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うつろふ花色

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●うつろい咲く
 ――ぽつり、ぽつり。
 優しく降る雨に濡れた紫陽花が、艷やかに花咲かす。
 赤、青、紫、白や黄緑と、うつろう色彩に染められて。

 あの花たちと同じように、わたしの姿もうつろいゆくの。
 ――さあ。わたしが誰に見える? それは、あなたがいちばん、欲しい人。

 * * *

 ――よひらちゃん。わたしのかわいい、よひらちゃん。
 小雨の降るなか、ひとりの少女が紫陽花咲く小路を足早に駆ける。
 黒く艷やかな髪が濡れるのも厭わずに、少女は辿り着いたお堂の重たい扉をゆっくり開けた。
 堂の内部は狭く暗く湿っていて、踏みしめた木の床は鈍い音を奏でる。

『……よひらちゃん、遅くなってごめんね』
 少女が声を掛けた先、暗がりにぼんやりと人影が浮かぶ。
 それは、粗末な座布団に座った小柄な少女だった。
 銀糸の髪に透けるような白い肌は今にも消え入りそうで。
 ゆらりと顔を上げると細い髪が頬を伝う。

『れんげ、おねえちゃん。……ううん、大丈夫。それよりも、誰かに見られていない?』
『うん、大丈夫よ。まだ朝早いし、誰にも会ってない』
 それはそうと、れんげと呼ばれた姉は懐から何かを取り出した。
 はらりとこぼれたのは、真白い絹のリボン。
 それを妹の髪に結んでやると、にこりと嬉しそうに微笑む。
『よひらに似合うと思って、買ってきたの。それと、この簪も』
 銀糸の髪に真白いリボン、添うように硝子で造られた紫陽花の簪を揺らして。
 妹のよひらはそっと手を伸ばし、自分の髪に飾られたそれらを確認すると、儚げに微笑んだ。
『……ありがとう、れんげおねえちゃん』

 姉のれんげは日々の在ったことを妹に語り聞かせた。
 妹のよひらは否定も肯定もせずに、頷いて姉の話を聞き続けた。
 雨降る紫陽花の堂で、少女たちは毎日のようにその行為を繰り返し続ける。
 けれどその時間も、永遠ではなくて。

『――あ、ごめんね。よひらちゃん、そろそろお仕事にいかなくちゃ』
『おしごと……?』
『うん、この間から給仕のお仕事を始めたの。また明日、来るからね?』
『……うん』

 軽く手を振って去る姉の背を、妹のよひらは寂しげに見送った。
(――おしごと、おしごと、ね)
 あなたの会いたい人に成って、喜ばせて、話を聞いてあげて。
 けれど、それも、もう……。

『――もう、飽きちゃった』
 よひらは自身の髪に刺していた紫陽花の簪を引き抜き。
 かしゃり、とその場に投げ捨てた。

●影朧を匿う者
「皆さん、集まっていただき、ありがとうございます」
 ――チリン、と涼やかな音色の風鈴を携えて。
 グリモア猟兵の、風花・すず は集った猟兵たちへ軽く頭を下げた。
「今回の依頼は、影朧を匿っている民間人に接触を試みて欲しいのです」
 そう切り出すと、すずは事のあらましを順追って説明する。

 サクラミラージュにおいてのオブリビオンは、影朧という不安定な存在だ。
 その多くは、傷つき虐げられた者達の「過去」から生まれている。
 それゆえに影朧と戦い、慰め「影朧を救済する」という思想が一般的だ。
「ですが、今回の影朧はその処遇が少々複雑でして……」
 件の影朧はいま、ひとりの民間人と深い絆で結び合っている。
 ……いや、正確には。取り入り、誘惑し、騙し続けている状態だという。

 その民間人は『れんげ』という名の少女だ。
 少女の両親は既に亡く、どうやら妹の『よひら』と二人暮らしをしていたらしい。
「……でも、その妹さんはひと月ほど前に亡くなられてしまったようなのです」
 妹はもともと病弱で、殆ど家に引き籠もり、汎ゆる事を姉に頼っていた。
 けれど姉のれんげは嫌な顔ひとつせず、妹のよひらをとても可愛がっていたそうだ。
 そんな身寄りもないひとりの少女が、唯一の家族を失くしてしまったら?
 その絶望は、計り知れないだろう。

「れんげさんは、しばらく塞ぎ込んでいたようですね」
 けれども、そんな彼女の前にとある人物が現れる。
 ――それは、死んだはずの妹だった。
「その妹さんは、化けて出たとか、死体が蘇ったとか、ではないみたいなんです」
 喪ったはずの妹の姿、それこそが「影朧」の正体なのだ。

「どうやらこの影朧は、気に入った相手が求める者の姿に変化し、心を奪うらしいのです」
 会いたかった妹に再び逢えた喜びと、影朧の誘惑により、れげんは「妹が蘇った」と信じ込んでしまっているようだ。
 けれど、この幸せな時間は永く続くものではない。
 現実を生き続けている「姉」と、まがい物の「妹」では時期に噛み合わなくなるはずだ。
 場合によっては、影朧から切り捨てられる可能性もある。
 そうして「姉」の傍を離れた影朧は、次なる標的を探し彷徨い、解き放たれる。
 ひとり取り残されたれんげが負う心の傷も、更に深いものになってしまうだろう。

「れんげさんに、この真実を突きつけるのは酷かもしれませんが……彼女のためでもあります」
 手遅れとならない内に、この真実を伝え、影朧の居場所を突き止めなくてはいけない。

 姉のれんげはどうやら毎日「紫陽花寺」と呼ばれるお寺に通い詰めているらしい。
 おそらく、その近辺に妹の姿をした影朧を匿っている場所があるのだろう。
「まずはれんげさんに接触してください。けれど、こちらの話を簡単に信じてはくれないかもしれません」
 可能な限り穏便に済ませて欲しいが、やむを得ない場合は強硬手段を取ることも必要になるだろう。
 影朧の居場所を突き止めれば、後はそこに向かい、影朧を倒すだけだ。
 道中は影朧の影響で複雑怪奇な仕掛けに成っている可能性もある。
 十分注意して進んで欲しい、とすずは告げる。

「それと、件の影朧ですが。れんげさんを惑わした手段と同じ術を使ってくる可能性があります」
 気に入った相手が求める者の姿に変化し、誘惑して心を奪う。
 さまざまな境遇の者が揃う猟兵のなかにも、思い当たる人はいるのではないだろうか。
「皆さんならきっと大丈夫だと思いますが……どうか、心して当たってください」

●紫陽花寺
 すずはひとしきり依頼の内容を説明し終えると、和傘を揺らして表情を少し綻ばせた。
「真面目な話が続きましたが、「紫陽花寺」はとても綺麗なところみたいなんですよ」
 ちょうど見頃を迎えた色鮮やかな紫陽花たちが境内を彩っているだろう。
 その日は小雨が降り、紫陽花もいっそう艷やかに見えるに違いない。
「お寺には一般の参拝に来られた方々もいらっしゃいます。猟兵の皆さん揃って容疑者探しに目を光らせるのも逆に目立ってしまうかもしれませんし……。一部は一般人を装うのも良いかもしれませんね」
 要は仕事の傍ら、紫陽花寺を普通に参拝するのも一興だと。
 すずの言葉はそんな意図らしい。

