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孤独の海の底

#キマイラフューチャー #戦後 #【Q】 #ソリの日々

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#キマイラフューチャー
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#戦後
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#【Q】
#ソリの日々


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 そこはバーチャルな世界。ホログラムで出来た月夜の海。
「うわー。海の底を歩けるって面白ーい」
 月明かりがゆらゆらと差し込む少し暗い海の底を歩くのは、ふわふわ銀髪のネコキマイラな少女。見上げれば海面は遥か遠く。手を伸ばした程度では全然届かない。
 普通は、水圧だの抵抗だのでこんな呑気に海底散歩なんてできないけれど。ここは仮想現実。しかも少女はアバターでこの場所に降り立っているから。
「うむ。泳げるというのもいいものだな」
 頭上をホワイトライオンのキマイラが、腕を組んで頷いた、到底泳いでいるとは思えない格好で流れていったりしているのも、アバターなればこそ。
「デイン、本当は泳げないもんねー」
「うむ」
 実際にはできないことを体験できるのもバーチャルならではだ。
「海底に岩じゃなくて水晶がいっぱいなのもすごいっしょ。
 月明かりでキラキラしてるっしょ」
 ジャングルの奥地こそが似合いそうな仮面をつけたヒーローマスクの少女が、その水晶をぺたぺた触りながら喜んでいる。実際にアバターの視界で景色は見えるし、触った感覚もフィードバックされているから、アバターとはいえ、本当に自分がそこにいるかのように過ごせる様子。
「それにほらー。見て見てー」
 そして、ネコキマイラがその手を何やら動かすと。現れたのは幾つもの花。
 花は水に流されるようにふわりと漂い。ゆっくり上へと浮かぶように、海面へ向かう。
「他にもいろいろ出せるみたいー」
「うむ。幻想的な光景が作れるわけであるな」
「この『星の雫』って何の事っしょ?」
 わいわいと楽しむ3人を、少し離れた場所から見つめる視線があった。
 それは垂れ耳ウサギなキマイラ……の姿をした、テレビウムの少年・ソリ。アバターだからこそ、本来の自分とは違う姿にもなることができる、と聞いて。一時でも違う自分になってみたいと選んだ姿。
「そういえば、ソリ、どこにいるんだろー?」
「うむ。一緒に入ったはずではあるな」
「きっとどっか近くにいるっしょ。遊びながら探すっしょ」
 そんな3人の友人達に何故か声をかけられず。ウサギキマイラな姿をしたソリは、海の底から月明かりに輝く海面を、見上げた。

「仮想現実、っていうのも面白いもんだねぇ」
 九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)は、集まった猟兵達を前に、物珍し気な様子で説明を始める。
 場所は、キマイラフューチャーのレジャー施設の1つ。ホログラムで出来た疑似的な月夜の海をその底から堪能できる仮想空間。日常と違う体験ができる楽しい遊び場所。
 なのだけれども。
「キマイラ達が楽しんでいるそこにオブリビオンが現れるよ」
 猟書家『リブロ・テイカー』。生物の抱くプラスの感情――感動だったりトキメキだったりといったものを奪い、己が力に変えていく者。場合によってはプラス感情をもたらす存在そのものを奪うこともあるとか。
「折角の楽しい場所に無粋な横槍は要らないからね」
 対応をお願いするよ、と夏梅は猟兵達に笑いかける。
「邪魔が入るまでは、仮想現実を楽しんでおいで」
 その楽しいというプラス感情もまた、敵を誘き出す餌になり得るから。と、尤もな理由を添えて。夏梅はレジャー施設への道を開いた。
「そうそう。いつものテレビウム達もやっぱり来ているからね」

 月明かりがふんわり照らす海の底。
 水の動きでゆらゆらと明かりが揺れ、景色が変わる。
 美しい。綺麗。面白い。楽しい。素敵。
 笑顔がはじけ、陽気な声が響き、プラスの感情が満ちていく。
「その感情、素敵だね!」
 ふわりとそこに現れたのは、梟を思わせるマントを翻した『リブロ・テイカー』。
 羽ペンを持ち、書を広げて。
 リブロ・テイカーはキマイラのアバターに笑顔で近付いていった。
「それじゃあ貰うね?」


佐和
 こんにちは。サワです。
 現実でないからこそできることがある。
 現実でないからこそできないこともある。

 ソリ君は、ごく普通のテレビウムです。
 何となく独りでいましたが、友達ができて一緒にいろいろわいわいやってる模様。
 今回は、いつもの友人達と仮想現実なレジャー施設を訪れました。
 ソリ君はウサギキマイラに姿を変えていますが、友人達はそのままの姿です。
 ソリ君達について知りたい方は、タグを利用して過去の登場作をご確認ください。
 尚、未読で全く問題ありませんし、無理に声をかける必要もありません。

 会場は、月が輝く深い海の底を再現した仮想空間。
 屋内施設に本体である身体を置いて、アバターでそこに入っています。
 アバターなので、現実と違う体験がいろいろできます。できることの例はOPのキマイラ達の行動を参照してください。
 楽しく遊ぶのが趣旨の施設ではありますが、誰か分からない『匿名』の存在になってマイナスな何かを吐き出したり捨てて行ったり、といった使い方もできます。憂いがなくなって楽しくなれるなら、それはそれでいいじゃない。

 というわけで、第1章は仮想空間でご自由にお過ごしください。

 第2章は『リブロ・テイカー』とのボス戦です。
 感動やトキメキといったプラス感情を見つけると奪って書に保管しようとしてきますので、おびき寄せのためにも、仮想空間で遊び続ける感じになるかと思います。
 憂いを乗り越えて得たプラス感情、というのも興味を惹くようです。

 それでは、月明かりの海の底を、どうぞ。
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第1章 日常 『つきはそこから』

POW   :    深海魚の心地で游ぐ

SPD   :    名無しの匿名希望さん

WIZ   :    偽物アバターの独り言

イラスト:marou

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夜鳥・藍
WIZ

私の藍晶石の白い繊維を思わせる髪とは違う、本当に銀糸のような長い髪は結い上げて。
藍色ではない水をたたえた様な青の瞳。そして少しだけ中性的な顔立ちで巫女服とは違う、そうですね神主さんの服に近い和装姿。
これが私が選んだアバター。アバターというには私とあまり変わらないのですが、時折見えた過去世の私を思い出せるだけ再現してみたのですがどうでしょうか。

その姿でのんびりと海底散歩を。ただ散歩をするだけですが、この姿になったのは少しでも……少しでも今私は幸せだと彼の人に伝えられたらと。
結局はあの人は今の私なので意味はないのかもしれません。
でも今はただ穏やかにこの時間を過ごして貰えたらと思うのです。



