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獣人世界大戦⑮〜|黯黮 《くらがり》に咲く花

#獣人戦線 #サクラミラージュ #獣人世界大戦 #第二戦線 #幻朧帝国 #黯党首魁『本田・英和』

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●|黯黮 《くらがり》
 第二戦線、スタノヴォイ山脈。そこへ現れたのは幻朧帝直属軍令暗殺部隊、『|黯《あんぐら》党』の首魁、本田英和であった。
 ただ一人、空に近いその場所で、天に近いその場所で。男は地獄を作り出すかのように――否、地獄を作り出す為に、悪魔召喚士としての力を振るおうとしていた。
 ただ一つの言葉もなく、彼が手にした杖の先を地面へと軽く突く。コツン、と乾いた音がやけに大きく響いたかと思えば、本田の周囲から無数の影朧が立ち上がる。
 老若男女、ヒトの姿をしたものから獣まで。現れた影朧達は口々に『己の生前にあった、極めて理不尽な悲劇』を語り始めた。
『何故、どうして、私があんな目に合わなければいけないの』
『どうして私を捨てたのですか? あんなに尽くしたのに、愛していたのに、どうして』
『口惜しい、苦しい、口惜しい、苦しい! お前も、お前も、どいつもこいつも、綺麗ごとばかり!』
 悲憤、怨嗟、厭悪、悲嘆、それはまるで、|黯黮《くらがり》の坩堝のよう。やがてそれらは重なり溶けあい、ひとつの呪いとなり、全てを飲み込む『悲劇の幻影』へ、|黯黮 《くらがり》へと姿を変える。
「何故、欺瞞に満ちた世界を守る?」
 本田の唇から零れた言葉に、答える者はいない。今は、まだ。
「来るがいい、猟兵。私の問いに答えてみろ」
 答えられなくば、『悲劇の幻影』に飲み込まれ、死ぬがいい。

●グリモアベースにて
「皆も知っての通り、第二戦線への戦場が開かれたよ」
 今回案内する戦場は、黯党首魁『本田・英和』がいるスタノヴォイ山脈だと深山・鴇(黒花鳥・f22925)が告げる。
「本田以外に兵の姿は見えないんだが、代わりと言っちゃなんだが……本田は無数の影朧を召喚し、それらが語る『己の生前にあった、極めて理不尽な悲劇』をひとつの呪いとして戦場を包み込んでいるようなんだ」
 それの呼称は『悲劇の幻影』といい、猟兵達を必ずその|黯黮 《くらがり》へと取り込んでしまうのだという。
「その幻影は必ず、ただの一人の例外もなく『理不尽かつ覆しようのない悲劇の幻』を見せてくるだろう」
 それが本人の持つ悲劇なのか、影朧が語る悲劇なのかはわからない。
「そんな幻の中で本田はお前さん方に、何故欺瞞に満ちた世界を守る? と問い掛けてくるんだ」
 幻のもたらす世界への絶望と憎しみを振り切り、その問いに答えられなければ本田に攻撃が届くことはない。
「……生きることはそれだけで理不尽を招くことだってある。平等なんて言葉だけだと思うことだってあるだろう。だけどね、それだけじゃないことをお前さん方は知っているだろう?」
 ならば、大丈夫だよと笑って鴇は手の中に煙のようなグリモアを喚び出し、ゲートを開いた。
「……気を付けていっておいで」
 そう言うと、鴇はゲートへ向かう猟兵達を送り出したのであった。


波多蜜花
 閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
 第二戦線が開きましたね、というわけで戦争依頼二本目です。どちらかといえばシリアス向けかとは思うのですが、トンチキを混ぜたって構わないと思います。どうぞ、皆様の思うプレイングをおかけくださいね。

●プレイングボーナス
 悲劇の幻がもたらす「世界への憎しみ」に打ち勝つ。

●悲劇の幻影について
 問答無用で|黯黮 《くらがり》に取り込まれます、その中で皆様の思う悲劇の幻影を見ることになるでしょう。PCさんに関わる悲劇の幻影があれば、そちらをプレイングにお書きください。特になけれ召喚された影朧の悲劇を見ることになります。

●プレイング受付期間について
 公開されてからすぐの受付となります。〆切は特に設けず完結成功数+書けるだけの採用になりますが、プレイングが送れる間は送ってくださって大丈夫です。
 できるだけ早く完結させたいと思いますので、全採用できるかはわかりません。頑張りたいとは思いますが、その点だけご了承くださいませ。

●同行者について:二人まで
 話の性質上、一人が望ましいかと思いますが、二人までは頑張ります。
 共通のグループ名か相手の名前を冒頭にお願いします。
 プレイングの失効日を統一してください、失効日が同じであれば送信時刻は問いません。朝8:31~翌朝8:29迄は失効日が同じになります(プレイング受付締切日はこの限りではありません、受付時間内に送信してください)
 未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。

●その他
 幻のもたらす世界への絶望と憎しみを振り切り、本田の問いに答えなければ攻撃が届きません。どちらかと言えば心情寄りのプレイングになるかと思いますが、戦闘もある程度あればいいかなと思います。

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております!
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第1章 ボス戦 『黯党首魁・本田英和』

POW   :    汝の業は無力なり
対象のユーベルコードに対し【それらを喰らい破裂する使い捨ての悪魔 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
SPD   :    『何故、欺瞞に満ちた世界を守る?』
対象への質問と共に、【邪悪なる混沌の光 】から【盟約の妖獣】を召喚する。満足な答えを得るまで、盟約の妖獣は対象を【呪術、爪牙】で攻撃する。
WIZ   :    世を憎む者共よ
いま戦っている対象に有効な【悪魔化した影朧 】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は国栖ヶ谷・鈴鹿です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

コッペリウス・ソムヌス
アレが話に聞いてた黯党首魁かぁ
猟兵として答えを叩きつけるとしようか

世界へ憎しみ抱く悲劇なんてよくある話、
大切な者さえ居ればそれで良かったのに
容易く踏み躙られて、奪われもして
其れは仕方のなかったこと…なんて
巫山戯るなよと想いもするし
其れはもう此の世界の
何処にも居ないのだとしても

何故、欺瞞に満ちた世界を守るのか?
それ以外のもので満ちた世界が見たいからね

世界なんて自分の見たいようにしか見えやしないけど
光溢れた希望を目にする者達だって確かにいるなら
そんな小さな星の瞬き、
消えてしまわないよう拾い集めて
守りもするし、導きのように紅蓮を灯すし
そしていつかは届けよう
夜闇の底へと沈められてしまった片割れへ――



