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#昭和レトロスチィムパンク怪奇PBW『ヤケアト』

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#昭和レトロスチィムパンク怪奇PBW『ヤケアト』


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「アナグラへようこそ、フクロウの諸君」
 列車を降りる“フクロウ”たちを、スーツの女――イリス・シキモリ(f13325)が出迎える。
「……何が何だか、という顔だな」
 イリスは煙草に火をつけながら、面白がるように笑った。
「道すがら説明する。ついてこい」
 そうしてその場から踵を返し、“フクロウ”たちを促しながら歩き出す。
 有人の改札口で駅員に切符を切らせ、駅構内から外へ。
 そこに広がる空間は、巨大な地下空洞――そして、そこに作り上げられた『街』であった。
「まず|異世界人《マレビト》のために説明する」
 イリスは咥え煙草のまま、振り向きもせずに話し始めた。
「ここは|骸の海宇宙《第六猟兵世界》の外にある|別世界《アライアンス世界》のひとつ、通称『ヤケアト』だ。
 ワールドの性質としては|大正日本世界《サクラミラージュ》に近い。他のワールドの日本国の歴史でいうと、今は世界大戦後の時期にあたる」
 イリスは煙草を指示棒がわりに街並みを指した。
 そこにあるのは、深く角ばったフォントで『アナグラ駅前銀座』の文字を刻むゲートから続く屋根つきのアーケード商店街に人々の雑踏。
 そこかしこに掲示されたホーロー看板には薬品や栄養ドリンク、レトルト食品や菓子のカラー広告がその存在を主張している。
 木造の塀の間を三輪トラックが行き交い、路地裏からは悪ガキどもの鉄製のベーゴマをぶつけ合う声が響き合う。
 そういう世界である。
「……そして、ここは『アナグラ』だ」
 イリスは煙草で空を指す。
 仰ぎ見る視線の先に空はなく、ただ岩盤の天井ばかりがあった。
「正式名称は『第弐帝都』。通称アナグラ。東京都心部直下に存在する地下空間。このあたりはアナグラの中央に位置する……らしい」
 東京地下。地底に造られたドーム状の巨大空間――いままさに君たちの降り立った『中央エリア』を中心としながら、そこから無秩序かつ無数に伸びた通路の先に更にまた開発された空間があり、そうした地下空間が蟻の巣めいて複雑怪奇に絡み合いながら拡大を重ねてきた地下世界。それがここ『アナグラ』である。
 その全容を把握している者は誰一人としていない、とも言われている。
「お前たちにはここで“フクロウ”の仕事をやってもらう」
 そうやって、しばらく歩いたところで――イリスが立ち止まる。
「依頼主は『第二帝都対策部』。フクロウの通称で呼ばれる……ざっくり言えば|アナグラ《ここ》の治安維持組織だ。私もそこからの依頼で動いている」
 それから、イリスは煙草を潰して視線を動かした。
 視線の先の建物に、『第二帝都対策部』の文字。そこはまさに組織の活動拠点であった。
「ここは|地上《そと》と隔絶された魔境でな。空気は濁っているし治安は最悪だ。そこらで喧嘩しようが煙草をポイ捨てしようが大抵の人間は見咎めやしない」
 そう言いながら、イリスはポケットから引っ張り出した携帯灰皿缶に吸殻を押し込んだ。
「地上にいられず逃げ込んで来た|逃亡犯《モグラ》に日の下を歩けない|小悪党《ネズミ》ども。|魑魅魍魎《ウロ》から|本物《ガチ》めの大悪党までなんでもありだ。……もちろん、|異世界人《マレビト》にはお馴染みの超常能力使いもいるぞ。嬉しいな」
 イリスは喉を鳴らして嗤う。それから、親指で対策部の拠点施設を指した。
「そして、お前たちの仕事は|そういう連中《・・・・・・》を|どうにか《・・・・》するこの組織……|第二帝都対策部《フクロウ》の一員として、この|掃き溜め《アナグラ》の治安維持活動を行うことだ」
 せいぜい励め。イリスはそう言って一度頷いた。
「話はわかったな。では、そこの建物で書類を書いてこい。そこからは自由行動になる。このあたりを散策して土地勘を掴んでおけ」
 話は以上だ。イリスは無責任に言い捨てると、雑に手を振ってどこかへと向かっていった。

 君たちがこれからやるべきことは、この|第二帝都《アナグラ》の探索だ。
 街を歩き、人と交わり、この世界を知り、これから起こるかもしれない事件に備えよう。
 その最中にも多少のトラブルはあるかもしれないが……この地に呼ばれた君たちなら、なんとでもなるはずだ。


無限宇宙人 カノー星人
★このシナリオはPBWアライアンス『ヤケアト(https://www.yakeato.com/)』内のシナリオとなります。あらかじめご了承ください。

 ごきげんよう、フクロウ諸君。カノー星人です。
 ご存じない方のために説明いたしますと、我々カノー星人はPBWリプレイの執筆による地球侵略を目論むきわめて邪悪な侵略宇宙人です。よろしくお願いいたします。
 この度、PBWアライアンス『ヤケアト』の登録MSの末席に加えていただくこととなりました。以後お見知りおきください。

 我々カノー星人もアライアンス世界への参加は初となりますので、今回はワールドの雰囲気を掴む意味も兼ねて日常シナリオから入らせていただければと思います。
 はじめての方もお気軽にどうぞ。新しい世界をともに作り上げてまいりましょう。食堂で酒飲むだけでもいいですし、そのへんのチンピラとケンカしにいっても大丈夫。思うままに新天地への第一歩を刻みましょう。
 よろしくお願いいたします。
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第1章 日常 『プレイング』

POW   :    肉体や気合で挑戦できる行動

SPD   :    速さや技量で挑戦できる行動

WIZ   :    魔力や賢さで挑戦できる行動

イラスト:ヒトリデデキルモン

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

白斑・物九郎
小世界とやらには初めて遠征するトコですわな
ま、どんなモンか見物してやろうじゃニャーですか


●建物で書類書いて来る
・対策部の人らと
ァ?
『フクロウ』?
俺めはモノクロウですっつの
ああ、こっちの界隈での呼び習わし方っスか(理解)

ソレはさておき、俺めのコトは――まあなんでもイイですわ


●アナグラ駅前銀座をブラつきに行く
・どんな文化習俗が根付いているのか、色々な店先を見て回る
・ブン殴って黙らせる系の治安維持活動が求められる状況を見付けたら、ここらの輩の戦闘力の多寡を推し量る意味でもいっぺん介入、雷雨を真横に吹かせる超常能力【雷雨の王】を躊躇なくブッぱなしに行く


