獣人世界大戦⑳〜はじまりを超えて行け
●はじまりの場所
「……六番目の猟兵!!」
彼女が歓喜の声を上げる。
「待っていました。ずっと、待っていました!」
深き闇を纏う彼女こそ、『はじまりの猟兵』。
彼女はそう待っていたのだ。世界の真実を伝えられる時を。
だが、寿命がとうに尽きた彼女は、すでに|世界の敵《オブリビオン》となり果てていた。
そんな彼女が紡ぐ言葉は、偽り交じりのものとなるだろう。それでは駄目だ。
だが、方法はある。
そのためには。
「倒されなければいけませんね」
容易に復活できぬほど叩きのめされれば、その末期に少しだけ、真実を語ることができるだろう。
だから待とう。彼らが自分の前に現れる時を。
「言っておきますが、わたしは最も古き者……。正直言って、弱いですよ!」
誰もいない森で、闇に紛れながら、誰に告げるでもない言葉が響いた。
●グリモアベース
「ついに、はじまりの猟兵への道が開いた」
プレケスが、やや興奮気味に告げる。
「彼女本人は、こちらに敵意はなく、それどころか二番目から五番目の猟兵についての情報を渡してくれようとしているのだが」
ここで問題が起こった。
はじまりの猟兵たる彼女の命はとうに尽きており、オブリビオンと化している。その状態で、情報を伝えても、その中に嘘が混じる可能性があった。
「彼女が嘘偽りない情報を、こちらに伝えられるのは、皆に完膚なきまでに倒され、消え去るまでの少しの時間だけだ」
そのために、彼女は六番目の猟兵に戦いを挑んでくる。
当人は、最初期、つまり旧式の猟兵なので弱い、などと言っているが、もちろんこの言葉をそのまま受け取ってはいけない。
確かに、最新の能力や戦術を習得したこちら側のほうが強い。だが彼女は姑息で卑怯な、己に取れる手段全てを使い尽くす『戦場の戦い方』で挑んでくる。
「それでも、きっと皆ならば、はじまりの猟兵に手が届くはずだ」
そういうとプレケスは自身の肩に留まっていたグリモアを指でつつく。
つつかれたグリモアは出番だなと言わんばかりに、プレケスの頭の上をクルリクルリと旋回したあと、猟兵たちのほうへと飛んでいく。
「君たちの無事の帰還を待っている」
その言葉を合図に、プレケスのグリモアがきらきらと光を放ち、猟兵たちを戦場へと送り出した。
白月 昴
目を通していただきありがとうございます。マスターの白月・昴です。
この依頼は、一章完結の戦争依頼となります。
できる限り早い完成を目指すため、すべてのプレイングを採用できない可能性があります。ご了承ください。
●転移先・はじまりの場所
シベリアの奥地の深き森です。
姑息で卑怯な彼女は、当然のことながら森も十分に利用して戦います。
●プレイングボーナス
『戦場の戦い方』に対抗する/圧倒的な力や最新戦術で叩き潰す。
●技能について
技能は、技能名だけを並べるのではなく、その技能で何をするかを書いていただけると、より参加者様の思ったものに近い描写ができると思いますので、よろしくお願いします。
なお、『二番目から五番目の猟兵について』の情報はリプレイ内には出ません。尋ねても嘘になってしまう可能性がある為、彼女は最後の時まで伝えようとしないからです。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『はじまりの猟兵』
|
POW : ストライク・イェーガー
レベルm半径内の対象全員を、装備した【ライフル】で自動的に攻撃し続ける。装備部位を他の目的に使うと解除。
SPD : プログラムド・ジェノサイド
【予め脳にプログラムしていた連続攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : キューソネコカミ
【ライフル】が命中した敵を一定確率で即死させる。即死率は、負傷や射程等で自身が不利な状況にある程上昇する。
イラスト:hoi
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ビスマス・テルマール
まさか話に聞いていた始まりの猟兵さんと、こう言う形で関わる事になろうとは