「それでは、皆さん。いってらっしゃいませ、どうかお気をつけて」
 ――チリン、と風鈴の音が鳴り響き、猟兵たちの体は淡い転送の光に包まれた。


朧月
 こんにちは、朧月です。
 雨降る紫陽花寺と影朧を匿う者のおはなしをお届けします。
 どうぞよろしくお願い致します。

●シナリオ構成
 第1章『営みの裏に潜む影』(日常)
 第2章『雨の紫陽花小路』(冒険)
 第3章『???』(ボス戦)

 心情寄りのシナリオを想定していますが、結末は皆様の行動次第です。
 ※1章(日常章)のみのご参加も歓迎です。

●1章
 メインの行動に絞って書いていただくことを推奨します。
 ご希望の番号を冒頭に記載してください。

①紫陽花寺の参拝を楽しむ。
 紫陽花寺の様子はOP公開後、導入部を追記します。
 フラグメントの内容は②に関連したものになりますので、
 お遊びメインの方は特に気にせずとも大丈夫です。

②容疑者に接触し、影朧の居場所を吐かせる。
 詳細はOPに記載しております。
 手荒な方法でも構いませんが、目的はあくまで「影朧の救済」です。
 穏便に接する方が良いでしょう。

 お遊びメイン、調査メイン、どちらでも大丈夫です。
 場合によってはサポート採用も検討しますので、
 お遊びメインに考えている方もどうぞ気兼ねなくご参加ください。

●2章・3章
 詳細は章開始時に導入部を追記します。

●NPC(本シナリオに登場する人物)
『よひら(四葩)』
 帝都に住んでいた少女。
 両親は既に亡く、姉のれんげと二人暮らしでしたが、
 生まれつき体が弱く、一ヶ月ほど前に他界しています。
 ちなみに彼女のお墓はこの紫陽花寺にあるようです。

『れんげ(蓮華)』
 よひらの姉。
 唯一の家族である妹のよひらをとても可愛がっていました。
 妹が病死して以来、塞ぎ込んでいましたが、
 影朧が妹の姿で現れたことを切っ掛けに、毎日妹の元に通うようになりました。

●進行・採用
 プレイング受付期間や進行状況は【シナリオタグ・MSページ】でご案内します。
 お手数ですが都度ご確認いただきますようお願いします。

 基本的に遅筆、許容人数も少なめです。
 ご参加人数次第では下記の採用方法となりますことを予めご了承ください。

 通常プレイング:失効期間内に執筆出来る分のみ。再送の対応は無し。
 オーバーロード:内容に問題なければ全採用、お届けにはお時間をいただきます。

●共同プレイング
 同伴者はご自身含めて【2】名様まで、でお願いします。
 【相手のお名前(ID)】or【グループ名】をご明記ください。

 以上です。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 日常 『営みの裏に潜む影』

POW   :    体力、勘に物を言わせて事件に向き合う

SPD   :    捜査は脚で、つまり健脚こそ事件解決の第一歩

WIZ   :    整理しよう。きっと何か見落としがちな手がかりがある

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 境内いっぱいに咲く紫陽花が名所にもなっている『紫陽花寺』
 色鮮やかな紫陽花たちが花咲かすこれからの時期は、参拝者も増えるのだという。
 お寺の方も本来の役割はもちろん、名所のひとつとして訪れた人を楽しませてくれる工夫を凝らしている。

 境内に入り、本堂に続く参道の傍ら。参拝の際に身と心を清める手水舎が有る。
 この手水鉢に季節の花々を浮かべた「花手水」が美しいと巷で評判を呼んでいるそうだ。
 この時期、手水鉢に浮かぶのは。青、紫、桃色など、鮮やかに咲いた紫陽花たち。
 うつろう色彩を目で愉しみながら、凛と冷たく澄んだ水で心身を清めることができる。

 そしで境内の一角には、少し風変わりな「おみくじ」も用意されている。
 通称「花みくじ」と呼ばれているそれは、紫陽花寺に因んだおみくじだそうで。
 紫陽花の萼、花弁をかたどったみくじ箋を水に浸し、運勢を占うものだ。
 一般的なおみくじとは違い、選んだ紙は真っ白で、最初は何も書かれてはいない。
 湧き水が張られた桶にそっと浮かべると、浸された白い紙はふわりと花咲くように丸く広がり、紫陽花が織り成す色に染まりゆく。
 そして運勢の文字がじわりと浮かび上がってくるのだという。
 お告げの言葉を心に刻んだなら、おみくじは専用の木枠に掛けていく人が多い。
 色彩豊かに染まった花みくじがたくさん掛けられていく様子は、宛ら花咲かじいさんにでも成った気分のようだとか。

 ――ぽつり、ぽつりと。降りゆく小雨が気になるならば、傘も借りられるそうで。
 雨音を感じながら、静かにゆるりと、広い境内に咲く紫陽花を見に散歩をするのもいいだろう。

 時刻はまだ朝早く、曇天の空からは優しい雨が降り注ぐ。
 参拝者も少ないこの時間から張っていれば、件の少女もいずれ現れることだろう――。
ジゼル・サンドル

【歌唱】で『よひら』の言葉を織り込んだ控えめなバラードでれんげの気を引いてみよう。
『♪雨に濡れるよひら 花の色はうつろふけれど ずっと変わらないものが此処にあるの』

すまない、うるさくしてしまっただろうか?
わたしの亡くなったお母さんは紫陽花が好きで…わたしも紫陽花が好きなんだ。よひらというのは紫陽花の別名なのだよな、となるべく自然に会話をしつつもよひらという妹が「いた」のだよな。と少しづつ核心をつく。
この紫陽花寺によひらのお墓があるんじゃないのか?
わたしもお母さんに会えるものなら会いたいが、死者が生き返ることは決してないのだよな…
だからこそ君には「本物の」よひらの想い出を大切にしてほしいんだ。



 ――ぽつり、ぽつり。
 空から冷たく優しい雨が降り注ぐ。
 咲き誇る紫陽花が雫を帯びて濡れる様を、ジゼル・サンドルは静かに見つめた。
(……紫陽花、か)
 紫陽花の別名は『四葩』、妹の名前も『よひら』、そしてこの『紫陽花寺』に。
 そのすべては偶然なのかもしれないけれど、姉の『れんげ』を傷付けることなく気付かせさせる切っ掛けにはなるだろうか。

 ジゼルはれんげが境内に入ってきた姿を確認すると、そっと唄声を響かせた。
『~♪雨に濡れるよひら 花の色はうつろふけれど ずっと変わらないものが此処にあるの』
 雨粒の音に交じり、ジゼルの澄んだ唄声がゆるやかな風に乗る。
『……よひ、ら……』
 聴こえてきたその言葉に瞬きひとつ、少女は立ち止まった。
 長い黒髪を揺らし、今日はどうやら傘を差して寺を訪れたらしい『れんげ』がジゼルの傍にゆっくりと歩み寄る。
「……すまない、うるさくしてしまっただろうか?」
 あくまでも静かに唄を奏でる一般人を装いつつ、ジゼルは少女へにこやかに笑みを返す。
『あ、いいえ。とても素敵な歌声だなって思って』
「そうか? ふふ、ありがとう」
 二人の間に和やかな空気が漂うの認め、ジゼルはゆっくりと会話を広げていく。

