売り捌け!焼きそバトル!
●焼けるような鉄板の上で
焼きそバトル。
それは鉄板の上で繰り広げられる、熱き魂の衝突——。
金属の鳴る音とともに、一本のヘラが天高く打ち上げられた。
「う、うわああああああっ!?」
「あなたも大したことなかったわね。鉄板のコゲくらいどうしようもないわ」
仰け反りかえって尻もちをついた男をセーラー服の少女が見下ろす。右手にヘラ、左手に焼きそばのパックを持った彼女の視線は、幼げを残しながらも冷徹だった。
「くそっ! 三日間寝ずに熟成させた濃厚ソースが負けるなんて……! 俺はなぜ負けたんだ!」
「寝てないからじゃない?」
「ぐ、ぐあああああああっ……!」
正論がトドメとなり、男は地面に崩れた。その様子にため息をつき、少女は彼に背を向けて歩き出す。
「まったく、ソース派はどいつもこいつも馬鹿ばっかね。素材本来の味を引き立たせる塩焼きそばこそが焼きそばのすべてだって、わかりきってるはずなのに」
ヘラを箸に持ち替え、彼女は焼きそばを啜る。
特盛のネギが入った焼きそば。あっさりとしているようで、塩の風味が具材一つ一つに深みを与える。
引き算による理論構築で組み上げられたこの調理法を前にして、敗北という言葉は存在しない。
「近々、大規模な焼きそバトルがあるようだけれど……この調子なら問題なく勝てそうね。焼きそバトルの頂点は、この塩谷・ネギ子がいただくわ!」
ずるずると、麺を啜る音だけがそこに残っていた。
●グリモアベース
ホワイトボードの前に立ち、木鳩・基(完成途上・f01075)は猟兵たちに問いかける。
「焼きそバトルって知ってます?」
知らないと首を振る者が大多数。そんな猟兵たちにうんうん頷いて、基はいつになく意気揚々と説明を始めた。
「アスリートアースの非公式競技にして最近ホットなスポーツ、それが焼きそバトルです。ルールはシンプルで、焼きそばの味や作るときの技巧、そして食べる量やスピード、姿勢までもが評価される……料理選手権とフードファイトを組み合わせた、焼きそばを楽しむためのスポーツですね」
試合によって様々なレギュレーションが用意されており、作る、食べる、あるいはその両方と、個人によって輝く部門が異なるのも特徴だ。
「まぁ焼きそばのフィギュアスケートみたいなもんだと思ってください」
フィギュアスケーターにはっ倒されても文句の言えない台詞を吐きながら、基は本題に入る。
「その焼きそバトルで最近ダークリーガーが暴れてるそうなんです。各地の大会を荒らしに荒らし、焼きそバトル競技者——焼きそバトラーを次々ダーク化アスリートに変えていっているんですよ」
言うと同時に、ホワイトボードに写真を貼り出す。緑のセーラー服を着た銀髪の少女が写真には写っている。なんというか、雰囲気がネギっぽい。
「塩谷・ネギ子。塩焼きそばを専門とする焼きそバトラーで、飾らない具材で最大火力の焼きそばを作り上げる実力者。そこまで言うからには一回食べてみたいところですけど……」
資料を捲って情報を共有するうちに基の本音が漏れ出た。やけにノリノリだったのはそのせいなのだろう。「あっ」と声を零してから、何事もなかったかのように基は話を戻す。
「とまぁ、ネギ子の快進撃を止めるためにも、彼女との試合に勝ちましょう! このままだとアスリートアース中の焼きそバトラー全員がダーク化アスリートになっちゃいますからね!」
とはいえど、いきなり焼きそバトルに持ち込んでも勝てるかは怪しい。技術をフィジカルで上回れる他のスポーツとは違い、今回の焼きそバトルは焼きそばへの真摯な姿勢が求められる。
そうした不安を先読みしていたのか、基は「大丈夫です」と微笑んだ。
「まずは焼きそバトルに備えて焼きそば作りを練習しましょう。現地の焼きそバトラーとコンタクトが取れたので、練習場を借りる予定です。練習場っていうか、厨房ですけど……」
具材は自由。言えば何でも取り寄せてくれる。
そこで自分流のレシピや焼き方を身につけ、来たる焼きそバトルに向けて練度を高める。ネギ子は数々の焼きそバトラーを打ち破ってきた相手だ。練習する時間はあるに越したことはない。
「勝ちたいって気持ちは、焼きすぎても焼きすぎることはないですからね。焼きそばと違って」
全然上手いこといえてないのを、基は勢いで押し流した。
●レギュレーション
ホワイトボードを手で示し、基は今回のレギュレーションについて話し始める。
「それと、今回の焼きそバトルの会場なんですが……実は、他のスポーツ大会の会場と場所が被ってるんです」
だからといって、他のスポーツをしながら焼きそばを……というわけではないらしい。
焼きそばは縁日などのイベントで必須の食事。イベントの混雑の中で売り捌いてこそ本来の焼きそばと考える層が一定以上いるという。
「つまり、今回の試合は『売り』特化! チームに分かれ、先に指定された量の麺を売り切った方が勝ちというルールなんです!」
それぞれがフィールドの中に屋台を構え、尽きることのない客を相手にどんどん売り捌く。大食いで勝ち負けを決める焼きそバトルもあるが、今回に限っては客をどう引きつけるか、どこに屋台を構えるかという部分もポイントとなる。
また、客を捌くとなれば回転率——焼きそばを焼く速度も重要だ。素早く焼きそばを調理できるネギ子はその点で秀でているといえよう。しかし、数多もの戦いを制してきた猟兵ならば、きっとこの戦いにも勝てるはず。
「売り切るとは言ってますが……ようは麺を消費できればいいので、自分で食べ切っちゃってもルール上は問題ないのかもしれませんね。普通なら食べ切れないくらい大量ではあるんですけど」
冗談めかして言い、基は掌の上にグリモアを浮かべた。
「楽しんできてくださいよ、焼きそバトル。私は隙を見て食べる係やりますんで」
私利私欲にまみれたグリモア猟兵に見送られながら、猟兵たちはアスリートアースへと転移する。
堀戸珈琲
どうも、堀戸珈琲です。
焼きそばを作ると三食続けて焼きそばになります。
●最終目標・シナリオ内容
『焼きそバトラー『塩谷・ネギ子』』との試合に勝利する。
●シナリオ構成
第1章・冒険『その他スポーツを練習しよう』
第2章・ボス戦『焼きそバトラー『塩谷・ネギ子』』
第1章は練習場、第2章は大会会場での進行となります。
第2章のフィールドはお祭り会場。他のスポーツ興行で盛り上がる屋台村にて、「先に指定した量の焼きそばを売り切ったら勝ち」というチーム・焼きそバトルが行われます。
何をしてもいいですが、相手選手への攻撃などの直接妨害は互いに禁止されています。
●プレイング受付
各章、断章の追加後に送信をお願いします。
プレイング締切についてはマスターページやタグにて随時お知らせします。基本的には制限なく受け付けますが、状況によっては締切を設けます。
それでは、みなさまのプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『その他スポーツを練習しよう』
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POW : 体当たりで果敢にチャレンジする
SPD : 器用にコツを掴みながら練習する
WIZ : ルールや戦術の理解を深める
イラスト:十姉妹
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●焼きそば地獄特訓
指定された場所に向かった猟兵たちが見たもの。
銀色に輝く調理台の真横には、広々とした鉄板が熱気を放っていた。それが何台も、空間の奥まで続く。
ここは焼きそバトラーが集う秘密の研究所。新メニューの開発や必殺技の修行など、昼夜を問わず研鑽を積み、焼きそばの真髄を極めている。
設備を眺めていると、部屋の真ん中に男が突っ立っているのが分かった。
「焼きそば焼きそば焼きそば焼きそば……ハッ! すみません、考え事をしていました。私は猟兵のみなさまを案内するよう仰せつかった者です。ご用の際はなんなりと」
猟兵たちに、男は深々と頭を下げた。どうやら頭を焼きそばに支配されているわけではないようだ。具材の発注や器具の用意、基本的な焼き方のコツの伝授などは彼が担当しているらしい。
機器の使い方を教えてから、男は唐突にそわそわとし始めた。
「あの……猟兵のみなさまはどのような焼きそばをお作りになられるので? 肉は何肉? 牛ですか鶏ですか豚ですか? 野菜は? 海鮮なんかもいいかもしれませんね。そもそも麺は細麵? それとももっちり太麺? ああそうだ調味料も大事ですよ。ソース、塩、醤油なんてのもありますし、ケッチャプを使えばナポリタン風にも——」
話が長い。
困惑する猟兵たちの視線にも気付かず、男は話を続ける。
「調理法にも個性が出ますよねぇ。うちの界隈には回転しながら作る人もいますし、空中で炒める人もいますよ。摩擦熱で一気に焼き上げる人だっていますしね。ポーズを取って集中力を高めて一瞬で調理を終える人なんかもいました……その人たちみんな、ネギ子に負けたんですけど」
どんな相手なんだ。というか、本当に焼きそば作りに役立つのか怪しい技ばかりだったが……ともあれ、何か秘儀を生み出してみるのも悪くはないのかもしれない。
それぞれが策を練り、猟兵たちは鉄板に向き合う。
焼きそバトルの道は、ここに始まる。
焼傍ヶ原・ヨネマ
アドリブ:◎
連携:OK
ここに来るのも久しぶりね。
聞いたわ、全員ネギ子に負けたですって……?
