1
雷轟

#クロムキャバリア #ノベル #レイテナ #人喰いキャバリア #鯨の歌作戦

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#クロムキャバリア
🔒
#ノベル
#レイテナ
#人喰いキャバリア
#鯨の歌作戦


0



雨飾・樒




●鯨の歌の幕間
 百年にも及ぶ戦乱が続く世界、クロムキャバリア。
 アーレス大陸東部の国家連合体たるレイテナ・ロイヤル・ユニオンは、暴走した大規模プラント群のゼロハート・プラントから無尽蔵に湧き出る無人機の襲来にさらされ続けていた。

 スカルヘッドが撃墜されてから数ヶ月。
 東アーレス半島全域の奪還を目指した鯨の歌作戦は未だ進行の最中にあり、日レ同盟軍と人喰いキャバリアは激しい衝突を繰り返している。

 東アーレス半島において地上での主戦域となっているのは38度線である。
 38度線とは、東アーレス半島を南北に割る中間線で、レイテナ軍はここに絶対防衛線を敷いている。
 全長約248kmにも及ぶ長大な防衛線に北方から押し寄せるのは人喰いキャバリアの大群勢。
 人喰いキャバリアは不定期的に大規模な梯団を構成し、38度線に敷かれた防衛陣地に対して津波の如き大攻勢を仕掛けてくる。
 対する日乃和とレイテナの同盟軍は、ギムレウスやアダタラ等を始めとした重砲撃キャバリアで応戦。無尽蔵の物量で押し寄せる人喰いキャバリアを、徹底的な面制圧で粉砕し続けている。
 38度線に砲火の音が轟く。
 その重い爆音は、人が意地汚く抗い、虚勢を張るべくしてあげた怒声でもあった。

●戦場飯
 曇天の狭間に沈み掛けた夕陽が差す。
 穴だらけになった荒野のずっと遠くで、幾つもの爆発音が連続して鳴った。ギムレウスとアダタラが背負うキャノン砲が奏でる後方噴射の音だ。
 38度線に敷かれた防衛線の一区画。
 その前線に展開する砲撃陣地の後方に設置された拠点の建屋では、とある任務のために待機する兵士達が最後になるとも知れない晩餐を取っていた。

 雨飾・樒(Dormouse・f41764)は、四角いワンプレート皿に盛り付けられたベイクドビーンズをスプーンで掬いながら、腹に響く重低音を聞いていた。
 スプーンを口に含むと、甘くて辛いソースが舌を不愉快に困惑させる。
 噛み締めた豆は酸味が強く、食感がねちゃねちゃとしていた。
 レイテナ軍で振る舞われる食事は日乃和軍のそれと比較するとあまり美味しくない。持ち込んだ焼き鳥の缶を開けてしまいたくなる。獣人戦線の食事と比較するならば……あちらで食べる酷い飯よりは遥かにまともではあるが。
 日乃和軍出身者の反応はいかほどだろうか。樒は半ば義務感で咀嚼しながら目だけを横に向けた。近い席では灰狼中隊の隊長、尼崎伊尾奈中尉が同じ食事を行儀悪く貪っていた。まるで飢えた狼のように。荒く荒んだ灰色の髪に狼の耳を幻視した。不死身の灰色狼の異名の由来はこれなのだろう。
 他の隊員達は仲間内で談笑したり或いは黙々と炭水化物を腹に詰める作業を進めている。
 樒も習って作業に没頭した。食事も兵士の仕事の内。食べられる内にしっかり食べておかなければ、いざという時に動けない。

『司令部より全部隊へ。敵梯団後方に狙撃手型の出現が確認された。所定の部隊は直ちにスナイパーキラーの実施に備えよ。砲撃部隊は砲撃を中断。繰り返す――』

 いざという時はこちらの都合なとお構いなしに訪れる。
 大音量で流れた放送を合図に伊尾奈ら灰狼中隊の面々がスプーンを置いて建屋を出る。樒も最後の一口を飲み下すと席を立った。あまり食べた気がしなかった。