わたしも出来る限りの力でお相手します
●Pow
ただ、その戦場の戦い方に対しては
森も利用しつつ、わたしなりの戦術で
貴女にこれが真似できますか
『早業』で『属性攻撃(重力)&オーラ防御&結界術』込めた『誘導弾&エネルギー弾』の『範囲攻撃&一斉発射』で『盾受け&弾幕』壁を作り『念動力』で操作し『ジャストガード&受け流し』
時間を稼ぎつつ『早業』UC発動
なめろう『料理』への情熱と意志の力で強化された『空中戦&推力移動』で撹乱しつつ
弾幕の壁も生かし『第六感』で『見切り』回避し
【なめろうフォースセイバー】で『怪力&鎧無視攻撃&2回攻撃』です
「まさか話に聞いていたはじまりの猟兵さんと、こう言う形で関わる事になろうとは」
ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)は緊張した面持ちで、その場に降り立った。
途端、狙いすまされたライフルの弾丸が、ビスマスを襲う。
「む!」
初弾をぎりぎりのところで回避したビスマス。弾丸の飛んできた方を見るが、彼女の姿を見つけることはできない。
「さすがです。わたしも出来る限りの力でお相手します。そう、この通りすがりのなめろう猟兵が!」
気合を入れるビスマスの言葉に、何もなかったはずの森で気配が揺れた。
「『なめろう』ってなんです?」
森に潜んでいるアドバンテージを無視して、思わず彼女が問いを投げかけてくる。
どうやら旧式の猟兵たる彼女の知識に、なめろうの存在はなかったようだ。
「なめろうを知らないと。いけませんね、わたしが伝えましょう。なめろうの素晴らしさを!」
ビスマスが、なめろう普及の熱意に燃え上がる。
そんなビスマスを、彼女は『なんだかわからないけど、危なそう』と判断したらしく、今まで以上の速度で、弾丸がビスマスへと放たれた。
一発放つたびに、高速移動で場所を変える彼女の弾丸。それはまるで複数の敵に取り囲まれているように、ビスマスに全方位から襲いかかる。
それに対し、ビスマスは即座に、周囲に弾幕を生み出した。
重力属性を宿したオーラエネルギー弾は、ライフル弾を受け止め、弾き飛ばし、撃ち落とし、無力化していく。
弾幕により作り出された時間を無駄にはしない。
「貴女にこれが真似できますか。いえ、知らぬあなたにはできないでしょう」
『Namerou Hearts tuna! banana! Avocado!』
銃声にも負けぬ、高らかに響くビスマスの声に合わせ、機械音が鳴り響く。
「|生成《ビルド)! ナメローズマバア!」
ビスマスの全身が『鮪』『アボカド』『バナナ』の三種の鎧装で覆われる。つまりはハワイアンなめろうである。
「とうっ!」
なめろう『料理』への情熱と意志の力で強化された、高速移動と、それを十分に生かした空中機動で、森からの狙撃地点を追う。
勿論、追わせまいと彼女の攻撃も激しくなる。しかし、ビスマスの周りに作られた弾幕が、彼女の弾丸をすべて無効化する。
「捉えた!」
「ひえ!」
ビスマスに捕捉された彼女が、悲鳴を上げる。上げながらも、即座にライフルでビスマスを撃墜しようとする彼女はやはり強いのだろう。
「食らいなさい! なめろうの素晴らしさを!」
迫る弾丸を、第六感で見切って回避し、ビスマスはなめろうフォースセイバーを振るう。
凄まじい力で振るわれた剣を、彼女が辛うじてライフルで受け流す。だが。
「まだまだ!」
ビスマスの怪力により、ありえない角度から引き戻された攻撃が、彼女を確実に捉えた。
「なめろうって、何だったんですかあああああー!」
ビスマス渾身の一撃に抵抗しきれず、彼女は叫びながら吹き飛ばされていく。
「ふう、さすがはじまりの猟兵、手ごわい敵でした」
勝敗を決したのは、ビスマスのなめろうという『料理』への情熱であった。たぶん。
大成功
🔵🔵🔵
ジャン・ジャックロウ
伝説に謳われる『はじまりの猟兵』か。
正直、眉唾のおとぎ話だと思ってたから本物がいた事に驚きだぜ。
さて、この深い森はあの女のホームグラウンド。その姑息で卑怯な戦い方は見習う所があるが、さてどうするか?