●夜闇の底で光る
 スタノヴォイ山脈――その地にて|黯《あんぐら》党の首魁、本田英和はただ一人立っていた。
「アレが話に聞いていた黯党首魁かぁ」
 その姿を目にしたコッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)はそう言いながら戦う為の一歩を踏み出す。と、本田の周囲を渦巻く|黯黮《くらがり》がコッペリウスを包み込んだ。
 一条の光も差さぬ暗闇の中、コッペリウスは影朧達の怨嗟の声を聞き、見る。
『どうして、どうして私の愛する人は殺されなければならなかったの? どうして、殺した人はのうのうと生きているの? どうして、どうして!』
 髪を振り乱した女が泣いている、その慟哭は空気を震わせ、闇を濃くしていく。一人を呪う声は、やがて世界を呪う声となり、コッペリウスをも飲み込もうと闇の手を伸ばした。
「……世界へ憎しみを抱く悲劇なんてよくある話」
 そう、よくある話だと闇の手を恐れずコッペリウスは口を開く。
「大切な者さえ居ればそれで良かったのに、容易く踏み躙られて、奪われもして」
 誰にだって、何かの拍子に振りかかる可能性のある悲劇。
「其れは仕方のなかったこと……なんて、巫山戯るなよと想いもするし」
 闇を抱く様に、コッペリウスの声は響く。怨嗟の声を包み込むように、静かに。
「其れはもう、此の世界の何処にも居ないのだとしても」
 喪失を知る者の声は黯黮から本田にも聞こえているのだろう、本田がコッペリウスに問い掛けた。
『ならば何故、欺瞞に満ちた世界を守る?』
 その問いに、コッペリウスは片眉を持ち上げて笑う。
「何故、欺瞞に満ちた世界を守るのか? それ以外のもので満ちた世界が見たいからね」
 闇がコッペリウスの周囲から静かに引いていく、その中を本田へ向かって歩く。
「世界なんて自分の見たいようにしか見えやしない」
 感じ方は千差万別、暗闇しか見えないものだっているだろう。
「けど、光溢れた希望を目にする者達だって確かにいるなら――」
 そんな、小さな星の瞬きであっても。
「消えてしまわないよう拾い集めて守りもするし、導きのように紅蓮を灯す」
 コッペリウスが手にした書から、数頁を指先で引き割き放つ。綴られた文字が紅蓮に燃えて本田へと襲い掛かった。
『汝の業は無力なり』
 本田の足元から現れた悪魔が紅蓮の炎を喰らい、破裂する。
「無力でも、届ける力はあるんだよ」
 諦めなければ、いつか夜闇の底へと沈められてしまった片割れへだって届くはずだから。
「何度だってやってやるさ」
 コッペリウスが再び本田に向かって頁を引き裂き、攻撃を仕掛けるべく指先を彼の敵へと向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
白銀を召喚です。
ずっと一人でした。私は人と違うから。
過去世の私も今の私もそんな同じ思いをいだいておりました。
生まれついたものをどうしろっていうんです。
だけど。それでも過去世の私には一刻だけでも供にいてくれた人々の記憶が。
私には時折帰ると笑顔で迎えてくれる家族の思い出が。
それだけで十分なんです。
それだけでどんな理不尽な言葉も悲しい出来事もどうでもよくなるぐらいに世界が愛おしくなるんです。
だから白銀も含め私達はここにいる、世界を渡り戦い続ける事ができるんです。

白銀には鳴神を預けて(咥えて貰って)攻撃をします。
呪術への対抗は難しいですが爪牙には十分。
青月鳴神で捌きながら近づいて本田への一撃を。



●帰る場所
 |黯黮《くらがり》が夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)の身を包んでも、彼女は冷静に翼持つ銀狼――白銀を召喚し、真っ向から影朧の怨嗟の声を聞いていた。
「……ええ、あなた方の気持ちもわかります」
 辛い、寂しい、どうして、私が。
 心の臓を貫かれて死にゆく者、大切にしていたものを奪われひとりぼっちになった者、世界を憎み復讐の為に死んでいく者、その姿を見せられながらも、藍色の瞳は揺るがない。
「ずっと一人でした、私は人と違うから」
 過去世の自分も、今の自分も、何の因果かはわからないけれど同じような思いを抱いて生きていた。
『では――お前は何故、欺瞞に満ちた世界を守る?』
 問いと共に本田が召喚した盟約の妖獣が唸り声をあげる。
「生まれついたものをどうしろっていうんです」
 誰のせいでもないじゃありませんか。それを誰かのせいにするつもりも、ましてや自分のせいにするつもりも、今の自分にはないと銀狼の背を撫でる。
「だけど。それでも過去世の私には一刻だけでも供にいてくれた人々の記憶が。私には時折帰ると笑顔で迎えてくれる家族の思い出があるのです」
 なら、それだけで十分じゃないですかと、藍は本田からの問いに凛として答えた。
「それだけで、どんな理不尽な言葉も悲しい出来事もどうでもよくなるぐらいに世界が愛おしくなるんです」
『それこそ欺瞞だな』
「どうぞ、そう思うのならばそう思ってくださって結構です。でも――だからこそ、白銀も含め私達はここにいる、世界を渡り戦い続ける事ができるんです」
 あなたには負けない、負けるわけにはいかないと、藍は黯黮の中を真っ直ぐに歩き本田の元へ辿り着くと白銀に黒い三鈷剣を咥えさせる。
「さあ、行きましょう」
 藍の声に応えるように、白銀が駆けた。
 白銀が妖獣を相手取る横から藍がほのかに青白い月光を放つ打ち刀を手にし、本田に向かって一撃を叩き入れる。その一撃を杖で受け止めながら、藍の答えに本田が眉根を寄せた。
『どこまでも甘い考えだな、猟兵』
「甘くて結構、私はその甘さも含め、私なのですから」
 真実など人の数だけあるものなのでしょう、と二撃目を放てば本田が距離を取るように飛び退く。
「あなたはあなたの真実を貫くのであれば、私は私の真実を貫くまでのことです」
 青月を構え直し、藍は再び足を踏み出すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
※アドリブ、連携歓迎

欺瞞に満ちた世界……
それは生まれ故郷のダークセイヴァーそのもの

吸血鬼の戯れに引き裂かれる絆、踏み躙られる命
人の心と命など玩具としか思わぬ巨悪に人々の嘆きは届かない

それでも、わたくしは知っている
この世界にあるのは「欺瞞だけではない」と
両親が、旅の中で出会った人々が、そして最愛のヴォルフがいたから
彼らのくれた愛と勇気と優しさが、わたくしの背中を押してくれた

