獣人世界大戦⑮〜その悪魔は全てを否定する
●第二戦線、スタノヴォイ山脈
そこは本来であれば|黯《あんぐら》党の首魁、『本田・英和』が立っていた場所である。だがしかし、今ここに至ってその場には|悪魔《ダイモン》『ブエル』がその姿を現していた。
『面白くはない、面白くはないが……仕方ない』
召喚主である本田が倒されたのであれば、そのまま姿を消しても良かったのだろうけれど。召喚主の支払った対価の分は働かねばならないかと、ブエルは戦場に己が眷属であるブエル兵を数多、呼び寄せる。
『私が敗れることはない』
否定、否定、否定に次ぐ否定。その否定は『始まりの猟兵』へと届くのであろうか。
●グリモアベースにて
「そろそろ第二戦線も終わりに近づいてきているね、お疲れ様だよ」
グリモアベースに集まった猟兵に、深山・鴇(黒花鳥・f22925)が笑う。
「この土壇場だがね、ひとつ行ってもらいたい戦場があるんだ」
そう言って鴇が示した場所はスタノヴォイ山脈で、そこは既に本田が倒された場所ではないかと猟兵が首を傾げる。
「うん、浅からぬ因縁を持つ猟兵が本田英和を倒したんだが……代わりと言うように、|悪魔《ダイモン》ブエルが姿を現したんだ」
契約の延長線上なのか、何か狙いがあるのか……そこは不明だが、倒すに越したことはない。
「ブエルは己の眷属を多数召喚し、自分の周囲に置いている」
この眷属たるブエル兵は大して強くはないが、放っておくと猟兵との戦いを通じ『猟兵の知識』を蒐集し、徐々に強化されていくのだという。
「放置はできないってわけさ。手早くブエル兵を倒し、ブエルとも戦わなくてはいけないからね、少しばかり大変かもしれないよ」
何より、ブエルは|超能力《サイキック》によってあらゆるものを『否定』する。その力も、否定に起因するものばかりだ。
「あんまり時間がないからね、後は現場でになるが――よろしく頼むよ」
鴇がそう言うと、手に煙のようなグリモアが現れてゲートを開く。
「気を付けて、いっておいで」
手の中の煙が、パチパチと煌いた。
波多蜜花
閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
第二戦線ももうすぐ終わりですが、どうしても出したかったので出しちゃいました、頑張ります。
戦争依頼三本目、こちらもシリアスするもよし、トンチキするもよし。皆様の思うようにプレイングをおかけくださいませ。
●プレイングボーナス
湧き出るブエル兵を迅速に倒しつつブエルと戦う。
●プレイング受付期間について
公開されてからすぐの受付となります。〆切は特に設けず完結成功数+書けるだけの採用になりますが、プレイングが送れる間は送ってくださって大丈夫です。
第二戦線終了までに完結させる予定です、全採用できるかはわかりません。頑張りたいとは思いますが、その点だけご了承くださいませ。
●同行者について
共通のグループ名か相手の名前を冒頭にお願いします。
プレイングの失効日を統一してください、失効日が同じであれば送信時刻は問いません。朝8:31~翌朝8:29迄は失効日が同じになります(プレイング受付締切日はこの限りではありません、受付時間内に送信してください)
未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。
●その他
ブエルの使うUCは強力ですが、こうすりゃなんとかなるやろ! みたいなのがあればぜひぜひどうぞ。シリアスもトンチキもウェルカムです。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております!
第1章 ボス戦
『悪魔「ブエル」』
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POW : 存在否定呪文
レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる【魔力弾】を放つ。発動後は中止不能。
SPD : 生命否定空間
戦場全体に【生命否定空間】を発生させる。敵にはダメージを、味方には【戦場全体の敵から奪った生命力】による攻撃力と防御力の強化を与える。
WIZ : 損傷否定詠唱
自身が愛する【即時治癒魔法の詠唱】を止まる事なく使役もしくは使用し続けている限り、決して死ぬ事はない。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
絶賛ブエル兵さん達をおびき寄せ中な藍ちゃんくんなのでっす!
ブエルの悪魔さんからすれば眷属を巻き込もうとも躊躇せず呪文を撃ってくるでしょうが!
その時こそがチャンスなのでっす!
藍ちゃんくんのパッションでまとめて兵さん達を悪魔さん側へと吹き飛ばすのでっす!
魔力弾の効果範囲は着弾地点から半径1m!
つまり藍ちゃんくんから1mよりも離れた地点で吹き飛んできた兵さん達に着弾させれば問題ないのでっす!
どころか吹き飛ばした兵さん達を巻き込んで消滅させてくださるでしょうし!
悪魔さんの1m以内で着弾させれば悪魔さんも消滅なのでっす!
一石三鳥なのでっすよー!
中止不能なのが命取りなのでっす!