焼きそバトラー第2条!『どんな状況も想定して100種類は焼きそばを作れるようになれ』よ!
うちのスポーツは宴会芸じゃないのよ!回転だの空中調理だの自分ばかり目立って魅せる事ばかり考えて焼きそばに対する愛が足りなくなったからネギ子に負けたのよ!
焼きそバトラー参の技『焼きそばインフィニティ』!
貴方達の焼きそば愛を今一度叩き直すためにコレ全部食べてもらうわよ!
●その焼きそバトラー、第一人者につき
光を反射する輝かしい調理台。鉄板が静かに熱される音と、その下で青い炎が燃える音。
「ここに来るのも久しぶりね」
いつ振りだろう。最後は1000種類目を完成させたときだったか、世界の焼きそバトラーを求めて旅立つ直前だったか。
懐かしさに浸りながらも、焼傍ヶ原・ヨネマ(生粋の焼きそバトラー・f42520)は力強く一歩を踏み出す。宿命の相手が現れたと聞いて、いくらか気合いも入っていた。
「あ、あなたは……!」
練習場にやってきたヨネマを見て、焼きそバトラーの一人が震え出した。
「焼きそば調理資格三段有段者にしてベスト・オブ・ソバーの受賞者——焼傍ヶ原・ヨネマさん!」
「あのヨネマさんが……!?」
「マジで帰ってきたのか!?」
一人、また一人と練習場に集う焼きそバトラーが彼女の姿に気付く。
部屋の中央にヨネマが辿り着く頃には、練習場にいた全員がヨネマの元に集合していた。彼ら彼女らに向け、ヨネマは尋ねる。
「聞いたわ、全員ネギ子に負けたですって……?」
「は、はい! 有力株はみんなダーク化アスリートにされて……」
「でも、ヨネマさんがいるならネギ子にも勝てますね! この勝負、私たちの勝ちですよ!」
焼きそバトラーたちが勝手に盛り上がり始める。
浮かれた様子を見て、ヨネマは大きくため息をついた。くるりと踵を返すと、包丁とヘラを揃えて調理台の前に立つ。
「あの、ヨネマさん……?」
「焼きそバトルの主役は選手にあらず。真の主役とは常に焼きそばだってこと——」
キャベツ、人参、玉ねぎ、豚肉をカット。
鉄板に移して焼き目を付け、麺を投入。
適量のソースを振りかけヘラで放り、皿で受け止め青のりをトッピング。
「忘れたとは言わせないわよ」
ものの数秒で、でき立ての焼きそばが完成した。
瞬きもせず、焼きそバトラーたちはヨネマの技芸に見惚れる。その間にも次々と焼きそばは作られていく。しかも皿ごとに具材も味付けも異なっている。
「焼きそバトラー第2条! 『どんな状況も想定して100種類は焼きそばを作れるようになれ』よ! この程度は基本のキ、焼きそばのヤだわ!」
焼きそばを調理しつつも、ヨネマは焼きそバトラーたちを睨み、叱責する。
「うちのスポーツは宴会芸じゃないのよ! 回転だの空中調理だの、自分ばかり目立って魅せることばかり考えて……焼きそばに対する愛が足りなくなったから、ネギ子に負けたのよ!」
まるで雷が落ちたかのようだった。
ヨネマの声が響き、彼ら彼女らは息を呑む。大切な焼きそバトルの精神を思い出したのだ。
「焼きそバトラー参の技……『|焼きそばインフィニティ《ムゲンヤキソバ》』! あなたたちの焼きそば愛を今一度叩き直すために、コレ全部食べてもらうわよ!」
「は、はいっ!」
今度の焼きそバトルは販売軸のチーム戦。猟兵に限らない戦力強化も鍵となる。
もりもりと焼きそばを食べ進める焼きそバトラーたちを一瞥してから、ヨネマは焼きそば作りを再開した。
大成功
🔵🔵🔵
天羽々斬・布都乃
◎
「焼きそばでしたら、神社の縁日の定番です!
任せて下さい!」
『いや、布都乃よ。天羽々斬神社はお主の両親が亡くなって以来、長らく祭りをやれておらんじゃろ。
ていうか、神社側は忙しくて出店に関わっている余裕ないじゃろ?』
いなりに痛いところを突かれますが、くじけません。
天羽々斬剣と布都御魂剣を取り出し、早速、焼きそば作りの特訓です!
『神剣を取り出してどうするのじゃ?』
「え?お肉や野菜を切ろうかなって」
そう、私が作るのは神社の縁日風焼きそば!
調理道具にも神社っぽさを取り入れた最高の焼きそばです!
