HBD to my better half
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「どないしよ……」
六月も三分の一が過ぎようとしている頃、知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)は頭を抱えていた。もうすぐ、最大の親友にして最愛の恋人である一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)の誕生日なのだ。
勿論幼馴染である二人の事、誕生日を一緒に過ごすのは初めてではない。家で一緒に遊んだ事もあったし、色々な場所に出かけた事もある。はっきりとした形で約束をしたわけでもないのに、お互いどうしても外せない用事がある時以外は自然と一緒に過ごしていた。
だが今回は今までとはわけが違う。なにせ二人が恋人同士となってから初めて迎える誕生日なのだ。
「恋人同士で過ごす誕生日って、な、何するん?」
スマホで“恋人 誕生日”で検索する。彼氏が喜ぶ誕生日の過ごし方というページを開いてみた。
「『一緒に食事』。うーん、あんまお洒落な店とか知らんしなぁ……『ペアアクセサリーを贈る』。これはちょっと浮かれ過ぎて恥ずかしいよーな……『温泉旅行をプレゼント』。おおお温泉!?」
ぼっと顔が赤くなる。温泉ってそれ一緒に入るって事やんな!? 恋人である前に同性やもんな!?
「確かに子どもの頃はプールの着替えとかで裸見せ合った気いするけど! 今は無理無理!!」
クラスが一緒になってからは体育の着替えですら意識してしまうのに、温泉なんてどう考えても無理だ。
「予算的にも現実的やないしなぁ。それにしても、今までどんな風に誕生日を過ごしとったんやっけ……」
記憶を辿ってみるが、二人でいるのが当たり前すぎるためか驚くほどに記憶がない。しかし飛鳥と共に誕生日を過ごす帝の、どことなく嬉しそうな顔はとてもはっきりと思いだせた。きっと自分も同じような表情をしていたのだろう。一緒に居るだけで楽しい、特別な存在。
「なあミカ。ミカは誕生日、何が欲しい……?」
脳内の帝に問いかけてみる。飛鳥がイメージする帝は迷いなく答えた。
『飛鳥がくれるものなら何だって嬉しい』
「うわ、云いそう」
思わず突っ込んでしまった。これはきっと都合のいい妄想ではない。帝はそういう人なのだ。
「嬉しい。嬉しいけど、困るわぁ……」
何でも喜んでくれそうな人だからこそ、本当に喜んでくれるものを贈りたい。
またスマホで検索をしてみるが、結局ピンと来るものがないまま、気づけば日付が変わってしまっていた。
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帝の事をよく知るクラスメートや、部活の後輩にもこっそりと訊いてみた。
「なあ、ミカの誕生日、何したらええと思う?」
返って来る返事は誰に訊いても一緒だった。
「せ、先輩が選んだものなら、なんでも喜んでくれるんじゃないですかね……?」
「知花よりその答えを知ってる奴なんかいないだろ」
ちょっと優越感。でもそうじゃない。
悩みに悩む日々は過ぎ、とうとうカレンダーは六月十五日当日を迎えてしまった。
土曜日は授業が午前中だけで終わる。最後の授業を終えて帰宅準備をしている帝に飛鳥は話しかけた。
「なあミカ、今日うち来ーへん?」
「ああ、いいぞ」
当然のように答えてくれる帝を連れて、飛鳥は自宅へ。
「ただいまー」
「お邪魔します」
「おかえり……って、あら! やっぱ帝くん! なんとなく来るんじゃないかって気がしてたから昼ごはん多めに作ってたのよ。よかったら食べてって!」
さすが飛鳥の母。両親自体も仲の良い知花家と一ノ瀬家である。
話が早いのはありがたいが、このまま飛鳥よりも先に誕生日について言及されたら困る。こっそり指を口に当て「云わんといて」のジェスチャーを送ると、母は当然とばかりに笑みを返してくれた。ひとまず安心だ。
母が作ってくれた焼きそばを兄弟たちと一緒に食べ、部屋に戻る。もう何十回もしてきた行動なのに、なんだか妙に緊張する。
「いや~呼んどいて何やけど何したいとか特に決めとらんくて。久々にゲームとかする?」
「いいぞ。ゲームといえば、前に源にアドバイス貰ってたゲームあっただろ。あれどうなったんだ?」
飛鳥がたまにやっているというモンスター狩りのゲームを帝は思い出したようだ。
「よう聞いてくれたなあ! あのあと何度か全にアドバイスもろて、めっちゃ上達したんよ!」
「ほう。じゃあ飛鳥の上達っぷりを見たいな。俺がついていったら足手まといか?」
「そんな事あらへんよ、後方支援が得意な武器とかあるからサポートしてくれたら嬉しいし、それに」
「それに?」
「ミカと一緒に狩りとか、モチベアップでめっちゃうまくいきそうやし!」
満面の笑みを浮かべる飛鳥に、帝も微かに笑みを漏らした。
「そういう事なら、是非お供させてもらおう」
