Plamotion Memorial Episode
●ぷきゅぷきゅぷきゅのぷきゅぷきゅ
つまりはどういうことなのかというと、とっても楽しかった! ということである。
今更翻訳しなくてもわかる、というのであれば、それは大変失礼したと言わざるを得ないことであるが、しかし、敢えて言わせていただこう。
コミュニケーションを持って社会というものを構築する動物が知性体であるというのならば、言葉を怠ってはならないのだ。
「ぷきゅ!」
「へえ、なるほど」
「きゅぴ!」
「ふんふん」
巨大なクラゲ『陰海月』の触腕がタブレットの表面に触れてスワイプするたびに新しい画像が表示される。
とある動画のスクリーンショットであろう。
それを覗き込むようにしているのが『夏夢』である。
正体不明にして性別不明の幽霊。
彼なのか彼女なのかは未だ判別できていない。
だがまあ、この際は良いのである。
彼なのか彼女なのかは些細な問題だ。重要なのは、今まさに『夏夢』が見ている画面にあった。
「きゅ!」
「他世界にはいろんなスポーツ競技があるんですね。これなんか面白い形をしていますね。え、これ回転しているんですか?」
眼の前には高速回転するプラスチック製のホビーがあった。
『プラブレード』と呼ばれる玩具である。
だが、アスリートアースにおいては、このプラスチック製の玩具を自分で作り上げ、自分で動かし、自分で競い合う競技が存在してる。
それが『プラモーション・アクト』――通称『プラクト』である。
この屋敷の主である馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)たちが時たま部屋でカチャカチャやっているのが、この『プラクト』の競技に使うプラスチックホビーであると『夏夢』は知っていた。
とは言え、こうして実際に競技の写真や動画を見ているとにわかに信じがたいものがある。
「えぇ……さっきから画面の端でちょこまかしてるのは?」
「きゅ!」
これはこの人が動かしているんだよ! と『陰海月』は別の写真を示す。
『五月雨模型店』のアスリート、『エース』と呼ばれる『アイン』という少女であった。青と赤のカラーリングをしたロボットホビーは彼女たちが世界大会であるWBCで作り上げたものだ。
決勝戦まで、このホビーで戦い続けていたのだという。
「この人すごいんですね。早すぎて、全部見切れていたり、ぼやけていたりしていますけど」
「きゅきゅきゅ!」
こうやって、こうして、こう! と『陰海月』が触腕で動きを再現してくれているが、さっぱりわからない。
それくらいこの競技においてはすごい人なのだろうということが伝わってくる。
「よほど楽しかったんですね」
「きゅ!」
そう、とっても楽しかったから話を聞いてほしくて『陰海月』は世界大会が終わってすぐに屋敷に戻り、『夏夢』に撮りためていた動画と静止画を見せては、これはこうで、と一から説明し続けていた。
あんまりにも熱心なものだから『夏夢』も止めるに止められない。
お猫様は欠伸をして我関せずと言わんばかりである。ヒポグリフの『霹靂』と共に窓際でのんびりしている。
とは言え、他世界のスポーツ競技というものには興味がある。
「あら、これは?」
見ると巨大なロボット……シルエットからかろうじて人型であろうというものを見つける。
それは『新生フィールド・オブ・ナイン』たちが操るホビーが超合体して生み出された超巨大ホビーである。
あまりにも巨大である。
9体のホビーが合体したにしては、明らかにオーバーサイズである。
質量保存とかなんかそこら辺の常識がガラガラと崩れ去っているような合体機構だ。
「きゅきゅ~ぷきゅ!」
「へぇ、そんなにすごかったんですか? 同時に6つの技を繰り出してくる? そんなの反則じゃあないですか?」
でも、それをおじーちゃんたちとなんとかしてきたんだと『陰海月』は語る。
そんな常識外な攻撃ばかりしてくるなんて、余程苦戦したのだろうなと『夏夢』は思う。だが、怪我がなくてよかった。
戦いに赴くと必ずや一つや二つの怪我はしてくるものだ。
避けようのないことだし、わかっていることだ。
けれど、このアスリートアースにおいてはそうではない。
特に『プラクト』において人の生き死にはない。怪我もしない。
無縁のものなのだ。
それを生ぬるいと言う者もいるかもしれない。
「でも、平和的に決着がつくならそれに越したことはないですよね」
「きゅ~!」
「ふふ、とても楽しかったの、良くわかりますよ」
「きゅきゅ!」
じゃあ、次はこっち! と『陰海月』がタブレットを操作していく。
次々と変わる場面。
そして、最後に表示された画面に笑みがこぼれる。
対戦チームも、猟兵も、それこそフォーミュラたちもみんな垣根などないというように綯い交ぜになって笑顔を向けている画像。
決勝戦が終わった後の記念撮影。
それを見ればわかる。
言葉以上に、どれだけ楽しかったのか、が――。
成功
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