そして彼らは「生きることを決して諦めない」
上層で魂人となって後も、忘却の呪いに抗いながら
それでも未来を信じて懸命に生きている

祈りと共に聖歌を紡ぐ
これは、人々を導く希望の星
どんな悪意が心を苛もうとも
わたくしの心は彼らと共にある



●その名は愛
 本田英和の姿を視認し、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)がぱちりと目を瞬いたその後に広がっていたのは、光の届かぬ|黯黮《くらがり》であった。
 それはヘルガの生まれ故郷ダークセイヴァーを思わせるような闇で、ほんの一瞬だけヘルガが息を飲む。その隙を突くかのように、ヘルガの耳に響くのは人々の嘆き。目の前で再現されるのは吸血鬼の戯れによって引き裂かれる絆、踏み躙られる命達。
「ああ……っ」
 人の心と命など玩具としか思わず、そのようにして弄ぶ巨悪。ヘルガの知る、欺瞞に満ちた世界――。
『それを知っていて、お前は何故、欺瞞に満ちた世界を守る?』
「それでも……」
 容赦なく見せつけられる過去の痛みに、青い瞳からはらりと真珠のような涙が零れる。
「それでも、わたくしは知っている。この世界にあるのは『欺瞞だけではない』と」
 どれほど欺瞞に溢れた世界にだって、そうじゃないものが必ずあると。
 ヘルガにとって、それは両親、旅の中で出会った人々、そして最愛の夫がくれた愛と勇気と優しさだ。
「彼らのくれた愛と、勇気と、優しさが……わたくしの背中を押してくれた」
 胸に灯るその愛を慈しむようにヘルガが言葉にしていく度に、目の前の|悍《おぞ》ましい記憶がぼやけて消えていく。
「そして彼らは『生きることを決して諦めない』……上層で魂人となった後も忘却の呪いに抗いながら、それでも未来を信じて懸命に生きているのです」
『それこそが欺瞞であろう』
「いいえ、いいえ。たとえそれがわたくしを欺くものであったとしても、わたくしはそれを心の底から信じています」
 信じること、それこそがわたくしの力だとヘルガは涙を拭い、高らかに祈りと共に聖歌を紡ぐ。目の前の敵を倒す為に――!
『歌など、何の救いにもなるまい』
 本田が悪魔化した影朧を召喚し、ヘルガを倒せと指示する。
「いいえ、歌は力――人々の心を癒し、鼓舞し……時に何にも勝る力となるのです」
 これは人々を導く希望の星だと、ヘルガが歌に心をのせれば導きの星の力を宿した光の欠片が煌きだす。欠片に触れ、己が力を増幅させると、ヘルガが本田へ向かって聖奏剣『ローエングリン』を構える。その姿は気高く、儚くも美しい彼女の覚悟を感じさせるには充分であった。
「参ります」
『来るがいい、猟兵』
 必ず、あなたを止めてみせる。その覚悟をもって、ヘルガが本田へと踏み込むのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水澤・怜
見せられるのは影朧に故郷を滅ぼされた幻
そして…憎しみに堕ち影朧を斬り捨て続ける終わらぬ悪夢の幻

あの時の俺は…黯党と同じ
憎しみに囚われるあまり、大切なものに気づけなかった
兄の病死から学んだ『医』の志を置き去りにして…ただただ『武力』に溺れ
…戦場に残る幼い命に気づくのに遅れた
あの時程…自身を恥じた事はない

絶望は俺に『医』と『武』…人を護るにはどちらの『力』も必要なのだと教えてくれた
絶望は人の足を止めもするが、前にも進ませる
世界を…なんて大それた話ではない
俺が歩みを止めぬのは…悲劇を繰り返さぬ為…同じく絶望に堕ちた者を救う為だ

妖獣、そして本田へ思いを籠めたUCを
俺とお前は…どこで道を違えたのだろうな



●どちらも救いの道なれば
 あれが|黯《あんぐら》党の首魁、本田英和か――そう思った次の瞬間に水澤・怜(春宵花影・f27330)は|黯黮《くらがり》の中にいた。
 そして、まるで走馬灯のように始まったのは怜の故郷が影朧に滅ぼされた幻。
 それから、憎しみの感情に心を墜としたまま、影朧を斬り捨て続ける……自分の姿。終わらぬ悪夢のような幻。
「はは……改めて突き付けられると、胸が痛むな」
 けれど視線は逸らさずに、あの時の自分を見つめる事が出来るのは怜の持つ強さなのだろう。
「あの時の俺は……黯党と同じ。憎しみに囚われるあまり、大切なものに気づけなかった」
 兄が病死した時に学んだ『医』の志を置き去りにして……ただただ『武力』に溺れ、目の前の影朧に向かって刃を振るう自分は、気が付けなかったのだ。
「……戦場に残る、幼い命に」
 恐怖に震え、小さな身体をぎゅっと縮こませて。声にならぬ声で、助けてとずっと叫んでいたのに。
「あの時程……自分を恥じた事はない」
 ぎゅっと拳を握り込み、怜はそれでも目を逸らさない。起きた事実は覆らない、忘れてはならないと戒めのように。
『それほどの絶望を知ってなお、お前は何故、欺瞞に満ちた世界を守る?』
 本田の声が怜に問い掛ける、何故だと。
「あの日の絶望は俺に『医』と『武』……人を護るにはどちらの『力』も必要なのだと教えてくれた」
 力なくして人は救えず、医療なくして人は救えぬ。
「絶望は人の足を止めもするが、前にも進ませる」
 その一歩を踏み出せるか否かは、その人次第ではあるけれど――怜は確かに、絶望を抱えたままでもその一歩を踏み出したのだ。
「世界を……なんて大それた話ではない」
 黯黮が、揺れる。
「俺が歩みを止めぬのは……悲劇を繰り返さぬ為……同じく絶望に堕ちた者を救う為だ」
 それが今ここに、敵対する相手だとしても。
 黯黮が霧散するように消え去った後には、ただ本田と彼が召喚した妖獣が怜を見据えるのみ。
「それでもなお、止められるのならば……止めてみろ!」
 怜が抜いた太刀型軍刀の刃が冴え冴えと煌き、妖獣と本田を討つべく足を踏み込み妖獣ごと本田を斬るつもりで振り抜く。
『お前こそ、止められるものならば止めてみるがいい』
 刃は妖獣がその爪牙で受け止め、そのまま消滅していくのを冷静な目で見遣り、本田が杖を手に怜に対峙する。
「俺とお前は……どこで道を違えたのだろうな」
『最初から交わる道ではなかった、それだけの事だ』
 これ以上の問答は不要、あとは己の正義をぶつけ合うのみ――怜は本田を倒す為に、再び軍刀を構えるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィーナ・シェフィールド

わたしも世界を渡り、戦場を経験することで、戦いの裏にある様々な悲劇をこの目で見てきました。
でも、この世界にあるのは理不尽だけではありません。
怨嗟に飲まれて忘れているだけで、絶対に誰もが経験したことがある小さな幸せ。
平穏に暮らす人々の、そのささやかな幸せを守るため、わたしは戦場で歌い続けます!