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”めっちゃ上達した”という飛鳥の言葉は大袈裟ではなく、前にどうしても倒せないといっていたモンスターは勿論、それよりも遥かに強いモンスターも多少苦戦したものの倒してしまった。
「やったぁ! こいつ倒せたの始めてや!」
「そうなのか?」
帝視点では確かに何度か危ない局面はあったものの、何度やっても倒せないほど格上には見えなかった。それを伝えると飛鳥が照れくさそうにこめかみ辺りを搔きながら云った。
「やっぱミカブーストやねんなあ。貰ったバフ以上に力が湧いてくる気がすんねん。キャラが攻撃力アップをもろて、俺が勇気アップとか自信アップとかもろてるっていうか」
「飛鳥……お前、かわいいな」
嬉しさについ感じたままを口にしてしまう。しまったと思ったが、飛鳥は嬉しそうに頬を緩めてくれた。
「ミカ、ひょっとして今までもそう思ってくれとった?」
「ああ。割と子供の頃からずっと」
「そうやったんやなぁ」
昔を思い出すように、飛鳥が目を細める。
「俺だけずっと気づかんくてゴメン」
「謝る事じゃない」
本心だった。長年の片思いは辛い時ももちろんあったが、それ以上に親友というポジションでずっと飛鳥の傍にいられることが嬉しかったから。
「せやけど俺も! 恋愛として好きやらそんなんは気づいてへんかったけど、ミカのことずっと世界一格好良うて優しいって思っとったから!」
急に赤面して捲し立ててくる。その様子が可愛らしくも面白くて、帝は小さく吹き出した。
「知ってる」
「知っ……知っとったん!?」
「ああ」
「なんか照れるわぁ……」
熱を持った頬に両手を当てた飛鳥が、ふいにちらりとこちらを見た。
「……ミカ、ごめん」
「ん? 何が?」
「せっかく今日ミカの誕生日なのに、誕生日プレゼント決めきれへんかってん」
目を瞬かせる帝。飛鳥はばつが悪そうに視線を逸らしながら続けた。
「手作りはバレンタインの時にやったし、友達やった頃より特別なもの贈りたいなって思てんけど、全然思いつかんで……悩んでるうちに今日になってもうて」
「なんだ、そんな事か。気にしなくていい」
帝が云うと、飛鳥はええ~と眉をしかめた。
「そんな事って! 俺めっちゃ悩んどったのに!」
「いや、むしろ俺としては今とても嬉しいくらいだ」
きっとあれこれ真剣に考えてくれたのだろう。大好きな飛鳥がそれだけ自分を大切に想っていてくれているというだけで、帝にとってはどんな誕生日プレゼントよりも幸せだ。
それを告げると、また飛鳥は耳まで真っ赤になった。
「といってもさすがにそれだけってのは何やし、ミカ本人に欲しいもの訊こうと思って」
「あすk」
「飛鳥がくれるなら何でも嬉しいはナシな」
封じられてしまった。紛れもない本心なのだが。
うーん、と帝はしばし考えを巡らせる。
「そうだな、毎日使うものが欲しい」
「たとえば?」
「筆記用具とか、眼鏡拭きなんかもいいな。タオルとかの替えがいるものじゃなくて、とにかく毎日使うもの」
そうすれば毎日飛鳥を身近に感じられると思ったから云ったのだが、飛鳥はちょっと釈然としないようだ。
「なんか誕生日に贈るには全体的に安ない? 恋人って感じでもないし」
「値段じゃないだろう、こういうものは」
「それはそうやけど……」
口ごもる飛鳥が、ふと何かを思いついたらしい。
「あ、じゃあミカ、ちょっと目ぇ瞑っといて」
「目? わかった」
素直に目を瞑ると、飛鳥が顔を近づけてくる気配がして。
ちゅっと触れるだけのキスをして、顔が離れていった。
驚いた帝が目を開けると、へへっと照れくさそうに笑う飛鳥が視界に入って来る。
「プレゼントとは別に、これが恋人成分って事で。誕生日おめでと、ミカ」
「…………ありがとう」
どうしよう。帝はいつもの薄い表情の中で慌てふためいていた。
あの恋愛ごとには奥手な飛鳥が自分からキスをしてくれた。どうしようこれはもっといけるサインだろうか。あれとかこれとか。いやでもいきなり距離を詰めて引かれたくない。今までそんな事を思ってずっと耐えてきたんじゃないか。晴れて恋人になったのにそれを壊してどうする。いやでも飛鳥がかわいい。とても可愛い。ちょっと反則過ぎるんじゃないか。これは俺が多少過ちを犯しても飛鳥が悪いのでは――
しかし帝の中で天使と悪魔が攻防を繰り広げる前に、飛鳥が照れ隠しですっくと立ちあがった。
「じ、じゃあさ、ミカの欲しいもんも決まったし、今から駅前のショッピングモールにでも買いに行く?」
「あ、ああ。そうだな」
よかった。まだ道を踏み外さずに済んだ。
ずっと大切に育んできた飛鳥との仲を大切にしたい。今はまだ焦るべきではないと帝も立ち上がる――けれども。
「なあ、飛鳥」
「何や?」
「……もう一回だけ、キス、してもらってもいいか?」
「!!」
ぼっと顔が赤くなる飛鳥。
このくらいのおねだりは、きっと許されるはず。だって誕生日なのだから。
成功
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