|ゴミ山《宝の山》の煤払い
●やァやァ、
其処いく|猟兵《イェーガー》たち、今日も世界を渡るのかい?
誰かを救いに? 世界を救いに? それとも国を滅ぼしに? なんなら遊びに行くのかな?
まァ、少し時間がゆるすなら、ぼくの話を聞いておくれよ。
しがないうたうたいが此度、話すのは――繋がったばかりの、新しい小世界の話さァ。
世界の名前? それはまァだ秘密だよ。
●さァさァ、ヤケアトのこるニホンへご案内
桜の精が、雨倉・桜木(花残華・f35324)が、愛用の三味線を爪弾いては語る客寄せ。
ちゃァんとした依頼だよ、なんて胡散臭い笑みをはりつけて。
「世界の名前は秘密だけどねぇ。まずはどんな世界か語ろうか」
其の世界は、サクラミラージュでは今だ|二度目の大戦《其の分岐》が訪れることはなく、|二度目の大戦《其の分岐》を迎えた|銀雨《シルバーレイン》ともUDCアースとも異なる|大戦《分岐》の先を刻んだニホンだという。
「其の世界は実に愉快なのさ。なんせ敗戦の焼け跡が残る地上の下に、そう、地面の下に|第弐帝都《アナグラ》と呼ばれる巨大な地下空間が在るんだよ。此度はそのアナグラへのご案内さ」
烏合之衆も住まうというアナグラは、それはそれは日々発生する問題も山積みでてんやわんやの大賑わい。
それの対策をする部隊が、第弐帝都対策部――通称フクロウという。が。
「人手がちぃーっとも足らないって言うのさァ。其処で、第弐帝都対策部から此度、君たちに依頼って訳だよ」
ね、ちゃァんとした依頼だろう?
●|ゴミ山《宝の山》の煤払い
「此度の依頼は、|ゴミ山《宝の山》の煤払い、さ」
アナグラには奇怪党と言う、地上からつまはじきにされた技術者集団が居る。
奇怪党が作る絡繰りを奇怪絡繰と呼ぶそうだ。
一見、スクラップのような材料から実に多種多様な奇怪絡繰を作る奇怪党。
そんな奇怪党の技術者たちが、材料探しの場所として愛用していた|ゴミ山《宝の山》のひとつに、最近、ウロという魑魅魍魎が出現するようになった。
「奇怪絡繰じゃあ|ゴミ山《宝の山》を吹っ飛ばしかねない。かといって、奇怪党の技術者には戦う術がない。とはいって、フクロウの人たちでは奇怪党を護衛できるほどの人手も時間もさけない。ならば君たちに、ってことさ」
依頼内容は実に簡単だ。
「奇怪党の彼等に代わって、|ゴミ山《宝の山》で宝探しをしてきておくれ。拾うものはなんでもいいさ、使える使えないかは| 使ってから《・・・・・》決めるそうだからね。そうして、ついでにウロ退治、さ。此度出現するウロは、ホコリの塊のような真っ黒い姿に、小さな角と手足がはえた、実に可愛らしい見た目のようだよ。とってもか弱くて、君たちならばデコピンひとつで退治できちゃうだろう」
だけど、と口に人差し指を宛がって。
「ひとォつ、注意しておくれ。|強い力《ユーベルコード》を使うと|ゴミ山《宝の山》を吹っ飛ばしてしまうだろうからね。君たち持前の技術だけで、どうにかこうにかしておくれ――なァに、手加減も、慣れたものだろう?」
ひらり舞う|桜色の蝶《グリモア》が導く。ゆうやけこやけ、赤い赤いヤケアト遺る世界へと。
なるーん
おはこんちばんは、なるーんです。
ヤケアト1本目のシナリオは奇怪党の人達にかわり、ゴミ山で宝探しです。
ゴミ山はひぐらしがよく鳴く村のあれ、ウロは某煤払いを思い浮かべてください。
プレボ『ユーベルコードを使わずにウロ退治をする、またはレアそうなお宝を拾う』
やたらピカピカ金色に光るネジとか、やたらびよんびよんするバネとかあるかも?
因みに三種の神器はまだありませんが、ラジオはあります!
拾うお宝はMSにお任せもOK。その場合はダイスでお宝の質を決めます。
のんびりまったり進行です。
よろしくお願いいたします!