「わたしの亡くなったお母さんは紫陽花が好きで……わたしも紫陽花が好きなんだ」
『……そう、なのですね』
 傍らに咲く青い紫陽花を見遣り、ジゼルはそっと目を伏せた。
 ジゼルの記憶に残る紫陽花もとても美しくて、とても大切な記憶でもあったから。
「……そういえば、知っているか? 『よひら』というのは紫陽花の別名なのだよな」
『えっ! そう、でしたね。だから先程の唄にも『よひら』の名が……?』
 れんげの瞳が少し驚くように瞬いて、それは真相を理解したうえでの動揺なのか否か。
 少女は視線を落として、ぽつりと呟くように言葉を零す。
『わたしには、妹がいて。『よひら』という名前で、だからあなたの唄を聴いたら……』
「妹に、会いたくなったのか?」
 ジゼルの問に、れんげは顔を上げて頷きながら微笑み返す。
 その笑顔は純粋無垢で、いま彼女が会っている『よひら』がまがい物などと疑う余地は微塵もなさそうで。
 だからこそ、この先の言葉を紡ぐのにジゼルは少し躊躇ったけれど。

「――この紫陽花寺に、よひらのお墓があるんじゃないのか?」
『……え?』
 れんげが驚いたように小さな声を上げる。
 まさか、そんなこと。そう言いたげに、けれど綻んだ思考から結びつく記憶を振り払うように。
『……ち、ちがいます! よひらは、墓地の奥のお堂に……!』
「――お堂?」
 はっと、れんげは慌てて口許を抑えて言葉を噤んだ。
「……わたしもお母さんに会えるものなら会いたいが、死者が生き返ることは決してないのだよな……」
 れんげがいま会いたがっている、その『よひら』は本物の妹ではない。
 その核心をあえて告げることはしなかった。
 彼女自身で、その事実に気付いて欲しくて。
「だからこそ君には『本物の』よひらの想い出を大切にしてほしいんだ」
『わたし、は……』
 れんげは動揺した視線を泳がせながら、何かを言いたげに。
 けれどそれを押し殺してジゼルの前から逃げるように立ち去った。

(思い出してくれる、切っ掛けにはなっただろうか……)
 ジゼルはれんげの後ろ姿を見つめつつ、静かに降る雨音に耳を傾けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花

人化した巨神花燕(165cmおっとりニート系少女)とれんげ嬢に会いに行く

「こんにちは、れんげさん。私は桜學府に所属するユーベルコヲド使いの御園桜花と申します。貴女にお話を伺いに参りました」

「私達が今追っているのは、想いを喰らう影朧です。れんげさん。貴女の妹さんは、一人寺で生活出来る方でしたか」
「貴女の心を喰らったら、彼の影朧はまた誰かの心を喰らいに行くでしょう。お寂しい貴女に、確かに彼の影朧は寄り添ったのでしょうけれど。間もなく彼の影朧は、貴女の妹さんへの切ない想いを食い散らかして去って行く事でしょう。貴女の為にも本物の妹さんの為にも、そして彼の影朧の為にも。私達は彼の影朧を止めたいのです」



 人型サイズへと縮めた、巨神・花燕と共に。御園・桜花は紫陽花寺を訪れていた。
 普段のパーラーメイドの衣装を身に纏い、傍らにはおっとりとした雰囲気の花燕が並ぶ。
 一見すれば、女友達か姉妹にでも見えるだろうか。
 けれども今日はお寺を参拝しに来たわけではない。
 此度の事件も影朧に関わるもの。ともなれば、見過ごすわけにはいかないのだ。
(さて、れんげさんという方は……あのひとでしょうか)
 黒髪の少女が和傘を差して小走りに参道を駆けてくる。
 桜花はその進路を遮るように、そっと少女の前に姿を現した。

「こんにちは、れんげさん。私は桜學府に所属するユーベルコヲド使いの御園桜花と申します」
『……えっ、桜學府?』
「ええ、今日は貴女にお話を伺いに参りました」
『わたしに、なにか……?』
 れんげは驚いた表情を見せたあと、警戒するようにぎゅっと傘の柄を握る。
 何かを隠している様子は、れんげの表情から見て取れた。
「私達が今追っているのは、想いを喰らう影朧です」
『――影朧……』
 少女は桜花のその言葉を復唱するように、ぽつりと零した。
 思い当たる節でもあるような、そんな表情で。
「れんげさん。貴女の妹さんは、一人寺で生活出来る方でしたか?」
『どうして、妹のことを……?』
 桜學府、ユーベルコヲド使いならば。影朧絡みの事件の情報については把握しているのですよ、と桜花は説明を添えながら話を続ける。
「お寂しい貴女に、確かに彼の影朧は寄り添ったのでしょうけれど。貴女の心を喰らったら、彼の影朧はまた誰かの心を喰らいに行くでしょう」
 ――そう、既に彼女の心は喰われていて。妹代わりの影朧を喪う代償はあるかもしれないけれど。
「貴女の為にも本物の妹さんの為にも、そして彼の影朧の為にも。私達は彼の影朧を止めたいのです」
『それは……。でもあれは妹で……』
 れんげは納得出来ないといった面持ちで、けれど声色は確かに震えていたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

インディゴ・クロワッサン
お寺さんを参拝する程の信仰心は無いんだけど、たまには雨に濡れる紫陽花って言う雅なものに触れるのもアリでしょ!って事で、私服でごー☆

傘を借りて、今濡れるのは紫陽花だけでヨシ!としつつ、花みくじに今後の運勢を訪ねてみようか
「ま、結果がどうあれ、やる事に変わりはないんだけど」
後は…紫陽花を眺めながら境内をうろうろしよーっと

…手水舎は…ちょーっと、ねぇ…
僕、どっちかって言うと|清められると辛い《破魔が効いて痛い》側だし…
眺めるだけにしとこーっと

あ、他猟兵が民間人の子へ何を言うのかは気になるから、境内をうろうろしながら、UC:集め集う藍薔薇の根 を駆使して、お話は聞き逃さないつもりだよ☆



(お寺さんを参拝する程の信仰心は無いんだけど、ねー)
 たまには雨に濡れる紫陽花と云う、雅なものに触れるのもアリかなと思いつつ。
 インディゴ・クロワッサンは藍染の髪を揺らしながら、雨降る紫陽花寺を訪れていた。