…うん、シンプルに叩き潰そう。
『パンツァーキャバリア【グラオザーム】』に搭乗して、更に【野良犬部隊】キャバリア班集合ッ!
総員『グラオザーム戦車砲』…てええぇぇぇッ!!!
戦車砲の雨あられで森ごと吹き飛ばしてやる。
やはり戦いは数ッ!大軍指揮を駆使した集団戦術って奴を教えてやるぜッ!
ヒャッハッハッハッ!どんな小手先の技も圧倒的な暴力の前に何処まで通用するか、ひとつご教授願おうかッ!
【アドリブ歓迎】
「伝説に謳われる『はじまりの猟兵』か」
ジャン・ジャックロウ(野良犬共を統べる部隊長・f39920)が、森へと降り立った。途端、森からライフル弾が飛んでくる。
「っ!」
咄嗟に後方に下がり、回避するジャン。だが、続けざまに撃ち込まれ、さらに一歩。
――ビンッ!
何かに引っかかったと感じた瞬間、ジャンは地面を強く蹴り、大きく前に飛ぶ。
――ダンダンダンッ!
ジャンが一瞬前にいた場所に、短く鋭い矢が数本突き立った。
森の中に、致死的な罠が張り巡らされている。それを理解し、ジャンはにやりと笑う。
「正直、眉唾のおとぎ話だと思ってたから、本物がいた事に驚きだぜ」
命がけの戦場など今更だ。ジャンにとって恐れるようなものではない。
(さて、この深い森はあの女のホームグラウンド。その姑息で卑怯な戦い方は見習う所があるが、さてどうするか?)
森の中の戦闘も当然心得てはいる。だが、無駄に敵地に突っ込むなど愚策もいいところ。
ではどうするか。
「……うん、シンプルに叩き潰そう」
いっそすがすがしい笑顔で言い切ると、ジャンはパンツァーキャバリア【グラオザーム】へと搭乗する。
ある意味戦利品であるグラオザームは、凄まじいパワーと頑丈さ、更に高機動力まで兼ね備えている。とはいえ、これだけで森に潜む相手を追い詰めることはできまい。
実際、森から不満気な、『負けませんよ』とでも言いたげな気配が漂ってきた。
だが、ジャンは歴戦の軍人だ。様々な場所で、手段を選ばず戦ってきた。ゆえに、こういった戦場で必要なものもわかっている。
「【野良犬部隊】キャバリア班集合ッ!」
ジャンの号令に、100体を超えるパンツァーキャバリアたちが突如として現れる。
「総員戦闘開始ッ! ……さぁ、派手に行こうじゃねえか」
ジャンの乗るグラオザームから砲弾が放たれる。
それを合図に、キャバリア班たちが、戦車砲を雨あられと放ち始めた。
「きゃーーーー!」
砲弾の音に紛れ、甲高い悲鳴が聞こえる。だが、それで攻撃をやめるわけもなく。
「やはり戦いは数ッ! 大軍指揮を駆使した集団戦術って奴を教えてやるぜッ!」
高笑いを上げるジャンの姿は、第三者からはどう見ても悪役である。悪そうな顔がさらにその印象を強めている。
「ヒャッハッハッハッ! どんな小手先の技も圧倒的な暴力の前に何処まで通用するか、ひとつご教授願おうかッ!」
「むりむりむり、きゃーーー!」
叫びながらも動き続けている彼女。だが、回避している、という風にも見えない。
「なるほどな」
あらかじめ想定された動きを、そのままなぞっているのだろうと、当たりを付ける。
(ということは、最後にたどり着くのは)
「そこだ!」
ジャンの指示が飛べば、キャバリア班の砲撃が、ただの一点を目指し放たれた。
「いやあああああーーーー!」
予測されたポイントへの砲撃に、彼女は悲鳴をあげながら吹き飛ばされていった。
「さすが、はじまりの猟兵。頑丈さはなかなかだな」
飛んでいった彼女を、笑いながら見送るジャンの姿は、やはりどう見ても悪役であった。
大成功
🔵🔵🔵
エミリィ・ジゼル
自分が弱いことを自覚している者ほど油断ならないものです。
こちらも慢心することなく、全力でボコります。具体的には物量で。
戦闘開始と同時にUCを使用。
合計153体のかじできないさんズを召喚します。
そしてかじできないさんズではじまりの猟兵ことはじまりちゃんを取り囲み、地上や上空から雨のように鮫魔術を【一斉発射】。
どれだけ相手が戦術を熟知していようと、四方八方から降り注ぐ遠慮と配慮の欠片もない鮫魔術の連射を、事前に予測してプログラミングしておくのは不可能なはず
我々の【集団戦術】により圧倒的な【暴力】で、はじまりちゃんをギャフンと言わせてみせます。
鮫魔術師の力を思い知れ!
