鮮魚を守れ!豊洲市場防衛戦!
●星と、ついでに飯を喰らう
何処とも知れぬ異空間。無音の中、四ツ腕を器用に畳んだ山羊のような異形——星座獣・アルゲーディアは跪く。龍を思わせる逞しい尾をしならせ、背後には配下である呪術師の兵団を従えていた。
やがて、荘厳な声が響く。
「星座獣アルゲーディアよ汝に我は命ずるケルベロスの強さはユーベルコードにあらず特務機関DIVIDEにもあらず全ては彼等を支えている民衆の支持によるものだ即ち地球人はひとつの群体と捉えるべきであるそう考えると彼等の最大の弱点即ち群体としての大動脈はインフラストラクチャである地球人は電力水力食糧等グラビティ・チェイン以外にも様々な資源を群体に循環させねば生存できぬ故に汝はこの動脈のひとつ『豊洲市場』を破壊せよこれは十二剣神たる我『聖賢者トリスメギストス』の命令である」
トリスメギストス——そう名乗った声は途絶え、再び重い沈黙が空間に広がる。アルゲーディアは深く頭を下げ、無言で命を承諾した。
「……いよいよだ」
立ち上がり、呟く。横長に潰れた瞳孔で空を仰ぐ。秘めたる思いを汲み取って、部下たちにも緊張が伝播していった。
液体が、アルゲーディアの顔から滴り落ちる。
よだれだった。
「全国から海産物をはじめとした特産品が集う日本最大級の大型市場それが豊洲その場にいながらにして津々浦々の名産を鮮度の高い状態で食し楽しむことのできるまさに日本食の|神の園《エデン》宇宙食通としての夢がこんな機会に叶うなんて……私はなんて幸せ者なんだあああああっ!」
誰に聞かれるでもなくベルセルク言語並の勢いで熱弁。予兆のない熱意の暴走に配下はすっかり硬直しているが、アルゲーディアは意にも介さない。ふんっと大きく息を吐いて、瞼の裏に美食の数々を思い浮かべる。
魚に貝に加工品、さらには野菜や果物、肉までもが各地から集まる市場だ。
周辺に軒を連ねる店々も名店揃い。寿司に鰻に天ぷらに、カレーや中華、ふぐやあんこうの専門店と店のジャンルも幅広い。
どんな店があるのかは宇宙グルメガイドブックで調査済み。あとは向かうだけ。
「待っていろ豊洲……! 私が五つ星をつけ、未来永劫の美食都市として繁栄させてやる!」
●グリモアベース
集合した猟兵たちの前にぽつんと置かれた、やたら精巧な模型。大きな立方体が何個か並び、その周りを家の模型が取り囲む。
「あー、それ|DIVIDE《ディバイド》から借りたんですよ。すごくいい出来ですよね!」
資料を抱え、木鳩・基(完成途上・f01075)は猟兵たちに声をかけた。
これが今回の事件発生予定地である豊洲市場。東京都江東区にある卸売市場であり、全国の特産品を首都圏全域に流通させる機能も持つ。いわば食品の心臓である。
こほん、と咳払いし、基は説明を始めた。
「ケルベロスディバイドから救援要請です。聖賢者トリスメギストスを命令を受けたデウスエクスが豊洲市場を破壊しに来ます。目的はインフラ施設破壊による決戦都市の戦力低下……なんですよね?」
長きに渡る戦争を経てデウスエクスの長が一人、聖賢者トリスメギストスは認識を改めた。人間はグラビティ・チェイン以外にも生命維持に資源を必要とする生物である、と。即ち、ライフラインとなるインフラ施設を破壊し、資源供給を滞らせれば長期的な弱体化に繋げられる。狡猾な作戦だが、理にかなっているとはいえよう。
そして今回、矛先を向けられたのが豊洲市場。ここが破壊されようものなら、首都圏への食品流通速度は大きく低下する。食品の流通速度低下は人々の生活に大きな打撃を与えると同時に、復旧に人員が裂かれることで首都周辺の決戦都市配備の機能も大きく弱体化するだろう。
緊迫した状況なのは間違いない。それでも基は、資料の文章を何度も睨んでいた。
「星座獣・アルゲーディア——豊洲市場破壊作戦の指揮官……なのはいいとして。『宇宙食通』って肩書は……何? なんか予知でも言ってた気がするな、『豊洲を未来永劫の美食都市にしてやる!』って」
顎を擦りつつ、資料を掲げて指揮官について基は話す。
四本の腕、さらに龍のような尾を持つ山羊に似たデウスエクス。宇宙食通を自称するグルメらしいが、その実力は申し分ない。
その能力は、食品からのグラビティ・チェイン吸収効率の最大化。地域の美食を口にすることで力を増幅させ、グラビティ・チェインの枯渇によってこちらの生命力を削いだり、高まった戦闘力で攻撃したりする。バトルも一級品の批評家だ。
その割に、作戦の実行にいろいろ私情が混ざっていると思えなくもないが……誰が相手でも迎え撃つしかない。
「ま、とにかくやるしかないですね。勝手に美食都市にされても困りますし……それはさておき、相手は軍で攻めてきます。破壊工作に特化してる分、純粋な戦闘には弱いみたいですね。きっちり倒して、最後にアルゲーディアをぶっ飛ばせば事件解決です」
アルゲーディアが率いるは、アイスエルフのシャーマン集団。氷で造られた車輪のような武器を使うという。おおよそ施設を氷結させる算段だったのだろうが、そうはいかない。
なぜなら、豊洲市場は頼もしき猟兵たちによって守られるからだ。
敵について一通り話し終え、基は市場の模型に視線を落とす。
「これからみなさんには、豊洲市場の周辺に潜伏してもらいます。私も調べましたけど、いろんなことができるみたいですよ?」
豊洲といえばまずは鮮魚。各地から届いたばかりの魚たちが取引され、市場にある店ではそれを新鮮な状態でいただける。刺身でそのまま、あるいは調理して。集った料理人たちの腕も良く、望んだものなら何でも食べられるだろう。
もちろん市場としての機能も見過ごせない。一般客は仲卸の現場には立ち入れないが、今回は特別に実際の取引の様子を現場で見ることができる。資金があるならセリにも参加でき、マグロだってまるごと買い取れるはずだ。さらには貴重な調味料や加工食品、包丁などの調理器具も充実していて、料理人にはうってつけのスポットでもある。
「グルメや買い物に興味がないなら、働いて現地の人と仲良くなってみてもいいですし……こんな機会、なかなかないですからね。せっかくなんで、堪能してきてください!」
グリモアが輝き、光は猟兵たちを活気に満ちた市場へと送った。
堀戸珈琲
どうも、堀戸珈琲です。
好きな寿司ネタは〆め鯖です。
●最終目標・シナリオ内容
『星座獣・アルゲーディア』を撃退し、豊洲市場を防衛する。
●シナリオ構成
第1章・日常『ショッピングに行こう!』
第2章・集団戦『アイスエルフシャーマン』
第3章・ボス戦『星座獣・アルゲーディア』
豊洲市場での進行となります。市場が盛況な時間帯は早朝なので、概ね早朝という時刻設定で進行します。
ケルベロスディバイドのシナリオであるため、このシナリオでは|決戦配備《ポジション》を指定することができます。
詳細はケルベロスディバイドの世界設定ページを参照してください。
●プレイング受付
第1章のみ断章はありません。
第2章以降は断章の追加後に送信をお願いします。
プレイング締切についてはマスターページやタグにて随時お知らせします。基本的には制限なく受け付けますが、状況によっては締切を設けます。
それでは、みなさまのプレイングをお待ちしております。
第1章 日常
『ショッピングに行こう!』
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POW : 財力に任せて買いまくる
SPD : たくさんの店を素早く見て回る
WIZ : ガイドブックや事前の知識を頼りに買い物をする
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
朱島・希咲
なるほど、何処の世界も大変だな
此処はUDCアースとは違って
敵が大っぴらに襲ってくるのか
それはそれとして、だ
仕事がてらとはいえ豊洲市場を楽しめるんだな?
…料理の参考になるに違いないな
よし、参戦するぞ
あちこち周りたいところだが、まずは食事だ
寮生活だとなかなか
刺身系統にはありつけないからな
刺身、好きなんだよ
おかずにしても丼物にしても美味いからな
注文するのはマグロの漬け丼
ご飯が隠れるくらいにたっぷりのマグロ
タレは白ゴマ入り、青紫蘇と山葵も添えて
汁物は海苔汁を頼もう
舌鼓を打つだけでなく
店の人にタレの作り方のコツを聞いてみようか
参考にして作ってみたい
さて、次は何処へ行こうか
仕事?忘れてない、忘れてないから
●おさしみ天国
遠くそびえる高層ビルの屋上には、空に砲身を向けた砲台が並ぶ。
いかなる瞬間も敵襲の危険がある。なるほど、と朱島・希咲(Checkered・f43502)は静かに頷いた。
「此処はUDCアースとは違って、敵が大っぴらに襲ってくるのか」
何処の世界も大変なものだ。知らずのうちに侵食されるか、恐怖とともに圧迫されるか。襲われないのが一番という結論を下し、今回の防衛対象を希咲は振り返る。
「世界は違うけど……雰囲気は同じだ」
直方体の連続を思わせる現代建築。そこに厳つい武装が足されていた。
仕事がてらとはいえ、豊洲市場を楽しめる。
そう考える希咲の口元には微笑が浮かんでいた。
「……料理の参考になるに違いないな」
鋭い目付きで楽しいことを想像する。ふらり、屋内に繋がる連絡通路に向かう。
ショッピングモールのような広々とした内部空間。一般客の姿も見え、賑わいは途絶えそうにない。
食材か、それとも道具か。あちこち周りたいところだが……と悩む希咲の瞳に、一軒の飲食店の立て看板が映った。
つやつやと光る赤身の写真。きゅう、と食欲をそそられる。
「まずはここにしよう」
暖簾をくぐり、入店したのは海鮮丼の専門店。
いらっしゃい、と低い声で迎えたカウンター越しの板前に、希咲は注文する。
「マグロの漬け丼と海苔汁、一つずつ」
席に座り、緑茶をすすって完成を待つ。
「刺身、好きなんだよな」
ついうっかり、心の声が口から漏れ出た。
寮生活ではなかなか刺身系統の料理にはありつけない。刺身は美味い。刺身をそのままおかずにしても、丼物にしても。久々に食べる赤身の味を思い浮かべ、またしても口元が綻ぶ。
ぼうっと湯呑の中を眺める希咲の前に、待望の丼が置かれた。
「おお……!」
ご飯が隠れるくらいたっぷりのマグロ。てらりと赤身の表面に輝くタレは白ゴマ入りで、身の下には青紫蘇が敷かれている。
添えられた山葵を付け、マグロと紫蘇ごとご飯を箸で持ち上げた。その塊を口に運び、噛み締める。炸裂する旨味に重なる薬味の爽やかな刺激。直接、身体に伝わる美味さだ。
「やはり美味い……!」
箸が止まらない。かき込んだ漬け丼を海苔汁で流し込む。磯の心地いい香りを堪能しつつも、希咲は気付く。
素材の良さもある。だが、この漬け丼の本質はタレ。
「あの。このタレ、どうやって作ってるんだ? 家でも作ってみたいんだが」
「悪いが、口外禁止でね」
老人の板前から返ってきた言葉に、希咲はしゅんと肩を落とした。
「……だが、お客さんには特別に教えてあげよう」
「本当か……!?」
「そんなに美味そうに食われちゃあな。いいかい、これは醤油とみりんと酒の比率、そして隠し味に——」
暖簾をくぐって店を出る。息を吐き、希咲は腹を撫でた。
美味い刺身を食べた。秘伝のタレも教わった。大満足だ。
「さて、次は何処へ行こうか」
足取り軽く、豊洲巡りは続く。
そういえば、仕事は?
「……忘れてない、忘れてないから」
誰かに痛いところを突かれた気分になりながら。
大成功
🔵🔵🔵
クローネ・マックローネ
NGなし、絡みOK、アドリブ歓迎
【WIZ判定】
強調したい時は「★」を、それ以外の時は「♪」を語尾につけるよ♪
初めて来たけど、いい場所だね~♪
敵が出てくるまではゆっくり過ごそうっと♪
デウスエクス退治と、ついでに買い物と食事をしよっか♪
UCは『クローネちゃんのできる子達★』★
召喚したサキュバスメイドちゃん達と市場の各所を巡りながら、セリに参加してみたり調理器具等を買ったり料理店で魚料理を食べたりして過ごすよ♪
【情報検索】を100レベルにして、事前に気になる店の位置を調べておいてもらうよ♪
【団体行動/料理/コミュ力/情報収集/情報検索/世界知識】技能を使うね♪
●団体様の豊洲見学
カランカラン、と競り人がベルを鳴らす。
「まずはこのカレイ、はい三十五番! 続いてイカ、はい……そこの十六番! それでは次にブリ——」
「はーい♪ クローネちゃん買うよ★」
「じゃあクローネちゃんで決まり!」
「やった♪」
競り人から手で示され、クローネ・マックローネ(快楽至上主義な死霊術士・f05148)は笑顔で手を下ろす。周りの仲卸人に教えてもらったハンドサインで参加したセリは見事に成功。発泡スチロール容器の蓋を開けると、たくさんの氷に埋もれたブリが数匹、顔を覗かせた。
「おさかなゲット♪ みんなもゲットできたかな♪」
振り向くと、クローネのいる場所を目指してメイド服を纏った人物らが近づいてくる。漆黒の肌をしたサキュバスメイドたちの手には、クローネと同じ箱があった。分散していた9体もそれぞれ、セリを制して魚を手に入れられたらしい。
容器を床に並べ、手にした戦果を眺める。それから、クローネは豊洲市場について書かれた冊子を取り出した。
「このおさかなは送ってもらうとして……気になるお店にどんどん行っちゃおう♪」
ペラペラ冊子を捲って歩き出す。そんなクローネの後ろを、サキュバスメイドたちがぞろぞろついていった。
セリの現場を去り、クローネたちは業者が店舗を構える棟に移動。
いつも通り、サキュバスメイドはできる子たち。頼んでいた面白そうな店の情報は冊子の中にきっちり書き込まれていた。
「やっぱり、とっても頼りになるね♪ 迷子になる心配もなし♪」
迷いなく進み、クローネは辺りを見回した。両脇には店が並び、個性豊かな商品の数々がうかがえる。市場から景色は一変したが、それでも賑やかだ。
「初めて来たけど、いい場所だね~♪ 敵が出てくるまではゆっくり過ごそうっと♪」
鼻歌混じりに気楽に歩く。
ふと、ある店に目が留まった。店に置かれた棚には大量の刃物が並ぶ。異様な雰囲気に冊子で情報を確認。
「ふんふん……包丁の専門店なんだ♪ どんなのがあるんだろ♪」
棚を覗き込む。細長い刺身包丁、刃が四角形の菜切包丁。用途によって包丁にもいろいろあるらしい。
数ある包丁の中、クローネの興味を引いたのは——。
「出刃包丁……名前は聞いたことあるけど、本当はおさかなを捌くのとかに使うんだ♪ あると綺麗に卸せるのかな♪」
顎に手を添え、そして頷く。
「うん、買っちゃおう★」
何せ、ここは鮮魚の聖地。仕入れた包丁は料理を美味しくするのにきっと役立つ。
店を回って、荷物はメイドに持ってもらって。
「結構歩いたから、ちょっと休憩♪」
初めての豊洲を満喫し、クローネは飲食店で一息つく。率いるサキュバスメイドたちも荷物を置き、同じテーブルに座っていた。すっかり団体御一行様だ。
続々と、魚料理が運ばれてくる。刺身、焼き魚、フライ。いただきますをして、メイドたちと一緒に料理を食べ始める。
「わぁっ♪ どれも美味しい♪」
ぱくぱく。美食に舌鼓を打って、呟いた。
「……こんなに素敵な場所なんだから、守らないとね★」
楽しく時間を過ごしながら、クローネは敵を待ち構える。
大成功
🔵🔵🔵
ネフラ・ノーヴァ
◎
【標石】
食は生命の源。襲撃されるのは厄介だ、ここを譲るわけにはいかない。
だがまずは腹ごしらえといこうか。
食についてはビスマス殿に聞きつつ市場を見て回る。
クリスタリアンの身ゆえか固いものに目が行く。イセエビとかタラバガニも料理に加えてもらおう。
牙印の強靭な顎なら殻ごと食べられるだろう等と言って荷物を任せる。
調理場もあるとは至れり尽くせり。料理はビスマス殿にお任せだが、食材を切るのはできる。血抜きは得意だ。
出来上がった料理を味わう。なるほど美味な海鮮は宝石と評されるのも頷ける。
緑の調味料は何かと問うたり。エキゾチックな魅力だね。
食事で心身の充足を得られれば準備万端、さあ来客をもてなすとしようか。
ビスマス・テルマール
◎
【標石】
美食都市と言う響きは良いですが、その為にここを襲撃は頂けないですが
豊洲市場をネフラさんと牙印さんと回り『グルメ知識&情報収集』
魚がし横丁が良さげ?