 ゆらゆらと辺りが揺らめく海の中。
 遠い水面から柔らかく降り注ぐ月明かりに照らされた海底を、のんびりと夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は歩いていた。
 何をするでもない。ただの海底散歩。
 でも、歩く藍の姿は、いつもと少しだけ違う。
 藍晶石の白い繊維を思わせる、星々が連なる銀河のような長い髪は、本当に銀糸であるかのような輝きを見せ。結い上げた銀色の下で瞬くのは、藍色ではない、水をたたえたような青色の瞳。纏う和装は巫女服のようだけれども、少しだけ中性的な顔立ちも相まってか、神主の服に近いものに思われる。
 服は兎も角、髪色や瞳色など藍の姿そのものが変わっているのは、この姿が仮想現実に作り出されたアバターだから。
 藍が望み、藍が選んだ、バーチャル世界での姿。
(「アバターというには私とあまり変わらないのですが」)
 どんな姿にも、それこそ身体の大小や種族すらも変われる中で、色を変えた程度の変化は確かに小さなものだろうけれども。
 この姿は、藍に時々見えた過去世の自分を再現したもの。
 思い出せるだけ思い出して、今の藍にできる限りで過去をなぞってみた。
(「少しでも……少しでも今私は幸せだと彼の人に伝えられたら」)
 そう思って。そう願って。
 現世の藍は、過去世の姿で、海の底を歩いていく。
 こうしても見て貰えているわけではない。
 伝わったかどうか確かめるすべもない。
 それに結局、あの人は今の自分だから意味はないのかもしれない。
 でも。
 それでも。
(「今はただ穏やかにこの時間を過ごして貰えたら……」)
 月明かりのように淡く優しい思いを抱きながら。
 ゆらゆら、ゆらゆらと。
 銀髪を照らされ、青瞳を柔らかく細めながら。
 藍は静かな海の底を歩いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蒼乃・昴
【黎明】
アバターはハリネズミ
真似してすまない
だが君がハリネズミだというのなら、きっと俺もハリネズミなのだろう
そう思ったんだ

アバターの視界ならもしかしてと思ったんだが、何か変わったか?
そうか……変化は無かったか

月明かり映る水面の近くから底へ戻ろうと誘い
手を繋ごうと伸ばしたら消沈気味な顔が見え
繋いだ手を引き寄せ、そっと抱きしめながらゆっくり沈んで行く

……ヴィンデ
俺は絶対に夜明けを諦めない
君が認識できない昼をいつか必ず取り戻したい

それでも取り戻せなかったその時は……その時は俺と共に、ずっと夜に居よう
君といられるなら何処だって構わない
地の果て
空の向こう
光さえ届かない海の底へだって、君が居るなら俺も行く


ヴィンデ・ノインテザルグ
【黎明】
アバターはハリネズミモチーフを使用。
以前から私はハリネズミに似ていると感じていた為だ。
(絵本に登場しそうな素朴でちんまりとしたいでたち)
スバルも同型にしたのか?
ほんの少し驚いたが…揃いの格好も悪くない。

月に向かって浮上しながら、視界の彩度を瞬きつつ確認してみる。
普段より光を感じる、だが…色彩に変化はなさそうだ。
やや消沈気味でスバルの手を取ろうとするも
先んじて君に抱き締められれば、されるがままに瞳を伏せて。

私を見捨てれば、君はどこへでも行ける筈。
同じような姿なのに…スバルの棘は全く痛いと感じなくて。
私はスバルには色彩の中に居て欲しい。
でも今はまだ、その言葉と腕の温もりに甘えていたいんだ。



 海の底をふわふわとハリネズミが歩いていた。
 泳げない動物ではないから水の中にいてもおかしくはないのだが、潜水したり水中で暮らしたりする動物ではない。
 それにそのちんまりとした姿は、絵本に出てきそうなどこか素朴なもので。
 だからこそアバターだろうと分かる。
 その仕草も、餌を探したり敵を警戒したりというものではなく、月明かりが照らす海底を物珍し気に眺めながら散歩をしているような穏やかなものだったから、猶更。
 銀髪を結い上げた神主の足元を、驚くことなくすれ違ったハリネズミは、そのまま水晶の間を歩いていった。
 程なくして、別のハリネズミが進む先の水晶の陰から顔を出し。
「ヴィンデ」
 名を呼ばれ、ハリネズミは――ヴィンデ・ノインテザルグ(Glühwurm・f41646)は緑色の瞳をぱっちりと見開いた。
 でもすぐに、その青瞳のハリネズミが蒼乃・昴(夜明けの|六連星《プレアデス》・f40152)のアバターであると理解したヴィンデは、驚きのまま応える。
「スバルも同型にしたのか?」
「ああ。真似してすまない」
 問いかけに昴が微笑んだ。
 以前から似ていると感じていた、と言ってハリネズミのアバターを選ぶヴィンデを見た昴は、ヴィンデに何も告げぬまま、そっと同じアバターを選んでいた。
「君が自身をハリネズミだというのなら、きっと俺もハリネズミなのだろう。
 そう思ったんだ」
 ヴィンデがハリネズミと自身にどんな共通点を感じたのかを昴は聞いていない。
 でも、クロムキャバリアで戦い続けた強化人間であるヴィンデが、人を傷つけることしかできないと、棘という武器で身を覆うハリネズミの姿を見ていたとするならば。殲滅兵器として生み出されたレプリカントも同じではないか、と思い。昴がそうであるように、ヴィンデもハリネズミも、周囲を傷つけてしまうことを望んではいなかったはずだと、伝えたかったから。
 昴は、ヴィンデと同じ姿で、隣に並ぶ。
 その心が届いたかどうかは分からないけれども。
「……揃いの格好も悪くない」
 そう呟いたヴィンデの口調は柔らかく、どこか微笑んでいるかのようだった。
 そうして並び歩くハリネズミは。どちらからともなく海底を蹴り、ふわふわと海面へ向かって浮かんでいく。差し込んでくる月明かりを辿るように、月に向かっての浮上。
 光源に近付くゆえに届く光が強くなり。周囲の水や、そこを泳ぐホログラムの魚、花に星がキラキラ揺れて。また海底の水晶も光を反射して、下からも明かりに包まれる。
 そんな美しく眩い光景だけれども。
「何か変わったか?」
「普段より光を感じる。が……色彩に変化はなさそうだ」
 昴の問いかけにヴィンデは首を横に振った。
 強化人間として改造されたヴィンデの緑瞳は、その後遺症により『昼』が認識できなくなっていた。常に『夜』に居るヴィンデが、誰より夜明けを渇望する彼が、アバターの視界でならばもしかして、と抱いた一縷の望みは泡沫の如く消えたようで。
「そうか……」
 同じハリネズミの姿で、昴は水面に映る月を青瞳に映し。
「戻ろう」
 水面の近くから海底へ。昴はヴィンデに手を伸ばし、誘う。
 留まる理由もなく、ヴィンデはその手を取ろうとして。
 手が重なった瞬間、引き寄せられ、ヴィンデは昴の腕の中にいた。
 2人はその姿を重ねたまま、ゆっくり沈んでいく。
 月明かりから遠ざかるように。暗闇へ向かうかのように。
 でも。 
「……ヴィンデ」
 耳元で昴が告げる。
「俺は絶対に夜明けを諦めない。君が認識できない昼をいつか必ず取り戻したい」
 そう言われて、ヴィンデは、消沈していた自分に気付いた。
 仮想現実でも駄目だったと落ち込んだことを、ようやく自覚して。
 昴に抱きしめられたまま、緑瞳を伏せる。
「それでも取り戻せなかったその時は……その時は俺と共に、ずっと夜に居よう」
 閉ざした視界に、昴の声が染み入ってくる。
「君といられるなら何処だって構わない。
 地の果て。空の向こう。光さえ届かない海の底へだって、君が居るなら俺も行く」
 夜に囚われているのはヴィンデだけなのに。
 ヴィンデを見捨てれば、昴はどこへでも行ける筈なのに。
 迷いなくそして優しく抱きしめて、一緒に海底へ沈んでくれる。
 同じハリネズミの姿なのに。触れた者を傷つける棘だらけの身体なのに。
 昴の棘は全く痛いと感じない。
 そんな昴には色彩の中に居て欲しいとヴィンデは願うけれども。
 夜に囚われるのは自分だけでいいと思うけれども。
 でも今はまだ。
 温かな言葉と腕の温もりに甘えていたくて。
 水面のように胸中を揺らしながらも、ヴィンデは抱きしめてくれる腕をそのままに、小さく小さく、昴にも届かない程に小さく、口を動かした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふわぁ、綺麗な海底です。
バーチャルなのでアバターを変えられるそうですので、大胆に人魚姫さんに……は恥ずかしくてできなかったので、今年の猟兵コレクションにしてみました。
それにしても、アヒルさん遅いですね。
あ、アヒルさんが来ました。
考えることは一緒みたいですね。
アヒルさんも猟兵コレクションの姿をアバターにしたんですね。
あれ?あのアヒルさん、その妖精さんは誰ですか?
ものすごく見覚えがあるのですが。
妖精のフリルって、私じゃないんですか!!