右目を金色に輝かせ、未来を視て――
「ここが返しの絶好のタイミングですっ!」
絶妙な火加減で調理します。
●最高のタイミングを掴め
袖を捲って拳を握る。
調理台に並べた焼きそばの具材を前にして、天羽々斬・布都乃(未来視の力を持つ陰陽師・f40613)はふんっと意気込んだ。
「焼きそばでしたら、神社の縁日の定番です! 任せてください!」
鼻歌を交え、野菜を順番に水で洗っていく。楽しげに準備を進める布都乃を、台に腰を下ろした式神・いなりが眺める。
『いや、布都乃よ。天羽々斬神社はお主の両親が亡くなって以来、長らく祭りをやれておらんじゃろ。というか仮に祭りができたとして、神社側は忙しくて出店に関わっている余裕ないじゃろ?』
「ぐっ……!?」
痛いところを突かれるが、布都乃はくじけない。
「と、とにかく! 私、お料理は普段からしてますので! 焼きそばもきちんと作ってみせますよ!」
『しかし今回は自分が食べるのではなく、手に取ってもらえる出来まで仕上げねばならんぞ。お主にそんな焼きそばが作れるかのぅ?』
「大丈夫です! 策は用意してあります!」
ネギを置いたまな板へ、天羽々斬剣と布都御魂剣を構えた。布都乃のその立ち姿に、いなりは首を傾げる。
『神剣を取り出してどうするのじゃ?』
「え? お肉や野菜を切ろうかなって」
言い終わると同時に、布都乃はネギを剣先で放り投げた。
「おりゃあああああっ!!」
落下してきたネギをスパスパスパと空中で切り刻む。バララララッと綺麗に刻まれたネギがまな板に落ち、それをそのまま鉄板へと滑らせた。
「このままじゃんじゃん切っていきますよ! 焼きそば作りの特訓です!」
『それは先祖代々伝わる神剣……まぁよいか。オブリビオンを倒すためじゃ』
人参、ほうれん草、鶏肉と次々具材を刻んで、軽く焼いたら麺を入れる。
ここで麺を混ぜるのもヘラではない。くるりと剣の向きを変え、麺を切らないように峰で麺に具を馴染ませていく。
「そう、私が作るのは神社の縁日風焼きそば! 調理道具にも神社っぽさを取り入れた最高の焼きそばです!」
もっちりした太麺にどことなく和を感じる食材を揃え、味は濃くなりすぎないように醤油で調整。素朴ながらも噛めば噛むほど奥深い味わいになる予定だ。
あとは、返しを決めるだけ。
鉄板を注視する布都乃の右目が金色に輝く。未来の情景を一足先に視て、色の変化する瞬間を観測する。
「ここが返しの絶好のタイミングですっ!」
両手に握った二本の剣で麺をひっくり返す。
じゅうと焼ける麺の色合いは——最高。まさしく絶妙な火加減だ。
焼き上げるタイミングも未来視で見極め、焼きそばを皿へと盛り付けた。最後にかつお節を振りかけて、神社縁日風焼きそばの完成だ。
「では、味見を……とっても、おいしいですっ!」
箸を片手に、布都乃は満面の笑みを浮かべるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
遠藤・修司
ねえ、僕が身体貸したのはスポーツ観戦の為だよね?
どうして“|僕《康治》”は焼きそばを焼いてるのかな?
ああそう、僕はやらないからそっちで勝手にやってよ
……というわけで
“|僕《修司》”の許可も出たし、ここからは僕(修司の別人格の康治)が焼きそバトルをやるよ!
従来の焼きそバトルは味や量、見栄えばかり重視していて
食として最も大事な部分を疎かにしていると思うんだ
ここはカロリーや栄養素にも気を配り、|患者《お客》を元気にする焼きそばを目指そう
肉は脂質控えめでタンパク質も取れる豚もも肉
旬の野菜もたっぷり入れるよ
蒸し焼きそばなら油なしで作れるね
出汁の旨味を生かした味付けで塩分控えめ
よし、いい感じじゃないか!
●スポーツドクターのこだわり
じゅうじゅうと鉄板の上で麺が焼ける。
昇ってくる熱気を顔に受け、ヘラを片手に遠藤・修司(ヒヤデスの窓・f42930)は額の汗を拭った。微笑みを浮かべて焼きそばを調理する姿は、普段の修司からは想像もできないほど爽やかだ。
事実、普段の修司とは中身が違っていた。
『ねえ、僕が身体貸したのはスポーツ観戦のためだよね?』
「そうだね」
『どうして“|僕《康治》”は焼きそばを焼いてるのかな?』
「何故って……料理が関わるスポーツに、スポーツドクターが参戦しないわけにはいかないだろう?」
『ああそう、僕はやらないからそっちで勝手にやってよ……』
頭の中の声が遠ざかっていく。
焼き上がった麺を皿に移し、アスリートアース世界の遠藤・修司——遠坂・康治はヘラを持つ手を高々と掲げた。
「……というわけで。“|僕《修司》”の許可も出たし、ここからは僕が焼きそバトルをやるよ!」
ばっちこいと拳を握ってから、康治は先ほど盛り付けた焼きそばを見た。焼きそバトラーから教わったオーソドックスな焼きそばを練習がてら作ってみたが、まだまだ改良の余地はある。
「従来の焼きそバトルは味や量、見栄えばかり重視していて、食として最も大事な部分を疎かにしていると思うんだ。その最も大事な部分とは……ズバリ、食べる人の健康だね!」
医食同源という言葉が存在するほど健康と食事は密接に関係している。スポーツドクターとして、これを無視するのはいただけない。
「ここはカロリーや栄養素にも気を配り、|患者《お客》を元気にする焼きそばを目指そう。こんなこともあろうかと、レシピは考えてあるんだ!」
ドン、と康治がコンロに置いたのは大きなフライパン。一度に何人前でも調理できそうなくらいには容量がある。
調理台に引き返し、野菜をどんどん刻んでいく。ピーマン、ナス、玉ねぎ、人参、ぶなしめじ。旬の野菜で彩りもよし。頷いて、肉のカットに取りかかった。
「肉は脂質控えめでタンパク質も取れる豚もも肉。これで満足感も得られるはず!」
切った野菜を順番に入れ、コンロに火を点ける。軽く炒め終わったら豚肉も投入し、そこに麺も加えた。
さっと水を振りかけつつ、さらさらと固形の出汁も流し込む。
すべての準備を整え、満を持して康治はフライパンに蓋をした。
「蒸し焼きなら油なしで作れる。出汁の風味を活かした味付けで塩分も控えめに」
数分待ち、蒸気で真っ白になった蓋を取る。
むわっと放たれる熱とともに、いい香りが広がった。
「よし、いい感じじゃないか!」
名付けて、スポーツドクターの健康焼きそば。
アスリートにも一般客にも喜ばれ、しかも美味しいという夢のような焼きそばの完成だ。
小皿に取った麺を啜り、康治はキラキラと目を輝かせた。
「イメージ以上の出来だね! よーし、安定して|患者《お客》に提供できるよう練習しよう!」
気合を入れ直し、康治は再び焼きそば作りに没頭していく。
大成功
🔵🔵🔵
ムッカ・ヴェローチェ
◎
焼きそば……作るのは初めてですが、精一杯励みましょう!
まずは、焼きそバトラーさんの焼きそば作りを参考にさせて貰います
材料から作るところまで満遍なく、あっ、もちろん出来た焼きそばも全部いただきますよ? ええ、全部です!
一通り教えて頂いたら練習を始めましょう
私は【ソース焼きそば】で行きます
場所は他のスポーツ会場と被っているとのこと
であれば、食べに来る方々は運動でお腹ペコペコに違いありません!
ここは量と見栄えを追求したいですね
肉は豚を使用。肉厚でガッチリした歯応えのもので
量も味のうち、たっぷり投入します
野菜はもやしとキャベツ、人参をふんだんに
油通しを行い、美味しくする一手間を加えます
麺は生の太麺で、啜るより咀嚼に重点を置いたものにします
そこに甘辛の香ばしいソースを絡めて、鼻と胃袋を掴んじゃいましょう!
天辺には半熟卵を乗せ、紅ショウガも忘れずに
甘辛ソース、とろとろの黄味と絡んだ麵の味。きっと最高です!