イーリスを力強く握りしめ、ツウィリングス・モーントから増幅した声で宣言しましょう。
「これ以上、一歩も先に行かせません。ここにある怨嗟、全て浄化します!」

攻撃はオーラ防御で防ぎつつ、UCを発動。破魔の力を込めた歌声を戦場に響き渡らせ、本田と召喚された影朧の魂に、迷いと後悔の想いを生じさせ、浄化していきます。



●それは小さな光
 さっきまで明るかったのに、とフィーナ・シェフィールド(天上の演奏家・f22932)が|黯黮《くらがり》の中で辺りを見回す。どこを向いても真っ暗で、光は何処にも見えなかった。
「これが……『悲劇の幻影』……!」
 そう認識すると、確かに黯黮の中に影朧の姿が見えてフィーナに向かって怨嗟の声を吐き出し始める。
『どうしてあの子はあんな所で死ななければならなかったの、骨のひとかけらも残さずに死んでしまったの!』
『憎い、憎い、アイツだけが幸せになって、何で俺は』
 渦巻く憎悪は聞くものの身を蝕む様なそら寒さで、フィーナは思わず自分の身を抱く。それからゆっくりと呼吸を繰り返し、自分の思いを伝えようと口を開いた。
「わたしも世界を渡り、戦場を経験することで、戦いの裏にある様々な悲劇をこの目で見てきました」
『ならば』
 影朧とは違う男の――本田の声が響く。
『何故、欺瞞に満ちた世界を守る?』
 世界は平等などではないと、知っているのだろう? と問う声にフィーナは俯くことなく声を張り上げた。
「でも、この世界にあるのは理不尽だけではありません」
 どうしてと嘆くあなた達にだって、覚えがあるでしょう? とフィーナは怨嗟に飲まれた影朧へと語り掛ける。
「忘れているだけで、絶対に誰もが経験したことがある小さな幸せ。顔を上げ、再び歩きだせば再び掴むことだってできるはずです」
 どんな暗闇にだって、夜明けは来るのだから。
「だから、わたしは……平穏に暮らす人々の、そのささやかな幸せを守るため、わたしは戦場で歌い続けます!」
 細身のマイクを握りしめ、自分の周囲に二対のスピーカードローンを飛ばす。オラトリオの白き翼を広げ、破魔と浄化の力を込めた歌声を響かせた。
 ゆっくりと黯黮が霧散していき、フィーナの目の前に本田と彼が召喚した悪魔化した影朧が現れる。
「思い出して、憎しみだけじゃなかったことを……!」
 高らかに歌い上げられる聖歌、悪魔化した影朧がその歌の効果を吸い込むように音を吸収しては一時的に消えていく。
『世を憎む者はごまんといるぞ』
 フィーナの歌に対抗するように、本田が再び悪魔化した影朧を召喚する。
「諦めません! 何度だって、あなたが悔いを改めるまで……わたしの歌はこの山脈に響き続けます!」
 黯黮を照らす一条の光となる為に、フィーナは高らかに歌い続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スィーニュ・ノクトスピカ
アドリブ歓迎

黯黮──星も見えない暗がりは嫌い
思い出す
真っ暗な地下に一人閉じ込めれていたこと
ぼくが、国を滅ぼすと伝えられる魔女として生まれたから

……故郷のノクトスピカの王女として生まれたぼくは魔女だった
なぜ魔女として生まれたかなんて知らない
ノクトスピカの王族は姉様達のような星女(聖女)じゃなきゃだめなんだ

否定された
いっぱい痛くて苦しくて悔しくて
ぼくは世界が大好き
生まれた国も姉様達も父様も母様も大好き
なのにどうして滅ぼすって決めつける?
不吉を齎す…何故?
ぼくは皆を守りたいのに
だから挫けない
守れると証明して認めさせる

悲しみなんて流れ星みたいに吹き飛ばし
天秤座の宴を何度だって
悲しみを振り切るように放つ



●黯黮を駆けろ流星
 ふっと気付けば|黯黮《くらがり》の中にいて、スィーニュ・ノクトスピカ(ラシェリールの告解・f41460)は確かに|黯《あんぐら》党の首魁、本田英和の姿を確かに見たはずなのに、と首を傾げた。
 それから細く息をはいて、黯黮……と呟いた。
「星も見えない暗がりは嫌い」
 ぽつり、ぽつりと言葉を零す度に、スィーニュの目の前に己の過去が映し出される。
「……ああ」
 それはスィーニュの故郷、ノクトスピカから始まる話。
 夜天を廻り世界を夜に塗り替える夜汽車の浮島――ノクトスピカ、それがスィーニュの故郷。その浮島の国で王女として生まれた彼女は、生まれながらの魔女であった。
「そう、だから否定された。ノクトスピカの王族は姉様達のような|星女《聖女》じゃなきゃだめだから」
 ふ、と星空を写し取ったかのような瞳が揺れる。
「うん、いっぱい痛くて苦しくて悔しかった」
 魔女だという理由だけで、随分な目にあったと思う。
「ぼくは世界が大好きで、生まれた国も姉様達も父様も母様も大好き」
 今でも大好きだと、スィーニュは宝物のように囁く。
「なのに、どうして滅ぼすって決めつける?」
 魔女は不吉を齎すもの、この国を破滅へと導くもの。聞きたくない言葉が、まるで言葉の暴力のように降り注いで、スィーニュは思わずわが身を掻き抱いた。
『ならば問おう。お前は何故、こんなにも欺瞞に満ちた世界を守る?』
 男の声が響き、スィーニュへと問い掛ける。
「何故……? ぼくは皆を守りたいんだよ、だから挫けたりなんてしない、したくない。守れると証明して、認めさせる!」
 それがこの世界を守る理由だと、スィーニュが高らかに告げ、美しく彩られた爪先を宙に滑らせる。それは複雑な星図を描き、黯黮を切り裂いて本田へと襲い掛かる。
『汝の業は無力なり』
 星廻の魔法を相殺するべく、本田が使い捨てられる為に召喚された悪魔をぶつければ、流星群が悪魔を覆い尽くした。
「無力なんかじゃない、このぼくが悲しみなんて流れ星みたいに吹き飛ばしてみせよう」
 何度だって、星図を描いてやるとスィーニュの爪先が宙を踊る。
 胸に残った僅かな悲しみを振り切るように、スィーニュは本田に向かって星廻の魔法を放ち続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心情)|黯《くら》く|黮《くろ》い此の場の落ち着くこと。流れる悲劇と悲嘆の声の親しいこと。世界への憎しみ? なぜ? 俺は常に此の中にいる。悲憤愁嘆憎悪、この世の|闇《病み》こそは俺の一部だ。感情も賢愚も、"いのち"のうねりの中に滲むもの。共感も興味も、"いのち"でない俺には生まれようがないンだ。ではなぜ守ると問われれば、俺は神だからと答えよう。世界を守り巡り整えるものとして、定義されンのが神なのさ。
行動)黯黮を取り込み、妖獣と飼い主の兄さんに向かわせる。情念を晴らそうぜ、慈しき魂たち。八つ当たりをしよう。死してなお、お前さんらを利用しようとするこいつらに。そうして気が済んだら、俺と共に逝こう。