第1章 日常
『プレイング』
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POW : 肉体や気合で挑戦できる行動
SPD : 速さや技量で挑戦できる行動
WIZ : 魔力や賢さで挑戦できる行動
イラスト:ヒトリデデキルモン
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ルキフェル・ドレンテ
ゴミ漁りだと?この俺が…?
無礼者め、死んでもお断りだ
M'lady、こんな馬鹿げた依頼は無視して早く行――M'lady?
…まさか、気になると?
…で
これが件のゴミ山か
成る程、得体の知れぬガラクタの山に、虫まで湧いて居るとはな
酷い有様だ、M'ladyが宝探しをする前に掃除が必要か
適当に焼却してやろう
既に煤じみているようだが、塵も残さず燃え尽きるが良い
嗚呼、UCは無論使わぬが、|魔導書《Cocytus》だけで何とかなろうよ
M'lady、何を探して居るんだい
残念ながら価値のある宝飾の類はなさそうだが、何だ、それが気になるのか?
見せてご覧
嗚呼、これは――
(アイテムはお任せ)
●発掘作業はえんやこら
煌く銀色が並べば空無きアナグラに無縁な天の川の輝き。
それこそ埋葬とは無縁の麗しく美しい二人が、列車とやらに揺られ揺られて地中深くに潜っていって辿り着く到着駅。
地下だと、地中だと、土の中だと思えぬほどに縦横広大に拡がるアナグラに果たして何を思うのか。
無礼者めと、馬鹿げた依頼だと断り入れた騎士様を差し置いて、桜の精が語った依頼に興味を示したのはお姫様。
気になると? と聞き返した恐る恐るに、姫様はこくりこくりと無邪気に頷いて――の、今だ。
お姫様がそう言うのならば仕方ない。騎士はそれに従うものだ。
「あんたたちが今回手伝ってくれるフクロウかい? いやあ、助かるよ」
はてさて、ふらり随分と背丈が低く小太りな男が一人現れた。
奇怪党とは奇怪絡繰を作る技術者集団だと言っていた。身なりの油汚れが気になるが、仕事柄と言えば妥協範囲か。
姫君に不躾な視線ひとつ寄越さず、帽子をとって一礼した男は自らを案内役だと名乗って、二人を連れて行く。
「……で。これが件のゴミ山か」
「そうでさぁ。お綺麗なお二人さんに任せるのは気が引けるが……」
右へ左へ、ぐるぐるうろうろ。
どれくらい歩いたかそろそろ騎士様の我慢の限界が訪れん頃にやぁっと到着したのは、詰みに詰まれたゴミの山、奇怪党には宝の山だ。
どんな用途に使われたのか、どうしてそんな終焉を迎えてしまったのか、ようよう全くわからないガラクタの山がそこにはあった。
どんなガラクタの山かと言えば、こう――コイルむき出しの割れた電球とか、箱の形の体を成してはいるが騎士様が抱えなければ運べないくらい巨大が過ぎて捨てられた理由があからさますぎる(多分)ラジオとか、ただ打ち捨てられただけのお茶を運ぶための絡繰だとか、送電のための配線がぐるぐる巻きで破棄されていたりだとか、あとは小さなネジ、バネあたりが隙間を埋めるようにゴロゴロと、ぎゅうぎゅうと――まあ、つまり、そんな燃えないゴミが見上げるほどに積まれた山だ。
「わしらにはあれをどうにかできないんでなぁ……」
男が指差した暗闇に、よぉく仮面に隠れた目を凝らしてみれば。ギラリ、眼光鋭く光る一対の目玉。
キィ! キィ! 耳障りな鳴き声と共に手足と角のついたホコリのような黒い塊が、何匹も何匹も何匹も何匹も何匹も何匹も!!