●情熱は否定すらも吹き飛ばして
「藍ちゃんくんでっすよー! 藍ちゃんくんなのでっすよー!」
高らかにそう宣言しつつ、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)は艶やかな藍色の髪を靡かせて――ブエル兵をガンガンに|トレインして《引き連れて》いた。
「たっくさんおびき寄せたのではないでっしょうかー!」
足が五本なのか手が五本なのか、よく分からない獣のような姿をしたブエルの眷属は蹄の音を響かせながら藍を追っている。傍目から見れば、藍が逃げ回っているようにも見える光景だ。
しかしファンから追い掛けられることもある藍のこと、この程度の数を捌くのは朝飯前……いや、ライブ前のウォーミングアップともいえるだろう。
「さてさってー、そろそろでしょうかーっ! そろそろでっすねー?」
ブエル兵からある程度の距離を稼ぐと、急ブレーキを踏むかのように立ち止まり、くるりと振り向いて。
「ここからは藍ちゃんくんのオンステージなのでっす!」
『ふむ……その判断は正しくない。お前の独壇場にはならない』
藍の言葉に否定の言葉を重ね、|悪魔《ダイモン》ブエルが放つは『存在否定呪文』――着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる魔力弾である。その強力無比な力は無慈悲なまでに藍を狙って放たれた。
「甘いのでっすよー! これこそがチャンスなのでっす!」
藍が引きつけたブエル兵に向け、マイクを片手に叫ぶ。
「それでは皆様、ご一緒に! 藍ちゃんくんでっすよー!!!」
それは魂の叫び、藍のパッションが弾け散るような声。まさしく藍の渾身のステージライブ、目が離せない、つい身体が動いてしまう――そんなパッションにより、ブエル兵が纏めてブエルの方へと吹き飛ばされる。そして、吹き飛ばされたブエル兵達はブエルの放った魔力弾に次々と当たって消滅していくではないか。
「ふっふっふ、なのでっす! 悪魔さんの魔力弾の効果範囲は1mでっすねー? 1mなのでっすよー!」
つまりはこういう事だ、藍よりも1m離れた地点で吹き飛ばしたブエル兵に着弾させれば、その周囲にいるブエル兵諸共消滅する――敵の力を利用して兵士を倒す、更には。
「1mでっすのでー、悪魔さんの1m以内で着弾させればー、悪魔さんも消滅なのでっす!」
『私は消滅しない』
「と、おっしゃいまっすがー?」
藍にとって、ブエル兵をブエルの至近距離まで吹き飛ばすことは難しいことではない。そして、ブエルの放つ魔力弾は一度放てば中止不能なのだ。
「そこから導き出される答えはでっすねー、答えはでっすよー? 中止不能なのが命取りなのでっす!」
ブエルが撃つタイミングに合わせれば可能である、失敗したとしても誤差の修正だって、何度もやれば精度が上がるものなのだから。
「さあさあ、撃って来るといいのでっす、藍ちゃんくんが受けて立つのでっすよー!」
そういって、藍がギザ歯を覗かせて可憐に笑うのであった。
大成功
🔵🔵🔵
黒城・魅夜
否定の悪魔ですか
まず否定から入るというイタ寒い態度は
中学二年生で卒業しておくことです
10年後に思い出してベッドの上で恥ずかしさに転げまわり
同窓会のたびごとにイジられることになるのですよ
ブエル兵ども、あなたたちはどうなのです
そんな恥ずかしい主に従っていていいのですか
さあ一足先に厨二病を卒業するのです
…と動揺させておいて範囲攻撃に限界突破した呪詛を込め一網打尽です
さあ厨二病の悪魔、あなたの番です
否定空間はオーラを満たした結界で中和します
厨二病であることを否定する?
その否定するという行為そのものが痛いのだと言っているのです
まずは受け入れるのが大人です
わかりましたね?
では私のこの牙を受け入れなさい
●何よりも恐ろしい|病《やまい》
|悪魔《ダイモン》ブエルをつぶさに観察しつつ、黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)はなるほど……と頷く。
「否定の悪魔ですか」
悪魔にも色々いるだろう、中には否定の悪魔というものがいたっておかしくはない。しかし魅夜からすれば否定の悪魔みたいな存在はそこそこ居た、別に悪魔じゃなくても珍しくはないのだ。
「まず否定から入るというイタ寒い態度は中学二年生で卒業しておくことです」
『私はイタ寒くはない』
「ええ、皆そう言うのです。そして十年後に思い出してベッドの上で恥ずかしさに転げまわり、同窓会のたびごとにイジられることになるのですよ」
あまりにも具体的が過ぎる、もうこの言葉こそが全方位に向けたユーベルコードが如き攻撃ではないだろうか。
『……私はイジられたりなどしない』
ちょっと想像しちゃったのだろう、返事がワンテンポ遅い。畳みかけるならば今だ、と魅夜が今度はブエル兵へと視線を向ける。
「ブエル兵ども、あなたたちはどうなのです」
えっこっちに振る??? みたいな顔になったブエル兵達が動きを止めて顔を見合わせる。
「そんな恥ずかしい主に従っていていいのですか?」
そうは言っても眷属なのでぇ……どうしようもないのでぇ……。
「さあ、一足先に厨二病を卒業するのです」
えっ俺らも厨二病なの??? みたいな動揺がブエル兵に走り――そこを突いて、魅夜が呪詛を込めた範囲攻撃をブエル兵に仕掛け、一掃する。
「さあ厨二病の悪魔、次はあなたの番です」
『私は厨二病ではない……!』
ブエルがぶわりと力を開放するように、戦場を生命否定空間へと変化させていく。その空間を中和するように、魅夜が|自《みずか》らのオーラを満たした結界を展開し、拮抗させた。
「完全中和とはいきませんか……厨二病とはいえ、さすが|悪魔《ダイモン》ブエルと言うべきでしょうか」
『厨二病ではない』
「そんなにも厨二病であることを否定するのですか? その否定するという行為そのものが痛いのだと言っているのです」
『お前の言うことは正しくない、私は痛くはない』
「頑なですね……まずは受け入れるのが大人です、わかりましたね?」
有無を言わさず、魅夜がユーベルコードの力を開放する。
「泣き叫べ因果、枯れ果てよ縁、消を超え滅を超え我が牙よ絶となれ」
魅夜の唇が蠱惑的な弧を描き、覗いた牙が冷ややかに光る。
「では私のこの牙を受け入れなさい」
因果と時空ごと、消滅させてあげましょうと魅夜が悪魔に囁いた。
大成功
🔵🔵🔵
フィーナ・シェフィールド
◎
知識を蒐集する悪魔、もしかすると先の本田さんとの戦いも記録されてるかもしれませんね。
ここは新曲でブエル兵ごと一掃するとしましょう。
まだ覚えたばかりですけど、ぶっつけ本番です!
