……よし、できた!
円盤ノコと私のスラッシュストリングとを合体させた、
「チェーンソーヨーヨー」だ!
これならある程度射程が伸びるし、《念動力》で操ることも可能。
そしてこいつを【念動武闘法】で153個複製し、
纏めてサメの群れを攻撃するよ。
サメって美味しいのかな……食材に使えるのは
フカヒレくらいしか思いつかないけど。
鈍・小太刀
【かんにき】
あ、夏梅が来た
大丈夫私も初心者よ!(無意味にどや顔
見様見真似で近距離タイプを1つ作り強化する
そういえば私剣豪だったなぁと
いや、正直自分も忘れてたけど(目逸らし
トルンドルンとイカノコを唸らせ戦場を駆け
向かい来るサメをばっさばっさと解体する
ワープゲート?
繋がる先もまたサメの縄張りなのかな
仲間をわんさか呼んできそうな気配もするけど
まあ問題ないわ
手元のイカノコは一つだけど『装備』していればいいんでしょ?
大量のサメには大量の矢の雨を
イカノコ装備を元にして
黒雨の矢にも【イカノコ】属性を付与して放つ
サメもまた串焼き…もとい、イカノコ解体してあげるわ!
そういえばサメってサメ肌なの?
ワサビおろせる?
シリン・カービン
【かんにき】
精霊猟銃にクロスボウの様な装備を取り付けます。
(効果音と共に銃の形状が変わる)
……ゲーム世界では実際に工作しなくても良いのが楽ですね。
私のイカノコは射出用の小型が二枚。
ブーメランのように戻ってくる仕様です。
現実世界なら安全にキャッチすることまで考えないといけませんが、
ゲーム世界ですのでその辺は自動処理。
……便利さに慣れてしまわないようにしないと。
「獲物を我が手に」
2枚のイカノコを途切れなく交互に射出。サメを薙ぎ払いますが、
山肌や地面に頭を突っ込んでいるサメがいれば優先攻撃。
油断していると背後からガブリはこの手の定番なのでしたっけ?
夏梅、後ろに鼻先が見えてますよ。(イカノコ射出)
九瀬・夏梅
【かんにき】
イカやサメが山に?
ここも中々変わった世界だねぇ
ゲームしないのでよく分かっていない
誘われてたのにろぐいん?が遅れやっと合流
ブルアカでもイカが空飛んでたしと受け入れる
イカのトゲで武器を作ると説明されても
私は武器屋でも鍛冶職人でもないんだが……
システムが理解できないまま指示通りやってみた
ろぐぼ?でノーマルなイカノコ(近)ができる
これを使えってことかい?
初めての武器は使って慣れて
イカノコの強化? 何のことだい?
分けてもらったトゲで海莉がやってくれる
ありがとうよ
群れを一気に倒していく皆の
討ち漏らしをちゃんと倒してフォロー
……そんなに数はいないが
シリンにもお返し
山でも海でも結局皆食べるんだねぇ
駒鳥・了
【かんにき】
夏梅さんらっしゃーい!
ゲームだから武器作んのも強化もサクサクだよ!
俺ちゃん最近見たWOKシールドタイプの遠距離用にしとく
武器1コで強化+4、残りは食材と調味料に取っておこ!
つか空気がめっちゃ塩辛
酒飲み面子的にはコレどーなん?
オレちゃん飲みはするけど甘いモノの方がいいなー
まあ最後に魚肉食べるんだけど!
地上は任せてガレオンの柳葉で空中戦と行こ!
皆の攻撃の邪魔にならないよーにUCでサクッと風穴あけよ
道が出来たら一気に空へ!
あとは操縦しながらイカノコを盾代わりにつかったりブーメランみたいにぶん投げたり
地上側も適度のフォローしとくねー!
コレ終わったら山葵おろし作んの?
じゃ皮も採っとくね!
●塩辛い料理には酒は辛口が合うらしいですが実際どうなんでしょうと下戸がお届けします
サメの気配と共にがらりと変わった風。
鼻で呼吸しても口から吸いこんでも、塩辛さを感じる。
「空気がめっちゃ塩辛になってんだけど、酒飲み面子的にはコレどーなん?」
「あ、それを聞いてしまいますか?」
「我慢してるんだがな……」
そんな空気をどう感じるのかと訊ねて来た駒鳥・了(I, said the Rook・f17343)に、シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)とガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)は思わず顔を見合わせた。
「清酒が良いと思うんですよ、辛口の」
「白ワインも良いと思うぞ、辛口の」
「塩だけを肴にする飲み方もありますからね」
「カクテルも塩が合うものもあるな。グラスの淵に塩を塗って――とか」
「なるほどなー。オレちゃん飲みはするけど、甘いモノの方がいいなー」
(「あ、これ話が止まらなくなるやつかも」)
2人の話に返しながら、了は内心、酒飲みたちのスイッチを押してしまったのでは――と少し迂闊さを感じていた。
「何だい。酒の話なら混ぜとくれよ」
そこに、聞き慣れた――されどここではまだ聞いていなかった――声が響いた。
「あ、夏梅が来た」
「夏梅さんらっしゃーい!」
「ああ。ようやっと、ろぐいん?ができたよ」
声をかけてきた鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)と了に、夏梅は何か黒いものを軽く振って返す。
「で、これは一体何なんだい? 何かのトゲに見えるんだが」
それと同じものが、夏梅の足元に大量に――おそらく2000個――散らばっていた。
「トゲで当たりよ。イカのトゲ」
「イカ?」
南雲・海莉(With júː・f00345)の答えに、夏梅は訝し気に眉根を寄せる。
「イカってぇと、あのイカかい?」
「夏梅が思ってるより、大きいイカかも。さっきまで戦ってた」
「今度はサメ狩りなんだよ。そのトゲを使うんだって」
「……??」
「イカのトゲがノコギリの刃になると言うワケだ」
「……???」
木元・杏(お揃いたぬき・f16565)と木元・祭莉(しかもかっこいい音速・f16554)、さらにガーネットも説明を続けるも、その度に夏梅の頭上に浮かぶ『?』が増えていった。
「トゲを刃に? 私は武器屋でも鍛冶職人でもないんだが……」
「新しくログインしてきた人ね。|特効武器《イカノコ》は、そのトゲと交換よ」
システムに理解が追い付いていない様子の夏梅に、|管理者《ドラゴンプロトコル》も声をかけて来る。
「足元のトゲは、使ってください」
「イベントのログボみたいなものだから~」
「ろぐぼ……????」
けれども聞き慣れない言葉が続き、夏梅の『?』は更に増えるばかり。
「ゲームはしないから、良くわからんねぇ」
ついには諦めたと言うか、何か悟ったように夏梅は肩を竦めた。
「大丈夫、私もゲーム初心者よ!」
その肩に、小太刀の掌がぽんっと置かれる。
「小太刀。あなたは夏梅に教えられる側にいても良いのでは?」
何故かドヤ顔してる小太刀に、微笑みを浮かべたままのシリンからのツッコミが飛んだ。
「とにかく、イカが山にいたんだね? サメも? ここも中々変わった世界だねぇ」
諦めにせよ悟ったにせよ、夏梅はそれで目を背ける事は無い。
「ええ。こういう世界なんですよ」
判らないものは判らないままそう言うものと受け入れる夏梅に、シリンは頷き空を示した。
「ほら、そこにサメが」
「……」
シリンに釣られて空を見た夏梅は、無言で再び肩を竦めた。
●クラフトタイム
「それでは、武器のカスタムを進めめよう」
ガーネットが話を戻し、改めてイカのトゲを持ち寄る8人。
その総数は、35371個――だったところに夏梅のログボ2000個追加で37371個。
「ん。途中参加の夏梅のログボもあわせて、8人でイカノコ山分けしたら4671個?」
「そうだね。余りを考えず、均等に分けるなら、一人当たりは4671個になる」
「そうすると、最大で強化5段階ね」
杏の言葉に頷くガーネットと海莉。
余りを考えず――とガーネットが前提をつけたのは、|37371個《奇数》を|8人《偶数》で分ける時点で、余りが出るのは確定だからだ。
更に山分けしてそれぞれがフルに使ったとしても、強化が500個単位である以上、これまた余りが出る。
どういう分け方をしても、|特効武器《イカノコ》の交換だけではトゲの余りが出るのは避けられない。
この手のゲームでのアイテム交換イベントで端数の余りが出るのは仕方のない事である。だからこそ、端数をなるべく消費出来る様に交換レートの小さいものも用意されているものだ。今回で言えば、トゲは食材や調味料と交換できる仕様がそれにあたる。
「とりま山分けして残りは食材と調味料に取っておこ、で良いんでない?」
了の提案に、異論は上がらなかった。
この後にBBQが待っているのだ。食材はいくらあっても良い。
とりあえず8人で山分けの方針を決めれば、あとはどんな|特効武器《イカノコ》を選ぶかだ。
「私はそうね……近距離で、刃がなるべく長くて細身のものを」
マンゴーシュと併用するつもりで、海莉は|管理者《ドラゴンプロトコル》が開いた|特効武器《イカノコ》一覧のウィンドウの中から野太刀にフォルムが近い近距離モデルを交換する。
「刀タイプかぁ……そういえば私、剣豪だったなぁ」
それを見ていた小太刀がぽつり。
「小太刀と言えばウサ耳」
「ええっ!? 串焼きの人じゃなかったの!?」
「いや、正直自分も忘れてたけど……」
杏と|管理者《ドラゴンプロトコル》の1人から向けられた視線に、小太刀は思わず目を逸らす。
忘れないでいただきたい。確かにここの所、剣豪らしい描写を書いた覚えはないけれど。
「と言うわけで、私も海莉と同じタイプで……あ、やっぱりもうちょっと刃短い方が良いかな?」
小太刀も同じく、刀に近いフォルムの近距離モデルの中から1つを選んだ。
強化は2人とも、手持ちで可能な+5まで。
近距離の|特効武器《イカノコ》には別のタイプ――丸ノコのような円盤型の刃を持つものもある。
了と杏とガーネットは、そちらが乗っているウィンドウを開いた|管理者《ドラゴンプロトコル》の前に集まっていた。
「オレちゃん、投げられるシールドタイプにしとく。強化は4止めで」
最近WOKシールド見たから、という理由で遠近両用タイプを選んだ了は、敢えてフル強化せずにトゲを多く残す事にした。
「わたし、これ」
「私はこっちのタイプにするかな」
杏は持ち手と長柄がついてるピザカッターを大きくしたようなタイプを、ガーネットは持ち手だけの丸ノコに近いタイプをそれぞれフル強化で選択する。
「強化は二枚刃仕様で」
「こっちは回転数強化で」
「りょ~かい。2人とも、慣れてるねぇ」
それどころか、2人とも強化で伸ばす機能を細部まで|管理者《ドラゴンプロトコル》に指定する拘りっぷりであった。
「成程。頼めば細かい改造をして貰えるのですね」
それを見ていたシリンは、また別のウィンドウに視線を向けた。
「ああ、これ良さそうです。これにします」
そこに載っている遠距離タイプの中から、シリンが目を着けたのは『別の武器に取付可能』と言う一文が添えられたクロスボウのような|特効武器《イカノコ》だった。
「これを精霊猟銃に取り付けて――と」
フル強化で交換した連射型のアタッチメントをシリンが精霊猟銃に近づければ、ピロリンッと軽快な効果音が鳴り響く。
|特効武器《イカノコ》と精霊猟銃がどちらも光に包まれて――。
光が収まったあとには、|特効武器《イカノコ》と精霊猟銃が組み合わさっていた。
「……ゲーム世界では、実際に工作しなくても良いのが楽ですね」
呟いたシリンが浮かべた笑みは、苦笑とまではいかなくとも純粋に喜びだけではなさそうだった。
感心――しつつもそれだけではないものを感じているのだろう。
「姉ちゃんたち、ちょっといい?」
他の皆がそれぞれに特効武器を1つ作る中、祭莉は管理者たちに問いかける。
「4671個で2つ作ったら、片方だけ強化1出来る、であってるー?」
「ええ、そうよ」
「正解~♪」
「ふむふむ」
管理者の答えに、祭莉は考え込むように二、三度頷いて。
「それじゃこのロングライフルタイプを2つで、1つだけ強化いちでちょーだい」
「わかりました」
敢えて2つ作るのを選んだ祭莉に、管理者たちは何も意を唱えることもなかった。この場合、2つ作るのなら他に選択肢がない。
元より、|特効武器《イカノコ》を2つ作るのは、特に不利にはならないのだろう。そうでなければ公平とは言えない。
「背中にツインランチャーなかんじだ!」
尤も、遠距離イカノコ2つを斜めに背負ってはしゃいでる祭莉は、その辺りを気にしてなさそうだけれど。
「何をどうすりゃ、あんなに次々と武器が出て来るんだろうね。宝箱もないのに」
皆が思い思いにトゲを特効武器に変えていく中、まだこの世界のシステムに馴染めていない夏梅は頭上の『?』が消えていなかった。
「ま、ゲームだから。武器作んのも強化もサクサクだよ!」
「ソシャゲなら触った事があるから。夏梅さんの分も、操作は任せて」
「ありがとうよ」
見かねた了と海莉が、横から助け船を出す。
「私は近距離かね」
「そうね。私が選んだのよりも刃渡りが短いタイプが良いかしら」
「夏海さん、短剣とか小太刀使ってんもんね」
「短剣以外も使えなかないけどね」
慣れた様子で海莉と了がスライドさせるウィンドウを、夏梅は後ろから眺めて頷く。任せても問題ないだろうと。
「トゲ、全部使うわね」
「はーい。強化5の近距離短刃タイプね」
程なく、夏梅の手にも小型チェーンソーに似た|特効武器《イカノコ》が渡される。
これで|特効武器《イカノコ》が、全員に行き渡った。
いよいよ、サメ狩りの時間だ。
●青い夏
「皆と夏に山でイカとサメの追い漁」
二枚刃の|特効武器《イカノコ》『イカの子』と、幅広大剣モードの『灯る陽光』。両手に携えた刃のバランスを確かめるように、ぶんっと杏が素振りを繰り返す。
「これぞ青春って感じ」
2,3度素振りを繰り返した後、もう充分と杏はサメの方へ駆け出した。
「青春! それはサメ狩り!」
ツッコむどころか青春に乗っかって、祭莉も杏の後に続く。
それでいいのか、君達の青春。
「負けてられないわね!」
先陣を切った2人に負けじと、小太刀も|特効武器《イカノコ》のトリガーを入れてをトルンドルンと鳴らしながら後に続く。
同じ音は、海莉の手元からも響いていた。
「随分と、じゃじゃ馬ね」
予想以上の、そしてあまり経験のない反動に思わず苦笑する。
アルダワでガジェッティアの学友がチェーンソー剣を使っている所を見たことあるので、何とかなると思っていたが、見るだけと自分で体感するのとでは大違いだ。
「ま、初めての武器なんてもん、使って慣れるしかないね」
「……ええ。そうね」
さっきまでの困惑ぶりが嘘の様に落ち着いた夏梅の言葉に、海莉が頷く。
もう交換してしまったのだ。あとは実戦の中で慣れるしかない。
3人の後に続いて、海莉と夏梅もサメの群れの方へ駆け出していった。
「あの感じなら地上は大丈夫かな」
4人を見送っていた了は、そう呟いて空に視線を向ける。
未だ暗雲が立ち込めていて、そこからサメがにょっきり顔を出してきていた。
「空はオレちゃんが行くよ」
了は飛空艇『柳葉』に飛び乗ると、舳先を空に向ける。
「取りこぼしは出ると思うからよろ!」
「ああ、問題ない。こっちも対空は出来る」
討ち漏らしはよろしくと告げて上昇していった了に届くよう、ガーネットは声を張って返した。
「丁度、準備も出来た所だ」
ずっと叩いていたバーチャルキーボードを最後にひとつキーを押して。するとガーネットの周囲に、150を超える『|特効武器《イカノコ》』が浮き上がる。
――|念動武闘法《サイキックアーツ》。
実体のある武器を複製し、念力で操る業。
イベント用の|特効武器《イカノコ》であっても、実体があるならその対象に成り得る。
「組み合わせた上に、そんな……」
「そんなこと出来るんだ……」
「すごくすごーい!」
|特効武器《イカノコ》の増殖。
そんな発想は無かったのだろう。|管理者《ドラゴンプロトコル》たちは揃いも揃って驚いていた。
「回転数で威力を上げてから手数を増やす……やりますね、ガーネット」
「シリンが精霊猟銃と組み合わせるのを見て思いついたんだ」
そんな会話を交わしながら、シリンとガーネットもサメの群れの方に近づいていく。
●こっちの水は甘く、冷たい
バラバラに空中を泳いでいたサメが、ぐるぐると渦を巻いている。
「――お話、しよう」
その中心には、杏がいた。その身体は淡い朱色の輝きに包まれている。
――誘い水。
誘惑の技能を爆発的に高めるユーベルコード。
それはもう、傾国の――と言う言葉が付いてもおかしくないくらいの域にまで高めるのだ。
けれど自分の事は中々自分では見えないものもあるものである。
「ふ、わたしは水着姿。更には誘い水の効果プラスでサメも易く誘惑される……されるよね?」
当の杏自身が、誘惑出来ているのか不安そうではあった。
|誘惑自体に慣れていない《怪力のイメージが強い》と言うのは、あるだろう。
まあ、そんな杏の周囲を泳ぐサメの数は、どんどん増えているのだが。そりゃあ効く。そりゃあ効く。ユーベルコードならば効く。種族の壁くらい、軽く超えて効く。
相手の精神力次第では抵抗される事もあるかもしれないが――今回の誘惑対象はサメだ。
血を思わせるような輝きもあって、まんまと釣られていた。
「おお……」
目に見えて増えて来たサメに、杏が誘惑の効果を実感し始める。
「|サメ《食材》が増えた」
嬉しそうに呟いて、杏はまず|特効武器《イカの子》を振り上げた。
「とうっ」
ギュィィッと並んで回る二枚の刃を振り下ろし、サメをズバッと三枚におろした。
「うーん……」
一撃で仕留めたのに、杏は何か得心が行かないように首を傾げる。
「ひとりでぼんやりしてたら、危ないわよ!」
そこに、サメを押し除け海莉が飛び込んできた。
「汝、冬を司りしもの、刃に宿れ」
構えた|特効武器《イカノコ》の刃が回ると、冷たい風が巻き起こる。
――|氷結付与《アイシクル・エンハンス》。
氷の属性の魔力を纏わせ、得物も強化するユーベルコード。
何ともマジックナイトらしい。
斬ると同時に冷凍――海莉は同じことをイカの時もしていたが、今回はサメ相手とあってかより強い氷の魔力を纏わせている。
回る刃から、ドライアイスが溶ける時のようなシュゥシュゥと音を立てて煙が昇る程に。
それほどの冷気にも怯まず空中を泳いで突っ込んで来るサメを、海莉は舞うようにひらりと躱しながら、返す刃で|特効武器《イカノコ》を振るう。
「家でわんこがサメ軟骨を待ってるの」
ずんっ。
「涎いっぱいで、全力で、待ってるの」
ずんずんっ。
「おとなしく捌かれて」
ずんずんずんっ。
空気すら凍らせて、回る刃が翻る。その度に、サメが冷凍されがら二枚におろされる。
海莉はもう|特効武器《イカノコ》の回転刃の反動はすっかりものにしたようで、その太刀筋に迷いも狂いもなかった。
「さすが海莉――とうっ」
海莉の合流で生まれた敵の隙と猶予で、杏は地を蹴って跳んだ。
右手のイカの子を、落下と同時に振り下ろし、こちらは二枚刃を活かしてすぱんっと三枚に下ろす。
「数を熟すなら、一撃必殺で行くべきだもの。杏もやるわね」
「ん。一撃の方が、身の切り口が美しくなって鮮度を保てる。ゴリゴリは最小限にしたい」
理由は違えど、2人の目指すところは同じ。
自分を囮にしながら、一撃で一匹ずつ、サメを仕留めていく。
「2人ともさすがね」
そんな2人の近くで、もう1人|特効武器《イカノコ》を振るっている姿があった。
剣豪だったのを思い出した、小太刀だ。
「海莉はともかくとして、杏の方が剣豪らしい気がするくらいだわ。なってみる? 剣豪枠」
「小太刀、わたしは剣豪じゃない」
何故か剣豪枠を譲ろうとしてきた小太刀に、杏はふるふると頭を振った。
だがしかし今この時だけを見れば、二枚の回転刃と光の剣を操りサメをスパスパ斬っている杏の方が、剣豪らしいかもしれない。
●鶏風吹いて
「それ発射ーやれ発射ー♪」
るんたった、と上機嫌に踊る様に弾む足取りで。
祭莉は2人群がるサメの中を駆け回りながら、2つのイカノコランチャーから回転刃をばら撒いていた。
回転刃が切れたらダッシュでその場を離れ、その内に補充されたランチャーをまた、るんたった、と撃ち込んでいく。
「チョウザメいたらキャビア狙うんだけどなあ、いないかなあ♪」
「ここはゲームの中だ。普通のサメでも、レアドロップでキャビアが出るかもしれないぞ」
欲を隠さない祭莉に、ガーネットは笑いながら告げた。
「キャビアも出るよ」
「フカヒレと同じ、レアドロップ!」
「キャビアあるんだ!」
|管理者《ドラゴンプロトコル》の言葉に、祭莉が目の色を変えて声を弾ませる。
「なら新技を披露しとこかな」
イカノコランチャーを背負い直すと、祭莉は『如意みたいな棒』を手に取った。
「ココと、ココと……ココ!」
さっきまでと同じようにサメの周りを駆け回りながら、祭莉は何もない空間に斬り付ける様に如意な棒を振るって回る。
そして――。
「散歩の時間だよー!」
――|Tamako's Walk《タマコノサンポ》.