●鼠と狼は死地へ
 前線拠点の敷地内を様々な兵科の戦闘員、或いは車輌が行き交う。
 常日頃から物々しい空気が先程の放送で更に顕著となった。
 灰狼中隊のキャバリアの駐機区画を樒が小走りで横断する。周囲では灰狼中隊の隊員達が跪いていたイカルガに乗り込み、背負うフライトユニットの翼を広げて立ち上がり始めている。
 そして樒も自分の機体の元に辿り着いた。
 機体といってもキャバリアでは無い。
 扁平な楕円形の板状の機体――高機動ビーム突撃砲の名を付けられた全領域対応型機動兵器。それが樒の機体だった。
 機能としては外観が示す通りにホバーボードだが、底部に一門のビーム砲を備えており、これ自体が機動砲台の役割を果たす。故に高機動ビーム突撃砲の名を冠するに至った。
  自走キャバリアハンガーに立て掛けてあったそれを樒は手に取る。着用する試製特殊作戦補助装備の格好と合わさった姿は、海に繰り出すサーファーそのものだ。

「メインシステム、戦闘モード起動」

 樒が鼠の如き――比喩ではなく鼠なのだが、小さな声で呟く。ホバーボードに内蔵された自律AI、ライゴウが音声入力を受け付け、樒の周囲に計器類の立体映像を投影した。樒はそれらに素早く目を逡巡させる。

 試製特殊作戦補助装備との動作接続、正常。
 零式射撃動作補助符との動作接続、正常。
 零式脚部運動強化符との動作接続、正常。
 零式浄化処理符との動作接続、正常。
 零式雑嚢符との動作接続、正常。
 零式空中跳躍符との動作接続、正常。

 全ての機能が正常に立ち上がっている事を確認すると、傍に抱えて走り出した。
『今日は新人が居るから仕事の内容をもう一度確認する。死にたい奴は聞かなくていい』
 先んじて集結地点に到着していたアークレイズ・ディナから、伊尾奈の低くしゃがれた声が発信された。樒が命じなくともライゴウが勝手に通信帯域を合わせてくれる。
『人喰いキャバリアの集団に突っ込んで、後ろに引きこもってる目ん玉の怪物を皆殺しにした後、ここに帰って来る。これがアタシらの仕事、スナイパーキラーだ』
 樒は伊尾奈の淡々とした声音の裏で、今回の依頼の内容を思い返す。

 スナイパーキラーとは、狙撃手型と呼ばれる人喰いキャバリアを殲滅するための突撃作戦である。
 38度線の防衛の支柱となっているのが砲撃による面制圧だ。
 面制圧が有効に作用している限り、38線の防衛は苦しくも維持されている。
 だがその柱をへし折ってしまう個体が人喰いキャバリアの中から出現した。
 それが狙撃手型である。
 狙撃手型は極めて精密なレーザー狙撃によって、降り注ぐ砲弾を全て撃墜してしまうのだ。
 撃墜対象は砲弾だけに限らない。例えば有効射程内をキャバリアが飛んでいれば標的にされるだろう。狙撃手型の存在はキャバリアの三次元機動にも大きな制約を強いるのだ。
 地上に出現した殲禍炎剣――誰かが口にした比喩は決して大袈裟な表現ではない。
 
 狙撃手型の多くは梯団の後方に集中して布陣している。
 敵の密集地帯を強行突破し、後方の狙撃手型を殲滅する事で、砲撃が有効に作用する状況を取り戻す。
 以上がスナイパーキラーを実施する目的である。

『新人、始める前に確認しておく』
 立体映像越しに伊尾奈が重い声と眼差しを樒に向けてくる。樒は無言で見返して続きを待った。
『この仕事に死にたがりは必要無い。アンタはどっちだい?』
 樒は伊尾奈の短い言葉の真意を直ちに理解した。
 スナイパーキラーはその任務の難度からして、精鋭と呼ぶに値する人員によってのみの遂行が望ましい。
 連携が重要な都合上、一人当たりの負担は大きい。途中で誰かが欠損すれば残りの人員にのしかかる負担の増大は必至だ。
 そしてスナイパーキラーは一回やって終わりではない。狙撃手型が出現する度に繰り返さなければならないのだ。
 遂行して生還する――命懸けの任務だが、これが必須前提だ。
 スナイパーキラーを遂行する上で、死にたがりは仲間を危険に晒す害悪でしかない。