歌に集中するため、展開したシュッツエンゲルで攻撃を受け流す結界を形成。
「プロフュージョン・オブ・フラワーズ!」
【百花繚乱~祓魔の炎桜~】を発動、ブエル頭上に魔を祓う白き炎を纏った彼岸桜の花吹雪を召喚、そのまま周囲のブエル兵ごとまとめて焼き尽くします。
損傷否定の詠唱も、わたしの破魔の歌声で打ち消しましょう!
「これ以上、この世界に魔の影が広がらないように」
花吹雪を制御しつつ、浄化の祈りを込めて敵がいなくなるまで歌い続けます。
●否定すら覆す歌声よ
再びこの地に立ったフィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)は、|黯《あんぐら》党の首魁、本田英和との戦いを思い出していた。
「蒐集する悪魔、もしかすると先の本田さんとの戦いも記録されてるかもしれませんね」
何故かと言えば、本田の代わりとでもいうように現れた|悪魔《ダイモン》ブエル――今回倒さねばならぬ相手が知識や情報を欲する悪魔だからだ。
「ここは新曲でブエル兵ごと一掃するとしましょう」
まだ覚えたばかりの歌だけれど、ぶっつけ本番で力を発揮することもあるはず! とフィーナが小さくガッツポーズを作る。そして、まずは歌に集中する状況を作り出そうとドローンプレートを展開していく。それはフィーナの望むようにブエル兵からの攻撃を受け流す結界を作り出した。
「プロフュージョン・オブ・フラワーズ!」
フィーナの歌声が寒空の下に響き渡ると、ブエルの頭上に魔を祓う白き炎を纏った彼岸桜の花吹雪が舞う。それはブエルの周囲にいたブエル兵までもを巻き込んで、白炎を噴き上げた。
『私は損傷などしていない』
その炎を受けてなお、即時治癒魔法によりブエルが倒れる事はない。
ここからはフィーナの歌声とブエルの即時治癒魔法の詠唱、どちらが途切れることなく続くかが勝負の鍵となる。
「花のように咲く炎、数多の夢が空を焦がす」
フィーナの歌声に、更に力が増していく。その歌声には破魔の力が宿り、ブエルの詠唱を打ち消さんばかりにスタノヴォイ山脈へと響き渡っていた。
『私は損傷していない』
ブエルも負けじと治癒魔法の詠唱を続けるが、周囲のブエル兵は白炎の威力に寄って次々と灰塵に帰していく。
「どうか、どうか、これ以上、この世界に魔の影が広がらないように」
破魔の力に更に浄化の祈りまでもが籠められたフィーナの歌は、まるでこの地で散った影朧への鎮魂歌のようにも思えるほどの絶唱。敵がいなくなるまで、この場で歌い続けるという覚悟――。
フィーナの覚悟が宿った歌声は、やがてブエル兵を越え|悪魔《ダイモン》ブエルへと肉薄するその時まで、高らかに天へと響き渡るのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ニコ・ベルクシュタイン
俺は、お前など知らない筈だ
だが、俺の本体がお前を識っていると言っているようでな
微力ながら馳せ参じた次第
手合わせ願おうか、本田が遺した悪魔よ
ブエル兵もブエル自身も、中途半端に傷付けただけでは
即時治癒魔法で回復されてしまうという事か
ならば此方は指定UCで妖精に眠り粉散布を頼もう
一度眠りに落ちてしまえば、詠唱も攻撃も回復も、何も出来まいよ
後は迅速に双剣による連続攻撃で有象無象を蹴散らすばかり
其れでも間に合わないようならば、精霊銃の乱れ撃ちだ
炎は延焼し、範囲攻撃と化す事だろう
ところでどうだ、俺の使役する妖精は
世界で一番愛らしい存在だという事だけ識って帰るが良い
何? 斃してしまっては蒐集も叶わぬか……
●伴侶強火勢
ニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)はヤドリガミであり、本体は重厚な作りをした懐中時計である。目の前にいる|悪魔《ダイモン》ブエルのことなど、ニコは知らない。知らない筈だけれど――。
「俺は、お前など知らない筈だ。だが、俺の本体がお前を識っていると言っているようでな」
否定の悪魔、新たな知識の蒐集家。ニコがヤドリガミとして姿を持つよりも前、物であった頃に見たのかは定かではないが。
「それ故に、微力ながら馳せ参じた次第。手合わせ願おうか、本田が遺した悪魔よ」
『私はお前を知らない、その義理もない』
ないが、しかしだ。向かってくるというのならば、情報を収集がてら相手をするのも悪くはないとブエルは自身の眷属たるブエル兵を向かわせた。
ブエル兵は獣面をした悪魔で、五本の脚とも腕ともつかぬそれで地面を蹴りながらニコに迫り、その後ろでブエル自身は損傷否定の詠唱を開始する。双剣を構え、これをいなしながらニコは眼鏡の奥の瞳を数度瞬き、冷静な判断を下していく。
「ブエル兵もブエル自身も、中途半端に傷付けただけでは即時治癒魔法で回復されてしまうという事……か?」
ブエルだけかもしれないが、いちいち検証するのも面倒だなとニコは思う。それから、こういう時こそ俺の妖精さんの出番なのではないか、とも。
「よし、そうしよう」
これと決断したならニコの行動は早く、ブエル達から少し距離を取ると妖精を召喚するべく力を振るう。
「いでよ、|我が伴侶!《イマジナリーウサミ》」
ニコの召喚に応え、現れたのは垂れうさ耳が生えたピンク色の可愛い妖精、どこからどう見てもニコ自身の伴侶の姿をした、本人ではない妖精。まさにイマジナリーウサミである、なんと伴侶公認。伴侶懐が深いな?