祭莉が声を張り上げた瞬間、如意な棒を振るったその空間が――裂けた。
そこに向かって空気が流れ込み、爆発的な風が吹いた。
コケコッコー!(※風切り音)
発生した|鶏型のカマイタチ《又の名をタマイタチ》が、あまりにも独特過ぎる音を立てながら吹き荒ぶ。
喧しく鋭い風の刃は、その軌道にいたサメの悉くをズババッと斬り裂ていた。
「キャビアないかな~? キャビア~」
一気に集まって来たドロップの中に、レアが無いかと祭莉は目を輝かせて物色し始める。
「ん? なにこれ」
その指先が何か硬いものに当たる。
祭莉が拾い上げたそれこそが、フカヒレに並ぶ今回のレアドロップ――キャビア(缶詰)であった。
●大人たちの狩り
「ほう……フカヒレにキャビア」
「それはそれは」
|管理者《ドラゴンプロトコル》の言葉に反応したのは、キャビアを欲しがっていた祭莉だけではない。
ガーネットとシリンもまた、目の色を変えていた。
フカヒレもキャビアも、合う酒があるのだろう。
「神殺しの力の一端をお見せしよう」
ガーネットの周囲で、153個の『チェーンソーヨーヨー』の念動力で動き出した。
前も後ろも、右も左も。頭上の空中にも隙間は無い。
ガーネット自身が浮かびあがり足元の地面にも|特効武器《イカノコ》を走らせることで、ほぼ完全に死角はないと言って良いだろう。
まさにイカノコの結界。
文字通り縦横無尽に|特効武器《イカノコ》が飛び回り、ガーネットに近づくサメを斬り裂いていく。
肴に釣られて振るうものだろうか、神殺しの力の一端なんて。
「獲物を我が手に」
ガーネットは大丈夫だろうと、シリンは敢えて離れた所で|特効武器《イカノコ》と合体させた精霊猟銃のトリガーを弾いていた。
2枚のイカノコが勢い良く回転しながら放たれ、それぞれ数体のサメを撃ち抜いていく。
――ハンティングソウル。
狩りの道具を武器に搭載する事で、破壊力を高めるユーベルコード。
その準備を、|特効武器《イカノコ》を合体させた時点でシリンは既に完了させていた。
あとは狩るだけである。
回転刃が見えなくなるまで飛んでいった直後には、2枚の刃がシリンの指の間に戻って来ていた。
それを精霊猟銃に近づける。ただそれだけで、装填が完了する。
「他の世界なら安全にキャッチすることまで考えないといけませんが、ゲーム世界だからか自動処理なのですね」
(「……この便利さに慣れてしまわないようにしないと」)
便利さに潜む罠に気を引き締めながら、シリンは再びトリガーを弾いた。
「みんな、大したもんだ」
いつもの得物と違う『|特効武器《イカノコ》』を使い熟し、サメを次々と狩る【かんにき】の面々を、夏梅が離れた所で賞賛していた。
「この分なら、私の出る幕なぞほとんどないだろ。若いモンはこうでなくちゃね」
などと笑っているが、夏梅の出る幕が本当に無いなんて事は無い。
離れていれば、サメに狙われる事だってある。
「邪魔だよ」
まあそんなサメは、夏梅が無造作に振るった|特効武器《イカノコ》での剣刃一閃で両断されるのだが。
夏梅だって、|特効武器《イカノコ》の使い方は既に掴んでいる。
「それで隠れてるつもりかい」
先行してるメンバーが討ち漏らした、地中に潜むサメにも忍び寄って|特効武器《イカノコ》を一突き。
目立たないかもしれないが、堅実なフォローである。
「夏梅」
そんな中、呼ばれて視線を向けてみればシリンが精霊猟銃を夏梅に向けていた。
その指がトリガーにかかっているのに気づいても、夏梅は微動だにしない。
「後ろに鼻先が見えてますよ」
放たれた回転刃が、夏梅の真後ろの空間に出現しかけていたサメを鼻先から両断していった。
「油断していると背後からガブリはこの手のサメの定番なのでしたっけ?」
「いやな定番だねぇ――っと」
微笑むシリンに向かって、今度は夏梅が地を蹴って飛び掛かる。
そして突き込んだ|特効武器《イカノコ》は、シリンの後ろの空間に現れていたサメを貫いていた。
「お返しだよ」
「まだまだ健在ですね、白鷺も」
「よせやい」
振り向かぬまま軽口を交わし、シリンも夏梅もサメ狩り続ける。
●また剣豪から遠ざかった気がする
「ワープゲート、ね。あの中もまたサメの縄張りなのかな」
空間を飛び越え、ワープしたサメ。
当のサメが倒されてもまだ開いたままの空間の口に、小太刀は視線を向けていた。中の様子は海には見えないが――。
「仲間をわんさか呼んできそうな気配がするわね」
その向こうに感じるのは、サメの気配。
「まあ問題ないわ」
小太刀は|特効武器《イカノコ》の刃の回転を止めると、カバーをつけて背にかける。
代わりに構えたのは、イカの時も使った黒漆塗の和弓だ。
小太刀もまた、気づいていた。|特効武器《イカノコ》は装備していればいいのだと。
そして――。
「飛んで火にいる夏のサメよ!」
ワープゲートの中からサメに呼ばれたサメの群れが飛び出して来た瞬間、小太刀は和弓に番えた矢を頭上へと放った。
「大量のサメには大量の矢の雨を。サメもまた串焼き……もとい、イカノコ解体してあげるわ!」
――黒雨。
|特効武器《イカノコ》を装備して放った矢に持たせた属性は、|イカノコ《サメ特効》属性だ。
700本近くにまで分裂した矢が、|特効武器《イカノコ》の回転刃の様にぐるぐると回りながらサメに降り注いでいく。
回る矢を浴びたサメは、|特効武器《イカノコ》の一太刀を食らったようにバラバラに斬り裂かれていた。
●鋼の翅が羽撃いて
船が空を駆け昇る。
見た目ガレオン船に見えるそれは、了の飛空艇『柳葉』だ。空を飛ぶガレオン船なんて中々幻想的な光景になりそうだが、周りをサメが普通に泳いでいるせいで、何かシュールな感じにも見えなくもない。
「まずはサクッと風穴あけよ」
そんな中、船の舳先に立った了はバタフライナイフ『dancingButterfly』の刃を露わにした。
――|Giant butterfly fear《デストロイ》。
ただ前に、無造作に了が放り投げた刃は船の外に飛び出した所で、巨大化した。
サメよりも遥かに巨大になった刃は、鋼の蝶となって空を舞う。
ひとつ、ふたつ、みっつ――。
三度、羽撃いた鋼の蝶が元のサイズになって了の手元に戻った後には、宣言通り、サメの群れには風穴が空けられていた。
その空隙に、了は『柳葉』で突っ込んでいく。
「皆の邪魔はさせないって」
オフロードバイクを飛空艇に変えても、了の操縦技術は問題ない。ガレオン船型の『柳葉』の船体を上手く使ってサメを阻みながら、盾の様に腕に装着した|特効武器《イカノコ》をぶん投げ、サメをぶった切っていく。
新たに空から現れるサメにとって、了が『柳葉』を駆るその高度が分水嶺。
そこを越えられる個体は多くない。
ただ1つ問題なのは――。
「あああぁぁ! また落ちたぁ!」
船体を上下逆さまにも出来てしまう操縦技術が故に、甲板に溜まっていたドロップ品をたまに落としてしまう事。
「まいっか、皆拾っててくれるっしょ」
大体が食材だ。かんにきの面々がそれを見逃す筈がないと、了は空のサメを駆り続けた。
●竜田揚げも美味しいらしいです
「大分集まったんじゃないかい?」
サメの姿が少なくなり、空気の塩辛さも薄れて来た。
持ち寄ったサメからのドロップ品の中。その大半はサメの身である。
そのまま煮るなり焼くなり揚げるなりして食べられそうだ。
「サメの下ごしらえは任せてくれても良かったんだけどなー」
楽でいいけど、と祭莉が笑って告げる。
「そもそも、サメって美味しいのかな……食材に使えるのはフカヒレくらいしか思いつかないけど」
「サメ、塩焼きが美味と聞く……天ぷらも良い予感」
今更な疑問に首を傾げるガーネットに、杏が返す。
「この尾鰭とか、そのままなんだけど……
小太刀が拾い上げたサメの尾は、皮つきのままだった。ヌメっとしてる感触とザラッとしてる感触がどちらも感じられる。
「あ、そうだ」
それで小太刀は思い出した。
「サメってサメ肌なの? ワサビおろせるかな?」
そんな事が気になっていたのだと。
サメ肌でワサビ。
まさかと思うかもしれないが、実はおろせるのだ。
ザラッとしている部分のサメの肌は、歯と同じ材質の細かい鱗に覆われている。
それは実はかなりの鋭さで、山葵をおろせる。おろせるどころか、適している、という人もいるくらいだ。
「いいですね……おろしたてのワサビ」
「やはり清酒か」
小太刀がワサビなんて言い出した事で、もうシリンとガーネットは益々お酒の頭になっている。
「え、山葵おろし作んの? だったらもっと皮狙って採っときゃよかったか」
そうさせた原因の一端になってそうな了は、皮が少ないのでは顔を上げた。
「まだサメ残ってるかな? 探して狩る?」
「そうね……お土産の骨、もっと欲しいし」
もっと狩るかという了の提案に、海莉が最初に頷いた。
「イカの時みたいに、サメを呼ぶアイテムとかないか管理者のの姉ちゃんたちに聞いてみよっか」
「んむ。肉はいくらあっても良い」
何ならもっとサメを呼ぼうと言い出す祭莉に、杏も頷く。
まだ足りないと。
「山でも海でも結局皆食べるんだねぇ」
疲れ知らずな若さと食欲に、夏梅は今度こそ本気で苦笑するしかなかった。
驚いているのは、夏梅ばかりではない。
「うそでしょ……サメをおかわりしたがるなんて」
「イベント始まった時は……終わるのかなって心配だったのよね」
「すごいね……」
【かんにき】のやり取りを眺めていた|管理者《ドラゴンプロトコル》たちも、苦笑を通り越して絶句しかけていた。
他の猟兵達も結局はサメの群れを難なく狩っている。
もう間もなく、狩りつくされるだろう。
どんなイベントも、終わりは必ず来るのだ。
ただ思った以上のスピードでご褒美タイムに到達しようと言う猟兵達の力に、|管理者《ドラゴンプロトコル》は驚嘆を通り越して遠い目になっていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『GOD.GAME//BBQ』
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POW : ゲーム世界の素材をじゃんじゃん焼く!
SPD : ちょっと変わった調味料で味付け!
WIZ : アルコールやドリンク、ポーションで乾杯!
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●イベント終わりのボーナスタイム
「いつもの御山ね……」
「うん。いつも通りの殺風景だ」
|管理者《ドラゴンプロトコル》の2人が、顔を見合わせ頷き合う。
「つまり~! レイドイベントもしゅーりょー!」
最後のひとりが、殊更テンション高めに声を上げた。
「一時はどうなる事かと思ったけど、引くほ――こんなに早く解決してくれるなんて」
「お疲れさまでした」
「ここからはボーナスタイムだよっ」
若干、驚きが残っている様子だが、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちはホスト役としての務めに戻って行く。
「今から丸一日、この山岳フィールドは一切のモンスターが湧かなくなりました」
「安全地帯と言う名の、バーベキュー場です」
なるほど、それは確かにボーナスタイムだ。
丸一日あれば、|食べて騒いで休む時間も取れる《二日酔いになっても大丈夫かも》。
モンスター自体が湧かなくなるのなら、バグプロトコルの横槍の心配もない。
「足りない道具は、無料レンタルしちゃいます! 大体揃ってると思うよ」
道具の心配もいらないと来た。
「あとあと、食材とか調味料はイカのトゲと交換はね、品切れ無しの無限在庫!」
「あと凄い頑張ってくれたので、交換レート下げときますね……」
「おまけは……交渉次第かな?」
イカとサメでゲットした食材以外に追加するのも、充分に出来ると言う事である。
さあ、BBQだ。
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と言うわけで3章はBBQです。
道具レンタル出来ます。
追加食材&調味料。トゲとの交換レートや、リストなどは敢えての無し。
2章の特効武器は判定と内容に関わる部分なので数を明記しましたが、もうお楽しみパートですから、言い値でいいよね、と。(…)細かい事は気にしないで行きましょう。大体の方は500個に足りない数残ってるようなので、その範囲で欲しいものは大体交換できるって感じで。フカヒレとキャビアは流石に少しお高め。
食材は、イカとサメに関連するもの。キノコなどの山で採れそうな食材があります。
調味料も、よっぽど特殊なものじゃなければ大体OK。
おまけは交渉次第、と|管理者《ドラゴンプロトコル》が言ってますが、イベントクリアしてくれた事で3人とも恩を感じてるのでハードルは低いです。イカサメキマイラの方はもうフラグ立ってます。
レンタル・交換に頼らないで持ち込みもOK。
あと飲酒喫煙は未成年ダメとか、その辺はいつも通りです。
プレイング受付は、今からどうぞ。
3章も再送をお願いします。
受付終了、および再送受付はXのMSアカウントとMSページで告知しますが、テーマ的に夏イベントって感じなので、なるべく8月中~遅くても9月1週目には完結させようと思っておりますので、逆算して8/21or22まで受付になるかな、と思います。
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木元・杏
【かんにき】
夏の不思議
何故BBQは何度やっても美味しいんだろう…
借りる道具はとりあえず網、網大事
食材は、ん…ハーブ類は山のどこかに生えてそう?オリーブオイルと、ご飯
サメの身を湯掻いてほぐしてまとめて炒めてハーブピラフ
それをイカの身で包み串で留め、そのまま網でじゅうと焼こう
ふ、洋風イカ飯
夏梅、少しキャビア頂ける?
とろっとかけたら高級感もUP(ふ
他にも作ろうとしたけど
揚げ物の匂いにぴくっ
焼けたパンズの香りにぴくっ
試食?お手伝いしなければ…(ふらふら
このゲームな世界も美味しいに満ち溢れてる
幸せに浸り緑茶も頂き焼けた椎茸(ハバネロ付)もぱくり
……(つーん)
満腹になれば「空腹」ボタンを探そう
…あるよね?
南雲・海莉
【かんにき】
余ったトゲは(摘んで硬さを確認)…軟骨と同じ調理で大丈夫(首傾げ)?
料理の前に
氷の魔力を纏わせた刀で飲み水を凍らせて砕いて飲み物用の氷を量産
刀は地面に突き立て
狭い範囲を簡易冷凍庫代わりに
お酒を飲めない組には烏龍茶や緑茶に麦茶を淹れていくわ
この渋みが魚介の脂を分解してさっぱりしてくれるのよね
管理者の皆さんもどうです?
ホットだけじゃなくアイスもありますよ(にこ)
お酒のアテならイカ軟骨は唐揚げね
ダンジョン飯では焼肉と揚げ物は基本だから任せて
さ、じゃんじゃん揚げるわよ!
…山葵に中華にハーブに、イカサメ野菜が焼けて、おこげに
賑やかで美味しそうで(皆の表情に)幸せな匂いよね(笑顔)
九瀬・夏梅
【かんにき】
まあ、このメンバーでイカとサメを相手にしたなら
その後こうなるのは当然だね
倒したら食材ドロップなゲームシステムに首を傾げつつ
キャビア缶をきこきこ開けながら皆の調理の手際を見ている
祭莉もやるかい?(きこきこ)
料理センス皆無の下戸
材料ぶった切りはできるけど今回下ごしらえ済で出番なし
アキに誘われて串打ちぐらいなら
トゲと交換される様々なものを見て不思議そう
そんなに価値あるものかい?