「ふわぁ、綺麗な海底です」
 月明かりに照らされ、水晶が生えた海の底を歩きながら、フリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)は感嘆の声を上げた。
 その姿は、今年の猟兵コレクションで着た水色のエプロンドレス。『不思議の国のアリス』の主人公を思わせる服装だった。
 元々その服を着ていたわけではない。この仮想現実な海の底に入る際、アバターを現実の自分の姿から変えられると聞いて選んだ服装だ。
 とはいえ、服どころか姿そのものを変えることもアバターなのでできたわけで。例えば今すれ違った青瞳のハリネズミにだってなれたし。大胆に人魚姫になってみようかと思わなかったわけでもない。
 でも結局、長い銀髪もおどおどした赤瞳も小柄な身体もそのままで。アリス服に変えるだけにしたのでした。人魚姫はやっぱり恥ずかしかったですし。
 これで充分とフリルは満足して。
「それにしても、アヒルさん遅いですね」
 いつも一緒のアヒルちゃん型のガジェットを探して辺りを見回した。
 手のひらに乗せているガジェットだから、何となく視線は下を向いていたけれど。
 視界の上端に映った黄色い脚に顔を上げれば。
「あ、アヒルさん。考えることは一緒みたいですね」
 そこには、フリルと同じく、今年の猟兵コレクションの姿をしたガジェットがいた。
 兜と肩当てだけの甲冑に、青い布を首元に飾り巻いて。腰に剣をつけた、アックス&ウィザーズの冒険者を思わせる格好。そして、フリルが少し見上げるくらいに巨大化した姿になっている。
 アバターだからこその姿に、フリルは微笑んで。
「あれ?」
 ふと、その視線がガジェットの手、もとい白い翼の上に向いて、止まる。
「あの、アヒルさん。その妖精さんは誰ですか?」
 ガジェットが差し出した白い翼の上には、青いドレス姿の小さな少女が座っていた。
 バラの花のような髪飾りも青く銀色の髪を結い上げて、赤い瞳で微笑む少女。
「ものすごく見覚えがあるのですが……」
 それは、ユーベルコードでフェアリーサイズまで小さくなって、ガジェットと一緒に猟兵コレクションに出たフリルそのままだったから。
 アバターとして自分も一緒に再現してくれたのかと思ったフリルだったけれど。
 があ。
「これは妖精のフリル……って、私じゃないんですか!?」
 思わぬガジェットの説明に、驚き、ちょっとショックを受けるフリル。
「アヒルさん、私今からその姿にアバター変えてきますから、小さくなってきますから、そうしたらその妖精さんは要らないですよ、ね?」
 があ。
「妖精のフリルは1人いれば充分……って、それ私じゃないんですよね!?」
 があ。
「何でですかアヒルさん!?」
 言い合うフリルとガジェットを、小さな妖精は穏やかに笑って眺めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシル・バーナード
※プラチナちゃんと一緒

ふぅん、こういうのはサイバーザナドゥの方が進んでると思ってたけど、こっちもなかなかのものだね。そう思わない、プラチナちゃん?

アバターは二人とも元の自分が水着に着替えた姿。ぼくは黒のブーメランパンツ。プラチナちゃんは面積の極端に少ないビキニ。

似合ってるよ、プラチナちゃん。海底の景色も綺麗だけど、プラチナちゃんには敵わないさ。
堂々としてれば、みんな気にしないものなのに。それなら人気の無い方へ行く?
普段ならここでプラチナちゃんを貪るとこだけど、運営が監視してるよね。いけないことしたら追い出されそうだ。

