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獣人世界大戦⑲〜屍山血河のその先で

#獣人戦線 #獣人世界大戦 #第三戦線 #ワルシャワ条約機構 #五卿六眼『始祖人狼』

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《唱和》
 唸るように音が鳴った。
《吾が走狗たちよ、在れ》
 瞬間、獣の群れが立ち上がる。
 ぐるるる。ぐろろろろ。おおおん。うおおおおおおおおおん。
 唸り声は遠吠えと化し、そして響き合いながら広がった。
《唱和》
 その中心で、獣が闇を仰ぐ。
《すべてを狩り殺し、排除せよ》
 狼の声に応じて、獣たちはふたたび吠えた。
 ワルシャワ条約機構。その中枢に、その姿はある。
 ——始祖人狼。
 闇を統べる者たち“五卿六眼”の一角であり、超大国ワルシャワ条約機構の支配者。
 それが、猟兵たちを滅ぼすべく待ち受けていた。

「“詰め”の局面であるぞ! |汝《なれ》ら、覚悟を決めよ!」
 グリモアベースにて、ロア・メギドレクス(f00398)は叫んだ。
 そうしてから、ロアは猟兵たちに映像情報を見せる。
「獣人戦線世界における大禍、世界大戦の最終局面である」
 映し出されたのは、ワルシャワ条約機構中枢部——そこに陣取る首魁、始祖人狼の姿であった。
「ワルシャワ条約機構の支配者、始祖人狼。……此度の世界大戦のきっかけは、奴が動き出したことであったな」
 ロアはこの戦乱の始まりを振り返り——そうしてから、猟兵たちを見た。
「『はじまりの猟兵』を巡る戦いも大詰めということだ。……そういうわけで、汝らには奴を叩いてもらう」
 ロアは説明する。
「戦場はワルシャワ条約機構中枢部。ここでは現在、始祖人狼が戦闘状態で待機している。喉元まで迫った汝らの進撃を真正面から迎え撃とうという腹積もりのようであるな」
 映し出された戦場は暗く赤い。絵の具で塗りつぶしたように膨大な量の血で染め上げられたワルシャワ中枢区域は、ダークセイヴァー世界とみまごう凄惨な姿をしていた。
「見ればわかるように、奴は本来ダークセイヴァー世界に由来するオブリビオンだ。五卿六眼の名は汝らも知っておろ」
 五卿六眼。
 ダークセイヴァー世界を支配していた闇の種族の中でも高位の存在。始祖人狼は、そこに列される上位オブリビオンの一体である。
「……すなわち、かなりの強敵ということだ。ゆめゆめ注意を怠るでないぞ」
 続けてロアは敵性の戦力分析を猟兵たちへと伝える。
「始祖人狼は非常に強力な戦闘出力を誇る上位オブリビオンだ。フィジカルもさるものながら、剣を用いた戦闘技術も非常にレベルが高い。まともに打ち合えば汝らでも危ういぞ」
 凄まじい強さの敵だ。容易く御せると思ってかかってはならぬとロアは忠告する。
「更に、奴は単純な戦闘力の高さに加えて強力な特殊能力も用いてくる。……それが『人狼化』だ」
 人狼化。
 始祖人狼がその身に宿す『人狼病』の感染源を撒き散らすことで、周囲のあらゆる存在を人狼へと変異させる能力である。
「奴のばら撒く人狼病は生き物のみならず土や石や大気すらも侵し、奴の配下となる人狼を生成する。……実質的に、虚空からいくらでも軍勢を召喚する能力とも言えるであろ」
 それはまさに無尽蔵の戦力。始祖人狼はこの能力によって無限に人狼騎士を作り出し、猟兵たちを迎え撃ってくるのだ。
「人狼の兵隊はいくらでも出てくるが、かと言ってひと息で散らせるような雑魚でもない。なめてかかるなよ。死ぬぞ」
 ロアは声を低くして猟兵たちに忠告を重ねた。
「……というわけだ。汝らはどうにかしてこの無限に現れる人狼の群れを躱し、奴の喉笛に刃を突き立ててやらねばならぬ」
 厳しい戦いになるぞ、と。ロアは重々しく付け加えた。
 しかし、ロアはそこから顔を上げて猟兵たちの姿を見据え、一拍の沈黙を置いた後に口を開く。
「だが、汝らはこれまで多くの戦いを乗り越えてきた歴戦の勇士であり、余の誇りでもある。この戦いは困難な状況であるが、汝らは必ず勝って戻ってくると余は信じておるぞ」
 ロアは力強く頷いた。
 そうして。
「では、これより余が汝らを敵の喉元へと送り届けよう。心してかかれ。そして、汝らの持ち得る全ての力をもってかの敵を屠り、この大戦に終止符を打つのだ!」
 グリモア猟兵が叫ぶ。
「現時刻をもって、此度の戦乱における最終作戦を開始する!
 撃破目標、超大国・ワルシャワ条約機構が首魁、始祖人狼!
 汝らの持てる力を残さず尽くし、この世界に平和を取り戻すのだ!」
 行け、猟兵たちよ。
 ロアはその手にグリモアを掲げ、そして輝かせた。

 ――かくして、猟兵たちは戦場へと跳ぶ!


無限宇宙人 カノー星人
 ごきげんよう、|猟兵《イェーガー》。戦争も大詰めですね。
 たぶん今回はこれで最後になります。よろしくお願いいたします。

★このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「獣人世界大戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 このシナリオにはプレイングボーナス要項があります。ご確認ください。

プレイングボーナス……無限に現れる人狼騎士をかわし、始祖人狼を攻撃する/大気や大地などなどの「人狼化」に対処する。
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第1章 ボス戦 『始祖人狼』

POW   :    天蓋鮮血斬
【巨大化した大剣の一撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    血脈樹の脈動
戦場内に、見えない【「人狼病」感染】の流れを作り出す。下流にいる者は【凶暴なる衝動】に囚われ、回避率が激減する。
WIZ   :    唱和
【3つの頭部】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【人狼化】の状態異常を与える【人狼化の強制共鳴】を放つ。

イラスト:UMEn人

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

人狼騎士は、無視して走り抜けるか、範囲攻撃で倒しまくるかの二択だが
生憎、俺は範囲攻撃が苦手なんだよな
というわけで、道を塞ぐ人狼騎士だけ斬り、走り抜けて突破しよう

指定UC発動、白の靄を纏いながら「ダッシュ、地形の利用」+UC効果の高速移動で人狼騎士の間を一気に駆け抜ける
行く手を遮る人狼騎士は挙動を「見切り」つつ避け
もし足元から現れたら「ジャンプ」で蹴り飛ばしつつ回避
回避困難な場合は黒剣から「衝撃波」を放ち吹き飛ばそう

血脈樹の脈動はあえて抵抗しない
裡から湧き上がる凶暴なる衝動を受け入れ
ありったけの憎悪を黒剣に籠めて
「2回攻撃、怪力」で叩き斬り…いや、叩き潰してやる!!


サーシャ・エーレンベルク
……私たちは、あなたたちの戦争の道具でも、蹂躙される弱者でもない。
あなたが否定し排斥しようとした獣人たちがどれほど力強く生きようとしているのか、私の剣で示しましょう!

【白冰冬帝】で冰の女王たる真の姿へ変身。
全てが人狼騎士へと変質する。それこそがあなたの人狼病の弱点。
あらゆるモノが意志と肉体を持つのであれば、私のユーベルコードはその全てを包み込む!
戦場内に凍結嵐を喚び起こして、生み出される騎士たちを物言わぬ氷像へと変えていくわ。
生み出された瞬間、凍結させて邪魔者は叩き斬り、制圧していく。
私を見れば絶望によって騎士たちの動きは鈍る。それが好機。
疾駆し、始祖人狼に一撃を叩き込む!