やっぱりゲームを理解できてない
さらに『?』が増えているかもしれない
でも、飯が美味い世界なのは分かったよ
皆が作った料理を頂く
酒は飲めないけどつまみは好き
飲み食いしてるの見るの好き
やっぱり食べてる時が一番楽しそうだねぇ
駒鳥・了
【かんにき】
皆ちゃんとしててエライナー
オレちゃん食い専なんだよね
とりまバゲットとチーズ、調味料
野菜も見繕う
ビールとワインは必需品!
あっ地酒とか地ジュースとかない?
交換できる範囲でありったけ!
獲った食材の他に茹でた鶉の卵とかパプリカを串に刺してこ
串といえば鈍ちゃん、ヒマなら一緒に串打ちしよ!
夏梅さんも良ければどお?
ちな焼くだけね!揚げるのメンドーってか
手の込んでるの合間にシンプルなのも食べたいでしょ
あっ何ならロシアンタレでも作っちゃう?
交換品一式の中になんでかハバロネあったし!(けらけら
大きい椎茸は洗ってチーズ乗せてコレも焼こ!
美味しそうな匂いがしてくるのいーよね
焼けたら物々交換しに行っちゃお!
ガーネット・グレイローズ
【かんにき】
やあ、お疲れ様。これでこのフィールドもしばらくは安全だね。
さて、ゲットした食材アイテムを使って祝勝会だ!
しかしイカはともかく、サメをどう調理したものか。
……そういえばニホンのある街では、サメバーガーなるものが
売られていると聞いたことがある。試してみるか……?
フィレオフィッシュを作る要領でサメ肉フライを揚げて、
それをタルタルソースで味付けして野菜と一緒にバンズにはさむ。
まずは試作品、味見してくれる人はいる?
不思議そうにしている夏梅には、「慣れると楽しいもんだよ」と一言。
パン粉と油がまだ余ってるから、イカリングフライも作ろうか。
海莉の軟骨唐揚げと合わせて、いいおつまみになりそうだ。
鈍・小太刀
【かんにき】
BBQ、お腹も空いていい頃合いね
残ったトゲで山葵と山芋もゲットしなくっちゃ
ふふふ、今日の私は違うわよ
料理はそうね、ほんのちょっと(大分)苦手だけど、なんたってここはゲーム世界
ちょちょいのちょいで美味しい料理の出来上がり!
と思ったらコマンド式じゃないの!?
でもめげないわ
先ずはたこわさならぬイカわさね
サメ皮で山葵をおろし…やばいめっちゃツーンときた!!
そしてサメ料理と言えば、はんぺんよ
サメ肉のすり身に、すりおろした山芋を合わせて茹でるのだとか
いい感じにすって、練って、茹でて…出来た!
なんか白身の筈が、所々緑色だけど気のせいという事で
(一部の山葵混入から目を逸らし
アキ、串打ちなら任せて!
木元・祭莉
【かんにき】びーびーきゅー!
わー、イカだー♪
わー、サメだー♪
いい匂いするねー♪
美味しそうだねー♪
みんなのトコ回って、なんかわちゃわちゃするよ。
火加減見たり、冷やした飲み物持ってきたり。
食器揃えたり、お席整えたり。
天の声の人、親分がやってるの? 違うんだー、残念!
飯盒? これでご飯炊ける?
あ、おこげだヤッター♪
天の声がイカもサメもウマイって言ってたね。普通に焼いて、タレ浸けて。(じゅ~)
キャビア缶はキコキコするヤツ(缶切りの構え)。
コレは焼かないヤツ……卵かけごはんに、ちょいと乗っける!
ぱくちぃ添えて。冷たい麦茶と熱い烏龍茶。
ハイ、最後はみなさんご一緒にー。
『神いべんと!』
こちそうさまでしたー♪
シリン・カービン
【かんにき】
皆の様子を見回せば、メニューは大体見当つきました。
では、私は高級食材を料理するとしましょうか。
◆フカヒレの姿煮
手間暇がかかる難しい料理と聞いていますが、
食材が|この世界《GGO》で手に入るものなら大丈夫。
|管理者《ドラゴンプロトコル》の二人をちょいちょいと呼んで。
「トゲ全部と交換で。フカヒレ用高級スープをお願いします」
ゲーム世界の特性を最大限活用。アイテムさえあれば、
どんな難しい料理も簡単に出来るのですから。
「よろしければお二人もどうぞ」
その他、
◆凍らせたイカのワタ添え
◆たっぷりキャビアのチーズ載せ
ええ、酒飲みにはたまりませんね。
皆の料理にも舌鼓。ゲーム世界とは思えない味ですね。
●等価交換など知らん
「やあ、お疲れ様」
ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)、|管理者《ドラゴンプロトコル》に声をかける。
「これでこのフィールドもしばらくは安全だね」
「ええ。一時はどうなる事かと思いましたが」
|管理者《ドラゴンプロトコル》の1人が、本当に安堵した様子で返して来た。
「でもこれで元通り! 24時間はモンスターも出ない安置だから」
もう1人の|管理者《ドラゴンプロトコル》も、満面の笑みを浮かべている。
と言う事はつまり。
「びーびーきゅー!」
と言う事だ。
「お腹も空いていい頃合いね」
宣言した木元・祭莉(しかもかっこいい音速・f16554)の横で、鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)も頷いていた。
祭莉が普段よりもテンションが上がってるのは一目瞭然だが、それは小太刀もだ。微笑を浮かべて落ち着いてる風を装っているが、ソワソワしているのが隠しきれていない。
「ああ、ゲットした食材アイテムを使って祝勝会だ!」
どちらかと言えばストッパーに回る側が多いであろうガーネットも、今回ばかりはノリノリである。
「まあ、このメンバーでイカとサメを相手にしたなら、その後こうなるのは当然だね」
九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)は苦笑してはいるが、止める気はない。
運動後のご飯は美味しい。
美味い飯を止める理由など、ある筈がない。
「BBQ楽しんで行ってね」
|管理者《ドラゴンプロトコル》も推しているのだ。これはもうBBQしないで帰るなんてあり得ない。
だが、その為には足りないものがある。
イカとサメ以外の食材だ。
「楽しむ為に、食材を交換したいですね」
シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)が、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちに視線を向けた。
「あ、足りないですか?」
「足りないですね」
聞き返して来た|管理者《ドラゴンプロトコル》に頷いて、シリンは視線を横に向ける。
「夏の不思議。何故BBQは何度やっても美味しいんだろう……」
そこには、木元・杏(トンチキへの適応力・f16565)が期待と空腹感が入り混じった何とも形容し難い表情で佇んでいた。
かなりお腹空いてそうなのは、誰の目にも明らかだ。
「余ったトゲは……そこそこあるわね」
そんな杏の様子に微苦笑を浮かべながら、南雲・海莉(With júː・f00345)は余っているイカのトゲを1つ摘まみ上げる。
|特効武器《イカノコ》を作っても結構な数が余っており、レートにもよるが交換は充分だろう。
交換を始めるのかと思いきや、海莉はトゲを叩いたり曲げたりしていた。
どうやらトゲの硬さを確かめている様子だが、何故今になって?
「……軟骨と同じ調理で大丈夫かしら?」
海莉ったら、トゲまで食べる気だった。
「え、それ食べられるん?」
「作ってみないと分からないけど、軟骨よりはいくらか硬そうだから、唐揚げとかなら……?」
駒鳥・了(I, said the Rook・f17343)が意外そうに目を瞬かせるが、海莉も食べられるか否かは半信半疑の様で首を傾げている。
「とりま交換しよーよ」
「そうね。残ったら考えるわ」
先に交換をしようと促す了に、頷く海莉。
「しかし実際問題、イカはともかく、サメをどう調理したものだろうか」
2人のやり取りを聞いて、ガーネットが思案顔になっていた。
結構な数のトゲがあるとはいえ、有限ではある。闇雲に交換しては、足りなくなってしまうだろう。
「サメ、サメ料理……」
「サメ料理なら、試してみたいのがある」
考え込むガーネットの横から、杏が|管理者《ドラゴンプロトコル》の前に進み出た。
「それにはオリーブオイルと、ご飯が必要。お米!!! あるよね???」
ぐっと拳を握って交換を求める杏。
「あるよ~」
「何合ですか?」
「……10は少ない。20? いっそ俵で貰っても良いかも。余ったら持って帰れば良い」
「え、えぇ~?」
杏の要求量に驚く|管理者《ドラゴンプロトコル》。
そのやり取りで、ならばライス以外で――と考え始めたガーネットの脳裏に、ふと、以前聞いた話が蘇った。
「そういえばニホンのある街では、サメバーガーなるものが売られていると聞いたことがある。試してみるか……?」
聞いた事がある、と言う事は、ガーネットはその『サメバーガー』を食べた事は無いのだろう。
それで、試してみるか、となるのは中々のチャレンジャーである。
「バーガーならバンズが必要だな。そう言うパンはあるだろうか?」
「丸いパンで良いのかな? あるよ~」
ガーネットの問いかけに、|管理者《ドラゴンプロトコル》が交換できるパンの一覧のウインドウを表示させた。
「あ、バゲットとチーズもある。欲しいかも」
「バゲットサンドもありか。チーズもバーガーに入れて良いだろう。多分」
横から見ていた了に頷いて、ガーネットはバンズとバゲット、チーズをイカのトゲと交換していく。
「そしてサメ肉は確かフライにしていたな。フライ用のオイルも必要か」
「あー……オイル。そう言うのもいるのか。他の調味料も……?」
必要なものを探してウインドウをスライドさせるガーネットの呟きに、了が思わず空を仰ぐ。
調味料の事まで、気づいてなかったか。
「その辺は任せる。そもそも、オレちゃん食い専だからね」
了がその結論に至るのは、時間がかからなかった。
餅は餅屋。
料理に長けてるメンバーがいるのだから、任せればいい。
「ん……ハーブ類は山のどこかに生えてそう?」
調味料と聞いて、杏はウインドウから視線を外して麓の森の方に向ける。
確かにハーブ類が自生しててもおかしくない環境だ。
「ちょっと行って来る。誰か網レンタルしといて。網大事」
行ってみるしかないと、杏は森に向かおうと踵を返す。
「あと鉄板もいる」
「ご飯は? これでご飯炊ける?」
「炊けるけど足りないから、大鍋がいい。大きい土鍋があればベター」
飯盒をレンタルしようかと言う祭莉に、杏は頭を振った。
まあ飯盒はあくまで携帯用。其れでも四合は炊けるのだけど、四合で足りるわけがない。
「あと鉄板も欲しい。じゃ、行って来る」
言いたいことを言い終えると、杏はハーブを求めて麓の森へ駆けていった。
「山葵と山芋は無いのかしら?」
特に心配するでもなく、小太刀が入れ替わりにウインドウを覗き込む。
「……あっ!」
小太刀の指が何度かウインドウの上を滑った所で、横で見ていた了が声を上げた。
任せると言いつつ気にはなるのか横目で眺めていたが、ふと、見つけてしまったのだ。交換リストの中に『ハバネロソース』の文字を。しかもトゲ1個から交換できるとお得である。
(「ロシアンタレでも作っちゃう?」)
笑顔の裏で、了が悪い顔をしていた。
「皆が作りそうなメニューは大体検討が付きました」
小太刀と了の後に交換を始めたのは、シリンだ。
ここまでシリンが様子を見ているだけだったのは、他の皆が何を作るか、そして被らないように自分が何を作るかと、頭の中で献立を考えていたからである。そして、決まった。
この流れなら、アレは自分の担当だろうと。
「私は高級食材を料理するとしましょう」
これからもう一戦するのかというくらい本気の目で、シリンが|管理者《ドラゴンプロトコル》たちに声をかける。
「トゲ全部と交換でも良いので。フカヒレ用高級スープをお願いします!」
フカヒレ。
サメを倒したらドロップした、サメのヒレを原料とした高級食材。
だが所詮、フカヒレはサメのヒレなのだ。背鰭でも尾鰭でも胸鰭でもフカヒレになるが、鰭である。身ではない。肉ではない。
高級食材であるのは、サメ1尾から採れる量が限られるのと、手間が多いと言う部分が大きい。とどのつまり、フカヒレそれ自体に特筆するような味は無く、フカヒレ料理の味はスープやタレに依存しているのだ。
そんなフカヒレと言う加工食材がサメを倒しただけでドロップするこの世界なら、フカヒレ料理に必要なスープもあるだろう。だがフカヒレが本来高級食材なのだから、スープの交換レートも高いかもしれない。
そんな予想もあって、シリンは他のメンバーの交換が粗方終わるのを待っていたのだ。
だが――。
「え?」
意気込んだシリンの要求に、|管理者《ドラゴンプロトコル》が何故か驚いたように目を丸くした。
「フカヒレ用のスープ素材ならありますけど」
ここは予想通り。
「トゲ、そんなに要らないよ?」
「え?」
けれど続いた言葉は予想外。
「フカヒレをドロップしてないとロックされてるアイテムですけど、他の調味料と同じレートで交換できますよ」
|管理者《ドラゴンプロトコル》から返って来た言葉に、今度はシリンの方が目を丸くした。
「これが、そんなに価値あるものかい?」
米(俵で)、各種パン、チーズ、オリーブオイルに揚げ油、夏野菜各種に、フカヒレ用高級スープ、等々。
次々とトゲが食材に交換されていく様子に、夏梅は何度か首を傾げていた。
物々交換など珍しくもないが、ゲーム世界ならではのトゲとの交換は等価値とは言えない。そのせいか、夏梅は頭上の『?』が消えた様子がなく、むしろ増えている節すらあった。
「慣れると楽しいもんだよ」
「そう言うもんかね」
ガーネットの言葉にも、夏梅はただ肩を竦めて返す。
「まあ独特な世界よね」
夏梅に同意を示すように苦笑しながら、海莉は刀を抜いて地面に突き立てる。
「――汝、冬を司りしもの、刃に宿れ」
そして何を思ったか、海莉は再び|氷結付与《アイシクル・エンハンス》で刀に氷の魔力を纏わせた。
冷気を放つ刃に水を近づければ、一瞬で凍り付く。
そうして凍った水を刀の周りに並べれば、周囲一帯が冷たい空気の空間となる。
海莉が態々ユーベルコードまで使った理由はただ一つ。
交換リストに、なかったのだ。
「刀、このまま置いとくわね。周辺は冷凍庫代わりになると思うから」
なかったのだ。
冷蔵庫が。
「おー! これでビール冷やしとけんね」
翳した掌で冷気を感じながら、了が頷く。
「んで、飲み物どうする? ビールは必需品! あとワインも?」
「キャビアもあるからワインは外せないな」
「いっそ、リストにあるの一通り交換しても……」
どこまでトゲを交換するかと訊ねる了に返したのは、ガーネットとシリンだ。酒量の消費者ナンバー1,2である。
「そうすると、あんまりトゲ残らないかも?」
「トゲは無理に残さなくても……」
了の言葉に、海莉はそれならそれでいいと返した。
元より、唐揚げはトゲが余るならと考えていたにすぎない。
「美味しい保証はな――」
「トゲ、食べてみたい」
けれど、保証はない、と言いかけた海莉を、両手いっぱいにハーブを抱えて戻って来た杏が遮った。
「おいらもー♪」
祭莉もそこに加わる。
育ち盛り2人がキラキラした視線を向けて来たので、トゲも残す事決定。
●レッツクッキン
必要な食材の交換も、道具のレンタルも終わった。
いよいよ【かんにき】勢もそれぞれにBBQの料理を始め――る前に、火だ。BBQなら焚き火を熾さねばならない。
BBQはそう言うものだ。
だが、ここでもゲーム世界であることが大いに活きて来る。
「これを選んでー、こうでいいのかな?」
焚き火セット、なるアイテムを選んで祭莉が使ってみれば、綺麗に組み合わさった薪が一瞬で現れ、直後にはあっさりと火が点いた。
「わお、簡単だ♪」
焚き火には慣れてるであろう祭莉でも、驚くくらいに簡単だ。
簡単な分、火力が『弱』『中』『強』の3段階しかなかったりするが。
「じゃあ、どんどん点けちゃおっと」
適度な間隔を空けて、祭莉は次々と焚火を作っていく。
まあ1度の着火で焚き火セットを1つ消費はするが、この焚き火セット、なんとイベントクリアのご褒美としてタダで貰えていたりするので、数は充分である。
そんなゲームらしさ故に、とある勘違いが発生することになるのである。
●稀に焦げる事もある
「ふふふ、今日の私は違うわよ」
その勘違いが発覚したのは、意味ありげな笑みを浮かべて腕を組んでいる小太刀の言葉が切欠であった。
「おぉ~! 強くて料理も得意なんてすごいねぇ」
「あー、いや、そうね。得意っていう程じゃなくて、ほんのちょっと苦手だけど」
|管理者《ドラゴンプロトコル》から向けられた羨望の眼差しに、小太刀はドヤ顔で返す。
実は、ほんのちょっとどころか大分苦手な部類なのは、この面子なら公然の秘密である。
「なんたってここはゲーム世界。ちょちょいのちょいで美味しい料理の出来上がりよ!」
小太刀の自信の源は、ここがゲーム世界だから。
「ええ。ゲーム世界の特性を最大限活用させて貰いましょう」
同じ事は、シリンも感じていた。
「アイテムさえあれば、どんな難しい料理も簡単に出来るのですから。ですよね?」
確かに、何かとゲームっぽい現象が起きる世界ではある。今しがた、焚火を簡単に作れたりもした。だから、料理もそのように出来ると言う考えに至っても仕方のない事だろう。
だが――ゲームでも失敗があるイベントだってあるのだ。ゲームだからこそ、と言うべきか。
そして多くの場合、料理はその『失敗がある』類のイベントである。
「簡単は簡単ですけど……」
「料理は失敗する時もあるよ?」
