●幕間
願いというのはいつだって一方通行なものだ。
願えど叶えられるという保証はない。
そうであったらいいのに、程度に収まっているのならば人の感情は揺れ動くことはないだろう。どこか、叶えられるのではないかという期待があるからこそ、願いはいつのまにか肥大化していくのだ。
『取り戻したが、無事』
その文字が踊るメッセージを送ったのがヌグエン・トラングタン(欲望城主・f42331)であることを彼の妻である者たちは知る。
『また元に戻ったから、心配するな』
そうついでのように書き記されているし、署名と共に何故か足跡めいたものが刻まれている。
これは、と彼女たちは思った。
彼女たちが願うのはいつだって夫であるヌグエンの無事である。
彼が死せることはないだろうという確信あっても、その間に横たわる道程を彼女たちは知ることはできない。
足跡として知ることはできても、当事者に離れない。
ノンプレイヤーキャラクターであるが故であるとも言えたし、猟兵の力に覚醒していないからだ。
共に戦うことはできない。
仮に共に戦場に向かうことができたとしても足手まといだろう。
どこまで言っても自分たちはヌグエンの妻という存在でしかないのだ。
オブリビオンやバグプロトコルに相対して無事ではいられない。
故に、彼女たちをヌグエンは戦いの場に連れて行かない。
仮にユーベルコードで呼び出されたとしても、余程危険度がないか人手がひつような場合のみであろう。
故に彼女たちはヌグエンの戦う姿を見ることはない。
「……これって事後承諾よね」
「何かあったか、もしくは余程の強敵だったかでしょ」
「わかってるんだけど、わかってるんだけれどね……」
絶対これは、彼が思う以上の激戦があったに違いない。
記されたメッセージの文字だってなんだか心做しか震えがあるように思えてしまう。
「まったく、ヌグエンは……」
呆れ果てる。
だが、そういう懸命なところがあるからこそ、家族でいられるのだ。
そして、家族でいたいとも思えるのだ。
記された『凍炎不死鳥』の足跡もまた、彼女たちが察するところであった。
本来の姿を取り戻して、また元に戻った、という証明なのだろう。
まだ彼は戻らない。
世界一つの危機はまだ過ぎ去ってはいないのだろう。
なら、と彼女たちは願う。
いや、それは祈りに昇華するものであった。
「無事に帰ってきて欲しい」
ただ、そればかり――。
成功
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