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八ツ咲キ仙花殺戮奇譚

#シルバーレイン #決戦 #狂鬼戦争

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●栃木県のとある結婚式場にて
 ずっとずっと夢見ていたの、幸せな花嫁さんになることを。
 あなただけの花嫁さんになることを。
 あなたとの出会いは本当に小さい頃、小学生になるちょっと前だったかな。
 東京から此処に、お隣に引っ越してきて。わたしの家にお母さんと一緒に挨拶に来てくれて。
 ふふ、その頃は人見知りだったよね。あなたはずっと後ろに隠れていて。
 だから、わたし、余計、仲良くなりたかったの。
 ここは都会みたいにいろいろある訳じゃないけれど、田舎だからこそ楽しいこともあって。
 あなたの手を引いて、わたし、いろんなところ遊びに連れ回してたよね。
 あなたはときどき困った顔をしたけれど、優しいから、結局、わたしに付き合ってくれてた。
 それが、嬉しかったの。
 ――あなたは少し、気が弱くって。ちょっとだけ、怖がりで。でも、誰よりも優しくって。
 だから、小さい頃は、わたしが守ってあげなきゃって思ってたの。
 でも、いつの間にか、あなたがわたしを守ってくれるようになってたね。
 そして、わたしのことをずっとずっと大切にしてくれた。
 だからね、わたし、あなたを支えたくって。傍にいたくって。一緒に幸せになりたくって。
 今日という日をとても楽しみにしていたのよ。

 ――でも、どうして? どうして? あなたは、いま、わたしを、かばって。
「やだ、やだやだ。いやあああああああああっ!!!!」
 あかいむしの、ばけものに、くわれているの。あたま、なくて。からだ、ああ、なくなって、なくなってく。
 さけんで、こふり、むせたわたしのくちから、あかいものがあふれる。
 おかしい、わたしも、なんか、くるしいの。くるしいよ。くるしい。いたい、いたい、いたい、いたい。
 いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい。

●|祝い転じて呪いと至る《まじないてんじてのろいといたる》
「まずはざっくり概要だけ話すね。劉・叔成っていう悪いおじいちゃんが強化したオブリビオンを使って、栃木県のとある結婚式場で大量殺人事件を起こすんだ。今回はそれを止めに行ってほしい。で、次に事件の原因になっている儀式場を破壊するなり儀式を止めるなりしてから、最後におじいちゃんをぶっ飛ばして来て」
 劉・叔成という人名に聞き覚えのある猟兵が何かを言うのを、一旦待って、と止めてから説明をするフール・アルアリア(No.0・f35766)。
 きゅきゅっと油性ペンをホワイトボードに滑らせる。ざっくり図解的な何かのつもりらしい。
 仙人風のキャラクターに×印、|円満解決《ハッピーエンド》と書き加える。
 どうやら今から行けば、その大量殺人事件は食い止められるようだ。

「で、此処からは知ってたり、覚えてたりする人向けの説明ね。知らなくても興味があれば聞いてって」
 この劉・叔成という仙人風の老人、実はかつて銀誓館学園で討伐した存在だ。
 無数にゴーストを生み出し続ける都市を意図的に建築し、世界結界を崩壊させるという陰陽都市計画の首謀者だった。
 そんな彼がオブリビオンとして蘇り、再び陰陽都市計画を実行しようとしている。
「彼と最期に戦ったのは栃木もみじヶ丘っていう、地図にないニュータウンで完成した陰陽都市だよ。街の人達はもういない。僕らが気付いたときにはもう――とにかく、まあ、栃木県に縁が深い彼は、再びその地にあらわれたってわけ。うん、栃木もみじケ丘に近いんだ、その結婚式場」
 栃木もみじケ丘というニュータウンは世界結界の影響で人々は認識できないのだが、もみじケ丘という名称はバス停として辛うじて残っている。そして現場はそのバス停のある町内だ。
「陰陽都市計画の再実行は既に始まってる。ユーベルコードを使って町内の人々を苦しめて、その苦痛から生成した鬼型オブリビオン軍団を編成しようとしているんだ。今回の大量殺人事件はそのオブリビオンが原因の第一事件だよ」
 強化されたオブリビオンは赤燐蟲『捕食型』――外見的には鬼の角が生える変異が起きているらしい。
「そして劉は、その結婚式場のどっかにいる。結婚式場は奇門遁甲陣っていう結界のせいで迷路になってるから、正解ルート以外ではたどり着けない。なんとか打開して儀式を止めて。でないと町中の人達は苦しいままになっちゃう」
 打開策がないなら――勘でいくしかないんじゃないかなぁ……? あとはマッピング? と難しい顔のグリモア猟兵。
「6月といえばジューンブライド! 人の恋路を邪魔する奴は、本当は僕がぶっ飛ばしたいくらいなんだけど。僕はいけないからみんなに任せる。よろしくね!」
 そうしてひらり、鏡の白い蝶が閃いて。

 ――転移された先は披露宴の最中、今まさに壁より出ずる赤燐蟲が、儀式により与えられる苦痛で弱った人々を捕食しようとしていた。


なるーん
 おはこんちばんは、なるーんです。

 八仙花とは紫陽花のことです。
 仙人風のおじいちゃんが八つ裂きにされるのか、花嫁が八つ裂きにされるのか――。

 此処まで書いておいてなんですが、当時のことはさっぱりです!!
 調べたけどね!? 詳細はプレイング通りしか拾えません、ご了承ください!!

 第一章は断章なし。とりあえず蟲をぶっ飛ばして人々の安全を確保!
 第二章、三章は断章はいるようでしたらタグにてお知らせします。

 OP公開後より受付開始します。
 戦争後でへろへろ気味なのでまったり進行予定。
 よろしくお願いいたします。
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第1章 集団戦 『赤燐蟲『捕食型』』

POW   :    ヤツはなんでも呑み込む口を持っている
【相手の死角から突然巨大な口による捕食攻撃】を放ち、命中した敵を【丸呑みした後、消化液塗れの胃壁】に包み継続ダメージを与える。自身が【近付く際に地中や水中、建造物の中を潜行】していると威力アップ。
SPD   :    どこにでもヤツは現れる
【地中や水中、建造物の中を潜行している】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
WIZ   :    逃げてもヤツは追ってくる
【相手の死角から突然現れ巨大な口による捕食】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【匂いや行動パターン】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。

イラスト:塚原脱兎

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

儀水・芽亜
陰陽都市計画の歴史再現ですか。あのご老体もしつこい。

参りましょう、“断頭卿”ギロチン。
あの蟲どものどこが首かは分かりませんが、あなたならそんなこと関係ありませんよね。須く、切り捨ててください。

“断頭卿”が敵の注意を惹きつけている間に、『驟雨の弓』で「矢弾の雨」のように矢を放ち、戦後射撃に徹します。一刻も早く、一体でも多く射殺していけば、“断頭卿”が蟲を殺す速度は上がっていく。
特に死角から“断頭卿”を狙う蟲を優先して狙いましょう。

私も立ち位置には注意して、屋根の上に陣取っての射撃攻撃です。これなら、注意していれば死角からの攻撃は受けません。
“断頭卿”は順調ですね。彼が切り拓いた道を私も進みます。



●断頭は慈悲深く
 ――リーン、ゴーン
 ――リーン、ゴーン
 惨劇は突然に。スケジュールは正確に。
 時間通りに計画された祝福の鐘は、苦痛に喘ぐ人々の頭上で無慈悲に鳴り響く。
 壁より出ずる赤い蟲の化け物に、まだ動ける余力がある何人かは悲鳴をあげながら我先にと逃げ出した。
 お客様を守らねばと使命にかられた従業員たちは、自らも苦痛に喘ぐ最中でも、倒れた人々の救出に、赤い蟲の化け物への対応に、救急や警察へ架電するものの――繋がらない。繋がる筈もない。
 もはや|認識阻害《ジャミング》程度で誤魔化しきれない異常を、世界結界は場所ごと区切り取る。
 この結婚式場は既に人々に認知されない。救いの手が差し伸べられることはない。
 祝福の鐘は、このまま葬送の鐘へと至るのか。
 縺れる足はドレスの裾を踏みつけて、無様に転げた花嫁。迫る蟲。
 震える足を叱咤して花嫁と蟲の間に飛び込んだ花婿。
 がばり、開いた蟲の口はまるで赤い花のよう。
 予知の通りといくならば、そのまま花婿の頭ごと花は閉じられて――