じゃあ、この砂地に手を繋いで寝転んで、揺らめく海面と泳ぐ魚群を眺めていようか。



「ふぅん。こういうのはサイバーザナドゥの方が進んでると思ってたけど……
 こっちもなかなかのものだね」
 月明かりに煌めく水面を見上げ、セシル・バーナード(サイレーン・f01207)は世界を巡る猟兵だからこその感想を零した。
「そう思わない、プラチナちゃん?」
 話しかけながら振り向けば、そこにいたのは長い銀髪の少女。美しい肢体を本当に最小限だけビキニで覆った姿が恥ずかしいのか、自身を抱くように腕を交差させ、もじもじと落ち着かない様子を見せている。
 それを眺めるセシルも、黒のブーメランパンツだけの水着姿。でも、服装以外は、金糸の髪も、妖狐としての狐耳や狐尾も、妖艶な笑みを見せる緑瞳もそのままで。
 一応、海に相応しい装いのアバターとなっていたのだけれど。
「似合ってるよ、プラチナちゃん。
 海底の景色も綺麗だけど、プラチナちゃんには敵わないさ」
「いえ、あの、似合っているかとかではなくて……
 やっぱりこれ、布面積が少なすぎじゃないですか? ほとんど裸っていうか……」
「そう? 堂々としてれば、みんな気にしないものなのに」
「気にしますよね!?
 ほら、あのエプロンドレスの子もこっち見てますし……」
 あっけらかんとしたセシルと違い、少女は周囲の様子が気になって仕方がないようで。どう見ても誰かを探しているだけの、少女に注目しているわけではない子の視線にすら、過敏に反応していたから。
「それなら人気の無い方へ行く?」
 セシルは少女の手を引いて水晶の陰へ、言った通りに他のアバターがいない場所へと誘導していった。
 いつもなら、こんな物陰に2人で来たなら、セシルは少女を求め、肌を重ねるところだけれども。少女を気持ちよさでいっぱいにして、水着が恥ずかしいなんて思う暇すらなくしてしまうところだけれども。
(「きっと運営が監視してるよね。いけないことしたら追い出されそうだ」)
 今はやめておいて。
「じゃあ、手を繋いだまま、ここに寝転んでいようか」
 誰も居ない砂地で、セシルは少女を誘い、並んで仰向けになる。
 視界一杯に広がるのは、月明かりに輝き、揺らめく海面。時折横切っていく魚群。
「綺麗ですね……」
 落ち着いたのか、うっとりした声を紡ぐ少女。
「そうだね」
 セシルは海面ではなく隣に視線を向けながら頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 きょろきょろ辺りを見回しながら、水色のエプロンドレスを着た少女が目の前を通っていく。その後を、勇ましい格好のアヒルちゃんが追いかけていたけれど、確かこのアヒルはもっと小さかったような気がする。
 別の方向からは、長い銀髪の少女の手を引いて、狐耳と狐尾を揺らす金髪の少年がやってきたけれど。やっぱりこちらには何の反応も見せずに通り過ぎていった。
 ぽつんと佇む、垂れ耳ウサギのキマイラ。
 誰にも声をかけられない、孤独な存在。
 それは姿を変えても同じだったから。
 本当はテレビウムの、ウサギキマイラのアバターを選んで姿を変えたソリは。
 海の底から、ぼうっと、月明かりに輝く遠い水面を見上げた。
(「……寂しい、な」)
 誰にも声をかけられず。誰にも気にされず。
 周囲に沢山の人がいても、誰もソリを見ない。
 ただ独りでいるだけ。
 ずっとずっと、そうだった。
 それが普通だった。
 別にそれで生きられないわけではないから、何も思わなかった。
 でも。
 猟兵たちに守ってもらえて。声をかけてもらえて。気にしてもらえて。
 それを機に、誘ってくれる友達ができた。一緒にいてくれる人達に出会えた。
 だからやっと、ソリは理解する。
(「僕は、寂しかったんだ……」)
 姿を変えたことで、見知った猟兵が声をかけることなく通り過ぎて。
 友達も、ソリに気付かないまま、楽しそうに遊んでいる。
 他にも幾つものアバターが周囲にいるけれども。
 ソリは、独り。
 猟兵に出会う前の、友達ができる前の、かつて普通だった状態を今体験して。
 初めて気付いた。
(「これが、寂しいってことだったんだ……」)
 揺らめく月を見上げ。煌めく海面に目を細め。
 ソリはそっと、かつての自分の感情を、海の底に置いていく。
 
木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

月夜の幻想海
そぞろ歩けば細やかな水晶達が足元を跳ねる
ふふ、楽しい
アバターもばっちし決めてきた
(何故かホラー仕様なうさぎ着ぐるみ。口元に血糊付でドヤ顔)
月夜だけどあばたってるからまつりんも一緒にお月様見られる
問題はまつりんアバターがわからない事

ふよふよ移動していると見知った顔発見
コート、デイン、リディ!
嬉しくて駆け寄ってくと何故逃げる?
ん、わたし。杏
お久しぶり、とご挨拶
ソリは隠れんぼ?
わたしもまつりんと隠れ合いっこ中

海の底の世界は姿を幻想に変える
でも、心を澄ませばちゃんと見える
ソリ!(垂れうさに駆け寄り)
…何故逃げる??
まつりんは逃げないよね?


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)は何になったかな?

うん、今日のおいらは傍若無人気分♪
ということでー。


両手を広げて、ばさばさー。
うん、浮かぶ浮かぶ♪
そのまま滑空からのー、前蹴り!(てや!)
うん、いけるいける♪

お客さんたちを見上げる視点が面白くて。
羽ばたいたり、飛び跳ねたり、ダッシュしてみたり。
雄叫びもあげてみようかな、コケー!

あ、あのとてとてはアンちゃんだ。
血塗れうさみん☆モードだね♪
いつものみなさんもいる……あれ?

アンちゃんが離れたの見計らって、三人に挨拶して。
「コケ」
そのままアンちゃんを尾行!

ウサが逃げた……アンちゃん困ってる?
ヨシ、協力!
その場に突撃だー!

あれ、ソリじゃん。やほー♪
「コケー!」



 幻想的な月夜の海の底。そぞろ歩けば、細やかな水晶が足元を跳ねた。
 右手を振れば、花が生まれ。ふよふよと浮かんでいく。
 左手の先には魚が泳ぎ。きらきらと電子的な輝きを見せてその身を翻す。
「ふふ、楽しい」
 そんな美しく非現実的な散歩を、木元・杏(ほんのり漏れ出る食欲系殺気・f16565)は楽しんでいた。
 もちろんその姿も――アバターもばっちり決めてある。
 真っ白いウサギの着ぐるみ姿。
 ただし何故かホラー仕様で、あちこちについた赤い血糊が酷く目につく。
 美しい光景にはどこか不似合いな殺伐さだけれども。
 当の杏は気にせず。というか、堂々と胸を張り、周囲に見せつけて。
 ドヤ顔の口元にも血糊がついていました。
 杏が嬉しそうな理由は、ばっちり決まった(と思っている)アバターの他にもあって。
(「月夜だけど、あばたってるからまつりんも一緒にお月様見られる」)
 人狼である双子の兄と、気兼ねなく満月の下に居れること。
 仮想現実だからこそ叶う素敵な景色の共有に、杏は心躍らせて。
「問題はまつりんアバターがわからない事」
 致命的なことに気が付くと。
 ふよふよ半ば泳ぐように歩きながら、きょろきょろ周囲を見回した。
 そんな杏の探し人、木元・祭莉(しかもかっこいい音速・f16554)はというと。
「うん、今日のおいらは傍若無人気分♪」
 こちらも選んだアバターに大満足で、白い胸を張っていた。
 白い羽毛に覆われた翼な両手を広げて、ばさばさーっとして。
「うん、浮かぶ浮かぶ♪」
 細く枝のような、でもしっかり力強い脚をぐっと突き出すと。
「そのまま滑空からのー、前蹴り! てや!」
 白い身体ごと体当たりするような勢いで繰り出す蹴撃。
「うん、いけるいける♪」
 楽し気に開く口には黄色いくちばしがちょんっとついて。
 頷く頭についているのは赤いとさか。
「雄叫びもあげてみようかな。コケー!」
 その姿は、祭莉が住む木元村の護り鶏にして祭莉の天敵。飼い雌鶏のたまこ。
 いつも追いかけてくるその姿をアバターに選んで。
 小さいゆえに他のお客さんたちを見上げる視点も面白がって。
 祭莉は、羽ばたいたり、飛び跳ねたり、ダッシュしてみたり、鳴いてみたり。
 ひとしきり楽しんだところで。
「あ、あのとてとてはアンちゃんだ」
 双子の妹に気が付いた。
 近づきながら、杏の動きを見ていると。
 血塗れウサギの着ぐるみは、見知ったキマイラ達を見つけて駆け寄っていった。
「コート、デイン、リディ!」
 それはキマイラフューチャーの友達。ふわふわ銀髪のネコキマイラと、ホワイトライオンのキマイラ、そしてジャングルの奥地こそが似合いそうなヒーローマスク。
 何度も会って、何度も遊んだ彼女達にまた会えたのが嬉しくて。
 満面の笑みを浮かべる杏だったけれども。
「うわー、何あれ怖っ」
「う、うむ。ウサギではあるな」
「血塗れっしょ!? 猟奇殺人っしょ!?」
「……何故逃げる?」
 ホラー仕様なウサギの着ぐるみに追いかけられれば当然です。
 しばしの鬼ごっこから、何とか追いついて。
「ん、わたし。杏。お久しぶり」
「なんだー。びっくりしたー」
「うむ。猟兵であったか」
「いや怖いっしょ!? 何でそのアバター選んだっしょ!?」
 誤解が解けても何となく距離がありますが。まあ仕方のない所。
 ともあれ、ようやく挨拶を交わしたところで。
 杏は、そこにテレビウムの姿がないことに首を傾げ。
「ソリは隠れんぼ?」
「そうなのー。一緒に来たはずなんだけどねー」
「うむ。見つけられていないな」
「探してるところっしょ」
 説明するキマイラ達に、こくりと杏は頷いた。
「わたしもまつりんと隠れ合いっこ中」
「そういえば1人だねー」
「うむ。いつも2人であったな」
「そっちも探してるところっしょ?」
 そして杏は踵を返し。
「探してくる」
 3人から離れていった。
 入れ替わるように、その場にやってきたのは白い雌鶏。
「コケ」
「あれー?」
「うむ?」
「にわとりっしょ?」
 挨拶をするけれど、それが祭莉だと気付かないまま。
 そのまま杏を追いかけていくたまこアバターも、3人は見送った。
 そして杏は、友達のテレビウムを、ソリを探す。
(「海の底の世界は姿を幻想に変える」)
 アバターゆえに自在に姿を変えられる仮想現実で。
(「でも、心を澄ませばちゃんと見える」)
 見た目に惑わされずに。その行動を、その仕草を、しっかりと見て。
 杏は垂れ耳ウサギのキマイラに目を留めた。
「ソリ!」
 名前を呼びかければ振り向くウサギキマイラ。
 間違いない、と確信し。出会えたことに嬉しくなって。駆け寄っていけば。
「う、うわわ……」
「……何故逃げる?」
 だからホラー仕様なウサギの着ぐるみに追いかけられれば当然です。
 そして先ほどの繰り返しのような追いかけっこが始まって。
 でも今度は、雌鶏が素早く先回りして、ウサギキマイラに突撃したから。
「コケー!」
「う、うわわ!?」
「まつりん!」
 何やかんやわちゃわちゃと、3人は合流できたのでした。
「ソリ。やほー♪」
「ん。ソリ、久しぶり」
 白い翼を掲げて挨拶する祭莉と、血糊を口元に付けたまま微笑む杏に、ウサギキマイラなソリはちょっと腰が引けていたけれど。
「コートたちは、あっち」
「一緒にいこう♪ コケー!」
 血糊つき着ぐるみに手を引かれ、雌鶏を頭に乗せて。
 ソリは友達の元へと歩き出した。