「例えば、焼いたら、焦げる時は焦げますね?」
「むぐっ」
「コマンド式じゃないの!?」
|管理者《ドラゴンプロトコル》に告げられた現実に、シリンは思わず口を噤み、小太刀が驚き顔になった。
ゲーム世界だからって、何でもかんでも便利にならないもんである。
●鮫肌の使い方
「でも大丈夫。加工がちょちょいで出来るなら、山葵をおろすのもちょちょいと出来る筈!」
すぐに気を取り直し、小太刀はドロップ品のイカの切り身を手に取る。
「良いでしょう、完璧に作ってみせます!」
シリンも逆に燃えてる様子である。
「杏。これ湯掻いてくれる」
「りょ」
小太刀は他の料理の為に大鍋でお湯を沸かしてる杏に、イカの切り身とゲソを渡す。
「こんなもんで良い?」
「多分? ありがとね」
数十秒で戻って来たイカの身とゲソを、一口大にぶつ切りに。
次に小太刀が手にしたのは、先程交換した山葵と、ドロップ品のサメの皮だ。
そして、サメ皮で山葵を擦り下ろしていく。
小太刀が作ろうとしているのは、タコわさならぬイカわさであった。
これならば、主な作業は『細かくしたイカの切り身と山葵と混ぜ合わせる』だけ。最初にイカを湯掻く以外は、火を使う事もない。
(「火を使わないなら、焦げる事もない筈……!」)
そんな気がしている小太刀であったが、料理の失敗は、何も食材が焦げるだけではない。
「やばいめっちゃツーンときた!!」
手元から立ち昇る新鮮な山葵の香りに、小太刀の目から涙が零れた。
これが失敗イベントなのか、単なる山葵による自然現象なのかは、定かではない。
「……めげないわ」
そして小太刀とサメ皮の出番は、山葵を擦って終わりではなかった。
「サメ料理と言えば、はんぺんよね」
続けて、ハンペンの為の山芋を擦り始める。
叩いてミンチにしたサメの身を擦った山芋と混ぜ合わせ、そこに塩と鶏卵の卵白を加えてひたすら混ぜ合わせて、良い感じに粘りが出たら適当な大きさに纏めていく。
「なんか白身の筈が、ところどころ緑色に……気のせいと言う事で!」
山葵を擦り下ろしたサメ皮で山芋を擦ったからだろうが、小太刀は気にせず湯を沸かした鍋に投入していく。
この程度なら、山葵の風味程度。そんなにツーンとは来ない――と信じて。(※根拠はない)
●おそらく排翅と言って良いフカヒレ
一方、シリンは幾つもある焚火のひとつの前に立っていた。
中華鍋に似た丸く深みのある鍋に油を入れ、刻んだショウガとニンニク、ネギ、そしてサメの軟骨の一部を炒めていく。ニンニクやネギがカラッと焦げて油から香りが昇ってきたら、具材を取り除いておく。
「あとは専用ソースを入れて、最後にフカヒレを入れて炒めるだけですか」
トゲと交換したフカヒレ用スープ素材を入れ、しばらく温めて油と馴染ませたら、いよいよフカヒレ投入。
本来のフカヒレの姿煮の場合は、乾燥されているフカヒレを煮込むなりして戻すと言う工程が入るのだが、どうやらそこはすっ飛ばされてるようだ。
これまたゲーム的である。
「ここからは失敗が許されませんね」
今回はサメを倒しただけで入手出来たが、本来は手間がかかる高級食材とあってか、シリンも緊張した面持ちだ。
「焦がさないように、鍋を振って……と」
一定のリズムで中華鍋を振っていると、その内、武器の合成に成功した時と同じ音がシリンの耳に届いた。
どうやら、無事に成功したらしい。
大皿に盛って見れば、とろみの付いたソースに包まれたフカヒレが綺麗な形を保っていた。
「早かったですね」
やや簡略化されている事もあり、これならもう1,2品は作れるだろう。
「皆が使わなさそうなのは――そうですね。イカのワタを使いますか」
まだ時間もあるしと、シリンは他の食材に手を伸ばした。
●サメもイカも
杏の前の大鍋の中では、大量の湯がグツグツと沸いてる。
塩を振って水分を抜いておいたサメの切り身を、鍋に投入。十数秒、身の表面の色が変わる程度サッと湯掻いたらお湯から上げ、水気を切っておく。
次に、その辺で摘んできた謎のハーブ(見た目はローズマリーっぽい)を、こちらもほんの数秒サッと湯通し。野草なので、念のための処置だ。
そしてサメの身をほぐし、刻んだ謎ハーブの葉と混ぜ合わせていく。
差し詰め、サメ肉のハーブ和えと言った所か。
これだけでも簡単な一品と言えそうだが、杏にとってはまだ下準備だ。
「ご飯炊けたかな……」
大鍋をひょいと焚き火から外すと、杏は後ろの焚き火の方を振り向いた。
その上にも、鍋が載っている。ラーメン屋でスープ作ってる時に見る様な、業務用サイズの鍋である。
蓋の上に置いて重しにしていた小さな岩を除けて蓋を開ければ、眼鏡が曇りそうな蒸気がもわっと溢れ出し、その向こうにツヤツヤに炊き上がった白米が見えた。
「素晴らしい」
まさに『銀シャリ』と呼ぶにふさわしい炊き上がりである。
このサイズの鍋でご飯を炊くのは難しいのだが、ゲーム世界の工程簡略化が功を奏したか。
ともあれ米も無事に炊けたので、ここからが本番だ。
杏は焚火に超大型の中華鍋を置くと、目分量でご飯を投入。オリーブオイルを回しかけ、ダマにならないように炒めていく。途中でサメ肉のハーブ和えを加えて、焦げ付かないようにオリーブオイルを適宜加えながらさらに炒める。
「まつりん、お皿持ってて」
「サメだー♪」
祭莉が構えた受け皿(やはり超大型)に盛られた、パラッとしたサメのハーブピラフ。
「おー、さすが」
「美味そうさね」
「ん。まだ終わりじゃない」
了と夏梅が向けて来る視線に頷き返しながら、杏は中華鍋を焚火の外に置くと、代わりに網を乗せた。
ハーブを採りに行く前、大事だからと念を押していた網である。
その上に並べるのは、中を開いたイカの身にピラフを詰め込んで串で口を止めたもの。
「これ塗って」
「イカだー♪」
祭莉も協力しイカ墨と醤油を混ぜたタレを表面に塗りながら、網の上でじっくりと焼いていく。
表面が少し焦げ付いたくらいが、きっと丁度いい。
「ふ、洋風イカ飯」
予想通りの美味しそうな匂いに、得意げな杏であった。
「あとは……何を作ろうかな」
まだまだ、イカもサメも残っている。ご飯もたっぷり炊いた。
もう何品か作れそう。
だが、料理をしているメンバーは他にもいるのだ。
パチパチッジュゥゥゥッ、と油に揚げられる音が響いてくれば、杏の動きがピタッと止まった。
カリッと揚がった衣の匂い。
網で焼き上げられた、少し焦げたバンズから立ち昇る小麦の香り。
それらの香りに、杏が反応せずにいられるだろうか。
――否である。
「味見してくれる人はいる?」
「試食? お手伝いしなければ……」
そんなガーネットの声に、ふらふらと引き寄せられていく杏であった。
●大抵の食材は揚げればどうにかなるさ
時間は少し遡る。
ガーネットが作り出していたのは、トゲ交換時にも呟いていたサメバーガー。そのメインであるサメのフライだ。
ところでサメと言う魚は、軟骨しか持たない。
背骨に当たる太い骨もあるが、サメはそれすらも軟骨である。と言う事はつまり、サメを調理する際、他の魚の様に小骨を気にする必要がないと言う事だ。まして、切り身としてドロップしたものとなれば、皮の処理すらも不要である。
卵液に潜らせて衣を満遍なくつけたら、そのまま揚げていい。
しっかり揚げれば、何の問題もない。
中華鍋でサメを揚げている間に、ガーネットは念動力で離れた所の包丁を操り玉ねぎを刻んでおく。
サメに付けた衣が両面ともキツネ色になるまで揚げたら、鍋から揚げて網に置いて余分な油を切っておく。
その間に茹で卵と先程刻んだ玉ねぎ、マヨネーズとマスタードをボウルに入れて混ぜ込み、混ぜ込み。
タルタルソースを作ったら、今度は鉄板に薄くバターを引いて、開いたバンズの切断面に軽く焼き目を付け、下のバンズにレタスとサメフライを乗せ、タルタルソースをたっぷりかけてから上のバンズで挟めば歓声。
「まずは試作品、味見してくれる人はいる?」
「お手伝いしなければ……」
こうして、サメバーガーを1つ目を作ったガーネットの元に、ふらふらと杏がやって来た。
「いい匂いするねー♪ 美味しそうだねー♪」
後ろには、るんたったと祭莉も続いている。
「まだ試作だからな。半分ずつで頼むよ」
バーガーを半分にしようとガーネットが包丁を入れれば、ザクッと衣が軽快な音を立てた。
秒で消える、サメバーガー。
「美味。でもイカを入れても良いかも?」
「あ、良さそう! ボリューム出るね」
杏のアイディアに、祭莉が笑顔で頷く。
「ふむ。ならイカリングのフライでも作ろうか。海莉も唐揚げを作ってるみたいだし、合わせていいおつまみになりそうだ」
どう、と視線を向けて来る2人に頷き返し、ガーネットは視線を横の焚き火に移した。
●唐揚げは万能……だと良いね
ガーネットが向けた視線の先では、海莉が中華鍋(普通サイズ)に油を張って火にかけていた。
「イカ軟骨と言えば、唐揚げよね」
醤油と酒、ショウガとニンニクを合わせたタレにしばらく漬け込んで下味をつけたら、小麦粉と片栗粉を同量混ぜた衣をつける。卵液を潜らす場合もあるが、海莉は使わない方法を選んだようだ。
ついでにサメの軟骨と、イカのトゲも同じタレで下味をつけ、衣をつけていく。
「……トゲは衣の付きが悪いわね」
元のトゲが黒くて硬いせいか、衣をつけてもトゲが見え隠れしてしまう。
卵液を作っておいた方が良かったかと海莉が思案していると、ふと、視線を感じた。
そちらに視線を向けた海莉は、気づく。
視線を向けているガーネットの横にある、卵液を。
「ガーネット。卵液、余りそう?」
「ん? ああ、これからイカリングを作るけど余るな」
海莉の意図を察して、ガーネットが卵液を手にこちらの方に来た。
「手伝おうか?」
「ダンジョン飯では焼肉と揚げ物は基本だから任せて。そっちのイカリングも揚げちゃうわ」
ガーネットの申し出に、海莉は余裕の笑みを浮かべて返す。
確かに、ダンジョンで得た素材を調理する場合、食材に火を通さずに食べるのは様々な意味で危険だろう。そして、今の状況もダンジョンの中での調理とあまり代わりはしない。
海莉はイカリングを受け取ると、イカとサメの軟骨と一緒に揚げ始めた。
菜箸で突く様に表と裏を入れ替えていく。
こんがりとキツネ色に揚がったら、油から揚げていく。
「あとはトゲね……」
流石にものがものなので、軟骨を全て揚げてから、まず一つだけ油に投入。
爆発したりする事無く、ジュウゥゥゥッと軟骨と同じ音が響き出した。
「大丈夫そうね。さ、じゃんじゃん揚げるわよ!」
それを見た海莉は、次々とイカのトゲを揚げ始めた。
●打つだけ
「皆ちゃんとしててエライナー」
次々と出来ていく、イカとサメ料理を了が感心しながら眺めている。しかも何だか揚げ物が多かったり、イカもサメも使ったイカ飯とか、フカヒレの姿煮なんて凄そうなメニューが多い。
(「揚げるのメンドーだけど……」)
食い専門だと開き直っていたけれど、こう見事な料理が並ぶとさすがに少し、居心地の悪いような感がある。
「ま、ちょっとは働くかね」
重い腰を上げた了が構えたのは、串である。
小太刀が戦闘中に、串焼き属性、とか言って散々使ってたのと同じ様な串である。
「鈍ちゃん、ヒマなら一緒に串打ちしよ!」
その小太刀がハンペンまで作り上げて手持ち無沙汰なのに気づいていた了は、串を振って呼び込んだ。
「夏梅さんも良ければどお?」
同じく皆の料理を見守るだけだった夏梅も巻き込んでいく了。
「アキ、串打ちなら任せて!」
「ま、折角だ。やってみるかね」
小太刀も夏梅も手持無沙汰なのは事実だし、串に刺すだけならと、誘われるままに集まって来る。
そして、3人で串打ちが始まった。
イカとサメを適当な大きさに切り分けて、串に刺していく。間に茹でた鶉の卵とかパプリカを挟んでも良い。
「このまま置いとくってことは、串揚げじゃなくて焼きかい?」
「そそ。焼くだけ」
衣をつける様子が無いので訊ねた夏梅に、了はしれっと返す。
「手の込んだものの合間にシンプルなのも食べたいでしょ」
揚げ物が面倒だなどと思ってるのは、おくびにも出さないで。
「串打ちしておけば、あとはいつでも焼けるし。食べたい時に焼いた方が、焼き立てを味わえるし?」
「成程ねぇ」
尤もらしい了の言い分に、しみじみと頷き夏梅は串打ちを続ける。
「素材が良いと、適当に串に刺して塩振って焼くだけでもウマいよね。天の声がイカもサメもウマイって言ってたから、あとで普通にタレ浸けて焼いてみよっと」
いつの間にか、祭莉も混ざっていた。
●キャビア缶を開けよう
次々とイカとサメのBBQ料理が出来上がっていく中、未だに誰も手を付けていないドロップ食材があった。
「しかしドロップってえのも、不思議なもんだ」
夏梅が持ってしげしげと眺めている、キャビア缶である。
「この缶はどっから出て来たのかね」
「慣れると楽しいもんだよ」
まだ頭上の『?』が消えてない様子の夏梅に、自分の料理を終えたガーネットが笑いかけた。
「そう言うもんかね。で、これは開けちまって良いのかい?」
「ええ。そろそろ使いますから」
夏梅の問いに、こちらも料理を終えたシリンが頷く。
「じゃあやるかね」
頷いて缶切りを手に取ると、夏梅はキャビア缶にあてた。
キコキコと、缶切りが少しずつ穴を開けていく音が鳴る。
「缶詰はキコキコするヤツだよね」
祭莉も缶切りを手に、まだある缶詰をキコキコあけていく。
あまり数もなかったキャビア缶は、ものの数分で2人によって全て開けられた。
「で、この後どうするんだい?」
「コレは焼かないヤツ……」
「そうですね。これはそのままで」
ひとつ開け終えた夏梅の疑問に、祭莉とシリンが返す。
キャビアはサメの魚卵。火を通さずにそのまま食べたほうが美味しいものだ。
●美味しい時間
こうして、全員の料理が出揃った。
「オレちゃんはビールにするけど、グレちゃんとせんせーはどする?」
「最初はビールかな」
「同じくで」
了とガーネットとシリンは、当然の様にシュワシュワする麦飲料だ。もう幾ら酔っても問題ない。
「おいら麦茶!」
「わたしは緑茶」
「私は烏龍にしようかな」
未成年な祭莉と杏、小太刀も海莉の作った冷凍空間で冷やされていたお茶系をチョイス。
「夏梅さんも烏龍茶にする? 緑茶も麦茶もあるけれど」
「これだけ色々あると、烏龍茶が良いかね」
下戸な夏梅も、お茶組だ。
「この渋みが魚介の脂を分解してさっぱりしてくれるのよね」
しみじみと頷きながら、海莉が烏龍茶を夏梅に。
「管理者の皆さんもどうです? ホットもアイスもありますよ」
|管理者《ドラゴンプロトコル》も誘う海莉。
「そうですね。よろしければお三方もどうぞ」
「お席はこちらになりまーす♪」
シリンも三人を呼び、祭莉も簡易チェアだけど3人の席を作っていたりする。
「それじゃあ……少しだけ」
「沢山作ったもんねぇ」
「余るのも勿体ないですし」
ここまでされては――と言うのもあるだろうし、料理の量を見て、というのもあっただろう。とにかく、|管理者《ドラゴンプロトコル》は促されるままにかんにきの輪にしばし加わった。
「多分、余らないよ?」
しれっと告げて来た杏に、2つ目の理由をあっさりとけされて三人とも絶句したりしたけれど。
そして、宴が始まる。
「うん、サメフライだけよりイカフライも入った方が食感に違いも出てボリュームもあって、ぐっど」
「だな。洋風イカ飯も良い。サメとイカの旨味が凝縮されている」
杏とガーネットは、互いにそれぞれ作った料理の出来栄えを確かめていた。
「フカヒレの姿煮も、美味しそう」
次に杏が視線を向けたのは、シリンの作った姿煮だ。
「これはこうして……フライと唐揚げもこうして、こう」
杏はたっぷり作って余ってる洋風イカ飯の中身のサメのハーブピラフに、フカヒレの姿煮をかけて、さらにバンズに挟んでないサメフライとサメ軟骨の唐揚げを添える。
「サメ尽くしあんかけピラフ」
シリンとガーネットの海莉の料理もあわせて出来た新たな料理に、杏はドヤ顔である。
ピラフとは別に、普通に炊いた白米もまだある。
「あ、おこげだヤッター♪」
鍋の蓋を開けた祭莉が、カリッと薄い茶色に焦げたご飯に笑みを浮かべた。
そこに乗せるのは、焼き立ての串焼きだ。塩とタレを作ったが祭莉が焼いたのはタレの方。
串から外して、ご飯に乗せれば、焼きイカサメ丼である。
「焼き立て、美味ーい」
白米とイカとサメで、まず茶碗一杯。
「次のおかわりは、キャビアとぱくちぃ添えて、冷たい麦茶と熱い烏龍茶かけてー」
さらっとお茶漬けで2杯目。
「で、卵かけごはんに、ちょいと乗っける!」
キャビア乗せ卵かけご飯で3杯目。
ご飯のおかずもあるが、酒の肴にいい料理も多い。
一方の酒飲み大人組も、こっちはこっちで盛り上がっていた。
「タコわさならぬイカわさですか」
「タコと食感違って美味いねこれも」
「ふふん、そうでしょう」
シリンとガーネットの賛辞に、小太刀の鼻がどんどん伸びていく。
「山葵風味のハンペンってのも良いね。ピリッと来るし、作りたてでふわふわだし」
「そ、そうでしょうとも!」
了には好評だが思ったより山葵の風味残っちゃったハンペンに、小太刀の伸びていた鼻がするすると縮んでいた。
「軟骨の唐揚げも、ビールに合うね!」
了は海莉の作った唐揚げとビールを交互にやっている。打った串、忘れてない?
「そうね。そっちは上手く出来たと思うのだけれど……」
海莉が視線を向けた先には、イカトゲの唐揚げ。
「これは正直、微妙ね」
「食感は悪くないんだがね」
肩を竦める海莉の横から夏梅が手を伸ばし、イカトゲ唐揚げをボリボリと齧り出した。
――え、それ食べるんだ……?