 空から降る雨は優しくはあるけれど、髪やせっかくの私服が濡れてしまうのもなあ、と。きょろり周囲を見渡す。
 貸出無料の和傘が境内の隅に用意されているのを見つけ、一本手に取りぱっと開いてみた。
(今濡れるのは紫陽花だけでヨシ! と。お寺で和傘を差すってのもいいもんだねぇ)
 降る雨粒が傘の油紙に弾かれ、ぱらぱらと小気味よい音を奏でる。
 そんな心地好い音色を聴きながら、インディゴが向かったのは花みくじが出来る場所。
(やっぱりこーゆートコに来たらおみくじは引いてみたいよね。……さてさて、今後の運勢を訪ねてみようか)
 御神籤を一枚購入し、掲示されているやり方に従って水桶にそっと浮かべてみる。
 ぷかりと浮かんだ花みくじは徐々に花の形に丸く広がって、薄青の紫陽花色に変化した。
 冷たい水からそっと拾い上げて確認すれば、お告げの文字が読めるようになっている。
 《 失せ物近くにあり 》
(失せ物? さがしものって事かな、何かあったっけ……)
 いや、所詮はおみくじ。深く考える必要はないのかもしれない。
「……ま、結果がどうあれ、やる事に変わりはないんだけど」
 インディゴは薄青の花みくじを木枠に括り付け、ふらりと境内の散歩へと戻った。

 ふと目に留まったのは、紫陽花に彩られた手水舎。
 物珍しさに覗くように近付いて、けれどさらさらと流れ出る御神水には手が伸びず。
(僕、どっちかって言うと。清められると辛い側だし……ちょーっと、ねぇ……)
 聖なる光の属性、破魔の力、どうにもその類のものは苦手だ。
 ここは目で見て眺めるだけで楽しもうと小さく頷きつつ、周囲に少しずつ参拝者が増えてきたのに気付く。

(そろそろ、例の民間人の子も来てるのかな?)
 自らアレコレ問い質すつもりはないけれど、どんな情報を得たかは識っておいた方がイイだろう。
 雨粒に紛れて聴こえてくる話し声に耳を傾けつつ、インディゴはそっと瞼を伏せた。
 ――お話は、聞き逃さないつもりだよ☆

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり


紫陽花寺か。どこにもこういう名所はあるものねぇ。雨に濡れてとても綺麗。

彼女がれんげか。接触する前に、「目立たない」よう人払いの「結界術」を展開。
「コミュ力」で彼女と話しましょう。

黄泉還り。そんなことがあると思うかしら? 死んだ人の御魂は、幻朧桜がもたらす輪廻転生の環に入り、次の人生に向かう。それがあるべき姿。
でも、その環に入らないものたちがいる。影朧。
あなたは今影朧に魅入られているんじゃないかしら? よく思い出して。あなたが会いに行ってる人の言葉や仕草に違和感を感じたことはない?

あなたが会っているのは、会いたい人の姿を写し取る影朧。
これ以上の接触は危険よ。後はあたしたちに任せてくれないかな?



 ――ぽつり、ぽつり。優しい雨が降り注ぐ。
 境内を彩る紫陽花が雨に濡れ、心做しか嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。
(……紫陽花寺か。どこにもこういう名所はあるものねぇ)
 村崎・ゆかりは紫紺の髪を揺らしながら、「きれい」と小さく呟き紫陽花を愛でた。
 まだ参拝者の姿も疎らで、件の少女もこれならすぐに見つかることだろう。

(――彼女がれんげ、か)
 程なくしてそれらしい姿を見つけると、ゆかりは一歩踏み出す。
 もとより穏便に話は済ませるつもりだが、念のため目立たないように人払いの結界術を展開しておく。
「もしもし、貴女がれんげ?」
『えっ……! はい、そうですけど……』
 れんげは少し怯えたようにそう答える。
 既に他の猟兵からも呼び止められたのであろうか、それならばこの話にも耳を傾けてくれるだろうか。
「……黄泉還り。そんなことがあると思うかしら?」
『………』
 れんげはただ、黙ってゆかりの言葉を聴いていた。その先の話を待つように。
 ゆかりも小さく頷きつつ、ゆっくりと話しを続ける。
「死んだ人の御魂は、幻朧桜がもたらす輪廻転生の環に入り、次の人生に向かう。それがあるべき姿よね」
 桜花舞うこの世界では、それが一般的な考えだ。
 けれどその環に入らないものたちが、影朧という存在。
 今まさに目の前の少女も、その影朧に囚われ掛けている。
「よく思い出して。あなたが会いに行ってる人の言葉や仕草に違和感を感じたことはない?」
『会いに行っている人……そう、妹のことですよね』
 れんげは静かに俯き、考えるように暫し沈黙した。
 彼女はもう、答えに辿り着いていたのかもしれない。
『……けど、わたし。認めたくなかったんです、妹が……』
「ええ、そうよね……」
 肯定するようにゆかりが返すと、れんげは思わず口許を抑えて肩を震わせた。

「でも。これ以上の接触は危険よ。後はあたしたちに任せてくれないかな?」
 ゆかりは慰めるように、震える小さな肩にそっと手を差し伸べて。
 れんが落ち着くまで、傍に居てやったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『雨の紫陽花小路』

POW   :    直感の赴くままに

SPD   :    路の変化を探りながら

WIZ   :    紫陽花の色を頼りに

イラスト:西洋カルタ軒

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 
《 ――影朧の居場所は、墓地の奥のお堂。 》
 その情報をれんげから得た猟兵たちは、寺の裏側にある墓地へと向かった。

 早朝の墓地は、しんと静まり返っていて。
 雨粒の音だけが響き渡っている。
 けれども薄気味悪さはなく、彩り鮮やかな紫陽花が出迎えてくれる光景は何処か神秘的にも見えて。

 優しく降る雨に濡れた、無数の紫陽花が咲く路がどこまでも、どこまでも続いてゆく。
 ――。
 何やらおかしい。
 さほど広くは無いように見えた路の終着点が、歩き続けても一向に見えてこない。
 これもおそらく、影朧による影響なのだろうか。
 複雑怪奇に枝分かれした路、ぼんやりと霧がかってきた視界も徐々に見通しが悪くなってきた。

 うつろい咲く紫陽花に囲まれたこの小路を突破し、影朧の元へ辿り着かなければならない。
 
 
 
村崎・ゆかり
ふむ、ユーベルコヲドで編み上げた迷路かしら。紫陽花の生垣が壁代わりとは風情があるけれど。
いつまでもこの雨の中を彷徨うわけには行かないものねぇ。
せっかくの紫陽花が見えなくなるのは残念だけど、見鬼法でユーベルコヲドの流れに視覚を切り替えるわ。
「狂気耐性」「環境耐性」「霊的防護」も併用。

すぐに全体が分からなくても、この迷路構造を生成している力の流れを観察すれば、上流がどっちか分かってくる。普段は通常の視覚が無いと不便だけど、迷路の中という環境なら、霊気だけで歩く道が見えるから助かるわ。

攻撃的な意志や敵意は無しと。影朧が話の通じる相手ならいいんだけど。
とにかくその彼女の元まで歩いて行きましょ。



 雨降る紫陽花小路へと足を進めたゆかりは、周囲が霧に包まれてきたのに気付く。
 既に影朧の影響が出始めているのだろうか。
 
(……ふむ、ユーベルコヲドで編み上げた迷路かしら)
 色鮮やかに咲く紫陽花が生け垣の迷路とは、なんとも風情のある景色だ。
 けれど今はのんびりと雨の中を彷徨うわけにもいかなくて、ひとまずこの迷宮から脱出を試みようと手を尽くす。