セシリー・アリッサム
行こう、パパ、ママ
光黎翔環――鎧纏う人狼騎士の父と茨の冠を戴く母の霊を召喚
自身は紋章の力で限界突破し浮遊して変異した大地に対処する
覚悟は出来てるわ、大気を浄化しながら始祖人狼の元へ
父の剣は狂気を斬る、母の祈りはわたしを守る
だから怖くない、あなたを必ず|骸の海《ハビタット》へ戻してあげるから

自身が人狼だから怖いのは精神汚染
惑わされぬ様自分を鼓舞しながら前へ、前へ
蝶の如き蒼炎を纏って破魔と焼却の高速全力多重詠唱
一人じゃないから、道は必ず切り拓く……!

ここまでの動きで相手はわたしを術士だと思ってる筈
炎を抜けて急襲してくるだろう、そこをナイフ投げで急所突き
今よパパ、ママ!
全ての因縁を終わらせる為に!!



 遠吠えが聞こえる。
 ――土を踏みしめた猟兵たちの足元で、ぱしゃと血だまりの跳ねる音がした。
「あれが、五卿六眼最後のひと柱……始祖人狼」
 館野・敬輔(f14505)は、戦場を睨む。
 |彼の故郷《ダークセイヴァー》を死と絶望の世界へと貶めた闇の支配者、五卿六眼。――その最後の一人、始祖人狼。
 その姿を捉えた敬輔の胸の内には、一度は鎮めたはずの憎悪と復讐の火が灯り始めていた。
「……すべての、人狼病の根源。……わたしたちの運命を、くるわせたもの」
 同じくダークセイヴァー世界にルーツを持つセシリー・アリッサム(f19071)の双眸にも、静かに燃える激情が垣間見えていた。
 その血と運命が叫ぶ。
 牙を剥き、刃を突き立て応報せよと。
「そうね。多くの者たちが彼らに踏み躙られてきたわ」
 サーシャ・エーレンベルク(f39904)の目にも、強い決意の光が灯る。
「あなたたちの世界もそうだと思うし……私たちの世界もそう」
 サーシャは二人とは異なる世界の出身者であったが――しかして、この大戦においては誰よりも当事者であった。
「ああ。……奴らめ。|俺たちの世界《ダークセイヴァー》だけじゃなく、この世界の人々までも苦しめるとは」
「あの人たちにどんな目的があるんだとしても……。許すわけにはいきません」
 三人はそれぞれに得物を抜き放ちながら、刃の先に敵陣を見る。
 ――それは無数の人狼ひしめく、まさしく闇の中枢であった。
「行こう。奴を斃して、この戦いを終わらせる」
「ええ。……私は、私たちの世界を取り戻す」
「はい。必ず勝ちましょう」
 頷きあう三人。そうして、猟兵たちは血溜まりを蹴って走り出す。
 それぞれの想いを抱えながら、始祖人狼との戦いが幕を開けようとしていた。

