Friend of a Friend
──ネットロア。
インターネットを表す《net》と民間伝承を表す《folklore》からなる現代の造語で、電子メール、BBS、SNSなどのインターネットサービスを通じて広まった新たな口承だ。
そう言い表すと難しいものだが、実のところは現代でまことしやかに語り継がれている都市伝説とそんなに大きい大差はない。
杉沢村伝説、くねくね、きさらぎ駅……数々のネット怪談は今はスマホひとつで簡単にネットへアップ出来るが、ネット元年である95年からネット環境が一般的に普及する2000年前半から中盤は文字情報がメインであった。
つまり、パソコンのモニターや携帯電話の液晶画面を通した現実。
様々な語り手を通して、今そこで起きているかのようなライブ感による謎の臨場感。
匿名掲示板の専用スレッドにより作り話であることはその場に居る人間は承知であったが、それらがまとめサイトや様々な怪談話を蒐集した個人ホームページに転載されれば状況は一変する。
次第に噂話は一人歩きするようになり、近年においてはそれらを題材とした映画やアニメなども作られるようになって……。
「……よっ!」
「うわ!?」
提出する課題であるレポートを書いていると、不意に肩を叩かれて心臓ごと飛び上がってしまう。柳・依月(ただのオカルト好きの大学生・f43523)はずれてしまった作業用の眼鏡を落とさないようにと直しながら振り向けば、同じ民俗学を専攻する学友が悪戯が成功したとばかりな笑みを浮かべていた。
「何だよ、軽く脅かしてやっただけじゃないか」
「あのね。人が筆がノッてこれからって時に水を差すのもどうかと思うぞ?」
「メンゴメンゴ、後で何か奢るから勘弁してくれって」
洋服の上に長羽織という独特な和洋折衷的な服装と雰囲気からどこか古風さが漂う依月とは対象的に、現代的な服装で軽薄そうな学友が両手を合わせながら平謝りしてくる。
こういう時は決まって……。
「オレ、今提出するレポートの題材に困っててさぁ……何か面白い話ない?」
こう泣きついてくる。
「あのさぁ……今どき、都市伝説の話なんていくらでも転がっているだろ?」
「そうなんだけどよ。どれもこれも何処かで聞いたような話ばっかでさー。ネタの提供元で見てたオカルト系チャンネルも、最近ありきたりな物ばかりになってきて」
差し出されたスマホに映し出されているのは、自身が密かにオカルト系配信者として配信されているオカルト系専門のチャンネルだ。
主によく知られている怪談話の朗読や解説を扱っているのだが、自分で言うのも何だがチャンネルの登録数はそこそこでまあまあな人気度があると自負している。
あまり表沙汰としては面倒なことになりそうなので、教室の教授にも今目の前に居る学友にも配信者をやっているとは秘密にしている。現に懸念していた身バレがこうも身近な環境で起きるとは思っておらず、世間は狭いものだと嘆息が出るばかりだ。
「最近、ありきたりな話ばかり……ねぇ」
チャンネルのチャットではそんな発言をする狼藉者など居ないが、現にこうしてお互いに匿名同士で顔が割れていないのを良いことに面を向かって言われれば結構クる物がある。
確かに言われればそうなのだが、怪談話のネタというのは無限ではない。
ネットロアは日々創造されているものの、その大半は何かを下敷きにして創作されている。例えば完成度はイマイチな話が誰かの目に止まってより洗練され、それを繰り返されることで誰もが知る話となったりだ。
現に提出する課題に書こうとしたのは、現代怪談の語り部である書き手による手直しや掲載方法の変更による物だったのだが、文明の利器を使わずとも口での語り継ぎも重要と締めるつもりであった。
いくら文明が発展しようとも、人が娯楽として恐怖を求める心理と一緒で手段もそう変わらないと、自分たちを語り継ぐ存在を真似る|新しい妖怪《●●●●●》としてこの世に生を受けた自分自身は考えている。
「……仕方ないな。ここだけの噂話をしてあげよう」
「おっ、やっぱあるんだな。いやぁ、持つべきものは友達だぜ」
チャンネルで披露する新作オカルトネタは、主に|猟兵《●●》の活動で得た自身の体験によるものが殆どである。
当然ながら娯楽性を高めたり、知られると危ない要素は丁寧に刺抜きをして編集はするものの、以前よりそのまま語ったらどう変容していくのかが気になってもいた。
ネットの驚異的な拡散力では二の足を踏む実験ではあるが、口承ならどうであろう?
もう少し立てば大学を卒業してしまうが、次に顔と名前を変えて再入学した際に生を受けた噂話はどう変わっているだろうか?
いやぁ、本当に持つべきものは友達だ。
「ああ、とっておきだ。耳の穴をよくかっぽじっておけよ?」
そうして|語り部《妖怪》は落ち着いた口調で語りだす。
──友達の友達から聞いた話なんだけど……。
成功
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