みたいな視線を|管理者《ドラゴンプロトコル》たちが向けてきている気もするが、気にしないでおこう。
「こっちの方が美味しいわ」
「ふふ。酒飲みにはたまりませんよ」
海莉が手を伸ばしたのは、シリンが作ったイカのワタ巻き冷凍スライスであった。
「まあ、飯が美味い世界なのは分かったよ」
粗方の皿が8割以上空いた頃合いで、夏梅がしみじみと呟いた。
酒を飲めずとも仲間と宴の席を共にし、飲み食いしている様子を見るのは好ましいことだ。
「うん、このゲームな世界も美味しいに満ち溢れてる」
緑茶片手に、しみじみと頷く杏。
一番食べていただろう。流石に満腹かと思いきや、空いている手で椎茸のチーズの串を焼いていた。
そして焼き立てを一口。
「!? ~~~~~!!」
それはチーズの下に、ハバネロソースが隠れていたものであった。
さすがの杏も不意打ちのハバネロに、つーんと来て悶えている。
「あー。杏ちゃんに行っちゃったか」
その様子に、了がケラケラと悪びれずに笑う。
「やっぱり食べてる時が一番楽しそうだねぇ」
夏梅も微笑を浮かべている。
「そうね。賑やかで美味しそうで――幸せな匂いよね」
「美味しそうな匂いがしてくるのもいーよね」
海莉と了もしみじみと頷く。
「そろそろ、ごちそうさま、で良いかなー?」
閉まりそうな空気を読んで、祭莉がその場で立ち上がる。
「ハイ、最後はみなさんご一緒にー」
「え、まつりん。まだ早いよ?」
だが『神いべんと!』と閉めようとした祭莉に、ハバネロショックから回復した杏が待ったをかけた。
「だって、空腹ボタン、あるよね?」
――???
杏の一言に、全員の頭上に『?』が浮かぶ。
何だろう。ぽちっとしたら空腹状態に戻れる、と言うような機能を欲しているのだろうか。
「……あるよね?」
「「「残念ながら無いです(よ)」」」
|管理者《ドラゴンプロトコル》三人とも、揃って頭を振っていた。
大成功
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シモーヌ・イルネージュ
イカノコドリルはすごかったな。
サメを綺麗に両断できるし、臓物や血をかぶることもなかったし。
この世界はそういうところは便利でいいね。
今からクエストクリアのBBQ会だね。
食材は…イカ、サメ、キノコかー
海産物多めなのはわかるけど、肉が無いと盛り上がらないよ。
ここは残りアイテムを肉に変えてしまおう。
肉の種類は問わないよ。謎肉でもOK。
調味料はおまけしてくれよな。
準備ができたら、BBQを心ゆくまで楽しんでいこう。
管理者も災難だったけど、ご苦労さま。
一緒にBBQやろうよ。
●山で海の幸を食べられると思えばお得ではないでしょうか
「今ある食材は、イカ、サメかー……」
戦いが終わったと言うのに、シモーヌ・イルネージュ(月影の戦士・f38176)の声には落胆の色が混ざっていた。
「海産物多めなのはわかるけど……」
そこを『わかる』と言えてしまう辺り、シモーヌも大分この山岳フィールドに染まっている様子だ。
けれど、それはそれ。
「トゲと食材を交換出来るんだよね?」
「はい。出来ますよ」
「食材、色々あるよ~」
シモーヌの問いに、|管理者《ドラゴンプロトコル》が笑顔で答えた。
イベントをクリアした事で山岳フィールドが元に戻った事が、余程嬉しいのだろう。
「肉は無いのか? 肉が無いと盛り上がらないよ」
|管理者《ドラゴンプロトコル》によって目の前に現れた交換品一覧のウインドウの上を、シモーヌの指が肉を求めて滑る。
イカもサメも良い。そも、シモーヌに嫌いなものなどない。
けれど、BBQなら肉が欲しい。
「肉ですか……確かに」
「うんうん。BBQならお肉焼きたいよねぇ~」
|管理者《ドラゴンプロトコル》達も、頷けるところだ。
「でも、もしかしたら、ちょーっと思ってるのと違うお肉しかないかも?」
|管理者《ドラゴンプロトコル》の1人がそう続けた直後、シモーヌはそれを見つけた。
「これは……」
・海竜の肉
・海鳥の肉
・海牛の肉
・海羊の肉
・海熊の肉
見たこともない名前の肉のリストを。
「これは……」
これには思わず絶句するシモーヌ。
謎の肉、とか出てきてもおかしくないと思っていたが、謎の方向性がちょっと思っていたのと違った。
(「海竜や海鳥は何となくわかるが、海牛に海熊? ここは山では???」)
名前から想像付きにくい肉に、胸中に湧き上がる疑問。
そもキノコや山菜は採れるくせに、動物性の食材となると途端に海産物になるのは何なのか。
「驚くよね……実はここ、元々こうで」
「山なのに、海ってつく獣が出るんです」
その答えは、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちの口から告げられた。
結局どういうことなのか、という話だが。
(「まあ……いいか。肉なら」)
肉と付いているのだから、肉なのだろう。食べられないものが出て来る事はあるまい。
「トゲも足りるな。肉を全部ひとつずつ。調味料は余ったトゲでおまけしてくれないか」
「はい、どうぞ」
さあ、BBQだ。
ゲームに於ける火熾しと言う作業は、大抵の場合、現実のそれよりも楽なものだ。
例外もあろうが、今回は『焚き火セット』なるイベント報酬のアイテムを使うだけで良かった。
「この世界、こういうところは便利でいいね。サメを両断しても、臓物や血を浴びる事もなかったし」
人によっては味気ないと思うかもしれないが、シモーヌは気にした風もなくむしろ便利だと微笑みながら脂を使うと、交換した肉を一通り鉄板に乗せて行く。
「あ、でも食材は焦げる時は焦げるわよ」
と思っていたら、|管理者《ドラゴンプロトコル》からそんな言葉が飛んできた。
「失敗率は、そんなに高くないけどね~」
「でも油断すると、焦げちゃうから」
「ああ、成程な」
|管理者《ドラゴンプロトコル》の下2人が続けた説明で、シモーヌも得心がいって頷く。焦げる事もあると言う事は、火が通り過ぎる事もあると言う事だ。
焼けた肉、とか画一の焼き加減になっていない辺り、やはりゲームにして世界と言う事なのだろうか。
「焼き方のコツとかある? アタシの食材使ってもいいからさ、一緒にBBQやろうよ」
|管理者《ドラゴンプロトコル》たちも大変だった筈だ。
少しでも労いになればと、シモーヌはこの世界での美味しい焼き方を教わるついでに|管理者《ドラゴンプロトコル》たちを交えてBBQを楽しむのだった。
大成功
🔵🔵🔵
彩瑠・翼
【月翼竜】
イベント終了? やったね!
じゃあ、今度こそここからはBBQってことだね
(リュートくんの衣装とBBQセットに目を輝かせ)
管理者さん達も食べられる?
もし可能なら一緒に楽しまない?
食材は牛豚鶏な肉もあるといいよね
トウモロコシとかジャガイモとかもいいなぁ
個人的にはコショウとバター、醤油は欲しいかも!
持ってるトゲ分で量多く交換できるか相談してみようかな
お肉も野菜もおいしいね
サメは…なんか不思議な味?
キャビアもフカヒレも、大人な味がする…かも?
…でも、オレ、今のところは
イカ焼きそばと『イカと粉まぜて焼いたやつ』が一番好きかも
(まだまだお子様かもだけど、と恥ずかしそうに照れ笑い)
ユディト・イェシュア
【月翼竜】
ボスも倒したことですし
思う存分BBQを楽しみましょう!
調味料いろいろと
せっかくですからキャビアも交換してもらいましょう
管理者さんたちもどうぞ
お疲れ様でした
リュートくんの格好でお祭り度がアップしましたね
そうだイカ料理といえば
『イカと粉まぜて焼いたやつ』は
縁日などで売られているそうですよ
本格的なのは機械がいりますが
似たのなら作れそうですね
お好みソースが合うそうです
キャビアはパンやクラッカーに乗せるだけでも美味しいです
イカ墨の焼きそばいいですね
BBQもどれも美味しいですし
翼くんサメのお味はどうですか?
そしてようやくフカヒレを食べれるんですね
なるほどこれが…確かに苦労した分美味しく感じますね
リュート・アコルト
【月翼竜】
うっしやるぜ!(昇り黒竜(法被)と黒銀龍鱗(襷)でビシッとキメて)
俺のどこでもBBQセット🍖も広げるぜ
ポイントゲットの「捌く前のイカ」と「まるごとサメ」を解体するぜ!
初めて解体する魔獣に興味津々
こいつ天使核ねえのに空飛んでたのかよ
フカヒレは姿煮にするぜ!
んー、うめえ!
牛も豚も旨えな!
もろこしには醤油だな
サメは塩焼きが一番だぜ
炭で焼こうぜ!
イカとイカ墨で焼きそば作ろうぜ!
イカと粉まぜて焼いたやつ?
面白ぇ名前だよな(ぱく)
うめえじゃねえか!
キャビア?んな小せえの食った気が…する!(目を輝かせて次々手を伸ばす)
今度こそフカヒレ食ってみるぜ!
すげえ…うめえ…(感動)
苦労した甲斐があったぜ!
●高級食材は大人の味?
「イベント終了?」
「ええ、終了です。間違いなく終了です」
「24時間は他のモンスターもわかない安置だよ!」
今までが今までだったからだろうか。本当に終わったかと、やや訝し気な彩瑠・翼(希望の翼・f22017)の視線に、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちが満面の笑みで返して来る。
「やった! 今度こそここからはBBQってことだね」
「思う存分BBQを楽しみましょう!」
漸く確信出来て笑顔を見せた翼に、ユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)も微笑を浮かべる。
「それではトゲを交換と行きましょうか」
そしてユディトは、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちに視線を向けた。
「道具は俺が持ってるぜ」
「それでもイカとサメしかないですからね」
焼き網や調理器具はリュート・アコルト(竜騎士・f34116)の『どこでもBBQセット』で一通り足りるだろうが、食材がイカとサメの諸々だけでは些か寂しいと言わざるを得ない。
美味しいBBQには、それなりの食材が必要だ。
「まず調味料を……」
「バターとコショウ、あと醤油も欲しいかも!」
「はーい」
どれにしようかと思案するユディトの横から翼がトゲを差し出しながら希望を告げれば、パッとトゲが消えて代わりに希望した調味料が出て来た。
「あとは塩とソースと鳥の卵もお願いします」
「はい、どうぞ」
続けてユディトが希望を告げれば、ソースの瓶と卵、そして何か大きな塊が出て来た。
「これは……?」
「塩だよ? 岩塩」
首を傾げたユディトに、|管理者《ドラゴンプロトコル》の1人がしれっと返して来る。
削れと。
「まあイカノコで削れそうじゃね?」
「それもそうですね」
ちょっと固まりかけてたユディトだが、リュートの一言に気を取り直す。
「あとは追加の食材ですね。何か欲しいのあります?」
「トウモロコシとかジャガイモとかもいいなぁ」
「と言う事ですが」
翼が後ろで告げたリクエストを、ユディトはそのまま|管理者《ドラゴンプロトコル》たちにスルーした。
「1個ずつで良い?」
「トウモロコシとジャガイモ、どうぞ」
とりあえず1つずつ、トウモロコシとジャガイモが、どこからともなくパッと出て来る。
「あとはこのリストにあるものを交換できるよ~」
3人の前に、交換出来る食材の一覧のウインドウが表示される。
「あ。そうだ。イカと混ぜる粉を忘れてました」
ユディトの言っているのは小麦粉の事だろうが、言い方。
「イカとサメの丸ごとねえかな? 解体してえ」
「牛豚鶏な肉もあるといいよね」
翼もリュートもそれぞれに好きな事を言いながら、3人はリストウインドウを覗き込んでスクロールさせていく。
「肉って、これ……?」
「海竜、海牛、海鳥、海羊、海熊に海鹿……海ばかりですね」
やがて見つけた食肉の謎のラインナップに、翼とユディトは思わず顔を見合わせた。
海竜や海鳥は何となくわかるが、それ以外は他の世界でも今までに見た覚えがないものではなかろうか。
「この山、元々こうなの」
「だからイカも前から出現はしてるんです」
「でもおいしいよ?」
2人の困惑に気づいた|管理者《ドラゴンプロトコル》が、謎の肉を勧めて来る。
「こう言ってんだし食ってみようぜ」
「じゃあ一通り貰いましょうか」
「そうだね」
ここで|管理者《ドラゴンプロトコル》が嘘を吐く理由もない。3人はその言葉を素直に信じて、名前に海と付いている全ての肉を一通り交換することにした。
それでもまだ、イカのトゲは残っている。
「キャビアも交換できるんですね。折角だから交換しましょう」
「フカヒレもあるね」
「焼きそばとかねーのかな?」
トゲを残したとて、他のイベントで使える事はおそらくない。他の世界に持ち込んでも、トゲとして以上の効能がある筈もない。
ここは使ってしまおうと、3人はレートの高いレアドロップも交換していく。
「お! あったー!」
リストの最後の方に、他よりもかなり高いレートだが『捌く前のイカ』を見つけたリュートが歓喜の声を上げた。
バサッと音を立てて、リュートの背中で黒が翻る。
「うっしやるぜ!」
黒い法被を羽織り黒地に銀の龍鱗紋様の襷で袖をまとめた姿で、リュートが気勢を上げた。
法被が風にはためけば、その背中に描かれた黒竜が空に昇る様に揺らめいている。
「準備は任せろ!」
「すっげー」
「お祭り度がアップしましたね」
『どこでもBBQセット』を取り出すリュートの衣装に翼とユディトが感心したように頷く。
とは言え、BBQセットのコンロだけでは、火元が充分とは言えないだろう。BBQセットの準備をリュートに任せ、翼とユディトはイベント報酬の焚き火セットを使い、お手軽ワンアクションで火を熾していく。
とは言え、やる事はあまり多くない。
イカとサメのドロップ食材は、適当に切ってから焼くだけだし、何ならそのまま焼いたっていい。
あとで食べる時に切ればいいのだ。
トウモロコシもそのまま網の上に、ジャガイモはアルミホイルにバターと包んで焚火に直に放り込む。
やる事が一番多いのは、リュートだ。
「んーと、こっから切るか?」
やってみたいから、と好奇心で交換した『捌く前のイカ』の解体は、中々の大仕事であった。
何しろ普通のイカならともかく、巨大なイカである。
「こいつ天使核ねえのに空飛んでたのかよ!」
あると思っていたものが無い事に驚き、イカスミに塗れながら、リュートは何とかイカの解体を終えた。
いよいよBBQだ。
ジュウジュウと、網から滴り落ちた脂が炭で焼ける音が鳴り続く。
音と共に立ち昇る香ばしい匂いが、3人の周囲に漂っていた。
「んー、うめえ! 海って付いてても、牛も羊も美味えな!」
「海と付いていても肉は肉だね。鳥も美味しい」
リュートと翼は、謎の海肉シリーズをセルフで焼いて舌鼓を打っていた。
「では海熊いってみましょうか」
ユディトも海肉シリーズの熊を網の上に乗せる。
「管理者さんたちもどうぞ。お疲れ様でしょう」
そして肉を育てながら、ユディトは|管理者《ドラゴンプロトコル》たちをBBQに誘った。
「……あなた達もなの?」
「良いのかなぁ」
「これは予想外だね~」
「一緒に楽しまない? お肉も野菜もおいしいよ」
どうしようかと顔を見合わせる|管理者《ドラゴンプロトコル》たちを、翼も誘う。
「丁度もろこしも焼けたぞ。やっぱり醤油だな」
醤油を塗ってじんわりと網の上で焼き上げたトウモロコシを、リュートが|管理者《ドラゴンプロトコル》たちに見せつける。
「こっちも良い感じですよ」
ユディトが焼き鋏で焚き火の中から取り出したアルミホイルを開けば、溶けたバターが染み染みになったジャガイモの香りがふわりと広がっていく。
ごくり、と3人の喉が鳴った。
「「「じゃあ少しだけ……」」」
醤油やバターが熱せられて発する香りは、|管理者《ドラゴンプロトコル》と言えど抗い難かった。
「ところで、サメのお味はどうですか?」
「サメは……なんか不思議な味? 美味しくないわけじゃないんだけど」
「塩焼きだから、サメ本来の味ってのが出てると思うぜ」
ユディトの問いに、謎肉の後にサメ肉を食べていた翼とリュートが感想を述べる。
塩振って網で焼いただけなので、一番シンプルにサメを味わっていると言える筈だ。肉には劣るが……と言った所か。
「欲を言えば、丸ごとを解体したかったんだけどな」
1つだけ希望が叶わず、リュートは少し残念さを滲ませる。
「ま、いいや。イカとイカ墨で焼きそば作ろうぜ!」
なかったものは仕方ないと、リュートは大きな鉄板を焚火の上に乗せた。バターを溶かして鉄板全体に伸ばしていく。そこに交換食材の小麦麺――所謂、焼きそばの麺――を投入し、オリーブオイルとイカ墨を入れながら麺をほぐし混ぜていく。
麺がほぐれたら、隣で一口大にしたイカを炒め、麺と混ぜ合わせていく。
そして鉄板を挟んだ反対側では、ユディトが何かを入れたボウルの中身を混ぜていた。
「ユディトさんは何を作ってるの?」
「イカと粉まぜて焼いたやつです」
「「イカと粉まぜて焼いたやつ?」」
何かをボウルから鉄板の上に流し入れてるユディトに、訊ねた翼と向かい側で見ていたリュートの声が重なった。
「縁日などで売られているそうですよ」
ユディトの言っているものは、恐らくイカ焼き――それもいわゆる大阪バージョン――だろうけれど、リュートも翼もピンと来ていない様子で、首を傾げている。
誘われた|管理者《ドラゴンプロトコル》たちも無言で首を傾げている。
「本格的なのは機械がいりますが。似たのなら作れそうですね」
そんな5人の視線を集めながら、ユディトは流し入れたその上に卵を割り落とす。
あとは上から鉄の蓋で押し付けて、ぎゅっと平らに焼き上げたら出来上がり。
「ソースが合うそうですよ」
ユディトは鉄板の上で六等分し、ソースを塗ったものをそれぞれの皿に載せる。
リュートの焼きそばも少し前に焼き上がっていて、黒い焼きそばとイカ焼きが皿の上に並んでいた。
「ん……お。うめえじゃねえか、面白ぇ名前の!」
「焼きそばも混ぜて焼いたやつも、どっちも美味しい!」
リュートと翼の皿の上から、焼きそばとイカ焼きがどんどん減っていく。
「それは良かったです」
そう言いながら、ユディトはすぐに料理に手を付けようとはせずに違うものを持っていた。
「何してるの?」
「折角なので、キャビアを合わせてみますかと」
サメからドロップした、キャビア缶である。
缶切りで蓋を開けたユディトは、イカ焼きにキャビアを載せてから一口。
「これは……思った以上に合いますね」
自分でやっておいてだが、予想以上の味にユディトの目が丸くなった。
少しねっとりとした旨味と塩気を持つキャビアは、そのままパンやクラッカーに乗せるだけでも美味しいのだが、しっかり味が付いてる料理と合わせても存在感を失うことはなかった。
「キャビアってこの小せえのか。うめえじゃん!」
リュートも同じものを試して、目を輝かせる。
「んで、こっちもそろそろ良いんじゃねえか?」
リュートが、焼き網と鉄板の間で温めていた鍋の蓋を開ける。
中に入っているのはフカヒレの姿煮だ。
「ようやくフカヒレを食べれるんですね」
「ああ、今度こそだ」
ユディトに頷き、リュートはフカヒレを鍋から取り分ける。
3人で顔を見合わせ頷き合うと、フカヒレを同時に頬張る。
「なるほどこれが……確かに苦労した分美味しく感じますね」
「すげえ……うめえ……苦労した甲斐があったぜ」
ユディトとリュートが、その味にしみじみと呟いた。
「キャビアもフカヒレも、大人な味がする……かも?」
一方で、対照的な反応を見せたのが翼だ。
美味しい、と目を輝かせたりと言う様子ではない。
特にフカヒレに関しては、その感想はある意味正しいとも言えよう。
何しろ、フカヒレ自体に味は殆どないのだから。フカヒレを美味しく食べるには味付け次第。実の所、交換した『フカヒレの姿煮用スープの素』が素晴らしかったと言う事になる。
「オレ、今のところはイカ焼きそばと『イカと粉まぜて焼いたやつ』が一番好きかも」
まだまだお子様かもだけど、と少し恥ずかしそうに付け足す翼。
確かに大人の舌ではない、と言えるかもしれないが、ここで素直な感想を言える正直さも美徳と言えよう。
「いーじゃねえか。好きなもんは好きで」
「そうですよ。どれも美味しいんですから」
そんな翼に、リュートとユディトは微笑みかけて――。
「残りのフカヒレは俺が」
「では俺はキャビアを頂きましょう」
互いの希望が被る事もなく、大人な味を分け合うリュートとユディトであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
千々波・漣音
【漣千】
…やっと終わった(疲労感
戦利品は…イカの切身とゲソと墨袋、フカヒレか
イカやサメのお勧め部位、キノコや米等とトゲを交換
具材を串にさしてくか
オレ様は神格高い上に、料理上手だからなァ!(どや
鉄板も温まった頃か…って!?