 樒は伊尾奈の赤い瞳を見据えて口を開いた。
「死ぬ訳にはいかない理由を背負ってる」
 淡々とした口運びだが、背負う理由は大きく重い。
 樒には生きて精算しなければならない荷物があった。
 それは借金である。
 桐嶋技研に開発を依頼した高機動ビーム突撃砲――水之江が頭を悩みに悩ませた末に生み出されたその性能は、樒の要求仕様を忠実に満たすものであった。
 しかし代償もまた性能に見合う重さだった。
 残り幾らだっただろうか。要らぬ気を利かせたライゴウが樒の目の前に額を表示した。数字がたくさん並んでいる。
 樒に借金を踏み倒すつもりは無いにしろ、仮に死んだからといって無かった事にはされないだろう。
 金の重さは責任の重さ。金を払うという事は責任を負わせる事で、金を受け取るという事は責任を負う事。私は責任の無い仕事は絶対にやらない。誰かの受け売りを豪語する水之江は金に妥協しない性格だという事は樒も既知している。水之江ならば口に出すのも憚れる倫理を無視した手段で……或いは地獄にだって取り立てに来るに違いない。
 返済方法の相談を持ち掛けた結果、今の仕事を紹介されている点からも推して知るべしだろう。

 そんな樒の内を知ってか知らずか、伊尾奈は『そうかい』とだけ言うと目を樒の瞳から外した。
『精々薬莢に頭ぶつけて伸びないようにしておくれ。コケた奴を拾う暇なんて無いからね』
 伊尾奈の物言いは本気なのか冗談なのか判然としない。
『了解』
 樒は素っ気なく返事をしながら北の空を見る。先ほどまで中断されていた砲撃が再開されたようだ。
 地平線から光線が伸びる度に空中で爆炎が咲く。砲弾が狙撃手型に迎撃されているのだ。
『繰り返す! 所定の部隊は直ちにスナイパーキラーを実施せよ! 砲撃部隊は支援砲撃を開始! スナイパーキラーを援護せよ! 繰り返す――』
 切迫した通信音声が耳朶を打つ。樒は身体の筋肉が強張るのを感じた。
『ウルフ01より灰狼中隊全機、行くよ』
 アークレイズ・ディナが歩行を開始する。了解との応答と共にイカルガの集団がアスファルトの地面を踏み鳴らす。
 樒が脇に抱えていたホバーボードを手放した。尾部のバーニアノズルに光が灯り、磁石が反発し合うようにして地表寸前で浮き上がった。
 足を掛けてホバーボードの上に立つ。
『GET RIDE』との仰々しいフォントの横文字が目の前に展開した。
 樒を載せた高機動ビーム突撃砲が、灰狼中隊の戦列に従って進み出す。

 狼の群れが人喰いの化け物犇く死地へ行く。小さな鼠を伴って。

●ゲット・ライド
 迎撃される事を承知で砲撃を繰り返すギムレウスやアダタラ。その砲撃陣地をすり抜けて灰狼中隊のキャバリア達が疾駆する。高機動ビーム突撃砲の輪郭は、キャバリアだらけの戦場において一際小さく見えた。
 風を裂いて進むホバーボードの上で、樒は身体を一体化させるように俯せの姿勢を取っていた。
 吹き付ける風とのしかかる重力加速度が、高機動ビーム突撃砲の速力をそのままに物語っている。戦闘機動に移ればさらに負荷が増大するであろう。
 視界の傍らにはライゴウが算出した突入ルートが表示されている。近接戦術データリンクを介して灰狼中隊の各機にも伝達されているはずだ。
 スナイパーキラーはただ敵陣を突っ切って狙撃手型を排除すればいいという甘いものではない。地形を利用してレーザーの射線を切りながら、極力敵の密度が薄い地帯を探して突撃しなければならないのだ。
『今日は一段と大所帯だ。注意してくれ』
 通信音声の元は一瞬すれ違ったグレイルだろう。樒と灰狼中隊は前線部隊がこじ開けた突入口より敵陣へと飛び込んで行った。
 間も無く敵梯団の先頭との交戦距離に入る。右大腿部に伸びた樒の右手が、亜空間から六式拳銃丙型を抜いた。
 拳銃の弾数や発熱量がインターフェースとして視界に広がる。零式射撃動作補助符と連動して電子的なロックオンも可能となった。ホバーボードの突撃砲の制御はライゴウがやってくれている。樒からも視線で照準と発射が可能ではあるが。
『新人、弾も燃料も帰りの分残しときな』
 先陣を切るアークレイズ・ディナのテールアンカーが口を開き、青白い荷電粒子の光を滞留させ始めた。
「わかってる」
 必要最小限の敵だけを排除するのがスナイパーキラーの鉄則だ。始まったが最後、戻って来るまで補給は受けられないのだから。
 伊尾奈機と同様に先を行く高機動ビーム突撃砲の砲門から蛍光色の緑が溢れ始める。ロックオンカーソルが赤に転じた。
 底部の機首に備わる砲門から緑の光線がまっすぐに伸びた。