白斑・物九郎
――俺めのコトは、ワイルドハントと呼べ



「フーン……。これが|小世界《アライアンス》とやらっスか」
 白斑・物九郎(f04631)は、値踏みするような目で周囲の様子を見渡しながらアナグラをゆく。
 地下空間特有のひやりとした空気。鼻先に感じる澱んだ匂い。遠くから聞こえる喧噪。
 ――|案内役《グリモア猟兵》は|大正日本《サクラミラージュ》に近い、などと言っていたが、どちらかといえば|退廃世界《サイバーザナドゥ》の爛れた空気の方が似ているように物九郎は感じた。
 しかして。
「ま」
 剣呑な空気も刃傷沙汰も、暴力でないと解決できない事態も。
 物九郎にとっては慣れたものだ。
「どんなモンか見物してやろうじゃニャーですか」
 気負いなく。むしろ、面白がるように。口の端を緩く歪めながら、物九郎は進んだ。
 そうして。
「――やあやあ! ようこそようこそ!」
 最初の目的地である第二帝都対策部の拠点へと到着した物九郎を迎えたのは、おおきな丸眼鏡が印象的な――男とも女ともつかない、妙な雰囲気の職員であった。
「キミが新顔のフクロウだね。会えて嬉しいよ」
 施設の中へと物九郎を案内したその職員は、自らを『匙・当適』――ここ第二帝都対策部の|部長《責任者》と名乗った。
「ァ?」
 物九郎は眉を顰める。
「なんスかその『フクロウ』っつの。俺めはモノクロウですっつの」
「あー、いやいや! 名前を取り違えたわけじゃーないんだよお」
 物九郎から醸し出されかけた不機嫌の雰囲気に、匙は慌てて取り繕った。
「|アナグラ《ここ》の符丁みたいなもんでね。|ここいら《アナグラ》の住人は洞窟住まいの『コウモリ』なんて言ってて――そいつを取り締まる|対策部《ボクら》は、コウモリ狩りのフクロウだなんて呼ばれてる、ってワケ」
 あるいは、嫌われ者の『鳥野郎』なんてね。匙は笑った。
「はーん……。ニャるほど。こっちの界隈での呼び習わし方っスか」
 物九郎は合点した。世界が異なれば|猟兵《自分たち》の取り扱いも変わる、というのはこれまで訪れてきた多くのワールドでも経験してきたことだ。|この世界《ヤケアト》での自分たちの立場は、ここの|治安維持組織《対策部》の|狩人《フクロウ》ということか。
「わかってもらえたかい。それじゃ、そこの書類に必要事項を」
「おう」
 机に置かれた書式に物九郎は向かい、そこにペンを走らせた。
 氏名、出身、簡単な略歴、家族構成や結婚歴、逮捕歴の有無などの必要条項を物九郎は面倒くさそうに記入してゆく。
「いやあ、しかし。嬉しいよ。|外の世界の人たち《マレビト》だなんてはじめは眉唾と思ってたけど」
「ま、来たからニャそれなりに働いていきますでよ」
「頼もしい限り」
「おう」
 物九郎は頷いた。
「オシ」
 そうしてから、記入を終えた登録書式を匙へと提出する。
「どうも。それじゃ、これでキミは晴れて|第二帝都対策部《ボクら》の仲間だよ」
「へいへい」
 ひとまずこれでやるべき手続きは終えたか。そんなら、と物九郎は席を立ち、匙へと鷹揚に会釈してから気だるく手を振って歩き出す。
「それじゃ、よろしく頼むよ。モノクローくん」
 手を振り返して、匙は笑った。
「アー……いや」
 声をかけられて、物九郎は一度立ち止まる。
 それから物九郎は振り返った。
「俺めのコトは――」
 そこで口をついて出たのは、物九郎の口癖とも言える口上である。
 本来であればこの先は『猟団長と呼べ』だとか『王と呼べ』だとかの要求が入るが、ここで物九郎は一度言葉を止めた。
 そう。このまったくの新天地であるヤケアト世界においては、現時点では物九郎は単なる来訪者の一人にすぎないのだ。よそ様の領域でなにも為さぬうちからいきなりデカいツラをしようというのもはばかられた。
「――まあなんでもイイですわ」
「わかった。じゃ、これからよろしくね。モノクローくん」
 おう、と適当に手を振って、今度こそ物九郎は対策部拠点を後にする。