直接触ったら…あつッ!?(身代わり
ん、美味そうな匂い!
そうだな、焼けたか味見…ふごっ!?あつッッ!
…十分、よく焼けてるぞ
てか、これって…あーん!?
口の中、ジンジンしてるケドなァ!(不憫だが幸せ
イカスミ飯炊いて、フカヒレの姿煮も作る!
おーフカヒレ美味そう…って、オレのは!?
まァ、ちぃが獲ったのだし…幸せそうに食ってるから、いっか(慣れてる
んじゃ、イカスミ稲荷寿司でも作ってみるかァ
尾白・千歳
【漣千】
わーい、BBQだ〜!
何から焼こうかな〜
イカ?サメ?美味しいなら何でも大歓迎〜!
余ってるトゲは全部食材に変えてくるね
管理者さん、このトゲ全部使っていいから、おすすめのものと交換して〜!
で、BBQってどうやるの?
ふむふむふむ…焼くだけか〜簡単だね!
それじゃどんどん焼いていくね〜
え?鉄板が温まってない?
それは困るから触って…って、あー…(やれやれ
焼けたかな?まだ?
出来てるかな~?
よくわかんないから、さっちゃんに味見してもらえばいいか
どう〜?(口の中に突っ込み
!!??
何これ、めっちゃ美味しい~!(フカヒレ独り占め
あれ?これだけ…?おかわりしたかったのになぁ
ねぇ、さっちゃん
おいなりさんはないの?
●今回も多分何も進展しそうにない2人
「わーい、やっとBBQだ~!」
「……やっと……終わった」
――やっと。
この一言がこんなにニュアンスの違いを生む事も、そうある事ではないだろう。
先のサメ戦でも妖狐変化した尾白・千歳(日日是好日・f28195)が反動の御昼寝の後でお目目ぱっちり色々スッキリしてるのもあり、千々波・漣音(漣明神・f28184)の全身から滲み出ている疲れっぷりがより際立っている。
けれど、漣音はいつまでも疲れていられない。
「何から焼こうかな~」
千歳は早くBBQしたくて、ウズウズしているのだから。
ふわもふの尻尾も待ちきれなさそうに、左右に揺れている。
「取り敢えず、残りのトゲを交換しないとな。戦利品だと、イカとサメの切り身とかゲソとかフカヒレくらいしかねェ」
ぐぐっと背筋を伸ばしながら、漣音が告げる。
イカとサメ焼くだけでも美味しいだろうけれど、他の食材も欲しい所だ。
「そっか。余ってるトゲ、全部食材に変えて来るね」
「ってちょっと待てェ!」
漣音が止める間もなく、千歳は残るトゲ全部抱えて|管理者《ドラゴンプロトコル》たちの所へ駆けて行ってしまう。
「管理者さん、このトゲ全部使っていいから、おすすめのものと交換して~!」
「だから待て待て! ちぃ、全部おすすめにしないで、せめて米をだな!」
だから漣音は慌てて後を追う羽目になる。
「「「……」」」
何やら|管理者《ドラゴンプロトコル》たちから生暖かい視線が漣音に向けられてる気がしないでもない。
――やっぱり敷かれてるなぁ。
とか視線が言ってる気がしないでもない。
「何と交換します? 夏野菜?」
「お米もありますよ」
「あとはね、海牛とか海羊とか海竜とかもお勧め!」
やっぱり気のせいかもしれない。
「さっちゃん、何が良い? 私は美味しいなら何でも大歓迎~!」
「海牛とか海羊ってなんだよ……海竜は共食いになりそうで何かやだな」
千歳と並んで交換品のウインドウを眺めながら、漣音はトゲの数を数えつつ交換する食材を選んでいった。
「で、BBQってどうやるの?」
トゲの交換と道具のレンタルを終えてから、千歳がそんな疑問を口にし出した。
「そこからかよ。まァ、炭焼きみたいなもんだろ」
屈んだ体勢でそこらの石でかまどを組みながら、漣音が返す。
(「適当に切って串焼き……いや、ちぃに串持たせんの危ねェな。焼肉よろしく鉄板で焼くか」)
「焼くだけ? なら簡単だね!」
胸中で色々考えてる漣音の背中に、いつもの調子で根拠のない自信に満ちてる千歳の声が降って来た。
「……焼くだけっても、火加減とか味付けとか色々あるぞ?」
苦笑を隠して、漣音は身を起こして振り向いた。
「まあ、任せろ! オレ様は神格高い上に、料理上手だからなァ!」
ここでフォローに回るどころか任せろと言ってしまうから、漣音は漣音で、2人の関係もこうなのではなかろうか。
ともあれ、他のグループ同様、焚き火セットでサクッと火を熾すと、漣音は焚き火の上に鉄板を置いた。
「それじゃどんどん焼いていくね~」
漣音が脂を引く前に、千歳が早々に食材を並べようとする。
「早ェって。まだ鉄板温まってねェだろ」
「そうかな?」
漣音の指摘に、千歳は何故か鉄板に向けて手を伸ばした。
――何故、触って確かめようと言う発想になったのか。
「って、直接触ったら……!」
気づいた漣音が、慌てて手を伸ばす。千歳の手は漣音の腕に遮られたが、勢い余った漣音の掌が鉄板に触れた。
ところでここはゲーム世界である。
焚き火だってアイテムを使えば一瞬で燃え上がる、なんて事が起こり得る世界だ。
鉄板が温まるのが早くても、おかしくはない。
「あづッッ!?」
「あー……」
思っていた以上の熱さを掌に感じて飛び上がる漣音に、やれやれ、と言った様子で千歳が頭を振る。
「「「どうしてこうなるの……」」」
そんな2人を、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちが宇宙に放り出されたような目で見守っていた。
まあそんなトラブルもあったりしたが、その後は大したトラブルもなく2人のBBQが始まった。
鉄板の上で、イカやサメの切り身、交換した野菜や謎の海獣の肉がジュゥジュゥと音を立てている。
鉄板の横では、イカスミご飯を炊いてる土鍋と、もうひとつ別の鍋も火にかけられていた。
「美味そうな匂いがして来たな!」
湯気と共に昇って来る香りに、漣音の口元にも笑みが浮かんだ。
「そろそろ焼けてるかな? まだ?」
ソワソワした様子で、千歳も湯気を浴びながら鉄板を覗き込む。
「十分、よく焼けてるんじゃないか?」
「そっかなー?」
イカの身もサメの身も白く色づいている。水分も抜けきってそうではある。
けれど千歳は確信が持てない様子で、菜箸を取った。
「よくわかんないから、さっちゃんに味見してもらえばいいか」
「そうだな、焼けたか味見……ってカタマリかよ!」
端っこ少しだけとかではなく、イカの切り身が丸ごとひとつ、千歳の手で漣音の方に差し出される。
(「てか、これって……あーんってやつじゃねェか!?」)
まあ、そうと言えばそうかもしれない。
胸中で浮かれる漣音だったが――浮かれてる場合じゃなかった。あーんなんて、そんな易しいもんじゃなかった。
「さっちゃん。口空けて」
冷ましてもないイカを、問答無用で口に突っ込まれたのだから。
「ふごっ!? あふッッ!」
まだ表面でバターがジュウジュウと鳴っているくらいにイカを突っ込まれたら、そりゃ熱いに決まっている。
しかもイカだ。モッチモチの歯応えだ。流石に噛まないと、飲み込めやしない。
「どう~? 出来てるかな~?」
口内の熱さに耐えてイカをもぐもぐしてる漣音に、無邪気に訊いてくる千歳の視線が突き刺さる。
「焼けてるぞ! 口の中、ジンジンしてるケドなァ!」
ヒリつく舌を我慢して答えた漣音は、横の2つの鍋にも視線を向ける。
「あとイカスミ飯もそろそろ炊けてるだろうし、フカヒレの姿煮も良いんじゃねェか」
鉄板の横で火にかけていた2つの鍋。その片方を漣音が開けば、ふわりと湯気が立ち昇り、黒くツヤのある炊き上がりのご飯が現れる。もうひとつの鍋の中には、トロっとした餡を纏ったフカヒレがいた。
「イカスミ飯もフカヒレ美味そうだぞ」
「どれどれ?」
漣音がイカスミご飯を混ぜる間に、千歳がフカヒレの姿煮を鍋から上げて大皿によそう。
その皿は、そのまま千歳の前に収まった。
「!!??」
一口頬張った瞬間、千歳の目が大きく見開かれる。
「って、オレのは!?」
あまりにも自然な流れの独り占めに、漣音の反応が遅れた。
「何これ、めっちゃ美味しい~!」
(「まァ、ちぃが獲ったのだし……幸せそうに食ってるから、いっか」)
尾と両足をパタパタして悶える千歳の様子に、漣音はフカヒレを諦める。だから(略)
けれどフカヒレ自体は、味があるわけでもなく、肉の様なボリュームもない。
「あれ? これだけ……? おかわりしたかったのになぁ」
あっさりとフカヒレを食べ終えて、千歳は少し残念そうだ。
「ねぇ、さっちゃん。おいなりさんはないの?」
「んじゃ、イカスミ稲荷寿司でも作ってみるかァ」
そんな千歳に求められるままに、漣音はいつもと違う稲荷寿司を作るのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
明石・鷲穂
【壁】
二日酔いになっても大丈夫。おれの大好きな言葉だ。
トゲの交換は栴がうまくやってくれると思う。おれはもういくら残ってたかもわからん。
さて、交渉だ。キャビア食ってみたい。な?トゲが足りないなら、おれの……刺身に合いそうな地酒で……頼む……。
さて、飯だ!
――閃いた。鮫でヒレ酒だ。多分美味い。
そして鮫と言えばルシル。おれが飲む前に見てもらおう。ルシル~!このサメ炙って食えるやつか?
酒飲めるのはギガ、ステラ、ルイーグ、こと、栴だな。舐めてみるか?美味いかはわからん。
酒苦手なやつは炙ったのやろうな。ツマミになるかもしれん。
ジョゼと芽衣はもうちょい、ノアールとルイルはまだ先だな。そんな成長期たちは肉を食え……(大量に盛り付け)(酔ってる)もりもり食べるんだぞ。
武勇伝……そうだな、ここに至るまではまずたくさんのイカが必要だった……
桜田・鳥獣戯画
【壁】大体下の名前で呼ぶ!
あれっ夏の終わりのレイドボスは!?もう材料!?
管理者諸氏、仲間が世話になった!お前さん方の席はこちらだ!!
栴や鷲穂、ステラ達が調理をしてくれているのを実況したり
ジョゼやルイル、ノアールやルイーグ達とBBQやテーブルの準備をしたり
手が空いてる者と腕相撲をしたりする!
コト(九十)にメイメイ(芽衣)、いつでも来い!!
私は焼きバナナが好きだ!!
それでは者共、ジュースと酒を持てぃ!
此度は栴と鷲穂が狩りに狩った海産物、壁一同ご相伴に預かった!!
皆、感謝として二人のコップを空けてはならんぞ!!
特に栴は今年解禁だ、皆大いに礼を述べようではないか!
では美味しく頂こう!夏に乾杯!!
ジョゼ・ビノシュ
【壁】
呼び方:鳥獣戯画→ギガさん
ノアール、芽依→ノアールちゃん、メイメイちゃん
あとはさん付け
サメ!?地上の食べ物はさすがに慣れてきたけど、海産物は珍しい、楽しみ!栄養ペーストしかないけど調味料ほしいな!
とりあえず…すごい量のお肉、と野菜、サメを焼きましょう。餃子も焼く場所作らないとね。料理人はいくらいても困らないわよー。
サメ、割とあっさりめかしら?(生浦さんの話聞きながらいろんな味食べ比べ)ルイーグさん、スパイスこっちにもあるわ!
私もヒレ酒飲みたい!でもあと3ヶ月待たなきゃ……えっ半年ももつの!?ちょっと持って帰らせて!
今日のことは3ヶ月後の肴にするってことで、今はジュースで…かんぱーい!
末代之光・九十
【壁】
BBQと聞いて来たよー!
そしてイカとサメって聞いたから合いそうな貝類持って来たんだけど速攻で肉来てる!!
餃子もあるの!?
まあ良いか!
(ハマグリだのホタテだのをどかっと)
浜焼き的に焼けば良いよー
ちなみに普通に店で買ったよ。僕|海《ガコ》は苦手だからねー
焼くのは僕も出来るから。疲れたら交代するけど……意気軒高だなあ。
腕相撲は他の人となさい!だって僕の腕がコキャってなる未来しか見えない!
所で。
何人か揃って同じ形の浮かれたサングラスしてない?
何処で売ってたの?ウニクロ?
あ。後さ。栴と鷲穂。この烏賊鮫(融合した見たいな物言い)は君達が狩ったんでしょ?
じゃあ!武勇伝だ武勇伝を語ってよ!
僕聞きたいな!
ステラ・エヴァンズ
【壁】
皆さんでBBQと聞いて馳せ参じましたが料理人は足りてますか!?
あ、足りてる?…まぁ、折角なので
夏らしく海鮮焼きそばと鉄板で作るデザートをば!
デザートの食材は持ち込みで
パンケーキに焼きバナナを乗せ、ホイップクリームとチョコソースをたんとかけましょうか
他の皆さんが作られたお料理もつまみつつ、味のお勉強もしておきましょう
自分でも作ってみたいので
…ああ、やはり出来立てのお料理は美味しいですねぇ
それに和気藹々してるのを見ると大変可愛らしく微笑ましいです
私はジュースで乾杯を
お酒も飲めはしますが…あまり得手ではありませんので
あ、でも少し…舐める程度でしたら、ええ
呼び方
鳥獣戯画→団長さん
他→名字+さん
ルイーグ・ソイル
【壁】
呼び方:鳥獣戯画→団長様
他メンバー:名前+さん
BBQ!みんなで食べれば怖くないと聞くっすが、良く焼いて食べるのが鉄則とも聞いてるっす!
定番は肉っすが、イカとかサメ!?がおすすめっすか?
持ち込みスパイスがオッケーなら是非ともピリ辛でいただいてみたいっすね~!
壁のみんなはジュース派が多いようなので、さっぱりジンジャーエールで乾杯させてもらうっす、いえーい!
野菜もしっかり一緒にいただくっす、お勧めは肉厚しいたけと何味でも合う立派なズッキーニっす~!カボチャは焦げないように気を付けるっす!
肉には玉ねぎの輪切りがお勧めっす!豪快に焼いて食べて飲んで夏の思い出にしましょうっす~!
生浦・栴
【壁】
調合した薬で山羊ののケアをしつつ
トゲは強化に振ったからなあ
集った壁面子が持参した物との交換も可能だろうか
白黒のと古のはその量をよく持参できたな?
星のの料理スキルはいつでも有難い
鮫や烏賊はステーキも良いと聞く
各自に焼いて貰おう
処理すれば刺身でも美味いらしい
酒ツマは軟骨を千切りにして梅肉和え
あとはシンプルに茹でて酢味噌等で
キャビアはブルスケッタにでも
熱烈に押されたイカ墨での炒物は黄金のに任せる
オパールの、鰭は乾燥品は半年程保つそうだ
早めに確保すると良いぞ
ソイルのやミーツァのはマメよな
イカキマイラは実演した方が分かり易いのではと囁きつつ
団長、今更だが乾杯の音頭を頼んでも?
長ければ適度に突つこう
皐・芽衣
【壁】
狩りは順調だったようじゃな。お疲れ様じゃよ!
この桃も交換できんか?
管理者3人分には充分なはずじゃ。
栴、炒め物ならやるぞ。超級には及ばんが、自信がある。
ノアール、肉を焼くなら場所を作るぞ。今、油を敷く!
イカの一部は、キノコと一緒に細切りにして餃子にするか。
皮は持ってきておる。
ルイルが火を見ててくれるなら、安心して複数作れるのぅ。
ステラのデザートも楽しみじゃ。
あっ、ギガ!わしも後で腕相撲したい!
似合うじゃろ九十、限定フェアで買ったんじゃ!
そうじゃな鷲穂、ひれ酒は来年、教えてくれるんじゃろ?