鮪も鮭も穴子も良い鮮度
二人共、何か良さげなのは
伊勢海老やタラバ蟹
鯛やカサゴ
お目が高いですね
鮮度良い海産物を色々買い
何処か調理場借り
ネフラさんと一緒に下拵え
捌きや血抜きも手伝って貰い
『早業』UCで高速『料理&パフォーマンス』
刺身になめろう
海鮮丼
焼き穴子等海産物を使った
料理を色々
新鮮な海産物の料理は
美味ですね
ネフラさん、牙印さん
如何で……この緑のはですか?
抹茶味噌も作ったんですが
海産物とかに結構合い
美味ですよ(サーモンの抹茶味噌なめろうを食べ)
黒田・牙印
【標石】
天下の台所たる市場を襲撃しようとはふてえ輩だ。
きっちりととっちめて出禁にしてやろうじゃないか。
さて、潜伏のためでもあるし、そう潜伏に有利になるのだから(大事なことなので二回)まずは豊洲市場を見て回って目利きのまねごとと行こうじゃ無いか。
さて、今日はどんな感じなのかね? とネフラ、ビスマスと共に魚介類を見て回る。
目利きはほぼほぼワニの本能で行い、鮪の赤身以外にも鯛やカサゴなどの白身魚や青魚も選別。
そして調理はネフラとビスマスに任せた! 俺は荷物持ちと実食を頑張るぜ!
さあ、腹ごしらえも完了だ。不逞の輩を待ち構えるとしようか。
●産地直送、フルコース
水産仲卸売場棟一階、仲卸売場。
黒のタイルで覆われた細い通路の両脇を、仲卸業者の店舗が固める。店頭に並ぶのは種類も様々な海産物の数々。卸売現場から運ばれたばかりの品を巡る、業者と買い出し人の交渉があちこちから聞こえてくる。
「鮮魚は魚がし横丁ではなくこちらなんですね……!」
どこを見ても魚が視界に入る。その光景に目を輝かせ、ビスマス・テルマール
(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)は息を漏らす。
どしどしと売場を突き進むビスマスに、後ろでネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)が微笑みを零した。
「ここまで大規模に取引が行われているとはな。ビスマス殿が喜ぶのも頷ける」
籠に寝かされた魚がぱんっと跳ねる。まさに食は生命であり、今を生きる生命の源でもある。それが集うこの場所が潰されればどうなるかは想像に容易い。
「襲撃されるのは厄介だ、ここを譲るわけにはいかない」
「まったくだな。天下の台所たる市場を襲撃しようとはふてえ輩だ」
ネフラの言葉に同意するのは黒田・牙印(黒ワニ・f31321)。狭い通りは筋骨隆々なワニの巨体にはやや窮屈ではあったが、煩わしさは一貫して敵へと向いていた。
「きっちりととっちめて出禁にしてやろうじゃないか」
「それはわたしも同じ気持ちです。美食都市という言葉の響きは良いですが、そのためにここを襲撃するのはいただけません。でも、まずは——」
言葉の途中で、ビスマスが立ち止まる。目を釘付けにしたそれを店前の台からひょいと持ち上げると、ネフラと牙印に向けて掲げた。
「この市場の味覚を楽しみましょうか」
新鮮なアジに心躍らせるビスマスに、二人も笑いを吹き零した。
「そうだな。まずは腹ごしらえといこうか」
「あぁ。潜伏のためにも——そう、潜伏の面で有利になるからこそ、いろいろ見て回ろうじゃないか」
「……何故二回言ったんだ?」
「大事なことだからな」
ネフラと牙印のやり取りの間にも、ビスマスは魚を吟味。その様子を見下ろして、牙印が彼女に尋ねる。
「それで、今日はどんな感じなのかね?」
「マグロに鮭に、なかなか良いのが入ってますね。ほら、これなんか」
透き通った指先で、塊のような赤身を指す。
「赤やオレンジが鮮やかで、とても綺麗です。発色の良さは鮮度の良い証拠。そこからマグロは筋の細いもの、鮭は白い線の太いものを選びます」
「なるほど。さすがはビスマス殿」
「それほどでも……あっ、この穴子も活きが良いですね。すみません、選んだもの全部お願いします!」
業者に声をかければ、氷入りの発泡スチロール箱が何段か積み重なる。感嘆するビスマスだったが、すぐに眉をひそめた。
「どうやって運びましょう……?」
「この程度なら俺が持つ——ほいっと!」
牙印が軽々、箱をまとめて持ち上げる。誇らしげな顔をする牙印の傍らで、業者がぽかんと口を開けて固まった。
「さぁ、どんどん買おうぜ。目利きのまねごとといこう」
「こうした機会もなかなかないからな。鮮度の判定はビスマス殿、頼んだ」
「はい!」
かくして一行は再出発。通りをまっすぐ歩いたり曲がったりして、気になる魚介類を買い付けていく。箱が積み上がるさまはさながらウィンドウショッピング。買っているのが魚というだけで。
「普通の売り場では見ない魚も平然と売られているな……おや、これは」
ネフラの視線の先で、伊勢エビが触角を動かす。ノックするように殻を叩くと、確かな硬度が手に伝わった。
隣にはタラバガニも並ぶ。木のザルに載った甲殻類たちは、想像よりも赤黒い色をしている。こちらもその背を指で押して、硬さに不思議と親しみを覚えた。
「クリスタリアンの身ゆえか、硬いものに目が行くな。ビスマス殿、調理できるか?」
「もちろんです」
「それなら良かった。それじゃあ牙印、これも頼むよ」
「応よ」
「キミの強靭な顎なら殻ごと食べられるだろう?」
「できても食わねぇよ! ……いや、やったことあるような気もしてきたな」
「あはは……牙印さんも何か選んでみてはどうですか?」
「俺か? そうだな——」
ギョロリと目を動かして、陳列された魚を眺める。鼻に流れてくる血の臭いも情報の一つとして扱う。やがて、大きく目を見開いた。
「そこの鯛とカサゴ、たぶん当たりの品だ」
「見てみましょうか……あっ、本当ですね!」
「どうやったんだ?」
「ふん……ざっとワニの本能ってところだな」
箱がさらに積み上がる。
「伊勢エビにタラバガニ、鯛にカサゴ……二人とも、お目が高いですね。これならいろんな料理が作れそうです」
その箱を上から数え、ビスマスは唇を結んで笑うのだった。
銀色に輝く調理台。その横には高火力のコンロと広いシンクが隣接している。厨房の一角には発泡スチロールの容器が列を成すように置かれていた。
休業中の飲食店から調理場を借りる許可が得られた。
ぎゅっと拳を握り、ビスマスは厨房に立つ。
「それでは、調理していきましょう」
「調理場もあるとは至れり尽くせりだな……ん、牙印はどうしたんだ?」
隣に立つネフラが辺りを見渡す。少しして、カウンターの向こう——客の座るテーブルから牙印の声がした。
「ビスマス、ネフラ、調理は任せた! 俺は実食を頑張るぜ!」
「……承知した。私も本格的なことはできないからな。下処理を担当しよう」
「では、始めちゃいますね」
ビスマスが料理人としてのスイッチを入れる。
まな板に載ったマグロの塊を瞬く間に解体。迷いなく包丁を入れ、断面を荒らすことなく滑らかに切った。まるで演舞のような手つきで、刺身として皿に並べていく。
鮭の一部は切り身にしてから、さらに叩く。細かく刻んで小鉢に盛ればなめろうの完成だ。
「良い腕だ。遅れを取らないようにしよう」
ここぞとばかりにネフラも魚を捌く。剣士としての感覚からか、こちらも背骨に沿って美しく身を下ろす。エビやカニも殻を割らずに切断。穴子は開き、骨を丁寧に取った。
白身魚や青魚は頭を針で刺し、立て続けに尾を切る。切られた尾から、自然に血が流れ出た。
「何、血抜きは得意だ」
「ありがとうございます」
「頑張れよ~、二人とも~」
牙印の声が響く中、二人は目にも止まらぬ速度で調理を進める。
穴子の身は串を打ち、専用の機器で焼く。カサゴは鱗を取ってその姿のまま煮込みに。残った部位で取った出汁にかにみそを溶いて、特製の鍋へ。
「できました」
コンロの火を止め、ビスマスは作業の完了を告げる。
テーブルに並ぶ数々の料理。
ぱちぱちと瞬きをして、牙印はそれに見とれていた。
「こんな数の品が……あの時間で作ったとは思えないな」
「ビスマス殿の技術の賜物だね」
「それほどでも……早速、いただきましょう。熱いのがおいしい料理もあるので」
手を合わせ、それぞれが思い思いの品に手をつける。
ふっくらした米と切り身の旨味が混ざり合う海鮮丼。弾力ある身とタレの甘みに頬が落ちそうになる焼き穴子。素材を余すことなく使ったあら汁も、含めば濃厚な味わいが口いっぱいに広がった。
「新鮮な海産物の料理……とても美味ですね」
「なるほど、美味な海鮮は宝石と評されるのも頷ける。見た目も味も、鮮やかな輝きを持っているものだね」
「確かにこりゃ格別だな! 自分で選んだってのがまた効いてくる!」
海鮮に舌鼓を打つ二人を眺め、ビスマスはにこにこと微笑む。
視線に気付いたネフラが見返す。ふと、彼女の持つ小鉢に興味を引かれた。
「ビスマス殿、そのなめろうにかかっている……緑の調味料は?」
「そういえば見たことない色合いだな。なんだそりゃ?」
「この緑のは、ですか?」
二人に尋ねられ、ビスマスはテーブルの端から別の小鉢を取った。木のへらで掬い上げると、とろり艶やかにそれは流れる。
「抹茶味噌です。抹茶と味噌を混ぜて作りました」
「聞いたことのない組み合わせだ。エキゾチックな魅力だね」
「海産物とかに結構合って、美味ですよ?」
「本当か? 俺にも分けてくれ!」
「大丈夫です。たくさんありますから」
自身もサーモンの抹茶味噌なめろうを味わい、ビスマスは頬を綻ばせる。
その後も三人は海鮮料理を食べ進める。作りすぎとも思えたが、宣言の通り牙印が大量に消費していった。
ある程度食べたところで、牙印は呟く。
「しかし……こんな美味いもんを生み出す場所を潰そうたぁ、敵がなおさら許せなくなってきたぜ」
「本当だね。この食事で心身の充足を得られたら、存分に来客をもてなすとしよう」
一瞬、ネフラの目付きが鋭くなる。料理を味わいながら、ビスマスも首を縦に振った。
「腹ごなしを済ませたら、不逞の輩を待ち構えるとしようか」
牙印の言葉に、全員の士気が高まっていく。
満ち満ちた活力を解き放つ準備は万端。敵はいつだって迎え撃てる。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
高崎・カント
「もきゅ! きゅぴぴぴぴ! もきゅーい!」
おいしそうな食べ物がいっぱいなのです!
ど、どれから食べようか迷っちゃうのですー!
もっ!? お仕事も忘れていないのです
これは怪しまれないよう潜伏する作戦なのです
豊洲市場はおいしいものの集まるところ
破壊するなんて、許されないのです!
セリも楽しそうなのですが、カントの予知が囁くのです
どんなにおいしい食材でも、ゆーいっちゃんは焦がすのです……と
ここで食べて帰るのです
もきゅ! お寿司もいいけど、ここは海鮮丼なのです
海鮮丼特盛り一丁なのです!
お刺身がキラキラでピカピカで……
おいしいのです! 嬉しいのですー!!
あまりの幸せに、もきゅぴっぴと身体が踊り出しちゃうのです
●おいしいもの大集合
マグロ、ブリ、サーモン。さらにはエビやカニ、ウニのような高級品まで。
「もきゅ! きゅぴぴぴぴ! もきゅーい!」
各地から運ばれてきた特産品に目を輝かせ、高崎・カント(夢見るモーラット・f42195)は卸売の現場を跳ね回る。
どれも鮮度はピカイチ。想像すればそれだけで、まだ存在しない旨味が大爆発。
「きゅもっきゅん! もっ、もきゅきゅっぴー!」
——おいしそうな食べ物がいっぱいなのです! ど、どれから食べようか迷っちゃうのですー!
発泡スチロール箱に寝かされた魚を覗き込み、水槽に沈んだ貝を眺める。おさかなでいっぱいの天国があるとするならここだろう。じゅるり、よだれが垂れる。
「もっ!?」
はっと一瞬、我に返る。自分はお仕事の最中だ。
……でも、思い出したなら忘れてないにカウントしていいのでは?
「きゅい……もきゅっもきゅきゅう!」
——これは怪しまれないよう潜伏する作戦なのです!
それに、ここを守りたい気持ちは本物だ。なぜなら豊洲市場はおいしいものが集まるところ。
「きゅぴぴ……もぎゅん!」
——破壊するなんて、許されないのです!
ぎゅっと小さな手を握り込む。
そんなカントの耳に、業者たちが行うセリの声が届いた。
耳をぴこり立て、やり取りを聞く。賑やかで楽しそう。
白い身体がそっちに向かいかけたところで、最近覚醒した予知の力がカントに囁く。
——ホワンホワンモキュモキュ~!
『このおさかな……カント君が買ってきたの!? おいしそうだね~!』
『もっきゅん!』
『じゃあ……とりあえず焼くね!』
『もきゅううううう!?』
『火力は最大! |起動《イグニッション》!』
『きゅっぴいいいい!?』
「もっ、もきゅう……!」
今の一瞬で恐ろしいものを見た。
どんなにおいしい食材を買っても、ゆーいっちゃんの手にかかればすべて炭になる。
「もっきゅ……もきゅう」
食材たちを惜しみながらも、カントは卸売の現場を去った。
そんなこんなでやってきたのは、市場の中にあるお店。
カウンター席に座り、注文した料理の到着を待つ。
「……もきゅ!」
どんっとカントの前に運ばれたのは——海鮮丼特盛り一丁!
「もきゅきゅーん!」
数々のお刺身が、大盛りのご飯の上に載っている。マグロ、ブリ、サーモン。剥かれたエビ、カニ、ウニ。そして極めつけは、真ん中に盛られたイクラの山。
豊洲のおいしいもの、大集合。
「きゅっぴー……!」
キラキラでピカピカの具材に惚れ惚れし、勢いに任せてお箸でかっこむ。
「もっきゅい! きゅぴぴきゅーん!!」
——おいしいのです! 嬉しいのですー!!
思い浮かべていた以上の旨味が口いっぱいに広がる。ぐわわっと元気が広がっていくように、噛めば噛むほどおいしさが膨らんでいく。
「もきゅぴっぴ♪ きゅぴぴもきゅん♪」
あまりの幸せに、カントの身体が勝手に動く。ぴょーんと椅子から飛び降りて、満ちる元気を振り撒くように踊り出す。
くるくる、きゅぴきゅぴ、ふわんふわん。
尻尾を振り、ぴょこぴょこ跳ねてぐーんと跳んだ!