「さッ、て」
 そして、ここからは視察の時間だ。
 治安維持活動、などというのをしようにも、世界そのものへの理解ができていないうちは難しいことだろう。
 そうした|案内人《グリモア猟兵》からの勧めもあって、物九郎は街の中心部である『アナグラ駅前銀座』へと赴いていたのだった。
 そこは、石畳の通りに石造りや煉瓦造りの建物が目立つ街並みであった。
 事前に調べた『昭和ニホン』なるイメージとはやや異なる雰囲気に少々面食らう物九郎であったが、|地下世界《アナグラ》の環境から考えれば建材として煉瓦や石材が多用されるのも当然かと得心する。木造建築が少ないのは、陽のささぬアナグラでは草木も育たず木材が希少であるゆえかと納得して。
「おっ、ニイちゃん見ないカオだね! こんなトコまで何しにきたんだい!」
 ――物九郎の思索を打ち切ったのは、威勢のいい男性の声であった。
「散歩っすわ」
「そうかいそうかい! ンじゃあ散歩のお供にウチのモグラコロッケ持ってきな! 美味いぜ」
 見れば『肉のモグラ屋』を掲げた店舗のカウンターから、お店のおじさんが物九郎へと話しかけていた。
「おう」
 押しの強い肉屋のおじさんが、物九郎へと揚げたてのコロッケを押し付ける。物九郎は紙に包まれたそれを受け取って、一口齧った。
「フム……」
 物九郎が口にしたそれは、コロッケだと名乗ってこそいるものの、彼の知るそれとは少々異なる趣だった。
 衣がついていないのだ。
 それもそのはず。アナグラでは小麦が育たぬ故に小麦粉の入手は地上からに輸入にのみ頼っており、パン粉――パンそのものの原料となる小麦粉自体が希少な食材なのだ。地上のそれと同じ衣付きの揚げ物を目指せば、価格の高騰はやむを得ない。そこで生まれたのがこのアナグラ風の衣のないコロッケなのだ。
 予想外の食感に物九郎は面食らうが、しかして不味いわけではない。さくりとした食感の奥に、ほこほことした素朴な芋の甘味が広がる。
 どれ、ともう一口噛み締めれば――
「ム?」
 芋に交じるひき肉の味にいき当たる。しかして、物九郎の鋭敏な嗅覚はここに違和感を覚えた。
「……食ったコトのない味の肉っすな。これ、何で?」
 豚肉――のようであったが、それよりもやや野趣のある味わいであった。
 畜肉というよりは、|牡丹《イノシシ》のような|獣肉《ジビエ》が近いかと物九郎は思う。
「オッ。……そうか、|地上《ソト》の奴ぁ知らんか。そりゃブタモグラよ」
「ブタモグラぁ?」
 ブタモグラ。
 モグラから品種改良を重ねて家畜化した生き物なのだと肉屋の店主は説明する。地上とは異なる環境である故に、アナグラではこの地下の環境に適応した生き物で畜産を行っているのだという。地上から輸入する必要のある牛や豚のような家畜の畜肉よりもアナグラ内では安価で手に入るため、このあたりでは一般的な食材なのだ。
「ほーん……。まァ、別の世界でも色々ありますしな」
 モンスターだの恐竜だのを狩って喰う文化の世界に比すれば、常識的な方の食材かと物九郎は理解した。
「しっかしまア、なかなかユニークな世界じゃニャーですか」
 アーケード屋根のガラス張り天窓から物九郎はアナグラの空――岩盤の天井を仰いだ。
 多くの世界を巡って来た物九郎だが、ここまで暗い世界も珍しい。物理的な暗さで言えば下層世界であったダークセイヴァーと同レベルかと物九郎は思った。
「住めば都ってヤツよ。意外に水は豊富で綺麗だし、ブタモグラも芋も育つ」
「へぇ、水が?」
「地下水脈ってェ言葉があるだろい?」
「納得しましたわ」
 しかして、肉屋が言うには住環境は案外悪くないのだという。耳を澄ませばたしかに水路を流れる水の音が聞こえるし、駅前銀座はなかなか活気付いている。
「そんじゃァ会計……」
 そんならもうすこし見て回るか、と物九郎が考えた——そのときであった。
「ア゛ッダゴラ゛ア!!」
「テメェ~……アニキに向かってカネ払えたァどういう了見でい!」
「あん?」
 聞こえた騒ぎ。何事かと思い物九郎は視線を向ける。
「誰のお陰でココで商売できてると思ってンじゃテメエ!」
 ばぁんッ! 立て看板を蹴り壊す暴力の音。そこではあからさまな暴漢が酒屋の前で怒鳴り散らしていた。
「この俺をウロ組合の|大円城《だいえんじょう》|滅羅己《めらみ》様と知っての抵抗か? ア゛ア゛!?」
「ヒィ……! お、お許しを……!」
 暴漢――ウロ組合の滅羅己と名乗った男は、その手の中に炎を灯していた。
「なんスか、ありゃ」
 その様子を遠巻きに眺めながら、物九郎は肉屋に問う。
「アー……ありゃ“組合”の|ウロ《異能》使いだよ。このヘンでハバ利かせてる|無法者《ゴロツキ》どもさ」
「ほーん……」
 さくり。モグラコロッケの最後のひとかけを口に放り込んで、物九郎は目を細める。
「……ンじゃ、丁度いいっスわ」
 オアイソ、と言い捨てながら物九郎はカウンターに小銭を放り、肉屋の店先に背を向けながらゆっくりと歩き出す。
 そうしてから。
「オラッ!! この滅羅己様に楯突いた報いを――」
「そんくらいにしときなさいや」
 ガ、ッ!
「ゲァッ!?」
 ――物九郎は滅羅己へと背後から歩み寄り、背中から蹴り倒した。
「な……ンだテメェ! ガキ!」
「おうおう。胡乱組合だかウドン組合だか知りゃあしやせんが――|一般市民《パンピー》相手にイキがるほどダセェこたねーですよ?」
 転倒から立ち上がる滅羅己に、物九郎は飄々とした態度で言う。
「な、ンだとォ……!! テメェ、クソガキがッ! この俺をウロ組合の滅羅己様と知っての」
 滅羅己はその手の中に力を収束する。ごう、っ! 瞬間、灯る炎! 駅前銀座が赤く炎の色に染まる!
「知るか」
 ――しかして、その瞬間!
「……ア!?」
 アナグラに、嵐が吹き荒れた。
 突風。暴風。旋風。凄まじい威力の風圧と共に、弾丸めいて襲い掛かる巨大な雨粒。激しい雨音と共に、局所的にもたらされた豪雨が滅羅己の|異能《ウロ》能力である炎を飲み込み、瞬く間にかき消してゆく!
 それは無論、物九郎の|異能《ユーベルコード》であった。――数ある彼の能力のうちのひとつ。|嵐の王《ワイルドハント》の異名を体現せし、まさに嵐を呼び込む力!
「な……にイイィィィィイイイィ!?」
 嵐に呑まれた滅羅己は、吹き荒んだ風に吹き飛ばされながら絶叫と共に駅前銀座の外へと放り出されてゆく。
「ハン。こんなモンっスか……。大した事ニャーですな」
 随分と呆気ない。風圧に耐え切れず飛んでいった男の姿を見送ってから、物九郎はつまらなさそうにため息交じりで呟いた。
「ば、バカな……!? 滅羅己のアニキが、こんな……!?」
 滅羅己の腰巾着をしていた男が、怯えながら困惑の声を上げる。
「テ、テメエ、ガキ……! フ、|鳥野郎《フクロウ》どもの仲間か!? い、一体ナニモンだ!?」
「おうおう。聞かれたからニャぁ名乗らねーのも無粋っスわな?」
 物九郎は、口の端に仄かな笑みを浮かべて男に対峙し、そうしてから、|いつもの口上《・・・・・・》を並べた。
「白斑・物九郎――俺めのコトは、|嵐の王《ワイルドハント》と呼べ」
 そして、それは――この|地下世界《アナグラ》に彼の勇名が轟くその第一歩であった。

 ――かくして暴漢退治から鮮烈なアナグラデビューを果たした物九郎は、暫しの間アナグラの街でも有名な新顔のフクロウとして幅を利かせてゆくこととなる。
 |小世界《アライアンス》での彼の冒険は、こうして幕を開けてゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳶沢・ギンコ
※アドリブ歓迎

【行動】
靴磨きの服装で駅前あたりに腰を据えて店を開き、
街なかの観察や住人との会話を通じて情報収集を行う。
地域で行われている犯罪行為の内容やその構成人員
誰からの指示で行われているかなど、調べ上げた情報を記憶しておいて
対策部へ報告に上がる
(使用技能「情報収集、生活の知恵、目立たない、瞬間記憶」)

・使用UC【風の噂にきいたところ】
アナグラのどこにでも居る低級ウロの小さな声に耳を傾け、
その中から自分の知りたい事柄を聞き分けるサイコメトリー能力です。

【セリフ】
「~てな感じでウロ組合の活動が激しくなってるみたいやな。
何ぞ、四天王とかいう幹部の一人が地上げ行為を推し進めてるって話もあるで?」


三毛乃・文太郎
(文字の読み書きが苦手なので…書類は適当に誤魔化しましょうかね!)