なるほど、ガラクタとガラクタの隙間の暗闇の正体はコイツらだったのかと思う程に、わっさわっさと湧いてくる。
「得体の知れぬガラクタの山に、あのような虫があそこまで湧いて居るとはな。全く、本当に酷い有様だ」
管理が行き届いていない、とぼやく騎士様に男は返す。管理してねえからなぁ。
――どさくさに紛れて燃やしてやろうか? 騎士様が思う前に、鳴き声に惹かれて無防備に近付くお姫様。
「|M'lady《ミレディ》、どうか少しだけ待っていておくれ。宝探しの前に軽く掃除をしたい」
慌てて止めて、待てるかい? 問えば、ええ、勿論よ! 姫様は鈴を鳴らして応える。
お掃除の邪魔はしないわ、声が紡げたのならばそう言ったのだろう、実に愛らしい微笑みを騎士に向けて。
案内役の男の傍にてくてく歩いて、ちょこんとその場に座り込むお姫様。
今は幽霊だもの、ドレスの汚れも気にならないわ、ということだろうか。
気まぐれに男に鈴を見せてやるお姫様と、鈴を珍しがる男の和やかな空間が其処にあった。
其処だけに、あった。何やら男の話を聞いて、すごい! すごい! と手を叩くお姫様。
「……、……煤じみた虫共が。塵も残さず燃え尽きるが良い」
そもそも虫さえ湧かなければ依頼からなかった筈だ。そう、すべては虫が悪い。
愛用の魔導書を読み解いて、| 呪い《まじない》ひとつ口から紡ぐ。
さすればほら、虫は可視の範囲でアッと間に串刺しだ! 焼却だ! そして煤は塵へ、土へ、灰燼へ。
男と姫様が、その様子に拍手喝采。
「無論、力は使わぬよ。さあ、|M'lady《ミレディ》、おいで」
――そう、吹っ飛ばしてはいけないよ、お姫様が宝探しできなくなってしまうからね。
彼女の手を取って、足元の危険を取り去って。
か弱いお姫様の力では退けぬものは、騎士様が退かしてやりながらの宝探し。
あっちにふらふら、こっちにふらふら、姫様は興味の赴くままに。
これよ! と彼女が手に取ったのは――
「それが気になるのか? 見せてご覧。ああ、宝飾の類ではないが、箱に美しい絵が描かれているよ」
漆の漆黒が美しい文庫箱ひとつ。ニホン特有の其れは、目が肥えた騎士様にも実物は見慣れぬものだ。
はてさて蒔絵や沈金が施された其れの価値は正しくはわからぬが、宝飾ほどではないことは確かと知る。
作るに手間がかかっていることも既知ではあるが。
首を振る姫様に、はて? と首を傾げる騎士様。姫様が箱を振ると、中から硬い何かがゴロゴロと転がる音がする。
「中に何か入っているようだね。貸してご覧……ああ、これは」
中に入っていたのはまあるいまあるい色とりどりのビー玉がたくさん。
彼女の手のひらにひとつ乗せてやれば、其の手のひらの上、指先でコロコロ転がして楽しそうに手遊びするものだから。
「おい。これをいくつか貰っていく。いいな?」
「勿論でさぁ。お姫さんが気に入ったのがあってこっちもよかったよ。箱も持ってってくれ」
見つけたお宝は男と騎士様たちとで半分こ。お姫様は手遊べるオモチャを手に入れた。
こうしてその日以降、天文台では時折、箱の中でビー玉を弾いたり転がしたりして遊ぶ|M'lady《ミレディ》の姿がみられるようになったという。
大成功
🔵🔵🔵
支倉・白蓮
物拾いたァこれまた大層な依頼さね。マァ人様の役に立つのであれば、喜んで引き受けるさ。
|妾《アタシ》は力仕事はてんで駄目だからゴミの中でも小さいものを─そうさね、こういうのは大抵妾達の目から見たらどうしようもないモンに意外な使い道があったりするもんさ。なのでそこいらに転がってるネジや歯車、その中でも一層おかしな形のやつらを数種類ほど見繕って渡そうかね。
ついでに何か妾の目を引くものがあれば嬉しいけど、その辺はお任せするよ。
ウロには効くかはさておき、経文でもひとつあげとこうかね。一時凌ぎで追い払うくらいにはなるだろうさ。
●|物拾い《ゴミ拾い》もぐるっと回れば人のため
はてさて、その亡骸は大層丁寧に埋葬されたのかい? かつての|歌劇女優《スタア》さん。
同じ土の中とて、少なくとも墓があるならばそれよりは広大だろう、アナグラの駅をのんびり歩く墨染の君がひとり。
ふと足を止めて。空がないから望めぬだけで、天井がなければ空すら望めてしまいそうな高さを仰ぎ見た。
――昔、舞台より望んだ其れより高い天。華やかさには欠けるものの、仄かで優しい灯りが地を照らす。
「此処には一体、どんなお宝の山があるんかねェ」
「おお、その台詞。ひょっとしてあんたもフクロウかい? ありがとよ」
墨染に声をかける随分と背丈が低く小太りな男が一人。
先に来てくれたフクロウを見送ったところでな、と穏やかに笑う。