「もきゅぴぴぴぃ!」
おいしいと幸せがいっぱい。
そんな素敵な場所を守るため、カントは胸に決意を秘める。
大成功
🔵🔵🔵
カーバンクル・スカルン
◎・WIZ
破壊というか……占拠だよねやろうとしてること。まあ、そこが止まれば東京どころか東日本一帯の鮮魚を扱う食べ物屋に大打撃だから、結局周辺の食文化の破壊になるか。
特別に見れるセリは絶対に行くとして、その前に腹ごしらえといきましょう。お魚もいいけど、ここはあえて普段ここで働いている方達がお仕事前に入るお店でオススメの「インドカレーとハヤシライスの合がけ」をいただくとしましょう。シーフードカレーも気になるけど単体売りのみだから今回は泣く泣くパス。
へぇ、ここテイクアウトもやってるんだ。……うわ、すごい量。何人分なんだろあれ。
●ここにも働く人がいる
シートの上に並べられていく大量のマグロ。積み上げられる発泡スチロール箱の数々。
卸売場のちょうど真上に位置する見学通路の窓からは、セリへの高まる熱気を覗くことができた。
「はぁ……上からでも、迫力があるなぁ」
ガラスに手をつけて、カーバンクル・スカルン(クリスタリアンの懲罰騎士・f12355)は嘆息する。これを独り占めしたくなる気持ちもわからなくはない。
「その場合、破壊というか……占拠だよね、やろうとしてること。まぁ、ここが止まれば東京どころか東日本一帯の鮮魚を扱う食べ物屋に大打撃だから、結局周辺の食文化の破壊になるか」
食の停滞なんて宇宙食通の名に恥じるのでは? と言いかけ、カーバンクルは口を噤んだ。
何にしても、まだ時間はある。セリの開始にも、敵の来襲にも。
「今日あそこ入れるんだよね。だからセリには絶対に行く! ……その前に、腹ごしらえといきましょう」
ガイドブックを片手に、カーバンクルは飲食店のある方向へと歩き出す。
やってきたのはインドカレー屋の前。店内にあるカウンター席は作業着を着た人々で埋まりかけている。
「お魚もいいけど、ここはあえて、ね。『普段ここで働いている人たちがお仕事前に入るお店』……紹介文に嘘はないみたい」
ガイドブックの一文を読み上げてから、カーバンクルはカレー屋に入店。常連客に混ざって席に座り、メニューを手に取る。
「どれどれ……あっ、これがオススメの『合がけ』か。インドカレーとハヤシライスの合いがけがオススメなんだっけ。じゃあこれに——」
即決しかけたところでカーバンクル、気付く。
「なっ……『シーフードカレー』!? ズワイガニ、エビ、ホタテなどなど使用の贅沢な一品!? 豊洲で食べるシーフードなんて、絶対おいしいに決まってる……!」
伏兵出現。どんなに大食いでも胃には許容量がある。思い悩んで、下した決断は——。
「……インドカレーとハヤシライスの合いがけ、一つ」
二種類という魔力には勝てない。断腸の思いで海鮮を諦め、手を上げた。最初から「あえて」でカレーを選んだんだから今更よ、と自分に言い聞かせる。
少しして、皿が置かれた。
「ほんとにぱっくり色が違う……」
左にカレー、右にハヤシ。ご飯が壁のような隔たりとなり、そこにキャベツも添えられていた。
スプーンを手に、まずはカレーを口に運ぶ。目が覚めるようなスパイスの風味が口内を刺激する。
それを舌に残したまま、次はハヤシへ。濃厚な味の奥から、爽やかな酸味が追いかけてくる。
交互に食べ進め、ときには混ぜて。皿の中身はどんどん減っていく。
「スプーンが止まらない……相乗効果ってやつかな」
いくらでも食べられそう。ぱくぱくいただいているうちに、カウンターに動きがあった。
「へぇ、ここテイクアウトもやってるんだ。……うわ、すごい量。何人分なんだろ、あれ」
ビニール袋にいくつものカレー弁当が詰め込まれる。
おそらく、昼食として提供されるのだろう。それだけ働く人間がいる。
「私も、これ食べたら頑張りますか。シーフード、早く再チャレンジしたいし」
最後のひとすくいを口に収め、手を合わせる。
セリの現場へ急ぎつつ、カーバンクルは守る人々の存在を頭に思い浮かべるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
新井山・直次郎
◎
豊洲か…来るのは初めてだ
今まで特に縁もなかったからな
せっかくだし、少し見てまわるか
バイクは近くの駐車場に停めておく
鮮魚もいいが、キャンプで使えそうな食材や調理器具、調味料を探してみよう
簡単にスマホで【情報収集】、【料理】の経験で探す物を大まかに定めておく
例えば、ほたての貝柱を干した物とか
そのまま酒の肴にしてもいいが、米と一緒に炊けば炊き込みご飯にもなる
商品を薦められたらその話も聞いておきたい
そうだな…俺でも捌けそうな魚は何かあるか?
よくひとりでキャンプなどをするんだが、基本は鳥豚牛でレパートリーに乏しくてな…
捌き方のコツも聞けるとありがたいな
滅多にない機会だ、しっかり話を聞いてまわろう
●海の幸も山で食べたい
飾り気のないスマートフォンを片手に、新井山・直次郎(|髑髏面《スカルフェイス》・f40823)は小綺麗な施設の中を歩く。愛車のタンデムバイク、キタカゼ号は近くの駐車場に停めてきた。
「豊洲か……来るのは初めてだ」
今まで特に縁もなかった。せっかくだし、少し見て回ろう。思い立ってスマホで簡単に検索をかけ、探すものは既に決めてある。
画面に映った写真と同じ乾物屋の看板が、直次郎の視界にも現れた。
「鮮魚もいいが、キャンプで使えそうなものが欲しいからな」
乾物屋に入り、カゴを持って棚の商品を眺める。
例えば、と最初に思いついたのはホタテの貝柱を干したもの。そのまま酒の肴にしてもいいし、米と一緒に炊けば炊き込みご飯の具にもなる。
探していると、袋に綴じられた干し貝柱が見つかった。
「何かお探しですか?」
笑顔で声をかけてきた店員に振り向き、「ちょうどいいな」と無表情で直次郎は尋ねる。
「あぁ。魚介で保存のきく食材を探しているんだが、何かないか?」
「でしたら、干物などはいかがでしょう?」
そう言って店員が持ってきたのは、密閉パックに入ったサバの開き。あまり馴染みのない食材の登場に、直次郎は何度かぱちぱち瞬きした。
「渋いな……とお思いでしょう。しかし、意外と何にでも使えるんです。野菜と煮ればアクアパッツァに!」
「つまり、鮮魚の代用品になるわけか。魚は魚だから」
「その通り!」
何故か得意そうにする店員に圧されながらも、干物を手に取る。ホッケ、メバル、サンマ。種類も多様で運搬も容易だ。願ってもない品かもしれない。
貝柱とともに干物もいくつかカゴに入れる。ここでの収穫はこれで、とレジに向かおうとした。
「あの、お客さま。料理される方ですよね」
「そうだが……今度は何だ」
「でも魚は不得手、みたいな事情があったりしません?」
なかなか鋭い。この際だ、しっかり相談しようとため息をついた。
「そんなところだ。よくひとりでキャンプなどをするんだが、基本は鳥豚牛。魚はどう運べばいいか掴めてなくてな。だが、レパートリーに乏しいし、処理できるようになりたいんだが……俺でも捌けそうな魚は何かあるか?」
「でしたら!」
店員が走っていって、ナイフとまな板と魚を持って戻ってくる。「市場で夕食用に買ったアジです!」と説明が飛んできた。
「捌く練習にはこのアジくらいの大きさの魚がオススメですね。部位がわかりやすく、身崩れしません」
「そうか。ちなみに、捌き方にコツはあるのか?」
「捌き方は、こうですね!」
ズッ。アジに刃が入る。エラが外され、腹が開かれて内臓が抜き取られた。
「……誰も捌けとは言ってないだろ」
「でもこの方がわかりやすいじゃないですか! これはどうにかします!」
向こう見ずな店員に呆れながらも、その善意は受け取る。実演のおかげで少しは掴めそうだ。
「しかし、その調子で捌けば問題なさそうだな」
「なんなら、この状態からでも食べられますよ。鱗とエラと内臓を取れば串焼きにできますからね。キャンプならその方がいいかと!」
「確かにな。釣った魚も同じ方法で処理できそうだ」
礼を言い、乾物の代金を払って直次郎は店を去ろうとする。
だが再び、足がぴたりと止まった。
「なぁ……そのナイフ、まさか魚特化か?」
「はい。これは市場の専門店で入手した、魚処理用のペティナイフで——」
滅多にない機会だ、しっかり話を聞いて回ろう。
三度始まった長話に、直次郎は付き合うことにした。
大成功
🔵🔵🔵
天羽々斬・布都乃
◎
『豊洲市場じゃと!
布都乃よ、海鮮稲荷寿司を食いにいくぞ!』
「また、いなりの食い意地が出ましたね……」
式神の子狐いなりの言葉に嘆息しつつ、豊洲市場に向かいましょう。
デウスエクスの企みで人々の生活を苦しくさせるわけにはいきません。
お魚が値上がりすると生活が大変なのはUDCアースに住む私も実感していますし!
『さあ、布都乃よ、海鮮稲荷寿司のために、決戦配備を要請するのじゃ!
キャスターにより海鮮稲荷大食い大会を開くのじゃ!
もちろん、妾が優勝してみせるぞ!』
「えー、DIVIDEの人、そんな要請受けてくれるでしょうか……」
ダメ元で、一応DIVIDEに要請してみますね。
『布都乃よ、数日分は食いだめするぞ!』
●突発ッ! 海鮮稲荷大食い大会ッ!
『来たぞ! 豊洲市場!』
豊洲市場の屋上に敷かれた芝生。屋上緑化広場で、子狐の式神・いなりが叫ぶ。
主である天羽々斬・布都乃(未来視の力を持つ陰陽師・f40613)は、それをジト目で見つめていた。
『……いよいよじゃ、布都乃——海鮮稲荷寿司が、妾を待っておる!』
「また、いなりの食い意地が出ましたね……この展開、前も見た気が……」
はぁ、とため息をつく。半ば引っ張られるように連れて来られたが、逆にいえば半分は自分の意思ではある。
デウスエクスの企みで人々の生活を苦しくさせるわけにはいかない。もし流通が止まったら、魚はただそれだけで高級品になってしまうだろう。
「お魚が値上がりすると生活が大変になりますからね。それはUDCアースに住む私も実感していますし!」
『うむ! 目的は同じじゃな!』
「話聞いてました? っていうか、稲荷寿司が目的ならお寿司屋さんに行けばいいじゃないですか。なんで屋上に……」
『いい質問じゃ!』
ニヤリと笑い、いなりが再び大声を発する。
『|決戦配備《ポジション》:キャスター! 舞台を設営し、海鮮稲荷大食い大会を開くのじゃ!』
「は……はあああああっ!?」
『ほれ布都乃、お主も頼まんか!』
「ダメですよそんなの! 職権乱用じゃないですか! DIVIDEの人、そんな要請受けてくれませんよ!」
受けてくれました。
「受けてくれるんだ……!?」
広場には、瞬く間に大きなステージが建設された。盛況なイベントを装ってデウスエクスを欺くという名目で、DIVIDEも要請を承認したらしい。
「っていうか——」
それ以上に、もっと大事なツッコミポイントが一つ。
「なんで私も参加してるんですか!?」
『布都乃よ、数日分は食いだめするぞ!』
舞台上に設置された席に、布都乃もいつの間にか座らされていた。観客席は大賑わい。これでは退くに退けない。提案者のいなりがノリノリなのが腹立たしい。
『悪いがこの大会、妾が優勝してみせるぞ! お主には譲らん!』
「勝手にしてくださいよ!?」
言い争う間にホイッスルが鳴る。
どかどか、稲荷寿司が運ばれてくる。山積みになる稲荷寿司を、いなりも他の参加者も真剣なまなざしで食べ始めた。完全に、布都乃ひとりだけが状況を把握できていない。
『おおっと布都乃選手ッ! 手が止まっているッ!』
「実況うるさ……! ああもう食べますよそれじゃあ!」
箸を手に取り、海鮮稲荷寿司を口に放り込む。海鮮と銘打つだけあって、酢飯に混ざったカニや錦糸卵、刺身の風味が非常に濃厚。
「たしかにこれは……いくらでも食べられます!」
『まさかそれは……天羽々斬流剣術!?』
両手に箸を握り、二刀流の構え! 爆速で稲荷寿司を消費していく!
『妾も負けん! 優勝するのは妾じゃあああっ!!』
「もぐもぐもぐもぐ!!」
負けじといなりもヒートアップ!
大食い大会は二人だけの領域となり、デッドヒートが繰り広げられるッ!
果たして、結果は——!
『な、なんと……布都乃選手といなり選手……個数同数ッ! この勝負、ドローッ! 両選手に拍手をッ!』
万雷の拍手が、豊洲の空に響き渡る。
『ふっ、引き分けじゃな……次は負けんぞ……!』
「……なにこれ」
布都乃の呟きは、拍手の音に掻き消された。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『アイスエルフシャーマン』
|
POW : スノウスピリット
レベル×1体の【雪ダルマに似た「氷の精」】を召喚する。[雪ダルマに似た「氷の精」]は【氷】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
SPD : クリスタライズシュート
【触れたものを凍らせる氷の魔法】を宿した【氷結輪】を射出する。[氷結輪]は合計レベル回まで、加速・減速・軌道変更する。
WIZ : 氷の吐息
【口】から【全てを凍てつかせる冷たき吐息】を放ち、【状態異常:氷】と【状態異常:足止め】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:田村田楽
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●迎撃開始
潜伏する『ケルベロス』——猟兵たちの通信機が音を発する。
『豊洲市場の周辺にデウスエクスの存在を感知! 敵襲に備えて!』
ほどなくして、サイレンが鳴り響く。スピーカーを見上げ、人々は顔を強張らせた。
『こちらは特務機関DIVIDE! デウスエクス襲撃の前兆につき、市民の皆様は職員の指示に従って避難してください!』
どよめきが起こるが、混乱はなく。市場関係者や観光客は到着したDIVIDEの職員に誘導され、スムーズに外へ。
まずは一安心。安堵する猟兵たちの背後で、コンクリートの壁が破られる。飛来した壁の欠片は、凍てつくような氷に覆われていた。
「豊洲市場に現着……各部隊、侵攻を開始せよ!」
回転する円形の刃——氷結輪を停止させ、乗り込んできたアイスエルフシャーマンの一人が叫ぶ。一歩踏み出すごとに周辺は凍結。自身の領域に施設を染め上げる。
しかし、アルゲーディアの姿が見えない。
「残念だが……今日のアルゲーディア様は使い物にならん! 美食を食うとか言ってどこかに行ってしまわれた! 我々だけでトリスメギストス様の命を完遂する!」
どうやら豊洲の魔力にやられたらしい。
ともあれ、目の前の集団だけでも厄介な相手。通信機には再び、DIVIDEからの指令が入る。
『デウスエクス、豊洲市場敷地内へ侵入! 現場のケルベロスは各位、迎撃を開始してください!』
それぞれは己の得物を構え、侵略者と向き合う。
豊洲市場と——人々の平穏を防衛するために。
朱島・希咲
【朱鬼】
あ、キト先輩。ちーっす
ですです。もう避難とかも終わってて
いいっすよ。ちょうど、良い感じのレシピ教えてもらったとこだったんで
豊洲仕込みのとっておきの鉄火丼作りますから
つーことで、さっさと片付けますか
…漬け丼の分、きっちり働くぞ
・決戦配備:キャスター
私は基本、超能力を使うから
UCの効果にバフが掛かるような支援を頼む
【PKバインド】発動
【PKエヴァラック】併用
敵群本体を縛り付けて拘束
さらに具現した光盾を手に前に出て
敵の攻撃から私自身とキト先輩の身を守る
『武器から光線』で氷結輪を撃ち落としたり
光剣で叩き落としたりして防戦を担当
攻撃?キト先輩、よろしく
先輩に自由に動いてもらう為にも――通すものか
鬼頭・燎
【朱鬼】
キサち見ーっけ!おさしみ天国の会場はここけ?
え、これから戦闘?マジで!?ってことは遅刻!?
うわーん!キサち~!戦闘頑張るから後でおいしい鉄火丼作って~!
やった!っつーことは豊洲レシピ?やば、アガる!
とりまこいつら倒すのが先だな
鉄火丼の為にも頑張りますか!
魚を冷凍してくれるならいーけど、市場まで凍らせたら競りのオジサンとか困るし
決戦配備:クラッシャー
ウチ、豊洲とロボの共演見たいかも
キサちが敵を足止めしてくれてる間に【風信子の金魚弾】
攻撃はまかしょ!
可愛い後輩の為にもいいとこ見せんと
半分は投擲武器の手裏剣、もう半分は時限爆弾!
手裏剣を防いだヤツ、安心するのははえーぞ?足元でドカン!ってな!