 うおおおおおおん。
 おおおおおおおおおおん。
 ぐるるるるるるうううう。
 ――咆哮。遠吠えが交錯し、昏い空の下で響きあう。
 それは始祖人狼の撒き散らした人狼病原によって作り出された人狼の群れだ。獣たちは狂気に目を光らせながら、獲物を求め唸っている。
「道を……開けろッ!!」
 しかして、その真っ只中へと刃が切り込んだ。閃く黒剣の刀身が、人狼の群れを切り散らす。
 おおおおお。うおおおおん。吼える群狼。向けられた敵意に鋭く反応して、獣たちは迎撃を開始する。
「ぜぁッ!」
 がるうううううう。見事な太刀筋が人狼を断ち、そのうちの一体をもとの土くれへと還す。
 ――だが。敵の数は膨大だ。倒したそばから補充されてゆく敵群は敬輔の進路を塞ぎに現れ、その進行を妨害する。
「ちッ……! 一体ずつ斬ってったんじゃきりがないか!」
 大勢の敵をまとめて吹き飛ばすような戦技については、残念ながら敬輔の得意分野ではない。どうも相性が悪いか。
 敬輔が歯噛みした――そのときである。
「なら、一気に中心まで進みましょう」
 BLAM! 弾けるショットシェル! ばら撒かれた弾丸が数匹の人狼をまとめてダウンさせた。
「一緒に乗ってく?」
 散弾の音と同時に、エンジン音が敬輔の横に停まる。
 サーシャの|軍用バイク《シルバーファング号》だ。サーシャは|散弾銃《クルーエル・ロアー》をぶっ放しながらバイクで敵陣を突っ切って来たのである。
「乗りごこちはそれなりだけど……」
 |同乗《タンデム》するセシリーは苦笑いした。
「いや、さすがに三人乗りは無茶じゃないか?」
「んー、それは確かにそう……わかったわ。それじゃ、私たちで道を開くから、あなたはついてきて」
「そうだな。君もそれでいいか?」
「うん」
 数秒の短い作戦会議を経て、猟兵達は再び動き出した。
「それじゃ、いくわよ」
 ヴォン、ッ。拍動する鋼の心臓。叫ぶバイクが走り出す。
「蹴散らしてやりましょう!」
「はい!」
 躯体が加速する。
 おおおん。うおおおおおおん。がああぐううううう。しかしてすぐさまに二人を人狼の群れが取り囲んだ。無数の群狼が彼女たちの道行を塞ぐ。
(……行こう。いっしょに)
 そのとき。セシリーは祈った。
 瞬間、黒く刃が疾る。ぎゃあああああ。悲鳴をあげた人狼がその躯体を構成する闇を撒き散らして石のかけらに還る。
「パパ!」
『……』
 剣を薙いだのは、鎧纏う人狼騎士――セシリーの父の、在りし日の姿であった。
 があああああ。がおおおおん。牙を打ち鳴らし吠える人狼たちは怒りと共に大挙して押し寄せる。
『……』
 があっ。しかしてその牙は猟兵たちに届く前に、強烈な衝撃によって吹き飛ばされた。
「ママ!」
 それを成したのは、同じくセシリーによって呼び出された彼女の母の残霊である。
 揺らめく母の姿は、セシリーの背に浮かび上がり彼女を護るように寄り添っていた。
「力を……貸して!」
『……』
 そして、剣と攻性思念波が吹き荒れる。
 ぐおおおおおん。ぐおおおおおお。ぐがああああ。爆ぜるセシリーのユーベルコード出力が群狼の攻勢を押しとどめ、そしてその路を切り拓こうとしていた。
「いいわね、なんとか押し込んでる……なら、ダメ押しをかけましょうか!」
 そのとき、ハンドルを握るサーシャもまたその身にユーベルコードの力を励起した。
 す、と息を吸い込んで。一呼吸おいてから――再び、開く。
 瞬間、風が吹いた。
「凍てつき」
 風はすぐさまに暴風へと変わり、風の中に凍結した水分が混じる。――凍結嵐。極北の風が戦場に吹き荒れた。
「冰れ」
 があああああ――。遠吠えが凍て付き、砕け散る。
 それは氷の魔術の使い手としての側面を強く顕した、サーシャの真なる力の一端であった。
「……今だ、二人とも!」
「はい!」
「助かる! なら、一気に突き抜けるぞ!」
 広がる零度の暴風の中、人狼の群れはその力を明らかに殺がれていた。その中をセシリーの父――の残霊と、敬輔の剣が切り拓く。
 そうして、その先に――猟兵たちは、捉えた。
《唱和》
 ――血だまりの中に佇む、敵陣の首魁。すなわち始祖人狼の姿を!
《抵抗は無意味だ。生ある者がどれほど足掻こうと、結末は変わらない》
 始祖人狼は手にした剣を掲げながら、猟兵たちへと向き直る。
《唱和》
 唸る声が、響いた。
《猟兵。吾々はお前たちを排除する。お前たちはあってはならない存在なのだ》
「ふざけるな」
 敬輔は、怒気と共に言い返した。
「ワケのわからない理屈ばかりゴチャゴチャ並べて……。そんな言葉で俺たちが納得するかよ!」
 |世界《ダークセイヴァー》を血で穢した邪悪の根源を前に、敬輔は怒る。
《唱和》
 始祖人狼が唸る。
《吾々はお前たちに納得など求めない。何も言わず血を流すがいい。死に続けるがいい》
「言ってることはよくわからないけど……。私も、あなたたちに従う気はないわ」
 サーシャはバイクを降りながら始祖人狼を睨んだ。
「……私たちは、あなたたちの戦争の道具でも、蹂躙される弱者でもない。あなたたちの言い分にも納得しない。これ以上、支配を受け入れるつもりもない!」
 そして、|剣《ヴァイス・シュヴェルト》を抜き放つ。柄を握る手に強く力が籠もった。
「あなたが否定し排斥しようとした獣人たちがどれほど力強く生きようとしているのか、私の剣で示しましょう!」
《唱和》
 対し、始祖人狼は表情一つ変えることなく、唸るような音とともに猟兵たちへと迫り始めた。
《吾々は否定し、排除する。はじまりの猟兵。そして六番目の猟兵。お前たちの存在を》
「そんなふうにしたって……怖くないよ」
 襲い掛かる強烈な|威圧感《プレッシャー》。フォーミュラ級のオブリビオンがもつ絶対的に強烈な闇の力。凄まじい悪意と殺気――。それらを前にしながら、しかしてセシリーは立ち向かった。
「父の剣は狂気を斬る、母の祈りはわたしを守る……」
 その背を支えるように、セシリーのそばには父母の残霊が立つ。
「だから怖くない。あなたを必ず|骸の海《ハビタット》へ戻してあげるから」
《唱和》
 ――始祖人狼が唸る。
《排除する》
 そして。
 ぐるぉ、と音を立てて喉が鳴る。その瞬間、始祖人狼は血だまりの大地を蹴って飛び出していた。
《唱和》
 襲撃――! 同時に、空気の中に赤い色が混じる。
《疾く蔓延れ、吾が『人狼病』》
 ――人狼病。ダークセイヴァーに蔓延った狂気の病。その根源たる始祖人狼が、病原を撒き散らす。
「ぐっ……!」
「っ、あ……!」
 敬輔とセシリーは、その精神の内へと入り込もうとする狂気の声を聴いた。
《唱和》
 その姿を嘲笑うように唸りながら、始祖人狼が剣を構える。
「姑息な真似を!」
 しかして――そこに割り込む剣の一閃! サーシャが始祖人狼の道を阻んだのだ。
 サーシャは纏う零度の大気によって病原を遮断していたのだ。故に人狼病の影響を受けずに済んでいたのである。
「はッ!」
 ギン、ッ! 剣同士がぶつかり合う。凄まじい膂力をもって繰り出された始祖人狼の剣であったが、サーシャは辛うじて拮抗。太刀筋を流す。
《無駄な抵抗はやめろ》
「無駄じゃ……ない!」
 更にそこへと蒼く炎が疾った。――獄炎! セシリーがブレイズキャリバーとしての力を行使したのだ。炎の熱を避けるため、始祖人狼が僅かに退がる。
《唱和》
 始祖人狼が唸る。
《何故抗える》
「あなたにはわからない力があるの。……わたしは、一人じゃない!」
 セシリーはもう一度炎を迸らせた。蒼く燃える火を纏いながら、セシリーは始祖人狼を睨む。父母の残霊が、人狼病原の狂気から彼女の精神を護ろうとしていたのだ。それが故に、彼女は正気を保ったまま始祖人狼へと対峙できている。
「オオオオオオオッ!」
 そのとき、横合いから突き込む黒剣の襲撃! 敬輔が始祖人狼へと仕掛けたのだ。
 ――敬輔は、敢えて人狼病の病原が囁く狂気に抵抗していなかった。
 むしろ――彼はその声によって呼び覚まされた衝動を、いまここに剣を振るうための力をしていたのである。
 その激情の名を、『憎悪』。あるいは、『復讐心』と呼ぶ。
「許さない……ッ!! 許さないぞ、五卿六眼ッ!!」
 剛剣ッ!! 激しい怒りとともに叩きつけられる重い太刀筋は、始祖人狼の剣を押し切ってさえ見せた。
《唱和》
 ぐろろ、と始祖人狼が唸る。
《――これ以上は、通さぬ》
 瞬間、刃が激しく吹き荒れた。
 全霊の力をもって薙ぎ払う大剣が繰り出した剣撃は、猟兵たちをまとめて打ち崩す威力だ。三人は始祖人狼の剣に弾かれ、後退を余儀なくされる。
《唱和》
 揺らぐ大気。再び空間が人狼病原によって赤く染まる――
「やらせない、は……こっちの台詞よ!」
 しかして、病原を灼き尽くすように蒼く炎が広がった。セシリーが必死の根性で始祖人狼へと仕掛けたのである。
《……煩わしい》
 始祖人狼が不快気に唸った。
 そうしてから――再び薙ぎ払う剣! 続けざまに始祖人狼は大地を蹴って跳び、掲げ上げたその剣でもってセシリーへと襲い掛かる!
「……!」
 始祖人狼の躯体が間近に迫る。
 そのとき、セシリーは――――
「全ての、因縁を……」
 ――懐へと忍ばせていたひと振りの|牙《ナイフ》を抜き放っていた!
「終わらせる為に!!」
 セシリーは咄嗟に前へと飛び出し、始祖人狼の懐へと飛び込みながらナイフを突き出す! ど、っ!! 重たい音とともに、始祖人狼の首元へと突き立つ|天狼の牙《父の形見》!
 ぐるあああ、と。始祖人狼が叫んだ。
「今よパパ、ママ!」
 急所を突かれた痛みに叫んだその隙を逃すことなく、セシリーは叫ぶ。応じて父母の残霊が始祖人狼へと攻勢をかけた。
『……!』
『!』
 母の攻性思念波が始祖人狼を後退させ、すかさず父の黒剣が叩き込まれる。
「お二人とも!」
「オオオオオオオッ!!」
「ええ! 報いを受けてもらうわ!」
 そして、そこへふた振りの剣が突き込んだ! 体勢を立て直したサーシャと敬輔が、致命の一撃を打ち込むべく再び始祖人狼へと仕掛けたのだ!
「叩き潰してやる!!」
「はああああああああああっ!!」
 斬閃、ッ!!
 力強く、そして鋭く振るわれたふたつの太刀筋は、始祖人狼の鎧を貫きその躯体へと深くユーベルコードの刃を刻んだ。
 ぐるあああああああああ。始祖人狼が痛みに絶叫する!
《唱和》
 ――だが!
《この、程度の刃で……、我々を退けることはできない》
 その存在核を砕き切るには、未だ至ってはいなかった。始祖人狼は血を吐きながら態勢を立て直し、剣を構えなおす。
「なら、倒れるまでやってやるわ。……まだ仲間たちのぶんまで返しきってないもの」
「わたしも……決着をつけるまで、退かない!」
「そうだ。……この復讐を、果たすまでは!」
 猟兵たちは始祖人狼へと対峙しながら、手にした武具を構えなおした。