(せっかくの紫陽花が見えなくなるのは残念だけど、仕方ないわね)
 ゆかりは全神経を視覚に集中し、見えざるチカラの流れに目を凝らす。
 先ほどまで見えていた紫陽花並木の美しい色は消え、暗い空間の中を縫うように漂うユーベルコードの流れを辿ってゆく。
 この紫陽花小路の全体像は把握出来ずとも、迷路構造を生成している力そのものの流れを追ってゆけば、自然と何方から来て何処へ流れてゆくのかが判ってくる。
 普段ならば通常の視界を代償にしたこの法にはリスクが付きまとう。
 然し静かな迷宮という環境の中ならば、霊気を追うだけで自分の歩くべき道が見えるのは有り難い点でもあった。
 そうしてゆかりは、影朧の放つ力を辿り、先を目指す。

(――さて、話の通じる相手なら良いんだけどね)
 一抹の不安も覚えつつ、ぱしゃりと水音弾きながら、足早に雨降る紫陽花小路を駆けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

インディゴ・クロワッサン
「墓地の奥のお堂、ねー」
まぁそりゃ滅多にヒトも来ない絶好の匿い場所だよねー

見通しも悪くなってきた上に複雑に枝分かれしまくってる?
「なら、この子の出番でしょー☆」
UC:影鳥召喚 で墓地の奥のお堂に居る影朧を追跡して貰うよー
まぁ、高く飛ばれると小鳥の側が僕を見失いそうだから、僕も小鳥を認識出来る程度の高さで飛んで貰おーっと

五感の共有で得られた情報と第六感と野生の勘もフル活用して最適解を導き出しながら、借りてる和傘で小雨を弾きながら進んでくよ~!
「…この和傘だけは安全な所に置いとかないとねー…」
戦う前に|確実に安全なトコ《UC:無限収納とか…》に収めておこーっと…



 ぱしゃりと靴底で水飛沫を弾ませつつ、インディゴは聞き耳で得た情報通りに寺の墓地へと来ていた。
「……墓地の奥のお堂、ねー」
 参拝客はもちろん、寺の者も頻繁に立ち寄るような場所ではなさそうだ。
(まぁそりゃ、滅多にヒトも来ない絶好の匿い場所だよねー)
 そして此処も、寺の境内と同じく紫陽花が各所に咲き誇っていた。
 そのせいか墓地という場所ではあるが陰鬱な雰囲気はせず、寧ろ紫陽花の生け垣を楽しむようにインディゴは奥へ向かって歩を進める。

(――んん?)
 ふわりと周囲に白い霧が立ち込めて、何やら見通しも悪くなってきた。おまけに先程まで通ってきた後ろの道も、先に進む道も、複雑怪奇に枝分かれしてしまっているようだ。
 これも影朧の影響によるものだろうか、インディゴは首を少し捻った後、軽く片手を掲げて。
「なら、この子の出番でしょー☆」
 ばさり、掲げた手の影から一匹の黒い小鳥を召喚し、ちょこんと指に止まらせた。
「影朧の痕跡、追跡できるかな?」
 まるまるとした黒い四十雀はつぶらな瞳をインディゴに向けると、自身満々と空へ飛び立った。
「――あんまり高くは飛ばないでねー」
 この視界の悪さではあるが、黒い小鳥は霧の中でも存外目立つようで。
 ぱたぱたと懸命に飛んで誘導していく姿を目で追いつつ、インディゴも少しずつ奥へと進んでゆく。

 小鳥とは五感の共有することも出来、得られた情報と第六感、意外と当たる野生の勘もフル活用しつつ、最適な道筋を一歩一歩確実に辿っていった。
 道中に咲く紫陽花小路の景色を楽しむ余裕もありつつ、和傘で小雨を弾きながら楽しげに進んでいった先に合ったのは――。
「ん? あれが目的地、かな~」
 木々の隙間に隠れるように建てられた小さなお堂が見えてくる。
 如何にもなその場所を目の前にインディゴはいったん木陰に立ち止まり、差していた傘を下ろした。
「……この和傘だけは安全な所に置いとかないと、ねー」
 借り物の傘の水飛沫を軽く落としたあと、するりと懐に現れた扉から保管庫へと仕舞っておく。
 ――さて、お堂の中からは何が出てくるのやら。
 両手をぷらりと空けたインディゴは、小さなお堂へと一歩足を踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「花燕さん、多分迷子になりますけれど一緒に行きます?」
「…紫陽花見てオヤツ食べて、それでも桜花が戻って来なかったら先に帰る」
「御免なさい、それじゃ今回はそうして下さい」
UCから御駄賃渡し別れて紫陽花路へ

「…腹が減っては戦は出来ぬと申しますもの」
視界不良になったら立ち止まりUCからオヤツ出してモグモグ

「必ず貴女に会いに行くと言う想いで他の方に負ける気はありませんもの。後は辿り着くまで歩き続けるだけです」
微笑

元のお堂迄の道筋は思い浮かべつつ右手法で全ての道を虱潰しにする
全部歩き尽くしてまだ駄目だったら戻ってのやり直しも視野に入れ只管歩く

「貴女に会って望みを聞く迄。立ち止まる気はありませんから」



「花燕さん、多分迷子になりますけれど一緒に行きます?」
 桜花は霧が立ち込める紫陽花小路を目の前に、隣に並び立つ花燕を見上げそう呟いた。
『……紫陽花見てオヤツ食べて、それでも桜花が戻って来なかったら先に帰る』
 おっとりとした面持ちながら、真顔でそう告げた花燕に桜花を下げて微笑んだ。
「そうですね。御免なさい、それじゃ今回はそうして下さい」
 これはお駄賃です。と服の袖口からお盆に乗せられた饅頭とお茶を取り出して花燕に手渡し、ちょうどよく設けられた長椅子で花燕がなごみ始めたのを見届けた後、桜花はひとり霧の紫陽花小路へと歩を進めていった。

 小路へと侵入すれば、霧は忽ち桜花の視界を遮った。
 気が付けば先ほどまであった後ろの道も霧の中に飲まれてしまっている。
(……これは、連れてこなくて正解でしたね)
 迷子になる確信をひしひしと感じつつ、桜花は右手法で全ての道を虱潰しに当たっていく覚悟を決めていた。
 迷宮といえど、出口へと辿り着く道は必ずあるはずだ。
 視界が白に覆われて少し気が滅入りそうになりつつも、生け垣に咲く紫陽花は変わらず色鮮やかで、その彩りに癒やされつつ一歩一歩、確実に進んでいった。

(必ず貴女に会いに行くと言う想いで他の方に負ける気はありませんもの。後は辿り着くまで歩き続けるだけです)
 ぐるぐると、先へ進んでは似たような十字路に戻りつつ、それでもめげずに前へと進み続けた。
 現実の時間ではどれほど歩いているのか判らないが、常に集中し続けているとおなかの虫も鳴るもので。
「……腹が減っては戦は出来ぬと申しますもの」
 疲労には甘いものが良いと聞く。
 時たま立ち止まり、休憩がてら懐から甘味を取り出してもぐもぐとお腹を満たす。