「我が伴侶、眠り粉の散布を頼む」
任されたとばかりに妖精が空高く舞うと、ブエルとブエル兵に向けて眠り粉を撒き散らす。キラキラとした粉を撒く姿は可憐な妖精以外の何ものでもないな……とニコがしみじみしつつも、この好機を逃す事無く双剣を手にブエル兵へと斬り込んでいく。
邪魔だとばかりにブエル兵が妖精を狙おうものなら、炎の精霊と契約を交わした精霊銃で焼き討ちである。そうこうしていくうちに、眠気と戦いながら詠唱をなんとか続けているブエルの前へと出た。
「諦めて眠るがいい」
『私は眠くなどない』
無理があるなと思いつつ、ニコはついでだとばかりに妖精を手のひらにのせてブエルへと見せびらかす。
「ところでどうだ、俺の使役する妖精は」
その言葉の意味を掴み兼ねたのか、ブエルの動きが怪訝そうなものになるのにも関わらず、ニコはふっと笑みを浮かべる。
「俺の妖精が世界で一番愛らしい存在だという事だけ識って帰るが良い」
『お前の妖精は可愛くはない』
「……?」
何言ってるんだコイツ、目が悪いのか? みたいな目でニコがブエルを見遣る。
「お前には理解が及ばぬ可愛さということか……いいか、もう一度言う。俺の妖精が世界で一番愛らしい存在だという事だけ識って帰るが良い」
大事なことなので二回、いや、相手が理解するまで言う気だこれ。
「ああ、斃してしまっては蒐集も叶わぬか……」
でも、理解できないくらいならブエルにとっても斃された方がマシか、とニコは双剣を手にブエルへ斬りかかるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
◎
否定、否定
否定ばかりですねあなたは
――つまりは猫の可愛さすら否定すると
(※シリアスは死にました)
いえあなたが例えば犬派だったとしても構いませんよ犬も好きですから私
しかし猫の可愛さを否定するのは許せませんね!
魅惑のVoice
もふもふなBody
怪我を治す至高の|Purr《喉鳴らし》……!
語り尽くせぬ程の魅力が満載でしょうが!
そんなのは古い知識だって?
いいえ、あなたはまだこのラトナの、
神獣の素晴らしさをご存知ないでしょう!
(大丈夫かご主人、な顔のラトナ)
なのでラトナ、あなたの出番です!
私が霊障でどんどん兵をぶっ飛ばしながら進みます
あなたの神モフと神肉球で、奴の詠唱と動きを止めてください!
●愛猫強火勢
|悪魔《ダイモン》ブエル――その姿を目の当たりにし、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は些かうんざりと溜息をついた。
「否定、否定、否定ばかりですね、あなたは」
否定の悪魔が告げる言葉は否定ばかり、普通に喋ればいいのにと思ってしまう程だ。
『私は肯定しない』
「――つまりは猫の可愛さすら否定すると?」
『可愛くはない』
なるほど、戦争であるとスキアファールは強く思う。猫可愛い強火勢の前ではシリアスは死ぬ、いいね?
「いえ、あなたが犬派だったとしても構いませんよ」
そう、犬の方が好きな人を否定する気はない、鳥派だっていいじゃない、爬虫類だって好きな人は好き、それを否定するつもりはスキアファールには毛頭なかった。
「それに私、犬も好きですから」
『犬も好きではない』
じゃああなたは何派なんですか、と問うよりも前にブエルは眷属たるブエル兵をスキアファールに差し向ける。
「……なるほど、自分の眷属派ですか? それもまたいいでしょう、しかし猫の可愛さを否定するのは許せませんね!」
いいですか! とスキアファールは腹の底から声を出す。そのピンと張った糸のような声は、一瞬だがブエル兵の動きを止めた。
「魅惑のVoice」
にゃーん。にゃぁーん?
「もふもふなBody」
もふーん。ごろろーん。ぺそーん。
「怪我を治す至高の|Purr《喉鳴らし》……!」
ぐるるん、ぐるる、ごろにゃぁん。
「語り尽くせぬ程の魅力が満載でしょうが!」
その通り!! 時折そっけなくする態度も! ご飯が欲しい時だけ甘えてくるところも! 猫は猫と言うだけで! 可愛いのだ!!
『その情報は新しくはない』
今までどれほどの猫好きが唱えてきた言葉であるか、ブエルは知っているのだ。だがそんな事は猫好きの知った事ではないのだ、何回でも同じ話を聞かせてやろうか、あぁん?
もとい、スキアファールは自信たっぷりに首を横に振る。
「そんなのは古い知識と言いましたか? いいえ、あなたはまだこのラトナの、神獣の素晴らしさをご存知ないでしょう!」
ドヤァァァ……っ顔のスキアファールが掲げたのは猫妖精のラトナ・ラトリ。それはもう素晴らしいもふもふ、神モフを持った可愛らしい猫である。……ちょっとばかり、大丈夫かご主人って顔をしてはいたが。
「なのでラトナ、あなたの出番です!」
そう言うと、スキアファールが霊障によりブエル兵をどんどこぶっ飛ばしていく。そこにできたブエルまでの最短距離を走り抜けると、損傷否定詠唱を唱えだした悪魔に向かってラトナが飛んだ。
ふみっ。ふみふみ……ふみ……っ!
『な……っこれは、今までに感じた事がない』
ラトナが肉球を押し付けると、ブエルの動きが止まる。それと同時に詠唱も止まり――つまりは、今が絶好の!
「そう、猫の可愛らしさを知らしめるチャンスです!」
ブレない思考、これこそが猫大好き強火勢!