今後持ち場となる場所くらい、ある程度知っておきませんとね
猫でありなんでも屋でありフクロウであり…なんとまぁ呼び名の多いこと

このアナグラにもいるでしょう。野良猫、野良犬、鼠でもいい
彼らにこの辺りの様子でも聞いてみましょうか
人間よりは話が通じやすそうですし

治安の悪さは想定通りでしょう
それよりも自分が気になるのは、美味いモンの話です
そういうものがないと楽しみがないでしょう?
飯でも酒でも、面白い話や流行はありませんかね
(勿論自分は魚が好物ですがはてさて…)

おっと、忘れないうちにかめらで写真を撮らねば
これも思い出の一つにしませんとね



「フーッ……やれやれ、大変な目にあいました」
 三毛乃・文太郎(f43553)は頬からぴょいと飛び出たひげをちょいちょいと整えながらため息を吐く。
 文太郎は地上生まれの猫である。――ただしく言えば、|妖怪《猫又や化け猫》の類だ。
 彼はここ|地下世界《アナグラ》を自らの見聞の内に加え、そして記録をつけるためにここにやってきて、その活動をやりやすくするために第二帝都対策部の門を叩いた。
 ――――が、彼にとってはこの手続きは思ったよりもだいぶ面倒だったのだ。そもそも文太郎は猫であるが故に初等教育すら受けておらず読み書きは苦手で書類を書くのもひと苦労だったし、責任者を名乗る妙なヤツが怪しむようにずっと見てきていたのでだいぶ精神がすり減った。
 とはいえ、その苦行めいた時間もようやく終わったところだ。ようやく羽が伸ばせる、と文太郎は微笑んだ。機嫌が上向いたことで人化の妖術もその精度が再安定化し、頬から出ていたネコヒゲがすうっと消えて違和感ないニンゲンの姿へと変わる。
「……では、見に行くとしましょうか」
 そうして、文太郎は第二帝都中央の駅前区画を目指して歩き始める。
 なにしろこれからの職場になる場所だ。ある意味、彼の新たなナワバリであるとも言える。どんな風景が見られるのか。楽しみですねと笑いながら、文太郎は手にしたカメラをひと撫でした。