 しかし、そうはならなかった。そうしないために、此処に彼女があらわれたのだから。

「“断頭卿”ギロチン!」
 混乱した場を裂くような凛と張る一声の直後、すぱん、花は縦に手折られる。
 花の、蟲の前に、花婿を庇うように突如顕現したのは、マフラーで顔を隠し、二刀の大剣を携える何者か。
 それが蟲を一刀において、切り裂いたのだ。
 儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『|夢可有郷《ザナドゥ》』・f35644)がチャペルの屋根より、矢をつがえながら花婿たちに声をかける。
「さあ、今のうちに早く! 一先ずこの式場より出てください!」
 頷く花婿は花嫁を連れて、式場の出口を目指す。
 芽亜がチャペルの屋根より確認すれば、式場の対岸は人通りがあった。
 世界結果の効果範囲はまだ式場だけで済んでいるのだ、此処より出れば生存の目がある。
 ならば、芽亜にできることはひとつ。
「さあ、ギロチン。須く、須く、切り捨ててください。蟲どものどこが首かは分かりませんが、あなたならそんなこと関係ありませんよね」
 蟲を一匹たりとも逃さぬことだ。
 ギロチンと呼ばれたそれは、捕食せんと開いた蟲の口を剣で穿ち、裂き、四つの花を六つの花へと成して。
 はらり、蟲は、散る。
 祝福の場を見だす不届きものへも慈悲深く、一太刀で切り伏せていくそれは、芽亜の想像より創造せし|虐殺師《ギロチン》という存在だ。
 ギロチンは芽亜の言葉に頷くかわりに、壁より、地中より、堰を切ったように現れ出した蟲たちを次々と切り伏せて、切り裂いて、肉塊とかえていく。
「させませんよ」
 芽亜は芽亜で、ギロチンの背後すぐより新たに出る蟲を、驟雨の弓の矢で射止め。
 ギロチンに隙を、死角を作らせまいと、戦場に矢弾の雨を降らす。
 蟲たちの巨体では雨を躱すことは叶わず、対してその雨を掻い潜り、ギロチンが大剣を振る。
 ギロチンが派手に動けば動くほど、脅威は地上にあり、と蟲たちの注意がギロチンに向かうのだ。
 それはまさしく芽亜の目論見通り。芽亜は少しの注意を払うだけで、援護に集中できるという訳だ。
 そして逃げる人々からも蟲たちの意識を逸らすことができる。
 ――嗚呼、今もまだ鳴り響く鐘は、蟲たちへの葬送か。
「陰陽都市計画の歴史再現など、あのご老体も本当にしつこいですね。でも」
 葬送と言えば、本件の黒幕であるあの狂った老人だ。
 過去に葬った――否、敵対存在だったものが、歴史再現として次々と骸の海より現れるこの世界。
 現れるのならば、そうなくなるまで何度も骸の海にかえすほかない。
「しつこさなら、銀誓館学園も負けません。何度でもかえしましょう」
 かつて能力者として戦ったものとして、そして今も学園に携わる者として――。
 一度、脅威と定めた存在を、銀誓館学園はみすみす見逃すほど甘くはない。
 蟲たちはまだ湧き出ずるばかりの気配、道が拓けるのはもう少し先か。
 芽亜はただ真っ直ぐに戦場を見定め、蟲たちを確実に葬っていった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

山崎・圭一

狂鬼戦争か――俺の人生史上、初めて身を投じた戦争だったな
話には聞いていたがやっぱり復活していたんだな。あのジジイ
老いぼれても尚、野望を燃やし続けるのは称賛に値するけど
その情熱、もっと健全な方向へ向けてくれないもんかねぇ

|俺《蟲使い》の前に屈しない蟲はいない
結婚式の招待客にしちゃ品がねぇぞ
『軍蟻附羶』行って来い、アントニー!
あの下品な赤虫を好きなだけ貪っちまいな!
隙間という隙間に潜り込むのは蟻だって得意なんだ
でも食うのは赤燐蟲だけにしとけよ。人間は襲うな。OK?

でだ。俺は一般人の保護にでも回ろうか
ベアトリスやパトリシアを何体か呼び出して、人々を乗せるよう指示
あの惨状は…もう二度と見たくねぇしな



●|蟲葬《ちゅうそう》は残酷に
 鳥が肉を啄む葬送があるのならば、蟲が肉を啄む葬送も在る。
 ――が、蟲の場合はそれだけではない。
 鳥が優しく魂を空へ運ぶだけであるならば、蟲は慈悲なく本能のままに生きた肉を喰らうこともある。
 そう、例えば軍隊蟻などの事例だ。
 彼らは大型の動物すら喰らい、時に人間すら襲う。
 何十万という軍隊蟻に群がられた人間は、一晩で白骨化するほどだという。
 その過程においても酷い苦痛を伴うのだそうだ。
 一度、噛みつかれたのであれば、無理に引き剥がせば出血を伴う。
 だが早く引き剝がさなければ、瞬くに群がられて喰われていくだけ。
 そんな彼らを使った処刑法すらある。
 四肢をよぉく縛り、彼らのよく好む餌を身体に塗りたくり、生きたまま、彼らに喰わせる。
 凄惨だ。残酷だ。そして、蟲は無慈悲だ。自らの身体が喰われゆく絶望を、誰が耐えられよう――。

 鬼と化した赤燐蟲が、式場の地中を泳ぐ。
 如何に地上に脅威があろうとも、否、脅威があるからこそ生存本能に特化した蟲は逃走をはかる。
 骸の海より出でし蟲でも在り方はあくまで蟲だ。生き残るために逃げ、生き残るために喰らう。
 地上を逃げる人々の振動が蟲たちに伝わる。
 ――餌だ、餌がいる。餌を喰らえ。喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ!
「きゃあああああっ!」
 一匹の赤燐蟲が地中より現れる。丁度、頭上に居た幼い少女を高く高く宙へ突き上げて。
 そしてがばり、蟲は棘だらけの口腔を開き、餌が落ちてくるのを待った。
 少女は哀れ赤燐蟲の口の中へ落ちていく――しかし。
「させるかよっ!」
 突然、少女を横から浚ったのは巨大なチョウトンボ――に騎乗した山崎・圭一(三・十・路 学ラン・f35364)だ。
 地中を泳ぐ蟲が、トンボの飛空能力に敵うはずもない。
 口が閉じられるより素早く赤燐蟲より距離をとり、一瞬の低空飛行の隙に圭一はひとり地上へ飛び降りた。
 ベアトリスは少女を乗せたまま再び高空へ逆戻り。
「行って来い、アントニー!」
 片手に携えた遊環がしゃらり打ち鳴れば、ざらり、圭一の身体から軍隊蟻の群が零れ出す。
「結婚式の招待客にしちゃ品がねぇ、あの下品な赤虫を好きなだけ貪っちまいな!」
 人間は襲うなよ。OK? なんて何気なく付け足した指示も蟲使いの其れならば、蟻の群は実に忠実に。
 祝いの場を乱す赤燐蟲たちだけを獲物と定めて、一斉に、襲いだす。
 数はただ暴力だ。一の大きな力より、数十万の小さな力が集えばそれだけ圧倒的な暴力となる。
 赤燐蟲は身体をくねらせ蟻たちを払おうとするも、圭一より零れる蟻が途絶えぬ限りは無駄な事。
 地中に逃げようとしても、蟻たちはしつこく追いかけて。
「無駄だぜ。隙間という隙間に潜り込むのは蟻だって得意なんだ」
 赤燐蟲の皮膚を貫き、蟻酸におかし、鋭く鋭く喰らいつき、獲物の肉をただ貪る。ただ、貪る。
 その痛みは、傷は、数十万。蟲ですら耐えられるはずもない。
 悲惨だ、壮絶だ、惨憺だ、残酷だ、しかし不届きものには何より相応しい!
 餅は餅屋、だ。蟲使いの前に屈しない蟲などいるはずもない。

 ――次々地上に姿を現す赤燐蟲たちを、されど蟻たちが片っ端から新たな獲物だと喰らい付く。
 場を制圧しきるには至らずとも、あとはアントニーたちに任せればいいだろう。
 さて、と圭一はなすべきことをなす。
 祝福の場は人が多く、また赤燐蟲は巨体な分だけリーチは長い。
 人の足だけでは、特に子どもは逃げきれないだろう。
 圭一は騎乗サイズのベアトリスや|オオスカシバ《パトリシア》を呼び出して、人々を乗せて外へと逃がす。
「あの惨状は……もう二度と見たくねぇし、な」
 脳裏に過るのはかつてあった悲劇。救えなかった命が遺した、残滓。
 ――たすけて、いやだ、いたい、ころさないで。
 初めて身を投じた戦争という非日常。悲劇はこういうことかと思い知った。
 ――おかあさん、おねえちゃん、いやだ、しにたくない、くるしい。
 其処に確かに在った恐怖の、苦痛の、痕跡。
 ――たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて。
 どれだけ幼い命だったのか。どれだけ苦しかったのか。どれだけ怖かったのか。どれだけ、生きたかったのか。
 失われた命には、もう思いを馳せるしかできないけれど――繰り返さないことは、これからだってできる。
 そのために圭一も、此処に来たのだから。
「それにしたってよぉ。老いぼれても尚、野望を燃やし続けるのは称賛に値すっけど、その情熱、もっと健全な方向へ向けてくれないもんかねぇ」
 ――まったくだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柳・依月
俺は当時のことは資料でしか知らないがな…どうもとてもいい性格をしておられるご様子で。
よりにもよって結婚式場で大量殺人とは。
しかもこれはただの序章に過ぎないと来てる。
なんとも嫌な話だ。

早速UC【伝承顕現:闇鴉】起動。
虫が鳥に勝てるとでも?

