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其の天秤は傾かぬ

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シーニュ・レヴォリュシオン




 LOGIN――ようこそ、ゴッドゲームオンラインの世界へ。

 目の前に広がる電脳空間。|統制機構《コントロール》の支配から逃れられる唯一の場所。
 そして定められた人生とはまた違った人生を擬似的に得られる場所。少なくとも、いつもの場所にいつもの様に向かう黒衣の偉丈夫たる姿を有した男はそれをこの世界に求めているのだが。
(「尤も……この男もそうなのだとは限らない訳だけど、な」)
 冒険者の酒場、多くのクエストが掲示されている壁を見つめるエルフの青年――シーニュ・レヴォリュシオン(真理の射手・f42743)の容姿端麗な姿を見かけ。男は軽く息を整えてから声を掛ける。
「何か興味の惹くクエストでも出ているか?」
「…………っ」
 シーニュは一瞬動きが固まったかの様に見えたが――静かにゆっくり振り向くと、僅かな間を置き、無表情のまま問うた。
「アルデバラン、様……ですよね?」
「待て。やはりアンタ、俺のこと鎧兜だけで認識してるだろう」
 アルデバラン・タウルス(断罪の黒曜・f41856)は多少引き攣った表情を浮かべるものの、当のシーニュは首を横に振って淡々と告げるのだ。
「冗談ですよ」
 半分は、と小声で言った気もするのが、流石にもうツッコむ気はしない。
「それにしても……」
 とシーニュは小首を傾げ、アルデバランの街中用衣服を眺めてポツリと一言。
「町中とフィールドでわざわざ装備のオンオフなど、面倒ではありません?」
「イイだろう別に。それに町中で厳つい鎧兜はどうかと思うのだが」
「目立つから探しやすくて良いんですがね、ボクとしては」
 しれっと告げるシーニュ。初めて会った時より、この現実主義的な所は合わないとアルデバランは感じている。
 プレイスタイルの違い、と言うヤツか。シーニュは淡々とクエストをこなし、敵を倒す事を好むハンタータイプのプレイヤーだとすれば。アルデバランはこの世界に現実では叶わぬ自分を投影しようとしているロール重視のプレイヤーなのだろう。
 しかしそれはあくまでアルデバランから見た主観である。案外シーニュもこの世界に少しづつ馴染もうと努力している過程はずっと見て来てはいるのだが。
「……うん、このクエストにしよう。バランさん、お付き合い願えますよね?」
「元よりそのつもりだ。開始手順は任せて大丈夫か?」
「ええ、お陰様で覚えました。そうそう、回復アイテムも買いに行かないと行けませんね」
 ようやく見せた笑みと共にギルド受付に向かうシーニュの姿を見て、アルデバランは己の装備を確認しながら当初出逢った頃と今の彼とを比較し思い出す。

 初遭遇時の感想は、装備と技術が余りにも不釣り合いだと言う事だった。
 購入可能な中でもかなり高額な装備。その端麗な|エルフの青年姿《アバター》とてそれなりの金を積まねば得られない事は見て明らか。そして取得され用いているスキルも滅多に見ぬ高性能高威力なもの。
 ――故に。その超高スペックを全く活かしきれずに苦戦する姿を見かけた時にはまず目を疑ったものであった。
(「いや、あのままだと詰むだろ……?」)
 ぎこちない動きは初心者が故なのだと解った。そのくせ分相応以上の敵を相手に一人で無茶をする姿。
 危機の場を見かけたのもきっと何かの縁だのだろう、と。
「遠距離職はソロプレイに向かないと思うのだが」
「……っ!!?」
 考えるより先に間に割って入り、自らが盾となりながら後ろから射る様とに叫んだ事は今でも鮮明に覚えている。

「感謝しているんですよ。お陰でこのゲームの事、色々と教えて頂けましたし」
 クエストの申込みと道具屋での買い物を済ませ戻って来たシーニュは告げる。今では思う通りに動き回り、戦闘でも目を見張る立ち回りを覚えた。ゲーマーとしての筋は良いのだとアルデバランもそこは感心していた。
 もう一つ、感心すべきかどうか筆舌し難い点が一つ。
「相変わらず高価なポーションを買い込んで来てるのな……」
「え、必要でしょうこのくらい」
 この金に糸目を付けぬ性格。最初から重課金装備な所と言い、どれだけ注ぎ込んでるんだと問いたくなる。恐らくリアルでそこそこの高収入なのは察せられるが聞ける筈も無い。最低限の課金で済ませている己と釣り合うプレイヤーだとは全く思えないのだが。
「行きましょう、バランさん。ボクは貴方の|訪れ《LOGIN》を待ってましたからね」
 元々世話を焼く性格なのもあり、ゲームの最低限の知識やマナーを教えるべく暫し共に行動している内に。
 嗚呼――以来シーニュはいつも待っているのだ。彼が来る事を。
「……ああ、今回も宜しく頼む」
 冒険エリアに移動し、黒衣を漆黒の鎧兜に変更するアルデバラン。共にこうしてクエストに赴く様になったのはもう両手の指で数えられない。

 襲い来るゴブリン達を断罪の黒曜の巨大剣が一度に薙ぎ払う。粗悪な剣や棍棒の攻撃なぞ何のその。
「っりゃああぁっっっ!!!」
 強固な|前衛《タンク》として敵の攻撃を惹き付け、近距離高威力の攻撃で捻伏せるアルデバラン。
 今の攻撃でまだ息のある個体に向け弓を番える真理の射手。矢を放ち止めを刺しながら周囲を警戒し叫ぶ。
「バランさん、左より新手4匹!!」
 |後衛《スナイパー》としてHP削れた敵を着実に仕留めつつ、アイテムでの回復も担うシーニュ。
「承知! 貴殿は絶対前に出るなよ!!」
「バランさんこそ無茶はなさらないで頂けますよね!?」
 手負いのゴブリンを放置し、新手に向かうアルデバラン。そちらはシーニュが纏めて仕留めてくれると信頼しているからこそ、何も言わずとも任せられる。そしてシーニュ自身も冷静に状況把握をしながら最適解かつ合理的な判断をし、立ち回ってみせるのだ。

 お互いの得手不得手を活かした最高の|相棒《バディ》として、口には出さぬものの間違い無く双方認識している二人。
 現実世界の互いの名前も顔も素性も知らずとしても。
 この二人の心の中に、アバターを通じて信頼と絆が芽生えている事は間違い無いのだろう。
 そしてそれが、互いの|現実世界《真》の姿を知ってしまった時に如何に影響するか、未だ誰にも計り知れぬのだが――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年06月14日


挿絵イラスト