こうして、ブエルは他の猟兵がやってくるまで、ラトナの神もふもふと神肉球によるふみふみ攻撃によってその時を止め続けたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
本田の代わりに現れた悪魔ブエル……
戦争中に余計な相手と戦わねばならない事を嘆くべきか、先々で悩みのタネになりそうな奴を倒す機会を得られたと喜ぶべきか悩ましいところだ
神刀の封印を解除。神気によって身体能力を強化して敵と相対
ブエル兵との交戦は最小限に抑えながら、ダッシュで戦場全体を駆け抜け、各所に神刀で刀傷をつけていく
十分な範囲を囲ったところで、廻・肆の秘剣【黒衝閃】を発動
ブエル兵を纏めて吹き飛ばしたら、追加が現れる前にブエルの元へ接近
奴の喉に向けて突きを放ち、刀を突き刺す。それで詠唱を阻害できればそれでよし
阻害できずに治癒されても、刀が抜ける訳ではない、継続的にダメージを受ける事になるぞ
●否定すらも穿つ刃よ
スタノヴォイ山脈にて|黯《あんぐら》党の首魁、本田英和は猟兵達、そして本田に縁が浅からぬ猟兵の手で倒された。だというのに、再びスタノヴォイ山脈に敵が現れたと聞き夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は一も二もなく駆け付ける。
「あれが本田の代わりに現れた|悪魔《ダイモン》ブエル……」
本田が召喚した悪魔だというが、なるほど厄介そうな相手だと鏡介は思う。
「戦争中に余計な敵と戦わねばならない事を嘆くべきか、先々で悩みのタネになりそうなやつを倒す機会を得られたと喜ぶべきか……」
悩ましいところだな、と思いつつ鏡介がブエルとブエル兵までの距離を目視で測る。
「放っておけばサクラミラージュに手を出してきそうだし……ここで倒すに越したことはない、か」
故郷たる世界を荒らされるのはごめんだからな、と鏡介が手にした神刀『無仭』を白鞘から抜き放つ。
「神刀解放」
神刀より溢れた神気を纏い、まずは邪魔なブエル兵を相手取る。
「体力の消耗を考えれば、できるだけ最小限に抑えたいところだな」
そうは言いつつも、鏡介の剣技は研鑽を重ねた者だけが持つ切れ味で、戦場全体を駆け抜けながらブエル兵を倒し不審に思われぬ程度に岩肌に刀傷を刻んでいく。
「これくらいで充分だろう」
まるで柔らかなものに突き立てるように、鏡介が神刀の切っ先を地面へと突き立てる。
「砕き散らせ、黒の剛撃」
先程まで鏡介が付けていた刀傷で囲まれた内部――ブエルがいる箇所より、ドンッと凄まじい音を立てて黒の神気が噴出する。それはブエルの周囲にいたブエル兵を容易く塵に帰し、ブエルへもダメージを与えていた。しかし、損傷否定詠唱を唱えるブエルは傷付くそばから傷を癒していく。
「なるほど、ならば」
再びブエルの周囲にブエル兵が湧く前にと地を蹴れば、瞬歩の如き速さでブエルの喉元へ神刀を突き刺した。
「これで詠唱は満足にできないだろう」
『ぐ……、私、は詠唱を止める、ことはない』
確かにその言葉通り、傷は塞がりかけている。けれど。
「治癒ができるといっても、刀が抜けるわけではない――そのダメージは継続的にお前を傷付ける」
その苦痛にいつまで途切れることなく詠唱が可能だろうな? と更に刀を押し込む。更に言えば、鏡介の持つ刀は一振りではない。
「利剣に大刀、どちらがお前の好みだろうな」
好きな方を選ぶといい、そう言って鏡介は躊躇う事無くブエルを追い詰めていくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
朱酉・逢真
心情)否定の悪魔か。肯定の神格な俺たァ真逆の存在じゃァないかね? ひ、ひ、おっかしィ…。だがお前さんは真逆であり、対極ではない。ヒトの光を信じ、暗闇を焼き尽くすほどの否定さはない。お前さんの否定は、幼子の駄駄のようだ。かわいらしいねェ。
行動)生命を否定するか。だがこの身は生きてはいない。命でさえない。俺の眷属たちも死者の残した朧な残響だ。お前さんが奪えるものはなにもない。ではお返しと行こう。その否定を肯定し、否定し返してあげよう。痛みはないから安心おし…ブエル兵も超能力もお前さんも、すべて溶かして《海》に還そう。未知の降り注ぐ暗闇の果てで、またオハナシしようぜお兄さん(*三人称としての呼称)
●否定と肯定
へェ、と朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)がまじまじと|悪魔《ダイモン》ブエルを眺める。その口からは否定の言葉を発し、使う力も否定を源とするというのだから、逢真からしたら可笑しさしか感じない。
「否定の悪魔か。肯定の神格な俺たァ真逆の存在じゃァないかね?」
ひ、ひ、と笑いながら手を叩く。賞賛の拍手などではなく、可笑しくて思わず叩いてしまった、というような力ない拍手だ。
「ア、おっかしィ……」
『何も可笑しくなどはない』
ブエル兵を周囲に従えて、ブエルがヒィヒィと笑う逢真にそう返す。
「そうかィ? だがまァ、お前さんは真逆であり、対極ではない。ヒトの光を信じ、暗闇を焼き尽くすほどの否定さはない」
そう、|あの女《イセリア》のような苛烈さはない、逢真からすればブエルの否定はまるで――。
「幼子の駄々のようだ、かわいらしいねェ」
児戯に等しいと、かみさまは言う。
『私の力は児戯ではない、それに肯定はしない』
「そうだろとも、それでお兄さんは何を否定してくれるンかね?」
この肯定の神格たる俺の、朱酉逢真の何を? と逢真が問えば、否定の悪魔はそれに答える。
『お前は生きるべきではない』
ブエルが解放した力は生命を否定するもの、この戦場における敵から生命力を奪いダメージを負わせ、味方にその生命力を使い強化するもの。
「ひ、ひ! よりにもよって、この俺に生命を否定するとはねェ」
共に誰かを連れてきていれば話は別だったろうにと、逢真が唇の端を持ち上げながら|何も起こらない空間《・・・・・・・・・》で悠々とブエルとその兵士に向けて説いてやる。
「だがこの身は生きてはいない。命でさえない。俺の眷属たちも死者の残した朧な残響だ」
逢真の身体は生身などではない、『宿』と呼ぶそれは謂わば容器のようなもの。血は流れず、内臓だって必要ないから入ってやしない。必要最低限、宿を動かす為の骨と皮、それからあるかないかの筋肉だ。
それ故、体力なんてものは持ち合わせていないから移動は眷属任せだし、脆い。そのように出来ているのだ。
「悪ィね、これではお前さんが奪えるものはなにもないだろう? ではお返しと行こう」
悪いなどと思ってもいない声で、眷属に運ばれながら逢真が両の手を椀状に揃える。
「その否定を肯定し、否定し返してあげよう。痛みはないから安心おし……」
両手の平に湧かした『海』から無数の泡が湧きたち、戦場へと放たれる。
「ブエル兵も超能力もお前さんも、すべて溶かして『海』へ還そう」
海は海へと通ずるもの、骸であれ、彼岸であれ。だから、と逢真は静かに語り掛ける。
「未知の降り注ぐ暗闇の果てで、またオハナシしようぜお兄さん」
いくらでもお前さんの否定を聞いてやろう、と幼子に向けるような笑みを浮かべたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
浅間・墨
ロベルタさん(f22361)
…。あれが悪魔…?