俺自身は一般人の護衛と避難誘導にあたるとしよう。
仕込み番傘を盾に付かず離れず一般人を守りながら、向かってくるやつらは切り捨てる。

——晴れの舞台を汚してしまって申し訳ない。
すぐに片付けるから、落ち着いて逃げてくれ!



●|鴉《とり》は庇護の翼を広げ
 晴れの場を穢す不届きものの目は、わたしたちが啄んでしまいましょう。
 青空に飛び立つ鳩は血に濡れど、いっそ紅白ならばめでたいほどでしょう?
 やがてこの身が、翼が、黒に染まってしまっても、鳥の在り方は変わらない。
 その身が、存在が、心が、行いが、祝いの場に相応しくないと顧みぬというのならば。
 いいでしょう。その肉を、身を、命を、布施として、さあ、寄越しなさい。
 罪を洗い流して、天へと運んであげましょう。海へと、かえしてあげましょう。
 ――ガラスの靴の姫君のお話でも、茨に守られ眠る姫君のお話でも、祝福を穢すものには手ひどい|罰《ばち》があたるもの。
 物語を体現するが|lore《ロア》ならば、さあ、さあ、此処に相応しき裁きの鳥を!

 動ける者は自らの手で、足で、運命を切り開くものだ。
 逃げる余力のある者は自らの足で、そして断罪者の、蟲たちの手助けを経て辛くも命を繋いだ。
 ならば、動けぬ者は? 足掻くこともゆるされず、運命に翻弄されるだけなのだろうか。
 ――否、ひとりくらいは手を差し伸べるものがいる筈だ。
 しかし、この場は哀れ世界結界より切り離されて、本来、差し伸べられるはずの手が与えられない。
 より多くを守るために世界より見放された者たちは、このまま喰われ逝くしかないのか。
 迫りくる巨大な蟲の恐怖と、絶えることなき苦痛に藻掻くしか出来ない人たちは、果たして――。
 泣きじゃくる子の元に這う這うの体でたどり着いた母親が、その身を抱える。
 逃がすことができぬならば、せめて恐怖から覆い隠してやろうかという親心か。
 母の背に迫る、蟲の口は――
「|闇鴉《デンショウケンゲン・ヤミガラス》、起動!」
 肉を喰らうことはなかった。
 時速300kmで飛翔する百羽をこえた鴉の大群が、蟲を襲い、それを阻んだのだ!
 蟲が命を喰らうかわりに、鴉たちの急降下による鋭い爪の斬撃が蟲の肉を抉り、削り取る。
 蟲が煩わしい鴉諸共、その巨体で母子を潰してしまおうと身をよじれども。
 ギャア! ギャア! 鴉が鳴けば不思議とその軌道は明後日の方向にそれるばかりだ。
 その隙に、柳・依月(ただのオカルト好きの大学生・f43523)が駆け寄って、母子を助け起こす。
「すぐに片付けるから、落ち着いて逃げてくれ。無理せず、ゆっくりでいい――だけど、諦めるな」
 弱弱しく頷く母親。泣きじゃくる子どもを、怖い蟲はお兄ちゃんが退治するから、と依月は宥める。
 足取りは緩やかなれど、式場の出口に向う母子の背を見送って。
 依月が他の一般人たちも手助けしていけば、やがてぞろぞろと逃亡者の群が続く。
 それを見逃すほど蟲たちは愚かではないが、鴉たちと視覚を共有した依月に死角などある筈もない。
「虫が、鳥に勝てるとでも?」
 空からの監視をくぐり抜けられるのならば、蟲が鳥に喰われよう筈もない。
 ましてや蟲たちは巨体だ。鳥たちの餌食と言えよう。
 蟲たちが先回りをすれば鴉たちが空から急襲し、蟲たちが後方から襲いくれば、殿を務める依月が仕込み番傘で尽く切り捨てる。
 逃亡者の群は遅々とだが、しかし確実に生存への道を進んでいた。
 防衛する依月の体力も無限ではないが、ジリ貧な状況は蟲たちも同じことだ。
 目に見えて明らかにその頭数が減っている。あと一手、あと一手あれば、殲滅できるだろう。
(それにしても、)
「どうも、とてもいい性格をしておられるご様子で」
 資料上でしか知らない黒幕の性格を身を持って知るには、今の状況だけで充分だった。
 ――結婚の瞬間は人生において幸せの頂点ともいえるだろう。その瞬間をわざわざ踏みにじろうというのだ。
|福を転じて禍と為す《ふくをてんじてわざわいとなす》――故事の逆をなぞらえるつもりか。
「そりゃあ与えられる苦痛はより鮮明になるだろうさ。しかもこれはただの序章に過ぎないと来てる」
 また一匹、蟲を切り伏せる。間に合わなければ、結婚式場の悲劇はただの始まりだった。
 このままでは町全体が、そこに住む人々の日常が、終わりを告げる。
「なんとも嫌な話だな」
 依月は|オカルト《怖い物語》が好きだ。|オカルト《怖い物語》だからこそときには不幸な終焉を迎えることだってある。
 だが、それは人が|オカルト《フィクション》を愛するからだ。
 人は実に様々な物語を愛する。
 酸いも甘いも、幸も不幸も、悲劇も惨劇も、|狂言回しが語る《ワタリガラスの》ご都合展開ですら人は愛してくれる。
 だから|物語《ロア》である依月も人を愛するのだ。
 ――すべてがすべてそうとはいかなくても。
 やっぱり、|実際の物語《ノンフィクション》は、ハッピーエンドが、いい。
 そのために依月は人を守るのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

酒井森・興和

惨い嬲り殺しがお好きとは
妖怪爺が…相変わらず狂っているな

人を喰おうとする蟲へ逆鱗を【威嚇射撃として投擲】
逃げろと叱咤し人を背に【かばう】とUC火纏で目視可の敵を攻撃
視覚や呼吸阻害もどこまで効くか…
【第六感と気配感知、集中力】で敵の気配を読み、出会い頭や地中から出た瞬間を狙う
三砂で【重量攻撃】頭を叩き撃ち
突き刺すか咬ませて【怪力】で持ち上げ付近の敵の口へぶち込み【敵を盾にする】
噛み付かれたら終わりだが消化液や敵の体当たりの負傷は耐える
鋏角衆が喰うだけの赤い蟲に負けては蜘蛛族の名折れ…【狩猟】を続けよう
UC火纏で追い立て弱らせ炙り出し【逃亡阻止】
飛斬帽で【切断】し、三砂で撃ち裂き仕留めていこう



●|炎火《えんか》は灰燼に葬送す
 葬送せよ、葬送せよ。炎は凡そすべてを破壊する。
 物も、者も、炎にくべれば等しく灰燼に帰す。土に帰す。
 そうして再び、全ては生命の循環の中へとかえるのだ。
 其処に正も悪もない。ただ天秤の如く何より等しく、炎は全てを葬送する。
 炎を灯す担い手だけが、何を燃すかを選びえるのだ。
 ――選ぶのならば、灯すのならば、気をつけなさい。
 焚きつけられた炎は、其処にある全てを呑み込むまで止まらないのだから。