「そこの旦那、いい靴履いてんね。磨いてかねぇかい!」
 一方。
 中央区域の駅前広場。その片隅には|ギンジ《鳶沢・ギンコ》(f43549)がいた。
 同じように路上に並んだ子供たちの中に紛れて、乱れた字の『くつみがき 10円』のカンバンを掲げ薄汚れたハンチング帽子の奥から睨むように通り過ぎる人々を眺め、時折声をかける。
 靴磨きは他の|世界線《ワールド》でも戦後の混乱期によく見られた、家計に苦しむ家庭の子や戦災孤児が日々の糧を得るために就いた仕事だ。孤児であるギンコ――“仕事”の際はギンジと名乗る――がその中に混じっているのも、この世界では当たり前の風景であった。
「おう。いいかい」
「あいよ!」
 訪れた客に会釈して愛想笑い。ギンコは仕事道具を準備し、男の革靴を磨き始める。
 始めた頃は力加減がうまくいかずに靴に傷を増やしてしまい客に殴られたことすらあったが、ギンコは既にだいぶ数をこなして経験を積んでいる。もういっぱしの靴磨きと呼んでもいいくらいにはその腕前も熟達してきた。固定の客も何人かいるほどだ。丁度、常連の客がギンコの前についた。
「――ところで旦那ァ、最近、景気はどうだい?」 
 しかして、ギンコは単なる靴磨きの子供ではない。
「景気ぃ? ……おうおう、まア、悪かねえよ」
「へえ」
「ただなァ、ちょいと慌ただしいっつうか、キナ臭い感じがあってよォ」
「キナ臭いぃ? なあ旦那、そりゃどういうハナシだい?」
「……おう、それがよぉギンジ」
 ギンコは客の男へと巧みに話題を振り、相槌を打ちながらときに驚き、ときに問いかけ、あるいは表情で話の続きを促して。会話を通じながら話を引き出してゆく。
 客の男はここで、このあたりで最近暴れていたウロ組合のゴロツキの話や、騒動に介入した新顔の|鳥野郎《フクロウ》の話をギンコへと喋った。ギンコはその話の内容を密かにその頭の隅へととどめておく。
 ――こう見えて、ギンコは|対策部《フクロウ》子飼いの情報屋であった。
 現在のこの立場に収まるまでは色々と紆余曲折があり、本人も使命感や正義漢でなく仕方のない事情で対策部の協力者にならざるを得ない状況となってしまった身ではあるが――それはそれとして、実際彼女は情報屋としては優秀であった。
「……ってワケでよぉ。ここ何週間かで、ウロの連中が調子乗り始めたのもあるが……それ以上に、急にフクロウの連中が増えたみてえなんだ。中にゃ見たこともねえ不思議な異能を使う奴もいるってハナシだぜ。ギンジよぉ、オメー変な気起こして連中にちょっかいかけたりすんじゃねえぞ。お前がパクられたら誰が俺の靴磨くんだよ」
「よく言うぜ。先週ケンタローんとこで磨いてもらってんだろ。おいら知ってんだからな」
「アッハッハッ! ……とにかく、気ィつけろよ。フクロウ増えてんのは|事実《マジ》なんだからな」
「わーってるって。……おい! |代金《カネ》!」
「おっと、危ねェ危ねェ。危うく踏み倒して恨み買うトコだった」
 あらかた喋り終えた常連の男は機嫌よくギンコに十円紙幣を渡し、ぴかぴかになった靴の底を鳴らしながらじゃあなと駅前の雑踏に消えてゆく。
「まいどー」
 ギンコは投げやりに手を振って男を見送った。
「……靴磨きですか。このあたりにも多いんですねえ」
 そんな時である。
「おお?」
 ギンコたち靴磨きの子供たちが並ぶ一角へと入り込んできたのは、見慣れぬ男であった。
「んー……」
 カメラを提げたその男――文太郎が、駅前付近の区画を散策しにきていたのだ。
 喜ばしいことに、アナグラは彼にとって素晴らしい新天地であった。
 全体的な薄暗さこそ、彼の趣味である写真撮影には向いているとは言い難かったが、電気灯に照らされた淡い光の中の風景はいずれも神秘的な雰囲気を醸し出すフォトジェニックな情景と化す。ここに来るまでに文太郎は何度かシャッターを切っていたが、既にその出来栄えが楽しみな気分になっていた。
 そのようにして商店街や駅の風景をあらかた撮って上機嫌になったところで、もう少しディープな部分も記録に収めようと思い切ったところで到達したのがこの靴磨き少年たちのエリアだったのである。
「……」
「……あっと! いま旦那、おいらと目が合ったね。ちょいと寄ってきなよ!」
 そこで、ギンコは偶々文太郎と目が合った。
 ギンコはその瞬間を新しい|情報源《カモ》を得るチャンスと捉えて、ぱたぱた手を振り文太郎を呼ぶ。
「……」
 一方、文太郎は視線を下に落として自分の履く靴を見た。
 ――なるほどだいぶ汚れている。頻繁に手入れをしていなかったというのもあるが、それ以上に靴磨きに仕事を頼むのにもあまり慣れていなかったこともある。これも人間たちの言葉得云う巡り合わせというものか、と文太郎は納得して呼ばれるままにギンコのもとへと進んだ。
「どうも。旦那、見ない顔だね。|アナグラ《このあたり》ははじめてかい?」
 ギンコは手際よく文太郎の靴にクリームを塗り、手早く磨き始めた。
「ええ、そうなんです。このあたりはなかなか面白い場所ですね。こんなに広くて快適な地下は初めてです」
「まァね。おいらも初めて来たときゃあ驚いたもんだぜ。……ところで旦那、こんなところまで何しに?」
「ええ――仕事で」
「ほー、仕事でねえ。旦那、何屋さんやってるかきいてもいいかい」
 ギンコは靴を磨きながらいちど視線を上げ、文太郎に尋ねた。
「自分はしがない『なんでも屋』って奴です。物捜し、おつかい、情報集め……。ああ、そうだ。今日からは『フクロウ』でもあるんでしたっけね」
「フクロぉ!?」
 なにげなく言う文太郎に、ギンコは面食らう。
「……なんや、同業かいな!」
 そして間髪入れずギンコの口から素の喋りが飛び出した。
「おや」
 その反応に文太郎はぱちりと目を瞬かす。
「ということは、あなたも?」
「おっと」
 けほ、とわざとらしく咳払いしてギンコは表情を取り繕った。
「しーっ。あんま大声で言うんじゃねえよ……。おいら、|靴磨き屋《この立場》が一番|シゴト《情報集め》しやすいんだからさ」
 トリ公の仲間だ、ってバレりゃ離れてく客だっているんだよ。ギンコは緩々と首を振る。
「あはは……。それは失礼しました」
「ほら、ケーサツの奴らが好かれてないのなんか|地上《うえ》だって同じだろ? アナグラなんか後ろ暗い連中だらけなんだからナオサラだよ」
「ああ……言われてみれば」
 なるほどですねえ。文太郎は頷いた。
「そんなのジョーシキだぜ、ジョーシキ」
「いやあ、すみませんね。実は俺、そういうのには疎くて……。なんなら人間よりも野良猫や鼠相手の方が話が通じやすいくらいですよ」
「……あんた変な人だな。ひょっとして|妖怪《ウロ》かなんかだったりする?」
「おや慧眼。実はそうなんです」
「マジかいな」
 ギンコの眉間にしわが寄った。
「まあ、ええわ。それじゃ、今後のご活躍をお祈りしますー」
 そして、丁度このあたりで靴磨きの作業を終えた。だいぶきれいになった靴の輝きに、いい仕事ですねと文太郎は感心する。
 それから。
「ああ、ちょっと待ってください。あなた、ええっと」
「ギンジ」
「はい、ギンジ様」
「うわッなんやそれ。その『様』っていうのむずがゆいからやめてくれん?」
「はい、じゃあギンジさん」
「うーん……まあ、『様』よりかはマシか。うん。で、なに?」
「せっかくですし、ご同業のよしみでこのあたりを案内してもらえませんか?」
 文太郎はギンコに案内役を依頼した。何もわからぬ自分が無暗に歩き回るより、案内人がいてくれた方が地域のことについてはより深く知れるだろうと思ったのだ。
「ええ……」
 ギンコはあからさまにめんどくさそうな顔をした。
「お礼はしますから」
「むっ。それならまぁ」
「決まりですね」
「しゃーねぇなあ。んじゃ待っててくれよ。カンバンしまうからさ」
「わかりました」
 そうして、ギンコは一旦靴磨き屋を店仕舞いして立ち上がる。
「そんじゃ、行こか。とりあえず銀座のあたりから案内してけばいいかい?」
「そうですね。……ああ、そうだ。自分が気になるのは、美味いモンの話です」
「観光案内かよ!!」
「そういうものがないと楽しみがないでしょう?」
「あんたメチャクチャ不真面目じゃねぇか!」
「あっはっはっ。あとの楽しみがあるから真面目に仕事ができるんですよ」
「まあ、理屈はわからんでもねぇけどさ」
「そういうわけで。飯でも酒でも、面白い話や流行はありませんかね?」
「|流行《ハヤリ》ねぇ……」
「あとは魚の美味い店があれば」
「あー、ハゼ屋ならまあ」
「ハゼですか」
 地下世界であるアナグラは当然ながら地上と異なる環境であるが故に生態系も大きく違い、食用に供される魚もまた異なっているのだ。
 アナグラで食される魚として挙げられるのが、アナグラハゼである。
 元々地下の環境に適合した魚としてはミミズハゼという小型の魚類の仲間がおり、地下水脈や地底湖の水源を利用したアナグラ内の水路でもそうした魚たちを見ることができる。
 アナグラハゼはそれを養殖し食用に適した大きさに育つよう品種改良した種だ。主に煮物や揚げ物として使われている。
「それは楽しみですねえ」
「……あんたさー、仕事に来てるの忘れるなよー?」
「あっはっは」
 捉えどころのない文太郎の雰囲気に翻弄されつつ、ギンコは駅前銀座周辺での諜報活動を兼ねた街案内へと入ってゆく。
 これはこれでまたウロ組合のゴロツキの犯罪行為だとか街の人々への嫌がらせだとか対策部への報告が必要な案件に山ほど出逢ってしまい、このあとの仕事の面倒臭さにギンコは頭を抱えるのであった。
「おっと、忘れないうちに写真を撮らねば」
「完全に観光旅行やないかい!!」
 そんなこんなで、|妖怪《ネコ》と|浮浪児《ネズミ》のアナグラ歩きは日暮れ時あたりまで続いたのだという。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

早乙女・カリン
ども、産まれたてのフクロウのカリンちゃんです👾
アナグラを訪れるのは初めてだけど治安維持のお仕事頑張るゾ!

●治安ヤバめのドヤ街でパトロール👮
好奇心旺盛な私は初めて見るアナグラの奇怪さに大興奮!
職員に忠告も無視して好き勝手に探索している内に明らかにヤバめな治安最悪ゾーンに突入してしまうわ!

●ならず者ぶっとばす
ちょっぴりスリルを感じながらも治安維持活動開始です👾
・場違いなカリンちゃん、早速チンピラとかならず者に囲まれる
・油断したカリンちゃん【血反吐】を吐いて大ピンチ
・ならず者ぶっとばす

アドリブ・連携大歓迎です👾
上手く出来たらご褒美に美味しいものが食べたーい!!



