星の標は萌芽を促す
●星は連なる
幸せは幸せが運んできてくれる。
そういうものだと真宮・奏(絢爛の星・f03210)は思うのだ。
なぜ、そんな事を思うのかと問われたら、それは勿論言うまでもなく可愛すぎる義妹ができたからだ。
可愛すぎる。
語彙がなさすぎる気がするが、そう言う他ない。
もう可愛がりすぎて逆に疎ましく思われないか心配になる所であるが、そんな心配をするよりも速く、今度は最愛の夫とそっくりのオーラ、雰囲気を纏った源・朔兎(既望の彩光・f43270)が転がり混んできたのだ。
何から何までそっくりである。
「そうね。どこがそっくりかって言われたら……ノリで突っ走るところでしょう。目的のためなら辛いことも厭わないし、苦にも思わない所とか。あと、好奇心が素直に顔に出るところとか」
奏には弟がいない。
自分よりも年下の家族、というのは義妹だけだ。
別に義妹に不満があるわけではない。可愛すぎて困る位である。
ただ、やはり弟というのは姉にとって特別なものだ。
なにかこう、所有物みたいな、というか、そんなことを思ってしまう。
とは言え、あまりにも夫にそっくりなので夫が妬かないか……とは思わなかった。彼も彼で朔兎のことを気にかけている様子。
なら、自分にできることは?
そう、やっぱり楽しい遊びを教えること! である!!
夫のそうかな、という表情は見なかったことにする。
そういうものなのだ。
そう決めたら早かった。
「え、アルダワ魔法学園に?」
「そう。あそこは前も家族で遊びに行ったことがあるんだけれど、いろんな施設もあるのよ。グッズもね」
「でも、その、鍛錬があるし……」
朔兎は微妙な顔をしていた。
確かに彼は奏の誘いを嬉しく思っていた。けれど、まだ自分は未熟者。
息抜きなど疲れ果てて、どうしようもなくなってからするべきものだと思っていたものだから、その誘いに二つ返事することがはばかられていたのだ。
「動く文房具とか勝手に飛ぶ鳥とか、よく動く機械仕掛けの動物とかあるよ」
「!?」
その言葉に目をキラキラさせている朔兎に奏は釣れた、と思っただろう。
夫の事をよく知っている。なら、彼とよく似た雰囲気を朔兎が持つのならば、こうした誘い文句ならば揺れると理解していたのだ。
予想通りである。
まあ、自分とそっくりなところもあるから、簡単ではあったのだ。
そうして二人はアルダワ魔法学園を訪れる。
確かに魔導蒸気機関というのは、凄まじいものだった。魔法と融合しているということであるが、これまで見てきた世界とは異なるように思える。
自然と魔導蒸気が融合している世界。
なんとも珍しいものばかりである。
「これが勝手に字を書くペン……!」
「うん、こっちはからくり仕掛けだね。わ、見てみて、鳩も機械仕掛けだよ! ほら、あれ!」
朔兎は自分以上に奏が楽しんでいるのを見て、これが大人かと思っただろう。
他者を楽しませることも、自分の楽しさのうちなのだ。
どれか一つではない。
どれも、を手に取れるのが大人としての条件なのだとしたら、朔兎はそうした奏の余裕めいたものに感服するのだ。
「わ、あっちはステージだって。音楽舞台」
「聞き慣れない音楽だな。よくわからない……アップテンポって言えば良いのか……少し騒々しく感じるけれど」
見やれば、ステージが組み上げられ、お祭り騒ぎである。
賑やか、と言うより騒々しい、と朔兎は思った。
それはそうであろう。
自分が居候している家族は皆、音楽に精髄たるものを持つ者たちばかりだ。
そんな中で過ごしていれば、音の善し悪しというものわかってくるのだ。
「ね、踊ろ!」
「えっ!? なんで」
なんで、と言うが早いか、奏に朔兎は引っ張られるようにしてステージに上る。
彼女はダンサーだ。
踊りたい、という気持ちはわかるが、自分まで引っ張り上げることはないだろうと思っていた。
というか、踊りというものがよくわからない。
初めての踊りである。
「もっと体を動かして? 委ねるだけじゃあダメだよ。男の子はさ、リードしなくっちゃあ!」
奏は笑っている。
繋いだ手から楽しい、という気配が伝わってくるのだ。
「でも……わっ!?」
「おっと、危ない。支えてあげるからね」
「す、すみません」
朔兎はなんとも言い難い気持ちになる。男である己の体躯をあっさり奏は支えてしまっていた。
びっくりした。
こんなに力が強いのか、とまだまだ己が及ばぬところがある、と思い知らされるのだ。
「いいよ。誰だって最初はあるんだもの。ここで練習していけば、あの子も支えられる。エスコートできる。片手でダメなら両手があるでしょ、ほら!」
そう言って笑う奏につられて朔兎も笑う。
まだまだ自分が強くなれると励まされているような気持ちになった。
それは自信の芽。
萌芽はまだ。けれど、いつの日にか愛しの姫君を導くことのできる芽なのだ――。
成功
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