 ひとりの蜘蛛は、鋏角衆は、戦場を冷静に見渡す。
 かつて銀誓館学園と敵対し、降ったものとして、果たして酒井森・興和(朱纏・f37018)は何を思うのか。
 多くの同胞を喪いながらも、途絶えぬことがなかった人間への好奇心や知識欲。
 学び舎を共にし、人間を理解する努力を続けながらも、いまだ線を引きたいと思ってしまうのは、元は人間を喰らう種であったことからの負い目――なのだろうか。
 過去の歴史を繰り返す中には、土蜘蛛の女王も居た。
 幾度か対面する度に、歪であれども同胞の生存を願う気持ちがあると、自覚している。
 土蜘蛛族の昔ながらの暮らしを恋しく想う欲だって、あるのだ。
 ――嗚呼、複雑、なのだろうか。わからないが、しかし。 
「惨い嬲り殺しがお好きとは。妖怪爺が……相変わらず狂っているな」
 今、目の前で起ころうとしていることが狂気の沙汰であることは、確かだ。
 惨劇は、先の猟兵たちにより辛うじて防がれている。一手、足りぬは武力。あとは、余力か。
 慈悲深き断頭の刃が振るえども、蟻たちが数で圧倒しようとも、空舞う監視者たちが庇護の翼で人々を守ろうとも、それぞれの戦線は危ういバランスで保たれているだけ。
 どこかが躓けば、ひとたび惨劇の幕開けだ。
 ただひととき吸い上げただけの苦痛は、ただそれだけで赤燐蟲たちを強化していた。
 ――そして、ふと、花婿と手を取り合って逃げる花嫁を見て、興和は思った。
 まだ、先の話ではあるが。もし、もし愛しき娘の晴れの日に、このような惨劇が起きてもみよう。
「ああ、それはゆるせないな。ゆるせない」
 興和が動く理由は、それだけでよかった。
「諦めるな。足を動かせ。逃げろ!」
 まずは緩やかに逃走を続ける群に飛び込んで、地中より現れる蟲に逆鱗からの威嚇射撃を放つ。
 度々蹴躓く老夫婦を叱咤し、庇いながら。
「八相、烈火!」
 火纏を放った。
 戦場を舐る灼熱の炎は、しかし鳥も、蟻も、断頭も、誰一人も巻き込むことなく赤燐蟲だけを的確に燃やす。
 如何に炎が荒ぶる暴力であれど、焚きつける興和が正しく選びえるならば、それは無差別な炎滅の炎ではない。
 悪しきだけを燃やす裁きの炎だ。
「鋏角衆が喰うだけの赤い蟲に負けては蜘蛛族の名折れ……蟲の狩猟を身を持って知るといい」
 蜘蛛の狩りが、待ち伏せばかりだとは思うな。蜘蛛こそ、獲物を狩る蟲だ。
 蜘蛛の触覚は、鋭敏だ。僅かな地の揺らぎから的確に蟲の出現位置を把握し、三砂を頭上に叩き込む。
 火纏の炎熱で地よりあぶり出し、炎の壁を作っては逃げ道を塞ぎ、飛斬帽で切り捨てていく。
 ときにみっともなく開かれた赤燐蟲に、盾かわりに仕留めた赤蟲をぶち込んで。
 多少の負傷も元のもせず700年を越えて生きる戦歴の蜘蛛は、あらゆる蜘蛛の能力を屈指して狩りを続けた。
 我こそは|蜘蛛《アシダカ》――獲物を求めて、戦場を駆け巡り。
 我こそは|蜘蛛《ハエトリ》――獲物があれば、跳躍して仕留め。
 我こそは|蜘蛛《ハラフシ》――逃げる獲物を、追跡して切り捨てる。
 そうしてひとりの蜘蛛が戦場を蹂躙して、ようやく、ようやく赤燐蟲の完全なる鎮圧を果たしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『奇門遁甲陣を破れ』

POW   :    儀式場を守る敵を蹴散らす

SPD   :    儀式の陣を形成している物品を破壊する

WIZ   :    儀式の陣を守護する魔力や結界に干渉する

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

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●奇門遁甲陣【伏宮格】
 奇門遁甲、天盤指し示すは庚儀、地盤指し示すは甲尊。
 今、この場を支配するは奇門遁甲陣【|伏宮格《ふっきゅうかく》】、孤立無援を招くとされる大凶格がひとつ。
 故に全滅に向かうと読み解き、|敗走させる《・・・・・》には良いとされる方角――だった。
 嗚呼、本来であればこの場において差し伸べられる救いの手はなかった筈だ。
 誰も彼もが幸福の最中から転落し、絶望と苦痛の中で嬲り殺され、喰らい殺され、死んでいく。
 悲運に嘆き、恐怖に慄き、そして更なる心の苦痛より産まれし赤燐蟲たちにより、陰陽都市は再誕する筈だった。
 ――それが、どうだ。誰も彼もが式場より逃げ出してしまったではないか。
「おのれ、また再び邪魔をするか」
 ――劉・叔成は忌々し気にそう吐き捨てて、更なる陣を引き直す。
 奇門遁甲、天盤地盤ともに指し示すは庚。
 奇門遁甲陣【|戦格《せんかく》】二つの庚が意味するは重なり合う刀剣、読み解くは闘争。
 迷宮を迷走し、迷宮にて闘争し、そして敗走せよ。

●迷宮教会
 転倒による多少の怪我はあれど、猟兵たちの活躍により一般人たちは無事、逃げおおせた。
 車道をひとつ挟んだ向かいの通りにまで出てしまえば、世界結果の|認識阻害《ジャミング》により蟲の騒ぎはすっかりただのボヤ騒ぎ。
 ひどい頭痛や重く怠い身体の不調も煙を吸ったからでは、とされて救急などが来る始末。
 ――とにかく、これにて彼らの今日は、ただの災難な一日となるだろう。
 あとは儀式を止め、劉・叔成を再び過去に沈めてしまえば、彼らの、そしてこの町に住まう人々の明日は続くのだ。
 グリモア猟兵は言っていた、黒幕は式場にいると。
 そうして踏み込んだ教会の中は、ステンドグラスが無限に続く果てなき迷宮と化していた。
 右へ左へ、左へ右への無限地獄。
 迷宮そのものから仄かに感じる魔力のような残滓――これそのものが陣を守護する結界を思わせる。
 進む先を阻むようにステンドグラスよりあらわれるゴーストたちを蹴散らすか。
 迷宮を構成するステンドグラスを破壊してしまうか、正解ルートを駆け抜けるか。
 ――攻略方法は思いのままに。辿り着くその先に、黒幕は居る。
儀水・芽亜
奇門遁甲陣ですか。呪術に通じた知人ならば、容易く読み解いて解体するのでしょうけれど。
術理の才が無い私にできるのはこれくらい。

「全力魔法」虚無の「属性攻撃」「破魔」「部位破壊」で目覚めの時間。
陣図を構成する呪力の流れを、迷宮の壁に突き刺した裁断鋏で「切断」します。
奇門遁甲陣が綻べばそこから奥へと進み、次の迷宮に入ったと感じたら、また周囲の呪力の流れを断っていきます。

足止めのゴーストも、都度排除が要りますか。
裁断鋏で「薙ぎ払い」「浄化」しましょう。対処しきれないほど溜まる前に片付けながら、迷宮突破の作業を続けます。

耳を澄ませば、何かの詠唱が聞こえてこないでしょうか?
終点間近。もうひと頑張りです。


酒井森・興和
避難が出来たようで何より
爺の思惑の為に死体の山なんてまっぴらだからねえ

ふむ、でも、この色硝子の無限回廊は…
奴に近付くのは大層難儀なようだね
僕は陰陽道や八卦なんてのにはてんで疎いからなあ…
妖術で布かれた陣ならば力任せに壁を潰しても上手く辿り着けるか怪しいか
正規のルートは本業並の知識が要りそうだし
どこか綻びを誘うような要を潰せば…

三砂の石突きを床に突き【落ち着き、集中力を込めて気配感知】
UC糸の伝えを行使
まず劉の居る方向
この陣の気や妖力の流れ
それの要所に成っている物や妨害するゴースト…
それを【怪力】で破壊、迷路を破っていきたい
相手は陣に護られているが保持の為そのぶん動けず
追い詰める事が出来るはずだ



●OGOB大立ち回り
 踏み込んだ途端に目の前でぐらり拡張した景色。
 教会の中はすっかり無限に続くステンドグラスの迷宮回廊と化した。
 ステンドグラスに差し込む光は陽光より夜光に転じ、厳かな雰囲気は途端に禍々しく。
 ゴーストの気配も漂うそんな迷宮に佇んで、少しばかり難しい顔をするのは芽亜と興和。
 二人は銀誓館学園のOG&OBだ。
「奇門遁甲陣ですか。呪術に通じた知人ならば、容易く読み解いて解体するのでしょうけれど……」
「僕も陰陽道や八卦なんてのには、てんで疎いからなあ……正規のルートは本業並の知識が要りそうだし……」
「そうですねぇ……」
 さて、どうしたものか……と二人腕を組み、考え込む。が、辿り着いた結論は同じものだったようで。
「どこか綻びを誘うような要を潰すことができれば……或いは」
「なるほど。私に術理の才はありませんが、それくらいなら」
「ならば、僕が爺の居る方角を探ろうか」
「お願いします」
 見合ってこくり確かに頷きあう。
 共闘は銀誓館学園の得意とするところだ。かつての強敵たちも生徒たちが皆一団となって討伐してきた。
 それが例え今日初めて会った相手でも、だ。そうしなければ死と隣り合わせの日々を生き抜けなかった、ともいう。
 とにかく、だ。今、必要なのはその頃の感覚。各々最大限、出来ることを全力で。
 ――さて、まずは興和。三砂の石突きを床に突き、呪力の気配を辿るよう集中する。
 いくら鈍ったといえど人の其れよりは優れよう。蜘蛛の気配感知は元来、鋭いものだ。
 四方で足りぬならば八方に。蜘蛛の糸を広げるように意識を薄く広く、空間に馴染ませて拡げていく。
(まず劉の居る方向――此処よりはるか北の方角)
 ――しゃきり、芽亜が裁断鋏を構える。
(この陣の気や妖力の流れを辿れ。それの要所に成っている物や、妨害するゴーストは――なるほど、)
「そこだ!」
 興和の指示した方向に芽亜が裁断鋏を突き立てる。
 その裁断鋏に籠められた神秘を滅する虚無の力は、呪力の流れを切断する。
 ――切れ、切れ、切れ、切れ。鋏は縁を断ち切るもの。良縁悪縁すべて平等に、さあ、|真っ新《まっさら》となれ。
「此処から、断ち切ります!」
 芽亜がそう告げると裁断鋏を突き立てたステンドグラスに、ぴしりぴしり、と罅が入っていく。
 そして激しい音を立てて色硝子が割れた。二人の身の丈より高い位置から降り注ぐ、硝子の雨。
 その向こうにはまた別の廊下が見えるが、恐らくそちらが正解か。はっきりとわかる妖力の残滓。
 更には行く手を塞ぐように、ゴーストたちが巣穴をつつかれた蟻のように溢れ出す。
「さあ、追い詰めるぞ」
「はい!」
 ゴーストの群の奥より聞こえてくるのは、詠唱を続けるしわがれた声。
 間違いない。聞き覚えのあるこの声を辿り行けば――。
 二人はゴーストたちを薙ぎ払いながら、迷宮を駆け抜ける。
 行く手を阻むものは切り払い、打ち払い、尽く破壊せよ!
 ――あとは其の重厚な扉を蹴破れば、さあ、もうすぐ終点だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