「――というわけで、ほかになにか質問はあるかな?」
「はい! ないです!」
 早乙女・カリン(f37832)はとても元気よく答えた。
「……」
 第二帝都対策部部長、匙・当適は――ほんとに大丈夫かなあ、と首を傾いだ。
「それじゃあ、手続きはこれでおしまいだよ。これで今日から晴れて君も|対策部《フクロウ》の一員だ」
「おっけー👾 ふふふ、まっかせてちょうだい。わるい奴を片っ端からやっつけて捕まえちゃえばいいのよね?」
 カリンはアスリートアース世界出身の猟兵であった。ここヤケアト世界で言うところの|来訪者《マレビト》でもある。
 彼女は普段の生活圏である|骸の海宇宙《第六猟兵世界》の外である|小世界《アライアンス》へと興味を持ち、その中でもこのヤケアト世界の――ここ地下空間アナグラに興味を惹かれて、ここまではるばるやってきたのである。
 そうして今、彼女はここアナグラで活動するための身分として、|第二帝都対策部《フクロウ》の任に就いたところであった。
「えーと……うん! 元気一杯でとってもいいね!」
 やる気はあるみたいだからいいか、と匙は曖昧に笑った。
「まあ、でも。切った張ったの大立ち回りが必要な大事件なんかはそんなに毎日起こるもんじゃないから……」
「えー、そうなの?」
「起こらないことを残念がらないでね?」
「はーい」
 カリンは残念そうに口を尖らせた。
「……とりあえずまずは、だね」
「うん」
 匙は苦笑いしてから、カリンへと一冊の冊子を手渡す。
 それはアナグラ中央部――地上との連絡路である第二帝都駅を中心とした、このあたりの地理を記した地図帳だ。
「これをあげるから、まずは土地勘を掴みに駅の近くを歩いてごらん。商店街……アナグラ銀座のあたりもいいね」
「なるほど。たしかにマッピングは大事だものね」
 カリンは頷いた。彼女の得意分野であるバトロワの試合でも、バトルフィールドのマップの構造を頭に入れておくことは勝つための前提条件だ。環境を知らずして勝つことはできない。カリンは納得した。
「あとは地元の人に顔を覚えてもらうのもね。……で、まずオススメなのはこのあたりの商店街。人が多いから治安もいい方だし、何かあればすぐ僕らが助けにも行ける。ああでも、地図のここから先はちょっと後ろ暗い連中が棲んでるエリアになるから……このへんに行くのはまだやめといてね」
 匙は非常に丁寧に、ときに地図の上に赤ペンでマークしながら駅周辺エリアの構造をカリンに説明した。
「ふんふんなるほどなるほど……わかったわ。委細承知よ👾」
 カリンは匙から奪い取るように地図帳をひったくると、それじゃパトロール行ってくるわねとサムズアップし、事務所を飛び出してゆく。
「……大丈夫かなぁ」
 その背中を、匙は不安げに見送っていた。

「わー! すっごーい! うすぐらーーい!」
 カリンは喜色満面で叫んだ。
 アナグラ――ヤケアト世界の東京都心部地下に作り上げられた巨大地下空洞都市。
 その情景は、彼女が訪れたことのあるいずれの世界とも異なる奇妙な風情であった。
 見上げれば岩盤の天井。周りを見れば街灯に照らされた街の風景――ホーロー製のカンバンがそこかしこに掲げられ、角ばった特徴的なフォントと劇画調で描かれた人物が様々な商品を宣伝している。
 道行く人々の服装はアスリートアースの最新モードに適合したインフルエンサーのカリンからすればおそろしくレトロで見慣れぬものであったし、とおりがかった精肉店の軒先に記された『ブタモグラ』だの『ニワコウモリ』だのの見慣れぬ食肉も彼女の興味と好奇心を刺激した。
「うーん、なかなか洒落た雰囲気ね。不思議なノスタルジー? 的な?」
 |ヤケアト《昭和ニホン》の文明は実を言えばアース系世界であるアスリートアースにも近縁であったが、しかしてジェネレーションギャップの差は大きい。アナグラに色濃く漂う昭和レトロの空気は、カリンの目にはサクラミラージュ世界やサムライエンパイアと同様の全く知らぬ新鮮な異世界文化として映っていた。
「こういう感じの街並みのフィールドでもバトロワしてみたいわね……」
 おそらく、このような雰囲気を気に入るプレイヤーもオーディエンスもきっといるはずだ。カリンは手の中の端末でぱしゃぱしゃと写真を撮って記録を残しながら、スポンサーに提案してみようと思案する。売り込むためにも資料資料。カリンは資料のための記録を続けながら、アナグラの街並みの中を進んでゆく。
 ――そうして、そうこうしているうち。
「……おーっ、このあたりはだいぶアングラ感強めね!」
 いつの間にか、カリンは|商店街《アナグラ銀座》のメインストリートを大きく外れた場末のエリアまで入り込んでしまっていた。
 地図でいえば、先ほど匙部長が『このへんに行くのはやめといてね』と忠告していたエリアのド真ん中のあたりであった。
「若干のホラー感もあるわね。オバケが出そうっていうか――」
 しかして、カリンはまるでそのへんを意に介さず進む。きらきらと目を輝かせながら、治安最悪ゾーンへと踏みこもうとしていた。
「おい」
 そのとき、カリンの背後から低く唸るような男の声がした。
「んー?」
 カリンはそれに振り返る――その瞬間である!
「オラァッ!!」
「ぎゃっ!」
 玄翁! 振り向いたカリンの脳天めがけて、いきなり鈍器が振り下ろされる!
 がつんと鈍い音がしてカリンの目の中で星が散った。――街並みの散策に意識を持っていかれ過ぎていた。その油断のために、カリンは突然の襲撃に反応しきれなかったのだ。
「いったぁ……」
 しかして、カリンも百戦錬磨のバトロワシューターである。この程度の怪我、試合中にだって何度もしてきている。割れた額から流れた血を拭いながら、カリンはゆるくかぶりを振って態勢を整えた。
「ヘヘヘ……お嬢ちゃんよ」
「オトモダチとはぐれちゃったのかァい……ヒヒヒヒヒ!」
「ずいぶんきれいな身なりしてんじゃんかァ……。カネ持ってそうだなァ」
「恵んでくれよォ」
「げっへっへ……。それから、こんな地下の隅っこで暮らしてるかわいそうなおじさんを慰めてほしいなァ~……グヒヒヒヒ!」
 ――気づけば、カリンは既に囲まれていた。
 いずれも薄汚れた身なりの――それでいて目ばかりはぎらぎらに光らせた、あからさまな危険人物たちの集団だ。このまま無抵抗でいればどんな目に遭わされるかわかったものではない。
「ふーん……なるほどなるほど」
 しかして、対するカリンは至極冷静であった。
「これがアナグラの治安の悪さね……なら、初仕事といこうじゃない!」
 にぃ、と口の端に笑みを作って、カリンは電脳空間ストレージから愛用の|銃《SMG》を引き抜いた!
「あぇっ!?」
「なに!?」
 男たちから見れば、何もないところから突然銃を出したも同然の光景であった。何の奇術だ。異能力者かとざわめいて男たちが困惑する。
「なんだそいつ……今どっから出し」
「ハイまずワンキル👾」
「ギャアーッ電撃!!!」
 カリンは容赦なく銃口を向けて引き金を引いた。ばぢッ! 非致死性スタンショック電撃弾頭が閃光と共に爆ぜて、最初に襲った男を気絶させる。
「な、な……!?」
「こ、このガキ! タダモンじゃねえっ!?」
「まさか……!」
「あっ! 気づいちゃった?」
 慄く男たちへと向けて、カリンはぱちりとウインクしながら得意のカワイイ・エモートアクションを披露した。
「ども、産まれたてのフクロウのカリンちゃんです👾」
「フ……フクロウだ、この女ァ!!」
「ふっふっふ、今頃気付いても遅いわよ! はい次バーン!」
「ギャアーッ10まんボルト!!」
 再び迸る電光! 悪党たちがまとめて過剰電力に脳天をショートさせて昏倒! ここからちょっと楽しくなってきてしまったカリンはそのまま調子に乗って次々に引き金を引き、ならず者どもの意識を刈り取ってゆく!
「うーん、いっぱいいるからもっと苦戦すると思ったのに……逃げるのも遅い遮蔽物も使わない反撃もしないとか、ちょっと雑魚すぎじゃなーい?」
「ギャアーッ電圧!!」
 もはやそれは戦いではなく一方的な蹂躙であった。ばちばちばち、と電撃が跳ねて悪漢たちが次々と倒れていく。バトロワの試合でこうだったならブーイング不可避のワンサイドゲームだ。ちょっと物足りないわね、と呟きながらカリンは最後の一人を無力化した。