●鉄火丼は決戦のあとで
豊洲市場、棟の一つと外を繋ぐ連絡通路にて。
襲来したアイスエルフシャーマンの軍勢を、希咲は仁王立ちで阻む。
「ここから先には、一人たりとも通さない」
身構え、睨みを利かせる。凄みに敵は動けず、拮抗した状況が続いていた。
その緊張は、陽気な声によって破られた。
「キサち見ーっけ! おさしみ天国の会場はここけ?」
バサバサと大きな翼を動かして、希咲の後ろから現れたのは鬼頭・燎(一般ドラゴニアンJK・f41054)。新手の出現に敵が警戒を強める中、希咲は彼女に会釈した。
「あ、キト先輩。ちーっす」
「いやー探した探した! 豊洲って意外と広いのなー。めっちゃ走ったんだけど! でも今日ここ空いてるし、今のうちにおさしみ天国を……」
燎の視線が希咲から、背後にいるアイスエルフに移る。ぱたぱた動いていた翼が止まった。
「キサち、あれってデウスエクス……?」
「そうっすけど」
「じゃあこれから戦闘? マジで!? ってことは遅刻じゃん!?」
「ですです。もう避難とかも終わってて。職人さんもいないです」
「そんなぁ!? せっかく豊洲まで来たのにぃ!」
頭を抱えて仰け反る燎を、希咲が棒立ちで見つめる。それからすぐに燎は希咲に飛びつく。……正確には、泣きついていた。
「うわーん! キサち~! 戦闘頑張るから、あとでおいしい鉄火丼作って~!」
「いいっすよ。ちょうど、良い感じのレシピ教えてもらったとこだったんで。普通だったら口外禁止の奴らしいっす」
「やった! っつーことは豊洲レシピ? やば、アガる!」
「はい。事が済んだらマグロの切り身買って帰りましょう。豊洲仕込みのとっておきの鉄火丼作りますから」
淡々と今後の予定を詰めていく二人。
すっかり蚊帳の外にされたアイスエルフの部隊長が、後方でぷるぷると震えていた。
「貴様ら……我々を差し置いて食事の話をするなァ!」
腕を回し、氷結輪を投射。空気を薙ぐ歪んだ軌道を描き、氷の刃が回転して迫った。
冷気を肌で感じ取り、希咲と燎の目の色が変わる。燎が飛び退く一方、希咲は果敢に前へ出た。
「|決戦配備《ポジション》:キャスター、能力の出力向上支援を要請する」
「承諾。術式支援を展開します』
通信機から声が返るのを聞き、拳を構えて腕を振り抜いた。足元には魔法陣が開き、サイキックエナジーの具現化効率を向上させる。
拳に添うように現れた|光盾《フォースシールド》が、氷結輪を弾く。
戦慄するアイスエルフの集団を凝視し、希咲は言い放つ。
「こいつら、さっさと片付けましょう。攻撃はキト先輩、よろしく」
「オッケー、まかしょ! 気合十分だね、キサち!」
「……漬け丼の分、きっちり働かないといけないんで」
「あっ、ずるっ! まぁいいや、ウチも鉄火丼のために頑張りますか! それに市場ごと凍ったらセリのオジサンとか困るし!」
魚を凍らせてくれるなら多少便利だったかもしれないが……と想像を頭から追い出し、燎は指を弾いた。
すると、彼女の周囲に金魚の大群が出現。ふよふよ空中を漂うピンクジルコンの金魚を眺め、燎は指で指し示す方向を変えた。
真正面、敵の軍勢へ。浮遊する金魚は命を受けて泳ぎ出し——速度を上げ、手裏剣となってアイスエルフへ飛んだ。
「それだけじゃねーかんな」
燎が笑みを零す。通路奥からその背を追い抜き、ロケットエンジンを噴射する戦闘ロボが敵に殺到。刃の雨と文字通りの鉄拳が、アイスエルフを勢い任せに叩く。
|決戦配備《ポジション》:クラッシャー。到着した火力支援に、燎は目を輝かせた。
「これこれ! ウチ、豊洲とロボの共演見たかったんだよねー! なんかすごいSFっぽい!」
スマホを手に取り、未来的な豊洲の建築にロボットがいる光景を連射する。パシャパシャと鳴り響くシャッター音に、敵も黙ってはいられない。
「何なんだ貴様らは! 我々の邪魔をするんじゃない!」
一人が声を発し、アイスエルフたちは一斉に構えた。大きな渦を形成するように氷結輪を射出し、手裏剣と戦闘ロボを凍らせて振り払う。氷結輪は加速と軌道変更を経て、すべてが燎の方向へ。
「させない」
光の盾を構え、希咲が走る。PKエヴァラック——超能力で形成したその武具から、サイキックエナジーを放つ。放出されたエナジーは光線として氷結輪を次々撃ち落としていった。
術式支援により消耗が少ない。まだまだ身体は動かせる。間近に迫った氷結輪の軌道上に希咲は滑り込んだ。
「——通すものか」
片手に盾を構えたまま、もう一方の手に|光剣《フォースセイバー》を具現化。振り上げて氷結輪を叩き落し、手が凍りつく前に解除した。
先輩に自由に動いてもらうのが自分の仕事。
ならばその役割を果たすまで。
「……『動くな』」
それは命令に近かった。
言葉を聞いたアイスエルフたちの身体が、これまた揃えたかのように硬直する。PKバインド——不可視のサイキックエナジーに縛られているともわからず、疲弊した頭では冷静な判断もできない。
千載一遇の好機に、燎は腕を前に伸ばした。まだ撃ち出されていない金魚と生き残りの戦闘ロボが背後に集結する。
「可愛い後輩のためにも、いいとこ見せんと」
再突撃。手裏剣と鉄拳の集中砲火が敵軍に襲いかかる。一人、また一人と倒れていく。
だが、敵もしぶとい。撃ち落された氷結輪を旋回させ、盾代わりに使うアイスエルフがいた。
「まだだ……! これを凌ぎ切れば——」
「安心するのははえーぞ? 下、見てみ?」
「へっ……?」
言われた通り、顔を動かす。
アイスエルフの足元には、大量の時限爆弾が敷き詰められていた。
爆発まではあとわずか。
「足元でドカン! ってな!」
「あ、あ——」
問答無用の大爆発。
手裏剣で引き付け、爆弾でトドメ。爆発で起きた風を浴び、燎は大きく息を吐く。
「これで終わり! じゃあキサち、鉄火丼!」
「ダメっすよ。まだ指揮官倒してないですから」
「えぇー……」
「ほら行きますよ、キト先輩」
燎を半ば引きずって、希咲は次の戦場に向かって歩く。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
天羽々斬・布都乃
◎
「美味しい食べ物を提供してくださる豊洲市場を破壊させるわけにはいきません!」
天羽々斬剣と布都御魂剣を構え斬りかかります。
ですが、敵が吐いた吐息によって足元が凍って!?
「きゃあっ」
『まったく、戦闘中にコケるとは相変わらず半人前じゃのう』
呆れたようないなりの言葉に反論しようとしますが――
氷の状態異常で衣服が床に凍りついて動けません!?
『布都乃、巫女服を脱ぎ捨て脱出するのじゃ』
「そ、そんな恥ずかしいことできませんーっ!」
絶体絶命の危機――
ですが、そこでいなりが叫ぶのでした。
『仕方ないのう、決戦配備クラッシャー要請じゃ!
豊洲市場の誇る最強武器、冷凍マグロ弾発射じゃ!』
「そんなのあるんですか!?」
●マグロ、翔ぶ
大盛り上がりの海鮮稲荷大食い大会から、すっかり人気は消えた。
屋上の広場に残った布都乃は、空から襲来したアイスエルフの軍勢と対峙していた。
「美味しい食べ物を提供してくださる豊洲市場を破壊させるわけにはいきません!」
『たらふく食わせてもらったからのぅ。ここでお主らを討つのが妾たちの恩義じゃ』
「来るなら来い、異世界のケルベロス!」
敵の言葉を受け、布都乃は接近を仕掛ける。天羽々斬剣と布都御魂剣を構え、刃先を下ろして走り出した。
「凍りつけ!」
前衛に並んだアイスエルフが口に手を添え、息を吐く。芝の緑は氷の白へ。すべてを巻き込み、冷気は布都乃に迫る。
そのとき、右目が金色に輝いた。
「その未来は——」
跳び上がり、凍てつく吐息を避ける。地面に降り立ち、地を蹴って——。
「視えていますぅっ!?」
派手にすっ転んだ。
いなりもアイスエルフたちも何も言えなかった。この流れで転ぶわけなかったから。
『まったく、戦闘中にコケるとは相変わらず半人前じゃのう……普通コケるか、今の?』
「だってこういう氷って、だいたいすぐ溶けるもので——」
いなりの言葉に反論し、腕を上げようとした。
しかし、腕は上がらない。袖が氷にぴったり貼りついている。袖だけではない。巫女服全体が転んだ状態のまま貼りついていた。
「うっ、動けませーんっ!?」
『焦るでない。方法ならあるぞ』
「本当ですか!? さすがいなり!」
うむ、と頷き、いなりは静かに言った。
『布都乃、巫女服を脱ぎ捨て脱出するのじゃ』
「そ、そんな恥ずかしいことできませんーっ!」
『ならどうしろと言うのじゃ! この贅沢者!』
「お湯くらい持ってきてくださいよ!」
『そんな悠長なことしとる場合ではないぞ!』
いなりの前足が、ひそひそ話すアイスエルフたちを指した。
「ねぇ、あの子殺しとく……?」
「うん、今のうちに……すごい申し訳ないけど……」
「罪悪感マシマシなのに首は獲ろうとしてますーっ!?」
まさに絶体絶命。脱出の方法は(羞恥を捨てない限り)なし。
窮地に追いやられた布都乃を前に、いなりは叫ぶ。
『仕方ないのう……|決戦配備《ポジション》:クラッシャーを要請じゃ!』
その声に応え、屋上の地面が直線的に分かれていく。
床から現れたのは、巨大な発射台。
「まずいぞ……止めろ!」
アイスエルフたちが攻撃を仕掛けるが、もう遅い。
発射台から射出された砲弾は、超高速で敵を粉砕する。
それは、紛うことなきマグロだった。
『冷凍マグロ弾、発射ッッッ!』
「そんなのあるんですか!?」
説明しよう!
冷凍マグロ弾とは、廃棄予定のマグロの質量を超高速で叩きつけ敵を破滅に導く……豊洲市場の誇る最強武器である。
「こんなの誇らないでくださいっ!?」
『じゃが実際強いぞ!』
無尽蔵にマグロは撃ち出され、敵の横っ腹に直撃させてばったばったと倒していく。
さすが豊洲、集積量が違う。
「くそがァ……凍れええええッ!!」
最後に残ったアイスエルフの集団が、繰り出されたマグロに向かって息を吐く。
だが効かない。なぜならマグロは最初から凍っている!
「あぎゃあああああああッ!?」
残ったアイスエルフが全員巻き込まれ、そのまま空へ。
飛翔するマグロとともに、東京湾に還っていった。
『この勝負、妾たちの勝ちじゃ!』
「もしかして私……マグロ以下の戦力なんですか……?」
呆然とする布都乃を無視して、いなりは空を見上げていた。
マグロが翔んだ、あの空を。
大成功
🔵🔵🔵
高崎・カント
「もぎゅうっ! きゅいきゅいきゅい! もきゅー!」
まず、跳ねて威嚇して敵の注意を引きつけ、市場が破壊されないようにするのです
ポジションはディフェンダーなのです
隔壁の後ろに隠れつつ、お寿司を取り出して急いでパクパクなのです
海鮮丼もおいしかったのですが、お寿司は別腹なのです
きゅ! これも作戦なのです!
豊洲のおいしいものを味わい、決意を固めるのです
おいしいものとおいしいものを売ったり作ったりする人を守るのです!
絶対絶対守るのですー!
これ以上凍らせる時間を与えないのです!
【UC使用】で、もきゅっと隔壁の後ろから飛び出して、思いっきり体当たりなのです!
氷なんか、カントのパチパチ火花で溶かしちゃうのです!
●おいしいは温かい
敵の中には壁を破り、建造物内部へ侵入した部隊もいる。
棟の内部にある通路を、アイスエルフたちが行進していた。
「重要な区画を探せ! 氷漬けにして内側から壊す!」
一人が叫ぶ。腕を構えて氷結の魔術を放とうとした、そのとき。
「もぎゅうっ! きゅいきゅいきゅい! もきゅー!」
その背後、通路の真ん中にモーラット。
ぴょんぴょん跳ね、ものすごい剣幕(モラ比)で威嚇する。
あまりの勢いに、アイスエルフたちも無視できなかった。
「なんだこのもふもふは……! 新手の『原獣』か……!?」
「もきゅもきゅう! もぎゅっぴー!」
——市場の破壊はカントが許さないのです! 今すぐにやめるのですー!
部隊長が舌打ちし、腕をカントに向け直す。腕の周囲に冷気が漂った。
「どちらにせよ敵だな……我々を阻むなら、貴様から凍らせてやる!」
冷気から形成されたのは、雪ダルマにも似た『氷の精』。他のアイスエルフも形成したことで、氷の精はその数を急速に増幅させる。
不安定な丸い身体を揺らし、雪ダルマの群れがカントに迫った。
「もぎゅん! きゅっぴぃぃぃ!」
——イヤなのです! |決戦配備《ポジション》:ディフェンダーなのです!
カントが叫んだ瞬間、雪ダルマとの間に隔壁が立ち上がる。壁はカントはおろか、アイスエルフの背丈をも凌駕するほどの高さだ。
「しまった……無視はできん! この壁を壊せ!」
「もっきゅ……!」
壁の裏から聞こえる声に、カントはひとまず安堵する。
ここまでは作戦通り。無事、市場そのものの破壊から意識を逸らせた。
そして、ここからも作戦通り。ゴソゴソと、マントの裏から取り出したのは——。
「……もきゅっぴ!」
たくさんの種類が揃った、お寿司のお弁当!
「もきゅきゅきゅーん!」
いただきますをして、急いでパクパク。後ろからは常に衝撃が伝わってくる。
海鮮丼もおいしかったけれど、お寿司となればもう別腹。
漬けマグロに炙りサーモンと、さっき食べた魚でも味に違いがある。ぷりぷりの甘エビにふわふわのタマゴ、渋いけど旨味たっぷりな〆め鯖も欠かせない。
「もぐもぐむきゅきゅ!」
しかし、ただ呑気にお寿司を食べているのではない。
このお寿司ができる過程には、おいしい食材とたくさんの人の存在がある。魚、お米、卵やお肉。作る人、売る人、運ぶ人。どれが欠けてもできやしない。
「もぐっきゅ……!」
ツヤツヤした大トロを眺めてから、口に頬張る。
それらが集まる場所は壊させない。決意を、身体に流し込む。
お弁当を完食して、カントはごちそうさまをした。
「きゅぴ! きゅぴぴぴぃ!」
——絶対絶対、守るのですー!
翻って、カントは大きく跳び上がる。壁を蹴って、自分の何倍も巨大な隔壁を越えていく。
おいしいものを食べて元気いっぱい。感謝も、そこからくる守りたいという気持ちも胸いっぱいだ。温かい気持ちを抱え、カントは壁の裏側から飛び出した。
「さっきと雰囲気が……違う!?」
「もぎゅうううううっ!!」
落下の速度に任せて体当たり。同時に放出されたパチパチ火花が、落雷みたく部隊全体に繰り出される。
抱えた熱を解き放つように——パチパチ火花は輝き、冷徹な氷を溶かすのだった。
大成功
🔵🔵🔵
クローネ・マックローネ
NG無し、絡みOK、アドリブ歓迎
【POW判定】
変な指揮官を持つと苦労するよね~♪
…ん?どしたのドラゴニアンちゃん?
なんでクローネちゃんをジトーって見てるの?
(自分もその「変な指揮官」である事に気づいていない)
ドラゴニアンちゃん達を召喚して、敵の侵攻を食い止めるよ♪
決戦配備はディフェンダーを要請★
敵味方の攻撃の流れ弾で市場が破壊されないように防御力支援をしてもらうね♪
UCは『クローネちゃんのアツアツなお友達★』★
アイスエルフちゃんも氷の精も炎のブレスで溶かしてあげるよ!
攻撃は【集団戦術/団体行動/連携攻撃/範囲攻撃/ブレス攻撃/弾幕/鎧無視攻撃/属性攻撃】で行うよ♪
●悪を焼く、番犬の炎
デウスエクスの侵攻開始からしばらくが経つ。
「クソ、また部隊がやられた……!」
味方の気配消滅を受け、アイスエルフは焦燥に駆られていた。
ここは飲食店のあるショッピングモールに似た区画。内部には入り込めたが油断はできない。
「アルゲーディア様が指揮官として動いていれば、こんなことには……!」
「変な指揮官を持つと苦労するよね~♪」
その敵部隊に、クローネは真正面から近づいていく。漆黒の肌をした人型ドラゴニアンのお友達軍団を率いて、まるで世間話でもするように話しかけた。
「特に自由気ままに周りを振り回すタイプだと、従ってる側の気持ちにもなってくれってなるよね~♪」
警戒して応じないアイスエルフの代わりに、クローネの背中にいくつもの視線が突き刺さる。
「……ん? どしたのドラゴニアンちゃん? なんでクローネちゃんをジトーって見てるの?」
振り返ると、ドラゴニアンのお友達がこっちを見つめていた。だが聞き返しても黙っている。疑問を感じ、クローネの首が横に傾く。
……視線の理由は「クローネこそ変な指揮官だから」に他ならない。だが、当の本人はそんな可能性には微塵も思い当たっていないのだった。
「……変なドラゴニアンちゃん★ まぁいいや♪ ここで侵攻は食い止めさせてもらうよ♪」
敵部隊に向き直ると、クローネはパチンと指を鳴らした。
「|決戦配備《ポジション》:ディフェンダー★」
宣言により、店舗を塞ぐように隔壁が飛び出す。これで流れ弾により施設が破壊される心配はない。
「これで思いっきりやり合えるね♪」
それが戦闘開始の合図。クローネを抜き去るように、ドラゴニアンたちは前に飛び出す。集団で固まっているアイスエルフの先手を取って、囲い込むように円形に展開した。
「炎と氷、どっちが強いと思う?」
返事を答えるよりも早く、ドラゴニアンが口を開く。放出された炎のブレスがアイスエルフを紅に包む。包囲から繰り出された火炎は脆弱な冷気を溶かし、相手を焼き払う。
転がって炎から逃れたアイスエルフが、咳き込みながらも招集をかけた。
「戦術では競えん! ここは……数を増やす!」
手で球を包むように構え、掌に冷気を集約。雪ダルマのような氷の精が形成され、その数はものの数秒で膨れ上がる。
空間全体に広がり、氷の精は雪崩のようにドラゴニアンへ襲いかかった。それだけでドラゴニアンを圧倒できるわけでもないが、時間稼ぎには十分だ。
「退避しろ! より重要な区画の破壊に切り替える!」
「……ふーん♪ そういうことするんだ♪」
場を離れようとするアイスエルフたちを最奥から眺め、クローネは呟く。
悪戯っぽい笑みを浮かべて、またパチンと指を鳴らした。
「最後まで付き合ってくれないと楽しくないよ♪」
敵の退路を阻むように、隔壁が通路を封鎖する。決戦配備による防御支援の応用だ。アイスエルフたちが振り向くと、氷の精の大多数は火炎放射で既に溶かされていた。
詰み。急いで追加の氷の精を生成する敵部隊に、クローネはドラゴニアンを差し向けた。
「溶かしてあげるよ、アイスエルフちゃん!」
放たれた炎が容赦なく敵部隊を溶かす。
また一つ、侵攻部隊は壊滅したのだった。
大成功
🔵🔵🔵
カーバンクル・スカルン
なんか苦労してますな。そういう時は指揮系統が無くなったから撤退します、で帰ってもよかったんだよ?