●かみさまが来たよ
 |黯《あんぐら》党の首魁、本田英和が作り出した|黯黮《くらがり》の中で、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)はいつもの|口元にのみ笑み《アルカイック・スマイル》を浮かべ、居心地良さげに目を細めていた。
「ああ、|黯《くら》く|黮《くろ》い此の場の落ち着くこと」
 此岸は毒に等しいこの|男《神》にとって影朧が作り出した『悲劇の幻影』、黯黮は酷く心地の良いもの。
『許さない許さない、お前を、必ずこの手で!』
『やめて、痛いのは嫌、苦しいのも嫌、熱い、苦しい、どうして……っ』
 眼前でキネマのように流れる悲劇も、悲嘆の声も、親しみを覚えこそすれ嫌悪などするはずもない。
「可愛らしいものだね」
 慈しむように声を掛ければ、何処からともなく男の声が響く。
『お前は何故、こんなにも欺瞞に満ちた世界を守る?』
「なぜ? 俺は常に此の中にいる。悲憤愁嘆憎悪、この世の|闇《病み》こそは俺の一部だ」
 愚問としか言えないような問いだっただろう、|逢真《太陰》にとってマイナスとなる感情や事象の全て、己に属するものなのだから。
「それに感情も賢愚も、『いのち』のうねりの中に滲むもの」
 此処に立つ男は、神は、いのちではない故に。
「共感も興味も、俺には生まれようがないンだ」
 そう感じるのだなとは思えど、それだけだ。
「では、なぜ守るというお前さんの問いに答えるならば、俺は神だからと答えよう。世界を守り巡り整えるものとして、定義されンのが神なのさ」
 望むならば救いを、滅びる運命なれば死を。
「さて、お喋りは此処までだ。可愛い黯黮ども、おいで」
 かみさまが来たよゥ。
「情念を晴らそうぜ、慈しき魂たち。八つ当たりをしよう。死してなお、お前さんらを利用しようとするこいつらに」
 逢真が黯黮を己の|身《宿》のうちに取り込むと、妖獣と本田に向かわせる。
『解せんな、神だというならばこの世界に愛想を尽かしてもおかしくはなかろう』
 向かってくる黯黮を妖獣に任せつつ、本田が理解できないとばかりに眉根を寄せる。
「わかってねェな、兄さん」
 それら全てが愛おしいのさ、と逢真が笑う。
「さァ、黯黮はまだまだあるンだ、こいつらが満足するまで遊んどくれ」
 気が済んだなら、俺が連れて逝こうと逢真が笑う。影朧の浄化は桜の精にしかできないが、恨み辛みを手放す手伝いくらいはできるのだから。
「さァ、思う存分暴れておやり」
 此処なら地形のひとつやふたつ、ちィっとばかり変わったって構わンだろ? と逢真が唇の端を持ち上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロベルタ・ヴェルディアナ
真っ暗なところで立ってる金髪のにーちゃんから一言。
にーちゃんの言葉の本当の意味が良く解らないけどねぃ?
「…んー…。僕が楽しく生きるため、かなぁ~」
?このにーちゃんなんだか怒ってるみたいだけどなんで?
「そもそもど、僕は護ってないじょ? 楽しく生きてるだけ」
これにも納得いってないみたいで杖を握る手が震えてるじょ。
…うー…。このにーちゃん怒りっぽいねぃ。めんどいこの人。
「…にーちゃんは、この状況をなんとかしないの?」
なんだか不満を僕にぶつけてるみたいだし逆に聞いてみるよ。
「不満があるなら、それをぶつけられなかったのかねぃ?
にーちゃんには、それだけの力があるんじゃーないの?
…僕なら、この脚で不満を創った世界をぶち抜くじぇ!」
話しながらパフォーマンスを上げ封印を解いて限界突破だ。
んで。全力の【魔王の足跡】でこの闇をにーちゃん毎貫く!
何時もこーやってきたからねぃ。僕は!


浅間・墨
急に周囲が闇に包まれたので濃口を切りつつ警戒を。
?!
そして沢山の人の愛憎や恨み憎しみが流れ込んできて。
私の身体や心を押しつぶそうと蟠った闇が押し寄せて。
『以前の私』ならば打ち勝てなかったかもしれませんね。
しかし『今の私』なら。清濁を識る私なら恐怖はありません。
こういう経験をさせて貰った『猟兵』という存在に感謝です。
「…私は…私の瞳の届く範囲の人々を全力で護ります!
これは偽善や欺いた行為だと言われても、言い返せません!
でも、これが私の覚悟であり、これからも続けることです」

『兼元』の鯉口を切りつつリミッターを解除し限界突破を。
そして全力で【黄泉送り『彼岸花』】を放ちます。
「…私の國を闇色に染めないでください!」



●闇に染まらぬ心
「んに!?」
「……っ! 気を付けてください、ロベルタさん」
 先ほどまで怖いくらいに晴れていたはずなのに急に周囲が闇に包まれたことに対し、ロベルタ・ヴェルディアナ(ちまっ娘アリス・f22361)は何これ、と辺りを見回し、浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)は腰に差した太刀の濃口を切った。
「んー、これが聞いてた|黯黮《くらがり》ってやつなのかねぃ?」
「……恐らく、そうかと」
 日の光も差さぬ暗闇の中、墨はロベルタとはぐれるまいと気を張りながら周囲を窺う。
「さっき見かけた金髪のにーちゃんもどこ行ったかわっかんないんだじぇ」
「……この黯黮を抜けなければ対面はかなわない……のでしょう」
 その通りだと言わんばかりに、黯黮が蠢きそれを形作った影朧の悲哀や怨嗟が二人の意識へと押し寄せた。
『痛い、痛い、苦しい、こんな事をするくらいならいっそ殺して』
『許さない、許さない、必ずお前も同じ目に合わせてやる、必ずだ』
『どうして奪うの、私にはこれしかなかったのに、何故、何故』
 その奔流はすさまじく、墨が思わず息を飲む。
「……っ?!」
「んにー、皆苦しそうなんだじぇ……」
 ロベルタがしょんぼりとした声で言うと、墨がこくりと頷く。
「……生前の恨み辛みを抱えたままなのでしょう」
 手放す事ができない怒りや憎しみ、悲しみ……それらは死してなお彼らを苛んでいるのだ。
 そして今、二人の身体や心を押しつぶさんと、|蟠った《わだかまった》闇が更に闇を濃くしていく。互いの姿が見えなくなるくらいに闇が深まる中で、男の声が響いた。
『何故、欺瞞に満ちた世界を守る?』
「……ぎまん?」
「……ロ、ロベルタさん、ええと……欺き騙す、嘘をつく……そういった意味、です」
 こそこそ、と墨が耳元で説明してやるとロベルタが納得したように手を打つ。
「なるほどねぃ! んー……これ、答えないとなんだよねぃ?」
「……はい、そのはずです」
「んー……墨ねー、先手で!」
「……わ、私がですか? ……承知いたしました」
 ロベルタには何か思うところや策があるのかもしれないと、まずは墨が問いの答えを口にしようと息を整える。未だ影朧の……多くの人々の愛憎や恨み、憎しみの言葉や感情は流れ込んできているのだ。
 特に強く訴えかけてくるのは哀しみとそれを糧にして燃え上がる怒りで、やるせない程の憤怒と諦めを滲ませた悲哀はきっと以前の自分であれば流されてしまっていたかもしれないと墨は思う。
「……今はもう『以前の私』ではないのです……清濁を識る『今の私』なら……恐怖はありません」
 心を落ち着けるように、またひとつ呼吸を整える。そうしながら、『今の私』になれたのは数々の経験をさせてくれた『猟兵』という存在、その事に感謝をしながら口を開いた。
「……私は……私の瞳の届く範囲の人々を全力で護ります!」
『それ以外はどうでもいいと?』
「……ええ、これは偽善や欺いた行為だと言われても、言い返せません! でも、これが私の覚悟であり、これからも続けることです」
 それこそが墨の信念、世界を護るなんて大層な事は出来ずとも、自分の大切な人々や瞳に映る人々を護れるなら――それで充分だと墨は思う。
「……それに、私の手が届かぬ場所を護るのは、その場所を護りたい人達ではないでしょうか。それが広がれば……欺瞞であろうとも、世界は護られるのです」
 そう信じるのは悪いことでしょうか?
「墨ねーらしくって、いいねぃ♪」
 ロベルタがにひひと笑って、小さく拍手する。
「……きょ、恐縮です」
「ん! 墨ねーが答えたんだからね、僕も答えるじょ!」
 いっぱい考えたのだと、本田が呈した問いに答えようとロベルタが胸を張る。
「何の為に世界を護るか? 僕が楽しく生きるため、だじぇ!」
『……何? ふざけた事を』
 些か低くなった本田の声に、ロベルタが首を傾げる。
「? このにーちゃん、なんだか怒ってるみたいだけどなんで?」
「……さ、さあ……?」
 こそこそ、とロベルタが墨に聞くけれど、墨も困ったように首を傾げるだけだ。
「そもそも、僕は護ってないじょ? 楽しく生きてるだけ」
『詭弁だな』
 そう思ったけれど、ロベルタの表情からも声音からも嘘は見当たらず本田はますます声を苦くする。
「……うー、墨ねー! これにも納得してないんだじぇ、めんどいこの人」
「ろ、ロベルタさん」
 いくら敵でも、そんな本音をと墨があたふたしていると、黯黮も晴れて来たのか本田の様子が見て取れた。
「杖を握る手が震えてるじょ。このにーちゃん怒りっぽいねぃ」
「……そう……ですね……?」
 疑問形で返事をしつつ、墨がいつ何があってもいいように太刀に手を掛けたまま警戒を怠らない。ロベルタは唇を尖らせつつ、なんだか不満をぶつけられている気がするし、逆に聞いてみようと口を開いた。
「……にーちゃんは、この状況をなんとかしないの? 不満があるなら、それをぶつけられなかったのかねぃ? にーちゃんには、それだけの力があるんじゃーないの?」
『……だからこそ、此処にいるのだ。猟兵』
 お前達との戦いに勝つ為に。
「ふーん? ……僕なら、この脚で不満を創った世界をぶち抜くじぇ!」
 ただ話をしていたわけではない、ロベルタは本田との会話の中で自分のパフォーマンスを上げていき――。
「orme della stella del mattino!」
 限界突破させた一撃『魔王の足跡』により、闇を本田ごと貫かんと蹴りを放った。
『汝の業は無力なり』
 本田が使い捨ての悪魔を召喚しロベルタの蹴りを無力化すると、ロベルタが蹴りを放った直後に刀を振るった墨の一刀をも同じように無力化させていく。
「言うだけあって、強いねぃ!」
「ええ……|黯《あんぐら》党の首魁というだけはあるのでしょう」
 でも、と墨とロベルタは顔を見合わせて。
「諦める、なんて僕の選択肢にないんだじぇ!」
「……はい、私にもです」
 何時だって、何度だって、二人はそうやって来たのだから。
「……私の國を闇色に染めないでください!」
「世界が闇色になっちゃったら、つまんないんだじぇ!」
 闇に染まらぬ心を携えて、二人は再び本田に攻撃の手を向けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァンダ・エイプリル
世界が理不尽なのはよく知ってる
ヴァンちゃんにとっては聞かれるまでもないことだよ