「そうさ。あんたが案内してくれるのかい?」
「ああ、今日はあんたたちの案内が仕事さあ。わしが一番、場所を把握してるからなあ」
早速、いいかい? と墨染に選択を委ねるあたり、随分と気遣える優しい気質の男のようだ。
物拾いでも人様の役に立つのであれば、と快く依頼を受けたのが墨染だ。無論、返事はふたつのみ。
さて、辿り着いた二か所目の宝の山は、少々小ぶりの山ではあるが――
「こりゃあまた大層なお山だねェ」
バネやナットやネジやそんな小さなパーツばかりが積み重なった山なもんだから、ゴミの量は大層なもの。
嵩はなくても質が濃い。とんでもなく濃い。どうしてこんな山ができたのか問えば、うまく嚙み合わないもんをとりあえず此処に集めて置いたらいつの間にやらこうなったという。
「管理がなってないねェ」
「あっはっは、さっきも言われたなぁ」
「そりゃあ、そうだろうねェ。まあ、いいさ。|妾《アタシ》にはてんで見分けなんてつきやしないよ? 適当に拾ってくるがいいんだね?」
「勿論さぁ。変わったものなら尚、いい」
「はいよ。さぁて」
悪いなぁ、って笑う男に。構いやしないさ、と墨染は気前よくひらり手を振った。
まあ、管理のための掃除をするにしたって、宝探しをするにしたって、今のままでは男にはできやしないのだから仕方がない。
ぴぃ! ぴぃ! 住処に近付く気配に物陰から湧いて出てくるのは、やっぱり角と手足の生えた煤のようなウロたち。なにやら此度の山に住みついたウロたちには、先っぽが逆三角に尖った尻尾のようなものまでついている。
ウロたちから近寄ってくる気配はないものの、近寄らせないという気迫はすさまじい。
「どぉれ、経文でもひとつあげとこうかね」
効くかどうかはさておいて、魑魅魍魎の類なら一時しのぎにはなるだろう。
墨染は数珠に手を重ねて経文ひとつ、つらりつらりとあげていく。
最初はなんだなんだとぴぃぴぃけたけた嗤っていただけの煤埃、墨染の声が空洞に反響して重なるうちに、まあるい目はしおしおウルウル困ったように泣き出しそうに歪んでく。
こりゃあまいった! いやいや首を振りながらぴゅーっと脱兎の如く走り去っていくウロたちに、これに懲りたら悪戯はほどほどにおしー! と声をかけて見送る墨染。
煤払いが済んだなら、あとはゆったり宝探しをするだけだ。
「こういうのは大抵妾達の目から見たらどうしようもないモンに意外な使い道があったりするもんさ――おや?」
力仕事が苦手だそうだが、山が山なだけに心配はないだろう。あとは面白いものに出会えるかどうかの運次第。
墨染は男より風呂敷借りて、やったら長いバネとかUの字に曲がったまま戻らないバネとか、やったら|短長《たんちょう》著しいネジとか、もはや丸くなっているナットとか、四角い歯車だとか、タコを思わせる足の多い(多分)トランジスタだとかを、なんだいこれ、なんて笑いながらひょいひょい拾って包んでいく。
そんな大層愉快なゴミ拾いをしているうちに掃けた空間の一部、きらり光るものが見えた。
「おや。これは櫛だねェ」
隙間に腕を伸ばして引き出して、そうして手に入れたのは蜘蛛の巣の蒔絵が描かれた艶やかな鼈甲の櫛。
「蜘蛛の巣ねェ、」
「おう、気になるんならもってきな!」
「いいのかい?」
「なぁに、礼だよ」
ありがとうよ、と櫛を|地中《アナグラ》の灯に晒す。
芸者の髪に挿すには華が足りぬが、墨染ならば華など要らぬもの。ましてや蜘蛛の巣たあ仏の慈悲には丁度いい。
たらり、たらり、地獄にのびた蜘蛛の糸。ぷつり、ぷつり、欲がたたって無慈悲に途切れた蜘蛛の糸。
だけど、これだけ立派な蜘蛛の巣ならば、どれだけの人を釣ってやれるか。なんて。
――果たしてかつての|歌劇女優《スタア》が垣間見たのは、天国だったか地獄だったか。
尼僧に至った|理由《ワケ》のついでに訊ねて聞くのは野暮なことかな。
とにかく地中で拾った|蜘蛛《櫛》がひとつ、白蓮の化粧道具に加わることになった。
大成功
🔵🔵🔵
高・慶雲
はいはい、今月分の取り立てに来ましたよォ。
返せない? はァ、素材が無けりゃ売り物も作れねェ、と。
そりゃ困りましたねェ。ええ、素材持ってくりゃ便利な道具で返すと。
手前の方はガキでも浚える、少し分け入ったとこ狙いましょ。
頑丈な素材じゃねェと彼らすぐ無駄にしやがりますからね、
経年劣化する樹脂は駄ァ目、金属狙いですよ金属。
多少の錆びも気にせず風呂敷に。
コンデンサの一つでもありゃめっけもんですわ。
ウロには昼飯の残りの堅パン一つ放り投げてあっちいけ……あっ、もう無いですって。服が汚れるから寄るんじゃありませんよォ!