まあ、壁ぶっ壊して乗り込んで来ちゃった時点でギルティ、ってことで私の言葉に何かしらの反応をアイスエルフがした瞬間にカタリナの車輪をぶつけて捕縛。【袋中之鼠】の条件も満たしてるんだ、避けれはしないだろ。
氷の魔法は使えないから、その武器の再現は難しそうだなぁ。残念……なんて言いつつ色んな手段を使ってボコボコにしていきましょう。デウスエクスは何しても死なないから、手加減する必要なくてラクだわー。
●不法侵入の罰
「なんか苦労してますな。そういうときは指揮系統がなくなったから撤退します、で帰ってもよかったんだよ?」
積み上げられたプラスチックの籠に腰掛け、カーバンクルは視線を前に投げる。言葉を向けた先では、アイスエルフの部隊が武器を構えていた。
棟一階、水産物の搬入口にて。大規模な取引を受け入れるための広々とした空間には、運び込まれた食品類と何台ものトラックが置き去りにされていた。
コンクリートの外壁を破って侵入してきた敵軍から目を離さずに、カーバンクルは籠から降り立つ。
「って言われても、帰るに帰れないか。でも普通に上司の職務放棄だしさ、そっちも直帰決めりゃ早上がりできたでしょうよ。そしたら私も豊洲観光できたんだし——」
「黙れ! これは名誉あるトリスメギストス様のご命令だ! おめおめ帰れるか!」
「ほー、結構な忠誠心で」
声を荒げ、アイスエルフの一人が腕を大きく引いた。その手に握られた氷結輪が投射されるより早く、カーバンクルは指を動かした。
「まぁ、もう帰す気はないんだけども」
トラックの陰から車輪が飛び出す。外側に付いた太い針と床が打ち合い、跳ねながら車輪は高速回転。回避行動を取らせる暇も与えず、敵部隊の真ん中に突っ込んだ。
何人かは薙ぎ払われ、何人かは車輪の側面で磔にされる。ギュルギュルとその場を回る車輪の挙動に、アイスエルフは目を回す。
かと思えば急停止。顔を上げたところに、巨大なフックが迫る。
「がああああっ!?」
「まずは一丁。壁ぶっ壊して乗り込んで来ちゃった時点でギルティ、ってことでね」
吹き飛ばされた敵を眺め、カーバンクルはじゃらじゃら揺れる鎖——ボディ・サスペンションを引っ張り上げる。再びフックを手に戻すと、足元に転がるアイスエルフの一人を睨む。
「命をもって償ってもらいましょうか!」
力任せにフックを叩きつけ、容赦なく敵を叩き潰した。
顔を引き攣らせるアイスエルフに、カーバンクルは無慈悲に接近する。鎖を手放すと、指を動かしてカタリナの車輪を操作。捕縛された敵を空間の中心に呼び戻し、自身は巨大な盾を持ち上げた。
「刺身もいいけど……魚は焼きも格別だよねぇ?」
「や——やめろッ!?」
振り上げた盾の表面が炎に覆われる。高熱を纏う盾で殴りかかり、焦げの臭いとともに敵の身体が砕けていく。最後のひと押しで振り抜けば、また車輪ごと敵が吹っ飛ぶ。
「おのれ貴様! これを喰らえッ!」
地面に伏せたアイスエルフたちが腕を挙げた途端、氷結輪が回転する。加速して飛ぶ氷の刃はカーバンクルを狙って飛来。視界に捉え、カーバンクルは飛び退いて氷結輪を回避する。
「氷の魔法は使えないから、その武器の再現は難しそうだなぁ。いやはや、残念残念……」
そう言いつつも、その口角は上がる。
ボディ・サスペンションを回収し、ぶんぶんとフックを振り回す。速度が最大まで高まって投射されたフックは、アイスエルフを見事に通り過ぎた。
「けど、武器は私の方が多いから」
ガチッ、とフックが何かと噛み合う。
歯を食い縛って引っ張れば、4tトラックが宙を舞った。
「わああああっ!?」
トラックがゴロゴロ転がって、身動きの取れないアイスエルフを引き潰す。
騒音も悲鳴も絶えたころ、カーバンクルは大きく息を吐いた。
「デウスエクスは何しても死なないんでしょ? おかげでラクだわー、手加減する必要なくて」
次の殲滅対象を探し、ふらりと歩き出す。
大成功
🔵🔵🔵
新井山・直次郎
◎
親玉は居ない、か。豊洲の魔力…?
深く考えるのはやめておこう
急いでバイクを回収して応戦だ
スカルフェイスを装着
ホーク・クローがお誂え向きだな
ひと齧りして【寒冷適応、氷結耐性】を付けておく
市場全体を冷凍庫にでもする気か?
これ以上進行させられない、食い止めるぞ
UCを使って氷結輪とやらに対抗する
飛び道具の数はこっちの方が上だ。気を付けないとあんた達がこれの餌食だぞ
バットで氷結輪を【武器受け】しつつ、スマホの【念動力】で動きを補助、複製した道具で攻撃する
防御に集中して氷結輪の攻撃が緩んだ頃に【闇に紛れる】
本体のエルフ達をバットの【重量攻撃】でトドメを刺す
バットが凍った所で重くなるだけだ
残念だったな
●敵穿つ死神
キタカゼ号に跨り、直次郎は広い道路の中央を突っ切る。
「親玉は居ない、か。この間に部隊を各個撃破できれば僥倖だが……」
どうやら豊洲の魔力に魅了されたと聞く。
なんだそれは。
疑問を向けそうになったが、深く考えるのはやめておく。
アクセルを絞り、さらに加速。侵攻状況はDIVIDEから伝達されている。カーブを曲がり、業者の出入りする施設地下の輸送路へ。
巨大な柱が続く開放的な空間は、今や氷に覆われていた。
「……市場全体を冷凍庫にでもする気か?」
片手でハンドルを握り、手に取ったホーク・アローをひと齧り。唐辛子の辛味が熱産生を促し、寒気を払う。
お誂え向きの状況だったな、と心の中で呟いて、直次郎はスカルフェイスを装着。
髑髏を被り、その相貌は死神となる。
バットを構えて突き進めば、侵入者たるアイスエルフの部隊と鉢合わせた。
「ケルベロス……! こんなところにまで……!」
「それはこっちの台詞だ。これ以上、侵攻はさせない。食い止めさせてもらおう」
「やれるものならやってみろ!」
腕を振り上げ、アイスエルフたちは氷結輪を投擲する。空中で自由自在に軌道を変え、速度を上げて直次郎に迫った。
それを視界に捉え、直次郎はキタカゼ号のエンジンを吹かす。弧を描くように走り、身体への直撃をまずは回避。しかし、氷結輪はまだ追ってくる。
身体を捻じり、背後に飛んだ氷の刃をバットで打ち払う。氷が貼りつき、重量が増す。
「だから、どうした」
構わない。重くなったバットを無理やり振って、氷結輪を何度も迎撃する。
僅かに生まれた攻撃の隙間。それを狙い、直次郎はポーチの中身をばら撒いた。
ナイフ、ペグ、ハンマー、ワイヤー。キャンプ用品に偽装した武器の数々は、落下する前に宙に留まる。複製され、浮遊したまま数は膨らんでいく。
バットでアイスエルフを指す。サイコ・フォンの念力補助を受け、浮かんだ金具はくるりとすべてそちらを向いた。
「数ならこっちの方が上だ。気を付けるんだな、すぐ蜂の巣にならないように」
警告は、攻撃とほぼ同時だった。
アイスエルフを狙い、空中から金具が射出される。ばらばらな軌道、異なる軌道で。
頭を掠めるように飛んだハンマーを躱しても、腹を狙ってペグが飛ぶ。ワイヤーは腕に絡み、よろけたところをナイフが刺す。敵部隊はすぐさま混乱に陥った。
「落ち着け! 防御を固めろ!」
氷結輪を手元に戻し、アイスエルフは防御態勢を整える。飛んできた金具を弾き、急所に刃が刺さる前に撃ち落す。
しばらくして、はたと気付く。
直次郎の姿が見えない。
「あいつ……どこに行ったッ!?」
——ドルンッ。
アイスエルフたちの耳に、バイクの鈍いエンジン音が響いた。
身を潜めていた直次郎が、キタカゼ号に乗って柱の陰から飛び出す。最短距離を直進し、最高速度で突っ込んだ。
「それじゃあな」
掲げたバットが敵の一群を薙ぎ払う。バイクで撥ね飛ばしつつ振るわれたバットは頭や胸に突き刺さり、重い衝撃で敵の身体を吹き飛ばす。
「が……かはッ……!」
「バットが凍ったところで重くなるだけだ。そしてその重量は、衝撃に加算される」
物の言えなくなった敵へ、最後の手向けに言葉を放つ。
旋回し、速度を高めて直次郎は再び接近。
「残念だったな」
凍てつく凶器の一撃が、侵略者を粉砕する。
大成功
🔵🔵🔵
ネフラ・ノーヴァ
◎
【標石】
ほほう、DIVIDEの作法は初めて目にするが避難誘導の手際は見事だね。あれはメディックというのだったかな。おかげで思う存分戦えるというもの。
奴ら氷の技にクリスタルの名を冠しているようだね。よろしい、本物のクリスタルをお見せしよう。
UCを発動させれば反射結晶で氷結輪を防ぎ素早く間合いを詰めて翻弄、刺剣で相手を貫ぬく。こういう料理は得意だよ。フフフ。
黒田・牙印
【標石】
うーむ、敵さんも上司に苦労するってことあるんだなぁ・・・・・・ともあれ、破壊活動するなら相応の仕置きが必要だな。
ポジション要請はディフェンダー。敵が召喚した雪だるまをちょっとでも足止めしてくれれば助かるぜ。
んで、俺の行動はシンプル。
「うるせえ、てめえらの召喚した雪だるまをまとめてぶつけんぞ」
ということで、敵さんが召喚した雪だるまを「怪力」やUCで持ち上げて敵へ投げつけていこう。
氷を操るアイスエルフとはいえ、シンプルな質量は操れないだろう?
季節外れの雪合戦といこうじゃねぇか。
もし、何らかの手段で雪だるまを消すようなら・・・・・・邪魔者はいないし、普通にブン殴るとしようかね。
ビスマス・テルマール
◎
【標石】
何だか随分フリーダムですね、わたしも些か人の事言えないかも知れませんが、ともあれ、これ以上は豊洲を侵攻させませんっ!
◯POW:スナイパー要請
皆と『集団行動&団体行動』連係し『早業』UC攻撃力重視発動
【イカドリルロケットビット】154個を『念動力』で操作
援護射撃に合わせ敵と氷の精を『貫通攻撃&範囲攻撃』波状攻撃を
敵の攻撃は『第六感』で『見切り』
低空『空中戦&ダッシュ』し回避
被弾は牙印さんが要請した壁を利用したり『オーラ防御』込め【光学烏賊螺旋ロケット】で『武器受け&ジャストガード&受け流し』しましょう
氷の精は雪だるまなら
牙印さんに負けますが
残骸の雪を『怪力』で丸め
敵に『投擲』し攻撃です
●雪に散る
侵入したアイスエルフの軍勢は、ケルベロスの手によって次々と返り討ちに遭っていた。
豊洲市場、屋外。残存部隊を集結させ、アイスエルフたちも最後の攻勢に出る。
しかし、彼女らはそれすらも阻まれていた。
「DIVIDEの作法は初めて目にするが……避難誘導の手際は見事だね。あれだけの人間がいたのに混乱を生じさせないとは」
刺剣を向けて敵を威圧しつつ、ネフラは辺りを見渡す。広々とした市場の敷地内に人影はない。
あの役職はメディックといっただろうか。働きに感謝して、視線を眼前の侵入者に戻した。
「おかげで思う存分戦えるというものだ。そうは思わないかい?」
「ここまで軍が窮地に陥るとは……! アルゲーディア様は本当に何をやっておられるのだ!?」
アイスエルフの一人が声を荒げたのを眺め、牙印は爪の先で顎の下を掻いた。この憤慨の様子はどことなく既視感がある。ドラマか何かで見たやつだ。
「うーむ、敵さんも上司に苦労するってことあるんだなぁ……」
「話だけ聞いていても、何だか随分フリーダムですね。わたしも些か人のこと言えないかもしれませんが……」
状況に振り回されている敵に苦笑して、ビスマスも牙印の言葉に頷く。今回ばかりは、孤軍奮闘しているのはデウスエクス側かもしれない。
だが、同情の余地はない。
「ともあれ、破壊活動するってんなら——」
顎を掻いていた指を牙印は丸め、別の手で包んで握り込む。ゴキゴキと音が鳴った。
「相応の仕置きが必要だな」
「はいっ! これ以上は豊洲を侵攻させませんっ!」
「頼もしいね、二人とも。援護は任せたよ」
背を牙印とビスマスに預け、ネフラが飛び出す。その挙動を見てアイスエルフも武器を構える。
両者が衝突するより早く、ビスマスが腕を掲げた。
「任されました! トリニティ・ナメロウスクイーゼ、転送装着っ!」
『——Namerou Hearts Squeese!』
「イカー…………キタァーーーーッ!」
肉体を光輝く武装が覆う。光が露のように解けると、淡い赤の鎧装をビスマスは纏っていた。
イカ型鎧装の名の通り、頭部装甲は三角形。大きな目玉のついた光学烏賊螺旋ロケットを構え、後方にはイカドリルロケットビットを展開する。……親イカに子イカが続いているようにも見える。
それを後押しするように、ビスマスは通信機に叫ぶ。
「|決戦配備《ポジション》:スナイパー……お願いします!」
その一声で、どこか彼方からアイスエルフへ弾丸の雨が飛来する。突如襲いかかった狙撃に敵の陣形が崩れた。そこを逃さず、ビスマスは仕掛ける。
「イカドリル、発射っ!」
イカの大群——大量のロケットビットが敵軍に突撃。混乱続きの中に飛んできたイカドリルにアイスエルフは面食らう。そのまま顔面にイカが突き刺さった。
「ぶべっ!?」
「ぐばっ!?」
「今です、ネフラさん!」
「フフ、海産物からの仕返しにも見えるね。さて、活きが良いのから〆ていこう」
混迷極める敵陣にネフラが飛び込む。顔の前に掲げた刺剣が光を返す。
長細い刃に急所を貫かれ、アイスエルフはそれきり何も言わなくなる。バタバタと、騒がしい戦場で敵を静かに葬っていく。
所作は血抜きに似ている。頭を狙い、針を打つ。そこに一切の容赦はいらない。
刺剣を抜けば、敵が崩れ落ちた。その様子を見下ろして、ネフラは微笑を零す。
「本物はビスマス殿に劣るが……こういう料理は得意だよ。フフフ」
「なっ、いつの間に……!」
倒れた仲間を見てアイスエルフが慄く。紛れ込んだネフラから距離を取り、部隊全員が彼女に腕を向けた。
「全員埋もれろッ!」
掌から、雪ダルマに似た氷の精が発生する。雪ダルマはその数をどんどん増幅させ、総員による突撃は雪崩のような波となった。
とうに個人を飲み込む規模ではない。建造物に損傷を与えるほどにまで膨れ上がっている。
一旦退き、ネフラは隣立つ牙印に呼びかけた。
「牙印、頼めるか」
「当たり前だ! |決戦配備《ポジション》:ディフェンダー!」
牙印の発した要請は即承諾。
地面が直線的に開き、隔壁が盾となるように現れた。雪ダルマの群れは隔壁により受け止められ、大きな音と衝撃を放ってばらばらに吹き飛ぶ。
落下した雪ダルマたちが目を回しているうちに、牙印は隔壁の表側へと回り込んだ。
「ひとまずは対処完了だな。で、こいつらをどうするかだが——」
唐突に、牙印は走り出す。まるでブルドーザーのように腕を開くと、その腕の中に雪ダルマを抱えて圧縮。じたばたしても勢いには抗えず、雪ダルマたちは一塊の巨大な雪玉へと変貌する。
「おらあああああっ!!」
「貴様、何をしている!?」
「うるせえ! てめえらの召喚した雪ダルマをまとめてぶつけんだよ!」
ふんっと鼻息を吹き、両腕を掲げて雪玉を持ち上げる。破砕用の鉄球にも見紛う大きさとなった雪玉を、牙印は雄叫びとともにぶん投げた。
「喰らえええええっ!!」
「ぎゃあああああっ!?」
敵軍がまるごと雪に潰される。氷を操るアイスエルフとはいえ、シンプルな質量までは操作できない。ずぽっと頭だけを出して埋まったアイスエルフに、牙印は叫ぶ。
「季節外れの雪合戦といこうじゃねぇか!」
「何を言って……おい、乗るなお前たち!」
牙印の誘いを受け、雪ダルマたちが雪合戦で応戦を始めた。雪ダルマとして、雪玉にされたままでは矜持が持たないのだろうか。
それはそれとして……この雪玉も剛速球だ!