「自分が弱いことを自覚している者ほど油断ならないものです」
エミリィ・ジゼル(かじできないさん・f01678)は緊張した面持ちで、彼女の潜むであろう森へと視線を向ける。
「こちらも慢心することなく、全力でボコります。具体的には物量で」
「え!?」
さらっといわれたエミリィの宣言に、背後から襲いかかろうと森を飛び出してきた彼女が、すっとんきょうな声を上げる。だが、彼女の動きは止まらない。いや、止まれないのだ。
向かい来る彼女を前に、エミリィは優雅に微笑む。
息を吸うように分裂し、脈絡もなくサメを呼び、ノリと勢いでギャグに走る。そんな彼女をこの程度で驚かそうなど、甘いというしかない。
「カモン、かじできないさんズ!」
即座にエミリィはUC【暴れまわるかじできないさんズ】を発動させる。
現れ出でるのは、かじできないさんズ。その数、153体である。
「ひえええええ!?」
突然現れた大量のかじできないさんズに、エミリィ曰くはじまりちゃんが悲鳴を上げる。それでも、彼女の体はあらかじめ設定されたままに、エミリィに向け至近距離狙撃を行おうとするのだが。
「お覚悟です、はじまりちゃん!」
空を泳ぐ鮫が、はじまりちゃんに体当たりを仕掛け、その体を吹っ飛ばす。
「うひょーーー!」
愉快な声を上げ、吹っ飛ばされるはじまりちゃんは、それでもプログラムされた動きを続けようとする。だが、当然かじできないさんズが許すわけもない。
すでに、かじできないさんズは地上の森どころか、上空にも展開し、包囲網を作り上げている。
そう、しれっと空も飛ぶかじできないさんズなのであった。まあ、鮫魔術の鮫が飛ぶのだから、かじできないさんズが飛んでもおかしくはない、はずである。
「我々の集団戦術による、圧倒的な暴力で、はじまりちゃんをギャフンと言わせてみせます」
エミリィと153体のかじできないさんズからは、遠慮と配慮の欠片もない鮫魔術が一斉発射される。
それはまるで鮫の海。
牙持つ波と化し、はじまりちゃんへと襲い掛かる。
「鮫、なんで鮫!?」
ようやく連続攻撃の止まったはじまりちゃんが、襲い来る鮫の攻撃を回避しながら、彼女としてはもっともな疑問を叫ぶ。
「それは勿論、私が鮫魔術師だからです!」
「なにそれ!」
旧式の彼女は、どうやら鮫魔術を知らないようであった。だが、その言葉は言うべきではなかっただろう。
エミリィが一層優雅に微笑む。
「鮫魔術師の力を思い知れ!」
エミリィの言葉と共に、放たれる追加の鮫魔術、つまりは鮫の増量である。
「きゃああああ!!」
鮫の荒波に飲み込まれ、はじまりちゃんは森の奥地へと姿を消すのであった。
「いけません。ギャフンと言わせそびれました」
これはいけないと、エミリィはかじできないさんズを引き連れ、はじまりちゃんの後を追うのであった。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
自然の扱いは僕も得意だけど
銃器対策は苦手だし
そもそも…こちらが乗る必要も無いよね
貴方が来てよ
華響迷宮で戦場を塗り替え
僕自身は迷宮内に身を潜める
ライフルが届かないように
催眠術を乗せた歌唱を反響させて
居場所の特定を難しくしつつ動きや思考を鈍らせ
散らばる花弁に宿した破魔で着実にダメージを蓄積
弱いのは僕も同じ
物理も、戦術も
ただ、守りたいものが沢山あるから
気持ちで全て補ってるだけ
歌に紛れさせ高速詠唱、多重詠唱
風魔法で迷宮内の花弁を舞上げ花嵐を起こし
浄化攻撃と合わせて目眩し
更に始まりさんが直線に来た所を待ち伏せ
破魔、破邪を乗せた光魔法の属性攻撃
実体の無い光、貴方に防げる?
