積み重ねる先にある標
●英雄
人の一体何が英雄にするのか。
考えてみた。
源・朔兎(既望の彩光・f43270)は、けれど、考えることを五秒でやめた。
何故かって。
「まあ、とりあえずなにかやってみる、か」
考えるより体を動かす方が簡単だったからだ。
UDCアースは朔兎が思う以上に複雑怪奇だった。
目まぐるしく変わる風景。
灰色の摩天楼。
硬い地面。
霞む空気。
どれもが朔兎にとっては、せせこましく感じるものだった。
けれど、人の営みがそう簡単に変わるわけじゃあない。
「ゴミの分別っていうものがあるんだぞ」
「追い剥ぎだってもう少しうまくやる。けれど、運がなかったな」
「もう大丈夫だ。安心しろ」
ゴミ拾いにひったくりに人命救助。
やることは枚挙にいとまがない。
少し街を歩けば、トラブルが湧出するようだった。些細なことから、大きな事件に発展思想なものまで多くがあっちこっちで起こっていた。
「なんて忙しい世界なんだ、ここは」
空を見上げる。
だが朔兎はめげない。
なぜなら、自分は支えられているからだ。
言うまでもなく師匠たちによって。
生きる意味を探す。けれど、見つけられずにもがいてた己に標を示してくれたのだ。
「……むっ!」
朔兎の耳が捉えるのは悲鳴めいた声だった。
また何かが起こったのかも知れない。捨て置くことはできない。
己の体躯がどうして他者より優れているのかを考える。
他者を圧倒するためか? 違うと思う。
それとも何か大きな事を為すためにあるのだろうか? それも違うと思う。
走る、走る。
アスファルトを蹴って悲鳴の元へと駆け出していく。
大きなことはできなくたっていい。
けれど、小さな、誰かが見過ごすような些細な事を取りこぼさないようになりたいと思ったのだ。
大きな力があればいいと願う。
「はぁ……1日中駆けずり回りっぱなしか……」
疲れはしなかったが、体が栄養を求めて腹の虫を鳴かせている。
コンビニエンスストアでおにぎりとホットスナックの鶏肉を上げたものを頬張る。
悪くはないけれど、物足りない。
このジュースという甘い飲み物も好きであるけれど。
「やっぱり家のご飯がいいな、うん」
今日は此処まで、と朔兎は一日のヒーローとしての人助けを終えて帰路につく。
確かに己ができることは多くはない。
けれど、今自分にできる大きなことが一つだけある。
それは帰りが遅いと家族を心配させないことだ――。
成功
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