 もう、寂しくないよ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『リブロ・テイカー』

POW   :    君もこういうものに感動するのかな?
【本に記録していた“プラス感情を生んだ物”】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    君のものも記録しよう。それじゃあ貰うね?
自身が装備する【プラス感情を奪う羽ペン】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    これが僕の力、僕のコレクション
見えない【記録済みのプラス感情】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。

イラスト:菱伊

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ルル・ミールです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「わー。ソリ? いつもと違ってふわふわだねー」
「うむ。ウサギであるな」
「これ耳っしょ? やっぱり耳だったっしょ!」
 猟兵達のおかげで友人達と合流したテレビウムのソリは、ウサギキマイラのアバターのままで笑顔を交わす。
 そろそろ本当の姿の、テレビウムのアバターに変えようかな、と思っていたけれど。
 別に姿は問題じゃないような気がして。
 それに友人達がいつもと違うソリを楽しんでくれているようだから。
 一緒に楽しめているから。
 ソリはウサギキマイラな姿のままで、楽しんでいた。
 月明かりが淡く辺りを照らし。水がゆらゆらと揺れて。海底の水晶がきらきら光る。
 ホログラムの魚が泳ぎ。花もふわふわ浮かんでいて。
 仮想現実の景色の中で、本当の笑顔がはじける。
 楽しくて、嬉しくて、面白くて、綺麗で素敵な一時。
「その感情、素敵だね!」
「……え?」
 満ちたプラスの感情に導かれるように、ふわりと『リブロ・テイカー』が現れる。
 
木元・祭莉
アンちゃん(f16565)、素敵って言われた……(渋面)

お兄さん、こういうヤツ好きなの?
確かに駆けるの速いし、蹴りも豪快だけど……けど……(悩顔)
強いし、超強いケド!(きっ)

むっ、信じてないな。
おっけー、じゃあ実物呼んであげよう!
いでよー、メカタマ……うわあ!
(メカたまに囲まれる)
む、むう……いけー、148体合体だ、わー!
(白鶏アバターに群がるメカたち)
(なんか合体開始)
ギャー!!

メカたまを纏った真・白雌鶏アバター。
今こそ!
イケメンを倒すとき!(体当たり蹂躙)

たまこはイケメン嫌いだもんね。
え、ステーキの方が素敵?
アンちゃんは……え、ライオンさんみたいな方がいい?
そっかー。
ソリ、一緒に頑張ろ!


木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

まつりん、渋い顔すると更にたまこに似てる(ふふ)
ん、ソリ達も狙われてる
こういう時の為にわたしがここにいる

きっ、とシリアス顔で手に持った灯る陽光を構え
ソリ達に向けて【あたたかな光】発動
そのまま身をもって友達を守れるようにだーっとソリ達に向かって駆け出そう

わたしは血濡れうさぎのアバターのままだから、ソリ達はちょっとビビるかも
でもそれが狙い
素敵な感情が弱まればイケメンの興味も少し弱まるはず
んふ、高度な作戦(ドヤ顔)

メカたまつりんの合間を掻い潜り突進
貴方にプラスの感情はあげられない
だって、わたしは筋肉ムキムキなイケおじが好み
イケメンさんは出直してきて
灯る陽光で叩き斬る