 ――――かくして、戦いは続く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

神酒坂・恭二郎
さて、とんでもねぇがここで決着つけねぇとな
病の源たるお前さんは、いちゃあいけねぇ存在だ

「スペース絵馬」からスペースシャークを口寄せして騎乗
風桜子を纏った「スペース手拭い」で人狼騎士を蹴散らしながら間合いを詰める
【竜脈使い】で見えない感染の流れを見極め、下流に立たないように立ち回りたい

「祓ッ!!」
ある程度間合いを詰めたら、手拭いを捨て風桜子を籠めた両掌を打ち鳴らす。その【衝撃波】で人狼騎士達、そして周囲の空気を【吹き飛ばし】て一瞬の真空状態を作り、自身もスペースシャークを乗り捨てて奴に飛び込む

「絶ッ!!」

後は勢いのまま「捻り突き」の一撃で勝負を賭ける【覇気、切り込み、急所突き、鎧無視攻撃】


山吹・慧
人狼騎士と聞くと親近感を覚えるところですが、
これだけいるとそんな事も言ってられませんね……。

人狼騎士の群れには炸裂弾をバラ撒いて
激しい爆発と光の【目潰し】で攪乱しましょう。
敵陣が混乱したら影舞の【迷彩】による姿隠しで
すり抜けていきます。
それでも寄ってくる敵は【グラップル】で捕まえて
密集している箇所にブン投げて【吹き飛ばし】てやります。

始祖人狼に辿り着いたならば姿隠しを解除。
異世界の人狼騎士団員として尋常に勝負願いますよ。

敵のUCは【集中力】による【ジャストガード】からの
【受け流し】で凌ぎましょう。
そしてそこに生じた隙を突き、【功夫】の打撃の
【乱れ撃ち】から【羅山天昇波】を放ちます。



