ヌグエン・コーデ
●終戦の後には
小言が待っている。
ヌグエン・トラングタン(欲望城主・f42331)は渋面を作りもせずに、ゴッドゲームオンラインの己が領域に舞い戻っていた。
「おう、帰ったぞ!」
その言葉はいつもどおりだった。
いつも通りすぎたとも言えるものであった。
故に帰ってきたのならばヌグエンにしこたま文句を行ってやろうと思っていた妻たちは何も言えなくなってしまっていた。
「ぱっと見は無事そうだけど」
「これで怪我でもしていたら、まだ何か言えたのに。いや、怪我してないことはいいことなんだけど」
「それよりも、なんか言ってやろうと思っていたのに全部すっぽ抜けてしまった」
「でもなんか言わないとやってられないよね」
「うーん……」
彼女たちは皆、頭を悩ます。
ヌグエンは、そんな妻たちの態度に首を傾げる。
なんていうか、こういう戦争帰りというのは、涙の対面みたいなものがあるのではないかと思っていたのだ。
よくあるやつである。
感動のシーン、とはまでは言わないが、こうあるのではないかと広げた腕を所在無さげに上下させるしかなかった。
「ひとまず、いくつか聞きたいことがるんだけど」
「おう」
「戦争、だったんだよね? 大きな戦いと書いて大戦だったんでしょ?」
「復興の手伝いとかあるんじゃないの?」
彼女たちの言うことも尤もであった。
けれど、ヌグエンは頭を振る。まだ腕は上げ下げするばかりであった。
「不要だった。ていうか、猟兵たちが総出でぶっ潰してるんだ。被害らしい被害はねぇよ。復興の必要なし、とのことだとよ」
「それでも色々あるんじゃない?」
「そこら辺はほら、獣人たちが自分たちで立ち上がるだろ。別に猟兵でなければ弱いなんてことはないさ。生きているんだからな」
自分が何かを施す必要なんてないのだ。
ゲームの世界であれば、そういうわけにもいかないが。
けれど、獣人たちはあの世界で生きている。
なら、いつだって自分たちの足で立って、自分の手でもって事を為すことができるだろう。
そういうものだ。
生きているってそういうものだ、とヌグエンは笑う。
「まあ、そういうわけだ。俺様も三回も『デスペラティオ・ヴァニタス』を取り戻した甲斐があったぜ」
「は?」
瞬間、妻たちの表情が変わる。
いや、凍りついたと言っても良い。
魔眼が効いたのか? と一瞬思ったがそうではなかった。
「一回じゃなかったの!?」
「なんか連絡があったの一回だったよね!?」
「後二回もいつ!?」」
ヌグエンは、口が滑った、と思った。
己の腕の中に妻たちが殺到する。
さり気なくボディに効くタックルであった。
「げほっ! おいおいっ、いくらなんでも……って、うおっ、レバーはずるっ!?」
ぼこすか叩かれている。
可愛らしいものではなかったけれど、それだけ彼女たちが自分を案じてくれていることがわかるからこそ、ヌグエンは抵抗なく己のあちこちを叩く妻たちをなだめるようにして腕を振るう。
「まあ、まあまあ」
「そんなんじゃごまかされないから!」
「そうだよ! 本当に反省して」
「いくら連絡したからって、そういうのってよくない」
「事後承諾なんて、私達の間には免罪符にはならないんだから!」
その言葉にヌグエンは苦笑いするだろう。
いつだってそうだ。
不可避なる状況がある。
どうしようもない状況があるだろう。
だからこそ、ヌグエンは曖昧に笑うが、しかし、いつものように言い放つのだ。
「俺様を誰だと思ってる?」
ニカッ、と笑う。
そう、いつもと変わらない笑顔で妻たちに言い放つのだ――。
成功
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