 友人達の元にソリを案内した木元・杏(f16565)は、導いてきた手を離して、少し躊躇うウサギキマイラなアバターの背をとんっとひと押しして。笑顔を交わす4人の姿を、ほら心配なんて要らなかったとちょっとドヤ顔で眺めていた。
「ん。ソリ、楽しそう」
「会えたね。コケー!」
 その隣で、木元・祭莉(f16554)もたまこアバターのままで白い翼を広げた。
 友達が笑顔でいてくれると嬉しいから。
 そして、その笑顔の輪の中に一緒に居れたらもっと嬉しいから。
 杏と祭莉は、わいわいと盛り上がる友人達にまた合流すべく足を踏み出す。
 けれども。
「その感情、素敵だね!」
 杏よりも祭莉よりも先に4人に声をかけたのは『リブロ・テイカー』。
 梟の羽のようなマントをふわりと翻しながらソリの近くへ降り立つと、柔らかくも怪しい笑みを浮かべて見せる。
「君のものも記録しよう」
「……え?」
 ぽかんと見上げるソリの目の前で、白手袋に覆われた手がぱちんと指を鳴らし。服と同じように梟の羽の意匠を施した開くと、その周囲にこれまた梟の羽で作られた羽ペンが無数に現れた。
「それじゃあ貰うね?」
 そしてその羽ペンがソリ達に向かう、前に。
 間に杏と祭莉が飛び込み、立ち塞がる。
「こういう時の為にわたしがここにいる」
 4人をその背に庇い、キッとシリアス顔でリブロ・テイカーを睨む杏。その手に変幻自在な白銀の光剣『灯る陽光』を構えると。
「光よ、皆を守れ」
 あたたかな光を灯し、ソリ達を護る。
 そのまま肩越しに振り向いて。
「ん。ソリ、コート、デインとリディも、わたしが守る。大丈夫」
 安心させるように頷いて見せれば。
「えっと……」
「うわー、怖ー……」
「う、うむ。さらにホラーであるな」
「猟奇殺人ウサギっしょ!?」
 4人揃ってちょっとビビってました。
 それもそのはず。杏のアバターは真っ白いウサギの着ぐるみのまま。それも至る所に血糊をつけた、真っ赤な返り血ウサギで。さらに、片手に鋭い剣を握り締め、あたたかな光が絶妙に怖く陰影をつけてしまい、ホラー仕様に拍車をかけていたものだから。
 梟コーデでカッコよく決まってるリブロ・テイカーと見比べると、どっちが敵なのやらといった感じですね。
 しかし、それも杏の作戦のうち。
 リブロ・テイカーが興味を示すのは、プラスの感情だと聞いていたから。ソリ達がこうして杏を怖がって引いてくれれば、その興味も少し弱まるはず。
 友人達をオブリビオンから守るための高度な作戦!
 だから、ドヤ顔で胸を張る杏から、じわじわと4人が後ずさっていても、悲しまない。落ち込まない。うん、だって、作戦だから……
 そう言い聞かせて、前へと視線を戻した杏は。
「アンちゃん、素敵って言われた……」
 すぐ隣から聞こえた双子の兄の声に、今度は横へと振り向いた。
 真っ白な羽毛に赤いとさかと黄色く鋭いくちばしが鮮やかな雌鶏。木元村の守り鶏である『たまこ』のアバターが、すごい渋面でリブロ・テイカーを見つめている。
「お兄さん、こういうヤツ好きなの?」
 言って祭莉は、たまこアバターな自身を指し示す。
 いや、リブロ・テイカーが素敵と評したのは、アバターではなく感情なのですが。
「確かに駆けるの速いし、蹴りも豪快だけど……けど……」
 それに気付かぬ祭莉は、その表情を悩むようにさらに渋くして。
 黒く円らな瞳が、キッとリブロ・テイカーを睨み据えた。
「強いし、超強いケド!」
「ふぅん?」
 その主張に、リブロ・テイカーから何言ってるのかな的な視線が祭莉に返ってくる。
 ちなみにちょっとズレたそのやり取りに、杏は。
「まつりん、渋い顔すると更にたまこに似てる」
 ズレを指摘することなく、ふふ、と楽しそうに見守っていました。
 そんな杏の感情に興味の向き先を変えたらしいリブロ・テイカーが、面白がるような視線をたまこアバターからホラーウサギきぐるみアバターへ移すと。
「むっ、信じてないな」
 その動きから勘違いした祭莉は、強さを証明しようとユーベルコードを発動させる。
「おっけー、じゃあ実物呼んであげよう!
 いでよー、メカタマ……うわあ!」
 呼び出された戦闘用ニワトリ型ロボ、すなわち、メカタマコは、召喚された傍からリブロ・テイカーではなく祭莉を取り囲んだ。
 たまこは祭莉が大好きで、大好きだからこそ襲っちゃうので。額に1と刻印されたメカタマコ達にもその性格(?)が受け継がれているのかもしれない。いや、それとも、今の祭莉の姿はたまこアバターだから。メカタマコ達は祭莉を本物のたまこだと思っている可能性も考えられる。
 真相は兎も角として。
「む、むう……」
 百を軽く超えるメカタマコに囲まれた祭莉は。
「いけー、148体合体だ、わー!」
 それでもめげずに、リブロ・テイカーと戦うべく、メカタマコを合体させて強くさせようとした、のだけれど。
「ギャー!」
 メカタマコはたまこアバターに群がって合体開始!
 額に149と刻印された、真・白雌鶏アバターが出来上がりました。
「メカたまつりん」
 ぱちぱちとホラーウサギきぐるみアバターが感嘆の拍手を送っています。
 すごいな仮想現実。
「今こそ! イケメンを倒すとき!」
 そして祭莉はリブロ・テイカーに体当たり。
「たまこはイケメン嫌いだもんね」
 何だかすごい個人的な攻撃理由をさらりと告げる祭莉に、杏もこくりと頷いて。
「貴方にプラスの感情はあげられない」
 祭莉の横をすり抜け、蹂躙されたリブロ・テイカーへと突進する。
「え、ステーキの方が素敵?」
「それも、ある」
 唐突な祭莉の言葉にも、当然のように頷きながら。
「それと、わたしは筋肉ムキムキなイケおじが好み」
 暖陽の彩を花弁の如く舞い散らせて、灯る陽光を振るう。
「イケメンさんは出直してきて」
 羽ペンを叩き斬り、リブロ・テイカーの梟な服を深く切り裂いて。
 大きく後ろに飛び退き、そのまま去る姿を、油断なく見送る。
「行っちゃった……」
「わー。猟兵の勝ちだー」
「うむ、流石であるな」
「助かったっしょ! また助けられたっしょ!」
 そこから少し離れた後ろで、ソリと友人達がわっと盛り上がるところへ。
 祭莉はメカタマコを還して元のたまこアバターに戻って近づいた。
「アンちゃんは、ライオンさんみたいな方がいいんだって」
 そしてソリの、ウサギキマイラなアバターの肩に、ぽんっと白い翼を乗せると。
「ソリ、一緒に頑張ろ!」
「え? えっと……?」
 戸惑うソリの隣で、祭莉は、ムキムキなホワイトライオンのキマイラを、憧れるように眺めていたのでした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セシル・バーナード
※プラチナちゃんと

さ、海の底は十分堪能したし、今度は色々見て歩こう。プラチナちゃんは見たいものある?
大丈夫だよ。プラチナちゃんはぼくのだ。手を出してくる相手からはぼくが守る。
海底に水晶なんて綺麗だよね。よく考えられてる。ほら、ここの面、ぼくらが映ってるよ。

来たね。『第三の猟兵』猟書家。
プラチナちゃんは鉄塊剣で「切断」「なぎ払い」「鎧無視攻撃」で戦って。危ない時は「武器受け」や「カウンター」ね。
ぼくは「全力魔法」炎の「属性攻撃」で蒼炎瘴火を連射。侵略蔵書ごと焼き払おう。
最後は「水中戦」で敵がプラチナちゃんに引きつけられてる間に死角へ回って、さっと「暗殺」だ。

楽しかったね。プラチナちゃんはどう?