「――貴女に会って望みを聞く迄。立ち止まる気はありませんから」
 腹ごなしをしつつ、再び腰を上げると霧の中の紫陽花小路を進み続ける。
 暫くこの迷宮を歩き続け、その法則も徐々に解ってきた。きっと出口はあともう少し。

 ……そうして、枝分かれしていた道は急に一本へと収束する。
 その先にぽつりと佇む小さなお堂を発見すると、桜花はふぅと安堵の息を漏らしつつ、足早に迷宮の出口へと向かっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジゼル・サンドル
紫陽花迷路というのも風情はあるのだが、困ったな…せめて何かしら手がかりでもあると良いのだが。

『♪あなたを見守る光がそこにあること いつでも忘れないでいて…』
母の歌を歌い自身を【鼓舞】しつつ、【第六感】【幸運】を信じて進んでみよう。
注意深く途の変化を観察することも忘れずに、観察は探偵の基本だからな。途中でハンカチとか目印になるものを縛っておくのもいいかもしれない。
どうしても迷って先に進めない時だけUC『フレンドソング』使用。抵抗される可能性もあるから万能じゃないが、もしかしたら僅かでも霧が晴れたり、紫陽花が道を指し示してくれたりするかもしれない。

さて、この先でわたしが目にするのは誰の姿だろうな…



 れんげから得た情報を頼りに、ジゼルは寺の裏手に広がる墓地へと赴いた。
 雨音が静寂をさらに飲み込んで、彩る紫陽花が迎える光景は何処か清々しくも見えた。
 けれども一歩、小路へ踏み出せば周囲の様子は一変する。
 立ち所に霧が深くなり、辿ってきた道すらも確認出来なくなっていた。
 もう此処は既に、影朧の領域なのかもしれない。

(紫陽花迷路というのも風情はあるのだが、困ったな……せめて何かしら手がかりでもあると良いのだが)
 似たような紫陽花の生け垣、枝分かれした小路が幾重にも続く。
 闇雲に歩き回っては、体力を消耗するだけかもしれない。それこそ一生ここから出られなければ……などと、弱気になりそうな気持ちにふるふると首を横に振る。
(大丈夫、だいじょうぶ。今までだって同じような経験は何度もしてきたんだ)

『~♪あなたを見守る光がそこにあること いつでも忘れないでいて……』
 母譲りの唄声で、母の歌を唄う。自身を鼓舞するように高らかに音色を響かせて。

(まずこういう時は、注意深く観察することだな)
 迷宮といえど、無限に彷徨うような構造にはきっとなっていないだろう。
 ならばこの小路にも、何かしら変化や出口への糸口はあるはずだ。
 ジゼルは道中に並ぶ紫陽花の配色に目を配った。
 紫陽花の花は土壌の成分で色が変わると聞くけれど、それにしても此処には様々な色の紫陽花が咲いている。これにも何か規則性があるのだろうか。
 まずは目印に今居る場所の柵へハンカチを縛ってみる。そうして、次は紫色の紫陽花の咲く方角を曲がり、進んでみる。もし同じ場所に戻ってくれば、目印で直ぐに分かるだろう。

 そうして霧が濃くなる視界を慎重に進めば、曲がった先には先程と同じような光景が広がっていた。
(さっきの目印だ……戻ってきたということだな)
 次は青い紫陽花が咲く方角へ進んでみた。すると今度は先程とは違った位置関係の紫陽花が立ち並んでいた。もしかしたら、紫陽花の色で進む順番が決まっているのかもしれない。
 次は紫色、桃色、白色……。
 順番を間違えたら最初の目印がある場所へ戻される、どうやらそんな仕組みらしい。
 種が判れば後は慎重に記憶しつつ、順に進んでいくだけだ。

(青、紫、桃、白――)
 なにかメモを取るようなものがアレばよかっただろうか、と一瞬苦笑いもしつつ。
 頭の中で記憶した色を順々に辿ってゆく。
 そうして戻されては進み、何度目かの角を曲がった時、一直線に伸びる小路へと辿り着く。
「……もしかして、出口か?」
 わっ、と張り詰めた緊張が解けるように、ジゼルの顔がほころぶ。
 が、これでまだ終わりではない。道の先に見える小さなお堂、あそこに影朧が居るはずなのだ。

(さて、この先でわたしが目にするのは誰の姿だろうな……)
 ジゼルは僅かな不安に駆られつつも、澄んだ空気に包まれた紫陽花の小路を進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『君探しの朧姫』

POW   :    あなたの亡くした人を教えて
質問と共に【対象の心に眠る人間の幻影】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
SPD   :    もう飽きちゃった
自身が【興味を失くしたり無関心】を感じると、レベル×1体の【姫の分身】が召喚される。姫の分身は興味を失くしたり無関心を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ   :    あなたが逢いたかった人
無敵の【「相手がかつて喪った絆の深い誰か」】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。

イラスト:冴時

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠無間・わだちです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――むかしむかし、わたしには魂を頒かつ片割れが居たの。
 その喪った片割れを、対の存在を探し求めていた。
 けれど片割れは見つからない。
 長い永いあいだ、うつろい、彷徨い続けて。
 もう何を探したのかさえも、思い出せなくなっていったの。

 * * *

 猟兵たちが辿り着いたお堂の扉は小さく開かれていた。
 意を決して扉を開け放つと、暗く湿って、淀んだ空気が舞い込んでくる。

『れんげおねえちゃん……?』
 聴こえてきたのは、か細い声。
 お堂の中央に小さく座り込んだ少女が顔を上げて此方を見ると、一瞬驚いたような表情を見せ、すくりと立ち上がる。

『あなた達……誰? わたしのおねえちゃんは?』
 苛立ちを含ませた声色で、少女は一歩一歩こちらに近付いてくる。
 その姿は気付けば、ノイズ交じりに歪みはじめて。

『まあ、いいや。“おねえちゃん”にも飽きてきたところだし、今度はあなた達が遊び相手になってくれる?』
 ゆらりゆらり、うつろうその姿。
 ――さあ。わたしが誰に見える? それは、あなたがいちばん、欲しい人。

 * * *

●補足
『君探しの朧姫』
 れんげの妹、よひらに化けていた影朧。ボス戦です。
 あなたが亡くした(喪ったと思っている)人の姿に変化する能力を持ちます。
 思い当たらない方は、朧姫自身が相手となります(SPD判定を参考に)
 
 
 
インディゴ・クロワッサン
敵の姿)宿敵:アンリ

早着替えでサクッと|いつもの《通常JCの姿》に着替えたら
「さーて、今回の影朧は~…って…」
…だよねぇ…!何となく察しては居たけど、|上がってたテンションが急降下する《アンリの》姿に僕は一瞬でご機嫌ナナメになっちゃうぞ。
…と言うか、その姿はね、僕の本能的にヤバいんだって…
今もじわじわと発動しそうになってるUC:暴走覚醒・藍薔薇纏ウ吸血鬼 を気合いで抑え込んでるんだかr…って、あ…もうダメ…(UC発動