山崎・圭一

奇門遁甲ね…祝福の場所でやっていい遊びじゃねぇよなァ
16年前のあの日だってそうだ
あン時ァ確か兵馬俑を壊しゃいいんだっけか…
いや、何でもいいな。今壊すべきは、思惑

ベアトリスに騎乗。高い天井目掛けて一気に上昇
勢いに乗じて【魔力供給】した【呪殺弾】を頭上へ【投擲】
爆発させ、流星群のように呪殺弾の雨を降らして
ステンドグラスをブッ壊していこう
光の破片の雨。最高じゃないの。でも写真に収める価値はねぇな

そんで『羽蘭盆会』でその辺の物品という物品を蟲化
【蟲使い】として蟲共に命じる
暴れまくって壊しまくれ!!黒幕泣かしたれや!!

さぁー出てきな。劉・叔成!
妖狐の助けも無い以上、どうせ散るなら潔く決めた方がいいぞ


柳・依月
なるーんマスターにおまかせします。かっこいい柳・依月をお願いします!

 俺は人間じゃない、ネットロアだ。だが人間は物語が好きで、俺も人間が好きだ。だから人々の日常を脅かす者は許してはおけない——それが俺が戦う理由ってことになるのかな。
戦闘時は基本仕込み番傘での近接戦だが、中長距離や支援に回る時などは呪髪糸も使用する。
非戦闘なら情報収集が得意だな。

以下PL
ギャグ系の状況でもノリはいい方です。
 UCは指定した物をどれでも使用し(詠唱ご自由に)、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。



●ガラスシャワーと血のシャワー
 グリム童話を原作とするならばシンデレラにおいて、靴というのは血塗られた幸せの象徴だ。
 見初めた王子が彼女を探すために国中の娘に靴を履かせていく中、姉たちは私こそがと足の指を、踵を削ぎ落す。
 ――無論、それが認められる筈もなく、シンデレラは王子と結ばれたが。
 凝りもせず祝福の場において野心を巡らせた姉たちは、彼女を守護する鳩たちに目玉まで抉られた。
 足も視界も失った姉たちと両親たちは果てしない絶望をしたという。 
 金だか革だかの靴がガラスの靴になったのは翻訳の問題という説があるが、とにかく。
「奇門遁甲ね……祝福の場所でやっていい遊びじゃねぇよなァ」
「ほんと、それだ。度が過ぎだろ。敢えてやってるなら性格がとことん悪い奴だ」
「あー……あの爺は元から狂ってるかンなァ」
「え、そうなのか……」
「おう」
 圭一と依月は無限に続くステンドグラスの迷宮をあてもなく進む。
 劉の行いはちょいと懲らしめるにしたって悪戯の規模が過ぎているのだ。目玉をつつき落とした程度では安すぎる。
「さァーて、と。このままじゃ埒あかねェし、どうにかすっかァ」
「どうにかする方法に心当たりがあるのか?」
「ちょっとねー」
 ただ進むに飽きてきた頃、呆れ交じりの息を吐き出して、担ぐ錫杖で肩をトントンと叩きながら圭一は周囲を見渡した。
 思い出すは16年前のこと――
(あン時ァ確か兵馬俑を壊しゃいいんだっけか……)
 奇門遁甲陣は紅葉南中学校に布陣されていた。
 かつて生徒だったリビングデッドたちを討伐し、兵馬俑を打ち壊したものの、オフィス街の守備は破れず、下水道に通じる未開発地での戦闘も敗走していた筈だ。
 電波塔のメガリスの奪取すら妖狐たちに阻まれるなどして、何かと戦況厳しい戦争だったのを覚えている。
 黒幕が過去の再現であり、陰陽都市計画の遂行に執着しているというならば、ある程度は過去をなぞらえる筈だが――。
「いや、何でもいいな。妖狐の手助けもねぇンだ、状況は全くちげぇ。今壊すべきは、思惑だ」
 否、あれから16年もの歳月が経過したのだ。過去の再現という事実に執着すべきではない。
 世界の情勢も、向こうの状況も、そして圭一の事情も大きく異なっている。
 向こうは一度死した者で、妖狐の手助けは予知になく、此処は学校ではなく教会で、圭一は能力者ではなく猟兵なのだ。
(ただまァ、基本は変わンねぇだろ)
 状況の変化はあれど、性質の変化はさほど見受けられない。ならば、手当たり次第でも何かを壊せばいい訳だ。
「あー……自分の身は自分で守れよ?」
「当然だ。ってか、何する気だよ?」
「あぶねーこと!」
 圭一はベアトリスに騎乗し、迷宮の天井まで一気に飛翔する。目指すは煌びやかなシャンデリア。
 たんまりと魔力を込めた呪殺弾を頭上へ放ち――そして、起爆させた!
 爆発に巻き込まれたシャンデリア・ガラスと光弾が驟雨の如く降り注ぎ、ステンドグラスを突き破っていく。 
 依月は慌てて頭上を庇いながら、比較的、被害の少ない方へ避難しつつ。嗚呼、でもこれは大分――
「爽快だな! 最高じゃん!」
「ハッ、だろ? 写真に収める価値はねェけどな! そんでオマケに|羽蘭盆会《ウラバンナ》! 暴れまくって壊しまくれ!! 黒幕泣かしたれや!!」
 命捕網から放った蟲型ゴーストのオブリビオンが、迷宮のオブジェ、灯り、その他様々なあらゆる物品に憑依して、瞬くに歪な蟲と化した。それらが暴れ、飛び回れば、更にステンドグラスの崩壊が進んでいく。
 しかし――崩壊が進めば進むほど、ステンドグラスの向こうからゴーストが溢れ出した。
 其の量、ゴーストたちが阻むその道の向こうが見えないほどの数だ。
 それ見て、依月は、よし、と頷き、気合ひとつと腕まくり。
「よし、此処は俺に任せて君はさ――っと、これはフラグだな。いけない、いけない。君はそのままステンドグラスを頼んだ! ゴーストたちは俺に任せろ!」
 フラグに流されやすいからこその物語だが、|物語《ロア》自身である依月がフラグをたてるなど、今はとてもじゃないが洒落にはならない。
 うっかりダメなフラグをたてかけた自分の口を慌てて塞ぎ、深く深く呼吸。
 選ぶ物語を間違ってはならない。在るべき|物語《自分》を誤ってはならない。
 今必要な、在るべき|自分《物語》は仲間と協力し、難敵に立ち向かう痛快な英雄譚だ。
「それにしたってこれはどうかと思うけど、狂ったじいさんには丁度いいだろ!――|怪異顕現:猿夢《カイイケンゲン・サルユメ》!」
 依月は|都市伝説《ネットロア》の中でもひときわ禍々しく、恐ろしく、異彩を放つあの|猿夢《悪夢》を顕現させる。ずるり、依月の影より這い出るは数多のぼろきれを纏った小人たちだ。数には数、怪異には怪異で対すべきだろう。
 逃れられない悪夢、迫る死の気配、ひとりひとり惨たらしく殺されていく中で身動きできない恐怖――猿夢に勝る現代の|血の惨劇《グラン・ギニーョル》など、そうそうありはしない。
「さあて、お前たちはこの悪夢から逃げ切れるかな?」
 小人たちの眼光が怪しく、禍々しく光る――
「次は活けづくり~活けづくりで~す! 次はえぐり出し~えぐり出しで~す! 次は挽肉~挽肉で~す!」
 語られる都市伝説のままに依月はアナウンスを繰り返す。
 小人たちは|車掌《依月》の意のままに、アナウンスのままにゴーストたちを次々と血祭りに捧げ。
「さあ、もう逃げられませんよ~次の扉が最後の獲物で~す」
 ――黒幕が潜む、扉へと迫った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『劉・叔成』