 遠吠えがこだまする。
 戦場を見渡せば、大地を埋め尽くす大軍勢。そこにひしめくのは始祖人狼の力によって作り出された人狼騎士の軍団である。
「おお……。あれが土くれだのそこらの小石だの……なんなら空気からでも作れるっつう兵士どもか。そうは見えねもんだな」
 ――その情景を眺めて、神酒坂・恭二郎(f09970)はとんでもねえなと感嘆した。
「感心してる場合じゃないですよ」
 その一方で山吹・慧(f35371)は眉間にほんのり皺を寄せる。
「……しかし、人狼騎士ですか」
 更に、慧の眉根でしわがすこしだけ深まった。
 慧はシルバーレイン世界において現地の戦闘組織である人狼騎士団に所属する猟兵だ。
 ここに構えた敵の群れに対しては、性質はまるで違えど同じく人狼の名を冠する者として――その名でもって悪しき者の手足となって活動していることに嫌な感じをおぼえていた。慧は微妙な顔でううんと唸る。
「ま、なんだっていいさ。どれにしたって無辜の民草を苦しめようって悪党なんだろう?」
 しかしてその一方、恭二郎には迷いがない。弱きを助け悪しきを挫くのがスペース剣豪の生きざまだ。既にエアロックは閉まっている(※主にスペースシップワールドで用いられるスペース慣用句。スペースシップの出発の際にはエアロック区画を必ず閉ざすことから、転じて「今まさに事態が進み出し後戻りのできない状況」を指す)。あとはただ、まっすぐ進んで悪の親玉を切り散らしに行くだけだ。
「そういう単純な話じゃないと思いますが……ですが、討たなきゃならないのはその通りです」
「ああ。一気にやっつけちまおうぜ」
 恭二郎は懐から一枚の木札を引き出した。そこに描かれたのは宇宙鮫の姿。恭二郎はその木札――スペース絵馬に念を込め、虚空より1匹のスペースシャークを呼び出す!
『Shaaaaaaarrrk!!』
「いよっと!」
 恭二郎は素早く飛び上がり、スペースシャークの背へと立つ。
「こいつで突っ込む! お前さんも乗ってきな!」
「たしかに走っていくよりは速そうですね……。わかりました、お願いします」
 恭二郎に促され、彗もスペースシャークの背に飛び乗った。
「よし、行くぜ!」
『Shaaaaark!!』
 恭二郎の声に応じてスペースシャークが咆哮した。大気を裂きながらスペースシャークは発進。急加速しながら宙を泳ぎ出し、敵陣目指して進んでゆく!
 ぐおおおおおん。がああううううう。がるうううう。しかして、人狼の群れもそれをただ見過ごそうとはしていない。人狼たちは咆哮とともにそこらじゅうの石や木材や鉄杭などを無造作につかみ取ると、それを宇宙鮫めがけて投げつけはじめたのだ。
「うお、っ……!」
「落とされるなんてことはないんでしょうね!」
「当たり前だ!」
『Shaaaaark!!』
 投げつけられたいくらかの投擲物に、進むスペースシャークの躯体がわずか揺らいだ。
「……が、このままほっといたらスピードが落ちる! 連中を散らしながらいくぞ!」
「そう言うだろうと思いましたよ!」
 迎え撃つぞと叫ぶ恭二郎に言い返す慧。その手の中には既に|炸裂弾《グレネード》がピンを抜かれている。
「せいっ!」
 慧は鮫上からグレネードを放り投げた。迫りつつあった人狼群の中で榴弾は炸裂し、激しい閃光とともに爆発する!
「派手にやるじゃねえか! こっちも負けてられんな!」
 その一方、恭二郎は|風桜子《ふぉうす》を高める。淡く浮き上がる燐光。恭二郎は懐から一本のスペース手拭いを引き抜くと、恭二郎は風桜子の力を布へと通して鞭のように振るった。ぱァんッ!! 弾けるような音が鳴りながら、風桜子の力が敵を挫いた。
 うおおおおん。がるるるうう。ぐろろろろお。二人の攻勢の前にたじろぐ狼たちの群れ。――戦況は猟兵たちが押している! その機運を逃すことなく咆哮したスペースシャークが敵陣を貫いた――
《唱和》
 ――が、そのときであった。
《これ以上の抵抗は、やめろ》
 赤黒い殺気の気配と共に、禍々しく風が吹いた。
『Shaaaaaarrrk!!』
 振り下ろす刃が叩きつけられ、スペースシャークが強制的な送還を受ける。
「っと……!」
「前に出てきましたか、始祖人狼!」
 放り出されたかたちになる恭二郎と慧は、しかしてその卓越した身体能力で素早く態勢を整えながら着地した。
《唱和》
 唸り声。始祖人狼は二人を睨む。
《猟兵たちよ。お前たちは、ここにあってはならないのだ》
「悪いな、そいつはお前さんが決めることじゃねえんだ」
 対し、恭二郎は一歩も引くことなく始祖人狼を睨み返してみせた。
「それに……『あってはならない』って言葉よ、そっくりそのまま返すぜ」
 そして抜き放つひと振り。銀河一文字の刃を構えながら、恭二郎は始祖人狼に対峙する。
「病の源たるお前さんは、いちゃあいけねぇ存在だ」
「はい。多くの人々に苦しみを強いるあなたの存在こそ……僕らは許すわけにはいきません」
 慧もまた剣を抜きながら始祖人狼へと向き合った。
「世界は違えど、同じ人狼騎士として。あなたのその悪逆、止めてみせます」
 いざ、尋常に。慧は騎士として正々堂々の勝負を始祖人狼へと挑む。
《唱和》
 唸り声。
《であれば、力でもって意志を通すほかになし。吾が剣でもって、お前たちの意志をここで叩き伏せよう》
 始祖人狼はその手で大剣を掲げ、構えた。
 猟兵たちと始祖人狼の間に、冷たい緊張感が張り詰める。剣を構えた三人は、じりじりとお互いの間合いを探りあいながら睨み合った。
 ぐるおう。
 ――先手を打って仕掛けたのは、始祖人狼である。
 土が爆ぜるように噴き上がった。大地を強烈に踏み切って、始祖人狼は爆発的な加速を得ながら前進する。
 がるう、っ。唸る声と共に大剣が振り抜かれた。質量と膂力を兼ね備えた凄まじく重たい剛剣の一撃だ。
「ぐお……っ!」
 恭二郎はこれを銀河一文字で受けた。風桜子の力を重ねて防壁代わりに構えたが、しかして叩き込まれた衝撃の威力は凄まじかった。剣を抑えた両腕が受けた負荷でミシミシと軋む音をたてる。
 ぐろ。始祖人狼の喉が音を鳴らす。同時、大剣が掲げ上げられた。――追撃の構えだ!
「だあっ!」
 しかして、そこへ横合いから慧が飛び込んだ。突き込んだ長剣の一撃! 始祖人狼は素早く反応して飛び退く。
「悪いな、助かった」
「向こうのパワーは相当なもののようです。まともに受けない方がよさそうですね」
「ああ、いま思い知らされたよ!」
 恭二郎は態勢を立て直し、剣の柄を握る指先へと力を入れなおす。短く深呼吸。ふたたび風桜子の力を奮い立たす。
「悔しいですが、僕らが一対一で正面からやりあって勝てる相手ではありません。ここは力を合わせていきましょう」
「……だな。どうにか攻め落とすぞ!」
《唱和》
 二人は身構えながら始祖人狼と再び睨み合った。
《吾々は、お前たちを排除する》
 始祖人狼が再び駆けた。疾駆! 飛び込む眼前。強烈なプレッシャーを伴いながら、殺気が猟兵たちへと迫る!
「いくぞ!」
「はいッ!」
 対し――二人は身構える!
 恭二郎は風桜子の力を、慧はその身に宿す闘気を強く燃え上がらせた。
「はあッ!!」
「おおおっ!」
 二人は同時にその力を放出し、不可視の衝撃を撃ち放つ! ぐろろ、と喉を鳴らす始祖人狼。衝撃を浴びて、その攻勢の勢いが鈍った。
「今だ!」
「はい!」
 その好機を逃すまいと、二人は反転攻勢に出る。銀河一文字の一閃! 同時に襲い掛かる長剣の一撃!
 がるぐう、っ! しかして始祖人狼は素早く身体を立て直した。刃を振り抜き、恭二郎と慧の剣をまとめて受け、打ち払う。
「こいつ、ムチャクチャな強さしやがって!」
「二人がかりでもこうですか……!」
 恭二郎と慧は衝撃に僅か後退しながら態勢を立て直した。そこへ薙がれる始祖人狼の追撃! 二人はこれを辛うじて躱し、反撃の糸口を探る。
「……なら、僕に考えがあります」
 ここで慧が策を講じた。いいですか、と慧は恭二郎に確認する。
「よしわかった、任せる!」
 頼むぜと承知する恭二郎。二人は短く頷きあった。
 ぐるるるるう。させまいとする始祖人狼が剣を掲げ、更なる追撃を仕掛けに来る!
「では……!」
 そこで――慧は手にした剣を放り捨てながら、身を低くして前に出た。
 始祖人狼の大剣の下を潜り抜けるようにして、懐に潜り込む!
「はあ――ッ!」
 調息。慧は呼吸を整える。――瞬間、全身の血流に乗せて力を巡らせるイメージ。慧はその身の内で氣を高める!
「だッ!」
 そして、打ち込んだ! 掌底打撃が鎧を叩き、衝突を介して慧は始祖人狼へと氣を送り込む! 発剄の技術!
 叩き込まれた衝撃に、始祖人狼は短く呻きながら僅かに後退した。
「……逃しません!」
 慧は更に前へと進み、追撃をかける! 砕甲掌! 転玄脚! 鍛え抜かれた玄武拳士の技が一気呵成に始祖人狼へと攻め寄せた。
 無手での攻勢は武具を用いた攻撃に比して威力に劣るが、武具を解さぬことで攻め手の速度は上回る。慧はその利点を最大限に利用し、一気に畳みかけたのだ。ひとつひとつの攻撃は致命傷に至るものではないが、その連撃は徐々に始祖人狼を押し込んでゆく。
「これで……ッ!」
 呼、ッ。慧の肺腑が激しく音をたて、強く息を吐き出した。
「どうだッ!」
 ――秘技、羅山天昇波。全霊の力を込めた一撃が、始祖人狼の躯体を叩いた。
 ぐろろろろ。ぐろろろろ。ぐおおおおおおおおお、っ。始祖人狼は遂に血を吐きながらその身体を揺らがせる。――それは、これまで見せなかった大きな隙であった。
「今です!」
 慧は一旦側面へと抜けるように逃れ、同時に恭二郎へと目配せする。
「よォし……いい感じだ。こっちも“高まった”ぜ!」
 慧が攻勢をかけている間、恭二郎はその身の内に強く風桜子の力を高めていた。――満たされた力に、銀河一文字の刃が燐光を纏う!
「はああああああッ!」
 そして――恭二郎は、剣を構えて力強く踏み込む!
「絶ッ!!」
 瞬間。激しく力が渦巻き、そこに吹き荒れた。
 螺旋を描く風桜子の力が解放され、そこに局所的な嵐を生み出してゆく。秘剣、捻り突き――絶大な出力のエネルギーの奔流! そのすべてが、刃を介して始祖人狼へと注がれたのである!
 があ、っ。ぐ。
 ぐお、ぐおおおおおお、っ。ぐろろろろろろろろ。ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
 ――爆ぜる力の中に、狼の絶叫が響いた。
《唱和》
 しかし。
《吾々は……まだ、使命を果たしていない》
 始祖人狼は、風桜子の奔流の中からその姿を現し猟兵たちを睨めつけた。
 間違いなく、かなりのダメージは叩き込まれた筈だ。その消耗量は、傷ついたその姿が証明している。
 しかして、それでも尚始祖人狼はその存在を維持していた。
「おいおい、随分しぶといじゃねえか」
「向こうも必死ということでしょう。ですが……決着は、つけなくてはいけません」
 ならば、ここからが佳境ということになるだろう。手負いとなった始祖人狼は、更なる力でもって抵抗してくるはずだ。
 続く激戦の気配を感じ取りながら、猟兵達はふたたびそれぞれの手に得物を構えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

印旛院・ラビニア
「始祖人狼……なんかもう顔怖いし、見るからにすごいもの背負ってます感がすごい。でも、負ける訳にはいかないんだよなあ。気合いい入れ直して挑むよ」
今回も【召喚術】てんこ盛りで行くよ
「フレッタ、一番槍は任せた!」
まずはフレッタで牽制しつつ
「エイラ、回復をお願い」
【回復力】のあるエイラで人狼病の【浄化】と耐性付与
あとは【空中機動】で戦乙女の誰かが、もしくは味方が始祖人狼のそばまで行けたら
「ランドガルダ! 【かばう】んだ!」
ランドガルダと一緒にそこまでワープ
「行くよ、ジークヒルデ!」
そして最後にジークヒルデの神殺しの魔剣による【武器から光線】を叩き込む
「僕だってやる時はやるんだよ!」


エドゥアルト・ルーデル
アカの親玉を…潰す!

