獣人世界大戦⑮~善惡の境界
「世界は欺瞞に満ちている」
かつて、「黯党」の首魁はブエルにそう言った。
「|情報《・・》を欲するお前ならば理解できるだろう。人々は正しい情報や知識を奪われ、都合のよい洗脳の中で自らの可能性を摘まれながら生かされ続けるのだ。それで得をする奴らのための、養分として」
本田が周囲に纏わせていた怨嗟と悲嘆に満ちた影朧たちの呪いは、今、ブエルに向かって縋るような呻きを発している。なぜだ、理不尽だ、むごい、悲しい……ブエルは飽き飽きしていた。どいつもこいつも、|古い《・・》ことしか言わない。
「不満があるならなぜ自分で動かぬ? 貴様らが世界の養分になったのは新たな情報を得る努力を怠ったからだ。安寧の洗脳を心地よいとは思わなかったか? 騙されている方が楽だとは思わなかったか? せめて今、その力で猟兵たちを苦しめるのだ。それくらいしかもはや貴様らに出来ることは残っておらんのだ!」
「ブエルにけしかけられた影朧は皆に問いかける。『何故、欺瞞に満ちた世界を守るのか?』」
仰木・弥鶴(人間の白燐蟲使い・f35356)は影朧たちの疑問に答えを叩きつけない限り、ブエルに攻撃が届くことはないのだと説明した。
「影朧たちは口々に言うだろう。それぞれが生前に味わった極めて理不尽な悲劇の数々を。怨嗟と悲嘆に満ちた彼らの嘆きは、重なり合ってひとつの呪いとなる。猟兵でさえも『悲劇の幻影』の中へと取り込むことが可能になるほどの、昏く冷たい場所への誘いだ」
影朧の世界への憎しみは強く、簡単には振り払えないだろう。
強い意志、想い、論理、方法は何でもいい、必要なのは真なる|答え《・・》だ。
「ブエルは本田が遺した影朧を引き連れてスタノヴォイ山脈に布陣している。どうやらブエルの目的は『はじまりの猟兵』みたいだね。おそらくは『⑳はじまりの場所』に関係する……果たして、最初に到達するのはどの陣営になるだろうね?」
ツヅキ
OP公開直後よりプレイング募集しています。
こちらに届いたものから順次リプレイをお返しする予定です。
●第1章
本田の遺した影朧を使い、ブエルが猟兵の前に立ちはだかります。世界の理不尽への呪詛によって悲嘆の世界に引きずり込もうとする影朧の誘いに抗い、打ち勝つことができなければブエルを倒すことはできません。
●プレイングボーナス
悲劇の幻がもたらす「世界への憎しみ」に打ち勝つ。
詳細はOPをご参照ください。
それでは、よろしくお願いします。
第1章 ボス戦
『悪魔「ブエル」』
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POW : 存在否定呪文
レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる【魔力弾】を放つ。発動後は中止不能。
SPD : 生命否定空間
戦場全体に【生命否定空間】を発生させる。敵にはダメージを、味方には【戦場全体の敵から奪った生命力】による攻撃力と防御力の強化を与える。
WIZ : 損傷否定詠唱
自身が愛する【即時治癒魔法の詠唱】を止まる事なく使役もしくは使用し続けている限り、決して死ぬ事はない。
イラスト:キリタチ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
栗花落・澪
呪詛耐性を乗せたオーラ防御を纏いつつ
翼の空中戦
ブエルの攻撃は極力同じ場所に留まらず距離を取り飛び続けて回避を重視し
弾切れまで粘る
世界への、憎しみ
正直…少しだけ、理解出来てしまう
でも、僕は救われて知った
世界は意外と優しさで溢れてた
目前の闇しか知らなかった僕には
眩しすぎるくらいに
だから
僕は沢山貰ったから
今度は皆に返したいだけ
自己満足な贖罪で、恩返し
その過程で再び絶望を突き付けられても
騙されても
僕はもう構わない
一度夢を見せてもらったから
守るの
返すの
貴方達にも
想いを
祈りを込めた破魔、破邪の光魔法で
影朧達の浄化狙い
攻撃の隙が出来た瞬間彩流星で攻撃
んむ……このこーげきの後こまっちゃうけど
なんとかなるかなぁ
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は翼を広げて飛翔しながら戦場を見下ろした。さきほどからブエルの魔力弾による攻撃は激しさを増している。呪詛耐性を乗せた澪のオーラを破るには連続で直撃させるしかないと考えたのか、ブエルはより一層狙いを定めて魔力弾を放ち始めた。
「ちょこまかと!」
「そう簡単に当たるつもりはないよ」
弾切れまであと数十秒……十数秒……残り十秒を切った。
その間、澪を襲うのは影朧たちの怨嗟の声だ。