 そうして。
「……とゆーわけで、わるものいっぱい捕まえたわよ!」
 お手柄でしょ、とカリンは胸を張った。
「あー……んー…………えっと」
 困惑する匙部長の前には、十人ほどのふん縛られたならず者どもが転がされている。
 襲ってきたならず者たちを一人残らず返り討ちにしたカリンは、逮捕した連中をこうして第二帝都対策部の拠点まで連行したのだ。
「まあ、いいよ。よくがんばりました」
「でしょー!」
 匙部長は、苦笑いしながら雑にカリンをほめた。
「カリンちゃんご褒美に美味しいものが食べたーい!!」
「……わかったわかった。はい。初仕事の労いだね。いいよ、コーヒーの一杯くらいは奢ってあげよう」
「えーっ。パフェとかパンケーキとかはー!?」
「ここじゃ高級品なの、そーいうのは!」
「けち!」
 ――そんなわけで、派手なデビューを飾りながらこうしてここに新たな|猟兵《フクロウ》が着任した。
 アナグラでのカリンの冒険は、ここから始まってゆくのである。

成功 🔵​🔵​🔴​

鈴生・ナナキ
「書類かー。どう書けばいいー?」
書類はむずかしいですが、教えてもらえば理解して書いていきます。七つの魂の中には、文字に強いものもいるのです。えへん
終われば飛び出して、気の赴くままに見て回りましょう。見た目は童ですが霊なので、ちょっとやそっとじゃ疲れません
全部が面白そうでナナキの目はきらきらです
「なはははー!すごいすごーい!」
おいしそうなもの、楽しそうなもの、目についたものに次々飛びついてまわります

でもナナキは悪霊なので、人を祟ることもあります
たとえば悪いことをしている人とか。こっそり近づいて鋭い爪で傷をつけてやりましょう
よくないことに見舞われるはずです
「われたちなんにも知らないよ。くすくす」



「書類かー」
 鈴生・ナナキ(f44279)は机の前で面倒くさそうにため息をついた。
「なーなー。おっちゃん? おばちゃん? これってどう書けばいいー?」
「……ああ、えーっとねえ」
 第二帝都対策部部長、匙・当適は、その様子を微笑ましく見下ろしていた。

 鈴生・ナナキ。そう名乗る子供の存在を対策部が認識したのは割と最近のことだ。
 既にアナグラ内で起きた事件のいくつかに介入していた記録があるが、しかし実は対策部からすればナナキは『現場の協力者』以上の情報は不明――すなわち、どこの誰だかわからない状態であった。
 戦災孤児や浮浪児などどこにでもあふれかえっていたし、そのへんの中でたまたま力のあるガキが手を出しにきたのだろう、くらいの昭和の空気感で現場は『どこのガキかわかんねえけど手伝ってくれるならまあいっか』くらいの扱いで今まで通していたが――
 そういった状況に気づいた匙が、いやでもそれはまずいでしょうと動き出してナナキを探し出し、今日はこうして正式な書面での手続きを踏ませにこさせていたのである。
「おや、意外ときれいな字」
 机の上の書きかけの書式を見て、えらいですねと匙がナナキをほめた。学校にも通えていない浮浪児かと思っていた匙にとってはすこし意外だった。
「われたち、ちゃんと勉強もできるからなー」
 えへんとナナキが胸を張る。
 実を言えばナナキは単なる子供ではない。その正体はいくつかの命が寄り集まって生じた|七生《ななき》の悪霊である。
 その魂を構成する魂魄の一つが勉学に覚えがあったために、ナナキは読み書きができる程度の教養を備えていた。
「でさー、これってなんて読むんだー? あとどういう意味?」
「……」
 思いのほか賢い子供だと匙は思いながら、書類への記入方法に助言して必要な情報を書かせてゆく。
 必要事項の記入は、小一時間ほどで終わった。
「……くあーっ! つかれたー!」
 真面目に机に向かって文字を書いたのなんていつぐらい振りだっただろうか。ナナキはくたびれた様子でふかく息を吐く。
「あっはっは。お疲れさま。よく頑張ったね」
 ナナキの様子を見下ろして、匙が笑った。
「それじゃ、ごほうびってわけじゃないけどこれを持ってお行き」
 そうしてから、匙は机の上に封筒をひとつ差し出す。
「なにこれ?」
「君、何回かウチの仕事のお手伝いしてくれてるでしょ。渡せてなかったぶんの|報酬《おかね》だよ」
 それは何十枚かの紙幣が入った給与袋であった。
「もちろん、これからもウチのお仕事受けてくれたら払うからね」
「ほんとかー!」
「ほんとだよー。今日はそれでおいしいものでも食べに行くといい」
 ついでに街を見ておいて、と匙はナナキを立ち上がらせて対策部の外へと案内する。
「わかった! ありがとなー!」
 ナナキはもらったおかねを大事そうに懐に抱え込むと、そのままダダッと飛び出して街のにぎやかな方へと向かって駆けていった。