巨大剣に周りを埋め尽くす人狼!陸が3に人狼が7と言った勢いでござるな
ヤバいね世界が!処理が!負荷かかってるよ!
こういう時は【物理演算の神】が来るので神に贄を捧げよ

人狼共を塊にしようぜ!バグって動きも接触判定もおかしいので簡単にデケェ塊が作れるでござるよ!
それに周り中あらゆるものが無限に人狼になって来るって事は素材が向こうから来てくれるって事でござる
つまり無限にデケェ塊ができるって訳だ!大剣は塊でしのげ!仮に弾かれても周りを巻き込めるからヨシ!

十分でっかくなったら始祖人狼にぶつけるんでござるよ
物理がバグってるのでよく跳ねる!よく飛ぶ!勢いをつけていけ!これが塊の魂だァーッ!



「アカの親玉を……潰す!」
「あの、アカってなんですか?」
「見ればわかるでござろう!! あの赤さ! 奴は間違いなくアカですぞ!!」
「えー……」
 印旛院・ラビニア(f42058)はげんなりした。ちょっと何言ってるかわかんねえなこいつ、とラビニアは眉間に皺を寄せる。
 現地でたまたま行き会ってしまったエドゥアルト・ルーデル(f10354)はだいぶ話が通じないタイプの猟兵だ。
 普段通りやる気満々やりたい放題のエドゥアルトを横目で見ながら、ラビニアは眉間の皺を深めた。
「デュフフフ……。いやあ、しかし壮観でござるな~!! 陸が三に人狼が七と言った勢いでござるぞ!」
「……いや、実際笑える状況じゃないんだけどさあ」
 戦場を埋め尽くす敵群の姿にハイになるエドゥアルトと、対照的にぐったりするラビニア。
「とはいえ……まあ、やる気出さないわけにはいかないもんね」
 ラビニアはぶんぶんと頭を振り、ぱちりと頬を張って気合を入れなおした。
「よし。気合入れなおしていこう!」
「ウム! では参りましょうぞ!」
 メンタルを持ち直したラビニアの様子に満足してかエドゥアルトが頷いた。
「――しかし、ですな」
 だが、ここでエドゥアルトが一旦前進に待ったをかける。
「うえっ!? なに!? 進むんじゃないの!?」
 突然勢いを殺がれて、ラビニアが困惑した。
「いやいやいや……。お主ならわかるはずでござるぞ。あの状況、迂闊に進んではならぬと……」
「ええ……?」
 こちらに進軍を始めた人狼の群れを指しながら、エドゥアルトはしたり顔で頷く。
「どういうこと?」
 いまいちエドゥアルトの言いたいことが呑み込めず、ラビニアは首を傾いだ。
「ウム……。ようく考えてほしいでござるよ。……これだけのフィールドに、あれだけの数のキャラクター…………。あれだけのデータを処理しようというなら、相当に“重い”はずでござる!」
「うええ……!?」
 突然飛び出した電脳世界における世界法則に、ラビニアは面食らう。
 ――たしかに自分のホームとも言えるGGO世界ならそういうこともあるだろうが―――
「ヤバいね世界が! 処理が! 負荷かかってるよ!」
「いや、まあ、たしかにあんなにエネミー出したらサーバだって相当負荷かかるとは思うけど……」
 しかしてここは獣人戦線世界だ。その話いま関係ある? とラビニアがもう一度首をひねった――そのときである。
「おお! 見よ、あそこに物理演算の神が降臨するでござるぞ!!」
 エドゥアルトが空を指した。
 つられてラビニアが視線を空へと向ける。――そこには。
『ふざけるミ! このやろう!』
 神が降臨していた。
 それは世界の物理法則を司るとされる神性の一柱だ。あまねく物理演算の管理をしているとされている。
 しかし、今その顔はモザイクめいた極彩色のブロックノイズで満たされていた。その彩りから『にしきがお』とも呼ばれる怒りの表情である。
「ええ……」
 ラビニアは困惑した。
『ここは バグのはてだよ』
 その一方、物理演算の神は両手を広げながらその力を広げる。
 ――否、広げているのではない。縮小しているのだ。
 大地を埋め尽くす無尽蔵の人狼の群れ。それは即ち無制限に物理演算処理を増やしリソースを食いつぶすシステム障害だ。そんなものに力を注いではいられないと怒った物理演算の神が『正しい物理法則に従う』という加護を人狼たちの群れから引っぺがしたのである。
 すると――
「見よ! 連中バグり散らかしはじめましたぞ!!」
 がおおおん。がるぐるう。がるるるろおおおお。――たちまち戦場には悲鳴が響き始めた。
 見れば、敵陣は既に混乱の渦中にあった。人狼たちは空間座標を見失ったかのように上下に浮かんでは沈みを繰り返し、両腕を広げた磔刑めいた直立姿勢になりながら等速直線運動を繰り返す。かと思いきや宇宙ロケットめいた勢いで遥か空へと射出され、あるいはその場で激しく回転する!
「うわあ」
 すっげえバグってる――。バグプロトコルの恐怖を思い起こし、ラビニアは戦慄した。
「さあ!! これで連中も総崩れですぞ!!」
「うっわぁ!?」
 いまこそ前進のとき!! いくでござるぞとエドゥアルトはラビニアの背を乱暴に叩いた。
「わ……わかった! わかったから!」
「よォしその意気ですぞ!!」
 かくして、二人は敵陣めがけて進み出す。

「……でも、実際チャンスには違いないか」
 展開そのものはずいぶんムチャクチャだけど。あんなとんでもない数の敵をぜんぶ相手にして進むよりはぜんぜんマシだ。ラビニアはどうにか自分を納得させながら敵陣を目指していた。
「よし……後先考えないぞ。今回はリソースも全ツッパだ!」
 ラビニアは走りながらその腕にデュエルボードを展開し、ボード上に山札をセット。そこから数枚のカードを引き、手札を構成する!
「僕のターン! 手札から『導きの戦乙女・フレッタ』を召喚!」
 そしてラビニアは手札のカードを投げ放った。カードへと込められたユーベルコード出力が、そこに戦乙女の姿を顕現させる!
「フレッタ、一番槍は任せた!」
『承知!』
 そこに召喚された戦乙女フレッタは、ラビニアの呼びかけに応じるように先駆けを走った。
 ぐおおおおん。おおおおん。うおおおおおおおお。
 ――しかして、敵も混乱した状況にあるとはいえ素直に通してくれるはずもない。
 辛うじてバグを逃れた――あるいは身動きの取れる程度のバグで済んでいる狼の群れが、咆哮と共にラビニアを囲みに来た。
「オラーーーーーッ!!!!」
 そのときである。
「デュフフフフ!! どんどん転がしてくぞオラッ!!」
 突如として――巨大な塊が、横合いから人狼たちの軍勢めがけてぶつかりにきたのである。
「何事!?」
 ぐおおおん!? 困惑するラビニアと人狼の軍勢! 怯んだその隙を逃すことなく襲い掛かった塊は、人狼たちを引き潰しながら通過してゆく!
「ヒューッ! 素材がいくらでも出てくるでござるな~!! デカくし放題でござるよ!」
 その塊の正体は――バグった人狼たちをエドゥアルトがとっ捕まえて適当に組み上げた、とにかく塊としか言いようのない物体であった。
「何してんの!?!?」
 ラビニアが叫んだ。
「デュフフフ! 人狼共を塊にしてるのでござるよ!」
 エドゥアルト曰く。
 神の怒りに触れたせいで人狼たちは|物理法則を外れて《バグって》おり、動きも接触判定もおかしいので簡単に捕まえて『塊』にできるのだという。
「で、向こうが無限に兵隊を送り出してくれるということは……素材が向こうから来てくれるって事でござる!」
 それを塊で轢いては組み込み、轢いては組み込みを繰り返し、塊をここまでの大きさに育てたのだという。
「正気か?」
 ラビニアはツッコんだ。
「楽しまねばソンでござるぞ~! ……というわけで拙者はもっと大きくしてから行くでござる!」
「アッ、ハイ……。じゃあ先行ってます」
「ウム!」
 もう少し遊んでくる、というエドゥアルトに手を振って、ラビニアは気を取り直して始祖人狼の座す敵陣の中枢へと視線を向けなおした。
『……なんだったんです? 今の』
「気にしない! 行くよ!」
 困惑する戦乙女フレッタを叱咤して、ラビニアは進行を再開する。
 道中、ラビニアは手札から更に戦乙女たちを召喚し、戦力を整えながら始祖人狼のもとを目指した。