こちらを恨みの海に引きずり込もうとして、囁きかける嘆きの声だ。
(「……気持ちは、わからないでもないんだ」)
世界はさまざまな憎しみ、妬み、悲しみ、光の裏側には決して癒えない影の色を抱えていて。
「――でも、僕は救われて知った。世界は意外と優しさで溢れてた」
目の前にある昏くて深くて冷たい闇しか知らなかった澪には、あまりにも眩し過ぎるほどの――だから、沢山貰った|それ《・・》を今度は皆に返そう。
ただその一心でしかなかった。
言ってしまえば、自己満足的な贖罪と恩返し。
騙されることもあるだろう。
絶望を突き付けられることだって。
それでもかまわない。
澪はもう救われている。
既に一度、夢を見せてもらったから、それでもいいんだ。
「だから、今度は僕が守るの」
澪の掌が輝いた。
「だから、皆に返すの」
光は魔を破る力を宿して、戦場全てをあまねく照らす。
「貴方達にも、想いを……」
破魔の光輝を浴びた影朧たちはその神々しさに涙を流しながら消滅……いや、浄化といった方が正しいだろう。影から光へ。脱皮するかのように現在の闇から抜け出して澪の脇を掠めるように飛んで天へと昇る。
「影朧たちが……!?」
ついにその時、ブエルの攻撃が止んだ。
「時間切れだね。僕はこの時を待っていたんだ」
澪は杖をブエルに向け、極めて激烈なる魔法攻撃を放った。まるで虹みたいに複数の属性を備えた流星のような魔力砲はブエルを追尾し、呑み込んで。
「あああッ――」
「んむ……」
ブエルの悲鳴が響く一方、澪は……技の反動ですっかり幼い子のようにたどたどしく呟いた。
「このこーげきの後いつもこまっちゃうけど、なんとかなるかなぁ?」
大成功
🔵🔵🔵
プレゼナ・ハイデッカー
その怨嗟には理解を示しましょう。
私も、そうした理不尽の末に故郷たる世界を終わらされた身。
皆さんの悲嘆、絶望は僅かなりとも察し得ます。
ですが、その上で。世界に護る価値が無いかといえば。答えは否です。
こんな世界で、尚も欺瞞に陥ることなく生き続ける人々。恐らく生前の皆さんと同じように生きている人々。
世界を護るのは、偏に、彼らの――皆さんの生を肯定する為なのです。
以てブエルの護りが剥がれれば、ただちにUC発動し彼へと肉薄。
四撃を叩き込み、生命力簒奪を上回る勢いの傷を刻み込んでくれましょう。
理解することと受け入れることは違うのだということをプレゼナ・ハイデッカー(ロストエクシード・フェアリーテイル・f32851)は過たず知っていた。
本田が倒された後の戦場は秩序を失い、まさしく地獄めいた様相を呈している。ブエルによって煽られた影朧の怨嗟は渦巻く暗澹と化してプレゼナの肌に触れる距離にまで迫った。悲しみによる冷たさと怒りによる熱さの両方がない交ぜになった哀れな声にプレゼナの心は引き攣れるような痛みを覚える。
悲嘆は解る、絶望も判る……。
なぜならば、プレゼナもそうした理不尽の末に故郷たる世界を終わらされた身だから。忘れ得ぬ過去、いまでもずっと心の奥に抱えたまま……。
「ですが、その上で否と答えましょう。世界には護る価値がある。|こんな世界《・・・・・》で、それでもなお欺瞞に陥ることなく生き続ける人々がいる。そう、生前の皆さんと同じように」
プレゼナは自ら手を差し伸べ、影朧の闇に触れた。
最初、彼らは心を開かなかった。だが、プレゼナの言葉が彼らを変えた。
「私にとって世界を護るということは、偏に、彼らの――|皆さんの《・・・・》生を肯定する為なのです」
「なんだと……!?」
ブエルは見た。
もはやプレゼナを飲み込むのは時間の問題と思われていた怨嗟の声が、一斉に晴れていった奇跡のような光景を。闇が晴れ、光が差し込む中をプレゼナが跳躍する。まるで――否、獣そのものだ。獰猛に獲物だけを追い詰め、容赦なく命を奪う時のしなやかなる動きでブエルの間合いに飛び込み、咆哮を放った。
「オオオアア、アアアッ――――!!」
プレゼナは雄叫びを上げ、四度、ブエルに攻撃を叩き込んだ。一撃を入れるごと、ブエルが奪ったはずの生命力が傷口からあふれ出す。
「あっ、あっ、何をする!」
奪った生命力の量以上のダメージを受けたブエルが焦った声を上げた。今や立場は逆転する。やられる側になったブエルが怨嗟の声を叫ぶ番だ。
「お、おのれ! よくも……よくも……――ッ」
大成功
🔵🔵🔵
フィーナ・シェフィールド
アドリブ連携歓迎です
本田さんとの戦いでも散々見せられましたが…
影朧の怨嗟の声には慣れません…いえ、慣れてはいけませんね。
これも世界の真実だと言うことは認めざるをえません。
「…それでも。」
だからこそ、これ以上このような悲しみを増やしてはいけない。
そのために、わたしは歌います!