自分の過去も混ざった幻影たちの話を聞く
戦争で故郷も家族も失った?
守りたい人たちに恐れられた?
苦しさで何もかもどうでもよくなった?
うんうん、全部よくある話だね!
一蹴してにこっと笑う

場の流れを変えたところでヴァンちゃんのターン!
その絶望に負けたままでいいのかな?
欺瞞だらけなら、一つでも本当にしていこうよ!
もっと笑える世界になればいいんだよ!

UC発動
幻影に希望を抱かせ、幻影たちと一緒に本田さんへ突撃!
欺瞞に満ちた世界を守るのは、それでも一人でも笑顔にしたいから!
どうどう本田さん?びっくりした?
勢いのままドロップキック!



●理不尽な世界の中で
 取り込まれた|黯黮《くらがり》の中、ヴァンダ・エイプリル(世界を化かす仕掛人・f39908)は不敵な笑みを浮かべながら影朧達の怨嗟の声に耳を傾けていた。
『どうして、何故、何も悪いことなんてしていないのに、故郷も家族も皆失わなければいけなかったの』
『ひとりにしないで、置いて行かないで、わたしだけ、どうして』
『苦しい、苦しい、もう嫌だ、世界なんてどうにでもなればいい、同じように苦しめばいい』
 それはヴァンダの過去も混じっていたのだろう、身に覚えがあるかと言われれば、あるとヴァンダは答えただろう。
「そっか、戦争で故郷も家族も失った? それから、守りたい人たちににも恐れられた? うんうん、苦しさで何もかもどうでもよくなった?」
 なるほどなるほど、と頷いて。
「うんうん、全部よくある話だね!」
 ヴァンダは全ての声を一蹴して、輝かんばかりの笑顔を浮かべる。そして聞こえてきた男の声――|黯《あんぐら》党の首魁、本田英和の問いにも耳を傾けた。
『お前は何故、欺瞞に満ちた世界を守る?』
「欺瞞に満ちた世界を守るのは、それでも一人でも笑顔にしたいから!」
 その嘘偽りのない言葉に、黯黮が揺れる。
「ふふ、ここからはヴァンちゃんのターンだよ!」
 場の流れ――負のエネルギーを覆す様な何かがヴァンダから満ち溢れていく。
「ね、皆はその絶望に負けたままでいいのかな? 欺瞞だらけだって言うのなら、一つでも本当にしていこうよ!」
 この広い世界、欺瞞に満ちた世界でも変えることはできるのだとヴァンダは影朧へと語り掛ける。
「悲しいことばかりじゃない、もっと笑える世界になればいいんだよ! だから、行こう!」
 それはきっと影朧から見れば眩い光にも、己が身を焼く炎にも見えた事だろう。その言葉に反発する影朧もいれば、救いを求めて一時的にヴァンダと共に行こうとする影朧の姿も見えて。
「いっくよー!」
 小さな瞬きのような希望を抱いた影朧達と共に、ヴァンダが本田に向かって突撃する。
「これがヴァンちゃんの希望! どうどう本田さん? びっくりした?」
『これが……猟兵か……!』
 勢いに乗ったヴァンダは止まらない。埒外の力のまま、本田に向かってドロップキックを決めるべく高く飛んだのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御簾森・藍夜
【朱雨】◎

暗いが、妙に明る―はは
随分な嫌がらせだな、本田
俺の悲劇は心音を失うこと

…心音が|理不尽に死ぬ《・・・・・・》ことは、俺にとって唯一の悪夢で悲劇
己の無力さが忌々しくなる意味で、だ

俺にとって心音は朝だ
俺の夜明けであり必ず俺と在って欲しい人
俺のかわいい狐

なくせば世界が憎たらしいだろう。当然だ
なくせば世界にがっかりするだろうな。もう興味さえ沸かん
だが、それより何よ自分に腹が立つ

でも逆に
俺が心音をなくさなければいい。そうだろう
そこにこそ俺が命を賭ける価値がある

それに俺は元々しつこい方なんだ、高々可能性なんて不確定程度で諦めるわけがない
何が何でも結末を変える。俺が俺の手で

さて待たせたな本田秀和。お前からの疑問に答えよう
「俺は、俺の|心音《妻》が毎日楽しく気分よく健康に何不自由なく満たされて幸福に生きるために世界を守る。心音が笑って過ごせるために、安全な世界が必要だ」UC