ジョゼも、3ヶ月後の感想を楽しみにしておるよ。
ルイーグ、それは何の酒じゃ?ジュース!わしもそれにする!
ルイル・ミーツァ
【壁】
呼び方:
鳥獣戯画→ギガ
九十→コト
芽衣→メイメイ
他のみんなは名前を呼び捨てるのだ!
狩りの収穫を分けてもらいに来たのだ!
ルイルはスイカを持ってきたのだ
抱えてくるの大変だったのだー
BBQはよく焼いて食べるのだ、おなか痛い痛いは困るのだ
でも焼きすぎると固くなっちゃうのだ、難しいところなーのだー
調理はルイル、あまり上手じゃないからBBQのお手伝いするのだ
火の様子を見たり鉄板に食材乗せたり焼きすぎ注意なのだ!
マメなのだ?豆は美味しいのだ!
乾杯なのだ?
ルイルもルイーグとお揃いでジンジャーエールにするのだ!
かんぱーい、なのだ!
鮫ヒレもぐもぐするのだ
不思議な味なのだ
料理はどんどん食べるのだ
美味しいのだ!
ノアール・ブランシュ
【壁】
呼び方:
鳥獣戯画→だんちょ
ルイル→ウサちゃん
他メンバー→名前呼び捨て
バーベキューすると聞いてあーしも駆け付けた!
バーベキューなら肉っしょ!
海鮮バーベキューを否定するワケじゃないんだけどー、肉が無きゃはじまらない的な☆
それはもう山のように持ってきたぜ
用意しやすい鶏と豚と牛だけなのはご愛嬌ー♪
ん、交換とかあンの?肉も足しになんない?
おお、肉焼き場が作られた、ありっと!
これはガンガン焼くしかないねー
サメってステーキもイケるの?じゃあ焼こう、バーベキューは最高なんやし!
お酒についてはむふふと見守って(あーし、決まりはちゃんと守るタイプだから!)
オレンジジュースで乾杯
よ、だんちょ!イケてる!美形!
●宴に集いし者達
明石・鷲穂(真朱の薄・f02320)の手には、あまりおいしそうに見えない液体の入ったフラスコが握られている。
「苦いか、これ」
「良いから飲め」
その色に逡巡していた鷲穂だが、生浦・栴(calling・f00276)に促され一気に煽った。
「どうだ、山羊の」
「おう。相変わらず良く効くな。一気に楽になったぞ」
恙み宿しでサメを取り込んだ反動の毒。
鷲穂の中に渦巻いていたそれは、栴の調合した毒でほぼ中和されていた。
「相変わらず不味いけど」
「味は二の次だ。贅沢を言うでない」
どうやら良薬は口に苦しを地で行っていた薬らしい。まあ、仮にもオブリビオンを取り込んだ反動なのだ。それを中和するのに、生半可な薬で良い筈もない。
「あれっ!?」
そこに、素っ頓狂な声が響く。
「来たか」
「おー、待ってたぞ!」
「夏の終わりのレイドボスは!? もう材料!? 解体まで済んでいるのか!?」
聞こえた声に栴と鷲穂が視線を向ければ、もうそんな段階なのかと驚く桜田・鳥獣戯画(デスメンタル・f09037)の姿があった。
「さすがの手際だな!」
「解体まで済んだっつーか、要らなかったっつーか」
「イカもサメも、倒せばこうなったのだ。信じ難いかもしれぬがな」
驚愕一転、鳥獣戯画の口から出て来た賛辞に、鷲穂と栴が苦笑交じりに解体済みのイカとサメの切り身を示した。
倒したらこうなったと言っても、その瞬間を見ていなければ中々信じ難いだろう。
「要は狩りは順調だったようじゃな。お疲れ様じゃよ!」
けれど鳥獣戯画の後に続いていた皐・芽衣(金色一角のメイメイ・f35724)は、特に訝しむでもなくでもなく、そう言う事もあるだろうとあっさりと飲み込んだようだ。
「そんな狩りの収穫を分けて貰いに来たのだ!」
ルイル・ミーツァ(内緒のアリスナイト・f31419)も同じく、訝しむどころか悪びれもせずに笑顔で相伴に預かりに来たと言い放つ。
「BBQと聞いて来たよー!」
「皆さんでBBQと聞いて馳せ参じました」
「バーベキューすると聞いてあーしも駆け付けた!」
「豪快に焼いて食べて飲んで、夏の思い出にしましょうっす~!」
末代之光・九十(|何時かまた出会う物語《ぺてん》・f27635)と、ステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)、ノアール・ブランシュ(ロゼといっしょ・f43525)にルイーグ・ソイル(寒がり人狼グールドライバー・f14784)も、特に気にしている様子はない。
この順応性、さすが壁の面々と言った所である。
「この肉なに? そっちはイカだし、これも魚?」
唯一ジョゼ・ビノシュ(アイシイ・アンリアル・f06140)は不思議そうにしているが、それは解体済みという結果に対するものではなく、単に何の肉か分からないから、と言う所によるようだ。
「サメだ!」
「サメ!?」
鷲穂の答えに、ジョゼは大いに驚いた。
色こそ赤くないが確かに厚みが凄いので、一見すると魚の身に見えないかもしれない。
「今回はイカとサメがおすすめっすか?」
「お勧めも何も、他にいなかったからな。サメはまだしもイカの数凄かったぞ」
ルイーグに苦笑を返す鷲穂。
「サメかぁ。地上の食べ物はさすがに慣れてきたけど、海産物は珍しい。楽しみ!」
ジョゼの中の驚きが薄れ、興味の方が強くなって来たのが表情に現れる。
「楽しみなのは良いが……この人数、足りるか?」
対照的に、栴の眉間が寄っていた。
「トゲは強化に振ってしまったからな。使い切ってはおらぬが」
戦果は2人分に対し、一気に10人である。特にイカは大量に湧いていたので大量に倒しはしたが、それでも5倍だ。イカとサメだけで食材が足りるだろうか、という疑念は栴でなくとも抱くだろう。
「まあ足りなけりゃ交換すりゃいいって。おれはもういくら残ってたかもわからんが、計算は栴がうまくやってくれるだろ?」
そんな疑念を、鷲穂がカラカラと笑い飛ばす。
「大丈夫じゃね? お肉持ってきたから」
栴に告げながら、ノアールが背負っていたクーラーボックスを降ろす。
蓋を開ければ、そのどれにもみっちりと肉がいっぱいに詰め込まれていた。
「めちゃめちゃ肉持って来てる!!」
「山の様に持って来たぜ」
その量に驚いた声を上げる九十に、ノアールは少し照れ臭そうに返す。
「海鮮は海鮮で美味しいと思うよ? 海鮮を否定するワケじゃないんだけどー、肉が無きゃはじまらない的な☆。ま、鶏と豚と牛だけなのはご愛嬌ー♪」
サメに比べたら普通だと、笑って告げるノアール。
「僕も普通に店で買ってきてるよ」
九十も持参したクーラーボックスを降ろして蓋を開いた。
中には、ハマグリやホタテやバイと言った食用の貝がこちらもみっちり詰まっていた。
「イカとサメって聞いてたから合いそうな貝類をね。僕|海《ガコ》は苦手だからねー」
笑って告げるノアール。
「ルイルはスイカを持ってきたのだ。抱えてくるの大変だったのだー」
ルイルが持参してきたのは、確かにかなり大きなスイカだ。黙ってじっと動かずにいればうさぎのぬいぐるみかの様に見えようルイルの体格であれば、この大きさを運んでくるのは確かに大変だっただろう。
「スイカは冷やしておくとして、白黒のと古のは、よくその量を持参できたな?」
ルイルのスイカを|保冷庫《Saved area》に放り込んでから、栴は感心したようにノアールと九十のクーラーボックスに視線を向ける。
「――見事に野菜がないが」
「うん……すごい量のお肉。私、栄養ペーストしかもってない」
栴が続けた言葉に、頷くジョゼ。
分類上の話をすれば、スイカは野菜に分類されるのだがそう言う問題ではない。
「いやいや、バーベキューなら肉っしょ!」
「BBQの定番は肉っすね」
開き直ったノアールに、ルイーグが同意を示す。
「スパイスなら持ってきてるっすよ!」
食材はないけれど、とルイーグも荷物の中から粉末が入った小瓶を幾つか取り出す。
「イカもサメもピリ辛でいただいてみたいっすね~!」
主に赤い色の粉末が多いのだが、どうやらそう言う事のようだ。
「野菜と調味料、あと飲み物と主食もいるな……」
栴は少し難しい顔で、|管理者《ドラゴンプロトコル》に向き直る。
「残りのトゲも限られている故、先ずリストを見せてくれぬか? あとまけてくれぬか」
「おれからも頼む!」
交渉に入った栴の横で、鷲穂も|管理者《ドラゴンプロトコル》たちを拝むように両手を合わせた。
「トゲが足りないなら、おれの……刺身に合いそうな地酒で……頼む……」
「そ、そんなつらそうな顔しないでください! もうイベント報酬で限界までレート下げてますから足りる筈です!」
搾り出すような鷲穂の声に、|管理者《ドラゴンプロトコル》が慌てて返す。
「地酒じゃ交換できないしね~」
「む? この桃も交換できんか?」
もう一人の|管理者《ドラゴンプロトコル》の困ったような反応に、芽衣が返した。
「だめかの? 管理者3人分には充分なはずじゃ」
実は持ってきていた桃を見せながら、交換はできないかと続ける芽衣。
「そう言うのは普通のアイテム交換になってしまうので、イベント品を出せないのよ」
「報酬アイテムの管理はしているけど、私達のものではないので……」
「それに、トゲの方がレートお得だよ♪」
と言う事らしい。
この手のゲームにある、アイテムの所有権限周りの判定が影響しているのだろうか。
いずれにせよ、そう言う事であれば仕方がない。
「左様か。では任せるぞ。ああ、キノコは欲しいぞ」
「調味料ほしいな!」
「キャビア食ってみたい。頼むぞ」
「……やれやれ」
芽衣にジョゼに鷲穂から、任せた、と視線を向けられ、栴は苦笑交じりに肩を竦めるしかなかった。
●出るってしてなかったから出す予定なかったのですが
「塩、醤油、ソース、バター。これで良いか?」
「わしは良いぞ」
「サメ専用スパイスとかあったら欲しいとこっす」
「調味料は良いとして、ライスかパンか……焼きそば用の麺とかありますか?」
「何か珍しい肉あったり……するね。海熊ってなに!?」
「もういいようだね。それでは私は――」
「ちょっと待った!」
栴を筆頭に|管理者《ドラゴンプロトコル》との交換を進める壁の面々の様子を見て、これで全員だろうとその場から去ろうとしていたルシルを鷲穂が呼び止めた。
「何だい?」
「おれが酔っぱらう前に見て貰おうと思ってな。鮫と言えばルシルだ」
酔っぱらう前提も程々に、というツッコミをスルーして、鷲穂は続ける。
「このサメ炙って食えるやつか?」
「食えるよ」
ドロップ品の切り身とフカヒレを手にした鷲穂の問いに、ルシルは迷わず返した。
「毒のある魚とか、体内に消化の悪い脂を持つ魚とか、調理が注意が必要な魚類なら幾つか思いつくのがいる。けれど煮ても焼いても食えぬ魚なんて、私の知る限り存在しないかな」
断言したよ、このサメエルフ。
「大抵の世界のサメは、処理しないと身が独特の臭みを持ってしまうものだけどね。今回のサメの身は、倒した直後には切り身になってるものだから心配ないだろうさ」
「サメは処理すれば刺身でも美味いらしいな」
「刺身も行けると思うよ」
横で聞いていた栴の言葉にも頷くサメエルフ。
「そうか! 食えるか!」
その答えに、鷲穂は満足げに頷いていた。
●炎で始まるバーベキュー
トゲと食材の交換も終わり、いよいよBBQの始まりだ。
「さて、飯だ!」
片手に焼き網、片手にフカヒレを持ち鷲穂が意気込む。
ところで足元の酒瓶、もう開いてない?
「料理は任せた。実況は任せろ!」
鳥獣戯画に何故か拡声器を持っていた。調理器具ですらない。
「実況ですか? ……料理に?」
「うむ、例えばこんな感じだ」
首を傾げたステラにひとつ頷いて、鳥獣戯画は深く息を吸い込む。
『いよいよ始まったウォールズ・バーベキュー! 早くも火の手が上がっているぞー!』
そして、拡声器使って一気に捲し立てた。
「自動焼き肉製造機はどうした」
「折角のBBQだぞ。あれでは風情がないだろう!」
栴の指摘に、鳥獣戯画は迷う事無く言い返す。
まあそうかもしれない。
そして実際、鳥獣戯画の後ろでは確かに炎が上がっていたので、実況になってはいるのだ。
火の手――と言うか焚き火なのだが。
「ルイル、調理はあまり上手じゃないからBBQのお手伝いするのだ」
焚き火の向こうでは、ルイルの耳がピコピコ動いている。
「焚き火が必要なら言って欲しいのだ。焚き火セットが、便利なのだ」
他のグループ同様、【壁】の面々もイベント報酬の焚き火セットを得ていた。これを使えば、『焚き火セットを使いますか』と言うメッセージウインドウが表示され、ウインドウ操作だけで焚き火を熾す事が出来る。ルイルの体格でも簡単だ。
「ルイル。こっちにも火を頼むのじゃ」
「わかったのだ」
芽衣に呼ばれて、ルイルが新たに焚き火を熾す。
『早い、早いぞ! 何と早い着火!』
「あの……料理人、足りてますか?」
新たな炎が燃え上がり、実況の声が響く中、ステラが少し心配そうに声を上げた。
まあ、さもありなんと言ったところだ。
「ノアール、肉を焼く場所を作るぞ。温まったら、油を引くからの!」
「肉焼き場、ありっと!」
今の所、BBQが始まりそうなのは焚き火の上に鉄板を準備してる芽衣とノアールくらいなのだから。
『この香ばしく良い匂いは一体なんだー!? って、フカヒレに見えるのだが?』
「おう、フカヒレだ。サメでヒレ酒だぞ。ギガも飲むか?」
「酒のツマミでも作ってみるか」
宣言通りに実況に回っている鳥獣戯画と、いきなりツマミですらなく酒の準備にかかってる鷲穂。それを見て酒のツマミを作り始めてる栴などの様子を見れば、不安にもなろう。
「足りてるかなど気にせずに、作ると良い。星のの料理スキルはいつでも有難い故な」
「そうそう。料理人はいくらいても困らないわよー」
「では、折角なので」
栴とジョゼに誘われるまま、ステラも調理勢に加わる事になった。
まあ元々、ステラは調理の手が足りないのなら手伝うつもりでいたのだけれど。
充分に温まった鉄板から、薄い湯気が昇り出す。
「こんなに大きい鉄板なら、ガンガン焼くしかないねー」
自分の背丈よりも大きな鉄板に、ノアールはウキウキでクーラーボックスの中から出した鶏、豚、牛肉をそれぞれ数枚ずつ、切り身のまま並べていく。まずは肉汁を逃さずに焼く。切り分けるのは後で良い。
「肉に合わせるのは玉ねぎの輪切りがお勧めっす! 肉も柔らかくなるっす!」
その間に、ルイーグが玉ねぎを並べていく。
玉ねぎに含まれる酵素が持つ、肉を柔らかくする効果は熱で弱まりはするが、単純に肉にも魚にも合う野菜である。
そして、それだけ並べてもアウトドア用の鉄板の上は、まだまだスペースに余裕があった。
「サメってステーキもイケるの?」
肉を炎で育てながら、ノアールは横目にサメの切り身を見る。
ジョゼがすぐに魚類とわからなかったくらい厚みもあるし、綺麗な白身だ。そのまま焼いても美味しそうだが――。
「さっき聞いたが、大丈夫そうだぞ。刺身も行けるくらいだって」
「鮫や烏賊はステーキも良いと聞くぞ」
先刻聞いた話や何処かで聞いた話が、鷲穂と栴から飛んできた。
「じゃあ焼こう! バーベキューは最高なんやし。何とかなる!」
『肉の世界にサメ投入! 陸と海が今、混ざり合う――!』
それを聞いて、ノアールはサメ肉もイカの身も、他の肉と一緒に鉄板に乗せて行く。
「他の野菜も焼く?」
「野菜の方が焦げやすいので、別に焼くっす。こっちにも焚き火お願いっす」
「今行くのだ!」
まだ空いているスペースを野菜に使うかと訊ねるノアールに首を振って、ルイーグは新たな焚き火をとルイルを呼んだ。
「それじゃこれも一緒に!」
ならばと肉を焼いてる鉄板の空いてるところに、九十が貝類をどかっと追加した。
『何とも豪快な――いやカオスな鉄板だ!』
「浜焼き的になるでしょ」
肉もサメも貝も――ごった煮ならぬごった焼きな鉄板に入った鳥獣戯画の実況に、九十が笑顔で返した。
これも『焚き火セット』の効果なのか。
ルイルが熾した焚き火の炎は風が吹いても揺れるだけで、その勢いが衰えることはなかった。逆に、勢いが強まる事もないのだけれど。着火時に選んだ火力のまま、燃え続けている。
「でも油断できないのだ」
だからこそ、火付けが一段落しても、ルイルは焚き火の周りを離れようとはしなかった。
尻尾はピンと伸び、耳が前を向いている。
簡単に炎を熾せると言う事は、逆も在り得る。『焚き火セット』に効果時間が設定されていれば、ふっと消えるかもしれない。
「お肉は良く焼いて食べると良いらしいのだ」
だからルイルは消えたら、また直ぐに火を付けられるよう、焚き火の周りから離れずにいようとしていた。
「生焼けでおなか痛い痛いは困るのだ」
「みんなで食べれば怖くないと聞くっすが、良く焼いて食べるのが鉄則とも聞いてるっす!」
ルイルの懸念に、野菜を焼きながらルイーグが頷く。
「でも焼きすぎると固くなっちゃうのだ、焼き過ぎ注意なのだ! 難しいところなーのだー」
「野菜もそれぞれ焦げ易さが違うし、気を付けたいっすね!」
焚き火をジィッと見ているルイルの言葉に、ルイーグも野菜を焼いて育てながら頷く。
「ソイルのとミーツァのはマメよな」
鍋に水を入れてる栴が、横からそんな事を言ってきた。
「マメなのだ? 豆は美味しいのだ!」
「そう言う意味では……とりあえず、焚き火を貰えるか?」
なんと言うかある意味素直にルイルに受け取られ、栴もツッコむ言葉が見つからなかった。
●鉄板か鍋があれば出来る料理は大体BBQ適正高い説
カオスと称されたごった焼きな鉄板が目立っているが、堅実そうな調理が続いている鉄板もある。
