初夏に佇む立ち姿を思えば
●十二花神
「『芍薬』」
葦原・夢路(ゆめじにて・f42894)は名を呼ぶ。
彼女の化神は常に側に侍るものである。
しかし、その十二花神が内において、その化神たるは彼女の呼びかけがあるまで、まるで存在を感じさせなかった。
常に共に在るのは間違いない。
けれど、『芍薬』と呼ばれた化神は恥じらうように頭を垂れ、夢路の前にて一礼してみせた。
所作は完璧であった。
元より花の化神である彼女たちの立ち振舞は基本を抑え、美しいものだ。
だが、『芍薬』はその中でも立ち姿があまりにも美しい化神であった。
「面を上げなさい、『芍薬』。あなたの立ち姿は最も美しいのですから」
「そんな」
だが、彼女は、はにかんだ。
主である夢路から褒められたことが嬉しいのだろう。
美しい立ち姿からは想像もできないほどの感情も豊かなのだ。それは彼女の名の由来にも起因しているのかもしれない。
真赤の花弁を思わせるように彼女の頬が赤く染まっている。
「一つ頼みたいことがあるのですが」
「なんなりとお申し付けくださいませ」
夢路の言葉に『芍薬』は心得たりと手を広げる。手を差し出しているのではない。彼女の力の一端の発露である。
「止事無き御方から、一つ頼まれ事をしまして」
「血止めの薬でございますね?」
「ええ、どうやら東国にて妖との激しい戦いがあった様子。坂東武者の方々にくばる止血薬が足りぬとのこと。『芍薬』、あなたの力を頼りにしても?」
「もったいなきお言葉でございます。私はあなた様の化神。御身にお力添えできることこそ喜びにございますれば」
彼女の手に生まれるはいくつかの薬。
そう、『芍薬』の力は生薬を生み出す力。
元となった『芍薬』がそうであるように、彼女の化神の中では薬を生み出す力を有しているのだ。
「ありがとう。あなたのおかげで坂東武者の方々の傷も癒えましょう」
「いえ、これはあなた様のお力。どうか、これからも御用達くださいませ」
彼女は真赤な頬を少しだけ緩めて、はにかむ。
その表情が夢路はとてもかわいらしく思えてならなかった。
「これで止事無き御方……『永流姫』もお喜びになられるわ。そう言えば、噂になっていた『皐月』殿がお付きになっていらっしゃると……」
「いつぞや『桃花』や『牡丹』が話していた御方ですね」
「ええ、縁が結ばれるのならばお会いすることもあるでしょう」
そう言って夢路は『芍薬』の生み出した薬を手に笑むのだった――。
成功
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