後はもう、質問なんてガン無視で大暴れ!
限界突破した怪力で動きを止めたら、素早ーく首筋に噛み付いて吸血/生命力吸収しちゃうぞー
恐怖感じちゃったらごめーんね☆



「さーて、今回の影朧は~……って。はは、だよねぇ……!」

 藍染めの髪に隠れた金の瞳が映し出す者――。
 嗚呼、やっぱりそうか。
 インディゴの好奇心に満ちた金色は、途端に鈍く細められる。
 影朧が変化したのは、嘗て自分に仕えていた執事の“アンリ”だった。
 喪った者と聞いて、何となくは察してはいたけれど――。
 けれど、実際にこうして目の辺りにすれば、自分の表情がみるみる歪む様が感じ取れる。
 上がっていたテンションが急降下する。
 同時に、別の欲望が沸々とわき出て来てしまうのも。

「……と言うか、その姿はね、僕の本能的にヤバいんだって……」
 必死に、何かを抑え込むように、インディゴは片手で顳かみを覆う。

『あなたの亡くした人のこと、教えて?』
 そんなことはお構いなしに、影朧は問うてくる。
 彼の声で、彼の姿で、彼の仕草で。
 分かっている、アレはニセモノだ。理性では分かっているんだよ、けれど。

「……嗚呼、もう、ダメ。 質問なんて、しらないよ……!」
 気合で抑え込んでいた欲望と感情、インディゴの身体に流れる半分の血脈。
 吸血鬼の本能が“アンリ”の姿を切っ掛けに暴走し、爆発した。
 瞬間、背には三対六翼の吸血鬼たる蝙蝠の翼が生え、纏めた藍染の髪は解けて宙を舞う。
 インディゴはギラリと金色の瞳を輝かせ、影朧に飛び掛かり馬乗りになった。

 “アンリ”の姿をした影朧は、腕をバタつかせ必死に抵抗する素振りを見せた。
 けれどインディゴにとってそんな抵抗はもう、どうでも良かった。
 今は只々、吸血鬼の本能の儘に体が動いてしまうのだから。
 細腕に似つかぬ怪力で、抵抗する『得物』の手足を固め、素早く首筋に噛み付く。
 記憶の片隅にある、あの時の味を思い出した気がした。
 気がした、けれど。
「――あれ?」
 肌に噛み付いた感触がしない。
 インディゴが不思議そうに口許を少し離した瞬間、影朧は慌てて拘束から抜け出した。
 その姿は既に“アンリ”ではなく、ピンク髪にゴシック調の服を着た子供のように見えた。
 影朧はインディゴが噛み付いた首筋を片手で抑えていてる。
 朧に霞む姿は実体が無いのだろうか、けれど一瞬でも満ちる感覚は確かに合った。
 相手の怯える様子を見れば、生命力の吸収と恐怖を与えるには十分だったようで。

「はは、恐怖感じちゃった? ごめーんね☆」
 藍薔薇を纏う吸血鬼は、恍惚とした表情で影朧へ微笑みかけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジゼル・サンドル
うつろう姿は、懐かしい子守歌を歌う母の姿をとって。
ああ…やっぱりな、紫陽花が好きだったお母さんのことを考えていたから…
以前にも同種の影朧が母の姿を見せたことがある、その時は幻と知りつつもつい抱きついてしまったものだが…
今だって心が動かないわけじゃない、でも。

あれから色々な経験をしてわたしはずいぶん強くなった、それにわたしには何があっても一緒にいてくれる親友がいる…わたしはもう、自分の足で歩いていけるんだ!

もうこんなことは終わりにしよう。
君に喪った誰かのふりを続けさせるわけにはいかないんだ。

想い響く詠唱に乗せて意志を歌いあげる。手加減はしない、わたしの想い、受けとめてくれるだろう?お母さんなら…



 ――影朧のうつろう姿。
 それを確りと瞳に留め、ジゼルは数度瞬きをした。
 ああ……やっぱりそうか。
(……お母さん)
 思い出の紫陽花に囲まれたこの場所で考えてしまうのは、母の姿だった。
 紫陽花が好きで、懐かしい子守唄を歌う。
 記憶の中そのままの優しい表情をしていた。
 思わず駆け寄りたくなる衝動を抑え、ジゼルは小さく首を横に振る。
(――今だって心が動かないわけじゃない、でも)
 嘗ても同種の影朧が母の姿を見せたことがあった、あの時は幻と知りつつも抱きついてしまったが。
 でもあれから色々な経験をして、強くなった。
 それは猟兵としての力量はもちろん、心の強さもそうだ。
 もう以前のように幻影に惑わされる自分ではない。
(それに、今は……)
 大切なヒトが居る。何があっても一緒にいてくれると誓った親友が。

「……だから、わたしはもう、自分の足であるいていけるんだ!」

 ジゼルは母を姿をとった影朧に言い放つ。
 首を傾げる仕草を見せた母親は、尚も一歩一歩静かにジゼルに近付いていった。
 けれどジゼルはそれに動じずに、逆に影朧へと問い掛けた。

「もうこんなことは、終わりにしよう……」
 影朧は虐げられた魂から生まれた存在。
 この影朧にも『過去』に何かしらあったに違いない。
 執拗に他者の真似をし、心を奪おうとする行為も『過去』の影響による行動なのだろうか。

「君にこれ以上、喪った誰かのふりを続けさせるわけにはいかないんだ」
 さらなる犠牲者を出さないため、そして影朧自身のためでもある。
「わたしの歌を、想いを、聴いてくれないか?」
 耳を傾けてくれないならば、歌で心に響かせるほか無いだろう。
 決して手加減はしない、それはたとえ母の姿をとっていたとしても。だって――。
「わたしの想い、受けとめてくれるだろう? お母さんなら……」

 ジゼルの高く澄んだ唄声が、周囲に響き渡っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
ふん、やっぱりあたしの前に出てくるのは|師匠《お婆さま》か。
でもその手のは、サムライエンパイアの戦争で経験済み。悪いけど、今更怖じ気づいたりはしないわよ。

寝覚めの悪い夢物語なんて、ぶち壊してあげる。
「全力魔法」「仙術」で|宝貝《ぱおぺい》『太極図』を起動。
あたしを含めた全員のユーベルコードの起動・維持を封じる、究極のアンチユーベルコードよ。あなたの化けの皮も剥いであげるわ。

影朧が本性に戻ったところで、薙刀で攻撃を仕掛ける。
大きく「なぎ払い」、「貫通攻撃」で「串刺し」に。彼女の反撃は、「オーラ防御」を張った上で「受け流し」。
ユーベルコヲドの使えない影朧なんて、こんなものよね。

疾く輪廻の輪に戻れ!