ねぇ
僕も、少しは貴方の力になれた?
「自然の扱いは僕も得意だけど」
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)はゆるりとした仕草で、周囲を、深く暗い森を見渡した。
とはいえ、銃器対策は苦手だ。さらに、姑息で卑怯と言われる相手。森の中が罠だらけの可能性も高い。
息を潜め、こちらを待ち構えているだろう彼女――はじまりの猟兵の姿を見て取ることもできない。ただ、それでもこちらの様子を窺う彼女の視線だけはわかる。
どうするか、そう考えてすぐに気付く。
(そもそも……こちらが乗る必要も無いよね)
その手段が澪にはあるのだから。
「貴方が来てよ」
澪の声に誘われるかのように、ひらりと一枚、花弁が舞う。破魔の力を宿した花弁が、触れた先の闇を消す。
――ひらり、ひらりひらりひらり
あとからあとから降り注ぐ花弁が、暗い森を埋め尽くし、染め上げ、そして。
「この迷宮から逃れられる?」
澪の領域、|華響迷宮《フロウソンラビリンス》が、生み出された。
「え?」
全く違う物へと塗り替えられた森の姿に、彼女が驚愕の声を上げる。だが、それでも即座に澪へ、銃口を向けた彼女は確かに歴戦の戦士なのだろう。
花弁に紛れるようにして銃弾を避けると、澪はそのまま迷宮内へ姿を隠す。
――~~~♪
澪は歌う。歌は、迷宮の壁に反響し、一面に広がり彼女を飲み込んでいく。
「あ、あれ?」
反響する歌に、澪の居場所を捉えきれず、迷宮をさ迷っていた彼女が、ふらりと体を揺らし壁に手をつく。
催眠術を乗せた澪の歌が、彼女の思考と行動をじわりじわりと鈍らせているのだ。
そんな彼女を、迷宮に舞う破魔の花弁が焼いていく。
それでも、彼女はライフルを離さない。戦うことをやめない。
同じだと、澪は思う。
自分は弱い。物理も、戦術も。
ただ、それを、『守りたい沢山のものを失いたくない』という気持ちで補っているだけなのだ。
だからこそ、彼女の託したいという願いを叶えたい。
そのためにも、徹底的に彼女を倒さなければならない。
「~~~♪」
歌に、詠唱を紛れ込ませる。
幾重にも重ねられた詠唱が生み出した風で、迷宮内の花弁が舞い上がる。
生み出されるのは、花嵐。
「きゃああ、って、いたいたたたたた!」
浄化の花弁に取り込まれ、彼女が悲鳴を上げる。彼女を取り巻く闇が削られていく。
嵐から逃げるように、彼女が迷宮を駆ける。
音でなく、気配でこちらを追っているのだろう。澪の潜む場所へ的確に向かってくる。
「見つけた!」
――パンッ!
澪の直ぐ傍に弾丸が打ち込まれる。
思考を鈍らせた彼女は、ただそれでも決意を込めた眼差しで澪を見据える。震える手が再びライフルの銃口を澪へと向ける。
その眼差しを受け止めて、澪が歌うように問いかける。
「実体の無い光、貴方に防げる?」
光が迷宮に広がった。
魔と邪を打ち払う光が、闇を纏う彼女を焼き尽くす。
悲鳴すら光に飲み込まれた。
そして、光が消えた後、ライフルを握る力さえなく、迷宮の床に倒れ伏す彼女の姿があった。
「ねぇ」
澪はその傍らに膝をつき問いかける。
「僕も、少しは貴方の力になれた?」
今にも途切れそうな息をしながら、彼女が少しだけ澪のほうへと顔を向ける。
仮面に覆われたその顔に、満足気な笑みが浮かんでいると、澪にはそう感じられた。
大成功
🔵🔵🔵