|媽的《クソ》ッ、だァから奇怪党なんかに金貸すのやめろって言ってんですよォ|帮主《ボス》!
●そりゃあ、餌付けしたんなら懐かれるさ
「はいは~い、今月分の取り立てに来ましたよォ」
お見送りとお出迎えに三度目。
ホームに訪れた小太りの案内役が、その声聞いたら血相かえてぐるっと素早く背を向けて。
せっせこらせとすたこらさっさ一目散に逃げ出した。駆けだした。必死の形相は恐怖の顔だ。
「あれ~、なァんで逃げんの?」
「こ、今月は金がねぇんだ! 返せねえ! す、すまねぇ、すまねぇ!」
「はァ? 返せない?」
そんな案内役の襟首を、慈悲も容赦も情けの欠片も全く感じさせない乱雑さでむんずと掴んだのは、拭えない胡散臭さが漂う男。
案内役の男は宙に浮いた足をじたばたもがもが、進まぬけれども駆けずにはいられないといった風だ。
――列車から出てきた様子はないあたり、案内役がホームにいると睨んで待ち伏せていたのだろうねぇ。
二人のやり取りから厄介事だと察したのだろうアナグラ生まれの連中は、ささっと彼らを避けていく。
金貸しの取り立てにゃあ関わらないのが一番だ。
「じ、実は――」
案内役はそんな周りの様子に諦めたのかかくりと項垂れて、ようやっと足をとめた。
そうして、かくかくしかじか、これこれうまうま、胡散臭い男に金がない事情を説明する。
「はァはァ、なァるほど。素材が無けりゃ売り物も作れねェ、と。まァ、一理ありまさァ。しっかし、困りましたねェ」
絡繰作って売ってなんぼの奇怪党。
売るものなけりゃあ金がないのも当然で、素材もなけりゃあ売るものがないのもまた当然。
あるだけのパーツで絡繰作って派手にぶっ飛ばしていいならば構いやしないが、後々商売あがったりになるのは火を見るよりもあきらかだ。つまり詰む。そして現状、やや詰んでいる。だからフクロウに助けを求めたってわけだ。
「という訳で旦那ぁ、今回は勘弁してくれ。素材さえありゃあ便利な道具で返すからよぉ……」
「いいよォ。そういうことなら、」
――手伝ってやるよォ。胡散臭い男のにっこにこ笑顔にかたかた震える案内役が哀れだねぇ。
そういう訳で怯えながらも仕事をこなす案内役が案内したのは、一度目の山と同じ場所。
なんでかってェと、此処が一番金になるからさ。ウロだってあれだけじゃあない。
ほぉら、また素材と素材の隙間からちらちら光るまんまるおめめがたくさんだ。
胡散臭い男はウロを恐れずずんずん宝の山にまっしぐら。なんせこの男、アナグラ産まれだ、慣れている。
ウロの気が引けりゃあいいと、昼の残飯の堅パンちぎって遠くにぽーいっと投げやりながらのがさ入れだ。
「少し分け入ったとこ狙いましょ。頑丈な素材じゃねェと彼らすぐ無駄にしやがりますからね」
広げた風呂敷にあーでもない、こーでもないと言いながら、金属メインで放り込む。
「経年劣化する樹脂は駄ァ目、金属狙いですよ金属。っと、おぉ、こりゃあいいもんだ」
――いや、でかァ!? 下手すりゃ産まれたての赤子のサイズくらいありそうなコンデンサが見つかった。
何に使うのかさっぱりわかりはしないが、どうしてこんなもんが此処にあるのかもまったく一切不明だが、愉快ではある。
いっそこれをどう使うのかが気になって、無理矢理、風呂敷に包んでしまえば、あとはその隙間を埋めるようにトランジスタとかをちょちょいのちょい。
そうやって作業している内に、胡散臭い男の周りにちょろちょろ寄ってきたウロどもが、はい! はい! これどうよ! ってお手伝いまで始める始末。なんだかすっかり懐かれた。
ほどよい加減が止めどきと、風呂敷背負って去ろうとする胡散臭い男に、何やら意味りげな目線を投げ寄越すウロたち。
「やァやァ、助かりましたよォ。もう飯、無いけどねェ」
――え?