心音一人のため、それだけで世界は十分
悪いが、万民のためなんて高尚さを俺は待ち合わせるつもりはない

さぁいこう心音、じき明ける


楊・暁
【朱雨】◎

暗ぇ…どこだここ…

ずっとずっと、夜は嫌だった
物頃ついた頃には一兵卒で、戦か訓練の日々
戦場では夜襲も有り得たから
寝首かかれねぇように眠りはいつも浅かった

死ぬなら故郷の日本で死にてぇ
唯々、その願いだけの為に生きてきた

…けど、日本で出逢った能力者達は俺を生かした
死ぬ事もできなくて…無力感に打ちひしがれた時期もあったけど、それでも
生かされた命を無為にしねぇ為にも生きた
だから藍夜にも出逢えた
藍夜のくれる夜に安らぎを知った

全部、世界を諦めなかったからだ

藍夜だってそうだ
辛くても生きてきたからこそ今がある

幾つもの命を奪ってきた身で、今更綺麗事を言うつもりはねぇ
けど、生きる場所|《世界》があったからこそ、得られる光もあるって知った
だから俺は、守る
藍夜が笑ってられる今を――この世界を

UC発動
その黯黮諸共、藍夜の雨に染まった雪花で塗りつぶしてやる

俺にとっても
藍夜と一緒に幸せになる為にこの世界が必要なんだよ
勝手に決めつけて終わらせようとすんな…!

ああ、藍夜!
お前となら、どんな黯黮だろうと怖くねぇ…!



●互いこそが世界の全て
 気が付けば御簾森・藍夜(雨の濫觴・f35359)と楊・暁(うたかたの花・f36185)は|黯黮《くらがり》の中にいた。互いの名を呼んでも届いているのかいないのか。
 そんな黯黮の中、藍夜が暗さの中に妙に明るい場所を見つけて視線を向ける。
「――はは、随分な嫌がらせだな、本田」
 藍夜の乾いた笑いには本田への殺意が滲んでいたが、それもそのはず。今現在進行形で藍夜が見ている、見せられているのはありとあらゆる暁が死ぬ場面だ。
 たとえば、頭上から避けようのない瓦礫が降ってきたり。誰かを助けようとして、トラックの前へ飛び出た姿であったり。猛吹雪の中で意識を手放す姿であったり、強大なオブリビオンの戦いで為す術もなく倒れる姿であったり――ありとあらゆる、|理不尽な死《・・・・・》。
「ああ、そうだとも……心音が|理不尽に死ぬ《・・・・・・》ことは、俺にとって唯一の悪夢で悲劇。無論、己の無力さが忌々しくなる意味で、だ」
 恐らく、この理不尽な死はこの『悲劇の幻影』となった影朧の非業の死と重ねられているのだろう、よくもそんなに思いつくものだなと思う程レパートリーに満ち溢れていた。
「とんだ悪意のレパートリーだ」
 今度は病に侵されて衰弱死していく姿か、と藍夜が拳を握りしめる。
「俺にとって心音は朝だ」
 明けぬ夜であった自分に訪れた、唯一の夜明け。何があっても共に在って欲しい、隣にいて欲しい人。
「俺のかわいい狐で、かわいい奥さんだ」
 もし、もしも。
 なくせば世界が憎たらしく感じるだろう。
「当然だ」
 なくせば世界にがっかりするだろう。興味さえ沸くこともなくなるだろう。
「光のない世界など、何の意味がある」
 藍夜はもう知ってしまったのだ、永遠に明けぬ夜には戻れない。
「だが、それよりなにより自分に腹が立つ」
 こんな風に死なせてしまったならば、他の誰でもない己を責めるだろうなと藍夜は唇の端を持ち上げて笑う。
「でも逆に、俺が心音をなくさなければいい」
 そうだろう? と、今度は愛おしさをにじませた笑みを浮かべて藍夜が囁く。
「そこにこそ、俺が命を賭ける価値がある」
 だからそう、こんな風に。
「俺は元々しつこい方なんだ、たかだか可能性なんて不確定程度で諦めるわけがない」
 たとえば、頭上から避けようのない瓦礫が降ってくるというのなら瓦礫の全てを粉砕してやろう。トラックの前に飛び出すというのなら、トラックを止めてやろう。猛吹雪の中で意識を手放さぬように、温めて話をしよう。強大なオブリビオンとの戦いの隣には、俺が必ずいよう。
「何が何でも結末を変える。俺が、俺の手で――!」
 運命さえも捻じ曲げてみせようと、藍夜が|暁《心音》の名を呼びながら黯黮の中で手を伸ばした。

 同じように捕らわれた暁もまた、姿が見えぬ藍夜を心配すると共に黯黮の中であがいていた。
「暗ぇ……藍夜の姿も見えねぇし……どこだここ……」
 ぐ、と唇を引き結び、胸の前で腕を組む。それはまるで、自分の身を抱くかのようにも見えた。
「月のない夜みてぇだ」
 ぽつりと呟けば、黯黮の中で何故か鮮明に映し出されたのは物心がついた頃の自分。ただの一兵卒で、戦か訓練の日々を送り、戦場では夜襲も有り得たがゆえに、寝首を掻かれることを恐れて眠りはいつも浅かった。
「ずっとずっと、夜は嫌だったな」
 身を縮め耳をそば立て、少しの物音でも目が覚めるような。
「あの頃は……そうだ、死ぬなら故郷の日本で死にてぇって思ってたな」
 唯々、その願いの為だけに生きてきた。
「死ぬ為に生きるってのもおかしな話かもしれねぇけど……」
 あの頃は、それだけが救いだったのだ。
「……けど、日本で出逢った能力者達は俺を生かした」
 忘れもしない、花冷えの夜だ。甘っちょろい、けれど人の心を持った学生達。どんなに毒づいたって、嫌いになる事は出来なかった。死ぬ事もできなくて、無力感に打ちひしがれた時期も確かにあったけれど。
「それでも俺は、生かされた命を無為にしねぇ為にも生きた。世界なんざ、全部一緒だって思ってたんだけどな」
 けれどあの時、能力者達が自分を諭してくれたように……藍夜に出逢えた。
「俺は藍夜のくれる夜に安らぎを知ったんだ」
 夜は怖いだけのものじゃないと、知ることが出来た。
「どうしてかって、全部全部、世界を諦めなかったからだ」
 いつの間にか、目の前で蹲る幼い自分はしっかりと二本の足で立ってこちらを見ていた。
「藍夜だってそうだ、辛くても生きてきたからこそ今がある」
 だから俺は今を信じる、諦めないと暁が笑う。
「幾つもの命を奪ってきた身で、今更綺麗事を言うつもりはねぇ。けど、|生きる場所《世界》があったからこそ、得られる光もあるって知った」
 幼い自分はもういない、今この場にいるのは今を生きる己と、そして。
「俺は守る。藍夜が笑っていられる今を――この世界を!」
 藍夜! と最愛の人の名を呼んで、暁が手を伸ばし――。
「心音!」
「藍夜、よかった……!」
 互いのその手を掴み、安堵して笑う。
「ずっと隣にいたんだな」
「気配はなんとなく感じてたから」
 大丈夫だって信じていた、と一度繋いだ手を強く握りしめ、互いに離す。少しずつ晴れていく黯黮の中で、知らぬ男の声が響く。
『欺瞞に満ちていると知っているだろうに、何故この世界を守る?』
 黯黮の向こうに見えた男に二人が同時に笑みを浮かべ、まずは藍夜が口を開いた。
「待たせたな、いや待たされたというべきか? 本田秀和、お前からの疑問に答えよう」
 そう言いながら、藍夜はゆるりとユーベルコードの力を発動させる。
「俺は、俺の|心音《妻》が毎日楽しく気分よく健康に何不自由なく満たされて幸福に生きるために世界を守る。心音が笑って過ごせるために、安全な世界が必要だ」
「俺にとっても、藍夜と一緒に幸せになる為に、この世界が必要なんだよ。勝手に決めつけて、終わらせようとすんな……!」
 藍夜に続き、暁も本田に向かって啖呵を切れば、藍色の天気雨が戦場に降り注ぐ。それは本田には篠突く雨の如く降り注ぐ弾丸となり、暁へは慈雨のような愛を感じさせる癒しとなる。
『盟約の妖獣よ』
 妖獣が降り注ぐ弾丸を防ぐように動くと、暁が妖獣ごと飲み込むように藍夜の雨に染まった雪花を吹雪かせた。
『愚かな』
「愚かで結構、俺にとっては心音一人のため、それだけで世界は十分なんだ。悪いが、万民のためなんて高尚さを俺は待ち合わせるつもりはない」
「俺だってそうだからな!」
 度し難い、というように本田が再び妖獣を召喚するのが見えて、藍夜が暁に向かって笑みを向ける。
「さぁいこう心音、じきこの黯黮も明ける」
「ああ、藍夜! お前となら、どんな黯黮だろうと怖くねぇ……!」
 何度妖獣が牙を剥こうとも、二人の力があれば――!
 本田が手にした杖を軽く支えにしつつ、藍夜と暁を迎え撃つ。黯黮は、今にも全て消えようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