「どうやら相手の領分だったらしいな……!」
「であれば、わたしにお任せを!」
隔壁の裏に回った牙印に代わり、ビスマスが各所のスラスターを噴射して前に出る。
「はい! はい! はいっ!」
雪ダルマたちの雪玉を空中で捌き、高速移動で避け続ける。直線で動いたり曲線を描いたり、縦横無尽に飛び回った。
「ほいっと! いいところに投げますね!」
避けられない雪玉は、光学烏賊螺旋ロケットが盾となって防いだ。そうして回避するうちに相手も疲弊してくる。ここぞとばかりにビスマスも雪をかき集めた。
くす玉ほどの雪玉を頭上に持ち上げ、アイスエルフを狙って次々と投げつける。
「牙印さんには負けますが……あなたたちには負けませんよ! えいやっ!」
「やめ……ぐぼぼっ!?」
頭に雪玉が被さり、大きな雪ダルマが出来上がっていく。量産されるアイスエルフ入り雪ダルマ。耐え難くなったのか、一人が雪を掻き出して這い出ようとした。
「ふざけるな! 我々は大真面目にここを侵略しに——」
「遊びを終わりにするんなら、それでもいいぜ?」
顔を上げたそこには、既に牙印が接近を終えていた。拳を振り上げ、鋭い歯をひん剥いてそれを地面へ叩きつける。
「おらよおおおおっ!!」
「ぐはあああああっ!?」
雪ごと捲り上げ、アイスエルフを空へ吹き飛ばす。落下して悶絶するアイスエルフらの限界は近い。立ち上がって氷結輪を握り、腕を回して投擲した。
「クリスタライズシュートッ!」
加速し、氷の刃は旋回して三人に飛ぶ。読めない軌道、まばらな速度。
一度に防ぐのは不可能に思えたその攻撃を前に、ネフラの口角が上がった。
「ほほう、氷の技にクリスタルの名を冠するか。ならばよろしい」
指揮棒のように剣を振るう。
横一列、輝かしい結晶が並んだ。
「本物のクリスタルをお見せしよう」
飛来した氷結輪はすべて、反射結晶に受け止められた。高速回転する刃は結晶に食い込み、切り傷を与える。氷と結晶が打ち合って破片が美麗に舞いもする。
しかし、やがてすべてが回転を停止した。
「なっ……!?」
「氷の硬度ではクリスタルを破れない。簡単な話だね」
ネフラの声は、アイスエルフたちの耳元で囁かれた。振り向くと、微かに開いた穴から血液が噴き出す。自分が貫かれたのだと気付かないまま、アイスエルフは地面に倒れた。
刃に付着した血を振り落とし、ネフラは周囲を確認する。これでアイスエルフは全滅したらしい。
「これで歓待は完了した……と、思いたいが」
「あぁ。まだ一人、デカいのが残ってやがるからな」
「本当にどこに行っちゃったんでしょう、指揮官のデウスエクスさんは……」
ネフラと牙印が話す脇で、ビスマスの通信機に通達が入る。
内容を聞き、ビスマスは目を丸くした。
「そ、そんなところに……!? 行きましょう、みなさん!」
「どうあれここを占領しようとした奴だ。気は抜くなよ」
「言われるまでもないさ。我々流のフルコースを味合わせてあげよう」
三人は現場に急行する。
指揮官——アルゲーディアが待つ、その場所へ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『星座獣・アルゲーディア』
|
POW : 五つ星の評価をやろう
【侵略地域の名物料理を堪能した満足感】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【グラビティチェイン枯渇】の状態異常を与える【全てを喰らう五つの星の光】を放つ。
SPD : 飯も星も喰らい尽くそう
戦闘中に食べた【侵略地域の名物料理】の量と質に応じて【侵略地域のグラビティチェインを収奪し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ : 美味い! 美味いぞ!
非戦闘行為に没頭している間、自身の【侵略地域の名物料理からグラビティチェイン】が【異常な効率で経口摂取できるようになり】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
イラスト:うぶき
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「リダン・ムグルエギ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●宇宙食通の野望
豊洲市場、水産卸売場棟——活魚のセリが開催される空間。
運ばれた鮮魚が発泡スチロールの容器に入って並ぶ。普段はこの部屋でセリが行われないマグロまでもが集められている。デウスエクスに荒らされることを見越して一つの部屋に押し込めたのだろうが……それが今回は裏目に出ていた。
「美味い! 美味いぞ!」
龍のような尾を振り、魚にがっつく者が一人。
新鮮な魚介類を思うがままに頬張るのは、敵部隊の指揮官でもある星座獣・アルゲーディアだ。
身体の前に付いた二本の腕で魚を捌き、その刺身を後ろの二本の腕で口へ次々運ぶ。食材を漁る意地汚さと手つきの器用さを同時に発揮して、アルゲーディアは舌鼓を打つ。
「美味すぎる……この美味さ、星ッ——!」
絶叫するが、そこで声は途絶えた。
後方の腕で腕組みをし、前方の腕で顎を擦る。三ツ目で目の前の刺身を眺め始めた。
「うーむ、五つ星を出すにはまだまだ美食パワーが足りんな。もっともっと食わねば……む?」
評価の星は蓄積型のアルゲーディア。駆けつけたケルベロスの存在に気付く。
ナプキンで口の周りを拭い、足を組んだまま不可思議な力で浮遊。まだ手を付けていない食材も、その力で自分の近くに漂わせた。
「来たな、ケルベロス! しかし私はたらふく美食を味わった……もう少し喰らえば、存分に五つ星を繰り出せるッ!」
戦いながら、アルゲーディアはまだまだ美食を喰らうつもりらしい。喰えば喰うほどグラビティ・チェインを奪い、能力は強化されるだろう。
それぞれが得物をアルゲーディアに向ける中、通信機が鳴り響く。
『過去の交戦記録からの分析です! アルゲーディアのグラビティ・チェイン摂取は現地の美食に対して発生します。今回であれば豊洲市場の特産物に……逆にいえば、それ以外を食べても発生しないようです』
少なくとも、豊洲の食材をアルゲーディアに食べさせなければ強化は防げるとのこと。
「ここで貴様らを倒し、私は宇宙食通としての野望を叶える! 美食都市の建立……その野望をなァ!」
食い気に満ちたアルゲーディアを妨害できるかどうかは、定かではないが。
新井山・直次郎
◎
決戦配備:ジャマー要請
バイオガスを散布してくれ
さらに【ハッキング】
現場の電源設備をダウンさせ相乗効果で暗闇を作り【闇に紛れる】
暗闇をわざと靴音を鳴らして周囲を歩き【挑発】
【念動力】で別の場所で物音もたてる
食材も密かに片付けたい
ここの人間がどんな思いでその食材を調達してきたか想像もできないのか?
それに食材はここで作られているワケじゃない
仮にあんたがここを支配しても、ここの人間に敬意を払わない勘違い野郎の下に食材が届くことは二度とない
…食通が、聞いてあきれるな
漁船にでも乗せてもらったらどうだ?
なるべく星座獣の尊厳を攻撃する言葉を吐く
ヤツが戦闘態勢に入った瞬間にUCで作った大鎌で【暗殺、切断】する
●似非食通
足を組んで浮遊したまま、アルゲーディアは両腕を広げた。不可思議な力によって宙を漂っていた食材が、自ら口に向かって移動する。
「見よ! この美食も私に喰われたいのだ! 貴様らが邪魔する義理はない!」
食材を頬張ろうと大きく口を開く。
そのとき、アルゲーディアを煙幕が包み込んだ。
「グッ!? ゲホゲホッ!?」
「……自惚れるな」
咳き込む敵をスカルフェイスの隙間から冷ややかに見つめ、直次郎は呟く。四本の腕すべて使って煙を払おうとするアルゲーディアに、さらなる策を畳みかける。
突如として、部屋の照明が落ちた。光が消え、現場は完全な闇に閉ざされる。
「くっ……どこだ!? どこに行った!?」
周りを見回し、アルゲーディアが叫ぶ。目が慣れても煙幕のせいで依然として視界は悪い。焦燥に駆られる相手に対して、直次郎は闇に潜伏する。絶えず叫んでくれるおかげで、敵の位置は手に取るようにわかった。
|決戦配備《ポジション》:ジャマーによるバイオガス散布。さらに電源設備をハッキングでダウンさせ、二重の視界不良を作り出した。
もはや何も見えないだろう。相手の状態をそう判断して、直次郎は歩き出す。
——コッ、コッ、コッ。
暗闇の中、靴音が響く。釣られるようにアルゲーディアはそちらを向いた。
「そこだなッ!?」
「だったらどうする、似非食通」
位置を察知されても余裕を保ち、旋回するように歩き続ける。直次郎の返答に、アルゲーディアの語気が強まった。
「何だと……?」
「食通を名乗っておきながら、食材への敬意がないからそう呼んだまでだ。ここの人間がどんな思いで食材を調達してきたか、想像もできないのか?」
直次郎の問いを、相手は鼻で笑った。
「知らんな。それを捻じ伏せ喰らう飯が美味いのだ!」
「期待通りの返事だな」
直次郎が声を返した直後、アルゲーディアの背後で音が鳴った。金属がカンカンと、連続して音を立てる。慌てて振り返った。木箱や発泡スチロール、市場にある物体が次々に打ち鳴る。
「何だ……何がいる……!?」
何もいない。直次郎が念動力で物体を操作し、物音を立たせているに過ぎない。
次第に音は、アルゲーディアを取り囲むように激しくなっていく。
「豊洲がお怒りらしいぞ。ここの食材はここで作られているワケじゃない。仮にあんたがここを支配しても、ここの人間に敬意を払わない勘違い野郎の下に食材が届くことは二度とない。人間が、食材が、そして建物が、それを許さない」
「黙れ! 恐怖で従わせればいい!」
「……食通が、聞いて呆れるな」
「うるさい! 私は喰らうぞッ!」
激昂したアルゲーディアは再び力を行使し、食材を引き寄せようとする。
だが、いくら待っても何も運ばれてこない。
アルゲーディアが音に気を取られた一瞬のこと。静かに歩み寄った直次郎が食材を遠ざけ、影響範囲から外れさせていた。
「嫌われたな。そんなに食いたきゃ、漁船にでも乗せてもらったらどうだ?」
「黙って聞いていれば貴様ッ!」
とうとう、アルゲーディアの怒りが限界に達した。巨大な拳を握り、声のした方向へ突進。直感で、勢いよく殴りかかった。
それを、直次郎は待っていた。
空間把握が曖昧な敵にあえて接近。懐に飛び込むと、首に巻いたダークネスクロークに手を突っ込んだ。
引き抜くと、黒い大鎌が現れる。通り抜ける際に、刃は敵の身体を捌くように切り裂く。
「があっ……!?」
「生産者が罵倒の言葉に聞こえる時点で、あんたの負けなんだよ」
鎌から血の雫が滴り落ちて、敵もまた床に崩れ落ちた。
大成功
🔵🔵🔵
高崎・カント
ポジションはジャマーなのです
隔壁展開して相手を妨害してもらうのです
もーきゅ?
食べさせないようにしたら強化は防げる?
もももも、きゅぴーん!!
閃いたのです! カントが先に食べちゃえばいいのです!
ぴゅーんと飛んで、アルゲーディアが捌いたお刺身を横取りなのです
もっきゅん! とってもおいしいのですー!!【UC使用】
もっきゅっきゅ、おいしいものを目にしたカントは超速いのです!
ここからはカントとのフードファイトなのです!
どっちがたくさんおいしいものを食べられるか競争なのです!
これは敵を怒らせ、隙を作るための作戦なのです
決してカントがおいしいものを食べたいからじゃないのです
ほ、本当なのですーっ!!
●白熱、フードファイト!
傷を腕の一本で押さえながらも、アルゲーディアは得意気に自分の周りへ食材を集合させる。
「まだまだ……! 美食さえ喰らえば私の勝ちだ!」
空中にふわふわ浮かぶ、たくさんの魚たち。
海鮮丼とお寿司を食べたのに、カントはそれを見てよだれを垂らしていた。
「もきゅう……!」
少しして、はっと食欲を振り払う。今は戦闘の真っ最中。しかも敵は食べ物を食べるほど強くなるという強敵だ。
「もーきゅ?」
引っ掛かりを覚え、手でほっぺたをくしくし掻く。
ポクポクポクと考えて——ピカーンと、名案を閃いた!
「もももも、きゅぴーん!!」
カントがもきゅもきゅ見上げているのには気付かず、魚を一尾引き寄せるとアルゲーディアは手際よく捌いた。刺身を手に取り、口を開けて舌を伸ばす。
「喰らおう、私は食い足りぬ——」
「もきゅきゅきゅーい!」
ぴゅーんと、白いもふもふが飛んできた。放物線を描くように飛んだカントはアルゲーディアの手から刺身を横取りして、ぱくっと口に咥えて着地。
「は……?」
「もっきゅん! きゅぴぴぴぴぴぃ!!」
——とってもおいしいのですー!!
やはり捌きたては格別。新鮮なお刺身にカントは瞳をキラキラさせた。
唖然とするアルゲーディア。そんな敵にカントが企てた作戦はとてもシンプル。
「きゅいきゅいきゅう、もきゅきゅ!」
——どんな食材も、カントが先に食べちゃえばいいのです!
「私から食材を奪い続ける気か、貴様ァ……!?」
「もっきゅっきゅ……!」
「やれるものならやってみろォ!」
かくして、カントとアルゲーディアのフードファイト——その戦いの火蓋が切られた。
食材を引き寄せ、アルゲーディアは次々と捌く。捌いた端から口に向かって投げるが、口に入る前にカントが飛んでくる。ぱくぱくっと回収すれば、じゅわっと旨味がカントの口の中に広がった。
「くそッ、こうなったら捌かずまるごと……!」
「きゅいきゅいきゅい!!」
「速ッ!?」
電光石火の勢いでカントが食材に飛びつき、パチパチ火花でちょうどいい焼き加減にしていただいていく。骨だけ綺麗に取り除いて、おいしく素早く食べ尽くす。
これが、アルゲーディア最大の誤算。
おいしいものを目にしたカントは——超速い。
もちろん、アルゲーディアだって最大限に抵抗している。だが、|決戦配備《ポジション》:ジャマーにより呼び出された隔壁が食材への進路を塞ぐ。
「もっきゅっきゅ……!」
ここまですべてカントの作戦通り。
自分の超高速によって相手を上回り、強化のための手段を潰して回る。おまけに自分はおいしいものをたくさん食べられて一石二鳥——。
「もきゅきゅう!?」
誰かに心の中を読まれたような気がした。
決して自分がおいしいものを食べたくて始めたのではない。まさか、そんなはずは……!
「も、もきゅぴぴぴーっ!!」
——ほ、本当なのですーっ!!
無実を叫ぶようにカントが鳴くと、その後ろでアルゲーディアが天を仰いだ。
「いい加減、まどろっこしいッ!!」
我を忘れて暴れはじめたのだ。
「きゅい!」
カントが待っていたのはこれだった。本当に。
見境なく、アルゲーディアは巨腕を振るう。動きは大振り。隙だらけだ。
「もきゅきゅきゅう!!」
おいしいもので元気いっぱい。パチパチ火花を弾けさせ、カントが突進を仕掛ける。
「なんだ……うがっ!?」
アルゲーディアの周囲を隔壁が取り囲む。コの字の壁が退路を絶ち、真正面からはカントが突っ込んでくる。
「もっ……きゅっぴー!!」
「ぐっ……はあああっ!?」
渾身の一撃が炸裂。吹き飛んだアルゲーディアは隔壁に強く叩きつけられた。
大成功
🔵🔵🔵
朱島・希咲
◎
【朱鬼】
食ったな。魚を…食ったな
キト先輩、とっととこいつシメましょう
鉄火丼他が危ういです
私が敵の注意を引きつけている間に
先輩に間合いを詰めてもらおうか
・決戦配備:ジャマー
敵と私とが一体一になるように
かつ先輩の姿が隠れるように
バイオガスで戦場を包んでくれ
【サイコキネシス】発動
攻撃は見えないサイキックエナジーにて
たらふく食った直後であろう
アルゲーディアの腹に全力の腹パン
さらに、すかさず
敵顔面にアイアンクローをキメて詠唱を妨害
これで星光が放たれたとしても
範囲はかなり狭まっているはず
星光は『念動力』や『オーラ防御』で
軌道を曲げることで回避
さて、お膳立ては完了
キト先輩、思いっきり食らわせてください
鬼頭・燎
◎
【朱鬼】
え、ちょ…ま!?