 ゼルグ・ジールのギガブラスターキャノンを源流に持つ荷電粒子砲。
 カナリアのハイパーメガバスターの妹に当たる。
 プラズマチャンバーの改良により圧縮時の高効率化がなされ、バレル内部の超伝導コーティング、プラズマ偏向収束力場発生装置の追加増設など、様々な手法を用いて減衰率を抑制することにより、理論値上の限界出力を発揮するに至った。

 細く、されども研ぎ澄ました光線が、直進進路上の人喰いキャバリアを射抜く。
 高機動ビーム突撃砲が僅かに機首を向きを横に振った。合わせて荷電粒子の光線も向きを変えて地平をなぞる。
 僅かな照射時間。僅かな角度変更。
 だが進路上の人喰いキャバリアの集団を薙ぎ払うには十分な殺傷能力を発揮した。
 身体を上下に焼き切られて崩れ落ちる人喰いキャバリア。樒を乗せた高機動ビーム突撃砲が骸の上を駆け抜ける。後続の灰狼中隊の隊員が感嘆を漏らす。
 されども戦果に満足している暇など無い。樒は身体の体重を左に傾けて舵を取る。敵の密度が比較的薄い進路に修正するためだ。
 樒が体感した機動はしなやかだった。ストームイーグルと同等以上の空戦能力は確かに備わっているらしい。
 接近警報が鳴った。視界の横から人喰いキャバリアが飛び掛かる。条件反射で体重を右に押し込むと天と地が逆転した。標的を見失った人喰いキャバリアが頭上を抜け、後続のイカルガからアサルトライフルの掃射を浴びて血飛沫を上げた。
 人機一体とはこの事か――咄嗟の判断にもライゴウは機敏に反応して理想の動きを実現してくれる。身体に加わる負担としてはなかなか苦しくもあったが。