使っているのは、ステラだ。
まずイカとサメの切り身を一口大に刻んでおいて、続けて野菜も適当な大きさに切り分ける。
具材の準備が出来たら、鉄板に油を引いて。
鉄板が温まったら、まずはイカから炒めていく。火が通ったら鉄板の隅に避けておく。サメも同じく単独で炒め、鉄板の隅へ。
『イカとサメが待機中だな』
「こうすると、火が通り過ぎないし冷めずに置いておけますから」
『成程!』
実況の皮を被った鳥獣戯画の素朴な疑問に、ステラは野菜を投入しながら返す。
燃料要らずの魔法のフライパンをステラが使っていないのは、鉄板ならこういう事も出来るから。まあ、単純に量的に10人前となると鉄板の方が早いと言うのもあるのだが。
野菜に火が通ってしんなりしてきた所でイカとサメを混ぜていき、ステラはそこに交換した麺を投入。
イカスミを混ぜたソースをかけて、具材と麺を混ぜ合わせながら焼いていく。
「こ、これは――焼きそば!」
「海鮮焼きそば。夏らしいかと思いまして」
思い出したように実況に戻った鳥獣戯画に、ステラはいつになく真剣な顔で返す。
「ただ――皆さんに、と思って用意したのですが。この量を混ぜるのは、大変ですね!」
10人前を一気に炒めようと言うのだ。具材を個別に炒めていた頃ならまだしも、今となってはかなりの重量。
「疲れたら交代するよ。炒めるだけなら、僕も出来るから」
「炒め物ならわしもやるぞ。超級には及ばんが、自信がある」
ステラの疲労を見て取った九十と芽衣が助っ人に入ってきた。
『ここで助っ人だー! 鉄板の両側で同時に炒める焼きそばツープラトン!!』
鳥獣戯画の実況にも熱が入る中、無事に海鮮焼きそば10人前が出来上がった。
「おかえりなさい。メイメイちゃん、餃子のスペース空けといたわよ」
ごった焼きの鉄板に戻って来た芽衣を、ジョゼが出迎える。
「おお、それは助かるのぅ」
「え? 餃子もあるの!?」
頷く芽衣に、九十が不思議そうに首を傾げる。
「うむ。実は細切れにしたイカとキノコで種はすでに作ってあるのじゃ。皮も持ってきておるぞ?」
「いつの間に……」
しれっと返して来た芽衣によってあとは焼くだけになってる餃子に、九十が軽く言葉を失いかける。
「まあ良いか!」
この面子の集まりで細かいことを気にしても仕方ないと、九十はあっさりと受け入れる事にした。餃子も美味しそうだし。
「餃子か。焼きだけで良いのか?」
そこに、隣の焚き火から栴が声をかけて来る。
「鍋を使うなら、丁度空くところだが」
そう言いながら栴が大きな鍋から取り出したのは――骨だった。
サメの骨である。
「サメの骨を茹でた後の湯か……使わせて貰うのじゃ!」
それはそれで美味しくなりそうだし、お湯を沸かす時間が短縮できる。
芽衣に断る理由はなかった。
栴が湯掻いていたサメの骨だが、所謂、背骨に当たるモノではある。だが、サメの骨は全て軟骨。魚の骨に比べたらずっと軟らかい。
あとは軟骨の水気を切って、細かく刻んでいけば良い。
その半分ほどを種を取った梅干しを入れて、混ぜ合わせる。もう半分はそのまま、酢味噌をつけてシンプルに。
「キャビアはブルスケッタにでもするか」
もう1品を作ろうと、栴はスライスしたバゲットを網の上で炙り始めた。
●暇だから、腕相撲やろうぜ
「……意気軒高だなあ」
特に交代の必要がありそうな工程が無くなり、九十が手持無沙汰になっていた。
「暇になってしまったな」
実況しつつ椅子を並べたりと準備も手伝っていた鳥獣戯画も、ここにきて手持無沙汰になっていた。あとは餃子の焼き上がりを待つくらいで、実況する事も特にない。
「よし。腕相撲するか、コト!」
「何で!?」
唐突な鳥獣戯画の提案に、九十の口から驚きの声が上がった。
BBQの最中の腕相撲となれば、九十の反応も無理もない。
「お? またやるか――と言いたいとこだが、今回は流石に腕が疲れてんだよなぁ」
鷲穂が笑いながら、ひらひらと両手を振ってみせた。
実際、|特効武器《イカノコ》を一振りずつ振り回した両腕には、あまり覚えのない疲れが残っていた。
「そうか。ならば仕方がない。他に誰かやらぬか?」
「ギガ! わしも後で腕相撲したい!」
|腕相撲の相手《巻き添え》を募る鳥獣戯画に、芽衣が手を挙げた。
今はまだ、餃子を焼くのに忙しくて手が空かないけれど、と。
「メイメイ、手が空いたらいつでも来い!! コト、先にやろう!」
「やらない! 腕相撲は他の人となさい!」
結局飛んできた腕相撲の白羽の矢を、九十は迷わずへし折った。
鳥獣戯画が唐突な何かを言い出すのは別に珍しい事ではないだろう。その内容が力比べの類となれば、芽衣が乗っかるのもわかる。
だが――九十はそう言うタイプではない。
「だって僕の腕がコキャってなる未来しか見えない!!」
國を無くした小神だからというのではなく、そう言う物理タイプではないって話だ。
BBQで腕コキャなんて、ご免である。
「ところでさ」
だから九十は腕相撲の話をそらそうと、別の話題をあげることにした。
丁度良い事に、聞きたい事もあったのだ。
「ずっと気になってたんだけど、何人か揃って同じ形の浮かれたサングラスしてない?」
そうなのだ。
夏のイベントだからなのか、同じ形状のサングラスをしているメンバーが何人かいるのだ。フレームとレンズの色こそ違うが、全て同じ星型のデザインである。確かに浮かれてる感が強いデザインだ。
「似合うじゃろ」
そのひとり、芽衣が額の上にあげていたサングラスをかけ直す。
「何処で売ってたの? ウニクロ?」
「限定フェアで買ったんじゃ!」
入手先を訊ねる九十に、得意げに返す芽衣。
「のう。お主らも?」
――と、芽衣に促されれば、鳥獣戯画と鷲穂と栴が無言で星型サングラスをスチャッとかけた。
一気に浮かれてる感が増したのは、言うまでもない。
●杯を掲げて
なんてやっている間に、料理が出来上がっていた。
山盛りの海鮮焼きそばに、ごった焼きしたイカにサメにチキン、ポーク、ビーフと各種のほぼステーキ。
ホタテやハマグリは、パカっと開いたところにバターを入れて醤油をひと挿し。
あとはイカと椎茸の焼き餃子と水餃子。
「野菜もあるっす」
これだけだと肉祭りになってしまいそうな様相だが、ルイーグは玉ねぎ以外の野菜もちゃんと用意していた。
「お勧めは肉厚しいたけと、立派なズッキーニっす~! カボチャは焦げないように気を付けたっす!」
割と雑に焼いても何とかなる、BBQ向けの野菜達だが、ルイーグは焦がさないように丁寧に焼き上げてみせた。
「ピリ辛は苦手な人もいるかもと思ったから、ソースにしたっす」
ルイーグ自身はピリ辛で食べたいが、辛くしたい人だけ辛味を足せるようにという配慮。
マメだ、と栴が評しただけはある。
料理が出揃ったとなれば、乾杯の時間だ。
「あーしは……これにしよ」
幾つかのソフトドリンクが用意されてる中、ノアールはオレンジジュースに手を伸ばした。
「では私も」
ステラも同じものに手を伸ばす。
「オレはこれにしようかな」
「それは何の酒じゃ?」
ルイーグが注がれた薄い琥珀色が注がれたグラスに手を伸ばすと、芽衣が中身を訊ねて来る。
「これ? ジンジャーエールっす。さっぱりしてるっす」
「ほう。わしもそれにする!」
未知のものだったか、芽衣が目を輝かせて同じグラスを手に取った。
「ルイルもルイーグとメイメイとお揃いにするのだ!」
火の番を終えたルイルも、同じくジンジャーエールを選ぶ。
「乾杯は冷やにするか」
ノンアル組が冷たい飲み物が多いとみて、鷲穂は燗ではなく常温の酒を手酌で注ぐ。
「栴も飲むか? ギガとことは?」
「そうだな」
「うむ、頼む!」
「それ地酒? もらう!」
栴と鳥獣戯画、九十にも同じ酒が注がれる。
「団長、今更だが乾杯の音頭を頼んでも?」
「良いのか? 実況してただけだぞ?」
グラスを受け取りながら栴が振ってきた役目に、鳥獣戯画が意外そうな顔を見せる。
「他に適任がいるか? 何、長すぎると感じれば突くさ」
笑って返す栴に、そこまで言われてはと鳥獣戯画も頷く。
「それでは――者共、ジュースと酒を持てぃ!」
高らかに告げて、鳥獣戯画は自らも酒杯を掲げる。
「此度は栴と鷲穂が狩りに狩った海産物、壁一同ご相伴に預かった!! 皆、感謝として二人のコップを空けてはならんぞ!! 特に栴は今年解禁だ、皆大いに礼を述べようではないか!」
「よ、だんちょ!イケてる!美形!」
滔々と口上を述べる鳥獣戯画に、ノアールからの合いの手が飛ぶ。
だが――鳥獣戯画は気づいていた。視界の端で、栴が突こうと身構えているのを。
「では美味しく頂こう! 夏に乾杯!!」
だから話を切り上げ、グラスを高く掲げる。
「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」
「かんぱーいなのだ!」
その声に、9人の声が重なった。
「管理者諸氏、仲間が世話になった! お前さん方の席はこちらだ!!」
乾杯を終えた所で、鳥獣戯画が|管理者《ドラゴンプロトコル》たちに宴席に加わらないかと声をかける。
「いやいや、私達は……」
「今回の管理者だから――」
「そう言うなって! ちょっとでも良いからよ」
やんわりと断ろうとする姿勢を見せた|管理者《ドラゴンプロトコル》たちだが、既に出来上がりつつある鷲穂も大声で呼んだ。
「無理にとは言わんがな」
栴も異論はないようで、変わらぬ調子で進めて来る。
「それじゃあ……少しだけ」
ここまで言われては、と|管理者《ドラゴンプロトコル》たちもしばし宴に加わる事になった。
●偶には後の事など気にせずに、飲んで食べる日があってももいい
「成長期たちは肉を食え!」
酒杯を片手に、反対の手にトングを持った鷲穂が、ルイルやジョゼ、ノアールに芽衣と言った年齢的なノンアル組の皿に、まず海鮮焼きそばを盛りつけ、その上から肉やイカやサメ、餃子をドカドカと載せていく。
「もりもり食べるんだぞ」
「お主、さてはもう酔っておるな?」
「今日はもう、二日酔いになっても大丈夫だからな!」
芽衣に指摘されても、鷲穂は欠片も悪びれずに返して来た。
「二日酔いになっても大丈夫。おれの大好きな言葉だ」
生臭坊主だ。
「お前さんたちも、成長期じゃないのか?」
「わ、私達は大丈夫です!」
「お酒も飲める年齢なので!」
「お呼ばれした身だし、ちょっといただければそれでいいよ~」
その量を見た|管理者《ドラゴンプロトコル》が、鷲穂の視線に慌てたように首を振った。
「野菜もしっかり一緒にいただくっす!」
一方、肉ばかりは良くないと、ルイーグが盛られた上に更に野菜を重ねていく。
「お、おぉう……」
「うははっ! 鬼盛じゃん、やば!」
「美味しいのだ!」
山盛り以上になった皿の上にジョゼは絶句し、ノアールは笑い出し、ルイルは怯むことなく食べだして、と様々な反応を見せる。
「和気藹々としてますね。見ていて大変可愛らしく微笑ましいです」
少し離れた所で、ステラが料理を摘まみながら様子を見守っていた。
「微笑ましいか……?」
栴は訝し気だが。
「一年前であったら、栴もあそこにいたのだろうな」
「だから微笑ましいと言ってられんのだ」
鳥獣戯画の言葉に、栴は苦笑交じりに返す。
「大丈夫ですよ。出来立てのお料理は美味しいですから」
しみじみと、味わいながらステラが告げる。
のんびり味わっているようで、他の味付けの研究も兼ねていたりするのだが。
「確かに、野菜もお肉もイカもサメも美味しいっす」
すぐ隣では若者たちに負けず、ルイーグもモリモリ食べていた。
「あとはちびちびやらせて貰うかね」
成長期組に盛るだけ盛って満足した鷲穂は、軟骨の梅肉和えと、白茹で酢味噌。そしてキャビアのブルスケッタとつまみを並べる。
そして温めておいた徳利を取ると、炙ったフカヒレを入れた酒器の中に酒を注いだ。
瞬間、言葉では何とも言い難い香りがふわっと辺りに広がっていった。
「おお!」
「これがヒレ酒か」
その香に、鳥獣戯画と栴が反応する。
「ギガと栴。飲むか? 美味いかはわからん」
「いただこう!」
「試してみるか」
頷いた2人にも、フカヒレ入りの酒器が渡される。
「ルイーグは?」
「オレはいいっす。その分、サメ食いたいっす!」
鷲穂の視線に頭を振って返し、ルイーグはサメに齧りついた。
「ステラは?」
「お酒も飲めはしますが……あまり得手ではありませんので」
そうは言いつつも、ステラの視線は鷲穂の酒器に向けられていた。
「あ……でも少し……」
どうにも、そそられる匂いだ。
「舐めてみるか?」
「そうですね。舐める程度でしたら、ええ」
好奇心に負け、ステラも少しだけ、ヒレ酒を頂く事にした。
「私もヒレ酒飲みたい!」
「ジョゼと芽衣はもうちょい、ノアールとルイルはまだ先だな」
それを見ていたジョゼも手を挙げるが、鷲穂が首を横に振る。
酔っていても、そこの一線を違えはしない。
「そうじゃな鷲穂、ひれ酒は来年、教えてくれるんじゃろ?」
「来年またサメ狩れってか」
芽衣に笑って返す鷲穂。
「だね。あと3ヶ月待たなきゃ……」
「あー。3ヶ月だと待ち遠しくなりそ。あーしも、美味しそうに飲んでるなーとは思うもん」
グギギ、と悔しさをみせるジョゼに、見守っていたノアールもしみじみ頷く。
「オパールの」
そこに、栴がジョゼを呼んだ。
「フカヒレは乾燥品。半年ほどは保つそうだぞ」
「えっ、これってそんなにもつの!?」
フカヒレの保存期間を聞いて目を輝かせるジョゼ。
「全部喰われる前に確保するが良い」
「? 不思議な味なのだ」
栴に言われて網の方を見てみれば、ルイルが炙ったフカヒレをそのままもぐもぐして、不思議そうにしていた。
「ちょっと持って帰らせて!」
「ジョゼ、3ヶ月後の感想を楽しみにしておるよ」
残るフカヒレの1枚を確保したジョゼに、もっと遠い芽衣が少し羨ましそうに告げた。
「香り高いお酒でした……さて」
少しだけヒレ酒を頂いたステラが、立ち上がる。
「デザートを用意しましょうか」
「デザートとな!?」
「ええ、鉄板で作るパンケーキと焼きバナナを」
驚く鳥獣戯画に、ステラは作る予定のデザートの内容を告げる。
「焼き立てを用意しようかと、作り置きしなかったのです。ただ……」
敢えて今から作る理由を伝えたところで、ステラは言い淀んだ。
「美味しいお料理が沢山でしたので、デザートまで食べられるか、少し心配ですね……ミーツァさんのスイカもございますし」
「デザートなら大丈夫じゃない? だって、別腹、なのよね?」
「そそ! 別腹、別腹! だいじょーぶっしょ!」
皆のお腹に余裕があるかと心配顔になったステラに、ジョゼとノアールが笑顔で返す。
「うんうん、デザートはそうだよね~」
「別腹、わかります」
|管理者《ドラゴンプロトコル》姉妹の2人もこの反応である。もう1人も、わかる、と言いたげに無言で頷いていた。
デザートは別腹。
それは世界が変わろうが変わらぬものなのだろう。
「それに鉄板で作るデザートなんて、珍しいもの! 食べてみたい!」
「私は焼きバナナが好きだ!!」
ジョゼと鳥獣戯画もこの反応である。心配ないだろう。
「――なら、ホイップクリームとチョコソースをたんとかけましょう」
「あーし、手伝うよ」
「私も手伝うわ」
クリームと聞いて、ノアールとジョゼがパタパタとステラの元に駆け寄っていく。
「ルイルもスイカ切るのだ! 出してくれなのだ!」
「ああ」
栴が|保冷庫《Saved area》から出したスイカを受け取ると、ルイルはザクザク切り分け始めた。
「じゃあ、デザート待ってる間にさ。栴と鷲穂、武勇伝を語ってよ!」
「「武勇伝?」」
ふいに九十から告げられたリクエストに、何の事かと栴と鷲穂が首を傾げる。
「この烏賊鮫は君達が狩ったんでしょ?」
「ああ、その話か」
「武勇伝って程になるか……?」
「良いじゃん、僕聞きたいな!」
思わず顔を見合わせる栴と鷲穂に、九十が食い下がる。
「わしも気になるのう」
「オレも聞きたいっす」
「面白い話なのだ?」
芽衣にルイーグ、ルイルにも話してと言う顔をされては断るわけにもいかない。
「そうだな、ここに至るまではまずたくさんのイカが必要だった……」
「山羊の。語るよりはイカキマイラを実演してみせた方が判り易いぞ」
「あれ結構疲れるんだぞ」
などと言い合いながら、鷲穂と栴はイカとサメの戦いの一部始終を語っていくのであった。
●少しだけ後日談――というほど後でもない直後のオチ
BBQを満喫した猟兵達が、三々五々にフィールドを去っていく。
焚き火の痕跡が残ることもなく、後には本当に元通りの、|管理者《ドラゴンプロトコル》たちの知る山岳の光景だ。
そのど真ん中で、3人が仰向けに寝そべっていた。
安全地帯が解除されるまで、まだしばらくある。
束の間の平穏を満喫――と言うだけではない。ちょっと動けない、事情があったのだ。
「終わったわね……」
「うん」
「強くて、楽しくて、佳い人達だったね~」
「そうね」
サメの気配のない空を見上げたまま、3人ぽつぽつと話している。
「イベントのご褒美なBBQなのに、混ぜて貰っちゃって」
「私達、そんなに働いてないのにね」
「ダイエット頑張らないとね~」
少しだけ、と相伴に預かるにとどめていてもそれが重なればこうなるのは、畢竟と言うもの。
まあ要するに。
食べ過ぎてた☆
大成功
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