完成したら焼きそバトラーさんに差し出して、
「こちらは先程のお礼です。お味の方……どうですか?」
●焼きそバトルの希望となれ
大会に向けて修練に励む猟兵や焼きそバトラーたちにより、練習場は美味しそうな焼きそばの匂いに包まれていく。
「焼きそば……作るのは初めてですが、精一杯励みましょう!」
胸の前に両の拳を掲げ、ムッカ・ヴェローチェ(ウェアライダーの鎧装騎兵・f40924)は意気揚々と調理場に立った。
とはいえ、焼きそば作りについては右も左もわからない。まずは先達に教えを乞うのが筋だろう。そう考え、ムッカは焼きそバトラーの一人に声をかけた。
「あの~……今度の焼きそバトルに参加するんですけど、焼きそば作りについて教えてもらってもいいですか?」
「もちろんだよ。それで、何を知りたいの?」
「一通り全部、ですかね。材料から作るところまで、万遍なく」
「なかなかコシのあるビギナーもいたもんだねぇ……いいとも。それじゃ、よく見てな!」
親指を立ててから、焼きそバトラーはその手に人参を握った。あっという間に皮を向き終え、まるで精密機械のように細かく短冊切りにしていく。
「すごいです……! これが本場の……!」
ムッカが感嘆する間にも作業は進む。他の野菜と肉の下ごしらえを済ませ、諸々は鉄板へ。
主役とも呼べる麺が投入されると、焼きそバトラーはカンカンッと二本のヘラを打ち合わせた。ルーティンなのかと考えているうちに、迷いなくヘラで具材をかき混ぜ始める。
見逃さないように一挙手一投足をムッカが見つめる中、焼きそばは皿に盛り付けられた。
「お待ちィ!」
「わぁ、ありがとうございます! では……いただきます!」
両手を合わせ、ムッカは口いっぱいに焼きそばを頬張った。
流石は本職。言うまでもなく絶妙な仕上がりだ。
「とっても美味しいです!」
「それは嬉しいねぇ。あ、店で捌く練習にたくさん焼いたから全部は食べなくても……あれっ?」
もぐもぐと焼きそばを食べ進め、鉄板の上に残った麺も皿に移す。
静かに闘志を燃やす目を、ムッカは焼きそバトラーに向けていた。
「すみません、勉強したいので焼きそばは全部いただきます」
「全部って……全部?」
「ええ、全部です!」
相手が驚いて固まるのも厭わず、ムッカは味の秘訣を吸収していった。
ふぅと息を吐き、ムッカは改めて調理台の前に立った。
「では、練習を始めましょうか」
呟いてから考え込む。
大会の場所は他のスポーツ会場と被っているとのこと。ここから推測できる、明確な事実が一つ。
「食べに来る方々は運動でお腹ペコペコに違いありません!」
となれば、ここは量と見栄えを追求したい。
方針を定めてから、ムッカは材料を決断的に選んだ。
肉は豚肉、それも肉厚でガッチリした歯応えのものをたっぷり。
それを支える野菜はもやし、キャベツ、人参。これもふんだんに。
麺とソースの用意も整えれば、調理に向けた準備は完了。
「教わったことを活かせるように……頑張りましょう!」
自分を鼓舞するように言ってから、ムッカは具材を刻み始める。
焼きそバトラーの動きを反芻しながら人参を刻む。キャベツは芯を取ってから手でちぎる。カットできたそれらはもやしと一緒に熱した油にくぐらせる。
油通し。野菜の色を鮮やかにし、食感もシャキッとさせる。美味しくするための一手間だ。そうして野菜を鉄板へ転がしてから、立て続けに豚肉も鉄板の上に移した。
ドンッ。重量が、見ているだけでも伝わってくる。さっき焼きそばをたらふく食べたのに、それでも惹かれてしまう。
「量も味のうちとは言いますが……これはなかなかですね。さて、次は麺ですか。それでは……いきますよ!」
声を張って気合を入れ直し、これまた麺をドサッと鉄板に投入する。啜るより咀嚼に重点を置いた、生の太麺。これだけでもガッツリめの焼きそばだが、そこに分厚い肉と大量の野菜が入る。
カンカンッとヘラを打ち鳴らして、一気に麺にヘラを突っ込んだ。重い焼きそばをかき混ぜ、具材同士を絡める。
上手く混ざったところに甘辛の香ばしいソースを垂らすと、焼けたソースの香りが熱気とともに広がった。刺激的で食欲を誘う香りに、ムッカは確信する。
「もしかして……すごいのができちゃったかもしれません!」
笑みを零し、最後の仕上げへ。
同じ鉄板に卵を落とす。固くなりすぎない程度に焼いて、山盛りの焼きそばの天辺に半熟卵を載せた。紅ショウガも忘れず添えれば——。
「大満足の肉焼きそば、完成です! きっと最高の出来栄えですね!」
完成した焼きそばを前に、ムッカ自身もニコニコと喜びを隠せない。
しばらく眺め、はっと我に返る。焼きそばの皿をお盆に載せ、さっき作り方を教えてもらった焼きそバトラーの元へと歩いていった。
ムッカが呼びかけると、焼きそバトラーは皿の上の焼きそばに目を見開いた。こちらか何か言う前に、焼きそばから何かを感じ取ったのだろう。
「こちらは先程のお礼です。よければ食べてご感想をいただきたいのですが……」
「なるほど。それでは、ありがたくいただこうか!」
皿を受け取り、焼きそバトラーは箸で焼きそばにかぶりついた。
「お味の方……どうですか?」
「う……美味いッ!!」
数秒間黙っていた焼きそバトラーが、唐突に大声を発した。
「シャキシャキの野菜に質量抜群の豚肉、そこに太麺でこれだけで食べ応えがあるというのに……重ねるような甘辛ソースで箸が止まらないッ! しかも半熟卵のとろとろの黄身と混ざって、甘辛に深みが増してる……ッ! これは絶品だッ!」
「ふふっ、喜んでいただけたのなら何よりです!」
「初めてでこれほどの焼きそばを……ムッカさん、君は焼きそバトルの希望になってくれ!」
「そ、そこまでですか……? とにかく、試合も頑張りますね!」
太鼓判をもらいつつ、ムッカは試合への意欲を高めるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『焼きそバトラー『塩谷・ネギ子』』
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POW : 塩焼きそバトラー究極奥義『塩焼きそば活性体』
戦闘中に食べた【塩焼きそば】の量と質に応じて【めっちゃ塩臭くなるが肌がツヤツヤになって】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : 塩焼きそバトラー壱の技『塩焼きそば共感心』
【塩焼きそば】を給仕している間、戦場にいる塩焼きそばを楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ : 塩焼きそバトラー弐の技『塩焼きそば無限技』
手持ちの食材を用い、10秒でレベル×1品の料理を作る。料理毎に別々の状態異常・負傷・呪詛を治療する。
イラスト:高梨ゼクト
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠焼傍ヶ原・ヨネマ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●焼きそバトル、開幕
天気は快晴。気温も湿度も高すぎず低すぎない、外に出るには絶好の日。
スポーツ大会で賑わうスタジアム、その入口付近に屋台村が形成されている。
お菓子やドリンクを売る屋台やキッチンカーも見られる中、開催予定のイベントとして『焼きそバトル』の看板がいくつも飾り付けられていた。
「あなたたちが猟兵? ふーん……怖がらずによく来れたわね」
会場に到着するや否や、銀髪に緑のネギっぽい少女——塩谷・ネギ子が、腕組みをして堂々と猟兵たちを睨みつけた。背後にはどことなく生気の感じられない焼きそバトラーたちの姿。ダーク化アスリートとなって、今は彼女に従っているのだろう。
「今回の焼きそバトルはチーム戦。それも売り捌くスピードを競う形式よ。あなたたちがどれだけ戦いに秀でていたとしても……焼きそばでなら私は負けないわ」
その言葉を淀みなく言い切り、ネギ子は猟兵たちに背を向ける。
目すら合わせない、塩っぽい淡白な口調で彼女は言う。
「そうそう。私、あなたたちの屋台の前で順番に焼くことにしたから。こっちにも駒はいるけど、正直言ってあなたたちに勝てないでしょうから。だったら私が順番に各個撃破した方が戦略として正しいわ。そうでしょ?」
どこに店を構えようが、ネギ子はあちらから向かってくるようだ。それを試合前に明かすのは大きな自信の表れだろう。去っていくネギ子の後ろ姿を、猟兵たちはそれぞれの面持ちで見送った。
さて、今回の焼きそバトルは『売り』特化。
どこに屋台を構え、客をどう引きつけるか。焼きそばを焼くスピードもテクニックとともに重視される。
戦略を胸に秘め、熱き魂は激突する。そう、鉄板の上で!