 海の底からの幻想的な眺めを、そしてそれに喜ぶ銀髪の少女の表情を、十分堪能したセシル・バーナード(f01207)は。
「さ、今度は色々見て歩こう。プラチナちゃんは見たいものある?」
「はい! 何を見てもいいなんて自由ですね! もう全部見ましょう!」
 寝転ぶ少女の繊手を引き、立ち上がって歩き出した。
 海面から差し込む月明かりが、水の動きを示すようにゆらゆら揺れて。
 空を飛んでいたようだった魚の群れが、今度はすぐ傍を泳いでいく。
 現実ではあり得ない、仮想現実だからこその海底散歩。
 そのどれもが美しく、素晴らしいと思ったけれども。
 セシルと手を繋いで歩いていた少女がふと立ち止まり、手を伸ばしたのは。
「石英……」
「海底に水晶なんて綺麗だよね。よく考えられてる」
 岩の代わりに立ち並ぶ、透明な鉱石だった。
 月明かりも相まって、きらきらと輝く水晶を覗き込めば。
「ほら、ここの面、ぼくらが映ってるよ」
 セシルが指差す先で、2つの顔が並んでこちらを見つめている。
 太いとはいえ幅が限られている水晶に2人が一緒に映るということは、すぐ傍に、それこそ触れ合える程に接近しているということで。映った自身の姿にその距離感を再認識して、少女の白い頬が朱に染まった。
 共に水着姿ゆえに直に伝わってくる温かさも、アバターだから疑似的なものと思うけれども、少女の胸を高鳴らせて。
 繋いでいない方の手が、おずおずと隣へと伸ばされ……
「ふぅん。この感情もいいね」
「ひゃっ!?」
 後ろから唐突にかけられた声に、少女は慌てて手を引っ込める。
 振り向けば、いつの間にかそこに『リブロ・テイカー』が笑いながら立っていた。
「来たね。『第三の猟兵』猟書家」
 セシルも振り向き、対峙すれば、解かれる手。
「あ……」
 離れた温もりが寂しくて、手を追いかけようとしてしまった少女だけれども。
 セシルのすぐ傍に灯った蒼い炎に、その手を止め、引き寄せて。
 代わりに、と鉄塊剣を握りしめた。
 セシルがくれた少女の武器。
 目に見えて、感じることができる、セシルとの絆。
 それをリブロ・テイカーに向けて構えれば。
「その感情も記録したいな」
 リブロ・テイカーの笑みが深く、さらに楽しそうに妖しくなった。
「だから、見せてあげるよ。
 これが僕の力、僕のコレクション」
 言葉と共に、リブロ・テイカーの前に浮いていた、梟の意匠が金色に施された黒い本が開かれて。そこに記録されていた感情が、見えない攻撃となって少女を襲う。
 少女は鉄塊剣を身体の前に構え、攻撃を受け、耐えるけれど、じわじわと押されて。
「大丈夫だよ」
 そこに凛としたセシルの声が響く。
「プラチナちゃんはぼくのだ。手を出してくる相手からはぼくが守る」
 堂々とした所有宣言に少女の心が跳ねるのと同時に、セシルの傍で揺れていた蒼い炎と同じものが無数に現れ、リブロ・テイカーを取り囲み。一斉に放たれた。
 それは呪詛の籠もった蒼炎瘴火。
 リブロ・テイカーの回避の動きにも纏わりつき、また合体しながらその炎をより強くして。追いかけ、追いつき、焼き払う。
 一際大きく燃えた蒼い炎が、セシルの腕の一振りで消えれば。
 そこにはもう、リブロ・テイカーの姿はなかった。
 辺りには、水晶が輝く幻想的な海底の景色が広がるばかり。
 少女は、きょろきょろと辺りを見回して、すぐには警戒を解かなかったけれど。
 セシルは戦いの終わりを察して、少女に笑いかけた。
「楽しかったね。プラチナちゃんはどう?」
 問いかけながら伸ばした手に、少女はようやく武器を手放し。
 またその手をおずおずと重ねて、頷く。

 ……嬉しかった、です。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふぇ、ふぇ、ふぇぇ、つ、ついにやってしまいました。
恨むのでしたら、私というものがありながら私(妖精)を選んだアヒルさんにしてくださいね。
凶器のフォースフライパンは装備から外しましたし、これで私のアリバイを作れば完全犯罪の成立です。
ふえ?こんな時に何をしているって、アヒルさんの妖精アバターの削除を……。
ふええ!?なんで猟書家さんがいるんですか!?
キング・ブレインさんは亡くなられていますし……あのテレビウムさんはここにはいないんですよ!
美白の魔法は用意していませんし、どうしましょう?
そうです、プラスの感情と言ってますし挑発の魔法でマイナスの感情を与えてみましょう。



「ふぇ、ふぇ、ふぇぇ」
 煌めく水晶の柱の陰で、フリル・インレアン(f19557)は笑みを零していた。
 しかしそれは、晴れやかや陽気とは程遠い、悪者のような暗い笑み。
「つ、ついにやってしまいました。
 恨むのでしたら、私というものがありながら私を選んだアヒルさんにしてくださいね」
 何かを握りつぶすかのように、目の前でぎゅっと両手を閉じ。どこか引きつったように口元が歪む。
 悪い事と分かっていても、それを望んで行い、やり遂げた。
 そんな薄暗い歓喜がじわりとフリルの心を満たす。
「楽しそうだね。何をしているの?」
「ふえ? それは、アヒルさんの妖精アバターの削除を……」
 そこに唐突に問われ、反射的に答えかけてから。
 フリルは、がばっと顔を上げて振り向いた。
「ふええ!? なんで猟書家さんがいるんですか!?」
 自分の居場所を奪ったアバターを、それを生み出したガジェットの許可なく消し去ったという悪事を見られてしまったことへの焦りと共に、現れると欠片も思っていなかった存在の登場に、思いっきり動揺するフリル。
「キング・ブレインさんは亡くなられていますし……
 あのテレビウムさんはここにはいないんですよ!」
「テレビウム?」
 思わず口走った言葉に『リブロ・テイカー』が不思議そうに首を傾げました。
 それもそのはず。
 キマイラフューチャーに現れたオウガ・フォーミュラであるキング・ブレイン――猟書家達のその世界での最終目標を掲げた者が既に猟兵達によって倒されてしまっている件は兎も角として。
 フリルがキマイラフューチャーで猟書家幹部と戦う際には、いつも必ずテレビウムの少年・ソリが巻き込まれていた、なんて事情をリブロ・テイカーが知る由もないので。
 この海の底の仮想現実にソリがいない(と思っている)フリルが驚いた理由が伝わるわけもなく。
「美白の魔法は用意していませんし、どうしましょう?」
 そしてソリが巻き込まれた事件では『美白の魔法』と呼ぶユーベルコードが何故かいつも有効だ、ということも分かる訳もなく。
 首を傾げるしかできないリブロ・テイカーの前で、フリルは1人混乱を深める。
 そして、急に何かに気が付いて、ぽんっと手を打つと。
「そうです、挑発の魔法でマイナスの感情を与えてみましょう」
 そのまま手を広げるように、腕を大きく掲げ、仮想の羽を無数に生み出し。ユーベルコード『空気を読めない少女の挑発の魔法』で、念動力の技能を披露した。
 リブロ・テイカーが羽ペンと本を周囲に浮かべているのを真似るかのように。
 でもそれは、酷い劣化版の物真似にしか見えなかったから。
「どうです。それ私にもできました」
 むんっと胸を張るフリルに、リブロ・テイカーは不快な表情を見せて。
「……他の感情を貰うことにするよ」
 フリルから興味を失ったかのように、梟の意匠のマントを翻し、踵を返したのでした。
「ふぇ?」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィンデ・ノインテザルグ
【黎明】
引き続きハリネズミのアバターのまま。
不意にスバルが通常時と同じ姿になり驚くも
されるがままに彼の掌の上で仰向けに。