 かくして。
《唱和》
 敵陣の中央。
《ここまで吾々を追い詰めるとは。……六番目の猟兵ども。流石だと言わねばなるまい》
 遂に、ラビニアは始祖人狼に対峙する。
《唱和》
 始祖人狼が唸った。
《されど、吾もまた五卿六眼の一角。吾が首、容易くくれてやるわけにはいかぬ》
 その姿へと対峙し――
「うわ……すっごいプレッシャー……」
 ラビニアは、思わず一歩後退った。
「あいつ……なんかもう顔が怖いし、見るからにすごいもの背負ってます感がすごい……!」
 気圧されていた、と言えるかもしれない。その凄まじい存在圧を前にして、ラビニアは半ば委縮しかけていた。
『……でも、負けるわけにはいかないでしょ!』
『そうです、|使い手《マスター》殿。我らは勝つためにここに来ました』
 しかしてそのとき、ラビニアのカードから喚ばれた戦乙女たちが、ラビニアへとハッパをかける。
「まあ……うん。そうだね。負ける訳にはいかないんだよなあ!」
 その声に励まされ、ラビニアは顔を上げた。
《唱和》
 対し。――始祖人狼が、睨む。
《戯れ半分で御せる相手と思ってか》
 ざり、っ。重く鈍い音が響く。始祖人狼は大剣を掲げ、戦闘態勢へと入った。
「……行くよ、みんな! バトルフェイズ!」
『はい!』
 震えを止めながら、ラビニアは戦乙女たちへと号令をかける。
 応じて、戦乙女たちは飛び立った。その手に槍を掲げながら、始祖人狼めがけて襲い掛かる!
 ぐるうううう! しかして、凄まじい威力! 振るった始祖人狼の剛剣が、先んじて飛び込んだ戦乙女たちをまとめて打ち払った。ダメージに耐え切れずフレッタほか数名がカードに還る。
「……!」
 続けざま、始祖人狼はラビニアを睨んだ。瞬間、地を蹴立てて始祖人狼が疾る。――瞬き一つの時間で、既にその爪牙はラビニアの眼前!
「ランドガルダ!」
『仰せのままにっ!』
 盾を掲げた戦乙女がその間へと割り込んだ。戦乙女ランドガルダが防御態勢で始祖人狼の剣を受け止める――!
 があうっ! ――だが、咆哮! 膂力が勝つ! 凄まじいパワーの前に、盾の名を冠するランドガルダすら耐え切れなかったのだ。
「うわ……っ!」
 更に剣風吹き荒れる! 始祖人狼の薙ぐ剣は暴風めいて激しく乱れ舞い、ラビニアの展開していた戦乙女たちを瞬く間に全滅へと追い込んでいた。
「ッ……!」
 が、ッ! 始祖人狼の足がラビニアを蹴倒した。背中から冷たい地面に打ち付けられ、衝撃と痛みにラビニアは肺腑から息を絞り出す。
 始祖人狼はラビニアに迫りながら喉を鳴らし、とどめとばかりに剣を掲げ上げた。
 そして、振り下ろす――
「……」
 ――その刹那!
「ジークヒルデ!」
 ラビニアは咄嗟に一枚のカードを掲げながら、力強く叫んだ。
 それと同時、その身に残ったユーベルコード出力のすべてを自らの切札である一枚、戦乙女ジークヒルデのカードへと注ぎ込む!
『はあああっ!!』
 力はたちまち戦乙女の姿をとり、そして始祖人狼の躯体へとそのエネルギーを炸裂させた。
 ぐお、と呻く始祖人狼。ジークヒルデはすかさず追撃態勢へと入り、手にした剣から更に放出したエネルギーを爆発させて始祖人狼を吹き飛ばす。
 予測外の反撃に始祖人狼は反応が遅れ、防御態勢を取れなかったのだ。直撃を受けた始祖人狼は、ラビニアから数メートル離れた地点の地面へと叩きつけられた。
「……どうだ、見たか! 僕だってやる時はやるんだよ!」
 ラビニアは痛む身体を引きずってどうにか立ち上がり、始祖人狼へと向かって啖呵を切った――。
 ――そのときである!
「よォ~し!! ではここでとどめでござるぞ~~~!!!」
 戦場に、影が差した。
「うっわ!?」
 空を仰いだラビニアが悲鳴を上げる。――そこに見えたのは、もはや城ひとつぶんはあろうかという巨大質量へと成長を遂げた塊であった。
 ぐろ、と喉を鳴らして始祖人狼が困惑する。
「さあ、こいつを受けてみろ!! 物理がバグってるのでよく跳ねる! よく飛ぶ!」
 エドゥアルトはスカラベめいて塊を押し込み、力ずくで強引に加速を与えていた。
 ――大質量に一定の運動エネルギーがかかったものがぶつかれば、衝突の威力で壊れる。
 それは子供でも理解できるわかりやすい物理現象である。
「勢いをつけていけ……! これが塊の魂だァーッ!」
 エドゥアルトはその至極単純な衝突による破壊という現象を、巨大に育て上げた塊を用いることで極大な威力にして発生させようとしていた。
 ここまで言及を避けてきたが――ここに至るまでの猟兵達との戦いで、始祖人狼は既に無視できないダメージが積み重ねられている。大きな疲弊を抱えたいまこの状況では、エドゥアルトの運ぶこの塊に対処するのは不可能だ。
「ウオオオオオオーーーッ!!!」
 そして――
 があああああああああああああああああっ! 断末魔めいた絶叫が響き渡り、城塞サイズの塊は始祖人狼へと叩きつけられた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ロラン・ヒュッテンブレナー
すごい感染力なの
ぼくの中の病も共鳴してる?
でも、負けないの
ぼくはずっと人狼病と戦ってきたから
これ以上、悲劇を増やさせない

死の循環、接続
右目が闇色に染まって右頬に紋様が浮かび上がる
同時にUC発動

万物の刻を急速に早送りして風化させる波動を結界から放つよ
ぼくがこの場にいるだけで、周囲は無生物に至るまで終わりの刻に向かって風化していく
それはあなたも例外じゃないはず

生み出される端から塵に返し、狼の脚力で走る
跳び跳ねて空中で結界を足場にさらにジャンプ
共鳴で狂気と浸食に見舞われても、封神武侠界の桃の香りで理性を繋ぎ止めて、活性化する人狼の力を使って懐まで!