焼傍ヶ原・ヨネマ
アドリブ:◎
連携:OK
塩谷・ネギ子……私の知る中では多分、一番厄介だった焼きそバトラーよ。
邪道に染まらず正統派の戦法を通してオブリビオンになっても変わらなかった焼きそバトラーは彼女くらいだったわね。
されど塩焼きそば以外を認めないネギ子はなんとしても止めなくてはならないわ。
ソースも、塩も、正統派も、インスタントも
全てを愛せてこそ焼きそバトラーよ。
私もこの長い旅でユーベルコードを進化させてきたわ、作るだけではなく新しい方向性のルールにも対応出来るように領域を強化した『焼傍領域展開・〈改〉』を発動して後方支援を行いつつ焼きそば調理に専念して販売は他の人に任せるわ。
●すべてを愛せてこそ
開幕早々、焼きそバトルは熱狂へと突入した。
フィールドの各地で猟兵の屋台とネギ子の屋台が販売合戦を起こし、太陽にも負けないほどの熱気を帯びる。
「塩谷・ネギ子……私の知る中では多分、一番厄介だった焼きそバトラーよ」
ある屋台にて、ヨネマが呟く。鉄板を睨み、いくつも並ぶ麺の塊を同時並行で焼き上げる。注文を次から次へと処理、販売担当の焼きそバトラーにパックを渡しながら、宿敵について考える余裕を残していた。
邪道に染まらず、正統派の戦法を貫いた焼きそバトラー。その精神はオブリビオン……ダークリーガーに変貌しても変わることはなかった。焼きそバトルの第一人者であるヨネマをもってしても、そうした一貫性を持った人物は彼女しか心当たりがない。
だからこそ、なんとしても止めなくてはならない。
「塩焼きそば以外を認めない。そんなことはあってはいけないわ」
「随分な態度ね。濃厚ソースみたいな厚かましさ……変わらないわね、ヨネマ」
「……来たわね、ネギ子。その塩っぽさ、相変わらずで返って安心したわ」
客で賑わう通りを挟んで向かい側。堂々と出店している塩焼きそばの屋台から声が響く。
殺到する注文を捌き、目にも止まらぬ速度でネギ子が焼きそばを調理する。困惑するスタッフに完成品を押し付け、売り上げへと変えていく。
調理速度はヨネマと互角。どちらかが押し負ければ喰われる、緊迫した勝負だ。
「けど、一番最初に勝負を挑むのが私なのは少し無謀じゃない?」
「猟兵の中に本職の焼きそバトラーはあなた一人。私が全力を出せるうちにあなたを叩く。そうすれば私の勝利は確実よ」
「勝ってどうするの? 塩焼きそばが至高だと認めさせるの?」
「至高じゃない、絶対よ! 塩焼きそば以外の焼きそばなんて、この世にいらない!」
「その青臭さも相変わらずね。ネギの臭いがしてきたわ」
「うるさい! このソース派!」
歯をひん剥き、ネギ子が調理速度を上昇させる。ヘラを高速で突き立て、火花が散った。舞った具材をパックで受け止め、販売数を伸ばしていく。
同じ屋台にいる焼きそバトラーの顔に焦燥が浮かぶ。
しかしただ一人、ヨネマだけがゆっくりと大きく息を吐いた。
「ネギ子……私が旅立つ前と何一つ変わってないわね。それは誇るべきことではある。でも、私は変わった。この長い旅でユーベルコードを進化させてきた」
吐いた分だけ深く息を吸い、右手に持つヘラを高々掲げる。
目を見開き、ヨネマは叫ぶ。
「焼きそバトルは新たなレベルに到達したわ!」
空間に変化が生じる。味方の焼きそバトラーたちの動きが効率化され、大量の注文にも対応可能になった。
一方で、ネギ子は。
「腕が、重い……!?」
ヘラを動かす速度が落ちていた。待ち時間が生じ、わずかな差ながら客がヨネマの屋台に流れる。
「これは一体……!?」
「|焼傍領域《ヤキソバトルフィールド》・〈改〉——新しいルールに対応するため、編み出した技よ。焼きそばを愛する者を支え、愛さない者を縛る……強化した領域を展開させてもらったわ」
ネギ子の塩焼きそばへの偏愛は見事なものだ。だが、その愛は他の焼きそばを否定していい理由にはならない。すべてを受け入れるヨネマに後手を取ったのは、ある意味で必然でもあった。
ネギ子は弱体化できた。あとは後方支援に回り、調理に専念すればいい。
立ち回りを再確認してから、ヨネマはネギ子に視線を送った。
「ソースも、塩も、正統派も、インスタントも。すべてを愛せてこそ、焼きそバトラーよ」
焼きそバトルは猟兵有利でスタート。
白熱する勝負の結末は、まだ誰にもわからない。
大成功
🔵🔵🔵
天羽々斬・布都乃
◎
『どこに店を構えてもよいとは、妾たちも甘く見られたものじゃな。
相手が塩だけに!』
「えっと、それでどこに店を出しましょうか?」
『ふっ、巫女である布都乃が店を出すなら――
神社の境内以外にあるまい!』
「いえ、ここ、スポーツ大会のスタジアムですけど……」
『ほれ、それくらい、いつもの未来視でちょちょいっと』
「いえ、さすがにそんなことできませんからね?」
けれど、確かに私たちが勝つには、神社の屋台っぽさを出すしかないですね。
せめて砂利を敷いたり、ハリボテの神社を背景に作ったりして雰囲気を出しましょう。
『さあ、布都乃、仕上げじゃ。神社の夏祭りに欠かせぬあれじゃ!』
火属性の陰陽術で花火を打ち上げます!
●天羽々斬神社、出張!
