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獣人世界大戦⑪〜お宝は虹の彼方

作者：にゃあら

●耐えろ！　催吐ガス！！！
　ウラル山脈――山岳地帯――その何処かにワルシャワ条約機構の財宝が眠っていると謂う。金や鉄、石炭、宝石など様々なものが隠されているらしい。それを奪い取る事が出来たならきっとワルシャワ条約機構の財力を大きく削り取る事が可能だろう。だが、一筋縄ではいかないのが、超大国が超大国たる所以である。其処には途轍もない罠が仕掛けられていた。
　瘴気――生きとし生けるもの、いや、生きていなくとも地獄を齎す為に巡らされた悪質――効果は極めて単純で、故に、突破が困難なものと成っている。強烈な吐き気！　これを如何にかしなければ何れ地に臥せる芋虫と等しくなってしまう！
　まったく蛇蝎がお上手なお国の為ではないか……。

●グリモアベース
「……エチケット袋は用意してあげるわ」
　今直ぐにでも逃げ出したい、そう思った猟兵も少なくないだろう。だが、此処に招集された時点で、グリモア猟兵の話を聞こうとしている時点で、諦めておいた方が良いかもしれない。隣人は言葉を続ける。
「ワルシャワ条約機構の隠し財宝に関してはもう知ってると思うけど。一応説明しとくわ。えっと、ウラル山脈の山岳地帯に隠されてんだけど。ぶんどる作戦になるわね。で、勿論超大国の仕掛けた『もの』があるんだけど。えっと……催吐ガスが散布されてるのよね。まあ、死にはしないからいっそ楽になるのもアリだとは思うけど。その、頑張って？　幸い財宝この位置は解っているわ。あとは進むだけね」
　グリモアが輝いて。

第1章 冒険 『瘴気地帯を突破せよ！』

POW   :    気合いや体力で強引に突破する！ SPD   :    毒が回る前に迅速に突破する！ WIZ   :    瘴気の発生源に対処する！ 👑7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

　地獄絵図――最早、元の意味すらも失った其処は、底無しは、あらゆる最悪を孕んでいる。世に落とされた爆弾は劇的なまでの、激的なまでの臭いを漂わせ筆舌に尽くし難い光景を今にも描こうとしていた。おお、煙に巻く事が出来たならばどんなに僥倖だったのか。比喩表現は息絶え、只、直接的な言の葉の刃だけが蔓延する――これは催吐ガスだ！！！
　呼吸をするだけで凄惨な吐き気を催す、抗い難い瘴気。いや、いっそ身を委ねてしまった方が楽になれるかもしれない。兎も角、猟兵よ。袋の準備だけは出来ている。頑張った先にはご褒美としてお宝ザックザクだ！！！


　第一印象は愉しそうな戦場だった。山岳地帯に眠る超大国の――やばい組織の――隠し財宝。その一言だけで心臓が跳ねるような感情に擁されると謂うのに、其処に、嗚呼、掠奪の二文字が加わると雀躍の極みか。文字の通りに、雀のように大騒ぎしている果実を見ていたらなんとも奇怪な心地に陥りそうだが兎も角、なんてめっちゃ面白そうなお仕事。だと謂うのに、さて、罠が罠で在るが故にまったく愉しめそうな気が失せた。……いいや！　弱気になってはいけない。それこそ超大国の思う壺なのではないか。障害は強いほど、悪辣なほど上等なものなのだから……。変な罠だろうと何だろうと、挑戦して突破して魅せると宜しい。取り敢えずはガスの影響のないところでお弁当箱を開けよう。猟兵、何をやっている。
　何をやっているのかと問われたならば色々食べようとしているのだ。全部食べなきゃ遠足は一歩も進まない。もちろん、持ち込んだお酒も一滴たりとも残さない。まさか、ガスを吸う前に正気を失ったのかバーバリアン。否！　これがオマエの選択した埒外性の沙汰でありその恩恵は――防御力の強化。防御力としか言ってないから｜嘔吐《オート》防御力とか上がらないかな……？　なんだその能力。それは皆が思っている事だ。
　後はお宝目指しての全力疾走と洒落込むと好い。食べて直ぐに駆け抜けるのを優先するとは、さては猟兵、苛まれるのを前提にしてはいないか。走っていると肺臓、全身へと巡る筆舌に尽くし難い瘴気の効能。まだ軽い。この程度の気分の悪さなら気合いで耐えられる。胃の中で暴れているのはおにぎりかお肉か、或いは大きな人参か……。徐々に速度が落ちていく。もう、走れない。走れそうにない。
　さっき沢山食べたのには訳があった。そう、蓄えれば蓄えた『だけ』大量に戻す事が可能なのだ。嘔気を治すのに有効的なのは、ひどく荒い手段だが吐いてしまえば問題ない。吐くものがないとつらいからねー。それで良いのかフードファイター。グリモア猟兵から貰っておいたかなりのサイズのエチケット。覗き込むかのように、お辞儀をするかのように……。
　しばらくお待ちください。
　さっきまでの蒼白は何処へやら。
　楽になったオマエは🌈の彼方へと辿り着く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　強大な敵だろうと、悪辣な罠だろうと、オマエにとってはネタでしかない。
　飯の種を反芻するとは、成程、オマエのような埒外くらいなものだろう。
　もぅ我慢できない、牛のように胃袋四つを目指せ。猛烈なまでの咽喉の奥のあつさに脳が痺れる。マナーの為のエチケットも被り物として使ってしまうのが適切か。まあ、可愛らしいペットだこと！
　麗しさの欠片もないと悪態を吐かれたこと数多、蓄えられた変態的衝動、治まる刹那なし。内臓の奥底にしまい込んでいるギャグセンスなど、嗚呼、宝の持ち腐れとでも謂うべきか。そう、麗ちゃんはまじめなこと『だけ』はやりたくないのだ！　ならばいっそこの地雷原を、あらゆるシリアスをブレイクするトラップ・ゾーンを駆け抜けてしまうと宜しい。この場この時だけはオマエこそ最強無敵な猟兵である。駄洒落だろうか。一発ギャグだろうか。それともパロディ？　いいや、奇怪な言動一本を機械的にやってしまうと悦ばしい。
　催吐ガス？　確かに、斎藤なんて苗字も日本には多いが、ここまで臓腑を刺激してくるなんて聞いていない。いっそ甘ったるいイチャラブカップルを眺めつつお砂糖散らかしていた方が愉快なのではないか。だから麗ちゃんは砂糖菓子をたっぷり食べてきたのだ！　誰かブラックコーヒーを持ってこい、オマエにとっての救いとはたっぷりの黒だと考えられる。おお、せり上がってきた素敵なもの、そのいっぱいいっぱいなご様子に神様も苦笑いか。これが余計なものを注ぐ前兆ってことなのか？　元気溌溂な酸っぱいもののご登場。
　黄金色に煌めくこのご時世に何故、七色の輝きとやらを追い求めているのか。おっとっと、危ない危ない。オートで発動した正々堂々の所為で清潔さを失うところであった。兎にも角にもお宝には辿りつけた事とする。