国栖ヶ谷・鈴鹿
◎SPD

【暗澹】
ものごころつく前の景色が見える。
お母さん?お父さん?
お母さんが泣いて、お父さんが何度も何度も詫びている……。
誰に……?赤ん坊のぼくに、だ。

ぼくの悪魔召喚士としての、才能の魔術回路を敢えて乱した。
ぼくを魔の手から守る為……大丈夫、ぼくはうまくやってるから。
だから、もう……。

【闇靄を払う】
UC、ここはぼくの領域だ。
闇を払う光と魂を揺さぶる声の伽藍。
きこやん結界を、紅路夢行くよ!(機動力を駆り肉薄)

これは復讐だ。
欺瞞だと誰が決めた。
そこにあった誰かを守りたい意思、それすらも欺瞞だと言うなら、ぼくがそれを喝破する獅子吼となる!
浄化、聖なるかな、闇を貫く光条の一閃にて、この因果に終焉を!



●咲き誇れ、麗しき|乙女《ハイカラさん》よ
 国栖ヶ谷・鈴鹿(命短し恋せよ|乙女《ハイカラさん》・f23254)は|黯黮《くらがり》の中で、その向こうを見据えるかのように立っていた。
「|黯《あんぐら》党の首魁、本田英和……」
 浅からぬ因縁のある相手だ、鈴鹿はこの男を倒す為に此処に来たのだ。
 しかし今はこの黯黮を……『悲劇の幻影』をどうにかしなくてはいけない。すぐにも、鈴鹿の目の前に幻は現れる。
「あれは……ものごころつく前の光景?」
 どうしてか懐かしく感じる女性が赤ん坊を抱いて、泣いている。男性の方は悲しそうな顔をして何度も何度も詫びている……そんな光景だ。
「……お母さん? お父さん?」
 どうしてお母さんは泣いているの、どうしてお父さんは謝るの。誰に……と言葉を零し、鈴鹿は気付く。
「あれは赤ん坊のぼくだ……お父さんが詫びているのは」
 赤ん坊のぼくに、だ。
 ツキンと傷む胸を抱き、鈴鹿は母が泣き、父が詫びる理由に思い当たる。
「ぼくの悪魔召喚士としての、才能の魔術回路を敢えて乱したから」
 血筋なのだろう、生まれたばかりの鈴鹿には稀有なまでの悪魔召喚士としての才能があった。それこそ、今も悪魔召喚士であったならば、誰にも負けぬほどの。けれど、だ。
「お父さんとお母さんは、ぼくを魔の手から守る為に、そうしたんだ」
 だから泣く必要なんてない、謝る必要なんてない。もしも魔術回路を乱されていなければ、ぼくはきっと猟兵ではなく――。
「あちら側に立っていたかもしれないから」
 鈴鹿が黯黮の先を睨む、両親を殺した憎むべき相手を。
「ねえ、お父さん、お母さん。大丈夫、ぼくはうまくやってるから」
 悪魔召喚士としての才はなくしたけれど、それを補って余りあるほどの発明家としての才だ、ジイニアスと呼ばれるほどの。
「だから、もう……」
 泣かないで、笑って。ぼくも笑ってみせるから。|暗澹《あんたん》の中にあったとしても、輝き咲き誇ってみせるから――!
「ここはもう、ぼくの領域だ」
 闇を払う光、そして魂を揺さぶるような声が構築せし伽藍。
「きこやん、結界を! 紅路夢行くよ!」
 鈴鹿に宿る稲荷狐が彼女を守る強い結界を張り、自ら発明したフロヲトバイに跨って黯黮を飛び出していく。
『……問おう。何故、欺瞞に満ちた世界を守る?』
 鈴鹿の姿を視認した本田が問いを口にすると同時に、邪悪なる混沌の光から盟約の妖獣を召喚する。
「守る? 今ここに至っては、ぼくの復讐だ!」
 それが世界を守ることに繋がるのだとしても、今、本田に向ける感情は鈴鹿にしか知り得ない。
「欺瞞だと言うけれど、欺瞞だと誰が決めた。そこにあった誰かを守りたい意思、それすらも欺瞞だと言うなら、ぼくがそれを喝破する獅子吼となる!」
『……ならば、来るがいい』
 風が本田の明るい色をした髪を揺らす。フロヲトバイクを駆る鈴鹿もまた、後光を光らせながら同じ色をした髪を揺らし本田へと肉薄する。
「浄化、聖なるかな、闇を貫く光条の一閃にて、この因果に終焉を!」
 眩い程の光が鈴鹿と本田を包み、そして。
『……っ』
 鈴鹿と同じ色をした瞳が揺れる。
 何かを口にしようとして、くしゃりとその顔を歪めて。
 ひとこと、ふたこと何か言ったのかもしれない。けれどそれは、鈴鹿にだけ届く言葉。
「……さようなら」
 絶望と悪神との邂逅から闇に墜ち、ぼくの両親を手に掛けたひと。
「ぼくの、お爺さん」
 そして、血の繋がった――。

 斯くして、猟兵達の活躍により|黯《あんぐら》党の首魁、本田英和はスタノヴォイ山脈にて撃破されたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年05月16日
宿敵 『黯党首魁・本田英和』 を撃破!


挿絵イラスト