スバル、いけない。
この向きでは私の棘が君に刺さってしまう。
じたじたと両手足を動かすも、彼の綻ぶ笑顔と言霊に力も抜けて。
撫でてくれる指先を両腕で抱いて、そっと口付けたい。
私も愛している。
たまにこうして…無防備に甘えさせてくれるかい?

リブロ・テイカーが現れたら
即座にUCを起動し、羽ペンによる攻撃回避を試みる。
その後は通常姿に戻ってナイフを突きたてよう。
身を焦がすような羞恥心を糧に、冷静に蹴撃を。
…貴様、今の光景を見たな?
ならば生を諦めよ。例え我が神が赦そうとも、私は容赦はしない。


蒼乃・昴
【黎明】
通常時の姿に戻る
こんなに可愛くて小さな君を、可愛がらないなんて勿体無いからな

ヴィンデをころんと仰向けにして掌に寝かせよう
もうそれだけで可愛過ぎる
指の腹で優しく額や頬、お腹を撫でてみたい

心配するな、全然痛くないよ
何ならもっと棘を立ててくれたって構わないんだ
俺は君の身を守ってくれるこの針ごと、君を愛している
指先への口付けを貰えば頬を緩める
あぁ、勿論。存分に甘えて欲しい
君の安全基地になりたいと、身も心も焦がれている

敵の襲来には本を機械剣で[吹き飛ばし]、UCを発動させ[雷撃]
戦うヴィンデを見ながら、混乱が遅れてやって来る
(……今、俺に愛していると言ったか? それに口付けも……)
顔が熱い…



 緑瞳のハリネズミが、大きく優しい手にそっと持ち上げられる。
 驚いて見上げると、そこには蒼乃・昴(f40152)の穏やかな、でも少しだけ悪戯っぽい笑みがあった。
「こんなに可愛くて小さな君を、可愛がらないなんて勿体無いからな」
 昴は、手に包んだハリネズミを――ハリネズミのアバター姿のままのヴィンデ・ノインテザルグ(f41646)の小さな額を指の腹でそっと撫でた。
 同じ姿で共にいるのもよかったけれど。
 やっぱりこの可愛らしい姿を堪能したくて。
 普段の姿のアバターとなった昴は、ヴィンデをころんと仰向けにして、掌に寝かせた。
 棘に隠されていた小さな顔がよく見えて、柔らかなお腹の上に小さな手足がちょこんとついているのも露わになる。
 向きを変えただけで、もう可愛すぎて。
 昴は、青瞳を細めると、その小さな手に指をそっと重ねた。
 でもこの姿勢は、背中の棘が掌に向いてしまうから。
「スバル、いけない。この向きでは私の棘が君に刺さってしまう」
 ヴィンデは慌てて、じたばたと両手足を動かす。
 しかし昴は、その動きすら可愛いとまた微笑み。
「心配するな、全然痛くないよ。
 何ならもっと棘を立ててくれたって構わないんだ」
 綻んだ笑顔と、柔らかな言葉に、ヴィンデの強張った身体から力が抜けていく。
「俺は君の身を守ってくれるこの針ごと、君を愛している」
 優しい告白をしながら、昴の指先がヴィンデの腹を撫でた。
 ヴィンデは、その指先を、小さな両腕で抱いて。
「私も愛している」
 思いに応えると。
「たまにこうして……無防備に甘えさせてくれるかい?」
 小さな鼻先を昴の指にちょんとつけた。
 甘く可愛い口付け。
 その愛らしさに昴の頬が緩み。
「あぁ、勿論。存分に甘えて欲しい」
 叶うなら、ヴィンデの安全基地になりたいと。
 愛しく大切な人の、柔らかく可愛らしい部分を守っていきたいと。
 身も心も恋焦がれて。
 昴は、微笑んだ。
 そこに。
「その感情も素敵だね!」
 現れたのは『リブロ・テイカー』。プラスの感情を集めているという猟書家幹部。
 昴とヴィンデ、2人の想いに目を付けたリブロ・テイカーは、にやりと笑うと、その周囲に梟の羽ペンを無数に生み出して。
「それじゃあ貰うね?」
 襲い掛かってきた。
 ヴィンデは昴の手の上から飛び出して、ユーベルコードで高速機動を見せる。飛び来る羽ペンの間を縫って、回避と共にリブロ・テイカーの注意を引き付ければ。
 昴が、空いた手に大型の機械剣『デスブレイド』を握りしめて飛び込んで。羽ペンの群れの中にあった黒い本を叩き斬った。
 蔵書の消失に目を見開くリブロ・テイカー。
 だが、その驚きが次の攻撃へと移行する前に。
 ヴィンデは一気に間を詰めて。
 そして元の姿のアバターとなって。
 握りしめたナイフを、リブロ・テイカーに突き立てた。
「……貴様、今の光景を見たな?」
 至近距離で呟かれたその声は、ヴィンデからこぼれた羞恥心。
 それでも、見た目は冷徹に、そして冷静に対峙して。
「ならば生を諦めよ。例え我が神が赦そうとも、私は容赦はしない」
 ヴィンデはリブロ・テイカーに蹴撃を繰り出した。
 蹴り飛ばされ、梟の意匠のマントが舞い広がるところへ。
 昴は、身に纏った雷を放った。
 ユーベルコード『界雷放出』。
 強烈な光の中に、リブロ・テイカーの姿が消えていくのを、昴は静かに眺め。
 撃退したか、と判断すると。
 こちらを振り向くヴィンデに、頷いて見せた。
 ハリネズミの時と変わらない緑色の瞳が昴を映す。
 それに微笑みかけて。
 昴は、ふと、思い出した。
(「……あの時、ヴィンデは俺に愛していると言ったか? それに口付けも……」)
 ハリネズミから貰ったそれらを、今、目の前にいるヴィンデの姿にようやく置き換えて認識できた昴は。愛らしい小動物からではなく、愛しい相棒からのものと改めて受け止めた青瞳は。遅れてきた混乱に大きく見開かれて。
 熱くなる顔を、ヴィンデに見られないようにとそっと逸らす。
「スバル?」
 でも、そんな昴の様子に、ヴィンデは不思議そうに近寄り、覗き込んで……
 2つのアバターは、素敵な感情に淡く包まれていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年06月22日


挿絵イラスト