#獣人戦線
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●汚染
もどらなければ、という思いが体の中を巡っているように思えた。
それは誰かの元にもどらなければ、という思いであるのと同時に元の姿にもどらなければという思いでもあった。
何を持って元、とするのか。
元の姿、というのならば真の姿に戻った今こそがそうではないのかという力がささやくようだった。
思考が定まらない。
我が身を走る痛みは耐え難いものであった。
全身の神経という神経が穿たれているような痛み。
耐えることができる痛みであるが、煩わしい以上に心を苛むものがある。
凍るように燃える。
矛盾めいた力であるが、これが己の元々の力である。
ならば、純粋に元に戻ったと言えるだろう。
それを分かつというのだ。
痛みが走るのも無理なからぬことである。
だが、一度は分かつことのできた力だ。あの時は痛みも何もなかった。
ただ分かつだけだったのだ。
なのに、何故痛みが走るのか。
「『骸の海』……過去の集積地か」
そこにあるのは痛みの記憶であるのだろう。
汎ゆるものは過去になる。
例外はない。
ならば、己の身が訴えている痛みは、過去にあったはずの痛みなのだろう。その再現でしかないのだとヌグエン・トラングタン(欲望城主・f42331)は思う。
一度は分けた『凍炎不死鳥』が離れないということはそういうことだ。
あの痛みをもう一度得るということが耐え難いのだろう。
まるで責め立てる様な痛みだった。
妻たちに連絡を入れなければと思うも、しかし指が動かない。
「まあ、半日というところか」
倒れ込むようにしてヌグエンは伏す。
体中を苛む痛み。
書きかけのメッセージ。
視界に映るのはそればかりだった。
少しでも早くと思ったのは、情からだろうか。しかし、その情さえもかき消すように痛みが体中に走り抜ける。
呻くことはない。
ただ、静かに眠るようにして体の動きを止める。
全ての神経に痛みが走るというのならば、その神経全ての痛み、痛覚というものを精査し、止めていくだけだ。
アーティフィシャル・インテリジェンスは、間違わない。
ただの一つも。
故にヌグエンは、自身の体内にある『骸の海』の除去に務める。
いつかは過去になる。
別離の痛みさえも過去になる。
なら、これは詮無き痛みだとヌグエンは静かに回復に努めるべく、その思考エンジンに回していたリソースを回復に注ぐ。
もどらなければ。
その言葉だけが響いた――。
成功
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