POW   :    八卦風水呪
自身と装備を【風水の導き】で覆い、攻撃・防御をX倍、命中・回避・移動をX分の1にする。
SPD   :    不浄奪命陣
戦場全体に【生命と地脈を侵す「不浄の気」】を発生させる。敵にはダメージを、味方には【武装化した「不浄の気」を纏うこと】による攻撃力と防御力の強化を与える。
WIZ   :    石兵点穴波
自身が装備する【宝剣】から【「気」の力を強制的に断絶する波動】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【石化】の状態異常を与える。

イラスト:高峰 名鳥

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●|再誕 / 再現《RE:born / RE:turn》
「ようやく我が元に辿り着いたか!」
 ステンドグラスの迷宮回廊、奇門遁甲陣を乗り越えた猟兵たち。
 隔てる重厚な扉を蹴破った先に広がる光景は――もみじヶ丘市庁舎の屋上だった。
 しかし、此処は奇門遁甲陣を敷くための儀式場だ。
 それの副次的な効果が齎す幻覚の類であることはすぐに予想できた。
 幻覚の向こうは恐らく外なのだろう。
 肌に感じる風の温度は春先のそれではなく、夏を感じさせる少し湿った重たい風だ。
 風に蒼い衣をなびかせて佇む劉・叔成の瞳は、相変わらずに凄まじい狂気が宿る。
「ここまで来たことを賞し、改めて貴様らに我が名を教えよう。我が名は劉・叔成!! 陰陽都市計画の推進者であり……此処より悲願を果たす者よ!! 此度こそ世界結界を打ち壊し、地球人類の救世主となろう!!」
 響く高笑い。そして、告げた野望もかつてと変わらぬものだった。
 劉は両手を広げ、狂信に瞳をギラリと猟兵たちに向けながら――
「まずは貴様らがその礎となるがいい!!」
 圧すら感じるほどの殺気を放つ。
 ああ、過去に囚われたままの老獪は、されどかつて以上の強敵となろう。
 しかし、激戦の果てに、今、目の前の劉を討ったとしても、いずれ再誕することは明らかだ。
 劉をはじめ、骸の海より再誕を繰り返す|過去《再現》との戦いにはいまだ終わりも見えず。
 されど、此処で止めねば悲劇はこの町を襲う。多くの明日が奪われるのまた明らかだ。
 ――ならば抗え、戦え、撃ち止めよ。
 いわばこれは骸の海との根競べ。過去は既に乗り越えたものだと武勇をもって証明せよ!
柳・依月
別に俺はアンタに因縁があるわけじゃないんだがな。だが自分の目的のために幸せになるはずだった無辜の民を地獄に落とすような真似は、許せねえんだよ。

さてと…アンタは霊能者みたいなもんなのか?
ならこれはどうだ?
UC起動…霊能者同士の対決ってのも面白ぇじゃねえか。

不浄の気は【浄化】。【霊的防護】を張りつつ、【呪詛】を込めた仕込み番傘で挑むとしよう。

何度繰り返しても同じだ。俺じゃなくても、第六の猟兵の誰かがお前の企みを何度でも拒むだろうよ。

アドリブ・連携歓迎!



●その身に宿すは|霊能者《お寺生まれのあのお方》
 多くの物語には悪を退治する救済者の存在がいる。
 それは例えば、童話に出てくるならば王子様や勇者だ。
 それがサスペンスやミステリーならば野次馬根性ある家政フか探偵だったりするだろう。
 ならば、ホラーやオカルトには?
 ――広義な意味での、霊能者が、必要だ。

 夏を思わせる少し湿った重たい風が依月の肌を、濡羽色の髪を撫でる。
「別に俺はアンタに因縁があるわけじゃないんだがな。ただ、許せねえんだよ」
 じゃり、と硬いブーツの底が鳴る。番傘構え、まず狂った老獪の前に躍り出たのは、依月だ。
 朗らかな声音も今ばかりは成りを潜めて、吐き出すように呟いたそれには明らかな怒気が混ざる。
「自分の目的のために幸せになるはずだった無辜の民を地獄に落とすような真似は、マジで許せねえんだよ」
 依月はシルバーレインの出ではない。元はUDC産まれの|都市伝説《ネットロア》だ。
 劉の語る野望など知らない。どうしてそういう考えに至ったのかなど理解もできない。
 世界結界がどうのこうしたら大変だろうことまでは想像つくが、所詮、それまでだ。
 ひょっとしたら、いやきっと、恐らく此処に立つ誰より部外者も部外者だ。しかし、しかし。
 ――それが何だというのだ。
 物語は人に愛される。だから|物語《依月》は人を愛する。
 だから人を害する存在がただ許せない。悪意でもって幸せを踏みにじる者が許せない。
 世界など端から関係ないのだ。どこの世界にだって物語はあるのだから。
 しかし、依月の怒気を浴びても劉はニタリと嗤うばかり。いっそ僅かな哀れみすら混ぜて、依月を蔑む。
「はん、そんなもの知らぬなァ。関係ないことよ。我が救世主となればより多くが救われる。その前の些細な礎となるのだ。寧ろ、名誉であろうが。分からぬかァ……? 分からぬだろうなァ!!」
 怒声と共に戦場に不浄奪命陣が敷かれ、どろり、悍ましく粘り着く不浄の気が依月に容赦なく襲い掛かる。
 ぐ、っと歯を食いしばって身を蝕む痛みに堪え――考える。今、必要なのは果たしてどんな物語か。
(アイツは霊能者みたいなもんなのか? そういえば、みんな、こういうの好きだよなぁ――なら)
 ふと過ったのはリスナーたちから度々寄せられる爽快なとんでも怪談話だ。ああ、これは丁度いい。
 指を顔前で揃え、うろ覚えの念仏っぽいものを唱える。
 素振はそれっぽくあればいい。|物語《依月》がなすならばそれだけで意味がある。
 人は物語を読むことで何にだってなれる。ならば|物語《依月》だって何にだってなれる。
 発動、|怪奇変転:〝霊能者〟《カイキヘンテン・レイノウシャ》
 ――宿すは|霊能者《お寺生まれのあのお方》だ!
「分かって……たまるかよッ!!」
 すべてが上書く。怒声と共に放たれる霊的防護の結界と浄化の気が、不浄奪命陣を取り払う!
 地に敷かれた赤い陣が青い光になぞられて、光の粒のようになって消えていく様に劉が叫んだ。
「なんだと!?」
「させるかよ! 霊能者同士の対決ってのも面白ぇだろ?」
 狼狽えながらも新たなる陣を敷こうとする劉に、呪詛をたっぷりと籠めた番傘で依月が飛び掛かった。
 剣で番傘がぎりぎりと鍔迫り合うが、しかし僅かに劉の力が上回る。迫り負けた依月が薙ぎ払われて。
「ッ、なめるな、若輩がァ!!」
「っく、やるなぁ、耄碌爺!」
 上手く着地を熟しながらも依月は真っ直ぐに劉を捉える。一度で攻撃が届かぬならば、何度でも。
「ふん、我が悲願を途絶えさせてなるものか! 例え此処で討たれようとも我は何度でも蘇る! いずれ悲願に届くは我の方よ!!」
 そう。向こうが何度でも、というならば。こちらだって同じこと!
「何度繰り返しても同じだ! 例えそのとき目の前に居るのが俺じゃなくても、第六の猟兵の誰かがお前の企みを何度でも拒むだろうよ!」
 依月は再び、番傘を叩きこむ! 払われても払われても、何度でも!何度でも!
 ――|物語《依月》が諦めたら、ハッピーエンドには届かないのだから!

大成功 🔵​🔵​🔵​

儀水・芽亜
まったく『見えざる狂気』は度しがたい。生前に加えて、骸の海で更にこじらせて戻ってきていませんか?
誰もあなたにアンコールはしていません。大人しく骸の海に還っていただきます。

「全力魔法」「結界術」夢の「属性攻撃」「範囲攻撃」「呪詛耐性」「狂気耐性」で、サイコフィールドを展開。
その不浄の気から、制圧いたします。

振るう武器は、拷問具『鎖蛇』。「傷口をえぐる」「武器に魔法を纏う」「マヒ攻撃」を叩き込みます。
相手がご老体といえども、容赦はありませんよ。所詮は、そういう形になっただけのオブリビオンです。

あなたは今、強烈な睡魔に襲われているでしょう? その手に心を委ねて、安らかに眠ってもらえませんか?