なんだか機械のような身体ですね。ブエルさんは。
リミッター解除後に限界突破して多重詠唱を開始です。
繰り返し詠唱しながら継戦能力で速度と威力の底上げを。
『兼元』の一振りの鯉口を切りつつ鎧砕きと属性攻撃付与。
準備が整ったら私はブエル兵達の間を縫ってブエルへ!
駆け抜け様に脚や腕を斬り飛ばせれば実行しましょうか。
こちらの技を覚えられるのは厄介ですが速度で回避します。
気が付いたら斬られていた…ならば覚える時間は無いかと。
もし覚えられていもその時にはブエルへ到達しているはず。
そのブエルへは喉元を突いてみようと考えていますよ。
しかも素直に喉を狙うのではなく腕を狙うと見せかけます。
技の速度と2回攻撃と早業でなんとかしてみようと。
もし私の技を見切られたと感じた場合には即時離れますね。
見切りと野生の勘と第六感で『否定』の回避を試みます。
ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)
おー♪ブエルってなんだかロボ的な悪魔だねぃ?
なんだか数体合体したら巨大化しそーな感じだ♪
準備してる墨ねーの隣で僕も戦闘準備をするじぇ♪
パフォーマンスで身体機能を整えて封印を解いて。
次に限界突破したら多重詠唱開始だ♪
継戦能力で技の速度と威力の維持して…いざ!
【雷神の大槌】を発動してブエルへ向かうじぇ♪
墨ねーが隙間を縫って進むなら僕は上から行く。
ブエル兵の肩や頭を駆け渡ってブエルへ向かうじぇ!
兵は墨ねーが斬ってくれるはずだから僕は走るだけ。
…って。そんなに簡単に行くわけにいかないか♪
なら肩や頭を蹴ってバランスを崩してみようかな。
そーしたら墨ねーもやりやすいはずだじぇ。多分。
墨ねーはブエルの喉を突くみたいだね…。
僕は後ろにまわって足払いでもしてみよーかな。
もしくは胴とか後頭部を蹴り抜いてみよーか♪
僕の攻撃か墨ねーか…迷ってくれると助かるな。
否定の力が範囲攻撃ならこの作戦は失敗だけどね♪
そう感じたらすぐに技の速度で距離をとる。
見切りと野生の勘と第六感で避けられたらいいな…。
●否定に負けぬ心
再び訪れたこのスタノヴォイ山脈で、浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)は|黯《あんぐら》党の首魁、本田英和が召喚していたという|悪魔《ダイモン》ブエルの姿を目にし、頬に手を添え僅かに首を傾げていた。
「……。あれが悪魔……?」
自身の眷属であるブエル兵に守られるように立つ悪魔は墨の目からすれば悪魔と言うよりは。
「なんだか機械のような身体ですね。ブエルさんは」
「おー♪ 墨ねーの言う通り、ブエルってなんだかロボ的な悪魔だねぃ?」
同じく、共に訪れていたロベルタ・ヴェルディアナ(ちまっ娘アリス・f22361)もその意見には同意のようで、ぴょんぴょこ跳ねながらブエルの姿を確認している。
確かに一般的に悪魔と言われるものとは違い、ブエルは甲冑めいた……どこか機械的な要素を感じる姿である。
「なんだか数体合体したら巨大化しそーな感じだ♪」
『私は機械ではない』
「あっ、聞こえてたみたいだじぇ、墨ねー!」
「……そのようですね。ブエル兵もこちらに向かってきているようです」
獣面をした、脚が五本あるような悪魔。悪魔というのなら、よっぽどこちらの方が悪魔らしいと墨は思いつつ、戦いの気配を感じ取り戦闘準備を整えていく。
隣に立つ墨の気配が少しずつ変わっていく――臨戦状態に入っていくのを感じてロベルタも戦闘準備へと入る。軽く足首や腕をぐるぐると回し、跳躍も少しずつ高さを増して。
「怪我しないように準備運動は大事だじぇ♪」
身体機能を整え、封印を解き、肉体の限界を突破する――そんなイメージを拡げていけばロベルタは自身の力を最大限に発揮できるのだ。
そしてそれは墨も同じくで、普段は抑えている己の中の力を開放し肉体の限界を超えていく。そうすると、イメージ通りに身体は動き普段とは段違いの動きが可能となる。
「墨ねー!」
「はい、ロベルタさん」
そこまで肉体のポテンシャルを上げたなら、次は多重詠唱だ。重ねに重ねたそれらを武器に、いざ!