焼きそバトル開始前。
『どこに店を構えてもよいとは、妾たちも甘く見られたものじゃな。相手が塩だけに!』
「塩ならしょっぱいんじゃ……」
威勢よく台詞を言ったいなりに布都乃が弱いツッコミを入れる。
気を取り直して。頬に手を添え、布都乃は辺りに視線を巡らせた。
「えっと、それでどこにお店を出しましょうか?」
『ふっ、巫女である布都乃が店を出すなら——神社の境内以外にあるまい!』
「いえ、ここ、スポーツ大会のスタジアムですけど……」
『ほれ、それくらい、いつもの未来視でちょちょいっと』
「いえ、さすがにそんなことできませんからね?」
とはいえ、いなりの提案もそこまで間違っていない。自分たちが売るのは『神社の縁日風焼きそば』。神社特有の涼やかな雰囲気を漂わせ客を吸い寄せれば、勝利に一歩近づけるはず。
しばらく考え込んでから、布都乃は頷いた。
「わかりました。神社の境内にお店を出しましょう」
『なにっ!? できるのか!?』
「自分で言っておいて驚かないでくださいよ……」
何はともあれ、布都乃は出店の準備を始めるのだった。
「チッ……開始早々あそこまで圧倒されるなんて……!」
人混みをネギ子が駆け抜ける。猟兵たちの屋台へ被せるように出店し順々に勝負を挑んで潰す作戦は、早速出鼻を挫かれていた。
だが、次こそは。瞳に炎を宿して走るネギ子は直後、あっと驚かされることになる。
「な、何よあれ!?」
立派な瓦屋根と丸い柱。一目見ただけで和の伝統建築とわかる建物が、通りに出現していた。
その手前には、縁日で見かける賑やかな配色の屋台がある。屋台周辺には白い砂利が敷かれ、人々が踏んでジャラジャラと音を立てていた。朱色の鳥居まで揃っていて、何故だか神聖さを感じて体感温度が下がるほどだ。
「どうしてここに神社があるのよ!?」
『さぁ、天羽々斬神社の出張じゃ! 本日限定じゃぞ!』
「出来立ての焼きそばです! いかがですかー!」
声を張りながら、布都乃がヘラを動かして焼きそばをかき混ぜる。台の上ではいなりが踊り、客を盛り上げ続けていた。
布都乃の右目が光り、焼きそばがひっくり返される。最適なタイミングで調理される焼きそばに、客も満足して帰っていく。
「盛況ですね! お客さん、全然途絶えそうにないです!」
『うむ、やはり神社っぽさを出せたのが大きいのぅ。物珍しさに客が吸い寄せられとる!』
「少しの時間でこれだけの飾りができるなんて……アスリートアースの技術はすごいですね」
屋台の裏に設置された建物は、実はすべてハリボテだ。それでも飾りとしては十分すぎるほどで、物珍しさ、そして競技前の願掛けのような意味合いから、布都乃の屋台は注目を集めていた。
「出遅れた……! でもこれ以上、好きにはさせない!」
布都乃の屋台の向かいに設営された塩焼きそばの屋台へネギ子が飛び込んだ。布都乃の屋台を追い上げるように調理を始め、凄まじい勢いで焼きそばを焼く。
客の流れがネギ子の方へ流れ出したのを布都乃たちも察する。布都乃を一瞥し、いなりが声を張った。
『ネギ子が来おったな。流れを掴まれる前に畳みかけるぞ。さぁ布都乃、仕上げじゃ! 神社の夏祭りに欠かせぬあれじゃ!』
「はい!」
印を結び、その手を上に。
火の玉がひゅーっと屋台から飛び出し、空で華々しく炸裂。
「たーまやー!」
陰陽術で放たれた火炎は花火となってきらきらと散る。
客の視線は布都乃の屋台に集まり、また流れが戻った。
「この屋台での焼きそバトルは譲りません!」
打ち上げられて弾ける花火を見上げ、布都乃は微笑む。この後も布都乃はネギ子の追い上げにも負けず、勢いを保ち続けたという。
大成功
🔵🔵🔵
遠藤・修司
引き続き康治(修司の別人格)が出ている
カント(f42195)と参加
食材の仕込みは終わったけど……
お金を触った手で食品を扱うのは衛生面が心配
“僕”は協力してくれなさそうだしなあ……
おや、そこにいるのは見覚えのあるモーラット
焼きそば、食べたいの?
じゃあお手伝いしてくれるかな?
モーラットは可愛いし、これは家族客や女性客が見込めるね
よし、張り切って焼くぞ!
今日は天気がいいし、熱中症予防に塩分は少し多めにしておくね
夏バテ防止にビタミンB1 豚肉はたっぷり入れよう
水分補給に麦茶も用意して、モラさん達に運ばせよう
丸めた焼きそばをヘラで打ってモラさんの口に放り込み【UC使用】
どんどん焼きそばを焼いていくよ!
高崎・カント
康治さん(f42930)と参加
「もきゅ、もきゅーう……」
ヘラを握らなくては焼きそばを作れない
ヘラを握ったままだと焼きそばを食べられない……
もきゅ、最近よく見かける人(名前知らない)が焼きそばを焼いてるのです
おいしそうなのです、食べたいのです(じゅるり)
きゅぴ! お手伝いをしたら食べさせてくれるのです!?
もっきゅーん! がんばるのです!
【UC使用】でモラ手を増やすのです
兵站を守る屯田モラ兵の皆さんを呼ぶのです
お客さんに焼きそばを売るのですー!
いらっしゃいませなのですー!
ただ屯田モラ兵の皆さんは一つだけ欠点があるのです
お腹が空くと売り物を食べちゃうのです
もきゅー! 焼きそば食べたいのですー!!
●熱血!焼きそば激闘編!
屋台の調理台に並べられた食材を、康治は顎を擦りながら眺めた。
いよいよ焼きそバトル当日。相変わらず|身体の持ち主《修司》は裏に引っ込んでいるが、自分のコンディションは抜群だ。ただし、見過ごせない問題が一つだけあった。
「食材の仕込みは終わったけど……お金を触った手で食品を扱うのは衛生面が心配だな」
レジを見やる。手袋をしていれば十分かもしれないが、医師の一人として食中毒に繋がりかねない行為は避けたい。他がどうしているかは知らないが、少なくとも自分が管理する店では許容できなかった。
やはりキッチンとホールを分けるしかないだろう。
だが、人手が足りない。
「“僕”は協力してくれなさそうだしなぁ……おや、あそこにいるのは——」
困り果てていた康治の視線の先を、ふわふわと白い毛玉が漂う。
じゅるりと口許によだれを垂らして、うっとりとしていた。
「もっきゅい……きゅっぴぃ……!」
——おいしいものがいっぱい……どれも食べたいのですー……!
屋台村から立ち昇る美食の匂いに釣られて、高崎・カント(夢見るモーラット・f42195)はやってきた。
観客の胃袋を満たそうと軒を連ねた屋台の数々。しかも今日は焼きそバトルという焼きそばの大会まで開催されているらしい。流れてくる濃い焼きそばの匂いに左右から引っ張られ、カントは右往左往。その場をくるくる回っていた。
なんと、焼きそバトルは自分で焼きそばを振る舞う大会でもあるとのこと。それもとても楽しそうだ。
それは同時に、どちらかを選ばなくてはならないという意味を持つ。
「もきゅ、もきゅーう……」
ヘラを握らなくては焼きそばを作れない。
ヘラを握ったままだと焼きそばを食べられない……。
なんだかポエティックな二者択一に、カントの眉根がくしゃっとなった。かつてないほどの難題。何か解決策はないかと浮いていた最中、カントは屋台に康治の姿を見つけた。
「もきゅ?」
「どこかで見覚えのあるモーラットだ。君も焼きそバトルに来ていたんだね」
「きゅ! もきゅきゅいきゅっぴ!」
——あっ! 最近よく見かける人なのです!
偶然知り合いと出会って、ぴょんと空中でカントが跳ねる。遭遇率の割に名前は知らないし何か雰囲気が違うような気もしたが、そんなことはすぐにどうでもよくなった。
フライパンの中で、大量の湯気を発して焼きそばが蒸されていたから。
「もきゅ! もっきゅー!」
「これかい? もう少しで始まるから、すぐ出せるよう仕込んでいるんだ」
「もっきゅ、きゅぴきゅぴぃ……!」
「おっとダメだよ、これは売り物だからね」
「きゅう……」
「……なるほど。焼きそば、食べたいの?」
「きゅぴ!」
「じゃあ、お手伝いしてくれるかな? それなら食べてもいいよ」
「きゅぴぴ!?」
にっこり笑う康治の提案に、カントは目を白黒させた。
あまりにもお安い御用。小さな手をぐっと丸め、空に向かって突き上げた。
「もっきゅーん!」
——焼きそばのためにも、がんばるのです!
やる気満々のカントを見つめ、康治は微笑んで頷くのだった。
屋台に入るや否や、ネギ子はチームメイトに声を飛ばした。
「状況は?」
「それが……あいつら、ものすごい勢いで調理と配膳を!」
「何ですって!?」
たしか向かいには一人しかいなかったはず。そう思って視線を投げたネギ子は直後、あっと驚かされた。
「もきゅっ!」
「きゅぴー!」
「もっきゅ!」
エプロン代わりに頭巾や兜を着けたもふもふたちが、お盆を持って飛び回っている。お盆の上には健康を意識した肉野菜ともに多めの焼きそばと、ぐいっと飲み干したくなる麦茶の入ったグラスがあった。
屋台横に設置されたテントのテーブル席に、もふもふと焼きそばは次々到着。子どもを連れた家族や若い女性を中心に大盛り上がり。かわいい店員たちを一目見ようと客はまだまだ集まってくる。
「もきゅもっきゅーい!」
——いらっしゃいませなのですー!