「新しい情報が欲しいようですね。ならば聴かせましょう、この戦線が始まってから書き上げた新曲を!」
インストルメントを構え、演奏を開始。
「グッバイ・ティアーズ!」
ブエルを中心に、影朧に向けて【これが最後の涙だから】を歌い始めます。
破魔の力を込めた歌声と演奏によって畏怖を与え、ブエルの損傷否定詠唱を阻害。その存在を浄化しましょう!
「こんなに、たくさんの……」
フィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)は眼前に広がる光景に思わず息を呑んだ。
ブエルを中心とする戦場一帯を怨霊のような影朧たちが取り巻いている。一面の闇。霧のように満ちる、呪詛そのもの。まるで頭の中に直接語り掛けてくるような怨嗟の声は本田との戦いでも散々に味わったものだった。
何度聞いても慣れやしない……否、慣れてはいけないのだ。フィーナは無意識のうちにそう思った。受け止めなければ、認めなければ。
決して癒されぬ無謬の怒りや哀しみの存在もまた、世界の真実であるということを。
影朧となってなお、生前受けた苦しみに苛まれる者たちの苦しみがフィーナの心にひとつの決意を生み落とした。
「……それでも」
だからこそ、これ以上このような悲しみを増やさないために――インストルメント! 専用のオリジナルデバイスに指先を走らせ、フィーナは宣言した。
「わたしは歌います!」
ほほう、とブエル。
興味深げな頷きだった。
「歌い手なのか、なるほど」
「新しい情報が欲しいのですって? ならばお聴きなさい、この戦線が始まってから書き上げた新曲です!」
すぐに演奏が始まった。
フィーナの奏でるメロディは哀しみを断ち切るための強い願いに満ちている。そして、タイトルコール。熱い想い、抱きしめていたい――。
「グッバイ・ティアーズ!」
影朧を解放するための破魔の力を込めた歌声が、演奏が、怨嗟の声を救済の涙へと変えた。ブエルは焦った。損傷否定詠唱を上書きするフィーナの歌声に攪乱されてしまう。
「やめろ、黙らんか!」
だが、フィーナは構うことなく歌い続けた。
雨上がりの空を虹が彩るように、希望を込めて。畏怖に苛まれたブエルの喚きすらもかき消すほどに。哀しみのために泣くのはもう終わりにしよう。
だから笑って。
顔を上げて、未来を見よう。
まっすぐに前を見つめる。
イーリスに唇を寄せ、ありったけの希望を乗せて。
「これが、最後の涙だから」
大成功
🔵🔵🔵
宙夢・拓未
▼答え
欺瞞に満ちた世界を守る理由……
それは、俺がヒーローだからだ
ヒーローは悪と戦う者であり
ヒーローは弱きを助け強きを挫く者だ
自分の弱さゆえに他人を騙した人も
他人に騙された罪なき人も
等しく、俺が守るべき世界の一部だ
影朧の皆が味わった悲劇は止められなかったけれど
これから先、一人でも多く救っていくって約束するさ
ブエル、お前は必ず討つ
お前は倒すべき悪だ!
▼戦闘
【ヴァリアブル・ウェポン】
ブエル目がけて不意打ちで、右手首からネットランチャーを放つ
上手くネットに絡まってくれればこっちのものだ
着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる、中止はできない呪文なんだってな
ネットの中で魔力弾を放てば……
じゃあな
ブエル
なぜ欺瞞に満ちた世界を守るのか?