●仙花がしがみつくは過去
 番傘と剣、何度目かの鍔迫り合いの最中、一瞬の隙をついて剣を振るう劉の腕を拷問具『鎖蛇』が捕らえた。
 棘の生えた鞭のような鎖が、劉の腕に蛇の如く絡みつく。その鎖の先に居るのは、芽亜だ。
「私たちを忘れていませんか? ひとりではありませんよ」
「っぐ、小賢しい真似を!」
 払おうともがけばもがくほど棘は容赦なく劉の腕に食い込んで、ぽたりぽたり赤が滴る。
 棘より蝕む不快な痺れは仕込まれた麻痺毒か。
 劉は苦痛に顔を歪ませながらも、ニタァリ狂気的な笑みを口元に刻んだ。
「しかし、ハハハ、好機! 利用させてもらァう!」
 ひとつ、高嗤う。そして、ぞろり滴る血が地を走った。
 無情にも再び敷かれる不浄奪命陣! しかし、みすみすとそれを許す芽亜ではない。
 目の前に居る狂気の老獪は、所詮、学生の頃に既に乗り越えた過去の再現だ。
 ――例え性質が違えど、在り方が違えど、遥かに強敵となっていても、乗り越えられぬ筈がない!
「同じことをさせるとお思いですか? このまま大人しく骸の海に還っていただきますよ!」
 劉の腕を絡めとる鎖。
 一瞬でも油断すれば振り払われそうになる力量をギリギリで堪え続けながら、芽亜はそれでも力強く叫ぶ!
「サイコフィールド展開! その不浄の気を制圧いたします!」
 瞬間、鴇色の陽炎を纏ったドーム状の結界が戦場ごと不浄奪命陣を呑み込んだ!
 優しい鴇色は夢を齎す。劉を眠りの淵へと誘い、猟兵たちには身体強化と癒やしを。
 不浄奪命陣によって奪われた生命力が身体に戻るのを感じながら、芽亜は更に結界を展開させていく。
 結界は血の進撃を阻み、夢は、もみじヶ丘市庁舎の|幻影《ユメ》をも打ち破った。
 ――景色がゆらり移ろう。
|幻影《ユメ / カコ》から|現実《ゲンジツ / イマ》に。もみじヶ丘市庁舎の屋上からチャペルの裏庭に。
 色鮮やかに咲いていただろう紫陽花は、不浄奪命陣の効果で萎び、今はただ茎にしがみつくのみ。
「あぁあああ、おのれおのれおのれ! 我が因縁の地がァアアア! 今だ真実を見極めることの出来ぬ愚鈍共がァア、うち滅ぼしてくれるゥウウウ!!」
 嗚呼、老獪はあくまでやはり過去にしがみつく執念でしかないのか。
 因縁の地、その幻影を打ち破られたことが劉の怒髪天を衝いた様子。
 劉は怒りに身を任せたまま鎖蛇を振るい、芽亜を鎖ごと吹っ飛ばした!
 あわや木に衝突するところだった芽亜を、他の猟兵が咄嗟に受け止めてそっと地に降ろす。
「ッ、まったく『見えざる狂気』は度しがたい! 骸の海でこじらせて戻ってきていませんかね?」
 芽亜は短く礼を伝えてから体勢を立て直して、再び鎖蛇を構える。
 見境なく暴れ狂う老獪をどうにか捕らえ、味方が攻撃できる隙を作らねば……!
「あなたは今、強烈な麻痺と睡魔に襲われている筈ですよ。誰もアンコールはしていません!」
 |夢幻《ユメ 》をその身に宿しながらも、正しく| 現状《イマ》を見定める芽亜の冷静な眼差しが、戦場を見据える。
「どうぞ、疾く眠ってくださいなッ!」
 ――とらえたッ! 大振りな動作の一瞬の隙をついて芽亜の鎖蛇が再び劉に牙を剥く!

大成功 🔵​🔵​🔵​

酒井森・興和
◎▲
蘇った敵達はなるほど執念に囚われていたが
あなたも例に漏れず…と言うより妄執と狂気が人型を取ったようだよ
…倒さなくてはね

老体で自ら打って出るとは恐れ入る
一途にこの道を修めてきたのだろうに
どうして修羅の都市計画を思い描いたんだろう
見えざる狂気の所為なのか
どの道あなたの取り返しはつかないんだ

…攻防強化する術、か?
【集中力高め気配感知、第六感】で敵の動き予測
被弾や余波は仕方ないが
彼からの直撃は避け【落ち着き、追跡し】反撃の隙を見出す
直感で今!という時にまず【咄嗟の一撃】で飛斬帽をぶつけ【切断】から一気に【追撃】でUCを撃ち込む
力任せの技ではあるけど
鋏角衆の僕が頼むのはやはり自分の身ひとつだからねえ



●執念は死を超越する
「危ないッ!」
 興和は吹っ飛ばされた後輩を咄嗟に受け止めて、地に降ろす。
 気丈ならしい彼女は吹っ飛ばされたことに怖気づくことなく、こじらせてないか、と吐き出した。
 苦笑しつつも興和はそれに頷き。
「まったくだ。ああなってしまうと、もはや妄執と狂気が人型を取ったようだよ。さて、次は僕がいこう」
 興和はとんとんとつま先で地を叩き、怒りのままに紫陽花を狩り散らして暴れる狂う劉を見据える。
 反撃を試みる後輩に隙を作るのは任せて、いつでも動けるように注視したまま、興和はただ機を待った。
 ――狩りに焦りは禁物だ。
「しかし……、蘇った敵達はなるほど執念に囚われていたが、あれほどとはね。一途にこの道を修めてきたのだろうにどうして修羅の都市計画を思い描いたんだろう」
 一見、乱暴で危険な劉の行動も見せかけばかりが大振りで、冴えがなく、どこかぎこぎない。つけ入る隙だらけだ。
(見えざる狂気の所為なのだろうか……)
 世界結界の影響で狂った、否、狂わされたと劉の理性が結論付けたのであれば、壊そうと目論むことはまだわかる。
 その手段が何故、修羅の都市計画となるのか。そしてその結果が、世界救世となるのか――。
「いや、どの道、もう取り返しはつかないんだ……倒さなくてはね」
 今更、考えても無駄なこと、と興和は首を振る。狂気の果てに行きついた答えなど、同じ深淵に居なければ理解できようはずもない。
 今はただ、かつては賢人だったろう生前の彼をたて、狂った彼を止めてやらねばならない。
 ――後輩の鎖が再び劉を捕らえた!
 興和はその隙を逃さず、距離を詰めて三砂を振るう。
 失うものが少なく、怒り狂った狂人は何をするかわからない。
 攻撃する手は止めず、集中力を極限まで高めながら、蜘蛛の鋭敏さで一挙手一投足の気配を探った。
 後は戦場を生き抜いてきた勘頼りだ。
「沈めェエエエ、餓鬼どもがァァ!!」
 劉は獣のような咆哮をあげる。咆哮は呪となり陣となり、劉の身体を蛇のようになぞった。
 びきり隆々と盛り上がる筋肉に、興和は眉を顰める。
(……攻防強化する術、か?)
 劉は鎖に捕らわれていない腕で宝剣を軽々と振るい、興和の一撃一撃をギリギリでいなしていく。
 しかし、興和は攻撃の手を止めない。鎖に捕らわれている以上、必ず隙がうまれるからだ。
 そして――
(今だ!)
 鎖の限界範囲を迎えた劉の身体が軋み、傾いだ!
 冴えわたる直感が告げるタイミング。畳みかけるように飛斬帽をぶつけ、宝剣を携える腕を切り飛ばす!
 そのまま繰り出すは生きるために訓練した連撃”|鷹討《(タカオトシ)》”。
 ――かつて自身を討伐にきた妖狩りの人間、鷹宗に抵抗・逃走する為に訓練した連撃だ。
 力任せではあれど、生き抜いてきた年数と経験が告げる。興和が信ずるは我が身のみ!
 まずは三砂の石突きによる刺突で鋭く胸を突き、身を立て直す隙を殺す。
 胸を抱えるように身を傾ける劉の身体の下に潜り込み、そのまま頭頸部を狙い掌底を上に打ち込めんだ。
 がは、と後ろに倒れいく劉の身体。すかさず逆鱗で狙う急所。心臓を貫けば――!
「おとなしく――骸の海に還られよッ!」
 どすり、肉を貫く確かな感覚。降り注ぐ返り血の向こうで、劉が――嗤った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

山崎・圭一
俺は狂鬼戦争の経験者だぞ
除霊建築士の戦い方はもう知っている

基本的に俺は後手
除霊建築士は石化が得意だったな
甲虫型ゴーストを【召喚術】で呼び出して盾になってもらうか
けども全部防げるとは思えねぇ
俺も幾らか石化は喰らう筈だ

が、問題ない。逆に好都合
【蟲使い】の元にその姿現せ
『五月蠅』発動!呼び出しちゃうぜ、蝿の王!