活躍するモーラットたちの中で、カントはさらに素早く動く。元気に客をもてなし、お盆を両手に笑顔を弾けさせた。
モラ手となって働く彼らはカントが呼び出した三国時代の英霊、勇猛たる屯田モラ兵だ。大軍での行軍が常識だった屯田モラ兵にかかれば、効率的な食事の配置などまさに朝飯前。
「きゅぴぴ、もきゅきゅう!」
——ホールという名の戦場は、カントたちにお任せなのです!
「きゅいっ!」
「もきゅん!」
「きゅぴぃ!」
賑やかなテーブル席の様子を屋台から一瞥し、康治も歯を覗かせて笑った。
しかし、いくらウェイターが機敏でもシェフの手が止まればロスになる。すぐに意識をコンロに向け、くるりとヘラを握った。
「よし、上手く回ってるみたいだね。それじゃ僕も、はりきって焼くぞ!」
刻んだ野菜に追加して、何でも受け入れそうなほど大きなフライパンへ豚モモ肉を大量投入。思っていたより今日は陽に晒されそうだ。ビタミンB1が豊富な豚肉は夏バテ防止にきっと一役買ってくれる。
焼き目が付いたのを見て、麺をテキパキ、ドカドカ入れた。かき混ぜつつ固形の出汁を注ぎ、少し多めに塩も振りかけた。これも熱中症予防になる。
蓋をして蒸しの工程に入り、康治は視線をずらす。同じようなフライパンがコンロに並ぶ。同時並行で複数のフライパンの面倒を見て、待ち時間を短縮しているのだ。
「さてさて、そろそろこっちは完成したかな……それっ!」
蓋を取ると、ちょうど健康焼きそばが蒸し上がっていた。
「事前調査より塩の量を増やしてる……『塩焼きそば共感心』も効きそうにないわね」
「ど、どうするんですかネギ子さん!」
「慌てないで。あれだけ人手がいれば、何かイレギュラーが起きるわ」
向かいの屋台から敵情を眺めていたネギ子の推測は的中することになる。最も、彼女が想定していた種類のトラブルではなかったが。
——グウゥゥゥゥ。
屯田モラ兵たちのお腹から、ものすごい音が鳴った。
「も、もきゅうーっ!?」
何の音かと戸惑う客たちの真ん中で、カントだけが血相を変える。頬に両手を当てて叫んでいた。
屯田モラ兵、唯一の弱点。
それは——お腹が減ると空くと売り物を食べてしまうのだ!
「もきゅううう!!」
「きゅぴぃぃぃ!!」
出来立てホカホカの蒸し焼きそばの匂いを嗅ぎつけ、屯田モラ兵たちが屋台に迫る。
「えぇっ!?」
猛将の顔をして一斉に攻め込んできたモーラットの群れに、流石の康治も一瞬固まった。だが即座にヘラを構え、フライパンの蓋を一つ外す。ヘラをフライパンの中に突っ込むと、テニスの要領で麺の塊を打ち上げた。
「まぁ、ずっと食べずに我慢するのは酷だよね!」
パァンと焼きそばをスマッシュ。
大口を開けて突っ込んでくる屯田モラ兵へ麺を叩き込む。
「もきゅっぴー!」
正気を取り戻し、モラ兵が空中で踊り出す。にぃっと康治が笑みを零すが、ラッシュは終わらない。蓋を戻して別のフライパンの蓋を開け、次々麺を弾いて打つ。
「それっ!」
「きゅぴきゅぴ!」
「ほいっ!」
「もきゅーん!」
「とりゃ!」
「もぐもぐむきゅ!」
「おかわり? しょうがないな……って!」
調理を再開しようとした康治がツッコミを入れる。
「君も混ざってるんだ!?」
「もきゅー! もきゅぴもきゅー!」
——焼きそば食べたいのですー!!
ぺろり焼きそばを平らげたカントに、康治は声を張り上げた。
「こうなったら……どんどん焼きそばを焼いていこうか!」
大量の客とモーラットにより、焼きそばは猛烈な速度で捌けていったという。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ムッカ・ヴェローチェ
◎
ネギ子さんと差し向かいで勝負……緊張しますけど、退く気はありません。
全力で受けて立ちましょう!
屋台はスタジアム入口傍に設営。人通りの多い場所で挑みます。
焼きそばは、練習で作ったソース焼きそばで。
むせ返るようなソースの香りと沢山の野菜。麺に肉に卵、それにとびきりの笑顔も!
お客様がどれだけ来ても、一皿も手は抜きません!
むむ……!?(ネギ子の料理に霊感が閃く💡)
ソース焼きそばが捌けたら、新メニューを作りましょう!
こちらはソースを使わず、茹でた中細麺だけを焼きます。
火が通った麺を皿に取り、そこに揚げネギ、焼いた細切り豚肉、干しエビを。
最後に、揚げネギの香りを移した油、砂糖醤油、オイスターソースを混ぜたものを塗して完成です。
以前、中国の上海を旅した時に食べた物のアレンジです。
麺とソースは、食べる際にお客様に混ぜて貰いましょう。
立ち昇るネギ油の香りと甘辛い麺の焼きそば……最高に美味しい筈です!
勝負後はネギ子さんの一品も頂きましょう。
ノーサイドの精神で塩焼きそばを堪能します!
「御馳走さまでした!」
●異国情緒とそれぞれの武器
焼きそバトルも終盤に差し掛かり、人混みをかき分けてネギ子が走る。
フィールドで最も人が密集するスタジアム入口。
自分のチームの屋台に飛び込む直前、正面に構える猟兵チームの屋台を見た。
「いらっしゃいませー! 甘辛ソース焼きそば、いかがですかー!」
ムッカの声が通りに響く。朗らかな声と柔らかい雰囲気に道行く人々の目が引きつけられる。
手許の鉄板でかき混ぜられる、もっちりした太麺。厚い豚肉と色鮮やかな野菜も絡み、「はいっ!」というかけ声で麺がひっくり返された。重量感たっぷりの焼きそばは素通りしそうになった人をも釘付けにして、その人の胃袋を刺激する。
「お待たせしました! 美味しく召し上がってください!」
卵を乗せて、パックに綴じてムッカは客に差し出す。
とびきりの笑顔を最後にトッピング。がっちりと心を掴んで送り出し、スタジアムへ向かう客の背に手を振った。
ふぅ、とムッカは一息つく。アスリートに観戦客と、たくさんの客が屋台を訪れた。屋台の位置取りによりかなりの数を捌くことになったが、まだまだこれから。
「ここからが頑張りどころですね……!」
「そこまでよ! 猟兵!」
そのとき、賑わう群衆たちの声を貫いて、ネギ子がムッカに呼びかけた。
「随分と繁盛しているようだけど……私が来たからには、そのままにはさせないわ!」
翻り、向かいの塩焼きそば屋台の厨房にネギ子が入る。
それを見据え、ムッカはぎゅっとヘラを握り締めた。相手は焼きそバトルのトップランナー。そう意識すると、身体が強張るのがわかった。
「ネギ子さんと差し向かいで勝負……緊張しますけど、退く気はありません」
カンカンッとヘラを打ち鳴らし、気合を再装填。
「全力で受けて立ちましょう!」
通りを挟んでムッカとネギ子の視線がぶつかり、火花が散った。
激戦が、今ここに巻き起こる。
むせ返るほどの甘辛ソースの匂いと爽やかな塩の匂いの衝突。
日差しにも負けない熱気が両側の屋台から発せられる。
「ほっ、はっ……できました!」
「一、二、三、四……お待ちどうッ!」
ムッカとネギ子の提供スピードは拮抗していた。いや、ネギ子の方がやや上回っているだろうか。それに食らいつくようにムッカもヘラを振るう。
「ネギ子さん、噂通りの強敵ですね……! あれだけシンプルな具材でたくさんの人を魅了するなんて……!」