 ――ゆらり、うつろう影朧の姿は誰を映し出すか。
 ゆかりは紫目を僅かに伏せて、けれど臆することなく前を見据えた。

「……ふん、やっぱりあたしの前に出てくるのは、お婆さまか」

 眼の前に現れたのは一人の老婆。ゆかりにとっては師匠とも呼べる存在だった人。
 老婆は小柄ながら、見上げた眼光の鋭さはゆかりの記憶の中の師、そのままだった。
 その姿に懐かしく、惜しむ気持ちは確かに滲む。けれど。

「悪いけど……今更怖じ気づいたりはしないわよ」
 同じ手は先の戦争でも経験したことがあった。
 あの時は、相変わらず厳しい師匠だなんて思ったりもしたっけ。
 でも当時と比べれば、猟兵としても陰陽師としても、ゆかりは数多くの経験を積み成長してきた。
 もし本当に師匠と再び相見える事が出来たなら、今度はきっと堂々と胸を張っていられるだろう。
 けれど、今目の前に居る者には師匠の霊魂が宿っているわけではない。
 似た言動、仕草を取っていたとしても、所詮は自分の心の中から生み出された、まがい物なのだ。

 ゆかりは小さく息を吐き、師匠の姿を真似た影朧を見返した。
「――寝覚めの悪い夢物語なんて、ぶち壊してあげる」

 結んだ指で素早く印を描き、首に下げた宝貝『太極図』を起動する。
「万物の基は太極なり。両儀、四象、八卦より生じし森羅万象よ。その仮初の形を捨て、宿せし力を虚無と為し、悉皆太極へと還るべし! 疾!」
 瞬間、ゆかりの足元を中心に太極図の紋が浮かび上がった。
 放たれるのは涙なき終焉の冷気。
 自らを含めユーベルコードの起動・維持を封じる術。究極のアンチユーベルコードとも云うべきか。
「さあ、あなたの化けの皮も剥いであげるわ」

 影朧も元を正せばオブリビオンであり、その特殊能力の殆どはユーベルコードから成るものだ。
 ユーベルコードが使えなくなれば、生身の本体が相手となる。
 案の定、ゆかりの師匠へと姿を変えていた影朧は本性を現した。
 ピンク髪でゴシック調の服を着た、また年端もゆかない子供のようにも見るこの姿が、影朧の本来の姿なのだろう。
 ユーベルコードのチカラがなくなれば、後はその者が持つ能力で戦うことになる。
 ゆかりは影朧の本性が戻ったところを透かさず薙刀で斬り払った。
 大きく弧を描くように薙ぎ払い、相手が距離を取れば突き攻撃で追撃をかける。
 朧姫は自身の分身を呼び出そうとするも、上手く呼び出すことが出来ない。
 それもまた、ユーベルコードに頼ったチカラなのだ。
 もはやチカラを失った影朧は反撃する手段さえ持たなかった。

「ユーベルコヲドの使えない影朧なんて、こんなものよね」
 武を極めたゆかりの前では、赤子も同然のように。
 そうして薙刀は今一度大きく振り被られた。

「――疾く輪廻の輪に戻れ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「私、顔を知る死者が居りません」
「昔私を世話した方2人は、白装束に薄絹をつけ、顔を隠して声も出しませんでした。お会いしたい今上帝も声すら存じ上げません。業突婆の大家さんと花燕さんは存命です。会いたい死者も顔知る死者も居ないのです」

「会いたい方を忘れたと貴女は仰いましたけれど。貴女が忘れたのは御自分でしょう?貴女、自分の顔も名前すら思い出せないではないですか」

「仮託した記憶を弄んでも、貴女の望む記憶は戻りません。本当に貴女の片割れが居たのなら、其の方は骸の海でお待ちでしょう。疾く還ってこそ出会えるものと思います。けれど」
「他者の想いを弄び自分すら忘れた貴女では、仮令其の方に会えても無視して通り過ぎる事でしょう。会いたい想いが本物ならば、其の一念のみ抱いて骸の海へお還りなさい」
稲妻の速さで移動する桜吹雪に姿変え一瞬で接敵し全身に纏わり付く
通常攻撃無効で分身無視
分身を召喚する行為で本体見分け雷鳴電撃で敵が灰燼と化す迄焼き尽くす

「貴女が会いたい方に出会えたら、どうぞ仲良く転生を」
鎮魂歌歌い送る



「――私、顔を知る死者が居りません」
 其れはその言葉どおり。
 桜花には喪った者、会いたい者と聞き、思い当たる人物が浮かばない。
 この場に限っては幸いと呼べることなのかもしれないけれど。

「……昔。私を世話したお二方は、白装束に薄絹をつけ、顔を隠して声も出しませんでした」
 育てられた恩はあるのかもしれない。だが、其れだけだ。
 顔も声も知らぬなら、今更情もない。思い浮かばないのも当たり前だろうか。
 そういえば、お会いしたい思う今上帝も声すら識らないが――。
 そして今の自分の身近に居てくれるのは、業突婆の大家さんと花燕さんだろうか。
 けれどその二人も元気に存命している。

「ええ、だから私には。会いたい死者も、顔知る死者も居ないのです」
 影朧の姿がゆらりと変わる。
 れんげの妹、よひらの姿から一変する。
 桜花の眼の前に現れたのは、ゆるいウェーブのピンク髪にゴシック調の服を着た年端もゆかぬ少女だった。

「それが、貴女の本当の姿なのですね」
 影朧は大きく息を吐く、その表情はノイズ混じりにぼやけて伺い知ることは出来なかった。
『そっか、あなたには居ないんだ。誰も』
「ええ。でもそれは、貴女も同じでしょう?」
 桜花の言葉に、影朧は顔を上げる。表情こそ見えないが『どういう意味?』と云わんばかりだ。

「貴女も居ないのでしょう。……いいえ、忘れてしまったと云ったほうが正しいのでしょうか」
 彼女の顔がそれを物語っている。
 自分の顔も名前すらも思い出せないまま、喪った片割れを探し続けて。
 相手の心の内に浮かぶ者に変化し、その心を満たしていたのだろうか。
 本当の心は満たされないままに。

「本当に貴女の片割れが居たのなら、其の方は骸の海でお待ちでしょう。疾く還ってこそ出会えるものと思います。けれど」
 他者の想いを弄び自分すら忘れた影朧。
 このままではたとえ彼女の云う片割れに出逢えたとしても、思い起こせるのかどうか。
 いや、影朧……オブリビオンと成ってしまった彼女にはもう難しいのかもしれない。
 けれど一縷の望みを掛けることくらいは出来よう。

「会いたい想いが本物ならば、其の一念のみ抱いて骸の海へお還りなさい」
 桜花はしゃらりと桜鋼扇を広げて構えた。
 周囲に桜吹雪が舞う、そして桜を纏った桜花は稲妻の如き速さで瞬時に影朧へと接敵した。
 すかさず影朧も臨戦態勢を取り、翻弄するように自身の分身を生み出した。
 けれどその行動も一歩遅い。
 分身を召喚する行為を見逃さず、桜花は本体を見逃さず迫りゆく。
 そして雷鳴轟く電撃を浴びせ、影朧の躰を焼き尽くした。灰燼と化すまでに。

「骸の海へ還った先、貴女が会いたい方に出会えたら、どうぞ仲良く転生を――」
 その時の為に、今はただ静かに鎮魂歌を送ろう。

 * * *

 ――影朧は消え去った。
 妹を喪った姉はこれからどう生きていくのだろうか。
 それは彼女にしか判らない。
 けれど、生きていれば幾つもの選択肢が未来へと導く。
 ただ今は、幸いを願うばかりだ。

 湿った堂から出れば、外は雨が上がり、陽の光が燦めいていた。
 『――虹だ』
 そう、誰かが空に向かって指を差した。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年06月26日


挿絵イラスト