ウチのキサちお手製・鉄火丼焼き魚煮付けアジフライ予定の魚が食べられてるー!?
もちだよキサち!あいつ徹底的にシメちゃる!
決戦配備:引き続きクラッシャー!
ジャマたん(ジャマー)と連携していい感じによろ!
バイオガスでいー感じに隠密できそー
忍者になりきろ。にんにん
今の内に間合い詰めとくぜ
それにしてもアイアンクローキメるキサちかっこよ!
やったれやったれ!いけ!そこだー!
敵の攻撃は『オーラ防御』で防ぎつつ、タイミングを待って…
OKキサち、あとはまかしょ!
おさしみ天国改めキサちのお魚天国が待ってるからな、リミッター解除でいっくぜー!
【勇者の連撃】!!
いー感じにこんがりさせてやんよ!
●おさかなくわえた泥棒ヤギ
ケルベロスたちから猛攻を受け続けるアルゲーディア。確実に追い詰められてはいたが、まだ倒れる様子は見せない。
「フッ……美食を喰らって腹を満たしていなければ、危うかったかもしれんな」
戦闘前に魚にありつけていたためか、いくらか余力がある。
だがそれは、食い物の恨みを買うのと同義でもあった。
「食ったな。魚を……食ったな」
凄みを利かせ、希咲がアルゲーディアを睨む。両の拳を固く握り、臨戦態勢を取っていた。
「それはお前が喰っていいもんじゃないって……わかってるよな?」
「そーだそーだ!」
希咲の後ろから、ひょこっと燎も姿を見せた。ビシッと指さして、アルゲーディアに向かって一気に捲し立てる。
「おーまーえー! ウチのキサちお手製・鉄火丼焼き魚煮付けアジフライ予定の魚を食べただろー! 絶ッ対に許さん!」
「本当にいろいろ食べるつもりだったんすね、キト先輩。いいですけど」
「遅刻分、取り戻さんといけんし!」
「そうっすね……じゃあキト先輩、とっととこいつシメましょう。鉄火丼他が危ういです」
「もちだよキサち! あいつ徹底的にシメちゃる!」
ぱしぱしと拳を片方の手にぶつける燎の隣で、希咲は僅かに腰を落としていつでも仕掛けられるように構えた。
そんな少女二人を眺め、アルゲーディアは笑いを零す。
「遅れは取ったが……貴様らに料理される私ではない!」
「どうだか! ウチらの底力見せるよキサち!」
「はい! ……|決戦配備《ポジション》:ジャマー、視覚妨害を頼む」
希咲が宣言した瞬間、床の隙間から煙幕が噴射された。バイオガスは空間全体に行き渡り、景色を薄くぼやけさせていく。
アルゲーディアも目を細め、二人の姿を追おうとする。
そこに煙を突っ切って、戦闘ロボがアルゲーディアへと殴りかかった。
「んじゃま引き続き、いい感じによろ!」
先ほどの戦闘に続いて、燎は|決戦配備《ポジション》:クラッシャーを選択。宙を飛び交う鉄腕が煙の中から飛び出しては隠れ、確実に相手へ打撃を与えていった。
しかし、アルゲーディアにとっては戯れのようなもの。二本の巨腕で戦闘ロボの攻撃を耐え続け、もう二本で余裕の腕組み。
「どうした、この程度か!?」
煽るような声を飛ばしたアルゲーディアはその直後、表情を歪め悶絶した。
重い一撃が腹に入った。現に腹部もめり込んでいる。だが、腹には何も当たっていない。
正確には、当たっているようには見えない。
「ぐがが……っ!?」
「この程度なわけないだろ……!」
アルゲーディアから離れた場所で、希咲が片腕を突き出していた。
戦闘ロボで注意を逸らし、警戒を解いたところに不可視のサイキックエナジーを叩き込んだ。思いきり振られた拳が、たらふく喰った直後の腹部にクリーンヒット。全力の腹パンに、アルゲーディアはふらり体勢を崩す。
「キサちナイスー! お、このガスいー感じに隠密できそー。忍者になりきろ。にんにん」
希咲を応援する傍ら、燎はガスに潜ってドロンと隠れる。印を結んでこそこそしつつ、相手との間合いを詰めるのは忘れない。
よろけたアルゲーディアだったが、なんとか踏ん張り倒れるのを防ぐ。攻撃の正体はわからない。ならば、打ち払うまで。
「十分ではないが、掲げるしかあるまい……この美味さ、星ッ——」
「させるか」
「ぐううっ!?」
アルゲーディアの顔面を、希咲はサイキックエナジーで掴んだ。伸ばした手の握力を発揮すれば、連動して敵の頭がギリギリと締まっていく。遠隔的なアイアンクローに、苦悶の声が聞こえてくる。
「アイアンクローキメるキサちかっこよ! やったれやったれ! いけ! そこだー!」
潜伏しているはずの燎の応援が耳に入り、希咲の口元が微かに緩んだ。
そのままさらに力を籠める。サイキックエナジーに顔面を掴まれたまま、アルゲーディアは宙に浮き上がった。
「どうした、この程度か?」
「侮るな、人間め……星ッ——五つッ!」
アルゲーディアが腕を挙げ、手を開く。瞬間、五つ星が宙を舞い、眩い光が後光のように放たれた。光は照らされたすべてを焼き、喰らい尽くす。
しかし、その照射範囲はやや狭い。
「貴様、妨害はそのためか!」
敵の問いかけに、希咲は応じない。返してやる義理はないが、狙いとしてはその通り。アイアンクローで詠唱を妨害し、二度撃ちさせて範囲を狭めたのだ。
あとは光を凌ぐだけ。ただ、すべてを喰らうその性質は変わらない。
希咲は前方にサイキックエナジーを展開し、光の軌道を捻じ曲げる。燎は慌てながらもドラゴニアンの翼で自身を覆い、そこにオーラを流して防御を図った。
やがて、光の照射は止まる。喰らい尽くされた影響でバイオガスは晴れ、全員の姿が目視で視認できるようになった。
光を凌いだ希咲とアルゲーディアの目が合う。
「貴様だな、私を嬲っていたのは! ただでは済まさん——」
「さて、お膳立ては完了っすね」
ぽん、とアルゲーディアの肩に手が置かれた。
振り返ったところを、燎が満面の笑みで見つめ返す。思いっきり腕を引いて——。
「キト先輩、思いっきり食らわせてください」
希咲への返事代わりのストレートが、アルゲーディアの頬に突き刺さる。悲鳴を上げてごろごろ転がったアルゲーディアを、燎は腕を回しながら追いかけた。
「ぐっ……がっ……!?」
「オーケーキサち、あとはまかしょ! おさしみ天国改めキサちのおさかな天国が待ってるからな、リミッター解除でいっくぜー!」
這いつくばった敵を目標に定め、燎は床を蹴る。走るうちに目付きは鋭くなり、構えた右手には硬化した竜爪が現れた。
伏せた相手に対し、燎は掬い上げるように腕を振る。
「知ってっかー? 食い物の恨みってなー……ちょー怖いんよ!」
「へっ? あ……がああああっ!?」
敵を宙に浮かし、同時に身体を覆っていた巨腕の防御を打ち払う。無防備になってガラ空きのボディに向け、回転の勢いを伴った太い竜の尻尾を叩きつける。
「オラァ!」
「ぐふっ!?」
尻尾に薙ぎ払われ、アルゲーディアはまた背中を床に打つ。強制的にダウンさせられた相手の正面に立ち、燎は大きく息を吸った。
「いー感じにこんがりさせてやんよ!」
アルゲーディアが防御策を取るよりも早く、燎の口はがばりと開く。
「う……うがああああっ!?」
放出された炎の息が敵を焼き尽くす。真っ赤な火炎は相手の身体を包み込み、爆裂的な速度で焦がしていった。
「これがウチらの底力! どうだ! わかったらウチの魚返せ!」
「そういやキト先輩……市場自体は無事なんで魚はまだあるっすよ」
「ま!? だとしても、こいつは許さんけど!」
「それは私も同じっすね」
再び、二人は構える。食い物の恨みはまだまだ晴れそうにない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
天羽々斬・布都乃
◎
『美食都市か。
旨い稲荷寿司が食える都市ならそれもいいかものう』
「よくないですよっ!?」
よだれを垂らしているいなりに言いながら、
天羽々斬剣と布都御魂剣を構え、食事をしている敵に斬りかかりますが――
なっ、神剣が効きませんっ!?
『布都乃よ、どうやら奴には正攻法は効かぬようじゃ』
「ではどうすれば――」
『かくなる上は――リアクション対決じゃ!
料理を食べたリアクションで勝てば、敵の能力を打ち破れるはず!
たぶん、そんなノリの敵じゃ!』
いなりは、早速稲荷寿司を食べ――
『旨いっ!
これこそまさに日本の伝統食!
稲荷寿司に勝るものなど他にはないっ!
――ほれ、布都乃もやらんか』
「ええっ!?
わ、私もですかっ!?」
●激突! 食レポ!
攻撃を受け続け、アルゲーディアの肉体にはダメージが蓄積しつつあった。ふらふらと立ちながらも、近くに転がった魚を引き寄せ素早く捌く。
「私は野望を叶える……! 美食都市の野望をッ!」
刺身をぺろりと平らげたアルゲーディアに、布都乃は身構えた。
「あのデウスエクス、またお魚を……!」
『うむ、これ以上は看過できんな』
心強くいなりも相槌を打つ。
口からだらだらよだれを垂らしていなければ、もっと心強かったのに。
『しかし、美食都市か……。旨い稲荷寿司が食える都市ならそれもいいかものう……』
「よくないですよっ!?」
布都乃がツッコミを入れる最中にも、アルゲーディアはバクバクと魚を味わっていた。
「美味い! やはり美食は私の味方だ!」
「そっちも——それはあなただけのお魚じゃありません!」
天羽々斬剣と布都御魂剣を両手に握り、布都乃は飛び出す。両の剣を振り上げ、斬りかかろうとするが——剣は不可思議な力に弾かれた!
「なっ、神剣が効きませんっ!?」
「当然だ! 私の食事は誰にも邪魔できぬ!」
『布都乃よ、どうやら奴には正攻法は効かぬようじゃ』
「では、どうすれば——」
『かくなる上は——リアクション対決じゃ!』
ぽかんと口を開けて、布都乃はいなりを見つめ返す。
『料理を食べたリアクションで勝てば、敵の能力を打ち破れるはず! たぶん、そんなノリの敵じゃ!』
稲荷寿司のパックをどこからともなく取り出し、いなりは前へ駆け出す。いつの間に買ったんだと布都乃が指摘するより早く蓋を外し、稲荷寿司を口に放り込む。
『旨いっ!』
ほっぺたを押さえ、ぎゅううと味を噛み締める。
『厚い油揚げに甘い酢飯の組み合わせ! まさしく寿司の黄金比じゃ! これこそまさに日本の伝統食! 稲荷寿司に勝るものなど他にはないっ!』
「そんなのに敵が乗っかってくるはず——」
「貴様、なかなか饒舌だな……宇宙食通として、味の批評は見過ごせんッ!」
「なんか乗っかってきた!?」
睨みをきかせるアルゲーディアに、いなりは稲荷寿司のパックを投げ渡す。同じ土俵での勝負。その意図を組んだアルゲーディアはパックをキャッチして、稲荷寿司を一つ口に含んだ。
「伝わってくるのは、旨味だ。油揚げの持つ優しい風味が甘酢によって引き立ち、まるで庭園に座っているかのような深みに誘われる……逸品と、評しよう」
『こやつ……やりおる!』
「基準が全然わからない……」
『ほれ、布都乃もやらんか』
「ええっ!? わ、私もですかっ!?」
サーッと隣にいるいなりからパック寿司がサーブされてきた。進んでやる気にはならないが、劣勢なら仕方ない。他に方法がないならこれにかけるしかないだろう。
「わかりました! 食べますよ!」
稲荷寿司をつまみ、もぐもぐと味わう。
食べ始めて数十秒が経っても、布都乃は何も言わなかった。
「どうやら手詰まりのようだな」
『どうした布都乃!? またいつものポンコツか!?』
「すみません、なんていうか——温かいな、と思って」
その言葉に、いなりもアルゲーディアも虚を突かれた。
「何だと? この寿司は冷めているだろう?」
「そうではなくて。私、ときどき稲荷寿司を食べにいなりに連れ出されるんです。親もいなくて引きこもり気味で、そうしなきゃこの稲荷寿司を食べられなかったと思うと、お寿司なのに温かくて……」
気恥ずかしくなって、布都乃は微笑を浮かべた。
その笑みに、アルゲーディアは心を打たれる。
「ぐっ……食を通じた自分の思いを言葉に……!? 人間のことは理解できんが、これは理解できる! 私の完敗だああああッ!!」
叫び声を上げ、アルゲーディアが天高く吹っ飛ぶ。それをいなりは誇らしく、布都乃は呆然と見上げた。
『見事なリアクションじゃったぞ、布都乃』
「まったく勝った気がしないんですが……」
大成功
🔵🔵🔵
カーバンクル・スカルン
この世界の美食に詳しいというのなら、関東になる魚料理の美味しいお店も一通り知っているはず。アルゲーディアの目論見が成功したらそれらお店全部に大ダメージ……下手すれば閉店に陥るという事実を指摘する。真に美食を愛しているならば、自分の行いのせいで名前しか知らない美食が失われることに動揺するはず。最高は「対策を練るために撤退」だけどそう上手くいかないことは承知の上。
とりあえず、機械仕掛けのワニによる【鯨飲馬食】でアルゲーディアを倉庫から引き摺り出して、近くの東京湾にでも沈めるかな。魚みたいな部位があるから溺れはしないだろうけど、高くて美味いマグロをタダで食べ放題させるわけにはいかないしね?