「参ります」
墨が『兼元』の一振りの鯉口を切りつつ、ブエル兵達の合間を縫うように駆けた。
「ひゅー♪ さすが墨ねー、速いんだじぇ! 僕も負けてられないんだじぇ♪」
墨が地を駆けるのなら、ロベルタは上から行ってみようと思いつく。思い付いたらロベルタの行動は早く、地を蹴ると同時にユーベルコードを発動させた。
「Uccidi i nemici in orbita con l'aiuto del ruggito!」
雷属性を帯びたロベルタの健脚はブエル兵の肩や頭を飛び石代わりにし、軽やかにその後を追う。勿論、飛び石代わりにされたブエル兵は凄まじい威力の蹴りを喰らったも同然で、ぐしゃりと潰れるように地に崩れ落ちていく。
「ありゃ、バランスを崩す程度で考えてたんだけどな」
それが少しでも墨が駆け抜けていく手助けになればと思っていたのだけれど、どうやらそれ以上の効果があったようだ。
「……ロベルタさん、さすがですね」
私も負けてはいられませんと、ブエル兵の合間を駆け抜けるついでとばかりにブエル兵の脚だか腕だかわからないそれを斬り飛ばした。
ブエル兵から|悪魔《ダイモン》ブエルまで、まるで一本の道ができるかのように兵が倒れていくのをブエルが観察するかのように見ている。その視線を感じ、墨は厄介ですねと唇を引き結ぶ。
「こちらの技を覚えられるのは厄介ですが……」
速度で回避してしまえば問題ないのでは? と墨が思い付く。脳筋的な考えではあれど、気が付いたら斬られていたという状況であれば覚えるような時間はないのではないか。もし、覚えられていたとしても――その瞬間に剣先はブエルへ到達している筈。
それに体感したとして、『気が付いたら斬られていた』などと言う情報が情報たり得るのかという話だ。
「……これでいきましょう」
墨の瞳がブエルの喉元を捉える。ロベルタはその視線の動きだけで、墨がブエルの喉元を狙うのだなと直感的に把握する。
「ふむふむ、なるほどなんだじぇ」
ならば、自分はどう立ち回るか。軽く脳内でシミュレーションし、最適解を叩きだす。
「それなら、僕は後ろに回って足払いでもしてみよーかな」
もしくは、胴体ないし後頭部を蹴り抜いてみるか。アレがダメならコレでいこう! くらいのノリで、ロベルタは墨のサポートにもなり、尚且つダブルアタックにもなる最善で動くべくブエルの頭上を目指した。
とんでもない勢いで迫りくる二名の猟兵に対し、ブエルは慌てる事無く『損傷否定詠唱』を始める。それは詠唱を続ける限り、止めることがない限り、決して死ぬことはないという否定である。
『私はいかなる傷を負おうとも死ぬことはない』
「! 墨ねー!」
「……はい、大丈夫です」
詠唱がどの部分から行われているのかは知らないが、人体と似た構造なのであれば当初の計画で事足りるではないかと墨は思う。果たして喉を突かれてまで、詠唱が止まらぬことがあるのだろうか?
「……あったとしても、問題はありません」
何度でも、挑めばよろしいのでしょう? そう、口元に笑みを浮かべて墨がブエルに向かって駆ける。それに合わせ、ロベルタもまた同等のスピードを以てして、ブエルへと迫った。
「Uccidi i nemici in orbita con l'aiuto del ruggito!」
「八雷の名の元に……」
風よりも、雷よりも、速く、疾く。
墨の初撃はまずわかりやすく腕を狙うと見せかけた軌道、ロベルタは背面へ回り足払いを掛ける。どちらの攻撃を避けるか、体勢を崩すことを畏れたのか、ブエルは墨の攻撃を受け止めるように腕をかざしロベルタの攻撃を回避するために動いた。
ブエルが動いたその瞬間に刀の持ち方を変え、墨が喉を一突きにしてみせる。
「僕の攻撃か墨ねーか……迷ってくれて助かったじぇ!」
「……覚える暇も……ございませんでしたでしょう?」
『……っ、! 私は、私の傷を、認めない』
否定する、否定する!
「さすが、一撃じゃ無理ってことかねぃ?」
「……そうかもしれません、ですが」
二人が視線を交わし、墨が唇の端を僅かに、ロベルタがにんまりと持ち上げる。
「これくらいで諦める僕じゃないんだじぇ!」
「……ええ、私もです」
何度耐えられるか、試してみようとロベルタが笑う。
今度はロベルタさんの攻撃を主軸にしていくのもいいかもしれないと、墨が微笑む。
戦いの中において成長する、それこそが猟兵だ。
猟兵の戦闘データ、情報なんてものは常に更新し続けるのだと、ブエルが理解するのはすぐのことであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
壽春・杜環子
【空環】◎
ふふ、悪魔って皆々様律儀ですの?
でもそらくんの仰る通りわたくしたちには栓無きこと
お前が悪魔ならばわたくしがカミとなるUC
隠密力を上げ、兵へ蝶の口付けを
その|手《兵》を削ぎ、その|足《兵》を捥いで散らして花弁へ
星の軌道から落ちなさい
|数多幾多の花弁《兵士という武器だったもの》を畏れずとも良い
その全てはお前の武器であったと同時に、お前の手と足だったものですもの
“悪魔として生きるお前”が否定しては――ブエルの存在そのもを否定ですものね?
重ねた否定の五衣唐衣裳に袖を通す時間でしてよ
支度をなさい
「あら、そらくんタイが曲がっていてよ? 直しましょう、ピンもここならもっとよく見えますかしら?」
蓮見・双良
【空環】◎
律儀なのか愚直なのか…まぁ、どちらでも構いません
僕は猟兵としての務めを全うするだけです
杜環子さんと手を重ね
僕らに夢纏いオーラ防御&先制攻撃UC
着弾地点からと言うなら着弾させなければ良い…そうでしょう?
上品に微笑み『メビウスの帯の時空間』を具現化
敵の周囲にだけ発生させ兵も魔力弾も全て取り込み
飛び続ける弾を眺めるのも飽きるので
僕が止めて差し上げましょう
魔力弾が敵へと向かう最中に帯を断ち、敵を自滅させます
ご存じですか?