――答えは簡単だった。
ブエルに問われた宙夢・拓未(未知の運び手・f03032)は己の拳を目の前でしっかりと握り締め、確かな声色でこう答える。
「俺が、ヒーローだからだ」
悪意ある問いかけなどに惑わされない。
そこに悪がいる限り、困っている者がいる限り、拓未はどこにいたって駆け付ける。ゆえのヒーロー。悪と戦い、弱きを助け、悪を挫く者。
「ほほう」
ブエルが笑った。
意地悪く、悪者らしく。
「だが、そやつらは本当に守るべき価値があるのか? 弱き者には弱き者になるべくした理由があるのだ。そうは思わないか?」
「その程度の反論で俺が動揺するとでも思ったか? 悪魔よ」
結局、拓未は眉ひとつ動かさなかった。
握りしめた拳を胸に当て、静かに瞑目しただけで。
「自分の弱さゆえに他人を騙した人もいるだろう。清廉潔白な者たちばかりではないことは承知している。もちろん、他人に騙された罪なき人だって。だが、いずれにしても等しく俺が守るべき世界の一部だ」
「ぬ……」
あまりにもはっきりと答えられた方のブエルは返す言葉がないように見えた。どうにかして拓未の決意を翻したい、意思を覆したい。だが、その方法が思いつかない……。
「だが! 貴様は奴らを救えなかったではないか!」
「ああ、そうだ」
拓未は再び両目を開いた。
既に起きた悲劇をなかったことにはできない。全ての者を助けることも不可能なのはわかっている。だが、それでも最善を尽くす。
――一人でも多くを救うため、戦い続けることを約束しよう。
どうあっても拓未の心は突き崩せないと知ったブエルが狼狽えるように視線をさまよわせた。いつの間にか、あれだけ怨嗟の声を発していた影朧がすっかりいなくなっているではないか。
「ど、どこにいった? まさか、こやつの言葉を信じたのか!?」
「ブエル、お前は必ず討つ。お前は倒すべき悪だ!」
それまでずっと握りしめていた拓未の右手首に内蔵されたネットランチャーが、この時炸裂した。ブエルを捕獲し、がんじがらめにしてその場に縫い留める。
そう、存在否定呪文が詰まった魔力弾ごと。
「て、手足が絡まって……!?」
「じゃあな、ブエル」
「しまった!」
行き場をなくした魔力弾がネット内部で炸裂し、ブエル自身をも巻き込んで存在を否定する。文字通りに全てを消滅させる己の技に溺れての敗北だ、さぞかし本望だろう。
大成功
🔵🔵🔵
黒城・魅夜
「何故」も何も、守っていませんが?
戦う理由が、何かを……あなたたちを護るためだなどと
思いあがって決めつけるのではありません
私は私が戦いたいから戦うだけ
具体的には単にあのくだらぬ悪魔が癪に触るので滅ぼすのみ
戦いにも、そして生にも死にも理由などはない
意義ならば己で見つけることです
限界突破した呪詛を展開し影隴たちの呪いを逆に食い尽くします
私は悪霊、怨嗟など美酒にしかなりません
……ですが私に食われたということは
私と共に未来へ進めるということ
一緒に行きましょう
……まずはあの悪魔を叩き潰しにね
否定空間をオーラを満たした結界で中和
滅びの時です悪魔
あなたに一番効くのは
その「意思」を奪われることでしょうね、ふふ
黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)は渦巻く怨嗟の嵐のただ中にたたずんでいた。長く艶のある黒髪を憎しみに満ちた恨みの念がなびかせてゆく……聞こえているはずだ、遍く者へ降り注ぐ呪詛の呟きが、怨嗟の囁きが。にもかかわらず、魅夜は静かに呟いた。
「『何故』も何も、守ってなどいませんが?」
「なに?」
ブエルは素っ頓狂な声を上げる。
「どういう意味だ」
だが魅夜はブエルには構わず、|彼ら《・・》に答えた。
「私の戦う理由は何かを守るために非ず。決めつけはよくありませんね……そう、あなたたちを護るためなどと思いあがるのはおよしなさい」
予想外の答えは影朧たちをたじろがせた。
ならば、何の為に戦っている?