●産地へお戻り
「やるなケルベロス……! だが、豊洲は私が手に入れる!」
野望を燃やし、傷を負いながらもアルゲーディアはケルベロスの前に立ちはだかる。
しぶとい敵を睨み、カーバンクルはため息をついた。
「まったく、何で市場ごと欲しいんだか……単に食材が集まる場所だと思ってんのかね」
小言を呟いている間にも、アルゲーディアは魚を浮かせて引き寄せる。捌いては喰らうを繰り返し、独占するように魚介類を食い尽くす。
力を蓄え、攻撃に変換するためだろう。一度構えを解き、カーバンクルは尋ねる。
「お前、本当にここを占拠にするつもりなのか?」
「そうだとも! 美食の集う場を基盤に美食都市を創り上げるのだ!」
「それさ、意味わかって言ってる?」
切り返すように問いかけると、アルゲーディアは食事の手を止めて眉をひそめた。
「何が言いたい? くだらん挑発か?」
「そのままだよ。宇宙食通ならさ、関東にある魚料理の美味しいお店も一通り知ってるはずだよね?」
「当然だ! 侮ってくれるな!」
相変わらず尊大な態度を取るアルゲーディアを意にも介さず、カーバンクルは淡々と話を続ける。
「侮ってはないけど。じゃあさ、どんな店があるか言ってみなよ」
「教えてやろう。銀座の寿司、六本木の鰻屋、青山のフランス料理、赤坂の中華料理……まだまだ訪問できてはいないが——」
「その店全部、潰れちゃうかもね」
「……え?」
ガイドブックを開き、得意そうに名前を列挙していたアルゲーディアだったが、カーバンクルの言葉を聞いて硬直した。
「豊洲が占拠されちゃうとね、魚の流通が全部ストップするわけ。そうなると東京はおろか関東、果ては東日本のお店全部に大ダメージが入るの。魚が入荷できなくて営業できないからね」
カーバンクルの説明に、アルゲーディアはどんどん青ざめていく。効いてる効いてると思いながら、人差し指と一緒にトドメの一言を突きつける。
「下手すると、閉店だよ?」
「ぐ、ぐぐぐぐ……!」
だらだら汗をかくアルゲーディアに、カーバンクルはほくそ笑む。
真に美食を愛しているならば、自分の行いのせいで名前しか知らない美食が失われることに動揺するはず。まだ食えていないものが食えなくなるのだ。よりにもよって自分の愚行で。
「美食都市を諦めなければ今ある美食が……いいやしかし、美食都市は私の野望……!」
敵は目に見えて動揺している。「対策を練るために撤退」とまではいかないだろうが、こうなってしまえば隙だらけだ。
ゆっくり歩いて、カーバンクルはアルゲーディアに接近する。
「まぁ迷ってるんならさ、今日のところはお引き取り願うよ」
そんなカーバンクルの背後から、機械仕掛けのワニが飛び出す。対応できず、アルゲーディアはワニに腕を噛まれる。牙は花開くように変形して、ワニを腕から離さない。
「海に還んな!」
「ぐっ……があああッ!?」
カーバンクルが発すると、ワニは一気に後退。そのまま部屋を飛び出し、アルゲーディアを外へと引きずり出した。棟の外に出ても勢いは止まらず、策を破壊して東京湾へと乗り出した。
水底へ、ワニはアルゲーディアを沈めようとする。引かれる力に逆らって抵抗するほど疲弊し、呼吸もできない苦しみに閉じ込められる。叫ぶことすらできず、地獄の責め苦にアルゲーディアは囚われた。
「魚みたいな部位があるから溺れはしないだろうけど、かなり消耗はさせられるでしょ」
ワニとアルゲーディアが出て行った方を眺めてから、カーバンクルは荒らされた室内に視線を移す。食材が散乱しているが、手付かずのまま残された魚もある。
「高くて美味いマグロをタダで食べ放題させるわけにはいかないしね?」
綺麗なマグロの表面を撫で、カーバンクルは安堵するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ネフラ・ノーヴァ
◎
【標石】
なるほど、敵ながら料理の腕はあるようだ、しかしマナーは星一つだな。
誘導、拘束などは皆に任せて、UCで奴が食おうとしているものだけを宝石化で妨害し、ビスマス殿の料理へと誘導する。
市場のものすべてを宝石化するのは冒涜というものだ。
首尾よく凌いだなら、テールステーキを今宵のメニューにしようかと語りながら奴の尻尾に刺剣で攻撃する。フフ、美味しく料理してやろう。
ビスマス・テルマール
◎
【標石】
豊洲外の食材で『料理』しご馳走し
グラビティチェインの摂取と強化妨害する、二人が上手くやると信じ一計仕込みましょうか
◯POW:キャスター
豊洲外の食材(可能なら非現地食材として関西圏や千葉等)と調理場要請『グルメ知識&情報収集』
誘い水に豊洲料理(食材は豊洲非現地)中心に『早業』UC『料理』
刺身や活け作りやなめろう、新鮮な穴子(明石産がなのは伏せ)は刺身(塩レモンで)にしても旨いのでソレも薦め
手軽な串カツ(肉や魚や野菜)さんが焼きや穴子巻きも勧め誘導し強化出来ぬまま満腹になって貰い
頃合い見て【全遠距離武装】に『属性攻撃(星光)』込め光学『誘導弾&弾幕&一斉発射』で此方から星付けましょうか
黒田・牙印
【標石】
さて、さっきのアイスエルフの上司ってのがコイツか・・・・・・とにもかくにもグルメ旅は終わりだ。とっととお帰り願おうか。
まずは「同じように豊洲の食を堪能した者」として話しかけてみる。「おう、俺も頂いたがここの魚介類はうめぇな」ってな。それは事実なんで話は合うだろうし、しばし歓談。
その隙にヤツの手を握って「向こうで食材をフルに活かした料理が食えるって話だ。行ってみねぇか?」と【怪力】とUCを使ってビスマスの方ヘ引っ張っていく。
後はディフェンダー要請で障壁を立ててもらい、元の場に戻れないようにして・・・・・・ネフラと一緒にボコそうか。
次があるなら侵略なんぞうっちゃって普通に食べに来るんだな!
●今日の料理は五ツ星!
豊洲市場、水産卸売場棟一階にある搬入口にて。
紆余曲折あって、敵将アルゲーディアは東京湾に沈んだ。勝負は決したようにも思われたが、龍の尾のような部位を持つアルゲーディアは何とか地上に復帰するだろう。
「さっきのアイスエルフの上司……本当に戻ってくるのか?」
「反応は消えていないそうだ。力の源である食材を求めて市場まで戻ってくる可能性は高いだろうね」
「大した食い意地だな。とにもかくにもグルメ旅は終わりだ。とっととお帰り願おうか」
東京湾の方向を見つめ、牙印とネフラは言葉を交わす。
その後ろでは、ビスマスが通信機から流れてくる声に耳を傾けていた。報告を聞いて、その表情はぱっと晴れやかになる。くるっと振り向き、満面の笑みで牙印とネフラにも伝える。
「牙印さん、ネフラさん! 頼んだもの、用意してもらえるそうです!」
「そうか! ならそこまでの誘導は俺に任せろ!」
「私も適宜、能力を使って奴を妨害しよう。では、ビスマス殿」
「はいっ……|決戦配備《ポジション》:キャスター!」
開けた場所に走り、空を見上げてビスマスは叫ぶ。
「調理場を、要請しますっ!」
声を発した瞬間、上空で何かがきらりと光る。
直後、一台のコンテナが空から降ってきた。ドスドスと振動を発生させて接地した後、コンテナは自ら展開する。調理台、コンロ、シンク——厨房に必要な設備がコンテナの中から現れた。
出現した調理場に合わせ、ビスマスは準備を進めていく。その様子を眺め牙印は頷いたが、備わった野生の勘が敵の接近を察知した。
「陸に上がったか……ビスマス、あとは任せた! ネフラ、行くぞ!」
「了解です!」
「無論だ。逃げなかったことを後悔させてやろう」
ビスマスに手を振られ、牙印とネフラは現場へ急ぐ。
ぽたぽた、と顎の先から水滴が垂れる。
「くそっ……酷い目に遭った……!」
咳き込みながら、アルゲーディアは市場に向かって直進する。地面から微かに浮遊し、不可思議な力の最高速度で全速前進。
既に満身創痍。挙句の果てに東京湾に沈められた。それでも市場に戻ろうとするのは、ひとえに豊洲の美食に惹かれるからだ。
搬入口に並ぶトラックが見えてきた。
もうすぐだ。速力を高めようとしたとき、進路を阻むように巨大なワニ——牙印がアルゲーディアの前に飛び出した。
「ちょっと待った。あんたに話があってな」
「何だ貴様は……!? 時間稼ぎであれば容赦せんぞ!」
「だから違うっての。あんた、豊洲の飯に惹かれてるクチだろ?」
牙印の言葉に、アルゲーディアは瞬きした。
「あ、ああ……ここには全国各地から運ばれた鮮度の高い食材がある。これに惹かれないはずはない!」
「おう、気が合うじゃねぇか。俺も頂いたがここの魚介類はうめぇな」
「うむ。割ったばかりのウニなど格別だな」
「そうか! 俺はカニを殻ごといけるぜ!」
意外に波長が合うのか、話は弾みに弾む。その間にじりじりと、牙印はアルゲーディアとの距離を詰めていった。
頃合いを見て、牙印はとある話題を会話に放り込む。
「ところで……向こうで食材をフルに活かした料理が食えるって話だ。行ってみねぇか?」
「何ッ!?」
この誘いに、アルゲーディアの口からよだれが垂れる。
魚を捌けはするが、それでも飽きは来る。ここらできちんと料理された一品を味わいたいところだ。名目上は侵略活動中の身、堂々飲食店に出入りするわけにもいかなかったし——。
ん? 侵略活動?
「はァァァッ!?」
「うわっ!? 突然デケェ声出すな!」
「そうだ! 私は地球侵略の真っ最中だ! となれば貴様のそれも罠だな!?」
「今思い出したのか、遅ぇな……」
敵意を籠めた視線で牙印を睨み、アルゲーディアはトラックへ腕を向ける。
荷台から魚が泳ぐように吸い寄せられ、アルゲーディアの周囲に何匹も浮かぶ。うち一尾を握り、鮮やかに捌いた。
「せっかくの誘いだが……私は食わねばならん。食が力となるのだ!」
思いきり刺身に喰らいつく。
——ガキンッ。
魚とは思えぬ硬さを歯に感じ、手元を見た。
刺身は艶やかな姿そのままで、宝石のような光沢を放っていた。
「なっ……宝石ッ!?」
「なるほど、敵ながら料理の腕はあるようだ。しかしマナーは星一つだな。調理前の食材に手を出すのは、つまみ食いと一緒だ」
驚いて硬直するアルゲーディアの視界の中へ、ネフラが姿を見せる。宝石化した魚と自分とを何度も見返す敵に、ネフラは嘲笑を零した。それを聞き、アルゲーディアが憤る。
「まだ食材はたんとある! たかが一つ宝石に変えようが——」
「無駄だよ」
淡い緑の長髪をなびかせ、引き寄せようとした食材に向けてネフラは髪を放つ。空中で髪の一本一本は硬化し、浮遊する魚にダーツのように突き刺さる。着弾位置を起点として魚は宝石に変化。コロン、と次々地面へ転がった。
「これを発動する場所がここでよかったよ。もし市場のものすべてを宝石化してしまったら……それは冒涜というものだ」
「貴様、よくも我が力の源を……!」
「心配すんな。飯ならたくさん食わせてやるよ」
火花散るネフラとアルゲーディアの会話に、ずいっと牙印が割り込んだ。物理的な距離もさらに一歩踏み込み——。
「な?」
筋肉質な腕でアルゲーディアの手を掴んでいた。
「はっ!?」
「ほらよ、こっちだぜ!」
腕を引き、牙印自身も走り出す。あまりに怪力に、抵抗虚しくアルゲーディアは引きずられる。
「え、遠慮したいんだが!?」
「水臭いこと言うなって。独り占めは性に合わねぇんだよ」
「悪いようにはしないさ。事実、食事はできるのだからな」
アルゲーディアを拉致、もとい連行して、牙印とネフラは搬入口へ戻っていく。
「お待ちしてました!」
アルゲーディアを出迎え、ビスマスがぺこりと礼をする。
野外に設営された調理場。その一角に設けられたテーブルにアルゲーディアは座っていた。
「こりゃ、無下にはできねぇな?」
「はい……」
ちなみに肩を牙印にがっちり掴まれているので、逃げられないのは変わらない。
「先に調理の済んだものから並べてあります。オススメはなめろうです!」
テーブルの上には刺身や活け作りなど、魚料理の皿が大量に置かれていた。目をぱちくりさせ、アルゲーディアはそれを眺める。断面はアルゲーディアが捌いたものより格段に綺麗だ。
「一目でわかる、すさまじい腕前だ……! 本当に、食ってよいのだな?」
「えぇ。少し時間がかかるものを調理しているので、その間にどうぞ」
「しかし、何故……?」
「それはー……完敗の意思表示と、美食都市建立の歓待、とか……?」
「……なるほどな!」
疑念を食欲が上回り、アルゲーディアが皿に手をつける。無理やりな理由だったが流せたらしい、とビスマスは胸を撫で下ろした。
「あ、穴子は塩レモンが美味しいですよ」
「そうなのか……む、これは美味い! 引き締まった身が酸味で引き立っている!」
「お口に合うならよかったです。それでは……!」
敵は敵、だがこの場では客でもある。好意的な感想を嬉しく思いつつ、ビスマスは調理台の食材に目を向ける。改めて気合を入れ、包丁を手に取った。
肉、魚、野菜をカット。串に刺してバッター液にくぐらせ、パン粉をまぶしサッと油に通す。
並行してフライパンで焼くのは、叩き混ぜて作ったハンバーグ状の魚肉。大葉を載せ、じゅじゅう焼き目を付ける。
ラストは捌いた穴子を、他の具材と一緒に海苔巻きにして。
「ネフラさん、これで全品完成です」
「どれも美味そうだな。私が食べられないのが残念だ」
料理の盛られた皿をプレートに載せ、片手でネフラが運んでいく。なめろうを品評するアルゲーディアへ、丁寧にそれらを差し出した。
「串焼き、さんが焼き、穴子巻きです。こちらもどうぞ」
「うむ、心していただこう」
ビスマスが料理名を伝えると、アルゲーディアは自ら料理を口へと運ぶ。
忘れていたが相手は宇宙食通だ。作り手としての緊張をビスマスは覚えた。アルゲーディアは黙ったまま、料理を食べ進める。
やがて、皿の上から料理が消えた。すべて完食したのだ。
「大した技巧だ。少しの時間や力加減で味が変わる揚げ物も巻物も、見事に仕上げている。そしてこのさんが焼き……焦げにならぬいい焼き加減で食材の魅力を引き出しているッ!」
腹を撫で、アルゲーディアは立ち上がった。
「大満足! 大満腹だ!」
「わぁっ……ありがとうございます!」
「そして——さらばだ! ケルベロスよ!」
テーブルと椅子、そして牙印の拘束を振り払い、アルゲーディアは浮遊する。
「この満腹感……これぞ五ツ星を繰り出せる美食の力だ! 食には批評が伴う! それが美食家の生き方! さあ、豊洲のすべてを喰らってやろう!」
腕を挙げ、その先に星が浮かぶ。後光が差し、輝きは増していく。
「豊洲の食は、星ッ——」
しかし、まるで電源が落ちたかのように光は消えた。
「何……ッ!? 何故だ!? 私は満腹だぞ!?」
「美食家ならよ、食う前に仕入れ先を確認することだな」
牙印の声に、アルゲーディアは振り返った。
「この串カツの肉と野菜は関西の市場で売られたもんだ」
「さんが焼きの魚は千葉のスーパーで購入されたものらしいね」
「そして、あなたがたくさん食べた穴子は——明石の漁港で買われたものです!」
「つまり、どれも豊洲で取引されたもんじゃねぇんだよ!」
「な、何ィィィィィッ!?」
相手は豊洲の食材を食して強化される。それならば、ここで売買されていない食材を食べさせて、強化させることなく満腹にさせてしまえばいい。目の前の食を無視できない美食家であるなら引っ掛かるだろう——そう踏んで実行した作戦は、見事成功した。
「こうなったら、市場に引き返して——」
「させねぇ! |決戦配備《ポジション》:ディフェンダー!」
牙印の要請により、踵を返したアルゲーディアを阻むように壁が出現する。退路をも塞ぎ、一気に敵を窮地へと追いやった。
「一度は、喰われる側に回ってはどうかな?」
微笑を浮かべ、ネフラが仕掛ける。
再び髪を、地面と脚を貫くように放つ。刺さった髪で相手を固定し、立て続けに発生する宝石化によって逃走を拒絶する。
「うぐうっ……!?」
「フフ、美味しく料理してやろう。テールステーキを今宵のメニューにしようか」
困惑するアルゲーディアに、ネフラは刺剣の先を向けて突っ込む。
胴と四ツ腕、それらにできるだけ攻撃を叩き込んでから背面へ回る。通り抜けながら、太い尻尾に何度も剣を打つ。タンタンタンとリズム良く。肉を柔らかくしているようでもあった。
「があああっ!?」
「次は俺の番だ!」
悶え苦しむアルゲーディアに、今度は牙印が飛びかかった。
怪力で、動けないアルゲーディアの身体を掴む。無理やり地面との一体化を引き剥がし、ぶんっと振って地面に叩きつける。それを発端に、何度も叩きつけを繰り返す。
「あがっ!? ばっ!? ふがっ!? げがっ!?」
「まだまだ行くぞ! 覚悟しろ!」
掴む部位を尻尾に変え、牙印は自分を軸にコマのように回転する。ギュルギュルと、ド派手なジャイアントスイングは高速に。ある程度の速さに達した瞬間、空に向かってアルゲーディアをぶん投げた。
「おらああああああっ!!」
「わあああああああっ!?」
「今だ! 決めろビスマス!」
「はいっ!」
宙を舞うアルゲーディアを目視で捉え、ビスマスはディメイション・なめろうブレイカー改を装着。敵を砲塔とミサイルランチャーでロックオンし、一斉発射の用意を整える。
「牙印さん、ネフラさん!」
「何だ?」
「何かな」
「今日のわたしの料理、星いくつですか?」
突然の問いに、二人は噴き出した。
「んなもん、決まってるだろ!」
「実はビスマス殿も、同じ星の出来だと思っているのだろう?」
「そうですね……じゃあ、今日は自画自賛しちゃいます」
ビスマスが微笑むと同時に、武装がすべてアルゲーディアへ向いた。
「今日の料理は——星五つ!」
全弾発射。いくつものレーザーが、ミサイルが、アルゲーディアに飛来する。
迫る攻撃と放たれた品評に、アルゲーディアは叫び声で返した。
「異論なァァァァしッ!?」
断末魔が爆発で掻き消される。
かくして、厄介な美食家は撃退されたのだった。
●防衛成功
豊洲市場の復旧まで、大した時間はかからなかった。
デウスエクスに荒らされはしたのだから、数日間だけ市場は営業を停止した。改修工事は破壊された壁を塞ぐ程度で終了し、再び活気ある市場となって蘇った。
今も豊洲では、様々な食材と人が行き交う大規模な取引が行われている。美食は独占されることなく、これからも世に暮らす人々に届けられるだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