成功 🔵​🔵​🔴​

　人の尊厳を破壊する、その為には背中を押すだけでも十分だった。
　趣味の悪いのサイエンティストでも居たのだろう、これだから超大国は放っておけない。毒には耐性があったとしても此処までの量、想定外、色を失うに到った。
　聖痕が応えている。彼等彼女等の痛みを「引き受けなさい」と。
　グリモア猟兵の説明はしっかりと聞いていた、しかし、実際に現場へと投身したオマエは早くも後悔しそうになる。先程瘴気の中を進んでいた別の猟兵が『楽になった』あとが落ちていたのだ。正直、嫌だ。23歳の女性として、何よりオラトリオの一人として、楽になってしまうなど考えたくもない醜態だ。そして無慈悲にやってきたのは『もらいそう』な不快感。呼吸を出来る限り抑えていてもガスが充満している状況、オマエは逃れられない。ここはアーティアを召喚して素早く移動するのが……。ダメだ。生命力の共有は勿論、グリフォンは生き物である。この瘴気に中てられてしまったら彼が可哀想だ。
　我慢の限界が迫ってきている。一歩、また一歩と踏み出そうとする度に気分の悪さが増していく。一応、万が一の為に貰っておいたエチケット袋を握り締める。いや、ひとつ『方法』が有るのではないか。瘴気ガスが、催吐ガスが『対象』として見做せるのであれば――ご案内する事も可能なのではないか。ごくりと、苦いものを抑え込む。口は開けない。詠唱だけは自滅行為だから絶対にやらない。おお、隠すような白い薔薇の花弁、生じたのは竜巻。
　ガスを指定しての「お帰りください」だ。ガスに意思など、意志など存在しない故に発生場所へと戻っていく。あとはユーベルコードを切らさずに、優雅にお宝を頂戴するだけか。……危ないところでしたわ。あのままだと、私、皆様にご迷惑をおかけしていたんですもの。見つけたのは綺麗な綺麗な七色の宝石。加工して指輪にするのも悪くなさそうだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

　他猟兵が蒼白している中で唯一人、オマエは普段と変わらなかった。
　こびりついた物質の名前は不明、されど、必要不可欠なのに違いはない。
　咽喉が渇いた、ずっと渇いていた、久方振りに潤っている。
　文字通りに反吐が出るほどの味だが、中々に、空気としては悪くないのがオマエの『本音』であった。極めて汚染されたこの山脈、肺臓へと這入ってくるガスの粘着質さにオマエはいよいよ立ち眩みをおぼえた。気分が悪いのではない。真逆、気分が良くて仕方がないのだ。いっそ、この反吐とヘドロで構成された、病的なガスと共に一緒にいたい、なんて思えるほどには。しかし、仕事は仕事としてしっかりと熟さなければならない。緩慢な死への万歳三唱はまた今度、さて、肝心要の超大国のお宝とやらは如何に。
　……頭が痛い。勿論、瘴気ガスを吸った所為で、催吐ガスを摂取した所為で誘発したのではない。お宝の行方がまったく不明なのだ。おそらく賢い超大国の誰かさんが突破されても大丈夫なように隠してしまったのだろう。はぁ、そうですね。たとえば、あの頑丈そうな大岩の下とか怪しいとは思いませんか？　口にするのと同時に発揮した埒外性。極めに極めた念動力が『鎚』の役割をし、只、単純で重い一撃を叩きつける。破壊された地形に残されたのは宝の箱か。凄まじい、オマエの一撃を以てしても、原形を保っているとは……。
　これなら、大岩を念動力で退かした方が早かったかもしれませんね。過ぎた事は忘れてしまおう。これで此処のお宝は欠片もなくなった。猟兵達の掠奪作戦、見事に成功と謂える。折角ですし、ここのガスの成分、蒐集しておきましょうか。
　息苦しくないのは良い事だ、空気が美味しくないのはもっと良い。

成功 🔵​🔵​🔴​

最終結果：成功 完成日:2024年05月19日