「……私のため」
魅夜の口元に微かな笑みが浮かぶ。
「私は、私が戦いたいから戦うだけ。具体的には、単にあのくだらぬ悪魔が癪に障るので滅ぼすのみです」
「く、くだらぬ?」
気色ばむブエルを、魅夜はまだ放置する。
だって理由などないのだから。
戦いにも、生にも死にも。
「知りなさい、未練抱く影朧たちよ。意義ならば己で見つけるしかないということを――!」
影朧は驚いた。
魅夜の言葉にも、魅夜が放つ臨界点を突破した超級の呪詛に己たちが|喰われている《・・・・・・》という事実にも。なぜだ、どうしてここまでの呪詛を放てるのだ。この娘、どれほどまでの暗黒をその身に隠しているというのだ。驚愕は次第に恐怖へ変わる。だが。
「……大丈夫、一緒に行きましょう」
|美しき悪霊《魅夜》は優しく囁いた。
まるで美酒に酔うが如く、怨嗟の暗澹をたっぷりと喰らい尽くして。
いま、影朧は悪霊に取り込まれ、共に未来を歩む同胞となったのだ。母胎回帰にも似た安寧。魅夜は彼らを抱くように両腕を広げる。
「まずは、あの悪魔を叩き潰しにね」
その時、ようやく魅夜はブエルを見た。
一瞬にして否定空間が中和され、魅夜の|気《オーラ》で満ちた結界に置き換わる。いざ滅びの時がやってくる。悪霊の娘の唇から合図の言葉が紡がれる時、一切皆空消え果てる。
「な、な……!?」
ブエルは慄いた。
影朧が喰われたこと、否定空間が中和されたこと、己が意思を削り取られたこと!
「わ、私は何を……いや、なぜ? そもそも私とは?」
皮肉である。
否定するものが否定されるという因果応報。
「あなたとはここでお別れね。では、さようなら」
ブエルは目の前で影朧を手なずけて微笑む娘が誰なのかもわからなくなりかけていた。その存在は風に還り虚空に消え、泡沫夢幻となりて移ろうばかり……。
大成功
🔵🔵🔵
煙草・火花
まさかこの異郷の地で影朧と相対することになるとは
しかも……いえ、ここがどこであろうと、相手が何であろうと小生の為すべきことは変わりません
學徒兵の使命として世界を守るためにこの剣を振るうだけであります!
世界を守る理由……その理由などはっきりしているでありましょう
理不尽に、悲劇に、苦しめられる無辜の民を守るため
それ以外にありません!
苦しむ民の声は欺瞞ではないのですから、貴君たちもだからこそ戦ってきたのではないでありますか!
答えと共に足元を爆破しブエルの下へと加速
攻撃から逃げることが叶わぬならば……小生が倒れるまで斬って、斬って、斬り続けるまで!
この程度で小生の足を止めることなどできないであります!
――影朧!
サクラミラージュにおける、學徒兵にとって不倶戴天の存在と煙草・火花(ゴシップモダンガァル・f22624)は異郷において遭遇したのだ。
それが何を意味するのか、深く考えるための材料は次第に揃いつつある。だから、否、しかも――放っておくと推理を進めたがる頭を火花はぶるっと左右に振り分けた。
「小生がやるべきことはただ一つ、世界を守ること! 學徒兵としての使命を全うすべく、戦場に見参した次第であります!」
なんて酷い瘴気だろうか。
影朧たちの放つ怨嗟と呪詛は息が詰まるほどの濃度で戦場を満たしている。問う声はこう言った。|なぜ世界を守るのか《・・・・・・・・・》?
火花は瘴気など構わずに胸を張り、大きな声で喝を入れた。
「愚問であります! 理不尽に、悲劇に、苦しめられる無辜の民を守るため。それ以外にありません!」
はっきりしていた。
嘘偽りなど欠片もなかった。
真実そのもの――だってそうだろう。苦しむ民の声は果たして欺瞞か? ――否! 火花は顔を上げ、逆に彼らへ問いかける。
「貴君たちもだからこそ戦ってきたのではないでありますか!」
火花が紛うことなき答えを叩きつけるのと、足元が爆破するのと、衝撃を受けた影朧が怨嗟を忘れるのとが同時に起こった。
「なに!?」
ブエルが驚いた時にはもう、火花はその眼前にまで刀を手に迫っている。
抜刀。
僅か一瞬で白刃を抜き払い、一気に斬りつける。
爆発の加速に乗った神速の一太刀であった。いや、一太刀であればブエルの生命否定空間が奪う生命力で釣り合っただろうが、火花はそのまま二太刀め、三太刀めを繰り出したので、均衡はすぐに崩れ落ちた。
「なぜだ、なぜ止まらない!」
「無駄であります――」
學徒帽の下から覗く鋭い視線がブエルを見据え、ただちに論破。
「小生の足を止めるには! 全くもって力不足!」
「ぬあ……!?」
どれだけ生命力を抉り取られようが、火花に攻撃をやめるつもりはなかった。さらに踏み込み、もう何度目かわからない剣戟をお見舞いする。
「はッ!」
上段に構え、斬り下ろす太刀筋がブエルの中心を一直線に断ち切った。鍔を鳴らして鞘に刀を納める背後で頽れる音が微かに響いて。
「これにて、一件落着!」
大成功
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