急ぐことはできるだろう。しかし、目の前の客を蔑ろにはできない。
一皿も手は抜かない。ヘラで掬った焼きそばを丁寧に包み、一人一人に向き合って差し出す。ネギ子との差は開くが、それはこちらでカバーすればいい話だ。
何かヒントはないか。調理の合間にネギ子の屋台を観察する。
やはり動きの手際はいい。塩で味付けした焼きそばに、パラパラと刻みネギをさらに増量。シャキシャキとした歯応えが期待できそうなネギ塩焼きそばが次々と完成する。
「むむ……!? ネギ、ですか……あっ!」
ピコン、とムッカの霊感が閃く。
甘辛ソース焼きそばの具材は残りわずか。追加の発注が必要だ。素早くメモを取ると、ムッカはサポート役の焼きそバトラーたちに振り返った。
「みなさん! 追加の具材はこちらでお願いします!」
メモを渡され、焼きそバトラーたちは驚く。
今まで作っていたメニューの材料とまるで違う。
「はい! これから新メニューを作ります!」
不安を感じさせない、自信たっぷりの笑みをムッカは浮かべていた。
焼きそバトルにおける材料調達は非常に迅速。
数分も経たずして具材の詰まった段ボール箱が届き、ムッカは早速中身を確認した。
注文通りの品が届いていることに頷き、調理台に向き直る。
「焼きそばを焼く技術……それはプロには勝てないかもしれません。でも、私には私の武器があります!」
声を張り、調理を再開。
まずはコンロの火を点け、沸騰した鍋に中細麺を入れた。隣にはさっきまで油通しに使っていた中華鍋を並べ、刻んだネギを油の中へさらさら注ぐ。焦げないように様子を見つつ、今度は茹で上がった麺を鉄板の上へ。
ジュウジュウと弾けるような音を立てて麺が焼ける。空いたスペースで焼くのは、細切りにした豚肉。
「今ですね!」
タイミングを見極め、麺をパックに盛り付けた。
素の状態の麺に、ムッカは具材を付け足す。揚げたネギ、豚肉、さらには干しエビ。
最後の仕上げは大胆に。揚げネギの香りを移した油に砂糖醤油とオイスタソースを混ぜた特製ソース。それを麵全体に振りかければ——。
「できました! 上海風焼きそば、揚げネギ添えの完成です!」
独特の香りが屋台から広がっていく。どことなく異国情緒を感じさせながらも、するりと食欲に結びつく匂い。この香ばしさは振りかけたネギ油に由来している。
物珍しさに、通りかかった人々の注目がムッカの屋台に集まる。客足が自分の屋台から遠ざかっていくのを察し、ネギ子は一瞬虚を突かれた。
「ふん、新メニューで注目度を上げる作戦ね。でも、それで増えた客を捌けないんじゃ意味が——」
ムッカの屋台を睨み、目を見張る。
さっきよりも客の数は増えている。だが、明らかに今まで以上の速度で焼きそばは提供されていた。
それもそのはず、この焼きそばは客が自らソースをかき混ぜて完成する。ソースを絡めて焼く時間が省略され、その分だけ手早く提供可能になる。
そして重要な味についても——ネギ油と甘辛い麺が、混ぜ合わせるほどその旨味を深める。瞬く間に評判が拡散され、屋台の前は客でいっぱいになっていく。
焼きそばを喜んで食べ進める客を眺め、ムッカは額に浮かべた汗を拭って笑った。
「ネギ子さん……この勝負、いただきです!」
「そ、そんなああああっ!?」
ピーッ、とムッカの屋台でアラームが鳴る。指定量の麺を使った合図に他ならない。
焼きそバトル。その勝利の女神が箸を伸ばしたのは——猟兵チームの焼きそばとなった。
ネギ子チームの焼きそバトラーたちがダーク化アスリートから元に戻り、我に返る。
ただ一人、ネギ子だけが競技終了後のフィールドに残っていた。
「……今回は、私の負けね。何も言うことはないわ。次こそは必ず——!」
「ネギ子さん!」
立ち去ろうとしたネギ子に、ムッカが声をかける。
「焼きそバトル、お疲れさまでした。ネギ子さんもお疲れですよね。一人、フィールドを走り回って……」
「あなたの最後の焼きそば、あれは何?」
会話を無視した質問に、ムッカが言葉に詰まった。それでも柔らかい口調を保って、彼女は説明する。
「以前、世界のあちこちを旅していて……中国の上海に行ったこともあるんです。その上海で食べた焼きそばが美味しかったので、アレンジして出してみました」
「なるほど、世界は広いのね……」
「そうそう、ネギ子さん」
「何よ?」
「ネギ塩焼きそば、一ついただけませんか?」
素っ頓狂なお願いに、ネギ子が目を丸くする。一方でムッカはにこにこした笑みを崩さない。
「ほら、ノーサイドの精神ですよ。それに対面でネギ子さんの焼きそばを見てて、食べたかったというのもありまして」
「そこまで言うなら仕方ないわね……少し待ってなさい」
一緒に屋台まで付いていくと、ネギ子は一瞬で焼きそばを調理した。
出来立てのネギ塩焼きそばに、ムッカが手を合わせる。
「いただきます!」
ネギと絡めて麺を啜る。さっぱりした塩味にネギのちょっとした辛み。素朴な味わいに対し、満足感は非常に高い。
「ネギ子さんの焼きそば、とっても美味しいです!」
「……そりゃどうも」
「お礼といっては何ですが、こちらをどうぞ」
焼きそばの容器を何個か、ムッカがネギ子に差し出す。
中身は猟兵たちが調理した焼きそばだ。ムッカが調理した焼きそばも入っている。
「あなたを倒そうとみんな頑張ったんです。よければ食べてほしいなと思って」
「わかったわよ。これもノーサイド、ね」
ネギ子がじーっとパックの焼きそばを見る。
自分の信念を貫くのは立派だ。しかし、没頭するがあまり他を顧みないのはいただけない。勝負が終わればみんな仲良く。それがスポーツのいいところのはず。
きっと彼女はもう大丈夫。横顔を眺めるムッカの箸が、するっと空を切る。いつの間にかネギ塩焼きそばを食べ終えていた。
お腹と仕事の達成感を満たし、ムッカはもう一度手を合わせた。
「御馳走さまでした!」
●空っぽの皿の上で
猟兵と焼きそバトラーの帰還した後、ネギ子はフィールドの片隅に座っていた。
空のパックを傍らに重ねて積んで、ふと空を見上げる。
塩焼きそばを極めた自分が、異世界から来た猟兵たちに負けた。彼ら彼女らは創意工夫を凝らし、様々な方法で自由に戦っていた。
最初に勝負を挑んだ宿敵の言葉を、頭の中で反芻する。
「すべてを愛せてこそ、焼きそバトラー……」
塩焼きそば以外を認めないことが、本当に正しいのだろうか?
塩とネギを活かすとしても、この枷を外せばもっと焼きそばの道を高められるのでは?
事実、味わった猟兵たちの焼きそばは——とても美味しかった。
「……生焼けだったみたいね、私は」
大きく息を吐いたネギ子の瞳に、炎が灯る。
熱き焼きそバトラーの魂が、ダークリーガーのオーラをも吹き飛ばす。
以降、ネギ子の悪行について聞く者はいなくなったという。
もし望めば、彼女はまた現れるかもしれない。
ダークリーガーではなく、正しい志を持った焼きそバトラーとして。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2024年08月08日
宿敵
『焼きそバトラー『塩谷・ネギ子』』
を撃破!
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