|銀幕庭園《ニューシネマパラダイス》『名画座・栄華』 ~シルバーレイン・銀誓館学園近くの潰れたミニシアター~
嘗ては賑わいを見せた廃映画館。
映像を映さなくなって久しいその銀幕に、一条の光が灯った。映写機のフィードリールが動き出し、懐かしさを孕んだ動作音が館内に響く。
「『はじまりの猟兵』の奴め……二つの三日月のこともバラすとは、余計なことを……!」
昏い館内の中央の座席に、ひとりの男がいた。スクリーンから溢れる光で革のジャケットとパンツ姿が浮かび上がるも、その表情まではサングラスに隠れて窺い知れない。
「だが、そうか……“壊し屋”に命が下ったか。ならば俺も、そろそろ本格的に動き出す必要がありそうだな。
『書架の王』とやらの思惑は知らないが、ファイナルナイトメアが近いのは間違いない……!」
堪えきれぬ笑みをくつくつと洩らしながら、男――|名画座《めいがざ》・|栄華《えいが》は口角を上げた。
ナイトメアビーストたる己が最大限の力を発揮できる『ファイナルナイトメア』。抱き続けた野望を果たす機会としては、これ以上はあるまい。
湧き上がる高揚感のまま、抱えた|愛器《エレキギター》で流れるようにマイナー・コードのアルペジオを弾く。
狂いのないリズムと音程――本人はそう思っている――で奏で上げる実力。それは自身の喉にも言えた。この演奏力と歌唱力があれば、偉大なロックシンガーになることも夢ではなかったはずなのに――。
「俺の素晴らしさを理解できない無能な人間どもめ! てめえらが希望のない闇に落ちていくのも時間の問題だぜ!」
俄に胸中が波打ち、心の奥底から憎しみが膨れ上がる。
それが、栄華の原動力。俺を認めぬ現実なんぞは、人間ども諸共“映画”で喰らってやればいい。
渇望して止まぬのは、全人類への復讐と不幸。ただそれだけ。
そうしてファイナルナイトメアが訪れた暁には、終ぞそれが叶うのだ。
「ヒャーッハッハッハ! これからは俺様の時代だぁッ!」
手始めに――否、その一幕目だからこそ、狙うべきは他の誰でもない、己の宿敵。
最高にビッグな存在になるためには、避けては通れぬ宿縁。
「貴様の命運もここまでだ……目に物見せてやるぜ!」
サングラスの奥の双眸をぎらつかせた男は、愛器を鳴らしながら立ち上がった。最後の一音を高らかに響かせると、満足気な笑みを見せる。
――さあ、ファイナルナイトメアの始まりだ!
成功
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