「だから、もう無いですって。タダ働きご苦労様」
――は?
ウロたちの目が怒りの赤に。男にわっと襲い掛かる!――が、一時の飯を寄越してくれたのは事実だと、怪我をさせるつもりではないらしい。集まってちいちゃなお手手でポコポコかぁいく叩くだけ。
「ちょ、は!? 勝手に勘違いしたのはあんたたちでしょォが!? 服が汚れるから寄るんじゃありませんよォ!」
しかし、男にはたまったもんじゃあない。煤の塊に群がられてポコポコ叩かれて。
ふわっふわに舞う埃にがっはげっほと噎せながらなんとか藻掻いて脱出してみれば。
――お仲間かい? と見紛うほどの人型の煤塊のできあがり! 頭からつま先まで見事に真っ黒だ。
「|媽的《クソッ》、だァから奇怪党なんかに金貸すのやめろって言ってんですよォ、|帮主《ボス》!」
叫べども聞こえやしないとわかっちゃいるが、叫びたくて仕方ないといった風。
案内役の男が噴き出しかけるのを、ぎっと睨んで黙らせて、そうして土産を押し付けて。
すっかりしょんぼりトホホ、と肩を落として帰路につく。ああ、さっさと風呂に入りたい。
こうしてひとっ風呂浴びたものの、念入りにやられた服は洗濯したって真っ黒のまぁんま。慶雲の手持ちの服には要らんウロアレンジの服がひとぉつ、追加されたという。
大成功
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獺郷・ゆき
「上も戦後で色々足りないし、使えそうなモノを探す経験は、暫くは役に立ちそうですね?」
普段よりはテンション控えめ真面目モード、何が見つかるかは運次第で。
「破れ鍋に綴ぢ蓋、とはよく言ったもので♪」
単独では役に立たなそうなモノでも、組み合わせで使えたりしないか、などと考えつつ。ごく普通の変哲のない一般人(自称)の身では、日常生活で役にたつものを探したくなりますねぇ!
まだまだ活動をはじめたばかりの非力な身、ウロさんと敵対するのは避けたいものです。遺恨になっても嫌ですし。
にっこり笑顔で「軽く撫でて」みましょうか。消し飛ばすような真似はせず、お互い手を出さないでいましょうねと、穏やかにお願いしましょうか。
●地上も地下も足りないもんばかり
迎えも見送りも四度重ねればお手の物。
ゆらぁりゆらりとご機嫌に列車に揺られて妖狐はひとりアナグラへ。そんな妖狐を出迎えたのは、高利貸しとのやりとりでちょっとばかし疲れた顔の小太りの案内役。妖狐の真っ白い腕章を見るや否や、へらりと笑って帽子の脱いで礼をひとつとご挨拶。
「よお、いらっしゃい。あんたもフクロウだね? 協力してくれてありがとよお」
「おや、わかるもんなんですねぇ」
「それがそういう目印だって教えてもらったからなあ」
案内役がちょいちょいと自分の腕の中ほどを指さして。はてさて同じくらいの位置、妖狐の腕には認識修正の真白い腕章。
一体、どんな陰陽術なんでしょうねぇ? なんてきっと聞いても教えてくれやしないだろうが、気にはなるのも仕方ない。それは妖狐の仕事柄、言ってしまえば本業故の職業病というやつだ。
ひとまずそれは置いておいて、と笑み返す妖狐。
「上も戦後で色々足りないし、使えそうなモノを探す経験は、暫くは役に立ちそうだと思ってねぇ」
「ああ、やっぱ上も足りないもんばっかなんだなあ」
「そりゃあもう、」
――あっちこっちがヤケアトばかりなもんで。
さて、となると使えそうなモノが多そうな山がいいかあ、と男が案内したのはゴロリゴロリと明らか玩具ばかりが積み重なった新たな山だ。
「此処は?」