 撃ち、躱し、走る。
 樒と灰狼中隊は徹甲弾の如く敵陣を深く貫いていった。
 やがてライゴウから狙撃手型の展開予想地点に到達した報せが届くと、敵だらけの視界が途端に開けた。
 伊尾奈機が信号弾を撃ち出す。支援砲撃を停止させるための信号弾だ。
「見つけた」
 狙撃手型の容姿は、巨大な眼球を乗せた四つん這いの人体としか形容できない。さながら悪趣味なクリーチャーである。
 しかし想定よりも数が多い。おまけに散らばっている。
『ウルフ01より灰狼中隊全機! いつも通りだ!』
 伊尾奈が怒声を飛ばすとレールガンを抱えたイカルガが狙撃手型の処理に向かい、アサルトライフルを携行したイカルガは狙撃手型への牽制と周囲の防御の二手に分かれた。
「私は?」
『好きにしな』
 いい加減な指示一つを残して伊尾奈機は狙撃手型に向かってしまった。
「だってさ」
 樒は受けた指示を足元の相棒に受け流す。そして俯せの姿勢から立ち上がり、サーファーらしい立ち姿となった。零式空中跳躍符が足裏をボードに固定しているため、体感での安定性は抜群だ。
 推進装置から翡翠の尾を引いて高機動ビーム突撃砲が地表を滑走する。向かう先は標的に定めた狙撃手型。眼球の中の瞳はこちらを向いていない。
 受けた説明が正しければ、狙撃手型には瞼状の防護膜が存在するらしい。キャバリアの小銃程度では貫通出来ないという。
 更に光線は強力かつ正確だ。睨まれれば最後、標準的なキャバリアでは一撃で貫通されてしまう。
 高機動ビーム突撃砲で抜けるのか?
 目から逃げ切れるのか?
 樒の脳裏を一抹の疑問が過ぎる。
 殺気が膨らんだ。樒の接近を感知した狙撃手型の瞳と視線が交差した。
 まずい――と思った瞬間、足裏の固定が外れて身体が跳ね上げられた。高機動ビーム突撃砲が尾部のバーニアノズルから推進噴射の光を膨らませて急加速する。空中に描かれる翡翠色の鋭角な軌道。狙撃手型の瞳が樒を外れて高速機動物体を追う。
 ライゴウの意図を察知した樒は着地と同時に六式拳銃丙型を構える。照星と照門の先に狙撃手型が重なった。
 ライゴウが作り出した一瞬の好機を活かせる。眠りの魔弾なら。
「沈め、静寂の奥底に」
 トリガーを三度引く。青白いマズルフラッシュが瞬いた。
 狙撃手型の瞳孔が収縮して光が集う。レーザーを照射する兆候だ。すぐに光は臨界まで収束し、一条の光線となって高機動ビーム突撃砲を貫く――前に急速に減退して消え失せた。
 樒は狙撃手型の瞳孔が散大するのを見届ける間もなく次の標的に眠り薬の魔弾を撃ち込んだ。二体目、三体目。四体目に銃口を重ねた背後で、一体目の狙撃手型を翡翠色の光線が貫いた。
 レーザー発振器官を損傷した狙撃手型の真上を高機動ビーム突撃砲が抜ける。荷電粒子光線の断続射撃が、樒の魔弾で機能不全を起こした狙撃手型を立て続けに撃ち抜く。
『随分お利口なサーフボードじゃないか』
 三体目の狙撃手型の眼球が内側から弾けた。伊尾奈のアークレイズ・ディナがブレイクドライバーで文字通り挽き肉にしたのだ。
『さすが髑髏征伐猟兵!』
 樒が止めた敵に灰狼中隊のイカルガ達が獰猛に襲い掛かる。大型レールガンから放たれた弾体が狙撃手型の眼球に突き刺さった。
 樒は六式拳銃丙型のマガジンリリースボタンを押し、足元に滑り込んできた高機動ビーム突撃砲に飛び乗りながら新たなマガジンを叩き込んだ。
「ライゴウ、次は?」
 視界内に浮かぶ三次元レーダーが拡大表示された。狙撃手型を示す赤い大きな輝点が一つ灯っている。樒が体重で舵を切ると高機動ビーム突撃砲が進路を急速反転した。
 二機のイカルガがアサルトライフルで射撃を繰り返している。撃破は出来ないが、こうすることで瞼状の防護膜を降ろさせ、レーザーの照射を阻止できるのだ。
 樒が腰を深く落とす。高機動ビーム突撃砲のバーニアノズルで光が爆ぜる。急激な加速に骨身の軋みを覚えながら樒は六式拳銃丙型の引き金に指を掛けた。
 排出される三つの薬莢。足を崩す狙撃手型。研ぎ澄まされた翡翠色の荷電粒子が眼球部分の中央を貫く。
『まったく……アンタも猟兵って訳かい』
 後を追っていたアークレイズ・ディナのブレイクドライバーが狙撃手型の目を捻り切って細かな肉片に変じさせた。樒の視界に狙撃手型の殲滅を完了した旨の報せが飛び出す。
「ここの区画はいまので最後」
 樒が簡潔に述べると伊尾奈の機体から信号弾が飛んだ。
『ウルフ01より司令部、こっちは片付いた』
『フェザー01より司令部へ! 担当区域に出現した狙撃手型の殲滅を完了致しましたわ!』
『スワロウ01より司令部に報告です! 狙撃手型の掃討、終わりました!』
 各方面でスナイパーキラーに当たっていた部隊からの成功の報告と信号弾が上がる。司令部からは速やかに戦域を離脱し帰投せよとの命令が下った。樒は我知らずの内に鼻孔から深く息を抜いていた。
 しかし問題はここからである。これから敵が犇めく危険地帯を突破しなければならないのだ。スナイパーキラーで消耗した状態で。
『ウルフ01より灰狼中隊全機、それから新人、帰るまでが仕事だ。さっさと終わらせたけりゃフォーメーションを組み直しな』
 アークレイズ・ディナを最後尾として灰狼中隊が編隊を構成する。
『アタシは殿だ。先頭は樒が行きな。そのサーフボード、利口なんだろ?』
 さっきまで新人扱いだったのに、とんだ責任ある大役を押し付けられてしまった。けれど樒は四の五のよりも「了解」の一言を選んだ。既に流動を開始している編隊の前に高機動ビーム突撃砲が躍り出る。
「ライゴウ、離脱ルート出して」
『話せるの?』
 隊員の誰かが訝しく覗き込むようにして問うた。
「まあ」
 片手間に応じる樒。ライゴウが提案した進路は、敵の密集地帯を複数回突破する必要がある際どい進路だった。だが部隊の総残弾数や推進剤の残量を鑑みれば、現状で最も適切な答え――樒はそうと判断し、自らが先陣を切ることで後続に意思を示した。
 高機動ビーム突撃砲が稲光の如き鋭角な軌跡を描く。

 樒と灰狼中隊の帰還は、前線拠点の兵士達に喝采で迎え入れられた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年05月26日


挿絵イラスト