否定は最も簡単な逃げ道…
それを選んだ時点であなたは負けていたんです
さぁ、あなたの|選択《存在否定》をご自身で受け止めて下さい
ふふ、ありがとうございます
|僕の神様《杜環子さん》
●カミガキタリテ
|黯《あんぐら》党の首魁、本田英和が召喚したという|悪魔《ダイモン》『ブエル』は、召喚者亡き今も何故か退くことなく本田が陣を敷いていたスタノヴォイ山脈にまるで代わりのように姿を現していた。
そこにいる理由は様々な憶測を生んでいたが、契約の延長線上なのかブエルの求めるものの為なのかはわからない。
そして、ブエルを倒す為にスタノヴォイ山脈にやってきた壽春・杜環子(懷廻万華鏡・f33637)もまた、まるでブエルが本田の後を守っているようだと隣に立つ蓮見・双良(夏暁・f35515)に内緒話をするかのように囁く。
「ふふ、悪魔って皆々様律儀ですの?」
「どうでしょう……律儀なのか愚直なのか……まぁ、どちらでも構いません」
「でもそうね、そらくんの仰る通りわたくしたちには栓無きこと」
どちらにせよ、あれは倒すべき相手なのだから。
「ええ、僕は猟兵としての務めを全うするだけです」
そっと双良が杜環子の手へ己の手を重ね、二人の視線が交わり自然と笑みが浮かぶ。
「早くあの悪魔を倒して、お家へ帰りましょうね」
「はい、そうしましょう」
ブエルとその眷属を倒して、と二人がブエルを見据えた。
『お前達では私を倒せない』
「あらあら、大きなお口ですこと」
「出来るかどうか、その目で確かめてください」
この場にいる誰よりも早く、双良が動く。夢を具現化する力を発動させ、こちらに向かってくるブエル兵から自分達を守る為のオーラを展開した。
その行動を否定するかのように、ブエルもまた力を振るう。存在も生命も何もかもを否定するかのように、戦場全体に生命を否定する空間を作り出す。
『私はお前達の存在を認めない』
「なら、僕は僕らの存在を認めないあなたを認めません。その力が着弾地点からと言うなら、着弾させなければ良い……そうでしょう?」
双良が微笑みながらブエルに告げる、その微笑みはどこか品の良さを感じさせるもので、隣に立つ杜環子が満足そうにその笑みを見て、同じように笑っている。
軽く視線を向け、杜環子に柔らかな笑みを浮かべると双良が『メビウスの帯の時空間』を具現化させ、それを敵の周囲にだけ発生させていく。メビウスの帯、それは彼の数学者が考案したと言われる表裏の区別ができない連続面となる図形、つまりその名を冠した時空間ともなれば――永遠に飛び続けるということだ。
「ずうっと飛び続けますのね?」
「はい。でも飛び続ける弾を眺めているのも飽きるので、僕が止めて差し上げましょう」
指をハサミの形にし、魔力弾が敵へと向かう最中にパチンを帯を断つ。それだけで、まるで魔法のように着弾点の付近にいたブエル兵が消えていく。ブエルの元に向かう道を邪魔していた兵の数が少なくなった頃に、今度は杜環子が出番ですわねと前に出た。
「お前が悪魔ならば、わたくしがカミとなりましょう」
あまり、積極的に見せたい姿ではないけれど。今この時なればこそ――杜環子は願いを叶えると謳われた杜の万華鏡の九十九神へと姿を変える。見る者に畏敬や畏怖を感じさせる、凛とした……それでいて、どこか儚げにも見える姿。
「どうぞ」
双良が彼女をエスコートする世に手を差し出せば杜環子がそこに手を重ね、しゃりん、と僅かな音を立てて式神の蝶を放った。ひらり、ひらりと蝶々が飛んで、ブエルの周囲を守るようにしていた兵に口付けをするかのように触れていく。
「その|手《兵》を削ぎ、その|足《兵》を捥いで散らして花弁にしてしまいましょう」
獣面をしたブエル兵が、蝶が触れたとたんに花弁へと変わり風に舞い上げられる。
「ふふ、綺麗」
『綺麗ではない、これは私の兵に相応しくはない』
「|数多幾多の花弁《兵士という武器だったもの》を畏れずとも良い」
『畏れてなどはいない』
杜環子による、ブエルへの問答は続く。
「その全てはお前の武器であったと同時に、お前の手と足だったものですもの」
『それは私の手足ではない』
「あらあら……」
くすり、と杜環子が口元に手をやって笑う。
「お前が――『悪魔として生きるお前』が否定しては――ブエルの存在そのものを否定ですものね?」
星の軌道から落ちよとばかりに、杜環子が言葉を重ねれば重ねる程、ブエルは否定を口にできなくなる。
「ご存じですか? 否定は最も簡単な逃げ道……それを選んだ時点であなたは負けていたんです」
『私は負けてはいない、負けることはない』
「懲りないことね。そろそろ重ねた否定の五衣唐衣裳に袖を通す時間でしてよ、支度をなさい」
幾つもの花弁が舞い散る中、悪魔ブエルだけが立ち尽くす。
「さぁ、あなたの選択存在否定をご自身で受け止めて下さい」
パチン、と双良がメビウス帯を再び切れば、魔力弾はブエルへと降り注ぎ花弁ごと消えていった。
「さ、帰りましょうか杜環子さん」
「ええ。あら、そらくんタイが曲がっていてよ? 直しましょう、ピンもここならもっとよく見えますかしら?」
両手を添えて双良のネクタイを直し、ガラス製のネクタイピンもついでとばかりに一番いい場所へと直す。硝子の星が煌めく様子に満足気にした杜環子に双良が微笑む。
「ふふ、ありがとうございます」
――|僕の神様《杜環子さん》、そう囁くと繋いだ手を引いてゆっくりと歩き出したのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