「うわー!」
 そうして、ナナキは|アナグラ駅前銀座《商店街》の方へとやってきた。
 普段のナナキがあまり寄り付かないエリアであったが、今日は懐にお金もある。ナナキは胸を張って商店街に足を踏み入れていた。
 石畳の街並み。人々の雑踏と賑わい。街灯の明かりに照らし出された派手なホーロー看板。
 はじめて見る景色というわけではなかったが、しかし今日はその風景も少し違って見えた。――なにしろお金がある以上、今日のナナキは好きにお買い物したりお店に入ったりできるのだ。ナナキの目は輝いていた。
「なはははー!すごいすごーい! 商店街ってこんな面白いトコだったんだなー!」
「……お、なんだい。あんまり見ない顔だなボウズ」
「んー?」
 そのとき、はしゃぐナナキに声をかける者がいた。
「こっちだ、こっち」
「おー? ……ここは何屋さんだ?」
「肉屋だよ肉屋。なんだいボウズ知らねえのか?」
 『肉のモグラ屋』を掲げた店舗のおじさんであった。
 モグラ屋は商店街でも入り口に近い場所に陣取る精肉店である。主にアナグラ内で肥育されるブタモグラの肉を中心にコロッケなどの総菜も売っている、いわゆる商店街のお肉屋さんだ。威勢のいいおじさんはこのあたりでも有名な人物であった。
「ちょっと来なボウズ。ハラ減ってねえか?」
「ちょっと空いてる」
 呼びかけに応じてナナキはモグラ屋のカウンター前まで走る。
「よし。ンじゃあ揚げ損ないでよけりゃア持ってきな。ウチの自慢のモグラコロッケだよ」
 お店のおじさんは近くまで来たナナキへといくつかのコロッケを詰めた紙袋を押し付けた。
 ――ナナキの風体から、そこらへんのかわいそうな浮浪児と勘違いしたのだ。
「あっ、われたちお金あるぞ!」
「いらねえいらねえ。ちょっと焦がしちまった失敗作だからよ、ゴミ箱あさりに食われるかここでボウズに食わせるかってモンよ」
「むっ。われたちゴミ箱あさったりなんかしないぞ!」
「はっはっは。そりゃ悪かった。……まあ、いいからもらっとけもらっとけ。俺はイイコトしたっていい気持ちになれるし、ボウズは腹が膨れる。なんも悪いこたァねえ」
「むう……。わかった。じゃあ今日はもらっておく」
 ありがとなー、とナナキはおじさんに頭を下げてお礼した。
 そのときである。
「――オウオウオウオウ、じゃァカワイソウな俺様にもコロッケくらい恵んでくれるよなァ?」
「わっ」
 突然、ナナキは横からぐいと押されたのだ。
「ちょうど俺様も腹ァ減っててよォ。そこの薄汚ェガキにくれてやる分があるんだ。俺様ももらえるよなァ」
 見れば、あからさまにガラの悪い男がナナキを押しのけてカウンターの前に強引に陣取っていた。
「はいよ。いくつだい。一個10円だよ」
「ア? そこのガキにゃタダでやったのに俺様からはカネ取ろうってのか!」
 男がカウンターに向かってがなり立てる。
「テメーはそのご立派なカラダでカネ稼いでんだろうが!」
 おじさんが負けじと言い返す。
「だから栄養が要るんだよ! つべこべ言ってねェでコロッケ出しやがれ!」
「1個10円だぞ」
「ア? カネ取ろうってのか!」
「払わねェなら客じゃねえよ!」
「…………」
 ナナキはむすっとしながら男とおじさんのやり取りを見ていた。
(せっかくおじさんが気分よくしてくれてたのに、このひと邪魔してきた)
 ナナキの不機嫌なまなざしがガラの悪い男を睨む。
(じゃ、わるいひとだ)
(祟られてもしょうがないよね)
(うん)
(しかたないしかたない)
(おしおきがいるよね)
 このとき、ナナキの身の内では混ざり合った魂魄たちがその意志を定めていた。
 刹那。祟るべし、と悪霊がその意を決する。
 瞬間、ナナキの指先が鋭く尖り爪が伸びた。
「……ギャッ!!」
 ナナキはその腕を素早く振るい、男の背中に爪を立てる。突然の痛みに男が悲鳴をあげた。
「な……なんだァ!?」
 背中を確かめるが傷はない。何があったのだ。何事だ。いきなりのことに男は困惑してあたりを見回す。
「テメェ、ガキ! 俺に何かしやがったか!!」
「おい、やめろ! ガキに手出すんじゃねえ!」
 男はそこで目に付いたナナキにすぐさま詰め寄った。お店のおじさんの制止も聞かず、ナナキにつかみかかろうと手を伸ばす。
「……くす」
 しかして、そのときである。
「おにいさん。いま変な音しなかった?」
「ア?」
 びり、っ。
「……ア゛!?」
 男の履いたズボンが、前触れなくいきなり裂けた。
「げ、っ……!」
 突然の不幸に困惑を深めた男が、足をもつれさせてその場に尻餅をつく。
 ――ナナキの仕掛けた、|他者を呪い祟る悪霊の権能《『連鎖する呪い』》の力が男を襲っていたのだ。
 命を奪うほどのそれではないが、しかしてその悪意に見合った報いを受けさせる程度の。
「あは」
「……!」
 そして、そのとき男は見た。
(かわいそうだね)
(これからいっぱい不幸がくるね)
(かわいそうかわいそう)
(くすくすくすくす)
 自分を見下ろす|子供《ナナキ》の瞳の中に、いままで見たこともないような悪意の色が渦巻いているのを。
「ヒ、ッ……」
 子供の見た目とあまりにも釣り合わないその深い闇の色に、男はたちまち恐怖していた。
 蛇を前にした蛙のように男はすくみ上がり、慌てて立ち上がると裂けたズボンを引きずりながら慌てて逃げるように走り出す。
「お……覚えてろよ!!」
 最後に残ったちいさなプライドが、捨て台詞を残していく元気だけ引き出していた。
「…………なんだったんだ?」
 残された肉屋のおじさんが呆気にとられた顔をする。
 いきなり絡んできたかと思えば今度は急に逃げ出していくとは。一体何をしに来たんだあれは。
「……なあ、ボウズ。何なんだろうな、いまの」
 ううむと唸りながらおじさんが助けを求めるようにナナキを見る。
「んー……われたちなんにも知らないよ。くすくす」
 ただ一人、ナナキだけがコロッケを食みながら笑っていた。

 ――そうしておじさんに別れを告げて、ナナキは商店街散策の続きへと繰り出していく。
 なるほどこれがお金の使い方かと買い物するナナキは理解して、匙からいわれた『仕事の報酬』の概念を飲み込んだ。
 それなら、この先もフクロウのお仕事っていうのを続けてみてもいいだろう。ナナキは納得してアナグラの空を仰ぎ見る。
 かくしてここにまた一人、(書類上の手続きの上でも正式に)アナグラを飛び回るフクロウが生まれたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年10月27日


挿絵イラスト