今度は、あなたの番だよ
一際強い波動を放つの



 がああああああああああああああああああああああああ、っ。
 びりびりと空気を震わす咆哮が、どこまでも響いてゆく。
 ――――始祖人狼が、叫んでいるのだ。
 その躯体はここに至るまでの猟兵達との戦いの中で激しく傷つき、その存在はもはや風前の灯火と化していた。

 しかし。
 手負いの獣こそが、もっとも恐ろしい。
 自らの敗北と滅びを悟った始祖人狼は、しかして最期のその瞬間まで牙を剥き続けることを選んでいた。
 
 ざりざりと砂を踏みしめる音が響く。
 人狼の群れが戦列を成し、始祖人狼に率いられながら戦場を往く。
 大気は赤く染まり、撒き散らされる人狼病の病原によって周囲一帯には更なる汚染――すなわち人狼どもの生成状況が加速していた。
「すごい感染力なの……」
 無生物すらも侵し世界を狂気と血と暴力の色に塗り替えてゆく始祖人狼の力に、ロラン・ヒュッテンブレナー(f04258)は戦慄した。
「……!」
 それと同時に、ロランは自らの身の内に疼く血の感覚に胸を抑える。
「ぼくの中の病も、共鳴してる?」
 ロランもまた、人狼病を患う猟兵の一人だ。
 始祖人狼がそのすべての根源であるというのならば、彼の身の内に根付いた病原が『始祖』の到来に何がしかの反応を示していたとしても不思議はなかった。
「ッ……」
 胸を抑えたロランは、深く静かに呼吸を整えて動悸を鎮め、そうしてから前を向く。
「……でも、負けないの」
 ぎり、と歯を食いしばり、ロランは赤い風の向こうに立つ人狼たちを睨んだ。
「ぼくはずっと……|人狼病《あなたたち》と戦ってきたから」
 近づく足音。爪と牙を打ち鳴らし、唸り、吼える狼たちの声。
 ロランは、それに真向から対峙しながらその胸の内にユーベルコードの火を灯した。
「これ以上、悲劇を増やさせない」
 口にする決意。
 そうして、ロランは迫り来る人狼たちへと向けて進み出した。

《唱和》
 ――始祖人狼が唸る。
《吾が今生は今や終焉に至れり》
 うおおおおおん。おおおおおおおん。――死の行軍が進みゆく。魂魄尽き果てる最期の瞬間まで、滅びをもたらし続けるべくして。
《しかして、未だ――》
「ううん。……もう、終わりだよ」
 しかして。
 狼たちの行軍を遮るように、ロランが戦列の前へと現れた。
《唱和》
 始祖人狼が唸る。
《……まだだ。吾の滅びまでには、まだ幾許かの時が残っている》
 噎せ返るような血の匂い。――殺気が高まる。
「なら……ぼくが、ここであなたを終わらせるの」
 膨れ上がる殺気。強烈なプレッシャー。だが、ロランはそれを前にしながらも一歩も引くことなく立ち向かう姿勢を見せた。
「死の循環、接続」
 瞬間。
 ロランの頬に、赤く文様が浮かんだ。それと同時、ロランの右目は闇を宿して黒く染まる。
 そして――黒い風が、吹いた。
《唱和》
 始祖人狼が唸る。
《それは、『腐敗の王』の》
「そうだよ。……ぼくたちは、|五卿六眼《あなたたち》を越えてここまで来たの」
 ここにロランが見せた力は、かつてダークセイヴァー世界に君臨せし闇の支配者五卿六眼が一角、腐敗の王の力に由来するユーベルコード――すなわち、あまねく生命に滅びをもたらす【死の循環】である。
 ダークセイヴァー世界を巡る大きな戦乱の中で、ロランの得た力だ。
「あなたで最後なんだ。ここで決着をつけるよ」
 ロランはダークセイヴァー世界に深いかかわりをもつ猟兵だ。であるが故に、ダークセイヴァー世界の支配者であった五卿六眼の打倒は、彼にとっての悲願の一つでもあった。
 決着は、この手でつける。
 その強い意志を込めた眼差しが、始祖人狼を睨めつけた。
 ぐろろ、と喉を鳴らして始祖人狼が唸る。
 そのそばで、人狼騎士の軍団は死の循環によってもたらされる滅びに抗えず次々に崩壊。その戦力を保てなくなっていた。
「あなたと同じ五卿六眼の力だよ。この力は、何もかも……無生物に至るまで、終わりの刻に向かって風化していく」
 あなたすらも例外ではないはず。
 滅びの風を纏いながら、ロランは始祖人狼へと間合いを狭めた。
《唱和》
 始祖人狼は不快気に唸る。
《お前は、吾々を侮っている》
 その瞬間である。
 ぐろ、と短い音がした。――そこから、秒に満たぬ間を置いて、殺気。黒剣がロランを襲う。
「!」
 ロランは咄嗟に飛び退いた。呪わしき人狼病に蝕まれ半ば獣と化したこの身が、この瞬間だけはありがたく感じる。ロランの獣めいた瞬発力と脚力が、始祖人狼の斬撃から逃れられるだけの運動能力をロランに与えていたのだ。
 がああ。だが、始祖人狼は追撃にかかる。咆哮とともに前進し、ロランとの間合いを詰めながら再び黒剣を薙いだ。――こんどは間に合わない! ロランは術式を練り上げ咄嗟に防御壁を形成するが、膂力の繰り出す一撃は凄まじく重い。めぎ、ッ! 骨格の軋む音と激痛! ロランは剣撃の威力に吹き飛ばされ、血塗れた地面へと強かに叩きつけられた。全身の骨格が軋む音がする。
「かは……ッ!」
 ロランは肺腑から息を絞り出した。げほ、と咳込みながら咄嗟に転がり、三度目の剣撃を回避。土の上を跳びあがって態勢を整える。
 うおおん。始祖人狼が吼えた。もう一度刃を掲げて、始祖人狼はロランへとまたも殺気を注ぐ。
「ハァー……ハァー……」
 ロランは呼吸を整えながら再び始祖人狼に対峙した。
 痛みを訴える全神経を強固な意志で黙らせて、ロランは始祖人狼と睨み合う。
 ――そして。
 がああああああああっ。始祖人狼が、仕掛ける。
「……!」
 ロランは迫る始祖人狼の姿を――迎え撃つように、真正面からじっと見据えた。
 意識を集中し、目を凝らして始祖人狼の動きを両の眼で追いかける。
 間合いが詰まる。始祖人狼が振りかぶる。それから、喉を鳴らして吼え猛る。
 ――瞬間、ロランは飛び込んだ。
 始祖人狼は凄まじく強力なオブリビオンであり、手にした大剣の威力も相当のものであった。
 だが、取り回しの都合上、最大限の威力を出すためには必ず振りかぶる必要がある。
 ロランはそこに生じた隙を見逃さず、懐へと入り込みに行ったのだ。
 ぐお、と喉を鳴らして。喉元へと迫ったロランに始祖人狼が呻く。
「今度は」
 ロランはその手の中に強く力を――【死の循環】の波動を、収束した。
「あなたの番だよ」
 そうして、叩きつける。

 ぐお。
 が、あ。あ、
 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
 ――絶叫。
 ロランの叩き込んだ滅びの力が、始祖人狼の存在核を捉えたのだ。
 度重なる戦いによって致命の傷を負っていた始祖人狼の存在核は、この一撃に耐えることができず――――完全に、破壊された。
 おおおおおん。おおおおおおん。ううううおおおおおおおおおおおおおん。
 響き渡る声も、次第に弱々しく代わり、最後にはか細く潰える。
「……勝った、の」
 そうして滅び去り、骸の海へと還りゆく始祖人狼の最後を見送って――ロランは、短く息を吐いた。
 かくして。
 ここに、ワルシャワ条約機構の支配者・始祖人狼の打倒は果たされたのである。

 まもなく、戦いも終わるだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年05月30日


挿絵イラスト