さて…どうする?爺さん
その蝿は俺の血と生命力を餌にしてる訳だが…
俺がこのまま石化してけば餌は無くなるなァ
更に暴れ回るか、あんたが代わりに餌になるか?
言っておくが石化は、あんたが俺にやったんだぜ?
さぁ行け!蝿の王!学習しないボケ老人を分からしたれ

そんでもって俺はもう1つ、石化したこの状態を利用させてもらう
『命捕網』に【魔力供給】して巨大カブト虫ゴースト召喚
こいつの馬力なら石化した俺を持ち上げられるだろう
あのタコジジイの頭上目掛けて俺を【投擲】するよう指示
石化した分の俺の重量と…
そしてこれはお前のトチ狂った妄執に、沈められた人達の分だ
カカト落とし喰らわしたらァ!頭カチ割れろ、ボケナスがァ!



●死んでも治らぬ石頭には……!
 果敢に斬り結ぶ猟兵たちに白燐蟲による支援を飛ばしながら、圭一は静かに機を伺っていた。
 というのもいざ攻撃に転じようとすれば、己の身の内の白燐蟲がざわりざわりと嫌に騒ぐからだ。
 今じゃない、今じゃない、そう告げる白燐蟲たち。
 圭一は狂鬼戦争の経験者だ。除霊建築士の戦い方はよく知っている。
 だからこそ気持ちは焦るが、しかし同時にこういうときの蟲の騒ぎがよく|当たる《・・・》のも知っていた。
 故に耐え、堪え、そして――圭一は、劉が嗤うのを見て、飛び出した。
(今だッ!)
 それは明らかにトドメの一撃だった。常ならば。ただ、僅かに劉の執念が、執着が死に勝ったのだ。
 味方の赤髪が劉の返り血に染まる。その極至近距離で劉は|切られた腕が掴んだままの宝剣《・・・・・・・・・・・・・・》より、石兵点穴波を放った。
 宝剣を始点に地面が泥に変り、石に変り、味方の足元を捕らえようと迫る。
 いくら蜘蛛の鋭敏さがあれど、避けるには難しいそれを――
「ッ!」
 圭一が庇った。彼を横から突き飛ばし、アカホシテントウのゴーストの群を召喚して盾にする。
 艶めく赤色が圭一の前に展開し、石兵点穴波を受けて石化して消えていく――しかし、圭一も無事では済まない。
 極至近距離から繰り出された石兵点穴波は、紅玉の盾でもってしても防ぎきれるものではなく。
 圭一の膝より下を、石へと変えていた。
 自滅覚悟の一撃を防がれ、咬牙切歯か偏袒扼腕か、劉は驚愕と憤怒と悔しさに表情を歪ませ、あふるる鮮血にしとど濡れた身で飛び退いた。
 その先で、がくり膝をつく。が、すぐに嗤った。
「っくくく、フハハハハハ、フハハハハハッ! 大方、防ぎきれると思ったか。愚か者め。標的取り違えたが結果は変わらぬ、お前は道連れよ。虚しくひとりで死ねェい、我は再びこの地にて相まみえようぞ」
「あーあー、うるせェよ、耄碌爺。何も考え無しに庇う訳ねェだろ。寧ろ、こっちの方が好都合だっての」
 圭一は心底、耳障りだという風に片耳を手で塞ぎ、ニィと笑み返す。
 しゃらり、鳴る命捕網。圭一の背後より燃え上がった黒い炎が、巨大な蠅の形を象って――
「蟲使いの元にその姿現せ! さァて、|五月蠅《ラペールドベルゼビュート》発動! 呼び出しちゃうぜ、蝿の王!」
 劉に襲い掛かった! 高速で旋回するそれは劉の周りを飛びかって炎で囲い、いたぶるように灼熱で炙る。
 現象である炎に得意の石化は効かず、蠅の王を石化するには高速故に狙いも定まらず、劉はただ炎の中を虚しく逃げ惑い。
「さ、どうする爺さん。その蝿は俺の血と生命力を餌にしてる訳だが……俺がこのまま石化してけば餌は無くなるなァ。餌がなくなれば暴れ狂うだけだが、あんたが代わりに餌になるか?」
 圭一の皮膚に裂傷が走る。傷の深さに合わぬ出血が、血の道筋を描いて蠅を追う。みるみると顔色が悪くする圭一の様子から嘘ではないことを察した劉は、石化を解こうと切り落とされた片腕を探すが。
「くッ、こざかしい真似をぉおおお!」
 蠅の王がキシシと嘲笑い、片腕を貪っていた。
「さぁ行け! 蝿の王! 学習しないボケ老人を分からしたれ!」
 圭一の呼びかけに応え、蠅の王が劉の下半身を、ぶちり。衝突と共に獄炎で焼き、喰らい、ちぎる。
 ゴッ……足の支えを失った上半身が無造作に落下して、無様に倒れた。衝撃でごふりと劉の口から血が、断面からは中身がこぼれる。
 それでも執念すさまじく、劉は片腕で、灰色の内臓を引きずりながら、這う、這う。
「懲りねェ、爺さんだな。来い!」
 圭一は其れを見遣れば半ば呆れ交じりのため息交じりに、命捕網を呼び鈴に異形のものを呼び起こす。
 寄り添うに姿を見せたのは巨大なカブトムシのゴーストだ。
「俺をアレ目掛けて投擲しろ。死んでもなおらねェ石頭だ、|石《俺》で叩き割るしかねェだろ?」
 独角仙はその一本角で圭一を持ち上げると、ひょいと高く投擲する。
 石化の範囲は大腿骨に及ばぬ程度、踵を振り上げる程度ならば支障なく。
「お前のトチ狂った妄執もこれで終いだ! 超重量級のカカト落とし喰らわしたらァ!」
 目指す落下地点は、死んでもなおらぬ石頭。
 振り上げた踵は、物理的な重量と落下速度に加え、老獪の犠牲になった人達の無念が籠った重量級。
 圭一はそれを、ためらいなく。
「カチ割れろ、ボケナスがァ!」
 ――振り下ろす!!

大成功 🔵​🔵​🔵​


●紫陽花と虫達だけが知っている
 ――ぐしゃり、生々しい音と共に老獪の頭蓋が割れる。
 衝撃で目玉が飛び出た空っぽの眼孔、鼻腔、あらゆる穴から血と脳漿をぶちまけて。
 内臓の道標を軌跡にした執念の進行は、ようやくをもって止まった。
 獄炎も、食事を終えた蠅の王も、役目を終えた独角仙も、風に吹かれる砂のように、さらり、消え去って。
 まるで水面にしずみ逝くよう土に呑まれて消えつつある肉塊を見下ろして、圭一は足を退け、数歩たたらを踏んで、どさりと腰を下ろす。
「アンタ、平気か?」
 薄れゆく戦闘の緊張感と緩やかに戻ってくる日常の感覚。
 はっとまず最初に、圭一の顔色の悪さと出血の多さを気にかけた依月が、そろり声をかけてみれば。
「わりぃ、ちょっと手ェ貸してくんね? 足、痺れた」
 ふぃーと詰めた息を吐き出した圭一が、たるーんと返事する。
 暫しの沈黙の後、芽亜と興和がふっとふきだす。それは勿論、嘲笑ではなくて。
 途端に緩んだ緊張から思わず零れた、微笑み。
「それはそうですよ。石化していたとはいえ、結構、勢いよかったですもんね」
「振り下ろした先も地面だからね……ああ、頭蓋か。頭蓋骨は特にかたいからなあ」
「アンタ、無茶すんなぁ……はいよ」
「さーんきゅ。でも、勝てたっしょ? 死んでもなおらねェ石頭は、石でカチ割るしかねェなっと」
 差し伸べられた依月の手を借りて、立ち上がった圭一が悪戯気に笑う。
「目には目を、歯には歯を、石には石をってところかい?」
「うまいこと言いますね。とにかく、ほら、帰りましょう。きっと時期に皆、戻ってきます」
 芽亜の言葉に頷いて、猟兵たちは戦場から踵を返して帰路につく。
 残滓は既に跡形もなく消え去って、特に目立った名残りはないけれど――。
 移ろ気の花はすっかり赤が気に入って、梅雨の晴れ間の空色を華やかな桃色に召し換えて。
 | 雨雫《ダイヤ》で着飾った蜘蛛の巣も|紅玉《ルビー》のシャンデリアに模様替え。
 そうしてすべてを知る彼らだけが戦の名残を僅かに纏い、手を振るようにふわりと揺れて、そっと彼らの背中を見送った。

最終結果:成功

完成日:2024年07月13日


挿絵イラスト