「いやあなあ、恥ずかしながら故障した奇怪絡繰の山さあ。後で直そうと積んでおいたらなあ、いつの間にか山になっちまった」
あっはっは、カラカラ笑う男がひとり。あるあるですねぇ、くつくつ笑う妖狐がひとり。
きぃきぃきぃ、そして真似て嗤うがウロたくさん。
「おんやぁ?――ああ、これじゃあ靴が真っ黒になっちまいますねぇ」
男はひぃ、と後ろに飛び退いた。
妖狐の足元にゃ手のひらに乗せてしまえそうなほど小さな小さな煤の子たちがわらわらと。
しっかし集まるだけなもんだから、よぉく様子を観察しみれば、どれ、何やら笑いあっていた二人の真似をしていたようだ。
暗闇でもよぉく光るくりくりの眼をぱちくり瞬きして、上を見上げてじぃと見て、何しに来たの? なぁんて問いかけてきそうなお顔。
敵意とかそういった害を成さんとする気配は全く感じない。困ることは精々、そう、靴が真っ黒になるくらい。妖狐は大丈夫ですよ、と男に声かけてちょんとその場に屈みこむ。
「此処には物探しに来たんですよ。ちょっとばかし住処を荒しちゃうかもしれませんが、いいもん見つけたらすーぐ帰りますから。お互い手を出さないでいましょうね?」
非力な身には小さなウロでもわんさか湧いてこられたら、とてもじゃあないが無傷では済まないし、敵対するのも避けたいとくりゃあ、とれる行動はただひとつ――示す友好、にっこり笑顔。ウロを優しくひと撫でて。
ウロたち、お互い顔を見合わせちゃあしばしコソコソ相談会。暫くして、妖狐にこくりと頷き返す。
「いやあ、ありがとうございます。さっさと探しちゃいますねぇ――案外、話、通じるもんですねぇ」
さて、ウロたちの気がかわらぬうちにと妖狐はささっと玩具の山へ。
「破れ鍋に綴ぢ蓋、とはよく言ったもので♪ これはどうでしょうか、あ、こっちもよさそうですねぇ!」
単独では役に立たなそうなモノでも、組み合わせで使えたりしないかなぁ――なぁんてついつい考えながら、あーでもないこーでもないとがさ入れだ。
どうにも此処のウロたちは人の真似っこが好きらしい。遠くから興味深く見ていただけのウロたちも、そのうち妖狐と並んでがさ入れ始め。これどう? こっちは? って案内してくれたり、品物を持ってきてくれたりするもんだから、捗る捗る。
「お、これは良さそうですねぇ!――おや、くれるんで?」
適当に見つけた絡繰箱にブリキ絡繰から飛び出した細かい物を片っ端からつめてるうちに、ウロたちがわっせわっせとみんなで何かを持ってきた。
どうぞ、って渡してきたのは随分と洒落た懐中時計。どうやらそれは妖狐あてのよう。蓋をぱかりと開けてみれば、多少歪んじゃいるが耳に心地よい音色が流れる。ちっくたっくちっくたっく、針は正しく時を刻んじゃいるし、まだまだ実用に耐えそうだ。
「おやっさーん、これ貰ってっていいかい?」
「おー、気に入ったのありゃ持ってきなー」
ウロたちからの洒落た土産だぁ、渡すわけにもいかないさ。
案内役の男には絡繰箱ごと目一杯詰めた部品を手渡して、妖狐は小さな小さなウロたちからの友好と懐中時計を手に入れた。
それ以降、ゆきがひとりでアナグラで懐中時計の音色を流せば、小さな小さな煤塊のウロたちがゆきの元にわらわら集っては、きゃいのきゃいのと遊んで帰るという大層にぎやな機会が増えたそうだ。
――こうしてひとまず|ゴミ山《宝の山》の煤払いは片付けた。さて、次はどんな事件が待っていることやら。
大成功
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